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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B60H1/22 651C
B60H1/22 671
B60H1/22 651A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021121368
(22)【出願日】2021-07-26
(65)【公開番号】P2023017247
(43)【公開日】2023-02-07
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島内 隆行
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-038889(JP,A)
【文献】特開2020-093644(JP,A)
【文献】特開2011-005981(JP,A)
【文献】特開2004-322845(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0225047(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用動力源として電動機を備える電気自動車又はハイブリッドカーに搭載され、
冷媒を圧縮して吐出する1つの電動コンプレッサと、
前記電動コンプレッサから吐出された前記冷媒を冷却し凝縮させる1つのコンデンサと、
前記コンデンサで凝縮された前記冷媒を蒸発させる前席空調用エバポレータと、
前記コンデンサで凝縮された前記冷媒を蒸発させる後席空調用エバポレータと、
前記コンデンサで凝縮された前記冷媒を蒸発させる電池冷却用熱交換器と、を備え、
前記コンデンサで凝縮された前記冷媒が、前記前席空調用エバポレータ、前記後席空調用エバポレータ及び前記電池冷却用熱交換器へ分岐して並行に流れるように配管が接続され、
前記前席空調用エバポレータ、前記後席空調用エバポレータ又は前記電池冷却用熱交換器で蒸発した前記冷媒が前記電動コンプレッサへ到達して前記電動コンプレッサで圧縮されるように配管が接続された車両用空調装置であって、
前記前席空調用エバポレータ及び前記後席空調用エバポレータのそれぞれの稼働の有無に応じて、前記電動コンプレッサを回転させる際の回転速度の下限値を調整して、
前記電池冷却用熱交換器を用いた電池冷却が要求されている条件では、
前記前席空調用エバポレータ及び前記後席空調用エバポレータが両方とも稼働している状態よりも、前記前席空調用エバポレータ及び前記後席空調用エバポレータのいずれか片方のみ稼働している状態の方が、前記電動コンプレッサを回転させる際の回転速度の下限値が小さく、
前記前席空調用エバポレータ及び前記後席空調用エバポレータのいずれか片方のみ稼働している状態よりも、前記前席空調用エバポレータ及び前記後席空調用エバポレータが両方とも稼働していない状態の方が、前記電動コンプレッサを回転させる際の回転速度の下限値が小さいことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用空調装置であって、
前記電池冷却用熱交換器を用いた電池冷却が要求されており、前記前席空調用エバポレータ及び前記後席空調用エバポレータのいずれか片方のみ稼働している条件では、
前記コンデンサから前記前席空調用エバポレータを経由して前記電動コンプレッサへ到達するまでの経路における圧力損失よりも、前記コンデンサから前記後席空調用エバポレータを経由して前記電動コンプレッサへ到達するまでの経路における圧力損失の方が大きい場合は、前記前席空調用エバポレータが稼働して前記後席空調用エバポレータが稼働していない状態よりも、前記前席空調用エバポレータが稼働せず前記後席空調用エバポレータが稼働している状態の方が、前記電動コンプレッサを回転させる際の回転速度の下限値が大きく、
前記コンデンサから前記前席空調用エバポレータを経由して前記電動コンプレッサへ到達するまでの経路における圧力損失よりも、前記コンデンサから前記後席空調用エバポレータを経由して前記電動コンプレッサへ到達するまでの経路における圧力損失の方が小さい場合は、前記前席空調用エバポレータが稼働して前記後席空調用エバポレータが稼働していない状態よりも、前記前席空調用エバポレータが稼働せず前記後席空調用エバポレータが稼働している状態の方が、前記電動コンプレッサを回転させる際の回転速度の下限値が小さいことを特徴とする車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の前席側の空調と後席側の空調に用いる冷媒をバッテリの冷却にも用いる車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧縮機で圧縮されて凝縮器で凝縮された冷媒が、前席空調用の蒸発器及び後席空調用の蒸発器へ分岐して並行に流れるように配管が接続され、前席空調用の蒸発器及び後席空調用の蒸発器で蒸発した冷媒が圧縮機へ到達して圧縮機で圧縮されるように配管が接続された車両用空調装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-283576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走行用動力源として電動機を備える電気自動車又はハイブリッドカーでは、車室内の前席側の空調と後席側の空調に用いる冷媒をバッテリの冷却にも用いることがある。このような車両用空調装置では、電動コンプレッサで圧縮されてコンデンサで凝縮された冷媒が、前席空調用エバポレータ、後席空調用エバポレータ及び電池冷却用熱交換器へ分岐して並行に流れるように配管が接続され、前席空調用エバポレータ、後席空調用エバポレータ又は電池冷却用熱交換器で蒸発した冷媒が電動コンプレッサへ到達して電動コンプレッサで圧縮されるように配管が接続される。
【0005】
このように配管が接続された車両用空調装置では、1つの電動コンプレッサから前席空調用エバポレータ、後席空調用エバポレータ及び電池冷却用熱交換器の3系統に分かれて冷媒が流れるところ、これらの3系統を電動コンプレッサの潤滑油の一部が冷媒と共に循環するため、潤滑油が電池冷却用熱交換器や配管等の内壁に付着して電動コンプレッサまで戻って来なくなるオイル寝込み現象が生じないように電動コンプレッサの回転速度を上げる必要がある。電動コンプレッサへの潤滑油の戻り量が不足すると、電動コンプレッサの潤滑不良が発生し、電動コンプレッサの耐久性に悪影響を与える。しかし、オイル寝込み現象を防ぐために電動コンプレッサの回転速度を過度に上げると、余剰な電力を消費して車両の電費が悪化することになる。
【0006】
そこで、本発明は、車室内の前席側の空調と後席側の空調に用いる冷媒をバッテリの冷却にも用いる車両において、オイル寝込み現象が発生することを抑制しつつ、電動コンプレッサに用いる電力消費を抑制し車両の電費を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両用空調装置は、走行用動力源として電動機を備える電気自動車又はハイブリッドカーに搭載され、冷媒を圧縮して吐出する1つの電動コンプレッサと、前記電動コンプレッサから吐出された前記冷媒を冷却し凝縮させる1つのコンデンサと、前記コンデンサで凝縮された前記冷媒を蒸発させる前席空調用エバポレータと、前記コンデンサで凝縮された前記冷媒を蒸発させる後席空調用エバポレータと、前記コンデンサで凝縮された前記冷媒を蒸発させる電池冷却用熱交換器と、を備え、前記コンデンサで凝縮された前記冷媒が、前記前席空調用エバポレータ、前記後席空調用エバポレータ及び前記電池冷却用熱交換器へ分岐して並行に流れるように配管が接続され、前記前席空調用エバポレータ、前記後席空調用エバポレータ又は前記電池冷却用熱交換器で蒸発した前記冷媒が前記電動コンプレッサへ到達して前記電動コンプレッサで圧縮されるように配管が接続された車両用空調装置であって、前記前席空調用エバポレータ及び前記後席空調用エバポレータのそれぞれの稼働の有無に応じて、前記電動コンプレッサを回転させる際の回転速度の下限値を調整することを特徴とする。
【0008】
この車両用空調装置によれば、車室内の前席側の空調と後席側の空調に用いる冷媒をバッテリの冷却にも用いる車両において、オイル寝込み現象が発生することを抑制しつつ、前席空調用エバポレータ及び後席空調用エバポレータの稼働の有無によらず常に電動コンプレッサの回転速度の下限値を一定とする車両用空調装置と比較して、電動コンプレッサに用いる電力消費を抑制し車両の電費を向上することができる。
【0009】
本発明の車両用空調装置は、前記電池冷却用熱交換器を用いた電池冷却が要求されている条件では、前記前席空調用エバポレータ及び前記後席空調用エバポレータが両方とも稼働している状態よりも、前記前席空調用エバポレータ及び前記後席空調用エバポレータのいずれか片方のみ稼働している状態の方が、前記電動コンプレッサを回転させる際の回転速度の下限値が小さく、前記前席空調用エバポレータ及び前記後席空調用エバポレータのいずれか片方のみ稼働している状態よりも、前記前席空調用エバポレータ及び前記後席空調用エバポレータが両方とも稼働していない状態の方が、前記電動コンプレッサを回転させる際の回転速度の下限値が小さいことを特徴とする
【0010】
本発明の車両用空調装置の一態様において、前記電池冷却用熱交換器を用いた電池冷却が要求されており、前記前席空調用エバポレータ及び前記後席空調用エバポレータのいずれか片方のみ稼働している条件では、前記コンデンサから前記前席空調用エバポレータを経由して前記電動コンプレッサへ到達するまでの経路における圧力損失よりも、前記コンデンサから前記後席空調用エバポレータを経由して前記電動コンプレッサへ到達するまでの経路における圧力損失の方が大きい場合は、前記前席空調用エバポレータが稼働して前記後席空調用エバポレータが稼働していない状態よりも、前記前席空調用エバポレータが稼働せず前記後席空調用エバポレータが稼働している状態の方が、前記電動コンプレッサを回転させる際の回転速度の下限値が大きく、前記コンデンサから前記前席空調用エバポレータを経由して前記電動コンプレッサへ到達するまでの経路における圧力損失よりも、前記コンデンサから前記後席空調用エバポレータを経由して前記電動コンプレッサへ到達するまでの経路における圧力損失の方が小さい場合は、前記前席空調用エバポレータが稼働して前記後席空調用エバポレータが稼働していない状態よりも、前記前席空調用エバポレータが稼働せず前記後席空調用エバポレータが稼働している状態の方が、前記電動コンプレッサを回転させる際の回転速度の下限値が小さくてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、車室内の前席側と後席側の空調に用いる冷媒をバッテリの冷却にも用いる車両において、オイル寝込み現象が発生することを抑制しつつ、電動コンプレッサに用いる電力消費を抑制し車両の電費を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の実施形態の車両用空調装置の構成を示す図である。
図2】本実施形態の車両用空調装置の制御系統を示す図である。
図3】前席空調用エバポレータの温度に基づく電動コンプレッサのON/OFFを示す図である。
図4】本実施形態の車両用空調装置の使用条件A~Dにおける電動コンプレッサの回転速度の下限値を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態の車両用空調装置10について説明する。図1は、車両用空調装置10の構成を示す図である。車両用空調装置10は、走行用動力源としてエンジン1及び不図示の電動機を備えるハイブリッドカーに搭載される。このハイブリッドカーの車室内には、前側に前席(運転席及び助手席)が配置され、前席の後方に後席が配置される。そして、ハイブリッドカーの床下にはバッテリが配置される。図1に示すように、車両用空調装置10は、車室内の前席側を空調する前席空調ユニット2と、車室内の後席側を空調する後席空調ユニット3と、床下に配置されたバッテリを冷却する電池冷却ユニット4を備える。
【0014】
前席空調ユニット2は、一方の開口端に空気取入口が形成され、他方の開口端に吹出口21が形成された前席空調用ダクト22を備える。前席空調用ダクト22の空気取入口の近傍には切替ドア23が設けられており、前席空調用ダクト22の内部には、ブロワファン24、前席空調用エバポレータ25、エアミックスドア26及びヒータコア27が設けられている。前席空調ユニット2では、ブロワモータ28によりブロワファン24を回転させて、空気取入口から空気を吸引して前席空調用エバポレータ25へ向けて送り出すことができる。空気取入口から前席空調用ダクト22へ吸入した空気は、全量が前席空調用エバポレータ25を通過する。前席空調ユニット2では、切替ドア23を回動させることによって、外気導入モード又は内気循環モードに切り替えることができる。外気導入モードでは車両外部から前席空調用ダクト22内へ空気が吸入され、内気循環モードでは車室内から前席空調用ダクト22内へ空気が吸入される。
【0015】
ヒータコア27はチューブとフィンで構成され、チューブの中にエンジン1や水加熱ヒータ51で加熱された水を流すことができる。ヒータコア27は、前席空調用ダクト22内で前席空調用エバポレータ25の空気流れ下流側に配置されており、チューブの中に加熱された水を通すことによって、ヒータコア27を通過する空気を加熱することができる。
【0016】
前席空調用エバポレータ25とヒータコア27の間に回動可能に設けられたエアミックスドア26は、ヒータコア27を通過する空気の通路と、ヒータコア27をバイパスする空気の通路を分けている。そして、ヒータコア27によって加熱された空気と、ヒータコア27をバイパスすることにより前席空調用エバポレータ25で冷却されたままの空気が吹出口21の近傍で混合されて吹出口21から吹き出される。そのため、前席空調ユニット2は、エアミックスドア26の開度を制御してヒータコア27を通過する空気とヒータコア27をバイパスする空気の量を調整することにより、吹出口21から吹き出す空調風の温度を制御することができる。
【0017】
後席空調ユニット3は、前席空調ユニット2と同様に、一方の開口端に空気取入口が形成され、他方の開口端に吹出口31が形成された後席空調用ダクト32を備え、空気取入口の近傍には切替ドア33が設けられ、後席空調用ダクト32の内部には、ブロワファン34、後席空調用エバポレータ35、エアミックスドア36、ヒータコア37が設けられている。そして、後席空調ユニット3は、ブロワモータ38によりブロワファン34を回転させて、空気取入口から空気を吸引して後席空調用エバポレータ35へ向けて送り出すことができる。空気取入口から後席空調用ダクト32へ吸入した空気は、全量が後席空調用エバポレータ35を通過する。後席空調ユニット3では、切替ドア33を回動させることによって、外気導入モード又は内気循環モードに切り替えることができる。
【0018】
ヒータコア37は、ヒータコア27と同様に、チューブとフィンで構成され、チューブの中にエンジン1や水加熱ヒータ51で加熱された水を流すことができる。ヒータコア37は、後席空調用ダクト32内で後席空調用エバポレータ35の空気流れ下流側に配置されており、チューブの中に加熱された水を通すことによって、ヒータコア37を通過する空気を加熱することができる。
【0019】
後席空調ユニット3では、前席空調ユニット2と同様に、後席空調用エバポレータ35とヒータコア37の間に設けられているエアミックスドア36が、ヒータコア37を通過する空気の通路と、ヒータコア37をバイパスする空気の通路を分けており、エアミックスドア36で分けられた空気は、吹出口31の近傍で混合される。そのため、後席空調ユニット3は、エアミックスドア36の開度を制御してヒータコア37を通過する空気とヒータコア37をバイパスする空気の量を調整することにより、吹出口31から吹き出す空調風の温度を制御することができる。
【0020】
ヒータコア27及びヒータコア37とエンジン1との間には、エンジン1で加熱された水が循環する水循環用配管5が設けられている。水循環用配管5には、エンジン1をバイパスするバイパス管52と三方弁53が設けられており、三方弁53を動作させることによって、エンジン1とバイパス管52のどちらに水を流すのか切り替えることができる。水循環用配管5には、三方弁53の下流側に電動ウォータポンプ54が設けられており、電動ウォータポンプ54の下流側に水加熱ヒータ51が設けられており、水加熱ヒータ51の下流側に分岐点55が設けられている。そして、水循環用配管5は、ヒータコア27及びヒータコア37に並行に水が流れるように分岐点55で分岐して、ヒータコア27及びヒータコア37の下流側に設けられた合流点56で合流し、合流点56より下流側でエンジン1及びバイパス管52へ接続する。
【0021】
エンジン1を冷却するために水をエンジン1に流すように三方弁53を動作させた場合、電動ウォータポンプ54は、エンジン1から水を吸入してヒータコア27及びヒータコア37へ送り込むことができる。そして、ヒータコア27及びヒータコア37のチューブ内を流れた冷却水は、エンジン1へ戻ってエンジン1の冷却に用いられた後、電動ウォータポンプ54に吸入される。このようにエンジン1で加熱された水が循環してヒータコア27及びヒータコア37のチューブ内を流れることにより、ヒータコア27及びヒータコア37を加熱する事ができる。
【0022】
また、バイパス管52を水が流れるように三方弁53を動作させた場合、電動ウォータポンプ54は、バイパス管52から水を吸入してヒータコア27及びヒータコア37へ送り込むことができる。そして、ヒータコア27及びヒータコア37のチューブ内を流れた冷却水は、バイパス管52へ戻って、バイパス管52から電動ウォータポンプ54に吸入される。このように水を循環させる場合、電動ウォータポンプ54から送り出す水を水加熱ヒータ51で加熱し、水加熱ヒータ51で加熱された水をヒータコア27及びヒータコア37のチューブ内に流すことにより、ヒータコア27及びヒータコア37を加熱する事ができる。
【0023】
車両用空調装置10は、車室内の前席側の空調及び後席側の空調とバッテリの冷却に用いる冷媒を循環させる冷媒循環用配管6を備える。そして、冷媒循環用配管6には、冷媒を高温高圧に圧縮して吐出する1つの電動コンプレッサ61と、電動コンプレッサ61から吐出された冷媒を冷却して凝縮させる1つのコンデンサ62と、レシーバ63が設けられている。コンデンサ62は、外気と熱交換することにより、冷媒を冷却して液化することができる。コンデンサ62を通過した冷媒は、レシーバ63で液相冷媒と気相冷媒に分離される。
【0024】
冷媒循環用配管6は、レシーバ63の下流側の分岐点6aで、電池冷却ユニット4へ冷媒を供給する電池冷却用配管6bと、前席空調用エバポレータ25及び後席空調用エバポレータ35へ冷媒を供給する空調用配管6cに分岐する。空調用配管6cは、分岐点6aより下流側の分岐点6dで、前席空調用エバポレータ25へ冷媒を供給する前席空調用配管6eと、後席空調用エバポレータ35へ冷媒を供給する後席空調用配管6fに分岐して、前席空調用エバポレータ25及び後席空調用エバポレータ35より下流側の合流点6gで合流して1本の空調用配管6cとなる。そして、電池冷却用配管6bと空調用配管6cは、電池冷却ユニット4及び合流点6gより下流側の合流点6hで合流して1本の冷媒循環用配管6となって、合流点6hの下流側で電動コンプレッサ61に接続する。
【0025】
前席空調用配管6eには、前席空調用エバポレータ25より上流側に電磁弁64及び膨張弁65が設けられている。電磁弁64が開いた状態では、コンデンサ62で凝縮された液相冷媒が電磁弁64を通った後に膨張弁65で減圧されて、減圧後の冷媒を前席空調用エバポレータ25において空調空気から吸熱して蒸発させる。このように液相冷媒を前席空調用エバポレータ25で蒸発させることにより、前席空調用エバポレータ25を通過する空気を冷却することができる。前席空調用エバポレータ25で蒸発した冷媒は、前席空調用配管6e及び空調用配管6cを経由して電動コンプレッサ61に到達して、電動コンプレッサ61で圧縮される。
【0026】
後席空調用配管6fにも、後席空調用エバポレータ35より上流側に電磁弁66及び膨張弁67が設けられている。電磁弁66が開いた状態では、コンデンサ62で凝縮された液相冷媒が電磁弁66を通った後に膨張弁67で減圧されて、減圧後の冷媒を後席空調用エバポレータ35において空調空気から吸熱して蒸発させる。このように液相冷媒を後席空調用エバポレータ35で蒸発させることにより、後席空調用エバポレータ35を通過する空気を冷却することができる。後席空調用エバポレータ35で蒸発した冷媒は、後席空調用配管6f及び空調用配管6cを経由して電動コンプレッサ61に到達して、電動コンプレッサ61で圧縮される。
【0027】
電池冷却ユニット4は、1つの電磁弁41と、2つの膨張弁42と、2つの電池冷却用熱交換器43を備える。電磁弁41は電池冷却用配管6bに設けられており、電池冷却用配管6bは電磁弁41より下流側の分岐点44で、第1配管45aと第2配管45bに分岐している。第1配管45aには、膨張弁42及び電池冷却用熱交換器43が設けられており、膨張弁42は電池冷却用熱交換器43より上流側に配置されている。第2配管45bにも、第1配管45aと同様に、膨張弁42及び電池冷却用熱交換器43が設けられており、膨張弁42は電池冷却用熱交換器43より上流側に配置されている。第1配管45aと第2配管45bは、電池冷却用熱交換器43より下流側の合流点46で合流して1本の電池冷却用配管6bとなる。
【0028】
このような構成を電池冷却ユニット4が有するため、電磁弁41を開いた状態では、コンデンサ62で凝縮された液相冷媒が電磁弁41を通った後に膨張弁42で減圧されて、減圧後の冷媒を電池冷却用熱交換器43においてバッテリから吸熱して蒸発させる。このように液相冷媒を電池冷却用熱交換器43で蒸発させることにより、気化熱でバッテリを冷却することができる。電池冷却用熱交換器43で蒸発した冷媒は、第1配管45a又は第2配管45bを通った後に、電池冷却用配管6bを経由して電動コンプレッサ61に到達して、電動コンプレッサ61で圧縮される。
【0029】
車両用空調装置10は、前席空調ユニット2、後席空調ユニット3及び電池冷却ユニット4を制御するECU(電子制御装置)20を備える。ECU20は、演算処理部であるCPUと、RAM、ROM等の記憶部を有し、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前席空調ユニット2、後席空調ユニット3及び電池冷却ユニット4の制御を実行する。図2に示すように、ECU20は、切替ドア23、エアミックスドア26、ブロワモータ28、切替ドア33、エアミックスドア36、ブロワモータ38、水加熱ヒータ51、三方弁53、電動ウォータポンプ54、電動コンプレッサ61、電磁弁64、電磁弁66及び電磁弁41等を制御する。
【0030】
車両用空調装置10は、エンジン1に設けられた水温センサ57、水加熱ヒータ51に設けられた水温センサ58、前席空調用エバポレータ25のフィンに設けられた温度センサ29、後席空調用ダクト32内の後席空調用エバポレータ35とヒータコア37の間に設けられた気温センサ39、前席付近の室温を検出する室温センサ71、後席付近の室温を検出する室温センサ72、車外の空気の温度を検出する外気温度センサ73、日射量を検出する日射量センサ74及びバッテリの温度を検出する電池温度センサ75を備える。これらのセンサの出力は全てECU20に入力される。
【0031】
車両の乗員は、車室内に設けられた操作部30を操作することによって、前席空調ユニット2の設定温度や後席空調ユニット3の設定温度などを設定することができる。例えば、乗員が前席空調ユニット2の設定温度を操作部30に入力した場合、ECU20は、設定温度、前席付近の室温、外気温度及び日射量から、前席空調ユニット2の吹出口21から吹き出す空気の目標吹出温度を算出し、目標吹出温度及び水温からブロワファン24の風量及びエアミックスドア26の開度を決定して、ブロワモータ28及びエアミックスドア26を制御する。ECU20は、水加熱ヒータ51に設けられた水温センサ58から水温を検出する。
【0032】
そして、ECU20は、前席空調ユニット2の設定温度、前席付近の室温、外気温度及び日射量から、前席空調用エバポレータ25の目標エバポレータ温度Tgを決定し、前席空調用エバポレータ25の温度Tが目標エバポレータ温度Tgとなるように、電動コンプレッサ61のON/OFFを制御する。ECU20には、前席空調ユニット2の設定温度、前席付近の室温、外気温度及び日射量に基づく目標エバポレータ温度Tgのマップが記憶されており、このマップに基づいてECU20は目標エバポレータ温度Tgを決定する。ECU20は、前席空調用エバポレータ25のフィンに設けられた温度センサ29により、前席空調用エバポレータ25の温度Tを検出する。図3に示すように、ECU20は、前席空調用エバポレータ25の温度Tが目標エバポレータ温度Tgより低くなると、電動コンプレッサ61を停止し、前席空調用エバポレータ25の温度Tが目標エバポレータ温度Tgより1℃高くなると、電動コンプレッサ61を回転させる。そのため、ECU20は、前席空調用エバポレータ25の温度の変化に応じて電動コンプレッサ61を間欠運転させることになる。
【0033】
また、乗員が後席空調ユニット3の設定温度を操作部30に入力した場合、ECU20は、設定温度、後席付近の室温、外気温度及び日射量から、後席空調ユニット3の吹出口31から吹き出す空気の目標吹出温度を算出し、目標吹出温度及び水温からブロワファン34の風量及びエアミックスドア36の開度を決定して、ブロワモータ38及びエアミックスドア36を制御する。ECU20は、水加熱ヒータ51に設けられた水温センサ58から水温を検出する。
【0034】
そして、ECU20は、後席空調ユニット3の設定温度、後席付近の室温、外気温度及び日射量から、目標エバポレータ後温度を決定し、後席空調用ダクト32内の後席空調用エバポレータ35とヒータコア37の間に設けられた気温センサ39により検出するエバポレータ後温度が目標エバポレータ後温度となるように、電動コンプレッサ61のON/OFFを制御する。ECU20には、前席空調ユニット2の設定温度、後席付近の室温、外気温度及び日射量に基づく目標エバポレータ後温度のマップが記憶されており、このマップに基づいてECU20は目標エバポレータ後温度を決定する。ECU20は、エバポレータ後温度が目標エバポレータ後温度より低くなると、電動コンプレッサ61を停止し、エバポレータ後温度が目標エバポレータ後温度より1℃高くなると、電動コンプレッサ61を回転させる。そのため、ECU20は、エバポレータ後温度の変化に応じて電動コンプレッサ61を間欠運転させることになる。
【0035】
ECU20は、前席空調ユニット2と後席空調ユニット3を同時に稼働させることもできる。その場合、前席空調用エバポレータ25の温度Tが目標エバポレータ温度Tgより低くなるか、又は、後席空調用エバポレータ35のエバポレータ後温度が目標エバポレータ後温度より低くなれば、ECU20は電動コンプレッサ61を停止させる。そして、前席空調用エバポレータ25の温度Tが目標エバポレータ温度Tgより1℃高くなるか、又は、後席空調用エバポレータ35のエバポレータ後温度が目標エバポレータ後温度より1℃高くなれば、ECU20は電動コンプレッサ61を回転させる。
【0036】
更に、ECU20は、電池冷却ユニット4に冷媒を循環させて、床下に配置されたバッテリを冷却することができる。ECU20は、電池温度センサ75により検出したバッテリの温度に基づき、電池冷却要求の有無を判断する。ECU20は、バッテリの温度が所定値より高くなると、電池冷却要求があると判断し、バッテリの温度が所定値より以下となると、電池冷却要求がないと判断する。
【0037】
ECU20が電磁弁64及び電磁弁66を閉めて、前席空調用エバポレータ25及び後席空調用エバポレータ35を稼働させていない場合、ECU20は、バッテリの温度が所定値より高くなると電池冷却要求があると判断し、電動コンプレッサ61を回転させ、バッテリの温度が所定値より低くなると電池冷却要求がないと判断し、電動コンプレッサ61を停止させる。また、バッテリの温度が所定値よりも高く、電池冷却要求があるとECU20が判断している状態で、前席空調用エバポレータ25及び後席空調用エバポレータ35のいずれか片方又は両方を稼働させる場合は、ECU20は、前席空調用エバポレータ25の温度T及び後席空調用エバポレータ35のエバポレータ後温度に基づいて電動コンプレッサ61を回転又は停止させる。
【0038】
車両用空調装置10では、電池冷却要求があるとECU20が判断した状況で、前席空調用エバポレータ25及び後席空調用エバポレータ35を両方とも稼働させる使用条件Aでは、前席空調ユニット2、後席空調ユニット3及び電池冷却ユニット4を冷媒が循環する。この使用条件Aでは、オイル寝込み現象が発生することを防ぐため、図4に示すように、電動コンプレッサ61の回転速度の下限値を4000rpmとする必要がある。
【0039】
また、電池冷却要求があるとECU20が判断した状況で、前席空調用エバポレータ25を稼働させて後席空調用エバポレータ35を稼働させない使用条件Bでは、前席空調ユニット2及び電池冷却ユニット4を冷媒が循環する。この使用条件Bでは、オイル寝込み現象が発生することを防ぐため、図4に示すように、電動コンプレッサ61の回転速度の下限値を3500rpmとする必要がある。使用条件Bは、使用条件Aとは異なり、後席空調ユニット3に冷媒を循環させないため、使用条件Aよりも電動コンプレッサ61の回転速度の下限値が小さくなる。
【0040】
また、電池冷却要求があるとECU20が判断した状況で、前席空調用エバポレータ25及び後席空調用エバポレータ35を両方とも稼働させない使用条件Cでは、電池冷却ユニット4のみを冷媒が循環する。この使用条件Cでは、オイル寝込み現象が発生することを防ぐため、図4に示すように、電動コンプレッサ61の回転速度の下限値を3000rpmとする必要がある。使用条件Cは、使用条件Bとは異なり、前席空調ユニット2に冷媒を循環させないため、使用条件Bよりも電動コンプレッサ61の回転速度の下限値が小さくなる。
【0041】
また、電池冷却要求があるとECU20が判断した状況で、前席空調用エバポレータ25を稼働させず後席空調用エバポレータ35を稼働させる使用条件Dでは、後席空調ユニット3及び電池冷却ユニット4を冷媒が循環する。この使用条件Dでは、オイル寝込み現象が発生することを防ぐため、図4に示すように、電動コンプレッサ61の回転速度の下限値を3750rpmとする必要がある。
【0042】
使用条件Dは、使用条件Aとは異なり、前席空調ユニット2に冷媒を循環させないため、使用条件Aよりも電動コンプレッサ61の回転速度の下限値が小さくなる。そして、使用条件Dは、使用条件Cとは異なり、後席空調ユニット3に冷媒を循環させるため、使用条件Cよりも電動コンプレッサ61の回転速度の下限値が大きくなる。そして、使用条件Dは、使用条件Bとは異なり、前席空調ユニット2の代わりに後席空調ユニット3に冷媒を循環させるが、コンデンサ62から後席空調用エバポレータ35を経由して電動コンプレッサ61に到達するまでの圧力損失の方が、コンデンサ62から前席空調用エバポレータ25を経由して電動コンプレッサ61に到達するまでの圧力損失よりも大きいため、使用条件Bよりも電動コンプレッサ61の回転速度の下限値が大きくなる。
【0043】
車両用空調装置10では、電動コンプレッサ61及びコンデンサ62が車両前方に配置されているため、電動コンプレッサ61及びコンデンサ62から後席空調用エバポレータ35までの配管長が、電動コンプレッサ61及びコンデンサ62から前席空調用エバポレータ25までの配管長よりも長くなる。そのため、コンデンサ62から後席空調用エバポレータ35を経由して電動コンプレッサ61に到達するまでの圧力損失の方が、コンデンサ62から前席空調用エバポレータ25を経由して電動コンプレッサ61に到達するまでの圧力損失よりも大きくなる。
【0044】
車両用空調装置10は、このように前席空調用エバポレータ25及び後席空調用エバポレータ35の稼働の有無に応じて、使用条件A~Dで電動コンプレッサ61を回転させる際の回転速度の下限値を変更するため、オイル寝込み現象が発生することを抑制しつつ、前席空調用エバポレータ25及び後席空調用エバポレータ35の稼働の有無によらず常に電動コンプレッサ61の回転速度の下限値を一定とする車両用空調装置と比較して、電動コンプレッサ61に用いる電力消費を抑制し車両の電費を向上することができる。
【0045】
なお、本実施形態で使用条件A~Dにおける電動コンプレッサ61の回転速度の下限値として図4に記載した数値は、一例として記載した数値である。電動コンプレッサ61の性能や配管長などが異なれば、使用条件A~Dにおける電動コンプレッサ61の回転速度の下限値は、図4に記載された数値とは異なる数値となる。
【0046】
<実施形態の補足>
本開示の車両用空調装置は、上述した形態に限定されず、本開示の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。例えば、コンデンサから後席空調用エバポレータを経由して電動コンプレッサに到達するまでの圧力損失の方が、コンデンサから前席空調用エバポレータを経由して電動コンプレッサに到達するまでの圧力損失よりも小さい形態であってもよい。また、エンジンがない電気自動車に搭載されてもよい。その場合、ヒータコアのチューブを通る水はエンジンで加熱することはできず、水加熱ヒータで加熱される。
【符号の説明】
【0047】
1 エンジン、2 前席空調ユニット、3 後席空調ユニット、4 電池冷却ユニット、5 水循環用配管、6 冷媒循環用配管、6a 分岐点、6b 電池冷却用配管、6c 空調用配管、6d 分岐点、6e 前席空調用配管、6f 後席空調用配管、6g,6h 合流点、10 車両用空調装置、20 ECU、21 吹出口、22 前席空調用ダクト、23 切替ドア、24 ブロワファン、25 前席空調用エバポレータ、26 エアミックスドア、27 ヒータコア、28 ブロワモータ、29 温度センサ、30 操作部、31 吹出口、32 後席空調用ダクト、33 切替ドア、34 ブロワファン、35 後席空調用エバポレータ、36 エアミックスドア、37 ヒータコア、38 ブロワモータ、39 気温センサ、41 電磁弁、42 膨張弁、43 電池冷却用熱交換器、44 分岐点、45a 第1配管、45b 第2配管、46 合流点、51 水加熱ヒータ、52 バイパス管、53 三方弁、54 電動ウォータポンプ、55 分岐点、56 合流点、57,58 水温センサ、61 電動コンプレッサ、62コンデンサ、63 レシーバ、64,66 電磁弁、65,67 膨張弁、71,72 室温センサ、73 外気温度センサ、74 日射量センサ、75 電池温度センサ。
図1
図2
図3
図4