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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電子血圧計および血圧測定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
A61B5/022 100A
A61B5/022 300A
A61B5/022 400F
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021124560
(22)【出願日】2021-07-29
(65)【公開番号】P2023019652
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【弁理士】
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(72)【発明者】
【氏名】松村 直美
(72)【発明者】
【氏名】澤野井 幸哉
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-101089(JP,A)
【文献】特開2009-148626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 - 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定部位の血圧を非侵襲で測定する電子血圧計であって、
加圧用の流体の供給を受けて上記被測定部位を圧迫するために、上記被測定部位の周方向に沿って取り巻いて装着される袋状の押圧カフと、
上記押圧カフよりも内周側で上記被測定部位の動脈に対向すべき部分に配置され、上記押圧カフとは別に、圧力伝達用の流体を収容する袋状のセンシングカフとを備え、このセンシングカフは、上記押圧カフの圧力によって上記圧力伝達用の流体を介して上記被測定部位の動脈を圧迫する一方、上記動脈から圧脈波を受けるようになっており、
上記センシングカフの圧力を検出する第1圧力センサと、
上記押圧カフの圧力を検出する第2圧力センサと、
上記押圧カフに上記加圧用の流体を供給し、または上記押圧カフから上記加圧用の流体を排出して、上記押圧カフの圧力を制御する圧力制御部と、
上記圧力制御部による上記押圧カフの圧力の変化過程での、上記第1圧力センサからの上記センシングカフの圧力を表すデータと、上記第2圧力センサからの上記押圧カフの圧力を表すデータとに基づいて、血圧値を算出する血圧算出部とを備え、
上記血圧算出部は、
上記圧力の変化過程での上記センシングカフの圧力を表すデータから上記押圧カフの圧力を表すデータの直流成分又は上記直流成分に近似した値を減算して、上記圧脈波が拍毎に示す立ち上がり開始点の圧力とピーク点の圧力とを求め、
上記圧力の変化過程で上記拍毎の上記ピーク点の圧力がゼロレベルと正の値との間で遷移する第1時点を求め、この第1時点の上記押圧カフの圧力を収縮期血圧値として求めるとともに、上記拍毎の上記立ち上がり開始点の圧力がゼロレベルと正の値との間で遷移する第2時点を求め、この第2時点の上記押圧カフの圧力を拡張期血圧値として求める
ことを特徴とする電子血圧計。
【請求項2】
請求項1に記載の電子血圧計において、
上記圧力の変化過程は、上記押圧カフの加圧によって上記動脈を通る血流が一旦停止された後の減圧過程であり、
上記第1時点は、上記拍毎の上記ピーク点の圧力がゼロレベルから正の値を示し始めた時点であり、
上記第2時点は、上記第1時点よりも後の、上記拍毎の上記立ち上がり開始点の圧力がゼロレベルから正の値を示し始めた時点である
ことを特徴とする電子血圧計。
【請求項3】
請求項1に記載の電子血圧計において、
上記圧力の変化過程は、上記押圧カフの加圧過程であり、
上記第2時点は、上記拍毎の上記立ち上がり開始点の圧力が正の値からゼロレベルに落ちた時点であり、
上記第1時点は、上記第2時点よりも後の、上記拍毎の上記ピーク点の圧力が正の値からゼロレベルに落ちた時点である
ことを特徴とする電子血圧計。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一つに記載の電子血圧計において、
上記センシングカフは、第1流体配管を介して、上記第1圧力センサに流体流通可能に接続され、
上記押圧カフは、第2流体配管を介して、上記第2圧力センサに流体流通可能に接続され、
上記第1流体配管と上記第2流体配管とは互いに離間している
ことを特徴とする電子血圧計。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一つに記載の電子血圧計において、
上記被測定部位の動脈が通る方向に沿った上記押圧カフの幅方向に関して、上記センシングカフが占める範囲は、上記押圧カフの幅方向寸法のうち上記動脈の上流側から予め定められた範囲を除いた残りの範囲内にある
ことを特徴とする電子血圧計。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一つに記載の電子血圧計において、
上記押圧カフと上記センシングカフとの間に介挿された背板を備え、この背板は、上記押圧カフの圧力を上記センシングカフへ伝えるとともに、上記押圧カフと上記センシングカフとの間で圧力の変動成分が伝わるのを遮断する
ことを特徴とする電子血圧計。
【請求項7】
請求項4に記載の電子血圧計において、
上記第1流体配管は、上記被測定部位の外周面に対して垂直な厚さ方向から見た平面視で上記動脈から外れた態様で、上記押圧カフが上記被測定部位を取り巻く領域の外部へ引き出されるようになっている
ことを特徴とする電子血圧計。
【請求項8】
請求項4に記載の電子血圧計において、
上記押圧カフは、上記センシングカフに対向する領域の一部に厚さ方向に貫通した貫通孔を有し、
上記第1流体配管は、上記センシングカフから上記押圧カフの上記貫通孔を通して、上記押圧カフの外周側へ引き出されている
ことを特徴とする電子血圧計。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一つに記載の電子血圧計において、
上記センシングカフに上記圧力伝達用の流体が予め定められた量だけ封入されている
ことを特徴とする電子血圧計。
【請求項10】
請求項4、7または8に記載の電子血圧計において、
血圧測定の都度、上記圧力制御部による上記押圧カフの加圧開始に先立って、上記センシングカフに上記第1流体配管を介して上記圧力伝達用の流体を供給して封入する一方、上記血圧算出部による上記血圧値の算出完了後に上記センシングカフから上記第1流体配管を介して上記圧力伝達用の流体を排出する制御を行う流体収容制御部
を備えたことを特徴とする電子血圧計。
【請求項11】
請求項10に記載の電子血圧計において、
上記圧力制御部は、上記押圧カフに上記第2流体配管を介して上記加圧用の流体として空気を供給するためのポンプと、上記押圧カフから上記第2流体配管を介して上記空気を排出するための排出弁とを含み、
上記流体収容制御部は、上記第1流体配管と上記第2流体配管との間に接続された切換弁を含み、この切換弁は、上記第1流体配管と上記第2流体配管とを切り離した状態にする第1位置と、上記第1流体配管と上記第2流体配管とを流体流通可能にするとともに上記押圧カフを封じた状態にする第2位置とをとり得るようになっており、
上記流体収容制御部は、
上記圧力制御部による上記押圧カフの加圧開始に先立って、上記センシングカフに上記圧力伝達用の流体を供給して封入するとき、上記切換弁を上記第2位置に切り換えて、上記ポンプを用いて上記センシングカフに上記圧力伝達用の流体として空気を供給し、
上記圧力制御部による上記押圧カフの加圧または減圧中に、上記切換弁を上記第1位置に維持し、
上記血圧算出部による上記血圧値の算出完了後に上記センシングカフから上記圧力伝達用の流体を排出するとき、上記切換弁を上記第2位置に切り換えて、上記排出弁を用いて上記センシングカフから上記空気を排出するようになっている
ことを特徴とする電子血圧計。
【請求項12】
請求項1に記載の電子血圧計によって被測定部位の血圧を非侵襲で測定する血圧測定方法であって、
上記血圧算出部によって、
上記圧力制御部による上記押圧カフの圧力の変化過程での、上記第1圧力センサからの上記センシングカフの圧力を表すデータと、上記第2圧力センサからの上記押圧カフの圧力を表すデータとを取得し、
上記圧力の変化過程での上記センシングカフの圧力を表すデータから上記押圧カフの圧力を表すデータの直流成分又は上記直流成分に近似した値を減算して、上記圧脈波が拍毎に示す立ち上がり開始点の圧力とピーク点の圧力とを求め、
上記圧力の変化過程で上記拍毎の上記ピーク点の圧力がゼロレベルと正の値との間で遷移する第1時点を求め、この第1時点の上記押圧カフの圧力を収縮期血圧値として求めるとともに、上記拍毎の上記立ち上がり開始点の圧力がゼロレベルと正の値との間で遷移する第2時点を求め、この第2時点の上記押圧カフの圧力を拡張期血圧値として求める
ことを特徴とする血圧測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電子血圧計に関し、より詳しくは、被測定部位の血圧を非侵襲で測定する電子血圧計および血圧測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電子血圧計としては、例えば特許文献1(特開平9-299339号公報)に開示されているように、被測定部位を血圧測定用カフで圧迫して、上記被測定部位の血圧を、オシロメトリック法により算出するものが知られている。具体的には、上記血圧測定用カフが加圧過程または減圧過程にあるときカフ圧から得られた脈波振幅の列に対して包絡線を設定するとともに、上記包絡線の最大値に対して予め定められた割合(比率)のスレッシュレベル(収縮期用のスレッシュレベルと拡張期用のスレッシュレベルを含む。)を設定し、上記包絡線がそれらのスレッシュレベルを横切った時点のカフ圧を、それぞれ最高血圧(収縮期血圧)、最低血圧(拡張期血圧)として算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-299339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記収縮期用のスレッシュレベルは0.5~0.6、上記拡張期血圧用のスレッシュレベルはで0.7~0.8に設定される。この理由は、上記オシロメトリック法により算出された収縮期血圧、拡張期血圧を、基準となる測定法(例えば、伝統的な聴診法)により測定された収縮期血圧、拡張期血圧に対してそれぞれ統計的に一致させるためである。
【0005】
このため、上記オシロメトリック法により算出された収縮期血圧、拡張期血圧は、統計的には精度が担保されているけれども、基準となる測定法により測定された収縮期血圧、拡張期血圧と差が発生する人がいる、という問題がある。
【0006】
そこで、この発明の課題は、被測定部位の血圧を非侵襲で原理的に正しく測定できる電子血圧計および血圧測定方法を提供することにある。ここで、「原理的に正しく測定できる」というのは、基準となる測定法の原理と同じ機序に基づいているという意味である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この開示の電子血圧計は、
被測定部位の血圧を非侵襲で測定する電子血圧計であって、
加圧用の流体の供給を受けて上記被測定部位を圧迫するために、上記被測定部位の周方向に沿って取り巻いて装着される袋状の押圧カフと、
上記押圧カフよりも内周側で上記被測定部位の動脈に対向すべき部分に配置され、上記押圧カフとは別に、圧力伝達用の流体を収容する袋状のセンシングカフとを備え、このセンシングカフは、上記押圧カフの圧力によって上記圧力伝達用の流体を介して上記被測定部位の動脈を圧迫する一方、上記動脈から圧脈波を受けるようになっており、
上記センシングカフの圧力を検出する第1圧力センサと、
上記押圧カフの圧力を検出する第2圧力センサと、
上記押圧カフに上記加圧用の流体を供給し、または上記押圧カフから上記加圧用の流体を排出して、上記押圧カフの圧力を制御する圧力制御部と、
上記圧力制御部による上記押圧カフの圧力の変化過程での、上記第1圧力センサからの上記センシングカフの圧力を表すデータと、上記第2圧力センサからの上記押圧カフの圧力を表すデータとに基づいて、血圧値を算出する血圧算出部とを備え、
上記血圧算出部は、
上記圧力の変化過程での上記センシングカフの圧力を表すデータから上記押圧カフの圧力を表すデータの直流成分又は上記直流成分に近似した値を減算して、上記圧脈波が拍毎に示す立ち上がり開始点の圧力とピーク点の圧力とを求め、
上記圧力の変化過程で上記拍毎の上記ピーク点の圧力がゼロレベルと正の値との間で遷移する第1時点を求め、この第1時点の上記押圧カフの圧力を収縮期血圧値として求めるとともに、上記拍毎の上記立ち上がり開始点の圧力がゼロレベルと正の値との間で遷移する第2時点を求め、この第2時点の上記押圧カフの圧力を拡張期血圧値として求める
ことを特徴とする。
【0008】
本明細書で、「圧力伝達用の流体」は、この電子血圧計の製造段階で上記センシングカフに封入されても良いし、または、血圧測定の都度、上記センシングカフに収容され、上記センシングカフから排出されても良い。
【0009】
また、加圧用、圧力伝達用の「流体」は、典型的には空気であるが、他の気体、または液体であっても良い。
【0010】
上記押圧カフの圧力を表すデータの「直流成分」とは、上記押圧カフの圧力を表すデータから変動成分(例えば、上記動脈からの圧脈波に由来する拍毎の変動成分)を除いた成分を意味する。また、「上記直流成分に近似した値」とは、例えば、一定の減圧速度による減圧過程で、押圧カフの圧力の1点のデータと、上記減圧速度とによって定まる直線で近似した値を指す。
【0011】
「上記圧脈波が拍毎に示す立ち上がり開始点の圧力とピーク点の圧力とを求める」とは、上記第1圧力センサが検出する上記圧脈波が拍毎に立ち上がり開始点、ピーク点を示す場合に、それらの圧力を求めることを意味する。なお、例えば、上記減圧過程で上記押圧カフの圧力が上記収縮期血圧値よりも高い圧力区間では、上記動脈の血流は停止されるので、上記「立ち上がり開始点」、上記「ピーク点」は観測されず、したがって、それらの圧力は求められない。
【0012】
「第1時点」、「第2時点」とは、それらの時点を互いに区別するための便宜上の名称であり、必ずしもそれらの時点の前後を意味しない。
【0013】
この開示の電子血圧計では、袋状の押圧カフが、上記被測定部位の周方向に沿って取り巻いて装着される。この装着状態では、上記押圧カフとは別に、袋状のセンシングカフが、上記押圧カフよりも内周側で上記被測定部位の動脈に対向すべき部分に配置される。例えば、この電子血圧計の製造段階で、予め上記センシングカフに圧力伝達用の流体が封入されているものとする。
【0014】
血圧測定時には、圧力制御部が、上記押圧カフに上記加圧用の流体を供給し、または上記押圧カフから上記加圧用の流体を排出して、上記押圧カフの圧力を制御する。上記センシングカフは、上記押圧カフの圧力によって上記圧力伝達用の流体を介して上記被測定部位の動脈を圧迫する一方、上記動脈からの圧脈波を受ける。第1圧力センサは上記センシングカフの圧力を検出し、また、第2圧力センサは上記押圧カフの圧力を検出する。血圧算出部は、上記圧力制御部による上記押圧カフの圧力の変化過程での、上記第1圧力センサからの上記センシングカフの圧力を表すデータと、上記第2圧力センサからの上記押圧カフの圧力を表すデータとに基づいて、血圧値(収縮期血圧と拡張期血圧)を算出する。具体的には、上記血圧算出部は、上記圧力の変化過程での上記センシングカフの圧力を表すデータから上記押圧カフの圧力を表すデータの直流成分又は上記直流成分に近似した値を減算して、上記圧脈波が拍毎に示す立ち上がり開始点の圧力とピーク点の圧力とを求める。また、上記血圧算出部は、上記圧力の変化過程で上記拍毎の上記ピーク点の圧力がゼロレベルと正の値との間で遷移する第1時点を求め、この第1時点の上記押圧カフの圧力を収縮期血圧値として求めるとともに、上記拍毎の上記立ち上がり開始点の圧力がゼロレベルと正の値との間で遷移する第2時点を求め、この第2時点の上記押圧カフの圧力を拡張期血圧値として求める。
【0015】
これにより、この電子血圧計によれば、被測定部位の血圧を非侵襲で原理的に正しく測定できる。この理由については、実施形態欄で図面を参照して詳述する。
【0016】
一実施形態の電子血圧計では、
上記圧力の変化過程は、上記押圧カフの加圧によって上記動脈を通る血流が一旦停止された後の減圧過程であり、
上記第1時点は、上記拍毎の上記ピーク点の圧力がゼロレベルから正の値を示し始めた時点であり、
上記第2時点は、上記第1時点よりも後の、上記拍毎の上記立ち上がり開始点の圧力がゼロレベルから正の値を示し始めた時点である
ことを特徴とする。
【0017】
この一実施形態の電子血圧計では、上記第1時点は、上記押圧カフの加圧によって上記動脈を通る血流が一旦停止された後、血流が再開した時点、すなわち、上記押圧カフの圧力が収縮期血圧を下回った時点に相当する。したがって、上記第1時点の上記押圧カフの圧力は、収縮期血圧値として求められる。また、上記第2時点は、上記押圧カフの圧力が拡張期血圧を下回った時点に相当する。したがって、上記第2時点の上記押圧カフの圧力は、拡張期血圧値として求められる。
【0018】
一実施形態の電子血圧計では、
上記圧力の変化過程は、上記押圧カフの加圧過程であり、
上記第2時点は、上記拍毎の上記立ち上がり開始点の圧力が正の値からゼロレベルに落ちた時点であり、
上記第1時点は、上記第2時点よりも後の、上記拍毎の上記ピーク点の圧力が正の値からゼロレベルに落ちた時点である
ことを特徴とする。
【0019】
この一実施形態の電子血圧計では、上記第2時点は、上記押圧カフの圧力が拡張期血圧を上回った時点に相当する。したがって、上記第2時点の上記押圧カフの圧力は、拡張期血圧値として求められる。また、上記第1時点は、上記押圧カフの圧力が収縮期血圧を上回った時点に相当する。したがって、上記第1時点の上記押圧カフの圧力は、収縮期血圧値として求められる。
【0020】
一実施形態の電子血圧計では、
上記センシングカフは、第1流体配管を介して、上記第1圧力センサに流体流通可能に接続され、
上記押圧カフは、第2流体配管を介して、上記第2圧力センサに流体流通可能に接続され、
上記第1流体配管と上記第2流体配管とは互いに離間していることを特徴とする。
【0021】
この一実施形態の電子血圧計では、上記第1流体配管と上記第2流体配管とは互いに離間している。したがって、例えば上記センシングカフにつながる上記第1流体配管の圧力に含まれた変動成分(例えば、上記動脈からの圧脈波による)が、上記押圧カフにつながる上記第2流体配管の圧力にノイズとして混入するのを抑制できる。逆に、上記押圧カフにつながる上記第2流体配管の圧力に含まれた変動成分が、上記センシングカフにつながる上記第1流体配管の圧力にノイズとして混入するのを抑制できる。
【0022】
一実施形態の電子血圧計では、上記被測定部位の動脈が通る方向に沿った上記押圧カフの幅方向に関して、上記センシングカフが占める範囲は、上記押圧カフの幅方向寸法のうち上記動脈の上流側から予め定められた範囲を除いた残りの範囲内にあることを特徴とする。
【0023】
仮に、上記被測定部位の動脈が通る方向に沿った上記押圧カフの幅方向に関して、上記センシングカフが占める範囲が、上記押圧カフの幅方向寸法のうち上記動脈の上流側から例えば1/3の範囲内にあるものとする。すると、上記減圧過程で上記押圧カフの圧力が上記収縮期血圧値よりも高い圧力区間内にあって上記動脈の血流は停止されている場合であっても、上記動脈の上流側から上記押圧カフの直下へ向かう脈波が、上記第1圧力センサが検出する上記センシングカフの圧力にノイズ(変動成分)として混入し得る。そこで、この一実施形態の電子血圧計では、上記被測定部位の動脈が通る方向に沿った上記押圧カフの幅方向に関して、上記センシングカフが占める範囲は、上記押圧カフの幅方向寸法のうち上記動脈の上流側から予め定められた範囲を除いた残りの範囲内にある。したがって、上記減圧過程で上記押圧カフの圧力が上記収縮期血圧値よりも高い圧力区間内にあって上記動脈の血流は停止されている場合に、上記動脈の上流側から上記押圧カフの直下へ向かう脈波が、上記第1圧力センサが検出する上記センシングカフの圧力にノイズ(変動成分)として混入するのを抑制できる。
【0024】
一実施形態の電子血圧計では、上記押圧カフと上記センシングカフとの間に介挿された背板を備え、この背板は、上記押圧カフの圧力を上記センシングカフへ伝えるとともに、上記押圧カフと上記センシングカフとの間で圧力の変動成分が伝わるのを遮断することを特徴とする。
【0025】
この一実施形態の電子血圧計では、上記背板によって、上記押圧カフの圧力を上記センシングカフへ確実に伝えることができる。したがって、上記センシングカフは、上記押圧カフの圧力によって上記圧力伝達用の流体を介して上記被測定部位の動脈を確実に圧迫することができる。これとともに、上記背板は、上記押圧カフと上記センシングカフとの間で圧力の変動成分が伝わるのを遮断する。したがって、例えば上記センシングカフの圧力に含まれた変動成分(例えば、上記動脈からの圧脈波による)が上記押圧カフの圧力にノイズとして混入するのを抑制できる。逆に、上記押圧カフの圧力に含まれた変動成分が上記センシングカフの圧力にノイズとして混入するのを抑制できる。
【0026】
一実施形態の電子血圧計では、上記第1流体配管は、上記被測定部位の外周面に対して垂直な厚さ方向から見た平面視で上記動脈から外れた態様で、上記押圧カフが上記被測定部位を取り巻く領域の外部へ引き出されるようになっていることを特徴とする。
【0027】
「動脈から外れた態様」とは、上記動脈とは重ならず、上記動脈から離間していることを意味する。
【0028】
この一実施形態の電子血圧計では、上記第1流体配管は、上記被測定部位の外周面に対して垂直な厚さ方向から見た平面視で上記動脈から外れた態様で、上記押圧カフが上記被測定部位を取り巻く領域の外部へ引き出されている。したがって、上記押圧カフの圧力によって上記センシングカフを介して上記被測定部位の動脈を圧迫するのを、上記第1流体配管が妨げることがない。また、上記センシングカフが上記動脈から圧脈波を受けるのを、上記第1流体配管が妨げることがない。
【0029】
一実施形態の電子血圧計では、
上記押圧カフは、上記センシングカフに対向する領域の一部に厚さ方向に貫通した貫通孔を有し、
上記第1流体配管は、上記センシングカフから上記押圧カフの上記貫通孔を通して、上記押圧カフの外周側へ引き出されている
ことを特徴とする。
【0030】
上記押圧カフ(および上記センシングカフ)について「厚さ方向」とは、上記被測定部位にカフが装着された状態で、上記被測定部位の外周面に対して垂直な方向を指す。
【0031】
この一実施形態の電子血圧計では、上記第1流体配管は、上記センシングカフから上記押圧カフの上記貫通孔を通して、上記押圧カフの外部へ引き出されている。したがって、上記押圧カフの圧力によって上記センシングカフを介して上記被測定部位の動脈を圧迫するのを、上記第1流体配管が妨げることがない。また、上記センシングカフが上記動脈から圧脈波を受けるのを、上記第1流体配管が妨げることがない。
【0032】
一実施形態の電子血圧計では、上記センシングカフに上記圧力伝達用の流体が予め定められた量だけ封入されていることを特徴とする。
【0033】
「予め定められた量」とは、例えば、上記センシングカフをなす袋が上記押圧カフの圧力によって厚さ方向に潰れて、上記袋をなすシートが密接してしまうような事態を、避けられる程度の量を指す。そのような事態を避けることにより、上記センシングカフは、上記押圧カフの圧力によって上記圧力伝達用の流体を介して上記被測定部位の動脈を確実に圧迫する一方、上記動脈から圧脈波を確実に受けることができる。
【0034】
この一実施形態の電子血圧計では、上記センシングカフに上記圧力伝達用の流体が予め定められた量だけ封入されている。したがって、例えば、血圧測定の都度、上記センシングカフに上記圧力伝達用の流体を封入するための手間を、省略することができる。
【0035】
一実施形態の電子血圧計では、血圧測定の都度、上記圧力制御部による上記押圧カフの加圧開始に先立って、上記センシングカフに上記第1流体配管を介して上記圧力伝達用の流体を予め定められた量だけ供給して封入する一方、上記血圧算出部による上記血圧値の算出完了後に上記センシングカフから上記第1流体配管を介して上記圧力伝達用の流体を排出する制御を行う流体収容制御部を備えたことを特徴とする。
【0036】
この一実施形態の電子血圧計では、血圧測定の都度、上記押圧カフの加圧開始に先立って、上記センシングカフに上記圧力伝達用の流体を自動的に封入できる。また、上記血圧値の算出完了後に上記センシングカフから上記圧力伝達用の流体を自動的に排出できる。
【0037】
一実施形態の電子血圧計では、
上記圧力制御部は、上記押圧カフに上記第2流体配管を介して上記加圧用の流体として空気を供給するためのポンプと、上記押圧カフから上記第2流体配管を介して上記空気を排出するための排出弁とを含み、
上記流体収容制御部は、上記第1流体配管と上記第2流体配管との間に接続された切換弁を含み、この切換弁は、上記第1流体配管と上記第2流体配管とを切り離した状態にする第1位置と、上記第1流体配管と上記第2流体配管とを流体流通可能にするとともに上記押圧カフを封じた状態にする第2位置とをとり得るようになっており、
上記流体収容制御部は、
上記圧力制御部による上記押圧カフの加圧開始に先立って、上記センシングカフに上記圧力伝達用の流体を供給して封入するとき、上記切換弁を上記第2位置に切り換えて、上記ポンプを用いて上記センシングカフに上記圧力伝達用の流体として空気を供給し、
上記圧力制御部による上記押圧カフの加圧または減圧中に、上記切換弁を上記第1位置に維持し、
上記血圧算出部による上記血圧値の算出完了後に上記センシングカフから上記圧力伝達用の流体を排出するとき、上記切換弁を上記第2位置に切り換えて、上記排出弁を用いて上記センシングカフから上記空気を排出するようになっている
ことを特徴とする血圧計。
【0038】
この一実施形態の電子血圧計では、比較的少ない部品で、上記センシングカフに上記圧力伝達用の流体として空気を自動的に封入でき、また、上記センシングカフから上記空気を自動的に排出できる。
【0039】
一実施形態の電子血圧計では、
データを記憶し得る記憶部を備え、
上記血圧算出部は、
上記拍毎に上記ピーク点の圧力から上記立ち上がり開始点の圧力を差し引いた差分を脈波振幅として算出し、各脈波振幅のデータを、その脈波振幅を示した時点の上記押圧カフの圧力を表すデータと対応付けて時系列で上記記憶部に記憶させ、
上記記憶部の記憶内容を参照して、上記圧力の変化過程で上記脈波振幅が最大値を示した時点を、上記第2時点として決定する
ことを特徴とする。
【0040】
通常は上記センシングカフが受ける上記圧脈波にはノイズが乗っているので、上記立ち上がり開始点の圧力がゼロレベル(ノイズに埋もれている)と正の値との間で遷移する時点(第2時点)を決定するのは困難な場合がある。そこで、この一実施形態の電子血圧計では、上記血圧算出部は、上記拍毎に上記ピーク点の圧力から上記立ち上がり開始点の圧力を差し引いた差分を脈波振幅として算出し、上記圧力の変化過程での各脈波振幅のデータを、その脈波振幅を示した時点の上記押圧カフの圧力のデータと対応付けて時系列で上記記憶部に記憶させる。そして、上記血圧算出部は、上記記憶部の記憶内容を参照して、上記圧力の変化過程で上記脈波振幅が最大値を示した時点を、上記第2時点として決定する。この結果、この決定された第2時点に対応する上記押圧カフの圧力が、上記拡張期血圧値として求められる。ここで、上記脈波振幅が最大値を示したか否かは、上記脈波振幅同士の比較によって判定されるので、ゼロレベル(ノイズに埋もれている)との比較による場合に比して、精度良く判定され得る。したがって、この一実施形態の電子血圧計では、上記第2時点を精度良く決定でき、これにより、上記拡張期血圧値を精度良く求めることができる。
【0041】
一実施形態の電子血圧計では、
上記血圧算出部は、
上記脈波振幅の上記最大値に対して予め定められた比率を乗算して、上記第1時点を決定するための閾値レベルを設定し、
上記記憶部の記憶内容を参照して、上記圧力の変化過程で、上記脈波振幅が上記閾値レベルを横切った時点を、上記第1時点として決定する
ことを特徴とする。
【0042】
「予め定められた比率」は、実際のノイズレベルを超える一方、上記第1時点を精度良く決定するためになるべく少なく設定される。上記脈波振幅の上記最大値に対して、「予め定められた比率」は、例えば0.1程度に設定される。
【0043】
通常は上記センシングカフが受ける上記圧脈波にはノイズが乗っているので、上記ピーク点の圧力がゼロレベル(ノイズに埋もれている)と正の値との間で遷移する時点(第1時点)を決定するのは困難な場合がある。そこで、この一実施形態の電子血圧計では、上記血圧算出部は、上記脈波振幅の上記最大値に対して予め定められた比率を乗算して、上記第1時点を決定するための閾値レベルを設定する。そして、上記血圧算出部は、上記記憶部の記憶内容を参照して、上記圧力の変化過程で、上記脈波振幅が上記閾値レベルを横切った時点を、上記第1時点として決定する。この結果、この決定された第1時点に対応する上記押圧カフの圧力が、上記収縮期血圧値として求められる。ここで、上記脈波振幅が上記閾値レベルを横切ったか否かは、上記脈波振幅と上記設定された閾値レベルとの比較によって判定されるので、ゼロレベル(ノイズに埋もれている)との比較による場合に比して、精度良く判定され得る。したがって、この一実施形態の電子血圧計では、上記第1時点を精度良く決定でき、これにより、上記収縮期血圧値を精度良く求めることができる。
【0044】
一実施形態の電子血圧計では、上記血圧算出部は、上記拍毎に上記脈波振幅を算出した後、予め定められた複数拍にわたる移動平均をとって上記脈波振幅を平滑化し、この平滑化された上記脈波振幅を時系列で上記記憶部に記憶させることを特徴とする。
【0045】
「予め定められた複数拍」とは、例えば5拍である。
【0046】
通常は1拍毎に血圧は変動しているので、その影響を受けて上記脈波振幅も変動する。そこで、この一実施形態の電子血圧計では、上記血圧算出部は、上記拍毎に上記脈波振幅を算出した後、複数拍にわたる移動平均をとって上記拍毎に上記脈波振幅を平滑化し、この平滑化された上記脈波振幅を時系列で上記記憶部に記憶させる。この結果、平滑化された上記脈波振幅が時系列で上記記憶部に記憶される。これにより、上記収縮期血圧値、上記拡張期血圧値を精度良く求めることができる。
【0047】
別の局面では、この開示の血圧測定方法は、
上記電子血圧計によって被測定部位の血圧を非侵襲で測定する血圧測定方法であって、
上記血圧算出部によって、
上記圧力制御部による上記押圧カフの圧力の変化過程での、上記第1圧力センサからの上記センシングカフの圧力を表すデータと、上記第2圧力センサからの上記押圧カフの圧力を表すデータとを取得し、
上記圧力の変化過程での上記センシングカフの圧力を表すデータから上記押圧カフの圧力を表すデータの直流成分又は上記直流成分に近似した値を減算して、上記圧脈波が拍毎に示す立ち上がり開始点の圧力とピーク点の圧力とを求め、
上記圧力の変化過程で上記拍毎の上記ピーク点の圧力がゼロレベルと正の値との間で遷移する第1時点を求め、この第1時点の上記押圧カフの圧力を収縮期血圧値として求めるとともに、上記拍毎の上記立ち上がり開始点の圧力がゼロレベルと正の値との間で遷移する第2時点を求め、この第2時点の上記押圧カフの圧力を拡張期血圧値として求める
ことを特徴とする。



【0048】
この開示の血圧測定方法によれば、被測定部位の血圧を非侵襲で原理的に正しく測定できる。
【0049】
さらに別の局面では、この開示の電子血圧計は、
被測定部位の血圧を非侵襲で測定する電子血圧計であって、
加圧用の流体の供給を受けて上記被測定部位を圧迫するために、上記被測定部位の周方向に沿って取り巻いて装着される袋状の押圧カフと、
上記押圧カフよりも内周側で上記被測定部位の動脈に対向すべき部分に配置され、上記押圧カフとは別に、圧力伝達用の流体を収容する袋状のセンシングカフとを備え、このセンシングカフは、上記押圧カフの圧力によって上記圧力伝達用の流体を介して上記被測定部位の動脈を圧迫する一方、上記動脈から圧脈波を受けるようになっており、
上記センシングカフの圧力を検出する第1圧力センサと、
上記押圧カフの圧力を検出する第2圧力センサと、
上記押圧カフに上記加圧用の流体を供給し、または上記押圧カフから上記加圧用の流体を排出して、上記押圧カフの圧力を制御する圧力制御部と、
上記圧力制御部による上記押圧カフの圧力の変化過程での、上記第1圧力センサからの上記センシングカフの圧力を表すデータと、上記第2圧力センサからの上記押圧カフの圧力を表すデータとに基づいて、血圧値を算出する血圧算出部とを備え、
上記血圧算出部は、
上記圧力の変化過程での上記センシングカフの圧力を表すデータから上記押圧カフの圧力を表すデータの直流成分又は上記直流成分に近似した値を減算して、上記圧脈波が拍毎に示す立ち上がり開始点の圧力とピーク点の圧力とを求め、
時間を表す横軸と圧力を表す縦軸とで定められる座標平面上で、上記圧力の変化の過程での上記拍毎の上記ピーク点をつないだ第1曲線がゼロレベルと正の値との間で遷移する点に相当する第1時点を求め、この第1時点での上記押圧カフの圧力を収縮期血圧値として求めるとともに、上記座標平面上で、上記圧力の変化の過程での上記拍毎の上記立ち上がり開始点をつないだ第2曲線がゼロレベルと正の値との間で遷移する点に相当する第2時点を求め、この第2時点での上記押圧カフの圧力を拡張期血圧値として求める
ことを特徴とする。
【0050】
ここで、「座標平面上で、(中略)第1曲線がゼロレベルと正の値との間で遷移する点に相当する第1時点を求め」るとは、第1時点を求めれば足り、必ずしも、上記座標平面上に上記第1曲線を描く処理を行うことを要しない。同様に、「座標平面上で、(中略)第2曲線がゼロレベルと正の値との間で遷移する点に相当する第2時点を求め」るとは、第2時点を求めれば足り、必ずしも、上記座標平面上に上記第2曲線を描く処理を行うことを要しない。
【0051】
「第1時点」、「第2時点」とは、それらの時点を互いに区別するための便宜上の名称であり、必ずしもそれらの時点の前後を意味しない。
【0052】
この開示の電子血圧計によれば、被測定部位の血圧を非侵襲で原理的に正しく測定できる。
【発明の効果】
【0053】
以上より明らかなように、この開示の電子血圧計および血圧測定方法によれば、被測定部位の血圧を非侵襲で原理的に正しく測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】この発明の一実施形態の電子血圧計(以下、「血圧計」と略称する。)のブロック構成を示す図である。
図2図1の血圧計を構成するカフ(押圧カフとセンシングカフを含む)が被測定部位に装着された状態の断面を、エア配管系とともに示す図である。
図3図1の血圧計による血圧測定の概略的なフローを示す図である。
図4図3のフローに含まれた血圧算出の仕方の詳細なフローを示す図である。
図5図5(A)は、減圧過程における上記押圧カフの圧力Pcを表すデータと上記センシングカフの圧力Psを表すデータとを併せて示す図である。図5(B)は、上記センシングカフの圧力Psを表すデータから上記押圧カフの圧力Pcを表すデータの直流成分を減算して得られた圧脈波PWの波形(圧力)を表すデータを、カフ圧Pcを横軸にとって示す図である。
図6図5(B)のうち横軸のカフ圧Pcが拡張期血圧値DIAに相当する部分の近傍を拡大して示す図である。
図7】上記血圧計による血圧算出の仕方を原理的に説明する図である。
図8】動脈の内外圧差と動脈の容積との対応関係(管法則)を示す図である。
図9図9(A)~図9(E)は、上記センシングカフに接続された第1エア配管がとり得る様々な配置を示す図である。
図10図10(A)と図10(B)は、上記第1エア配管がとり得る別の配置を示す断面図と平面図である。図10(C)は、内布を備えた場合の上記カフの断面図である。
図11図1の血圧計を変形した変形例の血圧計のブロック構成を示す図である。
図12図12(A)は、図11の血圧計を構成するカフが被測定部位に装着された状態の断面を、エア配管系とともに示す図である。図12(B)は、上記エア配管系に含まれた切換弁が第2位置(作動位置)に切り換えられた状態を示す図である。
図13図11の血圧計による血圧測定の概略的なフローを示す図である。
図14図1の血圧計による血圧測定の別の概略的なフローを示す図である。
図15図14のフローに含まれた血圧算出の仕方の詳細なフローを示す図である。
図16図16(A)は、加圧過程における上記押圧カフの圧力Pcを表すデータと上記センシングカフの圧力Psを表すデータとを併せて示す図である。図16(B)は、上記センシングカフの圧力Psを表すデータから上記押圧カフの圧力Pcを表すデータの直流成分を減算して得られた圧脈波PWの波形(圧力)を表すデータを、カフ圧Pcを横軸にとって示す図である。
図17図17(A)は、一般的なカフが被測定部位を圧迫する状態を示す図である。図17(B)は、減圧過程における上記一般的なカフの圧力Pc′を表すデータと上記圧力Pc′に含まれた圧脈波PW′の波形(圧力)のデータとを併せて示す図である。を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0056】
(血圧計の構成)
図1は、この発明の一実施形態の血圧計1の概略的なブロック構成を示している。この血圧計1は、大別して、手首または上腕などの被測定部位(この例では、上腕とする。)に装着されるカフ20と、本体10とを備えている。
【0057】
カフ20は、加圧用の流体としての空気の供給を受けて被測定部位90を圧迫するための袋状の押圧カフ23と、この押圧カフ23とは別に、圧力伝達用の流体としての空気を収容する袋状のセンシングカフ21とを含んでいる。
【0058】
本体10は、制御部としてのCPU(Central Processing Unit)110と、表示器50と、記憶部としてのメモリ51と、操作部52と、電源部53と、第1圧力センサ30と、第2圧力センサ31と、ポンプ32と、排出弁33とを搭載している。さらに、本体10は、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路300,310と、ポンプ32を駆動するポンプ駆動回路320と、排出弁33を駆動する弁駆動回路330とを搭載している。第1圧力センサ30につながるエア配管37aは、可撓性を有する第1エア配管37として、センシングカフ21に流体流通可能に接続されている(この例では、エア配管37aを含めて第1エア配管37と総称する。)。第2圧力センサ31、ポンプ32、排出弁33にそれぞれつながるエア配管38a,38b,38cは、1本に合流して可撓性を有する第2エア配管38として、押圧カフ23に流体流通可能に接続されている(この例では、エア配管38a,38b,38cを含めて第2エア配管38と総称する。)。この例では、第1エア配管37、第2エア配管38は、それぞれ第1流体配管、第2流体配管を構成している。この例では、第1エア配管37と第2エア配管38とは、互いに完全に離間している。したがって、例えばセンシングカフ21につながる第1エア配管37の圧力に含まれた変動成分(例えば、動脈からの圧脈波による)が、押圧カフ23につながる第2エア配管38の圧力にノイズとして混入するのを抑制できる。逆に、押圧カフ23につながる第2エア配管38の圧力に含まれた変動成分(主に、ポンプ32の振動による)が、センシングカフ21につながる第1エア配管37の圧力にノイズとして混入するのを抑制できる。以下では、第1エア配管37と第2エア配管38とを併せて、適宜、エア配管系37,38と呼ぶ。
【0059】
表示器50は、ディスプレイおよびインジケータ等を含み、CPU110からの制御信号に従って所定の情報(例えば、血圧測定結果など)を表示する。
【0060】
操作部52は、この例では、血圧の測定開始/停止の指示を受け付けるための測定スイッチ52Aと、過去の測定結果を呼び出すためのメモリスイッチ52Bとを有する。これらのスイッチ52A,52Bは、ユーザによる指示に応じた操作信号をCPU110に入力する。
【0061】
メモリ51は、血圧計1を制御するためのプログラムのデータ、血圧計1を制御するために用いられるデータ、血圧計1の各種機能を設定するための設定データ、および血圧値の測定結果のデータなどを記憶する。また、メモリ51は、プログラムが実行されるときのワークメモリなどとして用いられる。
【0062】
電源部53は、CPU110、第1圧力センサ30、第2圧力センサ31、ポンプ32、排出弁33、表示器50、メモリ51、A/D変換回路300,310、ポンプ駆動回路320、および弁駆動回路330を含むこの血圧計1の各部に電力を供給する。
【0063】
ポンプ32は、カフ20に内包された押圧カフ23の圧力(これを符号「Pc」で表す。)を加圧するために、第2エア配管38を介して、押圧カフ23に流体としての空気を供給する。排出弁33は、第2エア配管38を介して、押圧カフ23の空気を排出し、または封入して、押圧カフ23の圧力Pcを制御するために開閉される。ポンプ駆動回路320は、ポンプ32をCPU110から与えられる制御信号に基づいて駆動する。弁駆動回路330は、排出弁33をCPU110から与えられる制御信号に基づいて開閉する。
【0064】
第1圧力センサ30は、この例ではピエゾ抵抗式圧力センサであり、第1エア配管37を介して、センシングカフ21の圧力(これを符号「Ps」で表す。)を検出する。第1圧力センサ30が出力するセンシングカフ21の圧力Psは、A/D変換回路300によってアナログ信号からデジタル信号に変換されて、CPU110に入力される。また、第2圧力センサ31は、第1圧力センサ30と同様にピエゾ抵抗式圧力センサであり、第2エア配管38を介して、押圧カフ23の圧力Pcを検出する。第2圧力センサ31が出力する押圧カフ23の圧力Pcは、A/D変換回路310によってアナログ信号からデジタル信号に変換されて、CPU110に入力される。
【0065】
CPU110は、制御部として、この血圧計1全体の動作を制御する。具体的には、CPU110は、メモリ51に記憶された血圧計1を制御するためのプログラムに従って圧力制御部として働いて、操作部52からの操作信号に応じて、ポンプ32や排出弁33を駆動する制御を行う。また、CPU110は、血圧算出部として働いて、第1圧力センサ30からのセンシングカフ21の圧力Psを表すデータと、第2圧力センサ31からの押圧カフ23の圧力Pcを表すデータとに基づいて、血圧値を算出し、表示器50およびメモリ51を制御する。具体的な血圧測定の仕方については後述する。
【0066】
図2は、血圧計1を構成するカフ20(センシングカフ21と押圧カフ23を含む)が被測定部位90に装着された状態の断面を、エア配管系37,38とともに示している。図2によって分かるように、カフ20は、概ね、最外周に位置する帯状の外布29と、この外布29の被測定部位90に対向する側(内周側)の面29iに沿って設けられた既述の押圧カフ23と、この押圧カフ23の被測定部位90に対向する側(内周側)の面23iに沿って設けられた背板22と、この背板22の被測定部位90に対向する側(内周側)の面22iに沿って設けられた既述のセンシングカフ21とを備えている。
【0067】
ここで、図2には、理解の容易のために、カフ20の「長手方向Y」、「幅方向X」、「厚さ方向Z」を示すXYZ直交座標系を併せて表している。カフ20について、「長手方向Y」は、外布29が帯状に延在する方向を意味し、装着状態では被測定部位90を取り巻く周方向に相当する。また、「幅方向X」は、外布29に沿った面内で長手方向Yに対して垂直な方向を意味し、装着状態では被測定部位90を動脈91が通る方向に相当する。「上流側」、「下流側」とは、動脈91を流れる血流に関してそれぞれ上流側、下流側を意味する。また、「厚さ方向Z」は、長手方向Yと幅方向Xとの両方(つまり、外布29)に対して垂直な方向であり、装着状態では被測定部位90の外周面90aに対して垂直な方向に相当する。このXYZ直交座標系は、後述の図9(A)、図10(A)、図10(B)、図10(C)、および図12(A)にも表されている。
【0068】
図9(A)は、カフ20を展開した状態で、カフ20の平面レイアウトを模式的に示している。この平面レイアウトに示すように、外布29は、この例では長手方向Y(図9(A)における横方向)に延在する帯状(この例では、丸角の長方形)の形状を有している。外布29は、湾曲または屈曲可能であるが、血圧測定時にセンシングカフ21と押圧カフ23が被測定部位90から遠ざかる向きに膨張するのを全体として規制するために、実質的に伸縮しないように構成されている。ここで、「布」とは、編まれたものに限られず、樹脂の一層または複数層からなっていてもよい。外布29の長手方向の寸法は、この例では被測定部位90としての上腕の周囲長よりも長く設定されている。
【0069】
押圧カフ23は、外布29に沿った面内で、丸角の長方形の形状を有している。押圧カフ23の平面寸法は、動脈91を押圧して一時的に止血するためにある程度の長さ、幅が要求される。この例(上腕用のカフの例)では、押圧カフ23の平面寸法は、例えば長手方向Yの寸法が24cm、幅方向Xの寸法(図2中にX23で表す)が13cmに設定されている。この例では、押圧カフ23は、厚さ方向Zに一対のシート(この例では、伸縮可能なポリウレタンシート)を対向させ、それらの一対のシートの周縁部を、第2エア配管38の端部近傍を挟んで互いに溶着することによって、袋状に構成されている。
【0070】
背板22は、この例では厚さ1mm程度の板状の樹脂(この例では、ポリプロピレン)からなっている。背板22の形状、平面寸法は、この例では、それぞれ次に述べるセンシングカフ21の形状、平面寸法と略同じに設定されている。この背板22は、押圧カフ23とセンシングカフ21との間に介挿されていることから、押圧カフ23の圧力Pcをセンシングカフ21へ確実に伝えることができる。したがって、センシングカフ21は、押圧カフ23の圧力Pcによって、センシングカフ21が収容している空気(圧力伝達用の流体)を介して被測定部位90の動脈91を確実に圧迫することができる。これとともに、背板22は、押圧カフ23とセンシングカフ21との間で圧力の変動成分が伝わるのを遮断する。したがって、例えばセンシングカフ21の圧力Psに含まれた変動成分(例えば、動脈91からの圧脈波による)が押圧カフ23の圧力Pcにノイズとして混入するのを抑制できる。逆に、押圧カフ23の圧力Pcに含まれた変動成分がセンシングカフ21の圧力Psにノイズとして混入するのを抑制できる。
【0071】
センシングカフ21は、図9(A)に示すように、外布29(および押圧カフ23)に沿った面内で、この例では丸角の長方形の形状を有している。この例では、センシングカフ21は、厚さ方向Zに一対のシート(この例では、伸縮可能なポリウレタンシート)を対向させ、それらの一対のシートの周縁部を、第1エア配管37の端部近傍を挟んで互いに溶着することによって、袋状に構成されている。ここで、センシングカフ21の幅方向Xの寸法は、押圧カフ23の圧力Pcが収縮期血圧値SYSになったときに動脈91が圧閉される圧閉距離Dp(一般的なカフ20′について図17(A)中に示す)よりも短いのが望ましい。図9(A)の例(上腕用のカフの例)では、センシングカフ21の平面寸法は、例えば長手方向Yの寸法が7cm、幅方向Xの寸法(図2中にX21で表す)が4cmに設定されている。この構造により、センシングカフ21によって取得される圧脈波(の振幅)として、押圧カフ23の圧力Pcが十分にかかっている箇所の動脈91の容積変化のみが反映されることになる。したがって、血圧の測定精度が良くなる。
【0072】
なお、原理的には、センシングカフ21の平面寸法が動脈91の直径以上であれば、血圧測定が可能になる。ただし、カフ20を被測定部位90に装着する際に位置ずれが発生することを考慮すると、センシングカフ21の平面寸法は、例えば1cm×1cm以上に設定される。
【0073】
図2中に示すように、被測定部位90の動脈91が通る方向に沿った幅方向Xに関して、センシングカフ21が占める範囲X21は、押圧カフ23の幅方向寸法X23のうち動脈91の上流側から予め定められた1/3の範囲Xbを除いた残りの2/3の範囲Xa内にある。仮に、押圧カフ23の幅方向Xに関して、センシングカフ21が占める範囲X21が、動脈91の上流側から押圧カフ23の幅方向寸法X23のうち1/3の範囲Xb内にあるものとする。すると、例えば減圧過程で押圧カフ23の圧力Pcが収縮期血圧値SYSよりも高い圧力区間内にあって動脈91の血流は停止されている場合であっても、動脈91の上流側から押圧カフ23の直下へ向かう脈波が、第1圧力センサ30が検出するセンシングカフ21の圧力Psにノイズとして混入する可能性がある。そこで、この例では、押圧カフ23の幅方向Xに関して、センシングカフ21が占める範囲X21は、押圧カフ23の幅方向寸法のうち動脈91の上流側から1/3の範囲Xbを除いた残りの2/3の範囲Xa内に設定されている。したがって、例えば減圧過程で押圧カフ23の圧力Pcが収縮期血圧SYSよりも高い圧力区間内にあって動脈91の血流は停止されている場合に、動脈91の上流側から押圧カフ23の直下へ向かう脈波が、第1圧力センサ30が検出するセンシングカフ21の圧力Psにノイズとして混入するのを抑制できる。
【0074】
図2および図9(A)の例では、なるべく測定の邪魔にならないように、第1エア配管37、第2エア配管38は、それぞれセンシングカフ21、押圧カフ23の下流側に相当する辺から、カフ20の幅方向Xに沿って外部へ引き出されている。
【0075】
なお、図10(C)に示すように、外布29と、伸縮自在な内布28とを対向させて袋状に構成し、その袋内に、押圧カフ23と、背板22と、センシングカフ21とを一体に収容してもよい。外布29の周縁部と内布28の周縁部(つまり、カフ20の周縁部)20eは、上述の第1エア配管37、第2エア配管38を挟んで、縫製または溶着により互いに取り付けるものとする。これにより、カフ20を一体に取り扱うことができ、また、上記袋内に収容されたセンシングカフ21等を保護することができる。
【0076】
(血圧測定方法)
図3は、血圧計1による血圧測定の概略的な動作フローを示している。この動作フローは、減圧過程で血圧算出を行うフローになっている。
【0077】
カフ20が被測定部位(この例では、上腕)90に装着された装着状態(図2参照)で、ユーザ(被験者)が本体10に設けられた測定スイッチ52Aをオンして測定開始を指示すると、図3のステップS1に示すように、CPU110は、圧力センサを初期化する。具体的には、CPU110は、処理用メモリ領域を初期化するとともに、ポンプ32を停止し、排出弁33を開いた状態で、第1圧力センサ30および第2圧力センサ31の0mmHg調整(大気圧を0mmHgに設定する。)を行う。
【0078】
なお、この例では、血圧計1の製造段階で、センシングカフ21(および第1エア配管37)に、圧力伝達用の流体としての空気が予め定められた量だけ封入されているものとする。したがって、例えば、血圧測定の都度、センシングカフ21に空気を封入するための手間を、省略することができる。ここで、「予め定められた量」とは、例えば、センシングカフ21をなす袋が押圧カフ23の圧力Pcによって厚さ方向Zに潰れて、上記袋をなすシートが密接してしまうような事態を、避けられる程度の量を指す。そのような事態を避けることにより、センシングカフ21は、押圧カフ23の圧力Pcによって上記圧力伝達用の流体としての空気を介して被測定部位90の動脈91を確実に圧迫する一方、動脈91から圧脈波を確実に受けることができる。
【0079】
次に、図3のステップS2で、CPU110は、弁駆動回路330を介して排出弁33を閉じる。続いて、ステップS3で、CPU110は圧力制御部として働いて、ポンプ駆動回路320を介してポンプ32を駆動して、カフ20(正確には、押圧カフ23)の加圧を開始する(加圧過程)。CPU110は、ポンプ32から第2エア配管38を通して押圧カフ23に空気を供給しながら、第2圧力センサ31の出力に基づいて、加圧速度を略一定(例えば、20mmHg/sec~40mmHg/secの範囲内)に制御する。これにより、図5(A)中の加圧期間tPに示すように、押圧カフ23の圧力Pcが略直線的に上昇する。押圧カフ23によって背板22を介してセンシングカフ21が被測定部位90へ向かって押圧されることから、センシングカフ21の圧力Psも、押圧カフ23の圧力Pcに伴って上昇する。
【0080】
次に、図3のステップS4で、CPU110は、押圧カフ23の圧力Pcが予め定められた圧力(所定圧)(図5(A)中にPuで示す)に達したか否かを判断する。ここで、所定圧Puは、被験者の想定される収縮期血圧SYSよりも十分に高く設定されているものとする。この例では、所定圧Puは150mmHgに設定されている。押圧カフ23の圧力Pcが所定圧Puに達していなければ(図3のステップS4でNO)、CPU110は、ステップS3に戻って、加圧を継続する。押圧カフ23の圧力Pcが所定圧Puに達したら(図3のステップS4でYES)、ステップS5で、CPU110は、ポンプ32を停止する。
【0081】
次に、図3のステップS6で、CPU110は圧力制御部として働いて、弁駆動回路330を介して排出弁33を徐々に開く。これにより、CPU110は、第2圧力センサ31の出力に基づいて、図5(A)中の減圧期間tDに示すように、押圧カフ23の圧力Pcを一定速度(この例では、5mmHg/sec)で徐々に減圧していく(減圧過程)。この減圧過程で、図3のステップS7に示すように、CPU110は血圧算出部として働いて、この時点で取得されている第1圧力センサ30からのセンシングカフ21の圧力Psを表すデータと、第2圧力センサ31からの押圧カフ23の圧力Pcを表すデータとに基づいて、血圧値(収縮期血圧値SYSと拡張期血圧値DIA)の算出を試みる。すなわち、CPU110は、減圧過程でのセンシングカフ21の圧力Psを表すデータから押圧カフ23の圧力Pcを表すデータの直流成分(生データからローパスフィルタを介して抽出され得る)を、それらのデータの発生時を互いに対応付けた上で減算して、図5(B)および図6中に示すように、圧脈波PWが拍毎に示す立ち上がり開始点PWaの圧力とピーク点PWpの圧力とを求める。そして、CPU110は、図5(B)および図6中に示すように、この減圧過程で、拍毎のピーク点PWpの圧力がゼロレベルから正の値を示し始めた第1時点t1の押圧カフ23の圧力Pcを収縮期血圧値SYSとして求めるとともに、拍毎の立ち上がり開始点PWaの圧力がゼロレベルから正の値を示し始めた第2時点t2の押圧カフ23の圧力Pcを拡張期血圧値DIAとして求める(なお、図6は、図5(B)のうち第2時点t2に相当する部分の近傍、言い換えれば横軸のカフ圧Pcが拡張期血圧値DIAに相当する部分の近傍を拡大して示している。)。なお、血圧算出の原理、および、より具体的な血圧算出の仕方については、後に詳述する。
【0082】
この時点で、データ不足のために未だ血圧値を算出できない場合は(図3のステップS8でNO)、ステップS6~S8の処理を繰り返す。
【0083】
このようにして血圧値の算出ができたら(ステップS8でYES)、ステップS9で、CPU110は、弁駆動回路330を介して排出弁33を開いて、押圧カフ23内の空気を急速排気する制御を行う。さらに、ステップS10で、CPU110は、血圧値の測定結果を表示器50に表示し、また、血圧値の測定結果をメモリ51に保存する制御を行う。
【0084】
(血圧算出の原理)
血圧計1による血圧算出の仕方は、原理的には次のように説明される。例えば、図7は、上記被験者の被測定部位90の収縮期血圧値SYSを120mmHg、拡張期血圧値DIAを60mmHgと仮定した場合に、上記減圧過程で血圧を算出する仕方を模式的に示している。図7において、左側の縦軸は、押圧カフ23の圧力Pcの直流成分(簡単のため、この直流成分を同じ符号を用いて「カフ圧Pc」と呼ぶ。)と、被測定部位90の動脈内外圧差Ptrとを表している。右側の縦軸は、動脈容積Vを表している。横軸は、カフ圧Pcを表している。この例では、上記圧力制御部による減圧の速度は一定(この例では、5mmHg/秒)であるものとする。したがって、横軸は時間tにも対応している。
【0085】
ここで、動脈内外圧差Ptrは、被測定部位90の動脈の内圧(これを「Pa」と表す。)とカフ圧Pcとの差分として定義される。つまり、Ptr=Pa-Pcである。ここで、一般的に、動脈内外圧差Ptrと動脈(血管)の容積(これを「動脈容積V」と表す。)との間には、図8中に曲線C0で例示するような対応関係(これを「管法則」と呼ぶ。)があることが知られている。動脈内外圧差Ptrが正で大きくなるに伴って、動脈容積Vは単調増加し、次第に飽和してゆく。同じ波高ΔPを示す脈波PW1,PW1′が動脈に加わる場合であっても、カフ圧Pcが異なるのに伴って動脈内外圧差Ptrが異なれば、発生する容積脈波VW1,VW1′は上記管法則(曲線C0)に応じて異なる。ここで、動脈内外圧差Ptr=0のとき、すなわち、動脈内圧Paとカフ圧Pcとが平衡したときの動脈容積をV0(これを「平衡レベル」と呼ぶ。)とする。
【0086】
図7に示す減圧過程において、カフ圧Pcが収縮期血圧値SYS(この例では、120mmHg)よりも高い圧力区間PcHでは、脈波(拍動)にかかわらず、常に動脈内外圧差Ptr<0になっている。これにより、動脈91を通る血流が完全に停止されている。このため、動脈容積Vは変化せず、平衡レベルV0から立ち上がることはない。
【0087】
上記圧力制御部による減圧が進んで、カフ圧Pcが収縮期血圧値SYS(この例では、120mmHg)と拡張期血圧値DIA(この例では、60mmHg)との間の圧力区間PcMに入ったものとする。カフ圧Pcが収縮期血圧値SYSを下回った点(これを「血流再開点As」と呼ぶ。)から血流が上流側から下流側へ流れ出す。この圧力区間PcMでは、1拍の周期Tのうち動脈の内圧Paがカフ圧Pcを超える期間(1拍の周期Tのうち部分的な期間)には、動脈内外圧差Ptr>0となる。図7中に、この正になった動脈内外圧差Ptrが破線で表されている。動脈内外圧差Ptr>0になると、上記管法則(図8中の曲線C0)に応じて、図7中に実線で示すように、容積脈波VWがピークを示して現れる。この容積脈波VWは、センシングカフ21の圧力Psの変動成分(図5(B)および図6中に示す圧脈波PW)として検出される。1拍の周期Tのうち残りの期間では、動脈内外圧差Ptr≦0となる。したがって、容積脈波VWには平坦な部分VW0(平衡レベルV0を示す部分)が含まれる。これに応じて、図6中に示すように、センシングカフ21が検出する圧脈波PWの圧力にも平坦な部分PW0が含まれる。
【0088】
ここで、図7中に示す、容積脈波VWの上側ピーク(ピーク点)VWpをつないだ曲線C1は、収縮期血圧値SYS(=120mmHg)からカフ圧Pcを差し引いた圧力量(SYS-Pc)と、上記管法則(図8中の曲線C0)に応じた動脈容積Vとの関係を表している。つまり、この圧力区間PcM(および次に述べる圧力区間PcL)では、カフ圧Pcが低下するにつれて、容積脈波VWの上側ピークVWpは、拍毎に曲線C1に沿って上昇してゆく。これに応じて、図5(B)および図6中に示す圧脈波PWの圧力が示す上側ピーク(ピーク点)PWpも、拍毎に第1曲線C1′(図7中の曲線C1に対応する)に沿って上昇してゆく(原理上は、単調増加し、次第に飽和してゆく。)。ここで、第1曲線C1′は、ピーク点PWpをつないだ曲線(またはそれを近似した曲線)として定められる。
【0089】
上の説明から分かるように、上記減圧過程で、図5(B)中に示す、圧脈波PWの拍毎のピーク点PWpの圧力がゼロレベルから正の値を示し始めた第1時点(すなわち、第1曲線C1′がゼロレベルから正の値に遷移した時点)t1は、血流が再開した時点、すなわち、カフ圧Pcが収縮期血圧値SYSを下回った点(図7中の血流再開点As)に相当する。したがって、第1時点t1のカフ圧Pcは、原理的に収縮期血圧値SYSに相当する。
【0090】
図7において、上記圧力制御部による減圧がさらに進んで、カフ圧Pcが拡張期血圧値DIA(この例では、60mmHg)よりも低い圧力区間PcLに入ったものとする。カフ圧Pcが拡張期血圧値DIAを下回った点(これを「DIA再開点Ad」と呼ぶ。)から動脈は完全に開放される。この範囲PcLでは、それまでの範囲PcMで容積脈波VWに含まれていた平坦な部分VW0が消滅して、容積脈波VWの波形は先鋭化した完全な波形となる。ここで、図7中に示す、容積脈波VWの下側ピーク(立ち上がり開始点)VWaをつないだ曲線C2は、拡張期血圧値DIA(=60mmHg)からカフ圧Pcを差し引いた圧力量(DIA-Pc)と、上記管法則(図8中の曲線C0)に応じた動脈容積Vとの関係を表している。つまり、この範囲PcLでは、カフ圧Pcが低下するにつれて、容積脈波VWの下側ピーク(立ち上がり開始点)VWaは、拍毎に曲線C2に沿って上昇してゆく。これに応じて、図5(B)および図6中に示す圧脈波PWの圧力が示す下側ピーク(立ち上がり開始点)PWaも、拍毎に第2曲線C2′(図7中の曲線C2に対応する)に沿って上昇してゆく(原理上は、単調増加し、次第に飽和してゆく。)。ここで、第2曲線C2′は、立ち上がり開始点PWaをつないだ曲線(またはそれを近似した曲線)として定められる。
【0091】
上の説明から分かるように、また、図5(B)および図6中に示す、圧脈波PWの拍毎の立ち上がり開始点PWaの圧力がゼロレベルから正の値を示し始めた第2時点(すなわち、第2曲線C2′がゼロレベルから正の値に遷移した時点)t2は、カフ圧Pcが拡張期血圧値DIAを下回った点(図7中のDIA再開点Ad)に相当する。したがって、第2時点t2のカフ圧Pcは、原理的に拡張期血圧値DIAに相当する。
【0092】
ここで、図7において、曲線C2は、曲線C1を、収縮期血圧値SYSと拡張期血圧値DIAとの差分(SYS-DIA)だけ右側へシフトしたものに相当する。図8に示す管法則に従って、曲線C1,C2は、それぞれ血流再開点As、DIA再開点Adから立ち上がって、いずれも単調増加し、次第に飽和してゆく。したがって、DIA再開点Adでは、容積脈波VWの振幅が最大値VWmaxを示す。これに応じて、図5(B)および図6中に示す圧脈波PWの振幅(これを「脈波振幅AM」と呼ぶ。)も、最大値AMmaxを示す。したがって、脈波振幅AMが最大値AMmaxを示した時点(第2時点t2)のカフ圧Pcを、拡張期血圧値DIAとして原理的に正しく求めることができる。なお、図6中に示すように、脈波振幅AMは、圧脈波PWのピーク点PWpの圧力と立ち上がり開始点PWaの圧力との差分として定義される。
【0093】
なお、図17(A)に示すように、一般的なカフ20′は、本実施形態におけるセンシングカフ21を備えず、押圧カフ23に相当する単一の流体袋を備えている。一般的なオシロメトリック法では、カフ20′の圧力Pc′から、ハイパスフィルタを通して、図17(B)に示すように、圧脈波PW′の変動成分(脈波振幅AM′)を求める。この脈波振幅AM′の列に対して包絡線を設定するとともに、上記包絡線の最大値(AMmax′に相当)に対して予め定められた割合(比率)のスレッシュレベル(収縮期用のスレッシュレベルと拡張期用のスレッシュレベルを含む。)を設定し、上記包絡線がそれらのスレッシュレベルを横切った時点のカフ圧を、それぞれ収縮期血圧値SYS、拡張期血圧値DIAとして算出している。この一般的なカフ20′を用いる方式では、図5(B)および図6中に示す第2時点t2(すなわち、図5(B)および図6中に示す第2曲線C2′がゼロレベルから正の値に遷移する時点)が現れない。したがって、一般的なカフ20′を用いる方式では、上に説明した原理によって拡張期血圧値DIAを求めることはできない。
【0094】
(血圧算出の具体的な仕方)
図4は、上述の本発明の血圧算出の原理に従った、図3のステップS7における血圧算出の仕方の詳細なフローを示している。
【0095】
図4のステップS11で、CPU110は、第1圧力センサ30からのセンシングカフ21の圧力Psを表すデータから、第2圧力センサ31からの押圧カフ23の圧力Pcの直流成分(カフ圧Pc)を、それらのデータの発生時を互いに対応付けた上で減算して、図5(B)および図6中に示すように、圧脈波PWが拍毎に示す立ち上がり開始点PWaの圧力とピーク点PWpの圧力とを求める。
【0096】
次に、図4のステップS12で、CPU110は、拍毎にピーク点PWpの圧力から立ち上がり開始点PWaの圧力を差し引いた差分を、図5(B)および図6中に示す脈波振幅AMとして算出する。
【0097】
次に、図4のステップS13で、CPU110は、収縮期血圧値SYS、拡張期血圧値DIAを精度良く求めるために、予め定められた複数拍(この例では、5拍)にわたる移動平均をとって拍毎に脈波振幅AMを平滑化する。そして、ステップS14で、CPU110は、平滑化された各脈波振幅AMのデータを、その脈波振幅AMを示した時点のカフ圧Pcを表すデータと対応付けて時系列でメモリ51に記憶させる。この例では、カフ圧Pcは、押圧カフ23の圧力Pcを表す生データから、ローパスフィルタを介して直流成分として抽出したものとする。
【0098】
次に、図4のステップS15で、CPU110は、メモリ51の記憶内容を参照して、脈波振幅AMが、図5(B)および図6中に示す最大値AMmaxを示したか否かを判断する。この時点で、脈波振幅AMが最大値AMmaxを示していなければ(図4のステップS15でNO)、ステップS11~S15の処理を繰り返す。一方、脈波振幅AMが最大値AMmaxを示したら(図4のステップS15でYES)、ステップS16に進んで、CPU110は、脈波振幅AMが最大値AMmaxを示した時点を、第2時点t2(すなわち、図5(B)および図6中に示す第2曲線C2′がゼロレベルから正の値に遷移した時点)として決定し、この決定された第2時点t2に対応するカフ圧Pcを、拡張期血圧値DIAとして求める。ここで、脈波振幅AMが最大値AMmaxを示したか否かは、脈波振幅AM同士の比較によって判定されるので、ゼロレベル(ノイズに埋もれている)との比較による場合に比して、精度良く判定され得る。したがって、この血圧計1では、第2時点t2を精度良く決定でき、これにより、拡張期血圧値DIAを精度良く求めることができる。
【0099】
次に、図4のステップS17で、CPU110は、脈波振幅AMの最大値AMmaxに対して予め定められた比率を乗算して、図5(B)中に示すように、第1時点t1(すなわち、図5(B)中に示す第1曲線C1′がゼロレベルから正の値に遷移した時点)を決定するための閾値レベルAMthを設定する。ここで、「予め定められた比率」は、実際のノイズレベルを超える一方、第1時点t1を精度良く決定するためになるべく少なく設定される。脈波振幅AMの最大値AMmaxに対して、「予め定められた比率」は、例えば0.1程度に設定される。
【0100】
続いて、図4のステップS18で、CPU110は、メモリ51の記憶内容を参照して、この減圧過程で、脈波振幅AMが閾値レベルAMthを横切った時点(血流再開点を示す)を、第1時点t1として決定する。より詳しくは、第2時点t2よりも前で、脈波振幅AMが閾値レベルAMthを超えているデータのうち、対応するカフ圧Pcが最大であるデータを探索し、そのデータが示す時点を、第1時点t1として決定する。そして、図4のステップS19で、CPU110は、この決定された第1時点t1に対応するカフ圧Pcを、収縮期血圧値SYSとして求める。ここで、脈波振幅AMが閾値レベルAMthを超えているか否かは、脈波振幅AMと設定された閾値レベルAMthとの比較によって判定されるので、ゼロレベル(ノイズに埋もれている)との比較による場合に比して、精度良く判定され得る。したがって、この血圧計1では、第1時点t1を精度良く決定でき、これにより、収縮期血圧値SYSを精度良く求めることができる。
【0101】
このようにして、この血圧計1によれば、被測定部位90の血圧を非侵襲で原理的に正しく測定できる。
【0102】
(変形例1)
図9(A)の例では、第1エア配管37は、センシングカフ21の下流側(+X側)の辺21aの略中央から、カフ20の幅方向Xに沿って外部へ引き出されている。しかしながら、これに限られるものではない。第1エア配管37の配置としては、図9(B)~図9(E)に示すように、被測定部位90(の外周面90a)に対して垂直な厚さ方向Zから見た平面視で動脈91から外れた態様の、様々なバリエーションが考えられる(簡単のため、図9(B)~図9(E)では、外布29、背板22の図示が省略されている。)。
【0103】
具体的には、図9(B)の例では、センシングカフ21の下流側の辺21aの端部から、動脈91とは離間して平行に引き出されている。図9(C)、図9(D)の例では、それぞれセンシングカフ21の-Y側の辺の略中央、端部から、カフ20の長手方向Yに沿って外部へ引き出されている。図9(E)の例では、センシングカフ21の-Y側の辺の略中央から、長手方向Yに少し延び、幅方向Xに屈曲して、動脈91とは離間して平行に引き出されている。これらの例では、第1エア配管37は、動脈91から外れた態様で、カフ20(言い換えれば、押圧カフ23が被測定部位90を取り巻く領域)の外部へ引き出されている。したがって、押圧カフ23の圧力によってセンシングカフ21を介して被測定部位90の動脈91を圧迫するのを、第1エア配管37が妨げることがない。また、センシングカフ21が動脈91から圧脈波PWを受けるのを、第1エア配管37が妨げることがない。
【0104】
(変形例2)
図9(A)~図9(E)の例では、第1エア配管37は、外布29(および押圧カフ23)に沿った面(XY面)内で、カフ20の外部へ引き出されているが、これに限られるものではない。図10(A)の断面図、図10(B)の平面図に示すように、第1エア配管37は、押圧カフ23を貫通して厚さ方向Zに、カフ20の外部へ引き出されてもよい(簡単のため、図10(A)、図10(B)では、外布29の図示が省略されている。)。
【0105】
詳しくは、この変形例2では、図10(A)に示すように、押圧カフ23に、厚さ方向Zに貫通する貫通孔23hが設けられている。図10(B)に示すように、この貫通孔23hは、押圧カフ23のXY面内の中央部(センシングカフ21に対向する領域の一部に相当する)に設けられている。それに応じて、図10(A)に示すように、背板22のXY面内の中央部にも、厚さ方向Zに貫通する円筒状の貫通孔22hが設けられている。貫通孔22h,23hの内径は、第1エア配管37を通せるように、第1エア配管37の外径よりも若干大きく設定されている。第1エア配管37は、図10(A)においてセンシングカフ21の上面から上方(+Z方向)へ延び、貫通孔22h,23hを通してカフ20の外部へ引き出されている。この変形例2でも、変形例1におけるのと同様に、押圧カフ23の圧力によってセンシングカフ21を介して被測定部位90の動脈91を圧迫するのを、第1エア配管37が妨げることがない。また、センシングカフ21が動脈91から圧脈波PWを受けるのを、第1エア配管37が妨げることがない。
【0106】
この変形例2では、押圧カフ23の貫通孔23hの内周面23hsは、蛇腹状に形成されている。したがって、押圧カフ23の厚さ方向Zの膨張、収縮を容易にすることができる。
【0107】
(変形例3)
上述の例では、血圧計1の製造段階で、センシングカフ21(および第1エア配管37)に、圧力伝達用の流体としての空気が予め定められた量だけ封入されているものとした。しかしながら、これに限られるものではない。血圧測定の都度、センシングカフ21に圧力伝達用の流体としての空気を封入し、血圧値の算出完了後にセンシングカフ21から上記空気を排出してもよい。
【0108】
図11は、血圧計1をそのように変形した変形例(これを「血圧計1A」と呼ぶ。)のブロック構成を示している。この血圧計1Aは、本体10に、血圧計1の構成要素に加えて、3ポート2位置電磁弁である切換弁34と、切換弁34を駆動する弁駆動回路340とを搭載している。図11において、図1中の構成要素と同じ構成要素には、同じ符号を付して重複する説明を省略する。特に、カフ20は、図1中に示したカフ20と同じ物である。
【0109】
切換弁34の1つのポート34aには、ポンプ32につながるエア配管38bと、排出弁33につながるエア配管38cとが、1本に合流してエア配管38dとして、流体流通可能に接続されている。切換弁34の残りのポート34b,34cには、それぞれエア配管37e,38fが流体流通可能に接続されている。これらのエア配管37e,38fは、それぞれ第1エア配管37、第2エア配管38に、流体流通可能に接続されている。弁駆動回路340は、CPU110から与えられる制御信号に基づいて、切換弁34を、この例では、図12(A)に示す第1位置としての休止位置(非通電時)と、図12(B)に示す第2位置としての作動位置(通電時)との間で切り換えるようになっている。ここで、図12(A)は、図2に対応して、血圧計1Aを構成するカフ20が被測定部位90に装着された状態の断面を、エア配管系37,38とともに示している。
【0110】
切換弁34は、図12(A)に示す休止位置では、エア配管38dと、エア配管38fとを、流体流通可能に接続する。これにより、ポンプ32および排出弁33と、押圧カフ23および第2圧力センサ31とが、エア配管38b,38c,38d,38f,38を介して、流体流通可能に接続される。このとき、センシングカフ21は、第1圧力センサ30とともに、ポンプ32および排出弁33から切り離されて封じられる。一方、切換弁34は、図12(B)に示す作動位置では、エア配管38dとエア配管37eとを、流体流通可能に接続する。これにより、ポンプ32および排出弁33と、センシングカフ21および第1圧力センサ30とが、エア配管38b,38c,38d,37e,37を介して、流体流通可能に接続される。このとき、押圧カフ23は、第2圧力センサ31とともに、ポンプ32および排出弁33から切り離されて封じられる。
【0111】
図13は、血圧計1Aによる血圧測定の概略的なフローを示している。
【0112】
カフ20が被測定部位(この例では、上腕)90に装着された装着状態(図12(A)参照)で、ユーザ(被験者)が本体10に設けられた測定スイッチ52Aをオンして測定開始を指示すると、図13のステップS101に示すように、CPU110は、圧力センサを初期化する。この初期化の処理は、図3のステップS1におけるのと同様である。
【0113】
次に、図13のステップS102で、CPU110は、排出弁33を閉じる。続いて、ステップS103で、CPU110は、切換弁34を、図12(B)に示す作動位置に切り換える。これにより、ポンプ32および排出弁33と、センシングカフ21および第1圧力センサ30とを、エア配管38b,38c,38d,37e,37を介して、流体流通可能に接続する。
【0114】
次に、図13のステップS104で、CPU110は流体収容制御部として働いて、ポンプ32を駆動して、エア配管38b,38d,37e,37をこの順に通して、センシングカフ21に圧力伝達用の流体として空気を供給する。次に、ステップS105で、CPU110は、予め定められた時間(所定時間。例えば、3秒間~10秒間の範囲内とする。)が経過したか否かを判断する。ここで、所定時間が経過していなければ(ステップS105でNO)、ステップS104に戻って、所定時間が経過するまで、空気の供給を継続する。そして、所定時間が経過したら(ステップS105でYES)、ステップS106に進んで、ポンプ32を停止する。このようにして、押圧カフ23の加圧開始に先立って、センシングカフ21に圧力伝達用の流体としての空気を予め定められた量だけ自動的に封入することができる。ここで、「予め定められた量」とは、先の例と同様に、センシングカフ21をなす袋が押圧カフ23の圧力Pcによって厚さ方向Zに潰れて、上記袋をなすシートが密接してしまうような事態を、避けられる程度の量を指す。そのような事態を避けることにより、センシングカフ21は、押圧カフ23の圧力Pcによって上記圧力伝達用の流体としての空気を介して被測定部位90の動脈91を確実に圧迫する一方、動脈91から圧脈波を確実に受けることができる。
【0115】
次に、図13のステップS107で、CPU110は流体収容制御部として働いて、切換弁34を、図12(A)に示す休止位置に切り換える。これにより、ポンプ32および排出弁33と、押圧カフ23および第2圧力センサ31とを、エア配管38b,38c,38d,38f,38を介して、流体流通可能に接続する。このとき、センシングカフ21は、第1圧力センサ30とともに、ポンプ32および排出弁33から切り離されて封じられる。したがって、エア配管系37,38が作る流路は、実質的には、図1中に示した流路と同じ状態になる。この状態は、次に述べる図13のステップS108~ステップS114まで維持される。
【0116】
次に、図13のステップS108~ステップS114まで、CPU110は圧力制御部および血圧算出部として働いて、図3のステップS3~ステップS9におけるのと同様に処理を進める。これにより、被測定部位90の血圧値(収縮期血圧値SYSと拡張期血圧値DIA)を原理的に正しく算出する。
【0117】
次に、図13のステップS115で、CPU110は流体収容制御部として働いて、切換弁34を、図12(B)に示す作動位置に切り換える。これにより、ポンプ32および排出弁33と、センシングカフ21および第1圧力センサ30とを、エア配管38b,38c,38d,37e,37を介して、流体流通可能に接続する。
【0118】
次に、図13のステップS116で、CPU110は流体収容制御部として働いて、排出弁33を開く。これにより、センシングカフ21から、エア配管37,37e,38d,38c、排出弁33をこの順に通して、圧力伝達用の流体としての空気を排出する。この後、ステップS117で、CPU110は、血圧値の測定結果を表示器50に表示し、また、血圧値の測定結果をメモリ51に保存する制御を行う。
【0119】
このようにして、この血圧計1Aによれば、比較的少ない部品で、血圧測定の都度、押圧カフ23の加圧開始に先立って、センシングカフ21に圧力伝達用の流体として空気を予め定められた量だけ自動的に封入できる。また、血圧値の算出完了後にセンシングカフ21から圧力伝達用の流体としての空気を自動的に排出できる。
【0120】
また、この血圧計1Aでは、ポンプ32および排出弁33と、センシングカフ21および第1圧力センサ30とが、流体流通可能に接続される(切換弁34が図12(B)に示す作動位置をとる)のは、ステップS103~S106と、ステップS115~S116との一時的な期間に限られている。したがって、切換弁34に関する消費電力を節約することができる。
【0121】
(変形例4)
上述の例では、血圧算出の基準となる押圧カフ23の圧力Pcの直流成分(カフ圧Pc)は、生データからローパスフィルタを介して抽出されるものとしたが、これに限られるものではない。例えば、上記一定速度(上の例では、5mmHg/sec)による減圧過程で、押圧カフ23の圧力Pcの1点のデータと、減圧速度とによって定まる直線で近似した値を、カフ圧Pcとして用いてもよい。または、上記減圧過程で、押圧カフ23の圧力Pcの2点以上のデータ(すなわち、異なる時刻での圧力Pcのデータ)によって定まる直線で近似した値を、カフ圧Pcとして用いてもよい。それに代えて、一般的なオシロメトリック法によって、仮の収縮期血圧値SYSと仮の拡張期血圧値DIAとを一旦求め、それらによって定まる直線で近似した値を、カフ圧Pcとして用いてもよい。
【0122】
(変形例5)
上述の例では、減圧過程で血圧算出を行ったが、これに限られるものではなく、加圧過程で血圧算出を行ってもよい。
【0123】
例えば図14は、図1の血圧計1による血圧測定の概略的な動作フローであって、加圧過程で血圧算出を行うものを示している。
【0124】
カフ20が被測定部位(この例では、上腕)90に装着された装着状態(図2参照)で、ユーザ(被験者)が本体10に設けられた測定スイッチ52Aをオンして測定開始を指示すると、図14のステップS201に示すように、CPU110は、圧力センサを初期化する。この初期化の具体的な処理は、図3のステップS1に関して述べたのと同様である。
【0125】
なお、この例では、図3の動作フローに関して述べたのと同様に、血圧計1の製造段階で、センシングカフ21(および第1エア配管37)に、圧力伝達用の流体としての空気が予め定められた量だけ封入されているものとする。
【0126】
次に、図14のステップS202で、CPU110は、弁駆動回路330を介して排出弁33を閉じる。続いて、ステップS203で、CPU110は圧力制御部として働いて、ポンプ駆動回路320を介してポンプ32を駆動して、カフ20(正確には、押圧カフ23)の加圧を開始する(加圧過程)。CPU110は、ポンプ32から第2エア配管38を通して押圧カフ23に空気を供給しながら、第2圧力センサ31の出力に基づいて、被験者の想定される拡張期血圧値DIAよりも十分に低い値(この例では、10mmHg程度)から、加圧速度を略一定(この例では、3mmHg/sec)に制御する。これにより、図16(A)中の加圧期間tP′に示すように、押圧カフ23の圧力Pcが略直線的に上昇する。押圧カフ23によって背板22を介してセンシングカフ21が被測定部位90へ向かって押圧されることから、センシングカフ21の圧力Psも、押圧カフ23の圧力Pcに伴って上昇する。
【0127】
この加圧過程で、図14のステップS204に示すように、CPU110は血圧算出部として働いて、この時点で取得されている第1圧力センサ30からのセンシングカフ21の圧力Psを表すデータと、第2圧力センサ31からの押圧カフ23の圧力Pcを表すデータとに基づいて、血圧値(収縮期血圧値SYSと拡張期血圧値DIA)の算出を試みる。すなわち、CPU110は、加圧過程でのセンシングカフ21の圧力Psを表すデータから押圧カフ23の圧力Pcを表すデータの直流成分(生データからローパスフィルタを介して抽出され得る)を、それらのデータの発生時を互いに対応付けた上で減算して、図16(B)中に示すように、圧脈波PWが拍毎に示す立ち上がり開始点PWaの圧力とピーク点PWpの圧力とを求める。そして、CPU110は、図16(B)中に示すように、この加圧過程で、拍毎の立ち上がり開始点PWaの圧力が正の値からゼロレベルに落ちた第2時点t2′の押圧カフ23の圧力Pcを拡張期血圧値DIAとして求めるとともに、拍毎のピーク点PWpの圧力が正の値からゼロレベルに落ちた第1時点t1′の押圧カフ23の圧力Pcを収縮期血圧値SYSとして求める。この加圧過程での血圧算出の原理は、時間経過に伴う押圧カフ23の圧力Pcの変化が減圧過程に対して逆向きであることを除いて、既述の減圧過程におけるのと同様である。より具体的な血圧算出の仕方については、後に詳述する。
【0128】
この時点で、データ不足のために未だ血圧値を算出できない場合は(図14のステップS205でNO)、ステップS203~S205の処理を繰り返す。
【0129】
このようにして血圧値の算出ができたら(ステップS205でYES)、CPU110は圧力制御部として働いて、ステップS206で、ポンプ駆動回路320を介してポンプ32を停止し、また、ステップS207で、弁駆動回路330を介して排出弁33を開いて、押圧カフ23内の空気を急速排気する制御を行う。なお、図16(A)中には、ポンプ32が停止された時点t5と、それに続く急速排気期間tD′とが示されている。さらに、ステップS208で、CPU110は、血圧値の測定結果を表示器50に表示し、また、血圧値の測定結果をメモリ51に保存する制御を行う。
【0130】
図15は、図14のステップS204における血圧算出の仕方の詳細なフローを示している。
【0131】
図15のステップS211で、CPU110は、第1圧力センサ30からのセンシングカフ21の圧力Psを表すデータから、第2圧力センサ31からの押圧カフ23の圧力Pcの直流成分(カフ圧Pc)を、それらのデータの発生時を互いに対応付けた上で減算して、図16(B)中に示すように、圧脈波PWが拍毎に示す立ち上がり開始点PWaの圧力とピーク点PWpの圧力とを求める。この例では、図16(B)中には、ピーク点PWpをつないだ第1曲線C1″と、立ち上がり開始点PWaをつないだ第2曲線C2″とが表されている。
【0132】
次に、図15のステップS212で、CPU110は、拍毎にピーク点PWpの圧力から立ち上がり開始点PWaの圧力を差し引いた差分を、図16(B)中に示す脈波振幅AMとして算出する。
【0133】
次に、図15のステップS213で、CPU110は、収縮期血圧値SYS、拡張期血圧値DIAを精度良く求めるために、予め定められた複数拍(この例では、5拍)にわたる移動平均をとって拍毎に脈波振幅AMを平滑化する。そして、ステップS214で、CPU110は、平滑化された各脈波振幅AMのデータを、その脈波振幅AMを示した時点のカフ圧Pcを表すデータと対応付けて時系列でメモリ51に記憶させる。この例では、カフ圧Pcは、押圧カフ23の圧力Pcを表す生データから、ローパスフィルタを介して直流成分として抽出したものとする。
【0134】
次に、図15のステップS215で、CPU110は、拡張期血圧値DIAを決定済みであるか否かを判断する。この処理の最初のターンでは、拡張期血圧値DIAをまだ決定していないものとする(図15のステップS215でNO)。この場合、ステップS216に進んで、CPU110は、メモリ51の記憶内容を参照して、脈波振幅AMが、図16(B)中に示す最大値AMmaxを示したか否かを判断する。この時点で、脈波振幅AMが最大値AMmaxを示していなければ(図15のステップS216でNO)、ステップS211~S216の処理を繰り返す。一方、脈波振幅AMが最大値AMmaxを示したら(図15のステップS216でYES)、ステップS217に進んで、CPU110は、脈波振幅AMが最大値AMmaxを示した時点を、第2時点t2′(すなわち、図16(B)中に示す第2曲線C2″が正の値からゼロレベルに落ちた時点)として決定し、この決定された第2時点t2′に対応するカフ圧Pcを、拡張期血圧値DIAとして求める。ここで、脈波振幅AMが最大値AMmaxを示したか否かは、脈波振幅AM同士の比較によって判定されるので、ゼロレベル(ノイズに埋もれている)との比較による場合に比して、精度良く判定され得る。したがって、この血圧計1では、第2時点t2′を精度良く決定でき、これにより、拡張期血圧値DIAを精度良く求めることができる。
【0135】
次に、図15のステップS218で、CPU110は、脈波振幅AMの最大値AMmaxに対して予め定められた比率を乗算して、図16(B)中に示すように、第1時点t1′(すなわち、図16(B)中に示す第1曲線C1″が正の値からゼロレベルに落ちた時点)を決定するための閾値レベルAMthを設定する。ここで、「予め定められた比率」は、実際のノイズレベルを超える一方、第1時点t1′を精度良く決定するためになるべく少なく設定される。脈波振幅AMの最大値AMmaxに対して、「予め定められた比率」は、例えば0.1程度に設定される。
【0136】
続いて、図15のステップS219で、CPU110は、メモリ51の記憶内容を参照して、この加圧過程で、脈波振幅AMが閾値レベルAMthを横切った時点(血流再開点を示す)を、第1時点t1′として決定する。より詳しくは、第2時点t2′よりも後で、脈波振幅AMが閾値レベルAMthを下回るデータのうち、対応するカフ圧Pcが最小であるデータを探索し、そのデータが示す時点を、第1時点t1′として決定する。そして、図15のステップS220で、CPU110は、この決定された第1時点t1′に対応するカフ圧Pcを、収縮期血圧値SYSとして求める。ここで、脈波振幅AMが閾値レベルAMthを超えているか否かは、脈波振幅AMと設定された閾値レベルAMthとの比較によって判定されるので、ゼロレベル(ノイズに埋もれている)との比較による場合に比して、精度良く判定され得る。したがって、この血圧計1では、第1時点t1′を精度良く決定でき、これにより、収縮期血圧値SYSを精度良く求めることができる。
【0137】
このようにして、この血圧計1によれば、減圧過程だけでなく加圧過程でも、被測定部位90の血圧を非侵襲で原理的に正しく測定できる。同様に、図11の血圧計1Aによっても、減圧過程だけでなく加圧過程でも、被測定部位90の血圧を非侵襲で原理的に正しく測定できる。
【0138】
(他の変形例)
上の例では、センシングカフ21の平面形状は、丸角の長方形であるとしたが、これに限られるものではない。センシングカフ21の平面形状は、例えば円形であってもよい。これにより、センシングカフ21の圧力Psに、押圧カフ23の圧力Pcが十分にかかっている箇所の動脈91の容積変化のみが、より反映されることになる。したがって、血圧の測定精度が良くなる。
【0139】
また、上の例では、被測定部位90は上腕であり、それに伴ってカフ20は上腕用のカフであるものとしたが、これに限られるものではない。被測定部位90は手首であってもよく、また、下肢であってもよい。それに伴って、カフ20は、手首用のカフであってもよく、また、下肢用のカフであってもよい。なお、手首用のカフの例では、押圧カフ23の平面寸法が上の例(上腕用のカフの例)よりも小さく設定されることから、センシングカフ21の平面寸法は、例えば2cm×2cm以下に設定される。
【0140】
また、上の例では、加圧用、圧力伝達用の「流体」は、空気であるものとしたが、これに限られるものではない。加圧用、圧力伝達用の「流体」は、他の気体、または液体であっても良い。特に、センシングカフ21に圧力伝達用の「流体」が製造段階で封入されている場合は、圧力伝達用の「流体」は液体であってもよい。
【0141】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。
【符号の説明】
【0142】
1,1A 血圧計
10 本体
20 カフ
21 センシングカフ
22 背板
23 押圧カフ
30 第1圧力センサ
31 第2圧力センサ
32 ポンプ
33 排出弁
34 切換弁
図1
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図3
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図5
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