(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】監視方法、監視プログラム、監視装置、ウェーハの製造方法、及びウェーハ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20250109BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01L21/02 Z
G05B23/02 301Y
(21)【出願番号】P 2021180420
(22)【出願日】2021-11-04
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 忠広
(72)【発明者】
【氏名】溝口 和彦
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-163054(JP,A)
【文献】特開2013-035080(JP,A)
【文献】特開2018-001301(JP,A)
【文献】特開2015-066677(JP,A)
【文献】特開2015-156433(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0291228(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/304
G05B 19/18
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック又はウェーハを加工する加工装置から取得した実績データに基づいて前記加工装置の状態を監視する監視方法であって、
前記実績データと前記加工装置の状態との関係を表す
ように前記加工装置の加工データを教師データとして用いて生成されたPLS(Partial Least Square regression)法に基づく解析モデルであって、前記教師データに含まれる説明変数の値と目的変数の値との関係に基づいて潜在変数が定義されている解析モデルに前記実績データを入力し、前記解析モデルから出力される前記加工装置の状態を表す少なくとも1つの統計値
として前記潜在変数で規定される部分空間における前記実績データの位置を表すT2統計値を取得するステップと、
前記少なくとも1つの統計値に基づいて前記加工装置の状態が異常であるか判定するステップと、
前記加工装置の状態が異常であると判定した場合に前記実績データの項目の中から異常の原因となる項目を原因項目として特定して出力するステップと
を含む監視方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの統計値として、前記潜在変数で規定される部分空間の直交補空間における前記実績データの位置を表すQ統計値を取得するステップを更に含む、請求項1に記載の監視方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの統計値に基づいて前記ウェーハの品質を推定するステップと、
前記ウェーハの品質の推定結果が品質基準を満たさない場合に前記加工装置の状態が異常であると判定するステップと
を更に含む、請求項1又は2に記載の監視方法。
【請求項4】
前記加工装置が1つのロットを処理する期間におけるロットデータを取得するステップと、
前記ロットデータを、前記1つのロットを処理する期間を複数の区間に分けたそれぞれの区間における複数の区間データに分けるステップと、
前記解析モデルに前記実績データとして前記各区間データを入力し、前記各区間における前記加工装置の状態を表す少なくとも1つの統計値を取得するステップと
を更に含む、請求項1から3までのいずれか一項に記載の監視方法。
【請求項5】
ブロック又はウェーハを加工する加工装置から取得した実績データに基づいて前記加工装置の状態を監視する監視方法であって、
前記実績データと前記加工装置の状態との関係を表す解析モデルに前記実績データを入力し、前記解析モデルから出力される前記加工装置の状態を表す少なくとも1つの統計値を取得するステップと、
前記少なくとも1つの統計値に基づいて
前記ウェーハの品質を推定するステップと、
前記ウェーハの品質の推定結果が品質基準を満たさない場合に前記加工装置の状態が異常である
と判定するステップと、
前記加工装置の状態が異常であると判定した場合に前記実績データの項目の中から異常の原因となる項目を原因項目として特定して出力するステップと
を含む監視方法。
【請求項6】
ブロック
を切断するワイヤーソー装置である加工装置から取得した実績データに基づいて前記加工装置の状態を監視する監視方法であって、
前記加工装置が1つのロットを処理する期間におけるロットデータを取得するステップと、
前記ロットデータを、前記1つのロットを処理する期間を複数の区間に分けたそれぞれの区間における複数の区間データに分けるステップと、
前記実績データと前記加工装置の状態との関係を表す解析モデルに前記実績データ
として前記各区間データを入力し、前記解析モデルから出力される
前記各区間における前記加工装置の状態を表す少なくとも1つの統計値を取得するステップと、
前記
複数の区間データのうち、前記ブロックの切断を所定距離だけ進める区間における区間データを前記解析モデルに入力して取得した少なくとも1つの統計値に基づいて前記加工装置の状態が異常であるか判定するステップと、
前記加工装置の状態が異常であると判定した場合に前記実績データの項目の中から異常の原因となる項目を原因項目として特定して出力するステップと
を含
み、
前記所定距離は、前記ブロックを切断して得られたウェーハの特性を表す項目の値を算出する範囲の長さである、
監視方法。
【請求項7】
前記ウェーハの特性を表す項目は、前記ブロックを切断して得られたウェーハの、切断開始時における切断面の傾斜角である、請求項
6に記載の監視方法。
【請求項8】
前記各区間の加工データを教師データとして用いることによって前記各区間に対応する区間モデルを前記解析モデルとして生成し、前記区間モデルに前記区間データを入力するステップを更に含む、請求項
6又は7に記載の監視方法。
【請求項9】
前記複数の区間データのうち、前記1つのロットを処理する期間の中間以前の区間における区間データを前記解析モデルに入力して取得した少なくとも1つの統計値に基づいて前記加工装置の状態が異常であるか判定するステップを更に含む、請求項
6から8までのいずれか一項に記載の監視方法。
【請求項10】
ブロック又はウェーハを加工する加工装置から取得した実績データに基づいて前記加工装置の状態を監視する監視方法であって、
前記加工装置が空運転する期間における実績データを空運転データとして取得するステップと、
前記実績データと前記加工装置の状態との関係を表す解析モデルに前記実績データ
として前記空運転データを入力し、前記解析モデルから出力される
空運転時における前記加工装置の状態を表す少なくとも1つの統計値を取得するステップと、
前記少なくとも1つの統計値に基づいて前記加工装置の状態が異常であるか判定するステップと、
前記加工装置の状態が異常であると判定した場合に前記実績データの項目の中から異常の原因となる項目を原因項目として特定して出力するステップと
を含む監視方法。
【請求項11】
前記空運転データを教師データとして用いることによって前記加工装置が空運転する期間に対応する空運転モデルを前記解析モデルとして生成するステップを更に含む、請求項10に記載の監視方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの統計値が管理範囲外の値である場合に前記加工装置の状態が異常であると判定するステップを更に含む、請求項1
から11までのいずれか一項に記載の監視方法。
【請求項13】
請求項1から
12までのいずれか一項に記載の監視方法をプロセッサに実行させる監視プログラム。
【請求項14】
請求項1から
12までのいずれか一項に記載の監視方法を実行する制御部を備える監視装置。
【請求項15】
請求項1から
12までのいずれか一項に記載の監視方法を実行することによって監視したウェーハの加工装置でウェーハを加工するステップを含む、ウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、監視方法、監視プログラム、監視装置、ウェーハの製造方法、及びウェーハに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高精度にウェーハの品質管理値データを予測する方法が知られている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工程の作業者は、製品の品質の予測結果だけに基づいて、製品の品質を改善するために必要な、加工装置に対して実行すべき具体的な対応を理解できない。作業者が製品の品質に影響を及ぼす要因を理解して加工装置に対して具体的な対応を実行できるようにすることによって、製品の品質が向上され得る。
【0005】
そこで、本開示の目的は、製品の品質を向上できる監視方法、監視プログラム、監視装置、ウェーハの製造方法、及びウェーハを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本開示の一実施形態は、以下のとおりである。
[1]ブロック又はウェーハを加工する加工装置から取得した実績データに基づいて前記加工装置の状態を監視する監視方法であって、
前記実績データと前記加工装置の状態との関係を表す解析モデルに前記実績データを入力し、前記解析モデルから出力される前記加工装置の状態を表す少なくとも1つの統計値を取得するステップと、
前記少なくとも1つの統計値に基づいて前記加工装置の状態が異常であるか判定するステップと、
前記加工装置の状態が異常であると判定した場合に前記実績データの項目の中から異常の原因となる項目を原因項目として特定して出力するステップと
を含む監視方法。
[2]前記少なくとも1つの統計値が管理範囲外の値である場合に前記加工装置の状態が異常であると判定するステップを更に含む、上記[1]に記載の監視方法。
[3]前記少なくとも1つの統計値に基づいて前記ウェーハの品質を推定するステップと、
前記ウェーハの品質の推定結果が品質基準を満たさない場合に前記加工装置の状態が異常であると判定するステップと
を更に含む、上記[1]又は[2]に記載の監視方法。
[4]前記加工装置が1つのロットを処理する期間におけるロットデータを取得するステップと、
前記ロットデータを、前記1つのロットを処理する期間を複数の区間に分けたそれぞれの区間における複数の区間データに分けるステップと、
前記解析モデルに前記実績データとして前記各区間データを入力し、前記各区間における前記加工装置の状態を表す少なくとも1つの統計値を取得するステップと
を更に含む、上記[1]から[3]までのいずれか一項に記載の監視方法。
[5]前記各区間の加工データを教師データとして用いることによって前記各区間に対応する区間モデルを前記解析モデルとして生成し、前記区間モデルに前記区間データを入力するステップを更に含む、上記[4]に記載の監視方法。
[6]前記複数の区間データのうち、前記1つのロットを処理する期間の中間以前の区間における区間データを前記解析モデルに入力して取得した少なくとも1つの統計値に基づいて前記加工装置の状態が異常であるか判定するステップを更に含む、上記[4]又は[5]に記載の監視方法。
[7]前記加工装置は、ブロックを切断するワイヤーソー装置であり、
前記複数の区間データのうち、前記ブロックの切断を所定距離だけ進める区間における区間データを前記解析モデルに入力して取得した少なくとも1つの統計値に基づいて前記加工装置の状態が異常であるか判定するステップを更に含む、上記[4]から[6]までのいずれか一項に記載の監視方法。
[8]前記所定距離は、前記ブロックを切断して得られたウェーハの特性を表す項目の値を算出する範囲の長さである、上記[7]に記載の監視方法。
[9]前記ウェーハの特性を表す項目は、前記ブロックを切断して得られたウェーハの、切断開始時における切断面の傾斜角である、上記[8]に記載の監視方法。
[10]前記加工装置が空運転する期間における実績データを空運転データとして取得するステップと、
前記解析モデルに前記空運転データを入力し、空運転時における前記加工装置の状態を表す少なくとも1つの統計値を取得するステップと
を更に含む、上記[1]から[9]までのいずれか一項に記載の監視方法。
[11]前記空運転データを教師データとして用いることによって前記加工装置が空運転する期間に対応する空運転モデルを前記解析モデルとして生成するステップを更に含む、上記[10]に記載の監視方法。
[12]上記[1]から[11]までのいずれか一項に記載の監視方法をプロセッサに実行させる監視プログラム。
[13]上記[1]から[11]までのいずれか一項に記載の監視方法を実行する制御部を備える監視装置。
[14]上記[1]から[11]までのいずれか一項に記載の監視方法を実行することによって監視したウェーハの加工装置でウェーハを加工するステップを含む、ウェーハの製造方法。
[15]上記[1]から[11]までのいずれか一項に記載の監視方法を実行することによって監視したウェーハの加工装置で加工したウェーハ。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る監視方法、監視プログラム、監視装置、ウェーハの製造方法、及びウェーハによれば、製品の品質が向上され得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係る監視システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】加工装置としてのワイヤーソー装置の構成例を示す図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る監視方法において解析モデルを生成する手順例を示すフローチャートである。
【
図4】本開示の一実施形態に係る監視方法において解析モデルを用いて加工装置の状態を判定する手順例を示すフローチャートである。
【
図5】ワイヤーソー装置でブロックを切断する期間を6つの区間に分けた例を示す図である。
【
図6】ワイヤーソー装置で切断したウェーハの表面形状の一例を示す図である。
【
図7】第1区間の区間データに基づいて算出した各ロットのQ統計値の一例を示すグラフである。
【
図8】第2区間の区間データに基づいて算出した各ロットのQ統計値の一例を示すグラフである。
【
図9】Q統計値が閾値以上となったロットにおいて抽出した原因項目のQ統計値の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(監視システム1の構成例)
図1に示されるように、監視システム1は、監視装置50と、表示装置60とを備える。監視装置50は、製品を製造する工程に設定されている加工装置10の状態を監視する。加工装置10は、製品を加工する。加工装置10は、加工装置10の構成部の動作状態を表す加工データを測定するセンサを有する。加工装置10のセンサは、加工装置10に供給されている冷却水又はスラリー等の補助材料の温度又は流量等を測定してもよいし、工程の温度又は湿度等の工程の環境に関する項目を測定してもよい。センサは、加工装置10が動作するときに測定した加工データを監視装置50に出力する。監視装置50は、加工データを加工装置10から取得し、加工データに基づいて加工装置10の状態を監視する。
【0010】
加工装置10の状態は、正常な状態と異常な状態とを含む。異常な状態は、正常な状態でない状態に対応する。正常な状態は、ウェーハの加工後の品質に問題のないときの装置の状態から大きく逸脱していない状態に対応する。例えば一つの装置パラメータに注目した場合にウェーハの加工後の品質に問題のない期間の装置パラメータの平均からのずれ量がウェーハの加工後の品質に問題のない期間の装置パラメータの標準偏差の3倍未満である状態は、正常な状態であるとする。また、複数の装置パラメータを用いてT2統計量又はQ統計量などの合成パラメータを生成した場合においても、ウェーハの加工後の品質に問題のない期間の装置パラメータを用いて算出した合成パラメータの平均値からのずれがウェーハの加工後の品質に問題のない期間の合成パラメータの標準偏差の3倍未満である状態は、正常な状態であるとする。
【0011】
本実施形態において、加工装置10によって加工される製品はウェーハであるとする。監視対象は、ウェーハ製造工程に設置されているとする。加工装置10は、例えばワイヤーソー装置、ラッピング加工装置、SMP(片面研磨装置)、DSP(両面研磨装置)、端面研磨装置、又は熱処理装置等であってよい。
【0012】
監視装置50は、制御部52を備える。制御部52は、少なくとも1つのプロセッサを含んでよい。プロセッサは、制御部52の種々の機能を実現するプログラムを実行しうる。プロセッサは、単一の集積回路として実現されてよい。集積回路は、IC(Integrated Circuit)とも称される。プロセッサは、複数の通信可能に接続された集積回路及びディスクリート回路として実現されてよい。プロセッサは、他の種々の既知の技術に基づいて実現されてよい。
【0013】
監視装置50は、記憶部54を更に備える。記憶部54は、磁気ディスク等の電磁記憶媒体を含んでよいし、半導体メモリ又は磁気メモリ等のメモリを含んでもよい。記憶部54は、非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体を含んでよい。記憶部54は、加工装置10から取得した加工データ等の各種情報及び制御部52で実行されるプログラム等を格納する。記憶部54は、制御部52のワークメモリとして機能してよい。記憶部54の少なくとも一部は、制御部52に含まれてよい。記憶部54の少なくとも一部は、監視装置50と別体の記憶装置として構成されてもよい。
【0014】
監視装置50は、加工装置10又は表示装置60との間でデータを送受信する通信部を更に備えてもよい。通信部は、加工装置10又は表示装置60と通信可能に接続される。通信部は、加工装置10又は表示装置60とネットワークを介して通信可能に接続されてよい。通信部は、加工装置10又は表示装置60と有線又は無線で通信可能に接続されてよい。通信部は、ネットワーク又は加工装置10若しくは表示装置60と接続する通信モジュールを備えてよい。通信モジュールは、LAN(Local Area Network)等の通信インタフェースを備えてよい。通信モジュールは、4G又は5G等の種々の通信方式による通信を実現してもよい。通信部が実行する通信方式は、上述の例に限られず、他の種々の方式を含んでもよい。通信部の少なくとも一部は、制御部52に含まれてよい。
【0015】
表示装置60は、画像又は文字若しくは図形等の視覚情報を出力する表示デバイスを含んでよい。表示デバイスは、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ若しくは無機ELディスプレイ、又は、PDP(Plasma Display Panel)等を含んで構成されてよい。表示デバイスは、これらのディスプレイに限られず、他の種々の方式のディスプレイを含んで構成されてよい。表示デバイスは、LED(Light Emitting Diode)又はLD(Laser Diode)等の発光デバイスを含んで構成されてよい。表示デバイスは、これらに限られず他の種々のデバイスを含んで構成されてよい。
【0016】
(加工装置10としてのワイヤーソー装置の構成例)
本実施形態において、加工装置10は、ワイヤーソー装置であると仮定する。ワイヤーソー装置としての加工装置10は、
図2に示されるように、ワイヤー12を複数のローラ14間に並列かつ往復走行可能に張り渡したワイヤー群16を備える。加工装置10は、ワークWを保持し、ワイヤー群16に対しワークWを押し込む方向に移動させるワーク保持機構18を備える。加工装置10は、ワイヤー群16の、ワークWが押し込まれる領域にスラリーを供給する一対のノズル20を備える。加工装置10は、ワークWをワイヤー群16によって切断する。ワークWは、シリコン等のブロック(ブロック状に切断された単結晶インゴット)であるとする。加工装置10は、ワークWを切断して得られるシリコン等のスライスドウェーハを加工製品として払い出す。以下、加工装置10がワイヤーソー装置である場合、加工製品はスライスドウェーハであるとする。
【0017】
ワイヤー12は、一組のワイヤーリール38A及び38Bに巻き付けられている。ワイヤー12は、一方のワイヤーリール38Aから、ガイドローラ32及びローラ14等を経て他方のワイヤーリール38Bまで張られている。
【0018】
ワイヤーリール38A及び38Bはそれぞれ、駆動モータ36によって回転する。駆動モータ36が駆動してワイヤーリール38A及び38Bを回転させることで、ワイヤー12は、一方のワイヤーリール38Aから繰り出され、ガイドローラ32及びローラ14等を経て他方のワイヤーリール38Bまで走行できる。ワイヤー12は、ダンサアーム33及びダンサローラ34等を含む張力付与手段を経て走行する。ワイヤー12が張力付与手段を経て走行することによって、ワイヤー12に張力が付与される。ワイヤー12は、タッチローラ35を経て走行する。タッチローラ35は、ワイヤーリール38A及び38Bから繰り出されたり、ワイヤーリール38A及び38Bに巻き取られたりする際に移動するワイヤー12の位置に追従する。
【0019】
ワイヤー12は、複数のローラ14を跨って複数回にわたって螺旋状に巻回されている。螺旋状に巻回されたワイヤー12は、ローラ14間でローラ軸方向Xに直交する方向に並列に並ぶワイヤー群16を構成している。ローラ14は、鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂が圧入され、その表面に一定のピッチで溝が切られた構成となっているとする。ワイヤー12がローラ14の表面に切られた溝にはめ込まれることによって、ワイヤー群16は、安定して走行できる。
【0020】
ワイヤー12の走行方向は、駆動モータ36の回転方向によって制御される。ワイヤー12は、一方向に走行するように制御されることも、必要に応じて往復走行するように制御されることもできる。ワイヤー12に付与される張力の大きさは、適宜設定されてよい。ワイヤー12の走行速度は、適宜設定されてよい。
【0021】
ノズル20からワイヤー群16に供給されるスラリーは、スラリータンク40に貯蔵されており、スラリータンク40からスラリーを調温するスラリーチラー42を介してノズル20へと送り込まれる。
【0022】
ワイヤーソー装置から払い出されたスライスドウェーハは、研磨等の工程で更に加工され、最終製品のウェーハとして出荷される。
【0023】
(監視装置50の動作例)
監視装置50は、加工装置10の加工データを多変量解析によって統計的に解析し、加工データの統計値を算出する。監視装置50は、算出した統計値に基づいて加工装置10の状態を監視する。以下、監視装置50の動作例が具体的に説明される。
【0024】
<解析モデルの生成>
監視装置50の制御部52は、加工装置10が正常に動作している期間の加工データを教師データとして記憶部54に格納する。制御部52は、記憶部54に格納されている教師データに基づいて、加工装置10の加工データを統計的に解析して加工装置10の状態を監視するために用いる解析モデルを生成する。解析モデルは、解析対象となる加工装置10の加工データの入力を受け付ける。解析対象となる加工装置10の加工データは、実績データとも称される。解析モデルは、入力された実績データを統計的に解析することによって算出される統計値を出力するように構成される。言い換えれば、解析モデルは、実績データと加工装置10の状態との関係を表す。そして、解析モデルは、少なくとも加工装置10が異常であるか否かを判別できるものである。
【0025】
本実施形態において、解析モデルは、PLS(Partial Least Square regression)法に基づいて入力された実績データの統計値を算出するように構成されるとする。制御部52は、PLS法に基づく解析モデルを、以下に述べるように生成する。
【0026】
制御部52は、教師データとして用いる加工装置10の加工データの各項目から説明変数と目的変数とを選択する。制御部52は、教師データに含まれる説明変数の値と目的変数の値との関係に基づいて潜在変数(主成分)を定義する。具体的に、潜在変数は、説明変数を用いて目的変数に対して高い相関を有する値を算出できるような関係式で表される新たな変数として定義される。
【0027】
制御部52は、最小二乗法を適用することによって、潜在変数の値と目的変数の値との関係を表す線形回帰式を生成する。制御部52は、あらかじめ目的変数の値との関係がわかっている説明変数の値を、生成した線形回帰式に入力して線形回帰式の計算結果を取得する。制御部52は、線形回帰式の計算結果と目的変数の値との差分を算出することによって線形回帰式を検証する。制御部52は、線形回帰式の計算結果と目的変数の値との差分が小さくなるように、潜在変数の定義と、線形回帰式の生成と、差分の確認とを繰り返して線形回帰式を検証する。制御部52は、線形回帰式の検証において、新たに潜在変数を定義して入れ替えたり、新たに定義した潜在変数を追加して潜在変数の数を増やしたりしてよい。制御部52は、線形回帰式の検証において、線形回帰式の計算結果と目的変数の値との差分が小さくなるように潜在変数の数を決定し、線形回帰式を決定する。
【0028】
制御部52は、決定した線形回帰式を解析モデルとして利用する。具体的に、制御部52は、決定した線形回帰式と、実績データとに基づいて、T2統計値とQ統計値とを算出する。T2統計値は、潜在変数で規定される部分空間における実績データの位置を統計値として表すものであり、部分空間の原点から実績データのうち潜在変数の値に対応する点までの距離の2乗として算出される。Q統計値は、部分空間の直交補空間における実績データの位置を統計値として表すものであり、実績データのうち潜在変数の計算に用いられない項目の値に対応する点から部分空間に正射影したベクトルの長さの2乗として算出される。
【0029】
T2統計値は、正常であるか異常であるかを判定するために適した統計値である。Q統計値は、T2統計値で判定できない変動を判定するために適した統計値である。制御部52は、T2統計値だけを監視する場合、T2統計値が管理限界から外れた場合に、加工装置10に何らかの異常が発生したと判定できるものの、具体的な異常の内容を解析できない。
【0030】
一方で、制御部52は、T2統計値とQ統計値とを両方とも監視する場合、T2統計値が管理限界から外れてもQ統計値が管理限界内であれば変数間の相関関係が崩れておらず、装置故障等の深刻な異常が発生していないと判定できる。また、制御部52は、T2統計値が管理限界から外れた原因として、加工装置10に設定した加工条件又は運転プログラム等を変更したり間違えたりした結果としてT2統計値が大きくなったと判定できる。制御部52は、Q統計値が管理限界から外れた場合、装置故障等の深刻な異常が発生していると判定できる。
【0031】
制御部52は、生成した解析モデルに関して、解析モデルの過学習を防ぎ、汎化性能を向上させるためにクロスバリデーションを実行してよい。
【0032】
<T2統計値及びQ統計値に基づく状態判定>
制御部52は、生成した解析モデルに実績データを入力し、T2統計値及びQ統計値を算出する。制御部52は、T2統計値及びQ統計値それぞれについて管理範囲を設定する。制御部52は、管理上限値又は管理下限値を設定することによって管理範囲を特定する。制御部52は、T2統計値及びQ統計値が両方とも管理範囲内であれば加工装置10の状態が正常であると判定する。制御部52は、T2統計値又はQ統計値のいずれかが管理範囲外であれば加工装置10の状態が異常である又は異常の可能性があると判定する。制御部52は、加工装置10の状態の判定結果を表示装置60に出力する。表示装置60は、加工装置10の状態の判定結果を表示し、ユーザに通知する。ユーザは、工程の作業者又は管理者等を含んでよい。
【0033】
制御部52は、Q統計値が管理範囲外である場合、実績データの各項目のうちQ統計値に対して影響を及ぼしている(Q統計値の値を大きく変動させている)項目を抽出する。Q統計値に対して影響を及ぼしている項目は、加工装置10の状態が異常になる原因となる項目であるともいえ、原因項目とも称される。実績データを解析モデルに入力して算出されるQ統計値は、各原因項目のQ統計値の合計値に対応する。言い換えれば、Q統計値は、各原因項目のQ統計値に分けられる。
【0034】
各原因項目のQ統計値が大きいほど、その原因項目がQ統計値に対して大きい影響を及ぼしているといえる。制御部52は、Q統計値に対して及ぼす影響の大きさに基づいて原因項目に順位をつけてよい。制御部52は、Q統計値が大きい原因項目に高い順位をつけてよい。制御部52は、原因項目を表示装置60に出力する。表示装置60は、原因項目を表示し、ユーザに通知する。
【0035】
ユーザは、表示装置60によって通知された加工装置10の状態の判定結果に基づいて加工装置10に対する処置を判断してよい。例えば、ユーザは、Q統計値が管理範囲外である場合、通知された原因項目について加工装置10の実際の状態を確認してよい。例えば、ユーザは、T2統計値が管理範囲外である場合、加工装置10に設定した加工条件又は運転プログラム等を確認してよい。
【0036】
(監視方法の手順例)
監視装置50の制御部52は、
図3に例示されるフローチャートの手順を含む監視方法を実行することによって解析モデルを生成してよい。監視方法は、制御部52に実行させる監視プログラムとして実現されてもよい。
【0037】
制御部52は、加工装置10が正常に動作している期間の加工データを教師データとして取得する(ステップS1)。制御部52は、教師データに基づいて解析モデルを生成する(ステップS2)。
【0038】
制御部52は、解析モデルが妥当であるか判定する(ステップS3)。例えば、制御部52は、線形回帰式の計算結果と目的変数の値との差分が所定値未満になっているか判定してもよい。制御部52は、解析モデルが妥当でないと判定した場合(ステップS3:NO)、ステップS2に戻って解析モデルを生成しなおす。制御部52は、解析モデルが妥当であると判定した場合(ステップS3:YES)、解析モデルを決定する(ステップS4)。制御部52は、ステップS4の手順の実行後、
図3のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0039】
制御部52は、
図4に例示されるフローチャートの手順を含む監視方法を実行することによって加工装置10の実績データに基づく統計値を算出して加工装置10の状態を監視してよい。監視方法は、制御部52に実行させる監視プログラムとして実現されてもよい。
【0040】
制御部52は、加工装置10から実績データを取得する(ステップS11)。制御部52は、実績データを解析モデルに入力して解析モデルで算出された統計値を取得する(ステップS12)。具体的に、制御部52は、統計値としてT2統計値及びQ統計値を取得する。
【0041】
制御部52は、統計値が管理範囲内か判定する(ステップS13)。具体的に、制御部52は、T2統計値及びQ統計値が両方とも管理範囲内か判定する。制御部52は、統計値が管理範囲内である場合(ステップS13:YES)、ステップS15の手順に進む。制御部52は、統計値が管理範囲内でない場合(ステップS13:NO)、つまり統計値が管理範囲外である場合、原因項目を解析する(ステップS14)。
【0042】
制御部52は、判定結果を出力する(ステップS15)。制御部52は、統計値が管理範囲内であったか管理範囲外であったかを出力する。制御部52は、統計値が管理範囲外であった場合、原因項目の解析結果をあわせて出力する。制御部52は、ステップS15の手順の実行後、
図4のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0043】
(小括)
以上述べてきたように、本実施形態に係る監視装置50は、加工装置10から取得した実績データに基づいて加工装置10の状態を監視する。監視装置50は、解析モデルに実績データを入力する。解析モデルは、加工装置10の状態を表す少なくとも1つの統計値を出力する。監視装置50は、解析モデルから少なくとも1つの統計値を取得し、少なくとも1つの統計値に基づいて加工装置10の状態が異常であるか判定する。監視装置50は、加工装置10の状態が異常であると判定した場合に、実績データの項目の中から異常の原因となる項目を原因項目として特定して出力する。ユーザは、出力された原因項目に基づいて加工装置10に対して処置を実行する。このようにすることで、ユーザは、製品の品質に影響を及ぼす要因を理解して加工装置10に対して具体的な対応を実行でき、加工装置10の状態を早期に改善できる。その結果、加工装置10で加工される製品の品質が向上され得る。
【0044】
(ワイヤーソー装置の状態の監視例)
加工装置10がワイヤーソー装置である場合、監視装置50の制御部52は、以下に説明されるように装置の状態を監視する。ワイヤーソー装置は、円柱状のブロックを切断してスライスドウェーハを生成する。スライスドウェーハは、研磨等の後工程を経て製品のウェーハになる。ワイヤーソー装置の実績データである加工データは、装置各部の温度、ワイヤガイド(ガイドローラ32及びローラ14等)の位置、並びに、冷却水及びスラリーの流量を含むとする。また、ワイヤーソー装置の加工データは、加工したブロックの長さ、抵抗値、酸素濃度及び結晶方位のデータを含むとする。また、ワイヤーソー装置の加工データは、切断したウェーハ(スライスドウェーハ)のWarp、うねり及び加工キズのデータを含むとする。制御部52は、以上の各項目に基づいて解析モデルを生成する。
【0045】
図5に示されるように、ワイヤーソー装置は、ワークWとしてのブロックを切断方向に沿って切断する。切断方向は、ワークWの円柱形状の直径に沿っている。ワイヤーソー装置が1つのワークWを切断するために所定の時間がかかる。ワイヤーソー装置が1つのワークWを切断する期間は、複数の区間に分けられてよい。
図5の例において、ワイヤーソー装置が1つのワークWを切断する期間は、切り始めの第1区間から切り終わりの第6区間まで分けられる。制御部52は、1つのワークWを切断する期間全体にわたる加工データをまとめて取得してもよい。期間全体にわたる加工データは、ロットデータとも称される。制御部52は、各区間に分けた加工データを取得してもよい。各区間に分けた加工データは、区間データとも称される。制御部52は、
図5の例において6つの区間それぞれの区間データを取得できる。
【0046】
制御部52は、教師データとして区間データを取得し、各区間に対応する解析モデルを生成する。各区間に対応する解析モデルは、区間モデルとも称される。仮に1つのワークWを切断する全期間においてワイヤーソー装置が同じ状態であっても、ワイヤーソー装置の切り始めの第1区間と、ワイヤーソー装置が安定して切断を進める第2区間から第5区間までの各区間と、切り終わりの第6区間とそれぞれにおける加工データは異なり得る。各区間で異なる解析モデルを生成することによって、加工装置10としてのワイヤーソー装置の各区間の状態の判定精度が高められ得る。
【0047】
制御部52は、実績データとしてロットデータを取得する。制御部52は、ロット実績データを各区間の区間データに分ける。制御部52は、区間データを実績データとして区間モデルに入力して各区間の統計値を取得する。制御部52は、各区間の統計値に基づいてワイヤーソー装置の状態を判定してよい。制御部52は、少なくとも1つの区間の統計値が管理範囲外である場合、ワイヤーソー装置の状態が異常であると判定してもよい。
【0048】
制御部52は、実績データとして、装置各部の温度、ワイヤガイド(ガイドローラ32及びローラ14等)の位置、冷却水及びスラリーの流量、並びに、加工したブロックの長さ、抵抗値、酸素濃度及び結晶方位のデータを解析モデルに入力する。制御部52は、解析モデルからT2統計値及びQ統計値の2つの統計値を取得する。制御部52は、取得した統計値が管理範囲内であれば、ワイヤーソー装置の状態が正常であると判定する。制御部52は、取得した統計値が管理範囲外であれば、原因項目を抽出して表示装置60を通じてユーザに通知する。例えば原因項目としてワイヤガイドの位置が抽出された場合、ユーザは、現在のロットの加工の終了後にワイヤガイドの位置を調整するための準備をしておき、次のロットの加工の開始前にワイヤガイドの位置を調整する。ユーザがあらかじめ調整の準備をしておけることによって、ワイヤーソー装置の稼働率が高められ得る。
【0049】
<解析の対象とする区間の選択>
制御部52は、1つのロットを処理する期間に含まれる複数の区間データのうち、1つのロットを処理する期間の中間以前の区間の区間データを実績データとして解析モデルに入力して取得した統計値に基づいてワイヤーソー装置の状態を判定してよい。
図5の例で第1区間から第3区間までが中間以前の区間に相当する。制御部52は、中間以前の区間の区間データの統計値に基づいてワイヤーソー装置の状態が異常であると判定できた場合、次のロットの処理を開始するまでに十分な期間を確保してユーザに異常の情報を提供できる。ユーザは、次のロットの処理を開始する前にワイヤーソー装置に対する処置を実行する準備期間を確保できる。このようにすることで、ワイヤーソー装置の稼働率が高められ得る。
【0050】
制御部52は、ワイヤーソー装置が安定して切断を進める第2区間から第5区間までのうち最初の第2区間を解析のための区間としてよい。ワイヤーソー装置が安定して切断を進める区間における加工データのばらつきは、切り始めの区間における加工データのばらつきよりも小さくなり得る。ばらつきが小さい加工データを実績データとして統計値を算出してワイヤーソー装置の状態を判定することによって、判定精度が高められ得る。また、ばらつきが小さい加工データを教師データとして解析モデルを生成することによって、解析モデルの安定性が高められ得る。
【0051】
加工装置10がワイヤーソー装置である場合、制御部52は、複数の区間データのうちブロックの切断を所定距離だけ進める区間における区間データを実績データとして解析モデルに入力して少なくとも1つの統計値を取得してよい。制御部52は、取得した少なくとも1つの統計値に基づいて加工装置10の状態が異常であるか判定してよい。つまり、制御部52は、ブロックの切断を所定距離だけ進める区間を、解析のための区間に対応づけてよい。
【0052】
解析のための区間は、ウェーハの特性に基づいて分けられてよい。例えば
図5のA-A断面に対応する
図6に示されるように、ワイヤーソー装置でブロックを切断することによって生成されたウェーハは、切断方向に沿ってWSで表される表面の凹凸形状を有する。
図6において、横軸はウェーハの切断方向に沿った位置に対応する。縦軸はウェーハの切断方向に沿った各位置におけるウェーハの高さに対応する。
【0053】
表面の切断方向に沿った形状は、切り始めの区間(W1)と、切り終わりの区間(W2)と、その間の区間(W0)とに分けて、各区間において平面に近似される。各区間において切断面の傾向が異なる。具体的に、中間の区間(W0)は、二点鎖線の直線(L0)で近似されている。切り始めの区間(W1)は、二点鎖線の直線(L1)で近似されている。切り終わりの区間(W2)は、二点鎖線の直線(L2)で近似されている。
【0054】
切り始めの区間(W1)において、表面形状の高低差が算出される。切り始めの区間(W1)における表面形状の高低差は、切り始めの区間(W1)の表面形状の各点のうち近似線(L1)から見て上方に位置する点から近似線(L1)に対して下した垂線の長さの最大値と、近似線(L1)から見て下方に位置する点から近似線(L1)に対して下した垂線の長さの最大値との和として算出される。具体的に、
図6において、切り始めの区間(W1)の表面形状のうち近似線(L1)から上下に最も離れている点を通り、かつ、近似線(L1)に平行な線が破線で表されている。切り始めの区間(W1)における表面形状の高低差は、上下の破線の距離として算出される。切り終わりの区間(W2)における表面形状の高低差は、切り終わりの区間(W2)の表面形状の各点のうち近似線(L2)から見て上方に位置する点から近似線(L2)に対して下した垂線の長さの最大値と、近似線(L2)から見て下方に位置する点から近似線(L2)に対して下した垂線の長さの最大値との和として算出される。具体的に、
図6において、切り終わりの区間(W2)の表面形状のうち近似線(L2)から上下に最も離れている点を通り、かつ、近似線(L2)に平行な線が破線で表されている。切り終わりの区間(W2)における表面形状の高低差は、上下の破線の距離として算出される。
【0055】
制御部52がブロックの切断を所定距離だけ進める区間を解析のための区間とする場合、所定距離は、ブロックを切断して得られたウェーハの特性を表す項目の値を算出する区間の長さに対応する。ウェーハの特性を表す項目は、ブロックを切断して得られたウェーハの切断開始時又は切断終了時における切断面の傾斜角に対応する。所定距離は、W1又はW2で表される区間の長さに対応する。制御部52は、ウェーハの特性を表す項目の値を算出する区間の区間データについて算出した統計値に基づいてワイヤーソー装置の状態を判定してよい。このようにすることで、ワイヤーソー装置の状態の判定精度が高められ得る。その結果、製品の品質が高められ得る。
【0056】
<空運転時の加工データの解析>
加工装置10に対して部品交換又は清掃等のメンテナンス作業が実行され得る。メンテナンス作業が実行された加工装置10の状態を確認するために、ワークWを入れずに加工装置10が運転されることがある。ワークWを入れない運転は、空運転とも称される。
【0057】
制御部52は、加工装置10が空運転しているときの加工データを教師データとして解析モデルを生成してよい。加工装置10が空運転しているときの加工データは、空運転データとも称される。空運転データを教師データとして生成した解析モデルは、空運転モデルとも称される。また、制御部52は、空運転データを実績データとして空運転モデルに入力して統計値を取得してよい。制御部52は、空運転データの統計値に基づいて加工装置10の状態を判定してよい。このようにすることで、メンテナンス作業の後でワークWを入れて加工装置10を動作させるときに生じる異常が回避されやすくなる。その結果、ワークWの加工中の異常が回避されやすくなる。加工中の異常を回避することによって、製品の品質が向上し得る。
【0058】
制御部52は、加工装置10の空運転の後に所定期間にわたって異常が発生しなかったときの空運転データを選択して教師データとして空運転モデルを生成してもよい。言い換えれば、制御部52は、加工装置10の空運転の後の所定期間以内に異常が発生した空運転データを除いた空運転データを教師データとして空運転モデルを生成してもよい。このようにすることで空運転モデルの安定性が高められ得る。
【0059】
<Q統計値に基づくワイヤーソー装置の状態の監視例>
制御部52は、ワイヤーソー装置の各ロットのロットデータについて統計値を算出し、各ロットの統計値が管理範囲内か判定してよい。例えば
図7及び
図8にグラフとして示されるように、制御部52は、各ロットのQ統計値がQ統計値の閾値(QTH)未満であるか判定してよい。
図7及び
図8において、横軸はロットを表す。縦軸はQ統計値を表す。
図7のグラフは、
図5の第1区間の区間データから算出した各ロットのQ統計値を表す。
図8のグラフは、
図5の第2区間の区間データから算出した各ロットのQ統計値を表す。
【0060】
制御部52は、X1で表されるロットに対応するQ統計値について、
図7に示される第1区間のQ統計値及び
図8に示される第2区間のQ統計値の両方がQTH以上であると判定する。この場合、制御部52は、X1で表されるロットを処理しているときのワイヤーソー装置の状態が異常であると判定してよい。また、制御部52は、X2で表されるロットに対応するQ統計値について、
図7に示される第1区間のQ統計値がQTH未満であるものの、
図8に示される第2区間のQ統計値がQTH以上であると判定する。この場合においても、制御部52は、X1で表されるロットを処理しているときのワイヤーソー装置の状態が異常であると判定してよい。
【0061】
制御部52は、Q統計値がQTH以上になったロットについて原因項目を抽出する。例えば、制御部52は、X1で表されるロットについて原因項目をする。
図9に示されるように、原因項目として、F1からF4までで表される4つの項目が抽出されるとする。
図9の横軸は、各原因項目のQ統計値の大きさを表す。制御部52は、各原因項目のQ統計値を表示装置60に出力してもよいし、Q統計値が所定値以上の原因項目を表示装置60に出力してもよい。表示装置60は、Q統計値が大きい原因項目を表示し、ユーザに通知する。ユーザは、Q統計値が大きい原因項目を確認してワイヤーソー装置に対する処置を決定して実行してよい。
【0062】
QTHは、例えば過去の正常な装置状態におけるQ値の平均値+標準偏差の3倍(+3σ)として設定されてよい。QTHは、これに限られず他の種々の値に設定されてよい。
【0063】
(他の実施形態)
以下、他の実施形態が説明される。
【0064】
<製品の合否判定>
監視装置50の制御部52は、加工装置10の実績データに基づいて、加工装置10で加工して払い出した製品を最終工程まで完了したときの最終製品としての品質を推定できるように解析モデルを生成してもよい。制御部52は、品質の推定結果に基づいて、加工装置10で加工して払い出した製品が最終製品になったときに仕様を満たすかを推定してよい。つまり、制御部52は、加工装置10で加工して払い出した製品の最終的な合否を加工装置10における実績データに基づいて推定してよい。
【0065】
監視装置50は、実績データに基づいて、その実績データを取得した加工で払い出された製品が最終製品になったときに仕様を満たさないと推定した場合、加工装置10の状態が異常であると判定してよい。最終製品がウェーハである場合、監視装置50は、ウェーハの品質の推定結果が品質基準を満たさない場合に加工装置10の状態が異常であると判定してよい。
【0066】
制御部52は、例えば
図5に例示される第1区間から第6区間までの各区間の区間データに基づいて最終製品としての品質を推定してよい。加工装置10で加工して払い出した製品を最終工程まで完了したときの最終製品としての品質の推定結果について、実際に最終工程まで完了させて最終製品となったときに仕様を満たすかが確認された。各区間の区間データに基づく推定結果と実際の結果とが比較された。その結果、第1区間から第6区間までの各区間の区間データに基づく推定結果と実際の結果との一致率は、第1区間:96%、第2区間:99%、第3区間:97%、第4区間:87%、第5区間:97%、第6区間:81%であった。制御部52は、第1区間から第3区間までの各区間の区間データに基づく推定によって加工装置10の状態を判定した場合、97~99%の精度で正しく判定できるといえる。このデータによれば、1つのロットを処理する期間の中間以前の区間の区間データを実績データに基づいてワイヤーソー装置の状態を判定した場合の精度は、十分に高いといえる。したがって、ロットの処理の初期の段階で装置の状態を判断して次のロットの準備をできるという利点が強調され得る。
【0067】
<ウェーハの製造方法及びウェーハ>
本実施形態に係る監視装置50が監視方法を実行することによって監視された加工装置10は、製品を加工するために用いられる。加工装置10が製品としてウェーハを加工することによって、ウェーハが製造される。したがって、監視装置50が監視方法を実行することによって監視された加工装置10でウェーハを加工するステップを含むウェーハの製造方法が実現される。また、監視装置50が監視方法を実行することによって監視された加工装置10で加工したウェーハが実現される。
【0068】
<監視対象が加工する製品の例>
本実施形態において、製品は、ウェーハであるとしたが、これに限られず工業部品又は材料等の種々の工業製品であってよいし、食品等の他の種々の製品であってもよい。
【0069】
<装置構成例>
監視システム1において、監視装置50は、加工装置10の一部に含まれてもよい。監視装置50は、加工装置10と互いに別体で構成されてもよい。
【0070】
<加工装置10が研磨装置である場合の加工データの例>
加工装置10は、上述したようにワイヤーソー装置に限られない。加工装置10がラッピング加工装置、SMP(片面研磨装置)又はDSP(両面研磨装置)等の研磨装置である場合、実績データである加工データは、研磨液の温度、研磨液の流量、研磨圧力、又は水平方向の移動速度等を含んでよい。
【0071】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態について装置を中心に説明してきたが、本開示に係る実施形態は装置の各構成部が実行するステップを含む方法としても実現し得るものである。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行される方法、プログラム、又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0072】
本開示に含まれるグラフは、模式的なものである。スケールなどは、現実のものと必ずしも一致しない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本開示に係る実施形態によれば、製品の品質が向上され得る。
【符号の説明】
【0074】
1 監視システム
10 加工装置(12:ワイヤー、14:ローラ、16:ワイヤー群、18:ワーク保持機構、20:ノズル、32:ガイドローラ、33:ダンサアーム、34:ダンサローラ、35:タッチローラ、36:駆動モータ、38A、38B:ワイヤーリール、40:スラリータンク、42:スラリーチラー、W:ワーク(ブロック)、X:ローラ軸方向)
50 監視装置(52:制御部、54:記憶部)
60 表示装置