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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】触媒異常検知装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/20 20060101AFI20250109BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20250109BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F01N3/20 C
F01N3/08 H ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01D53/94 300
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021193124
(22)【出願日】2021-11-29
(65)【公開番号】P2023079592
(43)【公開日】2023-06-08
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀朗
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-106002(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0242440(US,A1)
【文献】特開2021-173218(JP,A)
【文献】特開2014-206150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00- 3/38
F01N 9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内燃機関と接続された排気通路に配設された排気触媒の異常を検知する触媒異常検知装置において、
前記排気通路における前記排気触媒よりも上流側を流れる排気ガスの状態量を検出して、前記排気ガスの入力状態量実測値を取得する入力状態量検出部と、
前記排気通路における前記排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を検出して、前記排気ガスの出力状態量実測値を取得する出力状態量検出部と、
前記入力状態量検出部により取得された前記排気ガスの入力状態量実測値を用いて、前記排気通路における前記排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を予測して、前記排気ガスの出力状態量予測値を取得する出力状態量予測部と、
前記出力状態量検出部により取得された前記排気ガスの出力状態量実測値と前記出力状態量予測部により取得された前記排気ガスの出力状態量予測値とに基づいて、前記排気触媒が異常であるかどうかを判定する判定部とを備え
前記判定部は、前記排気ガスの出力状態量実測値と前記排気ガスの出力状態量予測値とに基づいて、前記排気触媒が劣化する指針とされる劣化指数を算出し、前記劣化指数が閾値以上であるときに、前記排気触媒が異常であると判定し、
前記判定部は、前記排気ガスの入力状態量実測値と前記排気ガスの出力状態量実測値とに基づいて、前記排気ガスに含まれる有害物質の浄化率実測値を算出すると共に、前記排気ガスの入力状態量実測値と前記排気ガスの出力状態量予測値とに基づいて、前記有害物質の浄化率予測値を算出し、前記浄化率実測値と前記浄化率予測値とを比較して、前記劣化指数を算出する触媒異常検知装置。
【請求項2】
車両の内燃機関と接続された排気通路に配設された排気触媒の異常を検知する触媒異常検知装置において、
前記排気通路における前記排気触媒よりも上流側を流れる排気ガスの状態量を検出して、前記排気ガスの入力状態量実測値を取得する入力状態量検出部と、
前記排気通路における前記排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を検出して、前記排気ガスの出力状態量実測値を取得する出力状態量検出部と、
前記入力状態量検出部により取得された前記排気ガスの入力状態量実測値を用いて、前記排気通路における前記排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を予測して、前記排気ガスの出力状態量予測値を取得する出力状態量予測部と、
前記出力状態量検出部により取得された前記排気ガスの出力状態量実測値と前記出力状態量予測部により取得された前記排気ガスの出力状態量予測値とに基づいて、前記排気触媒が異常であるかどうかを判定する判定部と、
前記車両の使用が開始されてから規定の期間に、前記入力状態量検出部により取得された前記排気ガスの入力状態量実測値と前記出力状態量検出部により取得された前記排気ガスの出力状態量実測値とに基づいて、前記排気ガスの状態量の予測に使用される学習データを決定する学習データ決定部とを備え、
前記出力状態量予測部は、前記排気ガスの入力状態量実測値と前記学習データ決定部により決定された学習データとに基づいて、前記排気通路における前記排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を予測する触媒異常検知装置。
【請求項3】
車両の内燃機関と接続された排気通路に配設された排気触媒の異常を検知する触媒異常検知装置において、
前記排気通路における前記排気触媒よりも上流側を流れる排気ガスの状態量を検出して、前記排気ガスの入力状態量実測値を取得する入力状態量検出部と、
前記排気通路における前記排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を検出して、前記排気ガスの出力状態量実測値を取得する出力状態量検出部と、
前記入力状態量検出部により取得された前記排気ガスの入力状態量実測値を用いて、前記排気通路における前記排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を予測して、前記排気ガスの出力状態量予測値を取得する出力状態量予測部と、
前記出力状態量検出部により取得された前記排気ガスの出力状態量実測値と前記出力状態量予測部により取得された前記排気ガスの出力状態量予測値とに基づいて、前記排気触媒が異常であるかどうかを判定する判定部と、
前記入力状態量検出部により取得された前記排気ガスの入力状態量実測値と前記出力状態量検出部により取得された前記排気ガスの出力状態量実測値とに基づいて、前記排気ガスの状態量の予測に使用される学習データを決定する学習データ決定部とを備え、
前記学習データには、前記車両の運転状態が安定する定常状態時のデータと、前記排気ガスの状態量が変動することで前記車両の運転状態が不安定になる過渡状態時のデータとが含まれており、
前記出力状態量予測部は、前記排気ガスの入力状態量実測値と前記学習データ決定部により決定された学習データとに基づいて、前記排気通路における前記排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を予測する触媒異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒異常検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の触媒異常検知装置としては、例えば特許文献1に記載されている技術が知られている。特許文献1に記載の触媒異常検知装置は、エンジンの稼動状態を検知するためのモニタリング条件が整っていると共に、エンジンが定常運転状態になっている場合に、エンジン回転数及びトルクのサンプル値に基づいてNOx排出量を算出し、このNOx排出量とNOXセンサにより検出されたNOx濃度とからNOx浄化率を算出し、NOx浄化率が閾値よりも小さいときに、異常であると判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-181427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、事前に決められた触媒浄化率が安定する条件が全て成立しないと、異常と判定されない。車両の運転状態が定常時に比べて不安定となる過渡時には、触媒浄化率が安定する条件が成立しにくい。このため、過渡時には、実際に排気触媒の異常が発生してから異常と判定されるまでにタイムラグが生じてしまう。
【0005】
本発明の目的は、車両の運転状態にかかわらず、排気触媒の異常検知を迅速に行うことができる触媒異常検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、車両の内燃機関と接続された排気通路に配設された排気触媒の異常を検知する触媒異常検知装置において、排気通路における排気触媒よりも上流側を流れる排気ガスの状態量を検出して、排気ガスの入力状態量実測値を取得する入力状態量検出部と、排気通路における排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を検出して、排気ガスの出力状態量実測値を取得する出力状態量検出部と、入力状態量検出部により取得された排気ガスの入力状態量実測値を用いて、排気通路における排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を予測して、排気ガスの出力状態量予測値を取得する出力状態量予測部と、出力状態量検出部により取得された排気ガスの出力状態量実測値と出力状態量予測部により取得された排気ガスの出力状態量予測値とに基づいて、排気触媒が異常であるかどうかを判定する判定部とを備える。
【0007】
このような触媒異常検知装置においては、排気通路における排気触媒よりも上流側及び下流側を流れる排気ガスの状態量が検出されて、排気ガスの入力状態量実測値及び出力状態量実測値が取得される。そして、排気ガスの入力状態量実測値を用いて、排気通路における排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量が予測されて、排気ガスの出力状態量予測値が取得される。そして、排気ガスの出力状態量実測値と排気ガスの出力状態量予測値とに基づいて、排気触媒が異常であるかどうかが判定される。ここで、車両の定常状態だけでなく車両の過渡状態も含むように、排気通路における排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を予測することで、車両の運転状態が十分に安定する前でも、排気触媒が異常であるか否かが判定されることとなる。これにより、車両の運転状態にかかわらず、排気触媒の異常検知が迅速に行われる。
【0008】
判定部は、排気ガスの出力状態量実測値と排気ガスの出力状態量予測値とに基づいて、排気触媒が劣化する指針とされる劣化指数を算出し、劣化指数が閾値以上であるときに、排気触媒が異常であると判定してもよい。このような構成では、排気触媒が劣化する指針とされる劣化指数を算出することにより、排気触媒の異常判定を単純な処理で且つ精度良く実現することができる。
【0009】
判定部は、排気ガスの入力状態量実測値と排気ガスの出力状態量実測値とに基づいて、排気ガスに含まれる有害物質の浄化率実測値を算出すると共に、排気ガスの入力状態量実測値と排気ガスの出力状態量予測値とに基づいて、有害物質の浄化率予測値を算出し、浄化率実測値と浄化率予測値とを比較して、劣化指数を算出してもよい。このような構成では、有害物質の浄化率実測値及び浄化率予測値を算出することにより、排気触媒が劣化する指針とされる劣化指数を容易に得ることができる。また、有害物質の浄化率実測値が安定する前に、排気触媒が異常であるか否かが判定される。
【0010】
触媒異常検知装置は、車両の使用が開始されてから規定の期間に、入力状態量検出部により取得された排気ガスの入力状態量実測値と出力状態量検出部により取得された排気ガスの出力状態量実測値とに基づいて、排気ガスの状態量の予測に使用される学習データを決定する学習データ決定部を更に備え、出力状態量予測部は、排気ガスの入力状態量実測値と学習データ決定部により決定された学習データとに基づいて、排気通路における排気触媒よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を予測してもよい。このような構成では、内燃機関及び排気触媒等が新品である状態において、排気ガスの状態量の予測に使用される学習データが決定されるため、より正確な出力状態量予測値が得られる。従って、排気触媒の異常の検知精度が向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両の運転状態にかかわらず、排気触媒の異常検知を迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る触媒異常検知装置を備えた排気浄化システムを示す概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る触媒異常検知装置の構成を示すブロック図である。
図3図2に示された出力状態量予測部において機械学習を用いて排気ガスの状態量を予測する様子を、排気ガスの入力状態量実測値及び出力状態量実測値と共に示す概念図である。
図4図2に示された異常判定部により実行される異常判定処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
図5図2に示された触媒異常検知装置によりSCRの異常を検知する動作を示すタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る触媒異常検知装置を備えた排気浄化システムを示す概略構成図である。図1において、排気浄化システム1は、自動車等の車両2に搭載されている。
【0015】
排気浄化システム1は、内燃機関であるエンジン3と接続された排気通路4と、この排気通路4に上流側から下流側に向けて順に配設されたDOC5(Diesel Oxidation Catalyst:酸化触媒)、DPF6(Diesel ParticulateFilter:粒子状物質捕集フィルタ)及びSCR7(Selective Catalytic Reduction:選択還元触媒)とを備えている。
【0016】
排気通路4は、エンジン3内で発生した排気ガスが流れる通路である。DOC5は、排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)等を酸化して浄化する。DPF6は、排気ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集する。SCR7は、尿素水を用いて、排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を還元して浄化する。DOC5、DPF6及びSCR7は、排気ガスに含まれる有害物質を除去する排気触媒である。
【0017】
また、排気浄化システム1は、エンジン3とDOC5との間に配置された燃料添加弁8と、DPF6とSCR7との間に配置された尿素水添加弁9とを備えている。燃料添加弁8は、DPF6の再生を行う際に、排気ガスの温度を上昇させるための液体燃料をDOC5に向けて噴射する。DPF6の再生とは、DPF6に堆積したPMを燃焼させることである。尿素水添加弁9は、尿素水(前述)をSCR7に向けて噴射する。
【0018】
また、排気浄化システム1は、温度センサ11,12と、差圧センサ13と、流量センサ14と、温度センサ15と、NOxセンサ16と、温度センサ17と、NOxセンサ18とを備えている。
【0019】
温度センサ11は、排気通路4におけるDOC5よりも上流側を流れる排気ガスの温度を検出する。温度センサ12は、排気通路4におけるDOC5よりも下流側かつDPF6よりも上流側を流れる排気ガスの温度を検出する。
【0020】
差圧センサ13は、DPF6の上流側及び下流側の圧力差(差圧)を検出する。つまり、差圧センサ13は、排気通路4におけるDPF6よりも上流側の圧力とDPF6よりも下流側の圧力との差を検出する。
【0021】
流量センサ14は、排気通路4におけるDPF6よりも下流側かつSCR7よりも上流側を流れる排気ガスの流量を検出する。温度センサ15は、排気通路4におけるDPF6よりも下流側かつSCR7よりも上流側を流れる排気ガスの温度を検出する。NOxセンサ16は、排気通路4におけるDPF6よりも下流側かつSCR7よりも上流側を流れる排気ガスに含まれるNOxの濃度を検出する。
【0022】
温度センサ17は、排気通路4におけるSCR7よりも下流側を流れる排気ガスの温度を検出する。NOxセンサ18は、排気通路4におけるSCR7よりも下流側を流れる排気ガスに含まれるNOxの濃度を検出する。
【0023】
図2は、本発明の一実施形態に係る触媒異常検知装置の構成を示すブロック図である。図2において、本実施形態の触媒異常検知装置20は、SCR7の異常を検知する装置である。
【0024】
触媒異常検知装置20は、上記の流量センサ14、温度センサ15、NOxセンサ16、温度センサ17及びNOxセンサ18と、コントローラ21と、上記の尿素水添加弁9と、警告器22とを備えている。
【0025】
流量センサ14、温度センサ15及びNOxセンサ16は、排気通路4におけるSCR7よりも上流側を流れる排気ガスの状態量を検出して、排気ガスの入力状態量実測値を取得する入力状態量検出部23を構成している。排気ガスの入力状態量実測値は、図3(a)に示されるように、入力排気ガス流量実測値、入力排気ガス温度実測値及び入力NOx濃度実測値である。
【0026】
温度センサ17及びNOxセンサ18は、排気通路4におけるSCR7よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を検出して、排気ガスの出力状態量実測値を取得する出力状態量検出部24を構成している。排気ガスの出力状態量実測値は、図3(a)に示されるように、出力排気ガス温度実測値及び出力NOx濃度実測値である。
【0027】
警告器22は、SCR7の異常が発生したときに、警告表示や警告音等により異常警告を行う。
【0028】
コントローラ21は、学習データ決定部25と、添加弁制御部26と、出力状態量予測部27と、NOx浄化率算出部28と、異常判定部29とを有している。
【0029】
学習データ決定部25は、車両2の使用が開始されてから規定の期間に、入力状態量検出部23により取得された排気ガスの入力状態量実測値と出力状態量検出部24により取得された排気ガスの出力状態量実測値とに基づいて、排気ガスの状態量の予測に使用される学習データを決定する。
【0030】
学習データ決定部25は、例えば新品の車両2が出荷された後、車両2が予め設定された距離(例えば100km)だけ走行するまでの期間に学習データを決定する。学習データには、車両2の運転状態が安定する定常状態時のデータだけでなく、車両2の運転状態が不安定になる過渡状態時のデータも含まれる。過渡状態は、排気ガスの状態量(流量、温度及びNOx濃度等)が変動する状態である(図5(a)~図5(c)参照)。また、学習データは、エンジン3及びSCR7の個体差が含まれたデータである。
【0031】
添加弁制御部26は、例えば排気ガスの入力状態量実測値及び出力状態量実測値に基づいて、既に設定された尿素水の噴射量を変更するように尿素水添加弁9を制御する。
【0032】
出力状態量予測部27は、排気ガスの入力状態量実測値を用いて、排気通路4におけるSCR7よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を予測して、排気ガスの出力状態量予測値を取得する。出力状態量予測部27は、排気ガスの入力状態量実測値と学習データ決定部25により決定された学習データとに基づいて、排気通路4におけるSCR7よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を予測する。
【0033】
出力状態量予測部27は、図3(b)に示されるように、機械学習を使って、排気通路4におけるSCR7よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を予測する。機械学習は、AI(人工知能)の1つである。機械学習としては、例えばニューラルネットワーク(NN)等が使用される。
【0034】
排気ガスの出力状態量予測値は、出力排気ガス温度予測値及び出力NOx濃度予測値である。排気ガスの出力状態量予測値は、車両2の運転状態として安定状態及び過渡状態を含んでいる。
【0035】
NOx浄化率算出部28は、入力排気ガス流量実測値、入力NOx濃度実測値及び出力NOx濃度実測値に基づいて、排気ガスに含まれるNOx浄化率実測値を算出する。NOx浄化率実測値は、排気ガスに含まれる有害物質の浄化率実測値である。NOx浄化率実測値は、下記式により算出される。入力NOx量実測値は、入力排気ガス流量実測値及び入力NOx濃度実測値から算出される。出力NOx量実測値は、入力排気ガス流量実測値及び出力NOx濃度実測値から算出される。
NOx浄化率実測値=(入力NOx量実測値-出力NOx量実測値)/入力NOx量実測値
【0036】
また、NOx浄化率算出部28は、入力排気ガス流量実測値、入力NOx濃度実測値及び出力NOx濃度予測値に基づいて、排気ガスに含まれるNOx浄化率予測値を算出する。NOx浄化率予測値は、排気ガスに含まれる有害物質の浄化率予測値である。NOx浄化率予測値は、下記式により算出される。出力NOx量予測値は、入力排気ガス流量実測値及び出力NOx濃度予測値から算出される。
NOx浄化率予測値=(入力NOx量実測値-出力NOx量予測値)/入力NOx量実測値
【0037】
異常判定部29は、NOx浄化率実測値とNOx浄化率予測値とに基づいて、SCR7が劣化する指針とされる劣化指数を算出し、この劣化指数が閾値以上であるときに、SCR7が異常であると判定する。
【0038】
図4は、異常判定部29により実行される異常判定処理の手順の詳細を示すフローチャートである。図4において、異常判定部29は、まずNOx浄化率算出部28により算出されたNOx浄化率実測値及びNOx浄化率予測値を入力する(手順S101)。
【0039】
続いて、異常判定部29は、NOx浄化率実測値及びNOx浄化率予測値に基づいて、SCR7の劣化指数を算出する(手順S102)。例えばSCR7が過熱されたり、SCR7の性能に影響を与える有害物質等がSCR7に入り込むと、SCR7のNOx浄化率が低下し、SCR7が劣化してしまう。このため、NOx浄化率実測値がNOx浄化率予測値に比べて下がりやすくなる(図5(e)参照)。そこで、SCR7の劣化指数は、下記式により算出される。
劣化指数=NOx浄化率予測値-NOx浄化率実測値
【0040】
続いて、異常判定部29は、SCR7の劣化指数と予め決められた閾値と比較して、劣化指数が閾値以上であるかどうかを判断する(手順S103)。異常判定部29は、劣化指数が閾値よりも小さいと判断したときは、SCR7が正常であると判定する(手順S104)。
【0041】
異常判定部29は、劣化指数が閾値以上であると判断したときは、SCR7が異常であると判定する(手順S105)。そして、異常判定部29は、警告制御信号を警告器22に出力する(手順S106)。すると、警告器22により警告が行われる。また、SCR7の劣化指数に適した噴射量データを添加弁制御部26に出力する(手順S107)。すると、SCR7の劣化指数に応じた量の尿素水が尿素水添加弁9から噴射される。
【0042】
以上のような触媒異常検知装置20において、図5(a)~図5(c)に示されるように、車両2の運転状態が過渡状態Aになると、排気通路4におけるSCR7よりも上流側を流れる排気ガスの流量及びNOx濃度が変動すると共に、排気通路4におけるSCR7よりも上流側を流れる排気ガスの温度が上昇する。すると、図5(d)に示されるように、尿素水添加弁9からの尿素水の噴射量も変動する。その後、車両2の運転状態が定常状態Bになると、排気通路4におけるSCR7よりも上流側を流れる排気ガスの流量、NOx濃度、温度及び尿素水添加弁9からの尿素水の噴射量が安定する。
【0043】
ただし、図5(e)に示されるように、車両2の運転状態が過渡状態Aになると、NOx浄化率実測値Q及びNOx浄化率予測値Pが変化すると共に、NOx浄化率実測値QとNOx浄化率予測値Pとの差が大きくなる。
【0044】
このため、NOx浄化率実測値Qが安定する時間t1になってから、NOx浄化率実測値Qに基づいてSCR7の異常が発生しているかどうかが判定する場合には、SCR7が異常と判定されるまでにタイムラグが生じてしまう。
【0045】
そこで、図5(e),(f)に示されるように、NOx浄化率実測値Q及びNOx浄化率予測値Pに基づいてSCR7の劣化指数が算出され、この劣化指数が閾値Sに達した時間t2になると、SCR7が異常であると判定される。時間t2は、時間t1よりも前である。従って、車両2の運転状態が過渡状態Aになっても、SCR7の異常判定が早く実施される。
【0046】
以上のように本実施形態にあっては、排気通路4におけるSCR7よりも上流側及び下流側を流れる排気ガスの状態量が検出されて、排気ガスの入力状態量実測値及び出力状態量実測値が取得される。そして、排気ガスの入力状態量実測値を用いて、排気通路4におけるSCR7よりも下流側を流れる排気ガスの状態量が予測されて、排気ガスの出力状態量予測値が取得される。そして、排気ガスの出力状態量実測値と排気ガスの出力状態量予測値とに基づいて、SCR7が異常であるかどうかが判定される。ここで、車両2の定常状態だけでなく車両2の過渡状態も含むように、排気通路4におけるSCR7よりも下流側を流れる排気ガスの状態量を予測することで、車両2の運転状態が十分に安定する前でも、SCR7が異常であるか否かが判定されることとなる。これにより、車両2の運転状態にかかわらず、SCR7の異常検知が迅速に行われる。その結果、車両2の運転者に対して直ちに異常警告を行うことができる。
【0047】
また、本実施形態では、排気ガスの出力状態量実測値と排気ガスの出力状態量予測値とに基づいて、SCR7が劣化する指針とされる劣化指数が算出され、劣化指数が閾値以上であるときに、SCR7が異常であると判定される。このようにSCR7が劣化する指針とされる劣化指数を算出することにより、SCR7の異常判定を単純な処理で且つ精度良く実現することができる。
【0048】
また、本実施形態では、排気ガスの入力状態量実測値と排気ガスの出力状態量実測値とに基づいて、NOx浄化率実測値が算出されると共に、排気ガスの入力状態量実測値と排気ガスの出力状態量予測値とに基づいて、NOx浄化率予測値が算出され、NOx浄化率実測値とNOx浄化率予測値とを比較して、劣化指数が算出される。このようにNOx浄化率実測値及びNOx浄化率予測値を算出することにより、SCR7が劣化する指針とされる劣化指数を容易に得ることができる。また、NOx浄化率実測値Qが安定する前に、SCR7が異常であるか否かが判定される。
【0049】
また、本実施形態では、車両2の使用が開始されてから規定の期間に、排気ガスの入力状態量実測値と排気ガスの出力状態量実測値とに基づいて、排気ガスの状態量の予測に使用される学習データが決定され、排気ガスの入力状態量実測値と学習データとに基づいて、排気通路4におけるSCR7よりも下流側を流れる排気ガスの状態量が予測される。この場合には、エンジン3及びSCR7等が新品である状態において、排気ガスの状態量の予測に使用される学習データが決定されるため、より正確な出力状態量予測値が得られる。従って、SCR7の異常の検知精度が向上する。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば上記実施形態では、車両2の使用が開始されてから規定の期間に、排気ガスの状態量の予測に使用される学習データが決定されているが、特にその形態には限られず、例えば学習データの決定処理を定期的に行ってもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、SCR7の劣化指数は、NOx浄化率予測値とNOx浄化率実測値との差として求められているが、SCR7の劣化指数の求め方としては、特にその形態には限られず、例えばNOx浄化率予測値とNOx浄化率実測値との比率等であってもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、SCR7の異常が検知されているが、特にその形態には限られず、DOC5またはDPF6の異常を検知してもよい。この場合でも、車両2の運転状態にかかわらず、DOC5またはDPF6の異常検知が迅速に行われる。また、例えばDPF6の再生を行う際に、DPF6の劣化指数に応じた量の液体燃料を燃料添加弁8から噴射させることで、DPF6の再生時間の長期化を防ぎ、燃費悪化を防止することができる。
【0053】
また、本発明は、上記のようなSCR7、DOC5及びDPF6以外にも、排気ガスに含まれるNOxを浄化するNSR(NOx Storage-Reduction)や、排気ガスに含まれるCO、HC及びNOxを浄化する三元触媒等といった排気触媒の異常検知にも適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
2…車両、3…エンジン(内燃機関)、4…排気通路、7…SCR(排気触媒)、20…触媒異常検知装置、23…入力状態量検出部、24…出力状態量検出部、25…学習データ決定部、27…出力状態量予測部、28…NOx浄化率算出部(判定部)、29…異常判定部(判定部)、P…NOx浄化率予測値、Q…NOx浄化率実測値、S…閾値。
図1
図2
図3
図4
図5