(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】水性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/06 20060101AFI20250109BHJP
C08L 23/26 20250101ALI20250109BHJP
C08F 220/12 20060101ALI20250109BHJP
C08F 220/04 20060101ALI20250109BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20250109BHJP
C09D 123/26 20060101ALI20250109BHJP
C09D 133/06 20060101ALI20250109BHJP
C09J 123/26 20060101ALI20250109BHJP
C09J 133/06 20060101ALI20250109BHJP
C09D 11/106 20140101ALI20250109BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C08L33/06
C08L23/26
C08F220/12
C08F220/04
C09D5/00 D
C09D123/26
C09D133/06
C09J123/26
C09J133/06
C09D11/106
C09K3/10 E
(21)【出願番号】P 2021513563
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013588
(87)【国際公開番号】W WO2020209080
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2019075385
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 恵太朗
(72)【発明者】
【氏名】柏原 健二
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-016992(JP,A)
【文献】特開2012-219123(JP,A)
【文献】特開2014-051757(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073153(WO,A1)
【文献】特開2002-188042(JP,A)
【文献】国際公開第2018/128111(WO,A1)
【文献】特開2004-256577(JP,A)
【文献】国際公開第2006/011402(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
C08F 8/00 - 8/50
C09D 101/00 - 201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)および(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)を含有する水性樹脂組成物であって、
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、不飽和カルボン酸またはその無水物を0.5~10質量%の範囲で含有し、
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)が共重合成分として、エステル部分が炭素数12以上の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B1)およびエステル部分が炭素数11以下の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B2)を含有し
、
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対する前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の含有量が、40~250質量部の範囲であり、
前記エステル部分が炭素数12以上の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B1)と、前記エステル部分が炭素数11以下の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B2)との質量比[(B1)/(B2)]が、70/30~20/80の範囲内であり、
前記水性樹脂組成物における有機溶剤の含有量が0.5質量%以下である、
水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)がさらに、極性基を含有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれる1種類以上の極性基含有モノマー(B3)を含有
する、請求項1に記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
界面活性剤および塩基性化合物のいずれかまたは両方を含有する
、請求項1または2に記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)のガラス転移温度(Tg)が
、-40℃~80℃の範囲内にある
、請求項1~
3のいずれか
一項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の示差走査型熱量計(DSC)による融点が
、90℃以下である
、請求項1~
4のいずれか
一項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか
一項に記載の水性樹脂組成物を含有する
、ポリオレフィン基材用の塗料。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか
一項に記載の水性樹脂組成物を含有する
、ポリオレフィン基材用のインキ。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか
一項に記載の水性樹脂組成物を含有する
、ポリオレフィン基材用の接着剤。
【請求項9】
請求項1~
5のいずれか
一項に記載の水性樹脂組成物を含有する
、ポリオレフィン基材用のシール剤。
【請求項10】
請求項1~
5のいずれか
一項に記載の水性樹脂組成物を含有する
、ポリオレフィン基材塗装用のプライマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン基材に対して高い密着力を有する水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエン共重合体、ポリ4-メチル-1-ペンテン等のポリオレフィン系樹脂は、比較的安価で、優れた性能、例えば、耐薬品性、耐水性、耐熱性等を有し、自動車部品、電気部品、建築資材、包装用フィルム等の材料として広い分野で使用されている。しかしながら、ポリオレフィン系樹脂は、結晶性で且つ非極性であるが故に、塗装や接着を施すことが困難である。
【0003】
このような難接着性なポリオレフィン系樹脂の塗装や接着には、ポリオレフィン系樹脂に対して強い付着力を有する塩素化ポリオレフィンが、従来バインダー樹脂として使用されている(特許文献1、特許文献2参照)。また、塩素化ポリオレフィンの基材への接着性が劣る又は接着対象が限定されるといった欠点を補うために、塩素化ポリオレフィンと、アクリル、ウレタン、またはポリエステル樹脂とを混合するか、または塩素化ポリオレフィンにこれらの樹脂をグラフト重合させて、バインダー組成物とし、塗装や接着を施している(特許文献3、特許文献4参照)。
【0004】
しかしながら、これらのバインダー組成物は、そのほとんどがトルエン、キシレン等の有機溶剤に溶解した形で使用され、塗装時に大量の有機溶剤が大気中に放出されるので、環境面や衛生面等において好ましくない。
【0005】
そこで、有機溶剤を含まないポリオレフィン樹脂含有の水性樹脂組成物が提案されている(特許文献5、特許文献6参照)。しかしながら、これらの組成物では、ポリオレフィン系樹脂自体が極性の低いものであり、アクリル、ウレタン、エポキシ、またはポリエステル樹脂と混合して用いる場合には、相溶し難いために、期待する物性が発現しないという問題がある。
【0006】
このような課題に対して、ポリオレフィンをアクリルモノマーに溶解して転相乳化後にモノマーを重合するエマルション製造法が提案されている(特許文献7、特許文献8参照)。これらの製造法では脱溶剤工程を短縮することでコストを抑えることができ、アクリルを含有することから他樹脂との相溶性に優れた水性樹脂組成物が得られる。
【文献】特開昭59-75958号公報
【文献】特開昭60-99138号公報
【文献】特開平6-16746号公報
【文献】特開平8-12913号公報
【文献】特開平6-256592号公報
【文献】特開2004-107539号公報
【文献】特開平6-80738号公報
【文献】特開2010-001334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、これらの組成物は樹脂分の半量がアクリルとなることから、ポリオレフィン基材との剥離強度が低下してしまう課題があった。
本発明の課題は、上記課題を解決しようとするものであり、ポリオレフィン基材に対して80℃焼き付けにおいても高い剥離強度を示し、アクリル成分を含有しても密着力を損なわないようなポリオレフィンとアクリル混合型の塗料、インキ、接着剤、シール剤またはプライマー用の水性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エステル部分が炭素数12以上の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B1)およびエステル部分が炭素数11以下の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B2)を含有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)とを含有する水性樹脂組成物によって、前記課題を解決できることを見出したものである。
【0009】
本発明は、下記に示すとおりである。
【0010】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)とを含有する水性樹脂組成物であって、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、不飽和カルボン酸またはその無水物を0.5~10.0質量%の範囲で含有し、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)が、エステル部分の炭素数が12以上の(メタ)アクリル酸エステル(B1)とエステル部分の炭素数が11以下の(メタ)アクリル酸エステル(B2)を含有していることを特徴とする水性樹脂組成物。
【0011】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)がさらに極性基を含有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリルアミドから選ばれる1種類以上の極性基含有モノマー(B3)を含有していることが好ましい。
【0012】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)以外に、界面活性剤および塩基性化合物のいずれかまたは両方を含有することが好ましく、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対する(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の含有量が40~250質量部の範囲であることが好ましい。
【0013】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の含有するエステル部分が炭素数12以上の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B1)とエステル部分が炭素数11以下の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B2)の質量比が70/30~20/80の範囲内であることが好ましい。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)のガラス転移温度(Tg)が-40℃~80℃の範囲内にあることが好ましく、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の示差走査型熱量計(DSC)による融点が90℃以下であることが好ましい。
【0015】
前記いずれかに記載の水性樹脂組成物は、ポリオレフィンフィルム、シートまたは成形体用の塗料、インキ、接着剤、シール剤、またはプライマーに利用可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性樹脂組成物は、ポリオレフィン系基材に対して80℃焼き付けにおいても優れた密着性及び耐水性を示し、アクリル樹脂を含有するにも関わらず酸変性ポリオレフィン樹脂単独と同等の高い剥離強度を発揮する。また各種極性樹脂との相溶性が良好で、且つ有機溶剤を含有しないことで脱溶剤工程が短縮された製造工程で得られる、塗料、インキ、接着剤、シール剤あるいはプライマー用の水性樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明は酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)とを含有する水性樹脂組成物であって、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、不飽和カルボン酸またはその無水物を0.5~10.0質量%の範囲で含有し、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)が、エステル部分が炭素数12以上の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B1)とエステル部分が炭素数11以下の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B2)を含有していることを特徴とする水性樹脂組成物である。
【0019】
<酸変性ポリオレフィン樹脂(A)>
本発明に用いられる酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、例えば、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン共重合体、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリ1-ブテンおよび1-ブテン-α-オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種のポリオレフィンに、α,β-不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合して得られる。
【0020】
ここで、プロピレン-α-オレフィン共重合体とは、プロピレンを主体としてこれとα-オレフィンを共重合したものである。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、4-メチル-1-ペンテンなどの、炭素原子数2または4~20のα-オレフィンが挙げられる。プロピレン-α-オレフィン共重合体におけるプロピレン成分の含有量は、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましい。プロピレン成分の含有量が50モル%以上であることで、ポリプロピレン基材に対する密着性が良好となる。
【0021】
エチレン-α-オレフィン共重合体とは、エチレンを主体としてこれとα-オレフィンを共重合したものである。α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、4-メチル-1-ペンテンなどの、炭素原子数3~20のα-オレフィンが挙げられる。エチレン-α-オレフィン共重合体におけるエチレン成分の含有量は、75モル%以上であることが好ましい。エチレン成分の含有量が75モル%以上であると、ポリエチレン基材に対する密着性が良好となる。
【0022】
1-ブテン-α-オレフィン共重合体とは、1-ブテンを主体としてこれとα-オレフィンを共重合したものである。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、4-メチル-1-ペンテンなどの、炭素原子数2~3または5~20のα-オレフィンが挙げられる。1-ブテン-α-オレフィン共重合体における1-ブテン成分の含有量は、65モル%以上であることが好ましい。1-ブテン成分の含有量が65モル%以上であると、ポリプロピレン基材やポリ1-ブテン基材に対する密着性が良好となる。
【0023】
ポリオレフィンにグラフト共重合するα,β-不飽和カルボン酸またはその酸無水物としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸等が挙げられる。これらの中でも無水マレイン酸、無水イタコン酸が好ましい。
【0024】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)におけるα,β-不飽和カルボン酸成分またはその酸無水物成分の含有量は0.5~10質量%である。好ましくは0.7質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上である。また、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。α,β-不飽和カルボン酸成分またはその酸無水物成分の含有量がこの範囲内であると、転相乳化が容易となり、また水性樹脂組成物から得られる塗膜の耐水性が良好となる。
【0025】
ポリオレフィンに、α,β-不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合する方法としては、ラジカル発生剤の存在下で該ポリオレフィンを融点以上に加熱溶融して反応させる方法(溶融法)、該ポリオレフィンを有機溶剤に溶解させた後にラジカル発生剤の存在下に加熱撹拌して反応させる方法(溶液法)などの公知の方法が挙げられる。
【0026】
本発明に用いられる酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の高温GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定による重量平均分子量は、3000~200000であるのが好ましい。より好ましくは10000以上、さらに好ましくは30000以上、特に好ましくは45000以上である。また、150000以下がより好ましく、120000以下がさらに好ましい。前記の範囲内にあることで、(メタ)アクリル酸エステル(B1)及び(メタ)アクリル酸エステル(B2)に対する酸変性ポリオレフィンの溶解が良好となり、転相乳化が容易となる。また、樹脂の凝集力が十分となり、接着力が良好となる。
【0027】
なお、高温GPCによる重量平均分子量の測定は、オルトジクロロベンゼンを溶媒とし、ポリスチレンを標準物質として、市販の装置を用いて、公知の方法で行うことができる。具体的には、溶媒としてオルトジクロロベンゼンを用い、140℃にてウォーターズ(Waters)社製のGPC150-Cプラス型を用いて測定する。カラムには東ソー社製のGMH6-HT、GMH6-HTLを用いる。重量平均分子量は、分子量既知のポリスチレンを標準物質として算出する。
【0028】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、さらに塩素化変性されていてもよい。塩素化ポリオレフィンとしては、前記酸変性ポリオレフィン樹脂を塩素化することにより得られる酸変性塩素化ポリオレフィンが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が塩素化されている場合、塩素含有率は、溶液安定性およびポリオレフィン基材と、樹脂基材または金属基材との接着性の観点から、下限は5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは8質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上であり、特に好ましくは12質量%以上であり、最も好ましくは14質量%以上である。5質量%以上であると、溶液安定性が良好となり乳化しやすくなる。上限は40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは38質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下であり、特に好ましくは32質量%以下であり、最も好ましくは30質量%以下である。40質量%以下では、酸変性塩素化ポリオレフィンの結晶性が高くなり、接着強度が強くなりやすい。
【0029】
酸変性塩素化ポリオレフィンの塩素含有率は、JIS K-7229-1995に準じて滴定によって測定することができる。
【0030】
本発明における酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の示差走査型熱量計(以下DSC)による融点が90℃以下であることが好ましい。より好ましくは85℃以下であり、特に好ましくは80℃以下である。前記の範囲内にあることで80℃焼き付けにおける成膜性が好適となり、ポリオレフィン基材に対する密着性や耐水性、剥離強度が良好となる。
【0031】
本発明におけるDSCによる融点の測定はJIS K7121-2012に準拠して測定でき、例えば以下の条件で行うことができる。DSC測定装置(セイコー電子工業製)を用い、約5mgの試料を150℃で10分間加熱融解状態を保持後、10℃/分の速度で降温して-50℃で安定保持した後、更に10℃/分で150℃まで昇温して融解した時の融解ピーク温度を測定し、該温度を融点として評価する。尚、後述の実施例における融点は前述の条件で測定されたものである。
【0032】
<(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)>
本発明で使用される(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)は、共重合成分としてエステル部分が炭素数12以上の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B1)およびエステル部分が炭素数11以下の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B2)を含有するものである。以下、単に(B1)、(B2)ともいう。
【0033】
(B1)および(B2)を含有することで、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を十分に溶解することができ、転相乳化が容易となり、加えて、アクリル成分を含有するにも関わらずポリオレフィン基材に対する密着性が良好となる。またポリオレフィン以外の樹脂との親和性が高くなることで、塗膜中での他樹脂との相溶性が良好となる。
【0034】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対する(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の含有量が40~250質量部の範囲であることが好ましい。より好ましくは80~200の範囲であり、100~150の範囲がさらに好ましい。(B)の含有量が40~250の範囲内であると、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の転相乳化が容易となり、またポリオレフィン樹脂基材への密着性が良好となる。
【0035】
<(メタ)アクリル酸エステル(B1)>
本発明で使用されるエステル部分が炭素数12以上の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B1)としては、ドデシル(メタ)アクリレート{ラウリル(メタ)アクリレート}、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、トリコシル(メタ)アクリレート、テトラコシル(メタ)アクリレート、ペンタコシル(メタ)アクリレート、ヘキサコシル(メタ)アクリレート、ヘプタコシル(メタ)アクリレート、オクタコシル(メタ)アクリレート、ノナコシル(メタ)アクリレート、トリアコンチル(メタ)アクリレート、ヘントリアコンチル(メタ)アクリレート、ドトリアコンチル(メタ)アクリレート、テトラトリアトンチル(メタ)アクリレート、ペンタトリアコンチル(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体が挙げられる。炭化水素基は直鎖でも分岐していてもよく、また環状構造を含んでいてもよい。これら単量体は、1種単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
(メタ)アクリル酸エステル(B1)のエステル部分の炭素数は12以上であり、35以下が好ましく、18以下がより好ましい。12以上35以下であると、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の溶解性および乳化重合時の重合性が好適となる。
【0037】
<(メタ)アクリル酸エステル(B2)>
本発明で使用されるエステル部分が炭素数11以下の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B2)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、iso-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが挙げられる。これら単量体は、1種単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステル(B2)のエステル部分の炭素数は1以上10以下が好ましく、8以下がより好ましい。1以上10以下であることで酸変性ポリオレフィンの溶解性が好適となり、転相乳化および乳化重合が容易となる。
【0039】
本発明に使用される(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の含有するエステル部分が炭素数12以上の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B1)とエステル部分が炭素数11以下の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル(B2)の質量比が70/30~20/80の範囲内であることが好ましい。より好ましくは60/40~40/60である。前記の範囲にあることで、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の溶解性が上がり、転相乳化が容易となる。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とポリオレフィン基材との親和性が向上し、ポリオレフィン基材への密着性が良好となる。
【0040】
<極性基含有モノマー(B3)>
本発明で使用される(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)はさらに、極性基含有モノマー(B3)を共重合していてもよい。(以下単に(B3)ともいう。)(B3)は(B1)及び(B2)とは異なるものであり、(B3)としては、エステル部に極性基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸ならびに(メタ)アクリルアミドが挙げられ、これらから選ばれる1種類以上を用いてもよい。エステル部に極性基を有するアクリル酸エステルの極性基としては、ヒドロキシ基、カルボキシル基、リン酸基、アミノ基、アミド基、エーテル基、エポキシ基などが挙げられる。中でもアミド基、ヒドロキシ基を好ましく用いられ、ヒドロキシ基がより好ましく用いられる。エステル部に極性基を有するアクリル酸エステルとしては例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキサンメチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アクリルアミド類としては例えば、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらを1種以上用いることが好ましく、同一の極性基を有する2種以上を用いることがより好ましい。これらの(B3)を(B1)及び(B2)と組み合わせて用いることで、(B1)及び(B2)のみの場合よりも極性基材やトップコート塗料との密着性が良好となる。また、(B3)は、単独では酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の溶解性に劣るが、(B1)及び(B2)と組み合わせて用いることで酸変性ポリオレフィン樹脂(A)との相溶性が良好となる。
【0041】
本発明に使用される(B3)は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)に対して、1~40量%用いることが好ましい。2質量%以上がより好ましく、4質量%以上がさらに好ましく、6質量%以上が特に好ましい。また、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が最も好ましい。前記範囲内であると、酸変性ポリオレフィン(A)の溶解性が上がり、転相乳化が容易となる。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)中の極性基含有量が好適となることで、目的組成物のポリオレフィン基材や極性基材、トップコート塗料への密着性が良好となる。
【0042】
本願において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレートまたはメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸またはメタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリロイル基」は「アクリロイル基またはメタクリロイル基」を意味する。「(メタ)アクリルアミド」は「アクリルアミドまたはメタクリルアミド」を意味する。
【0043】
さらに、本発明の(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)は(B1)、(B2)、(B3)以外の重合性モノマーを含んでいてもよい。(B1)、(B2)、(B3)以外の重合性モノマーとしては、たとえばスチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体が挙げられる。さらに、上記以外に併用し得るモノマー類としては、酢酸ビニル等が挙げられる。これら単量体は、1種単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0044】
また(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)のガラス転移温度(Tg)は-40℃~80℃の範囲内にあるのが好ましい。より好ましくは-30℃以上、さらに好ましくは-20℃以上である。また、60℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。前記範囲内にあることで、塗膜の柔軟性が好適となり、他成分のブリードを抑制し、耐水性や塗膜外観が良好となる。また、80℃焼き付けにおける塗膜の成膜性も好適となり、ポリオレフィン基材への密着性や耐水性、剥離強度が良好となる。
【0045】
所望のTgを有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)を設計するためには、(メタ)アクリル酸エステルモノマーおよび極性基含有モノマーの各々が単独重合したときに得られるホモポリマーのガラス転移温度(以下「ホモポリマーのTg」ともいう)を考慮して、(メタ)アクリル酸エステルモノマーおよび極性基含有モノマーの混合比を決める。
【0046】
具体的には(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)のTgは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の理論Tgの算出式(FOX式)を用いて計算することによって求めることができる。
1/Tg=C1/Tg1+C2/Tg2+・・・+Cn/Tgn:(FOX式)
[算出式(FOX式)において、Tgは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の理論Tg、Cnは、単量体nが(メタ)アクリル酸エステル共重合物(B)のモノマー混合物中に含まれる重量割合、Tgnは、単量体nのホモポリマーのTg、nは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)を構成する単量体の数であり、正の整数。]
例えば、(B1)としてラウリルメタクリレート(Tg208.15K、46質量%)、(B2)としてシクロヘキシルメタクリレート(Tg339.15K、46質量%)、(B3)として2-ヒドロキシエチルメタクリレート(Tg328.15K、4質量%)、
4-ヒドロキシブチルアクリレート(Tg233.15K、4質量%)を用いる場合の計算式は下記のようになる。算出される共重合体の理論Tgは259.1(K)であり、換算すると-14.1℃となる。
1/Tg=0.46/208.15+0.46/339.15+0.04/328.15+0.04/233.15
また、本発明のTgは上記算出式から求められる理論Tg(℃)とする。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーおよび極性基含有モノマーのホモポリマーのTgは、文献に記載されている値を用いることができる。そのような文献として、例えば、以下の文献を参照できる:共栄社化学社の(メタ)アクリル酸エステルカタログ、三菱ケミカル社のアクリルエステルカタログ;並びに北岡協三著、「新高分子文庫7、塗料用合成樹脂入門」、高分子刊行会、1997年発行、第168~169頁。
【0048】
<界面活性剤>
本発明にかかる水性樹脂組成物は、本発明の性能を損なわない範囲で界面活性剤を含有することができる。界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤が挙げられる。このうち、分散粒子の粒子径、および目的組成物から得られる塗膜の耐水性の観点から、ノニオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤を用いるのが好ましく、ノニオン性界面活性剤を用いるのがより好ましい。
【0049】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシプロピレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシプロピレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンラノリンアルコールエーテル、ポリオキシプロピレンラノリンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステル、ポリオキシプロピレンラノリン脂肪酸エステル、(ポリオキシエチレンオキシプロピレン)ブロックコポリマー等が挙げられる。その一例としては、エマルミンシリーズ(三洋化成工業株式会社製、)ノイゲンシリーズ(第一工業製薬株式会社製)、ブラウノンシリーズ(青木油脂工業株式会社製)等が挙げられる。
【0050】
また、これらノニオン性界面活性剤として、分子中に重合性二重結合を有する反応性界面活性剤を用いることもできる。その一例としては、アデカリアソープER-10、ER-20、ER-30、ER-40(以上、株式会社ADEKA製)等が挙げられる。
【0051】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルキル硫酸エステル類、アルキルアリールポリオキシエチレン硫酸エステル塩類、高級脂肪酸塩類、アルキルアリールスルフォン酸塩類、アルキルリン酸エステル塩類等が挙げられる。その一例としては、ネオコールシリーズ、ハイテノールシリーズ(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0052】
また、これらアニオン性界面活性剤として、分子中に重合性二重結合を有する反応性界面活性剤を用いることもできる。その一例としては、アデカリアソープNE-10、NE-20、NE-30、NE-40、SE-10N(以上、株式会社ADEKA製)、アクアロンRN-20、RN-30、RN-50、HS-10、HS-20(以上、第一工業製薬株式会社製)、エレミノールJS-2、エレミノールRS-30(以上、三洋化成工業株式会社製)等が挙げられる。
【0053】
上記界面活性剤は、1種単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0054】
本発明において、界面活性剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、5~60質量部用いることが、転相乳化のしやすさや塗膜の耐水性の観点から好ましい。より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。また、より好ましくは20質量部以下である。
【0055】
<塩基性化合物>
本発明では、さらに塩基性化合物を含有してもよい。また、本発明の水性樹脂組成物の製造において塩基性化合物を用いることができ、例えば酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を転相乳化させる際には塩基性化合物を共存させることができる。これを系内に存在させることにより、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の分散性を向上させることが可能となる。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等の無機塩基性化合物類、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール等のアミン類、アンモニア等が挙げられる。
【0056】
塩基性化合物の添加量は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のカルボキシル基に対して、0.3~4.0倍化学当量が好ましく、0.7~2.5倍化学当量がより好ましい。0.3倍化学当量未満であると、塩基性化合物が存在する効果が見られないおそれがある。
一方、4.0倍化学当量を超えると、目的組成物の乾燥物中における残存量が多くなりすぎるおそれがある。
【0057】
本発明の水性樹脂組成物は有機溶剤を用いず、(B1)及び(B2)の混合液に酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を溶解させ、転相乳化や重合反応を経て得ることができる。有機溶剤を用いないとは、水性樹脂組成物における有機溶剤が0.5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.001質量%以下、特に好ましくは0質量%である。有機溶剤を用いないため濃縮脱気を行う必要がなく製造工程を簡略化でき、製造コスト及び時間も縮小できる。具体的には、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の(メタ)アクリル酸エステル溶液を転相乳化させた後、(メタ)アクリル酸エステルを重合させることで得ることができる。重合反応を効率よく進めるために重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤としては、通常の乳化重合でよく用いられる重合開始剤を慣用量で用いるのが好ましい。このような重合開始剤の例として、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素;4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等のアゾ系開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の過酸化物系開始剤等が挙げられる。これらは、1種単独または2種以上を混合して用いることができる。また、レドックス系開始剤も使用可能であり、その例としては、上記の重合開始剤と還元剤(例えば、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、コバルト、鉄、銅などの低次のイオン価の塩)の組み合わせからなるものが挙げられる。
【0058】
重合条件は、使用する重合性単量体や重合開始剤の種類により適宜設定すればよく、重合温度は通常20~100℃、好ましくは50~90℃である。また、重合時間は一般に1~8時間である。重合を速やかに進行させるためには、重合系内の雰囲気を窒素ガスのような不活性ガスで置換しておくことが好ましい。
【0059】
上記のようにして得られる水性樹脂組成物における樹脂粒子のZ平均粒子径は10nm以上500nm以下であるのが好ましく、200nm以下であるのがより好ましい。平均粒子径が500nmを超えると、塗装後の塗膜中に欠損が生じる可能性があり、諸物性に悪影響を及ぼし、特にトップコート塗料に使用し難くなるので、好ましくない。
【0060】
本発明の水性樹脂組成物は、そのままでもクリヤーワニスとして使用可能であるが、さらなる塗膜性能、例えば、造膜性、塗膜硬度、耐候性、柔軟性等の改質を目的として、ポリオレフィン基材に対する付着性を阻害しない程度に、種々の塗料用添加剤や他の樹脂エマルションをブレンドして使用できる。例えば、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ブチルプロピレンジグリコール等の造膜助剤、消泡剤、たれ止め剤、濡れ剤、紫外線吸収剤等を使用できる。特に、アクリル系エマルションやウレタン系エマルションをブレンドして使用することにより、耐候性、耐水性、塗膜強度、柔軟性等の塗膜性能を高めることができる。
【0061】
さらに、本発明の水性樹脂組成物には、粘着付与剤、例えば、ロジン、ダンマル、重合ロジン、水添ロジン、エステルロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、ポリテルペン系樹脂、石油系樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂、クマロンインデン系樹脂等の水系分散液を、必要に応じて適宜添加することができ、これにより塗膜の乾燥性やポリオレフィン基材に対する付着性を改善できる。添加量としては、樹脂組成物の固形分100質量部に対して、固形分5~100質量部であるのが好ましく、10~50質量部であるのがより好ましい。添加量が5質量部未満の場合、添加効果が現れないおそれがある。一方、100質量部を超えると、添加量が多すぎて逆に付着性の低下が起こるおそれがある。
【0062】
本発明の水性樹脂組成物は、ポリプロピレンを始めとする種々のポリオレフィン基材用の塗料やインキ、接着剤、シール剤、プライマー等に好適に用いることができるが、これらの基材に限定されるものではなく、例えば、その他のプラスチック、木材、金属等にも塗装することができる。ポリオレフィン基材としてはフィルム、シート、成形体等が挙げられる。塗装方法に特別な制限はない。また、塗装後の塗膜の乾燥は常温で行っても良いが、30~120℃で乾燥させるのが好ましく、60~100℃で乾燥させるのがより好ましい。
【実施例】
【0063】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
(1)高温GPCによる重量平均分子量の測定
溶媒としてオルトジクロロベンゼンを用い、140℃にてウォーターズ(Waters)社製のGPC150-Cプラス型を用いて行った。(カラム:東ソー社製 GMH6-HT+ GMH6-HTL)重量平均分子量は、分子量既知のポリスチレンを標準物質として算出した。
【0065】
(2)示差走査型熱量計(DSC)による融点の測定
JIS K7121-2012に準拠し、DSC測定装置(セイコー電子工業製)を用い、約5mgの試料を150℃で10分間加熱融解状態を保持後、10℃/分の速度で降温して-50℃で安定保持した後、更に10℃/分で150℃まで昇温して融解した時の融解ピーク温度を測定し、該温度を融点として評価する。
【0066】
(3)Z平均粒子径の測定(以下、単に平均粒子径とする。)
Malvern社製“ゼータサイザー Nano-ZS Model ZEN3600”を用い、動的光散乱法にて、強度分布による平均粒子径(Z平均粒子径)を測定した。水性分散体組成物の固形分を0.05g/Lの濃度に調整したサンプルを25℃で3回測定し、その平均値とした。
【0067】
製造例1
プロピレン-ブテン共重合体(プロピレン成分含有量=70モル%、ブテン成分含有量=30モル%)280g、無水マレイン酸20g、ジクミルパーオキサイド7gおよびトルエン420gを、撹拌機を取り付けたオートクレーブ中に加え、窒素置換を約5分間行った後、加熱撹拌しながら140℃で5時間反応を行った。反応終了後、反応液を大量のメチルエチルケトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにメチルエチルケトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した。得られた樹脂を減圧乾燥することにより、酸変性ポリオレフィン樹脂の固形物(PO-1)を得た。赤外吸収スペクトルの測定結果から、無水マレイン酸成分とマレイン酸成分の合計の含有量は1.3質量%であった。また、高温GPC測定による重量平均分子量は80000であり、DSCによる融点が70℃であった。
【0068】
製造例2
プロピレン-エチレン共重合体(プロピレン成分含有量=94.1モル%、エチレン成分含有量=5.9モル%)280g、無水マレイン酸14g、ジクミルパーオキサイド5.6gおよびトルエン420gを、攪拌器を取り付けたオートクレーブ中に入れ、窒素置換を約5分行った後、加熱攪拌しながら140℃で5時間反応を行った。反応終了後、反応液を大量のメチルエチルケトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにメチルエチルケトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した。減圧乾燥後、得られた無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂を280gおよびクロロホルム2520gを、攪拌器を取り付けたオートクレーブ中に入れ、窒素置換を約5分間行った後、110℃に加熱して樹脂を充分に溶解させた。次いで、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.4gを加え、塩素ガスを所定量吹き込んだ。反応溶媒であるクロロホルムを減圧留去して乾燥させることにより、塩素含有率が18質量%、重量平均分子量が100000、DSCによる融点が85℃、無水マレイン酸の含有量が0.9質量%の酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂の固形物(CPO-1)を得た。
【0069】
実施例1(水性樹脂組成物(a)の製造)
冷却器、温度計、撹拌機および滴下ロートを備えた2リットル4つ口フラスコに、製造例1で得られた酸変性ポリオレフィン樹脂100g、シクロへキシルメタクリレート46g、ラウリルメタクリレート46g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート4g、4-ヒドロキシブチルメタクリレート4g、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(第一工業製薬株式会社製、商品名「ノイゲンEA-197」、ノニオン性界面活性剤)15gおよびジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(第一工業製薬株式会社製、商品名「ネオコールP」、アニオン性界面活性剤)1.5gを仕込み、100℃に保った状態で十分溶解させた。この溶液にN,N-ジメチルエタノールアミン3.2gを加え、15分間撹拌した。次に、激しく撹拌した状態下に、あらかじめ95℃に加温しておいた脱イオン水500gを滴下ロートから30分かけて滴下し、酸変性ポリオレフィン樹脂を転相乳化させた。この乳化液を80℃まで冷却した後、窒素を流入することにより系内を十分に窒素置換した。次に、過硫酸アンモニウム0.6gを脱イオン水30gに溶解させた水溶液を、80℃に保った状態で添加し、窒素気流下で重合を開始した。窒素気流下で80℃で8時間反応させ、その後に冷却し、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が140nmの水性樹脂組成物(a)を得た。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の理論Tgは-14.1℃となった。
【0070】
実施例2(水性樹脂組成物(b)の製造)
各成分の種類を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が160nmの水性樹脂組成物(b)を得た。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の理論Tgは46.5℃となった。
【0071】
実施例3(水性樹脂組成物(c)の製造)
各成分の量を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が180nmの水性樹脂組成物(c)を得た。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の理論Tgは-14.1℃となった。
【0072】
実施例4(水性樹脂組成物(d)の製造)
各成分の量を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が100nmの水性樹脂組成物(d)を得た。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の理論Tgは-14.1℃となった。
【0073】
実施例5(水性樹脂組成物(e)の製造)
各成分の種類を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が140nmの水性樹脂組成物(e)を得た。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の理論Tgは-35.1℃となった。
【0074】
実施例6(水性樹脂組成物(f)の製造)
各成分の種類を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が130nmの水性樹脂組成物(f)を得た。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の理論Tgは46.5℃となった。
【0075】
実施例7(水性樹脂組成物(g)の製造)
各成分の種類を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が180nmの水性樹脂組成物(g)を得た。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の理論Tgは25.6℃となった。
【0076】
実施例8(水性樹脂組成物(h)の製造)
各成分の種類を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が180nmの水性樹脂組成物(h)を得た。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の理論Tgは-7.9℃となった。
【0078】
実施例10(水性樹脂組成物(j)の製造)
各成分の種類を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が110nmの水性樹脂組成物(j)を得た。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の理論Tgは-37.9℃となった。
【0079】
比較例1(水性樹脂組成物(k)の製造)
冷却器、温度計、撹拌機および滴下ロートを備えた2リットル4つ口フラスコに、製造例1で得られた酸変性ポリオレフィン100g、トルエン90g、イソプロピルアルコール90gおよびポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(第一工業製薬株式会社製、商品名「ノイゲンEA-197」、ノニオン性界面活性剤)15gを仕込み、100℃に保った状態で十分溶解させた。この溶液にN,N-ジメチルエタノールアミン3.2gを加え、15分間撹拌した。次に、激しく撹拌した状態下に、あらかじめ95℃に加温しておいた脱イオン水300gを滴下ロートから30分かけて滴下し、酸変性ポリオレフィンを転相乳化させた。この乳化液を60℃まで冷却し、減圧下で脱溶剤することにより、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が130nmの水性樹脂組成物(k)を得た。
【0080】
比較例2(水性樹脂組成物(l)の製造)
各成分の種類を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が130nmの水性樹脂組成物(l)を得た。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の理論Tgは78.9℃となった。
【0081】
比較例3(水性樹脂組成物(m)の製造)
各成分の種類を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が180nmの水性樹脂組成物(m)を得た。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)の理論Tgは21.2℃となった。
【0082】
表1における各記号の意味は、以下の通りである。LMA:ラウリルメタクリレート(Tg=-65℃)、SMA:ステアリルメタクリレート(Tg=38℃)、CHMA:シクロヘキシルメタクリレート(Tg=66℃)、MMA:メチルメタクリレート(Tg=105℃)、EHMA:2-エチルヘキシルメタクリレート(Tg=-10℃)、HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(Tg=55℃)、4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート(Tg=-40℃)、DMAA:ジメチルアクリルアミド(Tg=119℃)、スチレン(Tg=100℃)。
【0083】
【0084】
(1)密着性
水性樹脂組成物100gに、造膜助剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル2g、濡れ剤として「ダイノール604」(エアープロダクツジャパン株式会社製)2gを添加し、マグネチックスターラーで30分間撹拌した。このエマルションを、イソプロピルアルコールで洗浄したポリプロピレン板(日本テストパネル社製)に、乾燥塗膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装した。80℃で3分乾燥後、保護膜として2Kウレタン塗料(関西ペイント社製レタンPGホワイトIII)を40~50μmとなるようにスプレー塗装した。80℃×30分乾燥後、25℃×相対湿度60%の雰囲気下に24時間放置し、これを試験板とした。この試験板に1mm間隔で素地に達する100個のマス目を作り、その上にセロハンテープを圧着させて塗面に対して90度の角度で引き剥がしを3回繰り返し、剥離のない場合を○、3回目で剥離が生じた場合を△、2回目までに剥離した場合を×として評価した。
【0085】
(2)耐水性
上記(1)の方法で得られる試験板を40℃の温水に240時間浸漬した後、上記(1)と同様の方法で密着性を評価した。また塗膜の外観からブリスター(塗膜の浮きや膨らみ)の発生を確認した。剥離やブリスターがない場合を○、剥離はないがブリスターがある場合を△、剥離する場合を×として評価した。
【0086】
(3)剥離強度
保護膜を100μmスプレー塗装する以外、上記(1)の方法と同様の方法で試験板を作製した後、25℃×相対湿度60%の雰囲気下でさらに48時間放置し、これを試験板とした。この試験板に1cm間隔で短冊状の剥離片をつくり、引っ張り試験機(エー・アンド・デイ社製テンシロンRTG-1310)にて50mm/分の速度で50mm、180°剥離試験を行った。引っ張り時の応力を剥離強度とし、5回試験の平均値を測定結果とした。
【0087】
(4)相溶性
水性樹脂組成物に対して、「スーパーフレックス150HS」(第一工業製薬株式会社製ポリウレタンエマルション、固形分38質量%)および「プライマル2133」(ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製アクリルエマルション、固形分41.5質量%)を、それぞれ固形分が1:1の質量比になるように混合したものを、ガラス板に50μmアプリケーターで塗布し、80℃で30分間乾燥した。乾燥後のガラス板の状態を目視で観察し、2種ともに塗膜が透明の場合を○、どちらか1種の塗膜に濁りが発生した場合を△、2種ともに塗膜に濁りが発生した場合を×として評価した。
【0088】
(5)高樹脂分安定性
上記実施例および比較例で得た水性樹脂組成物を樹脂濃度45質量%まで濃縮し、流動性を外観から確認した。流動性がある場合には○、増粘が著しく流動性がない場合には×として評価した。
【0089】