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特許7616054クロマトグラフ用分光光度計および基準位置検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】クロマトグラフ用分光光度計および基準位置検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/18 20060101AFI20250109BHJP
   G01J 3/32 20060101ALI20250109BHJP
   G01J 3/06 20060101ALI20250109BHJP
   G01N 30/74 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01J3/18
G01J3/32
G01J3/06
G01N30/74 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021543964
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2020023847
(87)【国際公開番号】W WO2021044704
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019159791
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】重里 優子
(72)【発明者】
【氏名】辻 真二
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-168692(JP,A)
【文献】特開2008-292249(JP,A)
【文献】特開2000-065641(JP,A)
【文献】特開平02-201124(JP,A)
【文献】特開平08-114538(JP,A)
【文献】特開平02-051030(JP,A)
【文献】特開平10-104068(JP,A)
【文献】特開平04-290933(JP,A)
【文献】特開昭57-142524(JP,A)
【文献】特開昭56-108923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00- G01J 3/52
G01N 21/00- G01N 21/01
G01N 21/17- G01N 21/74
G01N 30/00- G01N 30/96
G01R 13/00- G01R 13/42
G01R 23/00- G01R 23/20
G02B 5/18
G02B 26/10- G02B 26/12
G02F 1/00- G02F 1/01
G05D 25/00- G05D 25/02
H04B 10/60- H04B 10/69
H04J 14/00- H04J 14/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフ用分光光度計であって、
光源と、
前記光源により発生された光を異なる複数の波長の光に分散させる回折格子であって、
前記回折格子の基準の角度に相当する基準位置に対する前記回折格子の角度と波長との関係が既知である、前記回折格子と、
前記回折格子の角度を変化させるモータであって、前記クロマトグラフ用分光光度計の電源がオフ時に前記回折格子の角度が前記基準位置と一致しない状態である、前記モータと、
前記回折格子により分散された複数の波長の光のうちいずれかの波長の光を受ける試料セルと、
前記試料セルを透過する光を検出する光検出器と、
前記クロマトグラフ用分光光度計の電源がオン状態にされるとき、前記基準位置を検出する基準位置検出部と、
検出された前記基準位置に基づいて前記モータを制御し、所望の波長の光を前記試料セルを通して前記光検出器に導くように前記回折格子の角度を調整する制御部と、を備え、
前記基準位置検出部は、前記光検出器の受光量が予め定められたピークより小さいしきい値以上になるまで前記モータを第1の方向に第1の角度ずつ回転させ、前記光検出器の受光量が前記しきい値以上になった後に、前記モータを前記第1の角度よりも小さい第2の角度ずつ回転させることにより前記光検出器の受光量の前記ピークが現れる前記モータの回転角度を検出し、検出された回転角度に基づいて前記基準位置を検出する、クロマトグラフ用分光光度計。
【請求項2】
前記基準位置検出部は、前記光検出器の受光量が前記しきい値以上になったときに前記モータを前記第1の角度よりも小さくかつ前記第2の角度よりも大きい第3の角度だけ前記第1の方向と逆の第2の方向に回転させた後に、前記モータを前記第2の角度ずつ回転させる、請求項1記載のクロマトグラフ用分光光度計。
【請求項3】
前記しきい値は、前記回折格子から前記試料セルを通して前記光検出器に導かれる0次光の受光量の最大値よりも小さくかつ0次光以外の光の受光量よりも大きく設定される、請求項1記載のクロマトグラフ用分光光度計。
【請求項4】
前記第1の角度は、前記回折格子から前記試料セルを通して前記光検出器に導かれる0次光の受光量のピークと前記しきい値との交点におけるピーク幅に相当する角度よりも小さい、請求項1~3のいずれか一項に記載のクロマトグラフ用分光光度計。
【請求項5】
分光光度計において回折格子の基準の角度に相当する基準位置を検出する基準位置検出方法であって、
前記基準位置に対する前記回折格子の角度と光の波長との関係が既知であり、
前記分光光度計の電源オフ時に前記回折格子の角度は、前記基準位置と一致しない状態であり、
前記分光光度計の電源がオン状態にされるとき、前記分光光度計において光源により光を発生させるステップと、
前記光源により発生された光を前記回折格子により異なる複数の波長の光に分散させ、前記分散された複数の波長の光のうちいずれかの波長の光を試料セルを通して光検出器に導くステップと、
前記光検出器の受光量が予め定められたピークより小さいしきい値以上になるまで前記回折格子を第1の方向に第1の角度ずつ回転させるステップと、
前記光検出器の受光量が前記しきい値以上になった後に、前記回折格子を前記第1の角度よりも小さい第2の角度ずつ回転させることにより前記光検出器の受光量の前記ピークが現れる前記回折格子の回転角度を検出するステップと、
前記検出された回転角度に基づいて前記基準位置を検出するステップとを含む、基準位置検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフ用分光光度計および基準位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分光光度計は、例えば液体クロマトグラフにおいて分析カラムで分離された試料の成分を検出するために使用されている。分光光度計は、光源、回折格子、フローセルおよび光検出器を備える。
【0003】
このような分光光度計では、例えば、光源により発生された光が回折格子により異なる波長を有する複数の光に分散される。分散された複数の光のうち、特定の波長を有する光がフローセルに導かれる。フローセルを透過した光は光検出器により検出される。この場合、分析対象である試料に応じて適切な波長が異なる。そのため、モータにより回折格子の角度が調整されることにより、試料の分析に適切な波長の光がフローセルに入射する。ここで、回折格子が予め定められた基準角度(以下、基準位置と呼ぶ。)にあるときに回折格子によりフローセルに導かれる光の波長は既知である。また、基準位置からの回折格子の回転角度とフローセルに入射する光の波長との関係も既知である。したがって、基準位置からの回折格子の回転角度を調整することにより、フローセルに所望の波長の光を導くことができる。
【0004】
一方、分光光度計の電源がオフされたときには、モータの回転軸は任意の角度で停止する。したがって、回折格子は基準位置で停止するとは限らない。
【0005】
特許文献1に記載の分光光度計では、回折格子(グレーティング)の近傍に回折格子がホームポジションにあることを検知するホームポジションセンサが設けられている。ホームポジションセンサは、例えばマイクロスイッチである。分光光度計の電源がオフになると、回折格子がホームポジションにあることをホームポジションセンサが検知するまで、モータが回折格子を一定パルス分ずつ回転させる。その後、モータは所定パルス分だけ回折格子を反対方向に回転させる。分光光度計の電源がオンになると、回折格子がホームポジションにあることをホームポジションセンサが検知するまで、モータが1パルス分ずつ回折格子を回転させる。
【文献】特開2018-13412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の分光光度計では、回折格子をホームポジションに位置決めするためにホームポジションセンサが必要である。回折格子の取り付け部材に突起が設けられ、ホームポジションセンサとして、突起を検出するフォトインタラプタが用いられることもある。これらの場合、ホームポジションセンサによる部品コストが必要になるとともに、ホームポジションセンサを取り付けるための製造コストが必要となる。
【0007】
本発明の目的は、回折格子の基準位置を検出するためのコストの低減を可能とする分光光度計および基準位置検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従うクロマトグラフ用分光光度計は、光源と、前記光源により発生された光を異なる複数の波長の光に分散させる回折格子と、前記回折格子の角度を変化させるモータと、前記回折格子により分散された複数の波長の光のうちいずれかの波長の光を受ける試料セルと、前記試料セルを透過する光を検出する光検出器と、前記光検出器の受光量が予め定められたしきい値以上になるまで前記モータを第1の方向に第1の角度ずつ回転させ、前記光検出器の受光量が前記しきい値以上になった後に、前記モータを前記第1の角度よりも小さい第2の角度ずつ回転させることにより前記光検出器の受光量のピークが現れる前記モータの回転角度を検出し、検出された回転角度に基づいて前記回折格子の基準の角度に相当する基準位置を検出する基準位置検出部とを備える。
【0009】
本発明の他の局面に従う基準位置検出方法は、分光光度計において回折格子の基準の角度に相当する基準位置を検出する基準位置検出方法であって、前記分光光度計において光源により光を発生させるステップと、前記光源により発生された光を回折格子により異なる複数の波長の光に分散させ、前記分散された複数の波長の光のうちいずれかの波長の光を試料セルを通して光検出器に導くステップと、前記光検出器の受光量が予め定められたしきい値以上になるまで前記回折格子を第1の方向に第1の角度ずつ回転させるステップと、前記光検出器の受光量が前記しきい値以上になった後に、前記回折格子を前記第1の角度よりも小さい第2の角度ずつ回転させることにより前記光検出器の受光量のピークが現れる前記回折格子の回転角度を検出するステップと、前記検出された回転角度に基づいて前記基準位置を検出するステップとを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、分光光度計における回折格子の基準位置を検出するためのコストの低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は一実施の形態に係るクロマトグラフ用分光光度計の構成を示すブロック図である。
図2図2は回折格子の構成を示す模式図である。
図3図3図1の検出器制御部の機能的な構成を示すブロック図である。
図4図4は実施の形態に係る基準位置検出方法を示すフローチャートである。
図5図5はモータに与えられる制御パルス数による光検出器の受光量の変化の一例を示す図である。
図6図6図5のA部の拡大図である。
図7図7図1の分光光度計を含む液体クロマトグラフの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態に係るクロマトグラフ用分光光度計および基準位置検出方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
(1)分光光度計の構成
図1は一実施の形態に係るクロマトグラフ用分光光度計の構成を示すブロック図である。本実施の形態に係る分光光度計は、例えば液体クロマトグラフに用いられる。
【0014】
図1の分光光度計10は、光源11、減光フィルタ12、回折格子13、フローセル14、光検出器15、モータ16および検出器制御部30を含む。本実施の形態では、光源11は、例えば重水素ランプである。モータ16は、回折格子13を回転させる。本実施の形態では、分光光度計10は、基準位置検出動作および通常動作を行う。ここで、基準位置とは、予め定められた波長の光がフローセル14を通して光検出器15に導かれるような回折格子13の角度をいう。本実施の形態では、回折格子13の基準位置は、回折格子13により反射される0次光がフローセル14を通して光検出器15に入射するときの回折格子13の角度と定義される。
【0015】
基準位置検出動作時には、光源11により発生された光は、減光フィルタ12を通過することにより減衰される。減衰された光は、ミラー等の光学系(図示せず)により回折格子13に導かれる。なお、光を減衰させる機構は、減光フィルタ12に限定されず、他の部材又は装置等を用いてもよい。なお、光源11の光量が小さい場合には、減光フィルタ12が設けられなくてもよい。一方、通常動作時には、光源11により発生された光は、減光フィルタ12を通過せずに光学系により回折格子13に導かれる。回折格子13は、入射光を複数の波長の光に分散させるように反射する。この場合、回折格子13により反射される複数の波長の光はそれぞれ異なる角度に反射される。回折格子13からの0次光は複数の波長の光を含む。したがって、0次光の強度は、いずれの波長の光の強度よりも高い。
【0016】
回折格子13により分散された光のうちいずれかの波長を有する光がミラー等の光学系(図示せず)によりフローセル14に導かれる。フローセル14は、試料セルの例である。回折格子13の角度に応じてフローセル14に導かれる光の波長が変化する。フローセル14には、例えば液体クロマトグラフの分析カラム(分離カラム)から供給される移動相および試料が流れる。フローセル14を透過した光は光検出器15に導かれる。光検出器15は、例えばフォトダイオードを含み、入射した光の強度を検出する。光検出器15により検出される光の強度は光検出器15の受光量と等価である。
【0017】
試料の種類により分析に適した光の波長が異なる。したがって、試料の分析に適した波長の光がフローセル14を通して光検出器15に入射するように回折格子13の角度を調整する必要がある。
【0018】
検出器制御部30は、入出力I/F(インタフェース)31、CPU(中央演算処理装置)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34および記憶装置35を含む。入出力I/F31、CPU32、RAM33、ROM34および記憶装置35はバス38に接続されている。
【0019】
記憶装置35は、半導体メモリまたはメモリカード等の記憶媒体を含み、検出器制御プログラムを記憶する。RAM33は、CPU32の作業領域として用いられる。ROM34にはシステムプログラムが記憶される。CPU32は、記憶装置35に記憶された検出器制御プログラムをRAM33上で実行することにより入出力I/F31を通して光源11、減光フィルタ12およびモータ16を制御するとともに光検出器15の出力信号を入出力I/F31を通して受ける。また、検出器制御プログラムは、基準位置検出プログラムを含む。CPU32が記憶装置35に記憶された基準位置検出プログラムをRAM33上で実行することにより後述する基準位置検出方法が実施される。入出力I/F31は、例えば液体クロマトグラフの分析制御部50(図7)に接続される。
【0020】
(2)回折格子の構成および動作
図2は回折格子の構成を示す模式図である。図2に示されるように、回折格子13は、回折格子反射面13aを有する。回折格子13は、取り付け部材13bによりモータ16の回転軸16aに取り付けられる。本実施の形態では、モータ16はステッピングモータである。図1の検出器制御部30がモータ16に制御パルスを含むパルス信号および回転方向を指示する回転方向指示信号を与える。モータ16に制御パルスが与えられるごとに回転方向指示信号により指示された方向に回転軸16aが一定角度ずつ回転する。それにより、回折格子13が矢印Rで示すように正方向または逆方向に一定角度ずつ回転する。この場合、1つの制御パルスがモータ16の一定の回転角度に対応する。例えば、40000個の制御パルスが与えられることによりモータ16が1回転する場合、1つの制御パルス当たりのモータ16の回転角度は0.009度である。
【0021】
試料の分析が行われた後に、分光光度計10の電源がオフされると、通常、回折格子13の角度は基準位置とは一致していない。この場合、分光光度計10の電源がオフされたときに、基準位置に対する回折格子13の角度を検出する必要がある。そのためには、電源オン時の回折格子13の初期状態に対する基準位置を検出する必要がある。基準位置に対する回折格子13の角度と光検出器15に入射する光の波長との関係は既知である。したがって、基準位置が検出されると、試料に応じて所望の波長の光をフローセル14を通して光検出器15に導くように回折格子13の角度を設定することができる。本実施の形態では、通常動作前の基準位置検出動作により回折格子13の基準位置が検出される。
【0022】
(3)検出器制御部の機能的な構成
図3図1の検出器制御部の機能的な構成を示すブロック図である。図3に示すように、検出器制御部30は、光源駆動部301、モータ駆動部302、受光量取得部303、記憶部304、基準位置検出部305、動作切替部306および通常動作制御部307を含む。上記の構成要素(301~307)の機能は、図1のCPU32が記憶装置等の記憶媒体(記録媒体)に記憶されたコンピュータプログラムである検出器制御プログラムを実行することにより実現される。なお、検出器制御部30の一部または全ての構成要素が電子回路等のハードウェアにより実現されてもよい。
【0023】
光源駆動部301は、光源11をオンおよびオフする。モータ駆動部302は、モータ16を正方向または逆方向に回転させるために制御パルスを含むパルス信号および回転方向を指示する方向指示信号をモータ16に与える。受光量取得部303は、光検出器15の出力信号に基づいて、光検出器15の受光量を取得するとともに、モータ駆動部302からパルス信号および方向指示信号を取得する。また、受光量取得部303は、パルス信号に含まれる制御パルスの数を積算する。この場合、受光量取得部303は、方向指示信号により指示された回転方向が正方向である場合には、パルス信号に含まれる制御パルスの数を加算する。また、方向指示信号により指示された回転方向が逆方向である場合には、パルス信号に含まれる制御パルスの数を減算する。これにより、制御パルス数と受光量との関係が求められる。制御パルス数の変化に応じた受光量の変化は、記憶部304に順次記憶される。
【0024】
基準位置検出部305は、モータ駆動部302を制御するとともに、記憶部304に記憶された受光量の変化に基づいて回折格子13の基準位置を検出する。基準位置検出方法の詳細については後述する。動作切替部306は、基準位置検出動作と通常動作とを切り替える。また、動作切替部306は、基準位置検出動作時に減光フィルタ12を光源11と回折格子13との間の光路に挿入し、通常動作時に減光フィルタ12を光源11と回折格子13との間の光路から除外する。なお、光源11の光量が小さい場合には、減光フィルタ12が設けられなくてもよい。通常動作制御部307は、記憶部304に記憶された基準位置に基づいて、モータ16を制御することにより基準位置からの回折格子13の角度を調整する。この場合、通常動作制御部307は、試料に応じた波長の光がフローセル14を通して光検出器15に導かれるように、回折格子13の角度を調整する。
【0025】
(4)基準位置検出方法
図4は実施の形態に係る基準位置検出方法を示すフローチャートである。図5はモータ16に与えられる制御パルス数による光検出器15の受光量の変化の一例を示す図である。図6図5のA部の拡大図である。図5および図6の縦軸は、光検出器15の受光量を示し、横軸はモータ16に与えられる制御パルス数を示す。図5および図6の制御パルス数は、モータ16が正方向に回転する場合には加算され、モータ16が逆方向に回転する場合には減算される。図5および図6に示すように、0次光のピークを検出するためのしきい値Thが予め設定される。本実施の形態では、しきい値Thは、回折格子13からフローセル14を通して光検出器15に導かれる0次光の受光量のピーク値(最大値)よりも小さくかつ0次光以外の光の受光量よりも大きく設定される。図4の基準位置検出方法は、基準位置検出プログラムの実行により実施される。
【0026】
動作切替部306は分光光度計10の電源がオンされたか否かを判定する(ステップS1)。電源がオンされた場合には、光源駆動部301は光源11をオンにする(ステップS2)。この状態で、動作切替部306は、基準位置検出動作を行うように基準位置検出部305に指示するとともに、光源11と回折格子13との間の光路に減光フィルタ12を光路に挿入する(ステップS3)。モータ駆動部302は、モータ16にM個の制御パルスを与えることにより、回折格子13を正方向に第1の角度回転させる(ステップS4)。Mは例えば20である。本実施の形態では、第1の角度が0次光のピークとしきい値Thとの交点における0次光のピークの幅よりも小さくなるように制御パルス数Mが設定される。
【0027】
受光量取得部303は光検出器15の出力信号に基づいて光検出器15の受光量を取得する(ステップS5)。受光量取得部303により取得された受光量は、記憶部304に記憶される。基準位置検出部305は、記憶部304に記憶された受光量が、予め設定されたしきい値Th以上であるか否かを判定する(ステップS6)。受光量がしきい値Thよりも低い場合には、モータ駆動部302は、ステップS4に戻り、モータ16にM個の制御パルスを与えることにより、回折格子13を正方向にさらに第1の角度回転させる。受光量がしきい値Th以上になるまで、ステップS4~S6の処理が繰り返される。ステップS4~S6の処理により回折格子13の角度が基準位置に近づくように回折格子13の粗調整が行われる。
【0028】
ステップS6において受光量がしきい値Th以上である場合には、モータ駆動部302は、モータ16にK個の制御パルスを与えることにより、回折格子13を逆方向に第3の角度回転させる(ステップS7)。K個は、例えばMの半分であり、本例では10個である。
【0029】
図5の例では、回折格子13が初期状態から制御パルス数P1に相当する角度だけ正方向に回転したときの受光量がしきい値Th以上である。このとき、回折格子13の回転角度は、受光量がピーク値となる角度を超えている。また、図6に示すように、制御パルス数P1に相当する角度から、回折格子13が制御パルス数Kに相当する角度だけ逆方向に戻る。それにより、回折格子13の角度は、初期状態から制御パルス数P2に相当する角度となる。このとき、回折格子13の回転角度は、受光量がピーク値となる角度よりも小さい。
【0030】
次に、モータ駆動部302は、モータ16にN個の制御パルスを与えることにより、回折格子13を正方向に第2の角度回転させる(ステップS8)。NはMおよびKよりも小さく、例えば1である。
【0031】
受光量取得部303は、光検出器15の出力信号に基づいて光検出器15の受光量を取得する(ステップS9)。受光量取得部303により取得された受光量は、記憶部304に記憶される。基準位置検出部305は、記憶部304に記憶された受光量のピーク値が検出されたか否かを判定する(ステップS10)。受光量のピーク値が検出されない場合には、モータ駆動部302は、ステップS8に戻り、モータ16にN個の制御パルスを与えることにより回折格子13を正方向にさらに第2の角度回転させる。受光量のピーク値が検出されるまで、ステップS8~S10の処理が繰り返される。
【0032】
図6の例では、回折格子13の角度が制御パルス数P2に相当する角度である状態から制御パルスが1個ずつモータ16に与えられ、回折格子13が第3の角度ずつ回転する。それにより、受光量が徐々に増加し、回折格子13の角度が制御パルス数P3に相当する角度であるときに受光量がピーク値(最大値)Peとなる。この場合、回折格子13の角度が制御パルス数P4に相当する角度まで回転したときに受光量が減少する。それにより、制御パルス数P4に相当する角度の前の制御パルス数P3に相当する角度で受光量がピーク値Peとなると判定することができる。受光量のピーク値Peが検出されたか否かの判定方法は、上記の方法に限定されず、他の方法が用いられてもよい。
【0033】
ステップS10において受光量のピーク値が検出された場合には、基準位置検出部305は、受光量のピーク値に対応する制御パルス数を基準位置として記憶部304に記憶させる(ステップS11)。図6の例では、制御パルス数P3が基準位置として記憶部304に記憶される。ステップS8~S10の処理により基準位置に対応する制御パルスが正確に検出される。
【0034】
その後、動作切替部306は、通常動作制御部307に通常動作を指示する。記憶部304には、基準位置からの回折格子13の回転角度と波長との関係が予め記憶されている。分光光度計の電源がオンしてからモータ16に与えられた制御パルス数は、通常動作制御部307に与えられている。通常動作制御部307は、例えば、モータ16に与えられた制御パルス数と基準位置に相当する制御パルス数との差を算出し、制御パルス数の差が試料に応じて指定された波長に対応するようにモータ駆動部302によりモータ16を回転させる。それにより、光源11により発生された光のうち、指定された波長の光がフローセル14を通して光検出器15に導かれる。
【0035】
(5)液体クロマトグラフ
図7図1の分光光度計10を含む液体クロマトグラフの構成を示すブロック図である。
【0036】
図7の液体クロマトグラフ100は、移動相用のポンプ110、試料導入部120、導入ポート130、分析カラム140、カラムオーブン150および分光光度計10を含む。分析カラム140は、カラムオーブン150内に設けられる。カラムオーブン150は、分析カラム140を設定された温度に維持する。
【0037】
ポンプ110は、移動相容器111内の移動相(溶離液)を吸引し、分析カラム140に供給する。試料導入部120は、例えばオートサンプラまたはインジェクタを含み、分析対象である試料を導入ポート130において移動相に導入する。分析カラム140を通過した移動相および試料は、分光光度計10のフローセル14(図1参照)を流れ、廃液容器112に排出される。
【0038】
液体クロマトグラフ100は、分析制御部50、操作部51および表示部52を含む。操作部51は、使用者が分析制御部50に種々の指令を与えるために用いられる。分析制御部50は、ポンプ110、試料導入部120、カラムオーブン150および分光光度計10を制御する。また、分析制御部50は、分光光度計10の出力信号に基づいてクロマトグラムを生成する。生成されたクロマトグラムは表示部52に表示される。
【0039】
(6)実施の形態の効果
本実施の形態に係るクロマトグラフ用分光光度計10および液体クロマトグラフ100においては、光検出器15の受光量が予め定められたしきい値Th以上になるまでモータ16が正方向に第1の角度ずつ回転される。それにより、短時間で回折格子13が基準位置の近くに粗調整される。その後、モータ16が第1の角度よりも小さい第2の角度ずつ回転されることにより、光検出器15の受光量のピーク値が現れるモータ16の回転角度に相当する制御パルス数が検出される。それにより、回折格子13の基準位置が正確に検出される。この場合、回折格子13の基準位置を検出するためにホームポジションセンサ等の追加の部材または素子が必要でない。したがって、分光光度計10における回折格子13の基準位置を検出するためのコストの低減が可能となる。
【0040】
また、本実施の形態では、光検出器15の受光量がしきい値Th以上になったときに第3の角度だけモータ16が逆方向に回転される。そのため、第1の角度が比較的大きく設定された場合でも、光検出器15の受光量のピーク値が現れるモータ16の回転角度を検出することが可能となる。それにより、回折格子13の基準位置を短時間で検出することが可能となる。
【0041】
さらに、本実施の形態では、最も高い強度を有する0次光の受光量に基づいて回折格子13の基準位置をより正確に検出することができる。
【0042】
また、第1の角度は、回折格子13からフローセル14を通して光検出器15に導かれる0次光のピークとしきい値Thとの交点におけるピーク幅に相当する角度よりも小さく設定される。それにより、回折格子13の第1の角度の回転前の時点と回折格子13の第1の角度の回転後の時点との間で受光量がしきい値Thを超える状況が生じない。そのため、受光量がしきい値Th以上となる角度を確実に検出することができる。したがって、受光量がしきい値Th以上となる角度が検出されない場合に、第1の角度を小さく再設定する等の処理を行う必要がない。その結果、回折格子13の基準位置を短時間で確実に検出することができる。
【0043】
(7)他の実施の形態
上記実施の形態では、回折格子13からの0次光のピークが現れる制御パルス数に相当する回折格子13の角度が基準位置として検出されるが、基準位置はこれに限定されない。例えば、回折格子13が回転されたときに得られる特定の波長のピークが現れる回折格子13の角度が基準位置として検出されてもよい。
【0044】
上記実施の形態では、モータ16の正方向への第1の角度の回転により光検出器15の受光量がしきい値Th以上となったときにモータ16が第3の角度逆方向に回転される。しかしながら、モータ16が逆方向へ第3の角度回転されることは必ずしも必要でない。例えば、モータ16の正方向への第1の角度の回転により回折格子13の角度がピーク値に対応する角度を超えることがない場合がある。この場合、光検出器15の受光量がしきい値Th以上となったときにモータ16が逆方向に回転されずに回折格子13の微調整が行われてもよい。
【0045】
上記実施の形態では、しきい値Thが0次光の受光量の最大値よりも小さくかつ0次光の受光量よりも大きく設定されるが、しきい値Thはこれに限定されない。例えば、0次光ではない特定の波長を有する光の受光量のピークに基づいて基準位置が検出される場合には、しきい値Thが特定の波長を有する光の受光量のピーク値よりも小さくかつ他の波長を有する光の受光量よりも大きく設定されてもよい。
【0046】
上記実施の形態では、第1の角度に相当する制御パルス数Mが0次光の受光量のピークとしきい値Thとの交点におけるピーク幅に相当する制御パルス数よりも小さく設定されるが、制御パルス数Mはこれに限定されない。例えば、制御パルス数Mが最初は大きく設定され、回折格子13が一定の角度範囲内で回転しているときに、受光量がしきい値Th以上にならない場合に制御パルス数Mが小さくされる処理が行われてもよい。
【0047】
基準位置検出動作時にモータ16が1回転されてもよく、予め定められた角度範囲内で回転されてもよい。また、回折格子13を回転させるために、モータ、ベルトおよびプーリを用いた機構を用いてもよい。
【0048】
上記実施の形態では、分光光度計10が液体クロマトグラフ100に用いられているが、分光光度計10が超臨界クロマトグラフ等の他のクロマトグラフに用いられてもよい。
【0049】
上記実施の形態では、光源11が重水素ランプであるが、光源11がタングステンランプ等の他のランプであってもよく、発光ダイオード等の他の発光素子であってもよい。
【0050】
(8)態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0051】
(第1項) 一態様に係るクロマトグラフ用分光光度計は、
光源と、
前記光源により発生された光を異なる複数の波長の光に分散させる回折格子と、
前記回折格子の角度を変化させるモータと、
前記回折格子により分散された複数の波長の光のうちいずれかの波長の光を受ける試料セルと、
前記試料セルを透過する光を検出する光検出器と、
前記光検出器の受光量が予め定められたしきい値以上になるまで前記モータを第1の方向に第1の角度ずつ回転させ、前記光検出器の受光量が前記しきい値以上になった後に、前記モータを前記第1の角度よりも小さい第2の角度ずつ回転させることにより前記光検出器の受光量のピークが現れる前記モータの回転角度を検出し、検出された回転角度に基づいて前記回折格子の基準の角度に相当する基準位置を検出する基準位置検出部とを備えてもよい。
【0052】
第1項に記載のクロマトグラフ用分光光度計によれば、光検出器の受光量が予め定められたしきい値以上になるまでモータが第1の方向に第1の角度ずつ回転される。それにより、短時間で回折格子が基準位置の近くに調整される。その後、モータが第1の角度よりも小さい第2の角度ずつ回転されることにより、光検出器の受光量のピークが現れるモータの回転角度が検出される。それにより、回折格子の基準位置が正確に検出される。
【0053】
この場合、回折格子の基準位置を検出するために追加の部材または素子が必要でない。したがって、分光光度計における回折格子の基準位置を検出するためのコストの低減が可能となる。
【0054】
(第2項) 第1項に記載のクロマトグラフ用分光光度計において、
基準位置検出部は、前記光検出器の受光量が前記しきい値以上になったときに前記モータを前記第1の角度よりも小さくかつ前記第2の角度よりも大きい第3の角度だけ前記第1の方向と逆の第2の方向に回転させた後に、前記モータを前記第2の角度ずつ回転させてもよい。
【0055】
第2項に記載のクロマトグラフ用分光光度計によれば、第1の角度が比較的大きく設定された場合でも、光検出器の受光量のピークが現れるモータの回転角度を検出することが可能となる。それにより、基準位置をより短時間で検出することができる。
【0056】
(第3項) 第1項に記載のクロマトグラフ用分光光度計において、
前記しきい値は、前記回折格子から前記試料セルを通して前記光検出器に導かれる0次光の受光量の最大値よりも小さくかつ0次光以外の光の受光量よりも大きく設定されてもよい。
【0057】
第3項に記載のクロマトグラフ用分光光度計によれば、最も高い強度を有する0次光の強度に基づいて回折格子の基準位置をより正確に検出することができる。
【0058】
(第4項) 第1、第2または第3項に記載のクロマトグラフ用分光光度計において、前記第1の角度は、前記回折格子から前記試料セルを通して前記光検出器に導かれる0次光の受光量のピークと前記しきい値との交点におけるピーク幅に相当する角度よりも小さくなってもよい。
【0059】
第4項に記載のクロマトグラフ用分光光度計によれば、回折格子の第1の角度の回転前の時点と回折格子の第1の角度の回転後の時点との間で受光量がしきい値を超える状況が生じない。それにより、光検出器の受光量のピークが検出されない場合の処理を行う必要がない。したがって、回折格子の基準位置をより短時間で確実に検出することが可能となる。
【0060】
(第5項) 他の態様に係る基準位置検出方法は、分光光度計において回折格子の基準の角度に相当する基準位置を検出する基準位置検出方法であって、
前記分光光度計において光源により光を発生させるステップと、
前記光源により発生された光を回折格子により異なる複数の波長の光に分散させ、前記分散された複数の波長の光のうちいずれかの波長の光を試料セルを通して光検出器に導くステップと、
前記光検出器の受光量が予め定められたしきい値以上になるまで前記回折格子を第1の方向に第1の角度ずつ回転させるステップと、
前記光検出器の受光量が前記しきい値以上になった後に、前記回折格子を前記第1の角度よりも小さい第2の角度ずつ回転させることにより前記光検出器の受光量のピークが現れる前記回折格子の回転角度を検出するステップと、
前記検出された回転角度に基づいて前記基準位置を検出するステップとを含んでもよい。
【0061】
第5項に記載の基準位置検出方法によれば、光検出器の受光量が予め定められたしきい値以上になるまで回折格子が第1の方向に第1の角度ずつ回転される。それにより、短時間で回折格子が基準位置の近くに調整される。その後、回折格子が第1の角度よりも小さい第2の角度ずつ回転されることにより、光検出器の受光量のピークが現れる回折格子の回転角度が検出される。それにより、回折格子の基準位置が正確に検出される。
【0062】
この場合、回折格子の基準位置を検出するために追加の部材または素子が必要でない。したがって、分光光度計における回折格子の基準位置を検出するためのコストの低減が可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7