(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】留置針
(51)【国際特許分類】
A61M 5/158 20060101AFI20250109BHJP
A61M 25/06 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A61M5/158 500H
A61M25/06 500
(21)【出願番号】P 2021556190
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2020042504
(87)【国際公開番号】W WO2021095873
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2019206240
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 慎吾
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-279107(JP,A)
【文献】国際公開第2006/027923(WO,A1)
【文献】特開2000-279527(JP,A)
【文献】特開平08-257129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/158
A61M 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に穿刺される内針と、
前記内針が貫通し該内針が生体に穿刺されることで該内針とともに生体内に挿入される外針と、
前記外針の基端が固定され前記内針が抜去された場合に前記外針の内部に連通する流路を有するハブと、
前記ハブの内部に配置され前記内針が貫通するとともに、前記内針が抜去された場合に前記ハブの基端側を塞ぐ弾性部材と、を備え、
前記ハブの側面には、前記流路に流体を流通させるポートが設けられ、
前記流路は、前記外針の軸方向から流入した流体が前記ポートの軸方向に流れ方向を変換し、又は前記ポートの軸方向から流入した流体が前記外針の軸方向に流れ方向を変換する変換部を有し、
前記変換部における前記流路は
、前記弾性部材により
トンネル状に形成されると共に、円形状の断面を有
し、
前記変換部を前記外針の軸及び前記ポートの軸の両方に垂直な方向から見た場合に、前記流路における前記外針側の壁面及び、前記外針と反対側の壁面はともに、前記外針と反対側に凸となる湾曲形状を有することを特徴とする、
留置針。
【請求項2】
前記流路と前記ポートとの接続部分の少なくとも一部は前記弾性部材によって形成され、
前記接続部分における、前記ポートの前記流路に対する開口部の断面形状と、前記流路の前記ポートに対する開口部の断面形状とは同一であることを特徴とする、
請求項1に記載の留置針。
【請求項3】
生体に穿刺される内針と、
前記内針が貫通し該内針が生体に穿刺されることで該内針とともに生体内に挿入される外針と、
前記外針の基端が固定され前記内針が抜去された場合に前記外針の内部に連通する流路を有するハブと、
前記ハブの内部に配置され前記内針が貫通するとともに、前記内針が抜去された場合に前記ハブの基端側を塞ぎ、先端において前記外針の基端と結合する弾性部材と、を備え、
前記ハブの側面には、前記流路に流体を流通させるポートが設けられ、
前記流路は、少なくとも一部が前記弾性部材により形成されると共に前記外針の軸方向から流入した流体が前記ポートの軸方向に流れ方向を変換する変換部を有し、
前記弾性部材の先端は、前記ポートより先端側に延在し
、
前記外針の基端には、前記弾性部材の先端が外挿されていることを特徴とする、
留置針。
【請求項4】
前記流路の前記ポート側または前記外針側の壁面の内周壁は前記弾性部材により形成されていることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか一項に記載の留置針。
【請求項5】
前記外針の軸方向から見た場合に、前記ハブ内における前記弾性部材の周方向の相対位置を規定する規定手段が設けられたことを特徴とする、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の留置針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に穿刺されて留置される外針を備えた留置針に関する。
【背景技術】
【0002】
人工透析を行う場合に使用される医療器具として、留置針やカテーテルチューブ(例えば特許文献1)などが開発されている。留置針は、人工透析を行う患者の血管内に穿刺される内針と、当該内針が貫通し該内針が生体に穿刺されることで該内針とともに患者の血管に挿入される外針と、を備えている。そして、外針を患者の血管内に留置させ、当該外針を介して患者から採血を行う、あるいは透析済みの血液を患者の体内へ戻す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような留置針の本体側面には、特許文献1のように、外針の中空部分と連通し、人工透析装置等の外部装置から供給された血液を外針の中空部分へ流入させるポートが設けられることが考えられる。しかしながら、留置針本体内における入口と出口により形成される血液の流れから外れた流路(例えば、特許文献1におけるポートとシールゴムとの間の流路)がある場合、当該流路において血液が滞留することになる。その結果、流路内において血液が凝固し、固形化された血塊が患者の体内へ戻される等の不都合が生じることが考えられる。
【0005】
そこで、本願は、留置針の内部における血液の滞留を抑制する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0007】
すなわち本発明の一側面に係る留置針は、生体に穿刺される内針と、前記内針が貫通し該内針が生体に穿刺されることで該内針とともに生体内に挿入される外針と、前記外針の基端が固定され前記内針が抜去された場合に前記外針の内部に連通する流路を有するハブと、前記ハブの内部に配置され前記内針が貫通するとともに、前記内針が抜去された場合に前記ハブの基端側を塞ぐ弾性部材と、を備え、前記ハブの側面には、前記流路に流体を流通させるポートが設けられ、前記流路は、前記外針の軸方向から流入した流体が前記ポートの軸方向に流れ方向を変換し、又は前記ポートの軸方向から流入した流体が前記外針の軸方向に流れ方向を変換する変換部を有し、前記変換部における前記流路は、少なくとも一部が前記弾性部材により形成されると共に、円形状の断面を有することを特徴とする、留置針である。
【0008】
当該構成によれば、患者の血管からポートへ血液の流れ方向が変換される時に、流れ方向に対する軸回りが滑らかであるため、当該血液が流れ方向にスムーズに流れ、変換部における流路において一部に血液の滞留部が形成されてしまうことが抑制される。また、逆に、患者の血管へ供給される血液がポートから外針の内部へ向かう時に、当該血液が変換部において滞留することも抑制される。また、ここにおいて円形状とは真円のみを意味せず、円形に近い形状を含む。より具体的には、楕円形、長円形、卵形の他、略円形で半径に若干の変動があるような場合も含む概念である。
【0009】
また、本発明の一側面に係る留置針は、生体に穿刺される内針と、前記内針が貫通し該内針が生体に穿刺されることで該内針とともに生体内に挿入される外針と、前記外針の基端が固定され前記内針が抜去された場合に前記外針の内部に連通する流路を有するハブと、前記ハブの内部に配置され前記内針が貫通するとともに、前記内針が抜去された場合に前記ハブの基端側を塞ぐ弾性部材と、を備え、前記ハブの側面には、前記流路に流体を流通させるポートが設けられ、前記流路は、少なくとも一部が前記弾性部材により形成されると共に前記外針の軸方向から流入した流体が前記ポートの軸方向に流れ方向を変換する変換部を有し、前記流路と前記ポートとの接続部分の少なくとも一部は前記弾性部材によって形成され、前記接続部分における、前記ポートの前記流路に対する開口部の断面形状と、前記流路の前記ポートに対する開口部の断面形状とは同一であることを特徴とする、留置針であってもよい。
【0010】
当該構成によれば、弾性部材によって流路のポートに対する開口部の断面形状をポートの流路に対する開口部の断面形状と合わせることが容易にできる。結果、接続部分において、流路を形成する側壁とポートの内部の側壁とを滑らかに連続させることができる。よって、接続部分において、血液が滞留することは抑制される。なお、流路のポートに対する開口部は弾性部材とハブ又はハブ内に挿入された別部材とによって形成されてもよいし、弾性部材単独で形成されてもよい。
【0011】
また、本発明の一側面に係る留置針は、生体に穿刺される内針と、前記内針が貫通し該内針が生体に穿刺されることで該内針とともに生体内に挿入される外針と、前記外針の基端が固定され前記内針が抜去された場合に前記外針の内部に連通する流路を有するハブと、前記ハブの内部に配置され前記内針が貫通するとともに、前記内針が抜去された場合に前記ハブの基端側を塞ぎ、先端において前記外針の基端と結合する弾性部材と、を備え、前記ハブの側面には、前記流路に流体を流通させるポートが設けられ、前記流路は、少なくとも一部が前記弾性部材により形成されると共に前記外針の軸方向から流入した流体が前記ポートの軸方向に流れ方向を変換する変換部を有し、前記弾性部材の先端は、前記ポートより先端側に延在していることを特徴とする、留置針であってもよい。
【0012】
当該構成によれば、外針基端と弾性弁体の位置が近く、外針基端と弾性弁体の間のスペースを小さくすることができ、流体が滞留することは抑制される。
【0013】
また、本発明の一側面に係る留置針は、生体に穿刺される内針と、前記内針が貫通し該内針が生体に穿刺されることで該内針とともに生体内に挿入される外針と、前記外針の基端が固定され前記内針が抜去された場合に前記外針の内部に連通する流路を有するハブと、前記ハブの内部に配置され前記内針が貫通するとともに、前記内針が抜去された場合に前記ハブの基端側を塞ぐ弾性部材と、を備え、前記ハブの側面には、前記流路に流体を流通させるポートが設けられ、前記流路の少なくとも一部は、前記弾性部材に形成されたトンネル状の流路であることを特徴とする、留置針であってもよい。
【0014】
当該構成によれば、流路の少なくとも一部は弾性部材に形成されたトンネル状流路であり、流路の側壁は弾性部材の表面のみから形成されている。よって、外針からポートの間の流路において血液が滞留し得るスペースを小さくすることができ、流路内において流体をスムーズに流すことができる。
【0015】
また、本発明の一側面に係る留置針は、生体に穿刺される内針と、前記内針が貫通し該内針が生体に穿刺されることで該内針とともに生体内に挿入される外針と、前記外針の基端が固定され前記内針が抜去された場合に前記外針の内部に連通する流路を有するハブと、前記ハブの内部に配置され前記内針が貫通するとともに、前記内針が抜去された場合に前記ハブの基端側を塞ぐ弾性部材と、を備え、前記ハブの側面には、前記流路に流体を流通させるポートが設けられ、前記流路は、少なくとも一部が前記弾性部材により形成されると共に前記外針の軸方向から流入した流体が前記ポートの軸方向に流れ方向を変換する変換部を有し、前記流路の前記ポート側または前記外針側の壁面の内周壁は前記弾性部材により形成されていることを特徴とする、留置針である。
【0016】
当該構成によれば、外針からポートの間の流路において血液が滞留し得るスペースを小さくすることができ、流路内において流体をスムーズに流すことができる。
【0017】
また、本発明の一側面に係る留置針は、生体に穿刺される内針と、前記内針が貫通し該内針が生体に穿刺されることで該内針とともに生体内に挿入される外針と、前記外針の基端が固定され前記内針が抜去された場合に前記外針の内部に連通する流路を有するハブと、前記ハブの内部に配置され前記内針が貫通するとともに、前記内針が抜去された場合に前記ハブの基端側を塞ぐ弾性部材と、を備え、前記ハブの側面には、前記流路に流体を流通させるポートが設けられ、前記流路は、少なくとも一部が前記弾性部材により形成されると共に前記外針の軸方向から流入した流体が前記ポートの軸方向に流れ方向を変換する変換部を有し、前記変換部を前記外針の軸及び前記ポートの軸の両方に垂直な方向から見た場合に、前記流路における前記外針側の壁面及び、前記外針と反対側の壁面はともに、前記外針と反対側に凸となる湾曲形状を有していることを特徴とする、留置針であってもよい。
【0018】
当該構成によれば、流路の流れ方向を変える変換部の対向側において、血液が滞留し得るスペースを小さくすることができ、流路内において流体をスムーズに流すことができる。
【0019】
また、上記一側面における留置針において、前記外針の軸方向から見た場合に、前記ハブ内における前記弾性部材の周方向の相対位置を規定する規定手段が設けられたことを特徴としてもよい。
【0020】
当該構成によれば、弾性部材に流路に流体を流通させる開口が設けられている場合、当該弾性部材の開口とハブの側面に設けられるポートの開口との位置を合致させることができる。つまり、ポートに外部管が接続される場合、外部管からポートを介して弾性部材の流路に流体を流通可能なように、留置針を容易に組み立てることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、留置針の内部における血液の滞留を抑制する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】
図3は、
図2におけるA―A矢印断面の部分拡大図を示している。
【
図6C】
図6Cは、ポート軸方向と、ポート軸方向と垂直な方向と、各曲率との関係を示している。
【
図7】
図7は、シールゴムが本体部の中空部分と嵌合している状態において、中心軸方向に対して垂直な断面の一例を示している。
【
図11】
図11は、リブと溝とが設けられていない留置針において、ハブの中心軸方向に対して垂直な断面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であり、本発明の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0024】
<留置針の概要>
図1-
図3は、本発明の実施形態に係る留置針1の概要の一例を示している。
図1は、留置針1の斜視図を示している。
図2は、留置針1の三面図を示している。
図3は、
図2におけるA―A矢印断面の部分拡大図を示している。
【0025】
まず、
図1及び
図2を用いて留置針1の概略を説明する。
図1及び
図2に示されるように、留置針1は、中空状の内針2と、内針2の外面を覆うように設けられる円筒状の外針3と、を備える。内針2は、外針3の先端の開口から突出しており、穿刺対象の患者の血管内に穿刺される。なお、以下においても、留置針1において内針2が突出した端部(側・方向)を先端(側・方向)、反対の端部を後端(側・方向)という。また、内針2が突出する方向を穿刺方向ともいう。
【0026】
また、外針3の後端には、外針ハブ4が接続されている。この外針ハブ4の内部には、外針3の中空部分と連通する中空部分が設けられている。外針ハブ4は、
図1及び
図2に示されるように、穿刺方向に直線状に延びる本体部40と、本体部40から穿刺方向とは反対方向にY字状に分岐する分岐部(ポート)41を備える。本体部40及び分岐部41の内部にはともに中空部分が設けられており、各々の中空部は連通している。なお、外針ハブ4は一部材で形成されていても複数部材によって形成されていてもよい。また、外針ハブ4の先端と基端の間に可撓性軟質チューブが配設されてもよい。
【0027】
また、留置針1における分岐部41の後端には、人工透析装置等の外部装置から供給された血液が通過する延長チューブ6が接続される。なお、延長チューブ6が設けられず、ポート端部にコネクタが設けられてもよい。
【0028】
次に、
図3を用いて留置針1の内部の詳細を説明する。
図3から分かるように、外針ハブ4の本体部40の中空部分には、シールゴム5が配置されている。このシールゴム5は、本体部40の後端からの血液の漏出を防止するとともに、後述するように血液の流路を構成するものである。ここで、シールゴム5は、本発明の「弾性部材」の一例であり、本体部40の後端からの血液の漏出を防止できれば形状及び構成は問わない。なお、本実施形態において、シールゴム5は好適に血液の漏出を防止するために径方向に圧縮されている。
【0029】
また、
図3に示されるように、分岐部41は接続部405において本体部40と接続している。そして、分岐部41の中空部分は、接続部405近傍の接続中空部413と、接続中空部413より大きい内径を有し、延長チューブ6が挿し込まれて嵌合する延長チューブ嵌合部410が設けられる。そして、接続中空部413と延長チューブ嵌合部410の間の領域には、内径が接続中空部413の内径と同等の内径から延長チューブ6の内径と同等の内径へと拡径するテーパ状の後端中空部412が設けられている。
【0030】
また、本体部40の中空部分の先端側には、外針3の後端を保持する外針保持部401を備える。そして、外針保持部401の先端には、穿刺方向へ開口する先端開口402を備える。外針3は、その先端が先端開口402から突出するように、外針保持部401にインサート成型される。なお、外針保持部401を別部材として成形し、外針3と外針ハブ4との間をかしめるかしめピンとしてもよい。また、外針保持部401は部材ではなく、接着剤であってもよい。外針3の中空部分は、後端から先端方向へ先細りしている。外針3の基端にはシールゴム5の先端が外挿されており、シールゴム5の先端が、ポートより先端側に延在している。
【0031】
また、外針ハブ4の本体部40は、後端開口403を備える。後端開口403の大きさは、シールゴム5が外針ハブ4の中空部分に挿入可能なように設けられている。
【0032】
図4-
図6は、シールゴム5の概要の一例を示している。
図4は、シールゴム5の斜視図を示している。また、
図5は、シールゴム5の四面図を示している。また、
図6Aは、
図5におけるC―C矢印断面図を示している。また、
図6Bは、
図5におけるD-D矢印断面図を示している。また、
図6Cは、ポート軸方向と、ポート軸方向と垂直な方向と、各曲率R1-R3との関係を示している。
【0033】
シールゴム5は、例えばシリコンなどの弾性材料により形成され、
図4及び
図5に示されるように略円柱状の外形を有する。また、
図6から分かるように、シールゴム5には、その側面と先端面とを内部で連通するための流路部53が設けられている。流路部53の後端は、シールゴム5の側面において開口し、外部から流路部53へ血液を流入可能とする流入口51を形成している。
【0034】
ここで、流入口51の血液の流入方向に対して垂直な断面は円形である。そして、流入口51の当該断面の内径と、接続中空部413の内径とは略同一である。
【0035】
一方、シールゴム5の先端側には、
図6A及び
図6Bに示されるように、外針3の後端が嵌合する円柱状の窪みである外針嵌合部56が設けられている。そして、静脈側留置針においては、流路部53における外針嵌合部56との境界には、外針嵌合部56に対する開口としての流出口52が設けられる。つまり、流路部53を通過した血液は、流出口52を通過して外針嵌合部56と嵌合する外針3の中空部分へ流入する。そして、流出口52の内径は、外針嵌合部56と嵌合する外針3の後端の開口の内径とが略同一とされている。ここで、流路部53は、流入口51と流出口52の間で、流通する血液の流れる方向を変換しており、本発明における「変換部」の一例である。ここで、本実施形態では、変換部の全体が、シールゴム5によって形成されているが、変換部の一部が、シールゴム5によって形成されてもよい。なお、動脈側留置針においては、静脈側留置針と血液の流れ方向が逆であり、外針嵌合部56に対する開口としての流出口52が外針3からシールゴム5内に流入するための入り口となる。
【0036】
また、流路部53は、
図6Aに示されるように、流入口51から流入する血液の流入方向に対して平行な断面において、流入口51と流出口52との間を蛇行せずに単一方向の曲率からなる側壁54によって形成される。また、流路部53は、血液の流入方向に対して垂直な断面は円形であり、その円の径が略一定でトンネル状に形成されている。
【0037】
ここで、
図6Aに示されるように、流入口51から流入する血液の流入方向に対して平行な断面を見た場合に、流路部53の側壁54の一部分である側壁54A及び側壁54Bは、外針3の中心軸方向に対して、血液の滞留が生じないような所定の曲率で変化している。すなわち、側壁54A及び側壁54Bは、外針3の軸方向から見た場合に、流入口51の開口方向(ポートの軸方向)と垂直方向の回りに、所定の曲率(R1、R2)で変化する曲面を有している。また、側壁54A及び側壁54Bは、ともに外針3と反対側に凸となっている。
【0038】
また、
図6Bに示されるように、外針3の軸方向から見た場合に、流路部53の側壁54Cは、流入口51の開口方向(ポートの軸方向)の回りに、所定の曲率R3で変化する曲面から形成されている。
【0039】
ここで、上記の所定の曲率R1、R2及びR3は、血液が滞留しない値である。血液が滞留しない値は、例えばシミュレーションによって算出されてもよいし、測定実験の結果に基づいて決定されてもよい。
【0040】
なお、側壁54A、側壁54B、側壁54Cの曲率については、側壁54A、側壁54B、側壁54Cを流入口51の開口方向(ポートの軸方向)から見た場合にも同様の事が言える。すなわち、
図6Aに示されるように、流路部53の側壁54の一部分である側壁54A及び側壁54Bは、流入口51の開口方向(ポートの軸方向)から見た場合にも、外針3の軸方向と垂直方向の回りに、所定の曲率(R1、R2)で変化する曲面を有している。
【0041】
また、流入口51の開口方向(ポートの軸方向)から見た場合にも、外針3の軸方向の回りに、流路部53の側壁54Cは、所定の曲率R3で変化する曲面から形成されている(
図6Bにおいて、流路部53の側壁54Cは、紙面前後方向に対しても曲率R3の曲面を有している)。
【0042】
また、本実施例においては、
図6Aに示す様に、流路部53の流入口51側(ポート側)及び、外針3側(外針側)の側壁54Bは、シールゴム5(弾性部材)により形成されている。
【0043】
また、
図3に示したとおり、シールゴム5は、内針2が貫通するように構成されているところ、シールゴム5の後端付近の内部には、内針2がシールゴム5を貫通させる際に、内針2を挿入する凹部55が設けられている。
【0044】
また、シールゴム5の後端付近の外面には、中心軸方向に対して垂直方向に突出し、中心軸方向に沿って形成されるリブ57が、180度間隔で2箇所設けられている。ここで、外針ハブ4の本体部40の中空部分の内壁には、溝404が中心軸方向に沿って設けられており、シールゴム5のリブ57と溝404とを嵌合させることで、本体部40の内部におけるシールゴム5の中心軸回りの姿勢を確定することができるようになっている。
【0045】
図7は、シールゴム5が本体部40の中空部分に挿入された状態において、中心軸方向に対して垂直な断面(
図2におけるB-B矢印断面図)の一例を示している。ここで、リブ57と溝404とが設けられる位置は、シールゴム5が本体部40の中空部分に挿入された時に、シールゴム5の流入口51の位置が、接続中空部413の開口の位置と合致するように定められる。ここで、リブ57及び溝404は、本発明の「規定手段」の一例である。
【0046】
また、前述のように、後端中空部412の後端方向に開口する部分の内径は、延長チューブ6の内径と略同一となるように設けられる。このような構造により、分岐部41の接続中空部413と、延長チューブ6の中空部分とは、滑らかに連通することになる。
【0047】
(留置針1の組み立て手順)
次に留置針1の組み立て手順の概要の一例を示す。まず、シールゴム5が、外針ハブ4の後端に設けられる後端開口403から本体部40の中空部分に挿入される。シールゴム5が挿入される時、シールゴム5の外面に設けられたリブ57と、外針ハブ4の内面に設けられた溝404とが嵌合するように挿入される。そして、本体部40の中空部分に挿入されたシールゴム5の外針嵌合部56は、外針保持部401にインサート成型された外針3の後端と嵌合する。なお、別体で成形した外針3をシールゴム5の外針嵌合部56に組み付けた状態で外針ハブ4内に挿入することで、外針3とシールゴム5を外針ハブ4に組み付けてもよい。
【0048】
ここで、シールゴム5の流出口52の内径が、外針嵌合部56と嵌合する外針3の内径と略同一となるように設けられている。よって、流路部53を形成する側壁54と外針3の中空部分を形成する側壁とは、流出口52を介して滑らかに連続することになる。また、外針嵌合部56が、外針3の後端と嵌合する際には、外針3の外形と外針ハブ4と内壁の隙間にシールゴム5の先端が入り込む。このことにより、外針3と外針ハブ4との間は封止される。ここで、外針3と外針ハブ4との隙間に入り込むシールゴム5は、本発明の「シール部」の一例である。
【0049】
また、シールゴム5の本体部40の中空部分への挿入が完了された場合、流入口51の位置は、分岐部41の内部の接続中空部413の開口と合致することになる。よって、側壁54と接続中空部413の側壁とは、流入口51を介して滑らかに連続することになる。
【0050】
また、延長チューブ6は、延長チューブ嵌合部410へ挿入される。よって、延長チューブ6の中空部分と、分岐部41の接続中空部413とは、後端中空部412を介して連通することになる。ここで、後端中空部412における後端の内径は、延長チューブ6の内径と略同一となるように設けられている。よって、後端中空部412の側壁と、延長チューブ6の中空部分の側壁とは、滑らかに連続することになる。
【0051】
次に、内針2を、外針ハブ4の後端開口403を介してシールゴム5の凹部55の所定の場所を挿入する。そうすると、内針2の先端は、流路部53を形成する側壁54の所定の場所から流路部53へ突き出る。さらに、内針2は、そのまま流路部53の内部を通過し、外針3の中空部分に侵入し、外針3の先端の開口から突出する。このように内針2が外針3の先端の開口から突出した状態で、内針2は患者の血管に穿刺可能となる。
【0052】
(留置針1の使用手順)
次に、留置針1の使用手順の概要の一例を示す。内針2は、患者の血管に穿刺された後、穿刺方向とは逆方向に抜去される。
図8-
図10は、内針2が抜去された状態の留置針1の一例を示している。
図8は、留置針1の斜視図を示している。
図9は、留置針1の三面図を示している。
図10は、
図9におけるA―A矢印断面の部分拡大図を示している。
【0053】
透析治療は血液を血管から体外回路に流入させ(脱血)、体外回路内の血液浄化器を通過した血液を血管に戻す(返血)ことで行われ、治療には動脈側に穿刺される動脈側留置針と静脈側に穿刺される静脈側留置針が用いられる。本願発明は動脈側留置針と静脈側留置針の少なくとも一方又は両方に用いられる。
【0054】
留置針1は血管に穿刺され、内針2が抜去されると、外針3が患者の血管内に留置されることになる。また、内針2が刺し通されていたシールゴム5の貫通孔は、シールゴム5の弾性によって塞がれる。よって、患者の血管内の血液が、外針3を逆流し、内針2が刺し通されていたシールゴム5の貫通孔から外部に漏れることは抑制される。
【0055】
内針2が抜去された後、延長チューブ6のコネクタに体外回路が接続され、動脈側血管、血液浄化器、静脈側血管とで流路が形成される。動脈側の留置針において、血液は外針3から分岐部41の方に流れるが、その際に流路部53を介して円滑に外針3から分岐部41に血液が流れる。
【0056】
そして、血液浄化器を通過した透析済みの血液は、分岐部41から外針3の中空部分へ流入する。静脈側の留置針において、血液は分岐部41から外針3の方に流れるが、その際に流路部53を介して円滑に分岐部41から外針3に血液が流れる。外針3の中空部分においては、末端から先端方向へ先細りしているため、透析済みの血液が流れる速度が増加する。そして、透析済みの血液は、患者の血管に留置された外針3の先端の開口を介して患者の血管内へ供給される。
【0057】
[作用・効果]
上記のような留置針1によれば、流路部53により円滑に血液が入り口から出口に向かって流れるため、滞留が生じにくい。また、流路部53の側壁54A及び側壁54Bは、ともに外針3と反対側に凸となっている。つまり、流路部53を形成する側壁54A及び54Bは蛇行する等の複雑な形状は有していないため、流路部53において血液が滞留することは抑制される。また、流路方向を変換する流路を形成する流路部53において、血液の流入方向に対して垂直な断面は円形となり、その円の内径は略一定である。よって、流路部53において血液が滞留することは抑制される。血液の滞留が抑制されることで流路部53における血栓の形成が抑制される。なお、楕円形、長円形、卵形の他、略円形で半径に若干の変動があるような流路とすることもできる。この場合も流路断面が円形であるため、血液が流路断面中心に導かれるように形成でき、流路の一部で滞留部が生じてしまうことを防止することができる。また、流路部53の断面はシールゴムと外針ハブとで形成することもできる。
【0058】
また、上記のような留置針1によれば、
図6Aに示されるように、流入口51から流入する血液の流入方向に対して平行な断面を見た場合に、流路部53の側壁54の一部分である側壁54A及び側壁54Bは、外針3の中心軸方向に対して、血液の滞留が生じないような所定の曲率で変化している。すなわち、側壁54A及び側壁54Bは、外針3の軸方向から見た場合に、流入口51の開口方向(ポートの軸方向)と垂直方向の回りに、所定の曲率(R1、R2)で変化する曲面を有している。
【0059】
また、
図6Bに示されるように、外針3の軸方向から見た場合に、流入口51の開口方向(ポートの軸方向)の回りに、流路部53の側壁54Cは、所定の曲率R3で変化する曲面から形成されている。
【0060】
ここで、上記の所定の曲率R1、R2及びR3は、血液が滞留しない値である。よって、上記のような留置針1によれば、流路部53において血液が滞留することは抑制される。
【0061】
また、上記のような留置針1によれば、シールゴム5の流路部53はトンネル状に形成されており、段差がない滑らかな流路が実現できる。このため、血液の滞留を防止することができ、滞留による血栓の形成も防止できる。また、流路部53の側壁54はシールゴム5以外の部材の表面から形成されていない。よって、側壁54における他の部材の表面との繋ぎ目において血液が滞留するといったことは抑制される。
【0062】
また、上記のような留置針1によれば、流入口51の内径と、外針ハブ4の接続部405の接続中空部413の内径とは略同一である。また、上記の留置針1によれば、シールゴム5のリブ57と外針ハブ4の溝404とが設けられる位置は、シールゴム5が外針ハブ4の本体部40の中空部分に挿入された時に、流入口51が、接続中空部413と合致するような位置である。また、接続中空部413の流路部53に対する開口部の断面形状と、流入口51の接続中空部413に対す開口形状とは同一である。
【0063】
よって、流路部53を形成する側壁54と接続中空部413の内部の側壁とは滑らかに連続している。これにより、流路部53と接続中空部413との接続部分において、血液が滞留することは抑制される。また、上記の留置針1によれば、延長チューブ6から接続中空部413を介して流路部53へ血液を流通させるように簡易に組み立てることができる。
【0064】
また、上記のような留置針1によれば、シールゴム5の流路部53を形成する側壁54は、流出口52側において、外針3の中空部分を形成する側壁と滑らかに連続している。よって、シールゴム5の側壁54と、外針3の中空部分を形成する側壁との繋ぎ目において、患者の血管へ供給される血液が滞留することは抑制される。
【0065】
また、上記のような留置針1によれば、外針3と外針ハブ4の内壁との間は、シールゴム5によって封止されている。よって、シールゴム5の流路部53を通過して外針3の内部へ向かう血液が、外針3と外針ハブ4の内壁との隙間に流れ込んで滞留することは抑制される。また、上記の実施形態と異なり、患者の血管から採血される場合であっても、外針3の内部を通過してシールゴム5の流路部53へ向かう血液が、外針3と外針ハブ4の内壁との隙間に流れ込んで滞留することは抑制される。
【0066】
また、上記のような留置針1によれば、流路部53の流入口51側(ポート側)及び、外針3側(外針側)の側壁54Bは、シールゴム5(弾性部材)により形成されている。よって、流路部53とポートの繋ぎ目や、流路部53と外針3との繋ぎ目を、弾性部材によって滑らかに連続させることができる。よって、流路部53とポートの繋ぎ目や、流路部53と外針3との繋ぎ目において、血液が滞留することは抑制される。
【0067】
また、上記のような留置針1によれば、外針3から外針ハブ4の基端までの長さを短くすることができる。よって、外針ハブ4と内針ハブとの間に内針2の抜去後の内針2の穿刺事故を防ぐ安全機構を設けた場合でも全体が大型化する事態が防止される。なお、安全機構は外針ハブ4と内針ハブとの間に設けられる構成に限らず、内針2及び外針3を有する留置針において使用される別の安全機構を採用してもよい。
【0068】
また、リブ57及び溝404の形状又は位置は、上記の実施形態に限定されず、また、溝をシールゴムの外面に設け、リブを外針ハブの内面に設けてもよい。シールゴム5が本体部40の中空部分に挿入された状態において、シールゴム5の流入口51が、外針ハブ4の本体部40から接続部405の内部の接続中空部413の開口と合致するような形状又は位置であるのが好ましいがこれに限られない。また、リブ57と溝404とは設けることなく、外針ハブとシールゴムの周方向の相対位置を規定してもよい。
【0069】
図11は、リブ57と溝404とが設けられていない留置針1Aにおいて、外針ハブ4Aの中心軸方向に対して垂直な断面を示している。
図11に示される留置針1Aの場合、外針ハブ4Aの本体部40Aの中空部分とシールゴム5Aの形状は、中心軸の周りに回転対称となっていない。つまり、外針ハブ4A内におけるシールゴム5Aの周方向の相対位置は、規定される。よって、
図11のようにシールゴム5Aが本体部40Aの中空部分に挿入されている時に、留置針1Aのシールゴム5Aの流入口51Aが、本体部40Aから接続部405Aの内部の接続中空部413Aの開口と合致するように本体部40A及びシールゴム5Aを作製すればよいことになる。
【0070】
また、シールゴム5をシールゴム5よりも比較的硬い硬質部材で囲み、当該硬質部材の外面にリブや溝を設け、一方で外針ハブ4の内面に当該硬質部材の外面に設けられたリブや溝と係合する係合機構を設けてもよい。そして、硬質部材の外面のリブや溝と外針ハブ4の内面の係合機構とが係合してシールゴム5が本体部40の中空部分に挿入された状態において、シールゴム5の流入口51が、外針ハブ4の本体部40から接続部405の内部の接続中空部413の開口と合致するようにしてもよい。
【0071】
また、上記の実施形態に、更にフラッシュバックを容易化する機構を設けてもよい。例えば、内針2に側孔を設け、内針2と延長チューブ6が連通するようにすれば、使用者は内針2と外針ハブ4の間の血液の移動或いは延長チューブ6内の血液の移動によって、留置針1が血管内に穿刺されていることを確認することができる。また、延長チューブ6の端部にはルアーコネクタが設けられるが、ルアーコネクタ内に弁を設けることもできる。また、ルアーコネクタにキャップを設けたり、延長チューブ6にクランプを設けたりすることもできる。延長チューブ6の端部まで血液を脱血できるように公知の通気機構を設けることもできる。
【0072】
以上で開示した実施形態や変形例はそれぞれ組み合わせる事ができる。
【符号の説明】
【0073】
1、1A・・留置針
2・・内針
3・・外針
4、4A・・外針ハブ
5、5A・・シールゴム
6・・延長チューブ
40、40A・・本体部
41・・分岐部
51、51A・・流入口
52・・流出口
53・・流路部
54、54A、54B、54C・・側壁
55・・凹部
56・・外針嵌合部
57・・リブ
401・・外針保持部
402・・先端開口
403・・後端開口
404・・溝
405、405A・・接続部
410・・延長チューブ嵌合部
412・・後端中空部
413、413A・・接続中空部