(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】応力発光材料の製造方法、応力発光体の製造方法、ひずみ測定方法、応力発光体、応力発光塗料および応力発光体の製造装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/70 20060101AFI20250109BHJP
G01N 3/32 20060101ALI20250109BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20250109BHJP
C09K 11/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N21/70
G01N3/32 H
C09K11/08 A
C09K11/00 Z
(21)【出願番号】P 2022563637
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2021038353
(87)【国際公開番号】W WO2022107522
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2020192220
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100149962
【氏名又は名称】阿久津 好二
(74)【代理人】
【識別番号】100170988
【氏名又は名称】妹尾 明展
(74)【代理人】
【識別番号】100189566
【氏名又は名称】岸本 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100226470
【氏名又は名称】渡辺 由佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【氏名又は名称】江口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】金丸 訓明
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-211108(JP,A)
【文献】国際公開第2005/097946(WO,A1)
【文献】特開2005-144738(JP,A)
【文献】特開2017-094720(JP,A)
【文献】特開2015-075477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
G01N 3/00 - G01N 3/62
C09K 11/00
C09K 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力発光能を有する単斜晶系の粒子であって、平均粒子径が2~3μmの粒子を有する粉状の応力発光材料を準備する工程と、
前記応力発光材料を、前記粒子の結晶構造を維持したまま細粒化する工程とを備える、応力発光材料の製造方法。
【請求項2】
前記細粒化する工程は、
前記準備する工程により準備された前記応力発光材料を、粉砕媒体とともにチャンバ内に収容する工程と、
前記チャンバ内で、前記応力発光材料および前記粉砕媒体を循環させる工程とを含む、請求項1に記載の応力発光材料の製造方法。
【請求項3】
前記細粒化する工程は、
前記準備する工程により準備された前記応力発光材料をミル内に収容する工程と、
前記ミル内部に高圧ジェット気流による同心円の旋回渦を形成する工程とを含む、請求項1に記載の応力発光材料の製造方法。
【請求項4】
前記応力発光材料の粒子径分布を計測する工程をさらに備え、
前記細粒化する工程は、計測された前記粒子径分布から求められる平均粒子径が閾値範囲になるまで前記応力発光材料を細粒化する工程を含む、請求項1に記載の応力発光材料の製造方法。
【請求項5】
前記細粒化する工程は、前記閾値範囲を100nm~900nmに設定する工程を含む、請求項4に記載の応力発光材料の製造方法。
【請求項6】
応力発光能を有する単斜晶系の粒子であって、平均粒子径が2~3μmの粒子を有する粉状の応力発光材料を準備する工程と、
前記応力発光材料を、前記粒子の結晶構造を維持したまま細粒化する工程と、
細粒化された前記応力発光材料と溶媒とを混合する工程とを備える、応力発光体の製造方法。
【請求項7】
前記応力発光材料と前記溶媒との混合物をサンプルの表面に塗布することにより、前記サンプルの前記表面上に前記応力発光体を形成する工程をさらに備え、
前記応力発光体を形成する工程は、
厚み方向に貫通する複数の貫通孔が網目状に配置された板状体を、前記サンプルの前記表面に配置する工程と、
前記板状体に前記混合物を塗布することにより、前記複数の貫通孔に前記混合物を充填する工程と、
前記混合物を前記サンプルの前記表面に転写する工程と、
前記混合物を乾燥する工程とを含む、請求項6に記載の応力発光体の製造方法。
【請求項8】
前記配置する工程は、前記応力発光体の膜厚の目標値に基づいて、前記板状体の厚みおよび開口率の少なくとも一方を設定する工程を含む、請求項7に記載の応力発光体の製造方法。
【請求項9】
前記設定する工程は、前記板状体の厚みを6μm以下に設定する工程を含む、請求項8に記載の応力発光体の製造方法。
【請求項10】
前記サンプルの前記表面上に配置された前記応力発光体の膜厚を検査する工程をさらに備える、請求項7から9のいずれか1項に記載の応力発光体の製造方法。
【請求項11】
請求項7から10のいずれか1項に記載の応力発光体の製造方法により製造された応力発光体のひずみを測定する工程を備える、ひずみ測定方法。
【請求項12】
前記測定する工程は、
前記応力発光体に励起光を照射する工程と、
前記サンプルに荷重を加える工程と、
前記サンプルに荷重が加えられたときの前記応力発光体の発光を撮像する工程と、
応力発光画像をディスプレイに表示する工程とを含む、請求項11に記載のひずみ測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力発光材料の製造方法、応力発光体の製造方法、ひずみ測定方法、応力発光体、応力発光塗料および応力発光体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
応力発光体の発光現象に基づいて応力発光体のひずみを測定することにより、応力発光体が塗布あるいは混入された試料または構造物等のひずみを解析する技術が知られている(例えば、特開2015-75477号公報(特許文献1)参照)。応力発光体は、エネルギー状態が高められるとエネルギーを放出して発光する部材であり、外部からの機械的な力が与えられると、内部に生じる応力に応じて発光する。応力発光体の発光強度(輝度)とひずみ量とには相関があることから、撮像装置で応力発光体を撮像し、応力発光体の輝度から応力発光体のひずみを測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
応力発光体に含有される応力発光材料は、無機結晶(母材)の骨格中に、発光中心となる元素を固溶した材料である。代表的なものとして、発光中心とてユーロピウムを添加したアルミン酸ストロンチウムが挙げられる。応力発光材料は、一般的に、ミクロンオーダーの粒子径を有するセラミックス粒子から構成されている。最近では、2~3μm程度の粒子径を有する応力発光粒子の合成が行われている。
【0005】
しかしながら、合成される応力発光粒子の粒子径が小さくなるに従って、粒子同士が凝集しやすくなるという課題がある。このような粒子凝集の一因として、粒子径が小さくなるほど、粒子の比表面積が増加することが考えられる。応力発光粒子が凝集体を形成することによって、応力発光体中に応力発光粒子を均一に分散させることが困難となる。その結果、応力発光体の発光強度に基づいたひずみの測定に影響を及ぼすことが懸念される。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、応力発光粒子の凝集を抑制することができる応力発光材料の製造方法、応力発光体の製造方法、ひずみ測定方法、応力発光体、応力発光塗料および応力発光体の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る応力発光材料の製造方法は、応力発光能を有する単斜晶系の粒子を有する応力発光材料を準備する工程と、応力発光材料を、粒子の結晶構造を維持したまま細粒化する工程とを備える。
【0008】
本発明の第2の態様に係る応力発光体は、応力発光材料と溶媒との混合物からなる応力発光体であって、応力発光材料は、結晶構造を維持したまま細粒化された、応力発光能を有する単斜晶系の粒子を含む。
【0009】
本発明の第3の態様に係る応力発光塗料は、母材中に応力発光材料の粒子が分散された応力発光塗料であって、応力発光材料は、平均粒子径が100~900nmである。
【0010】
本発明の第4の態様に係る応力発光体の製造装置は、サンプルが載置される台座と、サンプルの表面と対向させて台座に固定されるフレームと、フレームに張設される板状体とを備える。記板状体には、厚み方向に貫通する複数の貫通孔が網目状に配置されている。応力発光体の製造装置は、スキージと、供給部材とをさらに備える。スキージは、平板状の形状を有しており、その下端部が線状に板状体に当接された状態で板状体上を水平方向に移動可能に構成される。供給部材は、スキージの進行する方向の板状体上に応力発光塗料を供給する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、応力発光粒子の凝集を抑制することができる応力発光材料の製造方法、応力発光体の製造方法、ひずみ測定方法、応力発光体、応力発光塗料、および応力発光体の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る応力発光体の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図2】
図1に示した応力発光塗料生成工程(S20)を説明するためのフローチャートである。
【
図3】粉砕処理が施された応力発光材料の分析結果を示す図である。
【
図4】
図2に示した工程(S24)にて生成される応力発光塗料の構造を模式的に示す図である。
【
図5】
図1に示した応力発光体形成工程(S30)を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図5に示した工程(S31)を説明するための模式図である。
【
図7】
図5に示した工程(S33)を説明するための模式図である。
【
図8】
図5に示した工程(S33)を説明するための模式図である。
【
図9】
図5に示した工程(S33)を説明するための模式図である。
【
図10】応力発光体が形成されたサンプルを模式的に示す平面図である。
【
図11】
図1に示した測定工程(S50)に用いられる応力発光測定装置の構成例を示すブロック図である。
【
図12】測定工程(S50)を説明するためのフローチャートである。
【
図13】
図12に示した工程(S54)を説明するための模式図である。
【
図14】サンプルの所定領域における発光強度の分布を示す画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0014】
<応力発光体の製造方法>
本実施の形態に係る応力発光体は、サンプルの表面の所定領域に配置されるものである。応力発光材料は、外部から加えられた力(圧縮、変位、摩擦、衝撃など)の機械的な刺激によって発光する材料である。本願明細書において、応力発光体とは、応力発光材料を単独で、または別の素材(例えば樹脂など)を組み合わせた後、成形して得られるものをいう。サンプルに応力を加えたときの応力発光体の発光現象を利用することにより、サンプルに発生するひずみを可視化することができる。
【0015】
最初に、
図1~
図9を参照しながら、本実施の形態に係る応力発光体の製造方法について説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態に係る応力発光体の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図1に示すように、本実施の形態に係る応力発光体の製造方法は、サンプル準備工程(S10)と、応力発光塗料生成工程(S20)と、応力発光体形成工程(S30)と、検査工程(S40)とを主に有している。測定工程(S50)は、工程(S10)~工程(S40)によって製造された応力発光体のひずみを測定する工程である。
【0017】
(1)サンプル準備工程(S10)
最初に、サンプル準備工程(S10)が実施される。この工程(S10)では、ひずみの計測対象であるサンプルが準備される。サンプルは、応力が加えられていない状態で平面部分を有しているものであれば、特に限定されない。本実施の形態では、応力発光体は、フレキシブル性を有するサンプルに発生するひずみを計測するために用いられるものとする。
【0018】
フレキシブル性を有するサンプルは、例えばフレキシブルシートまたはフレキシブルファイバなどである。フレキシブルシートは、例えば、スマートフォンまたはタブレット等の通信端末のフレキシブルディスプレイまたはウェアラブルデバイスの一部分を構成することができる。フレキシブルファイバは、例えば光ファイバケーブルの一部分を構成することができる。本実施の形態では、サンプルは、矩形状のフレキシブルシートである。
【0019】
(2)応力発光塗料生成工程(S20)
次に、応力発光塗料生成工程(S20)が実施される。この工程(S20)では、応力発光材料を生成し、生成された応力発光材料を含有する塗料(以下、「応力発光塗料」とも称する)を生成する。
図2は、
図1に示した応力発光塗料生成工程(S20)を説明するためのフローチャートである。
【0020】
図2に示すように、応力発光塗料生成工程(S20)では、応力発光材料を生成する工程が実施される。応力発光材料を生成する工程では、最初に、応力発光材料を準備する工程(S21)が実施される。応力発光材料は、無機結晶(母材)の骨格中に発光中心となる元素を固溶したものであり、代表的なものに、ユーロピウムをドープしたアルミン酸ストロンチウムがある。その他、遷移金属または希土類をドープした硫化亜鉛、チタン酸バリウム・カルシウム、アルミン酸カルシウム・イットリウムなどがある。本実施の形態では、応力発光材料は公知のものを用いることができる。
【0021】
応力発光材料は、例えば、アルミン酸ストロンチウム、硫化亜鉛、スズ酸ストロンチウム、ニオブ酸リチウムからなる群から選択された物質を母体材料とする。母体材料は、Eu,Nd,Zr,Ho,Sc,Y,La,Ce,Pr,Pm,Sm,Er,Dy,Gd,Tm,Yb,Lu,Tbからなる群から選ばれた少なくともいずれか1つの元素のイオンで賦活される。
【0022】
ここで、一般的な応力発光材料は、粉末状であり、平均粒子径が2~3μm程度、かつ、粒子径分布が1~10μmの範囲を有するセラミック粒子から構成されている。これは、初めからサブミクロンオーダーの粒子径を狙って応力発光材料を生成すると、結晶構造が応力発光能を有する単斜晶ではなく、応力発光能を有さない立方晶になるためとされている。このような理由から応力発光材料の粒子径がミクロンオーダーであるため、応力発光材料を用いてシート状の応力発光体を形成する場合には、その膜厚を10μm以下にすることが困難となっている。なお、本明細書において、応力発光体の膜厚とは、サンプルの表面に垂直な方向における応力発光体の高さをいう。
【0023】
一方、フレキシブルシートなどの数10μmの膜厚を有するサンプルのひずみを評価するためには、サンプルの表面に配置される応力発光体の膜厚は、サンプルの膜厚の1/5以下であることが好ましく、サンプルの膜厚の1/10以下であることがより好ましい。応力発光体の膜厚は、理想的には2μm以下であることが好ましい。
【0024】
これは、応力発光体の膜厚がサンプルの膜厚の1/5よりも厚くなると、サンプルに力を加えたときの発光が応力発光体に発生するひずみ由来のものとなるためである。また、応力発光体の膜厚が厚くなることで、応力発光体がサンプルに加えられる力を抑制する可能性がある。その結果、サンプルに発生するひずみを計測することが難しくなる。
【0025】
このように十分な応力発光能が期待できる応力発光材料は粒子径がミクロンオーダーであるため、2μm以下の理想的な膜厚を有する応力発光体を形成することが難しいという課題がある。本発明者らは、サブミクロンオーダーの粒子径を有する応力発光材料を製造する方法について鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得て本実施の形態を見出した。具体的には、本発明者らは、応力発光能を有する粒子を粉砕しても、粒子の結晶構造が変化することなく、応力発光能が損なわれないという知見を得た。
【0026】
さらに本発明者らは、応力発光粒子の合成においては、合成する応力発光粒子の粒子径を小さくするに従って、粒子同士が凝集しやすくなるという課題が生じることに対して、粉砕によって細粒化された応力発光材料においては、応力発光粒子の凝集が抑制されるという知見を得た。
【0027】
図3に、粉砕処理が施された応力発光材料の結晶構造をX線回折法(XRD:X-ray Diffraction)を用いて分析した結果を示す。サンプルとなる応力発光材料は、ユーロピウム(Eu
2O
3)を添加したアルミン酸ストロンチウム(SrAl
2O
4)である。粉砕処理前の応力発光材料の平均粒子径は3.3μmである。ジェットミル粉砕機を用いて応力発光材料を粉砕した。粉砕処理後の応力発光材料の平均粒子径は1.6μmである。なお、平均粒子径とは、体積基準の粒子径分布において、累積体積が全体積の50%となる粒子径(D50)をいう。
【0028】
測定には、X線回折装置(装置名:XRD-6100、株式会社島津製作所製)を用いた。測定条件は、管球:Cr(2.28970Å)、管電圧:40kV、管電流:40mA、走査速度:1°/1min、ステップ角度:0.02°、走査角度範囲:10~90°(2θ)である。
【0029】
図3において、波形k1は粉砕処理を行なう前の応力発光材料の回折パターンを示し、波形k2は粉砕処理を行なった後の応力発光材料の回折パターンを示している。図中の矢印は、アルミン酸ストロンチウム由来のピーク位置を示している。波形k1と波形k2とを比較すると、ピーク位置および強度がほぼ一致している。なお、図示しない2θ=40~90°の角度範囲においても、2つの回折パターンがほぼ一致することが確認された。これにより、粉砕処理の前後で応力発光材料の結晶構造が変化していないことが分かる。すなわち、応力発光粒子の結晶構造は、粉砕後においても単斜晶であることが分かる。
【0030】
上記の知見に基づいて、本発明者らは、応力発光材料を細粒化する工程(S22)を見出した。具体的には、応力発光材料を細粒化する工程(S22)では、粒子状の応力発光材料を結晶構造を維持したまま細粒化する。この工程(S22)では、応力発光材料の粒子を粉砕する。応力発光材料の粉砕は、公知の粉砕装置を用いて行なうことができ、その種類は特に限定されるものではない。
【0031】
ただし、応力発光材料は耐水性が低く、かつ加熱により変質して応力発光強度が低下する可能性がある。そのため、粒子同士を高速で衝突させて粉砕ことができる粉砕装置を用いることが好ましい。
【0032】
例えば、湿式微粉砕機(装置名:ラボスター、アシザワ・ファインテック株式会社製)を用いることができる。この湿式微粉砕機は、ビーズ状の粉砕メディアが収容されたチャンバ内でロータを回転させ、チャンバ内でスラリー状のサンプルを循環させてメディアと衝突させることにより、サンプルを粉砕するものである。
【0033】
あるいは、微粉砕機(装置名:ナノジェットマイザー、株式会社アイシンナノテクノロジーズ製)を用いることができる。この微粉砕機は、ミル内部に高圧ジェット気流による同心円の旋回渦を形成することにより粒子を加速する。加速された粒子同士の衝突によって粒子を粉砕することができる。このとき、ジュールトムソン効果(気圧自由膨張時の温度低下効果)により、被粉砕物の温度上昇を抑制することができる。
【0034】
なお、粉砕の条件は特に限定されることなく、粉砕前の応力発光材料の粒径および粒度分布などを考慮して設定すればよい。
【0035】
次に、応力発光材料の粒子径分布を計測する工程(S23)が実施される。この工程(S23)では、公知の粒子径分布計測装置を用いて、細粒化された応力発光材料の粒子径分布を計測する。粒子径分布計測装置は、例えばレーザ回折/散乱式粒子径分布装置(装置名:SALD-2300、株式会社島津製作所製)を用いることができる。
【0036】
レーザ回折/散乱式粒子径分布装置は、測定セルに収められた応力発光材料に対して光源から光を照射し、応力発光材料で回折または散乱された光を複数の受光素子で受光するように構成されている。上記構成において、各受光素子における検出強度を表す光強度分布データが得られる。得られた光強度分布データに対して屈折率を用いた演算を行なうことにより、各粒子径における粒子量を表す粒子径分布を算出することができる。
【0037】
この工程(S23)は、応力発光材料の粒子径が所望の粒子径に揃っているかどうかを判定する工程(S230)を含んでいる。具体的には、レーザ回折/散乱式粒子径分布装置により測定して得られた体積基準の粒子径分布において、平均粒子径が予め設定された閾値範囲内にあるか否かを判定する。本願明細書において、平均粒子径とは、体積基準の粒子径分布において、累積体積が全体積の50%となる粒子径(D50)をいう。
【0038】
工程(S230)における閾値範囲は、応力発光体の膜厚の目標値に応じて設定することができる。例えば、応力発光体の膜厚の目標値が2μm以下である場合には、閾値範囲は100nm~900nmであることが好ましい。
【0039】
応力発光材料の平均粒子径(D50)が閾値範囲の上限値(900nm)より大きければ、工程(S230)でNOと判定され、工程(S22)が再び実施される。一方、平均粒子径(D50)が閾値範囲(100~900nm)にあると判定された場合には、工程(S230)でYESと判定され、次工程(S24)へ処理を進める。
【0040】
次に、応力発光材料と溶媒とを混合する工程(S24)が実施される。この工程(S24)では、応力発光材料の粒子を溶媒に混合することにより、応力発光塗料を生成する。
【0041】
溶媒は、被膜形成性樹脂を含有する。被膜形成性樹脂としては、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、放射線効果性樹脂などを用いることができる。例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、オルガノシリケート、オルガノチネタートなどが挙げられる。溶媒は少なくとも、応力発光材料を励起させるための励起光および、応力発光材料から放射される蛍光を透過可能なものが用いられる。
【0042】
なお、溶媒には、必要に応じて、溶剤、分散剤、充填剤、増粘剤、レベリング剤、硬化剤、顔料、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤を含む光安定剤、難燃剤、硬化用触媒、殺菌剤および抗菌剤などの塗料添加剤を含有させることができる。
【0043】
工程(S24)では、応力発光材料を溶媒に分散させたスラリー状態で解砕することにより、応力発光材料と溶媒とを混合する。解砕の方法は特に制限はないが、例えばローラミル、ボールミルなどを用いることができる。
【0044】
図4は、工程(S24)にて生成される応力発光塗料の構造を模式的に示す図である。
図4に示すように、応力発光塗料においては、母体となる溶媒32中に複数の応力発光材料の粒子30が分散している。なお、粒子30の形状は特に球形に限定されるべきではない。上述した工程(S22)によって粒子30の凝集が抑制されているため、溶媒32中に粒子30を均一に分散させることができる。
【0045】
上述した工程(S22,S23)において、レーザ回折散乱法により測定される応力発光材料の粒子径分布に基づいて応力発光材料を細粒化することにより、溶媒32中に分散している粒子30の粒子径D、具体的には粒子30の球相当径(粒子30の体積と同一の体積となる球の直径をいう。)の平均粒子径(D50)は、所定の閾値範囲(例えば100~900nm)となっている。
【0046】
ここで、粒子30の粒間隔は、応力発光塗料における応力発光材料の含有量によって決まる。なお、粒子30の粒間隔は、隣接する粒子30の一方の端面から他方の端面までの最短距離に相当する。
【0047】
応力発光塗料における応力発光材料の含有量は、応力発光体が持つ可撓性を阻害しない範囲で適宜調整することができる。例えば、被膜形成樹脂を主成分とする溶媒に対して、応力発光材料を150PHR(溶媒100部に対して応力発光材料150部、すなわち60重量%)とすることができる。
【0048】
応力発光塗料における応力発光材料の配合率は20重量%以上が好ましく、40重量%以上がより好ましく、50重量%以上がさらにより好ましい。応力発光材料の配合率が20重量%未満になると、粒子30の粒間隔が大きくなり、応力発光体に加えられた応力が溶媒中に逃げてしまうことが懸念される。これによると、応力発光材料に伝わりにくくなる(すなわち、応力発光能が低下する)ことになる。
【0049】
(3)応力発光体形成工程(S30)
次に、応力発光体形成工程(S30)が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)で生成された応力発光塗料を、サンプルの表面の平面部分の所定領域に塗布することにより、所定領域上に応力発光体を形成する。この所定領域は、応力が加えられる領域(すなわち、サンプルの変形領域)を含むように設定されている。したがって、サンプルに応力を加えたとき、応力発光体はサンプルと一体的に応力が加えられて変形(ひずみ)が生じることになる。
【0050】
図5は、
図1に示した応力発光体形成工程(S30)を説明するためのフローチャートである。
図5に示すように、応力発光体形成工程(S30)では、最初に、スクリーン板を準備する工程(S31)が実施される。
【0051】
図6は、
図5に示した工程(S31)を説明するための模式図である。この工程(S31)では、
図6(A)に示すように、複数の貫通孔11が形成されたスクリーン板10が準備される。スクリーン板10は厚みTを有している。複数の貫通孔11の各々はスクリーン板10を厚み方向に貫通する。すなわち、貫通孔11の厚み方向における長さは、スクリーン板10の厚みTに等しくなる。スクリーン板10は「板状体」の一実施例に対応する。
【0052】
スクリーン板10は、矩形形状を有しており、矩形形状を有するフレーム12に外縁部が保持されて張設されている。なお、スクリーン板10の形状は、サンプル1の表面の所定領域の形状に合うように調整することができる。図示は省略するが、スクリーン板10の形状がサンプル1の所定領域の形状よりも大きい場合には、スクリーン板10の表面に、所定領域以外の領域に重なるようにマスクを配置することができる。このマスクによって所定領域以外の領域に位置する貫通孔11を覆うことができる。
【0053】
スクリーン板10は、二次元の網目状の構造を有している。スクリーン板10は、例えば、縦線10aおよび横線10bからなる平織りのメッシュにより形成することができる。あるいは、スクリーン板10は、薄板にエッチングなどによって複数の貫通孔11を開口することにより形成することができる。スクリーン板10の厚みTは、縦線10aおよび横線10bの線径または、薄板の厚みによって調整することができる。
【0054】
複数の貫通孔11は、スクリーン板10の網目に従ってマトリクス状に配置されている。各貫通孔11の開口部の形状は、矩形形状に限定されるものではなく、円形または多角形の形状を有していてもよい。
【0055】
図6(A)の例では、縦線10aおよび横線10bの各々を一定のピッチで配置したことにより、各貫通孔11の開口部は一辺の長さがLの正方形の形状を有している。このようなスクリーン板10の開口率Raは、一般に、縦線10aおよび横線10bで囲まれた糸の無い部分の空間率(面積比率%)で表わされる。したがって、
図6(A)においては、縦線10aおよび横線10bのピッチが一定であるとき、縦線10aおよび横線10bの線径が細くなるほど、開口部の一辺の長さLが大きくなるため、開口率Raが大きくなる。
【0056】
なお、スクリーン板10の開口率Raが大きくなるほど、各貫通孔11に充填される応力発光塗料の量が多くなるため、応力発光塗膜の膜厚は厚くなる。乾燥前の応力発光塗膜の膜厚は、理論的には、スクリーン板10の厚みTと開口率Raとの積で求めることができる。すなわち、スクリーン板10の厚みTおよび開口率Raを変更することによって、応力発光体の膜厚を調整することができる。なお、応力発光体の膜厚は、スクリーン板10の厚みTおよび開口率Raに加えて、応力発光塗料の沸点および粘度などを変更することによっても調整することが可能である。
【0057】
上述したように、応力発光体の膜厚は、サンプルの膜厚の1/5以下であることが好ましく、サンプルの膜厚の1/10以下であることがより好ましい。サンプルの膜厚に応じて応力発光体の膜厚の目標値を決定し、この決定した目標値に基づいて、上記の関係を参照することにより、スクリーン板10の厚みTおよび開口率Raを設定することができる。
【0058】
次に、スクリーン板10をサンプルの表面に配置する工程(S32)が実施される。この工程(S32)では、
図6(B)に示すように、サンプル1(矩形状のフレキシブルシート)が台座16に載置される。台座16の四隅にはボス18(突起部)が設けられている。
【0059】
スクリーン板10は、フレーム12と印刷用フレーム14とを接合することにより、印刷用フレーム14に固定されている。印刷用フレーム14を、台座16に対向させて配置する。印刷用フレーム14には、台座16のボス18と対向する位置に孔部(図示せず)が形成されている。この孔部の内部にボス18が収まるように印刷用フレーム14を配置することにより、
図6(C)に示すように、台座16に印刷用フレーム14を固定させることができる。
【0060】
印刷用フレーム14を台座16に固定することにより、スクリーン板10は、サンプル1の表面に接触して配置される。台座16とフレーム14とを接続するための蝶番20を取り付けることによって、複数のサンプル1に対して工程(S30)を繰り返し行なう場合においても、サンプル1ごとに工程(S32)を実施する際に、スクリーン板10とサンプル1との相対的位置を容易に調整することができる。
【0061】
次に、スクリーン板10を介してサンプル1の表面の所定領域に応力発光塗料を塗布する工程(S33)が実施される。
図7および
図8は、工程(S33)を説明するための模式図である。
【0062】
この工程(S33)では、最初に、スクリーン板10に応力発光塗料を充填する工程(S33A)が実施される。
図7に示すように、スクリーン板10をサンプル1の表面に面接触させた状態において、応力発光塗料24をスクリーン板10上に供給する。印刷用フレーム14の上方には、垂直方向に対して傾きを持ったスキージ22が設けられている。スキージ22は、平板状の形状を有しており、その下端部が線状(紙面垂直方向)にスクリーン板10に当接されている。スキージ22は、この状態でスクリーン板10上を水平方向(
図7および
図8では紙面左方向から紙面右方向)に移動可能に構成されている。
【0063】
応力発光塗料24は、スキージ22の進行する方向のスクリーン板10上に供給される。例えば、
図7に示すように、スキージ22の進行方向の前方に応力発光塗料供給用のノズル26を設け、スキージ22移動とともにノズル26を移動させることにより、応力発光塗料を供給することができる。
【0064】
次に、
図8(A)および
図8(B)に示すように、スキージ22をスクリーン板10に当接させた状態で、スクリーン板10上を水平方向に移動させることにより、スクリーン板10の各貫通孔11に応力発光塗料24が充填される。
【0065】
続いて、スクリーン板10に充填された応力発光塗料24をサンプル1の表面に転写する工程(S33B)が実施される。
図8(C)に示すように、スキージ22をスクリーン板10に当接させた状態で、スクリーン板10上を水平方向に移動させる。サンプル1の表面とスクリーン板10とが面接触しているため、各貫通孔11に充填された応力発光塗料24の底部はサンプル1の表面に接触する。これにより、応力発光塗料24は、各貫通孔11においてサンプル1の表面に付着(塗布)される。
【0066】
なお、スクリーン板10上でスキージ22を移動させる作業を繰り返し行なうことによって、各貫通孔11への応力発光塗料24の充填量の均一性を高めることができる。非熟練者でも各貫通孔11に応力発光塗料24を均一に充填することができるように、
図8に示すように、スキージ22の移動方向をスクリーン板10に水平な方向に規制するための回転部材23を配してもよい。
【0067】
各貫通孔11への応力発光塗料24の充填量を均一にすることで、各貫通孔11に対応してサンプル1の表面に付着される応力発光塗料24の量を均一にすることができる。これにより、応力発光体の膜厚の均一性を高めることができる。スクリーン板10、台座16、フレーム12,14、スキージ22およびノズル26は「応力発光体の製造装置」の一実施例を構成する。
【0068】
次に、スクリーン板10をサンプル1の表面から隔離する工程(S34)が実施される。この工程(S34)では、
図8(D)に示すように、印刷用フレーム14を台座16の上方に移動させる(または、台座16を印刷用フレーム14の下方に移動させる)ことにより、スクリーン板10をサンプル1の表面から隔離させる。これにより、各貫通孔11に充填されていた応力発光塗料24がスクリーン板10から除去されてサンプル1の表面上に転写される。隣接する応力発光塗料24が表面張力によって互いに結合することにより、サンプル1の表面の所定領域には、膜厚が一様な応力発光塗膜が形成される。
【0069】
次に、応力発光塗膜を乾燥する工程(S35)が実施される。この工程(S35)では、乾燥によって溶媒中の溶剤および水分が蒸発することにより、応力発光塗膜が硬化する。その結果、サンプル1の表面には薄膜の応力発光体2が形成される。乾燥条件は、使用する樹脂の硬化温度およびサンプル1の耐熱温度に応じて決定することができる。例えば、アミン硬化剤系エポキシ樹脂の場合、乾燥温度を室温~60℃程度とすることができる。酸無水物硬化剤系エポキシ樹脂の場合、乾燥温度を125~170℃程度とすることができる。
【0070】
図10は、応力発光体2が形成されたサンプル1を模式的に示す平面図である。
図10に示すように、サンプル1の所定領域の表面には、薄膜の応力発光体2が配置されている。上述したように、サンプル1の表面に密着された応力発光体2は、サンプル1と一体的に力が加えられて変形(ひずみ)が生じるため、サンプル1の表面と同じひずみ分布を有することになる。応力発光体2は、加えられる力が大きくなるほど発光強度が大きくなる。したがって、応力発光体2の発光強度からサンプル1に発生したひずみ(応力)の状態を可視化できる。
【0071】
(4)検査工程(S40)
次に、検査工程(S40)が実施される。この工程(S40)では、サンプル1の表面に配置された応力発光体2の膜厚を測定する。
【0072】
応力発光体2の膜厚の測定には、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)を用いることができる。その中でも、ナノオーダーレベルの分解能を持つ原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いることにより、サンプル1の表面に配置された応力発光体2の形状を三次元的に測定することができる。原子間力顕微鏡は、例えば(装置名:SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いることができる。応力発光体2の膜厚は、十分な数の膜厚の測定値の算術平均により求めることができる。なお、応力発光体2の膜厚の測定には、上述したSPM以外に、3次元測定器または表面粗さ計などを用いることができる。
【0073】
検査工程(S40)では、測定された応力発光体2の膜厚が予め設定された膜厚範囲にあるか否かを判定する。この工程(S40)における膜厚範囲は、応力発光体2の膜厚の目標値に相当しており、サンプル1の膜厚に応じて設定することができる。工程(S40)における膜厚範囲は、サンプル1の膜厚の1/5以下であることが好ましく、サンプル1の膜厚の1/10以下であることがより好ましい。さらに膜厚範囲は、1μm以上であることが好ましい。応力発光体2の膜厚が1μm未満となると、ひずみの測定に十分な応力発光強度が得られないためである。
【0074】
例えば、サンプル1の膜厚が10μm程度である場合には、工程(S40)における膜厚範囲は1~2μmに設定することができる。
【0075】
応力発光体2の膜厚の測定値が上記膜厚範囲の上限値より大きい場合または下限値より小さい場合には、応力発光体2が適当でないと判定され、サンプル1とともに測定対象から除外される。一方、応力発光体2の膜厚の測定値が上記膜厚範囲にあると判定された場合、検査工程(S40)で正常と判定され、次工程(S50)へ処理を進める。
【0076】
以上説明したように、本実施の形態に係る応力発光材料の製造方法によれば、応力発光能を有する単斜晶の粒子を結晶構造を変化させずに細粒化したことにより、10μm以下の膜厚を有し、かつ、高い応力発光能を発揮し得る応力発光体2をサンプル1の表面に形成することができる。特に、応力発光材料の平均粒子径(D50)を100nm~900nmに調整することにより、応力発光体2の膜厚を2μm以下とすることができる。また、細粒化された応力発光材料において粒子同士の凝集が抑制されているため、均質な応力発光体2を形成することができる。
【0077】
また、本実施の形態に係る応力発光体の製造方法によれば、二次元の網目状の構造を有するスクリーン板10を用いてサンプル1の表面に応力発光塗料を塗布する工程(S30)を実施することにより、サンプル1の表面に、均一な膜厚を有する応力発光体2を簡易に形成することができる。
【0078】
さらに、本実施の形態に係る応力発光体の製造方法によれば、サンプル1の表面に形成される応力発光体2の膜厚は、二次元の網目状の構造を有するスクリーン板10の厚みTおよび開口率Raによって容易に調整することができる。具体的には、スクリーン板10の厚みTを薄くする、および/または、スクリーン板10の開口率Raを小さくすることによって、応力発光体2の膜厚を薄くすることができる。
【0079】
すなわち、本実施の形態に係る応力発光体の製造方法によれば、応力発光塗料に含有される応力発光材料の粒子径をサブミクロンオーダーに調整するとともに、二次元の網目状の構造を有するスクリーン板10の厚みTおよび開口率Raを調整することにより、サンプル1の表面に、2μm以下の均一な膜厚を有し、かつ高い応力発光能を有する応力発光体2を形成することができる。次の測定工程(S50)では、この応力発光体2の発光現象を利用してサンプル1のひずみを測定する。
【0080】
(5)測定工程(S50)
次に、
図11~
図14を参照しながら、測定工程(
図1のS50)について説明する。
【0081】
測定工程(S50)では、サンプル1に応力が加えられたときの応力発光体2の発光現象を用いて応力発光体2のひずみを測定する。応力発光体2の発光は、例えば、
図11に示される応力発光測定装置100を用いて測定することができる。
【0082】
(応力発光測定装置の構成例)
図11は、測定工程(S50)に用いられる応力発光測定装置100の構成例を示すブロック図である。
図11の例では、応力発光測定装置100は、サンプル1に曲げ応力を加えたときの応力発光体2の発光を測定するように構成される。
【0083】
具体的には、応力発光測定装置100は、サンプル1を支持するホルダ40と、光源50と、カメラ60と、第1ドライバ45と、第2ドライバ62と、第3ドライバ52と、コントローラ70とを備える。
【0084】
ホルダ40は、サンプル1の少なくとも2点に接触することにより、サンプル1を支持するように構成される。
図11の例では、ホルダ40は、サンプル1の互いに対向する第1の端部1cおよび第2の端部1dを支持するように構成される。具体的には、ホルダ40は、固定壁42と、移動壁41と、接続部材43,44とを有する。
図11では、ホルダ40を載置した状態において、幅方向をX軸方向とし、奥行き方向をY軸方向とし、高さ方向をZ軸方向とする。
【0085】
固定壁42および移動壁41は、X軸方向に互いに対向するように設置される。固定壁42はホルダ40の底面に固定される。一方、移動壁41は、第1ドライバ45から外力を受けて、Z軸方向(紙面上下方向)に移動することが可能に構成される。
【0086】
サンプル1の第1の端部1cは、接続部材44によって固定壁42に接続されている。サンプル1の第2の端部1dは、接続部材43によって移動壁41に接続されている。サンプル1はU字形状に曲げられた状態でホルダ40にセットされる。なお、固定壁42および移動壁41のX軸方向における間隔を変更することによって、サンプル1の曲げ半径を調整することができる。
【0087】
第1ドライバ45は、ホルダ40に接続され、移動壁41を「第1のホルダ位置」と「第2のホルダ位置」との間で移動させることにより、第1の端部1cおよび第2の端部1dの相対位置を変更可能に構成される。第1ドライバ45は、移動壁41に接続され、サンプル1の第2の端部1dをZ軸方向に往復移動させるアクチュエータ46を有する。
【0088】
第1ドライバ45は、アクチュエータ46を周期的に動作させることで、移動壁41を周期的に移動させることができる。具体的には、第1ドライバ45は、ホルダ40の1動作周期の前半で、移動壁41を第1のホルダ位置から第2のホルダ位置に移動させる。また、第1ドライバ45は、ホルダ40の1動作周期の後半で、移動壁41を第2のホルダ位置から第1のホルダ位置に移動させることができる。
【0089】
サンプル1は、第1の面1aが上側となるようにホルダ40によって支持される。第1の面1aの所定領域は応力発光体2(
図10参照)で被覆されている。光源50は、サンプル1のZ軸方向の上方に配置されており、サンプル1の第1の面1a上の応力発光体2に対して励起光を照射するように構成される。励起光を受けて、応力発光体2は発光状態に遷移する。励起光は、たとえば、紫外線または近赤外線である。なお、
図10の例では、サンプル1の第1の面1aに対して2方向から励起光を照射する構成としたが、光源50は1方向または3方向以上からサンプル1に対して励起光を照射する構成としてもよい。
【0090】
第3ドライバ52は、光源50を駆動するための電力を供給する。第3ドライバ52は、コントローラ70から受ける指令に応じて光源50に供給する電力を制御することにより、光源50から照射される励起光の光量および励起光の照射時間などを制御することができる。
【0091】
カメラ60は、サンプル1のZ軸方向の上方に、第1の面1aの少なくとも所定領域を撮像視野に含むように配置される。具体的には、カメラ60は、フォーカス位置が第1の面1aの所定領域内の少なくとも1点に位置するように配置される。所定領域内の少なくとも1点は、サンプル1の曲げの中心部分に位置することが好ましい。
【0092】
カメラ60は、レンズなどの光学系および撮像素子を含む。撮像素子は、たとえばCCD(Charge Coupled Device)センサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどにより実現される。撮像素子は、光学系を介して第1の面1aから入射される光を電気信号に変換することによって撮像画像を生成する。
【0093】
カメラ60は、少なくともサンプル1に対する応力印加時において、第1の面1a上の応力発光体2の発光を撮像するように構成される。カメラ60の撮像により生成された画像データはコントローラ70へ送信される。
【0094】
第2ドライバ62は、コントローラ70から受ける指令に応じて、カメラ60のフォーカス位置を変更可能に構成される。具体的には、第2ドライバ62は、カメラ60をZ軸方向に沿って移動させることにより、カメラ60のフォーカス位置を調整することができる。たとえば、第2ドライバ62は、カメラ60をZ軸方向に移動させる送りねじを回転させるモータと、モータを駆動するモータドライバとを有する。送りねじがモータによって回転駆動されることにより、カメラ60は、Z軸向の所定範囲内の指定された位置に位置決めされる。また、第2ドライバ62は、カメラ60の位置を示す位置情報をコントローラ70へ送信する。
【0095】
コントローラ70は、応力発光測定装置100全体を制御する。コントローラ70は、主な構成要素として、プロセッサ701と、メモリ702と、入出力インターフェイス(I/F)703と、通信I/F704とを有する。これらの各部は、図示しないバスを介して互いに通信可能に接続される。
【0096】
プロセッサ701は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)などの演算処理部である。プロセッサ701は、メモリ702に記憶されたプログラムを読み出して実行することで、応力発光測定装置100の各部の動作を制御する。具体的には、プロセッサ701は、当該プログラムを実行することによって、後述する応力発光測定装置100の処理の各々を実現する。なお、
図10の例では、プロセッサが単数である構成を例示しているが、コントローラ70は複数のプロセッサを有する構成としてもよい。
【0097】
メモリ702は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)およびフラッシュメモリなどの不揮発性メモリによって実現される。メモリ702は、プロセッサ701によって実行されるプログラム、またはプロセッサ701によって用いられるデータなどを記憶する。
【0098】
入出力I/F703は、プロセッサ701と、第1ドライバ45、第3ドライバ52、カメラ60および第2ドライバ62との間で各種データをやり取りするためのインターフェイスである。
【0099】
通信I/F704は、応力発光測定装置100と他の装置との間で各種データをやり取りするための通信インターフェイスであり、アダプタまたはコネクタなどによって実現される。なお、通信方式は、無線LAN(Local Area Network)などによる無線通信方式であってもよいし、USB(Universal Serial Bus)などを利用した有線通信方式であってもよい。
【0100】
コントローラ70には、ディスプレイ80および操作部90が接続される。ディスプレイ80は、画像を表示可能な液晶パネルなどで構成される。操作部90は、応力発光測定装置100に対するユーザの操作入力を受け付ける。操作部90は、典型的には、タッチパネル、キーボード、マウスなどで構成される。
【0101】
コントローラ70は、第1ドライバ45、第3ドライバ52、カメラ60および第2ドライバ62と通信接続されている。コントローラ70と第1ドライバ45、第3ドライバ52、カメラ60および第2ドライバ62との間の通信は、無線通信で実現されてもよいし、有線通信で実現されてもよい。
【0102】
次に、
図11に示す応力発光測定装置100を用いた測定工程(S50)について説明する。
【0103】
図12は、測定工程(S50)を説明するためのフローチャートである。
図12に示すように、測定工程(S50)は、サンプルをセットする工程(S51)と、励起光を照射する工程(S52)と、荷重を印加する工程(S53)と、応力発光を撮像する工程(S54)と、発光強度分布を表示する工程(S55)とを主に有している。
【0104】
まず、サンプルをセットする工程(S511)が実施される。この工程(S511)では、サンプル1はU字形状に曲げられた状態でホルダ40にセットされる。サンプル1のX軸方向の第1および第2の端部1c,1dは、ホルダ40の固定壁42および移動壁41によってそれぞれ支持されている。サンプル1の第1の面1aの所定領域上には応力発光体2が配置されている。
【0105】
次に、励起光を照射する工程(S512)が実施される。この工程(S512)では、コントローラ70は、サンプル1の第1の面1aに対して、光源50から励起光を照射する。サンプル1の第1の面1aの所定領域に配置された応力発光体2に励起光を照射することにより、応力発光体2が励起状態とされる。
【0106】
次に、荷重を印加する工程(S53)が実施される。この工程(S53)では、コントローラ70は、第1ドライバ45が有するアクチュエータ46を駆動することにより、ホルダ40の移動壁41を第1のホルダ位置から第2のホルダ位置に移動させることにより、サンプル1を第1の曲げ状態から第2の曲げ状態に遷移させる。これにより、サンプル1および発光膜には曲げ荷重が印加される。
【0107】
次に、応力発光を撮像する工程(S54)が実施される。この工程(S54)では、カメラ60は、サンプル1の所定領域(曲げの中心部分を含む)を撮像する。すなわち、カメラ60は応力発光体2の発光を撮像する。コントローラ70は、サンプル1の第1の面1a上の応力発光体2の発光をカメラ60により撮像する。
【0108】
なお、工程(S53)において移動壁41の移動を一定周期(第1ドライバ45の動作周期)で繰り返し実行することにより、サンプル1に対して繰り返し荷重を印加することができる。そして、工程(S54)において、この繰り返し動作中における応力発光体2の発光をカメラ60で撮像することにより、サンプル1にかかる繰り返し荷重に対する耐久性を評価することができる。
【0109】
ここで、ホルダ40の移動壁41をZ軸方向に移動させると、
図13に示すように、サンプル1の第2の端部1dがZ軸方向に移動するため、サンプル1の曲げの中心部分もZ軸方向に移動する。具体的には、サンプル1の第2の端部1dをZ軸方向下方に移動させると、曲げの中心部分は、Z軸方向に沿ってカメラ60から離れる方向に移動する。一方、サンプル1の第2の端部1dをZ軸方向上方に移動させると、曲げの中心部分は、Z軸方向に沿ってカメラ60に近づく方向に移動する。
【0110】
そのため、カメラ60の位置を固定した場合には、サンプル1の所定領域の移動に応じて、カメラ60と当該所定領域との相対位置が変動する。この結果、カメラ60と所定領域の少なくとも1点との間の距離も変動することになる。このときのカメラ60のフォーカス位置が固定されているため、カメラ60と当該少なくとも1点との間の距離が変動すると、カメラ60は当該少なくとも1点にフォーカスを合わせることができず、結果的に当該少なくとも1点に合焦した画像を得ることが困難となることが懸念される。
【0111】
そこで、工程(S54)では、コントローラ70は、カメラ60のフォーカス位置をサンプル1の所定領域の少なくとも1点に維持するように、第1ドライバ45および第2ドライバ62の少なくとも一方を制御する。このような制御の一態様として、コントローラ70は、カメラ60のフォーカス位置をサンプル1の所定領域の少なくとも1点に維持するように、第2ドライバ62を制御する。具体的には、第2ドライバ62は、コントローラ70から受ける指令に従って、サンプル1の所定領域の移動に応じて、カメラ60を移動させることにより、カメラ60のフォーカス位置を当該所定領域内の少なくとも1点に維持するように構成される。
【0112】
次に、応力発光画像を表示する工程(S55)が実施される。この工程(S55)では、コントローラ70は、カメラ60の撮像による画像データに公知の画像処理を施すことにより、サンプル1の第1の面1aの所定領域における発光強度の分布を測定する。コントローラ70は、カメラ60による撮像画像、および、測定された発光強度の分布を示す画像をディスプレイ80(
図11参照)に表示することができる。
【0113】
図14は、サンプル1の所定領域における発光強度の分布を示す画像の一例である。
図13に示す画像Pは、発光強度の強さを2次元平面上に色で表現したものである。
図14の画像Pは「カラーマップ」とも称される。
【0114】
図14の右側には、発光強度の強さに応じて割り当てられる色の範囲を示すカラーバーが示されている。カラーバーは、発光強度の強さの最大値「強」と最小値「弱」との間で、複数のセグメントに分割されており、複数のセグメント間で互いに異なる色が設定されている。
図13に示される画像Pでは、このカラーバーにしたがって、発光強度の強さに応じて色分け表示される。
【0115】
なお、
図14では、発光強度の強さを色で表現したカラーマップを例示したが、コントローラ70は、発光強度の強さを、白、黒およびその中間の複数段階の灰色のみで表現したグレースケールで発光強度の分布を示す画像を作成することも可能である。この場合、複数のセグメント間で互いに異なる階調の灰色が設定される。あるいは、コントローラ70は、発光強度の分布を示す3次元画像を作成することも可能である。
【0116】
図14に示される発光強度の分布を示す画像Pによれば、サンプル1の所定領域における応力(ひずみ)の分布を知ることができる。具体的には、画像Pのうち発光強度の大きい部分は応力(ひずみ)が大きい部分を示し、発光強度の小さい部分は応力(ひずみ)が小さい部分を示している。コントローラ70は、予め求められた発光強度と応力との相関関係に基づいて、発光強度の分布に基づいて、サンプル1の所定領域に生じるひずみの分布を示す画像を生成することができる。
【0117】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0118】
(第1項)一態様に係る応力発光材料の製造方法は、応力発光能を有する単斜晶系の粒子を有する応力発光材料を準備する工程と、応力発光材料を、粒子の結晶構造を維持したまま細粒化する工程とを備える。
【0119】
第1項に記載の応力発光材料の製造方法によれば、微細化された粒子は、単斜晶の結晶構造が保たれており、その応力発光能が損なわれていない。また、細粒化された応力発光材料では、応力発光粒子の凝集が抑制されている。したがって、この応力発光材料を用いることにより、応力発光粒子が均一に分散された応力発光体を製造することができる。
【0120】
(第2項)第1項に記載の応力発光材料の製造方法において、細粒化する工程は、準備する工程により準備された応力発光材料を、粉砕媒体とともにチャンバ内に収容する工程と、チャンバ内で、応力発光材料および粉砕媒体を循環させる工程とを含む。
【0121】
このようにすると、結晶構造を維持したまま応力発光粒子を粉砕することができる。また、粉砕の際に応力発光粒子が変質することを抑制できる。
【0122】
(第3項)第1項に記載の応力発光材料の製造方法において、細粒化する工程は、準備する工程により準備された応力発光材料をミル内に収容する工程と、ミル内部に高圧ジェット気流による同心円の旋回渦を形成する工程とを含む。
【0123】
このようにすると、結晶構造を維持したまま応力発光粒子を粉砕することができる。また、粉砕の際に応力発光粒子が変質することを抑制できる。
【0124】
(第4項)第1項に記載の応力発光材料の製造方法は、応力発光材料の粒子径分布を計測する工程をさらに備える。細粒化する工程は、計測された粒子径分布から求められる平均粒子径が閾値範囲になるまで前記応力発光材料を細粒化する工程を含む。
【0125】
このようにすると、10μm以下の均一性の高い膜厚を有する応力発光体を製造することができる。
【0126】
(第5項)第4項に記載の応力発光体の製造方法において、細粒化する工程は、閾値範囲を100nm~900nmに設定する工程を含む。
【0127】
このようにすると、2μm以下の均一な膜厚を有する応力発光体を製造することができる。
【0128】
(第6項)一態様に係る応力発光体の製造方法は、応力発光能を有する単斜晶系の粒子を有する応力発光材料を準備する工程と、応力発光材料を、粒子の結晶構造を維持したまま細粒化する工程と、細粒化された前記応力発光材料と溶媒とを混合する工程とを備える。
【0129】
第6項に記載の応力発光体の製造方法によれば、細粒化された応力発光材料が溶媒中に均一に分散された混合物を得ることができる。この混合物を用いることにより、均質かつ高い応力発光能を発揮する応力発光体を製造することが可能となる。例えば、数10μmの膜厚を有するサンプルの表面上に、サンプルの膜厚の1/5以下の膜厚を有する応力発光体を均質に形成することができるため、サンプルに発生するひずみを精度良く計測することが可能となる。
【0130】
(第7項)第6項に記載の応力発光体の製造方法は、応力発光材料と溶媒との混合物をサンプルの表面に塗布することにより、サンプルの表面上に応力発光体を形成する工程をさらに備える。応力発光体を形成する工程は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔が網目状に配置された板状体を、サンプルの表面に配置する工程と、板状体に混合物を塗布することにより、複数の貫通孔に混合物を充填する工程と、混合物をサンプルの表面に転写する工程と、混合物を乾燥する工程とを含む。
【0131】
これによると、網目状の構造を有する板状体を用いてサンプルの表面に応力発光塗料を塗布する工程を実施することにより、サンプルの表面に、均一な膜厚を有する応力発光体を簡易に形成することができる。
【0132】
(第8項)第7項に記載の応力発光体の製造方法において、配置する工程は、応力発光体の膜厚の目標値に基づいて、板状体の厚みおよび開口率の少なくとも一方を設定する工程を含む。
【0133】
このようにすると、サンプルの表面に形成される応力発光体の膜厚を、板状体の厚みおよび開口率によって容易に調整することができる。
【0134】
(第9項)第8項に記載の応力発光体の製造方法において、設定する工程は、板状体の厚みを6μm以下に設定する工程を含む。
【0135】
このようにすると、サンプルの表面に、2μm以下の均一な膜厚を有する応力発光体を形成することができる。
【0136】
(第10項)第7項から第9項に記載の応力発光体の製造方法は、サンプルの表面上に配置された応力発光体の膜厚を検査する工程をさらに備える。
【0137】
このようにすると、応力発光体の膜厚の均一性を確保することができる。
(第11項)一態様に係るひずみ測定方法は、第7項から第10項に記載の応力発光体の製造方法により製造された応力発光体のひずみを測定する工程を備える。
【0138】
第11項に記載のひずみ測定方法によれば、均一な膜厚を有する応力発光体の応力発光現象に基づいて、サンプルに生じる応力(ひずみ)の分布を精度良く測定することができる。
【0139】
(第12項)第11項に記載のひずみ測定方法において、測定する工程は、応力発光体に励起光を照射する工程と、サンプルに応力を加える工程と、サンプルに応力が加えられたときの前記応力発光体の発光を撮像する工程と、応力発光画像をディスプレイに表示する工程とを含む。
【0140】
このようにすると、ディスプレイに表示された応力発光画像から、サンプルに生じる応力(ひずみ)の分布を精度良く測定することができる。
【0141】
(第13項)一態様に係る応力発光体は、応力発光材料と溶媒と樹脂との混合物からなる。応力発光材料は、結晶構造を維持したまま細粒化された、応力発光能を有する単斜晶系の粒子を含む。
【0142】
第13項に記載の応力発光体によれば、微細化された粒子は、単斜晶の結晶構造が保たれており、その応力発光能が損なわれていない。また微細化された粒子の凝集が抑制されている。したがって、混合物中に応力発光粒子が均一に分散されており、かつ、十分な応力発光能を発揮する応力発光体を形成することができる。
【0143】
(第14項)一態様に係る応力発光塗料は、母材中に応力発光材料の粒子が分散された応力発光塗料であって、応力発光材料は、平均粒子径が100~900nmである。
【0144】
第14項に記載の応力発光塗料によれば、サンプルの表面に2μm以下の膜厚を有する応力発光体を形成することができる。
【0145】
(第15項)第14項に記載の応力発光塗料において、応力発光塗料における応力発光材料の配合率は、20重量%以上である。
【0146】
このようにすると、サンプルの表面に2μm以下の膜厚を有し、応力発光能に優れた応力発光体を形成することができる。
【0147】
(第16項)一態様に係る応力発光体の製造装置は、サンプルが載置される台座と、サンプルの表面と対向させて台座に固定されるフレームと、フレームに張設される板状体とを備える。記板状体には、厚み方向に貫通する複数の貫通孔が網目状に配置されている。応力発光体の製造装置は、スキージと、供給部材とをさらに備える。スキージは、平板状の形状を有しており、その下端部が線状に板状体に当接された状態で板状体上を水平方向に移動可能に構成される。供給部材は、スキージの進行する方向の板状体上に応力発光塗料を供給する。
【0148】
第16項に記載の応力発光体の製造装置によれば、サンプルの表面に、均一な膜厚を有する応力発光体を簡易に形成することができる。
【0149】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0150】
1 サンプル、2 応力発光体、10 スクリーン板(板状体)、11 貫通孔、12,14 フレーム、16 台座、18 ボス、20 蝶番、22 スキージ、23 回転部材、24 応力発光塗料、26 ノズル、30 粒子、32 溶媒、40 ホルダ、41 移動壁、42 固定壁、43,44 接続部材、45 第1ドライバ、46 アクチュエータ、50 光源、52 第3ドライバ、60 カメラ、62 第2ドライバ、70 コントローラ、80 ディスプレイ、90 操作部、100 応力発光測定装置、701 プロセッサ、702 メモリ、703 入出力I/F、704 通信I/F。