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特許7616262カーボンナノチューブを用いた赤外線センサー及びその製造方法
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  • 特許-カーボンナノチューブを用いた赤外線センサー及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブを用いた赤外線センサー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20250109BHJP
   C01B 32/172 20170101ALI20250109BHJP
【FI】
G01J1/02 C
C01B32/172
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023054703
(22)【出願日】2023-03-30
(62)【分割の表示】P 2020569509の分割
【原出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2023085406
(43)【公開日】2023-06-20
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019012928
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】弓削 亮太
(72)【発明者】
【氏名】成田 薫
(72)【発明者】
【氏名】田中 朋
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/158455(WO,A1)
【文献】特開2017-001919(JP,A)
【文献】特開2015-049207(JP,A)
【文献】特開2011-166070(JP,A)
【文献】国際公開第2010/150808(WO,A1)
【文献】特開2010-163568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/02
G01J 1/42
G01J 5/20 - G01J 5/24
G01K 7/22 - G01K 7/25
C01B 32/00 - C01B 32/991
H01C 7/02 - H01C 7/22
H01L 27/14 - H01L 27/148
H01L 31/00 - H01L 31/0248
H01L 31/08 - H01L 31/119
H10K 30/60 - H10K 30/65
H10K 39/30 - H10K 39/34
H10K 50/00 - H10K 99/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上の第1電極と、
前記基板上にあって、前記第1電極から離れている第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極とに電気的に接続されているカーボンナノチューブ層
を備え、
前記カーボンナノチューブ層は、半導体型カーボンナノチューブをカーボンナノチューブの総量の67質量%以上含み、かつ、カーボンナノチューブ層に含まれる全カーボンナノチューブの60%以上(個数比率)が、0.6~1.5nmの範囲の直径、及び100nm~3μmの範囲の長さを有し、かつ、カーボンナノチューブ層の厚みが1nm~100μmである、ボロメータ型赤外線センサー。
【請求項2】
前記第1電極と前記第2電極との間の電極間距離が10μm~500μmである、請求項1記載のボロメータ型赤外線センサー。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ層のカーボンナノチューブの数密度が1本/μm~1000本/μmである、請求項1又は2に記載のボロメータ型赤外線センサー。
【請求項4】
前記半導体型カーボンナノチューブが、表面及び端の少なくとも一方に、表面官能基であるカルボキシル基、カルボニル基、及び水酸基から選択される少なくとも1種を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のボロメータ型赤外線センサー。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ層が、半導体型カーボンナノチューブを、カーボンナノチューブの総量の90質量%以上含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のボロメータ型赤外線センサー。
【請求項6】
ボロメータ型赤外線センサーの製造方法であって、
前記ボロメータ型赤外線センサーは、
基板と、
前記基板上の第1電極と、
前記基板上にあって、前記第1電極から離れている第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極とに電気的に接続されているカーボンナノチューブ層
を備え、
カーボンナノチューブと非イオン性界面活性剤と分散媒とを混合してカーボンナノチューブを含む溶液を調製する工程と、
前記溶液を分散処理に供することにより、カーボンナノチューブを分散、切断してカーボンナノチューブ分散液を調製する工程と、
前記カーボンナノチューブ分散液を無担体電気泳動に供して、半導体型カーボンナノチューブと金属型カーボンナノチューブとを分離して、半導体型カーボンナノチューブを含む半導体型カーボンナノチューブ分散液を調製する工程と、
次の(a)~(c)のサブ工程によって、第1電極と第2電極とをカーボンナノチューブ層により接続する工程:
(a)前記半導体型カーボンナノチューブ分散液を基板上に塗布するサブ工程;
(b)前記半導体型カーボンナノチューブ分散液が塗布された基板を加熱処理するサブ工程;及び
(c)前記半導体型カーボンナノチューブ分散液を基板上に塗布するサブ工程の前、又は前記半導体型カーボンナノチューブ分散液が塗布された基板を加熱処理するサブ工程の前若しくは後に、基板上に第1電極及び第2電極を作製するサブ工程
と、を含み、
前記半導体型カーボンナノチューブ分散液は、半導体型カーボンナノチューブを分散液中のカーボンナノチューブの総量の67質量%以上含み、
前記半導体型カーボンナノチューブ分散液中の全カーボンナノチューブの60%以上(個数比率)が、0.6~1.5nmの範囲の直径、及び100nm~3μmの範囲の長さを有し、
前記カーボンナノチューブ層の厚みが1nm~100μmである、製造方法。
【請求項7】
前記半導体型カーボンナノチューブ分散液のゼータ電位が+5mV~-40mVであり、該ゼータ電位は、水、臨界ミセル濃度~5質量%の下記式(1)で表される非イオン性界面活性剤、及び67質量%以上の半導体型カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブからなる半導体型カーボンナノチューブ分散液を用いて測定された値である、請求項6に記載の製造方法。
2n+1(OCHCHOH (1)
(式中、n=12~18、m=10~100である)
【請求項8】
前記半導体型カーボンナノチューブ分散液が、半導体型カーボンナノチューブを、カーボンナノチューブの総量の90質量%以上含む、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記分散処理が超音波分散処理である、請求項6~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブを80質量%以上含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のボロメータ型赤外線センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを使用した赤外線センサー、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサーは、セキュリティ用の監視カメラだけでなく、人体のサーモグラフィー、車載用カメラ、及び構造物、食品等の検査など非常に広い範囲の応用性があることから、近年、産業応用が活発になっている。特に、IoT(Internet of Thing)との連携による生体情報の取得が可能な、安価で、且つ、高性能な赤外線センサーの開発が期待されている。非冷却型の赤外線センサーでは、主にボロメータ部分にVO(酸化バナジウム)が使用されているが、プロセスが高コストになる点と実用的な抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient Resistance)が小さい(約-2.0%/K)ため、TCRの向上が広く検討されている。
【0003】
TCR向上には、半導体的特性を有し、且つ、キャリア移動度が大きい材料が必要であるため、大きなバンドギャップとキャリア移動度を持つ半導体性単層カーボンナノチューブをボロメータ部分に適用することが期待されている。しかしながら、単層カーボンナノチューブには通常、半導体型の性質のカーボンナノチューブと金属型の性質のカーボンナノチューブが2:1で含まれるため、分離が必要である。
【0004】
特許文献1では、通常の単層カーボンナノチューブをボロメータ部分に適用し、且つ、単層カーボンナノチューブの化学的安定性を利用して、有機溶媒に混ぜた分散液を作製し、電極上にキャストする安価な薄膜プロセスでのボロメータの作製が提案されている。その際、単層カーボンナノチューブを空気中でアニール処理をすることで、TCRを約-1.8%/Kまで向上させることに成功している。
【0005】
特許文献2では、単層カーボンナノチューブには、金属的・半導体的成分が混在しているため、イオン性の界面活性剤によりカイラリティの揃った半導体型単層カーボンナノチューブを抽出し、ボロメータ部分に適用することで、-2.6%/KのTCRの実現に成功している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2012/049801号
【文献】特開2015-49207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された赤外線センサーに用いるカーボンナノチューブ薄膜において、カーボンナノチューブに金属型カーボンナノチューブが多く混在するため、TCRが室温において低く、赤外線センサーの性能向上に限界があった。また、特許文献2に記載された半導体型カーボンナノチューブを使った赤外線センサーは、分離のためのイオン性界面活性剤が簡単に除去できないという課題があった。
【0008】
上述した課題に鑑み、本発明では、半導体型カーボンナノチューブを用いた高いTCR値を持つ赤外線センサー、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、
基板と、
前記基板上の第1電極と、
前記基板上にあって、前記第1電極から離れている第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極とに電気的に接続されているカーボンナノチューブ層
を備え、
前記カーボンナノチューブ層は、半導体型カーボンナノチューブをカーボンナノチューブの総量の66質量%超含み、かつ、カーボンナノチューブ層に含まれるカーボンナノチューブの60%以上が、0.6~1.5nmの範囲の直径、及び100nm~5μmの範囲の長さを有する、赤外線センサーが提供される。
【0010】
また、本発明の一態様によれば、
赤外線センサーの製造方法であって、
前記赤外線センサーは、
基板と、
前記基板上の第1電極と、
前記基板上にあって、前記第1電極から離れている第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極とに電気的に接続されているカーボンナノチューブ層
を備え、
カーボンナノチューブと非イオン性界面活性剤と分散媒とを混合してカーボンナノチューブを含む溶液を調製する工程と、
前記溶液を分散処理に供することにより、カーボンナノチューブを分散、切断してカーボンナノチューブ分散液を調製する工程と、
前記カーボンナノチューブ分散液を無担体電気泳動に供して、半導体型カーボンナノチューブと金属型カーボンナノチューブとを分離して、半導体型カーボンナノチューブを含む半導体型カーボンナノチューブ分散液を調製する工程と、
次の(a)~(c)のサブ工程によって、第1電極と第2電極とをカーボンナノチューブ層により接続する工程:
(a)前記半導体型カーボンナノチューブ分散液を基板上に塗布するサブ工程;
(b)前記半導体型カーボンナノチューブ分散液が塗布された基板を加熱処理するサブ工程;及び
(c)前記半導体型カーボンナノチューブ分散液を基板上に塗布するサブ工程の前、又は前記半導体型カーボンナノチューブ分散液が塗布された基板を加熱処理するサブ工程の前若しくは後に、基板上に第1電極及び第2電極を作製するサブ工程
と、を含む、赤外線センサーの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高いTCR値を持つ赤外線センサー、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明によって作製された赤外線センサーの概略図である。
図2】本発明によって作製された半導体型カーボンナノチューブ膜の原子間力顕微鏡像である。
図3】本発明において使用された金属・半導体分離装置の概略図である。
図4】本発明によって作製された赤外線センサーのTCR値を示すグラフである。
図5】本発明によって作製された赤外線センサーのTCR値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、特定の直径及び長さを有する半導体型カーボンナノチューブをボロメータ部分に適用することで、高いTCR値を有する赤外線センサーが得られることを見出した。また、一実施形態では、カーボンナノチューブを非イオン性界面活性剤を用いて分離した半導体型カーボンナノチューブをボロメータ部分に適用することで、高いTCR値が得られる赤外線センサーが得られることを見出した。また、一実施形態では、半導体型カーボンナノチューブの直径を小さくすることで、TCRがさらに向上することを見出した。
【0014】
さらに、一実施形態では、後述するように、非イオン性界面活性剤として長い分子長の非イオン性界面活性剤を用いることも好ましい。このような非イオン性界面活性剤は、カーボンナノチューブとの相互作用が弱く、分散液を塗布後除去することが容易である。そのため、安定したカーボンナノチューブ導電ネットワークを形成でき、優れたTCR値を得ることができる。また、このような非イオン性界面活性剤は長い分子長であるため、分散液の塗布時にカーボンナノチューブ間の距離が大きくなり、電極作製時に再凝集しにくい。このため、適度な間隔を保ったまま、孤立分散状態のカーボンナノチューブネットワークを形成し、温度変化に対して大きな抵抗変化を実現することができる。さらに、カーボンナノチューブの長さが制御されることで均一な塗布が容易となる。上記のような理由から、本実施形態に係る赤外線センサーの製造方法は印刷プロセスに適している。このため、従来の方法に比べ、印刷プロセスを使用することができるために工程数を減らすことができ、センサー作製における低コスト化が可能であり、また量産性に優れているという利点もある。また、一実施形態では、分離プロセスにおいて必ずしも超遠心分離を行う必要がないという点でコストを下げることができるという利点もある。
【0015】
本発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下に実施の形態の例について説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る赤外線センサー検出部の概略図である。基板1の上に第1の電極2と第2の電極4があり、これらの電極は、その間にあるカーボンナノチューブ層3により接続されている。このカーボンナノチューブ層3は、後述するように、非イオン性界面活性剤を用いて分離された複数の半導体型カーボンナノチューブから主に構成されている。このような赤外線センサーは、例えば以下のようにして製造することができる。基板であるSiOを被膜したSi上をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、その後、酸素プラズマ処理で表面の有機物等を除去する。3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)水溶液中に基板を浸漬、乾燥後に、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル又はポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル溶液に分散した半導体型カーボンナノチューブ分散液を基板上に塗布、乾燥する。大気中において200℃で焼成することで非イオン性界面活性剤等を除去する。これらの操作により基板上にカーボンナノチューブの薄層が形成される。その後、金蒸着により、カーボンナノチューブの薄層に重ねて、50μmの間隔で第1、2電極を作製する。形成されたカーボンナノチューブの薄層上の電極間の領域にアクリル樹脂(PMMA)溶液を塗布してPMMAの保護層を形成する。この後、基板全体を酸素プラズマ処理することにより、カーボンナノチューブ層3以外の領域にある余分なカーボンナノチューブ等を除去する。大気中において200℃で加熱することで、余分な溶媒、不純物等を除去する。得られた図1の赤外線センサー検出部は、光照射による電気抵抗の温度依存性を利用して温度を検出する。そのため、他の周波数領域においても、光照射により温度が変化すれば同様に使用でき、例えば、テラヘルツ領域を検出することもできる。また、温度変化による電気抵抗の変化の検出は、図1の構造だけでなく、ゲート電極を備えることで電界効果トランジスタにすることで抵抗値変化を増幅することによって行うこともできる。
【0017】
図2は、その基板上のカーボンナノチューブの原子間力顕微鏡(AFM)像の一例である。カーボンナノチューブは、ほぼ孤立分散した状態で、直径分布が均一であり、ネットワーク構造を有し、導電パスを形成している。
【0018】
本明細書において、用語「カーボンナノチューブ層」は、第1電極と第2電極とを電気的に接続する導電パスを形成する複数のカーボンナノチューブから構成される。該複数のカーボンナノチューブは、例えば、平行線状、繊維状、ネットワーク状等の構造を形成し得るが、凝集し難く、均一な導電パスを得ることができるためネットワーク状の構造を形成していることが好ましい。本明細書において、「カーボンナノチューブ層」を「カーボンナノチューブ膜」と記載する場合もある。
【0019】
カーボンナノチューブは、単層、二層、多層カーボンナノチューブを使用することができるが、半導体型を分離する場合は、単層又は数層(例えば、2層又は3層)のカーボンナノチューブが好ましく、単層カーボンナノチューブがより好ましい。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上(100質量%を含む)含むことがより好ましい。
【0020】
カーボンナノチューブの直径は、バンドギャップを大きくしてTCRを向上する観点で、0.6~1.5nmの間が好ましく、0.6nm~1.2nmがより好ましく、0.7~1.1nmがさらに好ましい。また、一実施形態では、特に1nm以下が好ましい場合もある。0.6nm以上であれば、カーボンナノチューブの製造がより容易である。1.5nm以下であれば、バンドギャップを適切な範囲に維持し易く、高いTCRを得ることができる。
【0021】
本明細書において、カーボンナノチューブの直径は、基板上のカーボンナノチューブを原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))を用いて観察して50箇所程度の直径を計測し、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1.5nmの範囲内にあることを意味する。好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1.2nmの範囲内、さらに好ましくは0.7~1.1nmの範囲内にある。また、一実施形態では、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1nmの範囲内にある。
【0022】
また、カーボンナノチューブの長さは、100nm~5μmの間が、分散しやすく、塗布性も優れているためより好ましい。またカーボンナノチューブの導電性の観点でも、長さが100nm以上であることが好ましい。また、5μm以下であれば基板上での凝集を抑制し易い。カーボンナノチューブの長さは、より好ましくは500nm~3μm、さらに好ましくは700nm~1.5μmである。
【0023】
本明細書において、カーボンナノチューブの長さは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))を用いて少なくとも50本を観察し、数え上げることでカーボンナノチューブの長さの分布を測定し、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が100nm~5μmの範囲内にあることを意味する。好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が500nm~3μmの範囲内にある。より好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が700nm~1.5μmの範囲内にある。
【0024】
カーボンナノチューブの直径及び長さが上記範囲内であると、半導体性の影響が大きくなり、且つ、大きな電流値を得られるため、赤外線センサーに用いた場合に高いTCR値が得られやすい。
【0025】
また、カーボンナノチューブ層の厚みは特に限定されないが、例えば1nm以上、例えば数nm~100μm、好ましくは10nm~10μm、また一実施形態ではより好ましくは50nm~10μmの範囲である。
【0026】
カーボンナノチューブ中、半導体型カーボンナノチューブ、好ましくは半導体型単層カーボンナノチューブの含有率は、一般に66質量%超、好ましくは67質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらには80質量%以上であり、特に、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上(100質量%を含む)がさらに好ましい。
【0027】
本実施形態の赤外線センサーにおいて、その電極間距離は、1μm~500μmが好ましく、小型化のためには、5~200μmがより好ましい。5μm以上であると、金属型カーボンナノチューブを僅かに含む場合でも、TCRの特性の低下を抑制することができる。また、500μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサーの適用に有利である。
【0028】
第1電極と第2電極を繋いでいる複数のカーボンナノチューブにおいて、電極間のカーボンナノチューブ数(カーボンナノチューブ層(3)のカーボンナノチューブの数密度)が1本/μm~1000本/μmであることが好ましく、10本/μm~500本/μmであることがより好ましく、50本/μm~300本/μmであることがより好ましい。また一実施形態では10本/μm~100本/μmであることが好ましい場合もある。1本/μmより小さい場合は、導電パスを形成するのが困難である。また、1000本/μm以下であれば、金属型カーボンナノチューブを僅かに含む場合であっても、TCRの特性低下が抑制され易い。カーボンナノチューブ数は、例えば、カーボンナノチューブ層上のランダムな10点(それぞれ1μm×1μmの領域)において、AFMを用いて面積当たりのカーボンナノチューブ数を計測し、これを平均することによって算出することができる。
【0029】
基板、電極等の構成は後述のものを用いることができる。
【0030】
上述のようなカーボンナノチューブを備えた赤外線センサーは、例えば、以下に説明するような非イオン性界面活性剤を用いたカーボンナノチューブの切断・分散工程及び分離工程を含む方法により製造することができるが、他の方法を用いて製造してもよい。
【0031】
以下、本発明の一実施形態に係る赤外線センサーの製造方法の例を詳述する。
【0032】
カーボンナノチューブは、不活性雰囲気下、真空中において熱処理を行うことで、表面官能基やアモルファスカーボン等の不純物、触媒等を除去したものを用いてもよい。熱処理温度は、適宜選択できるが、800-2000℃が好ましく、800-1200℃がより好ましい。
【0033】
非イオン性界面活性剤は、適宜選択できるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系に代表されるポリエチレングリコール構造を有する非イオン性界面活性剤や、アルキルグルコシド系非イオン性界面活性剤など、イオン化しない親水性部位とアルキル鎖など疎水性部位で構成されている非イオン性界面活性剤を1種類もしくは複数組み合わせて用いることが好ましい。このような非イオン性界面活性剤としては、式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルが好適に用いられる。また、アルキル部が1又は複数の不飽和結合を含んでもよい。
【0034】
2n+1(OCHCHOH (1)
(式中、n=好ましくは12~18、m=10~100、好ましくは20~100である)
【0035】
特に、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテルなどポリオキシエチレン(n)アルキルエーテル(nが20以上100以下、アルキル鎖長がC12以上C18以下)で規定される非イオン性界面活性剤がより好ましい。また、N,N-ビス[3-(D-グルコンアミド)プロピル]デオキシコールアミド、n-ドデシルβ-D-マルトシド、オクチルβ-D-グルコピラノシド、ジギトニンも使用することができる。
【0036】
非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(分子式:C6412626、商品名:Tween 60、シグマアルドリッチ社製等)、ポリオキシエチレンソルビタントリオレアート(分子式:C2444、商品名:Tween 85、シグマアルドリッチ社製等)、オクチルフェノールエトキシレート(分子式:C1422O(CO)、n=1~10、商品名:Triton X-100、シグマアルドリッチ社製等)、ポリオキシエチレン(40)イソオクチルフェニルエーテル(分子式:C1740(CHCH2040H、商品名:Triton X-405、シグマアルドリッチ社製等)、ポロキサマー(分子式:C10、商品名:Pluronic、シグマアルドリッチ社製等)、ポリビニルピロリドン(分子式:(CNO)、n=5~100、シグマアルドリッチ社製等)等を用いることもできる。
【0037】
非イオン性界面活性剤の分子長は5~100nmが好ましく、10~100nmがより好ましく、10~50nmがさらに好ましい。5nm以上、特に10nm以上であると、分散液を電極上(電極1と電極2の間を含む領域)に塗布した後、カーボンナノチューブ同士の距離を適切に保つことができ凝集を抑制し易い。また、100nm以下であると、ネットワーク構造の構築の観点で好ましい。
【0038】
分散溶液を得る方法は特に制限されず、従来公知の方法を適用できる。例えば、カーボンナノチューブ混合物、分散媒、及び非イオン性界面活性剤を混合してカーボンナノチューブを含む溶液を調製し、この溶液を超音波処理することでカーボンナノチューブを分散させ、カーボンナノチューブ分散液(ミセル分散溶液)を調製する。分散媒としては、分離工程の間、カーボンナノチューブを分散浮遊できる溶媒であれば特に限定されず、例えば水、重水、有機溶媒、イオン液体、又はこれらの混合物等を用いることができるが、水及び重水が好ましい。前記超音波処理に加えて、又は代えて、機械的な剪断力によるカーボンナノチューブ分散手法を用いてもよい。機械的な剪断は気相中で行ってもよい。カーボンナノチューブと非イオン性界面活性剤によるミセル分散水溶液においてカーボンナノチューブは孤立した状態であることが好ましい。そのため、必要に応じて、超遠心分離処理を用いてバンドル、アモルファスカーボン、不純物触媒等の除去を行ってもよい。分散処理の際、カーボンナノチューブを切断することができ、カーボンナノチューブの粉砕条件、超音波出力、超音波処理時間等を変えることで、長さを制御することができる。例えば、未処理のカーボンナノチューブをピンセット、ボールミル等で粉砕し、凝集体サイズを制御できる。これらの処理後、超音波ホモジナイザーにより、出力40~600W、場合により100~550W、20~100KHz、処理時間1~5時間、好ましくは~3時間にすることで、長さを100nm~5μmに制御することできる。1時間より短いと、条件によってはほとんど分散せず、ほとんど元の長さのままである場合がある。また、分散処理時間の短縮及びコスト減の観点では3時間以下が好ましい。本実施形態は、非イオン性界面活性剤を用いたことにより切断の調整が容易であるという利点も有し得る。また、非イオン性界面活性剤を用いた方法により調製したカーボンナノチューブを用いて製造した本実施形態に係る赤外線センサーは、除去が困難なイオン性界面活性剤を含有しないという利点もある。
【0039】
カーボンナノチューブの分散及び切断により、表面官能基がカーボンナノチューブの表面あるいは端に生成される。生成される官能基は、カルボキシル基、カルボニル基、水酸基等が生成される。液相での処理であれば、カルボキシル基、水酸基が生成され、気相であれば、カルボニル基が生成される。
【0040】
また、前記重水または水、及び非イオン性界面活性剤を含む液体における界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度~10質量%が好ましく、臨界ミセル濃度~3質量%がより好ましい。臨界ミセル濃度以下であると分散できないため好ましくない。また、10質量%以下であれば、分離後、界面活性剤の量を低減しながら十分な密度のカーボンナノチューブを塗布することができる。本明細書において、臨界ミセル濃度(critical micelle concentration(CMC))とは、例えば一定温度下、Wilhelmy式表面張力計等の表面張力計を用い、界面活性剤水溶液の濃度を変えて表面張力を測定し、その変極点となる濃度のことを言う。本明細書において「臨界ミセル濃度」は、大気圧下、25℃での値とする。
【0041】
上記切断及び分散工程におけるカーボンナノチューブの濃度(カーボンナノチューブの重量/(分散媒と界面活性剤との合計重量)×100)は、特に限定されないが、例えば0.0003~10質量%、好ましくは0.001~3質量%、より好ましくは0.003~0.3質量%とすることができる。
【0042】
上述の切断・分散工程を経て得られた分散液を、後述する分離工程にそのまま用いてもよいし、分離工程の前に、濃縮、希釈等の工程を行ってもよい。
【0043】
カーボンナノチューブの分離は、例えば、電界誘起層形成法(ELF法:例えば、K.Ihara et al. J.Phys.Chem.C.2011,115,22827~22832、日本特許第5717233号明細書を参照、これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)により行うことができる。ELF法を用いた分離方法の一例を説明する。カーボンナノチューブ、好ましくは単層カーボンナノチューブを非イオン性界面活性剤により分散し、その分散液を縦型の分離装置に入れ、上下に配置された電極に電圧を印加することで、無担体電気泳動により分離する。分離のメカニズムは以下のように推定することができる。カーボンナノチューブを非イオン性界面活性剤により分散した場合、半導体型カーボンナノチューブのミセルは負のゼータ電位を有し、一方金属型カーボンナノチューブのミセルは逆符号(正)のゼータ電位(近年では、僅かに負のゼータ電位を有するかほとんど帯電していないとも考えられている)を持つ。そのため、カーボンナノチューブ分散液に電界を印加すると、ゼータ電位の差などの作用により、半導体型カーボンナノチューブミセルは陽極(+)方向へ、金属型カーボンナノチューブミセルは陰極(-)方向へ電気泳動する。最終的には陽極付近に半導体型カーボンナノチューブが濃縮された層が、陰極付近に金属型カーボンナノチューブが濃縮された層が分離槽内に形成される。分離の電圧は、分散媒の組成及びカーボンナノチューブの電荷量等を考慮して適宜設定できるが、1V以上200V以下が好ましく、10V以上200V以下がより好ましい。分離工程の時間短縮の観点では100V以上が好ましい。また、分離中の泡の発生を抑制して分離効率を維持する観点では200V以下が好ましい。分離は、繰り返すことで純度が向上する。分離後の分散液を初期濃度に再設定して同様の分離操作を行ってもよい。それにより、さらに高純度化することができる。
【0044】
上述のカーボンナノチューブの分散・切断工程及び分離工程により、所望の直径・長さを有する半導体型カーボンナノチューブが濃縮された分散液を得ることができる。なお、本明細書において、半導体型カーボンナノチューブが濃縮されているカーボンナノチューブ分散液を「半導体型カーボンナノチューブ分散液」と呼ぶ場合がある。分離工程により得られる半導体型カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブの総量中、半導体型カーボンナノチューブを、一般に66質量%超、好ましくは67質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特には、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上(上限は100質量%であってもよい)含む分散液を意味する。金属型および半導体型のカーボンナノチューブの分離傾向については、顕微Ramanスペクトル分析法と紫外可視近赤外吸光光度分析法により分析することができる。
【0045】
上述のカーボンナノチューブの分散・切断工程後、且つ、分離工程前のカーボンナノチューブ分散液のバンドル、アモルファスカーボン、金属不純物等を除去するため遠心分離処理を行ってもよい。遠心加速度は適宜調整できるが、10000×g~500000×gが好ましく、50000×g~300000×gがより好ましく、場合により100000×g~300000×gであってもよい。遠心分離時間は0.5時間~12時間が好ましく、1~3時間がより好ましい。遠心分離温度は、適宜調整できるが、4℃~室温が好ましく、10℃~室温がより好ましい。
【0046】
また一実施形態では、超遠心分離処理を行わないことが好ましい場合もある。特にカーボンナノチューブを含む分散液が非イオン性界面活性剤、特に分子長の大きな非イオン性界面活性剤を含む実施形態では、バンドル形成の抑制が容易となるため、超遠心分離処理を行わずに、プロセス工程を減らし、コスト削減を図ることができるという利点もある。
【0047】
上述の工程により得られた半導体型カーボンナノチューブ分散液を基板上に塗布して乾燥させ、場合により熱処理を行うことにより、カーボンナノチューブ層を形成することができる。
【0048】
基板としては、少なくとも素子形成表面が絶縁性のもの、半導体性のものが使用できるが、特に素子形成表面が絶縁性のものが好ましい。例えば、Si、SiOを被膜したSi、SiO、SiN、パリレン、ポリマー、樹脂、プラスチック等が使用できるが、これらに限定されない。
【0049】
基板への塗布に用いる分離後のカーボンナノチューブ分散液の界面活性剤の濃度は適宜制御することができる。基板に塗布する際のカーボンナノチューブ分散液の界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度~5質量%程度が好ましく、より好ましくは、0.001質量%~3質量%、塗布後の再凝集等を抑えるために、0.01~1質量%が特に好ましい。
【0050】
半導体型カーボンナノチューブ分散液のゼータ電位は、+5mV~-40mVであることが好ましく、+3mV~-30mVであることがより好ましく、+0mV~-20mVであることがさらに好ましい。+5mV以下であると、金属型カーボンナノチューブの含有量が少ないことを意味するため好ましい。-40mVより大きい場合はそもそも分離が困難である。ここで、半導体型カーボンナノチューブ分散液のゼータ電位とは、例えば上記のELF法による分離工程によって得られた、非イオン性界面活性剤と半導体型カーボンナノチューブミセルとを含む半導体型カーボンナノチューブ分散液のゼータ電位である。
【0051】
本明細書において、カーボンナノチューブ分散液のゼータ電位は、分散液を、ELSZ装置(大塚電子株式会社)を用いて測定した値である。
【0052】
カーボンナノチューブ分散液を基板に塗布する方法としては、特に限定されず、滴下法、スピンコート、印刷、インクジェット、スプレー塗布、ディップコート等が挙げられる。赤外線センサーの製造コストの低減の観点では、印刷法が好ましい。
【0053】
基板上に塗布したカーボンナノチューブは、熱処理により界面活性剤や溶媒を除去することができる。熱処理の温度は界面活性剤の分解温度以上で適宜設定できるが、150~400℃が好ましく、200~400℃がより好ましい。200℃以上であれば界面活性剤の分解物の残留を抑制し易いためより好ましい。また、400℃以下であれば、基板の変質を抑制することができるため好ましい。また、カーボンナノチューブの分解やサイズ変化、官能基の離脱等を抑制することができる。
【0054】
基板上の第1電極と第2電極は、金、白金、チタンの単体または、複数を使用して作製できる。電極の作製方法は特に限定されないが、蒸着、スパッタ、印刷法が挙げられる。また、厚みは、適宜調整できるが、10nm~1mmが好ましく、50nm~1μmがより好ましい。あらかじめ電極が設けられた基板に上記分散液を塗布してもよいし、分散液を塗布後、加熱処理の前又は後に電極を作製してもよい。
【0055】
カーボンナノチューブ層の表面に、必要により保護膜を設けてもよい。保護膜は、検知したい赤外線波長域において透明性の高い材料が好ましい。例えば、PMMA、PMMAアニソール等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等が挙げられる。
【0056】
本実施形態に係る赤外線センサーは、単素子であってもよく、イメージセンサーに用いられるような複数の素子を二次元に配列したアレイでもよい。
【0057】
この出願は、2019年1月29日に出願された日本出願特願2019-012928を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【実施例
【0058】
以下に実施例を示し、さらに詳しく本発明について例示説明する。もちろん、以下の例によって発明が限定されることはない。
【0059】
(実施例1)
(工程1)
単層カーボンナノチューブ((株)名城ナノカーボン、EC1.0(直径:1.1~1.5nm程度(平均直径1.2nm))100mgを石英ボートに入れ、真空雰囲気下で電気炉を使った熱処理を行った。熱処理温度は、900℃で時間は2時間で行った。熱処理後の重さは、80mgに減少し、表面官能基や不純物が除去されていることが分かった。得られた単層カーボンナノチューブをピンセットで破砕後、12mgを1wt%の界面活性剤(ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル)水溶液40mlに浸漬させ、十分に沈めた後、超音波分散処理(BRANSON ADVANCD-DIGITAL SONIFIER装置(出力:50W))を3時間行った。これにより、溶液内にカーボンナノチューブの凝集物がなくなった。その後、50000rpm、10℃、60分の条件で超遠心分離処理を行った。この操作により、バンドルや残留触媒等を除去し、カーボンナノチューブ分散液を得た。この時、分散液をSiO基板上に塗布、100℃で乾燥後、原子間力顕微鏡(AFM)観察を行った。その結果、単層カーボンナノチューブは、その70%が長さ500nm~1.5μmの範囲にあり、その平均の長さがおよそ800nmであることが分かった。一方、比較目的で、イオン性の界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate,SDS))を使って同様の条件で分散させると平均の長さがおよそ1.5μm以上になり長さが大きくなった。
【0060】
(工程2)
カーボンナノチューブ分散液を図3の分離装置に導入した。ここで、内側のチューブ11を閉じた状態で導入口から水8(約15ml)、カーボンナノチューブ分散液9(約70ml)、2wt%界面活性剤水溶液10(約15ml)を入れ、その後、内側のチューブ11にも2wt%界面活性剤水溶液(約20ml)を入れた。その後、内側のチューブ11を開けることで、図3のような3層構造になった。120Vの電圧をかけることで、半導体型カーボンナノチューブが陽極側に移動した。一方、金属型カーボンナノチューブが陰極側に移動した。分離開始から約80時間後にきれいに分離した。分離工程は室温(約25℃)で実施した。陽極側に移動したカーボンナノチューブ分散液を光吸収スペクトルで分析すると、金属型カーボンナノチューブの成分が除去されていることが分かった。また、ラマンスペクトルから、99wt%が半導体型カーボンナノチューブであった。この時、単層カーボンナノチューブの直径は、約1.2nmが最も多く(70%以上)、平均直径は1.2nmであった。
【0061】
また、得られた半導体型カーボンナノチューブ分散液のゼータ電位をELSZ装置(大塚電子株式会社)を用いて測定したところ、およそ-10mVであった。
【0062】
(工程3)
シリコン基板に100nmのSiOを被膜した基板を準備した。アセトン、イソプロピルアルコール、超純水中にそれぞれ順に浸漬し、超音波処理することで基板を洗浄した。窒素で乾燥後、酸素プラズマ処理を3分行った。0.1%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬した。水洗後、105℃で乾燥させた。得られた基板上に濃度を0.7wt%に調整されたカーボンナノチューブ分散液(約0.1ml)を滴下し、30分放置後、エタノールで洗浄後、110℃で乾燥した。大気中において200℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。その後、金を厚み100nmで、50μmの間隔で基板上の2か所に蒸着した。得られた基板上の電極間の領域を原子間力顕微鏡(AFM)観察した(図2)。界面活性剤が除去されたため、直径が1.1~1.5nm程度(平均直径1.2nm)の単層カーボンナノチューブがネット状に分散していることが分かった。AFM観察することにより算出した平均長さは1000nmであった(カーボンナノチューブの70%以上が0.8~1.2μmの範囲内であった)。また、界面活性剤の分子長が長いため、周囲の単層カーボンナノチューブが再凝集していないことが分かった。次に電極間にPMMAアニソール溶液を塗布することで、電極間のカーボンナノチューブを保護した後、酸素プラズマ処理で、電極付近の余分なカーボンナノチューブ等を除去した。その後、200℃、1時間乾燥した。
【0063】
作製した基板において、カーボンナノチューブ層3のカーボンナノチューブ数をAFMを用いて測定したところ、およそ200本/μmであった。
【0064】
(工程4)
図4は、工程3で作製した赤外線センサーの温度を変えた時の抵抗値の変化である。そのTCR値(dR/RdT)は、300Kにおいて、約-3.3%/Kであった。この値は、比較例1や従来使用されている酸化バナジウムの-2%/Kを大きく上回ることが分かった。これは、カーボンナノチューブ層を構成するカーボンナノチューブのほとんどが直径が小さくバンドギャップが大きな半導体型カーボンナノチューブであるためである。また、非イオン性界面活性剤が容易に除去でき、且つ、界面活性剤のサイズが大きいため、バンドル形成が抑制され、孤立分散したカーボンナノチューブネットワークを形成したためである。
【0065】
(比較例1)
実施例1の工程1と同様に作製したカーボンナノチューブ分散液を、工程2の分離工程を行わず、工程3と同様なプロセスで赤外線センサーを作製した。この時のTCR値は、約-0.5%/Kであった。TCR値が低いのは、金属型カーボンナノチューブが多く含まれているためである。
【0066】
(実施例2)
実施例1の工程1において原料として直径の小さいカーボンナノチューブ0.8~1.1nm程度(平均直径0.9nm)を用いたこと以外は実施例1の工程1~3と同様なプロセスで、その少なくとも70%が直径が0.8~1.1nm程度(平均直径0.9nm)の単層カーボンナノチューブで赤外線センサーを作製した。図5は、赤外線センサーの温度を変えた時の抵抗値の変化である。そのTCR値(dR/RdT)は、300Kにおいて、約-5.0%/Kであった。このTCR値が大きくなったのは、直径がさらに小さくなってバンドギャップが大きくなったためである。この結果から、カーボンナノチューブの直径を変えることで、TCR値を制御できることが分かった。
【0067】
(比較例2)
実施例1の工程1において原料として直径の大きいカーボンナノチューブ1.6~1.9nm程度(平均直径1.8nm)を用いたこと以外は実施例1の工程1~3と同様なプロセスで、その少なくとも70%が直径が1.6~1.9nm程度(平均直径1.8nm)の単層カーボンナノチューブで赤外線センサーを作製した。この時のTCR値は、約-2.0%/Kであった。直径が大きい場合は、バンドギャップが小さいためである。
【0068】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 基板
2 電極1(第1電極)
3 カーボンナノチューブ膜(カーボンナノチューブ層)
4 電極2(第2電極)
5 陰極
6 陽極
7 注入口/排出口
8 水
9 カーボンナノチューブ分散液
10 界面活性剤溶液
11 内側チューブ
図1
図2
図3
図4
図5