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特許7616358計測装置、計測システム、計測方法、およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】計測装置、計測システム、計測方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20250109BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A61B5/107 130
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023514352
(86)(22)【出願日】2022-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2022005593
(87)【国際公開番号】W WO2022219905
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2023-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2021067830
(32)【優先日】2021-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】黄 晨暉
(72)【発明者】
【氏名】オウ シンイ
(72)【発明者】
【氏名】福司 謙一郎
【審査官】村田 泰利
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-173365(JP,A)
【文献】特開2015-195913(JP,A)
【文献】特開2011-251013(JP,A)
【文献】特開2015-042241(JP,A)
【文献】特開2016-140591(JP,A)
【文献】特開2017-023436(JP,A)
【文献】特開2016-112108(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0027803(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
足の動きに関するセンサデータの時系列データから歩行イベントを検出する検出手段と、
前記歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間のセンサデータを用いて、下肢の動きに関する拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、下肢に関する計測を行う計測手段と、を備え
前記検出手段は、
前記歩行イベントとして足交差および踵接地を検出し、
前記計測手段は、
前記足交差を起点とする所定期間の前記センサデータの座標系を、前記足交差のタイミングにおける膝関節の位置を原点とする第1相対座標系に変換し、
前記第1相対座標系において、前記足交差から前記踵接地までの期間において下腿と足裏面のなす角度が直角であるという第1拘束条件と、前記膝関節の伸展/屈曲は前記膝関節を中心とする回転運動であるという第2拘束条件と、前記所定期間において膝が等速運動をするという第3拘束条件とが課された前記幾何学モデルに基づいて、前記下腿の長さと前記膝の移動速度を計算し、
前記下腿の長さと前記膝の移動速度を用いて、前記第1拘束条件、前記第2拘束条件、および前記第3拘束条件が課された前記幾何学モデルに基づいて、前記足交差から前記踵接地までの期間における前記膝の軌跡を計算する計測装置。
【請求項2】
前記検出手段は、
前記歩行イベントとして脛骨垂直を検出し、
前記計測手段は、
前記脛骨垂直から前記踵接地までの前記センサデータの座標系を、前記脛骨垂直の時点における前記膝関節の位置を原点とする第2相対座標系に変換し、
前記第2相対座標系において、前記脛骨垂直から前記踵接地までの期間において股関節の角度は一定であるという第4拘束条件と、前記踵接地の直前において上腿と前記下腿が一直線になるという第5拘束条件と、前記踵接地のタイミングにおける骨盤の矢状面内における位置は両膝の真ん中の位置であるという第6拘束条件とが課された前記幾何学モデルに基づいて、前記上腿の長さを計算し、
前記膝関節の軌跡と前記上腿の長さとを用いて、前記第4拘束条件、前記第5拘束条件、および前記第6拘束条件が課された前記幾何学モデルに基づいて、前記脛骨垂直から前記踵接地までの期間における前記股関節の軌跡と前記膝関節の角度を計算する請求項に記載の計測装置。
【請求項3】
ユーザの前記下肢に関する情報に基づいて、前記ユーザの身体状態を推定する推定手段を備える請求項1または2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記推定手段は、
前記下肢に関する情報の入力に応じて身体状態の指標値を出力する推定モデルに、前記ユーザの前記下肢に関する情報を入力し、
前記下肢に関する情報の入力に応じて前記推定モデルから出力される前記指標値に基づいて前記ユーザの身体状態を推定し、
前記ユーザの身体状態に応じた推薦情報を出力する請求項に記載の計測装置。
【請求項5】
前記推定手段は、
異なるタイミングにおいて計測された前記下肢に関する複数の情報を比較し、
前記下肢に関する複数の情報の比較結果に関する評価値に基づいて前記ユーザの身体状態を推定し、
前記ユーザの身体状態に応じた通知情報を出力する請求項に記載の計測装置。
【請求項6】
前記推定手段は、
前記ユーザの身体状態に応じた情報を、前記ユーザの携帯する端末装置に出力する請求項4または5に記載の計測装置。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の計測装置と、
ユーザの履物に配置され、前記ユーザの歩行に応じて空間加速度および空間角速度を計測し、計測された前記空間加速度および前記空間角速度に基づくセンサデータを生成し、生成された前記センサデータを前記計測装置に出力するデータ取得装置と、を備える計測システム。
【請求項8】
コンピュータが、
足の動きに関するセンサデータの時系列データから歩行イベントを検出し、
前記歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間のセンサデータを用いて、下肢の動きに関する拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、下肢に関する計測を行い、
前記検出において、
前記歩行イベントとして足交差および踵接地を検出し、
前記計測において、
前記足交差を起点とする所定期間の前記センサデータの座標系を、前記足交差のタイミングにおける膝関節の位置を原点とする第1相対座標系に変換し、
前記第1相対座標系において、前記足交差から前記踵接地までの期間において下腿と足裏面のなす角度が直角であるという第1拘束条件と、前記膝関節の伸展/屈曲は前記膝関節を中心とする回転運動であるという第2拘束条件と、前記所定期間において膝が等速運動をするという第3拘束条件とが課された前記幾何学モデルに基づいて、前記下腿の長さと前記膝の移動速度を計算し、
前記下腿の長さと前記膝の移動速度を用いて、前記第1拘束条件、前記第2拘束条件、および前記第3拘束条件が課された前記幾何学モデルに基づいて、前記足交差から前記踵接地までの期間における前記膝の軌跡を計算する計測方法。
【請求項9】
コンピュータに、
足の動きに関するセンサデータの時系列データから歩行イベントを検出する処理と、
前記歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間のセンサデータを用いて、下肢の動きに関する拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、下肢に関する計測を行う処理と、を実行させ、
前記検出する処理において、
前記歩行イベントとして足交差および踵接地を検出する処理を実行させ、
前記計測する処理において、
前記足交差を起点とする所定期間の前記センサデータの座標系を、前記足交差のタイミングにおける膝関節の位置を原点とする第1相対座標系に変換する処理と、
前記第1相対座標系において、前記足交差から前記踵接地までの期間において下腿と足裏面のなす角度が直角であるという第1拘束条件と、前記膝関節の伸展/屈曲は前記膝関節を中心とする回転運動であるという第2拘束条件と、前記所定期間において膝が等速運動をするという第3拘束条件とが課された前記幾何学モデルに基づいて、前記下腿の長さと前記膝の移動速度を計算する処理と、
前記下腿の長さと前記膝の移動速度を用いて、前記第1拘束条件、前記第2拘束条件、および前記第3拘束条件が課された前記幾何学モデルに基づいて、前記足交差から前記踵接地までの期間における前記膝の軌跡を計算する処理と、を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、下肢に関する計測を行う計測装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
体調管理を行うヘルスケアへの関心の高まりから、歩行の特徴を含む歩容を計測し、その歩容に応じた情報をユーザに提供するサービスに注目が集まっている。歩行に関するデータに基づいて、下肢に関する情報を得ることできれば、より高度な歩容解析が可能になる。
【0003】
非特許文献1には、健常者の歩行運動の動力学に関する公開データセットについて開示されている。非特許文献1では、脚や骨盤などに取り付けられたマーカーの軌跡に基づいて、歩行運動の動力学が検証されている。
【0004】
特許文献1には、脚や腰などに取り付けられたセンサによって計測される測定データに基づいて、歩行者の歩行状態を解析する歩行解析システムについて開示されている。特許文献1のシステムは、股関節、膝関節または足関節を挟む位置に取り付けられたセンサの測定データを用いて、歩行者の股関節、膝関節または足関節の関節角度を求める。特許文献1のシステムは、足背部に取り付けられた測定センサの測定データから歩行者のストライド長を求める。特許文献1のシステムは、関節角度の特徴点とストライド長との相関係数を、予め求められた健常者の歩行時の股関節、膝関節または足関節の関節角度の特徴点とストライド長との相関係数と比較して、歩行者の歩行状態を評価する。
【0005】
特許文献2には、運動情報を表示する運動情報表示システムについて開示されている。特許文献2のシステムは、一方の脚に装着されたセンサによって計測される加速度や角速度の値に基づいて、運動する人の脚の動作状態を再現した動画を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5586050号公報
【文献】特開2016-112108号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Fukuchi et al., “A public dataset of overground and treadmill walking kinematics and kinetics in healthy individuals”, (2018), PeerJ, DOI 10.7717/peerj.4640, pp. 1-17.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1や特許文献1の手法では、脚の複数箇所に装着されたセンサによって計測される測定データに基づいて、歩行者の歩行状態を解析する。すなわち、非特許文献1や特許文献1の手法では、歩行者の歩行を解析する際に、脚の複数箇所にセンサを装着する必要があった。
【0009】
特許文献2の手法では、キャリブレーション時における動作に基づいて、下腿の長さを計算する。特許文献2の手法では、キャリブレーション時に算出された下腿の長さに基づいて、走行中の膝位置や大腿の付け根の位置を推定する。すなわち、特許文献2の手法では、予め下腿の長さが計測されていないと、膝や大腿の付け根の動きを検証できなかった。
【0010】
本開示の目的は、単一のセンサによって取得されるセンサデータに基づいて、下肢に関する計測を行うことができる計測装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様の計測装置は、足の動きに関するセンサデータの時系列データから歩行イベントを検出する検出部と、歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間のセンサデータを用いて、下肢の動きに関する拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、下肢に関する計測を行う計測部と、を備える。
【0012】
本開示の一態様の計測方法においては、コンピュータが、足の動きに関するセンサデータの時系列データから歩行イベントを検出し、歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間のセンサデータを用いて、下肢の動きに関する拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、下肢に関する計測を行う。
【0013】
本開示の一態様のプログラムは、足の動きに関するセンサデータの時系列データから歩行イベントを検出する処理と、歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間のセンサデータを用いて、下肢の動きに関する拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、下肢に関する計測を行う処理とをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、単一のセンサによって取得されるセンサデータに基づいて、下肢に関する計測を行うことができる計測装置等を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係る計測システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係る計測システムのデータ取得装置の配置例を示す概念図である。
図3】第1の実施形態に係る計測システムのデータ取得装置に設定される座標系について説明するための概念図である。
図4】第1の実施形態に係る計測システムの説明で用いられる人体面の一例について説明するための概念図である。
図5】第1の実施形態に係る計測システムの説明で用いられる歩行周期の一例について説明するための概念図である。
図6】第1の実施形態に係る計測システムのデータ取得装置の構成の一例を示すブロック図である。
図7】第1の実施形態に係る計測システムの計測装置の構成の一例を示すブロック図である。
図8】第1の実施形態に係る計測システムの説明で用いられる歩行周期の別の一例について説明するための概念図である。
図9】第1の実施形態に係る計測システムの計測装置による矢状面内におけるデータ取得装置と踵の間の距離の計測方法について説明するための概念図である。
図10】第1の実施形態に係る計測システムの計測装置による、足交差から所定期間における膝の軌跡の計測例について説明するための概念図である。
図11】第1の実施形態に係る計測システムの計測装置による下肢に関する計測に課される第3拘束条件について説明するための概念図である。
図12】第1の実施形態に係る計測システムの計測装置による下肢に関する計測に課される第6拘束条件について説明するための概念図である。
図13】第1の実施形態に係る計測システムの計測装置による、脛骨垂直から踵接地までの期間における膝の軌跡の計測例について説明するための概念図である。
図14】第1の実施形態に係る計測システムの計測装置による下肢の長さの計測の一例について説明するための概念図である。
図15】第1の実施形態に係る計測システムの計測装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
図16】第1の実施形態に係る計測システムの計測装置による第1計測処理の一例について説明するためのフローチャートである。
図17】第1の実施形態に係る計測システムの計測装置による第2計測処理の一例について説明するためのフローチャートである。
図18】第2の実施形態に係る学習システムの構成の一例を示すブロック図である。
図19】第2の実施形態に係る学習システムの学習装置による学習の一例について説明するための概念図である。
図20】第3の実施形態に係る計測システムの構成の一例を示すブロック図である。
図21】第3の実施形態に係る計測システムの計測装置の構成の一例を示すブロック図である。
図22】第3の実施形態に係る計測システムの計測装置による身体状態の推定の一例について説明するための概念図である。
図23】第3の実施形態に係る計測システムの計測装置による身体状態の推定の別の一例について説明するための概念図である。
図24】第3の実施形態に係る適用例1について説明するための概念図である。
図25】第3の実施形態に係る適用例2について説明するための概念図である。
図26】第4の実施形態に係る計測装置の構成の一例について説明するための概念図である。
図27】各実施形態に係る制御や処理を実現するハードウェア構成の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお、以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。また、以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0017】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る計測システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の計測システムは、ユーザの履く履物に設置されたセンサによって、足の動きに関する物理量に関するセンサデータを計測する。例えば、足の動きに関する物理量は、加速度センサによって計測される3軸方向の加速度(空間加速度とも呼ぶ)や、角速度センサによって計測される3軸周りの角速度(空間角速度とも呼ぶ)などを含む。本実施形態の計測システムは、計測されたセンサデータの時系列データ(歩行波形とも呼ぶ)に基づいて、下肢に関する計測を行う。
【0018】
(構成)
図1は、本実施形態の計測システム10の構成の一例を示すブロック図である。計測システム10は、データ取得装置11と計測装置15を備える。データ取得装置11と計測装置15は、有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。データ取得装置11と計測装置15は、単一の装置として構成してもよい。図1にはデータ取得装置11を一つしか図示していないが、左右両足にデータ取得装置11が一つずつ(計二つ)配置されてもよい。
【0019】
データ取得装置11は、左右の足のうち少なくとも一方に設置される。例えば、データ取得装置11は、靴等の履物に設置される。本実施形態では、左右の足の足弓の裏側の位置にデータ取得装置11を配置する例について説明する。データ取得装置11は、加速度センサおよび角速度センサを含む。データ取得装置11は、履物を履くユーザの足の動きに関する物理量として、3軸方向の加速度(空間加速度とも呼ぶ)および3軸周りの角速度(空間角速度とも呼ぶ)などの足の動きに関する物理量を計測する。データ取得装置11が計測する足の動きに関する物理量には、加速度や角速度に加えて、加速度や角速度を積分することによって計算される速度や角度も含まれる。また、データ取得装置11が計測する足の動きに関する物理量には、加速度を二階積分することによって計算される位置(軌跡)も含まれる。データ取得装置11は、計測された物理量をデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)に変換する。データ取得装置11は、変換後のセンサデータを計測装置15に送信する。
【0020】
図2は、靴100の中にデータ取得装置11を設置する一例を示す概念図である。図2の例では、データ取得装置11は、足弓の裏側に当たる位置に設置される。例えば、データ取得装置11は、靴100の中に挿入されるインソールに設置される。例えば、データ取得装置11は、靴100の底面に設置される。例えば、データ取得装置11は、靴100の本体に埋設される。データ取得装置11は、靴100から着脱できてもよいし、靴100から着脱できなくてもよい。データ取得装置11は、足の動きに関するセンサデータを取得できさえすれば、足弓の裏側ではない位置に設置されてもよい。また、データ取得装置11は、ユーザが履く靴下や、ユーザが装着するアンクレット等の装飾品に設置されてもよい。また、データ取得装置11は、足に直に貼り付けられたり、足に埋め込まれたりしてもよい。図2においては、両足の靴100にデータ取得装置11が設置される例を示す。データ取得装置11は、少なくとも一方の足部に設置されればよい。両足の靴100にデータ取得装置11を設置すれば、左右の足に設置されたデータ取得装置11によって計測されたセンサデータに基づいて評価できる。
【0021】
図3は、データ取得装置11に設定されるローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と、地面に対して設定される世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)について説明するための概念図である。世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)では、ユーザが直立した状態で、ユーザの横方向がX軸方向(右向きが正)、ユーザの正面の方向(進行方向)がY軸方向(前向きが正)、重力方向がZ軸方向(鉛直上向きが正)に設定される。本実施形態においては、データ取得装置11を基準とするx方向、y方向、およびz方向からなるローカル座標系を設定する。
【0022】
図4は、人体に対して設定される面(人体面とも呼ぶ)について説明するための概念図である。本実施形態では、身体を左右に分ける矢状面、身体を前後に分ける冠状面、身体を水平に分ける水平面が定義される。なお、図4のような直立した状態では、世界座標系とローカル座標系が一致する。本実施形態においては、x軸を回転軸とする矢状面内の回転をロール、y軸を回転軸とする冠状面内の回転をピッチ、z軸を回転軸とする水平面内の回転をヨーと定義する。また、x軸を回転軸とする矢状面内の回転角をロール角、y軸を回転軸とする冠状面内の回転角をピッチ角、z軸を回転軸とする水平面内の回転角をヨー角と定義する。本実施形態においては、右側面から身体を見て、矢状面内における時計回りの回転を正と定義し、矢状面内における反時計回りの回転を負と定義する。
【0023】
データ取得装置11は、例えば、加速度センサおよび角速度センサを含む慣性計測装置によって実現される。慣性計測装置の一例として、IMU(Inertial Measurement Unit)があげられる。IMUは、3軸の加速度センサと、3軸の角速度センサを含む。また、慣性計測装置の一例として、VG(Vertical Gyro)やAHRS(Attitude Heading Reference System)があげられる。また、慣性装置の一例として、GPS/INS(Global Positioning System/Inertial Navigation System)があげられる。
【0024】
例えば、データ取得装置11は、ユーザが携帯する携帯端末(図示しない)を介して、クラウドに構築された計測装置15に接続される。携帯端末(図示しない)は、携帯可能な通信機器である。例えば、携帯端末は、スマートフォンや、スマートウォッチ、携帯電話等の通信機能を有する携帯型の通信機器である。携帯端末は、ユーザの足の動きに関するセンサデータをデータ取得装置11から受信する。携帯端末は、受信されたセンサデータを、計測装置15が実装されたサーバ等に送信する。なお、計測装置15の機能は、携帯端末にインストールされたアプリケーションによって実現されてもよい。その場合、携帯端末は、受信されたセンサデータを、その携帯端末自身にインストールされたアプリケーションソフトウェア(アプリとも呼ぶ)によって処理する。
【0025】
計測装置15は、データ取得装置11からセンサデータを取得する。計測装置15は、取得したセンサデータの座標系を、ローカル座標系から世界座標系に変換する。センサデータの座標系は、データ取得装置11で世界座標系に変換されてもよい。計測装置15は、世界座標系に変換後のセンサデータの時系列データ(歩行波形とも呼ぶ)を生成する。計測装置15は、歩行波形から歩行イベントを検出する。計測装置15は、検出された歩行イベントに基づいて、下肢の動きに関する拘束条件が課された幾何学モデルを用いて、下肢に関する計測を行う。幾何学モデルは、計測対象期間に含まれる複数のタイミングにおける下肢のパーツの位置や角度などを、幾何学的に捉えて検証するためのモデルである。
【0026】
例えば、計測装置15は、膝関節と足関節の間の部分(下腿とも呼ぶ)の長さや、股関節と膝関節の間の部分(上腿とも呼ぶ)の長さを計測する。例えば、計測装置15は、膝関節や股関節の位置を計測する。例えば、計測装置15は、膝関節や股関節の位置の時間変化(軌跡)を計測する。例えば、計測装置15は、膝関節角度を計測する。
【0027】
計測装置15による下肢に関する計測値の計測方法の詳細については後述する。計測装置15は、下肢に関する情報を出力する。例えば、計測装置15は、下肢に関する情報を表示装置(図示しない)や外部システムに出力する。
【0028】
ここで、歩行波形から検出される歩行イベントについて図面を参照しながら説明する。図5は、右足を基準とする一歩行周期について説明するための概念図である。左足を基準とする一歩行周期も、右足と同様である。図5の横軸は、右足の踵が地面に着地した時点を起点とし、次に右足の踵が地面に着地した時点を終点とする右足の一歩行周期を100%として正規化された歩行周期である。片足の一歩行周期は、足の裏側の少なくとも一部が地面に接している立脚相と、足の裏側が地面から離れている遊脚相とに大別される。立脚相は、さらに、立脚初期T1、立脚中期T2、立脚終期T3、遊脚前期T4に細分される。遊脚相は、さらに、遊脚初期T5、遊脚中期T6、遊脚終期T7に細分される。なお、図5は一例であって、一歩行周期を構成する期間や、それらの期間の名称等を限定するものではない。
【0029】
図5のように、歩行においては、複数の事象(歩行イベントとも呼ぶ)が発生する。図5の(a)は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。図5の(b)は、右足の足裏が接地した状態で、左足の爪先が地面から離れる事象(反対足爪先離地)を表す(OTO:Opposite Toe Off)。図5の(c)は、右足の足裏が接地した状態で、右足の踵が持ち上がる事象(踵持ち上がり)を表す(HR:Heel Rise)。図5の(d)は、左足の踵が接地した事象(反対足踵接地)である(OHS:Opposite Heel Strike)。図5の(e)は、左足の足裏が接地した状態で、右足の爪先が地面から離れる事象(爪先離地)を表す(TO:Toe Off)。図5の(f)は、左足の足裏が接地した状態で、左足と右足が交差する事象(足交差)を表す(FA:Foot Adjacent)。図5の(g)は、左足の足裏が接地した状態で、右足の脛骨が地面に対してほぼ垂直になる事象(脛骨垂直)を表す(TV:Tibia Vertical)。図5の(h)は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。図5の(h)は、図5の(a)から始まる歩行周期の終点に相当するとともに、次の歩行周期の起点に相当する。なお、図5は一例であって、歩行において発生する事象や、それらの事象の名称を限定するものではない。
【0030】
〔データ取得装置〕
次に、データ取得装置11の詳細について図面を参照しながら説明する。図6は、データ取得装置11の詳細構成の一例を示すブロック図である。データ取得装置11は、加速度センサ111、角速度センサ112、制御部113、および送信部115を有する。また、データ取得装置11は、図示しない電源を含む。
【0031】
加速度センサ111は、3軸方向の加速度(空間加速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。加速度センサ111は、計測した加速度を制御部113に出力する。例えば、加速度センサ111には、圧電型や、ピエゾ抵抗型、静電容量型などの方式のセンサを用いることができる。なお、加速度センサ111に用いられるセンサは、加速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0032】
角速度センサ112は、3軸周りの角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。角速度センサ112は、計測した角速度を制御部113に出力する。例えば、角速度センサ112には、振動型や静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。なお、角速度センサ112に用いられるセンサは、角速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0033】
制御部113は、加速度センサ111から3軸方向の加速度の実測値を取得する。制御部113は、角速度センサ112から軸周りの角速度の実測値を取得する。制御部113は、取得した加速度および角速度の実測値をデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)に変換する。制御部113は、変換後のデジタルデータを送信部115に出力する。センサデータには、デジタルデータに変換された加速度データ(3軸方向の加速度ベクトルを含む)と角速度データ(3軸周りの角速度ベクトルを含む)とが少なくとも含まれる。センサデータには、加速度データおよび角速度データの元となる実測値の取得時間が含まれる。また、制御部113は、取得した加速度データおよび角速度データに対して、実装誤差や温度補正、直線性補正などの補正を加えたセンサデータを出力するように構成してもよい。また、制御部113は、センサデータの座標系をローカル座標系から世界座標系に変換してもよい。また、制御部113は、取得した加速度データおよび角速度データを用いて、3軸周りの角度データ(足底角とも呼ぶ)を生成してもよい。
【0034】
例えば、制御部113は、データ取得装置11の全体制御やデータ処理を行うマイクロコンピュータまたはマイクロコントローラである。例えば、制御部113は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を有する。制御部113は、加速度センサ111および角速度センサ112を制御して角速度や加速度を計測する。例えば、制御部113は、計測された角速度および加速度等の物理量(アナログデータ)をAD変換(Analog-to-Digital Conversion)し、変換後のデジタルデータをフラッシュメモリに記憶させる。なお、加速度センサ111および角速度センサ112によって計測された物理量(アナログデータ)は、加速度センサ111および角速度センサ112の各々においてデジタルデータに変換されてもよい。フラッシュメモリに記憶されたデジタルデータは、所定のタイミングで送信部115に出力される。
【0035】
送信部115は、制御部113からセンサデータを取得する。送信部115は、取得したセンサデータを計測装置15に送信する。例えば、送信部115は、ケーブルなどの有線を介してセンサデータを計測装置15に送信する。例えば、送信部115は、無線通信を介してセンサデータを計測装置15に送信する。例えば、送信部115は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)などの規格に則した無線通信機能(図示しない)を介して、センサデータを計測装置15に送信するように構成される。なお、送信部115の通信機能は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)以外の規格に則していてもよい。
【0036】
〔計測装置〕
次に、計測装置15の詳細について図面を参照しながら説明する。図7は、計測装置15の詳細構成の一例を示すブロック図である。計測装置15は、取得部151、生成部153、検出部155、および計測部157を有する。
【0037】
取得部151は、データ取得装置11からセンサデータを受信する。取得部151は、受信されたセンサデータを生成部153に出力する。例えば、取得部151は、ケーブルなどの有線を介して、データ取得装置11からセンサデータを受信する。例えば、取得部151は、無線通信を介して、データ取得装置11からセンサデータを受信する。例えば、取得部151は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)などの規格に則した無線通信機能(図示しない)を介して、データ取得装置11からセンサデータを受信するように構成される。なお、取得部151の通信機能は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)以外の規格に則していてもよい。
【0038】
生成部153は、取得部151からセンサデータを取得する。生成部153は、取得したセンサデータの座標系を、ローカル座標系から世界座標系に変換する。生成部153は、世界座標系に変換後のセンサデータの時系列データ(歩行波形とも呼ぶ)を生成する。生成部153は、生成された歩行波形を検出部155に出力する。
【0039】
例えば、生成部153は、空間加速度や空間角速度などの歩行波形を生成する。また、生成部153は、空間加速度や空間角速度を積分し、空間速度や空間角度(足底角)などの歩行波形を生成する。また、生成部153は、空間加速度を二階積分し、空間軌跡の歩行波形を生成する。生成部153は、一般的な歩行周期や、ユーザに固有の歩行周期に合わせて設定された所定のタイミングや時間間隔で歩行波形を生成する。生成部153が歩行波形を生成するタイミングは、任意に設定できる。例えば、生成部153は、ユーザの歩行が継続されている期間、歩行波形を生成し続けるように構成される。また、生成部153は、特定の時刻において、歩行波形を生成するように構成されてもよい。
【0040】
検出部155は、生成部153から歩行波形を取得する。検出部155は、歩行波形から歩行イベントを検出する。例えば、検出部155は、踵接地や爪先離地、足交差、脛骨垂直などの歩行イベントを検出する。検出部155は、検出された歩行イベントのタイミングや、歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間におけるセンサデータの値を計測部157に出力する。
【0041】
ここで、検出部155による歩行イベントの検出例について説明する。本実施形態においては、立脚相の中央のタイミング(立脚終期T3の開始)を、一歩行周期の起点に設定して、踵接地、爪先離地、足交差、および脛骨垂直を歩行イベントとして検出する例について説明する。図8は、検出部155によって設定される、右足を基準とする一歩行周期の一例について説明するための概念図である。検出部155によって設定される一歩行周期は、立脚終期T3の開始のタイミングが起点になる。立脚終期T3の開始のタイミングは、踵持ち上がりのタイミングに相当する。以下においては、一歩行周期の歩行波形における時系列の順番ではなく、歩行イベントの検出の順番に沿って説明する。
【0042】
まず、検出部155は、足底角の歩行波形から、立脚終期T3の開始のタイミングを起点とする一歩行周期分の歩行波形を切り出す。ここでは、爪先が踵よりも上に位置する状態(背屈)を負と定義し、爪先が踵よりも下に位置する状態(底屈)を正と定義する。足底角の歩行波形が極小となるタイミングは、立脚相開始のタイミングに相当する。足底角の歩行波形が極大となるタイミングは、遊脚相開始のタイミングに相当する。立脚相開始のタイミングと遊脚相開始のタイミングと中点のタイミングが、立脚相の中央のタイミングに相当する。検出部155は、立脚相の中央のタイミングを、一歩行周期の起点に設定する。また、検出部155は、次の立脚相の中央のタイミングの時刻を、一歩行周期の終点に設定する。
【0043】
検出部155は、一歩行周期分の足底角の歩行波形から、極小(第1背屈ピーク)となるタイミングと、第1背屈ピークの次に極大(第1底屈ピーク)となるタイミングとを検出する。さらに、検出部155は、その次の一歩行周期分の足底角の歩行波形から、第1底屈ピークの次に極小(第2背屈ピーク)となるタイミングと、第2背屈ピークの次に極大(第2底屈ピーク)となるタイミングとを検出する。検出部155は、第1背屈ピークのタイミングと第1底屈ピークのタイミングの中点のタイミングを、一歩行周期の起点に設定する。また、検出部155は、第2背屈ピークのタイミングと第2底屈ピークのタイミングの中点のタイミングを、一歩行周期の終点に設定する。
【0044】
検出部155は、生成部153によって生成された歩行波形から、一歩行周期分の歩行波形を切り出す。例えば、検出部155は、第1背屈ピークのタイミングと第1底屈ピークのタイミングの中点のタイミングを起点とし、第2背屈ピークのタイミングと第2底屈ピークのタイミングの中点のタイミングを終点とする、一歩行周期分の歩行波形データを切り出す。同様に、検出部155は、データ取得装置11によって計測された足の動きに関する物理量(空間加速度、空間角速度、空間軌跡)に基づくセンサデータの時系列データに関して、一歩行周期分の歩行波形を切り出す。
【0045】
検出部155は、進行方向加速度(Y方向加速度とも呼ぶ)の歩行波形から、爪先離地のタイミングを検出する。検出部155は、踵持ち上がりのタイミングを起点とするY方向加速度の歩行波形において、歩行周期の20~40%の範囲内の最大ピークを検出する。最大ピークには、二つの極大ピークと、それらの極大ピークに挟まれた極小ピークが含まれる。爪先離地のタイミングは、二つの極大ピークに挟まれた極小ピークが検出されるタイミングに相当する。
【0046】
検出部155は、Y方向加速度または垂直方向加速度(Z方向加速度とも呼ぶ)の歩行波形から踵接地のタイミングを検出する。検出部155は、踵接地のタイミングの近傍に表れる特徴的なピークを用いて、踵接地のタイミングを検出する。検出部155は、踵持ち上がりのタイミングを起点とするY方向加速度において、歩行周期が60%を超えたあたりに最小ピークを検出する。この最小ピークは、遊脚終期T7における足の急減速のタイミングに相当する。また、検出部155は、踵持ち上がりのタイミングを起点とするY方向加速度において、歩行周期が70%のあたりに極大ピークを検出する。この極大ピークは、ヒールロッカーのタイミングに相当する。データ取得装置11が足弓の位置に設置されている場合、踵関節の回転軸よりも爪先側にデータ取得装置11が位置するため、ヒールロッカー(回転)の動作の際に、進行方向(+Y方向)の加速度分量が生じる。そのため、ヒールロッカーの動作の期間には、踵接地後に、接地した踵の外周に沿った回転によって、重力方向(Z方向)の加速度が進行方向(Y方向)に変換される期間が含まれる。極小ピークが検出されるタイミングから、極大ピークが検出されるタイミングまでの期間に、踵接地のタイミングが含まれる。検出部155は、極小ピークが検出されるタイミングと、極大ピークが検出されるタイミングとの中点のタイミングを、踵接地のタイミングとして検出する。Y方向加速度において極小ピークが検出されるタイミングと、Z方向加速度において極大ピークが検出されるタイミングとはほぼ一致する。そのため、Y方向加速度において極小ピークが検出されるタイミングの替わりに、Z方向加速度において極大ピークが検出されるタイミングを、遊脚終期T7における足の急減速のタイミングとして用いてもよい。
【0047】
検出部155は、Z方向加速度の歩行波形において、爪先離地と踵接地の間の最大ピークのタイミングを、脛骨垂直のタイミングとして検出する。脛骨垂直は、地面に対して脛骨がほぼ垂直になる状態である。脛骨垂直において、踵関節は、ニュートラル状態となり、脛骨に対して足裏面が垂直になる。すなわち、脛骨垂直においては、踵関節の回転に伴うロール角が0度になる。ロール角が0度のタイミングにおいて、Z方向加速度の歩行波形のピークが最大になる。すなわち、脛骨垂直は、Z方向加速度の歩行波形において、爪先離地と踵接地の間の最大値のタイミングに相当する。
【0048】
検出部155は、Y方向加速度の歩行波形において、脛骨垂直と爪先離地の間の脛骨垂直に近い側の緩やかなピークが最大になるタイミングを、足交差のタイミングとして検出する。本実施形態では、地面に接地している左足が右足に対して前にある状態において、右足の爪先が左足の踵の位置を通過するタイミングと、右足の爪先が左足の爪先の位置を通過するタイミングとの間の中央のタイミングを足交差のタイミングと定義する。
【0049】
計測部157は、歩行イベントのタイミングや、歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間におけるセンサデータの値を検出部155から取得する。計測部157は、取得したセンサデータの値を、下肢の動きに関する拘束条件が課された幾何学モデルに当てはめて、下肢に関する計測を行う。例えば、計測部157は、膝関節と足関節の間の部分(下腿とも呼ぶ)の長さや、股関節と膝関節の間の部分(上腿とも呼ぶ)の長さを計測する。例えば、計測部157は、膝関節や股関節の位置を計測する。例えば、計測部157は、膝関節や股関節の位置の時間変化(軌跡)を計測する。例えば、計測部157は、膝関節角度を計測する。
【0050】
〔計測処理〕
次に、計測部157による計測処理について一例をあげて説明する。計測部157による計測処理は、第1計測処理と第2計測処理を含む。第1計測処理は、足交差を起点とする所定期間における、膝関節(膝)の軌跡を計測する処理である。第2計測処理は、脛骨垂直から踵接地までの期間における、股関節(骨盤)の軌跡、膝関節の角度を計測する処理である。
【0051】
<第1計測処理>
次に、第1計測処理について図面を参照しながら説明する。第1計測処理において、計測部157は、足交差を起点とする所定期間におけるセンサデータの値を用いて、遊脚相の遊脚中期T6における膝の軌跡を計測する。
【0052】
計測部157は、踵接地のタイミングにおける足底角の値を用いて、データ取得装置11と足関節の距離Lを計算する。図9は、矢状面内におけるデータ取得装置11と足関節の距離Lの計測方法について説明するための概念図である。踵接地のタイミングにおいては、下腿と足裏面とのなす角が直角であると仮定する。例えば、計測部157は、踵接地のタイミングにおけるデータ取得装置11の位置(yfhs、zfhs)と足底角θhsを以下の式1または式2に代入して、データ取得装置11と足関節の距離Lを計算する。

例えば、計測部157は、上記の式1および式2を用いて算出された距離Lの平均値を用いてもよい。例えば、計測部157は、データ取得装置11と足関節の距離Lを、一歩行周期ごとに計測する。例えば、計測部157は、データ取得装置11と足関節の距離Lを、起動直後やキャリブレーションのタイミングにおいて計測してもよい。例えば、データ取得装置11と足関節の距離Lを予め計測しておき、計測部157によってアクセス可能な記憶部(図示しない)に記憶させておいてもよい。
【0053】
次に、計測部157は、足交差のタイミングから踵接地までの期間におけるセンサデータの値を用いて、遊脚中期T6および遊脚終期T7における膝の軌跡を計測する。遊脚中期T6および遊脚終期T7において、計測部157は、以下の第1~第3拘束条件の下で、膝の軌跡を計測する。第1拘束条件は、非特許文献1に開示された生体力学の知見に基づく(非特許文献1:Fukuchi et al., “A public dataset of overground and treadmill walking kinematics and kinetics in healthy individuals”, 2018, PeerJ, DOI 10.7717/peerj.4640, pp. 1-17.)。
【0054】
第1拘束条件は、「足交差から踵接地までの期間において、下腿(脛骨)と足裏面のなす角度が直角である」という条件である。言い換えると、足交差から踵接地までの期間(遊脚中期T6~遊脚終期T7)において、足首関節はほぼニュートラル(≒90度)である。非特許文献1の8ページの図3J(Ankle Dorsi/plantarflexion)には、遊脚中期T6から遊脚終期T7にかけて、足首関節がほぼニュートラル(±5度以内)であることを示すデータが開示されている。本実施形態においては、足交差から踵接地までの期間において、下腿(脛骨)と足裏面のなす角度が直角であるとみなす。
【0055】
第2拘束条件は、「膝関節の伸展/屈曲は、膝関節を中心とする回転運動である」という条件である。本実施形態においては、膝関節を中心とする極座標系で膝関節の動きを検証する。三次元的に解析する場合は、球座標系で膝関節の軌跡を検証すればよい。
【0056】
第3拘束条件は、「足交差/脛骨垂直を起点とする所定時間(計測対象時間帯)において、膝は等速運動をする」という条件である。図10は、Xenoma(登録商標)社製のe-skin(登録商標)を装着した人物の歩行に応じて計測された、膝の位置の時間変化(軌跡)の一例を示すグラフである。例えば、膝の軌跡は、体の各部の動きを骨格/筋肉のモデルに適用することで計測される。図10は、膝のZ方向位置の軌跡(実線)とY方向位置の軌跡(破線)を含む。本実施形態においては、足交差の直後の期間(図10の一点鎖線の枠の範囲内)と、脛骨垂直の直後の期間(図10の二点鎖線の枠の範囲内)において、膝が等速運動をするとみなす。
【0057】
計測部157は、足交差のタイミングにおける膝関節の位置を原点とする第1相対座標系(足交差時膝原点座標系とも呼ぶ)を設定する。計測部157は、第1~第3拘束条件の下で、第1相対座標系における膝関節の軌跡を計測する。計測部157は、計測された第1相対座標系における膝関節の軌跡を世界座標系に変換する。本実施形態において、第1相対座標系における世界座標系の原点は、(y’0、z’0)と表記される。
【0058】
図11は、足交差の直後(遊脚中期T6)における膝の軌跡の計測について説明するための概念図である。図11は、足交差のタイミングt10、足交差のタイミングt10から所定期間内に含まれるタイミングt11およびタイミングt12における脚の状態を示す。以下においては、タイミングt10~t12の記号をt1iと記載する(i=0、1、2)。第1相対座標系に変換されたデータ取得装置11の計測値は、(Yi、Zi)と表記される。図11には、3点のタイミングにおけるセンサデータの値を用いる例をあげるが、4点以上のタイミングにおけるセンサデータの値が用いられてもよい。計測部157は、以下の手順で、足交差のタイミングから踵接地のタイミングまでの期間(遊脚中期T6、遊脚終期T7)における膝の軌跡を計算する。
【0059】
計測部157は、第2拘束条件に基づいて、膝関節や踵の位置を極座標系に変換する。タイミングt1iにおける極座標系の踵の位置(ya1i、za1i)は、以下の式3および式4の関係を有する。

上記の式3および式4において、(yf1i、zf1i)はタイミングt1iにおける極座標系のデータ取得装置11の位置であり、θ1iはタイミングt1iにおける足底角である。
【0060】
タイミングt1iにおけるデータ取得装置11の位置(yf1i、zf1i)は、以下の式5および式6の関係を有する。

上記の式5および式6において、(Yi、Zi)はタイミング 1i における第1相対座標系のデータ取得装置11の位置である。
【0061】
第3拘束条件に基づいて、式3を式5に代入し、式4を式6に代入すると、以下の式7および式8の関係が得られる。

上記の式7および式8において、vkyはタイミングt10~t12におけるY方向の膝の速度であり、vkzはタイミングt10~t12におけるZ方向の膝の速度である。
【0062】
タイミングt10とタイミングt12における式5~式8を用いると、下記の式9および式10の関係が得られる。

同様に、タイミングt11とタイミングt12における式5~式8を用いると、下記の式11および式12の関係が得られる。

計測部157は、タイミングt1iにおける足底角の値θ1iを上記の式9~式12に代入して、大腿の長さR1、Y方向の膝の速度vky、およびZ方向の膝の速度でvkzを計算する。
【0063】
計測部157は、以下の式13および式14のように、タイミングt1iにおける世界座標系の膝位置(Yk1i、Zk1i)を計算する。

計測部157は、上記の式13および式14に、タイミングt1iにおける足底角θ1iを代入することで、足交差のタイミングから踵接地のタイミングまでの期間における、世界座標系の膝の位置(Yk1i、Zk1i)を計算する。足交差を起点とする所定期間における膝の位置を時系列でつなげれば、膝の軌跡が得られる。
【0064】
<第2計測処理>
次に、第2計測処理について図面を参照しながら説明する。第2計測処理において、計測部157は、脛骨垂直から踵接地までの期間におけるセンサデータの値を用いて、遊脚終期T7における骨盤の軌跡や膝関節角度を計測する。本実施形態においては、矢状面内における股関節の位置を骨盤の位置とみなす。脛骨垂直の近傍の期間において、足裏の回転は大腿と下腿の運動に起因するとみなす。ここでは、矢状面内における地面に対する足裏の角度(足底角)で、足裏の回転を検証する。遊脚終期T7においては、以下の第4~第6拘束条件の下で、膝の軌跡を計測する。第4拘束条件および第5拘束条件は、非特許文献1に開示された生体力学の知見に基づく。
【0065】
第4拘束条件は、「脛骨垂直から踵接地までの期間において、股関節角度は一定である」という条件である。非特許文献1の8ページの図3D(Hip Flexion/Extension)には、遊脚中期T6の後半から遊脚終期T7にかけて、股関節角度がほぼ一定であることを示すデータが開示されている。本実施形態においては、脛骨垂直から踵接地までの期間において、股関節角度が固定されているとみなす。
【0066】
第5拘束条件は、「踵接地直前において、大腿と下腿は一直線になる」という条件である。非特許文献1の8ページの図3G(Knee Fix/Extension)には、踵接地直前において、大腿と下腿がほぼ一直線になり、膝関節がほぼ伸展状態であることを示すデータが開示されている。本実施形態においては、踵接地のタイミングにおいて、大腿と下腿が一直線になるとみなす。
【0067】
第6拘束条件は、「踵接地のタイミングにおける骨盤の矢状面内における位置は、両膝の真ん中の位置である」という条件である。図12は、モーションキャプチャによって計測された、矢状面内における左右の膝と骨盤の進行方向(Y方向)の位置の時間変化(軌跡)の一例を示すグラフである。矢状面内における左右の膝の間隔は、踵接地のタイミングで最大となる。踵接地のタイミングにおいて、矢状面内における骨盤の進行方向(Y方向)の位置は、矢状面内における左右の踵の進行方向(Y方向)の位置の真ん中の位置に相当する。
【0068】
計測部157は、第4~第6拘束条件の下で、脛骨垂直の時点における膝関節の位置を原点とする第2相対座標系(脛骨垂直時膝関節原点座標系)における股関節の軌跡を計算する。
【0069】
図13は、遊脚終期T7における骨盤の軌跡の計測について説明するための概念図である。図13は、脛骨垂直のタイミングt20、脛骨垂直のタイミングt20を起点とする所定期間内に含まれるタイミングt21、踵接地のタイミングt22における脚の状態を示す。以下においては、タイミングt20~t22の記号をt2iと記載する(i=0、1、2)。図13には、3点のタイミングにおけるセンサデータの値を用いる例をあげるが、4点以上のタイミングにおけるセンサデータの値が用いられてもよい。計測部157は、以下の手順で、遊脚終期T7における骨盤の軌跡を計算する。
【0070】
計測部157は、第4~第5拘束条件に基づいて、膝関節角度θtsiを計算する。第4~第5拘束条件に基づくと、遊脚終期T7において、地面の法線(Z軸)に対する大腿の角度は一定である。計測部157は、下記の式15を用いて、タイミングt2iにおける膝関節角度θtsiを計算する。
脛骨垂直のタイミングt20における足底角θ20は0であり、踵接地のタイミングt22における足底角θ22はθhsである。
【0071】
計測部157は、第6拘束条件に基づいて、大腿の長さR2を計算する。図14は、大腿の長さR2の計算方法について説明するための概念図である。計測部157は、センサデータを用いて、ストライド長Dを計算する。ストライド長Dは、連続する踵接地や、連続する爪先離地などのタイミングにおけるデータ取得装置11のY方向の移動距離に相当する。計測部157は、以下の式16を用いて、大腿の長さR2を計算する。
例えば、計測部157は、以下の手順で算出されたストライド長を用いる。
【0072】
例えば、計測部157は、連続する踵接地や、連続する爪先離地などのタイミングにおけるデータ取得装置11のY方向の移動距離をストライド長として計測する。データ取得装置11のY方向の移動距離は、Y方向加速度を二階積分することによって算出される軌跡に基づいて算出できる。例えば、連続する踵接地または連続する爪先離地におけるY方向の位置の差分が、ストライド長に相当する。なお、計測部157は、踵接地や爪先離地に限らず、連続する任意の歩行イベントの期間におけるY方向の位置の差分を、ストライド長として算出してもよい。
【0073】
例えば、計測部157は、爪先離地、踵接地、および足交差のタイミングに基づいて、ストライド長を計測してもよい。計測部157は、Y方向軌跡の歩行波形から、爪先離地と踵接地の間の区間を、一歩分のY方向軌跡の歩行波形として抽出する。計測部157は、一歩分のY方向軌跡の歩行波形を用いて、足交差における空間位置と、爪先離地における空間位置との差の絶対値を計算する。足交差における空間位置と、爪先離地における空間位置との差の絶対値は、左足が前、右足が後ろの状態の左足ステップ長(第1ステップ長とも呼ぶ)に相当する。また、計測部157は、一歩分のY方向軌跡の歩行波形を用いて、足交差のタイミングにおける空間位置と、踵接地における空間位置との差の絶対値を計算する。足交差のタイミングにおける空間位置と、踵接地における空間位置との差の絶対値は、右足が前、左足が後ろの状態の右足ステップ長(第2ステップ長とも呼ぶ)に相当する。右足ステップ長と左足ステップ長の和がストライド長に相当する。この手法によれば、各足のステップ長を個別に計測できる。
【0074】
計測部157は、以下の式17および式18を用いて、タイミングt2iにおける第2相対座標系の骨盤の位置(yp2i、zp21)を計算する。

計測部157は、膝の位置(yk21、zk21)を式17および式18の各々に代入して、第2相対座標系の骨盤の位置(yp2i、zp21)を計算する。膝の位置(yk21、zk21)は、第1計測処理の手法で計測される。
【0075】
例えば、計測部157は、以下の式19および式20を用いて、第2相対座標系の骨盤の位置の座標系を、第2相対座標系(yp2i、zp21)から世界座標系(Yp2i、Zp21)に変換する。

上記の式19および式20において、(yk20、zk20)は、脛骨垂直のタイミングt20における世界座標系の膝の位置である。
【0076】
三次元的な骨盤の位置を計測する場合は、左右方向(X方向)における骨盤の長さを含めて、極座標系の代わりに球座標系を用いればよい。例えば、三次元的な計測を行う場合、x方向に等速であるという拘束条件を課し、極座標系から球座標系に変換するための行列式を用いて骨盤の位置を計測すればよい。三次元的な計測によれば、骨盤の動きを立体的に検証できる。
【0077】
計測部157は、計測された下肢の動きに関する情報を出力する。例えば、計測部157は、遊脚中期T6および遊脚終期T7における膝関節の軌跡や、遊脚終期T7における膝関節および骨盤(股関節)の軌跡に関する情報を出力する。例えば、計測部157は、下肢の動きに関する情報を表示装置(図示しない)に出力する。表示装置に出力された下肢の動きに関する情報は、その表示装置の画面に表示される。例えば、計測部157は、下肢の動きに関する情報を、外部システムに出力する。外部システムに出力された下肢の動きに関する情報は、任意の用途に用いられる。
【0078】
以上のように、計測部157は、足交差のタイミングにおける膝関節の位置を原点とする第1相対座標系(足交差時原点座標系)における幾何学モデルに基づいて、膝関節の軌跡を計算する。そして、計測部157は、脛骨垂直の時点における膝関節の位置を原点とする第2相対座標系(脛骨垂直時原点座標系)における幾何学モデルに基づいて、股関節(骨盤)の軌跡や膝関節角度を計算する。
【0079】
例えば、下腿の長さR1が既知であれば、計算を簡略化できる。例えば、歩き始めの数歩分は下腿の長さR1を計算し、その後は下腿の長さR1の計算値を用いれば、計算を簡略化できる。例えば、計測装置15を使用するための初期設定やキャリブレーションにおいて、下腿の長さR1や、上腿の長さR2、データ取得装置11と足関節の距離Lを求め、それらの値を記憶部(図示しない)に記録しておく。下肢に関する計測においては、記憶部に記録された下腿の長さR1や、上腿の長さR2、データ取得装置11と足関節の距離Lを用いれば、計算を簡略化できる。
【0080】
(動作)
次に、本実施形態の計測システム10の計測装置15の動作について図面を参照しながら説明する。以下においては、計測装置15を動作の主体として説明する。図15は、計測装置15の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【0081】
図15において、まず、計測装置15は、データ取得装置11が設置された履物を履いて歩行する歩行者の足の動きの物理量に関するセンサデータを、データ取得装置11から取得する(ステップS11)。計測装置15は、データ取得装置11に設定されたローカル座標系のセンサデータを取得する。例えば、計測装置15は、足の動きに関するセンサデータとして、空間加速度や空間角速度のデータを取得する。
【0082】
次に、計測装置15は、センサデータの座標系を、データ取得装置11のローカル座標系から世界座標系に変換する(ステップS12)。
【0083】
次に、計測装置15は、世界座標系に変換後のセンサデータの時系列データ(歩行波形)を生成する(ステップS13)。例えば、計測装置15は、X方向、Y方向、およびZ方向の加速度の歩行波形を生成する。例えば、計測装置15は、X軸、Y軸、およびZ軸周りの角速度の歩行波形を生成する、例えば、計測装置15は、空間加速度および空間角速度のうち少なくともいずれかのセンサデータを用いて、空間角度(足底角)の歩行波形を生成する。例えば、計測装置15は、空間速度や空間軌跡の時系列データを生成する。
【0084】
次に、計測装置15は、歩行波形から踵接地のタイミングを検出する(ステップS14)。例えば、計測装置15は、Y方向加速度やZ方向加速度の歩行波形から踵接地のタイミングを検出する。
【0085】
次に、計測装置15は、踵接地のタイミングにおける足底角を用いて、データ取得装置11と足関節の距離を計算する(ステップS15)。
【0086】
次に、計測装置15は、第1計測処理を実行する(ステップS16)。第1計測処理において、計測装置15は、第1~第3拘束条件の下で、足交差を起点とする所定期間における膝関節の軌跡を計測する。例えば、所定期間は、足交差の直後の期間である。例えば、所定期間は、足交差から脛骨垂直までの期間である。例えば、所定期間は、足交差から踵接地までの期間である。
【0087】
次に、計測装置15は、第2計測処理を実行する(ステップS17)。第2計測処理において、計測装置15は、第4~第6拘束条件の下で、脛骨垂直から踵接地までの期間(遊脚終期T7)における膝関節や骨盤(股関節)の軌跡、膝関節の角度を計測する。
【0088】
次に、計測装置15は、計測された下肢に関する情報を出力する(ステップS18)。例えば、計測装置15から出力される下肢に関する情報は、図示しない表示装置や外部システムに出力される。
【0089】
〔第1計測処理〕
次に、計測装置15による第1計測処理(図15のステップS16)の詳細について図面を参照しながら説明する。図16は、計測装置15による第1計測処理の一例について説明するためのフローチャートである。図16のフローチャートに沿った説明においては、計測装置15を動作主体として説明する。
【0090】
図16において、まず、計測装置15は、足交差を起点とする所定期間におけるセンサデータを抽出する(ステップS111)。
【0091】
次に、計測装置15は、抽出されたセンサデータの座標系を、足交差のタイミングのおける膝(膝関節)の位置を原点とする第1相対座標系に変換する(ステップS112)。
【0092】
次に、計測装置15は、第1~第3拘束条件の下で、第1相対座標系に変換後のセンサデータを用いて、下腿部の長さと膝の移動速度を計算する(ステップS113)。
【0093】
次に、計測装置15は、算出された下腿部の長さと膝の移動速度に基づいて、世界座標系の膝の軌跡を計算する(ステップS114)。
【0094】
〔第2計測処理〕
次に、計測装置15による第2計測処理(図15のステップS17)の詳細について図面を参照しながら説明する。図17は、計測装置15による第2計測処理の一例について説明するためのフローチャートである。図17のフローチャートに沿った説明においては、計測装置15を動作主体として説明する。
【0095】
図17において、まず、計測装置15は、脛骨垂直から踵接地までの期間におけるセンサデータを抽出する(ステップS121)。
【0096】
次に、計測装置15は、抽出されたセンサデータの座標系を、脛骨垂直の時点における膝(膝関節)の位置を原点とする第2相対座標系に変換する(ステップS122)。
【0097】
次に、計測装置15は、ステップ長を計算する(ステップS123)。例えば、計測装置15は、連続する踵接地や、連続する爪先離地などのタイミングにおけるデータ取得装置11のY方向の移動距離をストライド長として計測する。例えば、計測装置15は、爪先離地、踵接地、および足交差のタイミングに基づいて、ストライド長を計測する。なお、ストライド長の計測は、予め計測された値であってもよい。
【0098】
次に、計測装置15は、第4~第6拘束条件の下で、第2相対座標系に変換後のセンサデータを用いて、上腿の長さを計算する(ステップS124)。
【0099】
次に、計測装置15は、算出された上腿の長さと膝の軌跡に基づいて、膝関節角度と股関節(骨盤)の軌跡を計算する(ステップS125)。

【0100】
次に、計測装置15は、算出された下肢に関する計測値の座標系を、第2相対座標系から世界座標系に変換する(ステップS126)。
【0101】
以上のように、本実施形態の計測システムは、データ取得装置と計測装置を備える。データ取得装置は、ユーザの履物に配置される。データ取得装置は、ユーザの歩行に応じて空間加速度および空間角速度を計測する。データ取得装置は、計測された空間加速度および空間角速度に基づくセンサデータを生成する。データ取得装置は、生成されたセンサデータを計測装置に出力する。計測装置は、取得部、生成部、検出部、および計測部を有する。取得部は、足の動きに関するセンサデータを取得する。生成部は、足の動きに関するセンサデータの時系列データを生成する。検出部は、足の動きに関するセンサデータの時系列データから歩行イベントを検出する。計測部は、歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間のセンサデータを用いて、下肢の動きに関する拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、下肢に関する計測を行う。
【0102】
本実施形態の計測装置は、自然な歩行動作に応じて単一のデータ取得装置(センサ)によって取得されるセンサデータの時系列データを用いて、下肢(上腿/下腿)に関する計測を行う。本実施形態の計測装置は、生体力学の知見に基づいて、下肢に関する計測を行う。例えば、本実施形態の計測装置は、膝や骨盤(股関節)の軌跡、膝関節の角度を計測する。本実施形態によれば、単一のセンサによって取得されるセンサデータに基づいて、下肢に関する計測を行うことができる。
【0103】
本実施形態の一態様において、検出部は、歩行イベントとして足交差および踵接地を検出する。計測部は、足交差を起点とする所定期間のセンサデータの座標系を、足交差のタイミングにおける膝関節の位置を原点とする第1相対座標系に変換する。計測部は、第1相対座標系において、第1~第3拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、下腿の長さと膝の移動速度を計算する。第1拘束条件は、足交差から踵接地までの期間において下腿と足裏面のなす角度が直角であるという条件である。第2拘束条件は、膝関節の伸展/屈曲は膝関節を中心とする回転運動であるという条件である。第3拘束条件は、足交差から所定期間において膝が等速運動をするという条件である。計測部は、下腿の長さと膝関節の移動速度を用いて、第1~第3拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、足交差から踵接地までの期間における膝の軌跡を計算する。本態様によれば、足交差から踵接地までの期間における膝の軌跡を計測できる。
【0104】
本実施形態の一態様において、検出部は、歩行イベントとして脛骨垂直を検出する。計測部は、脛骨垂直から踵接地までのセンサデータの座標系を、脛骨垂直の時点における膝関節の位置を原点とする第2相対座標系に変換する。計測部は、第2相対座標系において、第4~第6の拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、上腿の長さを計算する。第4拘束条件は、脛骨垂直から踵接地までの期間において股関節の角度は一定であるという条件である。第5拘束条件は、踵接地直前において上腿と下腿が一直線になるという条件である。第6拘束条件は、踵接地のタイミングにおける骨盤の矢状面内における位置は両膝の真ん中の位置であるという条件である。計測部は、膝関節の軌跡と上腿の長さとを用いて、第4~第6拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、脛骨垂直から踵接地までの期間における股関節の軌跡と膝関節の角度を計算する。本態様によれば、脛骨垂直から踵接地までの期間における骨盤(股関節)の軌跡や膝関節の角度を計算できる。
【0105】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る計測システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の計測システムは、第1の実施形態の手法で計測された下肢に関する情報を用いた学習によって、ユーザの身体状態を推定するための推定モデルを生成する。
【0106】
(構成)
図18は、本実施形態の学習システム20の構成の一例を示すブロック図である。学習システム20は、計測装置25と学習装置27を備える。計測装置25と学習装置27は、有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。計測装置25と学習装置27は、単一の装置として構成してもよい。
【0107】
計測装置25は、第1の実施形態の計測装置15と同様の構成である。計測装置25は、データ取得装置(図示しない)からセンサデータを取得する。計測装置25は、取得したセンサデータの座標系を、ローカル座標系から世界座標系に変換する。計測装置25は、世界座標系に変換後のセンサデータの時系列データ(歩行波形とも呼ぶ)を生成する。計測装置25は、歩行波形から歩行イベントを検出する。計測装置25は、検出された歩行イベントに基づいて、歩行に特有の拘束条件が課された幾何学モデルを用いて、下肢に関する計測を行う。例えば、計測装置25は、膝関節と足関節の間の部分(下腿とも呼ぶ)の長さや、股関節と膝関節の間の部分(上腿とも呼ぶ)の長さを計測する。例えば、計測装置25は、膝関節や股関節の位置を計測する。例えば、計測装置25は、膝関節や股関節の位置の時間変化(軌跡)を計測する。例えば、計測装置25は、膝関節角度を計測する。
【0108】
計測装置25は、下肢に関する情報を学習装置27に出力する。例えば、計測装置25は、下肢に関する情報をデータベース(図示しない)に蓄積させてもよい。下肢に関する情報は、足情報、膝情報、および骨盤情報を含む。足情報は、足の動きに関する情報である。例えば、足情報は、足の空間加速度や空間角速度、空間速度、空間角度(足底角)、空間軌跡などの情報を含む。膝情報は、膝の動きに関する情報である。例えば、膝情報は、膝関節の位置や軌跡、角度などの情報を含む。骨盤情報は、骨盤の動きに関する情報である。例えば、骨盤情報は、骨盤(股関節)の位置や軌跡などの情報を含む。
【0109】
学習装置27は、計測装置25から下肢に関する情報を取得する。学習装置27は、データベース(図示しない)に蓄積された下肢に関する情報を受信するように構成されてもよい。データベースに蓄積された下肢に関する情報を用いる場合、学習装置27は、データベースから下肢に関する情報を取得する。
【0110】
学習装置27は、受信された下肢に関する情報を学習する。例えば、学習装置27は、複数のユーザの歩行波形から抽出された下肢に関する情報を教師データとして学習する。学習装置27は、複数のユーザに関して学習された推定モデルを生成する。学習装置27は、生成された推定モデルを記憶装置(図示しない)に記憶する。学習装置27によって学習された推定モデルは、学習装置27の外部の記憶装置に格納されてもよい。
【0111】
例えば、学習装置27は、線形回帰のアルゴリズムを用いた学習を実行する。例えば、学習装置27は、サポートベクターマシン(SVM:Support Vector Machine)のアルゴリズムを用いた学習を実行する。例えば、学習装置27は、ガウス過程回帰(GPR:Gaussian Process Regression)のアルゴリズムを用いた学習を実行する。例えば、学習装置27は、ランダムフォレスト(RF:Random Forest)などのアルゴリズムを用いた学習を実行する。例えば、学習装置27は、下肢に関する情報の入力に応じて、入力された情報を分類する教師なし学習を実行してもよい。学習装置27が実行する学習のアルゴリズムには、特に限定を加えない。
【0112】
図19は、説明変数である下肢に関する情報と、目的変数である身体状態の指標とのデータセットを教師データとして、学習装置27に学習させる一例を示す概念図である。図19の例では、下肢に関する複数の情報のうち少なくともいずれかを説明変数とし、複数の身体状況のうち少なくともいずれかを目的変数とする。例えば、学習装置27は、複数の被検者に関するデータを学習し、センサデータから抽出された下肢に関する情報の入力に応じて、身体状態の指標値を出力する推定モデルを生成する。以下において、図19に示す身体状態の指標の一例について説明する。なお、図19に示す身体状態の指標は、一例であって、学習装置27が学習する身体状態の指標を限定するものではない。
【0113】
平衡度は、歩行中における両脚の対称性の指標である。例えば、平衡度は、歩行中における下肢に関する情報の左右の違いを数値化した値である。歩行中における両足の対称性が高いほど、平衡度が高い。
【0114】
下肢の柔軟度は、歩行中における骨盤の可動域の指標である。例えば、下肢の柔軟度は、歩行中における骨盤の移動や回転に基づいて求められる。歩行中における骨盤の可動域が大きいほど、下肢の柔軟度が高い。
【0115】
筋タイトネスは、筋肉の緊張度の指標である。例えば、股関節の内旋や、腸腰筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋、殿筋群などの筋タイトネスが評価される。筋肉の緊張が高くなると、筋タイトネスが大きくなる傾向がある。
【0116】
歩行安定性は、歩行のばらつきの指標である。例えば、歩行安定性は、骨盤の加速度のばらつきに基づいて評価できる。歩行のばらつきが大きいと、骨盤の加速度のばらつきが大きくなり、歩行安定性が小さくなる。
【0117】
調和比(Harmonic Ratio)は、骨盤の近傍等に装着された加速度センサで計測された加速度の時系列データの波形(加速度波形とも呼ぶ)の対称性を示す指標である。歩行動作においては、左右の足の各々の1歩を1周期とする2周期(1歩行周期)の加速度の変化が繰り返される。垂直方向(Z方向)および進行方向(Y方向)の調和比は、1歩行周期の時間を基本周期としてフーリエ変換を行い、歩行周期中の要素に該当する偶数番号(Even Harmonics)のパワー和と、それから逸脱する要素である奇数番号(Odd Harmonics)のパワー和との比として計算できる。左右方向(X方向)の調和比は、2歩で1周期となることから、Odd Harmonicsを歩行周期中の要素とみなし、垂直方向(Z方向)および進行方向(Y方向)の調和比の逆数として計算できる。歩行の調和性の高い歩行ほど、1歩行周期中に正常な歩行動作で生じる加速度変化が含まれ、調和比が大きくなる。それに対し、パーキンソン病患者や変形性膝関節症患者、高齢者では、歩行中の調和比が低下する傾向がある。また、歩行中の調和比が小さくなると、転倒するリスクが高くなる傾向がある。そのため、調和比は、病気の進行状況や転倒リスクを図る指標になる。
【0118】
以上のように、本実施形態の学習システムは、計測装置と学習装置を備える。計測装置は、足の動きに関するセンサデータの時系列データから歩行イベントを検出する。計測装置は、歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間のセンサデータを用いて、下肢の動きに関する拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、下肢に関する計測を行う。学習部は、計測装置によって計測された下肢に関する情報を学習する。学習装置は、複数の被検者に関して学習された推定モデルを生成する。学習装置は、生成された推定モデルを記憶装置に記憶する。
【0119】
本実施形態の学習システムは、計測装置によって計測された下肢に関する情報を用いた学習によって、下肢に関する情報に応じた推定を行う推定モデルを生成する。本実施形態によれば、下肢に関する情報に応じた推定を行う推定モデルを生成できる。
【0120】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る計測システムについて図面を参照しながら説明する。例えば、本実施形態の計測システムは、第2の実施形態の学習装置によって学習された推定モデルを用いて、ユーザの身体状態を推定する。
【0121】
(構成)
図20は、本実施形態の計測システム30の構成の一例を示すブロック図である。計測システム30は、データ取得装置31および計測装置35を備える。データ取得装置31と計測装置35は、有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。データ取得装置31と計測装置35は、単一の装置で構成してもよい。また、計測システム30の構成からデータ取得装置31を除き、計測装置35だけで計測システム30を構成してもよい。図20にはデータ取得装置31を一つしか図示していないが、左右両足にデータ取得装置31が一つずつ(計二つ)配置されてもよい。
【0122】
データ取得装置31は、第1の実施形態のデータ取得装置11と同様の構成である。データ取得装置31は、左右の足のうち少なくとも一方に設置される。データ取得装置31は、加速度センサおよび角速度センサを含む。データ取得装置31は、計測された物理量をデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)に変換する。データ取得装置31は、変換後のセンサデータを計測装置35に送信する。
【0123】
計測装置35は、データ取得装置31からセンサデータを受信する。計測装置35は、取得したセンサデータの座標系を、ローカル座標系から世界座標系に変換する。計測装置35は、世界座標系に変換後のセンサデータの時系列データ(歩行波形とも呼ぶ)を生成する。計測装置35は、歩行波形から歩行イベントを検出する。計測装置35は、第1の実施形態の計測装置15と同様に、検出された歩行イベントに基づいて、歩行に特有の拘束条件が課された幾何学モデルを用いて、下肢に関する計測を行う。計測装置35は、計測された下肢に関する情報に基づいて、ユーザの身体状態を推定する。例えば、計測装置35は、第2の実施形態の学習装置27によって生成された推定モデルに下肢に関する情報を入力し、ユーザの身体状態を推定する。例えば、計測装置35は、異なるタイミングにおいて計測された下肢に関する情報を比較して、ユーザの身体状態を推定する。計測装置35は、推定された身体状態を出力する。例えば、計測装置35は、下肢に関する情報を表示装置(図示しない)や外部システムに出力する。
【0124】
〔計測装置〕
次に、計測装置35の詳細について図面を参照しながら説明する。図21は、計測装置35の詳細構成の一例を示すブロック図である。計測装置35は、取得部351、生成部353、検出部355、計測部357、および推定部359を有する。
【0125】
取得部351は、第1の実施形態の取得部151と同様の構成である。取得部351は、データ取得装置31からセンサデータを受信する。取得部351は、受信されたセンサデータを生成部353に出力する。
【0126】
生成部353は、第1の実施形態の生成部153と同様の構成である。生成部353は、取得部351からセンサデータを取得する。生成部353は、取得したセンサデータの座標系を、ローカル座標系から世界座標系に変換する。生成部353は、世界座標系に変換後のセンサデータの時系列データ(歩行波形とも呼ぶ)を生成する。生成部353は、生成された歩行波形を検出部355に出力する。
【0127】
検出部355は、第1の実施形態の検出部155と同様の構成である。検出部355は、生成部353から歩行波形を取得する。検出部355は、歩行波形から歩行イベントを検出する。検出部355は、検出された歩行イベントのタイミングや、歩行イベントを起点とする所定期間におけるセンサデータの値を計測部357に出力する。
【0128】
計測部357は、第1の実施形態の計測部157と同様の構成である。計測部357は、歩行イベントのタイミングや、歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間におけるセンサデータの値を検出部355から取得する。計測部357は、取得したセンサデータの値を、拘束条件が課された幾何学モデルに当てはめて、下肢に関する計測を行う。
【0129】
計測部357は、計測された下肢の動きに関する情報を推定部359に出力する。例えば、下肢に関する情報は、足情報、膝情報、および骨盤情報を含む。足情報は、足の動きに関する情報である。例えば、足情報は、足の空間加速度や空間角速度、空間速度、空間角度(足底角)、空間軌跡などの情報を含む。膝情報は、膝の動きに関する情報である。例えば、膝情報は、膝関節の位置や軌跡、角度などの情報を含む。骨盤情報は、骨盤の動きに関する情報である。例えば、骨盤情報は、骨盤(股関節)の位置や軌跡などの情報を含む。
【0130】
推定部359は、計測部357から下肢に関する情報を取得する。推定部359は、取得された下肢に関する情報を用いて、ユーザの身体状況を推定する。例えば、推定部359は、足情報や膝情報、骨盤情報などの下肢に関する情報を推定モデルに入力することで出力される指標値に基づいて、ユーザの身体状態を推定する。例えば、推定部359は、異なるタイミングにおいて計測された下肢に関する複数の情報を比較して、ユーザの身体状態を推定する。
【0131】
推定部359は、下肢に関する情報に基づく推定結果を出力する。例えば、外部のサーバ等の記憶装置に保存された推定モデルを用いる場合、その記憶装置と接続されたインターフェース(図示しない)を介して、推定モデルを用いるように構成すればよい。例えば、推定部359は、身体状態の推定結果を表示装置(図示しない)に出力する。表示装置に出力された身体状態の推定結果は、その表示装置の画面に表示される。例えば、推定部359は、身体状態の推定結果を、外部システムに出力する。外部システムに出力された身体状態の推定結果は、任意の用途に用いられる。
【0132】
図22は、予め構築された推定モデル370に、ユーザの歩行に伴って計測される下肢に関する情報を入力することで、そのユーザの身体状態の指標値が出力される一例を示す概念図である。推定モデル370からは、入力された下肢に関する情報に応じた身体状態が出力される。図22の例では、下肢に関する複数の情報のうち少なくともいずれかが推定モデル370に入力され、複数の身体状態のうち少なくともいずれかが推定モデル370から出力される。下肢に関する情報の入力に応じて、身体状態に関する推定結果を出力できれば、推定モデル370を用いて推定される推定結果には限定を加えない。
【0133】
図23は、ユーザの歩行に伴って、異なるタイミングにおいて計測された下肢に関する情報を入力することで、下肢に関する情報の変化に応じた評価値が出力される一例を示す概念図である。推定部359には、異なるタイミングにおいて計測された下肢に関する情報が入力される。推定部359は、異なるタイミングにおいて計測された、下肢に関する情報の変化に応じた評価値を出力する。図23の例では、トレーニング前後における下肢に関する情報が推定部359に入力される。図23の例では、トレーニング前後における下肢に関する情報の変化に応じた評価値が出力される。例えば、トレーニング前と比べて、トレーニング後において下肢に関する情報が改善されていれば、推定部359は、トレーニングの効果が良好であったことを示す評価値を出力する。例えば、トレーニング前と比べて、トレーニング後において下肢に関する情報が悪化していれば、推定部359は、トレーニングの効果が不良であったことを示す評価値を出力する。異なるタイミングにおいて計測された下肢に関する情報の入力に応じて、身体状態の変化に関する推定結果(評価値)を出力できれば、推定部359によって推定される推定結果には限定を加えない。
【0134】
(適用例)
ここで、本実施形態の適用例について図面を参照しながら説明する。図24および図25は、本実施形態の適用例の一例について説明するための概念図である。以下の適用例では、データ取得装置31が設置された靴300を履いたユーザの歩行に応じて、そのユーザが携帯する携帯端末360にセンサデータが送信される。携帯端末360にインストールされたアプリ(計測装置35)は、受信したセンサデータに基づいて、ユーザの身体状態に関する情報を携帯端末360の画面に表示させる。
【0135】
〔適用例1〕
図24は、適用例1について説明するための概念図である。本適用例は、図22の手法で生成された推定モデル370を用いて、下肢に関する情報に基づいて身体状態を推定する。携帯端末360には、計測装置35の機能を有するアプリがインストールされているものとする。
【0136】
例えば、アプリは、推定された身体状態の指標値に応じた推薦情報を生成する。例えば、ある身体状態の指標値が閾値を上回った場合、アプリは、その指標値が低下する可能性のある推薦情報を生成する。例えば、ある身体状態の指標値が閾値を下回った場合、アプリは、その指標値が増大する可能性のある推薦情報を生成する。例えば、ある身体状態の指標値が閾値に近い場合、アプリは、その時点における歩行状態を維持することを薦める推薦情報を生成する。例えば、アプリは、推定された身体状態に応じた推薦情報を携帯端末360の画面に表示させる。
【0137】
図24の例では、歩行における左右のバランスが崩れたことに応じて、「左右のバランスを意識して歩行しましょう」という推薦情報が、携帯端末360の画面に表示される。例えば、携帯端末360の画面に表示された情報を見たユーザは、その情報に応じて、自身の身体状態を認識できる。
【0138】
本適用例では、下肢に関する情報に基づいて推定された身体状態に応じた推薦情報を、ユーザの携帯する携帯端末360の画面に表示する。そのため、本適用例によれば、ユーザの身体状態が反映された推薦情報を、携帯端末360の画面を介してそのユーザに提供できる。例えば、歩行における左右のバランスが原因で腰に痛みが発生しているユーザにとっては、左右のバランスが正常に保たれるように歩行することが望ましい。本適用例によれば、歩行における左右のバランスに応じて、左右のバランスを意識することを薦めることによって、ユーザは適切なバランスを保って歩行を継続できる。
【0139】
〔適用例2〕
図25は、本実施形態の適用例2について説明するための概念図である。本適用例は、図23の手法を用いて、異なるタイミングにおいて計測された下肢に関する複数の情報を比較して身体状態を推定する。携帯端末360には、計測装置35の機能を有するアプリがインストールされているものとする。
【0140】
例えば、アプリは、推定された評価値に応じた通知情報を生成する。例えば、下肢に関する情報の評価値が目標値を上回った場合、アプリは、目標が達せられたことを示す通知情報を生成する。例えば、下肢に関する情報の評価値が目標値を下回った場合、アプリは、目標が達せられなかったことを示す通知情報を生成する。例えば、アプリは、推定された評価値に応じた通知情報を携帯端末360の画面に表示させる。
【0141】
図25の例では、トレーニング後に、膝や骨盤の軌跡などの下肢に関する情報の評価値が目標値を上回ったことに応じて、「トレーニング効果が出ています。この調子で頑張りましょう。」という通知情報が、携帯端末360の画面に表示される。例えば、携帯端末360の画面に表示された情報を見たユーザは、その情報に応じて、トレーニングの効果を認識できる。
【0142】
本適用例では、異なるタイミングで計測された下肢に関する情報に基づいて推定された評価値に応じた通知情報を、ユーザの携帯する携帯端末360の画面に表示する。そのため、本適用例によれば、異なるタイミングで計測された下肢に関する情報の変化に応じた通知情報を、ユーザに提供できる。例えば、歩行における左右のバランスが原因で腰に痛みが発生しているユーザにとっては、左右のバランスが正常に保たれるように歩行することが望ましい。本適用例によれば、歩行における左右のバランスの変化に応じたトレーニング効果を通知することによって、ユーザは適切なトレーニングを継続できる。
【0143】
以上のように、本実施形態の計測システムは、データ取得装置と計測装置を備える。データ取得装置は、ユーザの履物に配置される。データ取得装置は、ユーザの歩行に応じて空間加速度および空間角速度を計測する。データ取得装置は、計測された空間加速度および空間角速度に基づくセンサデータを生成する。データ取得装置は、生成されたセンサデータを計測装置に出力する。計測装置は、取得部、生成部、検出部、計測部、および推定部を有する。取得部は、足の動きに関するセンサデータを取得する。生成部は、足の動きに関するセンサデータの時系列データを生成する。検出部は、足の動きに関するセンサデータの時系列データから歩行イベントを検出する。計測部は、歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間のセンサデータを用いて、下肢の動きに関する拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、下肢に関する計測を行う。推定部は、ユーザの下肢に関する情報に基づいて、そのユーザの身体状態を推定する。
【0144】
本実施形態の計測装置は、センサデータの時系列データを用いて計測された下肢に関する情報に基づいて、ユーザの身体状態を推定できる。
【0145】
本実施形態の一態様において、推定部は、下肢に関する情報の入力に応じて身体状態の指標値を出力する推定モデルに、ユーザの下肢に関する情報を入力する。推定部は、下肢に関する情報の入力に応じて推定モデルから出力される指標値に基づいて、ユーザの身体状態を推定する。推定部は、ユーザの身体状態に応じた推薦情報を出力する。本態様によれば、予め生成された推定モデルを用いて、ユーザの下肢に関する情報に基づいて、そのユーザの身体状態に応じた推薦情報を提供できる。
【0146】
本実施形態の一態様において、推定部は、異なるタイミングにおいて計測された下肢に関する複数の情報を比較する。推定部は、下肢に関する複数の情報の比較結果に関する評価値に基づいてユーザの身体状態を推定する。推定部は、ユーザの身体状態に応じた通知情報を出力する。本態様によれば、予め生成された推定モデルを用いて、ユーザの下肢に関する情報に基づいて、そのユーザの身体状態に応じた通知情報を提供できる。
【0147】
本実施形態の一態様において、推定部は、ユーザの身体状態に応じた情報を、そのユーザの携帯する端末装置に出力する。本態様によれば、端末装置の表示部に表示された情報をユーザが視認することによって、そのユーザが自身の身体情報を認識できる。
【0148】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態に係る計測装置について図面を参照しながら説明する。本実施形態の計測装置は、第1~第3の実施形態の計測装置を簡略化した構成である。
【0149】
図26は、本実施形態の計測装置45の構成の一例を示すブロック図である。計測装置45は、検出部455と計測部457を備える。検出部455は、足の動きに関するセンサデータの時系列データから歩行イベントを検出する。計測部457は、歩行イベントのタイミングを起点とする所定期間のセンサデータを用いて、下肢の動きに関する拘束条件が課された幾何学モデルに基づいて、下肢に関する計測を行う。
【0150】
本実施形態の計測装置は、単一のセンサによって取得されるセンサデータの時系列データを用いて、生体力学の知見に基づいて、下肢に関する計測を行う。すなわち、本実施形態によれば、単一のセンサによって取得されるセンサデータに基づいて、下肢に関する計測を行うことができる。
【0151】
(ハードウェア)
ここで、本開示の各実施形態に係る制御や処理を実行するハードウェア構成について、図27の情報処理装置90を一例としてあげて説明する。なお、図27の情報処理装置90は、各実施形態の制御や処理を実行するための構成例であって、本開示の範囲を限定するものではない。
【0152】
図27のように、情報処理装置90は、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96を備える。図27においては、インターフェースをI/F(Interface)と略記する。プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96は、バス98を介して、互いにデータ通信可能に接続される。また、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、および入出力インターフェース95は、通信インターフェース96を介して、インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続される。
【0153】
プロセッサ91は、補助記憶装置93等に格納されたプログラムを、主記憶装置92に展開する。プロセッサ91は、主記憶装置92に展開されたプログラムを実行する。本実施形態においては、情報処理装置90にインストールされたソフトウェアプログラムを用いる構成とすればよい。プロセッサ91は、本実施形態に係る制御や処理を実行する。
【0154】
主記憶装置92は、プログラムが展開される領域を有する。主記憶装置92には、プロセッサ91によって、補助記憶装置93等に格納されたプログラムが展開される。主記憶装置92は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリによって実現される。また、主記憶装置92として、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)などの不揮発性メモリが構成/追加されてもよい。
【0155】
補助記憶装置93は、プログラムなどの種々のデータを記憶する。補助記憶装置93は、ハードディスクやフラッシュメモリなどのローカルディスクによって実現される。なお、種々のデータを主記憶装置92に記憶させる構成とし、補助記憶装置93を省略することも可能である。
【0156】
入出力インターフェース95は、規格や仕様に基づいて、情報処理装置90と周辺機器とを接続するためのインターフェースである。通信インターフェース96は、規格や仕様に基づいて、インターネットやイントラネットなどのネットワークを通じて、外部のシステムや装置に接続するためのインターフェースである。入出力インターフェース95および通信インターフェース96は、外部機器と接続するインターフェースとして共通化してもよい。
【0157】
情報処理装置90には、必要に応じて、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力機器が接続されてもよい。それらの入力機器は、情報や設定の入力に使用される。なお、タッチパネルを入力機器として用いる場合は、表示機器の表示画面が入力機器のインターフェースを兼ねる構成としてもよい。プロセッサ91と入力機器との間のデータ通信は、入出力インターフェース95に仲介させればよい。
【0158】
また、情報処理装置90には、情報を表示するための表示機器を備え付けてもよい。表示機器を備え付ける場合、情報処理装置90には、表示機器の表示を制御するための表示制御装置(図示しない)が備えられていることが好ましい。表示機器は、入出力インターフェース95を介して情報処理装置90に接続すればよい。
【0159】
また、情報処理装置90には、ドライブ装置が備え付けられてもよい。ドライブ装置は、プロセッサ91と記録媒体(プログラム記録媒体)との間で、記録媒体からのデータやプログラムの読み込み、情報処理装置90の処理結果の記録媒体への書き込みなどを仲介する。ドライブ装置は、入出力インターフェース95を介して情報処理装置90に接続すればよい。
【0160】
以上が、本発明の各実施形態に係る制御や処理を可能とするためのハードウェア構成の一例である。なお、図27のハードウェア構成は、各実施形態に係る制御や処理を実行するためのハードウェア構成の一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。また、各実施形態に係る制御や処理をコンピュータに実行させるプログラムも本発明の範囲に含まれる。さらに、各実施形態に係るプログラムを記録したプログラム記録媒体も本発明の範囲に含まれる。記録媒体は、例えば、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体で実現できる。記録媒体は、USB(Universal Serial Bus)メモリやSD(Secure Digital)カードなどの半導体記録媒体によって実現されてもよい。また、記録媒体は、フレキシブルディスクなどの磁気記録媒体、その他の記録媒体によって実現されてもよい。プロセッサが実行するプログラムが記録媒体に記録されている場合、その記録媒体はプログラム記録媒体に相当する。
【0161】
各実施形態の構成要素は、任意に組み合わせてもよい。また、各実施形態の構成要素は、ソフトウェアによって実現されてもよいし、回路によって実現されてもよい。
【0162】
以上、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0163】
この出願は、2021年4月13日に出願された日本出願特願2021-067830を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0164】
10、30 計測システム
11、31 データ取得装置
15、25、35、45 計測装置
20 学習システム
27 学習装置
111 加速度センサ
112 角速度センサ
113 制御部
115 送信部
151、351 取得部
153、353 生成部
155、355、455 検出部
157、357、457 計測部
359 推定部
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