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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】内接歯車ポンプ及び内接歯車モータ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
F04C2/10 311Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023533075
(86)(22)【出願日】2022-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2022010369
(87)【国際公開番号】W WO2023281821
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2021111748
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(74)【代理人】
【識別番号】100231038
【弁理士】
【氏名又は名称】正村 智彦
(72)【発明者】
【氏名】古株 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】長村 弘一
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-229802(JP,A)
【文献】特開昭54-030506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディ内に回転可能に嵌合された内歯車と、
前記内歯車に内接して噛み合う外歯車と、
前記内歯車と前記外歯車との間に形成された送液空間を高圧領域と低圧領域とに区画するフィラーピースと、
前記両歯車の回転軸方向の両端面を覆い、前記送液空間を封止する封止部材とを備え、
前記フィラーピース及び前記少なくとも一方の歯車の歯溝に囲繞される囲繞空間と前記高圧領域とを連通するための連通溝が形成されており、
前記連通溝は、前記両歯車の回転位相が進むにつれて、前記囲繞空間に連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されており、
前記連通溝が、前記内歯車と前記外歯車の少なくとも一方に複数本形成されており、当該複数本の連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記高圧領域と前記囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成されている内接歯車ポンプ。
【請求項2】
前記連通溝が、前記高圧領域から前記囲繞空間に向かって先細りする角錐形状をなしており、その少なくとも1つの側辺が先端側から基端側に向かうにつれて外向きに広がる曲線形状をなしている請求項1に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項3】
前記連通溝が、前記高圧領域から前記囲繞空間に向かって先細りする三角錐形状をなし、その3つの側辺が先端側から基端側に向かうにつれて外向きに広がる曲線形状をなしている請求項2に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項4】
前記両歯車の回転位相と、前記囲繞空間に連通する前記各連通溝の合計断面積との関係において、前記回転位相が進むにつれて前記合計断面積が連続的に上昇し、かつ前記回転位相の進行に伴う前記合計断面積の増加率が階段状に変化する屈曲点が存在する請求項1~3のいずれか一項に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項5】
前記複数の連通溝が、前記フィラーピース及び前記内歯車の歯溝に囲繞される外側囲繞空間と前記高圧領域とを連通する複数の外側連通溝と、前記フィラーピース及び前記外歯車の歯溝に囲繞される内側囲繞空間と前記高圧領域とを連通する複数の内側連通溝とを含み、
前記各外側連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記高圧領域と前記外側囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成され、
前記各内側連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記高圧領域と前記内側囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成されている請求項1~4のいずれか一項に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項6】
前記複数の内側連通溝及び前記複数の外側連通溝の数が同じであり、
前記複数の内側連通溝及び前記複数の外側連通溝が、前記両歯車の回転に伴い、前記内側囲繞空間が前記各内側連通溝にかかるタイミングと、前記外側囲繞空間が前記各外側連通溝にかかるタイミングとが一致するように形成されている請求項に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項7】
前記複数の連通溝がいずれも、前記高圧領域から前記囲繞空間に向けて先細りする形状である請求項1~6のいずれか一項に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項8】
前記連通溝が前記封止部材に形成されている請求項1~7のいずれか一項に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項9】
前記連通溝が、前記高圧領域と、当該高圧領域に隣接している前記囲繞空間とを連通させるように形成されている請求項1~8のいずれか一項に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項10】
前記連通溝が、前記高圧領域と前記囲繞空間とを仕切る歯を跨ぐように形成されている請求項1~9のいずれか一項に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項11】
ボディ内に回転可能に嵌合された内歯車と、
前記内歯車に内接して噛み合う外歯車と、
前記内歯車と前記外歯車との間に形成された送液空間を高圧領域と低圧領域とに区画するフィラーピースと、
前記両歯車の回転軸方向の両端面を覆い、前記送液空間を封止する封止部材とを備え、
前記フィラーピース及び前記少なくとも一方の歯車の歯溝に囲繞される囲繞空間と前記低圧領域とを連通するための連通溝が形成されており、
前記連通溝は、前記両歯車の回転位相が進むにつれて、前記囲繞空間に連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されており、
前記連通溝が、前記内歯車と前記外歯車の少なくとも一方に複数本形成されており、当該複数本の連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記低圧領域と前記囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成されている、内接歯車モータ。
【請求項12】
ボディ内に回転可能に嵌合された内歯車と、
前記内歯車に内接して噛み合う外歯車と、
前記内歯車と前記外歯車との間に形成された送液空間を高圧領域と低圧領域とに区画するフィラーピースと、
前記両歯車の回転軸方向の両端面を覆い、前記送液空間を封止する封止部材とを備え、
前記フィラーピース及び前記少なくとも一方の歯車の歯溝に囲繞される囲繞空間と前記高圧領域とを連通するための連通溝が形成されており、
前記連通溝は、前記両歯車の回転位相が進むにつれて、前記囲繞空間に連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されており、
前記連通溝が複数本形成されており、当該複数の連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記高圧領域と前記囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成されており、
前記複数の連通溝が、前記フィラーピース及び前記内歯車の歯溝に囲繞される外側囲繞空間と前記高圧領域とを連通する複数の外側連通溝と、前記フィラーピース及び前記外歯車の歯溝に囲繞される内側囲繞空間と前記高圧領域とを連通する複数の内側連通溝とを含み、
前記各外側連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記高圧領域と前記外側囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成され、
前記各内側連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記高圧領域と前記内側囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成されている内接歯車ポンプ。
【請求項13】
ボディ内に回転可能に嵌合された内歯車と、
前記内歯車に内接して噛み合う外歯車と、
前記内歯車と前記外歯車との間に形成された送液空間を高圧領域と低圧領域とに区画するフィラーピースと、
前記両歯車の回転軸方向の両端面を覆い、前記送液空間を封止する封止部材とを備え、
前記フィラーピース及び前記少なくとも一方の歯車の歯溝に囲繞される囲繞空間と前記低圧領域とを連通するための連通溝が形成されており、
前記連通溝は、前記両歯車の回転位相が進むにつれて、前記囲繞空間に連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されており、
前記連通溝が複数本形成されており、当該複数の連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記低圧領域と前記囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成されており、
前記複数の連通溝が、前記フィラーピース及び前記内歯車の歯溝に囲繞される外側囲繞空間と前記低圧領域とを連通する複数の外側連通溝と、前記フィラーピース及び前記外歯車の歯溝に囲繞される内側囲繞空間と前記低圧領域とを連通する複数の内側連通溝とを含み、
前記各外側連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記低圧領域と前記外側囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成され、
前記各内側連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記低圧領域と前記内側囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成されている、内接歯車モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内接歯車ポンプ及び内接歯車モータに関する。
【背景技術】
【0002】
産業車両、建設機械、農業機械等の油圧源として、ケーシング内で互いに噛み合う1組の内歯車及び外歯車と、これら両歯車の間に形成された送液空間を高圧領域と低圧領域に区画するクレセント(フィラーピースともいう)とを備える内接歯車ポンプが使用される。このような内接歯車ポンプとして、特許文献1には、両歯車の側面に添接する封止部材であるカバーに1本の圧力導入溝を設けて、クレセントと歯車の歯溝との間に形成される囲繞空間と高圧領域とを連通させるようにしている。このような圧力導入溝が形成された内接歯車ポンプでは、圧力導入溝を通じて高圧領域から歯溝に油が導入されることで、歯溝に溜まる油の圧力が歯車の回転に伴い徐々に上昇される。これにより、回転に伴い歯溝に溜まる油の圧力が急激に上昇することによる側板の振動やポンプの騒音を低減するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-203373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば直線形状等の単調形状をなす圧力導入溝を1本備える内接歯車ポンプでは、ポンプの回転数を低回転から高回転に変化させると、送液空間内の圧力バランスが崩れてしまい、ポンプの性能及び耐久性が低下してしまうことがある。
【0005】
このような問題について鋭意検討した結果、本発明者は、単調形状をなす1本の圧力導入溝を備える従来の内接歯車ポンプでは、歯車が高回転である場合には、低回転である場合に比べて回転に伴う歯溝内の圧力上昇のタイミングが遅れてしまう特性があることを見出した。そして本発明者は鋭意検討を更に重ね、従来の内接歯車ポンプでは、高回転時と低回転時における歯溝内の圧力上昇のタイミングのずれが大きいため、高回転の場合と低回転の場合で送液空間における高圧領域の割合(面積)に大きな差が出てしまい、それ故ポンプの回転数を例えば低回転から高回転に変化させると、送液空間における高圧領域の割合が大きく変化することにより圧力バランスが崩れてしまい、ポンプの性能及び耐久性を低下させる恐れがあることを見出した。このような現象同様の構成を備える内接歯車モータにも言えることである。
【0006】
そこで本発明は、内接歯車ポンプ及び内接歯車モータにおいて、低回転時と高回転時における歯溝内の圧力変化のタイミングのずれを小さくすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、ボディ内に回転可能に嵌合された内歯車と、前記内歯車に内接して噛み合う外歯車と、前記内歯車と前記外歯車との間に形成された送液空間を高圧領域と低圧領域とに区画するフィラーピースと、前記両歯車の回転軸方向の両端面を覆い、前記送液空間を封止する封止部材とを備え、前記フィラーピース及び前記少なくとも一方の歯車の歯溝に囲繞される囲繞空間と前記高圧領域とを連通するための連通溝が形成されており、前記連通溝は、前記両歯車の回転位相が進むにつれて、前記囲繞空間に連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されている内接歯車ポンプに関する。
【0008】
また本発明の第2の態様は、ボディ内に回転可能に嵌合された内歯車と、前記内歯車に内接して噛み合う外歯車と、前記内歯車と前記外歯車との間に形成された送液空間を高圧領域と低圧領域とに区画するフィラーピースと、前記両歯車の回転軸方向の両端面を覆い、前記送液空間を封止する封止部材とを備え、前記フィラーピース及び前記少なくとも一方の歯車の歯溝に囲繞される囲繞空間と前記低圧領域とを連通するための連通溝が形成されており、前記連通溝は、前記両歯車の回転位相が進むにつれて、前記囲繞空間に連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されている内接歯車モータに関する。
【発明の効果】
【0009】
このように構成した本発明の態様によれば、連通溝が、両歯車の回転位相が進むにつれて囲繞空間と連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されているので、連通溝から歯車の歯溝に導入される作動液(油等)の量を回転に伴い加速的に増加することができる。そのため、単調形状の連通溝が1本だけ形成された従来のものと比較して、両歯車の低回転時における歯溝内の圧力変化のタイミングを大幅に早めることなく、高回転時における歯溝内の圧力変化のタイミングだけを大幅に早めることができる。これにより、内接歯車ポンプ及び内接歯車モータにおいて、低回転時と高回転時における歯溝内の圧力変化のタイミングのずれを小さくし、ポンプの性能及び耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態の内接歯車ポンプの構成を示す縦断面図。
図2】同実施形態の内接歯車ポンプの構成を示す横断面図。
図3図2のA部を拡大して示す図。
図4図2のB部を拡大して示す図。
図5】同実施形態の内接歯車ポンプの回転位相と連通溝の合計断面積との関係を示す図。
図6】同実施形態の内接歯車ポンプの回転位相と歯溝内の圧力との関係を示す図。
図7】連通溝が複数本であり、かつ各連通溝の連通するタイミングが一致する場合の連通溝周辺の構成を拡大して示す図。
図8】連通溝が複数本であり、かつ各連通溝の連通するタイミングが一致する場合の内接歯車ポンプの回転位相と連通溝の合計断面積との関係を示す図。
図9】連通溝が複数本であり、かつ各連通溝の連通するタイミングが一致する場合の内接歯車ポンプの回転位相と歯溝内の圧力との関係を示す図。
図10】本発明の第2実施形態の内接歯車ポンプの構成を示す横断面図。
図11図10のC部を拡大して示す図。
図12図10のD部を拡大して示す図。
図13】同実施形態の内側連通溝と外側連通溝の構成を詳細に示す図。
図14】同実施形態の内接歯車ポンプの回転位相と連通溝の合計断面積との関係を示す図。
図15】同実施形態の内接歯車ポンプの回転位相と歯溝内の圧力との関係を示す図。
図16】他の実施形態の内接歯車ポンプの連通溝の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1]第1実施形態
以下に本発明の第1実施形態にかかる内接歯車ポンプ100について図面を参照して説明する。
【0012】
(1)全体構成
本実施形態の内接歯車ポンプ100は、例えば産業車両、建設機械、農業機械等の油圧源として用いられるものであり、ボディ1内に収容した1組の内歯車2及び外歯車3を回転させることで、流体(鉱物油等の油である。作動液ともいう)を吸入してこれを吐出するように構成したものである。具体的にこの内接歯車ポンプ100は、図1及び図2に示すように、ボディ1と、内歯車2と、外歯車3と、フィラーピース4と、封止部材5とを備えている。
【0013】
ボディ1は、中空体状をなす概略円筒形状のものである。図1に示すように、ボディ1の軸方向一端側の開口はフロントカバー7により塞がれ、他端側の開口はリアカバー8により塞がれている。図2に示すように、ボディ1の側壁11には、油を吸入するための吸入口Pと、油を吐出するための吐出口Pとにそれぞれ連通する貫通孔が形成されている。
【0014】
内歯車2は、径方向に沿って内向きの歯22を複数備えるリング状のものであり、所謂インターナルギヤである。この内歯車2は、その回転軸がボディ1の軸方向と平行になるように、ボディ1内に回転自在に嵌合して収容されている。
【0015】
外歯車3は、径方向に沿って外向きの歯32を複数備えるものであり、所謂ピニオンギヤである。この外歯車3は、その基準円直径が内歯車2の基準円直径よりも小さく、その歯数が内歯車2の歯数よりも少ないものである。そしてこの外歯車3は、その回転軸が内歯車2の回転軸と平行になるようにして、内歯車2に内接して噛み合うように設けられている。図2に示すように、外歯車3と内歯車2との間には、送液空間が形成される。外歯車3の回転軸には、これを回転駆動するための駆動軸9が連結されている。
【0016】
フィラーピース4は、ボディ1内における内歯車2と外歯車3との間に設けられて、送液空間を高圧領域Rと低圧領域Rとに区画するものである。具体的にこのフィラーピース4は、フロントカバー7に一体突設された三日月形状を成すものであり、内歯車2の歯先に接触する外周面41と、外歯車3の歯先に接触する内周面42とを備えている。外周面41は、内歯車2の歯先円直径と同じ円直径を有し、内歯車2の複数の歯先に同時に接触してその歯溝21内に溜まる油を封止する。内周面42は、外歯車3の歯先円直径と同じ円直径を有し、外歯車3の複数の歯先に同時に接触してその歯溝31内に溜まる油を封止する。図2に示すように、フィラーピース4と内歯車2との間には、フィラーピース4の外周面41と内歯車2の歯溝21とにより囲繞される複数の囲繞空間T(外側囲繞空間Tともいう)が形成されている。そしてフィラーピース4と外歯車3との間には、フィラーピース4の内周面42と外歯車3の歯溝31とにより囲繞される複数の囲繞空間T(内側囲繞空間Tともいう)が形成されている。なお、高圧領域R及び低圧領域Rは、図示しないポートを通じて、吸入口P及び吐出口Pにそれぞれ連通している。
【0017】
本実施形態の封止部材5は、内歯車2及び外歯車3の両端面を覆うようにして、ボディ1と両歯車2、3との間に挿入され、送液空間を封止するものである。具体的にこの封止部材5(側板ともいう)は、一定の厚みを有した板状のものであり、ボディ1の内周に軸方向へ摺動可能に嵌合されている。
【0018】
この封止部材5には、高圧領域Rと、封止部材5とフロントカバー7(又はリアカバー8)との間の空間とを連通させる連通ポート51が設けられている。連通ポート51は、封止部材5を板厚方向に貫通する貫通孔により形成され、封止部材5の両側面に開口している。封止部材5には複数(具体的には2つ)の連通ポート51が設けられており、各連通ポート51は、回転軸方向から視て、高圧領域Rにおいて、回転する内歯車2の歯22及び外歯車3の歯32がその上を通過する位置に設けられている。
【0019】
そしてこの封止部材5には、高圧領域Rと囲繞空間Tとを連通するための連通溝6が形成されている。この連通溝6は、相対的に低圧である囲繞空間T内に高圧領域Rから油を導入させることにより、囲繞空間T内の圧力を徐々に上昇させるためのものである。
【0020】
このように構成した内接歯車ポンプ100では、駆動軸9により外歯車3及び内歯車2を回転駆動させることにより、吸入口Pから吸い込んだ油を吐出口Pから吐出させることができる。具体的には、外歯車3と、これに噛合する内歯車2とを回転させると、吸入口Pから低圧領域Rに作動液である油が導入され、これが囲繞空間T内に閉じ込められて高圧領域Rに運ばれ、吐出口Pから吐出される。
【0021】
しかして、本実施形態の内接歯車ポンプ100では、連通溝6は、両歯車2、3の回転位相が進むにつれて、囲繞空間Tに連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されている。具体的に本実施形態の内接歯車ポンプ100では、囲繞空間Tと高圧領域Rとを連通する連通溝6が複数形成されており、各連通溝6が、内歯車2及び外歯車3の回転に伴い高圧領域Rと囲繞空間Tとを連通させるタイミングが互いに異なるように形成されている。
【0022】
より具体的には、図3及び図4に示すように、封止部材5には、高圧領域Rと内側囲繞空間Tとを連通させる複数の内側連通溝6と、高圧領域Rと外側囲繞空間Tとを連通させる複数の外側連通溝6とが連通溝6として形成されている。そして、各内側連通溝6は、両歯車2、3の回転に伴い高圧領域Rと内側囲繞空間Tとを連通させるタイミングが互いに異なっており、各外側連通溝6は、両歯車2、3の回転に伴い高圧領域Rと外側囲繞空間Tとを連通させるタイミングが互いに異なっている。
【0023】
複数の内側連通溝6と複数の外側連通溝6は、封止部材5に同数ずつ(ここでは3本ずつ)形成されている。そして、これらの連通溝6、6は、両歯車2、3の回転に伴い、内側囲繞空間Tが各内側連通溝6にかかるタイミングと、外側囲繞空間Tが各外側連通溝6にかかるタイミングとが一致するように形成されている。
【0024】
具体的に各連通溝6は、封止部材5の側面に沿うように形成された針状を成すものである。より具体的に各連通溝6は、その基端が高圧領域Rにおける連通ポート51に接続されるとともに、その先端が囲繞空間Tに真っすぐ向かうように形成されている。ここでは各連通溝6は、先端に向かうにつれて先細りする形状を成している。
【0025】
共通する囲繞空間Tに連通する各連通溝6は、ボディ1の中心軸から遠ざかるように略等間隔に並んで形成されている。また連通ポート51から囲繞空間Tに向かって、互いに略平行になるように形成されている。これら各連通溝6の深さ、幅及び長さは、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。ここでは、各連通溝6の長さは、ボディ1の中心軸から遠いものほど短くなるようにしている。
【0026】
またこれらの複数の連通溝6は、高圧領域Rと囲繞空間Tとを仕切る歯22、32を跨ぐように形成されており、高圧領域Rとこれに隣接している囲繞空間Tとを連通させる。具体的には、各内側連通溝6は、高圧領域Rと内側囲繞空間Tとを仕切る外歯車3の歯32を跨ぐように形成されている。各外側連通溝6は、高圧領域Rと外側囲繞空間Tとを仕切る内歯車2の歯22を跨ぐように形成されている。
【0027】
そしてこれら各連通溝6は、両歯車2、3の回転に伴い歯溝21、31が各連通溝6にかかるタイミングが互いに異なるように、その先端の位置が設定されている。具体的には、共通する囲繞空間Tに連通する複数の連通溝6は、歯車2、3の歯溝21、31を構成する回転方向前方側の歯面2b、3bが、各連通溝6の先端に到達する回転位相が互いに異なるように形成されている。例えば、図3に示すように、複数の内側連通溝6は、外歯車3の歯溝31を構成する回転方向前方側の歯面(すなわち、歯32が備える回転方向後方側の歯面)3bが、各内側連通溝6の先端に到達する回転位相が互いに異なるように形成されている。また図4に示すように、複数の外側連通溝6оは、内歯車2の歯溝21を構成する回転方向前方側の歯面(すなわち、歯22が備える回転方向後方側の歯面)2bが、各外側連通溝6оの先端に到達する回転位相が互いに異なるように形成されている。
【0028】
各連通溝6をこのように形成することにより、図5に示すように、歯車2、3の回転位相と、囲繞空間Tに連通する各連通溝6の合計断面積との関係において、回転位相が進むにつれてその合計断面積を連続的に上昇させるとともに、回転位相の進行に伴う合計断面積の増加率が階段状に(又は不連続に)変化する屈曲点を存在させることができる。すなわち、両歯車2、3の回転に伴い、歯溝21、31が連通溝6の先端にかかる毎に、囲繞空間Tに連通する各連通溝6の合計断面積が加速的に増加するようにしている。
【0029】
なお、「囲繞空間Tに連通する連通溝6の断面積」とは、連通溝6と囲繞空間Tとが連通している状態、すなわち、高圧領域Rと囲繞空間Tとを仕切る歯22、32を連通溝6が跨いでいる状態において、当該歯22,32が備える回転方向前方側の歯面2a、3aの位置における、連通溝6の流路断面積を意味する。
【0030】
(2)作用効果
このように構成された本実施形態の内接歯車ポンプ100によれば、両歯車2、3の回転に伴い高圧領域Rと囲繞空間Tとを連通させるタイミングが互いに異なるように複数の連通溝6が形成されているので、回転位相が進んで歯車2、3の歯溝21、31が各連通溝6にかかる毎に囲繞空間Tに連通する各連通溝6の合計断面積が増加する。これにより、両歯車2,3の回転位相が進むにつれて、囲繞空間Tと連通する複数の連通溝6の合計断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するので、各連通溝6から歯車2、3の歯溝21、31に導入される作動液(油等)の量を回転に伴い加速的に増加することができる。そのため、単調形状の連通溝(例えば、歯車の回転位相が進むにつれて断面積が変化しない直線形状の連通溝、又は歯車の回転位相が進むにつれて断面積が単調に増加する連通溝等)が1本である従来のものと比較して、両歯車2、3の低回転時における歯溝21、31の圧力上昇のタイミングを大きく早めることなく、高回転時における歯溝21、31の圧力上昇のタイミングだけを大幅に早めることができる。これにより、図6に示すように、囲繞空間Tと高圧領域Rとを連通させる単調形状の連通溝が1本の場合と比較して、内接歯車ポンプ100及び内接歯車モータ100において、低回転時と高回転時における歯溝21、31の圧力上昇のタイミングのずれを小さくでき、ポンプの性能及び耐久性を向上できる。
【0031】
ここで、囲繞空間Tと高圧領域Rとを連通させる連通溝が複数ある場合であっても、例えば図7に示すように、歯車の回転に伴い高圧領域Rと囲繞空間Tとを連通させるタイミングが互いに一致するように各連通溝が形成されている場合には、本実施形態の効果が十分に発揮されない。つまりこの場合には、図8に示すように、歯車の歯溝が各連通溝にかかると、囲繞空間Tに連通する各連通溝の合計断面積が、両歯車の回転に伴い連続的に急上昇するようになる。すると図9に示すように、単調形状の連通溝が1本の場合と比較して、高回転時の歯溝の圧力上昇のタイミングだけでなく、低回転時の歯溝の圧力上昇のタイミングも大幅に早まってしまう。その結果、低回転時と高回転時における歯溝の圧力上昇のタイミングのずれを十分に小さくすることができず、ポンプの性能及び耐久性を十分に向上させることができない。
【0032】
[2]第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態にかかる内接歯車ポンプ100について、図面を参照して説明する。第2実施形態の内接歯車ポンプ100は、図10に示すように、連通溝6以外の構成は第1実施形態と略同一である。以下では、第2実施形態の内接歯車ポンプ100の連通溝6の構成について重点的に説明する。
【0033】
この第2実施形態の内接歯車ポンプ100では、第1実施形態と同様に、連通溝6は、両歯車2、3の回転位相が進むにつれて、囲繞空間Tに連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されている。
【0034】
具体的には、図11及び図12に示すように、封止部材5には、高圧領域Rと内側囲繞空間Tとを連通させる内側連通溝6と、高圧領域Rと外側囲繞空間Tとを連通させる外側連通溝6とが連通溝6として形成されている。内側連通溝6と外側連通溝6は、封止部材5に1本ずつ形成されている。そして、これらの連通溝6、6は、両歯車2、3の回転位相が進むのに伴い、内側囲繞空間Tが内側連通溝6にかかるタイミングと、外側囲繞空間Tが外側連通溝6にかかるタイミングとが一致するように形成されている。
【0035】
具体的にこの連通溝6は、封止部材5の側面に沿うように形成された針状を成すものである。より具体的にこの連通溝6は、その基端が高圧領域Rにおける連通ポート51に接続されるとともに、その先端が囲繞空間Tに向かうにつれて先細りするように形成されている。
【0036】
そしてこの第2実施形態の内接歯車ポンプ100では、図13に示すように、連通溝6は、高圧領域Rから囲繞空間Tに向かって先細りする錐体形状(具体的には角錐形状)をなしており、その複数の側辺61の少なくとも1つが先端側(囲繞空間T側)から基端側(高圧領域R側)に向かうにつれて徐々に外向きに広がる(末広がりする)曲線形状(R形状)をなしている。この実施形態では、連通溝6は3つの側辺61を有する三角錐形状を成しており、3つの側辺61の全てが、先端側から基端側に向かうにつれて外向きに広がる曲線形状を成している。ここでは、各側辺61は、先端側から基端側に向かうにつれて二次関数的に外向きに広がるように形成されている。なお、連通溝6の形状は、三角錐形状に限らず、例えば四角錐形状等の多角錐形状であってもよく、円錐形状であってもよい。
【0037】
(2)作用効果
このように構成された第2実施形態の内接歯車ポンプ100によれば、連通溝6は、高圧領域Rから囲繞空間Tに向かって先細りする三角錐形状をなしており、その複数の側辺61の全部が先端側から基端側に向かうにつれて外向きに広がる曲線形状をなしているので、図14に示すように、両歯車2,3の回転位相が進むにつれて、囲繞空間Tと連通する連通溝6の断面積を連続的に増加させるとともに、その増加率を加速度的に上昇させることができる。この図14に示すように、本実施形態の連通溝6の構成によれば、単調形状をなす連通溝が1本だけ形成された従来のものや、第1実施形態の連通溝6に比べて、両歯車2,3の回転位相の進行に伴う連通溝6の断面積の変化率(増加率)を急激に大きくすることができる。これにより、第2実施形態の内接歯車ポンプ100では、連通溝6から歯車2、3の歯溝21、31に導入される作動液(油等)の量を歯車2、3の回転に伴い加速的に増加することができる。これにより、図15に示すように、単調形状をなす連通溝が1本である従来のものと比較して、両歯車2、3の低回転時における歯溝21、31の圧力上昇のタイミングを大きく早めることなく、高回転時における歯溝21、31の圧力上昇のタイミングだけを大幅に早めることができる。その結果、本実施形態の内接歯車ポンプ100は、低回転時と高回転時における歯溝21、31の圧力上昇のタイミングのずれを小さくでき、ポンプの性能及び耐久性を向上できる。
【0038】
また第2実施形態の内接歯車ポンプ100は、連通溝6を先端側から基端側に向かって末広がりする角錐形状とすることで、複数本の連通溝を形成することなく、歯車2,3回転に伴う連通溝6の流路断面積の増加率を加速度的に上昇させることができる。このため、限られた加工領域において複数本の連通溝6を形成するのが困難な場合であっても、1本の連通溝6を形成することにより、両歯車2、3の低回転時における歯溝21、31の圧力上昇のタイミングを大きく早めることなく、高回転時における歯溝21、31の圧力上昇のタイミングだけを大幅に早めるという効果を奏することができる。
【0039】
[3]その他の実施形態
なお、本発明の内接歯車ポンプ100は前記実施形態に限られるものではない。
【0040】
例えば、前記各実施形態の内接歯車ポンプ100では、1又は複数の連通溝6は封止部材5に形成されていたがこれに限らない。他の実施形態では、1又は複数の連通溝6は、歯車2、3の刃先に接触して歯溝21、31を封止するフィラーピース4の周面に形成されていてもよい。例えば、図16に示すように、1又は複数の外側連通溝6が、高圧領域Rから外側囲繞空間Tに向かうようにフィラーピース4の外周面41に形成され、1又は複数の内側連通溝6が、高圧領域Rから内側囲繞空間Tに向かうようにフィラーピース4の内周面42に形成されていてもよい。
【0041】
また前記各実施形態の封止部材5は、ボディ1と両歯車2、3との間に挿入された側板により構成されていたが、これに限らない。他の実施形態の内接歯車ポンプ100は、側板を備えておらず、封止部材5としての機能をフロントカバー7及びリアカバー8により発揮するようにしてもよい。この場合、1又は複数の連通溝6は、送液空間に面するフロントカバー7又はリアカバー8の側面に形成されていてもよい。
【0042】
また他の実施形態では、連通溝6は、高圧領域Rと囲繞空間Tとを連通できれば、その基端が連通ポート51に接続されていなくてもよい。また連通ポート51は、回転する各歯車2、3の歯22、32が通過する位置に設けられていなくてもよい。
【0043】
また前記第1実施形態では、共通の囲繞空間Tに連通する複数の連通溝6は、互いに略平行になるように形成されていたが、これに限らない。また第1実施形態の各連通溝6は、先細りする形状でなく、例えば矩形状であってもよい。また各連通溝6は、直線状又は曲線状であってもよい。
【0044】
また前記第1実施形態では、外側連通溝6と内側連通溝6の両方が複数本かつ同数形成されていたがこれに限らない。他の実施形態では、外側連通溝6と内側連通溝6の一方の連通溝6だけが複数本形成され、他方の連通溝は1本又は0本であってもよい。また、複数の外側連通溝6と複数の内側連通溝6の一方が、両歯車2、3の回転に伴い高圧領域Rと囲繞空間Tとを連通させるタイミングが互いに異なるように形成されており、他方が、両歯車2、3の回転に伴い高圧領域Rと囲繞空間Tとを連通させるタイミングが互いに同じになるように形成されていてもよい。またこれらの連通溝6は、両歯車2、3の回転に伴い、内側囲繞空間Tが各内側連通溝6にかかるタイミングと、外側囲繞空間Tが各外側連通溝6にかかるタイミングとが一致するように形成されていなくてもよい。連通溝6は、両歯車2、3の高回転時及び/又は低回転時における、歯溝21、31のそれぞれの圧力の上昇のタイミングが互いに略同一となるように形成されているのが好ましい。
【0045】
また他の実施形態の内接歯車ポンプ100の連通溝6は、第1実施形態の連通溝6の態様の一部又は全部と、第2実施形態の連通溝6の態様の一部又は全部とを組み合わせたものであってもよい。例えば他の実施形態の内接歯車ポンプ100は、両歯車2,3の回転に伴い高圧領域Rと囲繞空間Tとを連通させるタイミングが互いに異なるようにした複数本の連通溝6が形成されており、当該複数の連通溝6の一部又は全部が、高圧領域Rから囲繞空間Tに向かって先細りする角錐形状をなしており、その少なくとも1つの側辺が先端側から基端側に向かうにつれて外向きに広がる曲線形状をなしていてもよい。
【0046】
また前記した各実施形態の内接歯車ポンプ100は、他の実施形態では内接歯車モータ100としても機能させることができる。例えば、作動液を吸入口Pから送液空間に導入して、これを吐出口Pから吐出させることにより、外歯車3の回転軸に連結した駆動軸9に回転トルクを与えることができる。内接歯車モータ100として機能させる場合、送液空間において、吸入口Pに連通する領域が高圧領域Rとなり、吐出口Pに連通する領域が低圧領域Rとなる。つまり、内接歯車モータ100として機能させる場合には、連通溝6は囲繞空間Tと低圧領域Rとを連通するよう形成されており、連通溝6は、両歯車2、3の回転位相が進むにつれて、囲繞空間Tに連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されている。この場合、連通溝6は、高圧領域Rから囲繞空間Tに向かって先細りする角錐形状をなしており、その少なくとも1つの側辺61が先端側から基端側に向かうにつれて外向きに広がる曲線形状をなしていてもよい。また、複数の連通溝6が囲繞空間Tと低圧領域Rとを連通するよう形成されており、各連通溝6が、内歯車2及び外歯車3の回転に伴い低圧領域Rと囲繞空間Tとを連通させるタイミングが互いに異なるように形成されている。
【0047】
[4]本明細書が含む内接歯車ポンプ100の態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0048】
(第1項)一態様に係る前記内接歯車ポンプは、ボディ内に回転可能に嵌合された内歯車と、前記内歯車に内接して噛み合う外歯車と、前記内歯車と前記外歯車との間に形成された送液空間を高圧領域と低圧領域とに区画するフィラーピースと、前記両歯車の回転軸方向の両端面を覆い、前記送液空間を封止する封止部材とを備え、前記フィラーピース及び前記少なくとも一方の歯車の歯溝に囲繞される囲繞空間と前記高圧領域とを連通するための連通溝が形成されており、前記連通溝は、前記両歯車の回転位相が進むにつれて、前記囲繞空間に連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されていてよい。
【0049】
第1項に記載の内接歯車ポンプによれば、連通溝が、両歯車の回転位相が進むにつれて、囲繞空間と連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されているので、連通溝から歯車の歯溝に導入される作動液(油等)の量を回転に伴い加速的に増加することができる。そのため、両歯車の低回転時における歯溝内の圧力変化のタイミングを大幅に早めることなく、高回転時における歯溝内の圧力変化のタイミングだけを大幅に早めることができる。これにより、内接歯車ポンプにおいて、低回転時と高回転時における歯溝内の圧力変化のタイミングのずれを小さくし、ポンプの性能及び耐久性を向上することができる。なお、「連通溝の断面積」とは、囲繞空間に連通する連通溝が1本の場合には当該1本の連通溝の流路断面積であり、共通の囲繞空間に連通する複数本の連通溝が形成されている場合には、当該複数本の連通溝の流路断面積の合計である。
【0050】
(第2項)第1項に記載の内接歯車ポンプの具体的態様としては、前記連通溝が、前記高圧領域から前記囲繞空間に向かって先細りする角錐形状をなしており、その少なくとも1つの側辺が先端側から基端側に向かうにつれて外向きに広がる曲線形状をなしているものが挙げられる。
【0051】
第2項に記載の内接歯車ポンプによれば、連通溝を先端から基端に向かって側辺が曲線状に広がる角錐形状としているので、囲繞空間と連通する連通溝の断面積を、両歯車の回転位相が進むにつれて連続的に増加させるとともに、その増加率を加速度的に上昇させることができる。
また第2項に記載の内接歯車ポンプによれば、複数本の連通溝を形成することなく1本の連通溝であっても、回転に伴い連通溝の断面積の増加率を加速度的に上昇させることができる。このため、限られた加工領域であって複数本の連通溝を形成するのが困難な場合であっても、1本の連通溝により、上記した第1項に記載の内接歯車ポンプの効果を奏することができる。
【0052】
(第3項)第2項に記載の内接歯車ポンプの具体的態様としては、前記連通溝が、前記高圧領域から前記囲繞空間に向かって先細りする三角錐形状をなし、その3つの側辺が先端側から基端側に向かうにつれて外向きに広がる曲線形状をなしているものが挙げられる。
【0053】
第3項に記載の内接歯車ポンプによれば、第2項に記載の内接歯車ポンプの効果をより顕著に奏することができる。
【0054】
(第4項)第1項~第3項のいずれかに記載の内接歯車ポンプは、前記連通溝が複数本形成されており、当該複数の連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記高圧領域と前記囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成されていてもよい。
【0055】
第4項に記載の内接歯車ポンプによれば、両歯車の回転に伴い高圧領域と囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように複数の連通溝が形成されているので、回転位相が進んで歯車の歯溝が各連通溝にかかる毎に囲繞空間Tに連通する各連通溝の合計断面積が増加し、各連通溝から歯車の歯溝に導入される作動液(油等)の量を回転に伴いより加速的に増加することができる。そのため、両歯車の低回転時における歯溝の圧力上昇のタイミングを大きく変化させることなく、高回転時における歯溝の圧力上昇のタイミングをより一層早めることができる。これにより、内接歯車ポンプにおいて、低回転時と高回転時における歯溝の圧力上昇のタイミングのずれをより一層小さくすることができる。
【0056】
(第5項)第4項に記載の内接歯車ポンプの具体的態様としては、前記両歯車の回転位相と、前記囲繞空間に連通する前記各連通溝の合計断面積との関係において、前記回転位相が進むにつれて前記合計断面積が連続的に上昇し、かつ前記回転位相の進行に伴う前記合計断面積の増加率が階段状に変化する屈曲点が存在するものが挙げられる。
【0057】
(第6項)第4項又は第5項に記載の内接歯車ポンプは、前記複数の連通溝が、前記フィラーピース及び前記内歯車の歯溝に囲繞される外側囲繞空間と前記高圧領域とを連通する複数の外側連通溝と、前記フィラーピース及び前記外歯車の歯溝に囲繞される内側囲繞空間と前記高圧領域とを連通する複数の内側連通溝とを含み、前記各外側連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記高圧領域と前記外側囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成され、前記各内側連通溝が、前記両歯車の回転に伴い前記高圧領域と前記内側囲繞空間とを連通させるタイミングが互いに異なるように形成されていてもよい。
【0058】
第6項に記載の内接歯車ポンプによれば、低回転時と高回転時における内歯車と外歯車の両方の歯溝の圧力上昇のタイミングのずれを小さくすることができる。
【0059】
(第7項)第6項に記載の内接歯車ポンプは、前記複数の内側連通溝及び前記複数の外側連通溝の数が同じであり、前記複数の内側連通溝及び前記複数の外側連通溝が、前記両歯車の回転に伴い、前記内側囲繞空間が前記各内側連通溝にかかるタイミングと、前記外側囲繞空間が前記各外側連通溝にかかるタイミングとが一致するように形成されていてもよい。
【0060】
第7項に記載の内接歯車ポンプによれば、内歯車と外歯車のそれぞれの歯溝における回転に伴う圧力上昇のタイミングの差を小さくすることができる。
【0061】
(第8項)第4項~第7項のいずれかに記載の内接歯車ポンプは、前記複数の連通溝がいずれも、前記高圧領域から前記囲繞空間に向けて先細りする形状であってもよい。
【0062】
第8項に記載の内接歯車ポンプによれば、回転に伴う囲繞空間の圧力の上昇を緩やかにでき、高圧領域から囲繞空間に滑らかに圧力を導入することができる。
【0063】
(第9項)第1項~第8項のいずれかに記載の内接歯車ポンプは、前記連通溝が前記封止部材に形成されたものであってもよい。
【0064】
上記した連通溝は、例えば封止部材とフィラーピースのいずれにも形成することができる。このフィラーピースは加工性に優れた真鍮等の材料により構成されることが多く、そのため連通溝をフィラーピースに形成する場合には、作動液の圧力により連通溝が削れてしまう恐れがある。第9項に記載の内接歯車ポンプによれば、フィラーピースよりも耐摩耗性に優れた材料により構成される封止部材に連通溝を形成するので、作動液の圧力による連通溝の破損を抑制することができる。
【0065】
(第10項)第1項~第9項のいずれかに記載の内接歯車ポンプの具体的態様としては、前記連通溝が、前記高圧領域と、当該高圧領域に隣接している前記囲繞空間とを連通させるように形成されたものが挙げられる。
【0066】
(第11項)第1項~第10項のいずれかに記載の内接歯車ポンプの具体的態様としては、前記連通溝が、前記高圧領域と前記囲繞空間とを仕切る歯を跨ぐように形成されたものが挙げられる。
【0067】
(第12項)また他の一態様に係る前記内接歯車モータは、ボディ内に回転可能に嵌合された内歯車と、前記内歯車に内接して噛み合う外歯車と、前記内歯車と前記外歯車との間に形成された送液空間を高圧領域と低圧領域とに区画するフィラーピースと、前記両歯車の回転軸方向の両端面を覆い、前記送液空間を封止する封止部材とを備え、前記フィラーピース及び前記少なくとも一方の歯車の歯溝に囲繞される囲繞空間と前記低圧領域とを連通するための連通溝が形成されており、前記連通溝は、前記両歯車の回転位相が進むにつれて、前記囲繞空間に連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されていてもよい。
【0068】
第12項に記載の内接歯車モータによれば、連通溝が、両歯車の回転位相が進むにつれて、囲繞空間と連通する断面積が連続的に増加するとともに、その増加率が加速度的に上昇するように形成されているので、連通溝を通じて歯車の歯溝から低圧領域に導出される作動液(油等)の量を回転に伴い加速的に増加することができる。そのため、両歯車の低回転時における歯溝の圧力低下のタイミングを大きく変化させることなく、高回転時における歯溝の圧力低下のタイミングだけを大幅に早めることができる。これにより、内接歯車モータにおいて、低回転時と高回転時における歯溝の圧力低下のタイミングのずれを小さくすることができる。
【0069】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
上記した本発明の内接歯車ポンプ又は内接歯車モータによれば、低回転時と高回転時における歯溝内の圧力変化のタイミングのずれを小さくすることができる。
【符号の説明】
【0071】
100 ・・・内接歯車ポンプ、内接歯車モータ
1 ・・・ボディ
11 ・・・側壁
2 ・・・内歯車
21 ・・・歯溝
3 ・・・外歯車
31 ・・・歯溝
4 ・・・フィラーピース
41 ・・・外周面
42 ・・・内周面
5 ・・・封止部材(側板)
51 ・・・連通ポート
6 ・・・連通溝
61 ・・・側辺
・・・外側連通溝
・・・内側連通溝
7 ・・・フロントカバー
8 ・・・リアカバー
9 ・・・駆動軸
・・・吸入口
・・・吐出口
S ・・・送液空間
・・・高圧領域
・・・低圧領域
・・・外側囲繞空間
・・・内側囲繞空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16