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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ペプチド分析方法及びペプチド分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20250109BHJP
【FI】
G01N27/62 V
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023539557
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2021029358
(87)【国際公開番号】W WO2023013047
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 英一
(72)【発明者】
【氏名】早川 禎宏
(72)【発明者】
【氏名】河野 慎一
(72)【発明者】
【氏名】今井 一洋
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-037088(JP,A)
【文献】特開2012-251878(JP,A)
【文献】特開2010-249838(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0033522(US,A1)
【文献】NAKASHIMA et al.,Structual and functional insights into S-thiolation of human serum albmins,SCIENTIFIC REPORTS,2018年01月17日,vol.8,PP.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MS/MS測定が可能なクロマトグラフ質量分析装置を用いて、ペプチドに含まれるシステイン残基の還元型と酸化型を解析するためのペプチド分析方法であって、
a) 分析目的であるペプチドを含む試料を準備する工程と、
b) 前記試料に対してチオール基と特異的に反応する標識化合物を添加して、該試料中のペプチドに含まれる還元型のシステイン残基を前記標識化合物で標識する工程と、
c) 前記標識化合物で標識されたペプチドを含む試料をクロマトグラフによって分離する分離工程と、
d) 前記分離された、前記標識化合物で標識されたペプチドに対し、システイン残基からチオール基が脱離しない条件でイオン化して生じたペプチドイオンをプリカーサーイオンとしたプロダクトイオンスキャン測定を実行する測定実行工程と、
e) 前記測定実行工程により得られたデータに基づいて作成されるマススペクトルに、前記標識化合物の構造に対応する特定の質量電荷数比に出現するピークが存在するか否かを判定することにより、分析目的であるペプチドが還元型のシステイン残基を含むか否かを判断する判断工程と
を備え
前記標識化合物が以下の式(1)で示される化合物である、ペプチド分析方法。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載のペプチド分析方法において、
前記分離工程において、前記標識化合物で標識されたペプチドをタンパク質消化酵素によりペプチド断片化した試料を、クロマトグラフによって時間的に分離することを特徴とするペプチド分析方法。
【請求項3】
請求項1に記載のペプチド分析方法において、
記標識化合物の構造に由来するピークの質量電荷数比が303.06である、ペプチド分析方法。
【請求項4】
請求項1に記載のペプチド分析方法において、
記標識化合物の構造に由来するピークの質量電荷数比が344.08である、ペプチド析方法。
【請求項5】
MS/MS測定が可能なクロマトグラフ質量分析装置を含み、ペプチドに含まれるシステイン残基の還元型と酸化型を解析するためのペプチド分析装置であって、
a) チオール基と特異的に反応する標識化合物で標識されたペプチドを含む試料をクロマトグラフによって分離し、その分離された試料に対し、システイン残基からチオール基が脱離しない条件でイオン化して生じたペプチドイオンをプリカーサーイオンとしたプロダクトイオンスキャン測定を実行するようにクロマトグラフ質量分析装置を動作させる分析制御部と、
b) 前記プロダクトイオンスキャン測定により得られたデータに基づき、マススペクトルを作成するマススペクトル作成部と、
c) 前記マススペクトルに、前記標識化合物の構造に対応する特定の質量電荷数比に出現するピークが存在するか否かを判定することにより、分析目的であるペプチドが還元型のシステイン残基を含むか否かを判断する判断部と
を備え
前記標識化合物が以下の式(1)で示される化合物である、ペプチド分析装置。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質又はペプチドを構成するチオール基を有するアミノ酸が還元型であるか否かをクロマトグラフ質量分析装置を用いて判別するペプチド分析方法及びペプチド分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
システイン(Cys)は側鎖にチオール基(SH基)を持つ含硫アミノ酸であり、多くのタンパク質中に存在する。SH基は反応性が高く、タンパク質の分子内においてシステインを含む他のアミノ酸のSH基との間でジスルフィド(SS)結合を形成したり、また、SS結合が切れてSH基に戻ったりする。タンパク質の分子内におけるSS結合の数や位置は、該タンパク質の三次元構造を決定する。また、Cys残基は、チオール基に対する求核置換反応や求核付加反応による、特異的反応のターゲットとしてよく利用されてきた(非特許文献1)。
【0003】
血液中に含まれるタンパク質の一種であるアルブミンは35個のシステイン残基(Cys残基)を含んでおり、通常は、これら35個のCys残基のうちN末端側から34番目のCys残基(以下、「Cys34」と表記する。)のみSH基がフリーの状態にあり、残り34個のCys残基のSH基は全て分子内でSS結合を形成している。ところが、血液中の或る1個のアルブミンのフリーのSH基が、他のアルブミンのフリーのSH基とSS結合を形成したり、アルブミン以外のタンパク質又はペプチドに含まれるフリーのSH基とSS結合を形成したりする場合がある。Cys34のSH基がフリーの状態にあるアルブミンは還元型アルブミンと呼ばれ、SS結合を形成しているアルブミンは酸化型アルブミンと呼ばれている。近年、血液中の還元型アルブミンと酸化型アルブミンの比率と特定の疾患との間に相関がみられることが報告されており、該特定の疾患のスクリーニングや診断のためのマーカーとして還元型アルブミンと酸化型アルブミンの比率を利用することが検討されつつある。
【0004】
従来一般に、酸化型アルブミンと還元型アルブミンの判別は、液体クロマトグラフィによって行われている。しかしながら、液体クロマトグラフィによる分離がCys残基の酸化還元状態の違いだけによるものかどうかの確証がない。
【0005】
これに対して、SH基と特異的に反応する蛍光試薬であるDAABD-Cl(4-(dimethylaminoethyl aminosulfonyl)-7-chloro-2,1,3-benzoxadiazole)を用いてCys残基を含むタンパク質及び/又はペプチドを検出する方法がある(特許文献1、2、非特許文献2-4)。この方法では、検出感度を上げるためにタンパク質及び/又はペプチドを含む試料を還元処理し、タンパク質及び/又はペプチドに含まれる1個又は複数個のSS結合を切断してSH基にした上で、DAABD-Clを添加する。これにより、タンパク質及び/又はペプチドが有するCys残基のSH基とDAABD-Clが反応し、Cys残基にDAABDが結合して蛍光標識されたタンパク質及び/又はペプチドが得られるから、これを蛍光検出により分離し、必要に応じて、タンパク質及び/又はペプチドをトリプシン消化によりフラグメント化した上で質量分析装置に導入する。そして、蛍光標識されたタンパク質及び/又はペプチドのフラグメントをMS/MS分析することにより得られたデータ(MSスペクトル、MS/MSスペクトル)を、データベースに収録されている情報と照合することで各フラグメントのアミノ酸配列を決定し、タンパク質及び/又はペプチドの同定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-017264号公報
【文献】国際公開WO2005/056146パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】L. Dayon; Thiol‐targeted Microspray Mass Spectrometry of Peptides and Proteins through On‐line EC‐tagging. PhD Thesis, Ecole Polytechnique Federale de Lausanne, 2006.
【文献】T. Santa, T. Fukushima, T. Ichibangase, and K. Imai; Biomed. Chromatogr. 2008, 22(4), pp.343-353
【文献】M. Masuda, C. Toriumi, T. Santa, and K. Imai; Anal. Chem. 2004, 76, pp.728-735
【文献】T. Ichibangase and K. Imai; J. Pharm. Biomed. Anal. 2014, 101, pp.31-39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記方法では、蛍光標識されたタンパク質及び/又はペプチド、すなわちCys残基を有するタンパク質及び/又はペプチドを選択的に質量分析装置に導入することが可能なものの、タンパク質及び/又はペプチドのフラグメントについてMS/MS分析を行った結果からは、そのフラグメントがDAABDが結合しているフラグメント(蛍光標識フラグメント)であるか否かを判別することができない。そのため、全てのフラグメントについて得られたMS/MS分析のデータをデータベースに収録されている情報と照合して各フラグメントのアミノ酸配列を決定する必要がある。
【0009】
質量分析装置を用いた多重反応モニタリング(MRM)測定により、蛍光標識フラグメントを選択的に検出することが考えられるが、この場合は、様々な配列のペプチドについてCys残基にDAABDを結合させた標準試料を準備し、これらを実測して各標準試料のMS/MSデータを得る必要がある。そして、その上で各標準試料について得られたMS/MSデータを解析することにより、蛍光標識フラグメントの検出に最適なプリカーサーイオンとプロダクトイオンの質量電荷数比(m/z)の組み合わせやその組み合わせに最適なコリジョンエネルギなどの制御パラメータを設定しなければならず、作業が面倒であり、煩雑である。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、面倒で煩雑な作業を行うことなく、タンパク質又はペプチドのCys残基が還元型であるか酸化型であるかを判定することができる、ペプチド分析方法及びペプチド分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明は、MS/MS測定が可能なクロマトグラフ質量分析装置を用いて、ペプチドに含まれるシステイン残基の還元型と酸化型を解析するためのペプチド分析方法であって、
a) 分析目的であるペプチドを含む試料を準備する工程と、
b) 前記試料に対してチオール基と特異的に反応する標識化合物を添加して、該試料中のペプチドに含まれる還元型のシステイン残基を前記標識化合物で標識する工程と、
c) 前記標識化合物で標識されたペプチドを含む試料をクロマトグラフによって分離する分離工程と、
d) 前記分離された、前記標識化合物で標識されたペプチドに対し、システイン残基からチオール基が脱離しない条件でイオン化して生じたペプチドイオンをプリカーサーイオンとしたプロダクトイオンスキャン測定を実行する測定実行工程と、
e) 前記測定実行工程により得られたデータに基づいて作成されるマススペクトルに、前記標識化合物の構造に対応する特定の質量電荷数比に出現するピークが存在するか否かを判定することにより、分析目的であるペプチドが還元型のシステイン残基を含むか否かを判断する判断工程と
を備えることを特徴とする。
【0012】
また上記課題を解決するために成された本発明は、MS/MS測定が可能なクロマトグラフ質量分析装置を含み、ペプチドに含まれるシステイン残基の還元型と酸化型を解析するためのペプチド分析装置であって、
a) チオール基と特異的に反応する標識化合物で標識されたペプチドを含む試料をクロマトグラフによって分離し、その分離された試料に対し、システイン残基からチオール基が脱離しない条件でイオン化して生じたペプチドイオンをプリカーサーイオンとしたプロダクトイオンスキャン測定を実行するようにクロマトグラフ質量分析装置を動作させる分析制御部と、
b) 前記プロダクトイオンスキャン測定により得られたデータに基づき、マススペクトルを作成するマススペクトル作成部と、
c) 前記マススペクトルに、前記標識化合物の構造に対応する特定の質量電荷数比に出現するピークが存在するか否かを判定することにより、分析目的であるペプチドが還元型のシステイン残基を含むか否かを判断する判断部と
を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明において、MS/MS測定が可能なクロマトグラフ質量分析装置を構成するクロマトグラフとしては、例えばガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、キャピラリ電気泳動などがあり、質量分析装置としては、タンデム四重極型質量分析装置(三連四重極型質量分析装置とも呼ばれる)、四重極飛行時間型質量分析装置(QTOF)、イオントラップ型質量分析装置、マトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析装置などがあり、これらを組み合わせた装置を用いることができる。
【0014】
本発明において、「ペプチド」にはタンパク質及びペプチドの両方を含むこととする。また、還元型のシステイン残基(Cys残基)とは、該Cys残基が有するチオール基(SH基)がフリーの状態にあるものをいい、酸化型のCys残基とは、同じペプチドの分子内において、Cys残基と別のCys残基との間でジスルフィド結合(SS結合)を形成しているもの、若しくは或るペプチドが有するCys残基と、他のペプチドが有するCys残基との間でSS結合を形成しているものをいう。
【0015】
ペプチドは複数のアミノ酸がペプチド結合した構成を有しており、試料中のペプチドが還元型のCys残基を含む場合は、Cys残基のSH基と標識化合物が反応して該Cys残基が標識化合物で標識されたペプチドが得られる。ここで、「標識化合物で標識される」とは、例えば、SH基のH(水素)と標識化合物の一部が分離し、SH基のS(イオウ)と標識化合物の残りの部分が結合して新たな官能基(以下、「標識官能基」ともいう)を形成している状態をいう。この場合、SH基から分離したHと標識化合物の一部も結合して分子を形成する。
【0016】
本発明では、標識化合物で標識されたペプチドを含む試料はクロマトグラフで分離された後、質量分析装置に導入される。このとき、分析目的とするペプチドの分子量が比較的小さい場合は、試料はそのままクロマトグラフに導入されるが、分子量が比較的大きい場合は、標識化合物で標識されたペプチドをタンパク質消化酵素で消化して断片化して分子量の小さいペプチドとした後、クロマトグラフに導入すると良い。説明の便宜上、以下では、標識化合物で標識されたペプチドを質量分析装置に導入することとする。
【0017】
本発明では、試料中のペプチドが質量分析装置に導入されてイオン化される際に、システイン残基からチオール基が脱離しない条件としている。そのため、質量分析装置のイオン源としては、エレクトロスプレーイオン化(ESI)や大気圧化学イオン化(APCI)等のいわゆるソフトなイオン化を行うイオン源を用いることが好ましい。
上述の条件でイオン化されると、試料中のペプチドが還元型のCys残基を含む場合は、Cys残基が標識化合物で標識された状態(つまり、標識官能基を有する状態)のペプチドのイオンがイオン化によって生成される。このようなペプチドイオンを衝突遊離解離等により開裂させると、標識官能基が脱離するため、前記ペプチドイオンをプリカーサーイオンしてプロダクトイオンスキャン測定を実施すると、プロダクトイオンのMS/MSスペクトル上に、前記標識官能基の構造、すなわち標識化合物の構造に対応する特定の質量電荷数比にピークが出現する。従って、このようなピークの存在が確認されれば、試料中のペプチドに含まれるCys残基が還元型である可能性が高いと判断することができる。
【0018】
一方、前記特定の質量電荷数比にピークが検出されない場合は、試料中のペプチドに含まれるCys残基が酸化型であるか、或いは試料中のペプチドにCys残基が含まれない可能性が高いと判断することができる。この場合、試料中のペプチドにCys残基が含まれるか否かは、MS/MSスペクトルをデータベースに収録されている情報と照合してペプチドの同定を行うことにより、判断することができる。なお、前記特定の質量電荷数比にピークが検出された場合でも、MS/MSスペクトルから前記ピークを除いたパターンをデータベースに収録されている情報と照合することにより、ペプチドの同定が可能である。
【0019】
本発明においては、前記標識化合物として、以下の式(1)で示される化合物を用いることができる。
【化1】
この化合物は、SH基に特異的に結合してペプチドを蛍光標識する試薬として知られているDAABD-Cl試薬であり、この場合の前記標識化合物の構造に対応する特定の質量電荷数比の例として、「303.06」及び「344.08」がある。
【0020】
質量電荷数比が303.06のピークは以下の式(2)で表されるイオンに対応し、質量電荷数比(m/z)が344.08のピークは以下の式(3)で表されるイオンに対応すると考えられる。いずれもDAABD-Clに由来するイオンに相当する。
【化2】
【化3】
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、分析目的とするペプチドを含む試料に標識化合物を添加した上で該試料をクロマトグラフ質量分析装置を用いて分析することにより得られたデータに基づいて作成されるマススペクトルに、SH基と特異的に反応する標識化合物の構造に対応する特定の質量電荷数比のピークが存在するか否かを判定することにより、ペプチドが還元型のCys残基を含むか否かを推定することができる。このため、試料について得られたデータをデータベースに収録されている情報と照合してペプチドを同定したり、標準試料を実測して試料の測定のための条件等を設定したりするといった面倒で煩雑な作業を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るペプチド分析方法を実施するペプチド分析装置の一実施例の概略構成図。
図2】ペプチド分析処理の手順を示すフローチャート。
図3】ヒトアルブミンを含む試料をLC-MS/MS分析した結果に対してMS/MSイオンサーチを行った結果の一例を示す図。
図4】通し番号:571のMS/MSスペクトルと、該スペクトルから同定されたアミノ酸配列を示す図。
図5】通し番号:589のMS/MSスペクトルと、該スペクトルから同定されたアミノ酸配列を示す図。
図6】通し番号:627のMS/MSスペクトルと、該スペクトルから同定されたアミノ酸配列を示す図。
図7】通し番号:655のMS/MSスペクトルの例と、該スペクトルから同定されたアミノ酸配列を示す図。
図8】DAABD-Clの構造に対応する質量電荷数比にピークが観察されなかったペプチドを含む試料のMS/MSイオンサーチの結果を示す図。
図9】グルタチオンを含む試料のMSスペクトル及びMS/MSスペクトルの一例。
図10】オキシトシンを含む試料のMSスペクトル及びMS/MSスペクトルの一例。
図11】アルブミン、グルタチオン、オキシトシンをそれぞれ含む試料のMS/MSスペクトルに出現した質量電荷数比が共通するピークを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る分析方法について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係るペプチド分析方法を実施するペプチド分析装置の概略構成図である。このペプチド分析装置は、液体クロマトグラフ(LC)部1と質量分析(MS/MS)部2とを含む液体クロマトグラフシステム(LC-MS/MSシステム)である。
【0024】
LC部1は、移動相が貯留された移動相容器10と、移動相を吸引して一定流量で送給するポンプ11と、移動相中に所定量の試料液を注入するインジェクタ12と、試料液に含まれる各種化合物を時間方向に分離するカラム13と、を備える。
【0025】
MS/MS部2は、略大気圧であるイオン化室20と真空ポンプ(図示なし)により真空排気された高真空の分析室24との間に、段階的に真空度が高められた第1中間室21、第2中間室22、及び第3中間室23を備えた多段差動排気系の構成を有している。イオン化室20には、LC部1のカラム13から溶出する試料液に電荷を付与しながら噴霧するエレクトロスプレイイオン化用プローブ(ESIプローブ)201が設置されている。
【0026】
イオン化室20と第1中間室21は細径の加熱キャピラリ202を通して連通している。第1中間室21と第2中間室22は頂部に小孔を有するスキマー212で隔てられ、第1中間室21と第2中間室22にはそれぞれ、イオンを収束させつつ後段へ輸送するためのイオンガイド211、221が配置されている。第3中間室23には、イオンを質量電荷数比に応じて分離する四重極マスフィルタ231、多重極イオンガイド233を内部に備えたコリジョンセル232、及びコリジョンセル232から放出されたイオンを輸送するためのイオンガイド234が配置されている。コリジョンセル232の内部には、アルゴン、窒素などのCIDガスが連続的又は間欠的に供給される。
【0027】
分析室24には、第3中間室23から入射したイオンを直交加速部に輸送するためのイオン輸送電極241、イオンの入射光軸(直交加速領域)を挟んで対向配置された2つの電極242A、242Bからなる直交加速電極242、該直交加速電極242により飛行空間に送出されるイオンを加速する加速電極243、飛行空間においてイオンの折り返し軌道を形成するリフレクトロン電極244(244A、244B)、検出器245、及び飛行空間の外縁に位置するフライトチューブ246を備えている。
【0028】
MS/MS部2では、MSスキャン測定、MS/MSスキャン測定、或いはMSスキャン測定(nは3以上の整数)を行うことができる。例えば、MS/MSスキャン測定(プロダクトイオンスキャン測定)の場合には、四重極マスフィルタ231においてプリカーサーイオンとして設定されたイオンのみを通過させる。また、コリジョンセル232の内部にCIDガスを供給し、プリカーサーイオンを開裂させてプロダクトイオンを生成する。そして、プロダクトイオンを飛行空間に導入し、それらの飛行時間に基づいて質量電荷数比を求める。
【0029】
分析制御部3は中央制御部31の指示の下に、LC部1及びMS/MS部2の動作をそれぞれ制御する機能を有する。入力部32及び表示部33が接続された中央制御部31は、これらを通したユーザインタフェイスのほか、システム全体の統括的な制御を担う。この中央制御部31に含まれる記憶装置には、分析対象物であるタンパク質又はペプチドに含まれる特定のアミノ酸(具体的には、システイン)残基の構造やアミノ酸配列を推定するための特徴的な制御を実施するペプチド構造推定用制御プログラム35が格納されており、CPU等がこのプログラム35に従って分析制御部3を通して各部を制御することで、ペプチドの構造を推定するために必要な測定やデータ処理が実行される。
【0030】
また、このとき、検出器245による検出信号(イオン強度信号)はデータ処理部4に入力される。データ処理部4は機能ブロックとしてのデータ収集部41、データ記憶部42、グラフ作成部43、ペプチド構造推定処理部44を含んでおり、データベース45に保存されている情報を利用したデータ処理を実行することにより、ペプチドに含まれるシステインの構造やアミノ酸配列を推定し、これらの結果から、試料中のタンパク質又はペプチドが還元型のCys残基を有するか否かを判定したり、前記タンパク質又はペプチドを同定したりする。後述するように、Cys残基が還元型であるか否かの判定は、MS/MSスペクトルに特定の質量電荷数比のピークが出現するか否かによる。このようなピークの質量電荷数比は予め決まっているため、ペプチド構造推定用制御プログラム35に格納しておくと良い。
【0031】
データベース45には、飛行時間-質量電荷数比情報、及び印加電圧情報が保存されている。飛行時間-質量電荷数比情報は、種々の質量電荷数比を有するイオンが質量分析部2の飛行空間を飛行するのに要する時間が記載された情報である。また、印加電圧情報は、イオン輸送電極241、直交加速電極242、加速電極243、リフレクトロン電極244、及びフライトチューブ246への印加電圧の値関する情報であり、本実施例では、直交加速電極242について、イオンの送出周期に応じて異なる大きさの印加電圧が対応付けられている。
【0032】
中央制御部31やデータ処理部4はパーソナルコンピュータをハードウエアとして、該コンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することにより具現化されたものとすることができる。この場合、入力部32はキーボードやポインティングデバイス(マウス)であり、表示部33はディスプレイモニタである。
【0033】
上述のLC-MS/MSシステムを用いてペプチドに含まれるCys残基の構造を分析する際は、まずは、分析対象物であるペプチドを含む試料を準備する。この際、チオール基と特異的に反応する標識化合物を試料に添加して試料中のペプチドに含まれるCys残基のチオール基と標識化合物を反応させる。このような前処理が終了すると、測定者は、試料をLC-MS/MSシステムにセットし、入力部32を操作して、LC部1における分離条件、MS/MS部2におけるイオン化条件、MS/MS測定条件等の条件を設定する(ステップS1)。
【0034】
測定者の指示により測定が開始されると、中央制御部31からの指示に基づき分析制御部3はLC部1及びMS/MS部2を制御する。これにより、LC部1にて分離されてきた試料がMS/MS部2に導入され、イオン化された後、プロダクトイオンスキャン測定が実行される(ステップS2)。この際、ペプチドから標識化合物が離脱しない条件でイオン化される。プロダクトイオンスキャン測定で得られたデータはデータ処理部4内のデータ記憶部42に格納される。
【0035】
そして、測定が終了すると、グラフ作成部43によりデータが処理されてマススペクトルが作成される(ステップS3)。続いて、マススペクトルからピークを抽出し、抽出したピークの中に特定の質量電荷数比のピークが含まれるか否かを判定する(ステップS4)。また、マススペクトルのピーク情報をタンパク質/ペプチドデータベースに格納されている情報と照合することにより、ペプチドのアミノ酸配列を推定する(ステップS5)。以上の処理が終了すると、ステップS4の判定結果及びアミノ酸配列の推定結果を表示部33に出力する(ステップS6)。ステップS4の判定結果とは、例えば、試料中のペプチドに含まれる還元型のCys残基の数、還元型のCys残基と酸化型のCys残基の比率、アミノ酸配列のどこのCys残基が還元型であるか、等である。
【0036】
次に、上述した実施例に係るLC-MS/MSシステムによる実測例を説明し、該システムがタンパク質やペプチドに含まれるCys残基が還元型であるか酸化型であるかの判別に有用であることを示す。
【0037】
1.ヒトアルブミンの実測例
(1) ヒトアルブミン(Human Albumin)のDAABD修飾
10μLのヒトアルブミン(1mM)に、以下の溶液及び緩衝液を添加し、最後に全量が100μLとなるように水を加えて混合した後、40℃で10分間、500回転/分で緩やかに撹拌し、ヒトアルブミンとDAABD-Clを反応させた。そして、撹拌後の混合液に20%TFA水溶液 3 μLを加えて反応を終了させた。
・3.3mM EDTA/17mM CHAPS水溶液 :58.8μL
・TCEP(42mM)水溶液 :1.2μL
・6M グアニジン塩酸塩(GdnHCl)緩衝液(pH 8.7):25μL
・0.14M DAABD-Cl アセトニトリル溶液 :5μL
なお、EDTAは「エチレンジアミン四酢酸」の、CHAPSは「3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]propanesulfonate)」の、TCEPは「トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩」の、TFAは「トリフルオロ酢酸」の略称である。また、DAABD-Clの構造式を以下に示す。
【化1】
【0038】
(2) 高速クロマトグラフ(HPLC)による分取
上記(1)で得られた反応液103μLから10μL(ヒトアルブミン約1nmol)を採取し、これを分取カラムに注入してアルブミン画分(2~5mL程度)を分取した。分取したアルブミン画分を遠心乾燥機(または凍結乾燥機)で乾固した。以下にLC条件を示す。
<LC条件>
HPLC:株式会社島津製作所製 Nexera XR
カラム:Phenomenex社製 Aeris WIDEPORE 3.6u XB-C8(ODS基修飾シリカゲル充填HPLCカラム(内径4.6mm、長さ250mm、充填材の粒径3.6μm))
カラム温度:60℃
溶出法 :移動相A: 0.1% TFA, 1% IPA, 9% ACN 水溶液、移動相B: 0.1% TFA, 1%IPA, 74% ACN 水溶液の2液によるグラジエント溶出
移動相流速:0.8 mL/分
【0039】
(3) 還元処理
上記(2)で得られた乾固したアルブミン画分を、尿素(8M)を含む500mM TrisHCl(pH 8.0)水溶液 75μLに溶解した。これに、1μLのTCEP(42mM)水溶液を加えて混合し、この混合液を37℃で30分間加温した。
なお、還元処理の後、通常はアルキル化処理を行うが、ここで提示した実測例では本処理は行っていない。その理由は、ここでは最初にタンパク質を還元処理した後にDAABD修飾を行っているので、フリーのSH基に還元されたCys残基は全てDAABD修飾されているからである。ただし、目的や分析方法によって必要な場合には、適宜アルキル化処理を行うものとする。アルキル化処理の方法としては、上記混合液に更に1μLのIAA(ヨードアセトアミド)(100mM)を加えて混合し、これを37℃で30分間加温する。
【0040】
(4) トリプシン消化
(3)において37℃に加温した混合液に225μLの50mM NH4CO3水溶液を加え、混合して混合試料液300μLを得た後、トリプシン消化を行った。トリプシン消化は、トリプシンカラム(MonoSpin(登録商標)Trypsinカラム(ジーエルサイエンス株式会社製))を用いた。具体的には、まず、トリプシンカラムを50mM NH4CO3水溶液で平衡化し、そこに上記混合試料液をゆっくり2回通過させてトリプシン消化した。トリプシン消化後の混合試料液をトリプシン消化試料液という。
【0041】
(5) LCMS/MS測定
上記(4)で得られたトリプシン消化試料液300μL中、3μL(ヒトアルブミン10pmol相当)をHPLC(株式会社島津製作所製、Nexera X2)に導入してLC分離した後、LCMS-IT-TOF(株式会社島津製作所製)を用いてLCMS分析及びLCMS/MS分析を行った。なお、ここでは、LCMS分析で得られたマススペクトルにおいて検出されたピークのうち強度が大きい順に3つのピークを選択してMS/MS(オート)分析を行った。
LC:島津製作所製Nexera XR
カラム:株式会社島津製作所製 XR-ODS III(ODS基修飾シリカゲル充填HPLCカラム(内径2.0mm、長さ150mm、充填材の粒径2.2μm))
カラム温度:40℃
溶出法 :移動相A: 5 mM ギ酸アンモニウム/0.1%ギ酸水溶液、移動相B: 0.1%ギ酸アセトニトリル溶液の2液によるグラジエント溶出
移動相流速:0.3mL/分
イオン化: ESI
イオン蓄積: 30 msec
Mass range: MS m/z 150 - 1,500、MS/MS m/z 50 - 2,000
【0042】
(6) データベース検索
上記(5)のMS/MS分析で得られたMS/MSスペクトルから抽出したピーク情報を、マトリクス・サイエンス社製のマスコット(Mascot)に搭載されているMS/MSイオンサーチに供することにより、マススペクトル上の各ピークに対応したペプチドを同定するとともに、MS/MSスペクトル上の各ピークに対応したフラグメントの帰属についても同定した。
【0043】
図3に、MS/MSイオンサーチの結果の一部を示す。これは、各MS/MSスペクトルのペプチド同定に関する情報を示しており、左から順に、MS/MSスペクトルデータの通し番号(Query)、プリカーサーイオンのm/z値の実験値(Observed)、プリカーサ分子の質量の実験値(Mr(expt))、プリカーサ分子の質量の理論値(Mr(calc))、プリカーサ分子の質量の実験値と理論値の差(Delta)、未切断サイト数(Miss)、イオンスコア(Score)、期待値(Expect)、スコアランク(Rank)、あるタンパク質にのみ存在する特有のペプチドであること(Unique、特有のペプチドの場合「U」と記載)、ペプチドのアミノ酸配列(Peptide)を表す。アミノ酸配列を表す記号の右側に「+DAABD(C)」と表示されているものは、そのペプチドのCys残基がDAABDで標識されていることを示す。
【0044】
図3に示す検索結果では、多くのピークについて各ペプチドが高いイオンスコア値で同定され、これらは全てヒトアルブミン(のトリプシン消化断片)に帰属することが示された。また、ヒトアルブミンに帰属することが示されたペプチドのうち20個のペプチドがDAABDで標識されており、それら20個のペプチドのうち18個のペプチドにおいて、質量電荷数比(m/z)が303.06の位置にピークが出現することが示された。DAABD-ClがCys残基に修飾した構造から化学結合の切断により生じ得る以下の構造式(2)で示されるイオン(C10H15NO3S2 +)の質量が303.06であることから、質量電荷数比(m/z)が303.06の位置に出現したピークは、DAABD-ClがCys残基に修飾した構造に由来するといえる。
【0045】
【化2】
【0046】
図4図7は、図3において四角の枠で囲んだ4種類のペプチドのMS/MSスペクトル、及びこのスペクトルから推定されたペプチドのアミノ酸配列を示している。図4は通し番号が「571」のペプチド(アミノ酸配列:C*C*TESLVNR)のMS/MSスペクトル、図5は通し番号が「589」のペプチド(アミノ酸配列:YIC*ENQDSISSK)のMS/MSスペクトル、図6は通し番号(Query)が627のペプチド(アミノ酸配列:SLHTLFGDKLC*TVATLR)のMS/MSスペクトル、図7は通し番号(Query)が655のペプチド(アミノ酸配列:ALVLIAFAQYLQQC*PFEDHVK)のMS/MSスペクトルを示している(C*はDAABD標識Cysを示す)。図4図7から分かるように、これら4種類のペプチドのMS/MSスペクトルには、いずれも質量電荷数比(m/z)が303.06の位置にピーク(図4図7中、四角の枠で囲んだピーク)が観察され、いずれのペプチドもCys残基を含む。なお、図7に示すペプチドは、ヒトアルブミンのCys34を含むペプチドである。
以上の結果から、MS/MSスペクトル上の質量電荷数比(m/z)が303.06の位置にピークが出現するか否かは、そのMS/MSスペクトルから推定されるペプチドが、元の試料中で還元型のCys残基を含むか否かを判定する指標となる可能性が示唆された。
【0047】
なお、ヒトアルブミンの還元型のCys残基がDAABDで標識されているにもかかわらず、MS/MSスペクトルに質量電荷数比(m/z)が303.06の位置にピークが出現しないものがみられた。このようなペプチドはイオンスコアが低いか、或いは、プリカーサーイオンの質量電荷数比がイオントラップのカットオフ値に近い、或いはそれ以下で、トラップされなかったためと推測される。図8にこのようなペプチドのMS/MSイオンサーチの結果の一例を示す(図8中、破線の矩形枠で囲んだ通し番号(Query):628のペプチド)。
【0048】
2.アルブミン以外のペプチドを含む試料の実測例
グルタチオンを含む試料、及びオキシトシンを含む試料に、上述したヒトアルブミンを含む試料の実測例と同様の手順(ただし、トリプシン消化のステップを除く)でDAABD-Clを添加して、グルタチオン及びオキシトシンの各々に含まれるCys残基にDAABDを結合させた。グルタチオンはグルタミン酸、システイン、グリシンからなるトリペプチドである(Glu-Cys-Gly)。また、オキシトシンは9個のアミノ酸からなるペプチドである(Cys-Tyr-Ile-Gln-Asn-Cys-Pro-Leu-Gly)。
図9及び図10は、グルタチオンを含む試料及びオキシトシンを含む試料のLC-MS/MS分析の結果を示している。図9及び図10の上段はMSスペクトル、下段は、上段のMSスペクトルにおいて楕円で囲んだプリカーサーイオンのMS/MSスペクトルである。
【0049】
図9及び図10のMS/MSスペクトルに示すように、グルタチオン及びオキシトシンを含む試料においても、質量電荷数比(m/z)が303.06の位置にピークが観察されることが確認された。
【0050】
3.その他
図11に示すように、ヒトアルブミンを含む試料、グルタチオンを含む試料、オキシトシンを含む試料のそれぞれについて得られたMS/MSスペクトル上には、質量電荷数比(m/z)が303.06のピーク以外に、質量電荷数比(m/z)が344.08のピークが共通して出現していることが分かった。
質量が344.08となる、DAABD-ClがCys残基に修飾した構造に由来するイオンの構造を検討したところ、下記式(3)で示す構造が見出された。このことから、質量電荷数比(m/z)が303.06のピークと同様に、質量電荷数比(m/z)が344.08のピークも、DAABD-Clの構造に対応するピークとして、Cys残基が還元型であるか否かを判別する指標となる可能性が示唆された。
【0051】
【化3】
【0052】
なお、本発明は上述した実施例に限らず、適宜の変更が可能である。
例えば、SH基はCys残基が有するものに限らず、SH基を含むタンパク質又はペプチドであれば、そのSH基がフリーの状態にあるか、SS結合を形成しているか否かを判別することができる。
【0053】
タンパク質又はペプチドに含まれるCys残基のSH基と特異的に反応する標識化合物としてDAABD-Clを例に挙げて実験を行ったが、これ以外にも、例えば特許文献1、2に挙げられている、下記の一般式(4)又は(5)で表される化合物、又はその同位体化合物を用いることができる。
【化4】
なお、式(4)中、Xはハロゲン、YはO、Se又はS、Rは、-NH、-NHR′( 但し、R′はアルキル置換Nアルキル、ジアルキル置換Nアルキル又はトリアルキル置換Nアルキル)、又は-NR′′R′′′( 但し、R′′はアルキル、R′′′はアルキル置換Nアルキル、ジアルキル置換Nアルキル又はトリアルキル置換Nアルキルを示す。
【0054】
【化5】
なお、式(5)中、Xはハロゲン、YはO、Se又はSを示す。
【0055】
本発明においては、プロダクトイオンスキャン測定に代えて、Cys残基から脱離した、チオール基と標識化合物との反応により形成された官能基に由来するイオンをプロダクトイオンとしたプリカーサイオンスキャン測定を実行するようにしても良く、プロダクトイオンスキャン測定で用いたプリカーサーイオンに対して、Cys残基から脱離したチオール基と標識化合物との反応により形成された官能基に由来する複数種のイオンをプロダクトイオンとした、MRM測定を実行するようにしても良い。
【符号の説明】
【0056】
1…LC部
2…MS/MS部
3…分析制御部
31…中央制御部
32…入力部
33…表示部
34…Cys
35…プログラム
35…ペプチド構造推定用制御プログラム
4…データ処理部
41…データ収集部
42…データ記憶部
43…グラフ作成部
44…ペプチド構造推定処理部
45…データベース
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図11