(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】秘密計算システム、方法、プログラム、及び、情報処理システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/00 20230101AFI20250109BHJP
【FI】
G06Q40/00
(21)【出願番号】P 2023541181
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 JP2021029709
(87)【国際公開番号】W WO2023017597
(87)【国際公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】松田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 了
(72)【発明者】
【氏名】古川 諒
(72)【発明者】
【氏名】糸永 航
【審査官】樋口 龍弥
(56)【参考文献】
【文献】西田 祥子,各分野のスペシャリストが易しく解説! これだけは知っておきたいソリューションの今,BUSINESS COMMUNICATION,日本,株式会社ビジネスコミュニケーション社,2019年06月01日,第56巻 第6号,第10~11ページ
【文献】レ チュウ フォン,暗号技術とAIの融合による秘密計算技術 [online],日本,国立研究開発法人情報通信研究機構,2019年07月18日,p.1-30,インターネット,<URL:https://shingi.jst.go.jp/pdf/2019/2019_nict_5.pdf>,[検索日 2024.09.02]
【文献】鹿島 久嗣,連合学習 [online],日本,2021年05月06日,p.1-24,インターネット,<URL:https://hkashima.github.io/introductionFederatedLearning.pdf>,[検索日 2024.09.02]
【文献】竹之内 隆夫,「秘密計算」大解説 個人情報を保護しながら機械学習に活用できる、「秘密計算」の巧みな仕組み,日経クロステック [online],日本,2019年12月12日,インターネット,<URL:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01130/120900004/>,[検索日 2024.09.02]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得する取得手段と、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算する秘密計算手段と、
前記
複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標
と、当該指標と比較可能な、一の金融機関が保有する金融取引情報に基づく指標とを含む比較レポートを出力する出力手段と、
を備え
、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標は、前記複数の金融機関における金融商品の売上額増加率の平均を含み、前記一の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標は、前記一の金融における前記金融商品の売上額増加率を含む秘密計算システム。
【請求項2】
前記指標は、前記金融機関が特定不可能な指標である
請求項1に記載の秘密計算システム。
【請求項3】
前記指標は、前記金融取引情報が特定不可能な指標である
請求項1または2に記載の秘密計算システム。
【請求項4】
前記秘密計算手段は、
前記一の金融機関からの要求に基づいて計算を実行し、
前記出力手段は、前記要求をした前記一の金融機関に前記指標を出力する
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の秘密計算システム。
【請求項5】
前記金融取引情報は、前記金融機関の売上情報、及び、前記金融機関の顧客の顧客情報の一方又は両方を含む
請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の秘密計算システム。
【請求項6】
前記秘密計算手段は、秘密分散により秘匿化された前記金融取引情報を用いて秘密計算により計算する
請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の秘密計算システム。
【請求項7】
複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得する取得手段と、
前記複数の金融機関のうち、一の金融機関から受け付けた所定の種類の指標の要求に基づいて、前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく要求された種類の指標を秘密計算により計算する秘密計算手段と、
前記指標を出力する出力手段と、
を備える秘密計算システム。
【請求項8】
複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得する取得手段と、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算する秘密計算手段と、
前記指標の対象時期についての情報をウェブサイトまたはSNS(Social Networking Service)から抽出し、前記指標とともに出力する出力手段と、
を備える秘密計算システム。
【請求項9】
コンピュータが、
複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得し、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算し、
前記
複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標
と、当該指標と比較可能な、一の金融機関が保有する金融取引情報に基づく指標とを含む比較レポートを出力
し、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標は、前記複数の金融機関における金融商品の売上額増加率の平均を含み、前記一の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標は、前記一の金融における前記金融商品の売上額増加率を含む方法。
【請求項10】
複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得し、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算し、
前記
複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標
と、当該指標と比較可能な、一の金融機関が保有する金融取引情報に基づく指標とを含む比較レポートを出力する、ことをコンピュータに実行させ
、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標は、前記複数の金融機関における金融商品の売上額増加率の平均を含み、前記一の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標は、前記一の金融における前記金融商品の売上額増加率を含むプログラム。
【請求項11】
複数の第1のシステムと、第2のシステムとを有する情報処理システムであって、
各々の前記第1のシステムは、
金融機関が保有する金融取引情報を記憶する記憶手段と、
前記金融取引情報を秘匿化する秘匿化手段と、
前記金融取引情報を秘匿化された形式で前記第2のシステムへ送信する第1出力手段、を備え、
前記第2のシステムは、
前記複数の第1のシステムから複数の金融機関の前記金融取引情報を秘匿化した形式で取得する取得手段と、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算する秘密計算手段と、
前記
複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標
と、当該指標と比較可能な、一の金融機関が保有する金融取引情報に基づく指標とを含む比較レポートを出力する第2出力手段と、を備え
、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標は、前記複数の金融機関における金融商品の売上額増加率の平均を含み、前記一の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標は、前記一の金融における前記金融商品の売上額増加率を含む情報処理システム。
【請求項12】
前記第1のシステムは、前記第2のシステムに前記指標の出力を要求する要求手段、をさらに備え、
前記第2のシステムの出力手段は、前記指標の出力を要求した前記要求手段を備える前記第1のシステムに、該第1のシステムが送信した前記金融取引情報に基づく指標と、前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標と、を比較可能に出力する
請求項11に記載の情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、秘密計算システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、個人情報などの機微データに基づいたデータ分析が行われている。機密性の保持が求められるデータは、秘匿化された形で分析されることが望ましい。特許文献1は、データを暗号化したまま計算できる秘密計算システムを開示している。特許文献2は、各社が保有するデータの詳細を他社に開示することなく、データを活用するシステムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6795863号
【文献】特許第6803598号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金融機関は、該金融機関が保有する情報を、他の金融機関が保有する情報と比較できれば、比較結果を今後のマーケティング等に活かすことができる。しかし、一の金融機関が保有する情報を他の金融機関に渡すことは難しい。
【0005】
本開示は、複数の金融機関の金融取引の動向の把握を容易にする秘密計算システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る秘密計算システムは、複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得する取得手段と、前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算する秘密計算手段と、前記指標を出力する出力手段と、を備える。
【0007】
本開示に係る方法は、複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得し、前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算し、前記指標を出力する。
【0008】
本開示に係るプログラムは、複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得し、前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算し、前記指標を出力する、ことをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、複数の金融機関の金融取引の動向の把握が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】情報処理システム10の構成を示すブロック図である。
【
図2】秘密計算システム100の動作の例を示すフローチャートである。
【
図6】情報処理システム10の動作の例を示すフローチャートである。
【
図7】コンピュータ500のハードウェア構成の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態]
図1は、一実施形態における情報処理システム10の構成を示すブロック図である。情報処理システム10は、各金融機関が保有する金融取引情報に基づいた金融取引の動向に関する分析を行うためのシステムである。
【0012】
金融機関とは、例えば、銀行(都市銀行、ゆうちょ銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合を含む)、証券会社又は保険会社等の金融商品を扱っている業者の他、クレジットカード会社やキャッシュレス決済を扱う決済事業者を含む。また、一実施形態における金融機関として、自動車や家電製品のリース業やレンタル業を行っている物品賃貸業者も含まれる。金融商品としては、例えば、預金、債券、投資信託、外貨、保険、株式、先物取引、FX又は仮想通貨等が含まれる。
【0013】
金融取引情報は、金融機関が行う取引に関する情報である。金融取引情報は機密情報であるため、金融取引情報を複数の金融機関の間で共有することは難しい。金融取引情報は、例えば、金融機関の売上情報、及び、金融機関の顧客の顧客情報の一方または両方を含む。ただし、金融取引情報は、金融機関が行う取引に関連がある情報であればよく、上述した情報に限られない。
【0014】
金融機関の売上情報は、例えば、1つの金融機関の売上に関する情報を示す。売上情報は、例えば、金融機関が販売する金融商品の販売額もしくは販売件数、信託報酬額、手数料や利息による収益額、または、債券や株式の売買益の額を含んでもよい。売上情報は、金額や販売件数を示してもよいが、これらに限られず、金額の増加率や販売件数の増加率などを示してもよい。売上情報は、1種類の金融商品の売上を示してもよいが、これに限られない。売上情報は、2以上の種類の金融商品の売上を示してもよい。
【0015】
顧客とは、個人の顧客と法人の顧客とを含む。顧客情報は、金融機関と取引のある顧客の情報であり、例えば、顧客の数、過去の取引の状況、または、顧客属性の少なくともいずれかを含んでもよい。顧客の数は、金融機関が今までに取引を行った顧客の総数であっても、現在取引がある顧客の数であっても、将来目標とする顧客の数であってもよい。過去の取引の状況とは、例えば、過去の口座の入出金情報、過去に顧客が購入した金融商品の情報である。顧客属性とは、個人の顧客の場合、例えば、顧客の職業、性別、年齢、居住地、家族構成などの属性を含む。法人の顧客の場合、顧客属性は、事業内容、事業規模、所在地などの属性を含む。
【0016】
なお、本実施形態において、金融取引情報が、過去の取引に関する情報である場合を例に説明する。本実施形態において、過去の取引に関する情報が用いられることで、一の金融機関の実績との比較対象となる、複数の金融機関の金融取引の実績の動向を示す指標が求められる。
【0017】
ただし、金融取引情報は、過去の取引に関する情報に限られず、将来の取引の予測や目標に関する情報であってもよい。予測や目標は、金融機関の責任者などにより設定されうる。金融取引情報には、上述の情報の少なくとも一部が含まれなくてもよく、上述の情報以外の情報が含まれてもよい。
【0018】
図1を参照すると、情報処理システム10は、秘密計算システム100及び複数の金融機関システム200(200a、200b)を含む。
【0019】
秘密計算システム100は、例えば、金融分析サービスツール等を金融機関の各々に向け提供するサービス提供者によって運用される。サービス提供者は、各金融機関システム200から取得した金融機関情報に基づいて、複数の金融機関の動向を分析する金融分析サービスを提供する。
【0020】
金融機関システム200は、個々の金融機関が保有し、運用する。
図1において、金融機関システム200の数は2つであるが、これに限られない。複数の金融機関システム200は、情報処理システム10による分析に参加する金融機関の数だけ含まれてもよい。
【0021】
<金融機関システム200>
金融機関システム200は、第1のシステムの一例である。金融機関システム200のそれぞれは、記憶部201(201a、201b)、秘匿化部202(202a、202b)、及び、出力部203(203a、203b)を備える。金融機関システム200は、さらに、要求部204(204a、204b)を備えてもよい。記憶部201、秘匿化部202、出力部203、及び、要求部204は、それぞれ記憶手段、秘匿化手段、第1出力手段、要求手段の一例である。
【0022】
記憶部201は、金融取引情報を格納する。秘匿化部202は、記憶部201に記憶された金融取引情報を秘匿化する。秘匿化部202は、記憶された生データである金融取引情報を分析し、新たな金融取引情報を生成してもよい。秘匿化部202は、分析により新たに得られた金融取引情報を秘匿化してもよい。出力部203は、通信ネットワークを介して、秘匿化部202によって秘匿化された金融取引情報を秘匿化された形式で、秘密計算システム100に送信する。
【0023】
要求部204は、秘密計算による計算の結果の送信を秘密計算システム100に要求する。さらに、要求部204は、秘密計算システム100から計算結果を受信する。受信した計算結果は、例えば、任意のディスプレイに表示される。
【0024】
<秘密計算システム100>
次に、本実施形態の基本構成である秘密計算システム100について詳しく説明する。秘密計算システム100は、第2のシステムの一例である。秘密計算システム100は、取得部101、秘密計算部102、及び、出力部103を備える。取得部101、秘密計算部102、及び、出力部103は、それぞれ取得手段、秘密計算手段、及び、出力手段(または第2出力手段)の一例である。
【0025】
取得部101は、複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得する。取得部101は、例えば、複数の金融機関システム200のそれぞれが備える出力部203から金融取引情報を取得してもよい。
【0026】
秘密計算部102は、複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算する。秘密計算とは、データを秘匿化したまま行われる計算である。ここでの秘密計算は、具体的には、金融取引情報を秘匿化したまま計算を実行することである。金融取引情報を秘匿化したまま計算が行われるから、各金融機関は、保有する金融取引情報を、分析のために提供できるようになる。秘密計算の例と、指標の例については後述する。
【0027】
秘密計算部102は、例えば、金融機関が特定不可能な指標を計算する。金融機関が特定不可能とは、指標の計算に関係した複数の金融機関のうちの特定の金融機関に関する、個々の金融取引情報または個々の金融取引情報に基づいて得られる値が判別できないことを含む。指標から金融機関が特定不可能であり、元の金融取引情報が特定不可能であるから、各金融機関は、他の金融機関に元の情報を開示することなく、指標を利用できる。
【0028】
出力部103は、秘密計算部102の計算結果である指標を出力する。出力部103は、例えば、金融機関システム200に指標を出力する。より具体的には、出力部103は、例えば、金融機関システム200の要求部204に指標を出力する。
【0029】
秘密計算部102は、金融機関システム200の要求部204からの要求に基づいて、計算を実行してもよい。また、出力部103は、要求部204からの要求に基づいて、指標を出力してもよい。
【0030】
図2は、一実施形態に係る秘密計算システム100の動作の例を示すフローチャートである。まず、取得部101は、複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得する(ステップS101)。
【0031】
秘密計算部102は、取得部101が取得した金融取引情報を秘匿化したまま秘密計算を実行する(ステップS102)。秘密計算部102は、秘密計算の結果、複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標を得る(ステップS103)。
【0032】
(秘密計算の例)
秘密計算方法としては、準同型暗号等の特定の処理に対応した特殊な暗号化、ハードウェア上で隔離された状態で処理する高信頼実行環境(Trusted Execution Environment)、又は複数のサーバで秘密分散したまま計算処理(秘密分散計算)するマルチパーティ計算等を用いることができる。秘密計算部102は、例えば、秘密分散により秘匿化された金融取引情報を用いて秘密計算により計算してもよい。
【0033】
マルチパーティ計算の秘密計算の具体的方法としては、次の例が挙げられる。例えば、秘匿化データaが分散値x,y,…に秘密分散され、x,y,…はそれぞれサーバに送信される。次いで秘匿化データaが秘密分散されたままの状態で各サーバが互いに通信を行いつつ計算を進める。最後に各サーバの計算結果である出力の分散値u,v,…を集め、復元処理を行うことで、計算結果のF(a)が得られる。この計算結果が複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標となる。このため、秘密計算方法としてマルチパーティ計算を用いる場合、秘密計算部102は、複数のサーバにより実現される。マルチパーティ計算によれば、暗号鍵の管理や隔離された環境が不要であり、一般に計算処理がより速い。
【0034】
(指標の例)
秘密計算部102が計算する、複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標とは、複数の金融機関の金融取引の動向を示す指標である。複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標は、金融機関が特定不可能であり、金融取引情報が特定不可能な指標である。指標は、金融取引情報を統合した情報、または、金融取引情報を統計的に処理した値であってもよい。指標は、複数の金融機関の中での一の金融機関の位置づけが把握できる指標であってもよい。複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標は、金融機関の担当者にとって、担当者が所属する金融機関の状況との比較対象となる。
【0035】
金融取引情報が各金融機関の金融商品の売上情報を含む場合の例を挙げる。秘密計算部102は、例えば、所定の期間の金融商品の売上について、複数の金融機関の売上額の合計あるいは平均を、指標として計算してもよい。また、秘密計算部102が計算する指標は、各金融機関の売上額の増加率の平均などであってもよい。
【0036】
また、指標は、金融機関ごとの全取引額に占める金融商品ごとの取引額の比率を複数の金融機関で平均した指標であってもよい。
【0037】
金融取引情報が、預金額と投資信託の販売額など、複数の金融商品の取引額を含む場合、指標は、金融商品の種類ごとに計算されてもよい。投資信託、外貨、保険の大分類が、さらに種類によって小分類に分けられる場合、指標は大分類ごとに計算されても、小分類ごとに計算されてもよい。
【0038】
図3は指標の例を示す図である。
図3の指標は、3つの金融機関の金融取引情報から計算される。この指標は、投資信託などのある種類の金融商品Xの取引額の先月比増加率について、金融機関A、B、Cの3つの金融機関の増加率の平均が5%であることを示す。増加率5%という指標からは、各金融機関は特定されない。また、元の金融取引情報も特定されない。
【0039】
金融取引情報が顧客情報を含む場合の例を挙げる。秘密計算部102は、顧客の数を含む顧客情報に基づいて、複数の金融機関の顧客の数の合計あるいは平均を指標として計算してもよい。また、秘密計算部102が計算する指標は、各金融機関の顧客数の増加率の平均などであってもよい。
【0040】
また、金融取引情報が顧客属性を含む場合、指標は、金融機関ごとの顧客の属性の割合を金融機関で平均した指標であってもよい。金融取引情報が過去の取引の状況と顧客属性の両方を含む場合、指標は、金融機関ごとの、所定の金融商品を購入した顧客の属性の割合を平均した指標であってもよい。具体的には、例えば、秘密計算部102は、投資信託の購入者のうち、40歳から49歳の範囲の顧客の割合を、各金融機関が保有する金融取引情報に基づいて求める。秘密計算部102は、それぞれの金融機関について求められた割合の平均を指標として計算してもよい。秘密計算部102は他の年齢層の割合についても同様に、指標を計算してもよい。秘密計算部102は年齢層の代わりに、例えば、年収階級に基づいて、指標を計算してもよい。
【0041】
秘密計算部102は、指標の計算に用いられる金融取引情報は、上記例における金融商品の販売額や顧客属性には限られず、他の金融取引情報が用いられてもよい。秘密計算部102は、様々な金融取引情報に基づいて、様々な指標を計算し得る。秘密計算部102が計算する指標は、1つであってもよいが、1つには限られない。秘密計算部102は、複数の指標を計算してもよい。
【0042】
金融機関システム200の要求部204は、金融機関の担当者から、どのような指標を要求するかの入力を受け付けてもよい。要求部204は、受け付けた種類の指標の計算を秘密計算部102に要求してもよい。このとき、秘密計算部102は要求に基づいて、要求された種類の指標を計算する。
【0043】
出力部103は、秘密計算部102が計算した指標を出力する(ステップS104)。
【0044】
(出力の例)
出力部103が出力する指標は1つであってもよいが、1つには限られない。出力部103は、秘密計算部102が計算した複数の指標を出力してもよい。出力部103は指標を数値として出力してもよい。あるいは、出力部103は、指標をテーブルまたは任意のグラフの形式で出力してもよい。グラフには、例えば、円グラフ、帯グラフ、棒グラフ、折れ線グラフが含まれる。
【0045】
金融機関の担当者は、出力された指標を見て、所属する金融機関の状況との比較を行う。比較結果を用いて、例えば、今後のマーケティング方針や、金融機関の経営戦略が決定される。
【0046】
出力部103は、指標とともに、指標に関連する情報をウェブサイトやSNS(Social Networking Service)から抽出して、出力してもよい。指標に関連する情報は、例えば、指標が示す時期についての情報である。出力部103は、例えば、相場などの景気動向、金融機関のプレスリリース、投資信託と関連する企業のプレスリリース、金融機関の人事発表、または、実施されたキャンペーンや広告のニュースを指標とともに出力してもよい。
【0047】
一実施形態によれば、取得部101が、複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得する。秘密計算部102が、複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算する。出力部103が、計算された指標を出力する。したがって、複数の金融機関の金融取引の動向の把握が容易になる。
【0048】
[変形例]
<比較レポートの出力>
一実施形態において、出力部103は、さらに、一の金融機関の金融取引情報に基づく指標を出力してもよい。一の金融機関の金融取引情報に基づく指標は、秘密計算部102が計算した複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標と、比較可能な指標であってもよい。ここで、複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標の計算には、対比される一の金融機関の金融取引情報が用いられてもよいし、用いられなくてもよい。秘密計算部102は、一の金融機関の要求部204からの要求に基づいて計算を実行しうる。出力部103は、計算を要求した一の金融機関と、複数の金融機関との指標を該一の金融機関に出力してもよい。
【0049】
一の金融機関の金融取引情報に基づく指標と、複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標と、を含む出力の例を以下、比較レポートと呼ぶ。
【0050】
秘密計算部102は、複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標とともに、一の金融機関の金融取引情報に基づく指標を計算してもよい。以下の説明において、秘密計算部102が比較レポートを生成する場合について説明する。ただし、比較レポートは、図示しないレポート生成部など、秘密計算システム100の他の要素によって生成されてもよい。比較レポートの生成には、秘密計算は用いられなくてもよい。
【0051】
出力部103は、1つの種類の指標についての比較レポートを出力してもよいが、出力するレポートはこれには限られない。出力部103は、複数の種類の指標についての比較レポートを出力してもよい。
【0052】
図4は、比較レポートの例を示す図である。
図4は、金融機関Aの指標と金融機関A、B、Cに関する指標とを比較可能に示す。金融機関Aの指標は、取引額の先月比増加率が8%であることを示す。金融機関A、B、Cに関する指標は、
図3に示した指標と同様である。
【0053】
図5は、比較レポートの他の例を示す図である。図
5は、金融商品Xの購入者の年代の割合について、金融機関Aの割合と、分析に参加する全ての金融機関の割合の平均とを示す。金融機関
Aについての割合は、一の金融機関の金融取引情報に基づく指標の一例である。全ての金融機関についての割合の平均は、複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標の一例である。
【0054】
秘密計算システム100が比較レポートを出力する場合の情報処理システム10の動作は、秘密計算システム100が指標を出力する場合の動作を含む。
図6は、比較レポートを出力する場合の情報処理システム10の動作の例を示すフローチャートである。
【0055】
各々の金融機関システム200の秘匿化部202は、金融取引情報を秘匿化する(ステップS201)。また、各々の金融機関システム200の出力部203は、秘匿化された金融取引情報を秘密計算システム100に出力する(ステップS202)。
【0056】
秘密計算システム100の取得部101は、複数の金融機関システム200から送信された、秘匿化された金融取引情報を取得する(ステップS203)。
【0057】
少なくとも1つの金融機関システム200の要求部204は、比較レポートの出力を要求する(ステップS204)。秘密計算部102は、要求に基づいて、秘密計算を実行して、比較レポートを生成する(ステップS205)。具体的には、秘密計算部102は、複数の金融機関の金融取引情報に基づく指標とともに、一の金融機関の金融取引情報に基づく指標を計算する。さらに、秘密計算部102は、指標を比較可能な比較レポートを生成する。
【0058】
出力部103は、生成された比較レポートを金融機関システム200に出力する(ステップS206)。要求部204は、秘密計算システム100から比較レポートを取得する(ステップS207)。取得された比較レポートは、例えば金融機関の担当者が使用するパーソナルコンピュータやタブレットなどディスプレイに表示され、金融機関の担当者に提示される。
【0059】
なお、金融機関の各々は、通常、保有する金融取引情報に基づく指標を自身で計算することが可能である。したがって、秘密計算部102は、一の金融機関の金融取引情報に基づく指標の計算をしなくてもよい。この場合、金融機関システム200の出力部203は、金融取引情報とともに、一の金融機関の指標を送信してもよい。あるいは、要求部204は、比較レポートの要求とともに、一の金融機関の指標を送信してもよい。このとき、一の金融機関の指標は、記憶部201に予め記憶されてもよく、秘匿化部202または金融機関システム200の他の要素によって計算されてもよい。また、一の金融機関の指標は秘匿化部202によって秘匿化されてもよく、秘匿化されなくてもよい。取得部101は、金融機関システム200から一の金融機関の金融取引情報に基づく指標を取得してもよい。出力部103は、計算された指標と、取得した指標とを用いて、上記比較レポートを出力してもよい。
【0060】
<金融機関の組み合わせ>
一実施形態において、複数の金融機関は、同じ業種体の金融機関に限られず、銀行、証券会社又は保険会社といった、銀行と銀行以外の金融機関とで構成されていても構わない。複数の金融機関が銀行同士で構成されている場合であっても、都市銀行と地方銀行等の規模の異なる銀行の同士で構成されていても構わない。
【0061】
[ハードウェア構成]
上述した各実施形態において、秘密計算システム100及び金融機関システム200の各構成要素は、機能単位のブロックを示している。各装置の各構成要素の一部又は全部は、コンピュータ500とプログラムとの任意の組み合わせにより実現されてもよい。
【0062】
図7、コンピュータ500のハードウェア構成の例を示すブロック図である。
図7を参照すると、コンピュータ500は、例えば、CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、RAM(Random Access Memory)503、プログラム504、記憶装置505、ドライブ装置507、通信インタフェース508、入力装置509、入出力インタフェース511、及び、バス512を含む。
【0063】
プログラム504は、各装置の各機能を実現するための命令(instruction)を含む。プログラム504は、予め、ROM502やRAM503、記憶装置505に格納される。CPU501は、プログラム504に含まれる命令を実行することにより、各装置の各機能を実現する。例えば、秘密計算システム100のCPU501がプログラム504に含まれる命令を実行することにより、秘密計算システム100の機能を実現する。また、RAM503は、各装置の各機能において処理されるデータを記憶してもよい。
【0064】
ドライブ装置507は、記録媒体506の読み書きを行う。通信インタフェース508は、通信ネットワークとのインタフェースを提供する。入力装置509は、例えば、マウスやキーボード等であり、金融機関の担当者からの情報の入力を受け付ける。出力装置510は、例えば、ディスプレイであり、担当者等へ情報を出力(表示)する。入出力インタフェース511は、周辺機器とのインタフェースを提供する。バス512は、これらハードウェアの各構成要素を接続する。なお、プログラム504は、通信ネットワークを介してCPU501に供給されてもよいし、予め、記録媒体506に格納され、ドライブ装置507により読み出され、CPU501に供給されてもよい。
【0065】
なお、
図7に示されているハードウェア構成は例示であり、これら以外の構成要素が追加されていてもよく、一部の構成要素を含まなくてもよい。
【0066】
各装置の実現方法には、様々な変形例がある。例えば、各装置は、構成要素毎にそれぞれ異なるコンピュータとプログラムとの任意の組み合わせにより実現されてもよい。また、各装置が備える複数の構成要素が、一つのコンピュータとプログラムとの任意の組み合わせにより実現されてもよい。
【0067】
また、各装置の各構成要素の一部又は全部は、プロセッサ等を含む汎用又は専用の回路(circuitry)や、これらの組み合わせによって実現されてもよい。これらの回路は、単一のチップによって構成されてもよいし、バスを介して接続される複数のチップによって構成されてもよい。各装置の各構成要素の一部又は全部は、上述した回路等とプログラムとの組み合わせによって実現されてもよい。
【0068】
また、各装置の各構成要素の一部又は全部が複数のコンピュータや回路等により実現される場合、複数のコンピュータや回路等は、集中配置されてもよいし、分散配置されてもよい。
【0069】
以上、実施形態を参照して本開示を説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。本開示の構成や詳細には、本開示のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、各実施形態における構成は、本開示のスコープを逸脱しない限りにおいて、互いに組み合わせることが可能である。
【0070】
例えば、複数の動作をフローチャートの形式で順番に記載してあるが、その記載の順番は複数の動作を実行する順番を限定するものではない。このため、各実施形態を実施するときには、その複数の動作の順番は内容的に支障しない範囲で変更することができる。
【0071】
上記実施形態の一部または全部は、以下の付記のように記載され得るが、以下には限られない。
【0072】
[付記1]
複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得する取得手段と、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算する秘密計算手段と、
前記指標を出力する出力手段と、
を備える秘密計算システム。
【0073】
[付記2]
前記指標は、前記金融機関が特定不可能な指標である
付記1に記載の秘密計算システム。
【0074】
[付記3]
前記指標は、前記金融取引情報が特定不可能な指標である
付記1または2に記載の秘密計算システム。
【0075】
[付記4]
前記秘密計算手段は、一の金融機関からの要求に基づいて計算を実行し、
前記出力手段は、前記要求をした前記一の金融機関に前記指標を出力する
付記1乃至3のいずれか1つに記載の秘密計算システム。
【0076】
[付記5]
前記出力手段は、前記複数の金融機関の金融取引情報に基づく前記指標と比較可能な、一の金融機関の金融取引情報に基づく指標を出力する
付記1乃至4のいずれか1つに記載の秘密計算システム。
【0077】
[付記6]
前記出力手段は、前記複数の金融機関の金融取引情報に基づく前記指標と、前記一の金融機関の金融取引情報に基づく前記指標とを含む比較レポートを出力する
付記5に記載の秘密計算システム。
【0078】
[付記7]
前記金融取引情報は、前記金融機関の売上情報、及び、前記金融機関の顧客の顧客情報の一方又は両方を含む
付記1乃至6のいずれか1つに記載の秘密計算システム。
【0079】
[付記8]
前記秘密計算手段は、秘密分散により秘匿化された前記金融取引情報を用いて秘密計算により計算する
付記1乃至7のいずれか1つに記載の秘密計算システム。
【0080】
[付記9]
複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得し、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算し、
前記指標を出力する、
方法。
【0081】
[付記10]
複数の金融機関の各々が保有する金融取引情報を秘匿化した形式で取得し、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算し、
前記指標を出力する、ことをコンピュータに実行させるプログラムを非一時的に記録する記録媒体。
【0082】
[付記11]
複数の第1のシステムと、第2のシステムとを有する情報処理システムであって、
各々の前記第1のシステムは、
金融機関が保有する金融取引情報を記憶する記憶手段と、
前記金融取引情報を秘匿化する秘匿化手段と、
前記金融取引情報を秘匿化された形式で前記第2のシステムへ送信する第1出力手段、を備え、
前記第2のシステムは、
前記複数の第1のシステムから複数の金融機関の前記金融取引情報を秘匿化した形式で取得する取得手段と、
前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標を秘密計算により計算する秘密計算手段と、
前記指標を出力する第2出力手段と、を備える
情報処理システム。
【0083】
[付記12]
前記第1のシステムは、前記第2のシステムに前記指標の出力を要求する要求手段、をさらに備え、
前記第2のシステムの出力手段は、前記指標の出力を要求した前記要求手段を備える前記第1のシステムに、該第1のシステムが送信した前記金融取引情報に基づく指標と、前記複数の金融機関の前記金融取引情報に基づく指標と、を比較可能に出力する
付記11に記載の情報処理システム。
【符号の説明】
【0084】
100 秘密計算システム
101 取得部
102 秘密計算部
103 出力部
200 金融機関システム
201 記憶部
202 秘匿化部
203 出力部
204 要求部