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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
   B66B 31/00 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B66B31/00 C
B66B31/00 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024024149
(22)【出願日】2024-02-20
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100199761
【弁理士】
【氏名又は名称】福屋 好泰
(74)【代理人】
【識別番号】100182121
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 紘子
(72)【発明者】
【氏名】谷口 友宏
(72)【発明者】
【氏名】濱口 萌子
(72)【発明者】
【氏名】水戸 陵人
(72)【発明者】
【氏名】立岡 利茂弥
(72)【発明者】
【氏名】山田 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】成田 岳人
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-188236(JP,A)
【文献】特開2016-216174(JP,A)
【文献】特開2012-236660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り場から降り場に至る乗客通路に沿って乗客を搬送する複数の踏段からなる無端搬送体を備える乗客コンベアであって、
前記乗客通路に配置され乗客の通過を検知する第1通過検知部と、
前記第1通過検知部の下流側に前記第1通過検知部との間の距離が所定距離となるように設けられ乗客の通過を検知する第2通過検知部と、
前記第1通過検知部が乗客の通過を検知してから前記第2通過検知部が乗客の通過を検知するまでの所要時間が予め設定された時間よりも短い場合に乗客が前記無端搬送体を構成する前記複数の踏段の上を歩いて移動していると判定する歩行者有り判定を行う利用状況判定部とを備え
前記利用状況判定部は、前記第1通過検知部が乗客の通過を検知したタイミングから経過時間を各々計測するとともに、前記第2通過検知部が乗客の通過を検知したときに計測している前記経過時間のうち予め設定された制限時間以内であり且つ最も長い時間のものを用いて前記所要時間を算出する、
乗客コンベア。
【請求項2】
前記予め設定された時間は、前記無端搬送体上に静止した状態の乗客が前記無端搬送体により前記所定距離だけ搬送される場合に要する時間長さに基づいて設定される、
請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記複数の踏段は、前記乗客通路の幅方向に複数の乗客が並んだ状態で乗り込み可能に構成され、
前記第1通過検知部および前記第2通過検知部は、前記乗客通路の幅方向における一端側および他端側を通過する乗客を各々検知可能に設けられており、
前記利用状況判定部は前記一端側および前記他端側を通過する乗客の利用状況に応じて予め設定された音声案内を行う機能を有する、
請求項1に記載の乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の踏段を連結して構成された無端搬送体を用いて乗り場から降り場に向かって乗客を搬送する乗客コンベアにおいて、転倒防止等の観点から乗客は踏段上に静止した状態で利用することが推奨されている。
【0003】
しかしながら、乗客コンベアを利用する乗客の中には、乗り場から踏段に乗り込んだ乗客が降り場に向かうまでの間に各踏段の上を歩いて降り場に向かおうとする乗客も存在する。そのため、乗客コンベアの中には、利用中の乗客が踏段上を歩いて移動していないかどうか判別可能なものも存在する。
【0004】
例えば、特許文献1には、乗客コンベアの構成では、乗客検出用センサが乗客を検知しているON状態となるときの矩形波の長さがΔP以内であることを条件に乗客が歩行していると判定する機能を有する乗客コンベアについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-216174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の乗客コンベアでは、例えば、乗客が傘を持った状態で踏段の上に静止している場合など細長い物体を持った状態で乗客コンベアを利用する場合には細長い物体が乗客検知用センサによって検知されると乗客が踏段上を歩行していると判定される(以下、「歩行有り判定」と適宜表記する)場合が発生し得る。このため、乗客の歩行有り判定を精度よく行うことができないという問題がある。
【0007】
本発明は、乗客が踏段上を歩行しているか否かを精度よく判定可能な乗客コンベアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る乗客コンベアは、乗り場から降り場に至る乗客通路に沿って乗客を搬送する複数の踏段からなる無端搬送体を備える乗客コンベアであって、乗客通路に配置され乗客の通過を検知する第1通過検知部と、第1通過検知部の下流側に第1通過検知部との間の距離が所定距離となるように設けられ乗客の通過を検知する第2通過検知部と、第1通過検知部が乗客の通過を検知してから第2通過検知部が乗客の通過を検知するまでの所要時間が予め設定された時間よりも短い場合に乗客が無端搬送体を構成する複数の踏段の上を歩いて移動していると判定する歩行者有り判定を行う利用状況判定部とを備え、利用状況判定部は、第1通過検知部が乗客の通過を検知したタイミングから経過時間を各々計測するとともに、第2通過検知部が乗客の通過を検知したときに計測している経過時間のうち予め設定された制限時間以内であり且つ最も長い時間のものを用いて所要時間を算出するものである。
【0009】
本発明に係る乗客コンベアにおいて、予め設定された時間は、無端搬送体上に静止した状態の乗客が無端搬送体により所定距離だけ搬送される場合に要する時間長さに基づいて設定されてもよい。
【0010】
本発明に係る乗客コンベアにおいて、複数の踏段は、乗客通路の幅方向に複数の乗客が並んだ状態で乗り込み可能に構成され、第1通過検知部および第2通過検知部は、乗客通路の幅方向における一端側および他端側を通過する乗客を各々検知可能に構成されており、利用状況判定部は一端側および他端側を通過する乗客の利用状況に応じて予め設定された音声案内を行う機能を有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る乗客コンベアによれば、第1通過検知部で乗客が検知されてから下流側の第2通過検知部で乗客が検知されるまでの間に要する時間長さが予め設定された時間より短い場合に踏段上を乗客が歩いていると判定することができる。これにより、踏段上を歩いて移動する乗客の有無を精度よく判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態であるエスカレータの構成を模式的に示す図である。
図2図2は、乗り場側から見たときのエスカレータの構成を示す図である。
図3図3は、図1に示すエスカレータに含まれる制御装置を中心とした機能ブロック図である。
図4図4(a)は通常運転モード実行中に踏段上に静止した状態で乗客通路を移動する乗客を上流側の右側検知部が検知したときの状態を示すタイミングチャートであり、図4(b)は図4(a)に示す右側検知部によって検知された乗客が下流側の左側検知部によって検知したときの状態を示すタイミングチャートである。
図5図5(a)は、通常運転モード実行中の予め設定された時間内に乗客の通過を2回検知した場合のタイミングチャートを示す図であり、図5(b)は通常運転モード実行中の予め設定された時間内に乗客の通過を3回検知した場合のタイミングチャートを示す図である。
図6図6は、歩行有無判定における制御処理のフローチャートを示す図である。
図7図7は、判定更新処理における制御処理のフローチャートを示す図である。
図8図8は、案内制御のフローチャートを示す図である。
図9図9は、変形例に係る案内制御のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一実施形態であるエスカレータ(乗客コンベア)10の構成を模式的に示す図である。図1に示すように、エスカレータ10は、下階側の乗り場12から上階側の降り場14に至る乗客通路SWを含み、乗り場12から降り場14に向かって乗客を搬送する機能を有する無端搬送体20と、無端搬送体20の運転を制御する制御装置50とを備える。また、乗客通路SWには無端搬送体20によって乗り場12から降り場14に向かって移動する乗客(物体)の通過を検知する右側検知部44A,44B(図2参照)および左側検知部42A,42B(図2参照)が設けられている。
【0015】
右側検知部44A,44Bは乗客通路SWにおける右側半分の領域(以下、「右側部分」と適宜表記する。)を通過する乗客の有無を検知する役割を有し、左側検知部42A,42Bは乗客通路SWにおける左側半分の領域(以下、「左側部分」と適宜表記する。)を通過する乗客の有無を検知する役割を有する。右側検知部44Aおよび左側検知部42Aは第1通過検知部に相当し、右側検知部44Bおよび左側検知部42Bは第2通過検知部に相当する。制御装置50は、各検知部42A,42B,44A,44Bの検知状況に基づいて利用状況に応じた各音声案内を行う機能を有する(後段にて詳述する)。
【0016】
図1に示すように、無端搬送体20は、踏段チェーン21を介して複数の踏段22A,22B,22C,…(以下、特に区別する必要がない場合には適宜「踏段22」と表記)を無端状に連結して構成される。踏段22の左右方向、換言すると幅方向の長さは乗客が2人並んで立つことが可能な長さに設定されており、一例として1000mmの長さに設定されている。
【0017】
本実施形態では、踏段22は乗客2人が幅方向に並んで立つことができる大きさとする例を挙げているが、踏段22は乗客1人だけが立つことができる比較的小さなサイズの踏段であってもよい。この場合には、左側検知部42A,42Bまたは右側検知部44A,44Bのうち左右いずれか一方の検知部のみ設ければよい。
【0018】
また、降り場14の直下方に設けられた上階側機械室14Mには回転自在に支持された踏段スプロケット14Pが設けられる。一方、乗り場12の直下方に設けられた下階側機械室12Mには回転自在に支持された踏段スプロケット12Pが設けられている。両踏段スプロケット12P,14Pには、上述した無端搬送体20の一部を構成する踏段チェーン21が各々巻き掛けられており、踏段チェーン21が後述する従動スプロケット14Qを介して回転駆動されるのに伴い踏段22が乗客通路SWを乗り場12から降り場14に向かって、すなわち、搬送方向αに沿って循環移動するように構成される。
【0019】
上階側機械室14Mには、電動機24が設置されており、電動機24の駆動力は減速機(不図示)を介して出力軸(不図示)に伝達され、出力軸を介して駆動スプロケット24Pが回転駆動される。駆動スプロケット24Pの回転動力は、ローラーチェーン24Cを介して従動スプロケット14Qに伝達される。従動スプロケット14Qは踏段スプロケット14Pとともにシャフト14Xに取り付けられており、従動スプロケット14Qを回転させることにより踏段スプロケット14Pも連動して回転させることとなる。
【0020】
これにより、上述した踏段チェーン21がガイドレール(不図示)に沿って周回走行し、これに伴い踏段チェーン21に無端状に各々連結された複数の踏段22が循環走行する。
【0021】
図2は、乗り場12側から見たときのエスカレータ10の構成を示す図である。図2に示すように、乗客通路SWに沿って欄干部31,32が各々設けられている。欄干部31および欄干部32は、乗客通路SWを挟んで対称形をなしており、同様の構成部材からなる。以下の説明では、欄干部31について主に説明を行うとともに欄干部32については適宜説明を省略する。
【0022】
図1および図2に示すように、欄干部31は、乗客通路SWに沿って立設する欄干パネル33と、欄干パネル33を支持する支持部34とを含む。この欄干パネル33は、例えば、複数の板ガラスを列状に並べて構成され透光性を有する。欄干パネル33の外周に沿って移動手摺35が取り付けられている。
【0023】
図2に示すように、支持部34には、乗客通路SW側の側面を覆うようにスカートガード34Aが取り付けられている。同様に、欄干部32の支持部36にも踏段22側の側面を覆うようにスカートガード36Aが取り付けられている。
【0024】
また、図1に示すように支持部34における乗り場12側端部および降り場14側端部にはスピーカSP1,SP2(以下、特に区別する必要が無い場合には適宜スピーカ「SP」と表記)が各々内蔵されている。各スピーカSPは、音声案内などを放送する役割を有する。
【0025】
左側検知部42A,42Bおよび右側検知部44A,44Bは、無端搬送体20を間に挟んで互いに対向するように上階側と下階側に各々配置されている。ここで、各検知部42A,42B,44A,44Bは同一の構成を備えるため、主に、右側検知部44Aを例に挙げて説明を行うとともに右側検知部44Bおよび左側検知部42A,42Bについては適宜説明を省略する。
【0026】
図2に示すように、右側検知部44Aはスカートガード34Aの乗り場12寄りの位置に取り付けられており、一例として反射型光電センサなどにより構成される。右側検知部44Aは、図2に破線で示す検知領域AP、すなわち、乗客通路SWの幅方向における右側半分に相当する空間領域に照射した光が物体に遮られることにより生じる反射光を受光することにより物体の通過を検知する機能を有する。
【0027】
図3は、図1に示すエスカレータ10に含まれる制御装置50を中心とした機能ブロック図である。制御装置50は、上階側機械室14M(図1参照)に配置されエスカレータ10の運転を統括的に制御する機能を有する。より具体的には、図3に示すように、制御装置50は、各種制御プロブラムが記憶されたROM、RAM、およびHDDなどからなる記憶部58やCPUなどの演算処理装置(不図示)を備える。
【0028】
そして、制御装置50は、演算処理装置が記憶部58から上記制御プログラムを読み出して演算処理を行うことにより電動機24の駆動を制御する運転制御部52や、上記各検知部42A,42B,44A,44Bの検知結果に基づいて利用状況を判定する利用状況判定部56、スピーカSPを介して音声案内を行う案内制御部54として機能する。運転制御部52は、電動機24の駆動を制御することにより所定の速度V(一例として、分速30m)で乗客通路SW内を搬送方向α(図1参照)に踏段22が移動するように無端搬送体20を循環移動させる通常運転モードを有する。
【0029】
図3に示す利用状況判定部56は、左側検知部42A,42Bにおける物体の検知状況に基づいて乗客通路SWの左側部分における乗客の歩行有無および混雑具合を判定する。同様に、利用状況判定部56は、右側検知部44A,44Bにおける物体の検知状況に基づいて乗客通路SWの右側部分における乗客の歩行有無よび混雑具合を判定する。
【0030】
ここで、利用状況判定部56による乗客通路SWの右側部分および左側部分における乗客の歩行有無および混雑具合の判定方法はほぼ同一である。このため、以下の説明では主に乗客通路SWの右側部分、すなわち、右側検知部44A,44Bを用いた乗客の歩行有無および混雑具合の判定方法について説明を行うとともに、乗客通路SWの左側部分、すなわち、左側検知部42A,42Bを用いた乗客の歩行有無および混雑具合の判定方法については適宜説明を省略する。
【0031】
図4(a)は通常運転モード実行中に踏段22上に静止した状態で乗客通路SWを移動する乗客P1を上流側の右側検知部44Aが検知したときの状態を示すタイミングチャートであり、図4(b)は図4(a)に示す右側検知部44Aによって検知された乗客P1が下流側の右側検知部44Bによって再び検知されたときの状態を示すタイミングチャートである。
【0032】
図4(a)および図4(b)に示すように、利用状況判定部56は、上流側の右側検知部44Aで乗客P1が検知されるタイミングTAから下流側の右側検知部44Bで乗客P1が再び検知されるタイミングTBまでの経過(所要)時間TXが以下の式(1)の関係を満たす場合には乗客が踏段22上に静止した状態で降り場14に向かって移動しているものと判定する(以下、「非歩行」判定と適宜呼称する)。以下に示す式(1)において、TXminは最小時間とし、TXmaxは最大時間とする。
【0033】
TXmin≦TX≦TXmax・・・・(1)
ここで、最小時間TXminは、無端搬送体20の搬送速度で両検知部間44A,44Bの距離DS(図2参照)を踏段22上に静止した状態の乗客が移動するのに要する時間、換言すると、距離(所定距離)DSを所定の速度Vで移動するのに要する時間よりも短い時間に設定される。
【0034】
一方、最大時間(予め設定された制限時間)TXmaxは、無端搬送体20の搬送速度で両検知部間44A,44Bの距離DS(図2参照)を踏段22上に静止した状態の乗客が移動するのに要する時間、換言すると、距離(所定距離)DSを所定の速度Vで移動するのに要する時間よりも長い時間に設定される。
【0035】
また、エスカレータ10を利用するときに前方に乗客が存在している場合は、前方の乗客が乗り込んでいる踏段22の搬送方向αにおける直流側(換言すると、直後方)に隣接する踏段22に乗り込むのではなく、上記隣接する踏段22よりも搬送方向αのさらに流側に位置する他の踏段22に乗り込む乗客が多い傾向が見られる。このため、エスカレータ10に乗り込んでいる各乗客の間には各々1つ分の踏段22に相当する間隔が形成されている場合が多い。
【0036】
そこで、最小時間TXminは1個分の踏段22が上述した検知領域APを所定の速度Vで通過するのに要する時間だけ経過時間TXより短い時間長さとし、最大時間TXmaxは1個分の踏段22が上述した検知領域APを所定の速度Vで移動するのに要する時間だけ経過時間TXより長い時間長さとなるように設定することが好ましい。上記構成により、前後の異なる乗客を誤って検知することによる誤判定を抑制しつつ複数の踏段22上を歩いて移動する乗客の有無を精度よく判定することができる。
【0037】
また、経過時間TXが最小時間TXminより短い場合は、通常運転モードの実行時における踏段22の速度Vよりも速い速度で上述した距離DSだけ乗客が移動したこととなる。このため、利用状況判定部56は、経過時間TXが最小時間TXminよりも短い場合には、乗客が複数の踏段22上を歩きつつ降り場14に向かっているものと判定する(以下、「歩行有り」判定と適宜呼称する)。
【0038】
一方、経過時間TXが最大時間TXmaxより長い場合には乗客の利用状態を判定することができないため不定と判定する(以下、「不定」判定と適宜呼称する)。このような不定判定がなされる場合としては、例えば、同一踏段22内で乗客が立っている位置を右側部分から左側部分に変更した場合などが考えられる。
【0039】
次に、図5(a)および図5(b)を用いて、利用状況判定部56における混雑具合の判定方法について説明を行う。図5(a)は、通常運転モード実行中の予め設定された時間TJ内に乗客の通過を上流側の右側検知部44Aが2回検知した場合のタイミングチャートを示す図であり、図5(b)は通常運転モード実行中の予め設定された時間TJ内に乗客の通過を上流側の右側検知部44Aが3回検知した場合のタイミングチャートを示す図である。
【0040】
図5(a)に示すように、利用状況判定部56は、乗り場12寄りの位置に配置されている右側検知部44Aを介して予め設定された時間TJ内における乗客の通過検知(すなわち、検知状態がOFF状態からON状態に切り替わるタイミングの検知)が2回以下である場合には、乗客通路SWの右側部分は混雑していないと判定する(以下、「空き」判定と適宜表記する)。一方、図5(b)に示すように、利用状況判定部56は、右側検知部44Aを介して予め設置された時間TJ内における乗客の通過検知(すなわち、検知状態がOFF状態からON状態に切り替わるタイミングの検知)が3回以上である場合には乗客通路SWの右側部分は混雑していると判定する(以下、「混雑」判定と適宜表記する)。
【0041】
なお、利用状況判定部56は、右側検知部44Aの検知状態がOFF状態からON状態に切り替わった後、一定時間内にON状態からOFF状態に切り替わらない場合にはON状態からOFF状態に切り替わったものとみなすようにしてもよい。これにより、例えば、複数の乗客の検知が何らかの要因で切れ目なく重複しON状態が継続してしまったような場合においても一定の時間が経過することにより複数の乗客を別々に検知したものとみなして取り扱うことが可能となる。
【0042】
本実施形態では、利用状況判定部56は予め設定された時間TJ内における乗客の通過検知が2回以下であることを空き判定の条件としているが、1回以下としてもよいし、3回以上としてもよい。
【0043】
本実施形態では、利用状況判定部56は予め設定された時間TJ内における乗客の通過検知が3回以上であることを混雑判定の条件としているが、2回または4回以上であることを混雑判定の条件としてもよい。
【0044】
続いて、上述した通常運転モード実行時における乗客の歩行有無状況の判定処理の流れについて図6を用いて説明する。図6は、利用状況判定部56における歩行有無状況の判定処理の流れを示すフローチャートSB1である。図6に示すように、利用状況判定部56は、上流側に位置する右側検知部44Aを介して乗客の通過を検知したとき、すなわち、右側検知部44Aの検知状態がOFF状態からON状態に変化したときに(ステップS1:YES)、経過時間の計測を開始する(ステップS2)。以下の説明において、ステップS2において開始される経過時間の計測を「タイマー」と適宜表記する。
【0045】
これにより、右側検知部44AがOFF状態からON状態に変化したタイミングからの経過時間を計測することができる。すなわち、右側検知部44Aを介して乗客が検知されるごとに経過時間の計測が開始される(換言すると、新規にタイマーが設定されるとも表現できる)こととなる。
【0046】
利用状況判定部56は、下流側に位置する右側検知部44Bを介して乗客の通過が検知されると(ステップS3:YES)、ステップS2で設定したタイマーの有無を判定する(ステップS4)。利用状況判定部56は、タイマーが存在している場合において(ステップS4:YES)、上記タイマーの中で最も計測時間の長いもの(以下、「タイマーMX」と表記する)の時間長さが最小時間TXminよりも短い場合には上述した歩行有り判定を行う(ステップS5,S6)。ここで、タイマーMXは、上述した経過時間TX(図4(b)参照)に相当する。
【0047】
また、利用状況判定部56は、タイマーMXの時間長さが最小時間TXmin以上且つ最大時間TXmax以下である場合には非歩行判定を行う(ステップS5,S7)。
【0048】
さらに、利用状況判定部56は、タイマーMXが最大時間TXmaxよりも大きい場合には不定判定を行う(ステップS5,S8)。
【0049】
次に、利用状況判定部56は、上記タイマーの中で最も経過時間が長いものであるタイマーMXを消去する(ステップS9)。そして、利用状況判定部56は、上記タイマーの中で最大時間TXmax以上の時間長さとなっているタイマー(以下、「タイマーNE」と表記する。)が存在している場合には、タイマーNEについても消去する(ステップS10)。
【0050】
また、上述したステップS3において、右側検知部44Bを介して乗客の通過が検知されていない場合(ステップS3:NO)、および、ステップS4においてタイマーが存在していない場合も(ステップS4:NO)、利用状況判定部56はタイマーNEを消去する(ステップS10)。
【0051】
さらに、利用状況判定部56は、他のタイマーが存在していなければ一連の処理を終了する(ステップS11:NO)。一方、利用状況判定部56は、他のタイマーが存在している場合にはステップS1の処理に遷移する(ステップS11:YES)。
【0052】
利用状況判定部56は、上述したフローチャートSB1のステップS6~S8における歩行有無の判定状況(すなわち、歩行有り判定、非歩行判定、不定判定)および右側検知部44Aの検知後に下流側の右側検知部44Bが乗客の通過を検知していない状態であるか否かに基づいて後述する判定更新処理を実行する。本実施形態において、上述した歩行有無判定および後述する判定更新処理は各々独立して実行される。一例として、利用状況判定部56において歩行有無判定の制御処理は常時実行され、判定更新処理については例えば1秒間隔など一定時間ごとに実行され逐次判定状態が更新される。以下、利用状況判定部56における判定更新処理について図7を用いて説明する。
【0053】
図7は、利用状況判定部56における判定更新処理の流れを示すフローチャートSB2である。図7に示すように、利用状況判定部56は、上述したフローチャートSB1において非歩行判定を行っていない場合、すなわち、歩行有り判定または不定判定を行っている場合や、右側検知部44Aの検知後に右側検知部44Bが乗客の通過を検知していない場合にはステップS22に進む(ステップS21:NO)。そして、利用状況判定部56は、歩行有り判定を行っている場合には(ステップS22:YES)、歩行有り判定が行われた判定時刻HTを記録する(ステップS23)。
【0054】
一方、ステップS22の処理において、歩行有り判定を行っていない場合、すなわち、不定判定を行っている場合や上流側の右側検知部44Aの検知後に下流側の右側検知部44Bが乗客の通過を検知していない場合において(ステップS22:NO)、判定時刻HTの記録が有る場合は(ステップS24:YES)、利用状況判定部56は判定時刻HTから所定時間が経過しているか否かを判定する(ステップS25)。ここで、所定時間は、例えば、3秒から5秒間程度の時間間隔に設定される。
【0055】
そして、利用状況判定部56は、判定時刻HTから上記所定時間が経過している場合には、非歩行判定に判定を更新し(ステップS25:YES,ステップS26)、判定時刻HTを消去する(ステップS27)。これにより、不定判定がなされている場合には所定時間の経過を以て複数の踏段22上を歩きつつ降り場14の方に移動している乗客がいないものとみなして判定結果を変更することができる。
【0056】
一方、利用状況判定部56は、判定時刻HTから上記所定時間が経過していない場合には、歩行有り判定に判定状態を更新する(ステップS25:NO,ステップS29)。これにより、不定判定や上流側の右側検知部44Aの検知後に下流側の右側検知部44Bが乗客の通過を検知していない場合も判定時刻HTから所定時間が経過するまでは複数の踏段22上を歩きつつ降り場14に向かっている乗客がいるものとして取り扱うことしている。
【0057】
また、上述したステップS24において、判定時刻HTが記録されていない場合にも、利用状況判定部56は非歩行判定に判定を更新する(ステップS24:NO,ステップS28)。これにより、判定時刻HTが記録されていない場合において、何らかの要因により不定判定や右側検知部44A,44Bのうち少なくとも一方が乗客の通過を検知していない場合なども複数の踏段22上を歩きつつ降り場14の方に移動している乗客がいないものとみなして非歩行判定を行うことができる。
【0058】
案内制御部54は、上述した利用状況判定部56における乗客の歩行有無および混雑状況の判定結果に基づいて音声案内を実行する。以下、図8を用いて案内制御部54における音声案内について説明を行う。
【0059】
図8は、案内制御部54における音声案内の流れを示すフローチャートSB3を示す図である。図8に示すように、案内制御部54は、利用状況判定部56が非歩行判定を行っている場合において(ステップS30:NO)、乗客通路SWの右側部分および左側部分における混み具合に偏りがない状態であれば、スピーカSPを介して「立ち止まり乗車にご協力ありがとうございます」などの音声案内(以下、アナウンスAと適宜表記する)を予め設定されているアナウンス実行時間(一例として、10秒)が経過するまで繰り返し実行する(ステップS31:NO,ステップS33,ステップS37:NO)。
【0060】
ここで、乗客通路SWの右側部分および左側部分における混み具合に偏りがない状態には、乗客通路SWにおける右側部分および左側部分の双方ともに上述した空き判定を行っている場合や、上記右側部分および左側部分の双方ともに混雑判定を行っている場合が含まれる。
【0061】
一方、案内制御部54は、利用状況判定部56が乗客通路SWの右側部分および左側部分のいずれか一方において混雑判定を行い他方において空き判定を行っている(換言すると、混雑状態に片寄りのある状態とも表現できる)場合には、空き判定を行っている方に乗客を誘導する音声案内を予め設定されているアナウンス実行時間が経過するまで繰り返し実行する(以下、アナウンスBと適宜表記する)(ステップS31:YES,ステップS34,ステップS38:NO)。
【0062】
より具体的には、乗客通路SWの右側部分において混雑判定を行うとともに左側部分において空き判定を利用状況判定部56が行っている場合には、アナウンスBとして「左側にも立ち止まって乗車しましょう」などの音声案内を実行する。これにより、乗客通路SWの左右両側部分のうち混雑していない側に乗り込むように乗客に促すことで効率的なエスカレータ10の利用を促すことができる。
【0063】
また、案内制御部54は、利用状況判定部56が歩行有り判定を行っている場合において(ステップS30:YES)、乗客通路SWの左側部分および右側部分のいずれか一方のみで歩行有り判定を行っているときは(ステップS32:NO)、歩行有り判定が行われている左右いずれかの部分に立ち止まって乗り込むように乗客に促す音声案内(以下、アナウンスCと適宜表記する)を予め設定されているアナウンス実行時間が経過するまで実行する(ステップS35,ステップS39:NO)。
【0064】
より具体的には、案内制御部54は、利用状況判定部56が乗客通路SWの右側部分において歩行有り判定を行い、乗客通路SWの左側部分において非歩行判定を行っている場合には、アナウンスCとして「右側にも立ち止まって乗車しましょう」などの音声案内を実行する。これにより、乗客が踏段22上を歩行しつつ降り場14に向かおうとしても他の乗客によって行く手が遮られた状態となるため乗客が各踏段22の上を歩きつつ降り場14に向かうことを抑制できる。
【0065】
さらに、利用状況判定部56が乗客通路SWの左側部分および右側部分の双方で歩行有り判定を行っている場合には(ステップS32:YES)、案内制御部54は踏段22上を歩行しながら降り場14に向かわないように乗客に促す音声案内(以下、アナウンスDと適宜呼称する)を予め設定されているアナウンス実行時間が経過するまで実行する(ステップS36,ステップS40:NO)。より具体的には、「歩くと危険です。立ち止まってご乗車ください。」などの音声案内をアナウンスDとして実行する。
【0066】
上記構成により、エスカレータ10の利用状況に適したアナウンスA~Dを各々実行することで乗客に対して状況に適したエスカレータ10の利用を促すことが可能となる。
【0067】
本実施形態のエスカレータ10によれば、上流側の右側検知部44Aで乗客が検知されてから下流側の右側検知部44Bで乗客が検知されるまでに要する経過時間TXが最小時間TXminより短い場合に複数の踏段22上を乗客が歩きつつ降り場14に向かっていると判定することができる。
【0068】
同様に、エスカレータ10によれば、上流側の左側検知部42Aで乗客が検知されてから下流側の左側検知部42Bで乗客が検知されるまでに要する経過時間TXが最小時間TXminより短い場合に複数の踏段22上を乗客が歩きつつ降り場14に向かっていると判定することもできる。これにより、複数の踏段22上を歩いて移動する乗客の有無を精度よく判定することが可能となる。
【0069】
上記実施形態では、案内制御部54は予め設定されたアナウンス実行時間だけアナウンスA~アナウンスDのずれかを実行する例を挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、アナウンスA~アナウンスDのうちいずれかを予め設定されている実行時間だけ実行した後にアナウンスを行わない休止時間を設けるようにしてもよい。これにより、エスカレータ10のアナウンスAが実行された直後にアナウンスDが実行されるなど異なる種類のアナウンスが連続的に行われることを防ぐことができる。これにより、アナウンス内容を乗客が聞き間違いにくくできる。
【0070】
この場合の変形例に係る案内制御部54における案内制御の流れについて図10を用いて説明を行う。図10は、アナウンス実行後に休止時間を設ける場合の案内制御のフローチャートSB4を示す図である。フローチャートSB4におけるステップS50~ステップS60は、上述したフローチャートSB3におけるステップS30~ステップS40の処理と同一の構成を備える。
【0071】
案内制御部54は、上記ステップS57~ステップS60においてアナウンスA~アナウンスDのいずれか1つを予め設定された実行時間が経過するまで実行した後、予め設定された休止時間(例えば3秒)が経過するまでアナウンスを行わない(ステップS61:NO)。この場合においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。また、上記予め設定された休止時間は3秒よりも短くてもよいし、長くてもよい。
【0072】
また、案内制御部54は、ステップS53~S56のいずれかで実行されるアナウンスが前回実行したアナウンスと異なる場合(すなわち、例えば、前回実行したアナウンスがステップS53のアナウンスAであったが今回はステップS56のアナウンスDを実行しているような場合)にだけステップS61に示すアナウンスを行わない休止時間を設けるようにしてもよい。
【0073】
上記実施形態では、乗客コンベアの一例としてエスカレータ10を例に挙げて説明しているが、動く歩道に本発明を適用してもよい。
【0074】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、何れかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
【符号の説明】
【0075】
10 エスカレータ(乗客コンベア)
12 乗り場
14 降り場
20 無端搬送体
22,22A,22B,22C 踏段
24 電動機
31,32 欄干部
34,36 支持部
34A,36A スカートガード
42A 左側検知部(第1通過検知部)
44A 右側検知部(第1通過検知部)
42B 左側検知部(第2通過検知部)
44B 右側検知部(第2通過検知部)
50 制御装置
52 運転制御部
54 案内制御部
56 利用状況判定部
AP 検知領域
DS 距離(所定距離)
S1~S61 ステップ
SB1~SB4 フローチャート
SP,SP1,SP2 スピーカ
【要約】
【課題】乗客が踏段上を歩行しているか否かを精度よく判定可能な乗客コンベアを提供する。
【解決手段】エスカレータ10は、乗客通路SWに配置され乗客の通過を検知する右側検知部44Aと、右側検知部44Aの下流側に右側検知部44Aとの間の距離が距離DSとなるように設けられ乗客の通過を検知する右側検知部44Bと、右側検知部44Aが乗客の通過を検知してから右側検知部44Bが乗客の通過を検知するまでの経過時間TXが最小時間TXminより短い場合に乗客が無端搬送体20を構成する複数の踏段22の上を歩いて移動していると判定する歩行有り判定を行う利用状況判定部56(図3参照)とを備える。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9