IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フジテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-マーカー設置治具 図1
  • 特許-マーカー設置治具 図2
  • 特許-マーカー設置治具 図3
  • 特許-マーカー設置治具 図4
  • 特許-マーカー設置治具 図5
  • 特許-マーカー設置治具 図6
  • 特許-マーカー設置治具 図7
  • 特許-マーカー設置治具 図8
  • 特許-マーカー設置治具 図9
  • 特許-マーカー設置治具 図10
  • 特許-マーカー設置治具 図11
  • 特許-マーカー設置治具 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】マーカー設置治具
(51)【国際特許分類】
   B66B 7/00 20060101AFI20250109BHJP
   E04G 21/18 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B66B7/00 G
E04G21/18 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024061586
(22)【出願日】2024-04-05
【審査請求日】2024-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 稔
(72)【発明者】
【氏名】下村 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩明
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-076535(JP,A)
【文献】特開2020-201604(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189661(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111268530(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/00- 7/12
E04G 1/14-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの昇降路を含む現実空間を視る作業者の視界、または、前記現実空間を表す画像に対し、前記現実空間の位置に応じた配置で仮想オブジェクトをオーバーレイ表示する表示装置が前記現実空間の位置を認識するためのマーカーを設置するマーカー設置治具であって、
前記昇降路内に位置基準として鉛直方向に設けられている基準線との相対位置を前記作業者に提示する位置基準部材と、
前記マーカーが保持されるマーカー保持部材と、を備えるマーカー設置治具。
【請求項2】
前記位置基準部材は、前記基準線に垂直な水平面、および、該水平面に設けられ、前記基準線が配置されることが想定される位置に対して少なくとも2方向から所定の距離をおいて対向する位置に設けられる基準位置提示部を備える、請求項1に記載のマーカー設置治具。
【請求項3】
前記位置基準部材は、2本の前記基準線にそれぞれ対応して2つ設けられている、請求項1に記載のマーカー設置治具。
【請求項4】
2つの前記位置基準部材の間の距離を調整する距離調整部材をさらに備える、請求項3に記載のマーカー設置治具。
【請求項5】
前記マーカー保持部材は、前記マーカーの面が水平となるように該マーカーを載置する載置面を備え、該マーカー保持部材が2か所に設けられる、請求項1に記載のマーカー設置治具。
【請求項6】
前記マーカー保持部材は、当該マーカー保持部材が載置される面からの前記載置面の高さを変更するための高さ調整部材を備える、請求項5に記載のマーカー設置治具。
【請求項7】
当該マーカー設置治具の載置位置を前記現実空間に固定する固定部材をさらに備える、請求項1に記載のマーカー設置治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの乗場および昇降路を含む現実空間を視る作業者の視界、または、現実空間を表す画像に対し、現実空間の位置に応じた配置で仮想オブジェクトをオーバーレイ表示する表示装置が前記現実空間の位置を認識するためのマーカーを設置するマーカー設置治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設作業などにおいて、作業者に装着されるスマートグラスなどの表示装置に、施工作業に必要な情報を現実空間と重ね合わせて表示させた状態で施工作業を行う手法が提案されている。例えば特許文献1には、現実空間をスキャンして空間形状を認識し、図面データを現実空間に合わせてスケーリングして、現実空間にマッピングして表示する投影装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-163466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建築物の建設途中段階では、エレベータの昇降路と乗場との間には扉が設置されていない状況がある。このような状況において、作業員がスマートグラスを着用し、現実空間の位置認識作業を行うことが想定される。位置認識作業では、現実空間の位置を認識するためのマーカーを現実空間に設置する必要がある。ここで、マーカーの設置位置は、オーバーレイ表示の位置精度に大きく影響するため、高い位置精度が必要とされる。しかしながら、マーカーの設置位置を高めることは容易ではなく、精度を高めるために作業効率が低下することも想定される。
【0005】
本発明の一態様は、現実空間の位置に応じた配置で仮想オブジェクトをオーバーレイ表示する表示装置が前記現実空間の位置を認識するためのマーカーを設置する際に、位置精度が高く、かつ作業効率の良好なマーカー設置治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係るマーカー設置治具は、エレベータの昇降路を含む現実空間を視る作業者の視界、または、前記現実空間を表す画像に対し、前記現実空間の位置に応じた配置で仮想オブジェクトをオーバーレイ表示する表示装置が前記現実空間の位置を認識するためのマーカーを設置するマーカー設置治具であって、前記昇降路内に位置基準として鉛直方向に設けられている基準線との相対位置を前記作業者に提示する位置基準部材と、前記マーカーが保持されるマーカー保持部材と、を備える構成である。
【0007】
上記の構成によれば、例えばピアノ線やレーザ光などの基準線との相対位置が作業者によって視認されながら、当該マーカー設置治具の配置位置が作業者によって調整されることによって、マーカーを適切な位置に容易に設置することができる。よって、マーカーの位置精度が高く、かつ、作業効率の良好なマーカー設置治具を提供することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によればマーカーの位置精度が高く、かつ、作業効率の良好なマーカー設置治具を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】仮想オブジェクトOBがオーバーレイ表示された状態の一例を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係るスマートグラス1の構成の概略を示すブロック図である。
図3】スマートグラス1が作業用ヘルメット11に装着された状態を示す図である。
図4】エレベータの施工対象となるエレベータの乗場200および昇降路102の概略を示す斜視図である。
図5】昇降路102の内側から開口部101を見た際の概略を示す斜視図である。
図6】マーカー設置治具MJの平面図、側面図、および矢視断面図である。
図7図6に示すマーカー設置治具MJにおいて、一対のマーカー保持板MJ1同士の間の距離を最も縮めた状態を示す平面図である。
図8】変形例1としてのマーカー設置治具MJの平面図、側面図、および矢視断面図である。
図9図8に示すマーカー設置治具MJにおいて、一対のマーカー保持板MJ1同士の間の距離を最も縮めた状態を示す平面図である。
図10】変形例2としてのマーカー設置治具MJの平面図、側面図である。
図11図11に示すマーカー設置治具MJを折りたたんだ状態を示す側面図である。
図12】本発明の実施形態に係るエレベータ施工方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
(スマートグラス適用例の概要)
図3は、本実施形態に係るスマートグラス(表示装置)1が安全ヘルメット11に装着された状態を示す図である。本実施形態では、建築物の建造途中においてエレベータの施工を行う作業者が安全ヘルメット11とともにスマートグラス1を着用する状況が想定されている。
【0012】
スマートグラス1は光学透過型のヘッドマウントディスプレイである。スマートグラス1の着用者は、外部の現実空間を視認することができるとともに、投影された画像も現実空間内に視認することができる。すなわち、スマートグラス1は、エレベータの乗場および昇降路を含む現実空間を視る作業者の視界に対し、現実空間の位置に応じた配置で、エレベータの施工に関する施工参照情報としての仮想オブジェクトをオーバーレイ表示する。
【0013】
図1は、仮想オブジェクトOBが現実空間にオーバーレイ表示された状態の一例を示している。同図に示すように、現実空間における壁面300に対して、所定の距離だけ離れた空間に仮想オブジェクトOBが表示されている。これにより、作業者は施工作業を行うべき3次元空間における位置を現実空間において確認することができる。よって、施工作業を行うべき位置を現実空間においてメジャーで測って確認するなどの作業が不要となり、作業性を向上させることができる。
【0014】
なお、本実施形態では、表示装置として光学透過型のヘッドマウントディスプレイであるスマートグラス1を用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、外部の現実空間をカメラで撮影した画像と、仮想オブジェクトの画像との両方を表示するビデオ透過型のヘッドマウントディスプレイであってもよい。また、本発明に係る表示装置として、ヘッドマウントディスプレイではなく、例えばタブレットPCやノートPCなどの持ち運び可能な情報表示端末や、無線や有線で情報処理装置に接続された持ち運び可能なディスプレイおよびカメラなどが用いられてもよい。
【0015】
施工参照情報としての仮想オブジェクトは、施工対象の設計仕様に基づいて生成された3次元CADデータまたは2次元CADデータに基づいて表示される。これらのCADデータは、例えばBIM(Building Information Modeling)として生成された3次元モデルの情報に基づいて生成されたものであってもよい。BIMでは、各パーツの数量、品番、寸法、素材、性能、および、価格などの各種情報が3次元モデルにオブジェクト情報として含まれているので、これらの情報の少なくともいずれか1つが施工参照情報として表示されてもよい。
【0016】
(スマートグラスの構成の詳細)
図2は、スマートグラス1の構成の概略を示すブロック図である。同図に示すように、スマートグラス1は、制御部2、投影部3、撮像部4、記憶部5、通信部6、および、音声入出力部7を備えている。制御部2は、スマートグラス1における各種情報処理を行うブロックであり、表示制御部21、位置認識部22、入力制御部23、および警告制御部24を備えている。
【0017】
表示制御部21は、エレベータの施工に関する施工参照情報としての仮想オブジェクトをオーバーレイ表示するように投影部3を制御する。投影部3はハーフミラーに対して画像を投影することによって、スマートグラス1の着用者である作業者に対して、外部の現実空間を視認させつつ、投影画像を視認させる。表示制御部21は、右目に対する投影画像と左目に対する投影画像とを異ならせることによって、仮想オブジェクトを現実空間内の所定の位置に立体的に配置されているように表示させることができる。これにより、作業者は、施工位置を現実空間の3次元位置で認識することができる。
【0018】
表示制御部21は、記憶部5に記憶されている3次元CADデータまたは2次元CADデータを含む施工参照情報を読み出して仮想オブジェクトの表示を制御する。ここで、3次元CADデータまたは2次元CADデータには、現実空間に存在する物体との位置関係を示す情報も含まれている。また、表示制御部21は、位置認識部22によって認識された現実空間の位置に基づいて仮想オブジェクトの表示位置を制御する。
【0019】
なお、表示制御部21は、通信部6を介して施工参照情報を外部から取得してもよい。通信部6は、例えば無線LANによってローカルネットワークのPCやサーバと通信したり、インターネットを介して外部のサーバと通信したりしてもよい。これにより、記憶部5に記憶されているデータのアップデートや新たなデータの取得が可能となる。
【0020】
位置認識部22は、撮像部4によって撮像された現実空間の所定の位置に配置されているマーカーM1(詳細は後述)の撮像画像を認識することによって、スマートグラス1の現実空間における3次元位置およびスマートグラス1が向いている3次元方向を認識する。また、位置認識部22は6DoF(Degree of Freedom)で位置認識が可能となっている。これにより、作業者は、一旦マーカーM1によって位置認識部22に対して位置を認識させれば、その後に見る方向を変更したり移動したりしても、現実空間との相対的な位置関係が保たれた状態で仮想オブジェクトを視認することができる。
【0021】
入力制御部23は、作業者からの各種指示入力を受け付けて処理するブロックである。指示入力としては、例えば、仮想オブジェクトとしての入力インタフェースに対する入力が挙げられる。すなわち、表示制御部21によって入力インタフェースとしての画像が仮想オブジェクトとして現実空間に表示され、それに対して作業者が指などで仮想的にタッチしたことを画像認識することによって、作業者からの指示入力が受けつけられる。
【0022】
また、例えば、音声入出力部7による音声入力によって作業者からの指示入力が受け付けられてもよい。すなわち、音声入出力部7によって受け付けられた音声を入力制御部23が音声認識することにより作業者からの指示内容を認識することによって、作業者からの指示入力が受けつけられる。
【0023】
また、通信部6を介して外部の入力デバイスによって作業者からの指示入力が受け付けられてもよい。例えば、Bluetooth(登録商標)対応の入力コントローラや無線キーボードなどの各種入力機器と通信部6とが通信を行うことにより、作業者による入力機器への入力によって指示入力が受けつけられる。
【0024】
警告制御部24は、スマートグラス1を着用している作業者に対して発せられる何らかの警告を制御する。警告の手法としては、表示制御部21によるオーバーレイ表示で警告内容を投影表示する、音声入出力部7から警告音や警告内容を示す音声を出力する、などが挙げられる。
【0025】
警告条件としては、位置認識部22が、作業者の位置が昇降路の近傍の所定領域内であると認識したことが挙げられる。これにより、作業者の昇降路への落下可能性が高まったタイミングで警告が発せられるので、作業者の安全性をより高めることができる。
【0026】
なお、制御部2が備える表示制御部21、位置認識部22、入力制御部23、および警告制御部24の少なくともいずれか1つの機能は、通信を介して外部のコンピュータにおいて実現されてもよい。
【0027】
(エレベータ施工対象となる現実空間例)
図4は、エレベータの施工対象となるエレベータの乗場200および昇降路102の概略を示す斜視図である。同図は、建築物の建造途中段階でエレベータの扉が取り付けられていない状態を示している。この状態では、乗場200と昇降路102との間にエレベータの乗込口としての開口部101が存在している。乗場200には床面201および壁面202が存在する。
【0028】
床面201には、マーカー設置治具MJが設けられている。マーカー設置治具MJの詳細については後述する。マーカー設置治具MJには、2つのマーカーM1が設けられている。マーカーM1は、前記したように、位置認識部22が撮像画像におけるマーカーM1を画像認識することによって現実空間の位置を認識するために用いられる。マーカーM1は、それぞれ四角形の面状部材によって構成され、表面には所定の図柄が形成されている。このようなマーカーM1が、乗場200の床面201における開口部101近傍の所定の位置に配置されていることによって、位置認識部22は、乗場200および昇降路102の3次元空間における位置を正確に認識することができる。
【0029】
本実施形態では、乗場一か所に対してマーカーを2つ設けているが、これに限定されるものではなく、マーカーを1つ設けてもよいし、3つ以上設けてもよい。マーカーを設ける個数が多いほど位置認識の精度は高まるが、2つマーカーが設けられていれば十分な精度で位置認識を行うことができる。
【0030】
また、本実施形態では、床面201にマーカーM1を設けているが、これに限定されるものではなく、壁面202にマーカーM1を設けてもよい。しかしながら、床面201にマーカーM1を設ける方が以下の理由で好ましい。
【0031】
例えばエレベータが設けられる建築物の建設途中段階において、乗場200の壁面202には様々な加工が随時追加されていき、また形状の変化も大きくなる可能性が高い。例えば、最初は壁が存在しておらず、支柱のみが設けられているような状態から、ある時点で壁が設けられる、というような経過を辿ることが考えられる。すなわち、環境の変化に応じてマーカーを設置し直すと、マーカーの位置が大きく変更することになり、オーバーレイ表示の位置の基準が大きく変更されてしまうことになる。この場合、オーバーレイ表示のためのデータに対してマーカーの位置を大幅に変更する必要が生じ、状況によってはマーカーと仮想オブジェクトとの位置関係の定義自体を変更する必要が生じうる。これに対して、床面201にマーカーM1を設ける場合、床面201は建築物の建設途中段階において、形状の変化が少ないため、例えば床面の美化加工などで高さが少し変更され、マーカーM1を設置し直したとしても、マーカーM1の位置の変化は比較的少なくて済むことになる。よって、オーバーレイ表示のためのデータの微調整で対応することが可能となる。マーカーM1の位置変化に伴うデータの調整処理の詳細については後述する。
【0032】
また、本実施形態では、乗場200にマーカーM1を設けているが、昇降路102内にマーカーを設けてもよい。しかしながら、乗場200にマーカーM1を設ける方が以下の理由で好ましい。
【0033】
位置認識部22による位置認識を行う際には、作業者はスマートグラス1を装着した状態で撮像部4によってマーカーを撮像し、位置認識部22による位置認識処理を行わせることになる。ここで、マーカーが昇降路102内に設けられている場合、作業者はマーカーを撮像するために昇降路102に近づく必要がある。作業者は、スマートグラス1を装着した状態であるので、視界もある程度制限されているとともに、マーカー認識に集中することによって足元の確認が不十分になることが想定される。すなわち、昇降路102への落下リスクが想定される。これに対して、乗場200にマーカーM1が設けられていれば、マーカー認識作業を、乗場200における昇降路102への開口部101から離れた領域で行うことができるので、作業者は昇降路102への落下のリスクを抑制した安全な作業を実施することができる。また、エレベータの乗込口である開口部101に扉が設けられた後であれば、扉の手前の乗場空間でマーカー読み取りによる位置認識を実行することができる。
【0034】
また、建築物の建設途中段階において、エレベータの昇降路102への落下防止用の安全フェンスが、乗場200における昇降路102への開口部101の手前に配置される場合がある。この場合、安全フェンスと開口部101との間となる床面201にマーカーM1が設けられることによって、人が入りにくい領域にマーカーM1が設置されるので、マーカーM1が不用意に移動させられることを抑制することができる。
【0035】
マーカーM1は、3次元CADデータまたは2次元CADデータを含む施工参照情報においてマーカー設置位置として規定されている床面201の所定の位置に配置される。このマーカーM1の設置位置は、現実空間の位置と仮想オブジェクトの表示位置とを正確に一致させるために、高い精度が必要とされるため、現実空間において配置位置の精度が高い所定の位置基準物を基準に設けられることが好ましい。位置基準物の一例として、昇降路102内に設けられるピアノ線103が挙げられる。
【0036】
図5は、昇降路102の内側から開口部101を見た際の概略を示す斜視図である。同図に示すように、建築物の建設途中段階において、昇降路102内の上部の所定の位置から2本のピアノ線103・103が吊り下げられている。すなわち、ピアノ線103・103は、各階の施工状態に影響を受けることなく、定まった位置に配置されていることになる。よって、このピアノ線を位置基準物(基準線)とすることによって、マーカーM1の設置位置の精度を高く保つことができる。なお、ピアノ線に限らず、十分に細い径の丈夫な線部材であればどのような線部材を用いてもよい。
【0037】
また、位置基準物として、例えばレーザ光を用いてもよい。すなわち、昇降路102内の上部の所定の位置からレーザ光を鉛直下方向に照射する、または昇降路102内の下部の所定の位置からレーザ光を鉛直上方向に照射することによって、ピアノ線と同様に定まった位置にレーザ光を配置することができる。ただし、レーザ光の場合、発光源からの距離が離れるにつれて光線の太さが太くなる傾向があるので、建築物の高さによっては光線の太さによる誤差の影響が出てくる可能性がある。また、位置基準物として、各階の乗場に記された基準点(建築墨)を用いてもよい。
【0038】
また、1つのエレベータに対して、各階に対応して複数の乗場200が設けられることになるが、各乗場200において、エレベータの乗降口に対して同じ場所、すなわち、乗込口に対する相対位置が同じ場所に前記マーカーを設置することが好ましい。
【0039】
同じエレベータに対してはどの乗場200も同様の構造配置となっているケースが多い。この場合、それぞれの乗場200において、エレベータの乗降口に対して同じ場所にマーカーM1を設置すればよいので、同様の基準で同様の作業によりマーカー設置作業を行うことができる。よって、効率的にマーカー設置作業を行うことができる。また、オーバーレイ表示のためのデータも、複数の乗場200において共通のデータ構造とすることができる。
【0040】
(マーカーM1の位置変化に伴うデータの調整処理)
上記のように、マーカーM1は、乗場200における床面201に設けられる。ここで、建築物の建造途中段階では、床面201の表面の美化加工が施されることにより、美化加工前後でマーカーM1を設置し直すことが行われることが考えられる。この美化加工前後により、マーカーM1の高さが変更されることになる。ここで、美化加工前後のマーカーM1の高さの変更は数mm~数cm程度となるケースが多い。また、美化加工前後でマーカーM1の水平方向の位置は変化しないようにすることができる。
【0041】
マーカーの位置が大きく変更される場合には、オーバーレイ表示のためのデータにおいて、仮想オブジェクトとマーカーとの位置関係を大幅に変更する必要がある。これに対して、上記のように床面の美化加工を起因としてマーカーM1を設置し直したとしても、マーカーの位置の変化は高さ方向に限定され、また変化量も少ないため、データの修正は比較的容易である。
【0042】
具体的には、入力制御部23がマーカーM1の高さ位置変更のためのインタフェースを表示制御部21によって仮想オブジェクトとして表示させ、作業者に入力させる。より詳しくは、入力の選択肢が表示されたインタフェースが表示され、その中から、マーカーM1の高さ変更に相当する選択肢の仮想オブジェクトが作業者に選択される。そして、テンキーなどの仮想オブジェクトに対する作業者の入力によって、実際の施工に応じた高さ変更量が入力され、これに応じて、入力制御部23は、仮想オブジェクトとマーカーとの位置関係を示すデータを修正する。なお、前記したように、無線キーボードなどの各種入力機器と通信部6とが通信を行うことにより、作業者による入力機器への入力によって高さ変更量の入力が受けつけられてもよい。
【0043】
(マーカー設置治具の詳細)
次に、マーカー設置治具MJの詳細について説明する。図6は、マーカー設置治具MJの構成を示しており、601はマーカーM1の面に垂直な方向から見た際の平面図、602はマーカーM1の面に平行な方向から見た際の側面図、603は601で示すAにおける矢視断面図を示している。
【0044】
マーカー設置治具MJは、一対のマーカー保持板(マーカー保持部材)MJ1を備えており、各マーカー保持板MJ1の面上にマーカーM1が設けられている。すなわち、マーカー保持板MJ1は、マーカーM1の面が水平となるようにマーカーM1を載置する載置面を備えている。なお、マーカーM1が描画された板がマーカー保持板MJ1の載置面に取り付けられていてもよいし、マーカーM1がマーカー保持板MJ1の載置面に直接描画されていてもよい。
【0045】
マーカー保持板MJ1の輪郭形状である四角形の一辺から、その辺に垂直な方向に延伸するように位置照合板(位置基準部材)MJ2が設けられている。位置照合板MJ2は、位置基準物としての基準線に垂直な水平面、および、該水平面に設けられ、基準線が配置されることが想定される位置に対して少なくとも2方向から所定の距離をおいて対向する位置に設けられる第1位置照合辺(基準位置提示部)MJ21および第2位置照合辺(基準位置提示部)MJ22を備えている。
【0046】
第1位置照合辺MJ21および第2位置照合辺MJ22は、互いに直交しているとともに、第1位置照合辺MJ21の所定位置に設けられた目印(けがき線)からの法線と、第2位置照合辺MJ22の所定位置に設けられた目印(けがき線)からの法線とが一点で交わっている。この交点が、上述した基準線が配置されるべき基準点となる。すなわち、マーカー設置治具MJは、一対のマーカー保持板MJ1のそれぞれに基準点が設けられていることになる。そして、この一対の基準点に、一対の基準線がそれぞれ配置されるように、一対のマーカー保持板MJ1を配置することによって、一対のマーカーM1を所定のマーカー設置位置に正確に配置することができる。ここで、第1位置照合辺MJ21と基準点との距離、および、第2位置照合辺MJ22と基準点との距離を3~10mm程度とすることによって、十分な配置位置精度を実現できる。
【0047】
図6に示す例では、マーカー保持板MJ1の輪郭形状である四角形の上側の一辺から上方向に延伸するように、長方形の位置照合板MJ2が設けられている。位置照合板MJ2は、マーカー保持板MJ1に対して取り外し可能なようにボルトで接続されている。
【0048】
また、位置照合板MJ2には、長方形の位置照合板MJ2の左右方向外側の辺から垂直な方向に突出した形状の突出部が形成されており、該突出部の上側の辺に第1位置照合辺MJ21が設けられている。また、該突出部よりも上側における位置照合板MJ2の左右方向外側の辺に第2位置照合辺MJ22が設けられている。すなわち、図6において、第1位置照合辺MJ21が基準点の下方に設けられ、第2位置照合辺MJ22が基準点の左右方向内側に設けられる。
【0049】
なお、位置照合板MJ2において、第1位置照合辺MJ21および第2位置照合辺MJ22を設けるための形状は図6に示す形状に限定されるものではなく、第1位置照合辺MJ21の目印からの法線と、第2位置照合辺MJ22の目印からの法線とが一点の基準点で交わるような形状であればよい。例えば、図6における位置照合板MJ2において、基準点に対して上方に第1位置照合辺MJ21が配置するように、位置照合板MJ2の上端部が曲がった形状となっていてもよい。また、第2位置照合辺MJ22が、位置照合板MJ2から突出した部分の先端に設けられていてもよい。
【0050】
また、位置照合板MJ2の形状も図6に示す形状に限定されるものではなく、マーカーM1が配置されるべき位置と、位置基準物の位置との関係に応じて、適宜形状が変更されてよい。さらに、位置照合板MJ2が、第1位置照合辺MJ21および第2位置照合辺MJ22と、マーカーM1との相対位置が変更可能な構造となっていてもよい。相対位置が変更可能な構造としては、例えば位置照合板MJ2の長さが変更可能となっている、位置照合板MJ2とマーカー保持板MJ1との接続位置および接続方向の少なくともいずれか一方が変更可能となっている、などが挙げられる。この場合、様々な現場で対応可能なマーカー設置治具MJを提供できる。
【0051】
一対のマーカー保持板MJ1は、連結部材(距離調整部材)MJ3、中間部材(距離調整部材)MJ4、および軸部材MJ5によって互いに連結されている。一対のマーカー保持板MJ1の間に中間部材MJ4が配置されており、それぞれ連結部材MJ3によって接続されている。また、連結部材MJ3は、マーカー保持板MJ1と中間部材MJ4との間の距離を変更可能な構造となっている。すなわち、連結部材MJ3によって、一対のマーカー保持板MJ1の間の距離および1対の位置照合板MJ2の間の距離を変更することが可能となっている。これにより、様々な現場で対応可能なマーカー設置治具MJを提供できる。
【0052】
なお、図6に示す構成では、マーカー保持板MJ1と位置照合板MJ2とは固定されているので、一対のマーカー保持板MJ1の間の距離と、1対の位置照合板MJ2の間の距離とは連動して変更されることになる。これに対して、例えば上記したように、位置照合板MJ2とマーカー保持板MJ1との接続位置および接続方向の少なくともいずれか一方が変更可能となっている場合、一対のマーカー保持板MJ1の間の距離と、1対の位置照合板MJ2の間の距離とを個別に調整することが可能となる。この場合、例えば位置基準物としての一対のピアノ線の位置に応じて1対の位置照合板MJ2を配置するとともに、エレベータの昇降路や乗場の設計仕様などに応じて一対のマーカー保持板MJ1を最適な位置に配置することが可能となる。
【0053】
図6に示す例では、左側のマーカー保持板MJ1は、2つの直線状に延伸した形状の連結部材MJ3によって中間部材MJ4と接続されており、右側のマーカー保持板MJ1は、2つの連結部材MJ3によって中間部材MJ4と接続されている。
【0054】
中間部材MJ4は、上下方向に長い形状となっており、上下方向に直線状に延伸する中空部MJ6が設けられている。また、マーカー保持板MJ1の内側側面近傍にも、上下方向に直線状に延伸する中空部MJ6が設けられている。
【0055】
2つの連結部材MJ3のうち、一方の連結部材MJ3のマーカー保持板MJ1側の端部は回動自在にマーカー保持板MJ1に固定位置で保持されており、中間部材MJ4側の端部は、中間部材MJ4に設けられた中空部MJ6に沿ってスライド可能に保持されている。同様に、他方の連結部材MJ3のマーカー保持板MJ1側の端部は回動自在に中間部材MJ4に固定位置で保持されており、マーカー保持板MJ1側の端部は、マーカー保持板MJ1に設けられた中空部MJ6に沿ってスライド可能に保持されている。
【0056】
一方の連結部材MJ3のマーカー保持板MJ1側の端部が保持される位置と、他方の連結部材MJ3の中間部材MJ4側の端部が保持される位置とは、マーカー保持板MJ1と中間部材MJ4との距離が変更される方向(図6における左右方向)の同じ直線上に位置している。また、中間部材MJ4に設けられた中空部MJ6の両端部と、マーカー保持板MJ1に設けられた中空部MJ6の両端部とは、対応する端部同士において、マーカー保持板MJ1と中間部材MJ4との距離が変更される方向(図6における左右方向)の同じ直線上に位置している。すなわち、一方の連結部材MJ3と他方の連結部材MJ3とはクロスした状態でマーカー保持板MJ1と中間部材MJ4とを接続している。
【0057】
このような構造により、マーカー保持板MJ1と中間部材MJ4との距離が変更可能となっている。また、マーカー保持板MJ1と中間部材MJ4との距離が変更されても、一対のマーカーM1の面内での向き(水平面内での向き)を一定に保つことができる。
【0058】
また、中空部MJ6に保持される連結部材MJ3の端部は、ボルトナットなどにより位置固定することが可能となっており、位置固定することによってマーカー保持板MJ1と中間部材MJ4との距離を固定することが可能となっている。
【0059】
軸部材MJ5は、中間部材MJ4において固定されているとともに、一対のマーカー保持板MJ1に向けて円柱状の棒が延伸して配置されている。図6の602および603に示すように、軸部材MJ5は中間部材MJ4の下面から下方に所定距離離れた位置に保持されている。
【0060】
マーカー保持板MJ1では、軸部材MJ5は摺動可能な状態で保持されている。すなわち、マーカー保持板MJ1と中間部材MJ4との距離の変更に応じて、マーカー保持板MJ1は軸部材MJ5にガイドされた状態で移動することになる。これにより、マーカー保持板MJ1と中間部材MJ4との距離が変更されても、一対のマーカーM1の面の法線方向の向きを一定に保つことができる。換言すれば、マーカー保持板MJ1と中間部材MJ4との距離が変更されても、一対のマーカーM1の面を互いに平行に保つことができる。
【0061】
各マーカー保持板MJ1には、3つのボルト(高さ調整部材)MJ7が設けられている。ボルトMJ7は、その軸方向がマーカー保持板MJ1の面に垂直となるように設けられており、マーカー保持板MJ1を貫通している。また、ボルトMJ7を回転させることによって、マーカー保持板MJ1からの床面方向への突き出し量が変更可能となっている。すなわち、3つのボルトMJ7の床面方向への突き出し量を調整することによって、マーカー保持板MJ1の床面に対する距離および傾きを調整することが可能となっている。
【0062】
これにより、上述したように床面の美化加工を起因として床面の高さが変更された場合でも、3つのボルトMJ7の床面方向への突き出し量を調整することによって、マーカーM1の高さ方向の位置を一定に保つことが可能となる。よって、オーバーレイ表示の位置を調整する必要なく、オーバーレイ表示の位置精度を高く保つことができる。また、1つのマーカー保持板MJ1は3つのボルトMJ7で床面に支持されるので、3点支持によってがたつきのない状態でマーカーM1を載置することができる。
【0063】
なお、ボルトMJ7は、床面に対するアンカーボルト(固定部材)として機能してもよい。これにより、マーカー設置治具MJが所定の場所に固定されて載置されるので、基準線に応じて載置された位置から何らかの外乱でずれてしまうことを防止できる。なお、マーカー設置治具MJの固定部材としては、床面の所定部材に係合して位置固定される係合部材がマーカー設置治具MJに設けられていてもよい。床面の所定部材としては、例えばエレベータのドアが設けられる敷居における窪み部分などが挙げられる。簡易的には、マーカー設置治具MJが床面にテープで貼り付けられることによって固定されてもよい。
【0064】
図7は、図6に示すマーカー設置治具MJにおいて、一対のマーカー保持板MJ1同士の間の距離を最も縮めた状態を示している。この状態では、左側のマーカー保持板MJ1と中間部材MJ4とが接しているとともに、右側のマーカー保持板MJ1と中間部材MJ4とも接している。また、マーカー保持板MJ1の面に垂直な方向から見て、位置照合板MJ2がマーカー保持板MJ1の内側に位置するようにマーカー保持板MJ1に取り付けられている。上述したように、位置照合板MJ2はボルトでマーカー保持板MJ1と接続されており、ボルトを外して取付向きを変更することによって、位置照合板MJ2が外側に突出した状態と、内側に格納された状態とを切り替えることが可能となっている。
【0065】
このように、マーカー設置治具MJはコンパクトに畳むことが可能な構造となっているので、現場への運搬時や使用していないときの保管時の収容スペースを抑えることができる。
【0066】
(マーカー設置治具の変形例1)
図8は、マーカー設置治具MJの変形例1を示しており、801はマーカーM1の面に垂直な方向から見た際の平面図、802はマーカーM1の面に平行な方向から見た際の側面図、803は801で示すBにおける矢視断面図を示している。この変形例1は、図6に示した構成と比較して、一対のマーカー保持板MJ1を連結する構成が異なっており、マーカー保持板MJ1および位置照合板MJ2の構成については同様である。
【0067】
変形例1において、一対のマーカー保持板MJ1は、2本の連結軸(距離調整部材)MJ8によって互いに連結されている。一対のマーカー保持板MJ1は2本の連結軸MJ8に沿ってそれぞれ移動することが可能となっており、これにより、一対のマーカー保持板MJ1の間の距離および1対の位置照合板MJ2の間の距離を変更することが可能となっている。よって、様々な現場で対応可能なマーカー設置治具MJを提供できる。
【0068】
連結軸MJ8は、マーカー保持板MJ1の移動方向に平行な方向に配置された、円柱状の棒である。図8の802および803に示すように、連結軸MJ8はマーカー保持板MJ1の上面から上方に所定距離離れた位置に保持されている。
【0069】
マーカー保持板MJ1では、連結軸MJ8は、該連結軸MJ8の方向が固定された状態かつ摺動可能な状態で保持されている。すなわち、一対のマーカー保持板MJ1の間の距離の変更に応じて、マーカー保持板MJ1は2本の連結軸MJ8にガイドされた状態で移動することになる。これにより、一対のマーカー保持板MJ1の間の距離が変更されても、一対のマーカーM1の面の法線方向の向きを一定に保つことができる。換言すれば、マーカー保持板MJ1と中間部材MJ4との距離が変更されても、一対のマーカーM1の面を互いに平行に保つことができる。また、一対のマーカーM1の面内での向き(水平面内での向き)も一定に保つことができる。
【0070】
なお、マーカー保持板MJ1において連結軸MJ8を保持する部分は、連結軸MJ8をボルトで押しつける構造により位置固定することが可能となっている。このように位置固定することによって一対のマーカー保持板MJ1の間の距離を固定することが可能となる。
【0071】
図9は、図8に示すマーカー設置治具MJにおいて、一対のマーカー保持板MJ1同士の間の距離を最も縮めた状態を示している。この状態では、左側のマーカー保持板MJ1と右側のマーカー保持板MJ1とが接している。また、マーカー保持板MJ1の面に垂直な方向から見て、位置照合板MJ2がマーカー保持板MJ1の内側に位置するようにマーカー保持板MJ1に取り付けられている。
【0072】
このように、変形例1においても、マーカー設置治具MJはコンパクトに畳むことが可能な構造となっているので、現場への運搬時や使用していないときの保管時の収容スペースを抑えることができる。
【0073】
(マーカー設置治具の変形例2)
図10は、マーカー設置治具MJの変形例2を示しており、1001はマーカーM1の面に垂直な方向から見た際の平面図、1002はマーカーM1の面に平行な方向から見た際の側面図を示している。この変形例2は、図6に示した構成と比較して、一対のマーカー保持板MJ1を連結する構成が異なっており、マーカー保持板MJ1および位置照合板MJ2の構成については同様である。
【0074】
変形例2において、一対のマーカー保持板MJ1は、2つの連結板MJ9を介して互いに連結されている。マーカー保持板MJ1は、第1蝶番MJ10を介して連結板MJ9に連結されている。また、2つの連結板MJ9同士は、第2蝶番MJ11を介して互いに連結されている。
【0075】
図11の1101は、マーカー保持板MJ1を第1蝶番MJ10によって折りたたんだ状態を、マーカーM1の面に平行な方向から見た際の側面図を示している。同図に示すように、マーカー保持板MJ1の上面が連結板MJ9の上面に対向するように、第1蝶番MJ10を介して折りたたまれている。また、図11の1102は、1101に示す状態からさらに第2蝶番MJ11によって折りたたんだ状態を、マーカーM1の面に平行な方向から見た際の側面図を示している。同図に示すように、マーカー保持板MJ1におけるボルトMJ7が突出している側の面同士が対向するように、第2蝶番MJ11を介して折りたたまれている。
【0076】
このように、変形例2において、マーカー設置治具MJは非常にコンパクトに畳むことが可能な構造となっているので、現場への運搬時や使用していないときの保管時の収容スペースを抑えることができる。
【0077】
なお、図10の構造において、位置照合板MJ2のマーカー保持板MJ1に対する取付位置が、例えばスライド機構などにより変更可能となっている構造となっていてもよい。この場合、一対の位置照合板MJ2同士の間の距離を変更することが可能となる。また、多数の連結板を蝶番で連結して蛇腹構造にすることによって、マーカーM1間の距離や位置照合板MJ2同士間の距離を変更することができる構造としてもよい。この構造の場合、各蝶番を個別に固定可能にすれば、マーカーM1間の距離や位置照合板MJ2同士間の距離をとした状態で固定することも可能である。
【0078】
(エレベータ施工方法の処理の流れ)
次に、本実施形態に係るエレベータ施工方法の処理の流れについて図12を参照しながら説明する。エレベータに関する施工が開始されると、まずステップ1(以降、S1のように称する)において、マーカーM1が設けられたマーカー設置治具MJが乗場200における所定位置に設置される。この際に、上記したように、ピアノ線103などの位置基準物を基準にしてマーカー設置治具MJが設置される。
【0079】
次にS2において、作業者はスマートグラス1を装着し、撮像部4によってマーカーを撮像し、位置認識部22による位置認識処理を行わせる。位置認識が行われると、S3において、仮想オブジェクトのオーバーレイ表示が表示制御部21によって行われる。作業者は、一旦マーカーM1によって位置認識部22に対して位置を認識させれば、その後に見る方向を変更したり移動したりしても、現実空間との相対的な位置関係が保たれた状態で仮想オブジェクトを視認することができる。この状態で、S4において、作業者は表示制御部21によってオーバーレイ表示された施工参照情報を確認しながら施工作業を行う。なお、施工作業としては、実際の施工作業だけでなく、施工作業が行われた後のチェック作業も含まれる。そして、S5において、施工作業の終了が確認され、S5においてNo、すなわち施工作業が継続している場合にはS3からの処理が繰り返され、S5においてYes、すなわち施工作業が終了した場合には、処理を終了する。
【0080】
上記の施工方法およびスマートグラス1によれば、エレベータの施工を安全かつ効率的に実施することができる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標11.c「財政的及び技術的な支援などを通じて、後発開発途上国における現地の資材を用いた、持続可能かつ強靱(レジリエント)な建造物の整備を支援する。」等の達成にも貢献するものである。
【0081】
〔ソフトウェアによる実現例〕
スマートグラス1(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部2に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0082】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0083】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0084】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0085】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0086】
(まとめ)
本発明の態様1に係るマーカー設置治具は、エレベータの昇降路を含む現実空間を視る作業者の視界、または、前記現実空間を表す画像に対し、前記現実空間の位置に応じた配置で仮想オブジェクトをオーバーレイ表示する表示装置が前記現実空間の位置を認識するためのマーカーを設置するマーカー設置治具であって、前記昇降路内に位置基準として鉛直方向に設けられている基準線との相対位置を前記作業者に提示する位置基準部材と、前記マーカーが保持されるマーカー保持部材と、を備える構成である。
【0087】
上記の構成によれば、例えばピアノ線やレーザ光などの基準線との相対位置が作業者によって視認されながら、当該マーカー設置治具の配置位置が作業者によって調整されることによって、マーカーを適切な位置に容易に設置することができる。よって、マーカーの位置精度が高く、かつ、作業効率の良好なマーカー設置治具を提供することができる。
【0088】
本発明の態様2に係るマーカー設置治具は、上記の態様1において、前記位置基準部材は、前記基準線に垂直な水平面、および、該水平面に設けられ、前記基準線が配置されることが想定される位置に対して少なくとも2方向から所定の距離をおいて対向する位置に設けられる基準位置提示部を備える構成としてもよい。
【0089】
上記の構成によれば、作業者は、水平面に設けられた基準位置提示部と基準線との相対位置を2方向から確認することができるので、マーカーを適切な位置に設置する作業を容易に行うことができる。
【0090】
本発明の態様3に係るマーカー設置治具は、上記の態様1において、前記位置基準部材は、2本の前記基準線にそれぞれ対応して2つ設けられている構成としてもよい。
【0091】
上記の構成によれば、2か所で基準線に対する位置が決定されるので、より確実にマーカーの設置位置を所定の位置に配置することができる。
【0092】
本発明の態様4に係るマーカー設置治具は、上記の態様3において、2つの前記位置基準部材の間の距離を調整する距離調整部材をさらに備える構成としてもよい。
【0093】
上記の構成によれば、作業対象となる昇降路に設けられている2本の基準線同士の間隔に合わせて、位置基準部材の間の距離を調整することができる。よって、多様な設計仕様の昇降路に対応可能なマーカー設置治具を提供することができる。
【0094】
本発明の態様5に係るマーカー設置治具は、上記の態様1において、前記マーカー保持部材は、前記マーカーの面が水平となるように該マーカーを載置する載置面を備え、該マーカー保持部材が2か所に設けられる構成としてもよい。
【0095】
上記の構成によれば、マーカーが2か所に設けられるので、オーバーレイ表示の位置の基準が2か所となり、より的確にオーバーレイ表示位置を設定することができる。
【0096】
また、マーカーが水平な載置面に載置されるので、例えばエレベータの乗場の床面にマーカーを設置することができる。ここで例えばエレベータが設けられる建築物の建設途中段階において、乗場の壁面などには様々な加工が随時追加されていき、また形状の変化も大きくなる可能性が高い。これに対して、床面は建築物の建設途中段階において、形状の変化が少ないため、例えば床面の美化加工などで高さが少し変更され、マーカーを設置し直したとしても、マーカーの位置の変化は比較的少なくて済むことになる。よって、マーカーの位置の変化に対する各種調整の量を少なくすることができる。
【0097】
本発明の態様6に係るマーカー設置治具は、上記の態様5において、前記マーカー保持部材は、当該マーカー保持部材が載置される面からの前記載置面の高さを変更するための高さ調整部材を備える構成としてもよい。
【0098】
上記の構成によれば、建築物の建設途中段階において、例えば床面の美化加工などで高さが変更された場合でも高さ調整部材によって、変更前後でマーカーの高さ位置を一定に保つことができる。よって、表示装置によるオーバーレイ表示の位置を調整する必要なく、オーバーレイ表示の位置精度を高く保つことができる。
【0099】
本発明の態様7に係るマーカー設置治具は、上記の態様1において、当該マーカー設置治具の載置位置を前記現実空間に固定する固定部材をさらに備える構成としてもよい。
【0100】
上記の構成によれば、マーカー設置治具が所定の場所に固定されて載置されるので、基準線に応じて載置された位置から何らかの外乱でずれてしまうことを防止できる。
【0101】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0102】
1 スマートグラス(表示装置)
2 制御部
3 投影部
4 撮像部
5 記憶部
6 通信部
7 音声入出力部
11 安全ヘルメット
21 表示制御部
22 位置認識部
23 入力制御部
24 警告制御部
101 開口部
102 昇降路
103、103・103 ピアノ線
200 乗場
201 床面
202、300 壁面
M1 マーカー
MJ マーカー設置治具
MJ1 マーカー保持板
MJ2 位置照合板(位置基準部材)
MJ21 第1位置照合辺(基準位置提示部)
MJ22 第2位置照合辺(基準位置提示部)
MJ3 連結部材(距離調整部材)
MJ4 中間部材(距離調整部材)
MJ5 軸部材
MJ6 中空部
MJ7 ボルト
MJ8 連結軸(距離調整部材)
MJ9 連結板
MJ10 第1蝶番
MJ11 第2蝶番
【要約】
【課題】現実空間の位置に応じた配置で仮想オブジェクトをオーバーレイ表示する表示装置が前記現実空間の位置を認識するためのマーカーを設置する際に、位置精度が高く、かつ作業効率の良好なマーカー設置治具を提供する。
【解決手段】昇降路内に位置基準として鉛直方向に設けられている基準線との相対位置を作業者に提示する位置照合板(MJ2)と、マーカー(M1)が保持されるマーカー保持板(MJ1)と、を備える。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12