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7616467燃料電池セパレータ用樹脂組成物、燃料電池セパレータおよび燃料電池セパレータの製造方法
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  • -燃料電池セパレータ用樹脂組成物、燃料電池セパレータおよび燃料電池セパレータの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】燃料電池セパレータ用樹脂組成物、燃料電池セパレータおよび燃料電池セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0226 20160101AFI20250109BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20250109BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M8/0226
H01M8/0213
H01M8/0221
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024100731
(22)【出願日】2024-06-21
【審査請求日】2024-06-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹野 文雄
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-112475(JP,A)
【文献】特開2002-060639(JP,A)
【文献】特開2006-244937(JP,A)
【文献】特開2023-079480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含み、下式で求められる圧縮度が14.0~40.0%であり、かつ、沸点が100℃以下の揮発成分の含有量が1.00質量%未満であることを特徴とする燃料電池セパレータ用樹脂組成物。
圧縮度(%)=100×(樹脂組成物のかため嵩密度-樹脂組成物のゆるみ嵩密度)/樹脂組成物のかため嵩密度
【請求項2】
前記樹脂組成物のゆるみ嵩密度が、0.40~0.90g/ccである請求項1記載の燃料電池セパレータ用樹脂組成物。
【請求項3】
前記黒鉛粉末のゆるみ嵩密度が、0.35~0.70g/ccである請求項1記載の燃料電池セパレータ用樹脂組成物。
【請求項4】
前記主剤が、エポキシ当量194~215g/eqのオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびエポキシ当量180~200g/eqのビフェニル型エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の燃料電池セパレータ用樹脂組成物。
【請求項5】
前記硬化剤が、水酸基当量103~106g/eqのフェノールノボラック樹脂である請求項1記載の燃料電池セパレータ用樹脂組成物。
【請求項6】
前記硬化促進剤が、2位にフェニル基を有するイミダゾール化合物である請求項1記載の燃料電池セパレータ用樹脂組成物。
【請求項7】
黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含み、下式で求められる圧縮度が14.0~40.0%であり、かつ、沸点100℃以下の揮発成分の含有量が1.00質量%未満である燃料電池セパレータ用樹脂組成物を成形してなり、厚さムラが50μm未満、且つ、接触抵抗が7.00mΩ・cm2未満であることを特徴とする燃料電池セパレータ。
圧縮度(%)=100×(樹脂組成物のかため嵩密度-樹脂組成物のゆるみ嵩密度)/樹脂組成物のかため嵩密度
【請求項8】
表面の少なくとも一部にガス流路となる溝部を構成するための厚肉部および薄肉部を有する燃料電池セパレータの製造方法であって、
黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含み、下式で求められる圧縮度が14.0~40.0%であり、かつ、沸点100℃以下の揮発成分の含有量が1.00質量%未満である燃料電池セパレータ用樹脂組成物を、その投入質量が、前記燃料電池セパレータの前記厚肉部と薄肉部の体積比に近似する体積比となるように燃料電池セパレータ用金型に投入する工程を備えることを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
圧縮度(%)=100×(樹脂組成物のかため嵩密度-樹脂組成物のゆるみ嵩密度)/樹脂組成物のかため嵩密度
【請求項9】
前記燃料電池セパレータ用樹脂組成物を、前記燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する凹凸が形成された充填容器に充填する工程と、
前記樹脂組成物が充填された充填容器を燃料電池セパレータ用金型の真上で上下反転させて前記樹脂組成物を前記金型に投入する工程と、
前記金型内に投入された前記樹脂組成物を圧縮成形する工程とを備える請求項記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セパレータ用樹脂組成物、燃料電池セパレータおよび燃料電池セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池セパレータは、各単位セルに導電性を持たせる役割、並びに単位セルに供給される燃料および空気(酸素)の通路を確保するとともに、それらの分離境界壁としての役割を果たすものである。
このため、燃料電池セパレータには、高電気導電性、高ガス不浸透性、厚み精度の高さ、化学的安定性、耐熱性、親水性等の諸特性が要求される。
【0003】
このような性能を満足すべく、初期のセパレータはグラファイトの板を機械加工して形成されていたが、加工時間が掛かることから、セパレータが高価になり過ぎるという問題があった。そこで、最近になって、カーボンの粉末と、熱硬化性合成樹脂の粉末とを混合して粉末状の原料とし、これをプレス機の下金型内に投入して上金型を被せ、プレス機で加圧・加熱して成形する方法が採用されるようになってきた。
【0004】
例えば、特許文献1では、導電性材料および樹脂を含む粉末状原料を充填容器内に充填した後、この充填容器内の粉末状原料を加熱して仮成形し、得られた仮成形品を充填容器とは別の金型内に投入して加熱・加圧することで燃料電池セパレータを成形する方法が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1では、充填容器に粉末状原料を充填し、次いで加熱をして、金型に投入するまでの前準備に要する時間が3~4分であるため、生産効率が低いという問題があった。
また、充填容器に粉末状原料を充填する時間が長いと、原料供給装置内で粉末状原料が凝集してしまうため、所定の質量を充填容器に充填できなくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-244937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、燃料電池セパレータを製造する際に充填容器への充填時間を短縮できるとともに、充填量のバラツキを抑えることができ、さらに、厚さムラが小さく、接触抵抗が低い燃料電池セパレータを形成できる燃料電池セパレータ用樹脂組成物、燃料電池セパレータおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、所定の圧縮度を有し、沸点が100℃以下の揮発成分の含有量が所定範囲である樹脂組成物が、燃料電池セパレータを製造する際に充填容器への充填時間を短縮できるとともに、充填量のバラツキを抑えることができ、さらに、厚さムラが小さく、接触抵抗が低い燃料電池セパレータを形成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含み、下式で求められる圧縮度が14.0~40.0%であり、かつ、沸点が100℃以下の揮発成分の含有量が1.00質量%未満であることを特徴とする燃料電池セパレータ用樹脂組成物、
圧縮度(%)=100×(樹脂組成物のかため嵩密度-樹脂組成物のゆるみ嵩密度)/樹脂組成物のかため嵩密度
2. 前記樹脂組成物のゆるみ嵩密度が、0.40~0.90g/ccである1記載の燃料電池セパレータ用樹脂組成物、
3. 前記黒鉛粉末のゆるみ嵩密度が、0.35~0.70g/ccである1記載の燃料電池セパレータ用樹脂組成物、
4. 前記主剤が、エポキシ当量194~215g/eqのオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびエポキシ当量180~200g/eqのビフェニル型エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種である1記載の燃料電池セパレータ用樹脂組成物、
5. 前記硬化剤が、水酸基当量103~106g/eqのフェノールノボラック樹脂である1記載の燃料電池セパレータ用樹脂組成物、
6. 前記硬化促進剤が、2位にフェニル基を有するイミダゾール化合物である1記載の燃料電池セパレータ用樹脂組成物、
7. 充填容器に充填して300mm×400mm×1mmの燃料電池セパレータを成形する際に、前記充填容器への充填時間が120秒未満である1記載の燃料電池セパレータ用樹脂組成物、
8. 充填容器に充填して300mm×400mm×1mmの燃料電池セパレータを成形する際に、前記充填容器への充填質量のバラツキが、基準質量に対して2.00%未満である1記載の燃料電池セパレータ用樹脂組成物、
9. 黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含み、下式で求められる圧縮度が14.0~40.0%であり、かつ、沸点100℃以下の揮発成分の含有量が1.00質量%未満である燃料電池セパレータ用樹脂組成物を成形してなり、厚さムラが50μm未満、且つ、接触抵抗が7.00mΩ・cm2未満であることを特徴とする燃料電池セパレータ、
圧縮度(%)=100×(樹脂組成物のかため嵩密度-樹脂組成物のゆるみ嵩密度)/樹脂組成物のかため嵩密度
10. 表面の少なくとも一部にガス流路となる溝部を構成するための厚肉部および薄肉部を有する燃料電池セパレータの製造方法であって、
黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含み、下式で求められる圧縮度が14.0~40.0%であり、かつ、沸点100℃以下の揮発成分の含有量が1.00質量%未満である燃料電池セパレータ用樹脂組成物を、その投入質量が、前記燃料電池セパレータの前記厚肉部と薄肉部の体積比に近似する体積比となるように燃料電池セパレータ用金型に投入する工程を備えることを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法、
圧縮度(%)=100×(樹脂組成物のかため嵩密度-樹脂組成物のゆるみ嵩密度)/樹脂組成物のかため嵩密度
11. 前記燃料電池セパレータ用樹脂組成物を、前記燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する凹凸が形成された充填容器に充填する工程と、
前記樹脂組成物が充填された充填容器を燃料電池セパレータ用金型の真上で上下反転させて前記樹脂組成物を前記金型に投入する工程と、
前記金型内に投入された前記樹脂組成物を圧縮成形する工程とを備える10記載の燃料電池セパレータの製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の燃料電池セパレータ用樹脂組成物は、所定の圧縮度を有し、沸点が100℃以下の揮発成分の含有量が所定範囲に調整されているので、粉体としての流動性および充填性に優れており、燃料電池セパレータ用金型へ投入する際に要する時間が短く、生産性に優れ、また、金型へ投入する充填質量のバラツキが小さい。
このような特性を有する本発明の燃料電池セパレータ用組成物を成形して得られた燃料電池セパレータは、厚さムラが小さく、接触抵抗が低い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の燃料電池セパレータの製造で用いる樹脂組成物の充填装置の一例を示す概略断面図である。
図2図1の充填装置の要部を示す概略斜視図である。
図3】充填容器にパターンを形成した場合の成形工程を示す説明図である。
図4】充填容器にパターンを形成しない場合の成形工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
[燃料電池セパレータ用樹脂組成物]
本発明に係る燃料電池セパレータ用樹脂組成物は、黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含み、下式で求められる圧縮度が14.0~40.0%であり、かつ、沸点が100℃以下の揮発成分の含有量が1.00質量%未満であることを特徴とする。
圧縮度(%)=100×(樹脂組成物のかため嵩密度-樹脂組成物のゆるみ嵩密度)/樹脂組成物のかため嵩密度
【0013】
本発明において、燃料電池セパレータ用樹脂組成物の圧縮度は、14.0~40.0%であるが、18.0~35.0%が好ましい。
圧縮度が14.0%未満であると、本発明の樹脂組成物を金型や充填容器に充填する際に要する時間は短くなるが、その一方で流動性が過剰になるため、樹脂組成物を金型や充填容器に充填する際の質量が基準値より多くなったり、金型や充填容器から溢れたりするため、燃料電池セパレータの厚い部分(厚肉部)と薄い部分(薄肉部)の体積比に近似する体積比となる質量を安定的に充填できない。
圧縮度が40.0%を超えると、本発明の樹脂組成物の流動性が不足するため、金型や充填容器に充填する際に長時間を要してしまい、金型や充填容器に充填する際の質量が基準質量より少なくなったりするため、燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する体積比となる質量を安定的に充填できない。
なお、本発明において、基準質量とは、燃料電池セパレータの厚さを設計値通りに成形するための充填質量のことをいう。また、本発明において、「燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する体積比となる質量」を充填するとは、金型または充填容器に樹脂組成物を充填する際に、燃料電池セパレータの厚肉部に対応する部分と薄肉部に対応する部分に充填する量が燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比とほぼ等しくなるように、厚肉部に対応する部分には厚く充填し、薄肉部に対応する部分には薄く充填することをいう。
【0014】
なお、本発明において、上記圧縮度の算出に用いる樹脂組成物のゆるみ嵩密度(g/cc)およびかため嵩密度(g/cc)は、ホソカワミクロン(株)製パウダーテスターPT-Sによる測定値であり、ゆるみ嵩密度は振動時間30秒の条件での測定値であり、かため嵩密度はタッピング回数180回の条件での測定値である。
【0015】
本発明の燃料電池セパレータ用樹脂組成物は、上記の圧縮度等を満たす限り、粒状、粉体状等の任意の形態とすることができるが、粉体状が好ましい。
粉体の形状は特に限定されず、任意の形状のものを用いることができる。その粒径も特に限定されないが、700μm以下が好ましく、600μm以下がより好ましい。なお、本発明において、上記粒径は、粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製 MT3000)を用い、湿式により測定した値である。
【0016】
本発明の燃料電池セパレータ用樹脂組成物のゆるみ嵩密度は、0.40~0.90g/ccが好ましく、0.45~0.85g/ccがより好ましい。
ゆるみ嵩密度が0.40~0.90g/ccであると、本発明の樹脂組成物の流動性が適度であるため、樹脂組成物を金型や充填容器に充填する際に長時間を要しないので、樹脂組成物が原料供給装置内で凝集することがなく、所定の質量を安定的に充填することができる。
【0017】
本発明の燃料電池セパレータ用樹脂組成物に含まれる沸点が100℃以下の揮発成分は、1.00質量%未満であるが、0.9質量%以下が好ましい。
揮発成分が1.00質量%以上であると、本発明の樹脂組成物が原料供給装置の壁面に付着したり、原料供給装置内で凝集したりするため、金型や充填容器に充填する際に長時間を要してしまい、燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する体積比となる質量を安定的に充填できない。
なお、本発明において、樹脂組成物に含まれる沸点が100℃以下の揮発成分の量は、(株)ケット科学研究所製赤外線水分計FD-660により110℃で10分間保持した条件での測定値である。
【0018】
本発明で用いる黒鉛粉末としては、本発明の樹脂組成物の圧縮度の範囲が満たされる限り、その種類等は特に限定されるものではなく、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれを用いてもよい。
人造黒鉛としては、針状コークスを焼成した人造黒鉛、塊状コークスを焼成した人造黒鉛、球状化した人造黒鉛、表面をピッチコート等で処理した人造黒鉛などが挙げられる。
一方、天然黒鉛としては、鱗片状天然黒鉛、土壌黒鉛、球状化した天然黒鉛、表面をピッチコート等で処理した天然黒鉛などが挙げられる。
いずれにおいても適宜選択すればよい。なお、これらの黒鉛粉末は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本発明で用いる黒鉛粉末のゆるみ嵩密度は、0.35~0.75g/ccが好ましく、0.35~0.70g/ccがより好ましい。黒鉛粉末のゆるみ嵩密度の範囲が0.35~0.75g/ccであると、樹脂組成物の圧縮度を14.0~40.0%の範囲に容易に調整できる。
なお、黒鉛粉末のゆるみ嵩密度は、上述した樹脂組成物のゆるみ嵩密度と同一装置および同一条件による測定値である。
【0020】
一方、エポキシ樹脂成分を構成する主剤としては、エポキシ基を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂単独、ビフェニル型エポキシ樹脂単独、これらの混合物が好ましい。
本発明で用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されるものではないが、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の場合、194~215g/eqが好ましく、ビフェニル型エポキシ樹脂の場合、当量180~200g/eqが好ましい。
【0021】
本発明で用いるエポキシ樹脂主剤の加水分解性塩素含有量としては、450ppm以下が好ましい。加水分解性塩素含量が450ppm以下であると、硬化物の架橋密度が高まる結果、得られるセパレータの耐熱性が向上する。一方、その下限は特に制限されるものではないが、加水分解性塩素含量370ppm未満のエポキシ樹脂は非常に高価であるため、コスト面を考慮すると、その下限は370ppmが好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂成分を構成する硬化剤としては、フェノール樹脂が好ましい。その具体例としては、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、アラルキル変性フェノール樹脂、ビフェニルノボラック型フェノール樹脂、トリスフェノールメタン型フェノール樹脂等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
本発明で用いるフェノール樹脂の水酸基当量は、特に限定されるものではないが、103~106g/eqが好ましい。
【0023】
エポキシ樹脂成分を構成する硬化促進剤としては、エポキシ基と硬化剤との反応を促進するものであれば特に制限されるものではなく、ホスフィン化合物、アミン化合物、イミダゾール化合物等が挙げられるが、これらの中でも、本発明では、2位にアリール基を有するイミダゾール化合物を用いることが好ましい。アリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられるが、フェニル基が好ましい。2位にアリール基を有するイミダゾール化合物の具体例としては、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。
なお、2-メチルイミダゾール等の短鎖アルキル基を有するイミダゾール化合物を用いると、硬化時間が速すぎて均一な成形ができない場合があり、一方、2-ウンデシルイミダゾール等の長鎖アルキル基を有するイミダゾール化合物を用いると、硬化時間が遅すぎて成形時間が長くなる場合がある。
【0024】
また、本発明で用いる組成物には、上記各成分に加え、内部離型剤等の任意成分を適宜配合することもできる。
内部離型剤としては、従来、セパレータの成形に用いられている各種内部離型剤から適宜選択すればよく、その具体例としては、ステアリン酸系ワックス、アマイド系ワックス、モンタン酸系ワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物において、黒鉛粉末、エポキシ樹脂成分(主剤、硬化剤および硬化促進剤)の配合量は特に限定されるものではないが、黒鉛粉末100質量部に対してエポキシ樹脂成分22~40質量部が好ましく、27~35質量部がより好ましく、30~33質量部がより一層好ましい。
エポキシ樹脂成分の配合量をこの範囲とすることで、樹脂組成物の流動性が適度になって成形性が良好になるとともに、得られる燃料電池セパレータのガス不浸透性および導電性が著しく低下することを防止し得る。
この場合、主剤に対して硬化剤を0.98~1.08当量配合することが好ましく、0.99~1.05当量配合することがより好ましい。
また、硬化促進剤の使用量は特に限定されるものではなく、主剤と硬化剤との混合物100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.5~2質量部がより好ましい。
さらに、内部離型剤を用いる場合、その使用量は、特に限定されるものではないが、黒鉛粉末100質量部に対して0.01~3.0質量部が好ましく、0.05~1.5質量部がより好ましい。
【0026】
本発明の燃料電池セパレータ用樹脂組成物は、後述する本発明の燃料電池セパレータの製造方法において、例えば、300mm×400mm×1mmの大きさの燃料電池セパレータを製造する場合、この燃料電池セパレータに対応する大きさ(例えば、300mm×400mm×3mm)の充填容器に充填する際の充填時間を120秒未満とすることができる。充填時間の下限は特に限定されないが、通常、20秒以上である。なお、充填時間の測定方法は、後述する実施例に記載したとおりである。
また、例えば、上記と同じ大きさの燃料電池セパレータを製造する場合、充填容器に充填する際の充填質量の基準質量に対するバラツキを2.00%未満、好ましくは1.98%以下、より好ましくは1.96%以下とすることができる。バラツキの下限は特に限定されないが、通常、0.10%以上である。なお、このバラツキの測定方法も、後述する実施例に記載したとおりである。
【0027】
[燃料電池セパレータ用樹脂組成物の製造方法]
本発明の燃料電池セパレータ用樹脂組成物は、例えば、黒鉛粉末、主剤、硬化剤および硬化促進剤のそれぞれを任意の順序で所定割合混合して調製すればよい。この際、混合機としては、例えば、プラネタリミキサ、リボンブレンダ、レディゲミキサ、ヘンシェルミキサ、ロッキングミキサ、ナウターミキサ等を用いることができる。
なお、内部離型剤を用いる場合、その配合順序も任意である。
本発明の燃料電池セパレータ用樹脂組成物は、粉体状であるため、原料としても粉体状のものを用いることが好ましく、これにより、粉体状の樹脂組成物を容易に調製することができる。
【0028】
樹脂組成物の製造にあたって、上述した圧縮度範囲に調節したり、沸点100℃以下の揮発成分の含有量を所定量未満としたりする目的で、必要により、各成分の混合後、得られた混合物を、例えば30~60℃で1~3時間乾燥し、粉砕して燃料電池セパレータ用樹脂組成物とすることができる。
また、各成分の混合後、加圧ニーダー、二軸式連続混練機、エクストルダー、熱ロール等により溶融混練し、冷却後、固化した混合物を所定の大きさに粉砕して燃料電池セパレータ用樹脂組成物とすることもできる。
溶融混練する際の加熱温度は、エポキシ樹脂の融点以上熱硬化温度未満であれば特に限定されないが、40~100℃が好ましく、50~90℃がより好ましい。加熱時間も特に限定されないが、1~10分間が好ましく、1~5分間がより好ましい。
【0029】
[燃料電池セパレータ]
本発明の燃料電池セパレータは、上述した燃料電池セパレータ用樹脂組成物を成形して得られ、厚さムラが50μm未満であって、且つ接触抵抗が7.00mΩ・cm2未満である。
【0030】
本発明の燃料電池セパレータの厚さムラは、50μm未満であるが、49μm以下が好ましい。下限値は特に限定されず小さいほど好ましいが、特に1μm以上である。
なお、本発明において、上記厚さムラは、燃料電池セパレータの厚さをマイクロメータで20点測定し、以下の式より評価した値である。
厚さムラ(μm)=燃料電池セパレータの最大厚さ-燃料電池セパレータの最小厚さ
【0031】
本発明の燃料電池セパレータの接触抵抗は、7.00mΩ・cm2未満であるが、6.90mΩ・cm2以下が好ましい。下限値は特に限定されず小さいほど好ましいが、通常1mΩ・cm2以上である。
なお、本発明において、上記接触抵抗は、後述の実施例記載の方法による算出値である。
【0032】
[燃料電池セパレータの製造方法]
本発明の燃料電池セパレータは、例えば、上述した本発明の燃料電池セパレータ用樹脂組成物を所定の型に入れ、圧縮成形して製造することができる。使用する型としては、成形体表面の片面または両面の少なくとも一部にガス流路となる溝部を形成できる、燃料電池セパレータ用金型等が挙げられる。これにより、表面の少なくとも一部にガス流路となる溝部を構成するための厚肉部および薄肉部を有する燃料電池セパレータが得られる。
この際、金型への樹脂組成物の投入方法は任意であるが、その投入質量が、目的とする燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する体積比となるように燃料電池セパレータ用金型に投入することが好ましい。
圧縮成形の条件は、特に限定されるものではないが、型温度が150~190℃、成形圧力30~60MPa、好ましくは30~50MPaである。
圧縮成形時間は、特に限定されるものではなく、3秒から1時間程度で適宜設定することができるが、生産効率の観点から短時間であることが好ましく、具体的には40秒以下が好ましい。
なお、圧縮成形後、熱硬化を促進させる目的で、さらに150~200℃で1~600分程加熱してもよい。
【0033】
上述のとおり、本発明の樹脂組成物は、所定の圧縮度を有し、沸点100℃以下の揮発成分の含有量が所定範囲であるため、充填容器への充填時間を短縮できるとともに、充填容器内での充填量のバラツキを抑えることができるという特性を有しているため、特に、特許文献1に開示されたような、粉体原料を一旦充填容器に充填した後、金型へ投入する工程を有する製造方法に好適に用いることができる。
したがって、本発明の燃料電池セパレータは、上述した樹脂組成物を、燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する凹凸が形成された充填容器に充填する工程と、樹脂組成物が充填された充填容器を燃料電池セパレータ用金型の真上で上下反転させて樹脂組成物を金型に投入する工程と、金型内に投入された樹脂組成物を圧縮成形する工程とを備える製造方法にて製造することが好ましい。なお、本発明において、「燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する凹凸が形成された充填容器」とは、燃料電池セパレータの厚肉部に対応する凹部と薄肉部に対応する凸部が形成された充填容器であって、上記凹部と凸部の体積比が、燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比とほぼ等しいものをいう。
この場合、充填容器を上下反転させる前に、加熱処理して充填された樹脂組成物を仮成形してもよい。加熱処理条件は、エポキシ樹脂の融点より高く硬化点より低い温度であれば特に制限されるものではなく、例えば、50~100℃で0.5~10分間加熱する条件が挙げられる。
【0034】
以下、図面を参照しつつ、本発明の燃料電池セパレータの製造方法の一実施形態について説明する。
本発明の燃料電池セパレータの製造方法は、図1に示される充填装置10を用いて実施することができる。
充填装置10は、図1および図2に示されるように、樹脂組成物Aを保持するホッパー11と、ホッパー11の下部に設置された充填容器12と、充填容器12が載置された移動台13とを備えて構成される。充填容器12は、移動台13に設けられた図示していない開口部に嵌め込まれて移動台13上にほぼ水平に載置され、その上面12bはほぼ水平な平面となっている。
【0035】
移動台13には、車輪13aとロッド14aを介して移動手段14とが取り付けられており、レール等の基台15上に載置されている。ロッド14aは、図示していない回転機構にも連結されており、回転機構を駆動させることでロッド14aはその軸を中心に回転し、これと一体となって移動台13も回転するようになっている。
移動台13を移動させるには、例えば、ロッド14aをラックとし、移動手段14にピニオンを設けてこのピニオンを図示していないモータで正逆双方向に回転することで、移動台13を基台15上で図1中の左右方向に移動させればよい。移動手段14としては、単軸ロボットや流体シリンダを使用してもよい。
【0036】
ホッパー11は、内部に空間11aを有し、その上方が開口してここから本発明の樹脂組成物Aが投入される。ホッパー11の下部には細長い矩形の供給口11bが設けられている。なお、この供給口11bに、例えば、スライドすることで開閉される開閉蓋11cが設けられていてもよい。
供給口11bは、充填容器12の上面12bから所定の距離、例えば、0.1~1mm程度上方に位置しており、上面12b上を擦り切ることができるように構成されている。
樹脂組成物Aにダマがあると、充填された樹脂組成物Aにムラが生じる場合があるため、これを防止すべく、供給口11bに網目状のふるいが設けられていてもよい。ホッパー11は、図示していない支持体で支持され、支持体やホッパー11などに設けられた図示していないバイブレータで図1の矢印で示すように、水平面内で振動可能に構成されている。バイブレータとしては、ロータリーバイブレータ、ピストンバイブレータなどを使用することができる。
【0037】
図2に示されるように、充填容器12には、燃料電池セパレータの溝部に対応するとともに、その厚みの分布を考慮し、燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する凹凸のパターン12aが形成されている。
充填容器12の材質は、燃料電池セパレータ用金型と同じ材質にしてもよいが、プレスで圧力を加えることが無いので、樹脂組成物Aを融点付近で加熱するときに変形せず、かつ、その温度に耐えられる程度の耐熱性があればよい。また、加熱や投入の際の運搬を考慮して、軽量な材質が好ましい。さらに、ヒーター等で加熱した際に、樹脂組成物Aに万遍なく熱を行き渡らせるため、熱伝導性の高い材質が好ましい。これらの点を考慮すると、例えば、アルミニウム等を使用した緻密質充填容器が好ましい。
【0038】
充填容器12の開口幅wと外幅Wとホッパー11の供給口11bの長さLとは、通常、w≦L<Wとなるようにし、充填容器12を配置するときは、供給口11bが充填容器12の開口を跨ぐようにする。L<wにすると充填容器12内に樹脂組成物Aが均等に入らなくなるからであり、W<Lになると、充填容器12の外側にも樹脂組成物Aがこぼれて無駄が多くなるからである。ただし、工程上の諸条件により、L<wにする場合もある。
【0039】
充填容器12に樹脂組成物Aを充填する際は、まず、充填容器12の開口端がホッパー11の供給口11bのほぼ中央部に位置するように、充填容器12を載置し、ホッパー11内に樹脂組成物Aを投入する。その際、同時に図示していないバイブレータでホッパー11を図2の左右方向に振動させることで、内部の樹脂組成物Aが途中で引っかからずにスムーズに落下できるようにすることもできる。
【0040】
ホッパー11内に樹脂組成物Aを投入すると、樹脂組成物Aは落下して、充填容器12内の供給口11bの下部に充填され、その上にホッパーの空間11a内の樹脂組成物Aが積み上がった状態となる。この状態から移動台13が図の矢印方向に移動すると、ホッパー11内の樹脂組成物Aが充填容器12内を充填しながら、余分な樹脂組成物Aをホッパー11の供給口11bで擦り切って樹脂組成物Aを上面が平らになるように充填する。充填容器12の上面12bで擦り切ることを目的として、図示していない擦り切り板を設けてもよい。
充填容器12が供給口11bの下を通過し終わると、図3(a)に示すように凹凸のパターン12aが形成された充填容器12の空間内に樹脂組成物Aが充填された状態となる。
【0041】
この後、必要に応じて充填容器12を図示していない加熱台に置き、ヒーターなどの加熱器具で樹脂組成物Aをエポキシ樹脂の融点より高く硬化点より低い温度まで加熱し、その状態を保持することで仮成形してもよい。なお、加熱温度が低い場合は樹脂が溶融しないために仮成形ができず、一方、加熱温度が高すぎる場合は、硬化が始まってしまい成形ムラ(疎など)の原因になる。加熱温度は融点をTmとして、Tm~Tm+50℃が好ましく、Tm~Tm+20℃がより好ましい。
【0042】
仮成形後の樹脂組成物Aは、含まれている樹脂の一部が溶融して粒子相互が軽く溶着した状態となり、充填容器12を上下反転させてもすぐには落ちてこない状態となる。粉体の場合、金型へ樹脂組成物Aを一度に投入することは困難であるが、仮成形を行うことで、粒子相互が軽く溶着一体化した樹脂組成物Aを一度に投入することが可能となり、均一投入を容易に行うことができる。
なお、仮成形後の粒子相互の溶着の程度は、樹脂の一部が溶融した程度で、充填容器12を反転させても辛うじて落ちてこない程度の結合でも、樹脂のすべてが溶融して一体化し、強い応力を加えると折れるが、小さい応力であれば折れたり破損したりすることのない程度の結合でもよいが、充填容器12を反転させても辛うじて落ちてこない程度に結合させた程度が好ましい。
【0043】
次いで、移動手段14により移動台13を移動させ、図3(b)に示すように、樹脂組成物Aが充填された充填容器12をパターン21aが形成された成形用の下金型21の真上にもっていき、位置決めピンなどで正確に位置決めして、図示していない回転機構によりロッド14aを回転させて移動台13と共に充填容器12を上下反転させ、樹脂組成物Aを成形用の下金型21の上に落下させる。樹脂組成物Aは、充填容器12から取り出そうとすると崩れてしまう程度にしか融着しておらず、充填容器12からそのまま取り出すことができないような場合でも、この方法であれば、金型に均一に投入することができる。
その後、図3(c)に示すように、パターン22aが形成された上金型22を降下させ、上述した圧縮成形条件にて圧力と熱を加えて元の厚さの数分の1の厚さに圧縮し、図3(d)に示される燃料電池セパレータ1となる。
【0044】
このようにして得られた燃料電池セパレータ1には溝部を構成するパターン1aが形成され、厚肉部と薄肉部の2種類の厚さを有する部位がある。薄肉部が溝の底部に対応する部分で厚肉部は溝と溝との間の部分である。この場合、燃料電池セパレータ1は、厚肉部も薄肉部も同じ密度になっていることが好ましい。
【0045】
次に、充填容器12に形成するパターンの深さと、燃料電池セパレータ1の厚さとの関係について説明する。
図4は、パターンが形成されていない充填容器(図示省略)を用いた場合について説明する図である。図4(a)に示すように、上金型22と下金型21には、燃料電池セパレータ1’の溝部を形成するためのパターン21a,22aが形成されている。充填容器にパターンが形成されていない場合は、図4(a)に示すように、一定の厚さを持った樹脂組成物Aを上金型22と下金型21との間に入れ、加圧、加熱を加えて燃料電池セパレータ1’を作製する。この場合、図4(b)に示すように、薄肉部の密度が密になり、厚肉部の密度は疎になってしまう。
【0046】
そこで、本実施形態では、図2に示されるように充填容器12に凹凸のパターン12aを形成している。そして、図3(d)のように、得られる燃料電池セパレータ1の厚肉部の厚さをm、薄肉部の厚さをnとし、図3(a)のように、充填容器12のパターン12aの深い部分の深さをM、浅い部分の深さをNとしたとき、M、N、mおよびnの関係が、M:N≒m:nとなるようにしている。このようにすることで、燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する凹凸を充填容器に形成することができ、燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する体積比となる質量を充填容器に充填することができる。
【0047】
本実施形態では、このような考えで充填容器12の凹凸のパターン12aを形成しているので、完成した燃料電池セパレータ1には疎密のムラはできず、均一な成形体を得ることができる。
【0048】
なお、燃料電池セパレータ1のパターン1aと充填容器12のパターン12aとは一致させてもよいが、パターン1aが細かい場合には、パターン1aと同じものを充填容器12に形成しなくともよい。忠実に同じパターンを形成すると、金型投入時の問題として、充填容器12から金型へスムーズに投入されず、充填容器12に樹脂組成物Aの一部が残存してしまうことが起こる場合がある。パターン1aが細かい場合には、例えば、複数の凹凸の平均値をとることによって、ほぼ均一な密度の燃料電池セパレータに成形することが可能である。
【0049】
このように、上記実施形態では、例えば、緻密質充填容器を用いることで、樹脂組成物Aを加熱して仮成形するだけで、加圧しないので、樹脂組成物Aをプレス等するための大掛かりな装置が不要となり、燃料電池セパレータの製造コストを引き下げることができ、また、生産の能率アップを図ることが可能である。さらに、直接手で操作しないので、不純物の混入や、仮成形品の破損による歩留まり低下の懸念も払拭することができる。
また、充填容器12内に樹脂組成物Aを均等に投入でき、しかも、燃料電池セパレータ1には疎密のムラができないので、完成した燃料電池セパレータ1には反りなどが生じず、厚さムラも小さくすることができる。
【0050】
なお、充填容器を用いることなく、燃料電池セパレータ用金型に樹脂組成物を、その投入質量が、燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する体積比となるように投入することでも疎密のムラのない燃料電池セパレータを製造することができる。
【0051】
本発明において、上記圧縮成形して得られた燃料電池セパレータ(成形体)には、スキン層の除去や表面粗さ調整等を目的として、粗面化処理を施してもよい。
粗面化処理の手法としては、特に限定されるものでははく、従来公知のブラスト処理や研磨処理などの各種粗面化法から適宜選択すればよいが、エアブラスト処理、ウェットブラスト処理、バレル研磨処理、ブラシ研磨処理が好ましく、砥粒を用いたブラスト処理がより好ましく、ウェットブラスト処理がより一層好ましい。
【0052】
この際、ブラスト処理に用いられる砥粒の平均粒径(d=50)は、3~30μmが好ましく、4~25μmがより好ましく、5~20μmがより一層好ましい。
ブラスト処理で使用する砥粒の材質としては特に限定されるものではなく、例えば、アルミナ、炭化珪素、ジルコニア、ガラス、ナイロン、ステンレス等を用いることができ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
ウェットブラスト処理時の吐出圧力は、砥粒の粒径等に応じて変動するものであるため一概に規定できないが、0.1~1MPaが好ましく、0.15~0.5MPaがより好ましい。
【実施例
【0053】
以下、実施例、比較例および試験例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記例における各物性は以下の方法によって測定した。
(1)カーボン粉末のゆるみ嵩密度、樹脂組成物のゆるみ嵩密度、かため嵩密度、圧縮度の測定
ホソカワミクロン(株)製パウダーテスターPT-Sによりカーボン粉末のゆるみ嵩密度、樹脂組成物のゆるみ嵩密度、かため嵩密度、圧縮度を測定した。
(2)樹脂組成物中の沸点が100℃以下の揮発分量の測定
(株)ケット科学研究所製赤外線水分計FD-660により、樹脂組成物に含まれる沸点が100℃以下の揮発分を、110℃で10分間保持した条件で測定した。
(3)成形用樹脂組成物の粒径の測定
燃料電池セパレータ用樹脂組成物を溶融混練、冷却固化し、粉砕した成形用樹脂組成物の平均粒径を粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製 MT3000)を用い、湿式により測定した。
(4)樹脂組成物の充填時間の測定
図1に示す充填装置を用いて、縦300mm×横400mm×深さ3mmの充填容器に樹脂組成物が充填される時間を測定した。
時間の測定は、ホッパー内の樹脂組成物が充填容器内を充填し始めた時点を測定開始とし、樹脂組成物が充填容器の空間内に満たされた状態となった時点を測定終了として、測定した。
(5)樹脂組成物の充填質量のバラツキ評価
図1に示す充填装置を用いて、縦300mm×横400mm×深さ3mmの充填容器に樹脂組成物を充填させたときの充填質量を測定し、100回繰り返したときの充填質量バラツキを以下の式により評価した。基準質量は200gとした。
充填質量バラツキ(%)=(充填質量最大値-充填質量最小値)/基準質量
(6)燃料電池セパレータの厚さムラの評価
燃料電池セパレータの厚さをマイクロメータで20点測定し、以下の式より厚さムラを評価した。
厚さムラ(μm)=燃料電池セパレータの最大厚さ-燃料電池セパレータの最小厚さ
(7)燃料電池セパレータの接触抵抗の評価
(i)カーボンペーパー+セパレータサンプル
作製した各燃料電池セパレータを2枚重ね合わせ、その上下にカーボンペーパー(東レ(株)製、TGP-H060)を配置し、さらにその上下に銅電極を配置し、上下方向に1MPaの面圧をかけ、4端子法により電圧を測定した。
(ii)カーボンペーパー
カーボンペーパーの上下に銅電極を配置し、上下方向に1MPaの面圧をかけ、4端子法により電圧を測定した。
(iii)接触抵抗算出方法
上記(i),(ii)で求めた各電圧値よりセパレータサンプルとカーボンペーパーとの電圧降下を求め、下記式により接触抵抗を算出した。
接触抵抗(mΩ・cm2)=(電圧降下×接触面積)/電流
【0054】
[1]燃料電池セパレータ用樹脂組成物の製造
[実施例1-1]
黒鉛1(ゆるみ嵩密度0.36g/cc)100質量部に対し、エポキシ樹脂(オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量198g/eq)20.4質量部、フェノール樹脂(ノボラック型フェノール樹脂、水酸基当量103g/eq)10.7質量部、および2-フェニルイミダゾール0.25質量部からなるエポキシ樹脂成分をヘンシェルミキサ内に投入し、800rpmで3分間混合して、混合物を調製した。
得られた混合物を加圧ニーダー(MS式小型加圧ニーダー、日本スピンドル製造(株)(旧株式会社モリヤマ)製)により70℃で3分間溶融混練し、次いで混練物を粉砕機(パワーミル、(株)ダルトン製)により500μm以下に粉砕し、燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0055】
[実施例1-2]
混合物を加圧ニーダーの代わりに二軸式連続混練機(S1KRCニーダー、(株)栗本鐵工所製)で溶融混練した以外は、実施例1-1と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0056】
[実施例1-3]
実施例1-1と同じ黒鉛1およびエポキシ樹脂成分とメチルエチルケトン150質量部をヘンシェルミキサ内に投入し、800rpmで3分間混合して、混合物を調製した。
得られた混合物を40℃で2時間乾燥後、500μm以下に粉砕し、燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0057】
[実施例1-4]
黒鉛1の代わりに黒鉛2(ゆるみ嵩密度0.40g/cc)を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0058】
[実施例1-5]
黒鉛1の代わりに黒鉛3(ゆるみ嵩密度0.48g/cc)を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0059】
[実施例1-6]
黒鉛1の代わりに黒鉛4(ゆるみ嵩密度0.52g/cc)を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0060】
[実施例1-7]
黒鉛1の代わりに黒鉛5(ゆるみ嵩密度0.60g/cc)を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0061】
[実施例1-8]
黒鉛1の代わりに黒鉛6(ゆるみ嵩密度0.70g/cc)を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0062】
[実施例1-9]
混合物を加圧ニーダーの代わりに実施例1-2と同じ二軸式連続混練機で溶融混練した以外は、実施例1-8と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0063】
[実施例1-10]
黒鉛1の代わりに黒鉛8(ゆるみ嵩密度0.73g/cc)を用いて実施例1-1と同様の方法で混合物を調製し、混合物に混練等の造粒(溶融混練および粉砕)を施さずに燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0064】
[実施例1-11]
実施例1-10の混合物を実施例1-2と同じ二軸式連続混練機により70℃で溶融混練し、次いで混練物を500μm以下に粉砕し、燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0065】
[比較例1-1]
黒鉛1の代わりに黒鉛7(ゆるみ嵩密度0.33g/cc)を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0066】
[比較例1-2]
加圧ニーダーの代わりに実施例1-2と同じ二軸式連続混練機にて70℃で溶融混練した以外は、比較例1-1と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0067】
[比較例1-3]
二軸式連続混練機の代わりに実施例1-1と同じ加圧ニーダーにて70℃で3分間溶融混練した以外は、実施例1-11と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0068】
[比較例1-4]
比較例1-2の黒鉛7を黒鉛9(ゆるみ嵩密度0.82g/cc)に変えた以外は、比較例1-2と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0069】
[比較例1-5]
黒鉛4(ゆるみ嵩密度0.52g/cc)100質量部に対し、エポキシ樹脂(オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量198g/eq)20.4質量部、フェノール樹脂(ノボラック型フェノール樹脂、水酸基当量103g/eq)10.7質量部、および2-フェニルイミダゾール0.25質量部からなるエポキシ樹脂成分とメチルエチルケトン150質量部をヘンシェルミキサ内に投入し、800rpmで3分間混合して、混合物を調製した。
得られた混合物を40℃で2時間乾燥し、次いで混練物を500μm以下に粉砕し、燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0070】
[比較例1-6]
加圧ニーダーの代わりにローラーコンパクター(ローラーコンパクターFT105、フロイント産業(株)製)を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0071】
[比較例1-7]
混合物を加圧ニーダーで混練しなかった以外は、実施例1-1と同様の方法で燃料電池セパレータ用樹脂組成物を作製した。
【0072】
上記各実施例および比較例のまとめを表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1-1~1-11で作製した燃料電池セパレータ用樹脂組成物は、圧縮度が14.0~40.0%であり、かつ、沸点が100℃以下の揮発成分の含有量が1.00質量%未満に調整されているので、比較例1-1~1-2,1-4~1-7で作製した成形用の燃料電池セパレータ用樹脂組成物と比較して、充填容器への充填時間が短く、比較例1-1~1-7と比べて充填質量のバラツキも小さいことがわかる。
【0075】
[2]燃料電池セパレータ成形体の製造
[実施例2-1]
実施例1-1で得られた燃料電池セパレータ用樹脂組成物を用いて下記方法で燃料電池セパレータ成形体を得た。
1)図1に示す充填装置を用いて燃料電池セパレータの厚肉部と薄肉部の体積比に近似する凹凸を有する縦300mm×横400mm×深さ3mmの緻密質充填容器に充填し、
2)次いで、樹脂組成物が入った充填容器を75℃で1分間加熱し、
3)次いで、樹脂組成物が充填された充填容器を燃料電池セパレータ用金型の真上で上下反転させることで樹脂組成物を金型内に投入し、
4)金型温度185℃、成形圧力36.6MPa、成形時間30秒の条件で圧縮成形し、緻密質成形体(縦300mm×横400mm×厚さ1mmの燃料電池セパレータ用成形体)を得た。
得られた燃料電池セパレータ用成形体の全表面に対し、アルミナ研創材(平均粒径:d50=6μm)を用いて吐出圧力0.25MPa、搬送速度1.5m/分の条件でウェットブラストによる粗面化処理を施し、燃料電池セパレータを得た。
【0076】
[実施例2-2~2-11、比較例2-1~2-7]
実施例1-2~1-11、比較例1-1~1-7で得られた燃料電池セパレータ用樹脂組成物を用いて実施例2-1と同様の方法でそれぞれ圧縮成形をし、得られた燃料電池セパレータ用成形体の全表面に実施例2-1と同様の方法で粗面化処理を実施し、燃料電池セパレータを得た。
【0077】
得られた燃料電池セパレータについて、上記の手法にて厚さムラおよび接触抵抗を測定した。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
実施例2-1~2-11で得られた燃料電池セパレータは、厚さムラが50μm未満であり、接触抵抗が低いことがわかる。
【0080】
[試験例1-1]
実施例1-1で得られた燃料電池セパレータ用樹脂組成物を燃料電池セパレータ用金型に直接投入し、次いで、金型温度185℃、成形圧力36.6MPa、成形時間30秒の条件で圧縮成形し、燃料電池セパレータ用成形体を得た。
次いで、得られた燃料電池セパレータ用成形体の全表面に実施例2-1と同様の方法で粗面化処理を実施し、燃料電池セパレータを得た。
【0081】
得られた燃料電池セパレータについて、上記の手法にて厚さムラおよび接触抵抗を測定した。結果を実施例2-1の結果とともに表2に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
実施例2-1の燃料電池セパレータは、燃料電池セパレータ用樹脂組成物を充填容器に充填させてから金型に投入しているので、試験例1-1と比較して厚さムラが小さく、接触抵抗が低いことがわかる。
【符号の説明】
【0084】
1 燃料電池セパレータ
10 充填装置
12 充填容器
21 下金型(燃料電池セパレータ用金型)
22 上金型(燃料電池セパレータ用金型)
A 燃料電池セパレータ用樹脂組成物
【要約】
【課題】燃料電池セパレータを製造する際に充填容器への充填時間を短縮できるとともに、充填量のバラツキを抑えることができ、さらに、厚さムラが小さく、接触抵抗が低い燃料電池セパレータを形成できる燃料電池セパレータ用樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含み、下式で求められる圧縮度が14.0~40.0%であり、かつ、沸点が100℃以下の揮発成分の含有量が1.00質量%未満である燃料電池セパレータ用樹脂組成物。
圧縮度(%)=100×(樹脂組成物のかため嵩密度-樹脂組成物のゆるみ嵩密度)/樹脂組成物のかため嵩密度
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4