(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電磁波シールドシート、シールド加工ウエハ、半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/29 20060101AFI20250109BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20250109BHJP
H01L 23/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01L23/30 R
H01L23/00 C
(21)【出願番号】P 2024164422
(22)【出願日】2024-09-20
【審査請求日】2024-11-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100124936
【氏名又は名称】秦 恵子
(72)【発明者】
【氏名】安東 健次
(72)【発明者】
【氏名】松戸 和規
(72)【発明者】
【氏名】松尾 玲季
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-216234(JP,A)
【文献】特開2018-6536(JP,A)
【文献】特開2017-45931(JP,A)
【文献】特開2019-216156(JP,A)
【文献】特開2011-129779(JP,A)
【文献】国際公開第2023/145610(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/235005(WO,A1)
【文献】特開2021-129079(JP,A)
【文献】特開2016-056370(JP,A)
【文献】特開2003-347441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/29
H01L 23/00
H01L 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子状に形成されたハーフカット溝と、前記ハーフカット溝により区画され、マトリックス状に配置された素子形成領域とを有する個片化前の半導体ウエハの少なくともどちらか一方の主面を、一括被覆するための電磁波シールドシートであって、
前記電磁波シールドシートは、バインダー成分および導電フィラー(F)を含むシールドフィルムを少なくとも有し、
前記電磁波シールドシートの100℃における伸長率が100~1500%であり、
前記電磁波シールドシートを180℃で2時間処理した後の硬化シートの100℃におけるヤング率が100~1000MPaである、電磁波シールドシート。
【請求項2】
前記電磁波シールドシートを、シリコンのベアウエハの主面全体に、120℃、5MPaで3分熱圧着し、続いて180℃で2時間処理した後の前記電磁波シールドシート由来のシールドカバー層に対し、JIS K5600-5-6に基づくプレッシャークッカー試験を行った後の密着試験における剥離率が15%未満である、請求項1に記載の電磁波シールドシート。
【請求項3】
前記バインダー成分は、重量平均分子量が5,000以下の硬化性化合物(C)および重量平均分子量が10,000以上の高分子量樹脂(P)を含む請求項1に記載の電磁波シールドシート。
【請求項4】
導電フィラー(F)の含有率が45~85質量%である、請求項1に記載の電磁波シールドシート。
【請求項5】
導電フィラー(F)の平均比表面積[m
2/g]と、前記バインダー成分100質量部に対する導電フィラー(F)の含有量[g]の積が50~1200[m
2]である請求項1に記載の電磁波シールドシート。
【請求項6】
硬化性化合物(C)は、重量平均分子量が5,000以下のエポキシ基含有化合物(E)を含み、
エポキシ基含有化合物(E)のエポキシ当量は、110~1000g/eqであり、
高分子量樹脂(P)100質量部に対して、エポキシ基含有化合物(E)を10~80質量部含む請求項1に記載の電磁波シールドシート。
【請求項7】
幅200μm、深さ200μmのハーフカット溝が、4000μm間隔で格子状に形成された12インチのシリコンのベアウエハの主面全体に、前記電磁波シールドシートを120℃、5MPaで3分間熱圧着し、180℃で2時間処理した後の前記電磁波シールドシート由来のシールドカバー層を形成し、前記ハーフカット溝を介して隣接位置にある凸部に被覆された前記シールドカバー層間の抵抗値が5~300mΩである請求項1に記載の電磁波シールドシート。
【請求項8】
個片化前の半導体ウエハの少なくとも一主面上に、請求項1~7のいずれかに記載の電磁波シールドシートにより形成されたシールドカバー層を有する、シールド加工ウエハ。
【請求項9】
請求項8に記載のシールド加工ウエハが素子形成領域単位で個片化された半導体装置。
【請求項10】
スクライブラインに沿ってマトリックス状に形成された素子形成領域を有する個片化前の半導体ウエハにおいて、ハーフカット溝を形成する工程と、
前記半導体ウエハの上方に、請求項1~7のいずれかに記載の電磁波シールドシートを配置する工程と、
前記半導体ウエハに前記電磁波シールドシートを熱圧着する工程と、
前記電磁波シールドシートを加熱、硬化することによりシールドカバー層を得る工程と、
前記素子形成領域単位に個片化する工程とを含む、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁波シールドシート、シールド加工ウエハ、並びに半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル端末等の電子機器内部に集積された半導体部品の誤動作を防止するために、半導体部品から発生する電磁波ノイズや外部からの電磁波ノイズを遮蔽する技術が必要となる。
特許文献1には、第1回路部材上に複数の第2回路部材が搭載された実装部材を準備する工程と、この実装部材を被覆する第1硬化層を形成する工程と、第1硬化層上にシールドカバー層等の機能層を気相法および/又はめっき法により形成する工程等を有する実装構造体の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、電磁波シールド性を有する支持基材と、この支持基材上に積層された封止材を備える電磁波シールド性支持基材付封止材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/117259号
【文献】特開2016-092275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子機器の軽薄短小化の流れを受けて、半導体パッケージについても小型化、軽量化を実現する、高密度実装が要求されている。このため、ボンディング・ワイヤーによる内部配線を行わず、ウエハの個片化する前の段階で外部端子や封止樹脂を形成して、ウエハに形成された半導体素子をパッケージングするウエハレベルチップサイズパッケージ(WL-CSP)技術が注目を集めている。このようなウエハに対して一括被覆が可能であり、且つ個片化後の半導体装置の側方にも被覆できる電磁波シールドシートを提供できれば、汎用性、経済性および量産性において非常に利点がある。
【0005】
本開示は、上記背景に鑑みてなされたものであり、個片化前の半導体ウエハに対して一括被覆でき、被覆性に優れる信頼性の高い電磁波シールドシート、並びに前記電磁波シールドシートを用いて形成されるシールド加工ウエハ、半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本開示の課題を解決し得ることを見出し、本開示を完成するに至った。
[1]:格子状に形成されたハーフカット溝と、前記ハーフカット溝により区画され、マトリックス状に配置された素子形成領域とを有する個片化前の半導体ウエハの少なくともどちらか一方の主面を、一括被覆するための電磁波シールドシートであって、
前記電磁波シールドシートは、バインダー成分および導電フィラー(F)を含むシールドフィルムを少なくとも有し、
前記電磁波シールドシートの100℃における伸長率が100~1500%であり、
前記電磁波シールドシートを180℃で2時間処理した後の硬化シートの100℃におけるヤング率が100~1000MPaである、電磁波シールドシート。
[2]:前記電磁波シールドシートを、シリコンのベアウエハの主面全体に、120℃、5MPaで3分熱圧着し、続いて180℃で2時間処理した後の前記電磁波シールドシート由来のシールドカバー層に対し、JIS K5600-5-6に基づくプレッシャークッカー試験を行った後の密着試験における剥離率が15%未満である[1]に記載の電磁波シールドシート。
[3]:前記バインダー成分は、重量平均分子量が5,000以下の硬化性化合物(C)および重量平均分子量が10,000以上の高分子量樹脂(P)を含む[1]又は[2]に記載の電磁波シールドシート。
[4]:導電フィラー(F)の含有率が45~85質量%である[1]~[3]のいずれかに記載の電磁波シールドシート。
[5]:導電フィラー(F)の平均比表面積[m2/g]と、前記バインダー成分100質量部に対する導電フィラー(F)の含有量[g]の積が50~1200[m2]である[1]~[4]のいずれかに記載の電磁波シールドシート。
[6]:硬化性化合物(C)は、重量平均分子量が5,000以下のエポキシ基含有化合物(E)を含み、エポキシ基含有化合物(E)のエポキシ当量は、110~1000g/eqであり、高分子量樹脂(P)100質量部に対して、エポキシ基含有化合物(E)を10~80質量部含む[1]~[5]のいずれかに記載の電磁波シールドシート。
[7]:幅200μm、深さ200μmのハーフカット溝が、4000μm間隔で格子状に形成された12インチのシリコンのベアウエハの主面全体に、前記電磁波シールドシートを120℃、5MPaで3分間熱圧着し、180℃で2時間処理した後の前記電磁波シールドシート由来のシールドカバー層を形成し、前記ハーフカット溝を介して隣接位置にある凸部に被覆された前記シールドカバー層間の抵抗値が、5~300mΩである[1]~[6]のいずれかに記載の電磁波シールドシート。
[8]:個片化前の半導体ウエハの少なくとも一主面上に、[1]~[7]のいずれかに記載の電磁波シールドシートにより形成されたシールドカバー層を有する、シールド加工ウエハ。
[9]:[8]に記載のシールド加工ウエハが素子形成領域単位で個片化された半導体装置。
[10]:スクライブラインに沿ってマトリックス状に形成された素子形成領域を有する個片化前の半導体ウエハにおいて、ハーフカット溝を形成する工程と、
前記半導体ウエハの上方に、[1]~[7]のいずれかに記載の電磁波シールドシートを配置する工程と、
前記半導体ウエハに前記電磁波シールドシートを熱圧着する工程と、
前記電磁波シールドシートを加熱、硬化することによりシールドカバー層を得る工程と、
前記素子形成領域単位に個片化する工程とを含む、半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、個片化前の半導体ウエハに対して一括被覆でき、被覆性に優れる信頼性の高い電磁波シールドシート、並びに前記電磁波シールドシートを用いて形成されるシールド加工ウエハ、半導体装置およびその製造方法を提供できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るウエハの一例を示す模式的説明図。
【
図4】変形例1に係るシールド加工付きウエハの一例を示す模式的断面図。
【
図5】変形例2に係るシールド加工付きウエハの一例を示す模式的断面図。
【
図6】変形例3に係るシールド加工付きウエハの一例を示す模式的断面図。
【
図7】実施形態に係る電磁波シールドシートの一例を示す側面図。
【
図8】変形例に係る電磁波シールドシートの一例を示す側面図。
【
図9】実施形態の半導体装置の要部の一例を示す模式的断面図。
【
図10】変形例の半導体装置の要部の一例を示す模式的断面図。
【
図11】実施形態の半導体装置の製造工程の一例を示す模式的説明図。
【
図12】実施形態の半導体装置の製造工程の一例を示す模式的説明図。
【
図13】実施形態の半導体装置の製造工程の一例を示す模式的説明図。
【
図14】実施形態の半導体装置の製造工程の一例を示す模式的説明図。
【
図15】実施形態の半導体装置の製造工程の一例を示す模式的説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示について詳細に説明する。なお、本開示の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本開示の範疇に含まれる。本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、数値の前後に記載される値を含む。本明細書中の各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。本明細書に記載する数値は、後述する[実施例]等に記載の方法にて得られる値をいう。
【0010】
1.シールド加工ウエハ
本開示のシールド加工ウエハは、個片化前の半導体ウエハの少なくとも一主面上を、本開示の電磁波シールドシート(Electromagnetic shielding sheet)(以下、ESシートともいう)により被覆してなるシールドカバー層(以下、SC層ともいう)を有するウエハである。本ESシートは、半導体ウエハ(以下、単にウエハともいう)上に一括被覆するためのシートであり、バインダー成分および導電フィラー(F)を含むシールドフィルムを少なくとも有する。本明細書において、導電フィラー(F)(以下、単にフィラー(F)ともいう)とは、電磁波を反射するフィラーをいう。バインダー成分とは、層を形成するマトリックス成分であり、樹脂、硬化処理により架橋構造を形成し得る硬化性化合物、モノマー、オリゴマーが例示できる。
【0011】
本ESシートは、100℃における伸長率が100~1500%である。また、本ESシートを180℃で2時間処理した後の硬化シートにおいて、100℃におけるヤング率が100~1000MPaである。ここでいう硬化シートは、本ESシートを被着体と接合せず、当該シートのみを硬化したものである。なお、上記180℃で2時間処理する条件は、本ESシートの特性を特定するための硬化条件である。即ち、本ESシートをウエハに被覆してシールドカバー層を得るための硬化条件は180℃で2時間処理する条件に限定されない。なお、伸長率は「100×(伸長後の長さ-元の長さ)/(元の長さ)」より算出する。
【0012】
本ESシートの被覆対象は、個片化工程を行う前のウエハである。具体例として、個片化前のウエハレベルチップサイズパッケージ(WL-CSP)が形成されたウエハ、個片化前の半導体素子が形成されたウエハ、個片化前の多層配線構造等が形成されたウエハ、ベアウエハ、ベアウエハを高温処理して得られた熱酸化膜が形成されたウエハが挙げられる。
【0013】
本ESシートの被覆対象面はウエハの素子形成領域面でもその裏面でもよく、片面被覆および両面被覆のいずれでもよい。本ESシートによれば、個片化前のウエハに対してSC層を一括して形成できるので生産性に優れる。本ESシートは、凹凸形状の追従性に優れるので、格子状に形成されたハーフカット溝と、前記ハーフカット溝により区画され、マトリックス状に配置された素子形成領域とを有するウエハへの一括被覆に好適である。ハーフカット溝も含めて一括被覆することにより、個片化後の半導体装置の側面にSC層を容易に形成できる。
【0014】
本ESシートの被覆対象領域はウエハ全面であっても、ウエハの一部であってもよい。例えば、ウエハの主面の面積の80%程度にESシートを一括被覆する態様が挙げられる。なお、ベアウエハとは、加工処理を行う前のウエハであり、単結晶シリコン、ヒ化ガリウム、リン化インジウム等の半導体基板が例示できる。ウエハ径や厚みは任意である。ベアウエハ径は、例えば、100mm、150mm、200mm、300mm、450mmである。ベアウエハ(半導体基板)の厚みは、例えば、400~1000μm程度である。
【0015】
図1に、本実施形態のシールド加工ウエハの一例の模式図を、
図2に
図1のII-II切断部断面図を示す。シールド加工ウエハ101は、
図2に示すように、半導体素子形成ウエハ1上に多層配線構造部14が形成され、半導体素子形成ウエハ1および多層配線構造部14上にSC層2が被覆されている。SC層2を有することにより、半導体素子形成ウエハ1の半導体素子、或いは多層配線構造部14の配線等から発生する電磁波を遮蔽できる。また、外部からの電磁波を遮蔽して半導体装置の誤動作を防止できる。SC層の厚みは用途により適宜設計できる。SC層の厚みは、通常1~300μm程度である。前記厚みの下限は3μmがより好ましく、5μmが更に好ましく、10μmが更により好ましい。前記厚みの上限は150μmがより好ましく、100μmが更に好ましく、50μmが更により好ましい。
【0016】
シールド加工ウエハ101は、
図1、
図2に示すように、半導体素子形成ウエハ1と、半導体素子形成ウエハ1のX軸、Y軸方向に格子状に形成されたハーフカット溝11と、ハーフカット溝11により区画され、マトリックス状に配置された素子形成領域12、SC層2を有する。素子形成領域12は、後述する個片化工程によりチップ化される領域である。半導体素子形成ウエハ1には、
図1に示すように、結晶方位指標となるノッチ13が半導体素子形成ウエハ1の端部に設けられている。
【0017】
ハーフカット溝11は、多層配線構造部14の上面から半導体素子形成ウエハ1の半導体基板の厚み方向の途中まで形成された溝であり、X軸、Y軸に沿って格子状に形成されたスクライブライン17に沿って形成されている。ハーフカット溝11の幅は、例えば、20~500μmである。半導体素子形成ウエハ1上面からのハーフカット溝11の深さは、例えば、40~600μmである。ハーフカット溝11は、機械的切削である回転ブレード、レーザグルービング等の公知の方法により形成できる。ハーフカット溝は、半導体素子形成ウエハ1に溝が到達されていない、多層配線構造部14のみに溝が形成されている態様も含む。
【0018】
多層配線構造部14は、例えば、
図3に示すように、第1絶縁フィルム15a、第2絶縁フィルム15b、第3絶縁フィルム15cがこの順で積層されており、配線16等のメタルパターンが各層に複数形成されている。多層配線構造部14の上層に表面保護膜(不図示)等が更に形成されていてもよい。
【0019】
本SC層は、後述するように単層または複層からなり、少なくともシールド層を有する。
図2に示すSC層2は、シールド層20よりなる。シールド層とは、バインダー成分と導電フィラー(F)を含むシールドフィルムが硬化された層である。シールド層20は単層でも複層でもよい。また、SC層は、
図4に示すようにシールド層20a、非シールド層21の積層体でもよい。非シールド層21は、
図4の例のように、多層配線構造部14側に配置されても、その逆であってもよい。非シールド層21は、例えば、遮光層、ハードコート層、絶縁層、熱伝導層、保護層が例示できる。非シールド層21は、単層の他、同一種または異種の複層でもよい。
【0020】
シールド加工ウエハは、ウエハレベルチップサイズパッケージ(WL-CSP)が形成されたウエハであってもよい。
図5に、個片化前のWL-CSPのシールド加工ウエハの一例の模式的断面図を示す。同図に示すように、シールド加工ウエハ101bは、半導体素子形成ウエハ1上面に電極パッド4,表面保護膜5、電極ポスト6、封止樹脂7、SC層2等を有する。シールド加工ウエハ101bを個片化することにより、側方がSC層2により被覆された半導体装置が得られる。得られた半導体装置は、電極ポスト6上に設置された半田ボール(不図示)を介してプリント基板(不図示)などに実装される。
【0021】
図6に、WL-CSPが形成されたシールド加工ウエハの別の一例の模式的断面図を示す。シールド加工ウエハ101cは、半導体素子形成ウエハ1上面に多層配線構造部14を有し、この多層配線構造部か封止樹脂7により封止されている。そして、半導体素子形成ウエハ1および封止樹脂7がSC層2により被覆されている。シールド加工ウエハ101cを個片化することにより、上面および側方にSC層2により被覆された半導体装置が得られる。
【0022】
2.電磁波シールドシート
図7に、本実施形態のESシートの一例の模式的側面図を示す。同図に示すESシート3は、シールドフィルム30からなる。シールドフィルム30は単層でも、複層でもよい。ESシートは、
図8に示すように、1以上のシールドフィルム30と1以上の非シールドフィルム31を積層したESシート3aとしてもよい。シールドフィルム30が被覆されてシールド層20になる。また、非シールドフィルム31が被覆されて非シールド層21になる。非シールドフィルム31は、絶縁性フィルム、熱伝導性フィルム、遮光性フィルム、ハードコートフィルムが例示できる。ESシートが非シールドフィルムを有する場合、シールド効果を充分に発揮させる観点からは、シールドフィルムの厚みを充分に確保することが好ましい。係る観点から、ESシートの厚みの50~90%がシールドフィルムであることが好ましく、55~80%がより好ましい。
【0023】
本ESシートの100℃における伸長率は100~1500%とする。また、本ESシートを180℃で2時間処理した後の硬化シートにおいて、100℃におけるヤング率を100~1000MPaとする。これらを組み合わせた本ESシートによれば、ESシートを一括被覆するプレス時の凹凸形状への追従性を高められる。また、ウエハの割れを抑制し、硬化後のウエハの反りを抑制できる。更に、被着体からSC層が剥離するのを抑制し、ハーフカット溝のような凹部内での千切れを効果的に抑制できる。
【0024】
前記伸長率の下限は150%がより好ましく、200%が更に好ましい。また、前記伸長率の上限は1200%がより好ましく、1000%が更に好ましい。前記ヤング率の下限は150MPaが好ましく、200MPaがより好ましく、300MPaが更により好ましい。前記ヤング率の上限は800MPaが好ましく、600MPaがより好ましい。ESシートが複数のフィルムの積層体からなる場合、各フィルムが前記条件を満たしている必要はなく、本ESシートにおいて前記伸長率および前記ヤング率を満たしていればよい。
【0025】
本ESシートの厚みは用途により適宜設計できる。本ESシートの厚みは、通常2~500μm程度である。前記厚みの下限は5μmがより好ましく、8μmが更に好ましく、12μmが更により好ましい。前記厚みの上限は300μmがより好ましく、200μmが更に好ましく、100μmが更により好ましい。本ESシートは、
図2に示すように凹凸形状に追従するように被覆された被覆層に好適であるが、凹部に本ESシートを埋設(充填)する埋設層に適用してもよい。
【0026】
本ESシートは、信頼性を高める観点から、本ESシートを、シリコンのベアウエハの主面全体に、120℃、5MPaで3分熱圧着し、続いて180℃で2時間処理した後の前記電磁波シールドシート由来の電磁波シールド層において、JIS K5600-5-6に基づくプレッシャークッカー試験を行った後の密着試験における剥離率が15%未満であることが好ましく、10%未満がより好ましく、5%未満が更に好ましい。
【0027】
幅200μm、深さ200μmのハーフカット溝が、4000μm間隔で格子状に形成された12インチのシリコンのベアウエハの主面全体に、本ESシートを120℃、5MPaで3分間熱圧着し、180℃で2時間硬化したときに得られるSC層に対して、凸部(
図6の例では、多層配線構造部14が封止樹脂7により封止せしめられた凸部)を被覆するSC層の中央と、ハーフカット溝を介して隣接位置にある同凸部の中央との間(隣接する凸部上のシールドカバー層間)の抵抗値が、5~300mΩが好ましい。前記抵抗値の上限は150mΩがより好ましく、100mΩが更に好ましく、50mΩが更により好ましい。前記抵抗値の下限は7mΩがより好ましく、10mΩが更に好ましく、15mΩが更により好ましい。
【0028】
シールドフィルム30は、前述したように、バインダー成分および導電フィラー(F)を含む。シールドフィルム30は、熱硬化処理により硬化物であるシールド層20となる。シールドフィルム30の厚みは、例えば5~100μmである。ウエハへの加工適性と電磁波シールド性を両立する観点からは、シールドフィルム30の厚みの下限は7μmが好ましく、10μmがより好ましく、20μmが更に好ましい。一方、シールドフィルムの厚みの上限は90μmが好ましく、75μmがより好ましく、50μmが更に好ましい。
【0029】
2-1.シールドフィルム
シールドフィルム30のバインダー成分は、同フィルムにおいてフィラー(F)を保持し、フィルムを形成する役割を担う。バインダー成分は、硬化処理により架橋構造を形成する成分を含む。
【0030】
バインダー成分の好適例として、重量平均分子量(Mw)が10,000以上の高分子量樹脂(P)と、Mwが5,000以下の硬化性化合物(C)の組合せがある。Mwが10,000以上の高分子量樹脂(P)とMwが5000以下の硬化性化合物(C)とを組み合わせることで、ESシートの成膜性を優れたものとしながら、凹凸形状に対する追随性およびハーフカット溝などの凹部に対する被覆性(埋め込み性)を優れたものとすることができる。硬化性化合物(C)はオリゴマー成分の他、低分子化合物であってもよい。低分子化合物の場合はMwを分子量に読み替えるものとする。
【0031】
高分子量樹脂(P)のMwの上限は、ハーフカット溝への被覆性を高める観点からは、300,000が好ましく、250,000がより好ましく、200,000が更に好ましく、150,000が更により好ましい。高分子量樹脂(P)のMwの下限は100℃における伸長率を調整する観点から40,000がより好ましく、60,000が更に好ましく、80,000が更により好ましい。Mwを大きくするにつれて100℃における伸長率が大きくなる傾向にある。
【0032】
高分子量樹脂(P)は、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルアミド樹脂、ポリエーテルエステル樹脂およびポリイミド樹脂が例示できる。高分子量樹脂(P)は1種単独又は2種以上を併用して用いられる。
【0033】
高分子量樹脂(P)は、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよいが、信頼性の高いSC層を得る観点から硬化性化合物(C)と架橋し得る熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。前記熱硬化性樹脂は、高分子量樹脂(P)100質量%に対して50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が更により好ましく、100質量%であってもよい。
【0034】
高分子量樹脂(P)は、硬化性化合物(C)の官能基と反応して架橋構造を形成する反応性官能基を有する熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。係る反応性官能基として、カルボキシ基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリン基、オキサジン基、アジリジン基、チオール基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、シラノール基がある。これらの中でも、カルボキシ基、水酸基が電磁波シールドシートの保存安定性の点で好適である。
【0035】
高分子量樹脂(P)の酸価は3~30mgKOH/gが好ましい。酸価を前記範囲とすることにより、ウエハへの密着性が向上する。前記酸価は4~25mgKOH/gがより好ましく、5~20mgKOH/gが更に好ましい。好適な熱硬化性を有する高分子量樹脂(P)として、カルボキシ基および/又は水酸基を有する、前述の樹脂(ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルアミド樹脂、ポリエーテルエステル樹脂およびポリイミド樹脂)が例示できる。
【0036】
100℃における上記伸長率、硬化後の100℃のヤング率を兼ね備える観点から、高分子量樹脂(P)のTgは-20~40℃が好ましく、-10~30℃がより好ましく、0~20℃が更に好ましい。高分子量樹脂(P)が2種以上の場合は、配合量の最も多い主成分である高分子量樹脂(P)が-20~40℃を満たすことが好ましく、前記主成分は、高分子量樹脂(P)に対して50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0037】
Mwが5,000以下の硬化性化合物(C)は、架橋構造を形成する役割を担うと共に、ESシートを被覆する際の柔軟性を高め、凹凸形状に対して優れた追従性を付与する役割を担う。また、硬化後は架橋ネットワークを構築することにより信頼性の高いSC層が得られる。
【0038】
硬化性化合物(C)の含有率は、高分子量樹脂(P)100質量部に対して5~100質量部が好ましい。前記硬化性化合物(C)の含有率の下限は10質量部がより好ましく、12質量部が更に好ましく、15質量部が更により好ましく、20質量部が特に好ましい。前記硬化性化合物(C)の含有率の上限は80質量部がより好ましく、70質量部が更に好ましく、60質量部が更により好ましく、50質量部が特に好ましい。
【0039】
硬化性化合物(C)は、エポキシ基含有化合物(E)、イソシアネート化合物、カルボジイミド基含有化合物、アジリジン化合物、酸無水物基含有化合物、ジシアンジアミド化合物、芳香族ジアミン化合物等のアミン化合物、金属キレート化合物等の有機金属化合物、マレイミド基含有化合物、フェノールノボラック樹脂等のフェノール化合物が例示できる。この中でも、ESシートの被覆時の柔軟性を高め、被覆後の信頼性を高める観点からエポキシ基含有化合物(E)を含むことが好ましい。半硬化(Bステージ硬化)、本硬化(Cステージ硬化)の硬化速度を調整する観点から、エポキシ基含有化合物(E)と、エポキシ基含有化合物(E)以外の硬化性化合物を併用することが好ましい。好適例として、エポキシ基含有化合物(E)と、アジリジン化合物、イソシアネート化合物およびマレイミド基含有化合物から選択される1種以上との組合せが挙げられる。
【0040】
硬化性化合物(C)100質量%中、エポキシ基含有化合物(E)の含有率は50質量%以上が好ましく、70質量%がより好ましく、85質量%が更に好ましく、90質量%以上が更により好ましい。前記含有率の上限は100質量%であってもよい。
【0041】
硬化性化合物(C)100質量%中、エポキシ基含有化合物(E)と併用する他の硬化性化合物は50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましく、10質量%以下が更により好ましい。併用する他の硬化性化合物の効果を引き出す観点からは下限は0.1質量%が好ましく、0.3質量%がより好ましく、0.4質量%が更に好ましい。
【0042】
バインダー成分100質量部中、高分子量樹脂(P)とエポキシ基含有化合物(E)の含有量は合計で70質量部以上が好ましく、80質量部以上がより好ましく、90質量部以上が更に好ましく、100質量部であってもよい。
【0043】
エポキシ基含有化合物(E)は、エポキシ基を有していれば特に限定されないが、電磁波シールドシートを180℃で2時間処理した後の硬化シートの100℃におけるヤング率を100~1000MPaに調整する観点から、2官能以上の多官能のエポキシ基含有化合物(E)が好ましい。熱プレス等において、エポキシ基含有化合物(E)のエポキシ基が、熱硬化性樹脂のカルボキシ基や水酸基と熱架橋して架橋構造が得られる。ESシートの被覆工程における柔軟性および追従性を高め、被覆後の応力緩和を効果的に引き出す観点からは、エポキシ基含有化合物(E)として、常温・常圧で液状を示すエポキシ基含有化合物(E)が好適である。
【0044】
上記ヤング率を有するSC層を容易に得る観点からは、エポキシ基含有化合物(E)のエポキシ基当量は110~1000g/eqが好ましい。前記エポキシ基当量の下限は115g/eqがより好ましく、150g/eqが更に好ましい。前記エポキシ基当量の上限は900g/eqがより好ましく、750g/eqが更に好ましく、500g/eqが更により好ましく、280g/eqが特に好ましい。柔軟性をより効果的に高める観点からは、エポキシ基含有化合物(E)は、高分子量樹脂(P)100質量部に対して10~80質量部含むことが好ましい。前記配合量とすることで、シールドフィルムの柔軟性を高められる。エポキシ基含有化合物(E)のエポキシ当量を110~1000g/eqとすることにより、シールドフィルムの半硬化物における架橋密度を調整して、エッジ被覆性を効果的に高められる。ここで「エッジ」とは、凹凸部の端部の辺、角部などをいう。なお、エポキシ当量は、1グラム当量のエポキシ基を含むエポキシ化合物のグラム数[g/eq]で表され、JIS K 7236に規定された方法に従って求められる。
【0045】
エポキシ基含有化合物(E)は、例えば、グリジシルエーテル型エポキシ化合物、グリジシルアミン型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、環状脂肪族(脂環型)エポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、α-ナフトールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールA型ノボラック型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、テトラブロムビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化フェノールノボラック型エポキシ化合物、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタン、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンが挙げられる。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、テトラグリシジルメタキシリレンジアミンが挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレートが挙げられる。 環状脂肪族(脂環型)エポキシ化合物としては、例えば、エポキシシクロヘキシルメチル-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(エポキシシクロヘキシル)アジペートが挙げられる。また、液状のエポキシ化合物を好適に用いることができる。
【0046】
エポキシ基含有化合物(E)は、エポキシ基以外の他の官能基も有していることが好ましい。他の官能基として、水酸基、2級アミノ基および3級アミノ基が例示できる。2官能以上のエポキシ基に加えて、このような他の官能基を有するエポキシ基含有化合物(E)を用いることにより、所定硬化条件での架橋密度を効果的に高め、PCT耐性を高められる。更に、水酸基および/又はアミノ基を有することにより、ウエハ等の被着体との密着性を高められ、その結果、良好なPCT耐性と接着性を同時に満足できる。
【0047】
バインダー成分は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で上記以外の成分を含んでいてもよい。例えば、Mwが10,000未満の粘着付与樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等の樹脂を含んでいてもよい。粘着付与樹脂としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、脂環式系石油樹脂、および芳香族系石油樹脂等が例示できる。
【0048】
導電フィラー(F)として、金属粒子、導電性金属酸化物粒子、導電性高分子を有する粒子、金属被覆した粒子が例示できる。
金属粒子として、金、銀、銅、パラジウム、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、タングステン、白金、鉛、錫などの金属粉、および半田、鋼、ステンレス鋼などの合金粉、銀コート銅粉、金コート銅粉、銀コートニッケル粉、金コートニッケル粉のコアシェル型が例示できる。銀を含有するフィラー(F)を用いることにより優れた導電性が得られる。銀コート銅における銀の含有量は、フィラー(F)100質量%中、6~20質量%が好ましく、より好ましくは8~17質量%であり、更に好ましくは10~15質量%である。コアシェル型フィラーの場合、コア部に対するコート層の被覆率は、表面全体100質量%中、平均で60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
金属酸化物系粒子として、導電性を有する酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズが例示できる。
導電性高分子を有する粒子として、ポリアセチレン粒子、ポリチオフェン粒子、ポリアセチレン粒子、ポリピロール粒子、あるいはこれらを表面に被覆した粒子が例示できる。
金属被覆した粒子としては、樹脂粒子の表面を、金、銀等の金属で被覆した粒子、ガラスやセラミック等の無機粒子の表面を金属被覆した粒子が例示できる。
導電性炭素材料としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、カーボンナノコイル、カーボンマイクロコイル、炭素繊維等が挙げられる。
【0049】
フィラー(F)の形状は、フレーク状(鱗片状)、樹枝(デンドライト)状、繊維状、針状または球状のフィラーが例示できる。フィラー(F)は、単独または混合して用いられる。併用する場合、フレーク状フィラーおよび樹枝状フィラーの組み合わせ、フレーク状フィラー、樹枝状フィラーおよび球状フィラーの組み合わせ、フレーク状フィラーおよび球状フィラーの組み合わせが例示できる。これらのうち、SC層のエッジ被覆性を高める観点から、フレーク状フィラー単独またはフレーク状フィラーと樹枝状フィラーとの組み合わせがより好ましい。
【0050】
フレーク状フィラーの平均粒子径D50は0.5~50μmが好ましく、1~30μmがより好ましい。更に好ましくは2~20μmであり、特に好ましくは2~10μmである。樹枝状のフィラー(F)の平均粒子径D50の好ましい範囲も同様に、2~100μmが好ましく、2~80μmがより好ましい。更に好ましくは3~50μmであり、特に好ましくは5~20μmである。
【0051】
フレーク状フィラーの比表面積は0.2~4.0m2/gが好ましく、0.4~3.5m2/gがより好ましい。更に好ましくは0.5~3.0m2/gであり、特に好ましくは1.0~2.5m2/gである。樹枝状フィラーの平均粒子径D50の好ましい範囲も同様に、0.2~2.0m2/gが好ましく、0.3~1.8μmがより好ましい。更に好ましくは0.4~1.6m2/gであり、特に好ましくは0.5~1.5m2/gである。
【0052】
フィラー(F)の含有率は、優れた電磁波シールド特性を得る観点から、シート100質量%に対して45~85質量%含むことが好ましい。前記下限値はより好ましくは50質量%であり、更に好ましくは55質量%である。前記上限値はより好ましくは82質量%であり、更に好ましくは80質量%である。
【0053】
フィラー(F)の平均比表面積[m2/g]と、バインダー成分100質量部に対するフィラー(F)の含有量[g]の積は、優れた電磁波シールド特性とウエハへの密着性を得る観点から、50~1200m2が好ましく、100~1000m2がより好ましい。更に好ましくは200~800m2であり、特に好ましくは300~600m2である。
【0054】
シールドフィルムには、導電フィラー(F)の他に電磁波吸収フィラーを含有してもよい。電磁波吸収フィラーとしては、カーボン粒子等の誘電損失性電磁波吸収材、或いはフェライト、軟磁性金属粉等の磁性損失性電磁波吸収材などが例示できる。
【0055】
電磁波吸収フィラーとして、例えば、鉄、Fe-Ni合金、Fe-Co合金、Fe-Cr合金、Fe-Si合金、Fe-Al合金、Fe-Cr-Si合金、Fe-Cr-Al合金、Fe-Si-Al合金等の鉄合金、Mg-Znフェライト、Mn-Znフェライト、Mn-Mgフェライト、Cu-Znフェライト、Mg-Mn-Srフェライト、Ni-Znフェライト等のフェライト系物質並びに、カーボンフィラーなどが挙げられる。カーボンフィラーは、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノナノチューブからなるフィラー、グラフェンフィラー、グラファイトフィラーおよびカーボンナノウォールが例示できる。
【0056】
本ESシートは、ハーフカット溝が形成されたウエハに対して一括被覆する用途に特に好適である。また、本ESシートは、被着体に貼付して電磁波シールド性を付与したい用途全般に適用できる。半導体装置の側方に対しても遮蔽効果を発揮できる。また、一括被覆できるので、設計自由度が高まり汎用性に優れる。
【0057】
本ESシートの100℃における伸長率は、本シートのバインダー成分の種類、分子量、含有率、官能基により調整できる。例えば、高分子量樹脂(P)、エポキシ基含有化合物(E)の配合量を調整することにより調整できる。高分子量樹脂(P)のMwを高めることにより伸長率が高くなる傾向にある。また、高分子量樹脂(P)のTgを下げることで伸長率が高くなる傾向にある。エポキシ基含有化合物(E)のエポキシ基当量を前述した範囲とすることにより、本ESシートの100℃における伸長率を調整できる。また、高分子量樹脂(P)とエポキシ基含有化合物(E)の組合せにより伸長率を調整できる。
【0058】
本ESシートを180℃で2時間処理した後の硬化シートの100℃におけるヤング率は、フィラー量を増やすことにより高くなる傾向にある。また、前記ヤング率は、高分子量樹脂(P)のTgを高くしたり、酸価を高くしたりすることにより高くなる傾向にある。
【0059】
上記方法に代えて又は併用して、本ESシートに対して180℃で2時間処理を行った後の硬化シートにおいて、100℃におけるヤング率を100~1000MPaとする方法として、フィラー(F)の種類や添加量により制御する方法がある。フィラー(F)の平均粒子径D50、BET比表面積、タップ密度、表面処理を変更することもヤング率の制御に有効である。
【0060】
本ESシートをシリコンのベアウエハの主面全体に、120℃、5MPaで3分熱圧着し、180℃で2時間処理した後の前記ESシート由来のSC層において、JIS K5600-5-6に基づくプレッシャークッカー試験を行った後の密着試験における剥離率を15%未満とする方法として、高分子量樹脂(P)とエポキシ基含有化合物(E)の種類や配合量により調整できる。高分子量樹脂(P)のMwが大きくなるにつれて、シート内部凝集力を高められるので剥離率が低減する傾向がある。また、高分子量樹脂(P)の酸価を大きくするにつれて、ウエハ等の被着体界面での相互作用を高められるので剥離率が低減する傾向がある。また、高分子量樹脂(P)の酸価やMw、エポキシ基含有化合物(E)のエポキシ当量の調整により密着力を調整できる。
【0061】
シールドフィルムには、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、フィラー(F)以外の有機フィラーや無機フィラー、各種添加剤を含有できる。具体的には、モノマー、オリゴマー、硬化促進剤、硬化遅延剤、シランカップリング剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、酸化防止剤、軟化剤、表面調整剤、滑剤、ブロッキング防止剤、密着性改良剤等を含んでいてもよい。
【0062】
2-2.非シールドフィルム
非シールドフィルムは、少なくともバインダー成分を含む。非シールドフィルムは、有機フィラーおよび/又は無機フィラーを含んでいてもよい。有機フィラーや無機フィラーをバインダー成分にコンポジットすることにより、バインダー成分の特性を改善できる。例えば、機械的特性、熱的特性、加工性、難燃性、透明性、屈折性、放熱性、分散性等を付与できる。
【0063】
無機フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化ジルコニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、カオリナイト、マイカ、セリサイト、モンモロリナイト、カオリナイト、ベントナイト、塩基炭酸マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化チタン等の無機化合物が挙げられる。
【0064】
バインダー成分の好適例としては、シールドフィルムと同様の樹脂を例示できる。フィラーとしては、非シールドフィルムの機能に応じて適宜選定できる。例えば、非シールドフィルムに熱伝導性を付与したい場合には、導電性フィラーの他、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ガリウム等の窒化物、酸化アルミニウム、酸化ケイ素(二酸化ケイ素)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化銅、酸化ニッケル等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、ベーマイト、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、珪酸、水酸化鉄、水酸化銅、水酸化バリウム、酸化ジルコニウム水和物、酸化スズ水和物、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、ドウソナイト、硼砂、ホウ酸亜鉛等の金属水酸化物および水和金属化合物;炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化窒素、炭化カルシウム等の炭化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;チタン酸バリウム、チタン酸カリウム等のチタン酸塩;カーボンブラック、カーボンチューブ(カーボンナノチューブ)、カーボンファイバー、ダイヤモンド等の炭素系物質;ガラス;等の無機材が例示できる。
【0065】
2-3.電磁波シールドシートの製造方法
以下、本ESシートの製造方法について説明する。但し、本ESシートの製造方法は、以下の方法に限定されない。
【0066】
まず、本ESシートを構成するフィルムを得るための樹脂組成物を調製する。シールドフィルムを得るための樹脂組成物は、フィラー(F)、バインダー成分および溶媒等を混合して得られる。均一に混合できればよく、混合方法は限定されない。保護フィルム等の非シールドフィルムを得るための樹脂組成物は、バインダー成分および溶媒等を混合して得られる。
【0067】
フィラーの均一分散性を高めるために、混合装置を用いてもよい。例えば、ブレードを備えた撹拌装置(ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー等)、メディアを備えた粉砕装置(ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル又はアジテーターミル等)、他の機構を備えた分散装置(マイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルティマイザー、超音波ホモジナイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー、自転公転撹拌機、コロイドミル、薄膜旋回型高速ミキサー等)が例示できる。また、脱気しながら混合してもよい。
【0068】
樹脂組成物の粘度は、所望とするフィルムの厚みに応じて適宜設定すればよい。シールドフィルムは、調製した樹脂組成物を離型性基材上に塗工し、加熱乾燥することにより得られる。非シールドフィルムも同様に、調製した樹脂組成物を離型性基材上に塗工し、加熱乾燥することにより得られる。樹脂組成物の塗工方法としては、例えば、グラビアコート方式、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレード方式、ロールコート方式、ナイフコート方式、スプレーコート方式、バーコート方式、スピンコート方式、ディップコート方式等がある。
【0069】
本ESシートがシールドフィルムのみからなる場合には、離型性基材から当該フィルムを剥離することにより本ESシートが得られる。また、本ESシートがシールドフィルム/非シールドフィルムの積層構成を有する場合には、それぞれのフィルムを互いに接合するためにラミネートすればよい。また、離型性基材上に形成されたシールドフィルム上に、非シールドフィルムを形成するための樹脂組成物を塗工して加熱乾燥することにより積層体を得てもよい。また、離型性基材上に形成された非シールドフィルム上に、シールドフィルムを形成するための樹脂組成物を塗工して加熱乾燥することにより積層体を得てもよい。非シールドフィルムは例えば保護フィルムである。
【0070】
3.半導体装置およびその製造方法
図9に、シールド加工ウエハを個片化して得た半導体装置の要部の一例の模式的断面図を示す。半導体装置201は、シールド加工ウエハが素子形成領域単位で個片化されており、ESシートを加熱、硬化することにより得られたSC層2が、素子形成領域12からハーフカット溝11に亘って被覆されている。SC層2は個片化される前に加熱硬化してもよいし、個片化した後に加熱硬化してもよい。
【0071】
図10に、変形例に係る半導体装置の一例の模式的断面図を示す。
図9の例においては、ハーフカット溝の側壁および底部に沿うようにSC層2が被覆される例を説明したが、
図10に示すように、ハーフカット溝全体にSC層2が充填されていてもよい。ハーフカット溝の幅が狭い場合には、ハーフカット溝にSC層2を充填し、ダイシングカットによりウエハとSC層2をスクライブラインに沿って個片化する方法が有効である。
【0072】
以下、本半導体装置の製造方法の一例を説明する。但し、本開示の半導体装置の製造方法は以下の方法に限定されない。
【0073】
まず、ベアウエハに、回路パターンを形成するために、ベアウエハを高温処理してベアウエハ表面に酸化膜を形成する。次いで、感光性フォトレジスト、絶縁層、配線パターン等を形成して半導体素子形成ウエハ1を形成し、その後、多層配線構造部14等を形成する(
図11参照)。次いで、必要に応じて表面保護膜を形成する。その後、スクライブライン17に添って(
図1参照)、半導体素子形成ウエハ1の表面からウエハの途中までハーフカット溝11を形成する(
図12参照)。ハーフカット溝は、回転ブレードなどの機械的切削、或いはレーザグルービングによって形成できる。
【0074】
具体例としては、ダイシング装置の真空チャックに真空吸着された状態でウエハを固定する。そして、ウエハの表面側から、ダイシングブレードにより、X方向のスクライブラインおよびY方向のスクライブラインに沿ってダイシングを実行することにより、ウエハ内に到達するハーフカット溝11を形成する。
【0075】
次に、ハーフカット溝11が形成された半導体素子形成ウエハ1上に、ESシート3を載置する。ESシート3のハーフカット溝11への被覆性を高めるために、
図13に示すように、ESシート3上にクッションシート33を載置することが好ましい。また、必要に応じて、クッションシート33の上層に補強シート34を積層してもよい。
【0076】
クッションシート33を設けることにより、ESシート3をハーフカット溝11の追従性を高められる。クッション材は、熱プレス時に溶融する層であり、且つ離型性がある材料を用いる。補強シートにより、プレス力をクッションシートに伝えて被着体の段差部へのESシートの埋め込み性を高められる。
【0077】
半導体素子形成ウエハ1を真空吸着ステージ50(
図14参照)に固定し、ESシート3/クッションシート33/補強シート34の積層体を熱圧着する。熱圧着する前に、ESシート3を半導体素子形成ウエハ1の上面に仮貼付してもよい。仮貼付方法は、例えば、熱源で軽くESシート3を半導体素子形成ウエハ1の全面または端部に熱プレスすることにより得られる。
【0078】
補強シート34は、樹脂フィルム、金属板等から適宜選択できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、硬質ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン、ポリイミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリブテン、軟質ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル等のプラスチックシート等、グラシン紙、上質紙、クラフト紙、コート紙等の紙類、各種の不織布、合成紙、金属箔や、これらを組み合わせた複合フィルムなどが挙げられる。この中でも、ハンドリング性やコストの観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドの何れかであることが好ましい。更にポリエチレンテレフタレートおよびポリイミドがより好ましい。
【0079】
クッションシート33から得られるクッション層33’は、熱プレス後のSC層からの剥離性を容易にするために、ESシートとの接合面に離型層が形成されていることが好ましい。このような離型層としてはポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィンポリマー、シリコーン、フッ素樹脂が例示できる。
【0080】
市販のクッション層としては、三井東セロ社製「CR1012」、「CR1012MT4」、「CR1031」、「CR1033」、「CR1040」、「CR2031MT4」等がある。これら市販のクッション層はクッション層の両面を離形層としてポリメチルペンテンで挟み込んだ層構成となっていることが多い。本明細書においては離型層を含めた一体構成をクッションシートと呼ぶ。この一方に補強シートを積層することで埋め込み性および基板割れを良化できる。
【0081】
クッションシートの厚みは、50~300μmが好ましく、75~250μmがより好ましく、100~200μmが更に好ましい。50μm以上とすることで埋め込み性を向上できる。300μm以下とすることでESシートのハンドリング性を良好なものとすることができる。なお、上記クッション層の厚みは、離形層を有する場合、離形層を含んだ値である。
【0082】
補強シート34の厚みは、20μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、38μm以上が更に好ましい。補強シートの厚みを20μm以上にすることで、補強シートの強度が向上するため埋め込み性、離形性およびハンドリング性がより向上する。補強シートの厚みは、特に制限はないが、250μm以下である場合、ESシートの離形性およびハンドリング性が向上するため好ましい。
【0083】
ESシート3をウエハに熱圧着することにより、半導体素子形成ウエハ1上にSC層2を形成する。補強シート34の上方からプレス基板40を降下して熱プレスする(
図15参照)。ESシート3は、クッションシート33の溶融による押圧により、ウエハに設けられたハーフカット溝に沿うように延伸され、多層配線構造部14およびハーフカット溝11に追従して被覆され、SC層2が形成される(
図15参照)。
【0084】
熱プレス工程の温度はクッションシート33の溶融温度以上、且つ補強シート34の溶融温度未満の温度が好ましい。前記温度とすることで、クッションシートを溶融させつつ、補強シートの強度が維持できる。熱プレス工程の加熱温度は、100℃以上が好ましく、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは120℃以上である。また、上限値としては、多層配線構造部14の耐熱性によるが、220℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、180℃以下が更に好ましい。
【0085】
熱プレス工程の圧力は、ウエハが割れないように、ウエハの厚みに応じて適宜設定する。例えば、1~15MPa程度である。より好ましくは1.5~10MPa、更に好ましくは2~5MPaである。熱プレス時間は、例えば、1分~2時間程度である。熱プレスの工程において、硬化処理を完了させてもよいし、熱プレス後に硬化処理を行う工程を別途設けてもよい。なお、バインダー成分における熱硬化性樹脂は、流動が可能であれば熱プレス前に部分的に硬化あるいは実質的に硬化が完了していてもよい。熱プレス装置は、押圧式熱プレス装置、トランスファーモールド装置、コンプレッションモールド装置、真空圧空成形装置等を使用できる。
【0086】
その後、プレス基板40をリリースし、クッション層33’と補強シート34を取り除く。これらの工程を経て
図2に示すようなシールド加工付ウエハが得られる。
図5のように、上面をエッチングにより除去してもよい。
【0087】
なお、上記実施形態においては、ESシート3、クッションシート33、補強シート34を重ね合わせて用いる例を説明したが、任意の組合せで接合した積層体を用いてもよい。例えば、ESシート/クッションシート/補強シート、ESシート/クッションシート、クッションシート/補強シートを貼り合わせた積層体を用いてもよい。補強シートとクッションシートを接合することにより、剥離性を大幅に高められる。
【0088】
続いて、スクライブラインに沿って個片化工程を行う。具体的にはシールド加工ウエハを個片化する。個片化する方法は、ハーフカット溝と同様に機械的切削である回転ブレード、レーザグルービング等により行うことができる。また、ウエハの裏面側を研磨してハーフカット溝までウエハの厚みを薄くすることにより切断してもよい。
【実施例】
【0089】
以下に、実施例により本開示を更に具体的に説明するが、本開示の範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」および「%」は、「質量部」および「質量%」を表す。
【0090】
(a)測定方法
本実施例で求めた数値は、以下の方法により得られた値である。
(i)重量平均分子量(Mw)
Mwの測定は東ソ-社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)「HPC-8020」を用いた。GPCは、溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィ-である。測定は、カラムに「LF-604」(昭和電工社製:迅速分析用GPCカラム:6mmID×150mmサイズ)を直列に2本接続して用い、流量0.6mL/min、カラム温度40℃の条件で行い、重量平均分子量(Mw)の決定はポリスチレン換算で行った。
【0091】
(ii)樹脂の酸価
共栓付き三角フラスコ中に樹脂を約1g精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液50mLを加えて溶解する。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間保持する。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1mol/Lアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。酸価は次式により求めた。酸価は樹脂の乾燥状態の数値とした。
酸価(mgKOH/g)=(a×F×56.1×0.1)/S
S:試料の採取量×(試料の固形分/100)(g)
a:0.1mol/Lアルコール性水酸化カリウム溶液の滴定量(mL)
F:0.1mol/Lアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0092】
(iii)樹脂のTg
JIS K7198に準拠して、動的粘弾性測定装置DVA-200(アイティー計測制御株式会社製)にてTgを測定した。シリコーン離型剤をコーティングした厚さ50μmのPETフィルムを離型性基材として用意した。樹脂をこの離型性基材上に、厚みが20μmになるようにドクターブレードを使用して塗工し、100℃で2分間乾燥して得られたシートを0.5cm×3cmにカットし、剥離フィルムを剥がしたものを測定に用いた。測定は、変形様式は引張で、歪み0.08%、周波数10Hz、昇温速度10℃/minで測定される損失正接(tanδ)の主分散ピークの現れる温度をTgとした。
【0093】
(iv)試験用ハーフカットウエハの作製
シリコンのベアウエハ(サイズ100mmφ、厚み525μm)を用意し、ダイシング装置(DISCO社 DAD323)を使用して、4000μm格子角で幅200μm、深さ200μmのハーフカット溝を形成した試験用ハーフカットウエハを得た。
【0094】
(b)樹脂組成物、電磁波シールドシートおよび積層体の製造
[実施例1の樹脂組成物の製造]
高分子量樹脂P3の固形分を100部、エポキシ基含有化合物E3を40部、硬化性化合物C1を1部、フィラーF2を180部、フィラーF4を35部容器に仕込み、不揮発分(固形分)濃度が35%になるようトルエン:イソプロピルアルコール(質量比2:1)の混合溶剤を加えディスパーで10分撹拌することで樹脂組成物を得た。いずれの成分も固形分換算量を表1に記載した。
【0095】
[実施例2~20および比較例1~6]
表1~3に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を製造した。
【0096】
以下、実施例で使用した材料および表1~3における略号を示す。
<バインダー成分>
[高分子量樹脂(P)]
・P1:ポリカーボネート系樹脂、Mw=180,000、酸価10[mgKOH/g]、Tg10℃(トーヨーケム社製)
・P2:ポリカーボネート系樹脂、Mw=260,000、酸価10[mgKOH/g]、Tg10℃(トーヨーケム社製)
・P3:ポリカーボネート系樹脂、Mw=120,000、酸価10[mgKOH/g]、Tg10℃(トーヨーケム社製)
・P4:ポリカーボネート系樹脂、Mw=110,000、酸価12[mgKOH/g]、Tg-10℃(トーヨーケム社製)
・P5:ポリカーボネート系樹脂、Mw=50,000、酸価18[mgKOH/g]、Tg20℃(トーヨーケム社製)
・P6:ポリカーボネート系樹脂、Mw=110,000、酸価3[mgKOH/g]、Tg10℃(トーヨーケム社製)
・P7:ポリカーボネート系樹脂、Mw=110,000、酸価28[mgKOH/g]、Tg10℃(トーヨーケム社製)
・P8:ウレタン系樹脂、Mw=130,000、酸価10[mgKOH/g]、Tg40℃(トーヨーケム社製)
・P9:ウレタン系樹脂、Mw=130,000、酸価10[mgKOH/g]、Tg60℃(トーヨーケム社製)
・P10:エステル系樹脂、Mw=140,000、酸価10[mgKOH/g]、Tg-15℃(トーヨーケム社製)
[その他の樹脂]
・R1:アクリル系樹脂、Mw=8,000、酸価15[mgKOH/g](トーヨーケム社製)
<硬化性化合物(C)>
・C1:「ケミタイト PZ-33」(アジリジン化合物、Mw=425)日本触媒社製
[エポキシ基含有化合物(E)]
・E1:「jER604」(ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、Mw=350、エポキシ当量=120g/eq)三菱ケミカル社製
・E2:「jER1032H」(トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、Mw=500、エポキシ当量=170g/eq)三菱ケミカル社製
・E3:「jER834」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、Mw=470、エポキシ当量=250g/eq)三菱ケミカル社製
・E4:「EPICLON1050」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、Mw=900、エポキシ当量=475g/eq)DIC社製
・E5:「EPICLON3050」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、Mw=1800、エポキシ当量=800g/eq)DIC社製
[その他の硬化性化合物]
・R2:「jER1010」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、Mw=5500、エポキシ当量=4000g/eq)三菱ケミカル社製
<導電フィラー(F)>
・F1:鱗片状銀フィラー(D50=1.0~3.0μm、平均比表面積1.1m2/g) トクセン工業社製
・F2:鱗片状銀フィラー(D50=4.0~7.0μm、平均比表面積1.5m2/g) 福田金属工業社製
・F3:鱗片状銀フィラー(D50=5.0~10.0μm、平均比表面積0.3m2/g) 福田金属工業社製
・F4:デンドライト状銀コート銅フィラー(D50=7.4μm、平均比表面積0.7m2/g) 三井金属鉱業社製
・F5:デンドライト状銀コート銅フィラー(鱗片銀フィラー D50=10.4μm、平均比表面積0.6m2/g) DOWA社製
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
(電磁波シールドシートの製造)
表面にシリコーン離型剤をコーティングした厚さ50μmのPETフィルムを離型性基材として用意した。この離型性基材上に、各実施例・比較例の樹脂組成物を、乾燥厚みが40μmになるようにドクターブレードを使用して塗工した。そして、100℃で2分間乾燥することで各実施例・比較例に係る離形性基材付きの電磁波シールドシートを得た。
【0101】
(積層体の作製)
その後、離形性クッション部材を用意し、各実施例・比較例の離形性基材付きの電磁波シールドシートのシート面とクッションシート(三井東セロ社製 CR1040)とを、熱ラミネーターを用いて、温度70℃、圧力0.1MPa、速度1m/minでラミネートすることにより各実施例・比較例に係る積層体を得た。
【0102】
(c)電磁波シールドシート等の特性
上記実施例および比較例について、伸長率およびヤング率を以下の方法により求めた。結果を表1~3に示す。
<100℃における伸長率>
各例の離型性基材およびクッションシートを剥離した電磁波シールドシートを、恒温湿室内において23℃、相対湿度50%で24時間静置した後、100℃に保たれたチャンバー内で1分間静置した。その後、100℃の温度下、当該電磁波シールドシートを引張り速度50mm/minおよび標線間25mmの条件で引張試験機「EZテスター」(島津製作所社製)により応力-ひずみ曲線を測定し、破断点における伸長率を測定し、100℃における伸長率とした。
【0103】
<硬化シートの100℃におけるヤング率>
離型性基材およびクッションシートを剥離した電磁波シールドシートを、180℃、2時間加熱し、硬化シートを得た。恒温湿室内において23℃、相対湿度50%で静置した後、100℃に保たれたチャンバー内で1分間静置した。その後、100℃の温度下、当該硬化シートを引張り速度50mm/minおよび標線間25mmの条件で引張試験機「EZテスター」(島津製作所社製)により応力-ひずみ曲線を測定した。ひずみ(伸び)が0.1~0.3%の領域の線形回帰(傾き)を測定し、100℃におけるヤング率とした。
【0104】
(d)電磁波シールドシート等の評価
上記実施例および比較例について、密着力、被覆性、反り、外観を以下の方法により評価した。結果を表4に示す。
<PCT試験後のシリコンのベアウエハへの密着力>
シリコンのベアウエハ(サイズ100mmφ、厚み525μm)を用意し、上記の積層体を50mm×50mmにカットし、離形性基材を剥離して、電磁波シールドシート層をベアウエハ上に載置した。その後、積層体のクッションシートの上方からベアウエハに対し温度120℃、圧力5MPaの条件で3分間熱プレスした。熱プレス後、冷却しクッション層を剥離し、180℃、2時間加熱してシールドカバー層が形成された試験片を得た。次いでこの試験基板に対してプレッシャークッカーテスト(条件:130℃、85%RH、0.12MPa、96時間)を行った。その後、試験基板のシールドカバー層に、JISK5400に準じてクロスカットガイドを使用し、間隔が1mmの碁盤目を100個形成した。その後、碁盤目部に粘着テープを強く圧着させ、テープの端を45°の角度で一気に引き剥がし、碁盤目の状態を下記の基準で評価した。
+++:剥がれ率5%未満。
++:塗膜がカットの線に沿って部分的に剥がれており、且つ、剥がれ率5%以上10%未満。
+:塗膜がカットの線に沿って部分的に剥がれており、且つ、剥がれ率10%以上15%未満。
NG:塗膜がカットの線に沿って部分的に若しくは全面的に剥がれており、且つ、剥がれ率15%以上。実用不可。
【0105】
<ハーフカット溝間の抵抗値>
積層体を100mmφにカットし、離形性基材を剥離して、電磁波シールドシート層を試験用ハーフカットウエハ上に載置した。その後、積層体のクッションシートの上方から試験用ハーフカットウエハに対して温度120℃、圧力5MPaの条件で3分間熱プレスした。熱プレス後、冷却し、続いてクッション層を剥離し、180℃、2時間加熱することによりシールド加工ウエハを得た。そして、HIOKI社製RM3544とピン型リードプローブを用いて、隣接する2つの半導体素子形成領域のシールドカバー層上面の中央部にプローブを当て、ハーフカット溝間の抵抗値を評価した。評価基準は以下の通りである。
+++:抵抗値が50mΩ未満。非常に良好な結果である。
++:抵抗値が50mΩ以上150mΩ未満。良好な結果である。
+:抵抗値が150mΩ以上300mΩ未満。実用上問題ない。
NG:抵抗値が300mΩ以上。実用不可。
【0106】
<反りの高さ>
上記で得られたシールド加工ウエハを水平面に載置し、載置した面とウエハ縁端との距離の最大値を測定し、反り高さを評価した。評価基準は以下の通りである。
+++:反り高さが1mm未満。非常に良好な結果である。
++:反り高さが1mm以上2mm未満。良好な結果である。
+:反り高さが2mm以上5mm未満。実用上問題ない。
NG:反り高さが5mm以上。実用不可。
【0107】
<個片化品の外観>
上記で得られたシールド加工ウエハの上面から、ダイシング装置(DISCO社 DAD323)を使用して、ハーフカット溝の中心部を通るように50μmの幅でフルカットし、個片化品を100個得た。そして、目視にて外観を観察し、電磁波シールドシートの剥がれや欠けがある個片化品の数をカウントした。評価基準は以下の通りである。
+++:電磁波シールドシートの剥がれや欠けがある個片化品の数が5個未満。非常に良好。
++:電磁波シールドシートの剥がれや欠けがある個片化品の数が5個以上10個未満。良好。
+:電磁波シールドシートの剥がれや欠けがある個片化品の数が10個以上20個未満。実用上問題ない。
NG:電磁波シールドシートの剥がれや欠けがある個片化品の数が20個以上。実用不可。
【0108】
【0109】
硬化シートにおける100℃のヤング率が1000MPaを超える電磁波シールドシートは、比較例2,4に示すように、ハーフカット溝間の抵抗値が高いことが確認され、凹部の被覆性に課題があった。硬化シートにおける100℃のヤング率が100MPa未満であると、比較例1、3,に示すように、PCT試験後の剥離性が悪化することが確認され、被着体との密着性に課題があった。硬化シートにおける100℃のヤング率が1000MPa未満であっても、100℃における伸長率が高いとPCT試験後の剥離性は良好になるが、比較例5に示すように、ハーフカット溝間の抵抗値が高いことが確認され、凹部の被覆性に課題があった。これに対し、100℃における伸長率が100~1500%であり、電磁波シールドシートを180℃で2時間処理した後の硬化シートの100℃におけるヤング率が100~1000MPaとなる電磁波シールドシートを用いることにより、実施例1~28に示すように、密着性、被覆性、反りおよび外観において優れることが確認された。
【符号の説明】
【0110】
1 半導体素子形成ウエハ
2 シールドカバー層
3 電磁波シールドシート
11 ハーフカット溝
12 素子形成領域
13 ノッチ
14 多層配線高層部
15a 第1絶縁フィルム
15b 第2絶縁フィルム
15c 第3絶縁フィルム
16 配線
17 スクライブライン
20 シールド層
21 非シールド層
30 シールドフィルム
31 非シールドフィルム
33 クッションシート
34 補強シート
40 プレス基板
50 真空吸着ステージ
101 シールド加工ウエハ
201 半導体装置
【要約】
【課題】個片化前のウエハに対して一括被覆でき、被覆性に優れる信頼性の高い電磁波シールドシート、並びに前記電磁波シールドシートを用いて形成されるシールド加工ウエハ、半導体装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】個片化前の半導体ウエハ上に一括被覆するための電磁波シールドシート3であって、電磁波シールドシート3は、導電フィラー(F)、およびバインダー成分を含むシールドフィルム30を少なくとも有し、100℃における伸長率が100~1500%であり、電磁波シールドシート3を180℃で2時間処理した後の硬化シートにおいて、100℃におけるヤング率が100~1000MPaである、電磁波シールドシートによって解決される。
【選択図】
図2