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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】有機溶剤回収システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/04 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B01D53/04 230
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024518880
(86)(22)【出願日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2023034492
(87)【国際公開番号】W WO2024070945
(87)【国際公開日】2024-04-04
【審査請求日】2024-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2022158207
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸田 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】林 敏明
(72)【発明者】
【氏名】岡田 武将
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-221418(JP,A)
【文献】特開昭59-115724(JP,A)
【文献】特開2009-072671(JP,A)
【文献】実開昭58-171221(JP,U)
【文献】実開昭64-025320(JP,U)
【文献】特開昭63-041702(JP,A)
【文献】特開昭54-149378(JP,A)
【文献】特開昭63-107729(JP,A)
【文献】特開2015-142884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤を含有する被処理ガスから有機溶剤を吸着除去する吸着材が収容された処理槽を備え、前記処理槽に供給された前記被処理ガスを前記吸着材に接触させて処理ガスを排出する吸着処理と、前記処理槽に供給された脱着用水蒸気により前記吸着材から前記有機溶剤を脱着して脱着ガスを排出する脱着処理とを繰り返す有機溶剤回収装置と、
前記有機溶剤回収装置から排出された前記脱着ガスが通過する発熱部と、補給水が供給される吸熱部とを有し、当該発熱部を通過する前記脱着ガスにて、当該吸熱部の補給水を間接加熱して水蒸気を発生させ、間接加熱後の前記脱着ガスを排出する熱交換器と、
前記熱交換器から排出された前記脱着ガスを冷却して凝縮液を排出する冷却部と、を備えた有機溶剤回収システムであって、
前記熱交換器の前記発熱部に水蒸気を供給して、当該水蒸気で前記補給水を間接加熱して水蒸気を発生させる水蒸気供給部を備え、
前記熱交換器は、前記補給水から発生した水蒸気を、前記脱着用水蒸気の少なくとも一部として前記有機溶剤回収装置に供給する、有機溶剤回収システム。
【請求項2】
前記熱交換器の前記吸熱部の気相部分の圧力を測定する圧力測定部を備え、当該圧力測定部の測定結果により前記発熱部に供給する水蒸気の流量を制御する、請求項1に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項3】
前記熱交換器の前記吸熱部の液相部分の温度を測定する温度測定部を備え、当該温度測定部の測定結果により前記発熱部に供給する水蒸気の流量を制御する、請求項1に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項4】
前記処理槽から排出される前記脱着ガスを前記熱交換器に供給する経路と、
前記処理槽から排出される前記脱着ガスを前記冷却部に供給する経路と、を備え、
前記脱着処理の前期において、前記熱交換器の前記発熱部に水蒸気を供給するとともに、前記冷却部に前記処理槽から排出される前記脱着ガスを供給し、
前記吸着処理の後期において、前記熱交換器の前記発熱部に前記脱着ガスを供給するとともに、前記冷却部に前記発熱部を通過した後の前記脱着ガスを供給する、請求項1から3のいずれか1に記載の有機溶剤回収装置。
【請求項5】
前記有機溶剤回収装置は、前記冷却部から排出される凝縮液を溜める凝縮液溜部を備え、
前記熱交換器は、間接加熱した後の前記脱着ガスが滞留する脱着ガス出口受部と、当該脱着ガス出口受部から未凝縮の前記脱着ガスを前記冷却部に供給する配管経路と、当該脱着ガス出口受部から凝縮液となった前記脱着ガスを前記凝縮液溜部に供給する配管経路と、を備える、請求項1から3のいずれか1に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項6】
前記熱交換器は、前記吸熱部である容器部の内部に前記発熱部である管部を備えた多管式熱交換器である、請求項1から3のいずれか1に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項7】
前記水蒸気供給部は、前記有機溶剤回収装置に前記脱着用水蒸気を直接供給する脱着用水蒸気供給部と接続している又は兼用されている、請求項1から3のいずれか1に記載の有機溶剤回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤回収システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤回収装置は、吸着材で被処理ガスの有機溶剤を吸着する1対の処理槽と、各処理槽に対する被処理ガス供給装置と脱着用ガス供給装置とを設け、処理槽に被処理ガスを供給する吸着工程と脱着用ガスを供給する脱着工程とに切り替える機構が採用されている。
【0003】
ガス処理装置の吸着材として、例えば、活性炭素繊維が使用されている。活性炭素繊維は低濃度の有機溶剤含有ガスを吸着する機能に優れ、吸着材として使用されている。例えば、活性炭素繊維を支持体に固定し、又は自己支持にて円筒状に構成し、芯材内に縦型に配設したガス処理装置が、特開2014-147864号公報(特許文献1)に開示されている。
【0004】
また、実開昭58-161636号公報(特許文献2)では活性炭吸着器(処理槽)の脱着蒸気出口に熱交換器の凝縮側を接続すると共に、熱交換器の蒸発側に水を供給し、熱交換器の蒸発側と前記活性炭吸着器の脱着用水蒸気入口を接続したラインに減圧ブロアを介設し、脱着蒸気の熱で蒸発側の水を蒸発させて脱着用水蒸気を発生させることで、水蒸気使用量を削減した活性炭脱着装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-147864号公報
【文献】実開昭58-161636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脱着工程において、処理槽から排出される脱着ガスの温度は外気温度や被処理ガスの有機溶剤濃度、被処理ガスの湿度などの変動によって随時変化するため、特許文献2のように熱交換器を介して脱着ガスの熱で脱着用水蒸気を発生させる場合は、脱着用水蒸気の流量を十分確保できない恐れがある。
【0007】
また、脱着工程の前期において、処理槽に供給される脱着用水蒸気の熱は吸着材や処理槽本体、配管、切り替えバルブの加熱に多く消費されるため、結果として処理槽から排出される脱着ガスの温度が低くなる。そのため、特許文献2のように熱交換器を介して脱着ガスの熱で脱着用水蒸気を発生させる場合は、脱着工程の前期において、脱着用水蒸気がほとんど発生させることができない恐れがある。その結果、脱着工程の前期において、脱着用水蒸気の流量を十分確保できない恐れがある。
【0008】
これらの問題により、脱着ガスの熱で脱着用水蒸気を発生させる機構を有する有機溶剤回収装置を考えた場合は、脱着工程中の脱着用水蒸気の流量が安定しないことから、有機溶剤の脱着効率が低下し、有機溶剤の回収効率が低下する恐れがある。
【0009】
また、特許文献において、熱交換器内にある脱着ガスの凝縮水は、処理ガスに含まれる有機溶剤の分解物によって酸性を示す場合がある。蒸気温度に近い高温状態や、乾湿の繰り返しによる高濃度化によって腐食作用が高くなり、熱交換器の部材での孔食などの原因となる。その結果、熱交換器の部材の腐食による脱着ガスの漏洩などの事故を引き起こす恐れがある。
【0010】
そこで本発明では、上記課題に鑑みなされ、その目的は、脱着ガスの熱で脱着用水蒸気を発生させる機構を有し、処理槽へ供給される脱着用水蒸気の流量が十分確保され、有機溶剤の回収効率が向上し、有機溶剤の分解物による部材の腐食が低減される、有機溶剤回収システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の有機溶剤回収システムは、以下の構成を備える。
【0012】
有機溶剤を含有する被処理ガスから有機溶剤を吸着除去する吸着材が収容された処理槽を備え、前記処理槽に供給された前記被処理ガスを前記吸着材に接触させて処理ガスを排出する吸着処理と、前記処理槽に供給された脱着用水蒸気により前記吸着材から前記有機溶剤を脱着して脱着ガスを排出する脱着処理とを繰り返す有機溶剤回収装置と、
前記有機溶剤回収装置から排出された前記脱着ガスが通過する発熱部と、補給水が供給される吸熱部とを有し、当該発熱部を通過する前記脱着ガスにて、当該吸熱部の補給水を間接加熱して水蒸気を発生させ、間接加熱後の前記脱着ガスを排出する熱交換器と、
前記熱交換器から排出された前記脱着ガスを冷却して凝縮液を排出する冷却部と、を備えた有機溶剤回収システムであって、
前記熱交換器の前記発熱部に水蒸気を供給する水蒸気供給部を備え、
前記熱交換器は、前記補給水から発生した水蒸気を、前記脱着用水蒸気の少なくとも一部として前記有機溶剤回収装置に供給する。
【0013】
上記の有機溶剤回収システムは、前記熱交換器の前記吸熱部の気相部分の圧力を測定する圧力測定部を備え、当該圧力測定部の測定結果により前記発熱部に供給する水蒸気の流量を制御してもよい。
【0014】
上記の有機溶剤回収システムは、前記熱交換器の前記吸熱部の液相部分の温度を測定する温度測定部を備え、当該温度測定部の測定結果により前記発熱部に供給する水蒸気の流量を制御してもよい。
【0015】
上記の有機溶剤回収システムは、前記処理槽から排出される前記脱着ガスを前記熱交換器に供給する経路と、前記処理槽から排出される前記脱着ガスを前記冷却部に供給する経路と、を備え、前記脱着処理の前期において、前記熱交換器の前記発熱部に水蒸気を供給するとともに、前記冷却部に前記処理槽から排出される前記脱着ガスを供給し、前記脱着工程の後期において、前記熱交換器の前記発熱部に前記脱着ガスを供給するとともに、前記冷却部に前記発熱部を通過した後の前記脱着ガスを供給してもよい。
【0016】
上記の有機溶剤回収システムでは、前記有機溶剤回収装置は、前記冷却部から排出される凝縮液を溜める凝縮液溜部を備え、前記熱交換器は、間接加熱した後の前記脱着ガスが滞留する脱着ガス出口受部と、当該脱着ガス出口受部から未凝縮の前記脱着ガスを前記冷却部に供給する配管経路と、当該脱着ガス出口受部から凝縮液となった前記脱着ガスを前記凝縮液溜部に供給する配管経路と、を備えてもよい。
【0017】
上記の有機溶剤回収システムでは、前記熱交換器は、前記吸熱部である容器部の内部に前記発熱部である管部を備えた多管式熱交換器であってもよい。
【0018】
上記の有機溶剤回収システムでは、前記水蒸気供給部は、前記有機溶剤回収装置に前記脱着用水蒸気を直接供給する脱着用水蒸気供給部と接続している又は兼用されていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に従えば、脱着ガスの熱で脱着用水蒸気を発生させる機構を有し、処理槽へ供給される脱着用水蒸気の流量が十分確保され、有機溶剤の回収効率が向上しつつ、有機溶剤の分解物による熱交換器の部材の腐食が低減される、有機溶剤回収システムの提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施の形態1における有機溶剤回収装置の構成を示す概念図である。
図2】実施の形態1における有機溶剤回収装置の吸着工程及び脱着工程の時間的な切り替わりを示すタイムチャートである。
図3】実施の形態2における有機溶剤回収装置の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に基づいた実施の形態の有機溶剤回収システムについて、以下、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。実施の形態における構成を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されていることである。
【0022】
ここで、本明細書において有機溶剤とは、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化エチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、フロン-112、フロン-113、HCFC、HFC、臭化プロピル、ヨウ化ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ビニル、プロピオン酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、炭酸ジエチル、蟻酸エチル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、アニソール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール、ペンタノール、ヘプタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アクリロニトリル、n-ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、イソノナン、デカン、ドデカン、ウンデカン、テトラデカン、デカリン、ベンゼン、トルエン、m-キシレン、p-キシレン、o-キシレン、エチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びジメチルスルホキシド等を指すが、これらには限定されない。
【0023】
[実施の形態1]
図1を参照して、本実施の形態1の有機溶剤回収システムについて説明する。図1は、実施の形態1の有機溶剤回収システム1Aの構成を示す図である。
【0024】
有機溶剤回収システム1Aは、有機溶剤回収装置100、熱交換器115、及び冷却部としてコンデンサ111を備える。
有機溶剤回収装置100は、第1処理槽104A、及び、第2処理槽104Bを備える。第1処理槽104Aは、円筒形状の第1吸着材105Aを含み、第2処理槽104Bは、円筒形状の第2吸着材105Bを含む。第1吸着材105A及び第2吸着材105Bは、外側から内側に向けて被処理ガスIが通過して吸着工程(吸着処理)が実施され、内側から外側に向けて水蒸気が通過して脱着工程(脱着処理)が実施される。第1吸着材105A及び第2吸着材105Bには、例えば、活性炭素繊維や活性炭等が用いられる。
【0025】
第1処理槽104A及び第2処理槽104Bは、被処理ガス導入ライン103及び脱着ガスライン110に連結されている。被処理ガス導入ライン103への連結の開閉、及び、脱着ガスライン110への連結の開閉を行なうため、第1処理槽104A及び第2処理槽104Bには、それぞれ、第1自動下ダンパ107A及び第2自動下ダンパ107Bが設けられている。
【0026】
第1処理槽104A及び第2処理槽104Bの上方には、それぞれ、被処理ガスIの流通を制御する第1自動上ダンパ106A及び第2自動上ダンパ106Bが設けられている。
【0027】
脱着ガスライン110には、熱交換器115が連結されている。熱交換器115は脱着ガスライン110が連結される脱着ガス入口チャンバー115Cを有する。また、熱交換器115は熱交換器出口ガスライン117、及び、熱交換器凝縮液ライン118が連結される脱着ガス出口受部である脱着ガス出口チャンバー115Dを有する。さらに補給水収容部115Eには補給水VIが供給される。補給水VIは、例えば、送液ポンプなどによって補給水収容部115Eに送られる。
【0028】
熱交換器115は、脱着ガスライン110から供給された脱着ガスによって補給水収容部115E中の補給水VIを間接加熱することにより、当該補給水VIを蒸発させて水蒸気を発生させる。
【0029】
補給水収容部115Eは、沸点が例えば70℃以上97℃以下、好ましくは75℃以上95℃以下になるように減圧されており、発生した水蒸気は熱交換器115に連結された再生水蒸気ライン119を通じ、再生水蒸気としてスチームコンプレッサー122に供給される。スチームコンプレッサー122は高圧の水蒸気を駆動源(以下、駆動水蒸気)として定圧の水蒸気(以下、吸引水蒸気)を減圧状態にして吸込み、中圧の水蒸気(以下、吐出水蒸気)へ昇圧する機構である。本発明では、スチームコンプレッサー用水蒸気ライン121を通じて高圧の水蒸気VIII(水蒸気Vの一部)を駆動水蒸気としてスチームコンプレッサー122に供給することで、再生水蒸気ライン119を通じて再生水蒸気を吸引水蒸気として吸込み、脱着用水蒸気ライン108を通じて水蒸気VIIIと再生水蒸気が混合された脱着用水蒸気を吐出水蒸気として排出する。スチームコンプレッサー122から排出された脱着用水蒸気は脱着用水蒸気ライン108を通じて脱着工程を行っている第1処理槽104A及び第2処理槽104Bに供給される。なお、スチームコンプレッサー122は同様の効果を有する圧縮機を代わりに用いても良く、例えばルーツブロワー、ターボブロワーなどがあげられる。
【0030】
補給水収容部115Eには、水蒸気Vの一部である水蒸気VIIを供給するための水蒸気供給部である熱交換器用水蒸気供給ライン120が連結されている。水蒸気VIIを供給することで、補給水収容部115Eを所定の圧力以上(例えばゲージ圧で-0.099MPa以上)に保つことができ、スチームコンプレッサー122が吸い込む吸引水蒸気、すなわち再生水蒸気の流量を十分確保することができる。結果としてスチームコンプレッサー122の吐出水蒸気、すなわち脱着用水蒸気の流量を十分確保することができ、有機溶剤回収装置100の脱着工程における有機溶剤の脱着効率が高く維持される。また、熱交換器115に供給される脱着ガスの温度が低い時間帯において、水蒸気VIIを供給することで熱交換器115本体や補給水収容部115E中の補給水VIを高温の状態に維持することができ、補給水VIを効率よく蒸発させることができる。
【0031】
補給水収容部115Eには、熱交換器115内の圧力を測定する圧力測定部である圧力センサー115Fが設けられている。また、熱交換器用水蒸気供給ライン120上には水蒸気VIIの流量を調整する調整バルブV4が設けられている。
【0032】
熱交換器115には水蒸気VIIの流量を調整する制御部115Gが設けられている。具体的に、制御部115Gは圧力センサー115Fで検出される補給水収容部115Eの圧力が所定範囲(ゲージ圧で-0.099~-0.080MPa程度)に維持されるように、調整バルブV4の開度を調整して水蒸気VIIを供給する。
【0033】
熱交換器115は多管式熱交換器が好ましい。多管式熱交換器とは容器部であるシェルと呼ばれる円筒内に多数の管部であるチューブを配列した熱交換器であり、チューブの表面が伝熱面としてはたらき、チューブ115Bの内側(以下、チューブ側)に流れる流体とチューブ115Bの外側とシェル115Aの内側との間(以下、シェル側)に流れる流体との熱交換が行われる。つまり、チューブ115Bが熱を与える発熱部であり、シェル115Aが熱を受け取る吸熱部である。チューブ115Bは脱着ガス入口チャンバー115Cと脱着ガス出口チャンバー115Dを連結する。さらに本発明の熱交換器115は、チューブ115Bが水平方向を向くように配置され、チューブ側が脱着ガスを供給する凝縮側としてはたらき、シェル側が補給水VI及び水蒸気VIIを供給する蒸発側としてはたらく。なお、熱交換器として同様の効果を持つものであれば他の方式の熱交換器を代わりに使用してもよく、例えばプレート式やスパイラル式などの構造があげられる。
【0034】
シェル115A内では補給水VIがチューブ115Bの一部と接触する水量で常に滞留している。補給水VIとチューブ115Bが接触することにより、補給水VIが脱着ガスから受熱して蒸発する。また、チューブ115Bは補給水を蒸発温度まで加熱する役割も果たすため、補給水VIを加温するための補給水加温設備を別途設ける必要がない。
【0035】
熱交換器115は、チューブ115Bの一部が補給水収容部115E中の補給水VIと接触させないように補給水VIの水面高さを調整することが好ましい。具体的に、チューブ115Bの一部が補給水VIの水面と再生水蒸気ライン119との間の、シェル115A内の気相部分に位置する。シェル115A内の気相部分に位置するチューブ115Bによって、再生水蒸気が加熱され、再生水蒸気がスチームコンプレッサー122に吸い込まれるまでに凝縮することを防ぐことができる。なお、補給水VIの水面高さを調整する手段として、例えばフロート式、ディスペーサー式、差圧式、静電容量式液面計による制御方法が考えられる。
【0036】
熱交換器115の脱着ガス出口チャンバー115Dは熱交換器出口ガスライン117に連結し、コンデンサ111と接続される。コンデンサ111の内部では、熱交換器115で熱交換を終えた脱着ガスと冷却水との熱交換が行われ、脱着ガスが冷却凝縮される。
【0037】
コンデンサ111で凝縮した凝縮液はコンデンサ凝縮液ライン112を通じて凝縮液溜部であるセパレータ113に供給される。セパレータ113は、コンデンサ凝縮液ライン112から送られた凝縮液を、回収溶剤113Aの層と分離排水113Bの層とに分離する。分離排水113Bについては、曝気装置にて曝気後に排水する構成を採用してもよい。
【0038】
脱着ガスライン110上に三方式の開閉バルブV3を設けている。開閉バルブV3の下流側の一方は熱交換器115の脱着ガス入口チャンバー115Cに接続され、下流側のもう一方はコンデンサライン116を経由してコンデンサ111に接続される。開閉バルブV3によって脱着ガスの熱交換器115への供給、又はコンデンサ111への供給を切り替えることができる。なお、三方式の開閉バルブV3の代わりに二方式の開閉バルブを複数用いて同様の切り替え動作を行ってもよい。
【0039】
熱交換器115の脱着ガス出口チャンバー115Dには熱交換器凝縮液ライン118が連結されている。熱交換器凝縮液ライン118はセパレータ113に連結されている。熱交換器115のチューブ115Bで熱交換を終えた脱着ガスは、未凝縮の脱着ガスと凝縮した凝縮液とに分離され、脱着ガス出口チャンバー115Dに供給される。脱着ガス出口チャンバー115Dに供給された脱着ガスの凝縮液は熱交換器凝縮液ライン118を通じてセパレータ113に直接供給される。熱交換器115の凝縮液をコンデンサに通さないことで、コンデンサで使用される冷却水の水量を削減することができる。
【0040】
コンデンサ111の気相部分及びセパレータ113の気相部分には、戻りガスライン114が連結されている。戻りガスライン114は、被処理ガスライン101に導入されている。戻りガスライン114から被処理ガスライン101に返送されるガスは、被処理ガスIの流れ方向に対して、対抗流となるように導入されるとよい。
【0041】
被処理ガスライン101には、被処理ガス送風機102が設けられている。被処理ガス送風機102で送り出される被処理ガスIは、被処理ガス導入ライン103を通じて、第1処理槽104A及び第2処理槽104Bに送り込まれる。
【0042】
スチームコンプレッサー122の吐出水蒸気、すなわち脱着用水蒸気は、脱着用水蒸気ライン108を通じて、第1処理槽104A及び第2処理槽104Bに供給される。第1処理槽104Aには、脱着用水蒸気ライン108が連結し、脱着用水蒸気ライン108には、第1水蒸気開閉弁V1が設けられている。第2処理槽104Bには、脱着用水蒸気ライン108が連結し、脱着用水蒸気ライン108には、第2水蒸気開閉弁V2が設けられている。
【0043】
上記構成を有する有機溶剤回収装置100において、第1自動上ダンパ106A、第2自動上ダンパ106B、第1自動下ダンパ107A、第2自動下ダンパ107B、第1水蒸気開閉弁V1、第2水蒸気開閉弁V2、熱交換器115、スチームコンプレッサー122、コンデンサ111、セパレータ113、及び、被処理ガス送風機102は、図示しない制御装置により、以下に示すガス処理方法を実現するように運転及び開閉が適宜制御される。
【0044】
(ガス処理方法)
上記構成を有する有機溶剤回収システム1Aを用いたガス処理方法について説明する。図1において、有機溶剤回収装置100の第1処理槽104Aは脱着工程が実施され、第2処理槽104Bは吸着工程が実施される。
【0045】
(第2処理槽104Bの吸着工程)
有機溶剤含有ガスを含んだ被処理ガスIは、被処理ガスライン101から、被処理ガス送風機102にて吸着工程となっている第2処理槽104Bに送られる。第2自動下ダンパ107Bは、被処理ガス導入ライン103を開放し、脱着ガスライン110を閉鎖するように制御される。
【0046】
第2自動上ダンパ106Bは、第2吸着材105Bにおける被処理ガスIの流通を可能とする開状態に制御される。
【0047】
第2処理槽104Bの第2吸着材105Bで有機溶剤の吸着が行なわれ、処理ガスIIとして、システム外へ導出される。脱着用水蒸気ライン108の第2水蒸気開閉弁V2は、閉状態に制御される。
【0048】
(第1処理槽104Aの脱着工程)
第1処理槽104Aには被処理ガスIを送ることはなく、第1自動下ダンパ107Aで、被処理ガス導入ライン103は閉鎖され、脱着ガスライン110が開放された状態に制御される。第1自動下ダンパ107Aは、第1吸着材105Aの外側から内側へのガスの流通が閉鎖される。脱着用水蒸気が、脱着用水蒸気ライン108を通じて、第1吸着材105Aの内側から外側への流通を可能に導入される。脱着用水蒸気ライン108の第1水蒸気開閉弁V1は、開状態に制御される。
【0049】
脱着用水蒸気は水蒸気VIIIと再生水蒸気とがスチームコンプレッサー122で混合されて生成される。水蒸気VIIIは水蒸気Vの一部である。スチームコンプレッサー122はスチームコンプレッサー用水蒸気ライン121を通じて供給される水蒸気VIIIを駆動源とし、再生水蒸気ライン119を通じて減圧状態にした再生水蒸気を吸込み、脱着用水蒸気ライン108を通じて水蒸気VIIIと再生水蒸気とが混合された脱着用水蒸気を吐出する。
【0050】
第1処理槽104A内では、脱着用水蒸気が噴出し、第1吸着材105Aに吸着された有機溶剤が、第1吸着材105Aから脱着される。
【0051】
脱着された有機溶剤と水蒸気が混合された脱着ガスは、脱着工程の前期である第1脱着工程と後期である第2脱着工程とで動作が異なる。図2は、図1に示す実施の形態1の有機溶剤回収装置100の吸着工程及び脱着工程の時間的な切り替わりを示すタイムチャートである。
【0052】
(第1処理槽104Aの第1脱着工程)
第1処理槽104Aの第1脱着工程(すなわち、図2に示すt0~t1の間)においては、三方式の開閉バルブV3を操作することによって、脱着ガスがコンデンサライン116を通じてコンデンサ111に供給される。
【0053】
コンデンサ111の内部では、脱着ガスと冷却水との熱交換が行われ、脱着ガスが冷却凝縮される。コンデンサ111で凝縮した脱着ガスの凝縮液はコンデンサ凝縮液ライン112を通じてセパレータ113に供給される。セパレータ113において、回収溶剤113Aの層と分離排水113Bの層とに分離する。
【0054】
(第1処理槽104Aの第2脱着工程)
第1処理槽104Aの第2脱着工程(すなわち、図2に示すt1~t2の間)においては、三方式の開閉バルブV3を操作することによって、脱着ガスが脱着ガスライン110を通って熱交換器115へ送られる。
【0055】
脱着ガスは熱交換器115のチューブ側へ供給され、熱交換器115のシェル側に滞留している補給水VIと熱交換される。具体的に、伝熱面を通じて補給水VIを間接加熱する。
【0056】
熱交換器115で補給水VIとの熱交換を終えた脱着ガスは、未凝縮の脱着ガスと凝縮した凝縮液とに分離される。未凝縮の脱着ガスは熱交換器出口ガスライン117を通じてコンデンサ111に供給される。コンデンサ111の内部では、脱着ガスと冷却水との熱交換が行われ、脱着ガスが冷却凝縮される。一方、熱交換器115で凝縮した脱着ガスの凝縮液は熱交換器凝縮液ライン118を通じてセパレータ113に供給される。
【0057】
コンデンサ111で凝縮した脱着ガスの凝縮液はコンデンサ凝縮液ライン112を通じてセパレータ113に供給される。セパレータ113において、回収溶剤113Aの層と分離排水113Bの層とに分離する。
【0058】
第1脱着工程と第2脱着工程において、コンデンサ111及びセパレータ113内に滞留している戻りガスは、脱着ガスによって押し出され、戻りガスライン114を通って被処理ガスライン101に導入され、被処理ガスIに混合される。被処理ガスライン101から導入される被処理ガスI及び戻りガスは、第2処理槽104Bに送られる。
【0059】
第2脱着工程では熱交換器115のシェル側では脱着ガスがチューブ側に供給されるため、補給水VIの蒸発により水蒸気が発生する。一方で第1脱着工程では脱着ガス入口チャンバー115Cに、熱交換器用水蒸気供給ライン120を通じて水蒸気Vの一部である水蒸気VIIを供給することで、水蒸気VIIによって補給水VIの蒸発によって水蒸気が発生する。補給水VIの蒸発により発生した水蒸気と水蒸気VIIとが混合した再生水蒸気が再生水蒸気ライン119を通じてスチームコンプレッサー122に吸い込まれる。水蒸気VIIの供給によって、補給水VIの蒸発量が変動する場合においてもスチームコンプレッサー122に吸い込まれる再生水蒸気の流量が不足することなく、第1処理槽104Aの脱着工程が効率よく行われる。
【0060】
第1脱着工程において第1処理槽104Aに供給された脱着用水蒸気の熱は第1吸着材105Aや第1処理槽104A本体、第1自動上ダンパ106A、第1自動下ダンパ107A、及び各配管ラインの加熱に多く消費されるため、第1処理槽104Aから排出される脱着ガスの温度は低くなる。そのため、第1脱着工程において熱交換器115の脱着ガス入口チャンバー115Cに水蒸気VIIを供給し、第1処理槽104Aから排出される脱着ガスが高温の状態(70~120℃程度)になる第2脱着工程に熱交換器115の脱着ガス入口チャンバーに水蒸気VIIを供給しないように制御すれば、脱着工程の前期の再生水蒸気の流量を十分確保できる上に水蒸気VIIの使用量を削減できるため、好ましい。
【0061】
第1脱着工程から第2脱着工程へ切り替えるタイミングは、第1脱着工程において処理槽から排出される脱着ガスの温度が高温の状態に達するまでの時間をあらかじめ測定しておいて決定すればよい。また、外気温の変動等により処理槽から排出される脱着ガスの温度が高温の状態に達するまでの時間が変動する場合は、処理槽から排出される脱着ガスの温度を測定する温度センサーを設け、温度センサーで検出された脱着ガスの温度が高温の状態に達した時点で自動的に第1脱着工程から第2脱着工程へ切り替えるように制御してもよい。
【0062】
また第一脱着工程において、水蒸気VIIを脱着ガス入口チャンバー115Cに供給することで、熱交換器で凝縮した水蒸気VIIは水となって熱交換器115のチューブ115B内を流れるため、脱着ガスの凝縮水に含まれる腐食性のある有機溶剤の分解物を洗い流す/希釈することで、凝縮水の腐食性を低減することができ、熱交換器115が高寿命化する。
【0063】
一定時間が経過すると吸着工程と脱着工程が切り替わり、第1処理槽104Aが吸着工程、第2処理槽104Bが脱着工程となる。このように、吸着工程と脱着工程を交互に行なわれる連続的な処理により、有機溶剤回収装置100によって、連続的に回収溶剤113Aが回収される。
【0064】
[実施の形態2]
図3を参照して、実施の形態2の有機溶剤回収システムについて説明する。図3は、実施の形態2の有機溶剤回収システム1Bの構成を示す図である。
【0065】
実施の形態2の有機溶剤回収システム1Bの基本的構成は、上記実施の形態1で説明した有機溶剤回収システム1Aと同じである。相違点として、実施の形態2の有機溶剤回収システム1Bは、補給水収容部115Eに、熱交換器115内の補給水VIの温度を測定する温度測定部である温度センサー115Hが設けられている。
【0066】
具体的に、制御部115Gは温度センサー115Hで検出される補給水収容部115Eの補給水VIの温度が所定範囲(70℃~97℃程度)に維持されるように、調整バルブV4の開度を調整して水蒸気VIIを供給する。
【0067】
実施の形態2の有機溶剤回収システム1B構成によっても、上記実施の形態1における有機溶剤回収システム1Aと同様の作用効果を得ることができる。
【0068】
上記で開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0069】
上記開示における有機溶剤回収装置100においては、処理槽として、第1処理槽104A及び第2処理槽104Bを用いて、吸着工程と脱着工程を交互に行なう有機溶剤の回収処理について説明したが、この2つの処理槽を用いる有機溶剤回収処理に限定されるものではなく、処理槽は3槽以上あってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により、省エネルギーで有機溶剤の回収効率が向上しつつ、水蒸気を発生させる機構が腐食されるのを低減する有機溶剤回収システムを提供することが可能となり、産業界へ大いに貢献できる。
【符号の説明】
【0071】
1A,1B 有機溶剤回収システム、100 有機溶剤回収装置、101 被処理ガスライン、102 被処理ガス送風機、103 被処理ガス導入ライン、104A 第1処理槽、104B 第2処理槽、105A 第1吸着材、105B 第2吸着材、106A 第1自動上ダンパ、106B 第2自動上ダンパ、107A 第1自動下ダンパ、107B 第2自動下ダンパ、108 脱着用水蒸気ライン、110 脱着ガスライン、111 コンデンサ(冷却部)、112 コンデンサ凝縮液ライン、113 セパレータ(凝縮液溜部)、113A 回収溶剤、113B 分離排水、114 戻りガスライン、115 熱交換器、115A シェル(吸熱部、容器部)、115B チューブ(発熱部、管部)、115C 脱着ガス入口チャンバー、115D 脱着ガス出口チャンバー(脱着ガス出口受部)、115E 補給水収容部、115F 圧力センサー(圧力測定部)、115G 制御部、115H 温度センサー(温度測定部)、116 コンデンサライン、117 熱交換器出口ガスライン、118 熱交換器凝縮液ライン、119 再生水蒸気ライン、120 熱交換器用水蒸気供給ライン(水蒸気供給部)、121 スチームコンプレッサー用水蒸気ライン、122 スチームコンプレッサー、V1 第1水蒸気開閉弁、V2 第2水蒸気開閉弁、V3 開閉バルブ、V4 調整バルブ、I 被処理ガス、II 処理ガス、III 回収溶剤、IV 分離排水、V,VII,VIII 水蒸気、VI 補給水
図1
図2
図3