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  • 特許-腋芽メリステムを用いた植物の改変方法 図1
  • 特許-腋芽メリステムを用いた植物の改変方法 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】腋芽メリステムを用いた植物の改変方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/00 20060101AFI20250109BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A01H1/00 A ZNA
C12N15/09 100
C12N15/09 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021545246
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2020033270
(87)【国際公開番号】W WO2021049388
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2019164264
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】濱田 晴康
(72)【発明者】
【氏名】柳楽 洋三
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】田岡 直明
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205104(JP,A)
【文献】特開2017-205103(JP,A)
【文献】特開2004-283051(JP,A)
【文献】特開2004-337043(JP,A)
【文献】特表平03-504800(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090761(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0044173(US,A1)
【文献】特開2005-137291(JP,A)
【文献】MANICKAVASAGAM, M. et al.,Agrobacterium-mediated genetic transformation and development of herbicide-resistant sugarcane (Saccharum species hybrids) using axillary buds,Plant Cell Rep.,2004年,Vol.23,pp.134-143
【文献】HE, Y. et al.,Production and evaluation of transgenic sweet orange (Citrus sinensis Osbeck) containing bivalent an,Scientia Horticulturae,2011年,Vol.128,pp.99-107
【文献】QI, W. et al.,Regeneration and transformation of Crambe abyssinica,BMC Plant Biology,2014年,Vol.14, No.235,pp.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸により被覆された微粒子を導入する工程と、を含み、
前記植物体が、ナス科植物からなる群から選ばれるいずれか1つの植物体であることを特徴とする植物の形質転換方法。
【請求項2】
前記植物体の腋芽が、培地上で生育させた植物体の腋芽である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腋芽が、側枝の腋芽である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記側枝が、ストロンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ナス科植物が、ジャガイモである、請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記導入する工程において、ストッピングプレートと前記茎頂との距離が2cm以上9cm以下であり、前記茎頂に前記微粒子を撃ち込む回数が2回以上20回以下である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記茎頂が、植物ホルモン存在下の組織培養、カルス化、および選択マーカー遺伝子を必要とせずに得られる、請求項1から請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸により被覆された微粒子を導入する工程と、該茎頂を生育させ植物体を得る工程と、該植物体から形質転換された植物体を選択する工程と、を含み、
前記植物体が、ナス科植物からなる群から選ばれるいずれか1つの植物体であることを特徴とする植物の形質転換体を製造する方法。
【請求項9】
前記導入する工程において、ストッピングプレートと前記茎頂との距離が、2cm以上9cm以下であり、前記茎頂に前記微粒子を撃ち込む回数が2回以上20回以下である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記茎頂が、植物ホルモン存在下の組織培養、カルス化、および選択マーカー遺伝子を必要とせずに得られる、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆された微粒子を導入する工程と、を含み、
前記植物体が、ナス科植物からなる群から選ばれるいずれか1つの植物体であることを特徴とする植物のゲノム編集方法。
【請求項12】
前記植物体の腋芽が、培地上で生育させた植物体の腋芽である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記腋芽が、側枝の腋芽である、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記側枝が、ストロンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ナス科植物が、ジャガイモである、請求項11から請求項14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記導入する工程において、ストッピングプレートと前記茎頂との距離が、2cm以上9cm以下であり、前記茎頂に前記微粒子を撃ち込む回数が2回以上20回以下である、請求11から請求項15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記茎頂が、植物ホルモン存在下の組織培養、カルス化、および選択マーカー遺伝子を必要とせずに得られる、請求項11から請求項16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆された微粒子を導入する工程と、該茎頂を生育させ植物体を得る工程と、該植物体から、ゲノム編集された植物体を選択する工程と、を含み、
前記植物体が、ナス科植物からなる群から選ばれるいずれか1つの植物体であることを特徴とする植物のゲノム編集個体を製造する方法。
【請求項19】
前記導入する工程において、ストッピングプレートと前記茎頂との距離が、2cm以上9cm以下であり、前記茎頂に前記微粒子を撃ち込む回数が2回以上20回以下である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記茎頂が、植物ホルモン存在下の組織培養、カルス化、および選択マーカー遺伝子を必要とせずに得られる、請求項18または請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茎頂組織を用いた植物のインプランタ形質転換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在普及している植物の一般的な形質転換法は、in vitro培養系のプロトプラスト、カルス又は組織片などに外来遺伝子を、電気穿孔法、アグロバクテリウム・ツメファシエンス菌を介して又はパーティクルガン法などにより導入する方法である。しかしこれらの方法では、遺伝子が細胞または組織に導入されたとしても、植物品種によっては、植物ホルモン等を用いた組織培養が困難で、植物体を再生して形質転換体を作製することが難しいという問題があった。また、形質転換効率が十分に高くなく、そのため選択マーカー遺伝子を導入してマーカー選抜を行わなければならないという問題もあった。さらに、長期の組織培養を必要とすることに伴い、体細胞変異(ソマクローナル変異)が頻繁に生じる点も問題であった。そのため、形質転換植物作製の労力軽減や形質転換植物の安全性の観点から、組織培養を伴わないインプランタ形質転換方法およびインプランタ形質転換植物体の作製方法の開発が求められていた。
【0003】
一方、コムギやイネなどにおいて、in vitro培養系のカルス又は組織片を用いない形質転換法(インプランタ形質転換法)も知られている。インプランタ形質転換方法としては、露出させた未熟胚、完熟胚の茎頂または塊茎の幼芽に、パーティクルガン法を用いて直接遺伝子導入する方法が知られている(非特許文献1、特許文献1-2)。また、特許文献3及び非特許文献2には、発芽直後の完熟胚にアグロバクテリウムを感染させ、遺伝子導入する方法が記載されている。
【0004】
しかし、先行技術文献に共通して、ジャガイモなどの栄養繁殖性の植物においては、多くの栽培品種で雄性不稔形質を有するため、遺伝子導入後の未熟胚または完熟胚を用いて次世代種子を取得するインプランタ形質転換法を適用することは困難である。また、特許文献1-2では、塊茎の幼芽が用いられているものの、茎頂分裂組織露出後の生存率が低かった。
さらに、特許文献1-2では、導入遺伝子が次世代に伝達されることなどの実証にも至っていなかった。このような要因から、上記の手法は、現在に至るまで汎用化されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/195905号パンフレット
【文献】国際公開第2017/195906号パンフレット
【文献】国際公開第2005/024034号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【文献】Bilang et al. (1993) Transient gene expression in vegetative shot apical meristems of wheat after ballistic microtargeting. Plant Journal (1993) 4, 735-744
【文献】Supartana et al. (2005) Development of simple and efficient in planta transformation for rice (Oryza sativa L.) using Agrobacterium tumefaciencs. Journal of Bioscience AND Bioengineering (2005) 4, 391-397
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、植物ホルモン存在下の組織培養におけるカルス又は組織片を用いない植物の形質転換方法を提供する。本発明はまた、植物ホルモンを用いない植物の形質転換方法を提供する。本発明はさらに、選択マーカー遺伝子を導入しない植物形質転換方法を提供する。本発明はさらに、再現性に優れる形質転換植物の作製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前述の課題解決のために鋭意検討を行なった結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
<1>植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸により被覆された微粒子を導入する工程と、を含むことを特徴とする植物の形質転換方法である。
<2> 植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸により被覆された微粒子を導入する工程と、該茎頂を生育させ植物体を得る工程と、該植物体から形質転換された植物体を選択する工程と、を含むことを特徴とする植物の形質転換体を製造する方法である。
<3> 植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆された微粒子を導入する工程と、を含むことを特徴とする植物のゲノム編集方法である。
<4> 植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆された微粒子を導入する工程と、該茎頂を生育させ植物体を得る工程と、該植物体から、ゲノム編集された植物体を選択する工程と、を含むことを特徴とする植物のゲノム編集個体を製造する方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、物理的手法による形質転換の標的として、腋芽中の茎頂を用いることで、植物ホルモン存在下の組織培養、カルス化および選択マーカー遺伝子を必要とせずに、再現性良く植物の形質転換体を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ジャガイモを例とした各部位の説明を示した図である(実施例1)。
図2A図2Aは、ジャガイモ腋芽のGFPの一過性発現を示す写真である(実施例2;ストロン)。
図2B図2Bは、ジャガイモ腋芽のGFPの一過性発現を示す写真である(実施例2;地上部側枝)。
図3図3は、本発明の実施例2に係るT世代ゲノム編集個体の取得方法をスキーム化した図である(実施例3)。
図4図4は、T植物個体における標的遺伝子変異導入の解析結果を示す図である(実施例4)。
図5図5は、T植物個体におけるシークエンス解析結果を示す図である(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るインプランタ形質転換方法は、植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸により被覆された微粒子を導入する工程と、を含み、さらにその他の工程を含むことができる。
本発明に係る植物のゲノム編集方法は、植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆された微粒子を導入する工程と、を含み、さらにその他の工程を含むことができる。
前記微粒子を導入する工程は、該植物のゲノムDNA上の標的部位に塩基の欠失、挿入、または置換を導入するように、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆された微粒子を導入することができ、それにより、該標的部位に塩基の欠失、挿入、または置換が導入されてゲノム編集された植物体を得ることができる。
【0013】
本発明において、「茎」とは、植物を天然またはそれに近い条件下で栽培(または培養)して得られる天然の茎のみでなく、インビトロ苗などの組織培養物から得られる茎も含まれる。ただし、形質転換可能な茎頂が取得できる人工種子が開発されれば、それから形成される茎を用いることも可能である。天然の茎には、野外の畑などで得られる茎のみでなく、温室栽培により得られる茎も含まれる。また、塊茎より得られる茎のみではなく、種子から得られる茎も含まれる。ダイレクト・リプログラミングなどにより得られる茎も茎頂が取得できる限り本発明の茎として使用し得る。
【0014】
本発明において、「ストロン」とは、主茎の地下節部より発生した側枝の一種をいう。また、本発明においては、ストロンの節部より新たに発生したストロンを用いることも可能である。
【0015】
なお、本発明においては、「腋芽」とは、葉の付け根、または茎およびストロンにおける節から生じる新たな芽茎頂を含む組織をいう。
前記腋芽を取得する材料として塊茎、又は完熟種子を用いるのが好ましい。完熟種子とは、受粉後の登熟過程が終了して種子として完熟しているものをいう。
前記腋芽としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、塊茎から萌芽した茎の地上部側枝、又は塊茎から萌芽した茎の地下部側枝(ストロン)が好ましく、塊茎から萌芽した茎の地下部側枝(ストロン)がより好ましい。
これらの中でも、塊茎を萌芽させた後、培地上で生育させた腋芽が好ましい。
【0016】
本明細書において、茎頂とは、茎の先端の成長点(茎頂分裂組織)ならびに成長点および成長点から生じた数枚の葉原基からなる組織を含む意味である。本発明においては、葉原基を除去した半球状(ドーム状)の成長点のみを茎頂として用いても良く、成長点および葉原基を含む茎頂や該茎頂を含む植物組織を用いてもよい。葉原基を除去した成長点のみを用いることでウイルスフリーの組織が得られる。
【0017】
1.形質転換の前処理工程
本発明に係るインプランタ形質転換法は、栄養繁殖性の植物に限られず、広く一般に種子を生じる植物に適用することができる。従って、本発明に係るインプランタ形質転換法の対象植物は、被子植物及び裸子植物を含む種子植物である。被子植物には、単子葉植物及び双子葉植物が含まれる。
【0018】
単子葉植物としては、いずれの種類であってもよいが、例えば、イネ科植物、ユリ科植物、バショウ科植物、パイナップル科植物、ラン科植物などが挙げられる。
【0019】
イネ科植物
としては、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、エンバク、シバ、ソルガム、ライムギ、アワ、サトウキビなどが挙げられる。ユリ科植物としては、ネギ、アスパラガスなどが挙げられる。バショウ科植物としては、バナナなどが挙げられる。パイナップル科植物としては、パイナップルなどが挙げられる。ラン科植物としては、ランなどが挙げられる。
【0020】
双子葉植物としては、例えば、アブラナ科植物、マメ科植物、ナス科植物、ウリ科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、クワ科植物、アオイ科植物、キク科植物、ヒユ科植物、およびタデ科植物などが挙げられる。
これらの中でも、ナス科植物が好ましい。
【0021】
アブラナ科植物としては、シロイヌナズナ、ハクサイ、ナタネ、キャベツ、カリフラワー、ダイコンなどが挙げられる。マメ科植物としては、ダイズ、アズキ、インゲンマメ、エンドウ、ササゲ、アルファルファなどが挙げられる。ナス科植物としては、トマト、ナス、ジャガイモ、タバコ、トウガラシなどが挙げられる。これらの中でも、ジャガイモが好ましい。ウリ科植物としては、マクワウリ、キュウリ、メロン、スイカなどが挙げられる。ヒルガオ科植物としては、アサガオ、サツマイモ(カンショ)、ヒルガオなどが挙げられる。バラ科植物としては、バラ、イチゴ、リンゴなどが挙げられる。クワ科植物としては、クワ、イチジク、ゴムノキなどが挙げられる。アオイ科植物としては、ワタ、ケナフなどが挙げられる。キク科植物としては、レタス、ステビアなどが挙げられる。ヒユ科植物としては、テンサイ(サトウダイコン)などが挙げられる。タデ科植物としては、ソバなどが挙げられる。
【0022】
一方、裸子植物としては、マツ、スギ、イチョウ及びソテツなどが挙げられる。
【0023】
本発明に係るインプランタ形質転換法では、まず殺菌した塊茎から萌芽させる。必要に応じて浴光処理による浴光催芽および浴光育芽をしてもよい。育芽は、塊茎を切片化し、培土中またバーミキュライト中で、暗所でインキュベートすることにより行われる。ストロンの調整は、伸長させた茎の節を寒天培地上に置床し、暗所でインキュベートすることにより行われる。また、インビトロ苗を作製する場合は、萌芽または腋芽部分を寒天培地上で生育することにより行われる。寒天培地は、通常用いられている植物培養用の培地であれば何でも良いが、好ましくはMS培地、ガンボルグB5培地、LS培地等、より好ましくはMS培地を用いることができる。生育温度は、例えば、ジャガイモの場合には、10~23℃が好ましく、より好ましくは20℃である。
【0024】
2.葉および葉原基を取り除き茎頂を露出させる工程
次いで、上記で調整されたストロンまたはインビトロ苗の茎の節間をメスなどの切断器具を用いて切断する。ジャガイモの場合には、葉及び葉原基を除去することで、茎頂を露出させる。露出手段としては、実体顕微鏡下において、葉及び葉原基を除去することができるものであればいずれのものであってよいが、例えば、直径0.2mm程度の針などの穿設するための器具、ピンセット、ピペット、注射器、並びにメスおよびカッターなどの切断器具が挙げられる。次いで、メスなどの切断器具を用いて余分なストロンまたは茎部分を切除し、露出した茎頂を含むストロンまたは側枝を寒天培地上に、茎頂を上向きに置床する。ウイルスフリーの茎頂を得るために、茎頂を切り出す最終段階でメスを新規な滅菌メスに取り替えてもよい。この場合はウイルスフリーの形質転換体を得ることができる。
【0025】
3.茎頂の細胞に核酸および/またはタンパク質を導入する工程
目的遺伝子の導入には、公知の遺伝子工学的手法を用いることができ、特に限定されない。一般的には、目的遺伝子を含む組換えベクターを作製して、腋芽の茎頂を標的に、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、PEG-リン酸カルシウム法、リポソーム法、マイクロインジェクション法、ウィスカー法、レーザーインジェクション法などにより、核酸(組換えベクターなど)やタンパク質などを導入することができる。
前記パーティクルガン法は、微粒子に核酸および/またはタンパク質をコーティングして細胞組織に打ち込む方法であり、単子葉植物のようにアグロバクテリウムの感染効率が低い場合に有効である。
【0026】
前記茎頂の細胞に核酸および/またはタンパク質により被覆された微粒子を導入する手段としては、微粒子を植物細胞に導入することができるものであれば特に制限はなく、パーティクルガン法におけるパーティクルガン(遺伝子銃)などが挙げられる。
前記茎頂の細胞に核酸および/またはタンパク質により被覆された微粒子を導入する方法としては、微粒子を植物細胞に導入することができる方法であれば特に制限はなく、パーティクルガン法におけるパーティクルガン(遺伝子銃)を用いて微粒子を撃ち込む方法などが挙げられる。
【0027】
前記微粒子としては、細胞内への貫通力を高めるため、高比重で、かつ、化学的に不活性であり生体に害を及ぼしにくいものであれば特に制限はなく、金属微粒子、セラミック微粒子などが挙げられる。金属微粒子としては、金属単体微粒子であってもよく、合金微粒子であってもよく、前記金属単体微粒子の中でも、金粒子、タングステン粒子などが特に好ましい。
前記被覆は、前記微粒子の全表面であってもよいし、一部であってもよい。
【0028】
本発明に用いるベクターは特に限定されず、例えば、pAL系(pAL51、pAL156など)、pUC系(pUC18、pUC19、pUC9など)、pBI系(pBI121、pBI101、pBI221、pBI2113、pBI101.2など)、pPZP系、pSMA系、中間ベクター系(pLGV23Neo、pNCATなど)、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)などを用いることができる。
【0029】
目的遺伝子を含むベクターは、例えば以下のようにして作製することができる。ベクターに目的遺伝子を挿入するには、例えば、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトなどに挿入してベクターに連結する方法を用いることができる。また、二重交叉組換え(double cross-over)により中間ベクターに目的遺伝子を挿入してもよく、TAクローニング、In-Fusionクローニングなどを用いてもよい。
【0030】
目的遺伝子は特に限定されず、その遺伝子の発現または発現の抑制が望まれるものであればよく、対象となる植物の内因性遺伝子または外来遺伝子でもよい。外来遺伝子としては、生物種が異なるものであってもよく、例えば、動物、植物、微生物、ウイルスなどの遺伝子を用いることができる。そのような遺伝子として、例えば、糖代謝関連遺伝子、脂質代謝関連遺伝子、有用物質(医薬、酵素、色素、芳香成分など)生産遺伝子、植物生長制御(促進/抑制)遺伝子、開花調節関連遺伝子、耐病虫害性(昆虫食害抵抗性、線虫、カビ(菌類)及び細菌病抵抗性、ウイルス(病)抵抗性など)遺伝子、環境ストレス(低温、高温、乾燥、塩、光障害、紫外線)耐性遺伝子、トランスポーター遺伝子、製粉特性・製パン特性・製麺特性関連遺伝子、部位特異的ヌクレアーゼ遺伝子などが挙げられる。また、目的遺伝子は、センス鎖以外に、遺伝子導入の目的に応じてアンチセンス、リボザイム、RNAiなどを発現するように導入してもよい。
【0031】
本明細書において、「ゲノム編集」とは、ニューブリーディングテクニック(NBT)といわれる技術の一部で、メガヌクレアーゼ、CRISPR-CASなどを用いて、ゲノム上の特定の遺伝子を切断して変を導入することで遺伝子を破壊すること、もしくは、部位特異的にDNA断片を欠失、挿入または置換することをいう。ゲノム編集技術を用いることで、狙った遺伝子を高い効率で破壊できる。遺伝子破壊の場合、遺伝子組換えの痕跡を残さずに狙った遺伝子のみを破壊できることから組換え植物と取り扱わない国もある。また、ゲノム編集によれば、切断配列の両側の配列に相同な断片を、その部位に導入したいDNA断片の両側に連結しておくことで、効率よく部位特異的なDNA断片の挿入または置換が可能である。
【0032】
上記意味で、ゲノム編集は、外来遺伝子がほぼランダムに組み込まれる従来型の植物の形質転換法、例えば、直接導入法やアグロバクテリウム法などとは異なる技術とも言え、形質転換法の定義からゲノム編集技術を除く考え方もあり得る。ゲノム編集技術では、切断部位をターゲティングできるヌクレアーゼまたはガイドRNAとヌクレアーゼを用いてゲノムDNAを切断する工程を含むことが特徴で、かかるターゲティングできるヌクレアーゼまたはガイドRNAとヌクレアーゼを用いない従来型の形質転換法とは区別できる。ここで、「ヌクレアーゼまたはガイドRNAとヌクレアーゼを用いて」という意味は、ヌクレアーゼタンパク質を細胞に導入してもよく、ヌクレアーゼ遺伝子をコードするDNAおよび/またはRNAを細胞に導入してヌクレアーゼタンパク質を発現させてもよいという意味である。また、ガイドRNAについてもRNAを細胞に導入してもよく、ガイドRNAを発現し得るDNAを導入してガイドRNAを発現させてもよい趣旨である。
【0033】
部位特異的ヌクレアーゼ遺伝子がコードするタンパク質としては、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ活性を発現するタンパク質またはTAL effector nuclease(TALEN)などが挙げられる。ジンクフィンガーヌクレアーゼは、特定の塩基を認識するジンクフィンガーモチーフ数個とFokIヌクレアーゼの融合タンパク質である。TALLENはTranscription Activator Like (TAL) effectorとFokIヌクレアーゼの融合タンパク質である。部位特異的ヌクレアーゼは、他の追加の標的化技術、例えば、メガヌクレアーゼ、RNA誘発性CRISPR-Cas9、またはロイシンジッパーなどで構成される。
【0034】
部位特異的ヌクレアーゼを本発明の形質転換法を用いて細胞に導入して、ゲノム中に組み込み、発現させてゲノム編集することにより、1つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変することができる。すなわち、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子を含有し、発現する細胞中に、Casタンパク質およびDNA分子をターゲティングする1つ以上のガイドRNAを含み得るCRISPR-Casシステムを導入し、それにより1つ以上のガイドRNAが、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座をターゲティングし、Casタンパク質が、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座を開裂し、それにより1つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変することができる。
【0035】
Casタンパク質およびガイドRNAは、天然に存在するもの(組み合わせ)であってもよく、天然には存在しない組み合わせであってもよい。本発明においては、2つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変してもよい。ガイドRNAが、tracr配列に融合しているガイド配列を含んでいてもよい。
【0036】
ガイドRNAの長さは、少なくとも15、16、17、18、19、20ヌクレオチドであり、好ましい上限のヌクレオチド数は、30以下、より好ましくは25以下、さらに好ましくは22以下、最も好ましくは20である。
【0037】
好ましい実施形態において、形質転換される細胞は、植物細胞であり、さらに好ましくは、茎頂分裂組織の細胞である。
【0038】
本発明においては、Casタンパク質が1つ以上の核局在化シグナル(NLS)を含んでいてもよい。一部の実施形態において、Casタンパク質は、II型CRISPR系酵素である。一部の実施形態において、Casタンパク質は、Cas9タンパク質である。一部の実施形態において、Cas9タンパク質は、肺炎連鎖球菌(S.pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)、またはS.サーモフィラス(S.thermophilus)Cas9であり、それらの生物に由来する突然変異Cas9を含み得る。タンパク質は、Cas9ホモログまたはオルソログであり得る。
【0039】
Casタンパク質は、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されていてもよい。Casタンパク質は、標的配列の局在における1または2つの鎖の開裂を指向し得る。本発明の他の側面において、遺伝子産物の発現を減少させ、遺伝子産物はタンパク質である。
【0040】
ベクターには、目的遺伝子のほかに、例えばプロモーター、エンハンサー、インシュレーター、イントロン、ターミネーター、ポリA付加シグナル、選抜マーカー遺伝子などを連結することができる。
【0041】
ベクターに挿入する目的遺伝子は1ベクターあたり複数種であってもよく、微粒子に被覆する組換えベクターも1微粒子あたり複数種であってもよい。例えば、目的遺伝子を含む組換えベクターと、薬剤耐性遺伝子を含む組換えベクターを別々に作し、混合して微粒子を被覆して植物組織に撃ち込んでもよい。
【0042】
プロモーターとしては、植物体内または植物細胞において機能し、構成的に発現するか、植物の特定の組織内あるいは特定の発育段階において発現を導くことのできるDNAであれば、植物由来のものでなくてもよい。具体例としては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、El2―35Sオメガプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター、ADH、RuBiscoプロモーターなどが挙げられる。翻訳活性を高める配列、例えば、タバコモザイクウイルスのオメガ配列を用いて翻訳効率を上げることができる。また、翻訳開始領域としてIRES(internal ribosomal entry site)をプロモーターの3’―下流側で、翻訳開始コドンの5’―上流側に挿入することで複数のコーディング領域からタンパク質を翻訳させることもできる。
【0043】
ターミネーターとしては、前記プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結でき、ポリA付加シグナルを有する配列であればよく、例えば、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35S ターミネーターなどが挙げられる。
【0044】
選抜マーカー遺伝子としては、例えば、除草剤耐性遺伝子(ビアラホス耐性遺伝子、グリフォセート耐性遺伝子(EPSPS)、スルホニル尿素系耐性遺伝子(ALS))、薬剤耐性遺伝子(テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子など)、蛍光または発光レポーター遺伝子(ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニターゼ(GUS)、グリーンフルオレッセンスプロテイン(GFP)など)、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPT II)、ジヒドロ葉酸レダクターゼなどの酵素遺伝子が挙げられる。ただし、本発明によれば選抜マーカー遺伝子を導入しなくても形質転換体の作製は可能である。
【0045】
上記目的遺伝子を含むベクターを、パーティクルガン法でジャガイモの腋芽に撃ち込む。目的遺伝子および/またはタンパク質は微粒子(マイクロキャリア)の表面に被覆して植物細胞に遺伝子銃で撃ち込むことができる。微粒子としては、細胞内への貫通力を高めるため、高比重で、かつ、化学的に不活性であり生体に害を及ぼしにくいという理由から金属微粒子が好ましく用いられる。金属微粒子の中でも、金粒子、タングステン粒子などが特に好ましく用いられる。
【0046】
パーティクルガン法では以下のようにして目的遺伝子を植物細胞に導入することができる。まず、金粒子またはタングステン粒子などの微粒子を洗浄滅菌し、該微粒子、核酸(組換えベクター、直鎖状DNA、RNAなど)、CaCl、スペルミジンをボルテックスミキサーなどで攪拌しながら加えて、DNAを金粒子またはタングステン粒子にコーティングし、エタノールで洗浄する。
【0047】
前記微粒子の粒径は0.3μm以上0.9μm以下が好ましく、より好ましい粒径は0.4μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは0.6μmを用いる。粒径のより好ましい上限としては、0.8μm以下、さらに好ましくは0.7μm以下、特に好ましくは0.6μmである。
【0048】
金粒子またはタングステン粒子は、ピペットマンなどを用いてマクロキャリヤーフィルムに可能な限り均一に塗布した後、クリーンベンチなどの無菌環境中で乾燥させる。そして、マクロキャリヤーフィルム、ターゲットの腋芽の茎頂を置床したプレートをパーティクルガン装置に設置し、ガス加速管から高圧ヘリウムガスをマクロキャリヤーフィルムに向かって発射する。マクロキャリヤーフィルムはストッピングプレートで止まるが、金粒子はストッピングプレートを通過して、ストッピングプレートの下に設置したターゲットに貫入し、目的遺伝子が導入される。タンパク質をコートした微粒子の場合は、親水性のマクロキャリヤーフィルムを用いるのが好ましい。
【0049】
親水性のマクロキャリアフィルムは、マクロキャリアフィルムに親水性フィルムを貼付しても良いし、親水性コーティングを施しても良い。フィルムを親水化する手法としては、界面活性剤や光触媒、親水性ポリマーを利用する手法等が挙げられる。
【0050】
上記手法に用いられる親水性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリル酸、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、グルコキシオキシエチルメタクリレート、3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等の親水性モノマーの重合体が挙げられる。
【0051】
ストッピングプレートとターゲットとなる茎頂との距離は、微粒子の粒径にもよるが、例えば、9cm以下が好ましく、より好ましくは8cm以下、さらに好ましくは7cm以下、特に好ましくは6cm以下であり、距離の下限としては、例えば、2cm以上が好ましく、より好ましくは3cm以上、さらに好ましくは4cm以上である。ストッピングプレートとターゲットの距離は、微粒子の種類、粒径、ガス圧などに応じて、一過的発現実験などにより、適宜最適な値を決定することができる。
【0052】
ガス圧としては、微粒子の種類、ターゲットとの距離にもよるが、好ましくは、例えば、1,100~1,800psiが好ましく,より好ましくは1,300~1,500psiである。ガス圧については、微粒子の種類、ターゲットの種類、ターゲットとストッピングプレートとの距離などに応じて、一過的発現実験などにより、適宜最適な圧力を決定することができる。
【0053】
本発明の形質転換方法においては、茎頂に微粒子を撃ち込む回数としては、2回以上が好ましく、さらに好ましくは3回以上、より好ましくは4回以上である。茎頂に微粒子を撃ち込む回数の上限としては、20回以下が好ましく、より好ましくは15回以下、さらに好ましくは10回以下である。撃ち込む回数については、一過的発現実験などにより、適宜最適な回数を決定することができる。
【0054】
微粒子を撃ち込まれた細胞中では、核酸が微粒子から遊離し、核酸がゲノムDNAにインテグレートすることで形質転換細胞が得られる。ただし、ジェミニウイルスのようなプラスミド状で増殖する核酸や人工染色体を導入した場合はインテグレートせずに形質転換する場合もあり得る。また、本発明の形質転換法によれば、オルガネラへの外来遺伝子の導入も可能である。その場合にはオルガネラで特異的に発現するプロモーターを機能的に連結された遺伝子を用いるのが好ましい。
【0055】
4.その他の工程
前記その他の工程としては、例えば、微粒子を撃ち込んだ茎頂を生育させ植物体を得る工程、該植物体から、目的の植物体を選択する工程などが挙げられる。
前記粒子を撃ち込んだ茎頂を生育させ植物体を得る工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、形質転換処理した腋芽の茎頂を寒天培地上で1ヶ月程度生育させた後、土へ移植する方法などが挙げられる。
茎頂へのボンバードメントの場合、薬剤などによる選択圧をかけずに(抗生物質などを含まない)通常の培地で生育させることによっても形質転換体を得ることができるが、薬剤耐性遺伝子をさらに導入してもよい。薬剤耐性遺伝子を導入した場合は、薬剤により形質転換細胞を選択的に培養することができる。茎頂培養に適した選択薬剤としては、例えば、スルフォニル尿素系除草剤クロロスルフロン(変異型ALS遺伝子(アセト酪酸合成酵素遺伝子)導入により耐性獲得可能)などが知られている。
【0056】
薬剤耐性遺伝子を導入する場合、該薬剤耐性遺伝子は目的遺伝子と同じベクター上にあってもよく別のベクター上にあってもよい。別々のベクター上に挿入した場合は、それらが別々の染色体に組み込まれた場合、自家受粉や戻し交配を行って後代を取ることにより目的遺伝子が導入された植物個体と薬剤耐性遺伝子を有する植物個体とに分離できるというメリットがある。
【0057】
本発明に係る植物の形質転換体を製造する方法は、植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸により被覆された微粒子を撃ち込む工程と、該茎頂を生育させ植物体を得る工程と、該植物体から形質転換された植物体を選択する工程と、を含む。
本発明に係る植物のゲノム編集個体を製造する方法は、植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆された微粒子を撃ち込む工程と、該茎頂を生育させ植物体を得る工程と、該植物体から、ゲノム編集された植物体を選択する工程と、を含む。
前記各工程は、上述のとおりである。
以上の手法により、目的遺伝子を導入した植物体やゲノム編集した植物体を作出することができる。また、このようにして作出された植物は、安定的に目的遺伝子が発現し、または、目的遺伝子の発現が抑制され、後代に正常に遺伝する(伝達される)。
【0058】
ジャガイモへの遺伝子導入効率およびゲノム編集効率は、以下のようにして調べることができる。
【0059】
遺伝子の導入効率は、遺伝子導入処理後の生育個体からDNAを抽出して、PCR法および/またはサザンブロット法を行うことにより、目的遺伝子がゲノム編集されたか否かを検出することができ、導入に用いた外植片数と外来遺伝子を有していた生育個体数から、ゲノム編集効率を算出する。
【0060】
目的遺伝子のゲノム編集効率は、遺伝子導入処理後の生育個体からDNAを抽出して、PCR産物を制限酵素処理することにより、目的遺伝子がゲノム編集されたか否かを検出することができ、導入に用いた外植片数と標的変異を有していた生育個体数から、ゲノム編集効率を算出する。標的変異が確認された生育個体について、目的遺伝子から発現されたRNAの有無を調べる。RNAの有無は、例えばRT-PCR法などで確認することができる。ノザンブロッティングにより検出してもよい。
【0061】
また、ゲノム編集された目的遺伝子から発現されたタンパク質の有無を調べることもできる。タンパク質の有無は、例えば植物片の染色、電気泳動、ELISA法、RIA、ドットイミュノバイディングアッセイ、および/またはウエスタンブロット法などで確認することができる。そして導入に用いた外植片数と目的遺伝子がゲノム編集されたタンパク質の存在(または非存在)が確認された生育個体数から、目的遺伝子のゲノム編集効率を算出する。
【実施例
【0062】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)形質転換に最適な組織の検討
形質転換を行うために、葉原基を取り除き茎頂を露出させる。そこで、形質転換に適した組織を選定するため、各種組織中の茎頂を露出させ(図1)、その後の生存率を算出した。
【0064】
1.組織の調整
(1)幼芽の調整
ジャガイモ(品種:男爵芋)の塊茎をエタノール(99.5%)に瞬間浸漬し、キムタオル上に載せ、22℃でインキュベートした。萌芽した後、塊茎との付け根部分を滅菌済みナイフにより切断し、幼芽を塊茎から切り離した。実体顕微鏡下において、葉原基を針(直径0.20mm)の先端を用いて除去した。これをMS-スクロース培地(4.3g/L MS salt ,MS vitamin,30g/L スクロース,0.98g/L MES ,3%PPM(plant preservative mixture,ナカライテスク),7.0g/L phytagel,pH5.8)に、茎頂が上向きになるように置床した。
【0065】
(2)地上部側枝の調整
ジャガイモ(品種:ラセットバーバンク)の塊茎をエタノール(99.5%)に瞬間浸漬し、キムタオル上に載せ、22℃でインキュベートした。萌芽した後、滅菌済みナイフにより塊茎を半分に切断し、MS-スクロース培地を入れたディスポーザブル植物細胞培養容器に移植し、長日(22℃、16時間日長)で約1ヶ月育成した。再生した植物個体の茎の節間を、滅菌済みナイフにより切断し、節をMS-スクロース培地を入れたディスポーザブル植物細胞培養容器に再度移植し、同条件で育成した。この操作を2回以上繰り返した後に、再生してきた植物体の茎を実験に使用した。節間および節部の葉を滅菌済みナイフにより切断し、実体顕微鏡下において、葉原基を針(直径0.20mm)の先端を用いて除去した。これをMS-スクロース培地に、茎頂が上向きになるように置床した。
ジャガイモ(品種:男爵芋)を用いて地上部側枝を調整する場合も、上記と同様に行った。
【0066】
(3)ストロンの調整
ジャガイモ(品種:男爵芋)の塊茎をエタノール(99.5%)に瞬間浸漬し、キムタオル上に載せ、22℃でインキュベートした。萌芽した後、滅菌済みナイフにより塊茎を半分に切断し、園芸用育苗培土を入れたポットへ移植した。その後、暗所、22℃に設定した人工気象機にて、茎が伸長するまで生育した。節間を滅菌済みナイフにより切断し、節をMS-スクロース培地を入れたディスポーザブル植物細胞培養容器に移植し、暗所、22℃に設定した人工気象機にて、ストロンが伸長するまで生育した。ストロンの節間を滅菌済みナイフにより切断し、実体顕微鏡下において、葉原基を針(直径0.20mm)の先端を用いて除去した。これをMS-スクロース培地に、茎頂が上向きになるように置床した。
【0067】
2.生存率の算出
実施例1-(1)および(2)で調整したプレートを、長日(22℃、16時間日長)で約3週間育成した。実施例1-(3)で調整したプレートを暗所、22℃で同様に約3週間育成した。茎またはストロンが伸長した個体を生存個体とし、茎頂露出操作後の各組織の生存率を算出した(表1)。その結果、幼芽では16%と低調であった一方、地上部側枝およびストロンではそれぞれ100%、90%と高効率であった。各組織によって、茎頂を露出操作後の生存率が大きく異なることがわかった。
【0068】
【表1】
【0069】
(実施例2)形質転換体の取得
腋芽(地上部側枝、ストロン)を用いた場合、茎頂露出操作後の生存率が高いことがわかった。そこで、該組織を用いることで、インプランタ法による形質転換体の取得が可能である。
【0070】
1.組織の調整
実施例1-(2)~(3)に記載の方法に従う。各組織を15-20個/プレートずつMS-スクロース培地に、茎頂が上向きになるように置床した。
【0071】
2.パーティクルガン法による遺伝子導入
ジャガイモの茎頂への遺伝子質導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行った。
【0072】
(1)金粒子の調整と撃ち込み
0.6μmの金粒子30mgをはかり取り、70%エタノール500μLを加え、ボルテックスにてよく懸濁する。その後、遠心により金粒子を沈殿させ、エタノールを除去する。その後、Nuclease-Free Waterで金粒子を3回洗浄し、Nuclease-Free Water500μLを加え金粒子ストック溶液とする。
【0073】
実施例においては、導入遺伝子は蛍光レポーター遺伝子GFP(S65T)を含むプラスミドDNA(pUC系プラスミド)を用いた。当該遺伝子は、カリフラワーモザイクウイルス由来の35Sプロモーターの制御下で発現するよう設計されたものである。ターミネーターとしては、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーターが付加されている。
【0074】
1.5mLチューブに、Qiagen Plasmid Midi Kit(Qiagen)により精製したプラスミドDNA溶液(1μg/μL)を、金粒子750μgあたり5μgになるように入れた。滅菌金粒子含有溶液は使用前に、超音波発生器(多賀電機製超音波洗浄機UW-25)を使って念入りに懸濁し、上記チューブに適当量入れピペッティングにより攪拌した。次に上記チューブに、金粒子750μgあたり2.5M CaCl(nacalai tesque)25μLと0.1M Spermidine(nacalai tesque)10μLを加えた。混合後すぐに、ボルテックスにより5分間激しく懸濁した。10分間室温にて静置後、9,100×gで2秒間遠心した。上清を除去し、70%エタノール及び99.5%エタノールで洗浄した。最後に、上清を除去して99.5%エタノールを24μL添加してよく懸濁した。クリーンベンチ内でマクロキャリアの中央に6μLずつ注ぎ、風乾させた。
【0075】
パーティクルガンは、Biolistic(登録商標) PDS-1000/He Particle Delivery System(BIO-RAD)を使用し、撃ち込み時の圧力は約94.9kgf/cm(1,350psi)とし、ストッピングスクリーンから標的組織までの距離は3.5cmとした。1シャーレにつき4回ずつ撃ち込んだ。撃ち込み後、22℃、暗所において一晩静置した。
【0076】
(2)GFPタンパク質の発現確認
実体蛍光顕微鏡(Leica社製MZFLIII)下で腋芽茎頂におけるGFP蛍光(励起:470/40 吸収:525/50)の観察を行った。その結果、ストロン(図2A)および地上部側枝(図2B)の茎頂において、スポット状または茎頂全体でGFP蛍光が観察された。この結果から、パーティクルガンを用いた腋芽茎頂への遺伝子導入が可能であることがわかった。
【0077】
3.形質転換体の取得
地上部側枝の腋芽茎頂においてGFP蛍光が確認された個体を、MS-スクロース培地を入れたディスポーザブル植物細胞培養容器に移植し、長日(22℃、16時間日長)で約2週間育成した。茎頂より分化した葉において、外来遺伝子が導入されているかを調査した。生育した葉(50mg)から塩化ベンジル法を用いてゲノミックDNAを抽出し、これを鋳型として、35Sプロモーターに特異的な配列から作製したプライマーを用いてPCR反応を行った。
35S-F:CCAGAGGGCTATTGAGACTTTTC(配列番号1)
35S-R:ATATAGAGGAAGGGTCTTGCGAA(配列番号2)
【0078】
PCR反応液には、ゲノミックDNA1.0μL、KODFXNeo(TOYOBO)0.4U、2×添付バッファー5μL、0.4mM dNTPs、プライマー対各0.2μMを加え、滅菌蒸留水で合計10μLにフィルアップする。
PCRは、TaKaRa PCR Thermal Cycler Diceを用いて、98℃を10秒間、68℃を1分間の反応を1サイクルとしてこれを32サイクル行う。PCR反応後、各PCR産物5μLについて、1.0%のアガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイドで染色した。
【0079】
その結果、表2に示すように、遺伝子導入処理を行った236個体のうち、16個体において外来遺伝子の挿入を示すシグナルが検出され、形質転換効率は6.8%であった。以上のように、本法を用いることで効率よく形質転換体取得が可能であることがわかった。
【0080】
【表2】
【0081】
(実施例3)ゲノム編集個体の取得
腋芽(地上部側枝、ストロン)を用いた場合、茎頂露出操作後の生存率が高いことがわかった。そこで、該組織を用いることで、インプランタ法によるゲノム編集個体の取得が可能である(図3)。
【0082】
1.組織の調整
実施例1-(2)~(3)に記載の方法に従う。各組織を15-20個/プレートずつMS-スクロース培地に、茎頂が上向きになるように置床する。
【0083】
2.パーティクルガン法によるタンパク質導入
ジャガイモの茎頂へのタンパク質導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行う。
【0084】
(1)金粒子の調整と撃ち込み
0.6μmの金粒子60mgをはかり取り、70%エタノール500μLを加え、ボルテックスにてよく懸濁する。その後、遠心により金粒子を沈殿させ、エタノールを除去する。その後、Nuclease-Free Waterで金粒子を3回洗浄し、Nuclease-Free Water500μLを加え金粒子ストック溶液とする。
【0085】
実施例においては、gRNAとしてcrRNA及びtracrRNA(ファスマック)の混合物(1μg/μL)を用いる。Cas9タンパク質として、例えばStreptococcus pyogenes 由来Cas9(Takara)を用いる。
【0086】
crRNA-GBSS1-tg1:
AGGGCUGUUAACAAGCUUGAguuuuagagcuaugcuguuuug(配列番号3)
crRNA-GBSS1-tg2:
GGGCUGUUAACAAGCUUGAUguuuuagagcuaugcuguuuug(配列番号4)
crRNA-GBSS1-tg3:
UACUAAGGUAACACCCAAGAguuuuagagcuaugcuguuuug(配列番号5)
crRNA-ALS1/2:
CAAGUGCCGAGGAGGAUGAUguuuuagagcuaugcuguuuug(配列番号6)
tracrRNA:
AAACAGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCU(配列番号7)
【0087】
上記各gRNAまたはgRNAの混合物(crRNA-GBSS1-tg1、crRNA-GBSS1-tg2、crRNA-GBSS1-tg3) 5μg、Cas9タンパク質 12μg、10×Cut Smartバッファー5μL、Ribolock RNase Inhibitor 1.0μLを加え、滅菌蒸留水で合計20μLにフィルアップする。室温で15分間静置した後、金粒子1500μgを入れ、氷上で10分間静置する。上清を捨てた後、Nuclease-Free Waterを26μL加え、これを金粒子/Cas9複合体として使用する。クリーンベンチ内でマクロキャリアの中央に、1.0~1.5cm角に切った親水性フィルム(3M、SH2CLHF)を貼りつける。これに上記金粒子/Cas9複合体を6μLずつ注ぎ、風乾させる。なお、金粒子径は0.6μmとし、金粒子量は1回の撃ち込みあたり、375μgになるように入れ、1プレートあたり4回の撃ち込みを行う。
【0088】
(2)タンパク質導入処理個体の生育
一晩静置したタンパク質導入処理個体をMS-スクロース培地を入れたディスポーザブル植物細胞培養容器(Sigma)に移植し、長日(22℃、16時間日長)で3-4週間育成する。
【0089】
(3)T植物個体における標的遺伝子変異導入の解析
得られた植物体において、標的遺伝子(GBSS1遺伝子またはALS1/2遺伝子)に変異が導入されているかを調査する。生育した植物体全体(50mg)から塩化ベンジル法を用いてゲノミックDNAを抽出し、これを鋳型として、各遺伝子に特異的な配列から作製したプライマーを用いてPCR反応を行う。
GBSS1-F:CTTGCCTACTGTAATCGGTGATAA(配列番号8)
GBSS1-R:TTTGACCTGCAGATAAAGTAGCG(配列番号9)
ALS1/2-F:GGTTCCCTGGTGTTTGCATT(配列番号10)
ALS1/2-R:GCTTCACGAACAACCCTAGG(配列番号11)
【0090】
PCR反応液には、ゲノミックDNA1.0μL、KODFXNeo(TOYOBO)0.4U、2×添付バッファー5μL、0.4mMdNTPs、プライマー対各0.2μMを加え、滅菌蒸留水で合計10μLにフィルアップする。
【0091】
PCRは、TaKara PCR Thermal Cycler Diceを用いて、98℃を10秒間、68℃を1分間の反応を1サイクルとしてこれを35サイクル行う。PCR反応後、各PCR産物を1μL、10×添付バッファー1μL,適当な制限酵素5Uを加え、滅菌蒸留水で合計10μLにフィルアップする。37℃、3時間で反応させた後、1.0%のアガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイドで染色する。
【0092】
野生型株ではPCR産物が制限酵素により完全に切断されるのに対し、変異が導入された個体ではPCR産物に切れ残りが生じる。切れ残ったバンドからDNAを抽出及び精製し、シークエンス解析にかけ、標的遺伝子配列に変異が導入されているものについて、標的遺伝子変異導入個体と判断できる。タンパク質導入処理個体のうち、一定の割合でT世代植物体における標的遺伝子変異導入を確認できる。
【0093】
(実施例4)ゲノム編集個体の取得
腋芽(地上部側枝)を用いて、インプランタ法によるゲノム編集個体の取得が可能であるか調査した。
【0094】
1.組織の調整
実施例1-(2)に記載の方法に従った。各組織を15-20個/プレートずつMS-スクロース培地に、茎頂が上向きになるように置床した。品種はラセットバーバンクおよびメークインを使用した。
【0095】
2.パーティクルガン法によるタンパク質導入
ジャガイモの茎頂へのタンパク質導入は、パーティクルガン法を用いて以下のようにして行った。
【0096】
(1)金粒子の調整と撃ち込み
0.6μmの金粒子180mgをはかり取り、70%エタノール500μLを加え、ボルテックスにてよく懸濁した。その後、遠心により金粒子を沈殿させ、エタノールを除去した。その後、Nuclease-Free Waterで金粒子を3回洗浄し、Nuclease-Free Water500μLを加え金粒子ストック溶液とした。
【0097】
gRNAとしてcrRNA及びtracrRNA(ファスマック)の混合物(1μg/μL)を用いた。Cas9タンパク質として、Streptococcus pyogenes 由来Cas9(New England Biolabs)を用いた。
【0098】
crRNA-PDS-tg1:
GGACUCUUGCCAGCAAUGCUguuuuagagcuaugcuguuuug(配列番号12)
tracrRNA:
AAACAGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCU(配列番号7)
【0099】
上記各crRNA-PDS-tg1 2.5μg、およびtracrRNA 2.5μg、Cas9タンパク質 16μg、10×Cut Smartバッファー4μL、Ribolock RNase Inhibitor 1.0μLを加え、滅菌蒸留水で合計20μLにフィルアップした。室温で10分間静置した後、1,4-ビス(3-オレオイルアミドプロピル)ピペラジン/ヒストンH1タンパク質混合物(3:1、1330μg/mL)を5μL加え、金粒子2250μgを入れ、氷上で10分間静置した。上清を捨てた後、Nuclease-Free Waterを26μL加え、これを金粒子/Cas9複合体として使用した。クリーンベンチ内でマクロキャリアの中央に、1.0~1.5cm角に切った親水性フィルム(3M、SH2CLHF)を貼りつけた。これに上記金粒子/Cas9複合体を6μLずつ注ぎ、風乾させた。なお、金粒子径は0.6μmとし、金粒子量は1回の撃ち込みあたり、562.5μgになるように入れ、ガス圧は1750-1800psiに調整し、1プレートあたり2回の撃ち込みを行った。
【0100】
(2)タンパク質導入処理個体の生育
一晩静置したタンパク質導入処理個体をMS-スクロース培地を入れたディスポーザブル植物細胞培養容器(Sigma)に移植し、長日(22℃、16時間日長)で3-4週間育成した。
【0101】
(3)T植物個体における標的遺伝子変異導入の解析
得られた植物体において、標的遺伝子(PDS遺伝子)に変異が導入されているかを調査した。生育した植物体全体(50mg)から塩化ベンジル法を用いてゲノミックDNAを抽出し、これを鋳型として、各遺伝子に特異的な配列から作製したプライマーを用いてPCR反応を行った。
PDS-F:TTTCCCCGAAGCTTTACCCG(配列番号13)
PDS-R:ATCTGTCACCCTATCCGGCA(配列番号14)
【0102】
PCR反応液には、ゲノミックDNA1.0μL、KODFXNeo(TOYOBO)0.4U、2×添付バッファー5μL、0.4mMdNTPs、プライマー対各0.2μMを加え、滅菌蒸留水で合計10μLにフィルアップした。
【0103】
PCRは、TaKara PCR Thermal Cycler Diceを用いて、98℃を10秒間、68℃を1分間の反応を1サイクルとしてこれを35サイクル行った。PCR反応後、各PCR産物を1μL、10×添付バッファー1μL,適当な制限酵素(BsrDI)5Uを加え、滅菌蒸留水で合計10μLにフィルアップした。37℃、3時間で反応させた後、1.0%のアガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイドで染色した。
【0104】
野生型株ではPCR産物が制限酵素により完全に切断されるのに対し、変異が導入された個体ではPCR産物に切れ残りが生じた(図4)。
図4において、レーン1はサイズマーカーであり(M)、レーン2は男爵芋のゲノム編集個体であり(#1)、レーン3はメークインのゲノム編集個体であり(#2)、レーン4は野生型株であり(Wt)、レーン5は制限酵素なしの野生型株(Wt)である。
【0105】
切れ残ったバンドからDNAを抽出及び精製し、シークエンス解析にかけたところ、標的遺伝子配列付近に11塩基欠失の変異が導入されていた(図5)。男爵芋では69個体中1個体(1.4%)、メークインでは78個体中1個体(1.3%)の割合で、ゲノム編集個体が得られた。タンパク質導入処理個体のうち、一定の割合でT世代植物体における標的遺伝子変異導入を確認できた。
【0106】
他のナス科植物についても、本質的にはジャガイモと同様の手法により形質転換体およびゲノム編集個体を得ることができる。
【0107】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸により被覆された微粒子を導入する工程と、を含むことを特徴とする植物の形質転換方法である。
<2> 前記植物体の腋芽が、培地上で生育させた植物体の腋芽である、前記<1>に記載の方法である。
<3> 前記腋芽が、側枝の腋芽である、前記<1>または<2>に記載の方法である。
<4> 前記側枝が、ストロンである、前記<3>に記載の方法である。
<5> 前記植物が、ナス科植物からなる群から選ばれるいずれか1つである、前記<1>から<4>のいずれかに記載の方法である。
<6> 前記ナス科植物が、ジャガイモである、前記<5>に記載の方法である。
<7> 植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸により被覆された微粒子を導入する工程と、該茎頂を生育させ植物体を得る工程と、該植物体から形質転換された植物体を選択する工程と、を含むことを特徴とする植物の形質転換体を製造する方法である。
<8> 植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆された微粒子を導入する工程と、を含むことを特徴とする植物のゲノム編集方法である。
<9> 前記植物体の腋芽が、培地上で生育させた植物体の腋芽である、前記<8>に記載の方法である。
<10> 前記腋芽が、側枝の腋芽である、前記<8>または<9>に記載の方法である。
<11> 前記側枝が、ストロンである、前記<10>に記載の方法である。
<12> 前記植物が、ナス科植物からなる群から選ばれるいずれか1つである、前記<8>から<11>のいずれかに記載の方法である。
<13> 前記ナス科植物が、ジャガイモである、前記<12>に記載の方法である。
<14> 植物体の腋芽の茎頂を露出させる工程と、該茎頂に、少なくとも1種の核酸および/または少なくとも1種のタンパク質により被覆された微粒子を導入する工程と、該茎頂を生育させ植物体を得る工程と、該植物体から、ゲノム編集された植物体を選択する工程と、を含むことを特徴とする植物のゲノム編集個体を製造する方法である。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、農業、医薬産業、酵素産業などに利用できる。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
【配列表】
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