(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】半導体ナノ粒子複合体
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20250109BHJP
C09K 11/70 20060101ALI20250109BHJP
C09K 11/02 20060101ALI20250109BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20250109BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20250109BHJP
【FI】
C09K11/08 G ZNM
C09K11/70
C09K11/02 Z
B82Y20/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2021521906
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021467
(87)【国際公開番号】W WO2020241875
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2019103247
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000186762
【氏名又は名称】昭栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】城戸 信人
(72)【発明者】
【氏名】森山 喬史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋和
(72)【発明者】
【氏名】三津家 由子
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-533875(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156226(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/086362(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038487(WO,A1)
【文献】特開2019-73705(JP,A)
【文献】国際公開第2017/201386(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K、C08L、C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ナノ粒子の表面に、脂肪族リガンドと極性リガンドを含む2種以上のリガンドが配位した半導体ナノ粒子複合体であって、
前記リガンドは有機基と
1つの配位性基とからなり、
前記脂肪族リガンドは、前記有機基が脂肪族炭化水素基であり、
かつ、前記配位性基がカルボキシ基またはメルカプト基であり、
前記極性リガンドは、前記有機基に
カルボニル基、エーテル結合、およびエステル結合のうち少なくとも1つを含み、
かつ、前記配位性基がメルカプト基であり、
前記極性リガンドの分子量が50以上、600以下であり、
前記脂肪族リガンドと前記極性リガンドとの質量比(脂肪族リガンド/極性リガンド)が0.05~1.00であり、
前記脂肪族リガンドおよび前記極性リガンドと、前記半導体ナノ粒子との質量比((脂肪族リガンドおよび極性リガンド)/半導体ナノ粒子)が0.1~0.7であり、
室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する全リガンドの質量分率(L)に対して、熱重量分析において350℃以上、550℃以下の範囲での半導体ナノ粒子複合体の質量減少率(X
H)の割合({(X
H)/L}×100)が10以上、55以下である、
半導体ナノ粒子複合体。
【請求項2】
半導体ナノ粒子の表面に、脂肪族リガンドと極性リガンドを含む2種以上のリガンドが配位した半導体ナノ粒子複合体であって、
前記リガンドは有機基と
1つの配位性基とからなり、
前記脂肪族リガンドは、前記有機基が脂肪族炭化水素基であり、
かつ、前記配位性基がカルボキシ基またはメルカプト基であり、
前記極性リガンドは、前記有機基に
カルボニル基、エーテル結合、およびエステル結合のうち少なくとも1つを含み、
かつ、前記配位性基がメルカプト基であり、
前記極性リガンドの分子量が50以上、600以下であり、
前記脂肪族リガンドと前記極性リガンドとの質量比(脂肪族リガンド/極性リガンド)が0.05~1.00であり、
前記脂肪族リガンドおよび前記極性リガンドと、前記半導体ナノ粒子との質量比((脂肪族リガンドおよび極性リガンド)/半導体ナノ粒子)が0.1~0.7であり、
熱重量分析において350℃以上、550℃以下の範囲での半導体ナノ粒子複合体の質量減少率(X
H)が2%以上、15%以下である、
半導体ナノ粒子複合体。
【請求項3】
前記半導体ナノ粒子複合体を加熱した際、前記極性リガンドが前記脂肪族リガンドより低温で前記半導体ナノ粒子の表面から脱離する、
請求項1または2に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項4】
前記熱重量分析において、
半導体ナノ粒子複合体を室温から700℃に加熱した際の質量減少率(X)に対する、室温から350℃の範囲での質量減少率(X
L)の比(X
L/X)と、
室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する全リガンドの質量分率(L)に対する、室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する極性リガンドの質量分率(L
P)の比(L
P/L)と、の関係が、
(X
L/X)<(L
P/L)である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項5】
前記半導体ナノ粒子複合体は、SP値9.0~15.0の分散媒に分散可能である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項6】
前記分散媒が、アセトン、PGMEA、PGME、IPA、エタノール、およびメタノールからなる群より選択される1種または2種以上の混合分散媒である、
請求項5に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項7】
前記350℃以上での質量減少の少なくとも一部が、前記脂肪族リガンドの脱離に帰属される、
請求項1~6のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項8】
前記脂肪族リガンドは、1つの配位性基と、少なくとも1つ以上の脂肪族炭化水素基が結合している、
請求項1~7のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項9】
前記半導体ナノ粒子に対する前記リガンドの質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)が、0.1~0.7である、
請求項1~
8のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項10】
前記半導体ナノ粒子の質量分率で25質量%以上となるように前記分散媒に分散可能である、
請求項5~
9のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項11】
前記半導体ナノ粒子は前記半導体ナノ粒子の表面にZnを含有する、
請求項1~
10のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項12】
前記半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率が80%以上である、
請求項1~
11のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項13】
前記半導体ナノ粒子複合体の発光スペクトルの半値幅が40nm以下である、
請求項1~
12のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【請求項14】
前記半導体ナノ粒子がInおよびPを含む、
請求項1~
13のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体ナノ粒子複合体に関する。
本出願は、2019年5月31日出願の日本特許出願第2019-103247号に基づく優先権を主張し、前記日本特許出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
量子閉じ込め効果が発現するほど微小な半導体ナノ粒子は、粒径に依存したバンドギャップを有する。光励起、電荷注入等の手段によって半導体ナノ粒子内に形成された励起子は、再結合によりバンドギャップに応じたエネルギーの光子を放出するため、半導体ナノ粒子の組成とその粒径を適切に選択することにより、所望の波長での発光を得ることができる。
【0003】
半導体ナノ粒子は、研究初期はCdやPbを含む元素を中心に検討が行われてきたが、CdやPbが特定有害物質使用制限などの規制対象物質であることから、近年では非Cd系、非Pb系の半導体ナノ粒子の研究がなされてきている。
【0004】
半導体ナノ粒子は、ディスプレイ用途、生体標識用途、太陽電池用途など、様々な用途への応用が試みられており、特にディスプレイ用途としては、半導体ナノ粒子をフィルム化して波長変換層として利用が始まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/156226号
【文献】特開2013-136498号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】神隆著、「半導体量子ドット、その合成法と生命科学への応用」、生産と技術、第63巻、第2号、p.58-63、2011年
【文献】Fabien Dubois et al, “A Versatile Strategy for Quantum Dot Ligand Exchange” J.AM.CHEM.SOC Vol.129, No.3, p.482-483, 2007
【文献】Boon-Kin Pong et al, “Modified Ligand-Exchange for Efficient Solubilization of CdSe/ZnS Quantum Dots in Water: A Procedure Guided by Computational Studies” Langmuir Vol.24, No.10, p.5270-5276, 2008
【文献】Samsulida Abd. Rahman et al, “Thiolate-Capped CdSe/ZnS Core-Shell Quantum Dots for the Sensitive Detection of Glucose” Sensors Vol.17, No.7, p.1537, 2017
【文献】Whitney Nowak Wenger et al, “Functionalization of Cadmium Selenide Quantum Dots with Poly(ethylene glycol): Ligand Exchange, Surface Coverage, and Dispersion Stability” Langmuir, Vol.33, No.33, pp8239-8245, 2017
【文献】Jagdeep Singh et al., “Encapsulation of Zinc Oxide Nanorods and Nanoparticles” Langmuir, vol.25, No.17, pp9947-9953, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体ナノ粒子および半導体ナノ粒子複合体は一般に分散媒に分散されて、分散液として調製され、各分野に応用される。特に、実用性を付すためには分散媒に分散させることが必要である。
【0008】
さらに、半導体ナノ粒子および半導体ナノ粒子複合体は用途によっては半導体ナノ粒子のフィルム化工程、または半導体ナノ粒子含有フォトレジストのベーキング工程、あるいは半導体ナノ粒子のインクジェットパターニング後における溶媒除去および樹脂硬化工程等のプロセスにおいて、酸素の存在下で200℃程度の高温にさらされる場合がある。その際、半導体ナノ粒子との結合力が弱いリガンドはより低温で半導体ナノ粒子の表面から脱離しやすくなる。半導体ナノ粒子の表面からリガンドが脱離すると、半導体ナノ粒子の表面が酸化することによって蛍光量子効率の低下を招くこととなる。
【0009】
特許文献1には、非極性溶媒に分散可能な半導体ナノ粒子複合体のリガンドの脱離に関する開示がある。リガンドの脱離は、350℃から490℃まで昇温したときに、70%以内である。しかし、特許文献1に記載の半導体ナノ粒子複合体は非極性溶媒への分散は可能であるが、極性溶媒へは分散しない。極性溶媒へ分散させる場合には、半導体ナノ粒子に配位しているリガンドを変え、極性溶媒に分散する半導体ナノ粒子複合体にする必要がある。さらに、極性溶媒に分散する半導体ナノ粒子複合体のリガンドは脱離温度が高い必要がある。
【0010】
非特許文献1~非特許文献5、および特許文献2には、半導体ナノ粒子表面に配位するリガンドを異なるリガンドと交換することで、分散可能な分散媒が変更できることが開示されている。しかし、これらの半導体ナノ粒子複合体は極性溶媒への分散は可能になるが、リガンド交換によりそもそも半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率が低下するという問題があった。
【0011】
そこで本発明は、極性分散媒に分散可能であり、かつ、リガンドの脱離温度が高い半導体ナノ粒子複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子複合体は、
半導体ナノ粒子の表面に、脂肪族リガンドと極性リガンドを含む2種以上のリガンドが配位した半導体ナノ粒子複合体であって、
前記リガンドは有機基と配位性基とからなり、
前記脂肪族リガンドは、前記有機基が脂肪族炭化水素基であり、
前記極性リガンドは、前記有機基に親水性官能基を含み、
前記脂肪族リガンドと前記極性リガンドとの質量比(脂肪族リガンド/極性リガンド)が0.05~1.00であり、
室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する全リガンドの質量分率(L)に対して、熱重量分析において350℃以上、550℃以下の範囲での半導体ナノ粒子複合体の質量減少率(XH)の割合({(XH)/L}×100)が10以上、55以下である、
半導体ナノ粒子複合体、である。
また、本発明の別の実施形態に係る半導体ナノ粒子複合体は、
半導体ナノ粒子の表面に、脂肪族リガンドと極性リガンドを含む2種以上のリガンドが配位した半導体ナノ粒子複合体であって、
前記リガンドは有機基と配位性基とからなり、
前記脂肪族リガンドは、前記有機基が脂肪族炭化水素基であり、
前記極性リガンドは、前記有機基に親水性官能基を含み、
前記脂肪族リガンドと前記極性リガンドとの質量比(脂肪族リガンド/極性リガンド)が0.05~1.00であり、
熱重量分析において350℃以上、550℃以下の範囲での半導体ナノ粒子複合体の質量減少率(XH)が2%以上、15%以下である、
半導体ナノ粒子複合体、である。
なお、本願において「~」で示す範囲は、その両端に示す数字を含んだ範囲とする。
また、本願において、「室温」とは25℃を示すものとする。
【発明の効果】
【0013】
上記の発明によれば、極性分散媒への分散が可能であり、リガンドの脱離温度が高い半導体ナノ粒子複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子複合体の熱重量分析の結果を示す図である。
【
図2】
図2は本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子複合体とリガンド単体の赤外線吸収スペクトルを示した図である。
【
図3】
図3は本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子複合体の赤外線吸収スペクトルの実測値と計算値をフィッティングした図である。
【
図4】
図4は本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子複合体のC-H伸縮の吸収ピークについて、フィッティングカーブに占める各リガンド成分の赤外線吸収スペクトルの構成を示した図である。
【
図5】
図5は本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子複合体の熱処理前後の赤外線吸収スペクトルを示した図である。
【
図6】
図6は例10の半導体ナノ粒子複合体の熱重量分析結果を示す図である。
【
図7】
図7は例16の半導体ナノ粒子複合体の熱重量分析結果を示す図である。
【
図8】
図8は例17の半導体ナノ粒子複合体の熱重量分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は半導体ナノ粒子複合体に関する。
<半導体ナノ粒子>
本発明において、半導体ナノ粒子複合体とは、発光特性を有する半導体のナノ粒子複合体である。本発明の半導体ナノ粒子複合体は340nm~480nmの光を吸収し、発光ピーク波長が400nm~750nmの光を発光する粒子である。
【0016】
半導体ナノ粒子複合体の発光スペクトルの半値幅(FWHM)は40nm以下であることが好ましく、さらには38nm以下であることがより好ましい。発光スペクトルの半値幅が前記範囲であることで、半導体ナノ粒子複合体をディスプレイ等に応用した際に混色を低減することができる。
【0017】
前記半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率(QY)は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率が80%以上であることで、より効率よく色変換ができる。本発明において、半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率は量子効率測定システムを用いて測定することができる。
【0018】
-半導体ナノ粒子-
前記半導体ナノ粒子複合体を構成する半導体ナノ粒子は、前述した蛍光量子効率、および半値幅のような発光特性を満たすものであれば特に限定されず、1種類の半導体からなる粒子でもよいし、2種類以上の異なる半導体からなる粒子であってもよい。2種類以上の異なる半導体からなる粒子の場合には、それらの半導体でコア-シェル構造を構成していてもよい。
半導体の種類としては、特に限定はしないが、InP、GaP、CdSe、CdS、ZnS、ZnSeおよびZnS等が挙げられる。特に非Cd系の半導体であることが好ましい。ここで、半導体ナノ粒子の特性を害しない限り、半導体ナノ粒子は半導体以外の組成物を含んでいても構わない。
【0019】
2種類以上の異なる半導体を含む粒子の場合、前述した半導体の混合物でもよい。コア-シェル構造を構成する場合、III族元素およびV族元素を含有するコアと、前記コアの少なくとも一部を覆うII族元素およびVI族元素を含有するシェルと、を有するコア-シェル型の粒子でもよい。ここで、前記シェルは異なる組成からなる複数のシェルを有していてもよく、シェル中でシェルを構成する元素の比率が変化する勾配型のシェルを1つ以上有していてもよい。
【0020】
III族元素としては、具体的にはIn、AlおよびGaが挙げられる。
V族元素としては、具体的にはP、NおよびAsが挙げられる。
コアを形成する組成としては、特に限定はないが、発光特性の観点からはInPが好ましい。
【0021】
II族元素としては、特に限定はないが、例えばZnおよびMg等が挙げられる。
VI族元素としては、例えば、S、Se、Te、およびOが挙げられる。
シェルを形成する組成としては、特に限定はないが、量子閉じ込め効果の観点からは、ZnS、ZnSe、ZnSeS、ZnTeSおよびZnTeSe等が好ましい。特に半導体ナノ粒子の表面にZn元素が存在している場合、本発明の効果をより発揮することができる。
【0022】
複数のシェルを有する場合、前述した組成のシェルが少なくとも1つ含まれていればよい。また、シェル中でシェルを構成する元素の比率が変化する勾配型のシェルを有している場合、シェルは必ずしも組成表記通りの組成である必要はない。
ここで、本発明において、シェルがコアの少なくとも一部を覆っているかどうかや、シェル内部の元素分布は例えば、透過型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光法(TEM-EDX)を用いて組成分析解析することにより確認することができる。
【0023】
<半導体ナノ粒子の作製方法>
以下に半導体ナノ粒子複合体に含まれる半導体ナノ粒子の作製方法に関する例を開示する。
(コア)
III族の前駆体、V族の前駆体、および必要に応じて添加物を溶媒中で混合し、得られた前駆体混合液を加熱することで、半導体ナノ粒子のコアを形成することができる。
溶媒としては配位性溶媒や非配位性溶媒が用いられる。溶媒の例としては、1-オクタデセン、ヘキサデカン、スクアラン、オレイルアミン、トリオクチルホスフィン、およびトリオクチルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
III族の前駆体としては、前記III族元素を含む酢酸塩、カルボン酸塩、およびハロゲン化物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
V族の前駆体としては、前記V族元素を含む有機化合物やガスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前駆体がガスの場合には、前記ガス以外を含む前駆体混合液にガスを注入しながら反応させることでコアを形成することができる。
【0024】
半導体ナノ粒子は、本発明の効果を害さない限り、III族、およびV族以外の元素を1種またはそれ以上含んでいてもよく、その場合は前記元素の前駆体をコア形成時に添加すればよい。
添加物としては、例えば、分散剤としてカルボン酸、アミン類、チオール類、ホスフィン類、ホスフィンオキシド類、ホスフィン酸類、およびホスホン酸類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。分散剤は溶媒を兼ねることもできる。
半導体ナノ粒子のコアを形成後、必要に応じてハロゲン化物を加えることで、半導体ナノ粒子の発光特性を向上することができる。
【0025】
ある実施形態では、In前駆体、および必要に応じて分散剤を溶媒中に添加した金属前駆体溶液を真空下で混合し、一旦100℃~300℃で6時間~24時間加熱した後、さらにP前駆体を添加して200℃~400℃で3分~60分加熱後冷却する。さらにハロゲン前駆体を添加し、25℃~300℃、好ましくは100℃~300℃、より好ましくは150℃~280℃で加熱処理することで、コア粒子を含むコア粒子分散液を得ることができる。
【0026】
(シェル)
合成されたコア粒子分散液に、シェル形成前駆体を添加することにより、半導体ナノ粒子はコア-シェル構造をとり、蛍光量子効率(QY)および安定性を高めることができる。
シェルを構成する元素はコア粒子の表面で合金やヘテロ構造、またはアモルファス構造等の構造を取っていると思われるが、一部は拡散によりコア粒子の内部に移動していることも考えられる。
【0027】
添加されたシェル形成元素は、主にコア粒子の表面付近に存在し、半導体ナノ粒子を外的因子から保護する役割を持っている。半導体ナノ粒子のコア-シェル構造はシェルがコアの少なくとも一部を覆っていることが好ましく、さらに好ましくはコア粒子の表面全体を均一に覆っていることが好ましい。
【0028】
ある実施形態では、前述したコア粒子分散液にZn前駆体とSe前駆体を添加後150℃~300℃、好ましくは180℃~250℃で加熱し、その後Zn前駆体とS前駆体を添加後、200℃~400℃、好ましくは250℃~350℃で加熱する。これによりコア-シェル型の半導体ナノ粒子を得ることができる。
ここで、特に限定するものではないが、Zn前駆体としては、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛およびミリスチン酸亜鉛等のカルボン酸塩や、塩化亜鉛および臭化亜鉛等のハロゲン化物、ジエチル亜鉛等の有機塩等を用いることができる。
Se前駆体としては、トリブチルホスフィンセレニド、トリオクチルホスフィンセレニドおよびトリス(トリメチルシリル)ホスフィンセレニドなどのホスフィンセレニド類、ベンゼンセレノールおよびセレノシステインなどのセレノール類、およびセレン/オクタデセン溶液などを使用することができる。
S前駆体としては、トリブチルホスフィンスルフィド、トリオクチルホスフィンスルフィドおよびトリス(トリメチルシリル)ホスフィンスルフィドなどのホスフィンスルフィド類、オクタンチオール、ドデカンチオールおよびオクタデカンチオールなどのチオール類、および硫黄/オクタデセン溶液などを使用することができる。
シェルの前駆体はあらかじめ混合し、一度で、あるいは複数回に分けて添加してもよいし、それぞれ別々に一度で、あるいは複数回に分けて添加してもよい。シェル前駆体を複数回に分けて添加する場合は、各シェル前駆体添加後にそれぞれ温度を変えて加熱してもよい。
【0029】
本発明において、半導体ナノ粒子の作製方法は特に限定されず、上記に示した方法の他、従来行われている、ホットインジェクション法や、均一溶媒法、逆ミセル法、CVD法等による作製方法や、任意の方法を採用しても構わない。
【0030】
<半導体ナノ粒子複合体>
本発明において、半導体ナノ粒子複合体は前記半導体ナノ粒子の表面にリガンドが配位したものである。ここで述べる配位とは、配位子が半導体ナノ粒子の表面に化学的に影響していることを表す。半導体ナノ粒子の表面に配位結合や他の任意の結合様式(例えば共有結合、イオン結合、水素結合等)で結合していてもよいし、あるいは半導体ナノ粒子の表面の少なくとも一部に配位子を有している場合には、必ずしも結合を形成していなくてもよい。
【0031】
(リガンドの構成)
本発明において、半導体ナノ粒子に配位するリガンドは、有機基と配位性基からなる。本発明の半導体ナノ粒子複合体におけるリガンドは、有機基が脂肪族炭化水素基である脂肪族リガンドと、有機基に親水性官能基を含む極性リガンドを含む。
脂肪族リガンドは1つの配位性基と、少なくとも1つ以上の脂肪族炭化水素基が結合していることが好ましい。このような構造をとることで、半導体ナノ粒子複合体は、より高い蛍光量子効率が得られる。
なお、脂肪族リガンドの配位性基はアミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、ホスフィン基、およびホスフィンオキシド基からなる群より選ばれることが好ましい。このような構造をとることで、より高い蛍光量子効率が得られる。
【0032】
極性リガンドは有機基に親水性官能基を有する。極性リガンドの有機基は、親水性官能基として、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、メルカプト基、アミノ基、エーテル結合、エステル結合、およびシロキサン結合のうちの少なくとも一つを有していることが好ましい。極性リガンドの有機基に親水性官能基を有することで、極性分散媒への分散が可能となる。
特に、極性リガンドの配位性基がメルカプト基である場合、極性リガンドが半導体ナノ粒子に強く配位できるため、高い蛍光量子効率が得られ、かつ半導体ナノ粒子複合体の耐熱性が向上する。
【0033】
極性リガンドの分子量は50以上、600以下であることが好ましく、50以上、450以下であることがより好ましい。分子量が600以下のリガンドを使用するとことで、半導体ナノ粒子複合体のサイズならびに体積が大きくなることを抑制し、半導体ナノ粒子複合体を分散液や組成物、硬化膜等に応用する際に、これらに対する半導体ナノ粒子複合体の質量分率を高くすることが容易になる。一方、分子量が50以上であると立体障害の効果が十分に発揮され、半導体ナノ粒子複合体を分散媒に分散させた場合に凝集等の発生を抑制できる。
【0034】
(リガンド比)
前記脂肪族リガンドと極性リガンドは質量比(脂肪族リガンド/極性リガンド)で0.05~1.00であることが好ましく、0.10~1.00であることがより好ましく、0.20~0.80であることがなお好ましい。前記質量比がこの範囲にあることで、半導体ナノ粒子複合体をSP値の高い分散媒に分散させることができ、かつ、耐熱性の高い半導体ナノ粒子複合体が得られる。
【0035】
(リガンド/半導体ナノ粒子)
前記リガンドと前記半導体ナノ粒子との質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)は0.1~0.7であることが好ましい。前記リガンドと半導体ナノ粒子の質量比がこの範囲にあることで、半導体ナノ粒子複合体のサイズならびに体積が大きくなることを抑制し、半導体ナノ粒子複合体を分散液や組成物、硬化膜等に応用する際に、これらに対する半導体ナノ粒子複合体の質量分率を高くすることができる。前記リガンドと前記半導体ナノ粒子との質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)は0.1~0.5であることがより好ましい。
【0036】
<半導体ナノ粒子複合体の製造方法>
以下に半導体ナノ粒子複合体の製造方法に関する例を開示する。
半導体ナノ粒子へのリガンドの配位方法に制限はないが、リガンドの配位力を利用した配位子交換法を用いることができる。具体的には、前述した半導体ナノ粒子の製造の過程で使用した有機化合物が半導体ナノ粒子の表面に配位した状態である半導体ナノ粒子を、目的とするリガンドと液相で接触させることで、目的とするリガンドが半導体ナノ粒子の表面に配位した半導体ナノ粒子複合体を得ることができる。この場合、通常、後述するような溶媒を使用した液相反応とするが、使用するリガンドが反応条件において液体である場合にはリガンド自身を溶媒とし、他の溶媒を添加しない反応形式をとることも可能である。
【0037】
また、リガンドを配位させる前に後述するような精製工程と再分散工程を行うと、所望のリガンドを容易に配位させることができる。
なお、半導体ナノ粒子の合成時に非配位性溶媒を用いた場合、所望のリガンドが配位する際に半導体ナノ粒子の表面の欠陥の生成を最小限に抑えることができ、蛍光量子効率の低下を防ぐことができる。
【0038】
ある実施形態では、半導体ナノ粒子製造後の半導体ナノ粒子含有分散液を精製後、再分散させた後、脂肪族リガンドを含む溶媒を添加し、さらに極性リガンドを含む溶媒を添加し、窒素雰囲気下で50℃~200℃で、1分~120分間攪拌することで、所望の半導体ナノ粒子複合体を得ることができる。脂肪族リガンドと極性リガンドは同時に添加しても構わない。
【0039】
(精製)
半導体ナノ粒子ならびに半導体ナノ粒子複合体は下記のように精製することができる。
一実施形態において、アセトン等の極性転換溶媒を添加することによって半導体ナノ粒子複合体を分散液から析出させることができる。析出した半導体ナノ粒子複合体を濾過または遠心分離により回収することができ、一方、未反応の出発物質および他の不純物を含む上澄みは廃棄または再利用することができる。次いで析出した半導体ナノ粒子複合体はさらなる分散媒で洗浄し、再び分散することができる。この精製プロセスは、例えば、2~4回、または所望の純度に到達するまで、繰り返すことができる。
本発明において、半導体ナノ粒子複合体の精製方法は特に限定されず、上記に示した方法の他、例えば、凝集、液液抽出、蒸留、電着、サイズ排除クロマトグラフィーおよび/または限外濾過や任意の方法を単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0040】
<分散液>
本発明において、半導体ナノ粒子複合体が分散媒に分散している状態とは、半導体ナノ粒子複合体と分散媒とを混合させた場合に半導体ナノ粒子複合体が沈殿しない状態もしくは目視可能な濁り(曇り)として残留しない状態であることを表す。なお、半導体ナノ粒子複合体が分散媒に分散しているものを半導体ナノ粒子複合体分散液と表す。
【0041】
本発明の半導体ナノ粒子複合体は分散媒に分散し、半導体ナノ粒子複合体分散液を形成することができる。半導体ナノ粒子複合体は、分散媒のSP値が9.0以上であっても当該分散媒に分散し、分散液を形成できることが好ましい。
ここでのSP値はヒルデブランド溶解度パラメーターであり、ハンセン溶解度パラメーターから算出した値である。ハンセン溶解度パラメーターは、ハンドブック、例えば“Hansen Solubility Parameters: A User’s Handbook”, 第2版、C. M. Hansen (2007),中の値や、HansonおよびAbbot et al.によって提供されているPractice (HSPiP)プログラム(第2版)を用いて決定することができる。
【0042】
脂肪族リガンドと極性リガンドの質量比を前述した比率にすることで、SP値が9.0~15.0の分散媒に分散が可能となる。特にアセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、IPA、エタノール、メタノールおよびこれらの群のいずれかの組み合わせからなる混合物のうち少なくとも1つに半導体ナノ粒子を分散させることが可能となる。これらの分散媒に分散させることで、後述する硬化膜や樹脂への分散に応用する際に、半導体ナノ粒子複合体の分散性を保ったまま使用することができる。特に、フォトレジストの分野ではPGMEAが希釈溶剤として一般的に用いられており、半導体ナノ粒子複合体がPGMEAへ分散可能であると、半導体ナノ粒子複合体をフォトレジスト分野に広く応用することができる。
【0043】
さらに、本発明において、半導体ナノ粒子複合体を分散させる分散媒としてモノマーを選択することができる。モノマーは特に限定しないが、半導体ナノ粒子の応用先が幅広く選択できるアクリルモノマーであることが好ましい。(メタ)アクリルモノマーは半導体ナノ粒子複合体分散液の応用に応じて、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、3、5、5-トリメチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2-エチルヘキシルジグリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(n≒2)、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシルエチル(メタ)アクリレート、イソボルニルオキシルエチル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジメチルアダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノールエトキシ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、ジエチルアミノ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルりん酸、アクリロイルモルホリン、ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イロプロピルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、およびN-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミドなどの(メタ)アクリルモノマーから選択される。これらは単独で使用することもできるし、2種類以上混合して使用することもできる。
特にアクリルモノマーは半導体ナノ粒子複合体分散液の応用に応じて、ラウリル(メタ)アクリレート、および1、6-ヘキサジオールジ(メタ)アクリレートから選ばれる1種または2種以上の混合物であることが好ましい。
【0044】
半導体ナノ粒子複合体が上述した構成をとることで、半導体ナノ粒子複合体を高質量分率で分散媒に分散させることができる。半導体ナノ粒子複合体は、前記分散媒および、モノマーのうちの少なくとも1つに、半導体ナノ粒子の質量分率で25質量%以上となるように分散可能であることが好ましい。
【0045】
(熱重量分析)
図1に本発明のある実施形態の半導体ナノ粒子複合体の熱分析結果を示す。熱分析は熱重量分析とリガンドの同定より行われる。熱重量分析は、半導体ナノ粒子複合体を、示唆熱重量分析(DTA-TG)を用いて、窒素雰囲気下、10℃/minで550℃まで加熱後、10分保持し、降温する方法で行った。
実線は熱重量分析(TG)の結果であり、破線はTGの微分(ΔTG)の結果である。半導体ナノ粒子複合体を昇温するに従い、リガンドの脱離に起因する質量減少が観測された。500℃以上で質量減少がほぼ一定(10℃あたりの質量減少率が0.15%未満)であることから、半導体ナノ粒子複合体中のリガンドは500℃までに殆ど脱離しており、本実施形態の半導体ナノ粒子全体に占めるリガンド量の割合は32%と算出された。さらに、本実施形態の半導体ナノ粒子複合体の質量減少率(X
H)は、350℃以上、550℃以下の範囲で6%であった。なお、半導体ナノ粒子複合体を700℃にまで加熱すると、ほぼ全てのリガンドが半導体ナノ粒子から脱離する。
【0046】
本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子複合体は、室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する全リガンドの質量分率(L)に対して、熱重量分析において350℃以上、550℃以下の範囲での半導体ナノ粒子複合体の質量減少率(XH)の割合({(XH)/L}×100)が10以上、55以下である。これはすなわち、室温において半導体ナノ粒子に配位している全リガンドのうち、質量の割合にして10~55のリガンドが、室温から350℃までという低温度の範囲ではなく、350℃以上、550℃以下という高温度の範囲で半導体ナノ粒子の表面から離脱するということを意味する。350℃以上、550℃以下という高温度の範囲で半導体ナノ粒子の表面から離脱するリガンドの割合が10~55であることで、高い光学特性を有する半導体ナノ粒子複合体が得られる指標となる。なお、上記の割合({(XH)/L}×100)は10~50であることがより好ましい。
【0047】
また、本発明の別の実施形態に係る半導体ナノ粒子複合体は、半導体ナノ粒子複合体の350℃以上、550℃以下の範囲での質量減少率((350℃~550℃の範囲での半導体ナノ粒子複合体の質量減少量)/(室温での半導体ナノ粒子複合体の質量)×100)は2%以上、15%以下である。質量減少率がこの範囲内にあることで、半導体ナノ粒子複合体は高い蛍光量子効率を有する。
【0048】
本発明のある実施形態に係る半導体ナノ粒子複合体は、「半導体ナノ粒子複合体を室温から700℃に加熱した際の質量減少率(X)」に対する「室温から350℃の範囲での質量減少率(XL)」の比(XL/X)と、「室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する全リガンドの質量分率(L)」に対する「室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する極性リガンドの質量分率(LP)」の比との関係が、(XL/X)<(LP/L)であることが好ましい。
上記の様に(XL/X)<(LP/L)の関係が成立する場合には、350℃以上の高い温度領域でも少なくとも一部の極性リガンドが半導体ナノ粒子から脱離せずに強力に配位していることを意味する。なお、後述するように、脂肪族リガンドは極性リガンドよりも高温領域で半導体ナノ粒子の表面から脱離する。このように半導体ナノ粒子に強力に配位しているリガンドは、室温はもちろんのこと、アプリケーションとして用いられる温度領域においても半導体ナノ粒子の表面に対候性を与えるのに十分な力で半導体ナノ粒子の表面を覆っているため、本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子複合体は高い光学活性を示す。
なお、前述したように、本発明の半導体ナノ粒子複合体は700℃にまで加熱すると、ほぼ全てのリガンドが半導体ナノ粒子から脱離する。このため、「半導体ナノ粒子複合体を室温から700℃に加熱した際の質量減少率(X)」と、「室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する半導体ナノ粒子に配位している全リガンドの質量分率(L)」はほぼ同じ値をとる。
【0049】
さらに、上記のΔTGの結果からは310℃付近と430℃付近に2つのピークが確認された。これらは各々リガンドの脱離によるものである。示差熱測定の各ピーク面積に占める面積が2%を超える温度を各リガンドの脱離温度とすると、低温でのリガンドの脱離温度は205℃、高温でのリガンドの脱離温度は394℃と算出される。脱離したリガンドについては赤外線吸収スペクトルを用いて、リガンドの同定を行うことができる。
【0050】
まず、赤外線吸収スペクトルを用いた半導体ナノ粒子複合体中のリガンドの種類と質量比率の算出方法を記載する。赤外線吸収スペクトルのデータは、日本分光社製FT/IR-4200を用いて、KBr錠剤法により作製した半導体ナノ粒子複合体ペレットに対して収集した。
図2(a)は本実施形態の半導体ナノ粒子複合体の赤外線吸収スペクトルを示したものである。2900cm
-1、1450cm
-1付近にC-H伸縮、C-H変角の吸収ピークが、1550cm
-1付近にC=O伸縮の吸収ピークが、1100cm
-1付近にC-O伸縮の吸収ピークがそれぞれ観測された。なお、2300cm
-1~2500cm
-1に表れる吸収ピークは二酸化炭素によるものである。
【0051】
図2(b)、(c)、(d)は本実施形態の半導体ナノ粒子複合体中に存在すると思われるリガンド単体での赤外線吸収スペクトルを示したものである。本実施形態においては、極性リガンド1種と脂肪族リガンド2種が半導体ナノ粒子に配位している。本実施形態においては、リガンド(b)は極性リガンドであり、リガンド(c)およびリガンド(d)は脂肪族リガンドである。
赤外線吸収スペクトルの吸光度は物質の濃度と厚みのみに比例するため、ピーク面積から定量分析を行うことが可能である。
【0052】
一般に、半導体ナノ粒子複合体の赤外線吸収スペクトルをSQD(ν)、i番目の脂肪族リガンドの赤外線吸収スペクトルをSai(ν)、i番目の極性リガンドの赤外線吸収スペクトルをSpi(ν)とすると、式(1)のように表される。
SQD(ν)= ΣaiSai(ν) + ΣpiSpi(ν) 式(1)
ここで、νは波数であり、aiおよびpiはそれぞれ脂肪族リガンドおよび極性リガンドのモル分率に関係する定数である。
【0053】
例えば、本実施形態の半導体ナノ粒子複合体の赤外線吸収スペクトルは(b)の極性リガンドのスペクトルをS
(b)(ν)とし、(c)および(d)の脂肪族リガンドのスペクトルをそれぞれS
(c)(ν)、S
(d)(ν)とすると、式(2)のように表される。
S
QD(ν)= bS
(b)(ν) + cS
(c)(ν) + dS
(d)(ν) 式(2)
ここで、νは波数、b、cおよびdはそれぞれ定数である。実測値と計算値の残差平方和が最も小さくなるような定数b、cおよびdの値を、エクセル(マイクロソフト社製表計算ソフト)のソルバー機能を用いて決定した。
図3は赤外線吸収スペクトルの実測値と計算値をフィッティングしたものである。点線が実測値、実線が計算値である。計算値はよく実測値を表現していることがわかる。
【0054】
図4はC-H伸縮の吸収ピークの、フィッティングカーブに占める各リガンド成分の赤外線吸収スペクトルの構成である。
図4においては、
図3及び
図2と同様に、点線が半導体ナノ粒子複合体の赤外線吸収スペクトル実測値を示し、グレーの実線はリガンド(b)の赤外線吸収スペクトルの実測値を示し、2本のグレーの破線はそれぞれリガンド(c)と(d)の赤外線吸収スペクトル実測値を示している。黒の実線が計算値であり、計算値はよく実測値を表現していることがわかる。C-H伸縮の吸収ピークは半導体ナノ粒子複合体中の全てのリガンド成分の吸収を含むため、波形分離により得られる各リガンド成分のピーク面積比から、リガンドの組成を求めることができる。各リガンド成分の質量分率は、前記ピーク面積比と、分子内のプロトン数、および分子量から計算した。
図4は、後述する例1により得られた半導体ナノ粒子複合体の測定結果を示すものであるが、この例では、リガンド成分の質量分率はリガンド(b):リガンド(c):リガンド(d)=89:8:3であり、すなわち、極性リガンド(b)と脂肪族リガンド((c)+(d))の質量比は89:11であることが算出できる。
【0055】
上述した方法を用いて、熱分析において低温で脱離したリガンドの同定を行う。
図5に、熱処理前後の本実施形態の半導体ナノ粒子複合体の赤外線吸収スペクトルを示す。実線は熱処理前の半導体ナノ粒子複合体の赤外線吸収スペクトルであり、破線は窒素雰囲気下で10℃/minで350℃まで加熱し、室温に冷却した半導体ナノ粒子複合体の赤外線吸収スペクトルである。
熱処理前の半導体ナノ粒子複合体の赤外線吸収スペクトルでは、1100cm
-1付近にC-O伸縮の鋭い吸収ピークが観測される一方で、350℃まで加熱した半導体ナノ粒子複合体ではこのピーク強度がかなり弱くなっていることがわかる。350℃まで加熱した半導体ナノ粒子複合体には2900cm
-1、1450cm
-1付近のC-H伸縮、C-H変角の吸収ピークが強く観測されることから、ΔTGで確認された低温で脱離したリガンドは極性リガンド(b)に帰属され、350℃以上の高温脱離成分は脂肪族リガンド(c)および(d)に帰属するといえる。なお、上述したように、2300cm
-1~2500cm
-1に表れる吸収ピークは二酸化炭素によるものである。
【0056】
室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する全リガンドの質量分率(L)の算出方法は次の通りである。
上記の熱重量分析において、半導体ナノ粒子複合体の質量減少量がほぼ一定となる点を終点とすると、終点までの質量減少量が室温時に半導体ナノ粒子に配位している全リガンド量を示している。なお、半導体ナノ粒子に配位しているリガンドの種類によってリガンドの脱離温度が変わる。このため、室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する全リガンドの質量分率(L)を算出するためには、加熱温度を700℃以上としたときの熱重量分析結果(質量減少量)を用いて判断すればよい。
【0057】
以上の熱重量分析の測定結果、および赤外線吸収スペクトルの測定結果より、本願記載の半導体ナノ粒子複合体を加熱すると、脂肪族リガンドが極性リガンドよりも高温で半導体ナノ粒子の表面から脱離するという特徴があることが分かる。さらに、350℃以上で脱離する成分の少なくとも一部は脂肪族リガンドに帰属する。
参考として、非特許文献6に記載の脂肪族リガンド(ドデカンチオール)は結合したZnから250℃~300℃程度で脱離することが開示されている。本願に記載の半導体ナノ粒子複合体中の脂肪族リガンドの脱離温度は文献と比較して高い温度である。
リガンドの脱離温度は、化学構造のみならず、半導体ナノ粒子表面に存在するZnとの配位形態や、リガンドの結晶構造形成など、周囲の原子・分子との相互作用に大きな影響を受けると考えられ、本願に記載の半導体ナノ粒子に配位している脂肪族リガンドは、前述したような因子により半導体ナノ粒子表面で強い束縛を受け、高い脱離温度を示す。このように半導体ナノ粒子表面で強い束縛を受けた脂肪族リガンドの存在が半導体ナノ粒子の蛍光量子効率を向上させると、発明者らは推測している。前述した脂肪族リガンドの存在は耐熱性を向上させる効果もあると発明者らは推測している。
【0058】
本発明の半導体ナノ粒子複合体は、以下の構成を採用する。
(1)半導体ナノ粒子の表面に、脂肪族リガンドと極性リガンドを含む2種以上のリガンドが配位した半導体ナノ粒子複合体であって、
前記リガンドは有機基と配位性基とからなり、
前記脂肪族リガンドは、前記有機基が脂肪族炭化水素基であり、
前記極性リガンドは、前記有機基に親水性官能基を含み、
前記脂肪族リガンドと前記極性リガンドとの質量比(脂肪族リガンド/極性リガンド)が0.05~1.00であり、
室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する全リガンドの質量分率(L)に対して、熱重量分析において350℃以上、550℃以下の範囲での半導体ナノ粒子複合体の質量減少率(XH)の割合({(XH)/L}×100)が10以上、55以下である、
半導体ナノ粒子複合体。
(2)半導体ナノ粒子の表面に、脂肪族リガンドと極性リガンドを含む2種以上のリガンドが配位した半導体ナノ粒子複合体であって、
前記リガンドは有機基と配位性基とからなり、
前記脂肪族リガンドは、前記有機基が脂肪族炭化水素基であり、
前記極性リガンドは、前記有機基に親水性官能基を含み、
前記脂肪族リガンドと前記極性リガンドとの質量比(脂肪族リガンド/極性リガンド)が0.05~1.00であり、
熱重量分析において350℃以上、550℃以下の範囲での半導体ナノ粒子複合体の質量減少率(XH)が2%以上、15%以下である、
半導体ナノ粒子複合体。
(3)前記半導体ナノ粒子複合体を加熱した際、前記極性リガンドが前記脂肪族リガンドより低温で前記半導体ナノ粒子の表面から脱離する、
上記(1)または(2)に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(4)前記熱重量分析において、
半導体ナノ粒子複合体を室温から700℃に加熱した際の質量減少率(X)に対する、室温から350℃の範囲での質量減少率(XL)の比(XL/X)と、
室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する全リガンドの質量分率(L)に対する、室温時における半導体ナノ粒子複合体に対する極性リガンドの質量分率(LP)の比(LP/L)と、の関係が、
(XL/X)<(LP/L)である、
上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(5)前記半導体ナノ粒子複合体は、SP値9.0~15.0の分散媒に分散可能である、
上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(6)前記分散媒が、アセトン、PGMEA、PGME、IPA、エタノール、およびメタノールからなる群より選択される1種または2種以上の混合分散媒である、
上記(5)に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(7)前記350℃以上での質量減少の少なくとも一部が、前記脂肪族リガンドの脱離に帰属される、
上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(8)前記脂肪族リガンドは、1つの配位性基と、少なくとも1つ以上の脂肪族炭化水素基が結合している、
上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(9)前記極性リガンドの分子量が50以上、600以下である、
上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(10)前記極性リガンドの分子量が50以上、450以下である、
上記(1)~(9)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(11)前記脂肪族リガンドの配位性基が、アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、ホスフィン基、およびホスフィンオキシド基からなる群より選ばれる、
上記(1)~(10)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(12)前記極性リガンドの有機基が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、メルカプト基、アミノ基、エーテル結合、エステル結合、およびシロキサン結合のうち少なくとも一つを有する、
上記(1)~(11)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(13)前記極性リガンドの配位性基がメルカプト基である、
上記(1)~(12)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(14)前記半導体ナノ粒子に対する前記リガンドの質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)が、0.1~0.7である、
上記(1)~(13)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(15)前記半導体ナノ粒子に対する前記リガンドの質量比(リガンド/半導体ナノ粒子)が、0.1~0.5である、
上記(1)~(14)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(16)前記半導体ナノ粒子の質量分率で25質量%以上となるように前記分散媒に分散可能である、
上記(5)~(15)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(17)前記半導体ナノ粒子の質量分率で35質量%以上となるように前記分散媒に分散可能である、
上記(5)~(16)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(18)前記半導体ナノ粒子は前記半導体ナノ粒子の表面にZnを含有する、
上記(1)~(17)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(19)前記半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率が80%以上である、
上記(1)~(18)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(20)前記半導体ナノ粒子複合体の発光スペクトルの半値幅が40nm以下である、
上記(1)~(19)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
(21)前記半導体ナノ粒子がInおよびPを含む、
上記(1)~(20)のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子複合体。
【0059】
(均等論)
本明細書に記載の構成および/または方法は例として示され、多数の変形形態が可能であるため、これらの具体例または実施例は限定の意味であると見なすべきではないことが理解されよう。本明細書に記載の特定の手順または方法は、多数の処理方法の1つを表しうる。したがって、説明および/または記載される種々の行為は、説明および/または記載される順序で行うことができ、または省略することもできる。同様に前述の方法の順序は変更可能である。
本開示の主題は、本明細書に開示される種々の方法、システムおよび構成、並びにほかの特徴、機能、行為、および/または性質のあらゆる新規のかつ自明でない組み合わせおよび副次的組み合わせ、並びにそれらのあらゆる均等物を含む。
【実施例】
【0060】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
[例1]
まず、以下の方法に従って、半導体ナノ粒子の合成を行った。
(前駆体の作製)
<Zn前駆体溶液の調製>
40mmolのオレイン酸亜鉛と75mLのオクタデセンを混合し、真空化で110℃にて1時間加熱し、[Zn]=0.4MのZn前駆体を調製した。
<Se前駆体(セレン化トリオクチルホスフィン)の調製)>
22mmolのセレン粉末と10mLのトリオクチルホスフィンを窒素中で混合し、全て溶けるまで撹拌して[Se]=2.2Mのセレン化トリオクチルホスフィンを得た。
<S前駆体(硫化トリオクチルホスフィン)の調製>
22mmolの硫黄粉末と10mLのトリオクチルホスフィンを窒素中で混合し、全て溶けるまで撹拌して[S]=2.2Mの硫化トリオクチルホスフィンを得た。
【0062】
(半導体ナノ粒子の合成)
酢酸インジウム(0.3mmol)とオレイン酸亜鉛(0.6mmol)を、オレイン酸(0.9mmol)と1-ドデカンチオール(0.1mmol)とオクタデセン(10mL)の混合物に加え、真空下(<20Pa)で約120℃に加熱し、1時間反応させた。真空下で反応させた混合物を25℃、窒素雰囲気下にして、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン(0.2mmol)を加えたのち、約300℃に加熱し、10分間反応させた。反応液を25℃に冷却し、オクタン酸クロリド(0.45mmol)を注入し、約250℃で30分間加熱後、25℃に冷却した。
その後、200℃まで加熱し、0.75mLのZn前駆体溶液、0.3mmolのセレン化トリオクチルホスフィンを同時に添加し、30分間反応させInP系半導体ナノ粒子の表面にZnSeシェルを形成した。さらに、1.5mLのZn前駆体溶液と0.6mmolの硫化トリオクチルホスフィンを添加し、250℃に昇温して1時間反応させZnSシェルを形成した。
上記のように合成して得られた半導体ナノ粒子の反応溶液をアセトンに加え、良く混合したのち遠心分離した。遠心加速度は4000Gとした。沈殿物を回収し、沈殿物にノルマルヘキサンを加え、分散液を作製した。この操作を数回繰り返し、精製した半導体ナノ粒子を得た。
【0063】
続いて、以下の方法に従って、半導体ナノ粒子複合体の合成を行った。
(リガンド単体の作製)
<PEG-SHの調製>
フラスコに210gのメトキシPEG-OH(分子量400)および93gのトリエチルアミンを収め、420mLのTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた。溶液を0℃に冷却し、反応熱で反応溶液の温度が5℃を超えないよう注意しながら、窒素雰囲気下で51gのメタンスルホン酸クロリドを徐々に滴下した。その後、反応溶液を室温に昇温し2時間撹拌した。この溶液をクロロホルム-水系で抽出し、有機相を回収した。得られた溶液をエバポレーションにより濃縮し、硫酸マグネシウムでオイル状の中間体を得た。これを別の1Lフラスコに移し、窒素雰囲気下で400mLの1.3Mのチオ尿素水溶液を加えた。溶液を2時間還流したのち、21gのNaOHを加え、さらに1.5時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、1M HCl水溶液をpH=7になるまで加え、中和した。得られた溶液をクロロホルム-水系で抽出し、目的とするリガンド(PEG-SH、分子量430)を得た。
分子量400のPEG-SHを合成する工程で、PEG-SHメトキシPEG-OH(分子量400、210g)をメトキシPEG-OH(分子量600、315g)に変えた以外は同様の方法で、分子量600のPEG-SHを得た。
<N-アセチル-N-(2-メルカプトエチル)プロパンアミドの調製>
1.2g(10mmol)のN-(2-sulfanylethyl)acetamideおよび1.7mL(12mmol)のトリエチルアミンを100mLの丸底フラスコに収め、30mLの脱水ジクロロメタンに溶解させた。溶液を0℃に冷却し、窒素雰囲気下で0.87mL(10mmol)のプロパノイルクロリドを、溶液の温度が5℃以上にならないよう注意しながらゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応溶液を室温まで昇温し、2時間撹拌した。反応溶液を濾過し、濾液をクロロホルムで希釈した。溶液を10%HCl水溶液、10%Na2CO3水溶液、飽和NaCl水溶液の順に抽出し有機相を回収した。有機相をエバポレーションで濃縮したのち、ヘキサン-酢酸エチル混合溶媒を展開溶媒としたカラムクロマトグラフィーにて精製し、目的物を得た。
【0064】
(半導体ナノ粒子複合体の作製)
フラスコに精製した半導体ナノ粒子を質量比で10質量%となるように1-オクタデセンで分散させた半導体ナノ粒子1-オクタデセン分散液を調製した。調製した半導体ナノ粒子1-オクタデセン分散液10.0gをフラスコに収め、脂肪族リガンドとしてドデカンチオール(DDT)を0.2g添加し、さらに極性リガンドとして、PEG-SHを4.0g添加し、窒素雰囲気下で110℃、60分間攪拌し、25℃まで冷却することで、半導体ナノ粒子複合体を得た。前記半導体ナノ粒子複合体を含む反応溶液を遠沈管に移し、4000Gで20分間遠心分離すると、透明な1-オクタデセン相と半導体ナノ粒子複合体相に分離した。1-オクタデセン相を取り除き、残った半導体ナノ粒子複合体相を回収した。
【0065】
(洗浄工程)
得られた半導体ナノ粒子複合体相にアセトン5.0mLを加え、分散液を作製した。得られた分散液に50mLのノルマルヘキサンを加え、4000Gで20分間遠心分離した。遠心分離後、透明な上澄みを取り除き、沈殿物を回収した。この操作を数回繰り返し、精製された半導体ナノ粒子複合体を得た。
(半導体ナノ粒子複合体の発光特性測定)
半導体ナノ粒子複合体の発光特性は蛍光量子効率測定システム(大塚電子製、QE-2100)を用いて測定した。得られた半導体ナノ粒子複合体を分散媒に分散させ、450nmの単一光を当て発光スペクトルを得る。ここで得られた発光スペクトルより再励起されて蛍光発光した分の再励起蛍光発光スペクトルを除いた再励起補正後の発光スペクトルより蛍光量子効率(QY)と半値幅(FWHM)を算出した。分散液はPGMEAを用いた。PGMEAに分散しない場合、分散液をノルマルヘキサンに変更した。
【0066】
(半導体ナノ粒子複合体の熱重量分析測定)
図1に、前述した構成の半導体ナノ粒子複合体(例1)を熱重量分析(TGA)で25℃から550℃まで10℃/minで加熱した場合のTG曲線およびその微分(ΔTG)曲線を示す。測定はBruker社製TG-DTA2000SAを用いて、200ml/minの窒素フロー下で行った。
例1の半導体ナノ粒子複合体においては、室温から350℃の範囲での質量減少率は25%であり、350℃以上、550℃以下の範囲での半導体ナノ粒子複合体の質量減少率は7%であった。さらに、ΔTG曲線から、310℃付近と430℃付近に2つのピークが確認された。
【0067】
本発明では、熱重量分析において半導体ナノ粒子複合体を700℃まで加熱した際の全質量減少率を、室温における半導体ナノ粒子複合体に対する全リガンドの質量分率(L)とみなした。
さらに、熱重量分析において半導体ナノ粒子複合体を700℃まで加熱し、測定後の残留質量を半導体ナノ粒子の質量とした。この値から室温における半導体ナノ粒子複合体に対する半導体ナノ粒子の質量分率(Q)を確認した。
前記室温における半導体ナノ粒子複合体に対する半導体ナノ粒子の質量分率(Q)を参考に、半導体ナノ粒子複合体に、半導体ナノ粒子の質量分率が5質量%となるようにPGMEA(SP値9.41)を添加し、その時の分散状態を確認した。分散しているものには○を、沈殿、および濁りが観察されたものには×を表2に記載した。また、半導体ナノ粒子の質量分率が50質量%から10質量%まで5質量%ずつ変化するように、添加するPGMEA量を調整して分散状態を確認した。沈殿、および濁りが観察されなくなった質量分率を半導体ナノ粒子の質量分率として表2に記載した。以下の例2~例21についても同様に測定し、その結果を表2に示した。
【0068】
[例2]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてドデカンチオールを0.5g、極性リガンドとしてPEG-SHを4.0g用いた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0069】
[例3]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてドデカンチオールを1.0g、極性リガンドとしてN-アセチル-N-(2-メルカプトエチル)プロパンアミドを1.5g用いて、さらにオレイン酸を0.5g加えた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0070】
[例4]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてドデカンチオールを0.5g、極性リガンドとしてトリエチレングリコールモノメチルエーテルチオール(TEG-SH)を4.0g用いて、さらにオレイン酸を0.5g加えた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0071】
[例5]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてオクタンチオールを0.5g、極性リガンドとしてN-アセチル-N-(2-メルカプトエチル)プロパンアミドを4.0g用いた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0072】
[例6]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてドデカンチオールを0.5g、極性リガンドとしてPEG-SH(分子量600)を6.0g用いた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0073】
[例7]
半導体ナノ粒子のシェルを作製する工程で、Zn前駆体溶液として40mmolのオクタン酸亜鉛と75mLのオクタデセンの混合物を使用した。さらに、半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてドデカンチオールを0.5g、極性リガンドとしてN-アセチル-N-(2-メルカプトエチル)プロパンアミドを4.0g用いて、さらにカプリル酸(オクタン酸)を0.5g加えた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0074】
[例8]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてドデカンチオールを0.5g、極性リガンドとして3-メルカプトプロピオン酸メチル(東京化成工業製)を4.0g用いた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0075】
[例9]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてドデカンチオールを0.2g、極性リガンドとしてPEG-SHを8.0g用いた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0076】
[例10]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてシクロペンタンチオールを0.5g、極性リガンドとしてPEG-SHを4.0g用いて、さらにオレイン酸を0.5g加えた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0077】
図6は、例10の半導体ナノ粒子複合体の熱分析結果を示すグラフである。実線はTG曲線であり、破線はΔTG曲線である。例10では、脂肪族リガンドとしてシクロペンタンチオールを、極性リガンドとしてPEG-SHを用いている。例10のΔTG曲線には、230℃付近にシクロペンタンチオールの脱離に起因するピークと、310℃付近にPEG-SHに起因するピークがそれぞれ観測された。このように、脂肪族リガンドが極性リガンドよりも早く脱離する場合、半導体ナノ粒子の蛍光量子効率は低くなる。
【0078】
[例11]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてペンタンチオールを0.5g、極性リガンドとしてPEG-SHを4.0g用いて、さらにオレイン酸を0.5g加えた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0079】
[例12]
半導体ナノ粒子のシェルを作製する工程で、Zn前駆体溶液として40mmolの酢酸亜鉛と75mLのオクタデセンの混合物を使用した。さらに、半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてドデカンチオールを0.5g、極性リガンドとしてPEG-SHを4.0g用いて、さらに酢酸を0.5g加えた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0080】
[例13]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドをドデカンチオール2.0g添加し、極性リガンドをPEG-SHに変更し、さらにオレイン酸を1.0g加えた。窒素雰囲気下110℃で、60分間攪拌し、25℃まで冷却した。前記反応溶液にノルマルヘキサン5.0mLを加え、分散液を作製した。得られた分散液に50mLのエタノールを加え、4000Gで20分間遠心分離した。遠心分離後、透明な上澄みを取り除き、沈殿物を回収した。この操作を数回繰り返し、精製された半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0081】
[例14]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてドデカンチオールを0.5g、極性リガンドとしてPEG-SH(分子量750)を7.5g用いた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0082】
[例15]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしてドデカンチオールを0.5g、極性リガンドとしてPEG-SH(分子量1000)を10.0g用いた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0083】
[例16]
フラスコに、例1と同様の方法で精製した半導体ナノ粒子複合体1.0g、イソプロパノール10mLおよびPEG-SH4.0gを収めた。この溶液を窒素雰囲気下80℃で180分間撹拌し、25℃まで冷却した。反応溶液に50mLのノルマルヘキサンを加え、4000Gで20分間遠心分離した。遠心分離後、透明な上澄みを取り除き、沈殿物を回収した。沈殿物を5.0mLのアセトンを加え、分散液を作製した。得られた分散に50mLのノルマルヘキサンを加え、4000Gで20分間遠心分離した。遠心分離後、透明な上澄みを取り除き、沈殿物を回収した。この操作を数回繰り返し、精製された半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0084】
図7は例16の半導体ナノ粒子複合体の熱分析結果を示すグラフである。実線はTG曲線であり、破線はΔTG曲線である。例16の半導体ナノ粒子複合体のΔTG曲線には、300℃付近に鋭い単一のピークが観測された。赤外線吸収スペクトルを用いて当該ピークに起因するリガンドの種類を同定したところ、当該ピークは極性リガンド(PEG―SH)に起因することがわかった。一方、350℃以上、550℃以下の範囲で離脱したリガンドについても赤外線吸収スペクトルを用いて同定を行ったところ、350℃以上、550℃以下の範囲で脱離したリガンドは脂肪族リガンドに起因することが分かった。熱分析による質量減少率に着目すると、350℃以上、550℃以下の範囲での質量減少率は1%であった。このように、350℃以上、550℃以下の範囲での質量減少率が2%未満の場合には、半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率が低くなる。
【0085】
[例17]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしドデカンチオールを0.5g、極性リガンドとしてPEG-SHを2.0g用いて、さらにオレイン酸を2.0g加えた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0086】
図8は例17の半導体ナノ粒子複合体の熱分析結果を示すグラフである。実線はTG曲線であり、破線はΔTG曲線である。脂肪族リガンドとしてドデカンチオールおよびオレイン酸を、極性リガンドとしてPEG-SHをそれぞれ用いている。例17のΔTG曲線には、310℃付近に極性リガンドの脱離に起因するピークが、440℃付近に脂肪族リガンドの脱離に起因するピークがそれぞれ観測された。また、熱分析による質量減少率に着目すると、350℃以上、550℃以下の範囲での質量減少率は17%であった。このように、350℃以上、550℃以下の範囲での質量減少率が15%以上の場合には、半導体ナノ粒子複合体の蛍光量子効率が低くなる。
【0087】
[例18]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしドデカンチオールを0.5g、極性リガンドとしてN-アセチル-N-(2-メルカプトエチル)プロパンアミドを2.0g用いて、さらにオレイン酸を2.0g加えた以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0088】
[例19]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドとしドデカンチオールを4.0g用いて、極性リガンドを添加しない以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0089】
[例20]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドおよび極性リガンドを添加せず、オレイン酸を4.0g添加した以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0090】
[例21]
半導体ナノ粒子複合体を作製する工程で、脂肪族チオールリガンドを添加せず、極性リガンドとしてPEG-SHを4.0g使用した以外は例1と同様の方法で半導体ナノ粒子複合体を得た。
【0091】
得られた半導体ナノ粒子複合体の、リガンドの構成を表1に、発光特性および熱分析の結果、および分散媒への分散状態を表2に示す。半導体ナノ粒子複合体としては、PGMEAに分散させた場合に、半導体ナノ粒子の質量分率が25質量%以上となるように分散可能であるものが好ましい。
なお、表1に示されている略号の意味は次の通りである。
DDT :ドデカンチオール
Oct-SH:オクタンチオール
OA :オレイン酸
OctA :オクタン酸
【0092】
【0093】