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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】金属多孔体および金属多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/08 20060101AFI20250109BHJP
   C25D 5/56 20060101ALI20250109BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20250109BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20250109BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C25D1/08
C25D5/56 Z
C22C1/08 D
H01M4/80 C
H01M4/64 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021528962
(86)(22)【出願日】2021-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2021005072
(87)【国際公開番号】W WO2021192698
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2020057177
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591174368
【氏名又は名称】富山住友電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】土田 斉
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 精治
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-023322(JP,A)
【文献】特開平11-154517(JP,A)
【文献】国際公開第2019/082424(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/049815(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110434341(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/08
C25D 5/56
C22C 1/08
H01M 4/64-4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目状構造の骨格を有する平板状の金属多孔体であって、
複数のセルを含み、
前記金属多孔体の厚み方向のセル径と厚み方向と直交する方向のセル径との比(厚み方向のセル径/厚み方向と直交する方向のセル径)をセル径比とした場合に、下記式(1)および下記式(2)を満たす、金属多孔体。
0.4≦セル径比≦1.0 式(1)
0.85≦厚み方向と直交する方向のセル径/(金属多孔体の厚み/セル径比)≦1.50 式(2)
【請求項2】
前記金属多孔体の前記厚み方向と直交する方向のセル径が0.4mm超、1.70mm以下である、
請求項1に記載の金属多孔体。
【請求項3】
厚みが0.5mm以上、1.2mm以下である、
請求項1または請求項2に記載の金属多孔体。
【請求項4】
気孔率が94%以上、99%以下である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の金属多孔体。
【請求項5】
目付量が100g/m以上、250g/m以下である、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の金属多孔体。
【請求項6】
請求項1に記載の金属多孔体を製造する方法であって、
三次元網目状構造の骨格を有する平板状の樹脂多孔体の骨格の表面を導電化処理する工程と、
次に、前記樹脂多孔体の前記骨格の表面に金属をめっきする工程と、
次に、前記樹脂多孔体を除去して厚板状金属多孔体を得る工程と、
次に、前記厚板状金属多孔体を厚み方向と直交する方向に切断加工し、金属多孔体を得る工程と、
を有する金属多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記厚み方向と直交する方向に切断した前記金属多孔体を厚み方向に圧縮する工程を更に有する、
請求項6に記載の金属多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属多孔体および金属多孔体の製造方法に関する。本出願は、2020年3月27日出願の日本出願第2020-057177号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元網目状構造の骨格を有するシート状の金属多孔体は、耐熱性を必要とするフィルターや、電池用電極板、触媒担持体、及び金属複合材など様々な用途に利用されている。例えば、ニッケル製の金属多孔体であるセルメット(住友電気工業株式会社製:登録商標)は、ニッケル水素電池等のアルカリ蓄電池の電極や、工業用脱臭触媒の担体等、様々な産業分野で広く採用されている。また、アルミニウム製の金属多孔体であるアルミセルメット(住友電気工業株式会社製:登録商標)は、有機電解液中でも安定であるため、リチウムイオン電池の正極として用いることが可能である。
【0003】
前記金属多孔体は、三次元網目状構造の骨格を有する樹脂多孔体の骨格の表面を導電化処理した後、電気めっき処理によって前記樹脂多孔体の骨格の表面に金属めっきを施し、続いて樹脂多孔体を除去することによって製造することができる(例えば特許文献1、特許文献2参照)。前記樹脂多孔体としては、例えば、ポリウレタン樹脂を好ましく用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平05-031446号公報
【文献】特開2011-225950号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る金属多孔体は、
三次元網目状構造の骨格を有する平板状の金属多孔体であって、
複数のセルを含み、
前記金属多孔体の厚み方向のセル径と厚み方向と直交する方向のセル径との比(厚み方向のセル径/厚み方向と直交する方向のセル径)をセル径比とした場合に、下記式(1)および下記式(2)を満たす、金属多孔体。
0.4≦セル径比≦1.0 式(1)
0.85≦厚み方向と直交する方向のセル径/(金属多孔体の厚み/セル径比)≦1.50 式(2)
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は本開示に係る金属多孔体の一例の概略を表す図である。
図2図2は本開示に係る金属多孔体の一例の断面写真である。
図3図3は本開示に係る金属多孔体の三次元網目状構造の構造単位の模式図である。
図4図4は三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体の気孔率(%)と圧縮率(%)との関係を表す図である。
図5図5は本開示に係る金属多孔体の製造方法の一例において、金属多孔体を厚み方向と直交する方向に切断する工程の概略を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
樹脂多孔体としてポリウレタン樹脂を用いる場合には、まず、ブロック状のポリウレタン樹脂をピーリングまたはスライスすることにより平板状に加工する。続いてポリウレタン樹脂の骨格の表面を導電化処理する。骨格の表面を導電化処理した前記樹脂多孔体に金属めっきをする際には、めっき液中で前記樹脂多孔体にある程度のテンションが加えられる。ポリウレタン樹脂をピーリングまたはスライスしたり、導電処理やめっき処理したりする際に、樹脂多孔体が三次元網目状構造の骨格を維持するためには、樹脂多孔体の厚みは、厚み方向と直交する方向のセル径の2倍以上である必要がある。このため、例えば、厚みが1.0mmの金属多孔体を製造するためには、厚み方向と直交する方向のセル径が0.50mm以下の樹脂多孔体を用いる必要があった。換言すれば、厚みが1.0mm以下の樹脂多孔体を用いる場合には、厚み方向と直交する方向のセル径が0.50mmよりも大きい金属多孔体を製造することはできなかった。
【0008】
厚みが1.0mm以下の金属多孔体を製造する方法としては、例えば、厚みが1.0mmよりも厚い金属多孔体を作製してからこれを圧延して厚みを1.0mm以下とする方法も考えられる。しかしながら、圧延することによって厚みを1.0mm以下とした金属多孔体は、セルが厚み方向に潰れてしまい、その結果、気孔率が小さくなってしまう。このため、圧延することによって厚みを1.0mm以下とした金属多孔体を、例えばフィルターとして用いる場合には、圧力損失が大きくなってしまうという問題があった。
【0009】
そこで本開示は、厚みが、厚み方向と直交する方向のセル径の2倍未満である平板状の金属多孔体を提供することを目的とする。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
〔1〕本開示の一態様に係る金属多孔体は、
三次元網目状構造の骨格を有する平板状の金属多孔体であって、
複数のセルを含み、
前記金属多孔体の厚み方向のセル径と厚み方向と直交する方向のセル径との比(厚み方向のセル径/平面方向のセル径)をセル径比とした場合に、下記式(1)および下記式(2)を満たす、金属多孔体、である。
0.4≦セル径比≦1.0 式(1)
0.50<厚み方向と直交する方向のセル径/(金属多孔体の厚み/セル径比)≦1.50 式(2)
本態様によれば、厚みが、厚み方向と直交する方向のセル径の2倍未満である平板状の金属多孔体を提供することができる。
【0011】
〔2〕前記金属多孔体の前記厚み方向と直交する方向のセル径が0.4mm超、1.70mm以下であってもよい。
本態様によれば、厚み方向と直交する方向のセル径が0.4mmよりも大きくても、厚みが0.8mm以下の金属多孔体を提供することができる。
【0012】
〔3〕前記金属多孔体は、
厚みが0.5mm以上、1.2mm以下であってもよい。
本態様によれば、厚みが1.2mm以下と非常に薄くても、厚み方向と直交する方向のセル径が0.6mm超の金属多孔体を提供することができる。
【0013】
〔4〕前記金属多孔体は、
気孔率が94%以上、99%以下であってもよい。
本態様によれば、気孔率が高い金属多孔体を提供することができる。
【0014】
〔5〕前記金属多孔体は、
目付量が100g/m以上、250g/m以下であってもよい。
本態様によれば、非常に軽量な金属多孔体を提供することができる。
なお、目付量とは、金属多孔体を平面視したときの外形から算出される面積に対する金属多孔体の重さのことをいうものとする。
【0015】
〔6〕本開示の一態様に係る金属多孔体の製造方法は、
上記〔1〕に記載の金属多孔体を製造する方法であって、
三次元網目状構造の骨格を有する平板状の樹脂多孔体の骨格の表面を導電化処理する工程と、
次に前記樹脂多孔体の前記骨格の表面に金属をめっきする工程と、
次に前記樹脂多孔体を除去して厚板状金属多孔体を得る工程と、
次に前記厚板状金属多孔体を厚み方向と直交する方向に切断し金属多孔体を得る工程と、
を有する金属多孔体の製造方法、である。
本態様によれば、厚みが、厚み方向と直交する方向のセル径の2倍未満である平板状の金属多孔体を製造可能な方法を提供することができる。
【0016】
〔7〕前記金属多孔体の製造方法は、
前記厚み方向と直交する方向に切断した前記金属多孔体を厚み方向に圧縮する工程を更に有してもよい。
本態様によれば、より安定して平板形状を保つことが可能な金属多孔体の製造方法を提供することができる。
【0017】
[本開示の実施態様の詳細]
以下に、本開示の実施態様に係る金属多孔体および金属多孔体の製造方法の具体例を、より詳細に説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0018】
<金属多孔体>
以下、図1から図3を参照しながら、本開示の実施形態に係る金属多孔体10の各構成を説明する。
【0019】
金属多孔体10は、三次元網目状構造の骨格11を有している。金属多孔体10は、全体として平板状の外観を有している。図3は、三次元網目状構造の理解を容易にするため、三次元網目状構造の構造単位を正十二面体に見立てたものである。三次元網目状構造の構造単位は一つのセル12を含む。図2図3に示すように、セル12は三次元網目状構造の骨格11により形成される立体状の空間である気孔13を含む。三次元網目状構造の構造単位を正十二面体に見立てたとき、セル径は正十二面体の最長対角線で規定される。
【0020】
骨格11は典型的には、金属または合金による膜によって構成されており、骨格11の内部は中空になっている
【0021】
骨格11を構成する金属としては、例えば、ニッケル、アルミニウムまたは銅等が挙げられる。また、骨格11を構成する合金としては、前記金属に他の金属が不可避的または意図的に添加されることによって合金化されたものを挙げることができる。骨格11を構成する合金としては、例えば、クロム、コバルトおよびスズなどがニッケルと合金化したもの(NiCr、NiCo、NiSnなど)を挙げることができる。また、骨格11は、前記金属または前記合金の表面にさらに他の金属がめっきされることにより、金属または合金による膜を二層以上有する積層構造となっていてもよい。
【0022】
金属多孔体10は、上述したように立体状の空間である気孔13を含み、三次元網目状構造を有している。このため平面状の孔のみを有する二次元網目状構造体(たとえばパンチングメタル、メッシュなど)と明確に区別することができる。
さらに、図1から図3に示すように金属多孔体10は、三次元網目状構造の骨格11を有するため、繊維同士が絡み合わされて形成された不織布などのような構造体と明確に区別することができる。
金属多孔体10は、このような三次元網目状構造を有することから、表面から内部まで連結する複数の気孔を有する。
【0023】
金属多孔体10の厚み方向(図1におけるZ軸方向)と直交する方向(図1におけるX-Y平面と平行な平面における任意の方向)のセル径は、金属多孔体10の主面を顕微鏡等で少なくとも10視野観察し、1インチ(25.4mm=25400μm)あたりのセル12の平均の数(nc)を求め、下記式(3)で算出されるものをいうものとする。
厚み方向と直交する方向のセル径=25400μm/nc 式(3)
なお、セル数の測定は、JIS K6400-1:2004 附属書1(参考)による軟質発泡材料のセル数の求め方に準じて行うものとする(試験片の寸法の規定を除く)。
【0024】
金属多孔体10の厚み方向のセル径は、下記式(4)で算出されるものか、あるいは金属多孔体10の厚み方向の断面のセル径を実測したものをいうものとする。
厚み方向のセル径=厚み方向と直交する方向のセル径×(1-圧縮率/100) 式(4)
なお、式(4)における圧縮率(%)は、図5に示す気孔率と圧縮率の関係を表すグラフから求めることができる。図5では、縦軸が金属多孔体の気孔率(%)を示し、横軸が金属多孔体の圧縮率(%)を示している。
また、金属多孔体10の厚み方向の断面のセル径を実測する場合には、以下のようにして計測されるものを厚み方向のセル径というものとする。
まず、金属多孔体10を樹脂に包埋して厚み方向に切断し、その断面を観察する。続いて、前記断面においてセル12のサークルを任意に10個描き、それらのセル径の平均を算出する。
【0025】
金属多孔体10の気孔率は下記式(5)で定義される。
気孔率(%)=[1-{Mp/(Vp×dp)}]×100 式(5)
Mp:金属多孔体の質量[g]
Vp:金属多孔体における外観の形状の体積[cm
dp:金属多孔体を構成する金属の密度[g/cm
【0026】
金属多孔体10の厚みは、例えば、デジタルシックネスゲージによって測定することが可能である。
【0027】
式(1)においてセル径比は、金属多孔体10が製造された後に、厚み方向にどの程度圧縮されたのかを意味するものである。セル径比は0.4以上、1.0以下であればよく、0.5以上、1.0以下であることが好ましく、0.7以上、1.0以下であることがより好ましい。
セル12の形状は正十二面体にモデル化することができるため、金属多孔体10が圧延等によって厚み方向に圧縮されていない場合には、厚み方向のセル径と厚み方向と直交する方向のセル径とに差がない。したがって、セル径比が1.0である場合は、金属多孔体10が製造後に厚み方向に圧縮されていないこと意味する。このため、例えば、金属多孔体10をフィルターとして用いる場合には、圧力損失を小さくする観点から、セル径比は1.0に近い方が好ましい。なお、セル径比が0.4の場合は、金属多孔体10の厚み方向の圧縮率が60%であることを意味する。
なお、金属多孔体10の圧縮率は、上記のように図4
に示すグラフから求められるが、金属多孔体10を圧縮する前と圧縮した後の厚みが分かっている場合には、圧縮率(%)=(1-(金属多孔体の圧縮後の厚み/金属多孔体の圧縮前の厚み))×100として算出することもできる。
【0028】
式(2)において、「(金属多孔体の厚み/セル径比)」は、厚み方向に圧縮する前の金属多孔体10の厚みを意味する。何故なら、上記のようにセル径比は金属多孔体10が厚み方向にどの程度圧縮されているのかを意味するものであるから、圧縮後の金属多孔体10の厚みをセル径比で除することにより圧縮前の金属多孔体10の厚みが算出される。
【0029】
金属多孔体10の厚み方向と直交する方向のセル径は、金属多孔体10の用途に応じて適宜選択すればよい。一例として挙げれば、厚み方向と直交する方向のセル径は0.40mmを超え、1.70mm以下であることが好ましく、0.5mm以上、1.1mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることが更に好ましい。
金属多孔体10は厚み方向と直交する方向のセル径が0.40mmを超えても、例えば、厚みを1.0mm以下や0.5mm以下にまですることができる。このため、例えば、金属多孔体10をフィルターとして用いる場合には目を細かくし過ぎずに薄くすることができ、圧力損失も小さくすることができる。また、電池の電極として用いる場合には活物質の充填性をよくすることができ、水素発生装置の電極として用いる場合には電極で発生するガスの抜け性をよくすることができる。
【0030】
金属多孔体10の厚みは、金属多孔体10の用途に応じて適宜選択すればよい。一例として挙げれば、金属多孔体10の厚みは0.5mm以上、1.2mm以下であることが好ましい。
金属多孔体10は厚みが1.2mm以下であっても、厚み方向と直交する方向のセル径を0.6mmよりも大きくすることができる。
【0031】
金属多孔体10は厚み方向に圧縮されていなければ、製造時に基材として用いた樹脂多孔体の体積分が除かれた気孔率を有する。金属多孔体10の気孔率は圧縮率に応じて図4に示すグラフのように変化する。例えば、圧縮率が60%程度となるように金属多孔体10が圧延されていても、金属多孔体10の気孔率は90%よりも大きいままである。
金属多孔体10の気孔率は、金属多孔体10の用途に応じて適宜選択すればよい。一例として挙げれば、金属多孔体10の気孔率は94%以上、99%以下であることが好ましく、96%以上、99%以下であることがより好ましく、97%以上、99%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
金属多孔体10の目付量は、金属多孔体10の用途に応じて適宜選択すればよい。非常に軽量な金属多孔体が必要とされる場合には、例えば、金属多孔体10の目付量は100g/m以上、250g/m以下であることが好ましい。金属多孔体10は、いわゆるめっき法によって製造された金属多孔体を厚み方向と直交する方向に切断することによって得られるため、目付量は切断前の金属多孔体の目付量の1/2以下である。このため、金属多孔体10は非常に軽量なものとして提供しやすい。もちろん、金属多孔体の用途に応じて、高目付のものとしても構わない。
【0033】
<金属多孔体の製造方法>
本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法は、三次元網目状構造の骨格を有する平板状の樹脂多孔体の骨格の表面を導電化処理する工程と、前記骨格の表面を導電化処理した前記樹脂多孔体の骨格の表面に金属をめっきする工程と、前記金属をめっきした後に前記樹脂多孔体を除去して金属多孔体を得る工程と、前記樹脂多孔体を除去して得られた金属多孔体を厚み方向と直交する方向に切断する工程と、を有する方法である。以下に各工程を詳述する。
【0034】
(樹脂多孔体の骨格の表面を導電化処理する工程)
この工程では、まず、三次元網目状構造の骨格を有する平板状の樹脂多孔体(以下では、単に「樹脂多孔体」とも記す)を用意する。樹脂多孔体としては、ポリウレタン樹脂やメラミン樹脂等を用いることができる。
樹脂多孔体は金属多孔体を製造する際の基材として用いるものである。このため樹脂多孔体の厚み方向と直交する方向のセル径、気孔率、および厚みは、製造目的である金属多孔体のものと同じにすればよい。
続いて、炭素粉末等の導電性の粉末を含む塗料を樹脂多孔体骨格の表面に塗布することにより樹脂多孔体の骨格の表面を導電化処理する。炭素粉末としては、例えば、カーボンブラック等の非晶質炭素粉末、黒鉛等のカーボン粉末が挙げられる。
【0035】
(金属をめっきする工程)
この工程では、骨格の表面が導電化処理された樹脂多孔体を基材として用いて、金属をめっきする工程である。樹脂多孔体の骨格の表面は導電化処理されているため、金属のめっきは電気めっきによって行うことが好ましい。
樹脂多孔体にめっきする金属の種類は特に限定されるものではない。金属の種類は、金属多孔体の用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、ニッケル、アルミニウムまたは銅等の金属の場合には、公知のめっき手法により電気めっきを行うことができる。なお、2種以上の金属をめっきして合金化してもよい。例えば、ニッケルをめっきした後に、クロムやコバルト、スズなどをめっきしてニッケルと合金化することができる。なお、2種以上の金属をめっきすることで、金属多孔体10の骨格11が金属または合金による膜を二層以上有する積層構造となるようにすることも可能である。
金属のめっき量は特に限定されるものではなく、製造しようとする金属多孔体10が好ましい目付量を有するものとなるようにめっき量を調整すればよい。なお、金属多孔体10は、金属がめっきされた樹脂多孔体を除去することによって得られる金属多孔体を厚み方向と直交する方向に切断することにより得られるものである。このため、金属をめっきする工程において金属のめっき量は、金属多孔体10の目付量が切断前の金属多孔体の目付量の1/2以下となることに留意して調整すればよい。
【0036】
(樹脂多孔体を除去する工程)
この工程は、骨格の表面に金属または合金による膜が形成された構造体から、基材として用いた樹脂多孔体を除去する工程である。樹脂多孔体の除去は、例えば、大気等の酸化性雰囲気下で、600℃以上、800℃以下程度、好ましくは600℃以上、700℃以下程度の温度で熱処理することによって行うことができる。これにより、基材として用いた樹脂多孔体が燃焼除去されて、骨格が前記金属または合金による膜によって形成された金属多孔体が得られる。なお、樹脂多孔体を除去した後に、必要に応じて還元性雰囲気下で熱処理して、酸化した金属または合金を還元してもよい。
【0037】
(金属多孔体を切断する工程)
この工程は、図5に示すように、樹脂多孔体を除去することにより得られた厚板状金属多孔体20を厚み方向(図1におけるZ軸方向)と直交する方向に切断することにより本実施形態に係る金属多孔体10を得る工程である。前述のように、基材として用いる樹脂多孔体は厚み方向と直交する方向のセル径の2倍以上の厚みを有していないと、三次元網目状構造の骨格を保つことができず構造が壊れてしまう。これに対し、金属をめっきした後であれば骨格の強度が増しており、厚み方向と直交する方向のセル径の2倍未満の厚みとなるように金属多孔体を切断することが可能であることを本発明者らは見出した。この工程では、式(2)を満たす金属多孔体10が得られるように、厚板状金属多孔体20を切断すればよい。
厚板状金属多孔体20を切断する方法は特に限定されるものではなく、例えば、厚板状金属多孔体20の主面同士を治具で固定し、その間を回転刃等により切断すればよい。また、図5に示す例では厚板状金属多孔体20を厚み方向Zと直交する方向に2分割しているが、3分割以上に分割しても構わない。例えば、厚みが2.0mm程度の樹脂多孔体を用いて製造した厚板状金属多孔体20であれば、これを3分割して厚みが約0.66mmの3枚の金属多孔体10を得ることも可能である。
【0038】
(金属多孔体を圧縮する工程)
この工程は、厚み方向と直交する方向に切断された金属多孔体10を、厚み方向に圧縮する工程である。金属多孔体10を厚み方向に圧縮することで金属多孔体10を所望の厚みとすることができ、また、より安定して平板形状を保てるようになり、ハンドリング性が向上する。金属多孔体10を厚み方向に圧縮するとセル12が潰れて気孔率が小さくなる。このため、式(1)を満たす範囲で、金属多孔体10の利用用途に応じて好ましい厚みおよび気孔率となるように圧縮すればよい。
【実施例
【0039】
以下、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明する。これらの実施例は例示であって、本開示の金属多孔体等はこれらに限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
三次元網目状構造の骨格を有する樹脂多孔体として、厚みが2.0mmのポリウレタンシートを用意した。樹脂多孔体の気孔率は96%であった。厚み方向と直交する方向のセル径は0.85mmであった。
ポリウレタンシートの骨格の表面の導電化処理は、ポリウレタンシートをカーボン懸濁液に浸漬して乾燥させることにより行った。カーボン懸濁液の成分は、黒鉛とカーボンブラックを25%含み、樹脂バインダー、浸透剤および消泡剤を含むものとした。カーボンブラックの粒径は0.5μmとした。
骨格の表面を導電化処理したポリウレタンシートの骨格の表面に、目付量が500g/mとなるようにニッケルをめっきした。ニッケルのめっきは、ワット浴(硫酸ニッケル300g/L、塩化ニッケル50g/L、ホウ酸30g/L)を用いて行った。
ニッケルをめっきした後に、650℃で10分間加熱することによって、基材として用いたポリウレタンシートを燃焼除去した。そして、ポリウレタンシートを除去した後に、さらに、H:N=3:1の雰囲気において1000℃で20分間熱処理を行うことにより酸化したニッケルの還元処理を行った。
還元処理を行った後の金属多孔体を、図5に示すように、厚み方向Zと直交する方向に2枚に切断した。これにより、2枚の、厚みが1.0mmの金属多孔体No.1が得られた。
【0041】
[実施例2]
実施例1で製造した金属多孔体No.1を厚みが0.5mmとなるように厚み方向に圧縮して金属多孔体No.2を製造した。
【0042】
[実施例3]
厚みが3.0mm、厚み方向と直交する方向のセル径が0.85mm、気孔率が96%のポリウレタンシートを用い、さらに、還元処理を行った後の金属多孔体を、厚み方向Zと直交する方向に3枚に切断した。他の条件は実施例1と同一にして3枚の金属多孔体No.3を製造した。
【0043】
[実施例4]
実施例3で製造した金属多孔体No.3を厚みが0.5mmとなるように厚み方向に圧縮して金属多孔体No.4を製造した。
【0044】
[実施例5]
厚みが2.0mm、厚み方向と直交する方向のセル径が0.54mm、気孔率が96%のポリウレタンシートを用いた。他の条件は実施例1に記載の製造方法と同一にして、厚みが1.0mmの金属多孔体No.5を製造した。
【0045】
[実施例6]
実施例5で製造した金属多孔体No.5を厚みが0.5mmとなるように厚み方向に圧縮して金属多孔体No.6を製造した。
【0046】
[実施例7]
厚みが2.5mm、厚み方向と直交する方向のセル径が1.27mm、気孔率が96%のポリウレタンシートを用いた。他の条件は実施例1に記載の製造方法と同一にして、厚みが約1.2mmの金属多孔体を製造し、これを厚みが1.0mmとなるように圧延して金属多孔体No.7を製造した。
【0047】
[実施例8]
実施例7で製造した金属多孔体No.7を厚みが0.5mmとなるように厚み方向に圧縮して金属多孔体No.8を製造した。
【0048】
[比較例1]
実施例1に記載の製造方法において、還元処理を行った後の金属多孔体を切断せずに、厚みが0.5mmとなるように圧縮した。他の条件は実施例1と同一にして金属多孔体No.9を製造した。
【0049】
[比較例2]
実施例7において、還元処理を行った後の金属多孔体を、厚み方向Zと直交する方向に3枚に切断した。他の条件は実施例7と同一にして3枚の金属多孔体No.10を製造した。金属多孔体No.10の厚みは約0.8mmとなるはずであった。しかし、金属多孔体No.10は式(2)の数値範囲を超えるため三次元網目状構造の骨格を維持することが難しく、切断工程の作業中や、作業後の少しの衝撃でも骨格に折れが生じてしまい、三次元網目状構造の多くが壊れてしまった。表1には、切断工程後に得られていたはずの金属多孔体の各種数値を示した。
【0050】
[比較例3]
厚みが1.0mm、厚み方向と直交する方向のセル径が0.54mm、気孔率が96%のポリウレタンシートを用意しようとした。しかし、ポリウレタンシートが三次元網目状構造の骨格を維持することができず、三次元網目状構造の多くが壊れてしまった。
【0051】
金属多孔体No.1からNo.10の構造についての各測定値および計算値を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、金属多孔体No.1からNo.8は、いずれも「厚み方向と直交する方向のセル径/(金属多孔体の厚み/セル径比)」が0.5よりも大きく、厚みが、厚み方向と直交する方向のセル径の2倍未満の金属多孔体であった。このため、厚みを0.5mm程度にしても高い気孔率を保つことができた。また、厚みが1.0mm以下であっても厚み方向のセル径が0.50mm以上の金属多孔体を製造することもできた。気孔率が大きく、セル径が大きい金属多孔体は、例えば、圧力損失の少ないフィルターとして好ましく用いることができる。
本開示の実施形態に係る金属多孔体によれば、金属多孔体の用途に応じてより好ましいセル径や気孔率、厚み、目付量を選択することが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
10 金属多孔体
11 骨格
12 セル
13 気孔
20 厚板状金属多孔体
図1
図2
図3
図4
図5