(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】測量システム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20250109BHJP
G01C 13/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01C15/00 102C
G01C13/00 D
(21)【出願番号】P 2024009783
(22)【出願日】2024-01-25
【審査請求日】2024-02-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593201615
【氏名又は名称】公益財団法人河川財団
(73)【特許権者】
【識別番号】715001390
【氏名又は名称】株式会社プロドローン
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒沼 尚史
(72)【発明者】
【氏名】菅木 紀代一
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-094456(JP,A)
【文献】特開2021-020672(JP,A)
【文献】特開2024-003622(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154552(WO,A1)
【文献】特開2018-176905(JP,A)
【文献】特開平09-304064(JP,A)
【文献】特開2003-156331(JP,A)
【文献】特開2004-191268(JP,A)
【文献】特開2008-058052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
G01C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面に降着可能であり、河川の上流から下流に向けて該河川の水流に乗せて流される無人航空機と、
前記無人航空機の着水後に水中の地形データを取得するスキャナー装置と、
着水後の前記無人航空機の高度を取得するGNSS(Global Navigation Satellite System)装置と、
前記GNSS装置が出力する高度値を補正するための補正情報を取得するRTK(Real Time Kinematic)装置と、を備え、
前記無人航空機の着水後に取得された前記高度値は、その水面の標高の算出に用いられる、
測量システム。
【請求項2】
前記RTK装置は、インターネットを介して前記補正情報を取得する、
請求項1に記載の測量システム。
【請求項3】
前記RTK装置は、移動体通信網を介して前記補正情報を取得する、
請求項1に記載の測量システム。
【請求項4】
前記スキャナー装置はマルチビーム音響測深装置である、
請求項1に記載の測量システム。
【請求項5】
前記無人航空機は、
制御装置と、
空中を移動するための推力源であるロータと、を備え、
前記制御装置は、前記ロータの停止後に/にも、前記GNSS装置から高度を取得する、
請求項1に記載の測量システム。
【請求項6】
前記RTK装置は、前記ロータの停止後に/にも、前記補正情報を取得する、
請求項5に記載の測量システム。
【請求項7】
データ統合部を備え、
前記データ統合部は、前記無人航空機の着水後に、
(1)前記スキャナー装置が取得した前記地形データ又はその加工値、及び前記地形データを取得した経緯度または時刻と、
(2)前記高度値、該高度値を前記補正情報で補正した値である補正高度値、又は該補正高度値からジオイド高を除いた値である水面標高、及び前記高度値を取得した経緯度または時刻と、を収集する、
請求項1に記載の測量システム。
【請求項8】
前記データ統合部は、
前記(1)に基づき、河川の流量を算出する、
請求項7に記載の測量システム。
【請求項9】
前記無人航空機は、
空中を移動するための推力源であるロータと、
水面上を移動するための推力源である水上推進装置と、を備える、
請求項1に記載の測量システム。
【請求項10】
前記無人航空機は制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記ロータで空中を移動する飛行モードと、
前記水上推進装置により水面上を移動する航行モードと、を切り替え可能である、
請求項9に記載の測量システム。
【請求項11】
前記無人航空機は、
制御装置と、
機体からその側方に向けられた測距センサと、を備え、
前記無人航空機の着水後、前記制御装置は、該無人航空機と周辺物との距離が所定の間隔以下にならないよう、前記水上推進装置を自動的に操作する、
請求項9に記載の測量システム。
【請求項12】
前記無人航空機は制御装置を備え、
前記制御装置は、河川の水流に乗って該河川を下る前記無人航空機が、予め指定された経緯度上のルートに沿って移動するよう、前記水上推進装置を自動的に操作する、
請求項9に記載の測量システム。
【請求項13】
前記スキャナー装置はマルチビーム音響測深装置であり、
前記制御装置は、前記マルチビーム音響測深装置のソナー配列方向を、前記ルートの進行方向に対して交差する向きに維持するよう、前記水上推進装置を自動的に操作する、
請求項12に記載の測量システム。
【請求項14】
前記無人航空機は制御装置を備え、
前記制御装置は、河川の水流に乗って該河川を下る前記無人航空機が、該河川を所定の位置まで下ったときに、自動的に離水および飛行して、その位置よりもさらに下流の他の位置に着水する、飛行迂回手段を有する、
請求項9に記載の測量システム。
【請求項15】
前記無人航空機は一対の浮き舟型のフロートを備え、
前記水上推進装置は、前記無人航空機を平面視したときに、前記一対のフロートよりも機体の中心側に配置される、
請求項9に記載の測量システム。
【請求項16】
前記無人航空機は三胴形のフロートを備え、
前記スキャナー装置は、中央の前記フロートの底部に設けられた凹部に配置される、
請求項1に記載の測量システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無人航空機を用いた測量技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、機体を水面に浮かべるためのフロート、水面上の移動手段であるスクリュー、及びマルチビームソナーを備えた無人航空機が開示されている。下記特許文献2にはRTK(Real Time Kinematic)システムを利用した無人航空機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-041863
【文献】国際公開第2018/168564(A1)号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地球温暖化による水害の激甚化や、防災に関する法制度の強化に伴い、これに劣後しない新たな治水システム・河川管理手法が求められている。一方、管理の対象である河川は、それぞれが地理的・空間的な個性を有するとともに、洪水により刻々と状態が変化するという予測困難性を有している。河川が将来にわたってその備えるべき安全性を維持し続けるためには、河道変化や、構造物等が破壊されるメカニズム等を解明し、降雨や洪水の水理的影響を定量的に予測できるようにする必要がある。そしてそのためには、地形・地質を含む河川やその流域の状態を正確かつ詳細に測定可能とし、事実・知見を積み重ねていくことが不可欠である。とりわけ、通常時や洪水時の河川の流量、水位(水面の標高)、及びその変化を把握することは河川を管理する上で重要であるが、現状、流量を算出するための河道の形状と流速(流れの速さ)、及び水位を同時に測定可能な仕組みは存在しない。
【0005】
現行の手法では、河道形状が変化しないことを前提に基準観測所の水位から算出した洪水流量を用いているが、河道形状が変化している場合に河川の水位予測が大きく異なり洪水対策・水防活動・避難判断に支障が生じる場合がある。また、ダムにおいては、洪水で流木等が流入しボートでの計測が困難な場合は、河床に堆積した流土砂を計ることが困難であり、有効貯水量の把握に時間を要していた。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、河川や海、ダム・湖沼等の測量に無人航空機を応用することで、これをより簡便に、より高精度に実施可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の測量システムは、水面に降着可能な無人航空機と、前記無人航空機の着水後に水中の地形データを取得するスキャナー装置と、着水後の前記無人航空機の高度を取得するGNSS(Global Navigation Satellite System)装置と、前記GNSS装置が出力する高度値を補正するための補正情報を取得するRTK装置と、を備えることを要旨とする。
【0008】
無人航空機を水面に浮かべ、そのGNSS装置が出力する高度値をRTK補正することにより、比較的正確な水位を得ることができる。また、無人航空機を河川に浮かべ、これをその水流に乗せて流すことにより、その河川の流速を得ることができる。河道の地形データ(河川の断面積)と流速が得られれば、その河川の流量を算出することができ、本発明によればさらにその水位までを得ることができる。
【0009】
また、前記RTK装置は、インターネットを介して前記補正情報を取得することが好ましい。同様に、前記RTK装置は、移動体通信網を介して前記補正情報を取得することが好ましい。これにより、測量地点の周囲にRTK基地局(固定局)を都度設置する手間や、RTK基地局との距離の制約から解放され、より迅速・簡便に、かつ広範な測量が可能となる。
【0010】
また、前記スキャナー装置はマルチビーム音響測深装置であることが好ましい。超音波を用いた測距は、光学カメラやグリーンレーザーに比べて濁度による影響を受けにくく、困難な条件下でもより高い精度の地形データが得られるからである。
【0011】
また、前記無人航空機は、制御装置と、空中を移動するための推力源であるロータと、を備え、前記制御装置は、前記ロータの停止後に/にも、前記GNSS装置から高度を取得することが好ましい。このとき、前記RTK装置は、前記ロータの停止後に/にも、前記補正情報を取得することが好ましい。一般的な無人航空機は、GNSS装置をもっぱら経緯度の取得に用いており、飛行中の高度はフライトコントローラに内蔵された気圧センサや下方に向けられた測距センサにより取得している。つまりGNSS装置が出力する高度値は飛行中でも利用していない。着陸時(ロータ停止時)にはなおさらである。一方、本発明ではGNSS装置を水位の取得にも利用するため、着水時(ロータ停止時)にもGNSS装置から高度を取得する必要がある。またその高度値の補正のためにRTK装置も稼働させておく必要がある。
【0012】
また、本発明の測量システムは、データ統合部を備え、前記データ統合部は、前記無人航空機の着水後に、(1)前記スキャナー装置が取得した前記地形データ又はその加工値、及び前記地形データを取得した経緯度または時刻と、(2)前記高度値、該高度値を前記補正情報で補正した値である補正高度値、又は該補正高度値からジオイド高を除いた値である水面標高、及び前記高度値を取得した経緯度または時刻と、を収集することが好ましい。このとき、前記データ統合部は、前記(1)に基づき、河川の流量を算出してもよい。無人航空機や各装置が取得したデータを収集・統合することに特化した構成(データ統合部)を別途備えることにより、各装置の負荷や機能をシステム全体において適切に分散させることができ、また、測量結果の蓄積や共有もよりスムーズに行うことができる。
【0013】
また、前記無人航空機は、空中を移動するための推力源であるロータと、水面上を移動するための推力源である水上推進装置と、を備えることが好ましい。無人航空機を水面上で移動させるための推力源を別途備えることにより、各水域における測量の自由度が高められる。
【0014】
このとき、前記無人航空機は制御装置を備え、前記制御装置は、前記ロータで空中を移動する飛行モードと、前記水上推進装置により水面上を移動する航行モードと、を切り替え可能であることが好ましい。
【0015】
またこのとき、前記無人航空機は、制御装置と、機体からその側方に向けられた測距センサと、を備え、前記無人航空機の着水後、前記制御装置は、該無人航空機と周辺物との距離が所定の間隔以下にならないよう、前記水上推進装置を自動的に操作することが好ましい。またこのとき、前記無人航空機は制御装置を備え、前記制御装置は、河川の水流に乗って該河川を下る前記無人航空機が、予め指定された経緯度上のルートに沿って移動するよう、前記水上推進装置を自動的に操作することが好ましい。またこのとき、前記スキャナー装置はマルチビーム音響測深装置であり、前記制御装置は、前記マルチビーム音響測深装置のソナー配列方向を、進行方向に対して交差する向きに維持するよう、前記水上推進装置を自動的に操作することが好ましい。またこのとき、前記無人航空機は制御装置を備え、前記制御装置は、河川の水流に乗って該河川を下る前記無人航空機が、該河川を所定の位置まで下ったときに、自動的に離水および飛行して、その位置よりもさらに下流の他の位置に着水する、飛行迂回手段を有することが好ましい。これらの自動操縦機能により、操縦者に要求される操縦スキルが緩和されるとともに、目視外における測量をより正確に行うことが可能になる。
【0016】
また、前記無人航空機は一対の浮き舟型のフロートを備え、前記水上推進装置は、前記無人航空機を平面視したときに、前記一対のフロートよりも機体の中心側に配置されることが好ましい。また、前記無人航空機は三胴形のフロートを備え、前記スキャナー装置は、中央の前記フロートの底部に設けられた凹部に配置されることが好ましい。これにより水上推進装置やスキャナー装置を、水面上の浮遊物や周辺物との衝突から保護することができ、より安全に測量を行うことができる。
【0017】
上記課題を解決するため、本発明の河川測量方法は、本発明の無人航空機を、河川の上流から下流に向けて、該河川の水流に乗せて流す工程を含むことを要旨とする。このとき、本発明の河川測量方法は、前記無人航空機が前記河川を所定の位置まで下ったときに、自動的に離水および飛行して、その位置よりもさらに下流の他の位置に着水する工程を含んでもよい。その効果や原理についてはこれまでに述べたことと同様であるため再度の説明は省略する。
【0018】
また、本発明の河川測量方法は、本発明の無人航空機を、複数機、河川の川幅方向における位置をずらして配置し、河川の上流から下流に向けて、該河川の水流に乗せて流す工程を含んでもよい。これにより、広範な水域の測量に要する時間を短縮することができる。
【0019】
また、本発明の河川測量方法は、前記無人航空機が前記河川を所定の位置まで下ったときに、その位置よりも上流の他の位置まで飛行して戻る工程と、前記他の位置から再度前記河川を下る工程と、を含んでもよい。例えば増水時や洪水時に河川の特定箇所の状態変化を繰り返し観察することで、特定の条件下でのみ発生する現象を発見・把握することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の測量システム及び河川測量方法によれば、河川や海、ダム・湖沼等の測量に無人航空機を応用することで、これをより簡便に、より高精度に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】測量システム10の全体構成を示すブロック図である。
【
図4】FC/BC20が備える自動操縦機能を示すブロック図である。
【
図5】マルチコプター12が河道の断面形状を取得する様子を示す模式図である。
【
図6】河川の流量を求める方法を示す模式図である。
【
図7】マルチコプター12が河川の水流に乗って河川を下る様子を示す模式図である
【
図8】複数機のマルチコプター12が河川の水流に乗って河川を下る様子を示す模式図である
【
図9】マルチコプター12が河川の特定の位置範囲を繰り返し測量する様子を示す模式図である。
【
図10】測量システム10を河川ではなく、水面の静止した天然ダムNDに用いる例を示す模式図である。
【
図11】マルチコプター12の変形例を示す下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下に説明する測量システム10、及び河川測量方法は、無人航空機であるマルチコプター12を水面に浮かべ、そのGPS(Global Positioning System)31で取得した高度をRTK補正することにより、少ない手間や制約で比較的正確な水位を得ることをその主たる特徴としている。以下、この特徴とこれに付随する他の特徴について実施形態を通して説明する。尚、以下の説明における「測量」とは、河川の河道形状(地形)、流速、流量、又は水位を測定することをいい、測量法に定義される「測量」が意味する範囲には限られない。また、「水位」は「水面(の)標高」ともいう。
【0023】
<測量システム概要>
図1はマルチコプター12の斜視図、
図2はマルチコプター12の下面図である。
図3は測量システム10の全体構成を示すブロック図である。以下、
図1から
図3を参照して測量システム10の概要について説明する。
【0024】
図1及び
図2に示すように、本形態のマルチコプター12は、平面視放射状に延びる6本のアームの先端にロータ12が固定された、いわゆるヘキサコプタである。マルチコプター12は、その機体を水面に浮かべるための一対の浮き舟型のフロート50を備えており、各フロート50には、水面上でマルチコプター12を移動させるための一対のスラスタ42が固定されている。また、マルチコプター12の胴部121の下面には、着水後に水中の地形データ(河道の断面形状)を取得するためのソナーユニット70が取り付けられている。そして、マルチコプター12の機外には2基のGNSS装置であるGPS31が配置されている。
【0025】
図3に示すように、本形態の測量システム10は、主に、データ統合部11、マルチコプター12、及びマルチビームソナー13により構成されており、データ統合部11と、マルチコプター12及びマルチビームソナー13とは、インターネットを介して接続されている。また、本形態では測量システム10のオペレータ19の操作端末もインターネットを介して各装置に接続されている。
【0026】
(マルチコプター)
本形態のマルチコプター12は、制御装置であるフライトコントローラ/ボートコントローラ20(以下「FC/BC20」という。)、FC/BC20に接続されたGPS31、RTKレシーバ32、ロータ41、スラスタ42、LiDAR(Light Detection And Ranging)38、並びに、フロート50、及びカメラ39により構成されている。本形態のFC/BC20は、専用のIMU(Inertial Measurement Unit)や、気圧センサ、電子コンパス等を含んでいる。
【0027】
FC/BC20は、後述する種々の自動操縦プログラムや、オペレータ19からの指示に応じて、FC/BC20に接続された各センサ装置の検出値を確認しながらロータ41及びスラスタ42を駆動し、マルチコプター12を飛行・航行させる。本形態の測量システム10では、マルチコプター12がスラスタ42を備えていることにより、マルチコプター12を用いた河川測量の自由度や柔軟性、精度が高められている。尚、ここでいう「航行」とは、マルチコプター12が水面上を移動することを意味している。本形態のマルチコプター12は、空中を移動するための推力源である6基のロータ41と、水面上を移動するための推力源である2基のスラスタ42とを備えており、FC/BC20は、ロータ41で空中を移動する「飛行モード」と、スラスタ42により水面上を移動する「航行モード」とを自動で、又はオペレータ19からの指示により切り替えることができる。オペレータ19は、マルチコプター12が有視界内にあれば目視で、目視外ではカメラ39から転送された映像を頼りに、マルチコプター12を遠隔操縦する。すなわち、目視外における操縦を自動操縦プログラムに委ねるのであれば、カメラ39は省略することもできる。
【0028】
RTKレシーバ32は、GPS31が取得した経緯度値や高度値を補正するための補正情報を取得するRTK装置である。本形態のRTKレシーバ32は、LTE(Long Term Evolution)回線を通して、インターネット上のサービスとして提供されている補正情報を取得する。これにより本形態の測量システム10では、RTK基地局(固定局)を測量地点の周囲に都度設置する手間がなく、また、RTKレシーバ32と各RTK基地局との距離の制約も緩やかとなり、より迅速・簡便かつ広範な測量を実施することができる。尚、RTKレシーバ32は、LTE回線のほか、5Gや3G、WiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)など、他の移動体通信網を利用してもよい。また、本形態ではGNSS装置としてGPSを採用しているが、これは、例えばGLONASSやGalileo、みちびき(準天頂衛星システム)、又はCOMPASS(北斗衛星測位システム)等の受信器であってもよい。
【0029】
ここで、本形態のFC/BC20は、ロータ41の停止後にも、GPS31から高度を取得するとともに、RTKレシーバ32からも補正情報を取得し続けることができる。上でも述べたように、一般的な無人航空機は、GPSをもっぱら経緯度の取得に用いており、飛行中の高度は、フライトコントローラに内蔵された気圧センサや下方に向けられた測距センサによって取得する。つまりGPSが出力する高度は飛行中でも基本的には利用されてておらず、着陸後はなおさらである。一方、本形態の測量システム10では、GPS31およびRTKレシーバ32を水位の取得にも利用するため、着水後(ロータ41の停止時)にもこれらを稼働させ続ける必要がある。
【0030】
LiDAR38は、マルチコプター12の機体から側方(水平方向)に向けられ、機体周辺の点群データを取得するレーザースキャナである。LiDAR38の出力データは後述するSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)プログラム231に入力され、機体とその周辺物との位置関係が特定される。
【0031】
(マルチビームソナー)
マルチビームソナー13は、マルチビーム音響測深装置であり、異なる周波数の音波ビームを水中に扇状に送信し、それらの反射波を受信することで河川の地形データを取得する。本形態のマルチビームソナー13は、制御部60、GPS31、及びソナーユニット70により構成される。
【0032】
ソナーユニット70は、複数のソナーが配列された送信部、反射波を受信する受信部、専用のIMU、及び表層音速度計等を備えるユニットである。GPS31はマルチコプター12のFC/BC20が用いているものと同じものである。制御部60は、ソナーユニット70の動作や設定を操作したり、ソナーユニット70が取得した点群データの傾きを補正したり、ソナーユニット70が取得したデータを記録、転送したりする装置である。超音波による計測は、光学カメラやグリーンレーザーに比べて濁度による影響を受けにくく、困難な条件下でもより精度の高い地形データを得ることができる。尚、マルチコプター12に設置するスキャナー装置は、マルチコプター12の着水後に水中の地形データを取得できるものであればよく、マルチビームソナー13には限られない。例えば透明度が高く静止した水域のみを測量するのであれば、光学カメラやレーザーを用いたスキャナー装置であっても地形データは取得できると考えられる。尚、以降の説明では、マルチコプター12とマルチビームソナー13の両方を総称して単にマルチコプター12ということもある。
【0033】
(データ統合部)
本形態のデータ統合部11は、サーバコンピュータやPC、又は専用のコンピュータ装置である。データ統合部11は1台の装置であってもよく、複数台の装置を組み合わせたものであってもよい。また、オペレータ19の操縦端末にデータ統合部11の機能をもたせてもよい。
【0034】
本形態のデータ統合部11は、マルチビームソナー13から地形データを、そしてマルチコプター12から、GPS31の高度値、この高度値をRTKレシーバ32の補正情報で補正した値である補正高度値、又は、この補正高度値からジオイド高を除いた値である水面標高(水位)を取得する。尚、ジオイド高は例えば国土地理院の提供する重力ジオイドモデルデータを利用すればよい。またデータ統合部11は、マルチコプター12やマルチビームソナー13がこれらのデータを取得した経緯度および時刻についても併せて取得し、河川の流速を算出する。尚、河川の流速は、マルチコプター12がこれを算出してデータ統合部11に送信してもよい。
【0035】
そして、詳しくは後述するが、データ統合部11は、これら地形データ及び流速に基づき、河川の流量を算出するとともに、河川の水面標高を取得または算出する。このように、本形態の測量システム10は、マルチコプター12やその各装置が取得したデータを収集・統合することに特化した構成(データ統合部11)を備えていることにより、各装置の負荷や機能がシステム全体において適切に分散されている。また、データ統合部11はこれをハブとして測量結果の蓄積や共有が行われる。尚、測量システム10にとって、独立したデータ統合部11は必須ではなく、例えばデータ統合部11に相当する処理機能をマルチコプター12にもたせ、マルチコプター12内で流量や水面標高を計算してオペレータ19に送信してもよい。
【0036】
また、本形態ではマルチコプター12がRTKレシーバ32を備え、自動操縦に用いる経緯度の認知精度を向上させているが、RTKレシーバ32を水面標高の取得のみに用いるのであれば、RTKレシーバ32をデータ統合部11に配置し、GPS31で取得した高度値の補正をデータ統合部11で行ってもよい。
【0037】
(自動操縦機能)
図4は、FC/BC20が備える自動操縦機能を示すブロック図である。本形態のマルチコプター12は、その自動操縦機能として、自律飛行プログラム21、自律航行プログラム22、衝突回避プログラム23、SLAMプログラム231、ヘディング制御プログラム24、飛行迂回プログラム25、定位置観測プログラム26を備えている。以下、FC/BC20が備える各自動操縦機能について説明する。
【0038】
自律飛行プログラム21は、事前に用意されたフライトプラン(飛行計画)に沿ってマルチコプター12を自動的に飛行させる機能である。フライトプランは、地図データ上で指定された離陸(離水)地点、着陸(着水)地点、飛行ルートを構成する一又は複数の経由地点であるウェイポイント、各ウェイポイントにおける飛行高度、各ウェイポイント間の飛行速度等のパラメータを含むデータである。
【0039】
自律航行プログラム22は、事前に用意されたクルーズプラン(航行計画)に沿ってマルチコプター12を水面上で自動的に移動させる機能である。クルーズプランは、地図データ上で指定された始点、終点、航行ルートを構成する一又は複数の経由地点であるウェイポイントのパラメータを含むデータである。自律航行プログラム22は、河川の水流に乗って河川を下るマルチコプター12が、航行ルートに沿って移動するよう、スラスタ42を自動的に操作する。
【0040】
衝突回避プログラム23及びSLAMプログラム231は、航行モードにおいて、マルチコプター12が水面上の浮遊物や周辺物に衝突することを防止する機能である。SLAMプログラム231はLiDAR38の出力データを基に、マルチコプター12の機体とその周辺物との位置関係を特定する。衝突回避プログラム23は、SLAMプログラム231の解析結果を基に、マルチコプター12とその周辺物との距離が所定の間隔以下にならないよう、また航行ルートからできるだけ逸脱しないよう、スラスタ42を自動的に操作する。尚、SLAMプログラム231は、マルチコプター12の機体からその側方(水平方向)に向けられた測距センサであれば、LiDAR38以外の測距センサ、例えば一又は複数の超音波測距センサやレーザー測距センサ、ステレオカメラ、深度カメラ、ミリ波レーダー等を用いることもできる。尚、衝突回避プログラム23及びSLAMプログラム231は、飛行モードにおいても使用することもできる。
【0041】
ヘディング制御プログラム24は、FC/BC20が備える電子コンパスにより、機体のヘディング(機首)方向、すなわちマルチビームソナー13の向きを制御する機能である。本形態のヘディング制御プログラム24は、クルーズプランの航行ルートに沿って、マルチビームソナー13のソナー配列方向を、進行方向に対して交差(できるだけ直交)する向きに維持するよう、スラスタ42を自動的に操作する。
【0042】
飛行迂回プログラム25は、河川の水流に乗って河川を下るマルチコプター12が、例えば取水堰や堰堤など、すり抜けることができない構造物を飛行して迂回する機能である。飛行迂回プログラム25は、マルチコプター12が河川を所定の位置まで下ったときに、マルチコプター12を自動的に離水および飛行させて、その位置よりもさらに下流の他の位置に着水させる。本形態では、飛行迂回プログラム25の離水点や着水点、これら2点間の飛行高度等は、クルーズプランのウェイポイントに指定する。
【0043】
定位置観測プログラム26は、マルチコプター12に河川の特定の位置範囲の地形を繰り返しスキャンさせる機能である。定位置観測プログラム26は、マルチコプター12が河川を所定の位置まで下ったときに、マルチコプター12を自動的に離水および飛行させて、その位置よりも上流の他の位置に着水させ、再びマルチコプター12を河川の水流に流す。本形態では、定位置観測プログラム26の離水点や着水点、これら2点間の飛行高度、繰り返し回数または繰り返し時間等は、クルーズプランのウェイポイントに指定する。
【0044】
このように、本形態の測量システム10は種々の自動操縦機能を備えており、経験の浅いオペレータ19や、目視外における測量であっても、一定水準以上の品質の測量を行うことができる。
【0045】
<河川測量方法>
図5は、マルチコプター12が地形データ、つまり河川の断面形状を取得する様子を示す模式図、
図7及び
図8は、マルチコプター12が河川の水流に乗って河川を下る様子を示す模式図である。
図9は、マルチコプター12が河川の特定の位置範囲を繰り返し測量する様子を示す模式図である。以下、
図5から
図9を参照して測量システム10による河川測量方法について説明する。
【0046】
測量システム10で河川を測量する際には、まず、
図5に示すように、マルチコプター12を河川RVの水面SFに浮かべる。クルーズプランの始点までは、飛行して移動してもよく、航行して移動してもよい。マルチコプター12が水面SFに浮かべられると、FC/BC20はマルチコプター12を飛行モードから航行モードへ切り替える。上でも述べたように、FC/BC20はマルチコプター12を航行モードへ切り替えた後(ロータ41を停止した後)も、GPS31やRTKレシーバ32を稼働させ続ける。航行モードに切り替えられたマルチコプター12はマルチビームソナー13による水中のスキャンを開始する。マルチビームソナー13は設定されたスワス幅θにわたって扇状に音波ビームを送信し、河道TPの地形を表す点群データを取得する。マルチビームソナー13のスワス幅θを180°以上に設定すれば、現状の水域の全体にわたる断面形状を取得することができる。
【0047】
図6は、河川の流量を求める方法を示す模式図である。本形態でいう「流量」とは、所定の単位時間に河川のある横断面を流過する水の体積を意味している。例えば、
図6に示す河川RVの横断面CRを1秒間に通過する水の体積のことである。河川RVの流量は、流速と横断面CRの断面積とを掛け合わせることで算出される。測定単位は、立方メートル毎秒(m
3/s)である。より具体的には、流量は以下の式で算出される。尚、流速はGPS31で取得した経緯度やその補正値、及びその取得時刻により算出することができる。
流量Q(m
3/s)=流速V(m/s)×断面積A(m
2)
一般に、河川の流量は、過去に実施された複数回の流量測定から導き出されたH-Q曲線(水位流量曲線)を元に、現在の水位を流量に変換することで求められるが、本形態の測量システム10によれば、実際の流量を測定しつつ、かつそのときの水位も得ることができる。より具体的には、H-Q曲線は、事前に測量された断面積Aと洪水時に浮子等を使って取得した流速Vから算出した流量Qを水位(H)毎にプロットすることで導き出される。断面積Aは水位Hによって変化するため、H-Q曲線は指数曲線となる。水位観測所の無い河川区域では、基準観測所の位置の流量Qを断面積Aで逆算して水位Hを算出するが、洪水時には河川の断面形状が変化していることが示唆されており、計算した水位Hがその実態と乖離することがある。本形態の測量システム10によれば、洪水時に測定した断面積Aと流速Vに基づいて流量Qを算出するとともに、その結果を実測水位Hと比較することが可能となる。
【0048】
図7に示すように、河川RVに浮かべられたマルチコプター12は、河川の水流に乗って河川を下っていく。自律航行プログラム22はマルチコプター12がクルーズプランの航行ルートR1に沿って河川を下るよう、スラスタ42を自動的に操作する。マルチコプター12が航行ルートR1から逸脱した場合には、河川を下りながら徐々に航行ルートR1に復帰する(R3)。このときも、ヘディング制御プログラム24は、マルチビームソナー13のソナー配列方向が航行ルートR1の進行方向に対して交差した状態を極力維持するようヘディング方向を制御する。航行ルートR1の途中にあるすり抜け不能な構造物である取水堰S1は、マルチコプター12がその所定の位置まで河川を下ったときに、飛行迂回プログラム25により飛行して迂回する(R2)。航行ルートR1の途中にある橋脚S2は、SLAMプログラム231がこれを検知し、衝突回避プログラム23がこれを必要最小限の逸脱ですり抜ける(R4)。
【0049】
ここで、河川の流速は、その川幅方向の位置によって流速が異なることがある。例えば、河川が直線状に流れているところでも、水深の深い区域では、川幅方向に並んだ2本のらせん流の影響で、河川中央の流速が両岸側の流速よりも早くなる。また、河川の水かさが増えていくときには、河川中央の水位が高くなり、水面上に中央から両岸側に向かう流れが生じる。河川の水かさが減っていくときには、逆に、河川中央の水位が低くなり、水面上に両岸側から中央に向かう流れが生じる。また、河川が曲がっている区域では、その曲線部分の外側の流速が内側の流速よりも早くなる。そして、水深のある浮遊物体は、流速が最も早くなる方向を向いていればおのずと流速が早い方へ誘導される。そのため、河川における最も流速の早いコースに沿ってマルチコプター12を流せば良い場合、自動操縦機能に指定する経緯度値は、橋梁などの障害物を迂回するのに十分な精度があれば足りると考えられる。
【0050】
図8に示すように、川幅の大きな河川の場合には、複数のマルチコプター12を川幅方向における位置をずらして配置し、それぞれを河川の水流に乗せて流してもよい。これにより、大きな河川の測量に要する時間を短縮することができる。また、一基のマルチビームソナー13のスワス幅を広く設定するよりも、スワス幅を狭めた二基のマルチビームソナー13で地形をスキャンした方が、いわゆるオクルージョン領域やシャドウ領域のような、ビームの届かない遮蔽領域を減らすことができる。
【0051】
また、
図9に示すように、例えば洪水時における橋脚S1付近の洗掘や深掘れの経時的な変化を調査する場合には、定位置観測プログラム26によりその位置範囲の地形を繰り返しスキャンさせればよい。具体的には、マルチコプター12が地形をスキャンしながら橋脚S1の傍を通り過ぎたときに、マルチコプター12を橋脚S1よりも上流となる位置まで飛行して戻し、再度スキャンしながら河川を下らせるとよい(R5)。これを調査に必要な回数または時間繰り返す。これにより、増水や洪水等の特定の条件下でのみ発生する現象を発見・把握することができる。
【0052】
図10は、測量システム10を河川ではなく、水面の静止した天然ダムNDに用いる例を示す模式図である。測量システム10は、水流のある河川だけでなく、水面の静止した水域であっても利用可能である。
図10のマルチコプター12は、天然ダムNDが発生した地点まで自動または手動で飛行して移動し、目的の天然ダムNDの水面に降着する。その後、スラスタ42を自動または手動で操作しながら天然ダムNDの地形データと水面標高を取得する。例えばマルチコプター12を水面の一点に静止させ、マルチビームソナー13で地形データをスキャンしながら機体を周方向に回転させることで地形の3Dデータを容易に取得することができる。
【0053】
<変形例>
図11は、マルチコプター12の変形例を示す下面図である。上記実施形態のマルチコプター12は、これを平面視(下面視)したときに、一対のフロート50の外側にスラスタ42が配置されているが、
図11(a)のマルチコプター12aでは、スラスタ42がフロート50よりも機体の中心側に配置されている。こうすることで、スラスタ42を浮遊物や周辺物との衝突から保護することができる。また、上記実施形態のマルチコプター12では、マルチコプター12の胴部121の下面にソナーユニット70が露出した状態で固定されている。一方、
図11(b)のマルチコプター12bは三胴形のフロート51,52を備え、ソナーユニット70が、両側のサイドフロート51の間にある中央フロート52の底部に設けられた凹部521に配置されている。こうすることで、ソナーユニット70を浮遊物や周辺物との衝突から保護することができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることができる。例えば、上記実施形態では無人航空機としてヘキサコプタが採用されているが、例えばこれをロータ数の異なるクアッドコプタやオクタコプタとしてもよく、またはヘリコプタとしてもよい。また、上記実施形態ではマルチコプター12の水上推進装置として2基のスラスタ42が採用されているが、これはマルチコプター12に水面上を移動させることができる推力源であればよく、その形態や個数は特に限定されない。また、上記実施形態ではFC/BC20とマルチビームソナー13で同じGPS31を利用しているが、それぞれに専用のGNSS装置を用意してもよい。
【符号の説明】
【0055】
10:測量システム,11:データ統合部,12;12a;12b:マルチコプター(無人航空機),121:胴部,20:フライトコントローラ/ボートコントローラ(制御装置),21:自律飛行プログラム,22:自律航行プログラム,23:衝突回避プログラム,231:SLAM:PG,24:ヘディング制御プログラム,25:飛行迂回プログラム(飛行迂回手段),26:定位置観測プログラム,31:GPS(GNSS装置),32:RTKレシーバ(RTK装置),38:LiDAR(測距センサ),39:カメラ,41:ロータ,42:スラスタ(水上推進装置),50:フロート,51:サイドフロート,52:中央フロート,521:凹部,13:マルチビームソナー(スキャナー装置,マルチビーム音響測深装置),60:制御部,70:ソナーユニット,RV:河川,TP:河道,SF:水面,S1:取水堰,S2:橋脚,ND:天然ダム,CR:横断面,R1:指定ルート,R2:飛行迂回ルート,R3:復帰ルート,R4:衝突防止ルート,R5:定位置観測ルート
【要約】
【課題】河川や海、ダム・湖沼等の測量に無人航空機を応用することで、これをより簡便に、より高精度に実施可能とする。
【解決手段】水面に降着可能な無人航空機と、前記無人航空機の着水後に水中の地形データを取得するスキャナー装置と、着水後の前記無人航空機の高度を取得するGNSS装置と、前記GNSS装置が出力する高度値を補正するための補正情報を取得するRTK装置とを備える測量システム、及び、本発明の無人航空機を、河川の上流から下流に向けて、該河川の水流に乗せて流す工程を含む河川測量方法によりこれを解決する。
【選択図】
図7