(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】位相回復に基づく光変調器評価技術
(51)【国際特許分類】
G01M 11/00 20060101AFI20250109BHJP
G02F 1/01 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01M11/00 T
G02F1/01 B
(21)【出願番号】P 2020048731
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悠来
(72)【発明者】
【氏名】山本 直克
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-516706(JP,A)
【文献】特開2002-244091(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0123832(US,A1)
【文献】国際公開第2009/113128(WO,A1)
【文献】C.R.S.Fludger,Low Cost Transmitter Self-Calibration of Time Delay and Frequency Response for High Baud-Rate QAM Transceivers,Optical Fiber Communication Conference, OSA Technical Digest,2017年,Th1D.3-1~3
【文献】Julio Cesar Mederiros Diniz,Optimization of DP-M-QAM Transmitter Using Cooperative Coevolutionary Genetic Algorithm,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,2018年,Vol.36 No.12,pp.2450-2462
【文献】Yuki Yoshida,A Phase-Retrieving Coherent Receiver Based on Two-Dimensional Photodetector Array,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,2020年01月01日,Vol.38 No.1,pp.90-100
【文献】酒井学,OFDM/OQAMにおけるプリアンブルを用いたI/Q不均衡推定法,第31回信号処理シンポジウム講演論文集,2016年12月14日,pp.352-357
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00-11/08
G02F 1/00-1/39
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光直交振幅変調器(光IQ変調器)のI(同相)チャネル及びQ(直交位相)チャネル間の電気―光応答の不均衡を推定するためのシステムであって,
光IQ変調器に第1の変調信号が入力された際の前記光IQ変調器からの第1の出力信号の強度成分を計測するための光検出器(PD)と,
前記光検出器(PD)が受信した第1の出力信号の強度成分をディジタル信号に変換し,ディジタル化された出力信号の強度情報を得るためのアナログ-ディジタル変換器(ADC)と,
前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定する不均衡演算部であって,
第1の変調信号に関する情報を受け取る入力信号情報受信部と,
前記ADCから前記ディジタル化された出力信号の強度情報を受け取る強度情報受信部とを有し,
第1の変調信号に関する情報及び前記ディジタル化された出力信号の強度情報を用いて,前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定するものと,
を有するシステム
であって,
第1の変調信号に関する情報は,第1変調の信号の強度及び位相の時間変化に関する情報(s(t))であり,
前記前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡は,
前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルのインパルス応答及び周波数応答,
前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の位相ずれの周波数依存性,
前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の強度ずれの周波数依存性,
前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの直流バイアス成分,及び
前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの非線形歪の周波数依存性のいずれか1つ又は2つ以上の不均衡に関するパラメータを含み,
前記不均衡演算部は,
第1の変調信号に関する情報(s(t))を基に,前記ディジタル化された出力信号の強度情報(|E(t)|
2)から前記出力信号の位相情報を回復するための位相回復演算を行う位相回復演算部と,
前記位相回復された出力信号(E(t))と第1の変調信号に関する情報(s(t))から,前記不均衡のパラメータを算出する不均衡係数演算部と,
をさらに有し,
前記位相回復演算部が得た位相回復された出力信号(E(t))に対し,不均衡係数演算部が不均衡係数の算出を行うことにより,前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定する,
システム。
【請求項2】
光直交振幅変調器(光IQ変調器)のI(同相)チャネル及びQ(直交位相)チャネル間の電気―光応答の不均衡を推定するための方法であって,
光IQ変調器へ,第1の変調信号を入力する工程と,
前記光IQ変調器へ入力した光信号が,光IQ変調器により第1の変調信号に基づくIQ変調を受けて,第1の出力信号が出力される工程と,
光検出器(PD)が第1の出力信号を受け取り,第1の出力信号の強度成分を計測する工程と,
アナログ-ディジタル変換器(ADC)が,前記光検出器(PD)が計測した第1の出力信号の強度成分をディジタル信号に変換し,ディジタル化された出力信号の強度情報を得る工程と,
不均衡推定装置が,第1の変調信号に関する情報を受け取る工程と,
前記不均衡推定装置が,前記ADCから前記ディジタル化された出力信号の強度情報を受け取る工程と,
前記不均衡推定装置が,第1の変調信号に関する情報及び前記ディジタル化された出力信号の強度情報を用いて,前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定する工程と,
を含む,方法
であって,
前記前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡は,
前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルのインパルス応答及び周波数応答,
前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の位相ずれの周波数依存性,
前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の強度ずれの周波数依存性,
前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの直流バイアス成分の周波数依存性,及び
前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの非線形歪の周波数依存性のいずれか1つ又は2つ以上の不均衡に関するパラメータを含み,
前記光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定する工程は,
第1の変調信号に関する情報(s(t))を基に,前記ディジタル化された出力信号の強度情報(|E(t)|
2)から出力信号の位相情報を回復するための位相回復演算を行う工程と,
前記位相回復された出力信号(E(t))と第1の変調信号に関する情報(s(t))から,前記不均衡のパラメータを算出する工程と,
を含む,
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,光変調器評価システムに関する。より詳しく説明すると,簡易な光検出器を用いて光変調器の特性を評価できるシステムやそのシステムを用いた光変調器の特性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去20年間に基幹系光ネットワークにおけるファイバあたりの伝送容量は2000倍近く向上した。なかでも送受信機の光周波数利用効は160~640倍に向上しており、特に寄与が大きい。この格段の周波数利用効率(Spectral efficiency, SE)の向上は、QAMなどの光多値変調方式、偏波多重伝送方式、ナイキストフィルタなどの光スペクトラム整形などの採用によるが、いずれにおいても高速かつ極めて精妙な光電界の制御が求められる。しかしながら、光電界の高速変調に広く用いられる、入れ子型のMach-Zehnder干渉計等を用いた光IQ(In-phase and Quadrature、直交振幅変調)変調器では、光導波路の経路長や損失のばらつき、あるいは高周波アンプやPCB基盤配線損失などによるRF変調信号のばらつきによる信号歪み、所謂IQ不均衡、が存在することが知られており、SEの向上ともにその問題が顕在化してきている。
【0003】
今後、SEの更なる向上をこうした光アナログ回路(Analog coherent optics)や高周波電気アナログ回路の特性向上だけで担保することは経済的ではなく、光送受信端におけるアナログ不完全性のディジタル信号処理による補償が必要となってくる。また、このためには光変調の不完全性の程度を評価し、評価結果をディジタル補償回路にフィードバックするモニタリング技術が重要となる。
【0004】
光IQ変調信号のモニタリング技術としては、光変調アナライザなどと呼ばれる、十分に校正された光コヒーレント受信機を用いる手法が広く知られているが、これには高価な測定系を変調器の直近に配する必要があり、送受信機(トランスポンダ)への集積化やオンサービスでの適応的な校正には向かない。伝送後、受信機側の信号処理により送信側のIQ不均衡を遠隔推定・補償する技術も提案されているが、こうした場合、受信機自体のアナログ不完全性を同時に取り扱う必要があり、煩雑な信号処理が求められる。
【0005】
一方、より低コストで、送信機への集積化も可能なアプローチとして、コヒーレント受信機を用いず、フォトディテクタ(PD)による電界強度情報をもとに、光IQ変調器のIQ不均衡を推定・校正する手法も提案されているが(下記非特許文献1)、パイロットトーンやディザー信号の事前あるいは同時伝送を前提としており、前者ではオンサービスでのモニタリングが困難であり、後者では、特に高次の多値変調方式において、ディザー信号自体による信号品質の劣化が問題となる。
【0006】
さらに、近年、高次の多値変調においては、IQ不均衡の程度が入力周波数に応じて変化する、所謂、周波数依存性IQ不均衡が問題となることが指摘されている。しかしながら、既存のモニタリング手法はそのほとんどが周波数非選択的なIQ不均衡をパラメトリックに推定するものであり、周波数依存性IQ不均衡の推定に用いることは出来ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】C. R. S. Fludger, T. Duthel, P. Hermann, and T. Kupfer, "Low cost transmitter self-calibration of time delay and frequency response for high baud-rate QAM transceivers," in Optical Fiber Communications Conference and Exhibition (OFC) (2017),
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は,簡易な装置を用いて,光直交振幅変調器(光IQ変調器)のI(同相)チャネル及びQ(直交位相)チャネル間の電気―光応答の不均衡を推定するためのシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は,基本的には,以下のコンセプトに基づく。
既知の変調信号入力に対する光直交振幅変調器におけるのI(同相)チャネル及びQ(直交位相)チャネル間の電気―光応答の不均衡を求める問題を,位相回復問題として定式化する。すると,単一の光検出器を用いても,変調器の周波数依存性IQ不均衡及びバイアスずれの推定を行うことができる。
【0010】
第1の発明は,光直交振幅変調器(光IQ変調器)の特性評価システムに関する。このシステムは,光直交振幅変調器のI(同相)チャネル及びQ(直交位相)チャネル間の電気―光応答の不均衡を推定するためのシステムである。
【0011】
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡は,例えば,
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルのインパルス応答及び周波数応答,
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の位相ずれの周波数依存性,
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の強度ずれの周波数依存性,
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの直流バイアス成分,及び
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの非線形歪の周波数依存性のいずれか1つ又は2つ以上の不均衡に関するパラメータを含む。
【0012】
この光直交振幅変調器の特性評価システム1は,光検出器(PD)3と,アナログ-ディジタル変換器(ADC)5と,不均衡演算部11とを有する。
【0013】
光検出器(PD)3は,光IQ変調器に第1の変調信号が入力された際の光IQ変調器からの第1の出力信号の強度成分を計測するための要素である。
【0014】
アナログ-ディジタル変換器(ADC)5は,光検出器(PD)が受信した第1の出力信号の強度成分をディジタル信号に変換し,ディジタル化された出力信号の強度情報を得るための要素である。
【0015】
不均衡演算部11は,光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定するための要素である。
不均衡演算部11は,
第1の変調信号に関する情報を受け取る入力信号情報受信部13と,
アナログ-ディジタル変換器(ADC)5からディジタル化された出力信号の強度情報を受け取る強度情報受信部15とを有する。
そして,不均衡演算部は,第1の変調信号に関する情報及びディジタル化された出力信号の強度情報を用いて,光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定する。
【0016】
第1の変調信号に関する情報の例は,第1変調の信号の強度及び位相の時間変化に関する情報(Ein(t))である。
不均衡演算部11は,上記の演算を行うため,例えば,位相回復演算部17と,不均衡係数演算部19とをさらに有する。
位相回復演算部17は,第1の変調信号に関する情報(s(t))を基に,ディジタル化された出力信号の強度情報(|E(t)|2)から出力信号の位相情報を回復するための位相回復演算を行う要素である。
不均衡係数演算部19は,位相回復された出力信号(E(t))と第1の変調信号に関する情報(s(t))から,不均衡のパラメータを算出するための要素である。
位相回復演算部17は,位相回復演算部が得た位相回復された出力信号(E(t))に対し,不均衡係数演算部19が不均衡係数の算出を行うことにより,光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定する。
【0017】
第2の発明は,光直交振幅変調器(光IQ変調器)のI(同相)チャネル及びQ(直交位相)チャネル間の電気―光応答の不均衡を推定するための方法に関する。この方法は,以下の工程を含む。
光IQ変調器へ,第1の変調信号が入力する。
光IQ変調器へ入力した光信号が,光IQ変調器により第1の変調信号に基づくIQ変調を受けて,第1の出力信号が出力される。
光検出器(PD)が第1の出力信号を受け取り,第1の出力信号の強度成分を計測する。
アナログ-ディジタル変換器(ADC)が,光検出器(PD)が計測した第1の出力信号の強度成分をディジタル信号に変換し,ディジタル化された出力信号の強度情報を得る。
不均衡推定装置が,第1の変調信号に関する情報を受け取る。
不均衡推定装置が,ADCからディジタル化された出力信号の強度情報を受け取る。
不均衡推定装置が,第1の変調信号に関する情報及びディジタル化された出力信号の強度情報を用いて,光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシステムや方法によれば,光直交振幅変調器(光IQ変調器)のI(同相)チャネル及びQ(直交位相)チャネル間の電気―光応答の不均衡を求める問題を,位相回復問題ととらえることで,簡易な装置を用いて,上記不均衡を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は,光直交振幅変調器(光IQ変調器)の特性評価システムを説明するためのブロック図である。
【
図2】
図2は,コンピュータの基本構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は,電気―光応答の不均衡を推定するための処理の例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は,本発明の光直交振幅変調器の特性評価システム(SP-IQM)の概略図である。
【
図5】
図5は,本発明の原理検証のための実証実験系を示す図である。
【
図6】
図6は,3パターンのh’
idealに対する,推定されたインパルス応答,インパルス応答より算出された周波数応答,及び変調アナライザにおいて実際に観測された受信信号点の例を示す図である。
【
図7】
図7はh’
idealを独立かつランダムに20回生成した場合の試行毎のMSE特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0021】
図1は,光直交振幅変調器(光IQ変調器)の特性評価システムを説明するためのブロック図である。このシステムは,光直交振幅変調器のI(同相)チャネル及びQ(直交位相)チャネル間の電気―光応答の不均衡を推定するためのシステムである。光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定することで,この不均衡を出力し,光IQ変調器の特性を評価でき,この不均衡を考慮した制御(例えば光IQ変調器へ印加する変調信号を調整すること)を行うことができる。
図1に示されるように,この光直交振幅変調器の特性評価システム1は,光検出器(PD)3と,アナログ-ディジタル変換器(ADC)5と,不均衡演算部11とを有する。
【0022】
光検出器(PD)3は,光IQ変調器に第1の変調信号が入力された際の光IQ変調器からの第1の出力信号の強度成分を計測するための要素である。
【0023】
アナログ-ディジタル変換器(ADC)5は,光検出器(PD)が受信した第1の出力信号の強度成分をディジタル信号に変換し,ディジタル化された出力信号の強度情報を得るための要素である。
【0024】
不均衡演算部11は,光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定するための要素である。不均衡演算部11は,例えば,第1の変調信号の信号源や,アナログ-ディジタル変換器(ADC)5と,情報をやり取りできるように接続されている。不均衡演算部11は,制御装置(コンピュータ)を有するものが好ましい。
【0025】
図2は,コンピュータの基本構成を示すブロック図である。この図に示されるように,コンピュータは,入力部21,出力部23,制御部25,演算部27及び記憶部29を有しており,各要素は,バス31などによって接続され,情報の授受を行うことができるようにされている。例えば,記憶部には,制御プログラムが記憶されていてもよいし,各種情報が記憶されていてもよい。入力部から所定の情報が入力された場合,制御部は,記憶部に記憶される制御プログラムを読み出す。そして,制御部は,適宜記憶部に記憶された情報を読み出し,演算部へ伝える。また,制御部は,適宜入力された情報を演算部へ伝える。演算部は,受け取った各種情報を用いて演算処理を行い,記憶部に記憶する。制御部は,記憶部に記憶された演算結果を読み出して,出力部から出力する。このようにして,各種処理が実行される。
【0026】
不均衡演算部11は,上記したコンピュータにより実装される。以下説明する各部は,コンピュータの各要素や,記憶部が記憶した制御プログラムにより実装される。
不均衡演算部11は,入力信号情報受信部13と,強度情報受信部15とを有する。そして,不均衡演算部11は,第1の変調信号に関する情報及びディジタル化された出力信号の強度情報を用いて,光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定する。上記の推定を行うため,不均衡演算部11は,例えば,位相回復演算部17と,不均衡係数演算部19とをさらに有してもよい。
【0027】
入力信号情報受信部13は,第1の変調信号に関する情報を受け取るための要素である。制御装置の入力部21が,入力信号情報受信部13として機能する。不均衡演算部11は,例えば,第1の変調信号の信号源と電気的に接続されてもよい。このため,不均衡演算部11は,その信号源から,第1の変調信号に関する情報を受け取ることができる。第1の変調信号に関する情報の例は,第1変調の信号の強度及び位相の時間変化に関する情報(s(t))である。s(t)が事前に定められた系列であれば,不均衡演算部11は,第1の変調信号の信号源からs(t)を受け取る必要がない。この場合,不均衡演算部11は,記憶部29に記憶された第1変調の信号の強度及び位相の時間変化に関する情報(s(t))を読み出して,読み出した第1の変調信号に関する情報を受け取るようにすればよい。
【0028】
強度情報受信部15は,アナログ-ディジタル変換器(ADC)5からディジタル化された出力信号の強度情報を受け取るための要素である。制御装置の入力部21が,強度情報受信部15として機能する。不均衡演算部11は,例えば,アナログ-ディジタル変換器(ADC)5から情報を受領できるように電気的に接続されている。このため,強度情報受信部15は,アナログ-ディジタル変換器(ADC)5からディジタル化された出力信号の強度情報を受け取ることができる。
【0029】
位相回復演算部17は,第1の変調信号に関する情報(s(t))を基に,ディジタル化された出力信号の強度情報(|E(t)|2)から出力信号の位相情報を回復するための位相回復演算を行うための要素である。
【0030】
不均衡係数演算部19は,位相回復された出力信号(E(t))と第1の変調信号に関する情報(s(t))から,不均衡のパラメータを算出するための要素である。
【0031】
例えば,制御装置の制御部25,演算部27及び記憶部29(及び記憶部29に記憶された制御プログラム)が,位相回復演算部17及び不均衡係数演算部19として機能する。 位相回復演算部17は,位相回復演算部が得た位相回復された出力信号(Eout(t))に対し,不均衡係数演算部19が不均衡係数の算出を行うことにより,光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定する。
【0032】
不均衡演算部11は,例えば,入力信号情報受信部13が受け取った第1の変調信号に関する情報や,強度情報受信部15が受け取った,ディジタル化された出力信号の強度情報を適宜記憶部に記憶する。そして,不均衡演算部11は,記憶部から,第1の変調信号に関する情報やディジタル化された出力信号の強度情報を用いて,位相回復演算部17及び不均衡係数演算部19に所定の演算を行わせて,不均衡のパラメータを算出し,光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定する。具体的な演算の原理は,後述する通りである。
【0033】
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡は,例えば,
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルのインパルス応答及び周波数応答,
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の位相ずれの周波数依存性,
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の強度ずれの周波数依存性,
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの直流バイアス成分,及び
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの非線形歪の周波数依存性のいずれか1つ又は2つ以上の不均衡に関するパラメータを含む。
【0034】
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルのインパルス応答及び周波数応答
Iチャネル及びQチャネルのインパルス応答は,それらの共通成分h+(t)及び誤差成分h-(t)で表すことができる。後述するように,h+(t)及びh-(t)を推測することで,Iチャネル及びQチャネルのインパルス応答を求めることができる。
また、インパルス応答をフーリエ変換、ピリオドグラム法などの手法でスペクトル解析することで、Iチャネル及びQチャネルの周波数応答を推定することができる。周波数応答は、IチャネルあるいはQチャネルにある周波数の正弦波入力を加えた際の出力振幅及び出力位相を与える。
【0035】
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の強度ずれの周波数依存性
誤差成分h-(t)をスペクトラム解析し、周波数応答の振幅成分を算出することで、光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の強度ずれの周波数依存性を推測できる。
【0036】
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の位相ずれの周波数依存性
誤差成分h-(t)をスペクトラム解析し、周波数応答の位相成分を算出することで、光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の強度ずれの周波数依存性を推測できる。
【0037】
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの直流バイアス成分
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの直流バイアス成分とは,変調信号の直流成分と光変調器出力における直流成分のずれである。
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの直流バイアス成分をδで表すことができる。後述するようにδを推測することで,光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの直流バイアスを推測できる。
【0038】
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの非線形歪
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの非線形歪とは,光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの応答のうち、インパルス応答などの線形システムの形で表現できない、変調信号の振幅や位相状態に依存した応答である。
不均衡係数演算部19において、ボルテラフィルタなど非線形応答を表現する関数を採用することで、不均衡演算部11は位相回復演算部17及び不均衡係数演算部19に所定の演算を行わせて,光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの非線形歪を推測できる。
【0039】
なお,不均衡演算部11は,光IQ変調器に入力される光信号に関する情報(例えば,光信号の強度及び位相の時間変化に関する情報)を受け取るものであってもよい。この場合,例えば,光信号の光源と,不均衡演算部11が接続されていてもよい。また,光信号が,光IQ変調器に入力される前に,光信号を分岐し,分岐された一方の光信号を光検出器が検出し,検出した光信号の強度をディジタル信号に変換したものを不均衡演算部11が受け取ってもよい。さらに,記憶部29に光IQ変調器に入力される光信号に関する情報(例えば,光信号の強度及び位相の時間変化に関する情報)を記憶させておき,記憶部29からその情報を読み出すようにしてもよい。
【0040】
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡は,例えば,
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルのインパルス応答及び周波数応答,
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の位相ずれの周波数依存性,
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの電気―光応答の強度ずれの周波数依存性,
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの直流バイアス成分,及び
光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルの非線形歪の周波数依存性のいずれか1つ又は2つ以上の不均衡に関するパラメータを含む。
【0041】
第2の発明は,光直交振幅変調器(光IQ変調器)のI(同相)チャネル及びQ(直交位相)チャネル間の電気―光応答の不均衡を推定するための方法に関する。
図3は,電気―光応答の不均衡を推定するための処理の例を示すフローチャートである。
図3に示されるように,この方法は,以下の工程を含む。Sは,ステップを示す。
光IQ変調器へ,第1の変調信号が入力する(S101)。
光IQ変調器へ入力した光信号が,光IQ変調器により第1の変調信号に基づくIQ変調を受けて,第1の出力信号が出力される(S102)。
光検出器(PD)が第1の出力信号を受け取り,第1の出力信号の強度成分を計測する(S103)。
アナログ-ディジタル変換器(ADC)が,光検出器(PD)が計測した第1の出力信号の強度成分をディジタル信号に変換し,ディジタル化された出力信号の強度情報を得る(S104)。
不均衡推定装置が,第1の変調信号に関する情報を受け取る(S105)。
不均衡推定装置が,ADCからディジタル化された出力信号の強度情報を受け取る(S106)。
不均衡推定装置が,第1の変調信号に関する情報及びディジタル化された出力信号の強度情報を用いて,光IQ変調器のIチャネル及びQチャネル間の電気―光応答の不均衡を推定する(S107)。
【0042】
以下,本発明の原理について説明する。
【0043】
図4は,本発明の光直交振幅変調器の特性評価システム(SP-IQM)の概略図である。SP-IQMは,光検出器(PD)とアナログ-ディジタル変換器(ADC)、及び演算部で構成される。
【0044】
光IQ変調器が線形領域で駆動されると仮定すると,周波数依存IQ不均衡が存在する場合のIQ変調器出力における光電界の複素包絡線振幅E(t)は,例えば,L. Anttila, M. Valkama, and M. Renfors, "Frequency-Selective I/Q Mismatch Calibration of Wideband Direct-Conversion Transmitters," IEEE Trans. Circuits Syst. Express Briefs 55(4), 359-363 (2008).に示されるように,次の広義線形(WL)モデルで記述できる。
【0045】
【0046】
ここで,E0は変調器に入力される光搬送波であり,s(t)は変調信号を示す。*は線形畳み込みを示し,(・)*は複素共役を示す。
【0047】
インパルス応答h+(t)及びh-(t)は,例えば、以下のように光IQ変調器内部の個別の回路における応答と関連付けることができる。
【0048】
【0049】
gI(t)及びgQ(t)はDAC,RFアンプ,プリント基板トレース配線などの変調信号入力電気回路に起因するIチャネル及びQチャネルそれぞれのインパルス応答を表し,ε及びθは,光直交振幅変調における強度及び位相ずれを表す。δは変調器出力における光バイアス成分を表す。なお、不均衡のない理想的な光IQ変調器の場合、s(t)とE(t)は比例する。
【0050】
変調器IQ不均衡の推定には,一般にコヒーレント受信機が用いられる。この場合,変調器出力電界E(t)がその位相情報を含め観測可能であるため,前記WLモデルに従い,h+(t),h-(t)及びδを直接的に推定することが出来る。こうした不均衡推定方式は,変調アナライザなどの名称で知られている。変調器アナライザは十分に校正された高精度のコヒーレント受信機で構成されるため,コストや変調器回路への集積化の観点で問題がある。
【0051】
一方,PDのみを用いたIQ不均衡推定方法は,低コストであり,変調器回路への集積化も可能である。しかしながら,PDによる直接検波は,変調器出力電界E(t)の強度情報|E(t)|2のみが検出可能であり,位相情報は失われてしまう。このため,例えば,J. C. M. Diniz, F. Da Ros, E. P. da Silva, R. T. Jones, and D. Zibar, "Optimization of DP-M-QAM Transmitter Using Cooperative Coevolutionary Genetic Algorithm," J. Lightwave Technol. 36(12), 2450-2462 (2018).など,従来のPDのみを用いた不均衡推定手法では,s(t)として,ディザー信号やトーン信号などの特殊な参照信号を用いることで,|E(t)|2から位相情報を含むIQ不均衡の推定行う。こうした手法では,不均衡成分のうち周波数に依存しないε及びθのみが推定可能であったり,データ伝送中の不均衡評価が困難であったり,あるいは,重畳された参照信号による信号品質の劣化などの問題がある。
【0052】
本発明のSP-IQMは,従来のトーン信号などを用いる不均衡推定手法と異なり,位相回復技術により,|E(t)|2とランダムな信号系列s(t)から,h+(t),h-(t)及びδを推定する。これにより,高価なコヒーレント受信機を必要とせず,変調回路に集積化可能で,かつデータ伝送中にも利用可能な不均衡推定を実現する。
【0053】
PD及びADCの応答は理想的であると仮定した場合,ADC後の離散時間領域における前記WLモデルは,
【0054】
【0055】
で与えられる。ここで,L×1実数ベクトルrは,離散時間領域における受信強度情報であり,L×1複素ベクトルh+及びh-は,離散時間領域におけるh+(t)及びh-(t)であり,sはs(t)からなるL×1信号ベクトルである。Lは離散時間領域におけるインパルス応答h+(t)及h-(t)のメモリ長を表す。L×1ベクトル1は要素がすべて1のベクトルを示し,(・)Tは転置を示す。
【0056】
Y. Yoshida, T. Umezawa, A. Kanno, and N. Yamamoto, "A Phase-Retrieving Coherent Receiver Based on Two-Dimensional Photodetector Array," J. Lightwave Technol. 38(1), 90-100 (2020).に示されるように,skとして,K個の独立した信号ブロックを送信した場合,IQ変調器の応答h+,h-,及びδの推定問題は,以下の数式で与えられる。
【0057】
【0058】
ここで,
【0059】
【0060】
で与えられる。この問題は,結晶学や回折イメージングなどの多くの分野で位相回復問題として知られる問題と数学的に等価である。従って,PDを用いたIQ不均衡の推定問題に位相回復分野の数学的知見を活かすことが出来る。
【0061】
例えば, Y. Shechtman, Y. C. Eldar, O. Cohen, H. N. Chapman, J. Miao, and M. Segev, "Phase Retrieval with Application to Optical Imaging: A contemporary overview," IEEE Signal Process. Mag. 32(3), 87-109 (2015).に紹介されるように,位相回復分野においては,一意な回復のための必要十分条件や,位相回復アルゴリズムについて数多くの先行研究がある。
【0062】
まず,位相回復の一意性については, A. S. Bandeira, J. Cahill, D. G. Mixon, and A. A. Nelson, "Saving phase: Injectivity and stability for phase retrieval," Appl. Comput. Harmon. Anal. 37(1), 106-125 (2014).において,4N-4予想が示された。即ち,N個の未知変数の位相を一意に決定するために,4N-4個の強度情報があればよく,それら強度情報はランダムな観測過程に基づいて得られるものでよい。前記のIQ不均衡推定問題において,このランダムな観測過程は,数式上,変調器入力信号sk(k=1,・・・,K)に対応し,前記予測は,推定の対象である未知変数ベクトルh’の要素数に対して,Kが十分に大きければ(例えばK>8L),h’をその位相を含めて一意に推定可能であることを意味している。またskはランダムな系列でよいため,それがSP-IQMの演算部において既知でさえあれば,送信データ系列でもよく,データ伝送中の不均衡推定も可能である。
【0063】
次に,位相回復アルゴリズムについて,前記のIQ不均衡推定問題は位相回復として一般的な形式であるため,既存の位相回復アルゴリズムの多くを適用可能であり。例えば,Gerchberg-Saxton法に代表されるような交互射影法(Alternative Projection)でもよいし,PhaseLift,PhaseMax,PhaseCutなどの凸最適化手法に基づくものでもよいし,Wirtinger Flowに代表される確率的勾配降下法(Stochastic Gradient Descent)でもよいし,近似メッセージ伝搬法(Approximate Message Passing)や,例えばAlternating Direction Method of Multipliers (ADMM)のような拡張ラグランジュ法に基づく位相回復アルゴリズムでもよい。
【0064】
本実施例では, J. Liang, P. Stoica, Y. Jing, and J. Li, "Phase Retrieval via the Alternating Direction Method of Multipliers," IEEE Signal Process. Lett. 25(1), 5-9 (2018).で示されたADMMに基づく位相回復アルゴリズムPhareADMMを採用している。PhareADMMでは,前記位相回復問題を
【0065】
【0066】
で与えられる振幅誤差に基づく損失関数を拡張ラグランジュ法に基づいて最小化することで,h’を推定する。
【0067】
なお,上記の説明ではWLモデルで光IQ変調器の不均衡を定式化したが,本発明のSP-IQMにおいては,最終的に前記位相回復問題の形式で表現できるものであればいずれのIQ不均衡モデルを用いてもよい。例えば,複素等価低域表現の実部と虚部を個別にベクトルとして取り扱うものでもよいし,ボルテラフィルタ(volterra filter)のようにベクトル演算の形式で表現できる非線形応答を含んでもでもよい。
【実施例】
【0068】
図5に本発明の原理検証のための実証実験系を示す。
マッハ・ツェンダー干渉計(MZI)を用いた光IQ変調器,変調器を駆動するための92GSa/sの任意RF波形生成器(AWG),1550nm帯狭線幅光源を用いて,63.25Gbaud 偏波多重光16QAM変調信号を生成する。信号系列はデータ系列を想定しランダム系列とし,うち80,000シンボル程度を不均衡推定のためのパイロット信号として用いた。光信号は,エルビウムドープトファイバー増幅器(EDFA)で増幅されたのち,パワースプリッタにより2つに分岐される。一つは偏波ビームスプリッタ(PBS)によりX偏波成分のみを分離した後,SP-IQMに入力される。SP-IQMは3dB帯域70GHzのPDと160GSa/sのリアルタイムサンプリングオシロスコープ(DSO)からなり,位相回復,不均衡推定を行う演算部はオフライン処理としてワークステーション上に実装された。位相回復アルゴリズムには,前記PhareADMMを用いた。なお,本原理検証実験では,PD及びDSOの帯域制限の影響を無視するため広帯域の測定系を用いているが,位相回復処理における実効的なサンプリングレートは4.2GSa/sである。もう一つのパワースプリッタ出力はコヒーレント受信機を用いた光変調アナライザに入力される。コヒーレント受信機は,4チャンネルの80GSa/s DSOと狭線幅光源及び光ハイブリッド回路からなり,変調アナライザにおける演算処理はSP-IQMと同じく,オフラインにて実装した。コヒーレント受信の場合は,送受信機光源の周波数偏差(CFO)が問題となるが,これは不均衡推定に先立って信号スペクトル解析を行い補償した。変調アナライザにおける不均衡推定には,T. Adali, P. J. Schreier, and L. L. Scharf, "Complex-Valued Signal Processing: The Proper Way to Deal With Impropriety," IEEE Trans. Signal Process. 59(11), 5101-5125 (2011).などに示されたWLモデルを用いた最小平均二乗誤差推定(WL-MMSE)を用いた。なお,SP-IQM,変調器アナライザのアナログ回路に起因する周波数応答のずれについては,固定の線形等化器により補償している。実際のIQ変調器において,IQ不均衡,とくにその周波数依存性を厳密に制御することは容易ではないため,本実証実験では,送信機側AWGにおいて離散時間WLモデルをもとにディジタルフィルタで不均衡を模擬した。以降では,このディジタルフィルタのインパルス応答をh’
ideal, SP-IQMによる推定結果をh’
PR,コヒーレント受信機を用いた変調アナライザの推定結果をh’
cohとし,平均推定誤差を
【0069】
【0070】
で定義した。
【0071】
図6は,3パターンのh’
idealに対する,推定されたインパルス応答,インパルス応答より算出された周波数応答,及び変調アナライザにおいて実際に観測された受信信号点の例を示す図である。なお,グラフ表示の都合上,インパルス応答及び周波数応答の振幅成分のみが表示されているが,前記の通り位相を含め推定が行われている。
図6より,h’
ideal,h’
PR,h’
cohの間に良好な一致が見られる。これら3パターンにおける平均MSE特性は,MSE(h’
PR)=2.2×10
-3,MSE(h’
coh)=3.5×10
-3であった。コヒーレント受信は直接検波に比べ,原理的に感度に優れるため,SP-IQMよりも変調アナライザが高精度であるものの,SP-IQMはその簡易な構成で十分な推定精度を達成できていることがわかる。なお,本実験におけるMSE特性はh’
idealを基準に算出されているが,h’
idealには実際の実験系のIQ不均衡が含まれておらず,一方,h’
cohにはIQ変調器だけでなく,コヒーレント受信機におけるIQ不均衡までが含まれてしまうため,MSE特性には一定のエラーフロアがあることを申し添えておく。
【0072】
次に,
図7はh’
idealを独立かつランダムに20回生成した場合の試行毎のMSE特性を示す図である。試行毎にIQ不均衡の程度が異なるため推定精度にばらつきがあるものの,平均MSE特性は,MSE(h’
PR)=8.2×10
-3,MSE(h’
coh)=1.2×10
-2であり,平均性能でSP-IQMが変調アナライザを上回った。F. Horlin and A. Bourdoux, Digital compensation for analog front-ends: A new approach to wireless transceiver design (John Wiley & Sons, 2008).に示されるように,IQ不均衡は,コヒーレント受信におけるCFO補償精度に悪影響を与えることが知られている。ランダム試行においては,特性のサンプルにおいて,変調アナライザにおけるCFO補償精度が低下し,結果不均衡パラメータの推定精度が低下したものと考えられる。
【0073】
以上により本発明のSP-IQMが,少なくとも光IQ変調器のIチャネル及びQチャネルそれぞれのインパルス応答(ここではh’として一括で推定されている)を,位相応答を含め推定可能であり,チャネル間の強度,位相のずれの周波数依存性(h-)までを評価可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
この発明は,例えば情報通信産業において利用されうる。
【符号の説明】
【0075】
1 光直交振幅変調器の特性評価システム
3 光検出器(PD)
5 アナログ-ディジタル変換器
11 不均衡演算部
13 入力信号情報受信部
15 強度情報受信部
17 位相回復演算部
19 不均衡係数演算部