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特許7616662癌の予防、治療及び/または検出において使用するための新規ペプチドベースの化合物
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  • 特許-癌の予防、治療及び/または検出において使用するための新規ペプチドベースの化合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】癌の予防、治療及び/または検出において使用するための新規ペプチドベースの化合物
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20250109BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20250109BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20250109BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20250109BHJP
   A61P 35/02 20060101ALN20250109BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20250109BHJP
   A61K 47/65 20170101ALN20250109BHJP
   A61K 47/68 20170101ALN20250109BHJP
【FI】
C07K16/46
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
A61P35/00
A61P35/02
A61K39/395 T
A61K47/65
A61K47/68
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021500337
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2019056672
(87)【国際公開番号】W WO2019179923
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】18163057.5
(32)【優先日】2018-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520363878
【氏名又は名称】ユニバーシタッツメディズィン デア ヨハネス グーテンベルク-ユニバーシタット マインツ
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,エドガー
(72)【発明者】
【氏名】クンツ,ホルスト
(72)【発明者】
【氏名】ステルギオウ,ナターシャ
(72)【発明者】
【氏名】ガイジック,ニコラ
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/185552(WO,A1)
【文献】特表2015-504071(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107184602(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103483453(CN,A)
【文献】Trends Mol. Med.,2014年,Vol.20, No.6,pp.332-342
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N 15/
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物であって、
-GFTFSDYW(配列番号1)、IRLKSNNYAA(配列番号2)及びTFGNSFAY(配列番号3)からなる群から選択される少なくとも3つの異なるアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド配列と、
-TGAVTTNNY(配列番号4)、GTN(配列番号5)及びALWYSNHWV(配列番号6)からなる群から選択される少なくとも3つの異なるアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド配列と、を含む、化合物であって、
前記第1のポリペプチド配列は、配列番号7に記載のアミノ酸配列を含み、前記第2のポリペプチド配列は、配列番号8に記載のアミノ酸配列を含み、
前記化合物は、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含むscFvであり、腫瘍関連ムチン-1(TA-MUC1)に結合することができる、化合物。
【請求項2】
前記第1のポリペプチド配列は、抗体の重鎖(VH)の可変領域の一部であり、前記第2のポリペプチド配列は、抗体または抗体断片の軽鎖(VL)の可変領域の一部である、請求項1に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MUC1発現腫瘍組織内に見られ得る哺乳動物腫瘍関連ムチン-1(TA-MUC1)に結合する能力を有する新規化合物に関する。本発明の化合物は、膵癌、前立腺癌、乳癌、B細胞白血病、多発性骨髄腫、結腸癌、及び卵巣癌などの癌の治療、予防または検出に好適である。したがって、本発明の化合物により、上皮腫瘍細胞に見られるTA-MUC1と健康な上皮細胞に見られるMUC-1との区別が可能になる。したがって、本発明の化合物は、治療及び診断用途で使用するための腫瘍標的化剤として好適である。
【背景技術】
【0002】
MUC1は、多くの上皮組織に発現する高度にグリコシル化されたタンパク質であり、例えば、乳房、結腸、前立腺、膵臓の組織、及び卵巣において発見され得る(M.A.Hollingsworth,B.J.Swanson,Nat.Rev.Cancer,2004,4,45-60)。MUC1の細胞外部分には、セリンまたはスレオニンにおいて5つのO-グリコシル化部位など、配列PAHGVTSAPDTRPAPGSTAPの20~100の反復コピーからなるドメインが含まれている。通常、MUC1は長いグリカンを担持しており、これにより、タンパク質は拡張コンフォメーションを取る。高密度のグリコシル化が原因で、ペプチド骨格は、免疫系にアクセスできない。TA-MUC1のグリカンは、はるかに短く、多くの場合早期にシアル化される(J.Arklie,J.Taylor-Papadimitrious et al.,Int.J.Cancer,1981,28,23-29;I.Brockhausen et al.,Eur.J.Biochem.,1995,233,607-617;F.-G.Hanisch et al.,Glycoconjugate J.,1990,7,525-543;N.Domenech et al.,J.Immunol.,1995,155,4766-4774)。
【0003】
免疫療法の過程においてそのような糖タンパク質を適用することで、正常なMUC1に対して望ましくない重度の自己免疫反応が引き起こされ得る。純粋なTA-MUC1-糖ペプチド抗原は、腫瘍細胞から単離できないため、化学全合成によって得る必要がある(D.Samesetal.,Nature,1997,389,587-559;B.Liebe,H.Kunz,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1997,36,618-621;Angew.Chem.,1997,109,629-631)。
【0004】
O-グリカンは、癌細胞内で不完全に処理され、その結果、膵癌炭水化物抗原Tn(GalNAccd-O-Ser/Thr)、STn(NeuAca2-6GalNAca1-O-Ser/Thr)、及びT(Gal31-3GalNAca1-0-Ser/Thr)が発現する。乳癌細胞によって発現するMUC1は、正常細胞に広く見られる短い癌関連Tn、STn、及びT抗原と、モノ及びジシアリルコア1構造(ST、NeuAca2-3Gal31-3[NeuAca2-6]+/-GalNAca1-0-Ser/Thr)を担持している。対照的に、正常な乳房上皮細胞で発現するMUC1は、一般に、ラクトサミン伸長を伴う分岐コア2O-グリカン(Gal31-3[GlcNAc31-6]GalNAca1-0-Ser/Thr)を担持している。
【0005】
細胞膜に結合したMUC1は、免疫療法の介入の主要な標的であると長い間考えられてきた。しかし、ヒトMUC1遺伝子を発現する患者またはトランスジェニック動物において、MUC1の癌関連形態に対する効果的な細胞性または体液性免疫応答の刺激は得られていない(細胞ベースの治療とは対照的に、定義された免疫原を使用する)。ペプチド/タンパク質免疫原に基づく能動的特異的免疫療法の戦略は、これまで、異なる長さであり、異なる担体に結合されるか、またはアジュバントと共に投与される非グリコシル化MUC1タンデムリピートペプチドに限定されていた。これらの戦略では、一般に、ムチンが自己抗原として発現する宿主内においては、癌細胞によって発現するMUC1に対する効果的な免疫応答を生じさせることができなかった。
【0006】
O-グリコシル化によって修飾されている高い割合のセリン及びスレオニンを有する可変数のタンデムリピートを含むMUC1のN末端サブユニットは、細胞のグリコカリックスを超えて伸長し、MUC1の膜貫通C末端サブユニットへの非共有結合を介して細胞表面につながれている(Merlo,1989)。C末端は、58のアミノ酸細胞外ドメイン、28のアミノ酸膜貫通ドメイン、及び多様なシグナル伝達分子と相互作用する72のアミノ酸細胞質ドメインで構成されている(Kufe,2008)。
【0007】
過去には、MUC1、MUC1に由来する合成ペプチド及び糖ペプチドを精製するために、多数のモノクローナル抗体(mAb)が製造された。これらのmAbのエピトープは、従来、重複している短いペプチドをスキャンすることによって定義されており、ほとんどのmAbは、高度にO-グリコシル化されたムチンタンデムリピートドメイン内のエピトープを定義している。mAbの1つの大きな群は、HMFG1、115D8、及びSM3などのヒト乳脂肪球(HMFG)に対して生成され、これらのほとんどは、免疫優勢ペプチドエピトープと見なされるMUC1タンデムリピートのPDTR領域内のエピトープと反応する。ほとんどのMUC1抗体は、ペプチド骨格と反応するが、多くの場合、結合はグリカンの存在によって調節される。腫瘍細胞では、MUC1のペプチド骨格は、免疫系にアクセス可能であるが、残留している異常なグリコシル化によって妨げられているようである(I.Brockhausenetal.,Eur.J.Biochem.,1995,233,607-617;S.J.Gendleretal.,J.Biol.Chem.,1990,265,15286-15293)。
【0008】
TA-MUC1は、その生化学的特徴、細胞分布、及び機能に関して、正常細胞内で発現するMUC1とは異なる(Nathetal.,Trends in Molecular Medicine,June 2014,Vol.20,Issue 6,p.332-342)。癌細胞では、MUC1は、細胞内シグナル伝達経路に関与し、転写レベル及び転写後レベルの両方においてその標的遺伝子の発現を調整する。
【0009】
しかし、免疫療法及び診断目的においてこの構造の違いを利用するには、免疫系をこれらのTA-MUC1構造に対して特異的に活性化させる必要がある。これは、腫瘍関連MUC1の固有の成分を選択的に表す抗原を模倣する複雑な合成糖ペプチドでのみ達成できる。腫瘍細胞のトランスフェラーゼ活性は、本質的に非常に多様であるため、正常なグリカン及び腫瘍関連グリカンの両方を単一のMUC1分子上で見つけることができ、これにより、上皮腫瘍細胞上で見られるTA-MUC1を特異的に標的とするのに好適である新規化合物の生成が可能になる。
【0010】
米国特許出願公開第2016/0176975号明細書には、S/T残基においてO-グリコシル化されているGSTAモチーフを含む免疫原性糖ペプチドを使用して、TA-MUC1に対する癌特異的免疫応答を誘導するための方法について記載している(STN/TN抗原)。特に、mAb5E5、5E10、1B9、2D9などのモノクローナル抗体が、SM3、BW835などの以前に報告された既知のmAbと比較されている。
【0011】
米国特許第9546201号明細書には、MUC1のオリゴマー化及び核移行を阻害することが示されているMUC1細胞質ドメインの特定の領域からのペプチド、ならびに腫瘍細胞のアポトーシス及び腫瘍組織の壊死をin vivoにおいて誘導することによって腫瘍細胞の成長を防ぐための方法について記載している。オリゴマー阻害ペプチドは、アミノ酸配列CQCRRKNの20以下の連続した残基と、ペプチドのアミノ末端システインをカバーするポリ-D-Rのような細胞送達ドメインを含む。このペプチドは、MUC1を発現する任意の細胞、より具体的にはMUC1を過剰発現する細胞に適用できる。
【0012】
国際公開第2013/185552号には、悪性腫瘍及びウイルス感染症を治療するためのキメラ抗原受容体を開示している。また、中国特許出願公開第107184602号明細書及び中国特許出願公開第103483453号明細書には、腫瘍の治療に使用するためのキメラ抗原受容体について開示している。国際公開第2013/103658号には、ワクチン接種による癌の予防または治療に使用するための、ヒト腫瘍関連(TA)抗原ムチン1(MUC1)からのエピトープを含むペプチドを開示している。
【0013】
しかし、健康な上皮細胞に見られる正常なMUC1と腫瘍組織に見られるTA-MUC1とを特異的に区別できる化合物を得ることが依然として望ましく、これにより、TA-MUC1を発現している腫瘍実体の治療、予防、及び/または診断における臨床応用のための活性剤として好適である/役立つために、高率の腫瘍選択的認識が得られるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許出願公開第2016/0176975号明細書
【文献】米国特許第9546201号明細書
【文献】国際公開第2013/185552号
【文献】中国特許出願公開第107184602号明細書
【文献】中国特許出願公開第103483453号明細書
【文献】国際公開第2013/103658号
【非特許文献】
【0015】
【文献】M.A.Hollingsworth,B.J.Swanson,Nat.Rev.Cancer,2004,4,45-60
【文献】J.Arklie,J.Taylor-Papadimitrious et al.,Int.J.Cancer,1981,28,23-29
【文献】I.Brockhausen et al.,Eur.J.Biochem.,1995,233,607-617
【文献】F.-G.Hanisch et al.,Glycoconjugate J.,1990,7,525-543
【文献】N.Domenech et al.,J.Immunol.,1995,155,4766-4774
【文献】D.Samesetal.,Nature,1997,389,587-559
【文献】B.Liebe,H.Kunz,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1997,36,618-621
【文献】Angew.Chem.,1997,109,629-631
【文献】Merlo,1989
【文献】Kufe,2008
【文献】I.Brockhausenetal.,Eur.J.Biochem.,1995,233,607-617
【文献】S.J.Gendleretal.,J.Biol.Chem.,1990,265,15286-15293
【文献】Nathetal.,Trends in Molecular Medicine,June 2014,Vol.20,Issue 6,p.332-342
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の目的は、健康な上皮細胞に見られるTA-MUC1と正常なMUC1との区別を可能にし、腫瘍関連MUC1を特異的に発現する腫瘍細胞を含む癌の治療、予防及び診断に好適である代替的化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、請求項1に記載のペプチドベースの化合物によって解決される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項の一部である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】α-hu-TA-MUC1を使用したTA-MUC1に対するヒト乳癌生検の組織学的染色を示す図である。A:乳癌の診断のために特異的に染色しているTA-MUC1について、142名の患者由来の乳癌組織切片の集合を調べた。TA-MUC1が強く発現しているヒト乳癌細胞(MCF-7)は、陽性対照として機能させ、健康な腺組織のパラフィン切片及びHR+乳房腫瘍のパラフィン切片を調べた。142の乳癌組織切片及び10の乳腺組織切片の代表的な例を示す。B:TA-MUC1発現と、無転移(MFS)及び無再発(RFS)患者の生存率との相関。染色強度(0=陰性、1=弱い、2=中、3=強い)にMUC1陽性腫瘍細胞率(0=0%、1=1~10%、2=11~50%、3=51~80%、4=81~100%)を乗算した。
図2】α-hu-TA-MUC1による、hu-TA-MUC1に対する乳腺及び乳腺腫瘍の極低温組織切片の免疫組織化学染色を示す図である。hu-TA-MUC1を発現しないPyMT-tgマウスから単離された乳腺腫瘍、huMUC1を発現する無腫瘍MUC1-tgマウスから単離された乳腺組織、及びhu-TA-MUC1を発現するPyMTxhuMUC1マウスから単離された乳腺腫瘍は、AF647N遠赤色蛍光色素(5pg/ml)で標識されたα-hu-TA-MUC1により染色した。
図3】原発腫瘍細胞株からのPyMTxhuMUC1マウス腫瘍細胞がヒトMUC1を発現することを示す図である。PyMTxhuMUC1及びPyMT腫瘍は、ex vivoで単離し、消化させて、単一細胞腫瘍細胞培養物を得た。A:生成されたマウス乳房腫瘍細胞のヒトMUC1発現は、ヒトMUC1発現細胞株(T47D、陽性対照)と比較して、qRT-PCRを介して決定した。B16F10メラノーマ細胞は、陰性対照として機能させた。B:α-hu-TA-MUC1 mAbを使用したFACS分析では、初代PyMTxhuMUC1由来乳房腫瘍細胞株のhu-TA-MUC1タンパク質発現が確認された。
図4】hu-TA-MUC1に対する予防的免疫化による腫瘍サイズの縮小を示す図である。PyMT-tgマウス(n=5)及びPyMTxhuMUC1-tgマウス(n=5)を、14日ごとに10pgのhu-TA-MUC1-糖ペプチド-TToxワクチンにより3回免疫化した。未治療のPyMT-tgマウス(n=5)及び未治療のPyMTxhuMUC1-tgマウス(n=5)は、対照として機能させた。A:20週齢のマウスを屠殺し、腫瘍の大きさを測定した。1匹のマウスのすべての腫瘍のmm2単位の平均サイズを計算した。対応のない両側t検定。**<P0.01、****<P0.0001。B:IgG抗体の最大力価の半分は、3回目の免疫後にELISAを介して決定した。C:異なるIgサブタイプの最大力価の半分は、3回目の免疫後にELISAを介して決定した。マイクロタイタープレートを、ワクチンのTA-MUC1-糖ペプチド部分に対応するhu-TA-MUC1-糖ペプチド-BSAコンジュゲートでコーティングした。hu-TA-MUC1結合抗体のみを定量化した。対応のない両側t検定。****<P0.0001。
図5】hu-TA-MUC1に対する予防的免疫化による乳房腫瘍担持マウスの生存期間の延長を示す図である。PyMTxhuMUC1マウス(n=5)は、14日間隔で10pgのhu-TA-MUC1-糖ペプチド-TToxワクチンにより3回免疫化した。未治療のPyMTxhuMUC1マウス(n=5)は、対照マウスとして機能させた。A:乳房腫瘍担持マウスの健康状態及び行動を観察した。腫瘍サイズが約200mmに達したとき、かつ/または摂食及び生理学的敏捷性が悪影響を受けたときに、マウスを屠殺した。生後の生存日数を表示する。ログランクマンテル・コックス検定;***p<0.001。B:IgG抗体の最大力価の半分は、3回目の免疫後にELISAによって決定した。C:異なるIgGサブタイプ抗体の最大力価の半分は、3回目の免疫後にELISAを介して決定した。マイクロタイタープレートをhu-TA-MUC1-糖ペプチド-BSAコンジュゲートでコーティングした。hu-TA-MUC1結合抗体のみを定量化した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の化合物は、上皮腫瘍細胞上のTA-MUC1の構造を模倣する特定のMUC1由来の糖ペプチドにより免疫化することによって得られ、哺乳動物のTA-MUC1への結合に必要な特定の結合部位を含む1つ以上のポリペプチド配列を含む。驚くべきことに、本発明で同定される結合部位は、TA-MUC1に特異的であるが、健康な上皮組織に見られる正常なMUC1には特異的ではない。したがって、本発明の化合物は、TA-MUC1を発現する腫瘍細胞と正常なMUC1を発現する健康な細胞とを区別するのに好適である。本発明の化合物の結合部位は、結果的にTA-MUC1特異的マウスmAbを生成する免疫原性ワクチンを使用することによって同定した。1つのmAbの結合部位及び結合領域のアミノ酸配列が同定されており、本明細書では、配列番号1~配列番号6として定義する。
【0020】
哺乳動物のTA-MUC1、好ましくはヒトのTA-MUC1(hu-TA-MUC1)への結合に特異的な結合部位を含むポリペプチドベースの化合物は、
-GFTFSDYW(配列番号1)、IRLKSNNYAA(配列番号2)及びTFGNSFAY(配列番号3)からなる群から選択される少なくとも3つの異なるアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド配列と、
-TGAVTTNNY(配列番号4)、GTN(配列番号5)及びALWYSNHWV(配列番号6)からなる群から選択される、少なくとも3つの異なるアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド配列と、を含み、
または配列番号1~配列番号6のアミノ酸配列のうちのいずれか1つのバリアントは、1つ以上の位置に異なるアミノ酸を有し、
化合物またはバリアントは、TA-MUC1に結合することができる。
【0021】
したがって、TA-MUC1に結合するための結合部位を担持している第1のポリペプチド配列の配列番号1~配列番号3のアミノ酸配列は、以下の形態で配置することができる:
GFTFSDYW(配列番号1)-IRLKSNNYAA(配列番号2)-TFGNSFAY(配列番号3)、
GFTFSDYW(配列番号1)-TFGNSFAY(配列番号3)-IRLKSNNYAA(配列番号2)、
IRLKSNNYAA(配列番号2)-TFGNSFAY(配列番号3)-GFTFSDYW(配列番号1)、
IRLKSNNYAA(配列番号2)-GFTFSDYW(配列番号1)-TFGNSFAY(配列番号3)、
TFGNSFAY(配列番号3)-GFTFSDYW(配列番号1)-IRLKSNNYAA(配列番号2)、
TFGNSFAY(配列番号3)-IRLKSNNYAA(配列番号2)-GFTFSDYW(配列番号1)。
【0022】
同様に、哺乳動物のTA-MUC1、好ましくはhu-TA-MUC1への結合に必要なさらなる結合部位を担持している第2のポリペプチド配列の配列番号4~配列番号6のアミノ酸配列は、以下の形態で配置することができる:
TGAVTTNNY(配列番号4)-GTN(配列番号5)-ALWYSNHWV(配列番号6)、
TGAVTTNNY(配列番号4)-ALWYSNHWV(配列番号6)-GTN(配列番号5)、
GTN(配列番号5)-TGAVTTNNY(配列番号4)-ALWYSNHWV(配列番号6)、
GTN(配列番号5)-ALWYSNHWV(配列番号6)-TGAVTTNNY(配列番号4)、
ALWYSNHWV(配列番号6)-TGAVTTNNY(配列番号4)-GTN(配列番号5)、
ALWYSNHWV(配列番号6)-GTN(配列番号5)-TGAVTTNNY(配列番号4)。
【0023】
本発明は、アミノ酸配列内の1つ以上の位置に、1つ以上のアミノ酸置換を含む、配列番号1~配列番号6で定義された、アミノ酸配列のうちのいずれか1つのバリアントを含む。しかし、本発明は、哺乳動物のTA-MUC1、好ましくはhu-TA-MUC1に結合することができるバリアントのみを対象とし、したがって、本発明の化合物の結合特異性を保持する。バリアントはまた、ヒト相同配列など、異なる哺乳動物種の対応する結合領域内に見られる配列番号1~配列番号6に相同であるアミノ酸配列を含み得る。
【0024】
配列番号1~配列番号6のアミノ酸配列のうちのいずれか内での1つ以上の位置に、異なるアミノ酸を有することは、より多くの1、2、3またはそれ以上のアミノ酸が、置換、付加、欠失または修飾のいずれかにより、配列番号1~配列番号2に概説される配列とは異なる可能性があることを意味する。好ましくは、そのようなバリアントにおいて、所与のアミノ酸配列内の1、2、3または4個のアミノ酸は、1つ以上の代替アミノ酸によって置換されている。好ましい実施形態では、3以下、好ましくは2以下のアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている。
【0025】
本発明によるバリアントは、配列番号1~配列番号6のうちのいずれか1つの選択されたアミノ酸配列と、少なくとも70%の正のアミノ酸一致、より好ましくは少なくとも90%の正のアミノ酸一致、例えば、91%~99%の正のアミノ酸一致を有するアミノ酸配列を含み得る。正のアミノ酸一致は、類似の物理的、生物学的及び/または化学的特性を有するアミノ酸残基の2つの比較された配列において、同じ位置で存在しているものとして定義される。置換に使用できる好ましい正のアミノ酸一致は、KからR、EからD、LからM、QからE、IからV、IからL、AからS、YからW、KからQ、SからT、NからS、及びQからRである。本発明のペプチドまたはバリアントは、腫瘍細胞において哺乳動物のTA-MUC1に特異的に結合するが、正常細胞に見られる正常なMUC1には結合しない能力を有することが必要である。
【0026】
本発明による化合物またはバリアントはまた、ホスホリル、硫黄、アセチル、またはグリコシル部分など、他の化学部分を含み得る。したがって、所与のアミノ酸配列は、例えば、1つ以上のアミノ酸残基の付加、欠失、置換または化学修飾によって修飾され得る。このような修飾には、L-アミノ酸及びD-アミノ酸の両方が使用され得る。可能な化学修飾は、糖またはエステル、例えばメチルまたはアセチルエステルなどの誘導体、またはポリエチレングリコール修飾を含み得る。さらに、ペプチドのアミン基は、脂肪酸を含むアミドに変換され得る。本発明のペプチドまたはバリアントはまた、そのC末端でのビオチンによって、またはそのN末端でのHisタグによって修飾され得る。
【0027】
本発明によれば、アミノ酸配列のバリアントは、互いに独立している1つ以上の保存的アミノ酸置換を含み得、
(i)このバリアントの少なくとも1つのグリシン(Gly)が、Ala、Val、Leu、及びlieからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(ii)このバリアントの少なくとも1つのアラニン(Ala)が、Gly、Val、Leuからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(iii)このバリアントの少なくとも1つのバリン(Val)が、Gly、Ala、Leu、及びlieからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(iv)このバリアントの少なくとも1つのロイシン(Leu)が、Gly、Ala、Val、及びlieからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(v)このバリアントの少なくとも1つのイソロイシン(lie)が、Gly、Ala、Val、及びLeuからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(vi)バリアントの少なくとも1つのアスパラギン酸(Asp)が、Glu、Asn、及びGinからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(vii)バリアントの少なくとも1つのアスパラギン(Asn)が、Asp、Glu、及びGinからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(viii)バリアントの少なくとも1つのグルタミン(Gin)が、Asp、Glu、及びAsnからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(ix)バリアントの少なくとも1つのフェニルアラニン(Phe)は、Tyr、Trp、His、Proからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸、好ましくはTyr及びTrpからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(ix)バリアントの少なくとも1つのチロシン(Tyr)は、Phe、Trp、His、Proからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸、好ましくはPhe及びTrpからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(xi)このバリアントの少なくとも1つのアルギニン(Arg)は、Lys及びHisからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(xii)このバリアントの少なくとも1つのリジン(Lys)が、Arg及びHisからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(xiii)バリアントの少なくとも1つのプロリン(Pro)が、Phe、Tyr、Trp、及びHisからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、
(xiv)バリアントの少なくとも1つのシステイン(Cys)が、Asp、Glu、Lys、Arg、His、Asn、Gin、Ser、Thr、及びTyrからなるアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換されている。
【0028】
したがって、上記から、本発明の化合物の同じバリアントは、本明細書において上記に定義された保存アミノ酸の複数のグループ由来の複数の保存的または相同アミノ酸置換を含み得るということになる。
【0029】
保存的アミノ酸置換は、本発明のポリペプチド配列の任意の位置に導入することができる。しかし、非保存的置換、これらに限定されないが、特に1つ以上の位置に非保存的置換を導入することが望ましい場合もある。アミノ酸の置換は、それらの疎水性及び親水性の値、ならびにサイズ及び電荷などのアミノ酸側鎖置換基の相対的類似性に基づいて行われ得る。
【0030】
保存的アミノ酸の群は、それらの既知の化学的性質に応じて、好ましくは以下のものである:
(i)A、G;(ii)Q、N、S、T;(iii)E、D;(iv)Q、N、S、T;(v)H、K、R;(vi)L、P、I、V、M、F、Y、W。
【0031】
本発明の文脈では、アミノ酸残基の標準的な1文字コードならびに標準的な3文字コードが適用される。アミノ酸の略語は、IUPAC-IUB Joint Commission on Biochemical Nomenclature Eur.J.Biochem,1984,vol.184,pp9-37の推奨事項に準拠している。説明及び特許請求の範囲全体を通して、天然アミノ酸の3文字コードまたは1文字コードのいずれかが使用されている。L型またはD型が特定されていない場合、問題のアミノ酸は天然のL型(Pure&Appl.Chem.Vol.56(5)pp595-624(1984)参照)またはD型を有するものと理解されるものとする。そのため、形成されるペプチドは、L型、D型のアミノ酸、または混合されたL型とD型の配列から構成され得る。
【0032】
ペプチドのC末端アミノ酸は通常、遊離カルボン酸として存在し、これは「-OH」としても指定され得る。しかし、本発明に従って使用するためのペプチドのC末端アミノ酸はまた、「-NH-2」として指定されるアミド化誘導体であり得る。他に記載されていない場合、ポリペプチドのN末端アミノ酸は、「H-」としても指定されることもある遊離アミノ基を含む。本発明によるペプチド、断片またはそのバリアントはまた、1つ以上の非天然アミノ酸または修飾された天然アミノ酸を含み得る。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、哺乳動物TA-MUC1、好ましくはhu-TA-MUC1を結合するための結合部位を含む異なるアミノ酸配列が、本発明の化合物において以下のように配置される:
-構造A1-x-A2-y-A3を含む第1のポリペプチド配列であって、
A1は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、
A2は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含み、
A3は、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み、x、yは、0以上の連結アミノ酸であり;
-構造A4-x-A5-y-A6を有する第2のポリペプチド配列であって、
A4は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含み、
A5は、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含み、
A6は、配列番号6に記載のアミノ酸配列を含み、x、yは、0以上の連結アミノ酸であり;
または配列番号1から配列番号6のアミノ酸配列のうちのいずれか1つのバリアントは、1つ以上の位置に異なるアミノ酸を有する。本発明によれば、化合物またはバリアントは、TA-MUC1に結合することができる。
【0034】
連結アミノ酸xまたはyは、様々な長さのランダムアミノ酸であり得る。xまたはyの典型的な長さは15~70のアミノ酸であるが、75以下のアミノ酸であることが好ましい。xまたはyが0である場合、これは、配列番号1~配列番号6のアミノ酸配列で定義されているTA-MUC1結合部位を接続するための連結アミノ酸が存在しないことを意味する。
【0035】
第1のポリペプチド配列の好ましい実施形態では、xは、アミノ酸配列MNWVRQSPEKGLEWVADを示し、またはそのアミノ酸配列のバリアントが、1つ以上の位置に異なるアミノ酸を有する。第1のポリペプチド配列の好ましい実施形態では、yは、アミノ酸配列HYAESVKGRFTVSRDDSKSSVYLQMNNLRTEDTGFYYCを示し、またはそのアミノ酸配列のバリアントが、1つ以上の位置に異なるアミノ酸を有する。
【0036】
第2のポリペプチド配列の好ましい実施形態において、xは、アミノ酸配列ANWVQEKPDHLFTGLIGを示し、またはそのアミノ酸配列のバリアントが、1つ以上の位置に異なるアミノ酸を有する。第2のポリペプチド配列の好ましい実施形態では、yは、アミノ酸配列NRGPGVPARFSGSLIGDKAALTITGAQTEDEAIYFCを示し、またはそのアミノ酸配列のバリアントが、1つ以上の位置に異なるアミノ酸を有する。
【0037】
他の種に見られる相同結合配列を含む本発明のすべてのバリアントは、哺乳動物のTA-MUC1、好ましくはhu-TA-MUC1を認識して結合する生物学的活性を有するものとする。
【0038】
好ましい実施形態では、第1のポリペプチド配列及び少なくとも1つの第2のポリペプチド配列は、追加のリンカーによって共有結合される。
【0039】
好ましくは、リンカーは、S及びGからなる群から選択される1~25のアミノ酸の1つ以上のアミノ酸を含む。したがって、リンカーは、例えばSGGGGSの形態で、アミノ酸S及びGに富んでいる。しかし、リンカーはまた、配列内またはその末端に1つ以上の異なるアミノ酸を含み得る。
【0040】
好ましくは、本発明の化合物は、タンパク質、抗体、一本鎖断片可変(scFv)またはハイブリッド融合タンパク質である。ハイブリッド融合タンパク質は、酵素、抗体(断片)、またはサイトカインなどの別のタンパク質に結合した本発明の化合物であり得る。
【0041】
好ましい実施形態では、本発明の化合物は、89Zrまたは117Luで標識することができる。89Zrは、TA-MUC1を発現する癌組織を検出するための分析イメージングに好適である。117Luは、この化合物が腫瘍細胞を破壊できるが、周囲の健康な組織を免じるため、腫瘍治療のベータラジエーターとして好適である。
【0042】
本発明の化合物を精製するために、化合物をヒスチジンタグまたはビオチンに結合させることができる。本発明の化合物のTA-MUC1への結合を検証するために、ストレプトアビジンタグまたは発光または蛍光色素を使用できる。この化合物は、分析対象の組織内の腫瘍細胞を検出するために、アルカリホスファターゼなどの酵素と結合させることもできる。本発明の化合物の結合の特異性を高めるために、ナノ粒子を腫瘍標的化に使用することができる。
【0043】
好ましい実施形態では、本発明の化合物は、CD3+T細胞をTA-MUC1発現腫瘍細胞と結合させるために、CD3またはCD3mAbの誘導体に、例えば、CD3-scFvの形態で結合することができる。CD3を本発明の化合物に結合することにより、例えば、細胞傷害性T細胞による腫瘍細胞溶解を有意に改善できる。
【0044】
好ましくは、本発明の化合物は、15~100kDa、より好ましくは25~50kDaの分子量を有する。小さい化合物は、立体障害が少ないためにTA-MUC1への結合を妨げることがないため、好ましい。
【0045】
好ましくは、本発明の化合物は、抗体またはscFvなどの抗体断片であり、第1のポリペプチド配列は、抗体の重鎖(VH)の可変領域の一部であり、第2のポリペプチド配列は、抗体または抗体断片の軽鎖(VL)の可変領域の一部である。
【0046】
本発明の好ましいタンパク質化合物では、第1のポリペプチド配列は、配列番号7に記載のアミノ酸配列を含み、第2のポリペプチド配列は、配列番号8に記載のアミノ酸配列を含み、または配列番号7または配列番号8のアミノ酸配列のうちのいずれか1つのバリアントは、1つ以上の位置に異なるアミノ酸を有し、バリアントは、哺乳動物のTA-MUC1、好ましくはhu-TA-MUC1に結合することができる。
【0047】
好ましくは、第1及び第2のポリペプチド配列は、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含むか、または1つ以上の位置に異なるアミノ酸を有する配列番号9のアミノ酸配列のバリアントを含むポリペプチドの一部であり、バリアントは、腫瘍関連MUC1に結合することができる。
【0048】
次の実施例に示すように、配列番号1~配列番号3のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド配列及び配列番号4~配列番号6のアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド配列から構成されているタンパク質は、腫瘍組織内での表面結合TA-MUC1の認識に好適であるが、MUC1を発現している健康な組織においては好適ではない。したがって、本発明の化合物は、癌組織と、異なってグリコシル化されたMUC1サブタイプを発現する正常組織とを区別するのに好適である。以下の実施例はまた、本発明の化合物を誘導するために適用される抗腫瘍ワクチンによるhu-TA-MUC1に対する予防的免疫化によって腫瘍サイズを縮小できることを例解している。したがって、本発明の化合物は、異常にグリコシル化されたTA-MUC1を発現することを特徴とする癌の予防または治療に好適である。
【0049】
したがって、本発明はまた、上記のような化合物、及び任意により薬学的に好適な担体、ビヒクル、溶媒または剤を含む医薬組成物に関する。本発明はまた、TA-MUC1発現腫瘍細胞を特徴とする癌の予防、治療または検出に使用するための本発明の化合物に関する。好ましくは、本発明の化合物によって治療または予防される癌は、膵癌、前立腺癌、乳癌、B細胞白血病、多発性骨髄腫、結腸癌、及び卵巣癌からなる群から選択される。本明細書に例示されるように、第1及び第2のポリペプチド鎖の結合部位を含むタンパク質構築物は、哺乳動物のTA-MUC1、好ましくはhu-TA-MUC1に結合することができ、MUC1発現上皮癌の診断及び治療に好適である。
【0050】
化合物内に結合部位が存在することは、化合物の哺乳動物TA-MUC1の認識及び結合には十分である。したがって、本発明は、配列番号1~配列番号6のアミノ酸配列、または哺乳動物のTA-MUC1、好ましくはhu-TA-MUC1に結合することができる他の種に由来するその相同体を含む任意の化合物を含む。
【0051】
本発明は、以下の実施例においてさらに説明される。
【0052】
構築物
本発明の化合物の有益な治療及び診断効果は、hu-TA-MUC1(=α-hu-TA-MUC1)の結合部位を担持し、以下の組成を有するタンパク質構築物を用いて試験を行った:
試験化合物の第1のポリペプチド配列は、アミノ酸配列EVKLEESGGGLVQPGGSMKLSCVASGFTFSDYWMNWVRQSPEKGLEWVADIRLKSNNYAAHYAESVKGRFTVSRDDSKSSVYLQMNNLRTEDTGFYYCTFGNSFAYWGQGTLVTVSA(配列番号7)を含む。
【0053】
アミノ酸配列番号1(GFTFSDYW)、配列番号2(IRLKSNNYAA)及び配列番号3(TFGNSFAY)に対応する第1のポリペプチド配列の結合部位には、下線を引いた。
【0054】
試験化合物の第2のポリペプチド配列は、
QAVVTQESALTTSPGETVTLTCRSSTGAVTTNNYANWVQEKPDHLFTGLIGGTNNRGPGVPARFSGSLIGDKAALTITGAQTEDEAIYFCALWYSNHWVFGGGTKLTVL(配列番号8)のアミノ酸配列を含む。
【0055】
アミノ酸配列番号4(TGAVTTNNY)、配列番号5(GTN)及び配列番号6(ALWYSNHWV)に対応する第2のポリペプチド配列の結合部位には、下線を引いた。
【0056】
得られる化合物は、配列番号1~配列番号6(下線付き)の結合部位を含む以下のアミノ酸配列を含むscFvである:
EVKLEESGGGLVQPGGSMKLSCVASGFTFSDYWMNWVRQSPEKGLEWVADIRLKSNNYAAHYAESVKGRFTVSRDDSKSSVYLQMNNLRTEDTGFYYCTFGNSFAYWGQGTLVTVSAGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSQAVVTQESALTTSPGETVTLTCRSSTGAVTTNNYANWVQEKPDHLFTGLIGGTNNRGPGVPARFSGSLIGDKAALTITGAQTEDEAIYFCALWYSNHWVFGGGTKLTVL(配列番号9)。
【0057】
配列番号9のアミノ酸配列の最後のロイシン(L)の後に、精製のための及びマーカーとしてのヒスチジンタグ(HHHHHH)及び/またはストレプトアビジンIIタグ(WSHPQFEK)を続けることができる。
【0058】
第1及び第2のポリペプチド配列内の結合部位は、リンカーアミノ酸によって接続されている。α-hu-TA-MUC1の生成に使用されるアミノ酸配列は、マウス配列に由来する。
【0059】
結果
図1には、TA-MUC1に対するヒト乳癌生検の組織学的染色を示す。mAbは、上記の構築物(α-hu-TA-MUC1)の下にある。ヒトHR+乳癌組織の142切片及びヒト乳房上皮組織の10切片をα-hu-TA-MUC1により染色した。α-hu-TA-MUC1による健康な組織の治療は、いずれの場合も無色であった。対照的に、すべての乳癌組織切片は、α-hu-TA-MUC1で明確に染色できた。乳癌組織切片の染色の正確な分析により、染色の強度に応じて、2つの集団を区別できることが明らかになった。したがって、TA-MUC1発現の強さ(染色強度)と無転移(MFS)及び無再発患者(RFS)の生存率との間に相関関係が確立された。患者の累積生存率の分析は、TA-MUC1発現のレベルと明らかに相関していた。腫瘍マーカーが多く発現している場合は、有意に悪い生存率となった。免疫組織学的分析により、合成乳癌ワクチンの抗原として使用されたTA-MUC1-糖ペプチドの高い特異性が確認された。In vivoでのこれらのワクチンの治療効果を評価するために、前臨床乳癌マウスモデルを確立した。
【0060】
PyMTトランスジェニック(PyMT-tg)マウスは、ヒト乳癌を治療するための治療戦略の開発に非常に好適である前臨床腫瘍モデルである。形態学的類似性及び不良な結果(Her2/neuの過剰発現、エストロゲン及びプロゲステロン受容体の喪失)に関連するバイオマーカーの発現は、ヒトのものと一致している。huMUC1-tgマウス(C57BL/6-TG(MUC1)79.24GEND/J)を、すべての上皮細胞でhuMUC1を発現し、生後14週間で攻撃的な触知可能な乳腺腫瘍(乳房腫瘍)を発症するPyMT-tgマウスと交差させることにより、本発明者らは、すべてのヒト上皮性乳癌の90%など、hu-TA-MUC1を発現する前臨床乳癌モデルを開発することができた。このモデルは、hu-TA-MUC1を標的とする能動免疫療法を確立して、乳癌を治療する可能性を提供し、臨床現場において同じまたは類似の戦略を適用する機会を提供する。TA-MUC1などの改変された自己抗原をワクチン接種の標的として使用することに関する主な障害は、自己免疫反応である。論理的には、誘導された血清抗体による健康な組織への非特異的結合は、排除する必要がある。したがって、以下の予防的ワクチン接種研究において使用されたものと同じワクチンの助けにより、最初に生成されたmAb、α-hu-TA-MUC1の結合は、蛍光顕微鏡により腫瘍のないhuMUC1-tgマウスの健康な乳腺組織を使用して確認した。健康な乳腺上皮組織、すなわち完全にグリコシル化されたhuMUC1、及びhuMUC1を発現しないPyMT-tgマウスの乳房腫瘍細胞への結合は検出できなかった。しかし、PyMTxhuMUC1-tgマウスの乳房腫瘍組織へのα-hu-TA-MUC1の強い結合が観察され、huMUC1の腫瘍特異的バリアントがこうしたマウスの乳房腫瘍細胞から発現したことが示されている(図2を参照されたい)。
【0061】
PyMTxhuMUC1-tgマウスの乳房腫瘍細胞におけるhu-TA-MUC1の発現を証明した後、予防的ワクチン接種研究のための移植可能な乳房腫瘍モデルを開発するために、原発腫瘍細胞株を樹立した。陰性対照として、hu-TA-MUC1を発現しなかったPyMT担癌マウス由来の原発腫瘍細胞株を並行して樹立した。PyMTxhuMUC1及びPyMT原発腫瘍細胞株に由来する原発腫瘍細胞のhuMUC1発現をqRT-PCRにより比較分析し、hu-TA-MUC1-糖タンパク質の表面発現をohu-TA-MUC1を使用したFACS分析によって決定した。
【0062】
図3Aは、ヒト乳癌細胞(T47D)及びヒト乳腺上皮細胞(HMEC)における発現と比較した、PyMTxhuMUC1細胞におけるhuMUC1 mRNAの発現を示しており、後者は完全にグリコシル化されたMUCを発現する。huMUC1 mRNAの最も強い発現は、T47D細胞で見られ、PyMTxhuMUC1細胞がそれに続いた。健康な乳房上皮細胞株HMECでは、huMUC1 mRNAの発現がはるかに少なく、癌細胞ではhuMUC1が過剰発現していることを示している。PyMT-tgマウス由来の腫瘍細胞(PyMT細胞)では、陰性対照として選択されたマウスB16F10メラノーマ細胞と同様に、huMUC1mRNAは発現しない。α-hu-TA-MUC1 mAbはかなりの量のPyMTxhuMUC1乳房腫瘍細胞に結合したが、PyMT乳房腫瘍細胞を認識することはできず、これは、PyMTxhuMUC1細胞でのhu-TA-MUC1-糖タンパク質の排他的発現を示している(図3Bを参照されたい)。
【0063】
十分に制御された前臨床自発性乳癌モデルの助けによる次のアプローチでは、発明者らは、予防的ワクチン接種により、hu-TA-MUC1を発現する新たに現われた乳房腫瘍を拒絶するのに十分強力な免疫系の動員につながるかを最初の試みで調査してみた。この意味で、PyMTxhuMUC1マウス及びPyMT-tgマウスを2週間間隔で3回、合成ワクチンで免疫化した。
【0064】
最後の免疫から5日後、血液サンプルを採取し、抗体力価及びアイソタイプを決定した。腫瘍の進行は、3日ごとに監視した。腫瘍のサイズは、楕円形のため、長さx幅(mm2)で測定した。
【0065】
図4Aは、免疫化されたPyMTxhuMUC1-tgマウスでは、免疫化されていないPyMTxhuMUC1-tgマウスよりも有意に小さい腫瘍が発生したことを示している。対照的に、免疫化されたPyMT-tgマウスでは、未治療のPyMT-tgマウスと比較して、腫瘍の減少が示されなかった。
【0066】
ワクチン接種されたマウスはすべて、3回目のワクチン接種後に同様のhu-TA-MUC1-糖ペプチド特異的抗体力価を示したが(図4Bを参照)、誘発された体液性免疫応答は、PyMTxhuMUC1-tgマウスでのみ有意な腫瘍減少効率を示した。アイソタイプ抗体の分析(図4Cを参照)により、中程度のlgG2b力価が生じたことが確認された。
【0067】
免疫化されたPyMT-tgマウスと比較して、免疫化されたPyMTxhuMUC1-tgマウスでは、おそらくPyMTxhuMUC1ダブルtgマウスにおける残存T細胞耐性の結果として、IgM力価のわずかな上昇を示した。それにもかかわらず、自己免疫反応がない場合に全体的に強い体液性免疫応答が観察され、これにより、huMUC1-tgマウスにおけるこれまでのワクチン接種研究の結果が確認された。
【0068】
追加の実験において、本発明者らは、予防的ワクチン接種による腫瘍減少と生存時間との間の相関関係を調査した。この目的のために、PyMTxhuMUC1-tgマウスは、生後6週齢から3回免疫化した。最後の免疫から5日後に血液サンプルを採取して、IgG力価及び抗体アイソタイプを決定した。未治療のPyMTxhuMUC1-tgマウスを対照として使用した。倫理的ガイドラインに従って動物の生存が厳しく制限された場合、マウスを屠殺した。
【0069】
図5Aは、予防的ワクチン接種された乳癌担持マウスが、未治療マウスよりも約13日長く生存したことを示している。総IgG力価(図5Bを参照)及びアイソタイプ力価(図5Cを参照)のELISA分析では、前の実験の結果と一致して、hu-TA-MUC1に対する強力かつ特異的な体液性免疫応答の誘導を示した(図4を参照)。免疫化されていない担癌マウスの血清は、いかなるhu-TA-MUC1-糖ペプチド抗体の力価も、MUC1発現T47Dヒト乳癌細胞株またはPyMTxhuMUC1原発腫瘍細胞株への結合も示さなかった(データは示さず)。
【0070】
化合物内に結合部位が存在することは、化合物の哺乳動物TA-MUC1の認識及び結合には十分である。同様の結果が、配列番号1~配列番号6のアミノ酸配列を担持する他の化合物、または哺乳動物、好ましくはヒトTA-MUC1に結合することができる他の種からのその相同体で得られた。
【0071】
結論
データは、α-hu-TA-MUC1が生物学的及び薬学的に有効な化合物であり、正常な上皮細胞では見られないが、腫瘍細胞に見られるように、hu-TA-MUC1に結合することによって腫瘍組織を特異的に検出するのに好適であることを示している。本発明の6つの結合部位を担持する化合物では、組織サンプル内での腫瘍組織の選択的検出が可能になる。データはまた、乳房腫瘍によって示されるように、α-hu-TA-MUC1が上皮腫瘍の治療に好適であることを示している。予防的免疫化により、乳房腫瘍に罹患した患者の生存が延長する。したがって、本発明のタンパク質化合物は、乳癌、膵癌、前立腺癌、B細胞白血病、多発性骨髄腫、結腸癌または卵巣癌などのTA-MUC1を発現する癌の治療、予防及び/または診断に好適である。したがって、TA-MUC1を発現する任意の腫瘍細胞は、配列番号1~配列番号6に定義される6つの同定された結合部位を担持している本発明の化合物の有効な標的である。本発明者らのデータは、乳癌患者において、高いTA-MUC1レベルが、改善された全生存(MFS、RFS)と負の相関関係にあることを示している。
【0072】
したがって、データは、本発明の化合物を誘導するワクチンに基づく免疫化戦略が、乳房腫瘍の進行及び転移を阻害する効力を有することを明確に示している。
【0073】
材料及び方法
ヒト乳癌生検の組織学的染色
アジュバント療法においてタモキシフェンによる治療を受けた患者の142のホルモン受容体陽性(HR+)乳癌組織のパネルを、診断ツールとして、α-hu-TA-MUC1を使用してTA-MUC1の発現について調べた。サンプルをα-hu-TA-MUC1(1pg/ml)で染色し、さらに二次抗体としてビオチン化ヤギ抗マウス抗体により染色し、SA-HPOとの発色反応を加えた。TA-MUC1を強く発現するヒト乳癌細胞(MCF-7)は、陽性対照として機能させ、健康な腺組織のパラフィン切片及びHR+乳房癌腫瘍のパラフィン切片を調べた。さらに、TA-MUC1の発現の大きさは、Sinnet PR et al.(Sinnet PR et al.,Comparative Study on The Diagnostic Accuracy of The Ripasa Score Over Alvarado Score In The Diagnosis of Acute Appendicitis Jebmh.2016;3(80):4318-21)のスコアリングシステムに従って、転移に対する累積生存率(MFS)及び無再発(RFS)生存率の相関関係においてスコアリングした。
ヒトMUC1発現前臨床乳癌マウスモデル
【0074】
C57BL/6-TG(MUC1)79.24GEND/Jマウス(略称:huMUC1-tg、The Jackson laboratory)は、すべての上皮細胞上でヒトMUC1遺伝子を発現し、乳癌モデル株PyMTのマウスと交差させる。乳癌抗原及びhuMUC1導入遺伝子に陽性の雌マウス(PyMTxhuMUC1-tg)は、14週間後のヒト乳癌ステージIVに匹敵するhu-TA-MUC1を発現するいくつかの乳腺腫瘍(マウスあたり4~5つの腫瘍)を発症する。
Hu-TA-MUC1-糖ペプチド-TToxワクチン
【0075】
ヒト乳癌細胞上の特定のMUC1グリカンパターンを標的とする合成MUC1由来糖ペプチドワクチンを生成して、α-hu-TA-MUC1を生成した。糖ペプチド部分は、huMUC1のVNTR領域からの22merのアミノ酸配列を表す。これには、2つの免疫優性モチーフAPDTRP配列及びSTAPPA配列を含む。STAPPAモチーフの17位のセリンは、STN炭水化物抗原でグリコシル化された。合成hu-TA-MUC1-糖ペプチドは、ヒトにおいて強力なヘルパーT細胞特異的免疫応答を誘導することが公知である破傷風トキソイド(TTox)担体タンパク質に結合した。合成ワクチンをPBSに溶解し、不完全フロイントアジュバント(IFA、Sigma Aldrich)で乳化させた(比率1:1)。1回の免疫に対して、各マウス10pg/40mlのエマルジョンを腹腔内(i.p.)注射した。
【0076】
蛍光顕微鏡法-ex vivoでのマウス乳房腫瘍組織へのα-hu-TA-MUC1の結合
上記のPyMTxhuMUC1-tgマウスを予防的ワクチン接種研究の前臨床乳癌モデルとして確立するために、PyMTxhuMUC1-tgマウスの腫瘍組織を最初に、hu-TA-MUC1-糖タンパク質の発現に関して試験した。この目的のために、蛍光標識されたα-hu-TA-MUC1(AF647N:遠赤色蛍光色素)の結合を蛍光顕微鏡により試験した。腫瘍をex vivoで除去し、液体窒素で凍結し、組織切片を調製した。切片をスライドに移し、DAPI(1/1000)及びAF647N-α-hu-TA-MUC1(5pg/ml)により染色し、3回洗浄し、カバーガラスに載せた。huMUC1-tgマウスの乳腺切片及びPyMT-tgマウスの腫瘍切片を対照として使用した。DMi8顕微鏡及びZeissLSM510METAレーザー走査型顕微鏡を備えた共焦点顕微鏡LEICATCS SP8を使用して、蛍光画像を得た。
PyMTxhuMUC1-tg及びPyMT-tgマウスからex vivoで単離され
【0077】
た腫瘍を使用した一次細胞株の生成
予防的ワクチン接種後の乳房腫瘍の成長を詳細に監視することを目的として、本発明者らは、PyMTxhuMUC1-tgマウスの腫瘍に由来する原発腫瘍細胞株を生成した。この目的のために、腫瘍組織を抽出し、コラゲナーゼA(Roche、2mg/ml)及びRQ1DNAse(Promega,1:2000)で消化させ、IMDM+10%FCS+1%グルタミン+1%ピルビン酸ナトリウムで培養した。PyMTxhuMUC1腫瘍細胞及びPyMT細胞は、6週間後に採取した。huMUC1の発現の試験は、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によって行い、α-hu-TA-MUC1の結合の試験は、FACS分析によって両方の細胞株のhu-TA-MUC1-糖タンパク質に対して行った(以下を参照のこと)。
【0078】
qRT-PCR及びFACS分析によるPyMTxhuMUC1腫瘍細胞によるhuMUC1の発現の決定
qRT-PCR:
RT-2x10の腫瘍細胞のトータルRNAは、TRIzol試薬(Invitrogen(登録商標)、Life technologies,Carlsbad,CA)を製造業者の指示に従って使用して調製した。RNAの濃度及び品質は、測光(Eppendorf BioPhotometer plus)により測定した。逆転写は、MMLV逆転写酵素(Thermo Scientific,Dreieich,Germany)を製造業者の指示に従って使用し、qRT-PCRデータは、5xHot Start Taq EVA Green(rock非含有)ミックス(Axon,Kaiserslautern,Germany)をMylQ iCycler(Biorad,Munich,Germany)内で用いて、データ分析用に提供されたソフトウェア(Bio-Rad iQ5 Standard Version2.0)を用いて、以下のプライマーにより得た:huMUCI:5’-GTGCCCCCTAGCAGTACCG-3’、rev:5’-GACGTGCCCCTACAAGTTGG-3’、及び参照遺伝子として:EF-1a:5’-TGGATGCTCCAGGCCATAAGGA-3’、rev:5’-TGCTCTCGTGTTTGTCCTCCAG-3。ヒト乳癌細胞株T47D及びヒト乳腺上皮細胞株(HMEC)は、huMUC1発現の陽性対照として機能させた。B16F10マウスメラノーマ細胞株は、huMUC1発現の陰性対照として機能させた。
【0079】
FACS分析:
2x105 PyMTxhuMUC1及びPyMT腫瘍細胞を、それぞれ1pg/ml α-hu-TA-MUC1と共に4℃で20分間インキュベートした。細胞を100mlのPBSで2回洗浄し、次に、二次抗体ヤギ-α-マウス-lgG Alexa Fluor488(PBS中で1:1000希釈)及び固定可能な生存性色素eFluor780(PBS中で1:1000希釈)と共に4℃で20分間インキュベートし、偽陽性死細胞を排除した。再度細胞を100mlPBSで2回洗浄した。次に、細胞を100mlのPBSに取り込み、BD Biosciences FACS LSRIIマシンで分析した。各サンプルについて、10個の細胞を分析した。
【0080】
hu-TA-MUC1-糖ペプチド-TToxワクチンの投与による自然発生乳房腫瘍を発症しているトランスジェニックマウスのワクチン接種
PyMTxhuMUC1-tg及びPyMT-tgマウス(後者は対照)を、6週齢から開始して、2週間間隔で3回免疫化した(i.p.10pg/40ml)。各ワクチン接種の5日後、尾静脈から血液を採取し、そこから血清を採取した。誘導された抗体の抗体力価及びアイソタイプ力価は、ELISAによって決定した(1回目及び2回目の免疫化のデータは示されていない)。免疫化されたマウス及び未治療のマウスは、20週間後に屠殺し、すべての腫瘍を単離し、ノギスにより定量化した。腫瘍が楕円形であり、波状の表面であるため、長さx幅を計算した(mm)。いずれのPyMTxhuMUC1-tg及びPyMT-tgマウスも、4~5個の乳腺腫瘍を発症した。腫瘍サイズは、各マウスの腫瘍数の平均として示す。未治療のPyMTxhuMUC1-tgマウスと比較した免疫化されたPyMTxhuMUC1-tgマウスの生存は、生後数日に得られた。マウスの生存は、倫理的ガイドラインに従って監視した。
【0081】
ELISAによるhu-TA-MUC1特異的抗体力価及び抗体アイソタイプの分析
hu-TA-MUC1-糖ペプチド特異的誘導抗体のIgG力価を分析するために、ELISAを適用した。96ウェルプレート(NuncMaxiSor(登録商標)平底)を、37℃でhu-TA-MUC1-糖ペプチド-BSAコンジュゲート(2.5pg/ml)/コーティング緩衝液(0.1M Na2HP04/水、pH9.3)50ml/ウェルでインキュベートした。洗浄ステップ(3回)は、100mlのブロッキング緩衝液(1%BSA、0.2%Tween-20を含むPBS)を使用して処理した。続いて、遊離結合部位を飽和させるために、コーティングされたプレートを、50mlのブロッキング緩衝液と共に37℃で20分間インキュベートした。抗血清をブロッキング緩衝液で希釈し(96ウェルプレートの最初のカラムで1:100、次に1:1の比率で段階希釈)、ELISAプレートにピペットで移し、37℃で45分間インキュベートした。さらに3回の洗浄ステップ後、サンプルをビオチン化ヒツジ-α-マウスIgG抗体(c=0.48pg/ml、ストック溶液250pg/ml)と共に、50ml/ウェルのブロッキング緩衝液中で37℃で45分間インキュベートした。プレートを3回洗浄し、ストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ(1:1000)を含む50mLのブロッキング緩衝液と共に15分間インキュベートした。3回洗浄した後、各ウェルを1mg/mlの2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、0.01%過酸化水素(1:4000)を含むクエン酸緩衝液(40mMクエン酸、60nM Na2HP04xH20、pH4.5)で処理した。各ウェルの光学密度は、分光光度計を使用して410nmで測定した(Tecan Reader,Genios)。
【0082】
アイソタイプ決定のために、hu-TA-MUC1-糖ペプチド特異的抗血清を3回目の免疫後に分析し、上記のプロトコルを使用してELISAを実施した。以下の二次抗体を使用した:ビオチン化抗マウス-lgM(eBioscience、クローンeB121-15F9)、ビオチン化抗マウス-lgG1(BD Pharmingen、クローンA85-1)、ビオチン化抗マウス-lgG2b(BD Pharmingen、クローンR19-15)。
【0083】
抗体力価は、非線形回帰(R2>0.97)、及びその後にソフトウェアGraph Pad Prism6を適用した4パラメーターロジスティック曲線分析によって半値として計算した。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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