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特許7616667アクチニウム-225を生成するためのシステム及び方法
<図1>
  • 特許-アクチニウム-225を生成するためのシステム及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】アクチニウム-225を生成するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G21G 1/08 20060101AFI20250109BHJP
   G21G 4/08 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
G21G1/08
G21G4/08 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021559746
(86)(22)【出願日】2020-04-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-25
(86)【国際出願番号】 US2020026837
(87)【国際公開番号】W WO2020210147
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】62/830,687
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】バーンスタイン リー
(72)【発明者】
【氏名】バッチェルダー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】モレル ジョナサン ティー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォイルズ アンドリュー
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-169873(JP,A)
【文献】特許第5522564(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2007/0297554(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0009205(US,A1)
【文献】A. Maj et al.,White Book on the Complementary Scientific Programme at IFMIF-DONES,Raporty IFJ PAN,2016年
【文献】Andrew Kyle Henderson Robertson et al.,Development of 225Ac Radiopharmaceuticals: TRIUMF Perspectives and Experiences,Curr Radiopharm.,2018年12月,11(3),156-172
【文献】R. Madey et al.,Neutron spectrum at 0° from 83.7 MeV deuterons on beryllium,Phys. Rev. C,1976年09月01日,14,801
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットを重陽子のビームで照射して中性子のビームを発生させる段階、
ラジウム-226ターゲットを前記中性子のビームで照射してラジウム-225を発生させ、前記ラジウム-226ターゲットを照射した後に、前記中性子のビームで1又は2以上の追加の放射性核種ターゲットを照射する段階、
ある期間にわたって前記ラジウム-225の少なくとも一部がアクチニウム-225に自然に崩壊することを可能にする段階、及び
未反応ラジウム-226及び前記ラジウム-225から、医療放射性核種の生成に使用される前記アクチニウム-225を分離する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ラジウム-226は、(n,2n)反応によって反応して前記ラジウム-225を形成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ラジウム-225は、ベータ崩壊によって前記アクチニウム-225に崩壊することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記期間は、15日であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記分離する段階の後に、前記アクチニウム-225は、いずれのアクチニウム-227も含まないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ラジウム-226ターゲットを照射する段階は、少なくとも1日の期間にわたって行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ターゲットは、前記ラジウム-226ターゲットから0.5ミリメ-トルから10ミリメ-トルに位置決めされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ターゲット及び前記ラジウム-226ターゲットは接触していないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ターゲットは、ベリリウムターゲットを含み、
前記ベリリウムターゲットは、厚み2ミリメ-トルから8ミリメートルである、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ラジウム-226ターゲットは、厚み1ミリメ-トルから10ミリメートルであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記重陽子のビーム内の重陽子が、25MeVから55MeVのエネルギを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ラジウム-226ターゲットを前記中性子のビームで照射する段階は、いずれのアクチニウム-227も又はアクチニウム-227に崩壊するいずれの種も発生しないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記重陽子のビームは、サイクロトロンを使用して発生されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記中性子のビームは、1×1010中性子/cm2/secから3×1012中性子/cm2/secの流束を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記中性子のビーム内の中性子が、10MeV又はそれよりも高いエネルギを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記ラジウム-226ターゲットは、原子炉に位置決めされないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記中性子は、原子炉内で発生される熱中性子ではないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
重陽子のビームでターゲットを照射して中性子のビームを発生させる段階であって、該中性子のビームが、1×1010中性子/cm2/secから3×1012中性子/cm2/secの流束を有し、該中性子のビーム内の中性子が、10MeV又はそれよりも高いエネルギを有する前記発生させる段階、
ラジウム-226ターゲットを前記中性子のビームで照射してラジウム-225を発生させ、前記ラジウム-226ターゲットを照射した後に、前記中性子のビームで1又は2以上の追加の放射性核種ターゲットを照射する段階、
ある期間にわたって前記ラジウム-225の少なくとも一部がアクチニウム-225に自然に崩壊することを可能にする段階、及び
未反応ラジウム-226及び前記ラジウム-225から、医療放射性核種の生成に使用される前記アクチニウム-225を分離する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願〕
この出願は、引用によって本明細書に組み込まれる2019年4月8日出願の米国仮特許出願第62/830,687号に対する優先権を主張するものである。
【0002】
〔政府支援の声明〕
本発明は、米国エネルギ省によって授与された契約番号DE-AC02-05CH11231の下で政府支援によって行われたものである。政府は、本発明においてある一定の権利を有する。
【0003】
本発明の開示は、一般的に重陽子分解からの2次中性子を使用して放射性核種を生成するためのシステム及び方法、より具体的には重陽子分解からの2次中性子を使用してアクチニウム-225を生成するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
アクチニウム-225は、ターゲット式アルファ粒子療法と呼ばれる新しい形態の癌治療に使用するための有望な放射性核種である。アクチニウム-225は、比較的長い半減期(すなわち、約10日)を有し、腫瘍成長を検出するのに必要な種類の二重鎖DNA損傷を生成することができる4つのα崩壊の短い連続がそれに続く。それは、その崩壊において長寿命の放射性生成物を生成しない。比較的長い半減期は、ターゲット生体分子内へのその組み込みを可能にする。
【0005】
アクチニウム-225は、進行転移性前立腺癌の治療に使用するための有望性を既に示している。例えば、臨床試験では、アクチニウム-225は、前立腺癌の大部分で高レベルに見出されるタンパク質に結合するように設計された小さい分子であるPSMA-617(前立腺膜特異抗原617)に取り付けられている。それが癌細胞に取り付いた状態で、アクチニウム-225は、周囲の健康な組織への損傷を最小にしながら癌細胞を殺すことができる高度にターゲット化された投与量の放射線を放出し、患者生存の顕著な結果を有することが示されている。
【0006】
大規模な臨床研究を可能にするのに利用可能なアクチニウム-225は現在不十分である。この同位元素は、米国核兵器プログラムの一部としてのオークリッジ国立研究所で生成されたウラン-233の崩壊から非常に限られた量で現在生成されている。ウラン-233の長い半減期(すなわち、159,000年)は、アクチニウム-225の生成速度を非常に遅くする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願第16/329,178号明細書
【文献】米国特許出願第16/365,132号明細書
【文献】米国特許出願第16/336,665号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アクチニウム-225を生成する1つの手法は、232Thの高エネルギ(例えば、100MeVから200MeV及びそれよりも高い)プロトン誘起破砕を使用することである。しかし、この方法は、いくつかの長寿命ランタニド核分裂生成物、並びに227Acの共生成に至る。227Acは、21.772年の寿命を有し、それを不要な汚染物質にする。多くの医師は、微量のアクチニウム-227(例えば、全アクチニウムの約0.5パーセント未満)にさえも関連付けることができると考えられる潜在的な長期リスクのために何らかのアクチニウム-227を含有するアクチニウム-225投与量により若い癌患者を露出することを望まない。
【0009】
第2の手法は、226Ra(p,2n)225Ac反応を使用することである。しかし、この反応も、ラジウムの反応性が限定厚みを有する不規則塩ターゲットの使用を必要とするので困難である。陽子ビームからのターゲットの加熱は、潜在的な汚染ハザードを呈する可能性があると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
アクチニウム-225は、有望な放射性医薬品の一部である。本明細書に説明するのは、効率的であり、かつ患者でのその使用を妨げると考えられる危険な放射性不純物を共生成しない放射性核種アクチニウム-225を生成する方法である。これらの方法は、厚ターゲット重陽子分解からのエネルギ中性子ビームで自然発生同位元素であるラジウム-226を照射してラジウム-225を形成する段階を含む。ラジウム-225は、次に、アクチニウム-225に崩壊し、これは、次に、放射性医薬品の生成に使用するためにラジウム-226から化学的に分離される。
【0011】
本明細書に説明する主題の1又は2以上の実施形態の詳細は、添付図面及び以下の説明に列挙されている。他の特徴、態様、及び利点は、説明、図面、及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。以下の図の相対寸法は、縮尺通りに描かれていない場合があることに注意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】アクチニウム-225を生成するための処理を例示する流れ図の例を示す図である。
図2】本明細書に説明する方法を実行するための設定の概略図の例を示す図である。
図3】放射性核種を生成するための処理を例示する流れ図の例を示す図である。
図4】本明細書に説明する方法を実行するための設定の概略図の例を示す図である。
図5】本明細書に説明する方法をロ-レンスバークレー国立研究所(LBNL)の88インチサイクロトロンを用いて実行するのに使用される固定具の概略図の例を示す図である。
図6】50MeV重陽子に対して88インチサイクロトロンによって発生された中性子放出スペクトルのグラフの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで本発明を実施するために本発明者によって考えられた最良モ-ドを含む本発明の一部の具体例な例を以下に詳細に参照する。これらの具体的実施形態の例は、添付図面に例示されている。本発明は、これらの具体的実施形態に関連して説明するが、本発明を説明する実施形態に限定するように意図していないことは理解されるであろう。逆に、添付の特許請求の範囲によって定められるような本発明の精神及び範囲に含めることができるように代替物、修正物、及び均等物を網羅するように意図している。
【0014】
以下の説明では、本発明の徹底的な理解を提供するために多数の特定の詳細を列挙している。本発明の特定の例示的実施形態は、これらの特定の詳細の一部又は全てなしに実施される場合がある。他の事例では、公知の処理作動は、本発明を不要に曖昧にしないために詳細に説明されない。
【0015】
本発明の様々な技術及び機構は、明瞭化のために時々単数形で説明されることになる。しかし、一部の実施形態は、他に註記されない限り、技術の複数の反復又は機構の複数の実証を含むことに注意しなければならない。
【0016】
用語「約」又は「ほぼ」などは同義語であり、かつこの用語によって修飾される値がそれに関連付けられる理解された範囲を有することを示すのに使用され、この範囲は、±20%、±15%,±10%,±5%,又は±1%とすることができる。用語「実質的に」などは、値がターゲット値に近いことを示すのに使用され、近いとは、例えば、値がターゲット値の80%以内、ターゲット値の85%以内、ターゲット値の90%以内、ターゲット値の95%以内、又はターゲット値の99%以内であることを意味することができる。
【0017】
破砕方法(上述)を使用して生成されるアクチニウム-225の放射化学的純度又は放射線純度は、約99.9%を決して超えないことになる。この純度レベルでは、アクチニウム-225及びアクチニウム-227からほぼ等しい放射線量が存在する。アクチニウム-227からの放射線量は、更に別の癌に至る可能性があると考えられる。
【0018】
本明細書に説明するのは、核分裂破片及びアクチニウム-227の両方からの汚染のないアクチニウム-225を生成する方法である。本明細書に説明する高速中性子方法は、99.9999%の放射化学的純度を有する(すなわち、破砕方法よりも3桁優れている)アクチニウム-225を生成する。アクチニウム-225のこの放射化学的純度は、化学分離を用いて更に改善することができる(すなわち、少なくともアクチニウム-227汚染物質に関して)。これらの生成方法は、癌治療に使用するための225-アクチニウムド-プ前立腺固有膜抗原-617(PSMA-617)を生成するのに製薬会社によって使用することができると考えられる。
【0019】
ほとんどの医療放射性核種は、荷電粒子又は低エネルギ中性子ビームを使用して現在生成されている。本明細書に説明する方法は、厚ターゲット重陽子分解からの2次中性子を使用して放射性同位元素を生成する。重陽子は、例えば、サイクロトロン、ヴァンデグラーフ加速器、ペレトロン、無線周波数四極子(RFQ)線形加速器(リニアック)、タンデムリニアック、又はシンクロトロンのような荷電粒子加速器を使用して加速することができる。荷電粒子加速器を使用してこの方式で中性子を発生させることは、反応器ベースの生成技術に優る利点であるターゲット(例えば、ラジウムターゲット)での同じ方向の中性子のほとんど、大部分、又は全ての中性子のフォーカスを可能にする。同じく、発生される中性子の約95パ-セントは、ターゲットを通過し、従って、2次ターゲットに衝突するのにこれらの中性子を使用する可能性が存在する。
【0020】
225Acを生成する開示する方法は、226Ra(n,2n)225Ra反応とそれに続く225Acの中への225Raのβ崩壊(t1/2=14.9±0.2日)とを使用する。この手法は、より高いZアクチニドと比較してラジウムに対する(Z2/A)のより低い値を利用し、これは、限定核分裂断面積と、20MeVまでの中性子エネルギに対する相応により高い(n,2n)断面積とをもたらす。
【0021】
一部の実施形態では、アクチニウム-225を生成する方法は、中性子のビームを発生するように重陽子のビームでターゲットを照射する段階と、ラジウム-225を発生するように中性子のビームでラジウム-226ターゲットを照射する段階と、ある期間にわたってラジウム-225の少なくとも一部がアクチニウム-225に自然に崩壊することを可能にする段階と、アクチニウム-225を未反応ラジウム-226及びラジウム-225から分離する段階とを含む。
【0022】
図1は、アクチニウム-225を生成するための処理を例示する流れ図の例を示している。図1に示す方法100のブロック102から開始して、ターゲットは、中性子のビームを発生するように重陽子のビームで照射される。一部の実施形態では、重陽子のビームは、直径約1センチメ-トル(cm)から約5cm、直径約1cmから1.5cm、又は直径約1.5cmである。一部の実施形態では、ターゲットは、ベリリウムターゲットを含む。一部の実施形態では、ベリリウムターゲットは、厚み約2ミリメ-トル(mm)から8mm、又は厚み約3mmである。ベリリウムターゲットを使用する一部の利点は、ベリリウムが比較的廉価な物質であること、ベリリウムの良好な機械及び熱特性、ベリリウムが重陽子照射で放射線学的に活性化されないこと、及び重陽子照射での重陽子イン当たりの中性子アウトの高い収率を含む。一部の実施形態では、ターゲットは、ベリリウムターゲット、炭素ターゲット、タンタルターゲット、及び金ターゲットから構成される群から選択される。
【0023】
一部の実施形態では、ターゲットは、ラジウム-226ターゲットの近くに配置される。一部の実施形態では、ターゲットは、ラジウム-226ターゲットから約0.5ミリメ-トルから1ミリメ-トルに位置決めされる。一部の実施形態では、ターゲットは、ラジウム-226ターゲットから約0.5ミリメ-トルから10ミリメ-トルに位置決めされる。一部の実施形態では、ターゲットは、ラジウム-226ターゲットから約10ミリメ-トルに位置決めされる。一部の実施形態では、ターゲット及びラジウム-226ターゲットは接触していない。
【0024】
一部の実施形態では、ターゲットは、水冷式固定具に保持される。ターゲットが重陽子で照射される時に、電力(例えば、約100ワットから300ワット)がターゲットに堆積される。この電力は、ターゲットを加熱させる。水冷式固定具は、ターゲットを冷却することができる。
【0025】
一部の実施形態では、重陽子のビーム内の重陽子は、約25メガ電子ボルト(MeV)から55MeV、又は約33MeVのエネルギを有する。一部の実施形態では、重陽子のビームは、荷電粒子加速器(例えば、サイクロトロン)を使用して発生される。一部の実施形態では、中性子のビームは、約1×1010中性子/cm2/secから3×1012中性子/cm2/secの流束を有する。一部の実施形態では、中性子のビーム内の中性子は、約10MeV又はそれよりも高いエネルギを有する。
【0026】
一部の実施形態では、約33MeVのエネルギを有する重陽子の約10マイクロ-Aから1ミリ-Aビームが、ベリリウムターゲットを照射する。これは、約1×1010中性子/cm2/secから1×1012中性子/cm2/secの流束を有する中性子のビームを発生する。中性子ビームの流束は、重陽子ビームの入射エネルギ及び強度に依存する。一般的に、重陽子のビームの入射エネルギが高いほど、中性子のビームの流束が高くなる。中性子のビーム内の中性子の平均エネルギは、重陽子のビームのエネルギの約半分、又は約17MeVである。
【0027】
一部の実施形態では、約50MeVのエネルギを有する重陽子の約10マイクロ-Aから1ミリ-Aビームが、ベリリウムターゲットを照射する。これは、約33MeV重陽子又は約3×1010中性子/cm2/secから3×1012中性子/cm2/secを用いて発生される中性子のビームの約3倍ほども強い強度を有する中性子のビームを発生する。中性子のビームの平均エネルギは、重陽子のビームのエネルギの約半分、又は約25MeVである。
【0028】
一部の実施形態では、中性子は、原子炉で発生される熱中性子ではない。一部の実施形態では、中性子は、破砕ソースによって発生されない。熱中性子は、約10キロ電子ボルト(keV)未満のエネルギを有する中性子であると一般的に考えられる。熱中性子は、約25ミリ電子ボルト(meV)の平均エネルギを有する。本明細書に説明する方法でサイクロトロンを用いて発生される中性子の大きい百分率(例えば、約95%から99%)は、高速中性子又は約1MeV及びそれよりも高いエネルギを有する中性子であると考えられる。
【0029】
一部の実施形態では、中性子のビームの初期直径(すなわち、ターゲットから放出されている中性子ビームの直径)は、ほぼ重陽子のビームの直径、又は直径約1cmから5cm、直径約1cmから1.5cm、又は直径約1.5cmである。
【0030】
中性子のビームは、中性子の前方フォーカスビームであると考えられ、かつソースから同位体的に放出されている中性子ではない。図5は、放出角度に対する中性子ビーム内の中性子の百分率のグラフの例を示している。0度は、重陽子ビームのビーム内の重陽子と同じ方向に放出される中性子である。図6に見ることができるにように、発生される中性子の約90%は、重陽子ビームとほぼ平行な方向にフォーカスされる(例えば、有向的にフォーカスされる)。
【0031】
図1に戻ると、ブロック104では、ラジウム-226ターゲットは、中性子のビームで照射されてラジウム-225を発生する。ラジウム-226は、ラジウムの放射性同位元素である。一部の実施形態では、ラジウム-226ターゲットは、(n,2n)反応によって反応してラジウム-225を形成する。一部の実施形態では、ラジウム-226ターゲットは、原子炉に位置決めされない。一部の実施形態では、ラジウム-226ターゲットは、少なくとも1日の期間にわたって中性子のビームで照射される。一部の実施形態では、ラジウム-226ターゲットは、厚み約1mmから10mmである。
【0032】
一部の実施形態では、ラジウム-226ターゲットは、ラジウム-226塩を含む。ラジウム-226塩は、硝酸ラジウム(Ra(NO32)を含む。一部の実施形態では、ラジウム-226塩ターゲットは、約1ミリグラム(mg)の質量を有する。アクチニウム-225のより大規模生成に対して、ラジウム-226塩ターゲットは、約100mgから1グラム(g)又は約100mgから10gの質量を有することができる。
【0033】
中性子のビームでラジウム-226ターゲットを照射することは、ラジウム-227を発生する場合がある。ラジウム-227は、アクチニウム-227にβ崩壊する。以下の実施例に説明する実験では、中性子のビームでラジウム-226を照射することに起因するアクチニウム-227の発生は観察されていない。一部の実施形態では、中性子のビームでラジウム-226ターゲットを照射することは、いずれのアクチニウム-227も又はアクチニウム-227に崩壊するいずれの種も発生しない。
【0034】
ブロック106では、ラジウム-225の少なくとも一部は、ある期間にわたってアクチニウム-225に自然に崩壊する。一部の実施形態では、ラジウム-225は、ベータ崩壊によってアクチニウム-225に崩壊する。一部の実施形態では、ラジウム-225のベータ崩壊によるアクチニウム-225の発生は、アクチニウム-227の発生を回避し、かつ発生されるアクチニウム-225の高純度をもたらすものである。一部の実施形態では、この期間は、少なくとも約30日か又は約30日である。一部の実施形態では、この期間は、少なくとも約15日か又は約15日である。
【0035】
一部の実施形態では、アクチニウム-227が、ラジウム-226ターゲットが中性子で照射された後で約1時間から5時間又は約2時間にわたってラジウム-226ターゲットに存在する又は存在することができる時に、ラジウムからアクチニウムを分離するのに化学処理が使用される。このアクチニウムは、このアクチニウムが照射の結果としてベータ崩壊から生成されるアクチニウム-227のほとんど又は全てを含有することになるので処分される。この化学分離に続いてこの照射から収集された全てのその後のアクチニウムは、ラジウム-225がラジウム-227よりも遥かに長い半減期を有するのでアクチニウム-225であることになる。その結果、アクチニウム-225のほとんどは、アクチニウム-227汚染物質なしで分離に対して依然として利用可能であることになる。次に、ラジウム-225の少なくとも一部は、ある期間にわたってアクチニウム-225に崩壊する。
【0036】
図1に戻ると、ブロック108では、アクチニウム-225は、未反応ラジウム-226及びラジウム-225から分離される。一部の実施形態では、アクチニウム-225は、化学分離処理を使用して未反応ラジウム-226及びラジウム-225から分離される。一部の実施形態では、アクチニウム-225を未反応ラジウム-226及びラジウム-225から分離した後に、アクチニウム-225は、いずれのアクチニウム-227も含まない。一部の実施形態では、アクチニウム-225を未反応ラジウム-226及びラジウム-225から分離した後に、アクチニウム-225は、本質的にアクチニウム-225から構成される。ラジウム-226及びラジウム-225からのアクチニウム-225の分離の方法に関する更に別の詳細は、2019年2月27日出願の米国特許出願第16/329,178号明細書、2019年3月26日出願の米国特許出願第16/365,132号明細書、及び2019年3月26日に出願の米国特許出願第16/336,665号明細書に見出すことができ、その全ては、引用によって本明細書に組み込まれている。
【0037】
一部の実施形態では、中性子のビームでラジウム-226ターゲットを照射する前に、ラジウム-226ターゲットは、ラジウム-226ターゲットからあらゆるラジウム-228及びあらゆるトリウム-228を除去するために洗浄される。この洗浄は、化学処理を用いて実行することができる。ラジウム-228及びトリウム-228をターゲットから除去することは、アクチニウム-228が形成されることを防ぎ、かつアクチニウム-228を発生されるアクチニウム-225の範囲外に保つ。
【0038】
図2は、本明細書に説明する方法を実行するための設定の概略図の例を示している。図2に示すように、荷電粒子加速器205は、重陽子210のビームを発生する。重陽子210のビームは、重陽子ターゲット215(例えば、ベリリウムのターゲット)を照射する又はその上に衝突して中性子220のビームを発生する。中性子220のビームは、約5度の角度225の広がりを有する。重陽子ターゲット215から発生される中性子の約90%は、約5度の広がりを有する円錐内である。中性子220のビームは、ラジウム-226ターゲット230を照射する。
【0039】
一部の実施形態では、重陽子のビームでベリリウムターゲットを照射する前に、重陽子のビームは、イリジウムターゲット又はストロンチウムターゲットを通過する。一部の実施形態では、イリジウムターゲット又はストロンチウムターゲットは、厚み約1ミリメ-トル未満である。イリジウム-193ターゲットに重陽子を通過させることは、(d,2n反応)によって白金-193mの放射性同位元素を生成する。ストロンチウム-86ターゲットに重陽子を通過させることは、(d,2n反応)によってイットリウム-86放射性同位元素を生成する。
【0040】
重陽子分解からの2次中性子で他のターゲットを照射することは、他の放射性同位元素を生成するのに使用することができる。例えば、中性子で照射された亜鉛ターゲット(すなわち、亜鉛-64及び亜鉛-67)は、銅-64及び銅-67を生成すると考えられる。生成することができると考えられる他の放射性同位元素は、アスタチン-211、ビスマス-213、ガリウム-68、トリウム-229、及び鉛-212を含む。生成することができると考えられる更に別の放射性同位元素は、照射されることになる同位元素と放射性同位元素を形成する反応とを含んで表1に下記に列挙している。
【0041】
【0042】
図3は、放射性核種を生成すための処理を例示する流れ図の例を示している。図3に示す方法300のブロック302では、ターゲットは、重陽子のビームで照射されて中性子のビームを発生する。ブロック304では、ラジウム-226ターゲット、亜鉛ターゲット、モリブデンターゲット、燐ターゲット、ハフニウムターゲット、チタンターゲット、及びタンタルターゲットから構成されるターゲットの群から選択されたターゲットが中性子のビームで照射される。
【0043】
図4は、本明細書に説明する方法を実行するための設定の概略図の例を示している。図4に示すように、荷電粒子加速器405は、重陽子410のビームを発生する。重陽子410のビームは、重陽子ターゲット415(例えば、ターゲット又はベリリウム)を照射する又は衝突する前に第1のターゲット417を照射する又はその上に衝突して中性子420のビームを発生する。一部の実施形態では、第1のターゲット417は、イリジウム-193又はストロンチウム-86を含む。一部の実施形態では、第1のターゲット417は、厚み約25ミクロンから500ミクロンである。中性子420のビームは、複数のターゲットを照射する。図4に示すのは、第2のターゲット430、第3のターゲット435、及び第4のターゲット440である。より多くのターゲットを含めることができると考えられる。一部の実施形態では、ターゲット430、435、及び440は、各々が厚み約0.1mmから0.5mm又は厚み約0.1mmからmmである。
【0044】
中性子通過は、多くのエネルギを失うことなく単一ターゲットを通過し、中性子のビーム内の中性子のほとんどは、単一ターゲットと相互作用しない。中性子の大部分は、相互作用なしでほとんどの物質を通過する。中性子がその上に衝突するターゲットに対して、非常に厚いターゲットを使用することができると考えられ(例えば、厚み約10cmまで)、図4に示すような複数のターゲット材料(例えば、ターゲットの材料の密度に応じて厚み約10cmまで)を使用することができると考えられ、又はその組合せである。
【0045】
以下の実施例は、本明細書に開示する実施形態の例であるように意図しており、限定であるように意図していない。
【0046】
実施例
本明細書に説明する実施例では、重陽子でビームを発生させるのにロ-レンスバークレー国立研究所(LBNL)での88インチサイクロトロンが使用された。重水素は、水素の2つの安定した同位元素のうちの一方である。重陽子と呼ばれる重水素の核は、1つの陽子及び1つの中性子を含有する。
【0047】
LBNLでの88インチサイクロトロン(「88」)は、ク-ロン障壁に接近してかつこれを超えるエネルギで陽子からウランの範囲のイオンを加速することができる可変エネルギ高電流多粒子サイクロトロンである。1.5kWのビーム電力限界を有する10粒子・μアンペア程度の最大電流は、7つの実験的「洞窟」での実験に使用するために機械から抽出することができる。重陽子を含む集中軽イオンビームは、サイクロトロン丸天井及び洞窟0の両方に使用することができる。
【0048】
図5は、LBNLでの88インチサイクロトロンを用いて本明細書に説明する方法を実行するのに使用される固定具の概略図の例を示している。図5に示すように、固定具500は、ベリリウムターゲット510及びターゲット520(例えば、ラジウム-226ターゲット)を保持する。サイクロトロンによって加速された重陽子のビームは、ベリリウムターゲット510を照射する。これは、ターゲット520を照射する中性子のビーム(すなわち、2次中性子のビーム)を発生する。
【0049】
図6は、50MeV重陽子のための88インチサイクロトロンによって発生された中性子放出スペクトルのグラフの例を示している。グラフ内の点はデ-タであり、実線は理論予想である。
【0050】
以下の方法がアクチニウム-225を生成するのに使用された。最初に、エネルギ2次中性子の高度にフォーカスされたビームが、厚ベリリウムターゲットの上に重水素イオンビームを加速することによって生成された。重陽子ビームは、LBNL88インチサイクロトロンを使用して生成された。
【0051】
第2に、2次中性子のこのビームは、1600年の半減期を有してウラン鉱に自然に見出されるラジウム-226のサンプル上に入射された。これは、14.9日の半減期を有するラジウム-225の生成をもたらした。この照射期間は、典型的に1日又は2日以上にわたって行われると考えられる。中性子は、陽子と比較して物質内で極度に長い範囲を有するので、ラジウム-226ターゲットは、非常に厚い可能性があり、ラジウム-225の高い生成レートをもたらす。
【0052】
第3に、数十日の期間にわたって、ラジウム-225の一部分は、アクチニウム-225に崩壊した。
【0053】
第4に、アクチニウム-225は、医療用途に使用するためにラジウム-226から分離された。未反応ラジウム-226は、2次中性子を使用するその後の照射に使用するために戻される。
【0054】
33MeV重陽子を使用してベリリウムターゲットを照射する時のアクチニウム-225の生成レートは、ラジウム-226のグラム当たりで重陽子ビームの約2.1mCi毎ミリアンペア時間(2.1mCi/mAh/g)である。重陽子の0.1mAビームに対して、アクチニウムの生成レートは、約0.21mCi/時間/グラム又は約5.04mCi/日/グラムである。
【0055】
以下は、アクチニウム-225を発生させるための88インチサイクロトロンの2つの別々の稼働の実験パラメ-タ及び結果を有する表である。
【0056】
【0057】
DGAアクチニウム-225/AG50アクチニウム-225に対する数値は、化学分離後に回収された活性度であり、DGAラジウム/AG50ラジウムに対する数値は、汚染ラジウム-226の活性度である。ラジウム-226は、追加の化学分離段階によって恐らくは弱められたと考えられる。例えば、各分離は、アクチニウム-225/ラジウム-226比を約104だけ増大し、一方で各分離は、アクチニウム-225濃度を単に約10%だけ低減する。
【0058】
稼働1よりも稼働2で生成/回収されたアクチニウム-225が少なかったことに注意されたい。中性子流束量、重陽子ビーム電流、ラジウム-226断面積、ラジウム-226の初期質量、及び生成/崩壊条件の差を考慮する時でさえも、稼働1よりも稼働2で約30%低い生成レートが依然として存在した。これは、重陽子分解反応が極度に前方フォーカス型であるので、重陽子ビームのビームスポット位置合わせ/フォーカスに起因する可能性があると考えられる。しかし、この矛盾を確認するシミュレーションはまだ実行されていない。
【0059】
結論
以上の明細書では、具体的実施形態を参照して本発明を説明した。しかし、当業者は、以下の特許請求の範囲に列挙する本発明の範囲から逸脱することなく様々な修正及び変更を行うことができることを認識している。従って、本明細書及び図面は、限定的ではなく例示的な意味で考えられるものとし、全てのそのような修正は、本発明の範囲内に含められるように意図している。
【符号の説明】
【0060】
100 本発明の方法
102 ターゲットを重陽子のビームで照射するブロック
104 ラジウム-226ターゲットを中性子のビームで照射するブロック
106 ある期間にわたってラジウム-225がアクチニウム-225に自然に崩壊することを可能にするブロック
108 未反応ラジウム-226からアクチニウム-225を分離するブロック
図1
図2
図3
図4
図5
図6