(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】磁性積層膜、磁気メモリ素子、磁気メモリ及び人工知能システム
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20250109BHJP
H10N 50/20 20230101ALI20250109BHJP
G11C 11/16 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N50/20
G11C11/16 100
(21)【出願番号】P 2021569835
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048409
(87)【国際公開番号】W WO2021140934
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2020003269
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 好昭
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 正二
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0229160(US,A1)
【文献】国際公開第2017/208576(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/155078(WO,A1)
【文献】特表2018-508983(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0330070(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0080738(US,A1)
【文献】国際公開第2019/167929(WO,A1)
【文献】特開2017-059634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 61/00
H10N 50/10
H10N 50/20
G11C 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気メモリ素子用の積層膜であって、
Hfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの重金属層と、
磁化方向が反転可能な強磁性層を含み、前記重金属層と隣接する記録層と
を備える
磁性積層膜。
【請求項2】
前記第2層がWまたはW合金を含有する
請求項1に記載の磁性積層膜。
【請求項3】
前記第2層がCo、Fe及びBから選択される1種以上の元素を含有する
請求項1に記載の磁性積層膜。
【請求項4】
前記重金属層のうちの最も前記記録層側の層は前記第1層である
請求項1~3のいずれか1項に記載の磁性積層膜。
【請求項5】
前記重金属層の厚さが1.4nm以上9nm以下である
請求項1~4のいずれか1項に記載の磁性積層膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の磁性積層膜と、
前記記録層に隣接し、絶縁体で構成された障壁層と、
前記障壁層と隣接し、磁化の方向が固定された参照層と
を備え、
前記重金属層を流れる書き込み電流によって、前記記録層の前記強磁性層の磁化方向が反転する
磁気メモリ素子。
【請求項7】
前記重金属層の長手方向の一端に設けられ、前記重金属層に電流を導入可能な第1端子と、
前記重金属層の長手方向の他端に設けられ、前記重金属層に電流を導入可能な第2端子と、
前記参照層と電気的に接続された第3端子と
を備え、
前記重金属層を介して前記第1端子と前記第2端子との間に、前記書き込み電流が流れる
請求項6に記載の磁気メモリ素子。
【請求項8】
前記記録層の前記強磁性層は、膜面に対して垂直な方向に磁化している
請求項6又は7に記載の磁気メモリ素子。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の磁気メモリ素子と、
前記重金属層に前記書き込み電流を流すことにより、前記磁気メモリ素子にデータを書き込む書き込み電源を備える書き込み部と、
前記障壁層を貫通する読み出し電流を流す読み出し電源と、前記障壁層を貫通した前記読み出し電流を検出し、前記磁気メモリ素子に書き込まれているデータを読み出す電流検出器とを備える読み出し部と
を備える磁気メモリ。
【請求項10】
前記記録層、前記障壁層及び前記参照層の積層体の、前記重金属層とは反対側から見た形状が、前記書き込み電流に沿った方向のいずれの線に対しても非対称である
請求項9に記載の磁気メモリ。
【請求項11】
請求項6~8のいずれか1項に記載の磁気メモリ素子が、抵抗クロスバーネットワークの加重和が入力される電子ニューロンに用いられている
人工知能システム。
【請求項12】
前記磁気メモリ素子が、さらに抵抗クロスバーネットワークのクロスポイントメモリに用いられている
請求項11に記載の人工知能システム。
【請求項13】
前記記録層、前記障壁層及び前記参照層の積層体の、前記重金属層とは反対側から見た形状が、前記書き込み電流に沿った方向のいずれかの線に対して線対称である
請求項11又は12に記載の人工知能システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性積層膜、磁気メモリ素子、磁気メモリ及び人工知能システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高速性と高書き換え耐性が得られる次世代不揮発磁気メモリとして、磁気抵抗効果素子(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)を記憶素子として用いたMRAM(Magnetic Random Access Memory)が知られている。MRAMに用いる次世代の磁気メモリ素子としては、スピン注入トルクを利用して磁気トンネル接合を磁化反転させるSTT-MRAM(Spin Transfer Torque Random Access Memory)素子やスピン軌道トルクを利用してMTJを磁化反転させるSOT-MRAM(Spin-Orbit Torque Magnetic Random Access Memory)素子(特許文献1参照)が注目されている。
【0003】
上記のうちのSOT-MRAM素子は、重金属層上に、強磁性層/絶縁層/強磁性層の3層構造を含むMTJが設けられた構成をしている。SOT-MRAM素子は、現状用いられているCo-Fe形の磁性体の場合、記録層と参照層の磁化方向が平行な平行状態より、記録層と参照層の磁化方向が反平行な反平行状態の方が素子の抵抗が高いという性質を有し、平行状態と反平行状態を0と1に対応させてデータを記録する。SOT-MRAM素子では、重金属層に電流を流すことでスピン軌道相互作用によりスピン流を誘起し、スピン流により分極したスピンが記録層に流入することで記録層が磁化反転する。これによりSOT-MRAM素子は、平行状態と反平行状態とを切り替え、データを記録できる。
【0004】
また、SOT-MRAM素子では、高度に集積するために、重金属層上に多数のMTJを配列したアーキテクチャが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1のアーキテクチャでは、MTJに電圧を印加することでMTJの磁気異方性を制御できるというメカニズムを利用して、MTJにデータを書き込む。まず、データを書き込むMTJに電圧を印加し、記録層の磁気異方性を低くして、記録層が磁化反転しやすい状態(半選択状態ともいう)にする。その後、重金属層に書き込み電流を流すことで、記録層を磁化反転させ、データを書き込む。このように、特許文献1の磁気メモリでは、MTJに電圧を印加することで、書き込むMTJを選択できる。
【0005】
さらに、SOT-MRAM素子を用いた電子ニューロンが提案されている(特許文献2参照)。シナプス電流の総計によってニューロンの磁化方向が決定される構成である。入力信号の加重和であるバイポーラ電流を生成するシナプスとして機能する抵抗クロスバーアレイが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-112351号公報
【文献】米国特許出願公開第2017/0330070号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、SOT-MRAM素子において重金属層としてβ-Wを用いた場合、β-Wの電気抵抗率が高いために消費電力が大きいこと、また、β-W上ではラフネスが大きいためにMTJ特性のばらつきが大きくなることが問題となっていた。そのため、消費電力を抑制し、重金属層のラフネスを小さくすることが求められている。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、消費電力を抑制し、重金属層のラフネスを小さくすることができる磁性積層膜と、当該磁性積層膜を用いた磁気メモリ素子、磁気メモリ及び人工知能システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による磁性積層膜は、磁気メモリ素子用の積層膜であって、Hfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの重金属層と、磁化方向が反転可能な強磁性層を含み、前記重金属層と隣接する記録層とを備える。
【0010】
本発明による磁気メモリ素子は、上記の磁性積層膜と、前記記録層に隣接し、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層と隣接し、磁化の方向が固定された参照層とを備え、前記重金属層を流れる書き込み電流によって、前記記録層の前記強磁性層の磁化方向が反転する。
【0011】
本発明による磁気メモリは、上記の磁気メモリ素子と、前記重金属層に前記書き込み電流を流すことにより、前記磁気メモリ素子にデータを書き込む書き込み電源を備える書き込み部と、前記障壁層を貫通する読み出し電流を流す読み出し電源と、前記障壁層を貫通した前記読み出し電流を検出し、前記磁気メモリ素子に書き込まれているデータを読み出す電流検出器とを備える読み出し部とを備える。
【0012】
本発明による人工知能システムは、上記の磁気メモリ素子が、抵抗クロスバーネットワークの加重和が入力される電子ニューロンに用いられている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、重金属層がHfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの層であるので、消費電力を抑制し、重金属層のラフネスを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態の磁気メモリ素子を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の磁気メモリ素子をy方向に垂直な面で切断した断面を示す概略図である。
【
図3】
図3は、データ“1”を記憶している磁気メモリ素子にデータ“0”を書き込む方法を説明する概略断面図であり、初期状態を示している。
【
図4】
図4は、データ“1”を記憶している磁気メモリ素子にデータ“0”を書き込む方法を説明する概略断面図であり、書き込み電流を流してデータが書き込まれた状態を示している。
【
図5】
図5は、データ“0”を記憶している磁気メモリ素子にデータ“1”を書き込む方法を説明する概略断面図であり、初期状態を示している。
【
図6】
図6は、データ“0”を記憶している磁気メモリ素子にデータ“1”を書き込む方法を説明する概略断面図であり、書き込み電流を流してデータが書き込まれた状態を示している。
【
図7】磁気メモリ素子に記憶されたデータの読み出し方法を説明する概略断面図である。
【
図8】
図8は、検証実験用の試料の構成を示す模式的な斜視図である。
【
図9】
図9は、比較例の試料の模式的な断面図である。
【
図10】
図10は、実施例1及び実施例2の試料の模式的な断面図である。
【
図13】
図13は、実施例1の磁性積層膜の断面のTEM画像である。
【
図14】
図14は、実施例3の磁性積層膜の断面のTEM画像である。
【
図15】
図15は、検証実験2のコンダクタンスの重金属層膜厚依存性を示すグラフである。
【
図16】
図16は、検証実験2の電気抵抗率を示すグラフである。
【
図17】
図17は、実施例2の試料の検証実験3の電気抵抗の磁場依存性を示すグラフである。
【
図18】
図18は、実施例3の試料の検証実験3の電気抵抗の磁場依存性を示すグラフである。
【
図19】
図19は、検証実験3のスピンホール磁気抵抗比の膜厚依存性を示すグラフである。
【
図20】
図20は、検証実験4のスピン生成効率を示すグラフである。
【
図21】
図21は、検証実験5のスピン拡散長を示すグラフである。
【
図22】
図22は、検証実験6の磁気異方性定数と記録層(強磁性層)の実効膜厚の積の膜厚依存性を示すグラフである。
【
図23A】
図23Aは、本発明の第2実施形態の磁気メモリ素子の一例の柱状のMTJを示す平面図である。
【
図23B】
図23Bは、本発明の第2実施形態の磁気メモリ素子の他の一例の柱状のMTJを示す平面図である。
【
図24】
図24は、
図23Aの磁気メモリ素子のアレイを用いた磁気メモリの一例を示す概略斜視図である。
【
図25A】
図25Aは、本発明の第2実施形態の磁気メモリ素子の他の一例の柱状のMTJを示す平面図である。
【
図25B】
図25Bは、本発明の第2実施形態の磁気メモリ素子の他の一例の柱状のMTJを示す平面図である。
【
図26A】
図26Aは、本発明の第2実施形態の磁気メモリ素子の他の一例の柱状のMTJを示す平面図である。
【
図26B】
図26Bは、本発明の第2実施形態の磁気メモリ素子の他の一例の柱状のMTJを示す平面図である。
【
図27A】
図27Aは、本発明の第3実施形態の磁気メモリ素子の一例の柱状のMTJを示す平面図である。
【
図29】
図29は、本発明の第3実施形態の磁気メモリ素子を用いたAIシステムの一例を示す概略斜視図である。
【
図30】
図30は、磁気メモリ素子を用いたAIシステムの一例の回路図である。
【
図31】
図31は、磁気メモリ素子を用いたAIシステムの他の一例を示す概略斜視図である。
【
図32】
図32は、磁気メモリ素子を用いたAIシステムの他の一例の平面図である。
【
図33】
図33は、磁気メモリ素子を用いたAIシステムの他の一例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)第1実施形態
(1-1)第1実施形態の磁性積層膜の全体構成
以下、
図1及び
図2を参照して、本発明の実施形態の磁性積層膜1について説明する。
図1は、磁性積層膜1を用いて作製された磁気メモリ素子100を示す斜視図である。磁気メモリ素子100は、それぞれ強磁性層からなる記録層10と参照層12との磁化方向が膜面に対して垂直方向である垂直磁化タイプのSOT-MRAM素子である。本明細書では、
図1に示すように、重金属層2の長手方向(後述の書き込み電流を流す方向)をx方向(紙面右上方向を+x方向)とし、短手方向をy方向(斜視図では紙面左上方向を+y方向)とし、重金属層2の表面に対して垂直方向をz方向(紙面上方向を+z方向)としている。また、
図2は、磁気メモリ素子100のy方向に垂直な面での断面を示す概略図である。本明細書では、+z方向を例えば上側及び上部などとも称し、-z方向を例えば下側及び下部などとも称することとする。
【0016】
図1に示すように、磁性積層膜1は、Hfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの重金属層2と、重金属層2と隣接して設けられた記録層10とを備えている。本実施形態では、重金属層2は、第1方向(x方向)に延伸された直方体形状をしており、上面から見たとき長方形状をしている。重金属層2の膜厚(z方向の長さ)は、1.4nm以上9nm以下、好ましくは1.8nm以上7nm以下とするのがよい。電子スピンの拡散長が0.6~1.5nm程度であるので、膜厚が1.8nm(電子スピン拡散長の下限0.6nmの3倍)以上4.5nm(電子スピン拡散長の上限1.5nmの3倍)以下であるのが望ましい。また、スピン反転に寄与しなくなるためには、スピン拡散長の6倍の膜厚は厚すぎるため膜厚が9nm(電子スピン拡散長の上限1.5nmの6倍)以下、より好ましくはスピン拡散長の4~5倍の膜厚である7nm以下である。
【0017】
重金属層2は、長さ(x方向の長さ)10nm以上260nm以下程度、幅(y方向の長さ)5nm以上150nm以下程度の長方形状とするのが望ましい。本実施形態では、重金属層2は、重金属層2のy方向の幅を記録層10の幅よりも大きくなるようにしているが、セルフアラインプロセスで作製した場合は、ほぼ同じとすることが可能で、より好ましい。
【0018】
また、重金属層2の長さは、電流さえ流すことができれば短ければ短いほどよく、このようにすることで、磁気メモリ素子100を用いて磁気メモリを作製した際、磁気メモリを高密度化できる。重金属層2の幅は、MTJの幅と同じ長さにするのが望ましく、このようにすることで、磁性積層膜1を用いた磁気メモリ素子100の書込み効率が最も良くなる。重金属層2の形状は、このようにするのが望ましいが、特に限定されない。なお、重金属層2の長さは、重金属層2が1つの記録層10を備えるときに望ましい長さであり、1つの重金属層2が複数の記録層10を備え、第1方向に複数のMTJが配列される場合、すなわち、複数の磁気メモリ素子100が1つの重金属層2を共有するようにする場合は、この限りではない。
【0019】
重金属層2は、Hfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの層で形成されており、導電性を有している。第2層は、例えば、WまたはW合金を含有する、あるいは、Co、Fe及びBから選択される1種以上の元素を含有する。また、例えば重金属層2のうちの最も記録層10側の層は、第1層である。第1層(以下、Hf層とも称する)は、ハフニウム(Hf)で形成された薄膜である。重金属層2を上記の組成で形成することで、重金属層がβ相W(β-W)と同等のスピン生成効率(θSH)を確保でき、高いスピン反転効率を実現できる。スピン生成効率は書き込み電流密度と反比例するので、スピン生成効率が上昇すると、書き込み電流密度を減少でき、磁性積層膜1を用いた磁気メモリ素子100の書き込み効率を向上できる。Hfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの層の電気抵抗率は160~200μΩcmであり、従来のβ-Wの電気抵抗率(およそ210μΩcm程度)と比較して電気抵抗率が低い。このため、重金属層2での読み出し電流による電圧降下を小さくでき、磁気メモリ素子100の読み出しの遅延を抑制できるほか、消費電力を削減できる。
【0020】
本実施形態では、このような重金属層2が、例えば、Si、SiO2あるいはSiNなどで形成された基板5に設けられている。基板5は、一表面に、例えば、Taなどで形成され、厚さが0.5nm~7.0nm程度のバッファ層4が設けられている。重金属層2は、このバッファ層4に隣接して設けられている。基板5としては、FET型のトランジスタや金属配線などが形成された基板などの回路基板であってもよい。この場合、バッファ層4にスルーホールを設けて、重金属層2と基板5に形成された配線などとをコンタクトする。
【0021】
記録層10は、重金属層2のバッファ層4と隣接する面の反対側の面に隣接して形成されている。記録層10は、磁化方向が反転可能な強磁性層により形成されている。記録層10の厚さは、0.8nm~5.0nm、望ましくは、1.0nm~3.0nmである。本実施形態は、記録層10が円柱形状に形成されているが、記録層10の形状は限定されない。
【0022】
記録層10は、強磁性体で形成された強磁性膜である。記録層10は、磁気メモリ素子100を作製するとき、記録層10と後述の障壁層11の界面で界面磁気異方性が生じるように、障壁層11の材質や厚さを考慮して、材質と厚さが選定される。そのため、記録層10は、記録層10と障壁層11との界面で生じた界面磁気異方性によって、膜面に対して垂直方向(以下、単に垂直方向という。)に磁化している。
図1及び
図2では、記録層10の磁化をM10として白抜きの矢印で表しており、矢印の向きが磁化方向を表している。記録層10に、上向きの矢印と下向きの矢印の2つが描かれているのは、記録層10が膜面に対して垂直な方向で磁化反転可能であることを示している。なお、実際には、磁化方向(矢印の方向)を向いていない成分も含まれている。以下、本明細書の図面において磁化を矢印で表した場合は、このことと同様である。
【0023】
このように、記録層10に界面磁気異方性を生じさせるために、記録層10は、CoFeB、FeB又はCoBで形成するのが望ましい。なお、記録層10は、多層膜とすることもでき、その場合は、後述するMgOなどの障壁層11との界面にはCoFeB層、FeB層又はCoB層を配置し、重金属層2とCoFeB層、FeB層又はCoB層との間に、Co/Pt多層膜、Co/Pd多層膜及びCo/Ni多層膜などのCo層を含む多層膜、Mn-Ga、Mn-Ge及びFe-Ptなどの規則合金又はCo-Pt、Co-Pd、Co-Cr-Pt及びCo-Cr-Ta-Pt、CoFeB、FeB、CoBなどのCoを含む合金などを挿入した構成とする。これらの多層膜及び合金は、MTJのサイズに応じて積層数及び膜厚などを適宜調整される。なお、記録層10は、強磁性層と非磁性層が交互に積層された多層膜であってもよく、例えば、強磁性層/非磁性層/強磁性層の3層構造とし、2つの強磁性層の磁化が層間相互作用によって結合するようにしてもよい。この場合、非磁性層は、Ta、W、Mo、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Cr、Au、Cu、Os及びReなどの非磁性体で形成される。
【0024】
また、記録層10を界面磁気異方性によって、垂直方向に磁化させているが、結晶磁気異方性や形状磁気異方性によって、垂直方向に磁化容易軸を生じさせ、記録層10を垂直方向に磁化させるようにしてもよい。この場合は、記録層10は、例えば、Co、Fe、Ni又はMnを少なくとも1つ以上含む合金が望ましい。具体的に説明すると、Coを含む合金としては、Co-Pt、Co-Pd、Co-Cr-Pt及びCo-Cr-Ta-Ptなどの合金が望ましく、特に、これらの合金が、Coを他の元素よりも多く含んでいるいわゆるCo-richであることが望ましい。Feを含む合金としては、Fe-Pt及びFe-Pdなどの合金が望ましく、特に、これらの合金が、Feを他の元素よりも多く含んでいるいわゆるFe-richであることが望ましい。Co及びFeを含む合金としては、Co-Fe、Co-Fe-Pt及びCo-Fe-Pdなどの合金が望ましい。Co及びFeを含む合金は、Co-richであってもFe-richであってもよい。Mnを含む合金としては、Mn-Ga及びMn-Geなどの合金が望ましい。また、上記で説明したCo、Fe、Ni又はMnを少なくとも1つ以上含む合金に、B、C、N、O、P、Al及びSiなどの元素が多少含まれていてもかまわない。
【0025】
なお、アモルファス金属層上にMgOを積層すると(100)方向に配向した単結晶が支配的なMgO層が形成される性質によって、記録層10に隣接してMgO(100)障壁層11を形成しやすくなり、当該記録層10は、アモルファスの層であってもよい。このようにすることで、MgO(100)でなる障壁層11を強磁性体上に(100)高配向膜として面内方向にも大きなグレインで成長させることができ、MgO(100)の配向性の面内均一性が向上し、抵抗変化率(MR変化率)の均一性を向上することが可能である。
【0026】
なお、重金属層2を構成するHf層は、ジルコニウム(Zr)を含んでいてもよい。記録層10は、Hf層に隣接して形成されていることで、強磁性層18の飽和磁化Msが後述の熱処理により増大するのを抑制でき、その結果、書き込み電流密度の上昇も抑制できるので、記録層10の書き込み効率を向上できる。また、Hf層に隣接して形成されていることによって記録層10の磁化が減少するので、反磁界の大きさが減少し、垂直磁気異方性が増大し、垂直方向に磁化し易くなる。また、今回、本実施例の重金属層2/CoFeB界面において、後述するように表面磁気異方性定数の増大も観測された。そのため、記録層10の厚さがより厚いところまで垂直磁化とすることができるので、記録層10の熱的安定性を向上できる。Hf層は、厚さが0.2nm以上、0.7nm以下に、より好ましくは0.3nm以上、0.7nm以下に形成されるのが好ましい。Hf層を層状に形成するには0.2nm程度の厚さが必要であり、Hf層の厚さを0.7nmより厚くしても、スピン生成効率の上昇率が飽和し、書き込み効率があまり向上しない。重金属層2は、例えば、0.35nmの厚さのHf層と0.35nmの厚さの第2層が2~10回交互に積層した構造を有する。2回交互に積層した場合の重金属層2の厚さは1.4nmである。10回交互に積層した場合の重金属層2の厚さは7.0nmである。あるいは、重金属層2は、例えば、0.7nmの厚さのHf層と0.7nmの厚さの第2層が1~7回交互に積層した構造を有する。1回積層した場合の重金属層2の厚さは1.4nmである。5回交互に積層した場合の重金属層2の厚さは7.0nmである。Hf以外の重金属層の膜厚は、その結晶構造がアモルファスを保つ膜厚の範囲内であれば問題なく、3nm以下、より好ましくは1nm以下が好ましい。例えば、Wの場合、(Hf0.3nm/W3nm)nにおいてもアモルファスが保たれていることが確認できた。
【0027】
このようなHf層は、記録層10がB(ホウ素)を含む強磁性体で形成されている場合、例えば、CoFeB、FeB若しくはCoBで形成されている又はこれらの合金を含む強磁性体で形成されている場合に大きな効果を奏する。記録層10が多層構造の場合は、記録層10を構成する層のうちのHf層と隣接する強磁性層をCoFeB、FeB又はCoBで形成するのが好ましい。
【0028】
本実施形態では、磁性積層膜1は、基板5上に、例えば、PVD(Physical Vapor Deposition:物理蒸着法)などの一般的な成膜手法により、バッファ層4、重金属層2、記録層10の順に成膜することで形成される。重金属層2は、所定の厚さのHf層と第2層(例えばW層)とを交互に積層することで形成される。Hf層/第2層の積層膜は、後述の磁気メモリ素子100作製の際の熱処理によりアモルファスの膜となる。タングステン膜及びタンタル膜の厚さを適宜変えることやターゲットの組成を変えること、成膜レートを変えることなどは、適宜調整できる。なお、上記の説明で便宜上「膜」と表記しているが、必ずしも、膜が全面に形成されていなくてもよい。また、記録層10は、公知のリソグラフィ技術により成型される。
【0029】
(1-2)第1実施形態の磁性積層膜を用いた磁気メモリ素子
次に、
図1及び
図2を参照して、第1実施形態の磁性積層膜1を用いた磁気メモリ素子100について説明する。磁気メモリ素子100は、重金属層2に隣接して、磁性積層膜1の記録層10と障壁層11と参照層12とを有するMTJを備えるSOT-MRAM素子タイプの磁気メモリ素子である。本実施形態では、記録層10の形状に合わせて、MTJを円柱形状としているが、MTJの形状は限定されない。
【0030】
磁気メモリ素子100の重金属層2及び記録層10については、上記で説明したので説明を省略する。障壁層11は、記録層10に隣接して形成されている。障壁層11は、MgO、Al2O3、AlN、MgAlOなどの絶縁体、特にMgOで形成されるのが望ましい。また、障壁層11の厚さは、0.1nm~2.5nm、望ましくは、0.5nm~1.5nmである。
【0031】
参照層12は、図面上単層構成を示しているがこれに限らず、例えば、強磁性層、非磁性層及び強磁性層がこの順に積層された3層積層膜からなる3層の積層フェリ構造を有する。この場合、一方の強磁性層の磁化の向きと他方の強磁性層の磁化の向きとは反平行である。一方の強磁性層の磁化が-z方向を向いており、他方の強磁性層の磁化が+z方向を向いている。本明細書では、磁化方向が反平行といった場合、磁化の方向が概ね180度異なることをいい、磁化が+z方向を向いている場合を上向き、磁化が-z方向を向いている場合を下向きということとする。
【0032】
また、本実施形態では、参照層12の最も障壁層11側の強磁性層と障壁層11との界面で界面磁気異方性が生じるように、参照層12の最も障壁層11側の強磁性層の材質と厚さが選定されている。これにより、参照層12の最も障壁層11側の強磁性層の磁化方向が膜面に対して垂直方向となるようにしている。上記のように参照層12を積層フェリ構造とし、参照層12の一方の強磁性層の磁化と他方の強磁性層の磁化とを反強磁性的に結合することで、参照層12の一方の強磁性層の磁化と他方の強磁性層の磁化とを垂直方向に固定している。このように、参照層12は、磁化が垂直方向に固定されている。なお、参照層12の一方の強磁性層の磁化と他方の強磁性層の磁化とを層間相互作用によって反強磁性的に結合して磁化方向を固定してもよい。
【0033】
本実施形態では、参照層12の磁化M12を下向きに固定しているが、これに限らない。参照層12の磁化M12を上向きに固定してもよい。上記のように参照層12を積層フェリ構造としたとき、参照層12の一方の強磁性層の磁化を下向きに固定し、他方の強磁性層の磁化を上向きに固定するようにしてもよい。あるいは、参照層12の一方の強磁性層の磁化を上向きに固定し、他方の強磁性層の磁化を下向きに固定するようにしてもよい。さらに、結晶磁気異方性又は形状磁気異方性によって、参照層12の一方の強磁性層及び他方の強磁性層の磁化方向を垂直方向とし、一方の強磁性層の磁化と他方の強磁性層の磁化とを層間相互作用によって反強磁性的に結合して磁化方向を固定することで、一方の強磁性層の磁化及び他方の強磁性層の磁化の向きを垂直方向に固定するようにしてもよい。
【0034】
参照層12の一方の強磁性層及び他方の強磁性層は、記録層10と同様の材料で形成することができ、参照層12を構成する非磁性層は、Ir、Rh、Ru、Os、Re又は、RuIr,RuRh,RuFeなどの、これら合金などで形成することができる。上記の非磁性層は、Ruの場合は0.4nm~1.0nm、Irの場合は0.4nm~0.7nm、Rhの場合は0.7nm~1.0nm、Osの場合は0.75nm~1.2nm、Reの場合は0.5nm~0.95nm程度の厚さに形成する。例えば、参照層12を、一方の強磁性層:障壁層11側からCoFeB(1.2nm)/W(0.3nm)/Co(0.5nm)/(Pt(0.8nm)/Co(0.25nm))3/(Pt(0.25nm)/Co(0.5nm))2、非磁性層:Ru(0.85nm)、他方の強磁性層:非磁性層側からCo0.5nm/(Pt0.25nm/Co0.5nm)7が積層した構成とする。一方の強磁性層をCo-Fe-Bとすることで、一方の強磁性層の磁化方向を界面磁気異方性によって垂直方向にすることができる。なお、「(Pt(0.8nm)/Co(0.25nm))3」という記載の括弧の後の「3」という数字は、Pt(0.8nm)/Co(0.25nm)2層膜が3回繰り返し積層されていることを意味している(すなわち、合計6層膜である。)。「(Pt(0.25nm)/Co(0.5nm)2」という記載の「2」、「(Pt0.25nm/Co0.5nm)7」という記載の「7」についても同様である。
【0035】
一方の強磁性層は、上記のように、障壁層11上に、例えば、CoFeB、FeB又はCoBなどで構成される強磁性層(0.6nm~2.0nm程度)、Ta、W又はMoなどを含む非磁性層(1.0nm以下)、強磁性層の順に積層した3層膜であってもよい。非磁性層の上下の強磁性層は、層間相互作用によって強磁性的に結合する。一方の強磁性層は、例えば、強磁性層:Co-Fe-B(1.5nm)/非磁性層:Ta(0.5nm)/強磁性層:垂直磁気異方性を有する結晶質強磁性層などのように構成する。このようにすると、強磁性層の磁化方向が垂直方向となり、強磁性層と非磁性層を挟んで向かい合う強磁性層の磁化方向も垂直方向となり、一方の強磁性層の磁化方向を垂直方向とすることができる。
【0036】
キャップ層13は、例えばTaなどの導電性材料で形成された1.0nm程度の層であり、参照層12に隣接して形成されている。なお、磁気メモリ素子100は、キャップ層13を有していなくてもよい。また、キャップ層13は、MgOなどの非磁性層で形成されていてもよい。この場合、例えば、キャップ層13をトンネル電流が流れるようにするなどして、第3端子T3から参照層12に電流が流れるようにされる。
【0037】
このような磁気メモリ素子100は、磁性積層膜1の記録層10上に、例えば、PVD(Physical Vapor Deposition:物理蒸着法)などの一般的な成膜手法により、障壁層11、参照層12、キャップ層13の順に積層し、その後、300℃~400℃程度の温度で熱処理することで作製される。なお、重金属層2の全面に、記録層10、障壁層11、参照層12、キャップ層13をこの順に成膜し、リソグラフィ技術などによりMTJを成型することで作製してもよい。
【0038】
また、磁気メモリ素子100には、電圧を印加したり、電流を流したりして書き込み動作や読み込み動作をするための3つの端子(第1端子T1、第2端子T2、第3端子T3)が接続されている。磁気メモリ素子100は、3端子の素子である。第1端子T1、第2端子T2及び第3端子T3は、例えばCu、Al、W及びAuなどの導電性を有する金属で形成された部材であり、その形状は特に限定されない。
【0039】
第1端子T1と第2端子T2とは、両端子間にMTJが配置されるように、重金属層2の一端部と他端部とに設けられている。本実施形態では、重金属層2の第1方向の一端部の表面に第1端子T1が設けられ、重金属層2の第1方向の他端部の表面に第2端子T2が設けられている。第1端子T1はFET型の第1トランジスタTr1が接続され、第2端子T2はグラウンドに接続されている。第1トランジスタTr1は、例えば、ドレインが第1端子T1に接続され、ソースが第1ビット線に接続されて書き込み電圧Vwを供給する書き込み電源に接続され、ゲートがワード線に接続されている。
【0040】
書き込み電源は、第1ビット線を介して、電圧レベルを書き込み電圧Vwに設定でき、第1トランジスタTr1をオンにすることで、書き込み電圧Vwを第1端子T1に印加でき、第1端子T1と第2端子T2の間で書き込み電圧Vwの値に応じた書き込み電流Iwが流れる。例えば、書き込み電圧Vwの値をグラウンドよりも高くすることで、第1端子T1から第2端子T2に書き込み電流Iwを流し、書き込み電圧Vwの値をグラウンドより低くすることで、第2端子T2から第1端子T1に書き込み電流Iwを流す。このように、第1端子T1及び第2端子T2は、重金属層2(の一端部と他端部)に接続され、重金属層2に記録層10の磁化の方向を反転させる書き込み電流Iwを流す。
【0041】
第3端子T3は、キャップ層13上にキャップ層13と接して設けられている。本実施形態では、第3端子T3は、面内方向に切断した断面形状がMTJと同じ円形状をした円柱形状の薄膜であり、MTJ(キャップ層13)の上面に配置され、当該上面の全面をカバーしており、キャップ層13を介して参照層12と電気的に接続されている。また、本実施形態では、FET型の第3トランジスタTr3が第3端子T3に接続されている。第3トランジスタTr3は、例えば、ドレインが第3端子T3に接続され、ソースが第2ビット線に接続されて読み出し電圧VReadを供給する読み出し電源に接続され、ゲートが読み出し電圧線に接続されている。読み出し電源は、第2ビット線を介して、電圧レベルを読み出し電圧VReadに設定でき、第3トランジスタTr3をオンとすることで、第3端子T3に読み出し電圧VReadを印加できる。
【0042】
また、第1トランジスタTr1と第3トランジスタTr3をオンにすることで、第1端子T1と第3端子T3の間で、第1端子T1と第3端子T3の電位差に応じてMTJの抵抗値を読み取るための読み出し電流Irが流れる。例えば、VwをVReadより高く設定することで、第1端子T1から重金属層2及びMTJを介して第3端子T3へ、読み出し電流Irを流すことができる。
【0043】
本実施形態では、重金属層2の上部(MTJが設けられた面)に第1端子T1と第2端子T2とを設け、上側から磁気メモリ素子100へのコンタクトを取るようにしているが、これに限られない。例えば、重金属層2の下部に(MTJが設けられた面の裏側の面に隣接して)設けられたバッファ層4に隣接して第1端子T1と第2端子T2とを設け、下側から磁気メモリ素子100へのコンタクトを取るようにしてもよい。また、第2端子T2をグラウンドではなく、例えば、第2トランジスタTr2を介して第3ビット線に接続し、第1ビット線に接続した第1端子T1と第2端子T2の電位差に応じて書き込み電流Iwを流す方向を変えるようにしてもよい。この場合、例えば、第1ビット線をHighレベルに設定し、第3ビット線をLowレベルに設定し、第1端子T1の電位を第2端子T2の電位より高くして、第1端子T1から第2端子T2に書き込み電流Iwを流す。そして、第1ビット線をLowレベルに設定し、第3ビット線をHighレベルに設定し、第2端子T2の電位を第1端子T1の電位より高くして、第2端子T2から第1端子T1に書き込み電流Iwを流す。また、読み出し時は、第2トランジスタTr2をオフにすることで、第2端子T2へ読み出し電流が流れないようにすることができる。
【0044】
(1-3)磁気メモリ素子の書き込み方法及び読み出し方法
このような磁気メモリ素子100の書き込み方法について、
図1と同じ構成には同じ番号を付した
図3、
図4、
図5、
図6を参照して説明する。磁気メモリ素子100は、記録層10と参照層12の磁化方向が、平行か、反平行かによって、MTJの抵抗が変化する。参照層12が積層膜である場合には、記録層10の磁化方向と、障壁層11に接する参照層12の強磁性層の磁化方向とが、平行か、反平行かによってMTJの抵抗が変わる。また、記録層10も積層膜である場合には、記録層10の障壁層11に接する強磁性層の磁化方向と、参照層12の障壁層11に接する強磁性層の磁化方向とが、平行か、反平行かによってMTJの抵抗が変わる。
【0045】
本明細書では、記録層10と参照層12が平行状態といった場合は、記録層10や参照層12が積層膜で、記録層10の障壁層11に接する強磁性層の磁化方向と、参照層12の障壁層11に接する強磁性層との磁化方向が平行な状態も含むものとする。そして、記録層10と参照層12が反平行状態といった場合は、記録層10や参照層12が積層膜で、記録層10の障壁層11に接する強磁性層の磁化方向と、参照層12の障壁層11に接する強磁性層との磁化方向が反平行な状態であることを指すものとする。
【0046】
磁気メモリ素子100では、平行状態と反平行状態とでMTJの抵抗値が異なることを利用して、平行状態と反平行状態とに“0”と“1”の1ビットデータを割り当てることにより、磁気メモリ素子100にデータを記憶させる。磁気メモリ素子100は、記録層10の磁化方向が反転可能なので、記録層10の磁化方向を反転させることで、MTJの磁化状態を平行状態と反平行状態との間で遷移させ、“0”を記憶したMTJ(以下、ビットともいう)に“1”を記憶させ、“1”を記憶したビットに“0”を記憶させる。本明細書では、このように、記録層10の磁化方向を反転させてMTJの抵抗値を変化させることを、データを書き込むともいうこととする。
【0047】
磁気メモリ素子100の書き込み方法についてより具体的に説明する。本実施形態では、重金属層2がHfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの層で形成されており、Hf,Ta,W,Re,Osまたはこれら合金などのLess than Halfの元素はスピンホール角の符号が負である。そこで、重金属層2のスピンホール角が負である場合を例として説明する。また、図示しない磁場発生装置により、x方向(重金属層2の長手方向)に外部磁場H0を印加できるものとする。
【0048】
まず、データ“1”を記憶している磁気メモリ素子100にデータ“0”を書き込む場合を説明する。この場合、初期状態では、
図3に示すように、磁気メモリ素子100は、データ“1”を記憶しており、記録層10の磁化方向が上向きで、参照層12の障壁層11と接する強磁性層の磁化方向が下向きであり、MTJが反平行状態であるとする。そして、第1トランジスタTr1及び第3トランジスタTr3はオフにされているものとする。最初に、
図3に示すように+x方向に外部磁場H
0を印加する。
【0049】
次いで、
図4(
図4では書き込み後の記録層10の磁化方向を示している)に示すように、第1トランジスタTr1をオンにし、第1端子T1に書き込み電圧V
wを印加する。このとき、書き込み電圧V
wが、グラウンド電圧よりも高く設定されているので、第1端子T1から重金属層2を介して第2端子T2へ書き込み電流I
wが流れ、重金属層2の一端部から他端部へと+x方向に書き込み電流I
wが流れる。第3トランジスタTr3がオフであるので、第1端子T1からMTJを介して第3端子T3へ電流は流れない。本実施形態では、書き込み電流I
wは重金属層2の一端部と他端部との間を流れる。書き込み電流I
wはパルス電流であり、第1トランジスタTr1をオンとする時間を調整することで、パルス幅を変えることができる。
【0050】
重金属層2に書き込み電流I
wが流れると、重金属層2内で、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果によってスピン流(スピン角運動の流れ)が生じ、紙面手前側(
図1では-y方向)を向いたスピンが重金属層2の上面側(+z方向)に流れ、当該スピンと向きが反平行で紙面奥側(
図1では+y方向)を向いたスピンが重金属層2の下面側(-z方向)に流れて、重金属層2内でスピンが偏在する。そして、重金属層2を流れるスピン流によって、-y方向を向いたスピンが記録層10に流入する。
【0051】
このとき、記録層10の強磁性層では、流入したスピンによって磁化M10に+x方向のトルクが働き、トルクによって磁化M10が+x方向に回転し、上向きの磁化M10が反転して下向きとなりMTJが平行状態となる。このとき、外部磁場H0が+x方向にかかっているため、外部磁場H0によってスピンによるトルクが打ち消され、これ以上磁化M10は回転せず、磁化M10は-z方向を向いた状態となる。その後、第1トランジスタTr1をオフにして書き込み電流を止めることで、磁化M10が-z方向に固定され、データ“0”が記憶される。
【0052】
次に、データ“0”を記憶している磁気メモリ素子100にデータ“1”を書き込む場合を説明する。
【0053】
この場合、初期状態では、磁気メモリ素子100は、データ“0”を記憶しており、記録層10の磁化方向が下向きで、参照層12の障壁層11と接する強磁性層の磁化方向が下向きであり、MTJが平行状態であるとする。そして、第1トランジスタTr1及び第3トランジスタTr3はオフにされているものとする。最初に、
図5に示すように+x方向に外部磁場H
0を印加する。
【0054】
次に、
図6(
図6では書き込み後の記録層10の磁化方向を示している)に示すように、第1トランジスタTr1をオンにし、第1端子T1に書き込み電圧V
wを印加する。このとき、書き込み電圧V
wが、グラウンド電圧よりも低く設定されているので、第2端子T2から重金属層2を介して第1端子T1へ書き込み電流I
wが流れ、重金属層2の一端部から他端部へと-x方向に書き込み電流I
wが流れる。
【0055】
重金属層2に書き込み電流I
wが流れると、重金属層2内で、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果によってスピン流(スピン角運動の流れ)が生じ、紙面奥側(
図1では+y方向)を向いたスピンが重金属層2の上面側(+z方向)に流れ、当該スピンと向きが反平行で紙面手前側(
図1では-y方向)を向いたスピンが重金属層2の下面側(-z方向)に流れて、重金属層2内でスピンが偏在するそして、重金属層2を流れるスピン流によって、+y方向を向いたスピンが記録層10に流入する。
【0056】
このとき、記録層10の強磁性層では、流入したスピンによって磁化M10に-x方向のトルクが働き、トルクによって磁化M10が-x方向に回転し、下向きの磁化M10が反転して上向きとなりMTJが反平行状態となる。このとき、外部磁場H0が+x方向にかかっているため、外部磁場H0によってスピンによるトルクが打ち消され、これ以上磁化M10は回転せず、磁化M10は+z方向を向いた状態となる。その後、第1トランジスタTr1をオフにして書き込み電流を止めることで、磁化M10が+z方向に固定され、データ“1”が記憶される。このように、重金属層2に書き込み電流Iwを流すことで、記録層10を磁化反転し、データを書き換えることができる。
【0057】
このように、磁気メモリ素子100では、重金属層2の一端部と他端部との間に書き込み電流Iwを流すことで、MTJの記録層10の磁化方向を反転させ、データ“0”又はデータ“1”を書き込むことができる。
【0058】
なお磁気メモリ素子100は、重金属層2の一端部(第1端子T1)と他端部(第2端子T2)の間に電圧を印加して、重金属層2に書き込み電流を流すと共に、第3端子T3を介してMTJに電圧を印加して記録層10の強磁性層の磁気異方性を小さくすることで、重金属層2から注入されるスピンによって記録層10の磁化M10を磁化反転するようしてもよい。
【0059】
また、上記例では磁場発生装置により、x方向(重金属層2の長手方向)に外部磁場H0を印加した例を示したが、これに限定されない。例えば、上述の電圧印加の方法又は後述するMTJの形状を工夫することにより、外部磁場発生装置は必ず必要なわけではない。
【0060】
続いて読みだし方法について
図7を用いて説明する。このとき、初期状態では、すべてのトランジスタがオフにされているものとする。まず、書き込み電圧V
wを読み出し電圧V
Readより高い電圧に設定する。次に、読み出しは、第1トランジスタTr1と第3トランジスタTr3とをオンにして、第1端子T1に書き込み電圧V
wを印加し、第3端子T3に読み出し電圧V
Readを印加する。このとき、書き込み電圧V
wが読み出し電圧V
Readよりも高く設定されているので、第1端子T1から重金属層2、記録層10、障壁層11、参照層12、キャップ層13、第3端子T3の順に読み出し電流I
rが流れる。読み出し電流I
rは、障壁層11を貫通して流れる。読み出し電流I
rは、不図示の電流検出器で検出される。読み出し電流I
rは、MTJの抵抗値によって大きさが変わるので、読み出し電流I
rの大きさからMTJが平行状態か反平行状態か、すなわち、MTJがデータ“0”を記憶しているか、データ“1”を記憶しているかを読み出すことができる。読み出し電流I
rは、パルス電流であり、第3トランジスタTr3をオンにする時間を調整することで、パルス幅を調整する。
【0061】
なお、読み出し電流Irは、読み出し電流IrがMTJを流れたとき、読み出し電流Irによって記録層10がスピン注入磁化反転しない程度の弱い電流に設定するのが望ましい。書き込み電圧Vwと読み出し電圧VReadの電位差を適宜調整して、読み出し電流Irの大きさを調整する。また、第1トランジスタTr1をオンにして書き込み電圧Vwをオンにしてから、第3トランジスタTr3をオンにして読み出し電圧VReadをオンにするのが望ましい。このようにすることで、第3端子T3からMTJを介して第2端子T2へ電流が流れることを抑制でき、MTJに読み出し電流以外の電流が流れることを抑制できる。
【0062】
その後、第3トランジスタTr3をオフにした後、第1トランジスタTr1をオフにする。第1トランジスタTr1を第3トランジスタTr3より後にオフにすることで、すなわち、書き込み電圧Vwを読み出し電圧VReadより後にオフにすることで、第3端子T3からMTJ及び重金属層2を介して第2端子T2へ、読み出し電圧VReadとグラウンド電圧との電位差に応じた電流が流れることを抑制できる。よって、磁気メモリ素子100は、障壁層11を保護でき、障壁層11をさらに薄くすることもでき、さらには、MTJを流れる電流によって記録層10の磁化状態が変化するReadディスターブも抑制することができる。
【0063】
(1-4)作用及び効果
以上に示すように、第1実施形態の磁性積層膜1は、磁気メモリ素子用の積層膜であって、Hfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの重金属層と、磁化方向が反転可能な強磁性層を含み、前記重金属層と隣接する記録層とを備えた構成とした。
【0064】
よって、磁性積層膜1は、重金属層2がHfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの層で構成されているので、重金属層の電気抵抗率をβ-Wより低くすることができ、消費電力を抑制できる。また、重金属層のラフネスをβ-Wより小さくすることができ、MTJ特性のばらつきを抑制できる。
【0065】
(検証実験)
(実施例試料及び比較例試料の作成)
以下に示す検証実験を行うために、
図8に示す構成の磁性積層膜1Sを有する試料を作成した。磁性積層膜1Sは、基板5、バッファ層4、重金属層2、記録層10、障壁層11及び導電層20が積層された膜であり、x方向延伸部と、これに交差する3本のy方向延伸部を有する。各部の幅は5.8μmであり、複数のy方向延伸部の間隔(ピッチ)は205μmである。
図8に示すように、外部磁場を印加する場合は、y方向の磁場Hyあるいはz方向の磁場Hzが印加される。x方向延伸部の両端の間に流れる電流を流し、中央と端のy方向延伸部の所定箇所の端部に所定電圧Vを測定した。
【0066】
図9は、比較例の試料の模式的な断面図である。
図10は、実施例1及び実施例2の試料の模式的な断面図である。
図11は、実施例3の試料の模式的な断面図である。実施例1~3あるいは比較例に係る試料を構成する磁性積層膜1Sとしては、基板5として高抵抗Si基板を用い、バッファ層4としてTa(厚さ0.5nm)を形成した。実施例1の試料では、重金属層2としてHfの第1層(厚さ0.35nm)とWの第2層(厚さ0.35nm)を交互に積層したアモルファスの膜(W/Hf)(厚さ1.4nm~7.0nm)を形成した。実施例2の試料では、重金属層2としてHfの第1層(厚さ0.7nm)とWの第2層(厚さ0.7nm)を交互に積層したアモルファスの膜(W/Hf)(厚さ1.4nm~7.0nm)を形成した。実施例3の試料では、重金属層2としてHfの第1層(厚さ0.7nm)とW-Taの第2層(厚さ0.7nm)を交互に積層したアモルファスの膜(W-Ta/Hf)(厚さ1.4nm~7.0nm)を形成した。比較例の試料では、重金属層2aとしてβ相W膜(β-W)(厚さ1.4nm~7.0nm)を形成した。実施例1~3及び比較例において、記録層10として、CoFeB(1.5nm)を形成し、さらに障壁層11としてMgO層(1.0nm)を形成し、さらに導電層20としてTa層(1.0nm)を形成した。
【0067】
実施例1~3及び比較例の磁性積層膜1Sでは、記録層としてのCoFeB層上に障壁層としてMgOを作製し、磁気メモリ素子として用いた場合に近い状態にしている。さらにMgO層上にキャップ層に相当するTaからなる導電層を形成し、大気中の酸素などによりMgO層の状態が変化することを抑制している。このような実施例1~3及び比較例の磁性積層膜1Sは、表面に自然酸化膜であるSiO2層が形成されたSi基板上に、rfマグネトロンスパッタにより各層を順次成膜していくことで作製した。
【0068】
実施例1及び実施例2の重金属層2は、Hf層(第1層)としてハフニウム層(アルゴンガス圧0.3Paで成膜)の形成と、W層(第2層)としてタングステン層(アルゴンガス圧2.55Pa、0.3Paの2つの条件で成膜)の形成とを交互に繰り返して積層し、Ta層からなる導電層を積層後、300℃で熱処理することで作製したアモルファスの層(W/Hf)である。実施例3の重金属層2は、上記の重金属層2の形成方法においてW層(第2層)の代わりにW-Ta層を形成することで作製したアモルファスの層(W-Ta/Hf)である。比較例の重金属層2aは、上記の重金属層2の形成方法においてHf層(第1層)を形成せず、アルゴンガス圧2.55PaでW層(第2層)だけで形成することで作製したβ相W(β-W)である。
【0069】
なお、(W/Hf)のWのガス圧を変えた2つの条件で作製したが、両者とも断面TEMでアモルファスであることが確認され、以下に示す特性も誤差内で一致していることが分かった。アモルファスHfにはさまれることによって、W、W-TaなどのHf以外に重金属もアモルファスとなり、ガス圧を変えても同じものが生成されているため、特性が一緒になったと考えられる。
【0070】
(検証実験1)
検証実験1では、上記の実施例1、実施例3及び比較例の試料の断面のTEM画像を撮影した。
図12は、比較例の試料の断面のTEM画像である。基板(Substrate)上に、バッファ層(Ta)、重金属層(W)、記録層(CoFeB)、障壁層(MgO)及び導電層(Ta)が積層されている。重金属層(W)はβ相W(β-W)である。重金属層(W)の厚さが3nmを超えると、ラフネスが悪くなってしまう。
図12に示す重金属層(W)の厚さは7nmである。重金属層(W)のラフネスが悪いことから、重金属層(W)より上層の界面のラフネスが悪化する。障壁層(MgO)も(100)結晶配向性が低いことがわかる。
【0071】
図13は、実施例1の試料の断面のTEM画像である。基板(Substrate)上に、バッファ層(Ta)、重金属層(W/Hf)、記録層(CoFeB)、障壁層(MgO)及び導電層(Ta)が積層されている。重金属層(W/Hf)はアモルファスである。重金属層(W/Hf)の厚さは7nm程度であり、3nmを超えているが、
図12と比べて重金属層(W/Hf)の表面のラフネスがよく、平坦性が高くなっている。重金属層(W/Hf)のラフネスがよいことから、重金属層(W/Hf)より上層の界面のラフネスもよく、平坦性が高くなっている。このとき、記録層(CoFeB)はアモルファスである。障壁層(MgO)は膜厚1.0nmとなることを想定して成膜したものが、実際は0.9nmであった。明確なMgO(100)結晶配向性を示す結晶性の膜であることがわかる。
【0072】
図14は、実施例3の試料の断面のTEM画像である。基板(Substrate)上に、バッファ層(Ta)、重金属層(W-Ta/Hf)、記録層(CoFeB)、障壁層(MgO)及び導電層(Ta)が積層されている。重金属層(W-Ta/Hf)はアモルファスである。重金属層(W-Ta/Hf)の厚さは7nm程度であり、3nmを超えているが、
図12と比べて重金属層(W-Ta/Hf)の表面のラフネスがよく、平坦性が高くなっている。重金属層(W-Ta/Hf)のラフネスがよいことから、重金属層(W-Ta/Hf)より上層の界面のラフネスもよく、平坦性が高くなっている。このとき、記録層(CoFeB)はアモルファスである。障壁層(MgO)は膜厚1.0nmとなることを想定して成膜したものが、実際は0.9nmであった。明確なMgO(100)結晶配向性を示す結晶性の膜であることがわかる。
【0073】
(検証実験2)
検証実験2では、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例の、重金属層膜厚t(nm)が異なる試料を作製し、それらのコンダクタンスGXX(Ω-1)を測定し、重金属層膜厚t(nm)依存性を求めた。得られたコンダクタンスGXX(Ω-1)の重金属層膜厚t(nm)依存性から、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例の試料の電気抵抗率ρXX(Ωcm)を求めた。
【0074】
図15は、検証実験2のコンダクタンスの重金属層膜厚依存性を示すグラフである。
図15中に、実施例1(Hf(0.35nm)/W(0.35nm)、記号○)、実施例2(Hf(0.7nm)/W(0.7nm)、記号◇)、実施例3(Hf(0.7nm)/W-Ta(0.7nm)、記号■)及び比較例(β-W、記号△)の各コンダクタンスが示されている。実施例1~3のグラフの傾きが、比較例のグラフの傾きより大きいことが確認された。実施例1、実施例2、実施例3及び比較例の、重金属層膜厚t(nm)が異なる試料は、重金属層以外の部分は共通の構造を有しているので、実施例1~3のグラフと比較例のグラフとの相違点は重金属層によりもたらされる特性である。
【0075】
図15の検証実験2のコンダクタンスの重金属層膜厚依存性を示すグラフの傾きの逆数を求めることで、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例の各試料の重金属層の電気抵抗率ρ
XX(μΩcm)が得られる。
図16は、検証実験2の電気抵抗率を示すグラフである。比較例の重金属層(β-W)の電気抵抗率は217.2μΩcmであった。実施例1の重金属層(Hf(0.35nm)/W(0.35nm))の電気抵抗率は176.3~181.2μΩcmであった。実施例2の重金属層(Hf(0.7nm)/W(0.7nm))の電気抵抗率は184.0μΩcmであった。実施例3の重金属層(Hf(0.7nm)/W-Ta(0.7nm))の電気抵抗率は187.7μΩcmであった。実施例1~3の試料は、いずれも比較例の試料より電気抵抗率が低いことが確認された。
【0076】
(検証実験3)
検証実験3では、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例の試料の電気抵抗R
XX(Ω)の外部磁場H(Oe)依存性を求めた。
図17は実施例2(Hf(0.7nm)/W(0.7nm))の試料の抵抗の外部磁場依存性を示すグラフである。外部磁場Hは、y方向の磁場Hyあるいはz方向の磁場Hzが印加される。外部磁場Hが0からy方向あるいはz方向に大きくなるにつれて電気抵抗R
XXは大きくなる。ここで、抵抗の外部磁場依存性は外部磁場の方向に対して異方性を示す。即ち、外部磁場の方向がy方向のときとz方向のときとで抵抗の外部磁場依存性が異なる。
図17において、記号◆は外部磁場の方向がz方向のときの外部磁場依存性を示す。また、
図17において、記号◇は外部磁場の方向がy方向のときの外部磁場依存性を示す。
図18は実施例3(Hf(0.7nm)/W-Ta(0.7nm))の試料の抵抗の外部磁場依存性であり、記号◆は外部磁場の方向がz方向のとき、記号◇は外部磁場の方向がy方向のときの、外部磁場依存性を示す。
【0077】
実施例1、実施例2、実施例3及び比較例の試料の電気抵抗R
XX(Ω)の外部磁場H(Oe)依存性から、スピンホール磁気抵抗比(ΔR
XX/R
XX
H=0)(%)が求められる。スピンホール磁気抵抗比(ΔR
XX/R
XX
H=0)は、y方向とz方向との異なる方向に外部磁場を印加したときの抵抗の差分ΔR
XXの、外部磁場0のときの電気抵抗R
XX
H=0に対する比率(%)である。
図19は、スピンホール磁気抵抗比(ΔR
XX/R
XX
H=0)(%)の、重金属層膜厚t(nm)依存性を示すグラフである。
図19中に、実施例1(Hf(0.35nm)/W(0.35nm)、記号○)、実施例2(Hf(0.7nm)/W(0.7nm)、記号◇)、実施例3(Hf(0.7nm)/W-Ta(0.7nm)、記号■)及び比較例(β-W、記号△)の各スピンホール磁気抵抗比が示されている。実施例1~3では、ピーク位置が膜厚の薄い側になっており、スピン拡散長が短くなっていることを示している。
【0078】
(検証実験4)
検証実験4では、
図19のデータを拡散モデルの式でFittingすることにより、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例の試料のスピン生成効率θ
SHを求めた。
図19の実線および各種点線がFittingした結果であり、良くデータを再現していることがわかる。
図20は、スピン生成効率を示すグラフである。
図20の縦軸は、スピン生成効率の絶対値|θ
SH|である。比較例(β-W)の試料のスピン生成効率が0.2程度であるのに対して、実施例1~3の試料のスピン生成効率は比較例と同程度の高い値であることが確認された。
【0079】
(検証実験5)
検証実験5では、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例の試料のスピン拡散長λ
S(nm)を求めた。
図21は、検証実験5のスピン拡散長を示すグラフである。比較例の試料の重金属層(β-W)ではスピン拡散長は1nm程度であったが、実施例1~3の試料ではスピン拡散長は0.6nm程度であった。
【0080】
(検証実験6)
検証実験6では、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例の試料の磁気異方性定数K
effと記録層(強磁性層)の実効膜厚t
*の積をVSM(Vibrating Sample Magnetometer:振動試料型磁力計)で評価した。VSMで評価した磁気異方性定数K
effと実効膜厚t
*の積の結果を
図22に示す。
図22において、横軸は記録層(強磁性層)の膜厚t(nm)である。
図22中に、実施例1(Hf(0.35nm)/W(0.35nm)、記号○)、実施例2(Hf(0.7nm)/W(0.7nm)、記号◇)、実施例3(Hf(0.7nm)/W-Ta(0.7nm)、記号■)及び比較例(β-W、記号△)の各グラフが示されている。
【0081】
図22において、磁気異方性定数K
effと記録層(強磁性層)の実効膜厚t
*の積が正となる領域では、磁化方向が垂直方向である強磁性層であることを示す。また、磁気異方性定数K
effと記録層(強磁性層)の実効膜厚t
*の積が負となる領域では、磁化方向が面内方向である強磁性層であることを示す。
図22から、比較例では記録層(強磁性層)の膜厚を1nm以下にまで薄くしないと垂直方向に磁化可能な膜とならないことが確認された。実施例1~3のグラフは、比較例のグラフに対して縦軸の正方向にシフトした位置となっている。即ち、記録層(強磁性層)の膜厚を1.4nm程度にまで厚くしても垂直方向に磁化可能な膜を実現できることを示している。
【0082】
上記の各検証実験において、電気抵抗率(μΩcm)、1/Jsに比例するスピン生成効率(スピンホール角)、消費電力の相対値(比較例β-Wを1としたとき)を、各重金属層材料に対して、表1にまとめて示す。各重金属層材料は実施例1(Hf(0.35nm)/W(0.35nm))、実施例2(Hf(0.7nm)/W(0.7nm))、実施例3(Hf(0.7nm)/W-Ta(0.7nm))及び比較例(β-W)である。
【0083】
【0084】
(2)第2実施形態
(2-1)第2実施形態の磁気メモリ素子の全体構成
図23Aを参照して、本発明の第2実施形態の磁気メモリ素子100Aについて説明する。
図23Aは、磁気メモリ素子の一例の柱状のMTJを示す平面図である。磁気メモリ素子100AのMTJは略円柱状であり、略円柱状の外周面から内側にかけて一部に切欠き部NAが設けられている。切欠き部NAは、
図23Aに示すように、MTJの平面図上の形状が書き込み電流I
wに沿った方向のいずれの線に対しても非対称となる位置に設けられている。切欠き部NAにおけるMTJの表面は、略円柱状の外周方向に凸の形状となっている。
図23Bは、本発明の第2実施形態の磁気メモリ素子の他の一例の柱状のMTJを示す平面図である。
図23Aに示す磁気メモリ素子100Aのように、切欠き部NAは、第3象限から第2象限及び第4象限にかかる範囲で設けられるような大きさでもよく、
図23Bに示す磁気メモリ素子100AXのように、第3象限においてのみ設けられるような大きさでもよい。
図23A及び
図23Bでは主に第3象限において欠けている例を示したが、第1象限、第2象限、第3象限、第4象限のいずれかが欠けていればよい。
【0085】
図23Cは、
図23Aに示した磁気メモリ素子100Aを示す斜視図である。
図23Cに示すように、磁性積層膜1Aは、Hfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの重金属層2と、重金属層2と隣接して設けられた記録層10Aとを備えている。本実施形態では、重金属層2は、第1方向(x方向)に延伸された直方体形状をしており、上面から見たとき長方形状をしている。重金属層2の構成は第1実施形態と同様である。
図23Bに示した磁気メモリ素子100AXも同様の構成となるので、以下では磁気メモリ素子100Aで代表して説明する。
【0086】
本実施形態では、重金属層2が、例えば、SiやSiO2などで形成された基板5に設けられている。基板5は、一表面に、例えば、Taなどで形成されたバッファ層4が設けられている。重金属層2は、このバッファ層4に隣接して設けられている。
【0087】
記録層10Aは、重金属層2のバッファ層4と隣接する面の反対側の面に隣接して形成されている。記録層10Aは、磁化方向が反転可能な強磁性層により形成されている。記録層10Aの重金属層2と隣接する面の反対側の面に隣接して、障壁層11A、参照層12A及び導電層13Aがこの順に積層されており、導電層13Aに接続して第3端子T3Aが設けられている。また、重金属層2には、第1端子T1及び第2端子T2が接続して設けられている。記録層10A、障壁層11A、参照層12A、導電層13A及び第3端子T3Aの積層体は、切欠き部NAが設けられた略円柱状の形状を有している。
【0088】
上記のように、記録層10A、障壁層11A及び参照層12Aの積層体の、重金属層2とは反対側から見た形状が、書き込み電流Iwに沿った方向のいずれの線に対しても非対称である。記録層10A、障壁層11A、参照層12A、導電層13A及び第3端子T3Aの材料及び膜厚などは、第1実施形態と同様である。
【0089】
磁気メモリ素子100Aの書き込み方法及び読み出し方法は、第1実施形態と同様にして行うことができる。ここで、上記のように記録層10A、障壁層11A及び参照層12Aの積層体の、重金属層2とは反対側から見た形状が、書き込み電流Iwに沿った方向のいずれの線に対しても非対称であることにより、書き込み時において、外部磁場がなくても磁化方向を反転することが可能である。
【0090】
(2-2)磁気メモリの全体構成
図24は、
図23Aの磁気メモリ素子100Aのアレイを用いた磁気メモリの一例を示す概略斜視図である。共通基板SA
1に5個の磁気メモリ素子M
11~M
51が設けられている。共通基板SA
1は、基板5、バッファ層4及び重金属層2の積層体であり、5個の磁気メモリ素子M
11~M
51に対して共通の基板である。5個の磁気メモリ素子M
11~M
51は、それぞれ記録層10A、障壁層11A、参照層12A、導電層13A及び第3端子T3Aが積層された積層体で構成され、切欠き部を有する略円柱状の形状を有する。共通基板SA
1は、長手方向の一方の端部に設けられた第1端子(不図示)にトランジスタを介して書き込み電圧が印加可能に設けられ、他方の端部に設けられた第2端子(不図示)にトランジスタを介してグラウンドに接続されている。同様にして、共通基板SA
2に5個の磁気メモリ素子M
12~M
52が設けられており、また、共通基板SA
3に5個の磁気メモリ素子M
13~M
53が設けられている。共通基板SA
1~SA
3は並列に設けられている。5×3個の磁気メモリ素子が集積されたアレイである。図面上は5×3個の磁気メモリ素子のアレイであることを示しているが、これに限らず、m×n個の磁気メモリ素子が集積されたアレイに適用可能である。
【0091】
磁気メモリは、磁気メモリ素子M11~M53にデータを書き込む書き込み電源を備える不図示の書き込み部を有する。書き込み部は、重金属層2に書き込み電流Iwを流すことにより、磁気メモリ素子M11~M53にデータを書き込む。
【0092】
磁気メモリは、読み出し電源と、電流検出器とを備え、磁気メモリ素子M11~M53にデータを書き込む不図示の読み出し部を有する。読み出し電源は、障壁層11を貫通する読み出し電流Irを流す。電流検出器は、障壁層11を貫通した読み出し電流Irを検出し、磁気メモリ素子M11~M53に書き込まれているデータを読み出す。
【0093】
上記の磁気メモリ素子M11~M53の書き込み方法について説明する。ここでは、重金属層2の第2端子T2にグラウンドが直接接続されている場合について説明するが、第2端子T2はトランジスタを介してグラウンドに接続されてもいてよい。初期状態として、重金属層2の第1端子T1に接続されたトランジスタと、各MTJの第3端子T3Aに接続されたトランジスタとがすべてオフであるとする。まず、各MTJの第3端子T3Aに接続されたトランジスタをすべてオンにし、各MTJの記録層10Aの磁気異方性を小さくする。次いで、書き込み電圧Vwを正の電圧に設定し、第1端子T1に接続されたトランジスタをオンにし、書き込み電流Iwを第1端子T1から第2端子T2へ流す。これにより、すべてのMTJに0が一括して書き込まれる。その後、各MTJの第3端子T3Aに接続されたトランジスタをすべてオフにし、第1端子T1に接続されたトランジスタをオフにする。
【0094】
次いで、1を書き込みたいMTJの第3端子T3Aに接続されたトランジスタをオンにして書き込むMTJを選択する。その後、書き込み電圧Vwを負の電圧にし、第1端子に接続されたトランジスタをオンにし、第2端子T2から第1端子T1へ書き込み電流Iwを流す。第3端子T3Aに接続されたトランジスタをオンにしたMTJのみ記録層10Aの磁気異方性が小さいので、磁化反転する。その結果、選択したMTJにのみ1が書き込まれる。その後、すべての第3端子T3Aに接続されたトランジスタをオフにし、第1端子T1に接続されたトランジスタをオフにして書き込み動作を終了する。なお、すべてのMTJに一括して1を書き込んだ後、選択したMTJにのみ0を書き込むようにしてもよい。また、読み出し動作は、第1端子T1に接続されたトランジスタをオンにした後、読み出したいMTJの第3端子T3Aに接続されたトランジスタをオンにし、読み出したいMTJに読み出し電流Irを流すことで行う。その後の読み出し動作は、第1実施形態と同じであるので、説明は省略する。
【0095】
以上に示すように、第2実施形態の磁性積層膜1Aは、磁気メモリ素子用の積層膜であって、Hfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの重金属層と、磁化方向が反転可能な強磁性層を含み、前記重金属層と隣接する記録層とを備えた構成とした。
【0096】
よって、磁性積層膜1Aは、重金属層2がHfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの層で構成されているので、重金属層の電気抵抗率をβ-Wより低くすることができ、消費電力を抑制できる。また、重金属層のラフネスをβ-Wより小さくすることができ、MTJ特性のばらつきを抑制できる。
【0097】
(変形例1)
図25Aは、本発明の第2実施形態の磁気メモリ素子の他の一例の柱状のMTJを示す平面図である。
図23A~
図23Cに示した磁気メモリ素子の他の一例の柱状のMTJでは、切欠き部NAにおけるMTJの表面は、略円柱状の外周方向に凸の形状となっていたが、これに限るものではない。
図25Aに示す磁気メモリ素子100Bのように、切欠き部NBは平坦な面であってもよい。この構成でも、切欠き部NBは、MTJの平面図上の形状が書き込み電流I
wに沿った方向のいずれの線に対しても非対称となる位置に設けられている。
図25Bは、本発明の第2実施形態の磁気メモリ素子の他の一例の柱状のMTJを示す平面図である。
図25Aに示す磁気メモリ素子100Bのように、切欠き部NBは、第3象限から第2象限及び第4象限にかかる範囲で設けられるような大きさでもよく、
図25Bに示す磁気メモリ素子100BXのように、第3象限のおいてのみ設けられるような大きさでもよい。
【0098】
図26Aは、本発明の第2実施形態の磁気メモリ素子の他の一例の柱状のMTJを示す平面図である。
図26Aに示す磁気メモリ素子100Cのように、切欠き部NCにおけるMTJの表面は、略円柱状の外周方向に凹の形状となっていてもよい。この構成でも、切欠き部NCは、MTJの平面図上の形状が書き込み電流I
wに沿った方向のいずれの線に対しても非対称となる位置に設けられている。
図26Aに示す磁気メモリ素子100Cのように、切欠き部NCは、第3象限から第2象限及び第4象限にかかる範囲で設けられるような大きさでもよく、
図26Bに示す磁気メモリ素子100CXのように、第3象限のおいてのみ設けられるような大きさでもよい。
【0099】
(3)第3実施形態
(3-1)第3実施形態の磁気メモリ素子の全体構成
以下、
図27A及び
図27Bを参照して、本発明の第3実施形態の磁気メモリ素子100Dについて説明する。
図27Aは、磁気メモリ素子の一例の柱状のMTJを示す平面図である。磁気メモリ素子100DのMTJは略円柱状である。
図23A及び
図23Bに示すMTJのように切欠き部は設けられていない。
図27Aに示すように、MTJの平面図上の形状が書き込み電流I
wに沿った方向のいずれかの線に対して線対称となっている。
図27Aでは、MTJの平面図上の形状が円であり、円の中心を通る線に対して線対称である。
【0100】
図27Bは、
図27Aに示した磁気メモリ素子100Dを示す斜視図である。
図27Bに示すように、磁性積層膜1Dは、Hfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの重金属層2と、重金属層2と隣接して設けられた記録層10Dとを備えている。本実施形態では、重金属層2は、第1方向(x方向)に延伸された直方体形状をしており、上面から見たとき長方形状をしている。重金属層2の構成は第1実施形態と同様である。
【0101】
本実施形態では、重金属層2が、例えば、SiやSiO2などで形成された基板5に設けられている。基板5は、一表面に、例えば、Taなどで形成されたバッファ層4が設けられている。重金属層2は、このバッファ層4に隣接して設けられている。
【0102】
記録層10Dは、重金属層2のバッファ層4と隣接する面の反対側の面に隣接して形成されている。記録層10Dは、磁化方向が反転可能な強磁性層により形成されている。記録層10Dの重金属層2と隣接する面の反対側の面に隣接して、障壁層11D、参照層12D及び導電層13Dがこの順に積層されており、導電層13Dに接続して第3端子T3Dが設けられている。また、重金属層2には、第1端子T1及び第2端子T2が接続して設けられている。記録層10D、障壁層11D、参照層12D、導電層13D及び第3端子T3Dの積層体は、略円柱状の形状を有している。
【0103】
上記のように、記録層10D、障壁層11D及び参照層12Dの積層体の、重金属層2とは反対側から見た形状が、書き込み電流Iwに沿った方向のいずれかの線に対して線対称である。記録層10D、障壁層11D、参照層12D、導電層13D及び第3端子T3Dの材料及び膜厚などは、第1実施形態と同様である。
【0104】
磁気メモリ素子100Dの書き込み方法について説明する。ここでは、後述のように人工知能システムに適用される場合の磁気メモリ素子100Dの書き込み方法を説明する。初期状態として、重金属層2の第1端子T1に接続されたトランジスタと、各MTJの第3端子T3Dに接続されたトランジスタとがすべてオフであるとする。書き込み電圧Vwを正の電圧に設定し、第1端子T1に接続されたトランジスタをオンにし、書き込み電流Iwを第1端子T1から第2端子T2へ流す。これにより、MTJの磁気異方性定数が小さいので垂直磁化を有する記録層10は回転し安定な方向に磁化容易軸は定まらない。つぎに、各MTJの第3端子T3Dに接続されたトランジスタをすべてオンにして書き込み補助電流IWAを流し、各流した個所のみが書き込まれる。その後、各MTJの第3端子T3Dに接続されたトランジスタをすべてオフにし、第1端子T1に接続されたトランジスタをオフにする。
【0105】
次いで、書き込み電圧Vwを負の電圧にし、第1端子T1に接続されたトランジスタをオンにし、第2端子T2から第1端子T1へ書き込み電流Iwを流す。記録層10Dの磁気異方性定数Δを5~15と小さくすると、書き込み電流Iwを流すと垂直磁化を有する記録層10Dは回転し安定な方向に磁化容易軸は定まらない。その後、1を書き込みたいMTJの第3端子T3Dに接続されたトランジスタをオンにして書き込むMTJを選択して、書き込み補助電流IWAを流すと、垂直磁化を有する記録層10Dは書き込み補助電流IWAの流れる方向に規定され、スピントランスファートルクにより磁化容易軸が安定状態に反転する。本素子をクロスバーネットワークのクロスポイントメモリとして使用する場合は、記録層10Dの磁気異方性定数Δを5~15と小さくすると、書き込み電流Iwを流すと垂直磁化を有する記録層10Dは回転し安定な方向に磁化容易軸は定まらないが、これを後術する環状磁場印加配線で書き込む。この際、記録層10Dの磁気異方性定数Δは5~15と小さいため、小さな電流磁場で書込みを行うことが可能である。
【0106】
図28は、磁気メモリ素子100Dにデータを書き込む信号のタイミングチャートである。書き込み電流I
w及び書き込み補助電流I
WAは、パルス状の電流とする。
図28に示すように、書き込み電流I
wのパルス及び書き込み補助電流I
WAのパルスは、少なくとも一部が時間的に重なりを有するタイミングである。例えば、
図28に示すように、書き込み電流I
wのパルスが先にオンとなり、書き込み電流I
wのパルスがオフになる前に、書き込み補助電流I
WAのパルスがオンとなる。この後、書き込み電流I
wのパルスがオフになり、書き込み補助電流I
WAのパルスがオフとなる。
【0107】
なお、すべてのMTJに一括して1を書き込んだ後、選択したMTJのみ0を書き込むようにしてもよい。また、読み出し動作は、第1端子T1に接続されたトランジスタをオンにした後、読み出したいMTJの第3端子T3Dに接続されたトランジスタをオンにし、読み出したいMTJに読み出し電流Irを流すことで行う。
【0108】
磁気メモリ素子100Dの読み出し方法は、第1実施形態と同じであるので、説明は省略する。
【0109】
以上に示すように、第3実施形態の磁性積層膜1Dは、磁気メモリ素子用の積層膜であって、Hfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの重金属層と、磁化方向が反転可能な強磁性層を含み、前記重金属層と隣接する記録層とを備えた構成とした。
【0110】
よって、磁性積層膜1Dは、重金属層2がHfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの層で構成されているので、重金属層の電気抵抗率をβ-Wより低くすることができ、消費電力を抑制できる。また、重金属層のラフネスをβ-Wより小さくすることができ、MTJ特性のばらつきを抑制できる。
【0111】
(3-2)人工知能(AI)システムの全体構成
図29は、本発明の第3実施形態の磁気メモリ素子を用いたAIシステムの一例を示す概略斜視図である。一の方向に延伸する複数本の第1配線(S
1・・・S
n)と、一の方向と直交する方向に延伸する複数本の第2配線(B
1・・・B
m)とを有し、第1配線(S
1・・・S
n)と第2配線(B
1・・・B
m)との各交点に、第1配線(S
1・・・S
n)と第2配線(B
1・・・B
m)とを接続するクロスポイントメモリ(CM
11・・・CM
mn)が設けられている。クロスポイントメモリ(CM
11・・・CM
mn)は、ReRAM(抵抗変化メモリ)、PCM(相変化メモリ)、MTJなどの記憶素子で構成されている。このようにして、抵抗クロスバーネットワークが設けられている。
【0112】
上記の第1配線(S1・・・Sn)の一方の端部に入力線INPUTが接続され、他方の端部に、電子ニューロン(NR1・・・NRn)が接続されている。電子ニューロン(NR1・・・NRn)は、ニューロン基板(SANR1・・・SANRn)上に形成されている。ニューロン基板(SANR1・・・SANRn)は、基板5、バッファ層4及び重金属層2の積層体である。電子ニューロン(NR1・・・NRn)は、磁気メモリ素子100Dと同様の構成である。ニューロン基板(SANR1・・・SANRn)に出力線OUTPUTが接続される。
【0113】
上記に記載の磁気メモリ素子100Dが、抵抗クロスバーネットワークの加重和が入力される電子ニューロン(NR1・・・NRn)に用いられている。即ち、ニューロン基板(SANR1・・・SANRn)に設けられた重金属層2は、Hfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの層で構成されている。上記の抵抗クロスバーネットワークを1段とし、これが複数段接続され、前段の抵抗クロスバーネットワークの出力が次段の抵抗クロスバーネットワークに入力されるように構成されている。このようにして、本実施形態のAIシステムが構成されている。上記のクロスポイントメモリ(CM11・・・CMmn)(CM11・・・CMmn)は、AIシステムのシナプスに該当する。
【0114】
クロスポイントメモリ(CM11・・・CMmn)は、一対の第2配線に対応するメモリを1組としてデータを記憶する。例えば、前段の抵抗クロスバーネットワークから入力があると、入力に応じて第2配線B1にVSが入力され、また、第2配線B2に-VSが入力される。これに応じて、クロスポイントメモリCM11に及びクロスポイントメモリCM21にそれぞれデータが記憶される。クロスポイントメモリCM31及びクロスポイントメモリCM41以降のクロスポイントメモリでも前段の抵抗クロスバーネットワークからの入力に従ってデータが記憶される。クロスポイントメモリCM11・・・CMm1は同一の第1配線S1上に設けられており、クロスポイントメモリCM11・・・CMm1に記憶されたデータの加重和の信号(各クロスポイントメモリCM11・・・CMm1からの読み出し電流の和に対応する信号)が電子ニューロンNR1に出力され、記憶される。他の第2配線Bmにおいても同様に前段の抵抗クロスバーネットワークからの入力に従ってクロスポイントメモリCM1n・・・CMmnにデータが記憶され、クロスポイントメモリCM1n・・・CMmnに記憶されたデータの加重和の信号が電子ニューロンNRnに出力され、記憶される。電子ニューロン(NR1・・・NRn)に記憶されたデータが、次段の抵抗クロスバーネットワークに入力されるように構成されている。
【0115】
図30は、磁気メモリ素子を用いたAIシステムの一例の回路図である。読み出しの対象となる電子ニューロンNR
nに対して、参照素子REFが直列に接続された構成を有する。参照素子REFは、電子ニューロンNR
nと同様の磁気メモリ素子で構成されており、所定の抵抗値を有する。参照素子REFはトランジスタTR
SIGを介して電源電圧V
DDが入力され、また、電子ニューロンNR
nはグラウンドに接続されている。読み出し許可信号SIGが入力されてトランジスタTR
SIGがオンになると、参照素子REFに電源電圧V
DDが入力される。
【0116】
上記の構成において、電子ニューロンNRnが1を記憶して高抵抗であるとき、電子ニューロンNRn及び参照素子REFの接続点からの出力は高電位になり、アンプAMPを経て、高電位の信号がトランジスタTR+VS及びトランジスタTR-VSに入力され、+VS信号及び-VS信号が次段の抵抗クロスバーネットワークNWn+1に入力される。
【0117】
上記の構成において、電子ニューロンNRnが0を記憶して低抵抗であるとき、電子ニューロンNRn及び参照素子REFの接続点からの出力は低電位になり、アンプAMPを経て、低電位の信号がトランジスタTR+VS及びトランジスタTR-VSに入力される。この結果、+VS信号及び-VS信号が次段の抵抗クロスバーネットワークNWn+1に入力されない。
【0118】
上記のように、本実施形態の磁気メモリ素子を用いて、前段の抵抗クロスバーネットワークの出力が次段の抵抗クロスバーネットワークに入力されるように構成されており、AIシステムが構成されている。
【0119】
(変形例2)
図31は、磁気メモリ素子を用いたAIシステムの他の一例を示す概略斜視図である。
電子ニューロン(NR
1・・・NR
n)が磁気メモリ素子100Dと同様の構成であることに加えて、クロスポイントメモリ(CM
11・・・CM
mn)も磁気メモリ素子100Dと同様の構成である。即ち、クロスポイントメモリ(CM
11・・・CM
mn)が設けられた第1配線は共通基板(SA
1・・・SA
n)であり、基板5、バッファ層4及び重金属層2の積層体で構成されている。共通基板(SA
1・・・SA
n)に設けられた重金属層2は、Hfを含有する第1層とHfを除く重金属を含有する第2層を交互に積層した構造を有するアモルファスの層で構成されている。
【0120】
上記のように、本実施形態の磁気メモリ素子を用いて、前段の抵抗クロスバーネットワークの出力が次段の抵抗クロスバーネットワークに入力されるように構成されており、AIシステムが構成されている。
【0121】
(変形例3)
図32は、磁気メモリ素子を用いたAIシステムの他の一例の平面図である。上記の第3実施形態のAIシステムを構成する磁気メモリ素子のアレイにおいて、書き込みを行うために所定の行を選択して所定の磁場を印加することができる磁場印加電極(CL1、CL2・・・)が設けられていてもよい。重金属配線である共通基板(SA
1~SA
n)の書き込みたい磁気メモリ素子がある位置に書込み電流I
wを印加すると、磁気素子は熱安定性定数が小さいため“1”“0”が規定されない状態になる。その状態のときに、例えば環状の配線である磁場印加電極(CL1、CL2・・・)に所定の方向に電流を流すことで環状の内側の領域に所定の方向の磁場を発生させ、書込みを行う。
図32は、共通基板(SA
1・・・SA
n)と、クロスポイントメモリCM
11、CM
21・・・CM
1n、CM
2n)との位置に対して、磁場印加電極(CL1、CL2・・・)の配置が明確になるように、第2配線などのその他の部材の表示を省略して図面を簡略化している。
【0122】
図33は、磁気メモリ素子を用いたAIシステムの他の一例の平面図である。
図32では、磁場印加電極(CL1、CL2・・・)はいずれも図面上左側の部分で閉じた環状の配線であるが、このような構成に限定されない。
図33に示すように、図面上左側の部分で閉じた環状の配線である磁場印加電極CL1と、図面上右側の部分で閉じた環状の配線である磁場印加電極CL2Aとを含むような構成であってもよい。磁場印加電極CL1と、磁場印加電極CL2Aとは、いずれも所定の方向に電流を流すことで環状の内側の領域に所定の方向の磁場を発生させる。
図33は、共通基板(SA
1・・・SA
n)と、クロスポイントメモリ(CM
11、CM
21・・・CM
1n、CM
2n)との位置に対して、磁場印加電極(CL1、CL2A・・・)の配置が明確になるように、第2配線などのその他の部材の表示を省略して図面を簡略化している。
【符号の説明】
【0123】
1 磁性積層膜
2 重金属層
10 記録層
11 障壁層
12 参照層
100 磁気メモリ素子
Iw 書き込み電流
Ir 読み出し電流