IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ハイドロパウテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-摩砕処理食品素材、及びその製造方法 図1
  • 特許-摩砕処理食品素材、及びその製造方法 図2
  • 特許-摩砕処理食品素材、及びその製造方法 図3
  • 特許-摩砕処理食品素材、及びその製造方法 図4
  • 特許-摩砕処理食品素材、及びその製造方法 図5
  • 特許-摩砕処理食品素材、及びその製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】摩砕処理食品素材、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/00 20250101AFI20250109BHJP
   A23G 1/30 20060101ALI20250109BHJP
   A23G 1/46 20060101ALI20250109BHJP
   A23G 1/48 20060101ALI20250109BHJP
   A23G 1/56 20060101ALI20250109BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20250109BHJP
【FI】
A23G1/00
A23G1/30
A23G1/46
A23G1/48
A23G1/56
A23L2/38 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022532827
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2021032205
(87)【国際公開番号】W WO2023032108
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2022-06-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515315484
【氏名又は名称】日本ハイドロパウテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 正純
【合議体】
【審判長】柴田 昌弘
【審判官】加藤 友也
【審判官】植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-63344(JP,A)
【文献】特表2011-509681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G1/00-1/56
A23L2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオ及び/又はカカオ加工品を伸長流動・磨砕エレメントを有する加熱押出機で摩砕処理し、レーザ回折式粒度分布測定法により測定した、前記加熱押出機で処理した摩砕処理物の非油脂成分の平均粒径を100~300μmの範囲とする工程と、前記加熱押出機で処理された摩砕処理物を湿式微粉砕機により粉砕して、レーザ回折式粒度分布測定法により測定した、加熱押出機摩砕処理及び湿式微粉砕処理物の非油脂成分の平均粒径を2.26~13.24μmの範囲とする工程と、を含むことを特徴とするカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材の製造方法。
【請求項2】
前記押出機は、伸長流動・磨砕を行うスクリューを搭載し、かつ多点フィード機構を持つ2~8軸であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらに、前記押出機内に、全粉乳、糖類、又は植物性原料由来の加水分解物の少なくともいずれか1種を添加する工程を含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法により得られた摩砕処理食品素材を微粉砕加工する工程を含むチョコレート粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩砕処理食品素材、及びその製造方法に関するものであり、特に、チョコレートを製造可能な摩砕処理食品素材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョコレートは、非常に多くの工程を経て製造されている。すなわち、多少の工程の相違があるものの、概ね、カカオ豆の原料選別、焙炒、分離、配合、摩砕、混合、微粒化、精錬、調温、充填、冷却、型抜、検査/包装、熟成等の数多くの工程を経てチョコレートが製造されている。例えば、顆粒状甘味料を含む配合物を混合する過程を含むチョコレートの製造方法において、生クリームと砂糖を混合して加熱し、常圧下において所定温度以下で沸騰状態に維持し、砂糖が再結晶化し始めた時点で加熱を停止し、その後、混合物にさらに砂糖を加えて混合し、この新たな混合物を放冷してから裏漉しにかけて顆粒状とし、この顆粒物を他の配合物と混合すること、を特徴とするチョコレートの製造方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-079839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1を含め先行技術においては、上述のように、数多くの工程を必要とするため、原料であるローストカカオニブから冷却・固化前のチョコレートまで仕上げる時間は約2~3日要する。また、上述の各工程はバッチ式となっているため、連続的に生産することが困難となっている。また、従来の工程を経て製造されるチョコレートやカカオマスには、多量の一般生菌、例えば、3,000~数十万/gの一般生菌が含まれているのが通常である。
【0005】
そこで、本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は連続生産により、バッチ式生産より製造時間の大幅な短縮を行うと共に、更に一般生菌を極力軽減された摩砕処理食品素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者は、押出機、及びその処理条件について鋭意検討を行った結果、本発明を見出すに至った。
【0009】
また、上記押出機処理磨砕物を、湿式微粉砕機に連続供給し、人が食した時にザラつきを感じない20μm以下の平均粒径まで微細化処理する事を特徴とする。
【0013】
また、本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材の製造方法は、カカオ及び/又はカカオ加工品を伸長流動・磨砕エレメントを有する加熱押出機で摩砕処理し、レーザ回折式粒度分布測定法により測定した、前記加熱押出機で処理した摩砕処理物の非油脂成分の平均粒径を100~300μmの範囲とする工程と、前記加熱押出機で処理された摩砕処理物を湿式微粉砕機により粉砕して、レーザ回折式粒度分布測定法により測定した、加熱押出機摩砕処理及び湿式微粉砕処理物の非油脂成分の平均粒径を2.26~13.24μmの範囲とする工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材の製造方法の好ましい実施態様において、上記押出機は、伸長流動・磨砕を行うスクリューエレメントを搭載し、また分散・混合を行うスクリューエレメントで構成されたスクリューを持ち、かつ多点フィード機構を持つ2~8軸押し出し機であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材の製造方法の好ましい実施態様において、さらに、前記押出機内に、糖類、粉乳又は粉乳代替品である植物性原料由来の加水分解物の少なくともいずれか1種を添加する工程を含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の成形品の製造方法は、本発明の方法により得られた溶解カカオマス・チョコレートを冷却・固化させてなることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のチョコレート粉末の製造方法は、本発明の方法により得られた摩砕処理食品素材を微粉砕加工する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の摩砕処理食品素材を使用したチョコレートによれば、通常のカカオマスに含まれる、舌触りを悪くする素材の粒径が非常に細かい結果、舌触りが良好であるという有利な効果を奏する。また、本発明によれば、油脂(ココアバター)がカカオマス内に細かい油滴の状態で分散しており、その結果、口中での溶解性に優れるという有利な効果を奏する。さらに、本発明によれば、通常のチョコレートやカカオマスには多量の一般生菌が含まれるが、本発明品は、無菌化されることが可能であるという有利な効果を奏する。また、本発明の製造方法によれば、既存製造法に比較し、極めて短時間、低コスト、かつ衛生的に製造が可能であるという有利な効果を奏する。また、本発明によれば、全粉乳の代わりに植物性加水分解物を用いる事で、乳アレルゲンフリーチョコレートの製造が可能であるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の一実施態様における摩砕処理食品素材の製造方法の工程を示す図である。
図2図2は、本発明の一実施態様における摩砕処理食品素材(押出機処理後、微粉砕処理したもの)のマイクロスコープ撮影画像(140倍)を示す図である。なお、図では読み取りにくいが、図中の左下にある空白のバーは縮尺を示し、空白のバーの長さは、400μmを示す。
図3図3は、本発明の一実施態様における摩砕処理食品素材(押出機処理後、微粉砕処理したもの)のマイクロスコープ撮影画像(1200倍)を示す図である。なお、図では読み取りにくいが、図中の左下にある空白のバーは縮尺を示し、空白のバーの長さは、40μmを示す。したがって、大きな粒子であっても、せいぜい10μm~20μmであり、大部分の粒子はおおよそ10μm以下であることが分かる。
図4図4は、市販のチョコレート製品のマイクロスコープ撮影画像(1200倍)を示す図である。なお、図では読み取りにくいが、図中の左下にある空白のバーは縮尺を示し、空白のバーの長さは、40μmを示す。したがって、画像に大きく写る巨大粒子の横幅は、120μm超であることが分かる。
図5図5は、本発明の一実施態様における摩砕処理食品素材を用いたチョコレートのマイクロスコープ撮影画像(30倍)を示す図である。画像中に、無数にやや丸く写っているものが油である。
図6図6は、本発明の一実施態様における摩砕処理食品素材を用いたチョコレートの写真を示す図である。図5の画像から、無数にやや丸く写っているものが油であり、この油がほどよく分散しているために、図6の写真において、非常に光沢を生じているのが分かる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材は、カカオ及び/又はカカオ加工品の押出機処理摩砕物であって、前記押出機処理摩砕物に含まれる一般性細菌の含有量は、3,000/g以下であることを特徴とする。従来の工程を経て製造されるチョコレートやカカオマスには、多量の一般生菌、例えば、3,000~数十万/gの一般生菌が含まれていたが、本発明の押出機処理摩砕物によれば、100~160℃の押出機シリンダー温度で処理する事により、押出機処理摩砕物に含まれる一般性細菌の含有量は、3,000/g以下である摩砕処理食品素材を実現できたことによる。
【0022】
なお、本発明において使用可能な原料のカカオ豆は、特に限定されない。例えば、カカオの例としては、アフリカ大陸のコートジボワールやガーナ、ナイジェリアやカメルーン産、中南米ではエクアドルやブラジル産、東南アジアではインドネシア、マレーシア、ベトナム産などが挙げられる。
【0023】
また、本発明において使用可能なカカオ加工品についても特に限定されない。本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材の好ましい実施態様において、前記カカオ及び/又はカカオ加工品は、カカオニブ、カカオマス、ダークチョコレート、ホワイトチョコレート、ココアパウダーの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0024】
前記カカオ、前記カカオ加工品を、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0025】
また、本発明における押出機処理摩砕物とは、そのまま食材に加えたり、加えた後に液体に分散・溶解させたり、飲食品に含有させることが可能な食品素材を総称する概念である。前記押出機処理摩砕物を利用して、例えば、粉乳を含むチョコレート、ココアパウダー、チョコレート粉末または、粉乳を含まないチョコレート、ココアパウダー、チョコレート粉末等を製造することが可能となる。
【0026】
また、本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材の好ましい実施態様において、前記押出機処理摩砕の平均粒径は、次工程の湿式微粉砕機への処理可能粒径サイズ確保という観点から、100~300μmの範囲であることを特徴とする。
【0027】
また、本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材の好ましい実施態様において、前記カカオ及び/又はカカオ加工品の押出機処理摩砕物は、液状、又は半固形状であることを特徴とする。特に限定されないが、好ましい態様において、次工程の湿式微粉砕機への流動供給性確保という観点から、液状の前記カカオ及び/又はカカオ加工品の押出機処理摩砕物を出発原料とすることにより、チョコレートを製造することが可能である。また、特に限定されないが、好ましい態様において、気流粉砕機での内面付着防止という観点から、半固形状の前記カカオ及び/又はカカオ加工品の押出機処理摩砕物を出発原料とすることにより、チョコレート粉末を製造することが可能である。
【0028】
また、本発明の飲食品は、本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材を含有することを特徴とする。飲食品としては、例えば、粉乳を含むチョコレート、ココアパウダー、チョコレート粉末または、粉乳を含まないチョコレート、ココアパウダー、チョコレート粉末を挙げることができる。本発明の摩砕処理食品素材は、一般性細菌の含有量が3,000/g以下であり、かなり菌数低減された飲食品を提供し得るという有利な効果を奏する。本発明の摩砕処理食品素材の含有量としては、特に限定されず、常法による含有量を適用することができる。
【0029】
次に、本発明の摩砕処理食品素材の製造方法について説明する。まず、従来のチョコレートの製造方法について説明する。従来においては、(1)原料入手、(2)選別工程、(3)焙炒工程、(4)分離工程、(5)配合工程、(6)摩砕工程、(7)混合工程、(8)微粒化工程、(9)精錬工程、(10)調温工程、(11)充填工程、(12)冷却工程、(13)型抜工程、(14)検査、包装工程、(15)熟成工程というかなり長い工程を経て、チョコレートが生産されている。ほとんどの工程において、バッチ式であり、(5)配合工程~(14)検査、包装工程までの間に、2~3日を要するといわれている。これに対して、後述するように、本発明においては、わずか数分の間に、チョコレートまで生産可能となる。
【0030】
本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材の製造方法は、カカオ及び/又はカカオ加工品を押出機内で摩砕処理する工程と、前記摩砕処理した前記カカオ及び/又はカカオ加工品と、耐熱性付与剤との混合物を、前記押出機で分散させて、混合する工程と、を含むことを特徴とする。従来では、グラインダーと呼ばれる専用の装置によって、摩砕が行われていたが、製造時間短縮及び衛生管理という観点から、本発明においては、押出機を利用して摩砕処理を行うものである。摩砕工程により、カカオニブには約55%の脂肪分(ココアバターという。)が含まれているので、カカオニブをすり潰すことにより、ドロドロの状態のカカオマスを得ることができる。
【0031】
また、本発明においては、カカオ及び/又はカカオ加工品を押出機で加熱処理することができる。
【0032】
なお、従来においては、同様に、バッチ式にて、前記(7)混合工程、及び前記(8)微粒化工程を、専用の装置において行っていたが、本発明においては、摩砕の他に、混合、及びある程度の微粒化を、押出機において行うことが可能である。
【0033】
好ましい実施態様において、前記加熱処理において、前記押出機のシリンダー温度は、加熱による焦げ臭を抑えるという観点から100℃~200℃であることが好ましく、130℃~160℃がさらに好ましい。
【0034】
また、本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材の製造方法の好ましい実施態様において、前記押出機はカカオニブ磨砕効率向上という観点から、伸長流動・磨砕を行うスクリューを搭載し、かつ多点フィード機構を持つ2~8軸であることを特徴とする。
【0035】
また、本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材の製造方法の好ましい実施態様において、更なる微細化を行い、これを人が食した時、口中でのザラつき低減という観点から、さらに、湿式微粉砕機により、前記混合物を粉砕することを特徴とする。特に押出機との連結、連続生産性の確保の為、ボールミルやアトライタのようなバッチ式湿式微粉砕機では無く、連続式超高圧湿式微粒化装置を用いる事が望ましく、特に株式会社スギノマシン「スターバースト」を用いる事が望ましい。従来においては、前記(7)混合工程後、前記(8)微粒化工程、前記(9)精錬工程、前記(10)調温工程をそれぞれの専用の装置を用いて、かつバッチ式で行っていたが、本発明においては、湿式微粉砕機により、全行程の押出機を用いた工程とともに、連続式にこれらの(8)微粒化工程、前記(9)精錬工程、及び前記(10)調温工程を達成可能である。
【0036】
また、本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材の製造方法の好ましい実施態様において、さらに、前記押出機内に、全粉乳、糖類、又は植物性原料由来の加水分解物の少なくともいずれか1種を添加する工程を含むことを特徴とする。植物性原料由来の加水分解物を添加することにより、乳アレルゲンフリーの摩砕処理食品素材を提供することが可能となる。
【0037】
また、本発明の成形品は、本発明の方法により得られた溶解カカオマス・チョコレートを冷却・固化させてなることを特徴とする。
【0038】
また、本発明のチョコレート粉末は、本発明の方法により得られた摩砕処理食品素材、又は本発明の成形品を微粉砕加工することにより得られることを特徴とする。
【実施例
【0039】
ここで、本発明の実施例を説明するが、本発明は、下記の実施例に限定して解釈されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であることは言うまでもない。
【0040】
実施例1
まず、図1に本発明のカカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材の製造方法における工程の一例を示す。図1において、1)は、カカオニブ(カカオ、カカオ加工品)の粗粉砕、他の原料の分散及び混合を行う装置の一例である。1)は日本コークス工業株式会社「ヘンシェルミキサー」又は、株式会社カワタ「スーパーミキサー」を用いる事ができる。2)は、押出機であり、カカオニブ等を摩砕、他の原料の分散及び混合を行う装置の一例である。2)は日本製鋼株式会社2軸押出機「TEX」など2軸スクリュー、L/D30以上の押出機を用いる事ができる。3)-1は、連続式超高圧湿式微粒化装置であり、原料の微細化、乳化を行う装置の一例である。3)-1と3)-2は、微粉砕機であり、原料の微粉化を行う装置の一例である。3-1)は株式会社スギノマシン「スターバースト」を用いる事が望ましく、3)-2はミクロパウテック株式会社「エアタグミル」を用いる事が望ましい。4)は、成型機であり、原料の冷却固化、成型を行う装置の一例であり、トンネルフリーザーなど一定の冷却効果を持つものであれば、特にメーカーと機種を限定するものではない。また、図1において、1は液状、2は半固形状、3は一部の原料を回収、4は製品:ペレット、5は製品:チョコレート粉末、6は原料投入、7は投入機、8は粉砕機本体、9は微粉末回収器、10はサイクロン回収、11はフィルタータンク、12はフィルター払い落としエアー供給、13は誘引ブロア(排風機)、14は排気(室外)を、それぞれ示す。
【0041】
本発明においては、例えば、2)の装置を用いて、カカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材を得ることができるが、その前工程において、粗粉砕の工程を行っても良い。すなわち、1)の装置を用いた工程を経てもよい。
【0042】
また、2)の装置を用いて、カカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材を得た後、さらに、なめらかで上質なチョコレートを得るために、液状の摩砕処理食品素材を原料として、3)-1の装置を用いて、さらに原料中の非油脂成分を微細化しても良い。なお、3)-1の装置を用いた工程において、油脂分派より均一に分散させることが可能となり、可塑化した液体を得ることが可能となる。その後、4)の装置を用いて、原料を冷却固化、成型することができる。
【0043】
また、2)の装置を用いて、カカオ及び/又はカカオ加工品の摩砕処理食品素材を得た後、さらに、例えば、チョコレート粉末を得るために、半固形状の摩砕処理食品素材を原料として、3)-2の装置を用いて、原料を微粉化しても良い。なお、従来においては、熱による溶解の問題から、チョコレートの粉末化は、非常に困難と考えられていたが、本発明においては、耐熱性付与剤により、カカオ混合物の耐熱性を向上させることができ、ひいては、熱が加わっても溶けないため、従来では困難とされていた粉末化を実現できたものである。
【0044】
なお、この例においては、カカオニブを、2軸押出機を用い、シリンダー温度130℃で押出し後、吐出物である摩砕処理食品素材を得た。なお、カカオニブ以外の原料添加量等によって、摩砕処理食品素材を液状、又は半固形状に調整することができる。
【0045】
このように、本発明によれば、従来技術における、(5)配合工程、(6)摩砕工程、(7)混合工程、(8)微粒化工程、(9)精錬工程、(10)調温工程、の各工程を、図1中の2)~3)の工程、必要により1)~3)の工程により、即時完了できる事が特徴の一つである。また、従来の工程である前記(5)配合工程、(6)摩砕工程、(7)混合工程、(8)微粒化工程、(9)精錬工程、(10)調温工程まではバッチ式であるが、本発明の製法によれば、「連続式」である事も特徴の一つであり、かつ1)~3)の機器間はクローズド配管で連結され、衛生的であり、コンタミネーションリスクは皆無といってよい。本発明においては、更に必要に応じ全分解清掃も可能である。また、1)~3)の機器サイズは従来法における(5)~(10)工程で使用する機器に比較して、極めて少ない電力で運用でき、また機器サイズも同能力の既存法機器と比し、1/10以下程度である。したがって、本発明においては、狭小なスペースでも運用が可能である。
【0046】
実施例2
次に、実施例1に記載の装置等を用いて、カカオ及び/又はカカオ加工品としてカカオニブを用いて、摩砕処理食品素材を得た。具体的に、図1の2)の押出機を用いて、摩砕処理食品素材を得た。また、当該摩砕処理食品素材中の非油脂成分の平均粒径について調べた。製造条件については、実施例1と同様とした。
【0047】
顕微鏡写真及び下記の測定の結果から、本発明の摩砕処理食品素材の平均粒径は、100~300μmであることが分かった。平均粒径の測定には、方式として、レーザ回折式粒度分布測定を採用し、以下の装置等を用いて行った。
<測定機器>
株式会社堀場製作所「Laser Scattering Particle Size Distribution Analyzer LA-960」
<使用溶媒>
45℃、イソプロパノール(IPA)
【0048】
実施例3
次に、実施例2の押出機処理されたカカオニブの摩砕処理食品素材を、湿式微粉砕機により、さらに粉砕した摩砕処理食品素材について、平均粒径を調べた。その結果、本発明の摩砕処理食品素材中の非油脂成分の平均粒径は、2.26~13.24μmの範囲であり、平均粒径は、およそ5.7μmであることが分かった。平均粒径の測定には、方式として、レーザ回折式粒度分布測定を採用し、以下の装置等を用いて行った。
<測定機器>
株式会社堀場製作所「Laser Scattering Particle Size Distribution Analyzer LA-960」
<使用溶媒>
45℃、イソプロパノール(IPA)
【0049】
図2は、本発明の一実施態様における摩砕処理食品素材(押出機処理後、微粉砕処理したもの)のマイクロスコープ撮影画像(140倍)を示す図である。また、図3は、本発明の一実施態様における摩砕処理食品素材(押出機処理後、微粉砕処理したもの)のマイクロスコープ撮影画像(1200倍)を示す図である。また、図4は、市販のチョコレート製品のマイクロスコープ撮影画像(1200倍)を示す図である。
【0050】
通常のカカオマスに含まれる非油脂成分の粒径は、20μm以上とされており、図4で示すように、非油脂成分の中には、かなり粗い巨大な粒子が含まれているのが分かる。これに対して、本発明においては、図2及び図3に示すように、本発明においては、舌触りを悪くする非油脂素材の粒径が非常に細かく、その結果、舌触りが良いという有利な効果を奏することが分かる。また、図2及び図3の結果から、油脂(ココアバター)がカカオマス内に細かい油滴の状態で分散しており、結果、口中での溶解性に優れるという効果も奏することが判明した。
【0051】
実施例4
次に、実際に本発明の方法を用いて、カカオマス、チョコレート、及びチョコレート粉末を製造した。なお、カカオマスは、通常、カカオ豆を摩砕することによって得られ、油脂分を含み、ペースト状のものをいう。当該カカオマスに、砂糖、粉乳、ココアバターなどを加えるとチョコレートを得ることができる。具体的に、カカオマス又はチョコレートを、実施例1に記載の方法(図1の1)→2)→3)-1→4)の工程)に従って製造した。また、チョコレート粉末については、実施例1に記載の方法(図1の1)→2)→3)-2の工程)に従って製造した。このように製造した本発明によるカカオマス、及びチョコレート粉末について、一般性細菌について調査した。
【0052】
本発明によるカカオマス、チョコレート粉末、及び比較の市販されているチョコレート、清涼飲料水の一般性細菌等の割合を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1の結果、本発明の新規チョコレート連続製造法によって生産された“カカオマス”“チョコレート”は、従来のチョコレート、カカオマス、ココアパウダーでは存在し得なかった“無菌化”されている事が特徴の一つであることが判明した。これにより、本発明においては、従来タブー視されていた極めて厳しい菌数管理が必要とされる新規用途(高水分含有製品)への使用が可能となることが分かる。
【0055】
実施例5
次に、上述の実施例の手順に従って、本発明によって製造されたチョコレートの粒径についても調べた。図5は、本発明の一実施態様における摩砕処理食品素材を用いたチョコレートのマイクロスコープ撮影画像(30倍)を示す図である。また、図6は、本発明の一実施態様における摩砕処理食品素材を用いたチョコレートの写真を示す図である。油がほどよく分散しているために、非常に光沢を生じているのが分かる。良質なカカオマス・チョコレートの物理的定義とは、舌触り良く、滑らかである点、また官能的にはカカオ豆由来の良好なアロマを残し、悪質なアロマが除去されている点等が必要とされている。本発明の新規チョコレート連続製造法によって生産された“カカオマス”“チョコレート”は、以上の結果から、カカオ豆油脂(カカオバター)以外の組成物の非油脂成分の平均粒径が30μm以下であり、図5の新製法サンプルにおいては、その大半が10μm以下となっており、従来法以上に、いわゆる“滑らかな”製品を作れる事が実証された。
【0056】
実施例6
次に、上述の実施例の手順に従って、全粉乳の代わりに、植物性加水分解物を用いて、アレルゲンフリーチョコレートの製造を試みた。植物性加水分解物としては、またチョコレート用途には大手亡豆加水分解物と米加水分解物を用いた。この結果、アレルゲンフリーミルクチョコレート製造も可能で有ることが判明した。
【0057】
以上のように、本発明によれば、1.既存製造法に比較し、極めて短時間、低コスト、かつ衛生的に製造が可能である、すなわち、既存製法において原料であるローストカカオニブから冷却・固化前のチョコレートまで仕上げる時間は約2~3日要し、各工程がバッチ式であるが、当製造方法においては、僅か数分で冷却・固化前の溶解したチョコレートに仕上げる事が出来、かつ連続式でそれが為される、2.また、全粉乳の代わりに*植物性加水分解物を用いる事で、アレルゲンフリーチョコレートの製造が可能である、すなわち、密閉型連続製造工程内に植物性加水分解物を連続供給し、アレルゲンのコンタミを物理的に防ぐ事が可能である、3.通常のチョコレートやカカオマスには多量の一般生菌が含まれるが、本発明による製品は無菌化されている、具体的には、通常のカカオマス・チョコレートにおいて、これらに含まれる一般生菌数は3,000~数万/g含まれるが、当発明品のそれは、0~300/gである、などの多くの利点を有することが判明した。
【0058】
また、本発明によれば、非油脂成分の粒径が非常に微細であるため、例えば、質量50g(寸法100mm×150mm×約3mm)の成形品の場合、通常のカカオマスは完全溶解に要する時間が40秒を要するのに対し、当発明品は35秒で溶解するなどの特徴を有する。
【産業上の利用可能性】
【0059】
従来技術と比較して、非常に簡便に、かつ無菌化された食品素材を提供することが可能であり、広範な分野において応用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 液状
2 半固形状
3 一部の原料を回収
4 製品:ペレット
5 製品:チョコレート粉末
6 原料投入
7 投入機
8 粉砕機本体
9 微粉末回収器
10 サイクロン回収
11 フィルタータンク
12 フィルター払い落としエアー供給
13 誘引ブロア(排風機)
14 排気(室外)
図1
図2
図3
図4
図5
図6