(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】産業資材用帆布、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/06 20060101AFI20250109BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20250109BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20250109BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20250109BHJP
D03D 13/00 20060101ALI20250109BHJP
D03D 15/50 20210101ALI20250109BHJP
【FI】
D06N3/06
B32B5/28 Z
B32B27/30 101
D03D1/00 Z
D03D13/00
D03D15/50
(21)【出願番号】P 2023150633
(22)【出願日】2023-09-18
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 俊也
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-205428(JP,A)
【文献】特開昭59-103750(JP,A)
【文献】特開2022-063492(JP,A)
【文献】実開昭53-056080(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N1/00-7/06
B32B1/00-43/00
D06M13/00-15/715
D03D1/00-27/18
D02G3/00-3/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を設けてなる帆布であって、前記布帛が経糸条群、及び緯糸条群により製織され、経緯双方の糸条群に、マルチフィラメント糸条、及び短繊維紡績糸条が規則的に交互配列されていて、この交互配列の繰り返し単位が2~6本であり、前記交互配列が前記マルチフィラメント糸条(1~3本)、及び前記短繊維紡績糸条(1~3本)による組み合わせ9種の何れか1種であり、前記軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に液状ゴム硬化物を含
み、前記液状ゴム硬化物が、ブタジエン系、イソプレン系、及びファルネセン系、から選ばれた1種以上の反応性液状ゴムの重合体、かつ前記反応性液状ゴムとシリカ粒子との複合体で、前記シリカ粒子表面のシラノール基(Si-OH基)との反応物であることを特徴とする産業資材用帆布。
【請求項2】
前記軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層にシリコーン微粒子を含み、このシリコーン微粒子が、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー、疎水化シリカパウダー、グラフトシリコーンパウダー、及びシリコーンゴム粒子表面をシリコーンレジンで被覆した複合パウダー、から選ばれた1種以上である
請求項1に記載の産業資材用帆布。
【請求項3】
マルチフィラメント糸条、及び短繊維紡績糸条を規則的に交互配列して含む布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層が形成された帆布の製造において、1)塩化ビニル樹脂、可塑剤、反応性液状合成ゴム(ブタジエン系、イソプレン系、及びファルネセン系、から選ばれた1種以上)、の3種を少なくとも含む軟質塩化ビニル樹脂組成物を調製する工程、2)前記布帛に前記軟質塩化ビニル樹脂組成物を塗工し、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層
(ゲル化前)を形成する工程、3)
前記軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成する前記軟質塩化ビニル樹脂組成物のゲル化熱処理と同時に、前記反応性液状合成ゴムをゴム硬化物に転化して、前記軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全体に合成ゴム成分を含ませる工程、を含むことを特徴とする産業資材用帆布の製造方法。
【請求項4】
前記布帛が経糸条群、及び緯糸条群により製織され、経緯双方の糸条群が、マルチフィラメント糸条/短繊維紡績糸条による合撚糸で構成され、前記マルチフィラメント糸条が、嵩高糸条、または嵩高部分を外周に有する交撚糸条である
請求項3に記載の産業資材用帆布の製造方法。
【請求項5】
前記軟質塩化ビニル樹脂組成物にシリカ粒子を含ませて、シリカ粒子との複合ゴム硬化物に転化する請求項3に記載の産業資材用帆布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テント倉庫(簡易ハウス)、屋形テント(運動会、屋外イベント、運営本部、集会、受付などに用いられる天幕装着式の組立テント)、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートなどの本体素材に用いる帆布で、経方向と緯方向の引裂強度バランス、及び屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)に優れた産業資材用帆布、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テント倉庫、屋形テント、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートなど用途物件の本体素材には、4~6号のスパン布帛に軟質ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を含浸被覆した4~6号の帆布が使用されている。これらは、厚さ0.38~0.55mm、質量420~560g/m2の規格が主流で、6号、5号、4号と数字が小さい程、重厚かつ堅牢な帆布となる。これらの帆布に用いる布帛は、毛羽の多い短繊維紡績糸から製織されたもので、軟質ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の含浸被覆効果が高く、その効果によって帆布の屈曲強さ、屈曲耐久性が得られる。この屈曲強さと屈曲耐久性は、ターポリンを上回る性能であるが、帆布の耐引裂性(引裂強度)は、マルチフィラメント糸で製織された織物を基布とするターポリンよりも劣る欠点を有するため、上記用途において、用途規模(サイズ)が大きいほど強靭性、耐引裂性を重視して6号より5号、5号より4号の帆布と、1ランクアップした使用をすることがある。このことは大型用途での質量増を意味し、特に屋形テント、トラック荷台カバー、野積シートなど、保管時は折り畳んで収納される用途では、人手によるシートの運搬や展張装着、及びその撤収には多大な作業負担となっている。従ってこれらの用途では、より軽量で耐久性のある帆布、例えば6号の質量で5号レベルの強靭性、耐久性を具備する帆布、同様に5号の質量で4号レベルの強靭性、耐久性を具備する帆布が切望されている。
【0003】
このようなニーズに対して本出願人は、軟質塩化ビニル樹脂加工による引裂強度に優れた帆布として、2本の短繊維紡績糸条からなる並列糸条を織組織に含み、並列糸条を経糸及び緯糸に含み、少なくとも経糸と緯糸との交絡点が4本の短繊維紡績糸条で構成された部分を含む平織布帛を基布に用いる発明(特許文献1)を提案した。この発明において、同じ号数(質量)の布帛を用いた帆布同士での対比(実施例1/比較例1、実施例2/比較例2)だと、より引裂強度に優れた帆布が得られ、従来よりも軽量の布帛を用いながら従来品と同等の引裂強度を発現可能な帆布が得られることを発明の効果として述べた。古くから基布と樹脂の剥離強度、及び引裂強度とを兼ね備えたターポリンとして、経緯及び(又は)緯糸として連続糸と短繊維糸を交互に配列し、織物重量に対して短繊維が5~90重量%とする織物にラミネート樹脂層を有する仕様の提案(特許文献2)、同様に高強力帆布として、短繊維糸と長繊維糸を交互、または格子状に配列し、短繊維糸が5~95重量%、長繊維糸が95~5重量%とする基布に防水加工をほどこした仕様が提案(特許文献3)されているが、各々の糸の量による外観品位(光沢部と乱反射部のバランス)、基布と樹脂の剥離強度、及び引裂強度をバランスよく兼ね備えることができる態様が明らかではなかった。最近では、強度、耐水性、柔軟性および耐久性に優れるとともに、軟質塩化ビニル樹脂加工による軽量性が改善された可撓性積層体として、繊維布帛を構成する経糸および緯糸に、紡績糸およびマルチフィラメント糸から選ばれる1つ以上を含み、繊維布帛の質量に対する、紡績糸、及びマルチフィラメント糸の含有範囲を個々特定し、可撓性積層体の目付を300g/m2以上450g/m2未満とする発明(特許文献4)が開示されている。この発明において、実施例の可撓性積層体は目付が450g/m2未満で、比較例の従来の可撓性積層体と比較して10%~25%軽量化され、しかも、引張強さ、引裂強さ、および伸び率はいずれも従来の可撓性積層体と同等であることが記載されている。しかしながら特許文献4の発明は、実施例1~4として、経糸に紡績糸、緯糸にマルチフィラメント糸を用いた平織基布による態様がメインであるため、経方向と緯方向での引裂強度バランスを得るには、経方向と緯方向とで、糸強度(繊度)、打ち込み本数(糸の配置密度)を調整する手間があり、また外観に方向性を有し、角度によって光沢部と乱反射部の筋が強調される品位であった。
【0004】
特許文献1~4のターポリン、帆布などは、布帛の織組織の改良、種類の異なる糸の併用などによって、引裂強度などの物性値向上と、軽量化の両立を可能とし得るものである。しかし、さらなる軽量化に対しては、比重の高い軟質塩化ビニル樹脂による樹脂被覆層の厚さを減じることが直截的に効果的であるが、当然のことながら樹脂被覆層を薄くした分、耐屈曲性、耐摩耗性、接合部耐久性(縫製部が剥離破壊し難い安全性)などに悪影響して、亀裂や摩耗傷から漏水(雨漏り)するなどのトラブル、縫製部破壊のトラブルとなり易い。これらのトラブルを回避するためには、樹脂被覆層自体の耐屈曲性、耐摩耗性などの向上を図った上での軽量化(薄肉化)が必須であり、軟質塩化ビニル樹脂被覆層が強靭化できれば、耐久性を損なうことなくある程度の軽量化(薄肉化)も可能となる。軟質塩化ビニル樹脂被覆層の強靭化について本出願人は以前、軟質塩化ビニル樹脂層にポリオール化合物を含み、トリイソシアネート化合物がポリオール化合物と付加反応して、軟質塩化ビニル樹脂層内に架橋ウレタン成分を生成することで、軟質塩化ビニル樹脂層の耐摩耗性、耐熱性、耐衝撃性などが向上することを特許文献5に開示した。この架橋ウレタン成分の生成は軟質塩化ビニル樹脂層の耐熱性、及び強靭性が向上する反面、寒冷下での風合いが硬くなり、特に氷点下での屈曲、折り畳みの繰り返し、はためきなどの動的ストレスで軟質塩化ビニル樹脂層に亀裂を生じ易い脆弱性があった。これは軟質塩化ビニル樹脂と架橋ウレタンとのガラス転移温度差、さらに相溶性が氷点下で際立って悪化するためと考察される。従って、軟質塩化ビニル樹脂層の強靭性を向上させ、しかも氷点下で動的ストレスを受けても亀裂を生じ難いものに改良する必要が生じていたが、まだその解決には至っていない。そしてこの氷点下での亀裂問題が解決出来れば、屈曲耐久性(耐はためき性)、及び折り畳み収納により優れた帆布が得られるので、テント倉庫、屋形テント、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートなどの耐用年数向上となり、二酸化炭素排出量削減の環境配慮型社会構築への貢献が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-017668号公報
【文献】実開昭48-61171号公報
【文献】実開昭51-124169号公報
【文献】特開2022-057803号公報
【文献】特開2015-205428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、テント倉庫(簡易ハウス)、屋形テント(運動会、屋外イベント、運営本部、集会、受付などに用いられる天幕装着式の組立テント)、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートなどの本体素材に用いる帆布として、経方向と緯方向の引裂強度バランス、及び屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)に優れ、しかも外観品位(光沢部と乱反射部のバランス)にも優れた産業資材用帆布、及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる点を考慮し鋭意検討した結果、布帛に、マルチフィラメント糸条、及び短繊維紡績糸条が規則的に交互配列され、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層にゴム成分を含む設計の帆布により、経方向と緯方向の引裂強度バランス、及び屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)に優れ、さらに外観品位(光沢部と乱反射部のバランス)にも優れた産業資材用帆布が得られることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の産業資材用帆布は、布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を設けてなる帆布であって、前記布帛が経糸条群、及び緯糸条群により製織され、経緯双方の糸条群に、マルチフィラメント糸条、及び短繊維紡績糸条が規則的に交互配列されていて、この交互配列の繰り返し単位が2~6本であり、前記交互配列が前記マルチフィラメント糸条(1~3本)、及び前記短繊維紡績糸条(1~3本)による組み合わせ9種の何れか1種であり、前記軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に液状ゴム硬化物を含み、前記液状ゴム硬化物が、ブタジエン系、イソプレン系、及びファルネセン系、から選ばれた1種以上の反応性液状ゴムの重合体、かつ前記反応性液状ゴムとシリカ粒子との複合体で、前記シリカ粒子表面のシラノール基(Si-OH基)との反応物であることが好ましい。合撚糸を構成するマルチフィラメント糸条は、帆布の強度、伸度、及び引裂強度を支配する要素であり、短繊維紡績糸条は、帆布の屈曲耐久性、とりわけ毛羽の多さは布帛と軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層との接着性、すなわちアンカー(投錨)効果を支配する要素である。本発明においては特にマルチフィラメント糸条が、嵩高糸条、または嵩高部分を外周に有する交撚糸条であると、帆布の強度、伸度、及び引裂強度を支配する要素に加え、嵩高部分が毛羽の役割を果たすことで、帆布の屈曲耐久性、布帛と軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層との接着性を支配する要素を兼ね備えた有用なものとなる。嵩高マルチフィラメント糸条はタスラン加工糸、ウーリー加工糸であり、嵩高部分を外周に有する交撚糸条は、コアスパン芯鞘加工糸で、マルチフィラメント糸条の外周にスパン糸を交撚で巻き付けたものである。そして軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内に、液状ゴム硬化物の分子鎖が塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったポリマーアロイを形成させることで、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を軽量化しても屈曲耐久性(耐はためき性)、及び耐摩耗性に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)にも優れた産業資材用帆布を得ることがでる。この態様によれば、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を従来品よりも薄い設計として帆布の軽量化を図ったとしても、従来品同等の耐久性を得ることができる。
【0009】
本発明の産業資材用帆布は、前記マルチフィラメント糸条が、嵩高糸条、または嵩高部分を外周に有する芯鞘糸条であることが好ましい。短繊維紡績糸条の毛羽によるアンカー(投錨)効果と、嵩高マルチフィラメント糸条のアンカー効果との相乗によって軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層が布帛表面とより強固に接着一体化することで、屈曲耐久性(耐はためき性)により優れ、さらに接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)もより優れたものとすることができる。嵩高マルチフィラメント糸条は、タスラン加工、ウーリー加工、コアスパン芯鞘加工の何れかにより形成することができる。嵩高部分を有する糸条とは、嵩高マルチフィラメント糸条と通常のマルチフィラメント糸条との混撚が挙げられる。
【0010】
本発明の産業資材用帆布は、前記液状ゴム硬化物が、ブタジエン系、イソプレン系、及びファルネセン系、から選ばれた1種以上の反応性液状ゴムの重合体であることが好ましい。軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内に、ゴム成分の分子鎖が塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったポリマーアロイを形成させることで、屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)にも優れた産業資材用帆布を得ることができる。
【0011】
本発明の産業資材用帆布は、前記液状ゴム硬化物が、シリカ粒子との複合体であることが好ましい。シリカ粒子表面のシラノール基(Si-OH基)と反応して液状ゴム硬化物の一部となることによって、液状ゴム硬化物が強靭化して、屈曲耐久性(耐はためき性)、耐摩耗性を向上させ、また軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の耐寒性及び耐熱性(軟化温度)を向上させる。この耐熱性向上は、産業資材用帆布同士を熱融着ラップ接合した接合部の剥離強度の向上に加え、炎天下での接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)の向上となる。
【0012】
本発明の産業資材用帆布の製造方法は、マルチフィラメント糸条、及び短繊維紡績糸条を規則的に交互配列して含む布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層が形成された帆布の製造において、1)塩化ビニル樹脂、可塑剤、反応性液状合成ゴム(ブタジエン系、イソプレン系、及びファルネセン系、から選ばれた1種以上)、の3種を少なくとも含む軟質塩化ビニル樹脂組成物を調製する工程、2)前記布帛に前記軟質塩化ビニル樹脂組成物を塗工し、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層(ゲル化前)を形成する工程、3)前記軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成する前記軟質塩化ビニル樹脂組成物のゲル化熱処理と同時に、前記反応性液状合成ゴムをゴム硬化物に転化して、前記軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全体に合成ゴム成分を含ませる工程、を含むことが好ましい。塗工後の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内には反応性液状合成ゴム分子が塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合った状態で存在し、この反応性液状合成ゴムを硬化させることで軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内の全域に、合成ゴムの分子鎖が塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったポリマーアロイを効果的に形成させることができ、その結果、屈曲耐久性(耐はためき性)、及び耐摩耗性に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)にも優れた産業資材用帆布を得ることができるので。性能を損なわずに1ランクの軽量化も可能とする。
【0013】
本発明の産業資材用帆布の製造方法は、前記布帛が、経糸条群、及び緯糸条群により製織され、経緯双方の糸条群に、マルチフィラメント糸条(嵩高糸条、嵩高部分を外周に有する芯鞘糸条を包含する)、及び短繊維紡績糸条を交互配列で含み、この交互配列の繰り返し単位が2~6本であり、前記交互配列が前記マルチフィラメント糸条(1~3本)、及び前記短繊維紡績糸条(1~3本)による組み合わせ9種の何れか1種であることが好ましい。これによって経方向と緯方向の引裂強度バランスを均衡なものとし、任意の調整を施すことができる。そしてマルチフィラメント糸条の部分の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層は光沢部を形成し、短繊維紡績糸条の部分の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層は乱反射部を形成し、光沢部と乱反射部とのバランスがそのまま外観品位の良し悪しとなるので、上記の交互配列を採用することによって外観品位を安定させることを可能とする。
【0014】
本発明の産業資材用帆布の製造方法は、前記軟質塩化ビニル樹脂組成物にシリカ粒子を含ませて、シリカ粒子との複合ゴム硬化物に転化することが好ましい。シリカ粒子表面のシラノール基(Si-OH基)と液状合成ゴムの官能基が反応して、合成ゴム成分/シリカ粒子ハイブリッドとなり、一方、合成ゴムの分子鎖が塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったポリマーアロイを形成することによって、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層が強靭化して、屈曲耐久性(耐はためき性)、耐摩耗性を向上させ、また軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の耐寒性及び耐熱性(軟化温度)を向上させる。この耐熱性向上は、産業資材用帆布同士を熱融着ラップ接合した接合部の剥離強度の向上に加え、炎天下での接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)の向上となる。この接合部の熱堅牢性が不十分だとテント倉庫、トラック幌などの接合部の剥離破壊を起こすことがある。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、経方向と緯方向の引裂強度バランス、及び屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)に優れ、しかも外観品位(光沢部と乱反射部のバランス)のよい産業資材用帆布が得られるので、テント倉庫(簡易ハウス)、屋形テント(運動会、屋外イベント、運営本部、集会、受付などに用いられる天幕装着式の組立テント)、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートなどの本体素材として広い活用を可能とする。また本発明により、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を従来品よりも薄い設計として帆布の軽量化を図ったとしても、従来品同等の耐久性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の産業資材用帆布は、布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を設けてなる帆布であって、布帛が経糸条群、及び緯糸条群により製織され、経緯双方の糸条群に、マルチフィラメント糸条、及び短繊維紡績糸条が交互配列されていて、この交互配列の繰り返し単位が2~6本であり、交互配列がマルチフィラメント糸条(1~3本)、及び短繊維紡績糸条(1~3本)による組み合わせ9種の何れか1種であり、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に液状ゴム硬化物を含む態様で、特にマルチフィラメント糸条が嵩高部分を有する態様であってもよく、特に液状ゴム硬化物がシリカ粒子と複合した態様であってもよい。これらの産業資材用帆布の製造方法は、1)塩化ビニル樹脂、可塑剤、反応性液状合成ゴムの3種を少なくとも含む軟質塩化ビニル樹脂組成物を調製する工程、2)布帛に軟質塩化ビニル樹脂組成物を塗工し、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成する工程、3)反応性液状合成ゴムをゴム硬化物に転化して、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全体に合成ゴムを含ませる工程、を含み、さらに軟質塩化ビニル樹脂組成物にシリカ粒子を含ませて、シリカ粒子との複合ゴム硬化物に転化させる工程を含む。
【0017】
本発明の産業資材用帆布に用いる布帛は、経糸条群、及び緯糸条群により製織され、経緯双方の糸条群に、マルチフィラメント糸条、及び短繊維紡績糸条が規則的に交互配列された布帛で、交互配列の繰り返し単位が2~6本、空隙率は0~15%の布帛(平織物、綾織物、繻子織物、摸紗織物、バスケット織物などで)が好ましい。詳しくは、経糸条群の交互配列が、マルチフィラメント糸条(1~3本)、短繊維紡績糸条(1~3本)による組み合わせ9種の何れか1種であり、かつ緯糸条群の交互配列が、マルチフィラメント糸条(1~3本)、短繊維紡績糸条(1~3本)による組み合わせ9種の何れか1種である。具体的に、経糸条群、及び緯糸条群において、マルチフィラメント糸条(Mと表記)、短繊維紡績糸条(Sと表記)の交互配列は、「MS(2本、1:1)」、「MSS(3本、1:2)」、「MSSS(4本、1:3)」、「MMS(3本、2:1)」、「MMSS(4本、1:1)」、「MMSSS(5本、2:3)」、「MMMS(4本、3:1)」、「MMMSS(5本、3:2)」、「MMMSSS(6本、1:1)」の9タイプの繰り返し単位である。経糸条群(または緯糸条群)に含むマルチフィラメント糸条、及び短繊維紡績糸条の本数比は、同一繊度(または同一番手)の場合、1:3~3:1、好ましくは2:3~3:2,特に好ましくは1:1である。交互配列を構成するマルチフィラメント糸条は、帆布の強度、伸度、及び引裂強度を支配する要素であり、短繊維紡績糸条は、帆布の屈曲耐久性、とりわけ毛羽の多さは布帛と軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層との接着性を支配する要素で、両者のバランスをどちら寄りとするかは任意である。マルチフィラメント糸条の部分の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層は光沢部を形成し、短繊維紡績糸条の部分の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層は乱反射部を形成し、光沢部と乱反射部とのバランスがそのまま外観品位の良し悪しとなるので、上記の交互配列を採用することによってより良い外観品位を得ることができる。
【0018】
特に経方向と緯方向の引裂強度バランスをとるために経糸条群、及び緯糸条群において同じ交互配列(繰り返し単位)とすることで、引裂強度に寄与するマルチフィラメント糸条を経:緯で1:1の本数とする態様が好ましい。帆布の強度、引裂強度、及び光沢寄りの外観を重視する場合は、マルチフィラメント糸条を短繊維紡績糸条よりも多い本数比率とする繰り返し単位(交互配列)が好ましく、これは具体的に経糸条群、及び緯糸条群ともに、「MMS(3本)」または、「MMMSS(5本)」である。一方、帆布の屈曲耐久性(耐はためき性)、接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)、及び乱反射寄りの外観を重視する場合は、アンカー(投錨)効果に寄与する毛羽を有する短繊維紡績糸条の本数をマルチフィラメント糸条よりも多い本数とする繰り返し単位(交互配列)が好ましく、これは具体的に経糸条群、及び緯糸条群ともに、「MSS(3本)」または、「MMSSS(5本)」である。この両者の特長の最適なバランスを採用すると、「MS」、「MMSS」、「MMMSSS」などの繰り返し単位(交互配列)が好ましい。特にマルチフィラメント糸条、及び短繊維紡績糸条は、2本引揃、または3本引揃とすることで、引裂強度が飛躍的に増大するので「MMSS(4本)」、「MMSSS(5本)」、「MMMSS(5本)」、「MMMSSS(6本)」などの繰り返し単位が好ましい。また「MSS(3本)」、「MMS(3本)」、「MMMS(4本)」、「MSSS(4本)」などの本数比率が1:2、または1:3の繰り返し単位においては、少ない方のマルチフィラメント糸条の繊度を2~3倍とすること、または短繊維紡績糸条の番手のランクを下げるか、双糸、または三子撚とすることで引裂強度バランスの不均衡を改善することができる。
【0019】
特にマルチフィラメント糸条は、嵩高部分を有することが好ましく、短繊維紡績糸条の毛羽によるアンカー(投錨)効果と、マルチフィラメント糸条嵩高部分とのアンカー効果との相乗によって軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層が布帛表面とより強固に接着一体化することで、屈曲耐久性(耐はためき性)により優れ、さらに接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)もより優れたものとすることができる。このような嵩高部分は、タスラン加工、ウーリー加工、コアスパン芯鞘加工により形成することができる。タスラン加工は、マルチフィラメント糸条に圧縮空気を吹き当てフィラメント同士をループ状に絡ませて嵩高部分を形成する方法、ウーリー加工は、マルチフィラメント糸に撚りをかけて熱固定した後に撚りを戻して嵩高部分を形成する方法、コアスパン芯鞘加工は、マルチフィラメント長繊維糸条を芯として、その全周に短繊維ステープルを交絡させた質量比10:1~2:1の芯鞘構造の疑似短繊維紡績糸条の嵩高部分を形成する方法である。これらの嵩高糸条は何れもマルチフィラメント(長繊維糸条)の強度(耐引裂強度)を有しながら、短繊維紡績糸条の毛羽に相当する引っ掛かり部(毛羽、またはルーズな嵩高)を有することで軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層へのアンカー(投錨接着)効果を発現する利点を有すると同時に、嵩高糸条を被覆する軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層は帆布外観の乱反射部となる。
【0020】
マルチフィラメント糸条(非嵩高、または嵩高)、及び短繊維紡績糸条の繊維種は、合成繊維(各種ポリマー、リサイクル再生ポリマー)、天然繊維(綿、ケナフ)、半合成繊維(レーヨン)、無機繊維(ガラス繊維、炭素繊維など)の種別が挙げられ、特に汎用性と物性のバランスから、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維などの合成繊維が好ましく、特にポリエステル繊維(特にポリエチレンテレフタレート、さらに回収ポリエチレンテレフタレートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリエチレンテレフタレート)、ナイロン繊維、ビニロン繊維が好ましい。特に布帛の耐引裂強度を飛躍的に向上させるために、全芳香族ポリエステル繊維(ポリアレレート)、全芳香族ポリアミド繊維(アラミド)、芳香族複素環高分子繊維(ポリベンズオキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズチアゾールなど)の高強度マルチフィラメント糸条を使用することができる。またポリエステル繊維のマルチフィラメント糸条を使用した布帛(織物)において、経糸条群、及び緯糸条群の特定間隔のマルチフィラメント糸条を、上記高強度マルチフィラメント糸条に置換した設計のリップストップ織物を使用することもできる。嵩高部分を外周に有する芯鞘糸条であるコアスパン糸条においては、鞘に用いる短繊維ステープルの繊維種は芯と同一種が好ましいが、例えば、芯部に全芳香族ポリアミド繊維(アラミド)のマルチフィラメント糸条、鞘部をポリエステル短繊維とする異種の組み合わせであってもよい。
【0021】
マルチフィラメント糸条は、250デニール、500デニール、750デニール、1000デニール、1250デニール(278dtex、555dtex、833dtex、1111dtex、1388dtex)などの汎用の繊度のものが使用でき、特に500デニール、750デニール,1000デニール(555dtex、833dtex、1111dtex)が好ましいが、これらは250デニールの倍数に限られるものではない。マルチフィラメント糸条のフィラメント単糸は3~10デニール、好ましくは4~6デニールで、例えば500デニール糸条のフィラメント数は50~166本程度(好ましくは83~125本程度)であり、繊度は数字が大きいほど強度(破断強度、引裂強度)を増す。糸条の撚数は100~1000回/m、特に200~500回/mが好ましく、特にタスラン糸条の撚数は10~200回/m、特に20~100回/mが好ましい。200回/mを超えると嵩高部分が巻き締まって軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に対するアンカー効果を損なうことになる。また短繊維紡績糸条は、綿番手の10番手単糸(590dtex)、14番手単糸(422dtex)、15番手単糸(394dtex)、20番手単糸(295dtex)、30番手単糸(197dtex)が挙げられ、特に14番手単糸、15番手単糸、20番手単糸が好ましい。また14番手双糸(844dtex)、15番手双糸(788dtex)、20番手双糸(590dtex)、30番手双糸(394dtex)が挙げられ、特に20番手双糸、30番手双糸がこのましい。番手は数字が小さいほど強度(破断強度、引裂強度)を増す。これらは撚り回数100~1000回/m、撚係数3.0~4.5のS(右)撚り、もしくはZ(左)撚りした撚糸(合糸、合撚糸)である。布帛の糸条打込密度(マルチフィラメント糸条と短繊維紡績糸条)は、1インチ間に経糸条40~80本、好ましくは45~60本、緯糸条30~70本、好ましくは40~55本を含む織物が適し、布帛の質量は、170g/m2~410g/m2、好ましくは190g/m2~260g/m2である。
【0022】
布帛には、精練、漂白、染色、柔軟化、撥水、防水、防炎、カレンダー、などの公知の繊維処理加工を施したものを使用することができる。帆布の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に、傷、摩耗、亀裂などのダメージを受けると、ダメージ部分から雨水が浸み込んで、漏水トラブルとなることがある。漏水を抑止するために、布帛全体に撥水剤を含浸付着(0.3~6g/m2)させて吸水防止することが好ましい。撥水剤は、炭素数8以下のパーフルオロアルキル基、またはパーフルオロアルケニル基を有するエチレン性不飽和モノマーを用いてなるパーフルオロアルキル基含有共重合体樹脂のエマルジョンである。具体的に、炭素数8以下のパーフルオロアルキル基を有するアクリレート及び/ またはメタクリレートと、(メタ)アクリル酸、(メタ)クリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸またはフタル酸アルキルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、スチレンなどのモノマーとの共重合体である。これらの撥水剤は120~180℃の熱キュアーでパーフルオロアルキル基を配向整列させることで高度の撥水性を得る。その他の撥水剤として、メチルクロロシラン、メチルポリシロキサン樹脂、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジエンポリシロキサンなどのシリコーン系撥水剤、炭素数20~48で、融点が50~70℃のn-パラフィンワックスなどのパラフィン系撥水剤、これらパラフィン系化合物とジルコニウムとの複合体、その他、アルキレン尿素化合物(オクタデシルエチレン尿素)、脂肪族アマイド系化合物(N-メチロールステアリルアマイド)、ポリビニルピロリドン、吸水性樹脂(保水膨潤作用で毛管現象を抑止する)として、ポリアクリル酸ナトリウム(架橋体)、カルボキシメチルセルロース架橋体、ポリビニルアルコール架橋体なども使用できる。吸水防止処理は、種類の異なる撥水剤を用い、2回の含侵工程により内外2層の撥水層を形成すること、あるいは1回の含侵で2種混合撥水層を形成することもできる。内外2層の撥水層を形成は、1種目の含侵後、乾燥処理のみで内層を仮形成し、2種目の含侵、乾燥後に一括して130~180℃の熱キュアーを施す方法である。
【0023】
布帛の全面に設けられる軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層は、軟質塩化ビニル樹脂系組成物のコーティング~熱処理ゲル化、またはディッピング~熱処理ゲル化によって形成される。ここで塩化ビニル樹脂系とは、塩化ビニル樹脂、架橋塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、エチレン-塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、アクリル-(グラフト)塩化ビニル共重合体、ウレタン-塩化ビニル(グラフト)共重合体などである。軟質塩化ビニル樹脂系組成物は、塩化ビニル樹脂、可塑剤、液状合成ゴム、の3種を少なくとも含むペーストゾルの液状体である。軟質塩化ビニル樹脂系組成物は具体的に、数平均分子量1000~2000のペースト塩化ビニル樹脂(乳化重合タイプ、好ましくはバイオマス合成品)と、可塑剤(アジピン酸エステル化合物、フタル酸エステル系化合物、シクロヘキサンジカルボン酸エステル系化合物、シクロヘキセンジカルボン酸エステル系化合物、リン酸エステル系化合物、塩素化パラフィン系化合物、ポリエステル系化合物など、好ましくはバイオマス合成品)を、ペースト塩化ビニル樹脂100質量部に対して40~100質量部含有し、液状合成ゴム(ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、及びファルネセン系など、好ましくはバイオマス合成品で、後からゴム硬化物に転化させる)を、ペースト塩化ビニル樹脂100質量部に対して5~30質量部含有するものを主体とする。その他の配合剤として、安定剤(バリウム-亜鉛複合系、カルシウム-亜鉛複合系、エポキシ化大豆油など)、難燃剤(三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛など)、充填剤(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルクなど)、耐紫外線剤(ベンゾフェノン系互変異性体、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、ヒンダードアミン系化合物など)、接着剤(多官能イソシアネート化合物、シランカップリング剤など)、防黴剤(イミダゾール系化合物、チアゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、ピリジン系化合物、N-ハロアルキルチオ系化合物、フェノキシアルシン化合物など)、顔料(酸化チタン、カーボンブラック、無機化合物、アゾ系化合物、フタロシアニン系化合物、アントラキノン系化合物、キナクリドン系化合物など)、などを任意かつ任意量で含む配合組成物が好ましく、これらには必要に応じて蛍光増白剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤、化学発泡剤、防虫剤、消臭剤、遮熱顔料など公知の添加剤を追加することができる。
【0024】
軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の耐摩耗性を向上させるために、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に対して0.05~5.0質量%の滑剤を含むことが好ましい。滑剤の潤滑効果で軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の摩擦係数を小さくすることで摩耗を低減させ、耐用年数を持延長させる。添加量が3質量%を超えると帆布(特にトラック幌用途、屋形テント用途)への印刷性を悪くすることがある。滑剤は、炭化水素系(低分子ポリエチレン、パラフィン)、脂肪酸系(ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、複合型ステアリン酸、オレイン酸)、脂肪族アルコール系、脂肪族アマイド系(ステアロアミド、オキシステアロアミド、オレイルアミド、エルシルアミド、リシノールアミド、ベヘンアミド、メチロールアミド、メチレンビスステアロアミド、メチレンビスステアロベヘンアミド、高級脂肪酸のビスアミド酸、ステアロアミド、複合型アミド)、脂肪族エステル系(n-ブチルステアレート、メチルヒドロキシステアレート、多価アルコール脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、エステル系ワックス)、脂肪酸金属石鹸系族などを、単独、または組み合わせて用いることができる。また軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の耐摩耗性を向上させて耐用年数を延長するために、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に対して0.05~5質量%の球状シリコーン微粉末を含むことが好ましい。球状シリコーン微粒子として、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー、疎水化シリカパウダー、グラフトシリコーンパウダー、及びシリコーンゴム粒子表面をシリコーンレジンで被覆した複合パウダー、から選ばれた1種以上であることが好ましい。シリコーンゴムパウダーは、直鎖状ジメチルポリシロキサンを架橋したシリコーンゴムの球状微粉末(平均粒子径5~13μm)、または不定形粒子(平均粒子径25~140μm)、シリコーンレジンパウダーは、シロキサン結合が(RSiO3/2)nで表される三次元網目状に架橋したポリオルガノシルセスキオキサン硬化物の球状粒子(平均粒子径0.8~3.5μm)、疎水化シリカパウダーは、球状アモルファスシリカの表面をシリコーンで疎水化した球状粒子(平均粒子径0.8~2.0μm)、グラフトシリコーンパウダーは、直鎖状オルガノポリシロキサンにアクリル側鎖、または酢酸ビニル側鎖を導入したグラフトポリマーによる球状粒子(平均粒子径20~30μm、シリコーン成分含有率70~90質量%)、シリコーンゴム粒子表面をシリコーンレジンで被覆した複合パウダーは、直鎖状ジメチルポリシロキサンを架橋したシリコーンゴムの球状微粉末の表面をシロキサン結合が(RSiO3/2)nで表される三次元網目状に架橋したポリオルガノシルセスキオキサン硬化物で被覆した球状複合粒子(平均粒子径5~12μm)である。
【0025】
反応性液状合成ゴムは、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、及びファルネセン系ゴムから選ばれた1種以上を、塩化ビニル樹脂100質量部に対して5~30質量部の範囲で使用する。反応性液状合成ゴムが軟質塩化ビニル樹脂組成物に含む可塑剤と相溶し、可塑剤と共に塩化ビニル樹脂微粒子内に浸透して塩化ビニル樹脂の軟化剤となる。この状態で軟質塩化ビニル樹脂組成物を加熱ゲル化させることで軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層が形成される。塗工後の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内には反応性液状合成ゴム分子が塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合った状態となる。次いで反応性液状合成ゴムを硬化させることで軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内の全域に、ゴム分子鎖のネットワークが塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったハイブリッド形成を可能とする。このような塩化ビニル樹脂と液状ゴム硬化物との一体化は軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を強靭なものとして、耐屈曲性、耐摩耗性、耐熱性、耐寒性などを向上させることができる。
【0026】
反応性ブタジエン液状ゴムは、分子末端に-COOH基,-OH基、の何れかを有することでゴム硬化物を形成する。分子量Mnは1000~5000もの、特に1300~3500の分子量,粘度50~1000ポイズ(25℃)、特に200~500ポイズ(25℃)の範囲のものが好ましい。反応性ブタジエン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてスチレン、及び/またはアクリロニトリルを5~25質量%含むもの、及び共重合成分としてイソプレン、または水素添加イソプレンを10~50質量%含むものである。反応性ブタジエン液状ゴムは、1,4-シス構造、または1,4-トランス構造を75~80%程度、1,2-ビニル構造を20~25%程度とするものだと粘度が低く、ゴム化した時のゴム弾性に優れる。この生成比率はラジカル重合方法により可能とされる。反応性イソプレン系液状ゴムは、分子(両)末端に-COOH基,-OH基、の何れかを有する、分子量Mn3000~25000の範囲のものが好ましい。反応性イソプレン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてスチレン、及び/またはアクリロニトリルを5~25質量%含むもの、及び共重合成分としてブタジエン、または水素添加イソプレンを10~50質量%含むものである。反応性ファルネセン系ゴムは、α-ファルネセン((3E,7E)-3,7,11-トリメチル-1,3,6,10-ドデカテトラエン)、β-ファルネセン(7,11-ジメチル-3-メチレン-1,6,10-ドデカトリエン)などをモノマーとするゴム、さらにファネルセンとスチレンとの共重合ゴム、ファネルセンとブタジエンとの共重合ゴムが例示できる。反応性ファネルセン系液状ゴムは、分子(両)末端に-COOH基,-OH基、の何れかを有する、分子量Mn3000~50000の範囲のものが好ましい。これらの反応性液状合成ゴムの硬化物は、分子(両)末端の-COOH基,-OH基、の脱水縮合によって形成されるが、ジアミン、ポリアミン、ジイソシアネート、ポリイソシアネート、エポキシ-アミン、アジリジン、オキサゾリンなどの架橋剤との付加反応、あるいはジオール、ポリオール、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、などの化合物との縮合反応により形成することができる。
【0027】
さらに液状ゴム硬化物の一部がシリカ粒子と結合したゴム硬化物を使用することもできる。シリカ粒子表面のシラノール基(Si-OH基)と反応して液状ゴム硬化物の一部となることによって、液状ゴム硬化物が強靭化して、屈曲耐久性(耐はためき性)、耐摩耗性を向上させ、また軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の耐寒性及び耐熱性(軟化温度)を向上させる。この耐熱性向上は、産業資材用帆布同士を熱融着ラップ接合した接合部の剥離強度の向上に加え、炎天下での接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)の向上となる。シリカ粒子は、反応性液状合成ゴムに対し1~25重量%の量で併用し、シリカ表面のシラノール基(Si-OH基)と、反応性液状合成ゴムの分子(両)末端に-COOH基,-OH基との間での化学結合を生成(脱水縮合)させることでゴム硬化物の一部として取り込んで、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に対してシリカ粒子を0.05~2.5質量%の量で含有するものとする。さらにこの反応に、ジアミン、ポリアミン、ジイソシアネート、ポリイソシアネート、エポキシ-アミン、アジリジン、オキサゾリンなどの架橋剤との付加反応、あるいはジオール、ポリオール、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、などの化合物を介在させることで、分子鎖を長くすることでゴム硬化物の可撓性、強靭性を向上させることができる。このようなゴム硬化物の生成は、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成する軟質塩化ビニル樹脂ペーストのゲル化熱処理と同時に行い、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層全体に均質なゴム硬化物を形成する。軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物には、シランカップリング剤を含み、液状合成ゴムとシリカとの化学結合を補助することができる。
【0028】
シリカは、BET比表面積100~300m2/g、または二次粒子径1~40μmの合成非晶質シリカが好ましい。合成非晶質シリカは、湿式法シリカ(沈降法またはゲル法)、乾式法シリカ(ヒュームドシリカ)の何れであってもよい。シリカの表面はシラノール(Si-OH基)を有し、シラノール基が反応性液状合成ゴムの分子(両)末端の-COOH基,-OH基など反応して、シリカ粒子がゴム成分の一部となること、特にこの反応に、ジアミン、ポリアミン、ジイソシアネート、ポリイソシアネート、エポキシ-アミン、アジリジン、オキサゾリンなどの架橋剤との付加反応、あるいはジオール、ポリオール、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、などの化合物を介在させることによって、ゴム硬化物が強靭化して、屈曲耐久性(耐はためき性)、耐摩耗性を向上させ、また軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の耐寒性及び耐熱性(軟化温度)を向上させる。この耐熱性向上は、産業資材用帆布同士を熱融着ラップ接合した接合部の剥離強度の向上に加え、炎天下による表面温度40~60℃での耐剥離性としても発現される。シリカ表面には、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基、クロル基、メルカプト基、イソシアヌレート基、イソシアネート基などの官能基が導入されていてもよい。シリカ粒子は、シランカップリング剤で処理された表面改質粒子であることが好ましい。シランカップリング剤は一般式:XR-Si(Y)3で表される分子中に2個以上の異なった反応基を有するアルコキシシラン化合物で、例えば、X=アミノ基(アミノシラン)、ビニル基(ビニルシラン)、エポキシ基(エポキシシラン)、メタクリル基(メタクリルシラン)、アクリル基(アクリルシラン)、クロル基(クロルシラン)、メルカプト基(メルカプトシラン)、イソシアヌレート基(イソシアヌレートシラン)、イソシアネート基(イソシアネートシラン)、など(R=アルキル鎖)、Y=メトキシ基、エトキシ基などである。シリカの表面改質は、シリカのシラノール基の、-Si-R-Si(Y)3修飾であるが、シリカのシロキサン結合部分の、(-O)3Si-RX修飾であってもよい。
【0029】
本発明の産業資材用帆布の製造方法は、マルチフィラメント糸条、及び短繊維紡績糸条を規則的に交互配列して含む布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層が形成された帆布の製造において、1)塩化ビニル樹脂、可塑剤、反応性液状合成ゴム(ブタジエン系、イソプレン系、及びファルネセン系、から選ばれた1種以上)、の3種を少なくとも含む軟質塩化ビニル樹脂組成物を調製する工程、2)布帛に前記軟質塩化ビニル樹脂組成物を塗工し、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成する工程、3)反応性液状合成ゴムをゴム硬化物に転化して、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全体に合成ゴムを含ませる工程、を含むことを特徴とする。布帛への軟質塩化ビニル樹脂組成物(ペーストゾル)の塗工、及び軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の形成は、ディッピング(浸漬~含浸~ロール圧搾~ペーストゾルの熱処理ゲル化)、または、グラビアコート法、コンマコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、バーコート法、ドクターナイフコート法などのコーティング(含浸被覆~ペーストゾルの熱処理ゲル化)により実施できる。反応性液状合成ゴムをゴム硬化物に転化するには、ジアミン、トリアミン、テトラミン、ポリアミン、ジイソシアネート(例えばヘキサメチレンジイソシアネート:HMDI)、トリイソシアネート(例えばHMDIの3量体によるイソシヌレート)、ポリイソシアネート、エポキシ-アミン、アジリジン、オキサゾリンなどによる架橋剤、特に官能基数が3または4の架橋剤によって緻密、かつ複雑なゴム硬化物とする。反応性液状合成ゴムのゴム硬化物への転化は、軟質塩化ビニル樹脂組成物のゲル化と同時に行うことで、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層全体に均質なゴム硬化物が形成される。反応性液状合成ゴムと架橋剤との反応は、等モル比反応が好ましいが、余剰の液状合成ゴムが軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内に残存してもよい。残存する反応性液状合成ゴムは可塑剤と相溶し、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層のガラス転移温度を下げる効果、すなわち耐寒性付与剤として作用する。残存する反応性液状合成ゴムは、塩化ビニル樹脂100質量部に対して1~10質量部である。
【0030】
軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層は、200~400g/m2の目付量が好ましく、目付量が少ないほど軽量化が促進され、目付量が多いほど強靭化して耐久性を増す。従来の産業資材用帆布は、2号(約410g/m2)、3号(約340g/m2)、4号(約280g/m2)、5号(約250g/m2)、6号(約200g/m2)及び7号(約170g/m2)の布帛を基布として軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を設け、2号帆布(約750g/m2)、3号帆布(約640g/m2)、4号帆布(約560g/m2)、5号帆布(約530g/m2)、6号帆布(約470g/m2)、7号帆布(約430g/m2)などの号数帆布としているが、本発明の産業資材用帆布では、1ランク軽い布帛を用いても、十分な引裂強度を得ることができ、例えば、約530g/m2の4号帆布、約470g/m2の5号帆布、約430g/m2の6号帆布、約390g/m2の7号帆布のような1ランクの軽量化を可能とする。
【0031】
また本発明の産業資材用帆布には防汚層を設けてもよく、例えば、アクリル系樹脂、フッ素系共重合樹脂、アクリル-シリコーン共重合樹脂、アクリルーフッ素共重合樹脂、アクリル-ウレタン共重合樹脂、アクリル系樹脂とフッ素系共重合樹脂とのブレンド、及びこれらの樹脂にシリカ微粒子、コロイダルシリカ、オルガノシリケート、シランカップリング剤、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系互変異性体、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体など)などを含む透明層である。これらの防汚層の形成は、これらの塗料のグラビアコートで塗布・乾燥する方法、あるいはフッ素含有樹脂フィルム、またはフッ素含有樹脂/アクリル系樹脂層などの複層フィルムを接着剤もしくは熱溶融により積層する方法である。また、これらの防汚層上には更に、光触媒性無機材料(例えば光触媒性酸化チタン・光触媒性酸化タングステンなど)を含む光触媒層を設けることもできる。
【0032】
本発明の産業資材用帆布の製造には、表面加飾エンボスを施す工程を追加してもよい。表面加飾エンボスは、鏡面ロールによる光沢付与、梨地ロールによる艶消付与、柄ロールによる意匠付与、など、公知のエンボスが付与できる。特に産業資材用帆布の端部、または特定部分に特定間隔(例えば100cmごと)で、メーカー名(例えば「HIRAOKA」)またはロゴマーク、または商品名(例えば「ULTRA MAX」)の識別刻印を施すことが好ましい。このような識別刻印は、帆布全体が梨地エンボスで、識別刻印部のみ鏡面エンボスとするデザイン、あるいは帆布全体が鏡面エンボスで、識別刻印部のみ梨地エンボスとするデザイン、あるいは識別刻印部分を凹部とするエンボスが挙げられ、これらの刻印によって他社類似品との判別が容易となる。エンボスは100~180℃に設定のエンボスロールと対のゴムロールによる圧着で行い、エンボス後の冷却(空冷と水冷ロール)によりエンボスが固定される。
【0033】
次に実施例、比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。
本発明の実施例及び比較例に用いた試験方法は下記の通りである。
(1)外観品位(光沢部と乱反射部のバランス)
1:良好
2:あまり良くない
3:良くない
(2)引裂強度(JIS L1096 トラペゾイド法)バランス
経糸の引裂強度(kgf)/緯糸の引裂強度(kgf)の値
1: 0.8~1.25
2: 0.7~0.79 または 1.26~1.43
3: 0.5~0.69 または 1.44~2.0
4: 上記以外
(3)スコット形屈曲往復摩耗試験(JIS L1096 8.19.2 B法準拠)
A)帆布から25mm幅×120mm長さの試験片を採取し、25℃環境に24時間静置した後、スコット形試験機に装着し、1kgf荷重の負荷で1000回及び3000回の往復屈曲を「25℃」の恒温室内で行い、試験後の表面状態を観察し、動的耐寒性を下記のように判定した。
1:軽微な摩耗を認める
2:軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に摩耗痕を認めるが問題ない
3:軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の剥離、または摩耗により布帛の露出
(10%未満)を認める
4:軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の剥離、または摩耗により布帛の露出
(10%を超える)を認める
B)帆布から25mm幅×120mm長さの試験片を採取し、マイナス10℃環境に24 時間静置した後、スコット形試験機に装着し、1kgf荷重の負荷で100回及び300回の往復屈曲を「-10℃」の恒温室内で行い、試験後の表面状態を観察し、動的耐寒性を下記のように判定した。
1:異常を認めない
2:軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に軽微な亀裂を認める
3:軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の部分剥離または脱落、または亀裂を認める
(4)デマッチャ繰返し屈曲疲労耐久試験(JIS K6301準拠)
帆布から50mm幅×150mm長さの試料を採取し、マイナス10℃環境に24時間静置した後、幅の中心25mmから上下2つ折りに重ね合わせた25mm幅×150mm長の折り畳み状試験片とし、YSSデマッチャ・フレキシング・テスター(株式会社安田精機製作所製)に装着し、試験片の折畳みと開帳の繰り返しの疑似試験を「-10℃」の恒温室で、100回、及び300回行い、試験片の表面状態を観察し下記のように動的耐寒性を判定した。
1:異常を認めない
2:軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に軽微な亀裂を認める
3:軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の部分剥離または脱落を認める
(5)接合体の耐熱クリープ試験(耐熱試験)
2枚の帆布の緯糸方向の端部同士を8cm幅で直線状に平行に重ね合わせ、4cm幅×30cm長のウエルドバー(平刃)を装着した高周波ウエルダー融着機(山本ビニター株式会社製YTO-8A型:高周波出力8KW)を用い、陽極電流1.0A条件の発振で軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を溶融させて帆布接合体を得た。この接合体より融着接合部を重ね合わせ幅8cmを経糸方向に含む、3cm幅×30cm長(経糸方向)の試験片を採取し、耐クリープ試験片とし、クリープ試験機(東洋精機製作所株式会社製:100LDR型)を使用して25℃×24時間の条件下、50kgf、60kgf、70kgfの荷重条件で経糸方向の耐熱クリープ性を評価、同様に緯糸方向の試験片を作製して緯糸方向の耐熱クリープ性を評価した。
評価の基準
1 :24時間経過後、接合部に伸びは認める程度(優)
2 :12時間~24時間未満で接合部が破壊し、試験片が分断した(良)
3 :1時間~12時間未満で接合部が破壊し、試験片が分断した(劣)
4 :1時間経たずに接合部が破壊し、試験片が分断した(不良)
【0034】
〔実施例1〕
〈布帛(1)〉
経糸条群、及び緯糸条群に、マルチフィラメント糸条(M)、及び短繊維紡績糸条(S)が「MMSS」交互配列(繰り返し単位4本)、経糸条の打込密度40本/インチ、及び緯糸条の打込密度37本/インチで平織製織した空隙率7%、質量215g/m2の布帛を用いた。
※マルチフィラメント糸条(M)は、500デニール(555dtex)のポリエステルマルチフィラメント糸条(フィラメント数96本:撚数200回/m)
※短繊維紡績糸条(S)は、20番手双糸(590dtex)のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り:撚数400回/m)
布帛に炭素数6のパーフルオロアルキル基を有するアクリレート/塩化ビニル樹脂共重合体エマルジョン(固形分5質量%)による撥水処理(浸漬、熱処理)を行い、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に異常を生じた場合の雨水の浸透防止(吸水防止)とした。これを布帛(1)とした。
〈軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層〉
下記〈配合1〉の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層形成用の塩化ビニル樹脂組成物ペースト(塩化ビニル樹脂、可塑剤、反応性ブタジエン系液状ゴム)を主体とする加工液を調製した。次に、この加工液が充填された液浴中に布帛(1)をディッピング(浸漬)し、布帛(1)に〈配合1〉の加工液を常圧で含浸させた後、布帛(1)を液浴から引き上げると同時に、ゴム製マングルロールで圧搾し、余分な加工液を除去して、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成した。次に、180℃の熱風炉で3分間ゲル化熱処理を行うことで軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層290g/m2を布帛(1)の全面に形成し、質量505g/m2の帆布(1)を得た。このゲル化熱処理は、塩化ビニル樹脂組成物ペーストを軟質塩化ビニル樹脂に転化すると同時に、反応性ブタジエン系液状ゴムをゴム硬化物に転化させることで、得られる軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内の全域に、ゴム硬化物の分子鎖が塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったポリマーアロイを形成する工程である。
〈配合1〉軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層形成用の加工液
ペースト塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
ジイソノニルフタレート(DINP可塑剤) 60質量部
反応性ブタジエン系液状ゴム※ 10質量部
イソシアヌレート(HMDI※の3量体:NCO架橋剤) 2質量部
塩素化パラフィン(防炎剤兼可塑剤) 5質量部
エポキシ化大豆油(安定剤兼可塑剤) 4質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 20質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
紫外線吸収剤(トリアジン系互変異性体) 0.5質量部
酸化チタン(白顔料) 1質量部
フタロシアニングリーン(緑顔料) 3質量部
カーボンブラック(黒顔料) 0.5質量部
ベヘンアミド(滑剤) 1質量部
トリクロロエチレン(希釈溶剤) 20質量部
※ブタジエン系液状ゴム:ブロック共重合成分としてスチレンを15質量%含み、
分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状
※HMDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
HMDIの3量体(イソシアヌレート)は3個のイソシアネート基を有する
【0035】
〔実施例2〕
実施例1の布帛(1)を布帛(2)に変更し、〈配合1〉を〈配合2〉に変更した以外は実施例1と同様として質量505g/m2の帆布(2)を得た。
〈配合2〉は〈配合1〉の反応性ブタジエン系液状ゴム10質量部を、反応性イソプレン系液状ゴム10質量部に置換したもので、反応性イソプレン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてアクリロニトリルを10質量%含み、分子両末端に-COOH基を有する平均分子量2500の性状である。
〈布帛(2)〉
経糸条群に、マルチフィラメント糸条(M)、及び短繊維紡績糸条(S)が「MMMSS」交互配列(繰り返し単位5本)、経糸条の打込密度40本/インチ、緯糸条群に、マルチフィラメント糸条(M)、及び短繊維紡績糸条(S)が「MMSSS」交互配列(繰り返し単位5本)、緯糸条の打込密度37本/インチで平織製織した空隙率7%、質量215g/m2の布帛(撥水処理は実施例1と同じ)を用いた。
※マルチフィラメント糸条(M)は、500デニール(555dtex)のポリエステルマルチフィラメント糸条(フィラメント数96本:撚数200回/m)
※短繊維紡績糸条(S)は、20番手双糸(590dtex)のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り:撚数400回/m)
【0036】
〔実施例3〕
実施例1の布帛(1)を布帛(3)に変更し、〈配合1〉を〈配合3〉に変更した以外は実施例1と同様として質量518g/m2の帆布(3)を得た。
〈配合3〉は〈配合1〉の反応性ブタジエン系液状ゴム10質量部を、反応性β-ファネルセン系液状ゴム10質量部に置換したもので、反応性β-ファネルセン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてブタジエンを10質量%含み、分子両末端に-COOH基を有する平均分子量5000の性状である。
〈布帛(3)〉
経糸条群、及び緯糸条群に、マルチフィラメント糸条(M)、及び短繊維紡績糸条(S)が「MMS」交互配列(繰り返し単位3本)、経糸条の打込密度44本/インチ、緯糸条の打込密度40本/インチで平織製織した空隙率8%、質量228g/m2の布帛(撥水処理は実施例1と同じ)を用いた。
※マルチフィラメント糸条(M)は、500デニール(555dtex)のポリエステルマルチフィラメント糸条(フィラメント数96本:撚数200回/m)
※短繊維紡績糸条(S)は、14番手双糸(844dtex)のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り:撚数400回/m)で、マルチフィラメント糸条(M)よりも繊度(dtex)が大きい。これを表1では(S)と表記した。
【0037】
〔実施例4〕
実施例1の布帛(1)を布帛(4)に変更した以外は実施例1と同様として質量523g/m2の帆布(4)を得た。
〈布帛(4)〉
経糸条群、及び緯糸条群に、マルチフィラメント糸条(M)、及び短繊維紡績糸条(S)が「MSS」交互配列(繰り返し単位3本)、経糸条の打込密度44本/インチ、緯糸条の打込密度40本/インチで平織製織した空隙率7%、質量233g/m2の布帛(撥水処理は実施例1と同じ)を用いた。
※マルチフィラメント糸条(M)は、1000デニール(1111dtex)のポリエステルマルチフィラメント糸条(フィラメント数192本:撚数200回/m)で、短繊維紡績糸条(S)よりも繊度(dtex)が大きい。これを表1では(M)と表記した。
※短繊維紡績糸条(S)は、20番手双糸(590dtex)のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り:撚数400回/m)
【0038】
〔実施例5〕
実施例1の布帛(1)を布帛(5)に変更し、〈配合1〉を〈配合2〉に変更した以外は実施例1と同様として質量538g/m2の帆布(5)を得た。
〈布帛(5)〉
経糸条群、及び緯糸条群に、マルチフィラメント糸条(M)、及び短繊維紡績糸条(S)が「MMSSS」交互配列(繰り返し単位5本)、経糸条の打込密度40本/インチ、緯糸条の打込密度37本/インチで平織製織した空隙率8%、質量238g/m2の布帛(撥水処理は実施例1と同じ)を用いた。
※マルチフィラメント糸条(M)は、ポリエステル繊維(フィラメント数192本:撚数200回/m)からなり、フィラメント同士がルーズに嵩高交絡した状態でS撚10T/mを施した1000デニール(1111dtex)のタスラン加工糸条で、これを表1では「薄墨のM」と表記した。
※短繊維紡績糸条(S)は、20番手双糸(590dtex)のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り:撚数400回/m)
【0039】
〔実施例6〕
実施例1の布帛(1)を布帛(6)に変更し、〈配合1〉を〈配合3〉に変更した以外は実施例1と同様として質量525g/m2の帆布(6)を得た。
〈布帛(6)〉
経糸条群、及び緯糸条群に、マルチフィラメント糸条(M)、及び短繊維紡績糸条(S)が「MMSS」交互配列(繰り返し単位4本)、経糸条の打込密度38本/インチ、緯糸条の打込密度34本/インチで平織製織した空隙率8%、質量220g/m2の布帛(撥水処理は実施例1と同じ)を用いた。
※マルチフィラメント糸条(M)は、ポリエステルマルチフィラメント長繊維糸条750デニール(833dtex:撚数200回/m)を芯として、その全周を1.4デニール(1.56dtex)の短繊維長さ100mmのポリエステルステープルで、重量比65/35の芯/鞘になるように被覆したコアスパン芯鞘糸条で、これを表2では「薄墨のM」と表記した。
※短繊維紡績糸条(S)は、20番手双糸(590dtex)のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り:撚数400回/m)
【0040】
〔実施例7〕
実施例1の布帛(1)を布帛(7)に変更した以外は実施例1と同様として質量532g/m2の帆布(7)を得た。
〈布帛(7)〉
経糸条群、及び緯糸条群に、マルチフィラメント糸条(M)、及び短繊維紡績糸条(S)が「MMMSSS」交互配列(繰り返し単位6本)、経糸条の打込密度40本/インチ、緯糸条の打込密度37本/インチで平織製織した空隙率8%、質量227g/m2の布帛(撥水処理は実施例1と同じ)を用いた。
※マルチフィラメント糸条(M)は、2本が500デニール(555dtex)のポリエステルマルチフィラメント糸条(フィラメント数96本:撚数200回/m)、この中央に500デニール(555dtex)の全芳香族ポリアミド繊維(フィラメント数300本:ポリパラフェニレンテレフタルアミド)によるマルチフィラメント糸条を配置(表2では大文字のM表記とした)
※短繊維紡績糸条(S)は、20番手双糸(590dtex)のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り:撚数400回/m)
【0041】
〔実施例8〕
実施例1の布帛(1)を布帛(8)に変更した以外は実施例1と同様として質量536g/m2の帆布(8)を得た。
〈布帛(8)〉
経糸条群、及び緯糸条群に、マルチフィラメント糸条(M)、及び短繊維紡績糸条(S)が「MS」の交互配列(繰り返し単位2本)、経糸条の打込密度40本/インチ、緯糸条の打込密度37本/インチで平織製織した空隙率8%、質量236g/m2の布帛(撥水処理は実施例1と同じ)を用いた。
※マルチフィラメント糸条(M)は、500デニール(555dtex:撚数200回/m)の全芳香族ポリアミド繊維(フィラメント数300本:ポリパラフェニレンテレフタルアミド)によるマルチフィラメント糸条(表2では大文字のM表記とした)
※短繊維紡績糸条(S)は、20番手双糸(590dtex)の全芳香族ポリアミド繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミド)短繊維紡績糸条(S撚り:撚数400回/m)表2では大文字のM表記とした。
【0042】
〔実施例9〕
実施例1の〈配合1〉の加工液を、〈配合4〉の加工液に変更した以外は実施例1と同様として、質量505g/m2の帆布(9)を得た。
〈配合4〉の加工液は〈配合1〉の加工液に、表面改質シリカ粒子を2質量部追加したものである。
表面改質シリカ粒子は、乾式シリカ(ゲル法:平均粒子径2μm、BET比表面積300m2/g)を、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)の5質量%水溶液中で24℃×3時間攪拌したものを分離、乾燥したもので、シリカのシラノール基に結合する-Si-R-Si(OCH3)3修飾と、シロキサン部分に結合する(-O)3Si-R-NH2修飾が混在する。
【0043】
〔実施例10〕
実施例1の帆布(1)の表面に、下記〔配合5〕のフッ素系樹脂塗料を100メッシユのグラビアロールにより塗工し、120℃の熱風炉で2分間加熱乾燥し、〔配合5〕のフッ素系樹脂塗料を硬化させて防汚塗膜層(4g/m2)を形成し、質量509g/m2の帆布(10)を得た。
〔配合5〕フッ素系樹脂塗料(防汚層形成用)
水酸基含有フルオロオレフィンビニルエーテル共重合体(フッ素系樹脂)
100質量部
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート3量体(イソシアネート)
10質量部
コロイダルシリカ(帯電防止) 8質量部
トリアジン互変異性体(紫外線吸収剤) 5質量部
硬化触媒:ジブチル錫ジラウレート(フッ素系樹脂に対し約10ppm)
トルエン/酢酸ブチル(質量比1:1の希釈剤) 400質量部
【0044】
【0045】
【0046】
実施例1~10の帆布(1)~(10)は、何れもマルチフィラメント糸条、及び短繊維紡績糸条が規則的に交互配列され、この交互配列の繰り返し単位が2~6本で、交互配列がマルチフィラメント糸条(1~3本)、及び短繊維紡績糸条(1~3本)による組み合わせの何れかであること(表1,表2)によって、経緯方向での引裂強度バランスに優れ、かつ布帛と軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層との接着性が強化安定することで、屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、すべて外観品(光沢部と乱反射部のバランス)が良好であった。特に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に合成ゴム硬化物が複合され、合成ゴム硬化物の形成は、反応性液状合成ゴムを含む軟質塩化ビニル樹脂組成物を布帛に塗工した後、反応性液状合成ゴムをゴム硬化物に転化して、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全域に合成ゴム硬化物を複合した特別なものである。塗工された直後の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内には反応性液状ゴムの分子鎖が塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合った状態で存在し、次工程で反応性液状合成ゴムを硬化させることで軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内の全域にゴム構造の分子鎖が張り巡らされ、特に塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったネットワークを構築することで、屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)、及び炎天下での耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)に優れた産業資材用帆布を得ることができる。この態様では軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を従来品よりも薄い設計として帆布の軽量化を図ったとしても、従来品同等の耐久性を得ることができる。特に実施例9の帆布(9)は、反応性液状合成ゴムがシリカ粒子表面のシラノール基(Si-OH基)と結合(架橋剤介在)して、ゴム硬化物の構造中にシリカ(シランカップリング剤処理)を中継点に含むことで、ゴム硬化物が強靭化して、屈曲耐久性(デマッチャ屈曲疲労試験)、耐摩耗性(スコット屈曲摩耗試験)がさらに向上し、また軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の耐寒性及び耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)をさらに向上させる。この態様だと軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を従来品よりも薄い設計として帆布の軽量化を図ったとしても、従来品同等の耐久性を得ることができる。実施例10の帆布(10)は、実施例1の帆布(1)の表面に、フッ素系樹脂による防汚塗膜層を形成したことで、屋外使用時に付着、蓄積する煤塵汚れの洗浄拭き取り除去性が容易であった。実施例5の布帛(5)の短繊維紡績糸とタスラン嵩高糸条(長繊維)の併用、実施例6の布帛(6)の短繊維紡績糸とコアスパン芯鞘糸条(芯が長繊維)の併用は、どちらも短繊維の毛羽に匹敵するアンカー部を備えることで引裂強度を維持した状態で屈曲耐久性(耐はためき性)の向上の両立を可能とした。
【0047】
[比較例1]
実施例1の〈配合1〉の加工液を〈配合6〉の加工液に変更した以外は実施例1と同様として、質量503g/m2の帆布(11)を得た。
〈配合6〉の加工液は、〈配合1〉の反応性ブタジエン系液状ゴム(分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状)10質量部、及びイソシアヌレート(HMDIの3量体:NCO架橋剤)2質量部を省略した配合である。
比較例の帆布(11)の外観品位は良好であったが、実施例1の帆布(1)に比べると、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内の全域にゴム構造の生成を伴わないことが要因で、氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)、及び炎天下での耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)に、明らかに劣るものであった。
【0048】
[比較例2]
実施例1の〈配合1〉の加工液を〈配合7〉の加工液に変更した以外は実施例1と同様として、質量503g/m2の帆布(12)を得た。
〈配合7〉の加工液は、〈配合1〉の反応性ブタジエン系液状ゴム(分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状)10質量部を、分子両末端に官能基を有さない平均分子量3000のブタジエン系液状ゴム10質量部に置換し、イソシアヌレート(HMDIの3量体:NCO架橋剤)2質量部を省略した配合である。
官能基を有さないブタジエン系液状ゴムは、液状のまま軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内に滞留し、塩化ビニル樹脂のガラス転移温度を下げる効果を発現することで、比較例1の帆布(11)よりも氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)に優れていた(実施例1の帆布(1)同等)が、逆にブタジエン系液状ゴムの存在が耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)に悪影響を及ぼし、比較例1の帆布(11)よりも劣る結果であった。
【0049】
[比較例3]
実施例1の〈配合1〉の加工液を〈配合8〉の加工液に変更した以外は実施例1と同様として、質量505g/m2の帆布(13)を得た。
〈配合8〉の加工液は、〈配合1〉の反応性ブタジエン系液状ゴム(分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状)10質量部をブタジエンゴム粉末(登録商標「カネエース」M-711:株式会社カネカ)10質量部に置換し、イソシアヌレート(HMDIの3量体:NCO架橋剤)2質量部を省略した配合である。
ブタジエンゴム粉末(非架橋)は、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内に非相溶分散し、ブタジエンゴム自体の耐寒性により、比較例1の帆布(11)よりも氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)にやや優れていた(実施例1の帆布(1)には及ばない)が、非相溶分散の影響により無数の亀裂を生じていた。また耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)に関しては、比較例1の帆布(11)と比較して特段の改善効果は認められなかった。
【0050】
【0051】
[比較例4]
実施例1の布帛(1)を布帛(9)に変更した以外は実施例1と同様として質量445g/m2の帆布(14)を得た。
〈布帛(9)〉
経糸条群、及び緯糸条群共にマルチフィラメント糸条を用い、経糸条の打込密度28本/インチ、及び緯糸条の打込密度24本/インチで平織製織した空隙率10%、質量165g/m2の布帛(フィラメント織物)を用いた。
※マルチフィラメント糸条は、500デニール(555dtex)のポリエステルマルチフィラメント糸条(フィラメント数96本:撚数200回/m)
この布帛に実施例1と同じ雨水の浸透防止(吸水防止)を施し、これを布帛(9)とした。
得られた帆布(14)は、経糸条群、及び緯糸条群共にマルチフィラメント糸条を用いたことにより、引裂強度、及び経緯の引裂強度バランスに優れていたが、布帛(9)の表面が滑らかとなり、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層との接着性に劣り、氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)で、布帛(9)から軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層が剥離した。また耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)では糸抜け破壊を生じた。
【0052】
[比較例5]
実施例1の布帛(1)を布帛(10)に変更した以外は実施例1と同様として質量534g/m2の帆布(15)を得た。
〈布帛(10)〉
経糸条群、及び緯糸条群共に短繊維紡績糸条を用い、経糸条の打込密度46本/インチ、及び緯糸条の打込密度42本/インチで平織製織した空隙率6%、質量235g/m2布帛を用いた。
※短繊維紡績糸条は、20番手双糸(590dtex)のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り:撚数400回/m)
この布帛に実施例1と同じ雨水の浸透防止(吸水防止)を施し、これを布帛(10)とした。
得られた帆布(15)は、経糸条群、及び緯糸条群共に短繊維紡績糸条を用いたことにより、経緯の引裂強度バランスに優れていたが、引裂強度が弱いものであった。しかし布帛(10)の表面が多数の毛羽の凹凸により、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層との接着性が増して、氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)、耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)は実施例1の帆布(1)と同等の性能であった。
【0053】
[比較例6]
実施例1の布帛(1)を布帛(11)に変更した以外は実施例1と同様として質量500g/m2の帆布(16)を得た。
〈布帛(11)〉
経糸条群にマルチフィラメント糸条、及び緯糸条群に短繊維紡績糸条を用い、経糸条の打込密度28本/インチ、及び緯糸条の打込密度38本/インチで平織製織した空隙率が8%、質量223g/m2布帛を用いた。
※マルチフィラメント糸条は、500デニール(555dtex)のポリエステルマルチフィラメント糸条(フィラメント数96本:撚数200回/m)
※短繊維紡績糸条は、20番手双糸(590dtex)のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り:撚数400回/m)
この布帛に実施例1と同じ雨水の浸透防止(吸水防止)を施し、これを布帛(11)とした。
得られた帆布(16)は、経糸条群にマルチフィラメント糸条、及び緯糸条群に短繊維紡績糸条を用いたことにより、経緯の引裂強度バランスが極端に劣り、また耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)においても、経緯方向での性能差が顕著であり、実使用に適さないものであった。氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)は、比較例4(帆布14)と比較例5(帆布15)との中間的位置付けであった。
【0054】
[比較例7]
実施例1の布帛(1)を布帛(12)に変更した以外は実施例1と同様として質量516g/m2の帆布(17)を得た。
〈布帛(12)〉
経糸条群、及び緯糸条群に、マルチフィラメント糸条(M)、及び短繊維紡績糸条(S)が「MMSSSSSS」交互配列(繰り返し単位8本)、経糸条の打込密度38本/インチ、及び緯糸条の打込密度35本/インチで平織製織した空隙率が7%、質量222g/m2布帛を用いた。
※マルチフィラメント糸条(M)は、500デニール(555dtex)のポリエステルマルチフィラメント糸条(フィラメント数96本:撚数200回/m)
※短繊維紡績糸条(S)は、20番手双糸(590dtex)のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り:撚数400回/m)
この布帛に実施例1と同じ雨水の浸透防止(吸水防止)を施し、これを布帛(12)とした。
得られた帆布(17)は、「MMSSSSSS」交互配列(繰り返し単位8本)としたことで、外観品位が悪く、性能的には比較例5(帆布15)寄りで、Mの存在で引裂強度がやや改善された反面、氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)、耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)がやや劣るものとなった。
【0055】
[比較例8]
実施例1の布帛(1)を布帛(13)に変更した以外は実施例1と同様として質量515g/m2の帆布(18)を得た。
〈布帛(13)〉
経糸条群、及び緯糸条群に、マルチフィラメント糸条(M)、及び短繊維紡績糸条(S)が「MMMMMMSS」交互配列(繰り返し単位8本)、経糸条の打込密度33本/インチ、及び緯糸条の打込密度30本/インチで平織製織した空隙率が11%、質量174g/m2布帛を用いた。
※マルチフィラメント糸条(M)は、500デニール(555dtex)のポリエステルマルチフィラメント糸条(フィラメント数96本:撚数200回/m)
※短繊維紡績糸条(S)は、20番手双糸(590dtex)のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り:撚数400回/m)
この布帛に実施例1と同じ雨水の浸透防止(吸水防止)を施し、これを布帛(13)とした。
得られた帆布(18)は、「MMMMMMSS」交互配列(繰り返し単位8本)としたことで、外観品位が悪く、性能的には比較例4(帆布14)寄りで、Sの存在で、氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)、耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)がやや改善された反面、引裂強度がやや劣るものとなった。
【0056】
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上の実施例、及び比較例から明らかな様に、本発明によれば、経方向と緯方向の引裂強度バランス、及び屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での接合部耐久性(縫製部の剥がれ難さ)に優れ、しかも外観品位(光沢部と乱反射部のバランス)のよい産業資材用帆布が得られるので、テント倉庫(簡易ハウス)、屋形テント(運動会、屋外イベント、運営本部、集会、受付などに用いられる天幕装着式の組立テント)、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートなどの本体素材として広い活用を可能とする。また本発明によれば、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を従来品よりも薄い設計として帆布の軽量化を図ったとしても、従来品同等の耐久性を得ることができる。
【要約】
【課題】経方向と緯方向の引裂強度バランス、及び屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性、及び炎天下での接合部耐久性に優れ、しかも外観品位のよい産業資材用帆布、及びその製造方法の提供。
【解決手段】布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を設けてなる帆布であって、布帛が経糸条群、及び緯糸条群により製織され、経緯双方の糸条群に、マルチフィラメント糸条、及び短繊維紡績糸条が規則的に交互配列されていて、この交互配列の繰り返し単位が2~6本であり、交互配列がマルチフィラメント糸条(1~3本)、及び短繊維紡績糸条(1~3本)による組み合わせの何れか1種で、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に液状ゴム硬化物を含むものとする。
【選択図】なし