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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】家畜の飼育方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/12 20160101AFI20250109BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20250109BHJP
   A23K 50/30 20160101ALI20250109BHJP
【FI】
A23K10/12
A23K10/30
A23K50/30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023569093
(86)(22)【出願日】2022-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2022038769
(87)【国際公開番号】W WO2023119820
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2021211087
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.集会 開催日 2021年11月4日 集会名 第115回日本養豚学会大会(日本養豚学会) 開催場所 リモート開催 2.刊行物 発行日 2021年11月4日 刊行物 第115回日本養豚学会大会講演要旨、第6頁、日本養豚学会
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596110729
【氏名又は名称】万田発酵株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】松浦 良紀
(72)【発明者】
【氏名】岸田 晋輔
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 英人
(72)【発明者】
【氏名】水津 拓三
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/001042(WO,A1)
【文献】特開平07-087899(JP,A)
【文献】特開2019-182763(JP,A)
【文献】特開2003-238400(JP,A)
【文献】特開2007-084504(JP,A)
【文献】特開2014-011994(JP,A)
【文献】特開2020-043838(JP,A)
【文献】特開2001-269125(JP,A)
【文献】特開2005-065671(JP,A)
【文献】国際公開第2015/197623(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/12
A23K 10/30
A23K 50/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実類に属するリンゴ、柿、バナナ、パインアップル、アケビ、マタタビ、イチジク、野いちご、いちご、山ぶどう、ぶどう、山挑、もも、梅、ブルーベリー、ラズベリー、枇杷から選ばれる1種または2種以上のものと、かんきつ類に属するネーブル、ハッサク、温州みかん、夏みかん、オレンジ、伊予柑、きんかん、ゆず、カボス、ザボン、ポンカン、レモン、ライムから選ばれる1種または2種以上のものと、根菜類に属するゴボウ、ニンジン、ニンニク、レンコン、ゆり根から選ばれる1種または2種以上のものと、穀類に属する玄米、もち米、白米、きび、とうもろこし、小麦、大麦、あわ、ひえから選ばれる1種または2種以上のものと、豆・ゴマ類に属する大豆、黒豆、黒ゴマ、白ゴマ、あずき、くるみから選ばれる1種または2種以上のものと、海草類に属するコンブ、ワカメ、ヒジキ、あおのり、かわのりから選ばれる1種または2種以上のものと、糖類に属する黒糖、果糖、ぶどう糖から選ばれる1種または2種以上のものと、はちみつ、澱粉、きゅうり、しそ、セロリ、桑、生姜から選ばれる1種または2種以上のものとを、発酵、熟成させることで得られ、次の成分及びアミノ酸組成からなる、
主成分について、100g当たり、下記を含む、
水分:5.0g~50.0g、
タンパク質:0.5g~10.0g、
脂質:0.05g~10.00g、
炭水化物(糖質):30.0g~75.0g、
炭水化物(繊維):0.1g~5.0g、
灰分:0.5g~5.0g、
β-カロチン:10μg~150μg、
ビタミンA効力:10IU~100IU、
ビタミンB:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB:0.01mg~0.50mg、
ビタミンE:10.0mg以下、
ナイアシン:0.1mg~6.0mg、
カルシウム:50mg~900mg、
リン:200mg以下、
鉄:1.0mg~5.0mg、
ナトリウム:20mg~300mg、
カリウム:300mg~1000mg、
マグネシウム:40mg~200mg、
食塩相当量:0.05g~1.00g、
銅:7.0ppm以下、
アミノ酸組成について、100g中、
イソロイシン:30~200mg、
ロイシン:50~400mg、
リジン:20~200mg、
メチオニン:10~150mg、
シスチン:10~100mg、
フェニルアラニン:30~250mg、
チロシン:20~200mg、
スレオニン:40~200mg、
トリプトファン:1~100mg、
バリン:30~300mg、
ヒスチジン:10~200mg、
アルギニン:40~400mg、
アラニン:50~300mg、
アスパラキン酸:100~600mg、
グルタミン酸:100~1200mg、
グリシン:30~300mg、
プロリン:40~400mg、
セリン:30~300mg。
発酵組成物を主原料とする腸内で特定の短鎖脂肪酸を増加させる飼料用(家畜用)の植物発酵組成材を家畜に、畜肉の生産量1kg当たり1.56~2.25g給餌することによる家畜の飼育方法。
【請求項2】
記発酵組成物を主原料とする腸内で特定の短鎖脂肪酸を増加させる飼料用(家畜用)の植物発酵組成材を家畜に給餌することによる、抗生物質を非投与若しくは使用量を削減する請求項1に記載の家畜の飼育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜飼料用の発酵組成物、及び、当該発酵組成物を用いた家畜の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用豚などの家畜の飼育には、飼料の給餌の他に成長目的のためのアビラマイシン、エンラマイシン、バージニアマイシン、コリスチンなどの抗生物質を与えていることがある。
成長目的での抗生物質の使用は、飼料に混ぜて継続的に使用されるものである。投与量は、一般的には治療目的の抗生物質の使用量に対して低用量で用いられている。
投与量など使用基準は、抗生物質ごとに定められている。
【0003】
家畜の飼育において、成長目的で抗生物質を家畜に与える理由は、腸内の有害菌が産生する毒素・腐敗物の発生を抑えることで絨毛・陰窩の損傷を防ぐことにより、家畜の下痢を抑制して、健全な家畜の成長を図るものである。
【0004】
しかし、この抗生物質に対する耐性菌が出現することで、抗生物質の効果が弱くなり、毒素・腐敗物の発生を防ぐことができず、家畜の下痢を発生させてしまう。また、昨今の自然食ブームのなかでも、抗生物質を与えた家畜など消費者の購入を躊躇させるなどの影響もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、果物、穀類、海藻類、野菜から特定の複数種類の原材料を長期間の発酵熟成させた発酵組成物の利用や効果について鋭意研究している。当該発酵組成物が動物の腸内での短鎖脂肪酸の産生が増加することを見出し、家畜に与える抗生物質を代替できないか否かの仮説を立てて、試行錯誤や各種実験を経て、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明がその技術的課題を解決するために用いる技術的手段としては、次のようなものである。
【0007】
すなわち、本発明は、果実類に属するリンゴ、柿、バナナ、パインアップル、アケビ、マタタビ、イチジク、野いちご、いちご、山ぶどう、ぶどう、山挑、もも、梅、ブルーベリー、ラズベリーから選ばれる1種または2種以上のものと、かんきつ類に属するネーブル、ハッサク、温州みかん、夏みかん、オレンジ、伊予柑、きんかん、ゆず、カボス、ザボン、ポンカン、レモン、ライムから選ばれる1種または2種以上のものと、根菜類に属するゴボウ、ニンジン、ニンニク、レンコン、ゆり根から選ばれる1種または2種以上のものと、穀類に属する玄米、もち米、白米、きび、とうもろこし、小麦、大麦、あわ、ひえから選ばれる1種または2種以上のものと、豆・ゴマ類に属する大豆、黒豆、黒ゴマ、白ゴマ、あずき、くるみから選ばれる1種または2種以上のものと、海草類に属するコンブ、ワカメ、ヒジキ、あおのり、かわのりから選ばれる1種または2種以上のものと、糖類に属する黒糖、果糖、ぶどう糖から選ばれる1種または2種以上のものと、はちみつ、澱粉、きゅうり、しそ、セロリから選ばれる1種または2種以上のものとを、発酵、熟成させることで得られ、次の成分及びアミノ酸組成からなる、
主成分について、100g当たり、下記を含む、
水分:5.0g~50.0g、
タンパク質:0.5g~10.0g、
脂質:0.05g~10.00g、
炭水化物(糖質):30.0g~75.0g、
炭水化物(繊維):0.1g~5.0g、
灰分:0.5g~5.0g、
β-カロチン:10μg~150μg、
ビタミンA効力:10IU~100IU、
ビタミンB1:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB2:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB6:0.01mg~0.50mg、
ビタミンE:10.0mg以下、
ナイアシン:0.1mg~6.0mg、
カルシウム:50mg~900mg、
リン:200mg以下、
鉄:1.0mg~5.0mg、
ナトリウム:20mg~300mg、
カリウム:300mg~1000mg、
マグネシウム:40mg~200mg、
食塩相当量:0.05g~1.00g、
銅:7.0ppm以下。
アミノ酸組成について、100g中、
イソロイシン:30~200mg、
ロイシン:50~400mg、
リジン:20~200mg、
メチオニン:10~150mg、
シスチン:10~100mg、
フェニルアラニン:30~250mg、
チロシン:20~200mg、
スレオニン:40~200mg、
トリプトファン:1~100mg、
バリン:30~300mg、
ヒスチジン:10~200mg、
アルギニン:40~400mg、
アラニン:50~300mg、
アスパラキン酸:100~600mg、
グルタミン酸:100~1200mg、
グリシン:30~300mg、
プロリン:40~400mg、
セリン:30~300mg。
発酵組成物を主原料とする飼料用(家畜用)の植物発酵組成材を提供するものである。この発酵組成物は、家畜の腸内で特定の短鎖脂肪酸を増加させる特徴のあるものとしても良い。
【0008】
前記発酵組成物の原材料に、桑、生姜、枇杷のうち1又は2以上の種類を加えた発酵、熟成させることで得られ、前記の成分及びアミノ酸組成からなる発酵組成物を主原料とする飼料用(家畜用)の植物発酵組成材を提供するものである。
【0009】
前記発酵組成物を主原料とする家畜の下痢を抑制させることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレバイオテックス食品を含む抗生物質代替材を提供するものである。
【0010】
果実類に属するリンゴ、柿、バナナ、パインアップル、アケビ、マタタビ、イチジク、野いちご、いちご、山ぶどう、ぶどう、山挑、もも、梅、ブルーベリー、ラズベリー、枇杷から選ばれる1種または2種以上のものと、かんきつ類に属するネーブル、ハッサク、温州みかん、夏みかん、オレンジ、伊予柑、きんかん、ゆず、カボス、ザボン、ポンカン、レモン、ライムから選ばれる1種または2種以上のものと、根菜類に属するゴボウ、ニンジン、ニンニク、レンコン、ゆり根から選ばれる1種または2種以上のものと、穀類に属する玄米、もち米、白米、きび、とうもろこし、小麦、大麦、あわ、ひえから選ばれる1種または2種以上のものと、豆・ゴマ類に属する大豆、黒豆、黒ゴマ、白ゴマ、あずき、くるみから選ばれる1種または2種以上のものと、海草類に属するコンブ、ワカメ、ヒジキ、あおのり、かわのりから選ばれる1種または2種以上のものと、糖類に属する黒糖、果糖、ぶどう糖から選ばれる1種または2種以上のものと、はちみつ、澱粉、きゅうり、しそ、セロリ、桑、生姜から選ばれる1種または2種以上のものとを、発酵、熟成させることで得られ、次の成分及びアミノ酸組成からなる、
主成分について、100g当たり、下記を含む、
水分:5.0g~50.0g、
タンパク質:0.5g~10.0g、
脂質:0.05g~10.00g、
炭水化物(糖質):30.0g~75.0g、
炭水化物(繊維):0.1g~5.0g、
灰分:0.5g~5.0g、
β-カロチン:10μg~150μg、
ビタミンA効力:10IU~100IU、
ビタミンB1:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB2:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB6:0.01mg~0.50mg、
ビタミンE:10.0mg以下、
ナイアシン:0.1mg~6.0mg、
カルシウム:50mg~900mg、
リン:200mg以下、
鉄:1.0mg~5.0mg、
ナトリウム:20mg~300mg、
カリウム:300mg~1000mg、
マグネシウム:40mg~200mg、
食塩相当量:0.05g~1.00g、
銅:7.0ppm以下。
アミノ酸組成について、100g中、
イソロイシン:30~200mg、
ロイシン:50~400mg、
リジン:20~200mg、
メチオニン:10~150mg、
シスチン:10~100mg、
フェニルアラニン:30~250mg、
チロシン:20~200mg、
スレオニン:40~200mg、
トリプトファン:1~100mg、
バリン:30~300mg、
ヒスチジン:10~200mg、
アルギニン:40~400mg、
アラニン:50~300mg、
アスパラキン酸:100~600mg、
グルタミン酸:100~1200mg、
グリシン:30~300mg、
プロリン:40~400mg、
セリン:30~300mg。
発酵組成物を主原料とする飼料用のプレバイオテックス添加物を家畜に給餌することによる家畜の飼育方法としても良い。この発酵組成物は、家畜の腸内で特定の短鎖脂肪酸を増加させる特徴のあるものとしても良い。
【0011】
前記発酵組成物を主原料とする飼料用のプレバイオテックス添加物を家畜に給餌することによる抗生物質の非投与若しくは使用量を削減するとする家畜の飼育方法としても良い。この発酵組成物は、家畜の腸内で特定の短鎖脂肪酸を増加させる特徴のあるものとしても良い。
【発明の効果】
【0012】
本件発酵組成物を健常な家畜に与えることによって、抗生物質を非投与とした家畜の飼育条件下において、抗生物質の投与群と同程度の家畜の生育状況とすることができた。
【0013】
具体的には、本件発酵組成物の投与群は、抗生物質の投与群と比較して同程度の家畜の増体を維持して、血液、腸管の長さや重量、絨毛組織に有意な変化と異常所見を与えず、下痢症状(糞便スコア)も同程度であった。
【0014】
以下、添付図面及び実施例を組み合わせて本発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】食用豚の成長成績を示すグラフ
図2】食用豚の腸内環境(糞便スコア、糞便中IgA濃度)を評価するグラフ
図3】食用豚の腸内短鎖脂肪酸濃度を示すグラフ
図4】食用豚の消化管形状及び血液生化学検査を示す表
図5】本件発酵組成物の食用豚に与える効果機序の説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者は、本発酵組成物に着目をして、抗生物質を非投与とした家畜条件下での家畜(特に、食用豚)の育成において、その生育に影響を与えるか否かを実験した。
【0017】
本発酵組成物(FBP)は、果実類に属するリンゴ、柿、バナナ、パインアップル、アケビ、マタタビ、イチジク、野いちご、いちご、山ぶどう、ぶどう、山挑、もも、梅、ブルーベリー、ラズベリー、枇杷から選ばれる1種または2種以上のものと、かんきつ類に属するネーブル、ハッサク、温州みかん、夏みかん、オレンジ、伊予柑、きんかん、ゆず、カボス、ザボン、ポンカン、レモン、ライムから選ばれる1種または2種以上のものと、根菜類に属するゴボウ、ニンジン、ニンニク、レンコン、ゆり根から選ばれる1種または2種以上のものと、穀類に属する玄米、もち米、白米、きび、とうもろこし、小麦、大麦、あわ、ひえから選ばれる1種または2種以上のものと、豆・ゴマ類に属する大豆、黒豆、黒ゴマ、白ゴマ、あずき、くるみから選ばれる1種または2種以上のものと、海草類に属するコンブ、ワカメ、ヒジキ、あおのり、かわのりから選ばれる1種または2種以上のものと、糖類に属する黒糖、果糖、ぶどう糖から選ばれる1種または2種以上のものと、はちみつ、澱粉、きゅうり、しそ、セロリ、桑、生姜から選ばれる1種または2種以上のものとを、発酵、熟成させることで得られるものである。発酵熟成期間は、3年3か月以上とした。また、発酵熟成過程においては、添加物、熱、水を人為的に加えず、且つ、3年以上静置での発酵とした。本実験では、各類から1種又は2種を選択して、15種類の原材料を選択して発酵させたもの(本発酵組成物)を用いた。
【0018】
本実験で用いた導入豚は、23日齢ほ乳期子豚(交雑種)とした。試験設計は、抗生物質を含む一般的な飼料(対照区)および抗生物質をFBP(本発酵組成物)に置き換えた飼料(試験区)で飼育して比較した。対象区及び試験区ともに、同じ子豚用配合飼料を用いた。対象区には抗生物質としてアビラマイシンを40ppm加えて、試験区には抗生物質を添加しないものとした。反対に、試験区には本発酵組成物として0.125%を加えて、対照区には本発酵組成物を添加しないものとした。
【0019】
本実験での摂食期間は、23日齢から50日齢とした。飼育環境は、単飼ケージとして、給餌方法は、自由飲水、及び不断給餌とした。子豚用配合飼料は、飼養段階に合わせた配合飼料を使用した。アビラマイシン(抗生物質)は、対照区では40ppm、試験区では0ppmとした。他方で、FBP(本発酵組成物)は、対照区では0%、試験区では0.125%とした。
【0020】
採材部位及び測定項目の組み合わせは、「ふん、糞便スコア・IgA」、「経静脈血、血液生化学分析」、「盲腸静脈血、短鎖脂肪酸分析」、「盲腸内容部物、短鎖脂肪酸分析」、「小腸・大腸、臓器測定・絨毛長・陰窩深さ」とした。
【0021】
次に、糞便スコアを説明する。良好な便をコロコロ便としてスコア0とした。ソフトな便をスコア1として、下痢状の便をスコア2、水溶性の便をスコア3,より水溶性の程度の高い下痢をスコア4とした。スコアの数値が高くなると不良な便となる。
【0022】
実験結果について説明する。図1(左)は、食用豚の成長成績を示すグラフである。まず、抗生物質を含む一般的な飼料(対照区)および抗生物質をFBP(本発酵組成物)に置き換えた飼料(試験区)で飼育した食用豚について、体重を測定してその推移をグラフにした。縦軸は重量(kg)、横軸は生後日齢(日)である。対照区及び試験区ともに、時間とともに同程度の体重増加が見られた。また、飼料要求率は、〔飼料摂取量(または消費量)(kg)/畜産物の生産量(kg)〕で算出され、図1(右)のグラフの縦軸は、kg/kgのため飼料要求率は無単位数である。
【0023】
次に、対照区及び試験区において、特定の時期における食用豚の飼料要求率を測定した(図1右)。生後日齢を重ねるごとに飼料要求率は高くなり、37日-44日の生後日齢でピークとなり、44日-55日の生後日齢で若干、飼料要求率は低くなる傾向にある。対照区及び試験区においても、飼料要求率はほぼ同じ数値を示した。なお、飼料要求率は、畜産物1kg当たりの生産に要する摂取(または消費)飼料数量のことで、増体など生産のために何倍の飼料を必要とするかを示し、飼料要求率が小さいほど効率が良いことを示すものである。
【0024】
図2は、対照区及び試験区において、特定の時期における腸内環境を観察したデータを示す。左グラフは、特定の日齢期間での糞便スコアを示す。糞便スコアの評価方法は、上述の通りである。対照区及び試験区ともに、糞便スコアは良好となり、期間中の腸内環境は安定していた。右グラフは、特定の日齢(23日、31日、50日)の糞便IgAスコアを示す。安静時における腸管免疫の変化は見られなかった。なお、糞便IgA濃度は腸管内の免疫状態と相関する。感染症などで糞便IgA濃度は高値を示し、逆に糞便IgA濃度が極端に低下すれば感染症リスクが高くなる。ここでは両群ともに低値で安定していたことから、腸内環境が比較的安定していたことを示すものと考えられる。
【0025】
図3は、対照区及び試験区において、盲腸内容物及び盲腸静脈血での短鎖脂肪酸濃度を示したグラフである。短鎖脂肪酸は、酢酸、プロピオン酸、n酪酸を測定した。盲腸内容物、静脈血ともに、対照区及び試験区の両群において、FBP給与で全体的な短鎖脂肪酸の構成比に大きな変動は見られなかったが、試験区においては短鎖脂肪酸濃度が高くなる傾向が認められた。
【0026】
これらの短鎖脂肪酸を測定したのは、短鎖脂肪酸の有益性が注目されているからである。腸の粘膜は病原体の侵入を防ぐという腸管バリア機能を担っている。酪酸やプロピオン酸には、腸粘膜を維持して、腸のバリア機能を高める働きがある。特に、酪酸は腸上皮細胞の最も重要なエネルギー源であり、腸管上皮の新陳代謝を促進し、また、腸管の蠕動運動を促進すると報告されている。
【0027】
図4は、食用豚の消化管形状及び血液生化学検査を示す表である。対照区及び試験区において、小腸(長さ、重量)、大腸(長さ、重量)、消化吸収(絨毛高さ(μm)、陰窩深さ(μm) 、絨毛/陰窩深さ)といった解剖学的データ(消化管形状)については、両群において概ね差異がなかった。
【0028】
また、血液生化学検査でも、対照区及び試験区において、γ-GT、アルブミン、総コレステロール、尿素窒については、両群において概ね差異がなかった。これらの知見は、食用豚の成長成績を示すグラフ(図1)、食用豚の腸内環境(糞便スコア、糞便中IgA濃度)を評価するグラフ(図2)の結果と矛盾することなく、補強するものである。
【0029】
図5は、本件発酵組成物の食用豚に与える効果機序の説明図である。食用豚の飼育において、生体に対するストレスや疾病によって、消化管内にいわゆる有害菌が増殖して、これらの有害菌が毒素や腐敗物を産出させて、消化管内部に損傷を与えることになる。具体的には、消化吸収機能を担う絨毛、陰窩の損傷を与えて結果として、下痢を引き起こすものとなる。
【0030】
従来は、上記の対策として、家畜の飼育時に抗生物質を与えることで、消化管内のいわゆる有害菌を除去して、下痢などを防止して生育を図った。しかし、有害菌の中には、抗生物質に抵抗性のある菌が出現してしまうものがあった。
【0031】
本発明に係る本件発酵組成物は、抗生物質を与えない場合も同様の効果が得られることから、家畜の飼育に用いられる抗生物質代替材とすることができた。すなわち、本件発酵組成物は、家畜の消化管内の有用菌を増加させて、この有用菌からの短鎖脂肪酸の生産を促し、栄養素利用推進され、良好な腸内環境を図ることができると考える。これは、抗生物質を与えない場合も同様の効果が得られることから、本発明に係る本件発酵組成物は、家畜の飼育に用いられる抗生物質代替材とすることができた。
図1
図2
図3
図4
図5