(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/389 20190101AFI20250109BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20250109BHJP
G01N 27/72 20060101ALI20250109BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01R31/389
G01R33/02 K
G01N27/72
H01M10/48 Z
(21)【出願番号】P 2024532087
(86)(22)【出願日】2023-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2023024264
(87)【国際公開番号】W WO2024009894
(87)【国際公開日】2024-01-11
【審査請求日】2024-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2022109689
(32)【優先日】2022-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513034154
【氏名又は名称】株式会社 Integral Geometry Science
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章吾
(72)【発明者】
【氏名】松田 聖樹
(72)【発明者】
【氏名】美馬 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】西村 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】岡田 英朗
(72)【発明者】
【氏名】木村 建次郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 憲明
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/136930(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/136931(WO,A1)
【文献】特開2014-89819(JP,A)
【文献】特開2016-197054(JP,A)
【文献】国際公開第2021/024859(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/187791(WO,A1)
【文献】特開2012-242153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/389
G01R 33/02
G01N 27/72
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池を測定する測定装置であって、
前記二次電池に対し、前記二次電池の開放電圧を基準に定められる所定の電圧を印加する電圧印加部と、
前記所定の電圧が前記二次電池に印加されている第1状態と、前記二次電池が開放されている第2状態とを切り替えるスイッチング部と、
前記第1状態から前記第2状態に切り替わった際の、前記二次電池の外部の磁場の過渡応答を測定する測定部と、
前記測定部による測定結果を用いて前記二次電池の内部に関する情報を生成する処理部とを備える
測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置において、
前記電圧印加部および前記測定部を制御する制御部をさらに備え、
前記測定部は、センサ部およびセンサ駆動部を備え、
前記制御部は、ノイズ磁場の少なくとも一部を打ち消すための前記センサ部への固定入力値を特定する特定工程と、前記固定入力値が前記センサ部へ入力された状態で前記過渡応答を測定する測定工程とが順に行われるよう、前記電圧印加部および前記測定部を制御する
測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の測定装置において、
前記特定工程では、前記二次電池に対し開放電圧に相当する電圧が印加された状態で、前記センサ部の出力が基準レベルに近づくように、前記センサ駆動部が前記センサ部への入力値をフィードバック制御することで、前記固定入力値が特定されるよう、前記制御部が前記電圧印加部および前記測定部を制御する
測定装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の測定装置において、
前記二次電池は強磁性体を含む
測定装置。
【請求項5】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の測定装置において、
前記測定部は、前記二次電池の外部の一以上の平面内の複数の位置で前記過渡応答を測定し、
前記処理部は、前記二次電池の内部の情報を示すマップを生成する
測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の測定装置において、
前記測定部は、マトリクス状に配置された複数のセンサ素子を備える
測定装置。
【請求項7】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の測定装置において、
前記処理部は、
前記測定部による測定結果を用いて、測定された前記二次電池に異常があるか否かを判定し、
当該二次電池に異常があると判定された場合に通知を出力する
測定装置。
【請求項8】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の測定装置において、
前記電圧印加部は、周期信号によって前記所定の電圧を前記二次電池に印加し、
前記スイッチング部は、当該周期信号の周波数の整数倍の周波数を有する周期信号によって、前記第1状態と前記第2状態とを切り替える
測定装置。
【請求項9】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の測定装置において、
前記測定部は、互いに直交する二方向の磁場成分を前記過渡応答として測定し、
前記処理部は、前記二方向の磁場成分を用いて、前記二次電池の内部の導電率分布を生成する
測定装置。
【請求項10】
二次電池を測定する測定方法であって、
前記二次電池に対し、前記二次電池の開放電圧を基準に定められる所定の電圧が印加されている第1状態と、前記二次電池が開放されている第2状態とを切り替え、
前記第1状態から前記第2状態に切り替わった際の、前記二次電池の外部の磁場の過渡応答を測定し、
前記過渡応答の測定結果を用いて前記二次電池の内部に関する情報を生成する
測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
充放電が可能な二次電池の活用が広がり、非破壊での検査技術が益々重要となっている。
【0003】
特許文献1には、電流が流れている状態で、電池の周辺の磁場を測定し、電池内の導電率分布を導出することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、交流電圧を重畳した外部電圧を電池に印加した状態で、電池の外部の磁場を測定し、電池の内部の磁場分布または電流分布を導出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/136931号
【文献】国際公開第2015/136930号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の技術では、測定中に充電または放電が進行するため、電池内部の状態が変化するという問題があった。また、特許文献2の技術では、電池内の微小な欠陥の検出が難しいという問題があった。
【0007】
上記した問題点を鑑み、本発明は、二次電池を測定するための新たな技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態によれば、以下の測定装置および測定方法が提供される。
【0009】
1. 二次電池を測定する測定装置であって、
前記二次電池に対し、前記二次電池の開放電圧を基準に定められる所定の電圧を印加する電圧印加部と、
前記所定の電圧が前記二次電池に印加されている第1状態と、前記二次電池が開放されている第2状態とを切り替えるスイッチング部と、
前記第1状態から前記第2状態に切り替わった際の、前記二次電池の外部の磁場の過渡応答を測定する測定部と、
前記測定部による測定結果を用いて前記二次電池の内部に関する情報を生成する処理部とを備える
測定装置。
2. 1.に記載の測定装置において、
前記電圧印加部および前記測定部を制御する制御部をさらに備え、
前記測定部は、センサ部およびセンサ駆動部を備え、
前記制御部は、ノイズ磁場の少なくとも一部を打ち消すための前記センサ部への固定入力値を特定する特定工程と、前記固定入力値が前記センサ部へ入力された状態で前記過渡応答を測定する測定工程とが順に行われるよう、前記電圧印加部および前記測定部を制御する
測定装置。
3. 2.に記載の測定装置において、
前記特定工程では、前記二次電池に対し開放電圧に相当する電圧が印加された状態で、前記センサ部の出力が基準レベルに近づくように、前記センサ駆動部が前記センサ部への入力値をフィードバック制御することで、前記固定入力値が特定されるよう、前記制御部が前記電圧印加部および前記測定部を制御する
測定装置。
4. 2.または3.に記載の測定装置において、
前記二次電池は強磁性体を含む
測定装置。
5. 1.から4.のいずれか一つに記載の測定装置において、
前記測定部は、前記二次電池の外部の一以上の平面内の複数の位置で前記過渡応答を測定し、
前記処理部は、前記二次電池の内部の情報を示すマップを生成する
測定装置。
6. 5.に記載の測定装置において、
前記測定部は、マトリクス状に配置された複数のセンサ素子を備える
測定装置。
7. 1.から6.のいずれか一つに記載の測定装置において、
前記処理部は、
前記測定部による測定結果を用いて、測定された前記二次電池に異常があるか否かを判定し、
当該二次電池に異常があると判定された場合に通知を出力する
測定装置。
8. 1.から7.のいずれか一つに記載の測定装置において、
前記電圧印加部は、周期信号によって前記所定の電圧を前記二次電池に印加し、
前記スイッチング部は、当該周期信号の周波数の整数倍の周波数を有する周期信号によって、前記第1状態と前記第2状態とを切り替える
測定装置。
9. 1.から8.のいずれか一つに記載の測定装置において、
前記測定部は、互いに直交する二方向の磁場成分を前記過渡応答として測定し、
前記処理部は、前記二方向の磁場成分を用いて、前記二次電池の内部の導電率分布を生成する
測定装置。
10. 二次電池を測定する測定方法であって、
前記二次電池に対し、前記二次電池の開放電圧を基準に定められる所定の電圧が印加されている第1状態と、前記二次電池が開放されている第2状態とを切り替え、
前記第1状態から前記第2状態に切り替わった際の、前記二次電池の外部の磁場の過渡応答を測定し、
前記過渡応答の測定結果を用いて前記二次電池の内部に関する情報を生成する
測定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、二次電池を測定するための新たな技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る測定装置の機能構成を例示する図である。
【
図3】測定装置で二次電池を測定する様子を例示する模式図である。
【
図5】測定装置により二次電池に印加される電圧について説明するための図である。
【
図6】測定装置により二次電池に印加される電圧について説明するための図である。
【
図7】測定装置を実現するための計算機を例示する図である。
【
図8】第2の実施形態に係る測定装置が備えるスイッチング部および電圧印加部の構成を例示する図である。
【
図9】第2の実施形態に係る測定装置の動作を説明するための図である。
【
図10】(a)~(g)は、逓倍器が出力する周期信号の周波数を変更した場合の例を示す図である。
【
図11】第3の実施形態に係る測定部における信号の流れを例示する図である。
【
図12】第3の実施形態に係る測定部のハードウエア構成を例示する図である。
【
図13】第3の実施形態に係る測定装置の構成を例示する図である。
【
図14】測定対象とした二次電池の構造を示す断面模式図である。
【
図15】二次電池の写真に対する測定エリアと欠陥の位置を示した図である。
【
図16】磁場の過渡応答の測定結果を用いて生成したマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、以下に示す説明において、特に説明する場合を除き、各装置の各構成要素は、ハードウエア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る測定装置10の機能構成を例示する図である。本実施形態に係る測定装置10は、二次電池20を測定する装置である。測定装置10は、電圧印加部140、スイッチング部120、測定部160、および処理部180を備える。電圧印加部140は、二次電池20に対し、二次電池20の開放電圧(Open Circuit Voltage:OCV)を基準に定められる所定の電圧を印加する。スイッチング部120は、所定の電圧が二次電池20に印加されている第1状態と、二次電池が開放されている第2状態とを切り替える。測定部160は、第1状態から第2状態に切り替わった際の、二次電池20の外部の磁場の過渡応答を測定する。処理部180は、測定部160による測定結果を用いて二次電池20の内部に関する情報を生成する。以下に詳しく説明する。
【0014】
本図の例において、測定装置10は制御部190をさらに備える。本図の例において制御部190はスイッチング部120、電圧印加部140、および測定部160を制御する。
【0015】
図2は、二次電池20の構造を例示する断面図である。測定装置10の測定対象は二次電池20であり、測定装置10を用いることで、たとえば二次電池20内の短絡部等の欠陥を検出できる。二次電池20は、特に限定されないが、たとえば鉛蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池等である。二次電池20は正極211、負極212、電解質230、パッケージ240、正極端子221、および負極端子222を備える。正極211および負極212はそれぞれ板状、膜状、または層状の電極であり、互いに平行である。二次電池20は、複数の正極211および複数の負極212を備えていても良い。正極211と負極212との間には、電解質230が位置する。電解質230は液体であっても良いし、固体であっても良いし、ゲルであってもよい。また、正極211と負極212との間には、セパレータがさらに設けられていても良い。正極211、負極212および電解質230はパッケージ240で覆われ、封止されている。パッケージ240はたとえばメタルパッケージである。
【0016】
正極端子221の一端はパッケージ240の内部で正極211と電気的に接続され、正極端子221の他端はパッケージ240の外部に位置する。二次電池20が複数の正極211を有する場合、正極端子221は、複数の正極211と電気的に接続されている。負極端子222の一端はパッケージ240の内部で負極212と電気的に接続され、負極端子222の他端はパッケージ240の外部に位置する。二次電池20が複数の負極212を有する場合、負極端子222は、複数の負極212と電気的に接続されている。正極端子221および負極端子222は、たとえばタブである。二次電池20に電圧を印加することは、すなわち、正極端子221と負極端子222との間に電圧を印加することである。
【0017】
測定装置10の測定部160は、たとえば二次電池20の外部の平面201内の磁場を測定するよう構成されている。平面201は正極211および負極212の主面に平行な面である。二次電池20の最外面と平面201との距離は特に限定されないが、たとえば0.01mm以上100mm以下である。距離がこの範囲内であれば、二次電池20からの磁場を精度良く測定できるとともに、後述するセンサ部161と二次電池20との接触を避けつつ安定して測定が行える。以下において、正極端子221と負極212との積層方向をz方向と呼び、z方向にいずれも直交し互いに直交する二方向をx方向およびy方向と呼ぶ。
【0018】
図3は、測定装置10で二次電池20を測定する様子を例示する模式図である。測定装置10による測定時に、二次電池20の正極端子221および負極端子222の少なくとも一方は、スイッチング部120を介して電圧印加部140に接続されている。そうすることで、正極端子221と負極端子222との間に、すなわち二次電池20に電圧が印加可能な構成となっている。正極端子221および負極端子222の一方は、接地されていても良い。
【0019】
測定部160は、複数の位置で磁場を測定することが好ましい。測定部160は、センサ部161を備え、センサ部161の位置における磁場(たとえば磁束密度)を測定する。センサ部161は、コイル、ホール素子、光ポンピング磁気センサ、ダイヤモンド磁気センサ、磁気インピーダンスセンサ、または磁気抵抗効果素子等、任意の磁気センサを含む。
【0020】
本図の例において、測定部160は、測定部160に含まれるセンサ部161で二次電池20の外部を一次元または二次元に走査する。そうすることにより、測定部160は平面201内の複数の測定位置で、すなわち複数の点(x,y)で、磁場を測定する。複数の測定位置は、平面201内で二次元に分布することが好ましい。本図の例において、二次電池20はステージ150上に配置される。ステージ150は二次電池20をx方向およびy方向に駆動可能である。またはステージ150は二次電池20をx方向、y方向およびz方向に駆動可能であってもよい。ステージ150が二次電池20を駆動することで、センサ部161が複数の位置での測定を順に行える。ただし、ステージ150は、二次電池20を駆動する代わりに、センサ部161を駆動するよう構成されていても良い。制御部190は、測定部160が平面201内の複数の位置で磁場の過渡応答を測定するように、ステージ150をさらに制御することができる。
【0021】
図4は、センサ部161の変形例を示す図である。本図の例では、測定部160は、センサ部161にマトリクス状に配置された複数のセンサ素子165を備える。センサ素子165は、コイル、ホール素子、光ポンピング磁気センサ、ダイヤモンド磁気センサ、磁気インピーダンスセンサ、または磁気抵抗効果素子等、任意の磁気センサであってよい。複数のセンサ素子165は一体化されている。本変形例によれば、
図3で示したようにセンサ部161で走査することによって複数の位置で測定する代わりに、複数のセンサ素子165によって同時に複数の位置での測定が行える。したがって、測定時間を大幅に短縮できる。本図の例において、複数のセンサ素子165は二次元にマトリクス状に配置されている。したがって、平面201内で二次元に配置された測定点のデータが得られる。ただし、複数のセンサ素子165は、一次元にライン状に配置されてもよい。その場合、複数のセンサ素子165が並ぶ方向とは垂直の方向に、複数のセンサ素子165を動かして測定を行っても良い。その方法によっても、平面201内で二次元に配置された測定点(測定位置)でのデータが得られる。
【0022】
図1に戻り、測定装置10の各機能構成部について説明する。測定部160が測定する磁場の方向は、一方向であっても良いし、二方向であっても良いし、三方向であってもよい。測定部160はたとえば、磁場の、x方向、y方向、およびz方向のうち一以上の方向の成分を測定する。特に、測定部160は、磁場ベクトルの、x方向の成分およびy方向の成分のうち少なくとも一方を測定することが好ましい。センサ部161がコイルを含む場合、測定部160は、コイルの軸方向の成分を測定可能であり、コイルの向きを変える、または、複数のコイルを用いることで、磁場の複数の方向の成分を測定できる。
【0023】
電圧印加部140は少なくとも直流電圧源を備える。スイッチング部120は、電圧印加部140の出力電圧を二次電池20に印加するか否かを切り替える。スイッチング部120はたとえば、スイッチまたはトランジスタである。
【0024】
図5および
図6は、測定装置10により二次電池20に印加される電圧について説明するための図である。
図5および
図6のそれぞれにおいて、上段には二次電池20への印加電圧V
Bの波形が示され、下段には二次電池20の外部に漏れ出る磁束密度が示されている。
【0025】
たとえば
図5の例において、電圧印加部140は所定の電圧V
1を出力している。所定の電圧V
1は開放電圧を基準に定められる電圧である。たとえば開放電圧と電圧印加部140の出力電圧との差であるΔV
1が予め定められており、測定される二次電池20の開放電圧に対してΔV
1を足すことで、その二次電池20に対する電圧V
1が決定される。二次電池20の開放電圧は測定に先立って別途の測定により確認することができる。スイッチング部120がON状態の時、電圧印加部140の出力電圧が二次電池20に印加される。すなわち、スイッチング部120がON状態のときが第1状態である。本図の例において、第1状態で二次電池20が充電される。一方、スイッチング部120がOFF状態の時、電圧印加部140の出力電圧は二次電池20に印加されない。このとき二次電池20の正極端子221と負極端子222との間は開放状態(浮遊状態)となる。すなわち、スイッチング部120がOFF状態のときが第2状態である。第2状態では、正極端子221および負極端子222において、電荷の出入りは生じない。
【0026】
図6の例において、電圧印加部140は所定の電圧V
2を出力している。所定の電圧V
2は開放電圧を基準に定められる電圧である。たとえば開放電圧と電圧印加部140の出力電圧との差であるΔV
2が予め定められており、測定される二次電池20の開放電圧からΔV
2を引くことで、その二次電池20に対する電圧V
2が決定される。スイッチング部120がON状態の時、電圧印加部140の出力電圧が二次電池20に印加される。すなわち、スイッチング部120がON状態のときが第1状態である。本図の例において、第1状態で二次電池20が放電される。一方、スイッチング部120がOFF状態の時、電圧印加部140の出力電圧は二次電池20に印加されない。このとき二次電池20の正極端子221と負極端子222との間は開放状態(浮遊状態)となる。すなわち、スイッチング部120がOFF状態のときが第2状態である。第2状態では、正極端子221および負極端子222において、電荷の出入りは生じない。
【0027】
測定装置10が生じさせる第1状態では、
図5のように二次電池20が充電されても良いし、
図6のように二次電池20が放電されても良い。
【0028】
測定装置10の測定部160は、第2状態において、二次電池20の外部に漏れ出る磁場を測定する。たとえば測定部160は、測定結果として、第2状態における磁場の時系列データを生成する。第2状態において、測定部160が測定する磁場の強さは、第1状態から第2状態へ切り替わった時点から、時間の経過とともにゼロに近づく。測定部160は、この過渡応答を測定する。第1状態に続く第2状態では、二次電池20の正極端子221および負極端子222が開放状態となるため、二次電池20に対して電荷の出入りが生じない。そのような第2状態では、二次電池20の内部において、電荷分布の緩和が生じる。この緩和の過程で電荷が移動することにより磁場が生じ、その磁場は二次電池20の外部にも漏れ出る。測定部160は、この漏れ出た磁場を測定する。ここで、電荷分布の緩和がどのように生じるかは、二次電池20の内部の電気的特性(インピーダンス等)の分布に依存する。したがって、測定部160が測定する磁場は、二次電池20の内部の電気的特性の分布の情報を含んでいると言える。
【0029】
本実施形態に係る測定装置10によれば、第2状態において二次電池20は充電も放電もされない。すなわち正極端子221および負極端子222に流れる電流を遮断した状態で測定している。このことによる効果についてさらに説明する。仮に二次電池20の電極に電流を流した状態で磁場を測定する場合、正極端子221や負極端子222の付近に電流集中が発生し、これら端子の付近に強い磁場が生じている状態での測定が行われる。このような強い磁場を測定するためには、センサによる磁場の測定レンジを大きく取る必要が生じる。一方、大きな測定レンジでは正極端子221や負極端子222から離れた位置での弱い磁場を詳細に測定することが困難となる。これに対し、本実施形態に係る測定装置10では、正極端子221および負極端子222に電流が流れていない状態で磁場が測定される。したがって、正極端子221や負極端子222の付近における電流集中や強い磁場が生じず、端子に電流を流す場合に比べて全体的に磁場が均一化する。ひいては、二次電池20の全体において良好な測定レンジで磁場測定が行え、弱い磁場も精度良く測定できる。
【0030】
処理部180は測定部160が測定した過渡応答を処理することで、過渡応答の特徴量を算出する。たとえば処理部180は測定部160で測定された磁場の時間平均を特徴量として算出する。または、処理部180は、測定部160が測定した過渡応答の時定数を特徴量として算出しても良い。特徴量はこれらの値に限定されず、種々の統計値を特徴量とすることができる。上述したように測定部160が、二次電池20の外部の一以上の平面201内の複数の位置で過渡応答を測定する場合、処理部180は、二次電池20の内部の情報を示すマップを生成することができる。処理部180は算出した特徴量の分布を示すマップを生成する。処理部180が生成したマップは画像として出力可能である。このような画像によれば、二次電池20の内部の欠陥部と正常部との間にコントラストが生じる。よって、画像を確認したユーザは、欠陥部の有無や位置を把握できる。
【0031】
また、処理部180は、測定部160による測定結果を用いて二次電池20に異常があるか否かを判定してもよい。そして処理部180は、二次電池20に異常があると判定された場合に通知を出力してもよい。
【0032】
たとえば同一の方法で製造される複数の二次電池20を測定する場合に、それらの二次電池20の個体差は大きくないことが想定される。そこで、予め定められた正常範囲と、算出した特徴量とを比較し、比較結果に基づいて、二次電池20に異常があるか否かを判定できる。すなわち、特徴量が正常範囲内にある場合、処理部180は二次電池20に異常が無いと判定する。特徴量が正常範囲内にない場合、処理部180は二次電池20に異常があると判定する。なお、正常範囲は事前の試験等により定めることができる。処理部180は、処理部180からアクセス可能な記憶部に保持された、正常範囲を示す情報を読み出して判定に用いる事ができる。正常範囲を示す情報は正常範囲の端を示す一以上の閾値であり得る。
【0033】
処理部180は、平面201内の複数の測定位置について特徴量を算出する場合、それら複数の特徴量のうち、少なくとも一つの特徴量が正常範囲内にない場合、処理部180は二次電池20に異常があると判定する。
【0034】
他の例として、処理部180は、複数の測定位置について算出した複数の特徴量のばらつき(たとえば分散)に基づいて二次電池20に異常があるか否かを判定してもよい。すなわち、特徴量のばらつきが予め定められた閾値以下である場合、処理部180は二次電池20に異常が無いと判定する。特徴量のばらつきが閾値より大きい場合、処理部180は二次電池20に異常があると判定する。なお、閾値は事前の試験等により定めることができる。処理部180は、処理部180からアクセス可能な記憶部に保持された、閾値を示す情報を読み出して判定に用いる事ができる。
【0035】
処理部180は、生成したマップや判定結果を示す通知を出力情報として、たとえば処理部180に備えられたディスプレイに表示させることで出力することができる。その他の例として、処理部180は、測定装置10の外部の装置に対して出力情報を出力しても良いし、処理部180からアクセス可能な記憶装置に出力情報を保持させても良い。処理部180は、異常があると判定された場合に、通知として異常がある旨のメッセージをディスプレイに表示させても良いし、異常がある旨のメッセージを音声出力しても良いし、所定の音を出力させても良いし、所定のランプを点灯または点滅させても良い。また、処理部180は、異常がないと判定された場合に、異常があると判定された場合とは異なる通知を出力しても良い。
【0036】
測定部160は各測定位置において、複数の過渡応答(すなわち複数回の過渡応答)を測定してもよい。たとえば、スイッチング部120および電圧印加部140により第1状態と第2状態が交互に繰り返し実現され、測定部160が各第2状態において磁場の過渡応答を測定してもよい。ここで、複数回の第1状態では、充電と放電が交互に行われることが好ましい。言い換えると、二次電池20が充電される第1状態と、二次電池20が放電される第1状態とが交互に実現されることが好ましい。すなわち、
図5のような電圧V
Bと
図6のような電圧V
Bとが交互に印加される。その結果、二次電池20が充電される第1状態、第2状態、二次電池20が放電される第1状態、および第2状態が、この順に繰り返し実現される。そうすることで、充電または放電が一方的に進むことがなく、ほぼ同じ蓄電状態の二次電池20に対する測定を繰り返し行うことができる。そして、得られた複数の測定結果を積算または平均化して、S/N比を向上させることができる。ひいては、二次電池20における異常箇所を高精度に検知できる。
【0037】
なお、複数回の第1状態の繰り返しによって、充電量と放電量のバランスが保たれることが好ましい。充電量は
図5に示した第1状態の時間の長さt
cと、V
1と開放電圧との差ΔV
1との積t
c×ΔV
1で定量化される。一方、放電量は
図6に示した第1状態の時間の長さt
dと、V
2と開放電圧との差ΔV
2との積t
d×ΔV
2で定量化される。したがって、t
c×ΔV
1=t
d×ΔV
2が成り立つ状態で、第1状態と第2状態が交互に繰り返されることが好ましい。複数回の第1状態の長さは互いに同じであってもよいし、異なっていても良い。また、複数回の第1状態において二次電池20に印加される電圧と開放電圧との差は、互いに同じであっても良いし、異なっていてもよい。t
cおよびt
dはそれぞれ、たとえば0.1秒以上10秒以下である。ΔV
1およびΔV
2はそれぞれ、たとえば0.01V以上4V以下である。ΔV
1およびΔV
2は互いに同じであってもよいし、異なっていても良い。たとえばΔV
1およびΔV
2の一方は、二次電池20の正極と負極の非対称性を補償するための補償値が、ΔV
1およびΔV
2の他方に加えられた値であっても良い。
【0038】
また、上記のように二次電池20が充電される第1状態、第2状態、二次電池20が放電される第1状態、および第2状態が、この順に繰り返し実現される場合、測定部160は、二次電池20が充電される第1状態から第2状態に切り替えた時の過渡応答(以後、充電後過渡応答と呼ぶ)と、二次電池20が放電される第1状態から第2状態に切り替えた時の過渡応答(以後、放電後過渡応答と呼ぶ)との両方を測定しても良いし、一方のみを測定しても良い。
【0039】
測定部160は各測定位置において、複数の過渡応答を測定する場合、処理部180はたとえば測定位置ごとに過渡応答の特徴量を算出する。特徴量としては、たとえば、複数の過渡応答における磁場の時間平均の平均値、または、複数の過渡応答の時定数の平均値が挙げられる。そして、処理部180は算出した特徴量の分布を示すマップを生成することができる。また、処理部180は、算出した特徴量と予め定められた正常範囲とを比較して、二次電池20に異常があるか否かを判定できる。なお、特徴量の算出においては、充電後過渡応答のデータと、放電後過渡応答のデータとを区別しても良いし、区別しなくても良い。これらのデータを区別する場合、充電後過渡応答のデータと、放電後過渡応答のデータのそれぞれについて、特徴量が算出可能である。充電後過渡応答のデータと、放電後過渡応答のデータとを区別しない場合、たとえば磁場の時間平均等の算出においては、磁場の強さ、すなわち絶対値を用いる。
【0040】
測定装置10のハードウエア構成について説明する。測定装置10のスイッチング部120、電圧印加部140、処理部180、および制御部190は、スイッチング部120、電圧印加部140、処理部180、および制御部190を実現するハードウエア(例:電子回路など)で実現されてもよいし、ハードウエアとソフトウエアとの組み合わせ(例:電子回路とそれを制御するプログラムの組み合わせなど)を用いて実現されてもよい。以下、測定装置10のスイッチング部120、電圧印加部140、処理部180、および制御部190がハードウエアとソフトウエアとの組み合わせを用いて実現される場合について、さらに説明する。
【0041】
図7は、測定装置10を実現するための計算機1000を例示する図である。計算機1000は任意の計算機である。例えば計算機1000は、SoC(System On Chip)、Personal Computer(PC)、サーバマシン、タブレット端末、またはスマートフォンなどである。計算機1000は、測定装置10を実現するために設計された専用の計算機であってもよいし、汎用の計算機であってもよい。また、測定装置10は、一つの計算機1000を用いて実現されても良いし、複数の計算機1000の組み合わせを用いて実現されても良い。
【0042】
計算機1000は、バス1020、プロセッサ1040、メモリ1060、ストレージデバイス1080、入出力インタフェース1100、およびネットワークインタフェース1120を有する。バス1020は、プロセッサ1040、メモリ1060、ストレージデバイス1080、入出力インタフェース1100、およびネットワークインタフェース1120が、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。ただし、プロセッサ1040などを互いに接続する方法は、バス接続に限定されない。プロセッサ1040は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、または FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの種々のプロセッサである。メモリ1060は、RAM(Random Access Memory)などを用いて実現される主記憶装置である。ストレージデバイス1080は、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)、メモリカード、または ROM(Read Only Memory)などを用いて実現される補助記憶装置である。
【0043】
入出力インタフェース1100は、計算機1000と入出力デバイスとを接続するためのインタフェースである。例えば入出力インタフェース1100には、キーボードなどの入力装置や、ディスプレイなどの出力装置が接続される。入出力インタフェース1100が入力装置や出力装置に接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。
【0044】
ネットワークインタフェース1120は、計算機1000をネットワークに接続するためのインタフェースである。この通信網は、例えば LAN(Local Area Network)や WAN(Wide Area Network)である。ネットワークインタフェース1120がネットワークに接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。
【0045】
ストレージデバイス1080は、測定装置10の各機能構成部を実現するためのプログラムモジュールを記憶している。プロセッサ1040は、これら各プログラムモジュールをメモリ1060に読み出して実行することで、各プログラムモジュールに対応する機能を実現する。
【0046】
本実施形態に係る測定方法について説明する。本実施形態に係る測定方法は、二次電池20を測定する方法である。本測定方法では、二次電池20に対し、二次電池20の開放電圧を基準に定められる所定の電圧が印加されている第1状態と、二次電池20が開放されている第2状態とを切り替える。また、第1状態から第2状態に切り替わった際の、二次電池20の外部の磁場の過渡応答を測定する。そして、過渡応答の測定結果を用いて二次電池20の内部に関する情報を生成する。
【0047】
本実施形態に係る測定方法は、本実施形態に係る測定装置10によって実現される。
【0048】
本実施形態によれば、第1状態から第2状態に切り替わった際の、二次電池の外部の磁場の過渡応答を測定することにより、充電や放電が進行している途中ではない状態で、安定して測定が行なえ、二次電池の内部に関する情報を得ることができる。また、二次電池20の全体において良好な測定レンジで磁場測定が行え、弱い磁場も精度良く測定できる。
【0049】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態に係る測定装置10が備えるスイッチング部120および電圧印加部140の構成を例示する図である。
図9は、本実施形態に係る測定装置10の動作を説明するための図である。本実施形態に係る測定装置10および測定方法はそれぞれ、以下に説明する点を除いて第1の実施形態に係る測定装置10および測定方法と同じである。
【0050】
本実施形態に係る測定装置10において電圧印加部140は、周期信号によって所定の電圧を二次電池20に印加する。そして、スイッチング部120は、この周期信号の周波数の整数倍の周波数を有する周期信号によって、第1状態と第2状態とを切り替える。以下に詳しく説明する。
【0051】
図8の例において電圧印加部140は直流電圧源141および発振器142を備える。直流電圧源141は、二次電池20の開放電圧と同じ電圧値の直流電圧を出力するよう設定される。二次電池20の開放電圧は、測定装置10での測定に先立って、別途測定しておくことができる。そして、測定装置10での測定に先立って、測定装置10のユーザが直流電圧源141の出力電圧値を設定する。
【0052】
発振器142は、たとえば矩形波の電圧信号を出力する。発振器142の出力する信号を以下では基準信号とも呼ぶ。直流電圧源141と発振器142とは直列に接続されており、電圧印加部140からは、直流電圧源141の出力電圧と発振器142の出力電圧とが重畳された電圧VAが出力される。第1状態では、この電圧印加部140の出力電圧VAが二次電池20の正極端子221と負極端子222との間に印加されることにより、二次電池20に対し、二次電池20の開放電圧を基準に定められる所定の電圧が印加されることとなる。
【0053】
図9の上段は、電圧印加部140の出力電圧V
Aの波形を示している。電圧V
Aの波形は開放電圧を中心とした矩形波である。言い換えると、電圧V
Aの波形は、基準波形に対して、開放電圧分の直流オフセットを加えたものである。基準信号の周波数は二次電池20の特性等に応じて任意に設定することができるが、たとえば0.1Hz以上100kHz以下である。また、基準信号の振幅はたとえば0.02V
p-p以上8V
p-p以下である。電圧V
Aのピーク値である電圧V
1および電圧V
2がそれぞれ、第1状態において二次電池20に印加される電圧となる。開放電圧より高電圧である電圧V
1の印加時において二次電池20は充電される。開放電圧より低電圧である電圧V
2の印加時において二次電池20は放電される。
【0054】
図8の例において、スイッチング部120は、MOSFET121、逓倍器122、およびANDゲート123を備える。MOSFET121のゲートにはANDゲート123の出力信号が入力される。MOSFET121のソースとドレインの一方は電圧印加部140の一方の出力端子に接続されている。MOSFET121のソースとドレインの他方は二次電池20の正極端子221および負極端子222の一方に接続される。電圧印加部140の他方の出力端子は二次電池20の正極端子221および負極端子222の他方に接続される。なお、電圧印加部140の出力端子とは、電圧V
Aを出力する端子を意味する。
【0055】
本図の例においてMOSFET121はpチャネル型MOSFETであるが、MOSFET121はこの例に限定されず、nチャネル型MOSFETであってもよいし、他のスイッチ素子であってもよい。ANDゲート123の二つの入力端子には、制御部190からの制御信号と、逓倍器122の出力信号は入力される。
【0056】
制御部190は、第1状態または第2状態とする間(たとえば第3の実施形態で後述する測定工程の間)、ANDゲート123に「1」レベルの信号を制御信号として入力し続ける。一方、制御部190は、第1状態または第2状態以外の状態とする間(たとえば第3の実施形態で後述する特定工程の間)、ANDゲート123に「0」レベルの信号を制御信号として入力し続ける。なお、本例において「1」レベルの信号は負電圧であり、「0」レベルの信号は0Vであるとする。
【0057】
逓倍器122には、発振器142から出力される参照信号が入力される。この参照信号は、基準信号と同じ周波数の周期信号である。逓倍器122は、参照信号の周波数の整数倍の周波数を有する周期信号(たとえば矩形波)を出力する。
【0058】
図9では、逓倍器122が、参照信号の周波数の2倍の周波数を有する周期信号を出力する場合の例を示している。また、本図では、制御部190は、ANDゲート123に「1」レベルの信号を制御信号として入力し続けている場合の例を示している。すなわち逓倍器122の出力が「1」レベルである時、ANDゲート123の出力は「1」レベルであり、それ以外の時、ANDゲート123の出力は「0」レベルである。その結果、ANDゲート123の出力は、参照信号の周波数の2倍の周波数、すなわち基準信号の周波数の2倍の周波数で、「1」レベルと「0」レベルが切り替わる信号となる。MOSFET121は、ゲートへの入力が「1」レベルであるときON状態となり、ゲートへの入力が「0」レベルであるとき、OFF状態となる。なお、本図の例においてMOSFET121のゲートへの入力が「1」レベルであるとき、ゲート電位は負である。
【0059】
これらの動作の結果、二次電池20への電圧VAの印加は基準信号の周波数の2倍の周波数でON/OFFされる。MOSFET121がON状態である期間が第1状態の期間に相当し、MOSFET121がOFF状態である期間が第2状態の期間に相当する。そして、本図の中段に示すように、基準信号の周波数の2倍の周波数で第1状態と第2状態が繰り返される。また、本図の下段には、二次電池20の外部における磁束密度として想定される波形の例が示されている。
【0060】
本実施形態に係る測定装置10によれば、二次電池20が充電される第1状態、第2状態、二次電池20が放電される第1状態、および第2状態が、この順に繰り返し実現される。また、上述したtc×ΔV1=td×ΔV2の関係が成立する。そして、本実施形態に係る測定部160は、第1の実施形態において上述した通り、ほぼ同じ蓄電状態の二次電池20に対する過渡応答の測定を繰り返し行うことができる。処理部180は測定された複数の過渡応答を用いて、S/N比の高い情報を得ることができる。ひいては、二次電池20における異常箇所を高精度に検知できる。
【0061】
ただし、本実施形態に係る測定装置10が備えるスイッチング部120および電圧印加部140のハードウエア構成は
図8の例に限定されない。
【0062】
図10(a)~
図10(g)は、逓倍器122が出力する周期信号の周波数を変更した場合の例を示す図である。
図10(a)は、基準信号の波形を示している。
図10(b)および
図10(c)は、逓倍器122が、参照信号の周波数の2倍の周波数を有する周期信号を出力する場合の電圧V
Bと、想定される測定部160の出力波形の例をそれぞれ示している。
図10(d)および
図10(e)は、逓倍器122が、参照信号の周波数の4倍の周波数を有する周期信号を出力する場合の電圧V
Bと、想定される測定部160の出力波形の例をそれぞれ示している。
図10(f)および
図10(g)は、逓倍器122が、参照信号の周波数の6倍の周波数を有する周期信号を出力する場合の電圧V
Bと、想定される測定部160の出力波形の例をそれぞれ示している。なお、
図10(b)、
図10(d)、および
図10(f)の破線部分において、二次電池20は開放状態である。
図10(c)、
図10(e)、および
図10(g)のV
0は、磁束密度がゼロの場合のセンサ出力値である。
【0063】
このように、逓倍器122が、参照信号の周波数の偶数倍の周波数を有する周期信号を出力することにより、二次電池20が充電される第1状態と第2状態とのセットがN回続き、次いで、二次電池20が放電される第1状態と第2状態とのセットがN回続く。すなわち、二次電池20が充電される第1状態の回数と、二次電池20が放電される第1状態の回数が等しくなる。したがって、充電量と放電量のバランスを保った状態で過渡応答の測定を繰り返し行える。なお、Nは1以上の整数である。
【0064】
(第3の実施形態)
図11は、第3の実施形態に係る測定部160における信号の流れを例示する図である。
図12は、本実施形態に係る測定部160のハードウエア構成を例示する図である。本実施形態に係る測定装置10は、以下に説明する点を除いて第1または第2の実施形態に係る測定装置10と同じである。本実施形態に係る測定方法は、以下に説明する点を除いて第1または第2の実施形態に係る測定方法と同じである。
【0065】
本実施形態に係る測定装置10は、電圧印加部140および測定部160を制御する制御部190を備える。測定部160は、センサ部161およびセンサ駆動部162を備える。制御部190は、特定工程と測定工程とが順に行われるよう、電圧印加部140および測定部160を制御する。特定工程では、ノイズ磁場の少なくとも一部を打ち消すためのセンサ部161への固定入力値が特定される。測定工程では、固定入力値がセンサ部161へ入力された状態で過渡応答が測定される。
【0066】
より詳しくは、特定工程では、二次電池20に対し開放電圧に相当する電圧が印加された状態で、センサ部161の出力が基準レベルに近づくように、センサ駆動部162がセンサ部161への入力値をフィードバック制御することで、固定入力値が特定されるよう、制御部190が電圧印加部140および測定部160を制御する。
【0067】
二次電池20にはたとえば電極材料等として強磁性体が含まれることがある。二次電池20に含まれる強磁性体としては、ニッケル、コバルト、鉄等が挙げられる。この強磁性体により、二次電池20からは電荷の緩和とは無関係に磁場が発生しうる。このような磁場は測定においてノイズとして作用する。また、地磁気や測定位置近傍の磁性体によるノイズ磁場も存在し得る。
【0068】
本実施形態において、センサ部161は、コイル、ホール素子、光ポンピング磁気センサ、ダイヤモンド磁気センサ、磁気インピーダンスセンサ、または磁気抵抗効果素子等、任意の磁気センサを含むことができる。センサ部161は、たとえばコアおよびコアに巻かれた一または二以上のコイルを有する。
図11の例においてセンサ部161には、フィードバック信号である入力信号S
FBを入力可能である。センサ部161のコイル166には入力信号S
FBに応じた電流が流れ、磁場が発生する。入力信号S
FBを適切に設定することにより、発生させた磁場でノイズ磁場を打ち消すことができる。
【0069】
センサ部161は、入力された入力信号SFBのレベルを示すモニタ信号Smを出力する。また、センサ部161は、測定された磁束密度を示す出力信号Soutを出力する。
【0070】
センサ駆動部162はセンサ部161からの出力信号Soutから、予め定められた目標値を差し引く、そして得られた信号にモニタ信号Smを加算する。センサ駆動部162は加算後の信号をさらに増幅しても良い。目標値は、測定される磁束密度がゼロであるときのセンサ部161の出力信号Soutの信号値に相当する。このような目標値を基準レベルとする。このようなセンサ駆動部162により、センサ部161で測定されるノイズ磁場を打ち消すようなフィードバック制御が可能となる。
【0071】
図12を参照して測定部160のハードウエア構成について説明する。センサ駆動部162は、D/A変換器164およびA/D変換器163を備える。そしてセンサ駆動部162は、計算機1000を用いて実現される。センサ部161から出力された出力信号S
outおよびモニタ信号S
mはA/D変換器163を介して計算機1000に入力される。また、入力信号S
FBは計算機1000から出力され、D/A変換器164を介してセンサ部161に入力される。センサ駆動部162を実現するための計算機1000のハードウエア構成は、制御部190等と同様に、例えば
図7によって表される。ただし、センサ駆動部162を実現するための計算機1000のストレージデバイス1080には、センサ駆動部162の機能を実現するプログラムモジュールがさらに記憶される。
【0072】
図13は、本実施形態に係る測定装置10の構成を例示する図である。本図では、スイッチング部120および電圧印加部140が第2の実施形態に係る測定装置10のスイッチング部120および電圧印加部140の構成をそれぞれ有する例を示しているが、スイッチング部120および電圧印加部140の構成は本例に限定されない。
【0073】
本実施形態に係る測定装置10は、上述した通り、特定工程と測定工程とを順に行う。具体的には、各測定位置において、測定工程に先立ち一度の特定工程を行う。
【0074】
特定工程では、二次電池20の正極端子221と負極端子222の間には、開放電圧に相当する電圧が電圧印加部140によって印加される。電圧印加部140はたとえば、制御部190の制御によって、切り替え可能なスイッチ143を含む。このスイッチ143を切り替えることにより、二次電池20に開放電圧に相当する電圧が直流電圧源141から印加される状態と、第1状態および第2状態を実現するような測定工程のための状態とが切り替えられる。制御部190はスイッチ143の切り替えを制御することができる。
【0075】
そして特定工程では、二次電池20に開放電圧に相当する電圧が直流電圧源141から印加されている状態で、センサ駆動部162によるフィードバック制御を開始する。二次電池20に開放電圧に相当する電圧が印加されている状態では、二次電池20は充電も放電もされないため、ノイズ磁場のみが測定されることとなる。そして、センサ部161の出力信号Soutがノイズ磁場のキャンセル点である基準レベル付近になるまで所定の周期で制御ループを繰り返す。そしてセンサ駆動部162は出力信号Soutが基準レベル付近の所定の範囲内となったときにフィードバック制御を終了する。センサ駆動部162はこのフィードバック制御終了時の入力信号(フィードバック信号)SFBを、固定入力値とする。この固定入力値はすなわち、その測定位置でのノイズ磁場を適切に打ち消すことができる設定値であると言える。次いで行われる測定工程では、センサ駆動部162は、このセンサ部161への入力信号SFBを固定入力値に固定した状態とする。制御部190は、特定工程および測定工程において、このような動作が行われるよう、センサ駆動部162を制御する。
【0076】
測定工程では、第1の実施形態および第2の実施形態で説明したように、第1状態および第2状態が実現され、第2状態における磁場の過渡応答が測定部160で測定される。
【0077】
本図の例において、制御部190の機能を有する計算機1000からの制御信号により、スイッチング部120が制御される。制御部190は、たとえば第2の実施形態で説明したように、特定工程の間、「0」レベルの制御信号をANDゲート123に入力する。また、測定工程の間、「1」レベルの制御信号をANDゲート123に入力する。また、制御部190はANDゲート123の出力信号をモニタすることにより、スイッチング部120によるスイッチングの状態をモニタする。そして、制御部190は、モニタしたスイッチングの状態に基づいて第2状態の期間を特定し、その第2状態の期間でセンサ部161の出力信号Soutを取得する。
【0078】
本実施形態においては第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。加えて、ノイズ磁場の影響を低減した測定が行える。
【0079】
(第4の実施形態)
第4の実施形態に係る測定装置10は、以下に説明する点を除いて第1から第3の実施形態の少なくともいずれかに係る測定装置10と同じである。本実施形態に係る測定方法は、以下に説明する点を除いて第1から第3の実施形態の少なくともいずれかに係る測定方法と同じである。
【0080】
本実施形態に係る測定装置10の測定部160は、互いに直交する二方向の磁場成分を過渡応答として測定する。そして、処理部180は、二方向の磁場成分を用いて、二次電池20の内部の導電率分布を生成する。以下に詳しく説明する。
【0081】
測定部160は具体的には、正極211および負極212の主面に平行な平面201面内の複数の測定点(x,y)について、x方向の磁場成分とy方向の磁場成分を測定する。なお、x方向の磁場成分とは、磁束密度のx方向成分を意味し、y方向の磁場成分とは、磁束密度のy方向成分を意味する。
【0082】
処理部180はたとえば各方向の磁場成分の、各過渡応答の時間平均を算出する。そして、測定位置ごとに時間平均の平均値を特徴量として算出する。こうすることで、各測定点(x,y)について、x方向の磁場成分の特徴量(以下、x成分と呼ぶ)とy方向の磁場成分の特徴量(以下、y成分と呼ぶ)とが得られる。
【0083】
処理部180はさらに、これらの特徴量を用いて、二次電池20の内部の導電率分布を生成する。二次電池20の内部の導電率分布を生成する方法としてはたとえば、特許文献1に記載の方法を用いることができる。
【0084】
具体的には処理部180は、得られたx成分およびy成分に対して複数の関係式を満たす二次電池20内の所定の平面の導電率分布を導出する。なお、所定の平面は、xy平面に平行な面である。
【0085】
より詳しくは、処理部180は、以下の式(1)~式(3)に基づいて、σで表される導電率分布を導出する。
【0086】
【0087】
式(1)~式(3)において、x方向の座標がxで表現され、y方向の座標がyで表現され、z方向の座標がzで表現され、平面201に最も近い第1電極(正極211または負極212)のz方向の座標がz
0で表現され、x成分がH
xで表現され、y成分がH
yで表現され、第1電極のz方向の厚さがhで表現され、第1電極を含む1対の電極間の距離がh
Tで表現され、第1電極の導電率がσ
0で表現され、電位分布が
【数4】
で表現され、デルタ関数がδで表現され、デルタ関数の微分がδ'で表現され、xについての偏微分が∂
xで表現され、yについての偏微分が∂
yで表現されている。
【0088】
なお、処理部180は、式(1)~式(3)から導出される様々な数式を用いて導電率分布を導出することができる。
【0089】
処理部180は、導出した導電率分布をたとえば画像として出力することができる。処理部180は、生成した画像を出力情報として、たとえば処理部180に備えられたディスプレイに表示させることで出力することができる。その他の例として、処理部180は、測定装置10の外部の装置に対して出力情報を出力しても良いし、処理部180からアクセス可能な記憶装置に出力情報を保持させても良い。
【0090】
本実施形態においては第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。加えて、二次電池20内の導電率分布を把握することができる。
【実施例】
【0091】
以下、本実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0092】
図14は、測定対象とした二次電池90の構造を示す断面模式図である。第3の実施形態で説明した方法にて、二次電池90の測定を行った。二次電池90は、負極91、セパレータ92、および正極93の積層体を含み、積層体はパッケージに覆われていた。なお、本図ではパッケージを省略している。本図のように欠陥94としてセパレータ92に穴を開けたものを測定対象の二次電池90とした。セパレータ92に穴を開けることで、欠陥94において正極93と負極91を物理的に接触させ、短絡させた。
【0093】
図15は、二次電池90の写真に対する測定エリア95と欠陥94の位置を示した図である。測定エリアは120mm×100mmとし、16×12Pixelのマップを得た。各測定位置における積算時間は200secとした。また、基準信号の周波数は4Hz、測定工程における充放電で二次電池90に流れる電流は500mA
p-pとした。なお、二次電池90の自然放電による電圧降下量は1.5mV/day(3.67Vにフル充電した状態から)であった。
【0094】
図16は、磁場の過渡応答の測定結果を用いて生成したマップを示す図である。本マップの生成では、測定位置ごとに、測定された過渡応答の磁束密度の時間平均の絶対値を算出した。そして、複数回の過渡応答について算出された絶対値の平均値(
図16中および、以下において平均磁束密度と呼ぶ)を算出した。算出された平均磁束密度の分布をマップに示した。なお、本マップの生成では、充電後過渡応答のデータと、放電後過渡応答のデータとを区別せず用いて平均値を算出した。本図において、マップは二次電池90の写真と、位置が対応する状態で重ね合わされて示されている。
【0095】
本図に示すように、欠陥94の近辺で、他の領域とは異なるレベルの平均磁束密度が測定された。詳しくは、欠陥94の近辺では、他の領域よりも平均磁束密度が高かった。この結果から、本測定方法によって二次電池90内の情報が得られ、欠陥を検知できることが確かめられた。
【0096】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上述の各実施形態は、内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。
【0097】
この出願は、2022年7月7日に出願された日本出願特願2022-109689号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0098】
10 測定装置
20 二次電池
120 スイッチング部
121 MOSFET
122 逓倍器
123 ANDゲート
140 電圧印加部
141 直流電圧源
142 発振器
143 スイッチ
150 ステージ
160 測定部
161 センサ部
162 センサ駆動部
180 処理部
190 制御部
211 正極
212 負極
221 正極端子
222 負極端子
230 電解質
240 パッケージ
1000 計算機