(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】摩擦対
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20250109BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20250109BHJP
F16D 65/12 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C09K3/14 520F
C09K3/14 520M
C09K3/14 520L
C09K3/14 520J
F16D69/02 G
F16D65/12 E
(21)【出願番号】P 2022531709
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2021021877
(87)【国際公開番号】W WO2021256336
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2020103802
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309014573
【氏名又は名称】日清紡ブレーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【氏名又は名称】山内 博明
(72)【発明者】
【氏名】舩元 聡太
(72)【発明者】
【氏名】栗本 健太
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-079252(JP,A)
【文献】特開2016-079251(JP,A)
【文献】特開2015-093934(JP,A)
【文献】国際公開第2017/061373(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/066968(WO,A1)
【文献】特開2004-035871(JP,A)
【文献】特表2020-511556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 69/02
F16D 65/092、65/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、繊維基材、摩擦調整材を含有し、銅成分及び鉄系金属繊維を含有しない摩擦材組成物から成る摩擦材を具備するディスクブレーキパッドと、ステンレス鋼製のディスクロータから成る摩擦対において、該摩擦材組成物は鉄系金属繊維以外の金属繊維をも含有せず、前記摩擦調整材として炭素質系潤滑材を摩擦材組成物全量に対し10~15重量%と、モース硬度が6以上の無機摩擦調整材を、摩擦材組成物全量に対し15~30重量%とを含有し、
前記無機摩擦調整材の一部として酸化ジルコニウムを摩擦材組成物全量に対し20~25重量%含有し、かつ、前記摩擦材の熱伝導率が1.2~3.0W/m・Kであることを特徴とする摩擦対。
【請求項2】
前記炭素質系潤滑材は、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛シート粉砕粉、石油コークス、石炭コークス、弾性黒鉛化カーボン、酸化ポリアクリロニトリル繊維粉砕粉から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦対。
【請求項3】
前記炭素質系潤滑材は、黒鉛シート粉砕粉と石油コークスと弾性黒鉛化カーボンとから成ることを特徴とする請求項2に記載の摩擦対。
【請求項4】
前記酸化ジルコニウムの平均粒子径は0.5~8.0μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の摩擦対。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦対に関し、特に、乗用車等の乗物に用いられる摩擦対に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車のディスクブレーキの摩擦部材として金属製のベース部材に摩擦材が貼り付けられたディスクブレーキパッドが使用されている。
【0003】
近年、ブレーキの静寂性が求められているので、ブレーキノイズの発生が少ない、NAO材と呼ばれる摩擦材を使用したディスクブレーキパッドが広く使用されるようになってきている。
【0004】
NAO材の摩擦材は、結合材、スチール繊維やステンレス繊維等のスチール系繊維以外の繊維基材、摩擦調整材を含む摩擦材組成物を成形したものであり、繊維基材としてスチール系繊維を含むセミメタリック摩擦材やロースチール摩擦材と並んで分類される摩擦材である。そして、近年では米国での銅成分の含有量に関する法規制もあり、銅を5重量%以下しか含まない、あるいは、銅を全く含まない摩擦材開発が一般化している。
【0005】
特許文献1には、繊維基材、摩擦調整材及び結合材を含有する摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素換算で0.5質量%以下であり、前記摩擦調整材として、チタン酸塩が顆粒状とされた顆粒状チタン酸塩を含有し、該顆粒状チタン酸塩の平均粒子径が100~250μmである摩擦材組成物および、該摩擦材組成物を成形して得られる摩擦材が記載されている。
【0006】
特許文献2には、繊維基材、無機充填材、有機充填材および結合材を含有し、銅量が0.5質量%以下の摩擦材であって、前記無機充填材として、平均粒子径が3~5μmの研削材と、平均粒子径が9~13μmの研削材を含むとともに、前記無機充填材として、平均粒子径が1.5~4.5μmのチタン酸塩と、平均粒子径が15~45μmのチタン酸塩を含む摩擦材組成物が記載されている。
【0007】
このような銅成分をほとんど含有しない摩擦材を具備するディスクブレーキパッドの相手材として、特許文献3のような鋳鉄製のディスクロータが使用されている。このような鋳鉄製のディスクロータは耐食性が低く、使用中に錆が発生するという問題があり、摩擦材側に対策が求められていた。
【0008】
例えば、特許文献4には、結合材、摩擦調整材及び繊維基材を含有する摩擦材であって、銅成分を含有せず、複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の少なくとも1種を10~20体積%及び生体溶解性無機繊維を1~20体積%含有することにより、相手材の錆落とし性を向上させた摩擦材が開示されている。
【0009】
しかし、電気自動車やハイブリッド自動車の普及により回生ブレーキの搭載が促進されると、従来の油圧ブレーキの摩擦材にかかる制動負荷は低減されることから、特許文献4のような技術を用いても十分な錆落とし性が得られなくなるという問題がある。
【0010】
そこで、耐錆性に優れたステンレス鋼製のディスクロータが使用されるようになってきている。
【0011】
特許文献5には、マルテンサイト組織、あるいはマルテンサイト相とフェライト相の混合組織からなるステンレス鋼板により製造された4輪用ディスクロータが開示されている。
【0012】
特許文献6には、マルテンサイト及び炭窒化物を含み、フェライトを任意選択的に含む組織である自動車用のディスクロータが記載されている。
【0013】
特許文献7には、質量%で、C:0.005~0.100%、Si:0.01~1.00%、Mn:0.010~3.00%、P:0.040%以下、S:0.0100%以下、Cr:10.0~14.0%、N:0.005~0.100%、V:0.03~0.30%、Al:0.001~0.050%、B:0.0002~0.0050%、Ni:0~2.00%、Cu:0~2.00%、Mo:0~1.00%、W:0~1.00%、Ti:0~0.40%、Nb:0~0.40%、Zr:0~0.40%、Co:0~0.400%、Sn:0~0.40%、REM:0~0.050%以下、Mg:0~0.0100%、Ca:0~0.0100%、Sb:0~0.50%、Ta:0~0.3000%、Hf:0~0.3000%、Ga:0~0.1000%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、金属組織がフェライト相からなり、円相当の直径で0.3μm以上の炭窒化物が任意断面において10~50個/100μm2存在することを特徴とするステンレス鋼板から成る自動車用のディスクロータが記載されている。
【0014】
このような背景から耐錆性に優れるステンレス鋼製のディスクロータに適合する、銅成分を含有しない摩擦材組成物から成る摩擦材が望まれているが、摩擦材が高温になると、摩擦材に含まれる結合材や有機摩擦調整材等の有機物が熱分解しやすくなり、その分解した有機物が摩擦面に介在することでブレーキの効き安定性が低下すること、また、結合材が熱分解することで、摩擦材の強度が著しく低下するため、摩擦材の耐摩耗性が低下したりすることが明らかになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2017-57312号公報
【文献】特開2018-162385号公報
【文献】特開平2-134425号公報
【文献】特開2017-149971号公報
【文献】特開2016-117925号公報
【文献】特開2019-173086号公報
【文献】特開2019-178419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、結合材、繊維基材、摩擦調整材を含有し、銅成分及び鉄系金属繊維を含有しない摩擦材組成物から成る摩擦材を具備するディスクブレーキパッドと、ステンレス鋼製のディスクロータから成る摩擦対において、優れたブレーキの効き安定性、摩擦材の耐摩耗性を有する摩擦対を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、結合材、繊維基材、摩擦調整材を含有し、銅成分及び鉄系金属繊維を含有しない摩擦材組成物から成る摩擦材を具備するディスクブレーキパッドと、ステンレス鋼製のディスクロータから成る摩擦対において、摩擦材組成物は、鉄系金属繊維以外の金属繊維をも含有せず、摩擦調整材として炭素質系潤滑材を特定量と、モース硬度が6以上の無機摩擦調整材を特定量含有させた摩擦材組成物を使用するとともに、摩擦材の熱伝導率を特定の範囲とすることにより優れたブレーキの効き安定性、摩擦材の耐摩耗性を有する摩擦対を得られることを知見し、本発明を完成した。
【0018】
本発明は、結合材、繊維基材、摩擦調整材を含有し、銅成分及び鉄系金属繊維を含有しない摩擦材組成物から成る摩擦材を具備するディスクブレーキパッドと、ステンレス鋼製のディスクロータから成る摩擦対であって、以下の技術を基礎とするものである。
【0019】
(1)結合材、繊維基材、摩擦調整材を含有し、銅成分及び鉄系金属繊維を含有しない摩擦材組成物から成る摩擦材を具備するディスクブレーキパッドと、ステンレス鋼製のディスクロータから成る摩擦対であって、該摩擦材組成物は鉄系金属繊維以外の金属繊維をも含有せず、前記摩擦調整材として炭素質系潤滑材を摩擦材組成物全量に対し10~15重量%と、モース硬度が6以上の無機摩擦調整材を摩擦材組成物全量に対し15~30重量を含有し、かつ、前記摩擦材の熱伝導率が1.2~3.0W/m・Kであることを特徴とする摩擦対。
【0020】
(2)前記炭素質系潤滑材は、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛シート粉砕粉、石油コークス、石炭コークス、弾性黒鉛化カーボン、酸化ポリアクリロニトリル繊維粉砕粉から選ばれる1種以上である(1)の摩擦対。
【0021】
(3)前記炭素質系潤滑材は、黒鉛シート粉砕粉と石油コークスと弾性黒鉛化カーボンから成る(2)の摩擦対。
【0022】
(4)前記モース硬度が6以上の無機摩擦調整材の一部として平均粒子径が0.5~8μmの酸化ジルコニウムを摩擦材組成物全量に対し13~28重量%含有する(1)乃至(3)の摩擦対。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、結合材、繊維基材、摩擦調整材を含有し、銅成分及び鉄系金属繊維を含有しない摩擦材組成物から成る摩擦材を具備するディスクブレーキパッドと、ステンレス鋼製のディスクロータから成る摩擦対において、優れたブレーキの効き、摩擦材の耐摩耗性を有する摩擦対を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ステンレス鋼製のディスクロータは、鋳鉄製のディスクロータに比して、熱伝導率と熱拡散率とが小さく、また、ステンレス鋼は、鋳鉄よりも若干比重が大きいが、若干強度が高い。このため、ステンレス鋼製のディスクロータは、鋳鉄製ディスクロータと同等の重量および同等の強度になることを前提とすると、ディスクロータの厚みが薄く設計されることになる。そのためディスクロータの熱容量が小さくなり、ディスクロータが蓄熱しやすく、摩擦材の温度も高温になる傾向がある。
【0025】
摩擦材が高温になると、摩擦材に含まれる結合材や有機摩擦調整材等の有機物が熱分解しやすくなり、その分解した有機物が摩擦面に介在することでブレーキの効き安定性が低下する。また、結合材が熱分解することで、摩擦材の強度が著しく低下するため、摩擦材の耐摩耗性が低下する。
【0026】
そこで、本発明では、結合材、繊維基材、摩擦調整材を含有し、銅成分及び鉄系金属繊維を含有しない摩擦材組成物から成る摩擦材を具備するディスクブレーキパッドと、ステンレス鋼製のディスクロータから成る摩擦対において、鉄系金属繊維以外の金属繊維をも含有せず、摩擦調整材として炭素質系潤滑材を摩擦材組成物全量に対し10~15重量%と、モース硬度が6以上の無機摩擦調整材を摩擦材組成物全量に対し15~30重量とを含有する摩擦材組成物を使用し、かつ、摩擦材の熱伝導率を1.2~3.0W/m・Kとする。
【0027】
摩擦調整材として炭素質系潤滑材を摩擦材組成物全量に対し相対的に多量に添加するとともに、摩擦材の熱伝導率を特定の範囲とすることにより、摩擦材に放熱性を付与することができる。
【0028】
なお、本明細書では、摩擦材の熱伝導率は、最終製品となったディスクブレーキパッドから摩擦材部分を切り出し、迅速熱伝導率計測による熱線法により測定した数値を用いている。
【0029】
炭素質系潤滑材の含有量と、摩擦材の熱伝導率とを上記の範囲とすることにより、摩擦材の放熱性が向上し、摩擦材の温度上昇を抑制できる。その結果、摩擦材に含まれる有機物の熱分解が抑制され、また、炭素質系潤滑材の潤滑作用により耐摩耗性が改善される。
【0030】
ところが、単に、炭素質系潤滑材を相対的に多量に添加しただけでは、炭素質系潤滑材の潤滑作用によりブレーキの効き安定性が低下する。このため、炭素質系潤滑材を添加したことによる潤滑作用を相殺するために、摩擦調整材としてモース硬度が6以上の無機摩擦調整材を摩擦材組成物全量に対し15~30重量添加する。
【0031】
摩擦材組成物に含まれるモース硬度が6以上の無機摩擦調整材の含有量を上記の範囲とすることにより、ディスクロータに対する研削作用を得ることができ、炭素質系潤滑材を相対的に多量に添加した場合でも、優れたブレーキの効き安定性を得ることができる。
【0032】
なお、本発明においてモース硬度は、「1.滑石 2.石膏 3.方解石 4.蛍石 5.リン灰石 6.正長石 7.水晶 8.黄玉 9.鋼玉 10.ダイヤモンド」で表される旧モース硬度を適用する。
【0033】
炭素質系潤滑材は、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛シート粉砕粉、石油コークス、石炭コークス、弾性黒鉛化カーボン、酸化ポリアクリロニトリル繊維粉砕粉から選ばれる1種以上を組み合わせて使用することができ、特に、黒鉛シート粉砕粉と石油コークスと弾性黒鉛化カーボンとの3種を組み合わせて使用するのが好ましい。
【0034】
黒鉛シート粉砕粉とは、天然黒鉛を酸処理後に熱膨張させて、得られた膨張黒鉛をロールプレスによりシート化し、この黒鉛シートを粉砕することにより得られる原料である。弾性黒鉛化カーボンとは、炭素質原料を1900℃~2700℃で黒鉛化する際、黒鉛化度を80~95%で止めることによって得られる原料である。
【0035】
モース硬度が6以上の無機摩擦調整材は、四三酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、二酸化ケイ素、ケイ酸ジルコニウム、γ-アルミナ、α-アルミナ、炭化ケイ素、ガラス繊維、生体溶解性セラミック繊維、ロックウール、バサルト繊維等から選ばれる1種を単独で又は2以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
摩擦材組成物全量に対し15~30重量添加するモース硬度が6以上の無機摩擦調整材の一部として、平均粒子径が0.5~8μmの酸化ジルコニウムを添加するのが好ましく、その含有量は摩擦材組成物全量に対し13~28重量%とするのが好ましい。
【0037】
なお、本明細書では、平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定法により測定した50%粒子径の数値としている。
【0038】
<摩擦材組成物>
本発明の摩擦対に用いられる摩擦材は、上記炭素質系潤滑材、上記モース硬度が6以上の無機摩擦調整材の他に、通常摩擦材に使用される結合材、繊維基材、摩擦調整材を含む摩擦材組成物から成る。
【0039】
結合材として、ストレートフェノール樹脂、アクリルゴム変性フェノール樹脂、シリコーンゴム変性フェノール樹脂、ニトリルゴム変性フェノール樹脂、カシューオイル変性フェノール樹脂、フェノール類とアラルキルエーテル類とアルデヒド類とを反応させて得られるアラルキル変性フェノール樹脂(フェノールアラルキル樹脂)、アクリルゴム分散フェノール樹脂、シリコーンゴム分散フェノール樹脂、フッ素ポリマー分散フェノール樹脂等の摩擦材に通常用いられる結合材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
結合材の含有量は摩擦材組成物全量に対して4~9重量%とすることが好ましく、6~8重量%とすることがより好ましい。
【0041】
繊維基材としては、アラミド繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、ポリ-パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維等の摩擦材に通常使用される有機繊維が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
繊維基材の含有量は、摩擦材組成物全量に対して1~5重量%とすることが好ましく、2~4重量%とすることがより好ましい。
【0043】
摩擦調整材としては、潤滑材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材を使用することができる。
【0044】
潤滑材としては上記炭素質系潤滑材の他、硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、複合金属硫化物等の金属硫化物系潤滑材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0045】
潤滑材の含有量は、上記炭素質系潤滑材と合わせて摩擦材組成物全量に対して10~18重量%とすることが好ましく、11~16重量%とすることがより好ましい。
【0046】
無機摩擦調整材としては上記モース硬度が6以上の無機摩擦調整材の他、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、ドロマイト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム水和物、柱状チタン酸塩、板状チタン酸塩、粒子状チタン酸塩、鱗片状チタン酸塩、複数の凸部を有する不定形状チタン酸塩(チタン酸塩はチタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸ナトリウム等)、ウォラストナイト、セピオライト等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
無機摩擦調整材の含有量は、モース硬度が6以上の無機摩擦調整材と合わせて摩擦材組成物全量に対して60~82重量%とすることが好ましく、65~76重量%とすることがより好ましい。
【0048】
有機摩擦調整材としては、カシューダスト、タイヤトレッドゴム粉砕粉、ポリテトラフルオロエチレン粉末や、アクリルゴム、イソプレンゴム、ニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム等の加硫ゴム粉末又は未加硫ゴム粉末等の摩擦材に通常使用される有機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
有機摩擦調整材の含有量は、摩擦材組成物全量に対して3~8重量%とすることが好ましく、5~7重量%とすることがより好ましい。
【0050】
<ディスクブレーキパッドの製造方法>
本発明に係るディスクブレーキパッドは、典型的には、
所定量配合した摩擦材組成物(摩擦材原料)を、混合機を用いて均一に混合し、摩擦材原料混合物を得る混合工程、
得られた摩擦材原料混合物と、別途、予め洗浄、表面処理し、接着材を塗布したバックプレートとを重ねて熱成形型に投入し、加熱加圧して成型する加熱加圧成型工程、
得られた成型品を加熱して結合材の硬化反応を完了させる熱処理工程、
スプレー塗装や静電粉体塗装により塗料を塗装する塗装工程、
塗料を焼き付ける塗装焼き付け工程、
回転砥石により摩擦面を形成する研磨工程、
を経て製造される。
なお、加熱加圧成型工程の後、塗装工程、塗料焼き付けを兼ねた熱処理工程、研磨工程の順で製造する場合もある。
【0051】
必要に応じて、加熱加圧成型工程の前に、
摩擦材原料混合物を造粒する造粒工程、
摩擦材原料混合物を混練する混練工程、
摩擦材原料混合物又は造粒工程で得られた造粒物と混練工程で得られた混練物とを予備成型型に投入し、予備成型物を成型する予備成型工程、
が実施され、加熱加圧成型工程の後にスコーチ工程が実施されてもよい。
【0052】
<ステンレス鋼製のディスクロータ>
ステンレス鋼製のディスクロータとしては、例えば、マルテンサイト系ステンレス鋼製、フェライト系ステンレス鋼製のディスクロータを用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0054】
[実施例1~14・比較例1~5の摩擦材の製造方法]
表1、表2に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーに投入して5分間混合し、摩擦材組成物混合物を得た。この摩擦材組成物混合物を成型金型内で30MPaにて10秒間加圧して摩擦材予備成型を得た。この摩擦材予備成型物を、予め洗浄、表面処理、接着材を塗布した鋼鉄製のバックプレート上に重ね、熱成型型内で成型温度150℃、成型圧力40MPaの条件下で10分間成型して摩擦材成型物を得た。この摩擦材成型物を200℃で5時間熱処理(後硬化)した後、研磨して摩擦面を形成し、乗用車用ディスクブレーキパッドを作製した。
【0055】
【0056】
【0057】
更に、ディスクブレーキパッドの摩擦材を25mm×15mm×15mmに切り出し、実施例1~14、比較例1~5のテストピースを得た。
【0058】
表3は、これらのテストピースを用いて「ブレーキの効き安定性」および「摩擦材の耐摩耗性」を検証するにあたり採用した「試験条件」、「相手材の材質」、「評価項目」、「評価基準」を示している。
【0059】
【0060】
表4は、これらのテストピースの「製品外観」の「評価項目」および「評価基準」を示している。なお、ここでいう「製品」とは、最終製品である「ディスクブレーキパッド」のことである。
【0061】
【0062】
表5、表6は、各実施例及び各比較例に対する、表3および表4に示す「ブレーキの効き安定性」、「摩擦材の耐摩耗性」および「製品外観」の評価結果を示している。
【0063】
【0064】
【0065】
表5、表6より、本発明の条件を満足する摩擦材がブレーキの効き安定性、摩擦材の耐摩耗性および製品外観が良好であることが見てとれる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、結合材、繊維基材、摩擦調整材を含有し、銅成分及び鉄系金属繊維を含有しない摩擦材組成物から成る摩擦材を具備するディスクブレーキパッドと、ステンレス鋼製のディスクロータから成る摩擦対において、優れたブレーキの効き安定性、摩擦材の耐摩耗性および製品外観を有する摩擦対を提供することができ、きわめて実用的価値の高いものである。