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特許7616818望ましくない液性免疫反応を低減するための投薬の組み合わせ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】望ましくない液性免疫反応を低減するための投薬の組み合わせ
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/525 20060101AFI20250109BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250109BHJP
   C12N 15/28 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
C07K14/525 ZNA
A61K38/19
A61P1/04
A61P17/06
A61P19/02
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P43/00 105
C12N15/28
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018546736
(86)(22)【出願日】2016-11-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 CN2016107291
(87)【国際公開番号】W WO2017088821
(87)【国際公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-11-25
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】201510844422.1
(32)【優先日】2015-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521131650
【氏名又は名称】シャンハイ ジェーダブリュー インフリンヒックス カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI JW INFLINHIX CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 302-14,Building 1,800 Naxian Road,China(Shanghai)Pilot Free Trade Zone,Pudong New Area,Shanghai 201203,China
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シソン
(72)【発明者】
【氏名】ル,ウェンシュ
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】柴原 直司
【審判官】上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102776264(CN,A)
【文献】Science,(2003),Vol.301,pp.1895-1898
【文献】J.Cell Sci.,(1990),Vol.1990,No.Suppl.13,pp.11-18
【文献】EMBO J.,(1991),Vol.10,No.4,pp.827-836
【文献】Eur.J.Biochem.,(1994),Vol.220,pp.771-779
【文献】順天堂医学,2004年,50巻,4号,383-391頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
PubMed
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞壊死促進抗体の存在下で細胞壊死を抑制するための薬物の製造における、または炎症性疾患を治療するために自己抗体によるネクロプトーシスを抑制するための薬物の製造における、ポリペプチドの使用であって、ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2であり、ならびに、細胞壊死促進抗体は、配列番号9で示される軽鎖および配列番号10で示される重鎖を有する、前記使用。
【請求項2】
前記炎症性疾患は関節リウマチ、クローン病、乾癬および敗血症から選択される、請求項1に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医薬の分野に関し、具体的に、細胞ネクロプトーシス促進抗体を中和することができるタンパク質および炎症の治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍壊死因子α(TNF)は、様々な細胞、主にマクロファージやT細胞によって分泌される多機能サイトカインである。TNFはTNF受容体1および2 (TNFR1およびTNFR2)によって多くの生物学的機能を発揮する。多くのTNF機能は、主に、1) 転写因子の核内因子カッパ B(NF-κB)を刺激することによって、細胞の活性化およびサイトカインの生成につながること、2) 細胞アポトーシスの外部経路の誘導、および3) 壊死の誘導といった3つの細胞内イベントである。これらの活性の細胞内シグナル伝達経路は一部の成分を共有するが、異なる結果につながる。NF-κBの活性化によって、炎症促進因子の分泌および細胞の生存と活性化につながる。アポトーシスは細胞死の状態で、カスパーゼ-3の活性化、核分断、早期で完全な細胞膜を含有する、炎症性反応が少ないかないを特徴とする。しかしながら、壊死は細胞死のもう一つの機序で、ここで、カスパーゼ-3の活性化がなく、細胞膜の完全性が損なわれる。
【0003】
壊死は、強烈な免疫と炎症性反応を刺激する細胞内物質の放出につながる(4、5)。アポトーシスの条件において、カスパーゼを抑制すると、一つのプログラム細胞死の形態になるが、発生する時壊死の特徴を有し、「ネクロプトーシス」と呼ばれる(6-11)。このようなネクロプトーシスは炎症性の過程であるため、臨床でたとえば関節リウマチ、クローン病や乾癬などの疾患に関連する。しかしながら、今まで、これらの疾患におけるネクロプトーシスを発生させる因子はまだ同定されていない。
【0004】
直接TNF分子(モノクローナル抗体)を標的とするか偽受容体の拮抗剤としてTNFを中和することによって炎症性疾患の治療に根本的な変革をもたらした(12)が、TNF機能の完全な遮断は命を脅かす副作用、たとえば感染や腫瘍につがなる(13)。TNFは多くの炎症性疾患(たとえば関節リウマチ、炎症性腸炎、乾癬など)において重要な病理的作用を果たす。臨床において抗TNFによる炎症性疾患の治療は非常に有効である。抗TNFの生物製剤は、TNFを中和することができる抗TNFのモノクローナル抗体、遊離のTNF受容体などを含む。抗TNF製剤の市場は毎年150億ドルである。
【0005】
以上の成果があったが、炎症性疾患において細胞と組織の破壊の機序はまだ未知で、NF-κBの誘導は生存を促進し、直接細胞死につながらず、実は、NF-κBシグナルは炎症性腸疾患においてアポトーシスを阻止する(14)。アポトーシスは炎症を抑制すると言われている(15)。ネクロプトーシスは炎症および細胞/組織の破壊の可能な機序であるが、ヒトの臨床関連性の証拠が欠けている。たとえば、非ウイルス炎症性発病機序において、標的細胞外の何らの因子がネクロプトーシスを発生させるかわからない(14、16)。もちろん、これらの因子の同定は多くの炎症性疾患の診断と治療に生物マーカーを提供する。
【0006】
敗血症患者において、TNFが顕著に向上し、かつ病状の重篤度に正相関する。しかしながら、従来のTNF遮断型抗体および遊離の受容体はいずれも有効に敗血症を治療することができず、ほかの要素または因子が発病の過程でTNFと協同して重要な作用を果たすことが示唆された。
そのため、本分野で炎症性疾患が治療できるように細胞壊死の調節、ひいては逆転の物質的手段が切望されている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、炎症性疾患が治療できるように細胞壊死の調節、ひいては逆転の物質的手段を提供することにある。
【0008】
第一の側面では、本発明は、細胞壊死を抑制するポリペプチドであって、野生型TNFαから誘導され、かつ10~200個のアミノ酸残基および配列QLVVPSEを含み、ここで、前記ポリペプチドがTNFR1に結合しないが、TNFと競合して細胞壊死促進抗体に結合するポリペプチドを提供する。
具体的な実施形態において、前記野生型TNFαはアミノ酸配列が配列番号1で示されるヒト由来TNFαである。
具体的な実施形態において、前記細胞壊死促進抗体は配列番号9で示される軽鎖、および/または配列番号10で示される重鎖を有する。
具体的な実施形態において、前記ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号2~8からなる群から選ばれる。
好適な実施形態において、前記ポリペプチドは可溶性ポリペプチドである。
具体的な実施形態において、前記ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号2、3または4で示される。
【0009】
第二の側面では、本発明は、本発明の第一の側面に記載のポリペプチドの使用であって、細胞壊死を抑制する薬物または細胞壊死関連疾患を治療する薬物の製造における使用を提供する。
具体的な実施形態において、前記細胞壊死関連疾患は炎症性疾患である。
具体的な実施形態において、前記炎症性疾患は関節リウマチ、クローン病、乾癬、敗血症を含むが、これらに限定されない。
【0010】
第三の側面では、本発明は細胞壊死を抑制する薬物組成物であって、治療有効量の本発明の第一の側面に記載のポリペプチドと、薬学的に許容される担体とを含む薬物組成物を提供する。
好適な実施形態において、前記ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号2~8からなる群から選ばれる。
好適な実施形態において、前記ポリペプチドは可溶性ポリペプチドである。
好適な実施形態において、前記ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号2、3または4で示される。
具体的な実施形態において、前記薬物組成物は静脈内投与の注射剤である。
【0011】
第四の側面では、本発明は患者の血液を処理する透析装置であって、本発明の第一の側面に記載のポリペプチドを含む透析装置を提供する。
好適な実施形態において、前記透析装置は前記患者の血液における細胞壊死促進抗体の除去または中和に使用される。
好適な実施形態において、前記細胞壊死促進抗体は配列番号9で示される軽鎖、および/または配列番号10で示される重鎖を有する。
好適な実施形態において、前記透析装置は透析カラムである。
【0012】
第五の側面では、本発明は患者の血液における細胞壊死促進抗体を除去または中和する方法であって、本発明の第一の側面に記載のポリペプチドで前記患者の血液における細胞壊死促進抗体を抑制または中和する工程を含む方法を提供する。
好適な実施形態において、前記細胞壊死促進抗体は配列番号9で示される軽鎖、および/または配列番号10で示される重鎖を有する。
【0013】
好適な実施形態において、前記方法は本発明の第一の側面に記載のポリペプチドを必要な患者にたとえば注射で投与することによって患者の血液における細胞壊死促進抗体を抑制または中和する工程を含む。
好適な実施形態において、前記方法は本発明の第一の側面に記載のポリペプチドで透析することによって前記患者の血液における細胞壊死促進抗体を抑制または中和する工程を含む。
【0014】
好適な実施形態において、前記方法は本発明の第一の側面に記載のポリペプチドを含む透析装置によって前記患者の血液における細胞壊死促進抗体を抑制または中和する工程を含む。
好適な実施形態において、前記透析装置は透析カラムである。
好適な実施形態において、前記方法は細胞壊死関連疾患の治療に使用される。
好適な実施形態において、前記治療される細胞壊死関連疾患は炎症性疾患である。
好適な実施形態において、前記炎症性疾患は関節リウマチ、クローン病、乾癬、敗血症を含むが、これらに限定されない。
【0015】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は33株のモノクローナル抗体からのTNFと結合できるモノクローナル抗体の選別を示す。ここで、ELISA試験によって244-12のTNFとの結合が最も強いことが証明された。
図2図2は抗体244-12とTNFの結合がTNFと細胞表面の受容体の結合に影響しないことを示す。ここで、「Merge」はマージを、「alone」は抗体244-12だけを表す。
図3図3は抗体244-12が二つの細胞株のいずれにおいてもTNFによる細胞アポトーシス(すなわち活性カスパーゼ-3の発現)を遮断することを示す。ここで、上の図はL929細胞(マウス線維芽細胞腫瘍細胞)で、下の図はC28I2細胞(軟骨細胞)である。
【0017】
図4図4は抗体244-12とTNFによるL929細胞の壊死を示す。図において、縦座標は細胞アポトーシス(活性カスパーゼ-3)を、横座標はネクロプトーシス(細胞膜の完全性の破壊)を表す。ここで、TNFは細胞アポトーシスを引き起こした(上の図の右)。対照抗体M26を入れ(TNFの受容体との結合を遮断し)、L929細胞が生存した(中の図の右)。244-12とTNFを入れ、L929細胞が壊死した(下の図の右)。
図5図5は本発明の抗体244-12+TNFによる壊死がNec-1によって抑制されることを示す。ここで、244-12 + TNFはNec-1を入れた後(上の図の右)、細胞壊死はまた細胞アポトーシスに転換した。細胞壊死はシグナル伝達によるもの、すなわちネクロプトーシスであることが説明された。
【0018】
図6図6は関節リウマチ患者の滑液における自己抗体によるネクロプトーシスを示す。
図7図7は敗血症の治癒患者(5人)と死亡患者(19人)における本発明の抗体244-12と抗原結合部位を競合する抗体の平均レベルを示す。両者の差は非常に顕著である。P<0.01。
図8図8はpNIC28Bsa4ベクターの概要図で、クローニングと発現に関連する重要な構成部分を示す。
【0019】
図9図9は本発明のポリペプチドP11-17が精製された細胞壊死促進抗体(244-12)に結合することもできるし、細胞壊死促進抗体を有する関節炎患者の関節液における自己抗体に結合することもできる(SF024、SF045)ことを示す。しかし、細胞壊死促進抗体を含まない対照の患者の関節液の反応は陰性であった(SF010)。マイクロプレートを2 μg/mlのP11-17で被覆し、BSAでブロッキングした後それぞれ244-12、SF024、SF045、SF010と室温で1時間インキュベートした後、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識された抗ネズミまたはヒトIgGの二次抗体によって認識した。
【0020】
図10図10は本発明のポリペプチドP11-17および配列番号2で示されるポリペプチドのいずれも有効に細胞壊死を抑制することができることを示す。細胞壊死は精製された細胞壊死促進抗体(244-12)によるものでもよく、患者の関節液(SF002、SF045)における細胞壊死促進抗体によるものでもよい。
図11図11は本発明のポリペプチドP12-10、P13-1、P13-2およびP13-3がTNFとモノクローナル抗体244-12の結合を競合的に抑制することができることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明者が幅広く深く研究したところ、意外に、抗体244-12がTNFの存在下でTNFに誘導されたアポトーシスをネクロプトーシスに転換させることを見出し、そして一部の炎症の患者、たとえば関節炎、敗血症の患者の体内に類似のネクロプトーシスを引き起こす自己抗体が存在し、かつこれらの患者の病状は顕著に重篤になっていることを見出した。さらに、発明者は患者の自己抗体を遮断できるポリペプチドを製造し、よって重篤な副作用が生じずに炎症を治療することができる。これに基づき、本発明を完成させた。
【0022】
本明細書に記載のアポトーシスまたは細胞アポトーシスとはプログラム細胞死、すなわち、細胞のシグナル伝達による死亡をいう。その特徴は、細胞が萎縮し、細胞核が分断するが、細胞膜が完全な状態であることにある。細胞膜が完全な状態でかつアポトーシスした細胞はすぐにマクロファージによって呑み込まれるため、細胞アポトーシスは炎症を引き起こさない。
本明細書に記載の壊死または細胞壊死とは細胞が外力によって破壊して死亡することをいい、その特徴は細胞が破砕し、細胞膜が破壊して不完全になることにある。壊死時細胞が多くの炎症性物質、たとえば核酸、尿酸、HMGB1などを放出するため、炎症反応を引き起こす。
【0023】
本明細書に記載のネクロプトーシスまたは細胞ネクロプトーシスとは細胞のシグナル伝達による死亡をいう。その特徴は細胞が破砕し、細胞膜が破壊して不完全になることにある。上記細胞壊死と同様に、ネクロプトーシスの過程において、壊死した細胞が多くの炎症性物質、たとえば核酸、尿酸、HMGB1などを放出するため、炎症反応を引き起こす。
【0024】
TNFおよびその機能
TNFは主にマクロファージやT細胞によって分泌される多機能サイトカインである。TNFはTNF受容体1と2(TNFR1とTNFR2)によって多くの生物学的機能を発揮し、転写因子の核内因子カッパ B(NF-κB)の刺激、細胞アポトーシスの外部経路の誘導、および壊死の誘導を含む。
【0025】
TNFは主にマクロファージやT細胞によって分泌される多機能サイトカインである。TNFはTNF受容体1と2(TNFR1とTNFR2)によって多くの生物学的機能を発揮し、転写因子の核内因子カッパ B(NF-κB)の刺激、細胞アポトーシスの外部経路の誘導、および壊死の誘導を含む。
【0026】
現在のすべての研究では、TNF-TNFR1結合後の下流の結果が強調されている。しかしながら、異なる細胞機能が観察されうるTNF-TNFR1の相互作用のレベルで微妙な分子上の基礎が研究されていない。通常の概念は、一般的に、TNF-TNFR1結合は、NF-κBの刺激および細胞死の誘導を含むすべてのTNF機能を開始させるには十分である。既存技術では、さらに、ヒトTNFα由来の短鎖ペプチドが研究され、顕著に細胞アポトーシスを引き起こすものもあれば、顕著に細胞壊死を引き起こすものもある。そして、各短鎖ペプチドの溶解性は顕著に異なるため、短鎖ペプチドの薬らしさに影響を与える。
【0027】
抗体
本明細書において、「抗体」、「モノクローナル抗体」、「244-12」または「自己抗体」は同じ意味を有し、TNF、特に特異的に配列QLVVPSEと結合することができ、すなわち、結合エピトープがQLVVPSEである抗体をいう。前記抗体は細胞のネクロプトーシスを引き起こすことができることを見出した。
本明細書において、前記抗体は完全のモノクローナル抗体だけではなく、免疫活性を有する抗体断片、たとえばFabまたは(Fab')2断片、抗体の重鎖、抗体の軽鎖も含む。具体的な実施形態において、前記抗体は配列番号9で示される軽鎖、および/または配列番号10で示される重鎖を有する。
【0028】
本発明のポリペプチド
細胞壊死の調節、ひいては逆転の物質的手段を提供するために、本発明は細胞ネクロプトーシスを引き起こせる上記自己抗体に結合するが、TNFR1に結合しないことで、細胞の壊死を抑制し、そして炎症を治療または軽減することができるポリペプチドを提供する。
具体的な実施形態において、本発明は、野生型TNFαから誘導される、細胞壊死を抑制するポリペプチドであって、10~200個のアミノ酸残基(好ましくは10~180個、より好ましくは10~160個のアミノ酸残基)および配列QLVVPSEを含むポリペプチドを提供する。具体的な実施形態において、前記野生型TNFαはアミノ酸配列が配列番号1で示されるヒト由来TNFαである。
【0029】
好適な実施形態において、前記ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号2~8からなる群から選ばれる。さらに好適な実施形態において、本発明のポリペプチドは可溶性ポリペプチドであるが、それで優れた薬らしさを提供することができる。
具体的な実施形態において、前記ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号2、3または4で示される。
【0030】
薬物組成物
本発明のポリペプチドに基づき、本発明はさらに細胞壊死を抑制する薬物組成物であって、治療有効量の本発明のポリペプチドと、薬学的に許容される担体とを含む薬物組成物を提供する。
本明細書で用いられる用語「有効量」または「治療有効量」とは、ヒト及び/又は動物に機能や活性があり、且つヒト及び/又は動物にとって受けられる使用量である。
【0031】
本明細書で用いられる用語「薬学的に許容される」成分は、ヒト及び/又は哺乳動物に適用する場合、過度の不良な副反応(例えば毒性、刺激とアレルギー反応)がない、すなわち、合理的なベネフィット/リスク比を持つ物質である。用語「薬学的に許容される担体」とは、治療剤の給与のための担体で、各種の賦形剤と希釈剤を含む。
【0032】
本発明の薬物組成物は、活性成分として安全有効量の本発明のポリペプチドと、薬学的に許容される担体とを含む。このような担体は、食塩水、緩衝液、ブドウ糖、水、グリセリン、エタノール、およびその組み合せを含むが、これらに限定されない。通常、薬物製剤は投与様態に応じ、本発明の薬物組成物の剤形は、固体の様態または溶液の様態、好ましくは溶液の様態、たとえば注射剤、経口投与製剤(錠剤、カプセル、経口投与液)、経皮剤、徐放剤でもよい。例えば生理食塩水或いはグルコースおよび他の助剤を含む水溶液を使用し通常の方法で製造することができる。前記の薬物組成物は、無菌条件で製造することが好ましい。
【0033】
本発明に係る活性成分の有効量は、投与の様態と治療しようとする疾患の重篤度などによって変更することができる。好適な有効量の選択は、当業者がいろいろな要素によって決めることができる(例えば臨床試験による)。前記の要素は、前記活性成分の薬物動態学のパラメーター、例えば生物的利用率、代謝、半減期など、患者の治療しようとする疾患の重篤度、患者の体重、患者の免疫状況、投与の経路などを含むが、これらに限定されない。治療状況の要求によって、毎日数回に分けた投与量、または比率的に減少する投与量で投与することができる。
【0034】
本発明に記載される薬学的に許容される担体、活性成分の有効量および投与様態はいずれも当業者に熟知のものである。
【0035】
その機能に鑑み、当業者は本発明のポリペプチドおよび薬物組成物が細胞壊死を抑制することで、炎症性疾患を含むが、これに限定されない、細胞壊死に関連する疾患を治療することができることがわかる。具体的な実施形態において、前記炎症性疾患は関節リウマチ、クローン病、乾癬、敗血症を含むが、これらに限定されない。
【0036】
本発明のポリペプチドおよび薬物組成物に基づき、本発明はさらに細胞壊死を抑制する方法または細胞壊死関連疾患、たとえば炎症性疾患を治療する方法であって、必要な対象に本発明のポリペプチドまたは本発明のポリペプチドを含む薬物組成物を投与する工程を含む方法を提供する。
【0037】
本発明の主な利点は以下の通りである。
1.本発明では、初めて、細胞のネクロプトーシスを引き起こす自己抗体を中和することができることを見出した。
2.本発明の成果は顕著な臨床意義を有する。
3.本発明のポリペプチドは炎症反応を治療、緩和または軽減することができる。
4.本発明のポリペプチドはTNF受容体に結合しないため、TNFの正常機能に影響しない。現在臨床で使用される抗TNFモノクローナル抗体またはTNF遊離受容体の抗炎症療法のようにTNF機能を抑制することで結核感染や腫瘍発生などの副作用を引き起こすことがない。
【0038】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を詳述する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例で詳細な条件が示されていない実験方法は、通常、例えばSambrookら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(ニューヨーク、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版社、1989) に記載の条件などの通常の条件に、或いは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に断らない限り、%と部は、重量で計算される。本発明の実施例で使用された実験材料は、特に説明しない限り、いずれも市販品として得られる。
【0039】
材料と方法
患者
患者は、リウマチ診療所またはICU病棟によって募集され、すべてのサンプルは分析まで-80℃で保存された。治療性関節穿刺術の一部として、滑液を炎症性疾患患者の膝関節から吸い取った。1987米国リウマチ学院または2010 ACR/EULAR分類基準によって関節リウマチを定義する。ほかの炎症性関節炎は臨床およびX線撮影の基準によって診断した。すべてのリウマチ患者はリウマチ因子の血清反応で陽性を示し、中等の疾患活性を有する。敗血症患者は1992年に米国胸部疾患学会によって確立された基準に準じて診断された。ドナーのインフォームドコンセントの上、完全に国家および制度の倫理的要求に従って得られたサンプルおよび/またはデータを収集した。
【0040】
細胞系、TNFおよびポリペプチド
マウス線維肉腫L929細胞およびヒトリンパ球Jurkat A3細胞は米国タイプカルチャーコレクション(ATCC, Manassas, VA)から購入された。ヒトC28I2軟骨細胞はMary B. Goldring博士によって提供された。ヒトSaOs-2骨芽細胞はSigmaから購入された。TNFはImmunotools(ドイツ)から購入された。
【0041】
アポトーシスおよび壊死の試験
20 μM z-VAD-FMK (R & D Systems、ミネアポリス、ミネソタ州)または20 μM ネクロスタチン-1(PeproTech、Rocky Hill、ニュージャージー州)を含有するか含有しないTNF(Immunotools、Friesoythe、ドイツ)またはTNFペプチドの存在下において、細胞を一晩インキュベートした(あるいは図で示される時間でインキュベートした)。一部の実験において、TNFは細胞および示される濃度のモノクローナル抗体または滑液と共培養した。メーカーのパンフレットの指導に従い、生存/死亡細胞染色キット(Invitrogen、Paisley、イギリス)によって細胞を染色し、cytofix/cytoperm固定/透過化溶液キット(BD Pharmingen、オックスフォード、イギリス)によって固定化した。その後、FITC-カップリングの抗-カスパーゼ-3抗体(Cell Signaling Technology, Danvers、マサチューセッツ州、米国)によって細胞内染色を行った。CyAnフローサイトメーター(Beckman Coulter、Fullerton、カルフォルニア州)によって細胞を得、Flowjo(Tree Star Inc. Ashland、オレゴン州)によってデータを分析した。
【0042】
ELISA
モノクローナル抗体の選別/抑制試験
4℃で、2 μg/ml TNFでELISAプレートを一晩、あるいは37℃で2時間被覆させた後、37℃でモノクローナル抗体と1時間インキュベートした。HRPとカップリングされた二次抗体を反応の検出に使用した。抑制試験に関し、TNFR1または滑液をモノクローナル抗体と共に入れた。
【0043】
TNFとTNFR1の結合
以下のようにELISAによってTNFR1とTNFの結合を測定した。4℃で、1.5 μg/ml TNFまたはmTNF-HAでELISAプレートを一晩、あるいは37℃で2時間被覆させた。37℃でTNFR1(1 μg/ml)と2時間インキュベートした後、抗TNFR1または抗HA抗体とさらに2時間インキュベートし、HRPとカップリングされた二次抗体-マウスIgG抗体を入れ、30分間で、さらにその基質を入れて検出に供した。呈色させ、Wallace Victor2 1420マルチラベルカウンター(PerkinElmer、Massachusettsマサチューセッツ州、米国)によってOD 450 nmで検出した。
【0044】
L929細胞の免疫蛍光顕微法
室温において、20 ng/mlのTNFを2 μg/mlのmAb M26または244-12と1時間インキュベートした。TNF/M26またはTNF/244-12の混合物を氷上においてカバーガラスで生長したL929細胞と15分間インキュベートした。4%パラアルデヒド(PBSで調製)で細胞を10分間固定化し、0.5% BSAおよび0.1%冷水魚ゼラチンを含有するリン酸塩緩衝液で15分間ブロッキングした後、さらにウサギ抗TNFR1抗体(Abcam)と1時間インキュベートした。PBSで細胞を洗浄した後、Alexa Fluor 488またはAlexa Fluor 568(Invitrogen)にカップリングされた関連二次抗体とインキュベートした。その後、Gelvatol/DABCO(Sigma-Aldrich)でPBS-洗浄のサンプルをセットした。DAPI(Sigma-Aldrich)でDNAを対比染色した。Nikon Eclipse 80iを使用し、60xで蛍光顕微法によってすべてのサンプルを分析した。Hamamatsuカメラを使用し、NIS-Elements AR3.0ソフトで画像を得た。
【0045】
ポリペプチドおよびタンパク質の合成および検出方法:
通常の方法によって、配列番号2~4で示されるアミノ酸配列に相応するコードヌクレオチド配列を合成した後、大腸菌で発現させて精製した。精製された産物をSDS電気泳動および質量分析装置(Bruker Daltonics Ultraflex TOF/TOF mass spectrometer)によって確認した。
配列番号5~8で示されるアミノ酸配列およびその修飾配列、たとえばN末端またはC末端がビオチン化(必要によって)されたものはFmocプロトコールに従ってAPEX396自動ポリペプチド合成装置によって合成された。質量分析装置(Bruker Daltonics Ultraflex TOF/TOF mass spectrometer)によって合成されたポリペプチドを確認した。
【実施例
【0046】
実施例1. モノクローナル抗体244-12の製造およびその結合エピトープの同定
発明者は通常の方法によって33株のモノクローナル抗体を製造し、かつ製造されたモノクローナル抗体とTNFの結合状態を検出したが、中では、ELISA試験によってモノクローナル抗体244-12とTNFの結合が最も強かったことが証明された。
その後、発明者はモノクローナル抗体244-12の結合エピトープを同定したところ、QLVVPSEであった。
【0047】
実施例2. モノクローナル抗体244-12によるTNF関連アポトーシスからネクロプトーシスへの転換
発明者はモノクローナル抗体(mAb)244-12のTNFの機能に対する影響を研究した。
まず、図2における共焦点顕微鏡の写真でモノクローナル抗体244-12とTNFの結合がTNFとTNF受容体の結合に影響しないことが示された。共焦点顕微鏡において、TNF受容体は赤色に、244-12は緑色に染色された。ここで、上の図ではTNFが存在する場合、緑色と赤色が重なった(黄色)ことが示され、244-12がTNFおよびTNF受容体と重なったことが説明された。下の図ではTNFが存在しない場合、赤色だけであったことが示され、244-12が直接細胞の表面に結合しないことが説明された。
【0048】
その後、発明者はTNFがL929細胞を刺激して細胞アポトーシス(活性カスパーゼ-3の発現)を引き起こしたが、モノクローナル抗体244-12を入れた場合、細胞アポトーシスが抑制された(活性カスパーゼ-3が抑制された)ことを観察した。図3ではモノクローナル抗体244-12がL929細胞(マウス線維芽細胞腫瘍細胞、上の図)とC28I2細胞(軟骨細胞、下の図)の二つの細胞株のいずれにおいてもTNFによる細胞アポトーシス(すなわち、活性カスパーゼ-3の発現)を遮断したことが示された。
【0049】
しかしながら、意外なことに、モノクローナル抗体244-12をTNFとL929細胞に入れた場合、アポトーシスが抑制されたが、細胞が壊死した。図4は抗体244-12とTNFによるL929細胞の壊死を示す。ここで、TNFは細胞のアポトーシスを引き起こした(上の図の右)。対照抗体M26を入れ(TNFの受容体との結合を遮断し)、L929細胞が生存した(中の図の右)。244-12とTNFを入れ、L929細胞が壊死した(下の図の右)。
【0050】
発明者はさらに研究したところ、244-12 + TNFによる壊死はシグナル伝達によるものであることを証明した。図5は本発明の抗体244-12+TNFによる壊死がNec-1によって抑制されることを示す。ここで、244-12 + TNFはNec-1を入れた後、ネクロプトーシスはまた細胞アポトーシスに転換した(上の図の右)。細胞壊死はシグナル伝達によるもの、すなわちネクロプトーシスであることが説明された。
【0051】
実施例3. 関節リウマチ患者の滑液における自己抗体によるネクロプトーシス
発明者は、意外に、一部の未治療の関節リウマチまたは骨関節疾患の患者の関節液に大量の抗体が存在することを見出した(図6A)。これらの抗体は244-12と抗原結合部位を競合することができる(図6B)。これらの抗体を含有する関節液は細胞のネクロプトーシスを引き起こすことができる(図6C)。
【0052】
ここで、図6Aでは、一部の関節炎患者の関節液に抗TNFの自己抗体が存在したことが示された。患者SF8の関節液に大量の自己抗体が含まれていた。6Bでは、自己抗体が244-12とTNF結合部位を競合したことが示された。244-12とTNFの結合試験(ELISA)において、SF8関節液を入れると、244-12とTNFの結合が抑制された。6Cでは、SF8関節液がTNFの存在下でネクロプトーシスを引き起こしたことが示された。TNFはL929細胞のアポトーシスを引き起こした(上の図の右)が、SF8関節液を入れると、細胞はネクロプトーシスに転換した(中の図の右)。一方、対照関節液SF4は壊死を引き起こさなかった(下の図の右)。
発明者はさらに24名の敗血症患者を観察したところ、14名の患者で244-12と抗原結合部位を競合する抗体が検出されたが、ほかの10名の患者で類似する抗体が含まれていなかった。14名の244-12と抗原結合部位を競合する抗体を含む患者は全力を尽くして看護と治療を行われたが、全員死亡した。一方、ほかの10名の患者のうち、5名が死亡し、ほかの5名は2~3週間後完治して退院した。死亡患者では抗体レベルは非常に顕著に完治群よりも高かった(p<0.01)(図7)。
【0053】
実施例4.
本発明者はさらに特異的にほかのTNF分子および断片と結合する抗体を研究したところ、これらの抗体がTNF関連アポトーシスをネクロプトーシスに逆転させる効果を有することが確認されなかった。
また、本発明者は全長TNFを選別したところ、QLVVPSEと特異的に結合する抗体がTNF関連アポトーシスをネクロプトーシスに逆転させる効果を有することを見出した。
【0054】
実施例5. 本発明のポリペプチドの製造
「材料と方法」における「ポリペプチドおよびタンパク質の合成および検出方法」に記載のように以下に示される本発明のポリペプチドを製造して検出、確認した。
【0055】
配列番号2:VRSS SRTPSDKPVA HVVANPQAEG QLQWLNRRAN ALLANGVELR DNQLVVPSEG LYLIYSQVLF KGQGCPSTHV LLTHTISRIA VFHQTKVNLL SAIKSPCQRE TPEGAEAKPW YEPIYLGGVF QLEKGDRLSA EINRPDYLDF AESGQVYFGI IAL、
P11-17:QLQWLNRRAN ALLANGVELR DNQLVVPSEG LYLIYSQVLF KGQGCPSTHV LLTHTISRIA VSYQTKVNLL SAIKSPCQRE (配列番号3)、
P11-17 (突然変異型、SY突然変異):QLQWLNRRAN ALLANGVELR DNQLVVPSEG LYLIYSQVLF KGQGCPSTHV LLTHTISRIA VFHQTKVNLL SAIKSPCQRE (配列番号4)、
P12-10:RDNQLVVPSE (配列番号5)、
P13-1:DNQLVVPSEG (配列番号6)、
P13-2:NQLVVPSEGL (配列番号7)、
P13-3:QLVVPSEGLY (配列番号8)。
【0056】
実施例6. 本発明のポリペプチドによる細胞壊死促進抗体の活性の中和
本発明者はさらに本発明のポリペプチドと細胞壊死促進抗体の結合、そしてTNFと細胞壊死促進抗体の結合を競合的抑制する能力および本発明のポリペプチドの細胞壊死を抑制する能力を研究した。
図9に示すように、本発明のポリペプチドP11-17(配列番号3)が精製された細胞壊死促進抗体(244-12)に結合することもできたし、関節炎患者の関節液における細胞壊死促進抗体(SF024、SF045)に結合することもできた。しかし、自己抗体を含まない対照の患者の関節液の反応は陰性であった(SF010)。マイクロプレートを2 μg/mlのP11-17で被覆し、BSAでブロッキングした後それぞれ244-12、SF024、SF045、SF010と室温で1時間インキュベートした後、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識された抗ネズミまたはヒトIgGの二次抗体によって認識した。
【0057】
図10は本発明のポリペプチドP11-17および配列番号2のいずれも有効に細胞壊死を抑制することができたことを示す。細胞壊死は精製された細胞壊死促進抗体(244-12)によるものでもよく、患者の関節液(SF002、SF045)における細胞壊死促進抗体によるものでもよい。
図11は本発明のポリペプチドP12-10、P13-1、P13-2およびP13-3がTNFとモノクローナル抗体244-12の結合を競合的に抑制することができたことを示す。P12-10、P13-1、P13-2およびP13-3が顕著にTNFとモノクローナル抗体244-12の結合を抑制した。方法:TNFでマイクロプレートを被覆し、各ウェルにそれぞれ示されるポリペプチドを入れた後、モノクローナル抗体244-12を入れた。ポリペプチドが244-12と結合すると、244-12とTNFの結合が抑制される。
【0058】
本発明のポリペプチドと細胞壊死促進抗体の結合能力および本発明のポリペプチドの細胞壊死を抑制する能力を下記表にまとめた。
【0059】
【表1】
【0060】
検討
本発明の発見に基づき、本発明者は炎症の新たな治療策を提唱した。ネクロプトーシスの機序は自己抗体およびTNFに関する。ネクロプトーシスは炎症の原因の一つである。現在、炎症性疾患の治療策略の一つはTNFを抑制することによってTNFを遮断することである。当該策略は炎症の抑制に有効であるが、命を脅かす副作用、たとえばTBまたはリンパ腫につながる。本発明者は本発明のポリペプチド(TNFR1に結合しない)によって自己抗体を遮断する代替方法を提出した。当該策略の結果は炎症性負荷を低下させると同時にネクロプトーシスを抑制するが、TNFを元のままに維持することによって、腫瘍および重篤な感染、たとえばTBを阻止する可能性がある。
【0061】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
【0062】
参考文献
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