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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】テアニンから成る脳機能改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20250109BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 9/08 20060101ALN20250109BHJP
   A61K 9/48 20060101ALN20250109BHJP
   A61K 9/14 20060101ALN20250109BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20250109BHJP
   A23L 33/175 20160101ALN20250109BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P25/28
A61K9/08
A61K9/48
A61K9/14
A23L2/52
A23L33/175
A23L2/00 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020168042
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022060055
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(74)【代理人】
【識別番号】230103089
【弁護士】
【氏名又は名称】遠山 友寛
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】馬場 吉武
(72)【発明者】
【氏名】瀧原 孝宣
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-073350(JP,A)
【文献】特開2002-370979(JP,A)
【文献】特開平09-012454(JP,A)
【文献】特開2020-037540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00
A61P 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テアニンから成る、脳機能改善剤であって、脳機能がコグニトラックス検査の4パート持続処理テストのパート4で評価される作動記憶力であり、
作動記憶力の改善が、抹茶を投与された場合との比較でのコグニトラックス検査の4パート持続処理テストのパート4における正解応答の数の増加又は正解見過ごし数の減少であり、
脳機能改善剤に含まれるテアニンの有効量が、単回投与量としての、1日あたり50~200mgである、脳機能改善剤。
【請求項2】
作動記憶力、改訂長谷川式簡易知能評価スケール又はミニメンタルステート検査で評価されない脳機能である、請求項1に記載の脳機能改善剤。
【請求項3】
4パート持続処理テストのパート4が、ランダムに表示される図に関する2枚前の図の記憶の検査である、請求項に記載の脳機能改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テアニンから成る脳機能改善剤、これを含む組成物、特に飲食品組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化の進行に従って、加齢に伴う脳の認知機能障害が社会問題となり、認知機能障害の予防又は改善に有効な食品、成分等について様々に研究が進められている。ヒトの認知機能障害の有無は、認知機能検査(スクリーニング検査)によって診断することができ、様々な認知機能検査が提案されている。そのため、認知機能の評価においては、検査目的に応じて、既知の認知機能検査から適正な検査を適宜選択して実施される。特許文献1では、ドコサヘキサエン酸、ウリジン等を含む組成物を用いて認知機能を向上させることが提案され、認知能力を評価する標準的な検査として、ミニメンタルステート検査を利用することが記載されている。
【0003】
その他にも、認知機能を検査する方法として、改定長谷川式認知症スケール(Hasegawa's Dementia Scale-Revised)やコグニトラックス検査が知られており、特許文献2では、コグニトラックス検査を用いた軽度認知障害に対する緑茶成分の有効性評価方法が記載されている。
【0004】
特許文献3には、テアニンやカテキンを含む緑茶葉粉末が、コグニトラックス検査を通じて健常者認知機能の維持又は軽度認知障害の改善に有効であることが開示されている。その一方で、非特許文献1には、テアニンとカフェインの組み合わせが認知機能を改善するものの、テアニン単独ではそのような効果がないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-143248号公報
【文献】特開2020-038156号公報
【文献】特開2020-037540号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kelly et al., " L-theanine and caffeine in combination affect human cognition as evidenced by oscillatory alpha-band activity and attention task performance", J Nutr. 2008 Aug;138(8):1572S-1577S.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、脳の機能は、非常に複雑であり、様々な機能が相互に関連して作用するため、特定の脳機能改善に特化した薬剤、サプリメント又は、飲料や茶葉商品等の飲食品等、特に機能性食品の提供が求められている。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、新規脳機能改善剤、又はそれを含む組成物、特に飲食品組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
認知機能の検査方法は感度や特異度のみならず、評価方法の違いから、評価される認知機能も異なる場合がある。例えば、数字の逆唱や計算問題等の個々の項目の結果を合計得点で認知機能を評価する改定長谷川式認知症スケールやミニメンタルステート検査は、検査内容や配点の偏りがあり、検出しやすい認知症の種類(アルツハイマー型や脳血管型など)が異なり、また、認知機能低下の症状が軽い対象者は異常を検出しにくいという報告もある。
【0010】
コグニトラックス検査は、従来の改定長谷川式認知症スケールやミニメンタルステート検査と異なり、機能が低下している領域を個別に判断できるという特徴がある。
【0011】
本発明者らは、同じコグニトラックス検査で評価した場合でも、抹茶と、それに含まれる各成分がそれぞれ異なる認知機能の改善に寄与することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]
テアニンから成る、脳機能改善剤であって、脳機能がコグニトラックス検査の4パート持続処理テストで評価される作動記憶力又は持続性注意力である、脳機能改善剤。
[2]
作動記憶力又は持続性注意力が、改訂長谷川式簡易知能評価スケール又はミニメンタルステート検査で評価されない脳機能である、[1]に記載の脳機能改善剤。
[3]
テアニンの有効量が1日あたり50~200mgである、[1]又は[2]に記載の脳機能改善剤。
[4]
前記テアニンの有効量が単回投与量である、[3]に記載の脳機能改善剤。
[5]
作動記憶力又は接続性注意力の改善が、抹茶を投与された場合との比較でのコグニトラックス検査の4パート持続処理テストにおける正解応答の数の増加又は誤応答の数の減少である、[1]~[4]のいずれかに記載の脳機能改善剤。
[6]
4パート持続処理テストが、ランダムに表示される図に関する2枚前の図の記憶の検査である、[5]に記載の脳機能改善剤。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載の脳機能改善剤を含む組成物。
[8]
飲料、食品、サプリメント又は医薬品の形態である、[7]に記載の組成物。
[9]
液剤、粉剤、錠剤又はカプセルの形態である、[7]又は[8]に記載の組成物。
[10]
コグニトラックス検査の4パート持続処理テストで評価される作動記憶力又は持続性注意力を改善するための、[7]~[9]のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0013】
テアニンを単独で摂取することにより、改定長谷川式認知症スケールやミニメンタルステート検査では評価することができなかった脳機能を改善することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態又は実施態様について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0015】
(脳機能改善剤)
一実施形態において、テアニンから成る、脳機能改善剤であって、脳機能がコグニトラックス検査の4パート持続処理テストで評価される作動記憶力又は持続性注意力である、脳機能改善剤が提供される。
【0016】
認知症の症状は、記憶障害、判断力低下、見当識障害、言語障害(失語)、失行、失認、実行機能障害など多岐に渡る。軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)は、健常状態と認知症との中間に当たるグレーゾーンの段階である。つまり、認知機能(記憶、決定、理由付け、実行等)のうちの1つの機能に問題が生じていても、日常生活に支障がない状態である。
【0017】
コグニトラックス検査は、米国のCNS Vital Signs社が開発した認知機能検査技術であり(Gualtieri CT, Johnson LG: Reliability and validity of a computerized neurocognitive test battery, CNS Vital Signs. Arch Clin Neuropsychol 2006;21:623-643.)、例えば、以下の特徴を有する。
・記憶力・注意力・処理速度・実行機能など広範囲の機能領域を測定、結果は数値化、年齢標準値との比較で表示。
・10種類のテストを提供、検査目的によりテストを選択可能。
・個人の値を経時的モニターすることにより記憶力や認知機能の変化を見つけることが可能。
・ミリセカンド単位の感度で、正確で信頼性が高い測定。
・非常に低い学習効果や天井効果。
【0018】
コグニトラックス検査の10種類のテストは以下のとおりである。
1.言語記憶テスト(Verbal Memory(VBM))
2.視覚記憶テスト(Visual Memory(VIM))
3.指たたきテスト(Finger Tapping(FTT))
4.SDCテスト(Symbol Digit Coding(SDC))
5.ストループテスト(Stroop Test(ST))
6.注意シフトテスト(Shifting Attention(SAT))
7.持続処理テスト(Continuous Performance(CPT))
8.表情認知テスト(Perception of Emotion(POET))
9.論理思考テスト(Reasoning(NVRT))
10.4パート持続処理テスト(Four Part Continuous Performance(FPCPT))
【0019】
4パート持続処理テストでは、作動記憶力及び持続性注意力が測定される。同テストは4つのパートから成り、パート1では単純反応速度、パート2では持続処理テストの変型、パート3では1枚前の図の記憶力、パート4では2枚前の図の記憶が検査される。
【0020】
本明細書で使用する場合、「コグニトラックス検査の4パート持続処理テストで評価される作動記憶力」とは、認知機能の一部であり、課題遂行中にその課題を遂行する目的で一時的に必要となる記憶の機能(働き)・それを支えるメカニズム(仕組み)やシステム(構造)、つまりワーキングメモリの機能であって、改訂長谷川式簡易知能評価スケール又はミニメンタルステート検査で評価できない脳機能を意味する。換言すると、「コグニトラックス検査の4パート持続処理テストで評価される作動記憶力」は、改訂長谷川式簡易知能評価スケール又はミニメンタルステート検査で評価されるワーキングメモリ機能やその他の認知機能と異なる。
【0021】
本明細書で使用する場合、「コグニトラックス検査の4パート持続処理テストで評価される持続性注意力」とは、認知機能の一部であり、持続して、あるいは繰り返して行われる活動の間、一定の反応行動を持続させる能力であって、改訂長谷川式簡易知能評価スケール又はミニメンタルステート検査で評価できない脳機能を意味する。換言すると、「コグニトラックス検査の4パート持続処理テストで評価される持続性注意力」は改訂長谷川式簡易知能評価スケール又はミニメンタルステート検査で評価される認知機能と異なる。
【0022】
作動記憶力又は接続性注意力の改善の例として、抹茶との比較で抹茶を投与された場合との比較でのコグニトラックス検査の4パート持続処理テストにおける正解応答の数の増加又は誤応答の数の減少が挙げられる。脳機能改善剤の効果を確認するために使用される比較対象としての抹茶は、有効成分であるテアニンのおよそ半分の量のテアニンを含むことが想定される。例えば、脳機能改善剤のテアニンが100mgの場合、これは4gの抹茶に相当する量であるため、比較対象とされる抹茶は合計2g程度、それに含まれるテアニンは約50mgとなる。
【0023】
脳機能改善剤の有効成分であるテアニンは、チャノキ等の植物に多く含まれるアミノ酸である。テアニンは、玉露、抹茶、上級煎茶などの高級緑茶に多く含まれる成分であり、部位としては、若芽の芯及び一葉において多く、摘採時期としては、一番茶において高い。また、覆下栽培を行った茶葉(かぶせ茶:玉露、てん茶など)のテアニン含有量は高くなり、窒素施肥によって茶葉のテアニン濃度を増加させることが可能である。効率の観点からは、テアニン含有量が増大した茶葉からテアニンを抽出することが好ましい。テアニンの単離は公知の手法を用いて行うことができる。テアニンは合成品を用いてもよい。
【0024】
本明細書で使用する場合、「テアニン」とはL-グルタミン酸-γ-エチルアミド(L-テアニン)を意味するが、所望の効果を奏する限り、それ以外のL-グルタミン酸-γ-メチルアミド、D-グルタミン酸-γ-エチルアミド(D-テアニン)、D-グルタミン酸-γ-メチルアミド等のL-又はD-グルタミン酸-γ-アルキルアミド、L-又はD-グルタミン酸-γ-アルキルアミドを基本構造に含む誘導体(例えばL-又はD-グルタミン酸-γ-アルキルアミドの配糖体等)等であってもよい。
【0025】
テアニンは白色の結晶性の粉末であるため、脳機能改善剤は粉剤の形態であってもよい。しかしながら、脳機能改善剤の剤形は粉末状に限定されず、他の形態であってもよい。
【0026】
脳機能改善剤は剤形に応じて適当な容器に封入される。粉末の場合、袋、箱、あるいはこれらに類する容器に封入することができる。例えば、ティーバッグのような包装体に脳機能改善剤を封入してもよく、そのような包装体の形状としては、例えば四角型、三角錐型(いわゆるテトラパック(登録商標))、丸みの帯びた袋体、Wチャンバー型等を挙げることができる。また、バッグ本体に水乃至お湯を注いで、コーヒーのようにドリップする形式のものに脳機能改善剤を充填してもよい。
【0027】
容器の素材は、当業者に公知の素材を使用できる。例えばプラスチック、金属等が挙げられ、具体的にはポリエステル、ナイロン、ポリカーボネート、セロファン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アルミニウム、紙、セルロース繊維、天然繊維、ポリ乳酸等を挙げることができる。例えば、合成繊維などからなる布製のフィルターからなるものであってもよいし、不織布からなるフィルターからなるものであってもよい。
【0028】
容器は、積層フィルムを備えていてもよい。そのような積層フィルムは内部にアルミニウム層を備えることが好ましい。
【0029】
脳機能改善剤は、軽度認知障害に罹患しているか、その疑いがある対象者、より具体的には、作動記憶力又は持続性注意力の改善が必要なヒトに投与され得る。対象者の年齢は、特に限定しないが、50歳以上69歳以下の中高年であることが好ましい。
【0030】
脳機能改善剤の投与量は、例えば、テアニンの有効量が1日あたり約50~200mg、好ましくは約80~120mg、より好ましくは約100mgとなるよう調節される。上記の投与量は1日1回の単回投与量としてもよいし、1日2~3回の複数回投与量としてもよい。上記の量は対象の年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【0031】
有効成分としてのテアニンは単独で脳機能改善剤に配合されることが好ましいが、その脳機能改善効果が損なわれない限り、脳機能改善効果が知られている他の有効成分と組み合わせてもよい。しかしながら、カテキンやカフェインはテアニンと組み合わせた場合、テアニンの脳機能改善効果を阻害するので好ましくない。
【0032】
(組成物)
【0033】
一実施形態において、脳機能改善剤を含む組成物が提供される。
【0034】
脳機能改善剤、又はそれを含む組成物の剤形は特に限定されず、投与経路も剤形や改善すべき脳機能改善剤の程度に応じて適宜当業者が決定することができ、例えば経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜等)が挙げられる。経口投与が好ましい。
【0035】
組成物は、有効成分としてのテアニン以外に賦形剤を含んでいてよい。賦形剤は、一般的に薬学的製剤に用いられる固形のものを利用すればよい。例えば、コーンスターチ、小麦粉、コメ粉等のデンプンや、乳糖、蔗糖、マンニトール、ソルビトール、白糖等の糖類、デキストリン、沈降シリカ、ゼラチン、セルロース、メチルセルロースなどが挙げられる。このような賦形剤から、一種又は二種以上を適宜選択して使用することができる。
【0036】
テアニンは白色の結晶性の粉末であるため、組成物は粉剤の形態であってもよい。
【0037】
テアニン及び、任意に、賦形剤に対して、必要に応じて、油脂等、調味料、香料などを添加して混合することによって脳機能改善剤を含む組成物が調製される。組成物は、液剤、粉剤、カプセル剤、又は、錠剤に調製して提供してもよく、この場合、サプリメント等として提供し易い。本明細書で使用する場合、「液剤」とは水又は油等の液性媒体を基剤とする液状の製剤であって、シロップ等を含む。本明細書で使用する場合、「錠剤」とは、錠剤のみならず、丸剤を含むタブレット剤の剤形を意味する。錠剤については、糖衣錠などのような、味覚的に内容物を判別できない形態であってもよい。カプセルは、一般的に医薬品等に用いられるものを利用すればよく、硬カプセル剤及び軟カプセル剤の何れも利用可能である。硬カプセル剤は、例えば、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等を用いて成形したカプセル被膜にサンプルを充填して調製することができる。軟カプセル剤は、ゼラチンにグリセリンなどの可塑剤を加えたシート材でサンプルを挟んで圧着成型することによって得られる。
【0038】
カプセル剤及び錠剤の大きさ及び内容量、並びに、1回当たりの摂取数は、被験者が無理なく摂取可能なように設定することができる。概して、一日当たりのテアニンの摂取量が約50~200mg、好ましくは約80~120mg、より好ましくは約100mgとなるような摂取条件を設定することができる。
【0039】
組成物は飲食品、特に、特定保健用食品や機能性食品の形態で提供することが好ましい。組成物は、軽度認知障害に罹患しているか、その疑いがある対象者、より具体的には、作動記憶力又は持続性注意力の改善が必要なヒトが摂取することが想定されるため、組成物の用途として、それらの対象者の脳機能改善、特にコグニトラックス検査の4パート持続処理テストで評価される作動記憶力又は持続性注意力であって、好ましくは改訂長谷川式簡易知能評価スケール又はミニメンタルステート検査で評価されない脳機能が挙げられる。
【0040】
有効成分であるテアニンは、飲食品の表面に振りかけたり、乗せたりすることや、飲食品中に混合して溶解することにより飲食品に配合される。
【0041】
本明細書で使用する場合、「飲食品」とは、加工食品、飲料、青果など飲食に供されるものを意味する。飲料の例として、乳飲料、乳酸菌飲料、豆乳;緑茶、紅茶、麦茶、ほうじ茶、玄米茶、ブレンド茶等の茶飲料、清涼飲料、栄養飲料、スポーツ飲料、果実飲料、野菜ジュース、乳性飲料、アルコール飲料、ゼリー飲料、炭酸飲料等の嗜好性飲料やドリンク剤があるが、これらに限定されない。茶飲料の場合、テアニンの含有量と相対的にカフェイン又はカテキン、あるいはその両方の含有量を低減させるか、カフェイン又はカテキン、あるいはその両方の含有量を除くことが好ましい。
【0042】
飲料を充填する容器の例には、ペットボトル、缶、紙、瓶等の通常用いられる容器があるが、これらに限定されない。充填された後密封できる容器を使用することが好ましい。
【0043】
食品の例として、クッキー、ビスケット、チョコ、ケーキ、プリン、アイスクリーム、シャーベット、ワッフル、ウエハース、ホットケーキ、ドーナッツ、ポップコーン、カステラ、キャラメル、キャンディー、チューイングガム、和菓子等の菓子類;食パン、菓子パン、その他のパン等のパン類;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ等の麺類;ハンバーグ、ハム、ベーコン、ソーセージ等の食肉加工食品;カレー、ラーメン、スープ等のインスタント食品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
飲食品の中でも、茶飲料、顆粒茶、ティーバッグ、パック茶(リーフ)等の茶関連飲食品にテアニンを配合することが好ましい。
【0045】
あるいは、組成物を、細粒、乳濁液、クリーム等の形態に調製して、調味料、ソース、ドレッシングなどの食品として提供してもよい。このような食品を、1回当たりの摂取量に応じて適宜小分け包装して提供すると、取り扱いが容易である。
【0046】
1日の摂取回数及び摂取時間帯(午前/午後、朝/昼/夜、食事との関係)、1回の摂取量及び1日の摂取量などが適切に設定されるので、設定した摂取条件に基づいて、摂取し易い形態に緑茶組成物を調製するとよい。テアニンは朝摂取することが好ましい。組成物は、10週間程度以上、好ましくは12週間程度以上経口摂取するとよい。
【0047】
軽度認知障害から認知症へ症状が進行する人の割合は、年平均で10%程度と言われ、これは、5年経過後には約40%が認知症へ進行することを意味するので、軽度認知障害の早期対処による認知症の予防を実現することは非常に重要である。従って、認知機能の維持又は軽度認知障害の改善に有効な形態で緑茶関連食品を市場に提供することは、保健及び医療の点において意義がある。
【0048】
(治療方法)
一実施形態において、対象の脳機能を改善する方法であって、対象に対し、テアニンから成る脳機能改善剤を投与することを含み、脳機能がコグニトラックス検査の4パート持続処理テストで評価される作動記憶力又は持続性注意力である、方法、が提供される。
【0049】
脳機能改善剤の投与が想定される対象は、軽度認知障害に罹患しているか、その疑いがある対象者、より具体的には、作動記憶力又は持続性注意力の改善が必要なヒトである。対象者の年齢は、特に限定しないが、50歳以上69歳以下の中高年であることが好ましい。
【0050】
投与量は、例えば、テアニンの有効量が1日あたり約50~200mg、好ましくは約80~120mg、より好ましくは約100mgとなるよう調節される。上記の投与量は1日1回の単回投与量としてもよいし、1日2~3回の複数回投与量としてもよい。上記の量は対象の年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【0051】
投与のタイミングは限定されないが、朝行うことが好ましい。投与期間は10週間程度以上、好ましくは12週間程度以上である。
【0052】
テアニンによる脳機能改善効果が損なわれない限り、脳機能改善効果が知られている薬剤と併用してもよい。
【実施例
【0053】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
脳機能改善剤の調製
脳機能改善剤として、98%以上の純度のL-テアニン(商品名:サンテアニン、太陽化学株式会社)を使用した。100.6 mgのL-テアニンを、ハードな1号サイズの豚ゼラチンカプセル(三生医薬株式会社製)に充填し、以下の試験に使用した。プラセボは、L-テアニンと同じカプセルで調剤し、テアニンとプラセボの両方のカプセルの賦形剤としてコーンスターチを使用した。
【0055】
対象
50歳から69歳の健康な日本人男性と女性から69人の被験者を募集した。選択された69人の被験者に対して日本語版ミニメンタルステート検査(MMSE-J)を実施し、MMSE-Jスコアが24以上という選択基準を満たし、且つ、現在薬物療法又は治療を受けており、食物アレルギーがあるという除外基準を満たさなかった52人の被験者が、最終的に研究に登録された。
【0056】
研究デザイン
研究は無作為化二重盲検並行群間比較試験で行った。主要評価項目は日本語版ミニメンタルステート検査とコグニトラックス検査の結果であり、副次評価項目は、アミロイドβ1-40(Aβ(1-40))、アミロイドβ1-42(Aβ(1-42))、分泌型アミロイドβ前駆体タンパク質α(sAPPα)、アミロイドβ前駆体タンパク質770(APP770)及び脳由来神経栄養因子(BDNF)の血中濃度とした。コンピューターで生成された階層化ランダム化スキーマ(株式会社ヒューマR&D)を使用して、年齢、性別、及びMMSE-Jスコアを考慮して、被験者をプラセボ又はL-テアニングループに割り当てた。この研究のフロー図を図1に示す。
【0057】
被験者はプラセボ又はL-テアニンのカプセルを1日1錠12週間、朝食後に服用した。テスト期間中、被験者は、認知機能に影響を与える可能性のある健康食品、サプリメント、又は薬物の摂取を制限された。これらの制限以外に、被験者は通常のライフスタイルを維持するように指示された。
【0058】
評価項目
臨床試験の評価スキームを以下の表1に示す。
【表1】
試験当日は、上記表中の丸印の評価を実施した。検査は表に示す順序で実施した。
* 採血は血液検査(白血球数、赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット、血小板数、平均赤血球容積、平均赤血球ヘモグロビン、平均赤血球ヘモグロビン濃度)及び生化学的血液パラメータ(総タンパク質、トリグリセリド、総コレステロール、高密度リポタンパクコレステロール、低密度リポタンパクコレステロール、アルカリホスファターゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ、乳酸脱水素酵素、尿酸、尿素窒素、総ビリルビン、アルブミン、クレアチニン、空腹時血糖値、糖化ヘモグロビン)の評価のために実施した。
【0059】
単回投与試験当日、カプセル摂取の約50分後にコグニトラックス試験を開始した。テストを受ける前にカプセルを服用することを除いて、試験は12週目も同じ順序で行った。血液検査と生化学的血液パラメーター測定をベースラインと12週目に株式会社SRLにおいて、安全性評価として行われた。
【0060】
ミニメンタルステート検査
本研究では、ミニメンタルステート検査の日本語版であるMMSE-J(日本文化化学社)を使用した。MMSE-Jは、時に関する見当識、場所に関する見当識、記銘、注意と計算、再生、呼称、復唱、3段階命令、読字、書字、描画の計11項目から構成され、評価はそれらの合計スコアで行われる。本検査では、上記の項目のうち注意と計算(attention and calculation)の2つのテスト、すなわち逆唱課題(backward spelling task)とシリアル7課題(serial sevens task)を採用した。backward spelling taskのスコアは、被験者をプラセボ又はテアニングループに割り当てるために使用された。
【0061】
コグニトラックス試験
Cognitraxは、米国企業CNS Vital Signs(ノースカロライナ州モリスビル)が開発した認知機能検査サービスであり、反応時間と応答数の両方を測定するためのものである。検査の詳細を表2に示す。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0062】
血液バイオマーカー
試験当日、被験者は、病院に到着する6時間前から試験が完了するまで食事を制限された。BDNFレベルの推定には血清採血管が使用され、Aβ(1-40)、Aβ(1-42)、sAPPα、及びAPP770の測定にはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムチューブを使用した。採取後、血液を3000 rpmで遠心分離し、1.5 mlエッペンドルフチューブに分注した。測定は、キットを使用して以下の希釈率で行った。Aβ(1-42)の血液サンプルは、HumanAmyloid-β(FL)Assay Kit-IBLで4倍に希釈した。sAPPαの血液サンプルは、sAPPα(高感度)アッセイキットIBLで4倍に希釈した。 APP770の血液サンプルは、Human APP770 Assay Kit-IBLで50倍に希釈した。BDNFの血液サンプルは、Human BDNF ELISA Kit(Quantikine-R&D Systems)で20倍に希釈した。キットの範囲を下回る測定値は不正確だったため除外した。表9は、各バイオマーカーについて分析されたサンプルの数を示している。測定は、株式会社スカイライト・バイオテックが実施した。
【0063】
統計分析
各値は平均±標準偏差(SD)として示す。正規性はシャピロ・ウィルク検定で試験した。有意差が見つからなかった場合はt検定を使用し、有意差が見つかった場合はマンホイットニーU検定を使用した。統計分析は、ベースライン、単回投与試験時、及び12週目で行った。SAS 9.4(SAS Institute Inc.、米国ノースカロライナ州ケアリー)を使用してデータを分析した。テストの多重度を考慮して、条件間の差の有意水準は、ボンフェローニ法での補正によりp <0.05 / 3 = 0.017に調整された。
【0064】
結果
最終的な解析を行ったのは、プラセボ群の24例(男性11名、女性13名、平均57.9±6.3歳)とテアニン群の26名(男性12名、女性14名、平均57.7±4.8歳)であった。
【0065】
MMSE‐J(インタラクティブテスト)
介入の前(ベースライン)に実行されたMMSE-J(backwards task)の平均スコアは、プラセボ群で27.7±1.8、テアニン群で27.7±1.4であった。 12週間の毎日のカプセル摂取後のスコアは、プラセボ群で28.3±1.5、テアニン群で28.0±1.6であった。介入前後のテアニン群とプラセボ群の間でMMSE-Jに有意差はなかった。
【0066】
Cognitraxテスト(パソコンベースの認知機能テスト)
Cognitraxテストは、VBM、VIM、FTT、SDC、ST、SAT、CPT、POET、NVRT、FPCPT、VBM、VIMの順序で実行した。これらのテストでは、さまざまな認知機能を評価した。VBMとVIMは記憶を評価した(表3)。ST、SAT、CPT、並びにFPCPTパート1及びパート2は注意を評価した(表4)。 POETは表情認識を評価した(表5)。 FPCPTパート3及びパート4は作業記憶を評価した(表6)。SDCとNVRTは視覚情報処理を評価した(表7)。 FTTは運動機能を評価した(表8)。
【0067】
【表3】
VBM, Verbal Memory test; VIM, Visual Memory test.
値は平均値±標準偏差として示す。
【0068】
【表4】
ST, Stroop Test; SAT, Shifting Attention Test; CPT, Continuous Performance Test; FPCPT, Four- Part Continuous Performance Test.
* p < 0.05/3 = 0.017 vs プラセボ群。P値は、Mann-Whitney U検定及びボンフェローニ補正を用いて計算した。値は平均値±標準偏差として示す。
【0069】
【表5】
POET, Perception of Emotions test.
値は平均値±標準偏差として示す。
【0070】
【表6】
FPCPT, Four-Part Continuous Performance Test.
値は平均値±標準偏差として示す。* p < 0.05/3 = 0.017 vs プラセボ群。P値は、Mann-Whitney U検定及びボンフェローニ補正を用いて計算した。
【0071】
【表7】
SDC, Symbol Digit Coding Test; NVRT, Non-Verbal Reasoning Test.
値は平均値±標準偏差として示す。
【0072】
【表8】
FTT, Finger Tapping Test
値は平均値±標準偏差として示す。
【0073】
実行された最初のVBMとVIMは即時記憶を示し、最後の記憶は遅延記憶を示す。最初に実行されたVBMとVIMと最後に実行されたVBMとVIMの間には約50分間の時間をあけた。
【0074】
メモリタスク
VBMとVIMの正しいヒットと正しいパスの数は、テアニン群とプラセボ群の間で有意差はなかった(表3)。 L-テアニンは、急性又は慢性摂取後のいずれにおいても記憶に影響を与えなかった。
【0075】
注意タスク
単回投与試験では、ST(パート1)反応時間は、テアニン群の方がプラセボ群よりも有意に短かった(表4)。つまり、L-テアニンの単回投与は注意を改善するのに十分であった。
【0076】
表情認識タスク
POETで肯定的な感情(落ち着きと幸せ)と否定的な感情(悲しみと怒り)を評価した。結果は、次の3種類の値、肯定的感情と否定的感情の合計、肯定的感情の合計、及び否定的感情の合計を含む。プラセボ群とテアニン群の間の正解数又は反応時間に有意差はなかった(表5)。したがって、L-テアニンは、急性又は慢性摂取後のいずれかで感情的判断に影響を与えないことが明らかとなった。
【0077】
ワーキングメモリタスク
単回投与FPCPT(パート4)では、テアニン群の方がプラセボ群よりも正解率が有意に高く、脱落エラーが有意に低かった。FPCPT(パート4)では、ベースラインと比較して、テアニン群のプラセボ群よりも単回投与試験の平均不正確応答時間の変化が有意に低かった(表6)。単回摂取後、L-テアニンは作業記憶の質に影響を与え、反応時間を短縮し、より正確な回答をもたらした。
【0078】
視覚情報処理タスク
プラセボ群とテアニン群の間の正解数又は反応時間に有意差はなかった(表7)。したがって、L-テアニンは、急性又は慢性摂取後の視覚情報処理に影響を与えなかったことが分かる。
【0079】
運動機能
テアニン群とプラセボ群の間に、FTTの右と左のヒットの平均数に有意差はなかった(表8)。したがって、L-テアニンは、急性又は慢性摂取後のいずれにおいても運動機能に影響を与えないことが分かる。
【0080】
血液バイオマーカー
血漿アミロイドβ1-40、アミロイドβ1-42、及びAβ1-40/Aβ1-42の比率は、テアニン群とプラセボ群の間で有意差はなかった。また、sAPPα、APP770、及びBDNFレベルに関して、両グループ間に有意差は観察されなかった(表9)。
【0081】
【表9】
値は平均値±標準偏差として示す。
【0082】
比較例
上記と同様の無作為化二重盲検並行群間比較試験をテアニン、カフェイン、カテキンを含む抹茶についても行った。サンプルの調製は、テアニンを充填したカプセルと同様に行い、抹茶2g分に相当する量のテアニン(50.3mg)、カフェイン(72.5mg)、カテキン(171mg)をカプセルに充填することで行った。配合したカテキンのうち、110mgはエピガロカテキンガレートに由来する。
【0083】
本試験では、テアニンと同様に、50歳から69歳の健康な日本人男性と女性から被験者を募集し、除外基準を満たさなかった62人の被験者をプラセボ又は抹茶グループに割り当てた。
【0084】
被験者はプラセボ又は抹茶のカプセルを1日9錠12週間、朝食後に服用した。その結果、コグニトラックス検査の4パート持続処理テストでは、テアニンの服用で確認された正解応答の増加や、正解見過ごし数の減少が確認されなかった。