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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】スクリュー圧縮機及びスクリューロータ
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/16 20060101AFI20250109BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F04C18/16 T
F04C29/00 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020178084
(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公開番号】P2022069105
(43)【公開日】2022-05-11
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】土屋 豪
(72)【発明者】
【氏名】千葉 紘太郎
(72)【発明者】
【氏名】小松 智弘
(72)【発明者】
【氏名】谷本 聖太
(72)【発明者】
【氏名】矢部 利明
(72)【発明者】
【氏名】頼金 茂幸
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-144035(JP,A)
【文献】特表2013-507577(JP,A)
【文献】特開2002-031071(JP,A)
【文献】特開平01-267384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/16
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
捩れた雄歯を有し、第1回転中心の回りを回転する雄ロータと、
捩れた雌歯を有し、前記雄ロータと噛み合い前記第1回転中心と平行な第2回転中心の回りを回転する雌ロータと、
前記雄ロータ及び前記雌ロータを噛み合った状態で回転可能に収容する収容室を有し、前記雄ロータ及び前記雌ロータと共に複数の作動室を形成するケーシングとを備え、
前記雌ロータにおける軸方向に垂直な断面の輪郭形状を表す歯形は、前記軸方向の或る第1位置から前記第1位置よりも前記軸方向の吐出側の第2位置までの間で変化するように形成され、
前記雌ロータの前記歯形のうちの1歯は、
最小半径となる歯底を境界点として、前記境界点から前記雌ロータの回転方向側に延伸し最大半径となる第1端点に達するまでの前進面の区間を規定する第1輪郭線と、
前記境界点から前記雌ロータの回転方向とは反対方向側に延伸し最大半径となる第2端点に達するまでの後進面の区間を規定する第2輪郭線と、
両端点が最大半径となる歯先部の区間を規定し、前記両端点のうちいずれか一方の端点が前記第1輪郭線の前記第1端点又は前記第2輪郭線の前記第2端点との接続点である第3輪郭線とで構成されており、
前記雌ロータの前記歯形は、
前記第2回転中心を頂点として、前記第2回転中心と前記第1輪郭線の両端とを結ぶ2つの線分のなす角を第1角度、
前記第2回転中心を頂点として、前記第2回転中心と前記第2輪郭線の両端とを結ぶ2つの線分のなす角を第2角度、
前記第2回転中心を頂点として、前記第2回転中心と前記第3輪郭線の両端とを結ぶ2つの線分のなす角を第3角度と定義したときに、
前記第2位置における前記第3角度が前記第1位置における前記第3角度よりも大きくなるように設定されていると共に、
前記第2位置における前記第1角度が前記第1位置における前記第1角度よりも小さくなるように設定されており、
前記雌ロータの前記歯形は、前記第2位置における前記第2角度が前記第1位置における前記第2角度と同じとなるように、又は、前記第2位置における前記第2角度が前記第1位置における前記第2角度よりも大きくなるように設定されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリュー圧縮機であって、
前記雌ロータは、前記軸方向の全体のうち、前記軸方向の吐出側に偏った領域において前記歯形が変化する一方、前記軸方向の残りの吸込側の領域において前記歯形が同一の形状である
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項3】
請求項1に記載のスクリュー圧縮機であって、
前記雌ロータは、前記軸方向の全体の領域に亘って前記歯形が変化する
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項4】
捩れた雄歯を有すると共に第1回転中心の回りを回転する雄ロータと噛み合い前記第1回転中心と平行な第2回転中心の回りを回転するスクリューロータであって、
前記スクリューロータにおける軸方向に垂直な断面の輪郭形状を表す歯形は、前記軸方向の或る第1位置から前記第1位置よりも前記軸方向の吐出側の第2位置までの間で変化するように形成され、
前記スクリューロータの前記歯形のうちの1歯は、
最小半径となる歯底を境界点として、前記境界点から前記スクリューロータの回転方向側に延伸し最大半径となる第1端点に達するまでの前進面の区間を規定する第1輪郭線と、
前記境界点から前記スクリューロータの回転方向とは反対方向側に延伸し最大半径となる第2端点に達するまでの後進面の区間を規定する第2輪郭線と、
両端点が最大半径となる歯先部の区間を規定し、前記両端点のうちいずれか一方の端点が前記第1輪郭線の前記第1端点又は前記第2輪郭線の前記第2端点との接続点である第3輪郭線とで構成されており、
前記スクリューロータの前記歯形は、
前記第2回転中心を頂点として、前記第2回転中心と前記第1輪郭線の両端とを結ぶ2つの線分のなす角を第1角度、
前記第2回転中心を頂点として、前記第2回転中心と前記第2輪郭線の両端とを結ぶ2つの線分のなす角を第2角度、
前記第2回転中心を頂点として、前記第2回転中心と前記第3輪郭線の両端とを結ぶ2つの線分のなす角を第3角度と定義したときに、
前記第2位置における前記第3角度が前記第1位置における前記第3角度よりも大きくなるように設定されていると共に、
前記第2位置における前記第1角度が前記第1位置における前記第1角度よりも小さくなるように設定されており、
前記スクリューロータの前記歯形は、前記第2位置における前記第2角度が前記第1位置における前記第2角度と同じとなるように、又は、前記第2位置における前記第2角度が前記第1位置における前記第2角度よりも大きくなるように設定されている
ことを特徴とするスクリューロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに噛み合う螺旋状の歯を有する一対のスクリューロータを備えたスクリュー圧縮機及びスクリュー圧縮機を構成するスクリューロータに関する。
【背景技術】
【0002】
スクリュー圧縮機は、空気圧縮機や冷凍空調用圧縮機として広く普及しており、近年、省エネ化が強く求められるようになっている。そのため、スクリュー圧縮機では、高いエネルギ効率を達成することが益々重要になっている。
【0003】
スクリュー圧縮機は、互いに噛合いながら回転する雌雄一対のスクリューロータと、両スクリューロータを収納するケーシングとを備えている。両スクリューロータは、それぞれ螺旋状の歯(歯溝)を有している。この圧縮機は、両スクリューロータの歯溝とそれらを取り囲むケーシングの内壁面とによって形成された複数の作動室の容積が両スクリューロータの回転に伴い増減することで気体を吸い込み圧縮するものである。
【0004】
スクリュー圧縮機では、回転するスクリューロータがケーシングに接触しないように、両者間に微小な隙間が設けられている。例えば、各スクリューロータの歯先とケーシング内の内周面との間に隙間(以下、外径隙間ということがある)が設けられている。そのため、外径隙間を介して、相対的に圧力が高い作動室から相対的に圧力の低い作動室へ圧縮気体が漏出してしまう。圧縮気体が漏出すると、その分、費やされた圧縮動力が無駄となったり、再圧縮の動力を要したりするので、圧縮機効率が低下する。
【0005】
給液式のスクリュー圧縮機では、作動室に対して油や水等の液体を供給することで、外径隙間に対してシール効果が生じる。これにより、作動室間の外径隙間を介した圧縮気体の漏出が抑制されるが、圧縮機効率の向上のために圧縮気体の漏出の更なる抑制が求められる。また、無給液式のスクリュー圧縮機の場合には、作動室に対して液体が供給されないので、外径隙間に対する液体のシール効果を期待することができない。したがって、無給液式のスクリュー圧縮機では、特に、作動室間の外径隙間を介した圧縮気体の漏出による圧縮機効率の低下が懸念される。
【0006】
また、単段のスクリュー圧縮機では、近年、圧縮比が8を超える製品が多数存在しており、スクリューロータの軸方向における吐出側に位置する作動室間の差圧が大きくなる傾向にある。作動室間の差圧が大きくなると、その分、作動室間の外径隙間を介した圧縮気体の漏出による圧縮機効率の更なる低下が懸念される。
【0007】
したがって、圧縮機効率の向上を図るために、圧縮機の軸方向の吐出側領域における作動室間の外径隙間を介した圧縮気体の漏出を低減することが求められている。吐出側領域の圧縮気体の漏出を低減する技術として、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載のスクリュー圧縮機では、吸込み空気量に対する漏洩空気量の比を低減すると共に両スクリューロータの接触によるかじりを防止するために、雌ロータに設けられた複数の歯の歯厚を吸入ポート側に対して吐出ポート側が厚肉となるよう形成している。なお、ここでの「歯厚」とは、スクリューロータの軸方向に垂直な断面の歯形における歯の厚みである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-144035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のスクリュー圧縮機のように、雌ロータの歯の歯厚を吐出ポート側(雌ロータの軸方向における吐出側端部)で厚肉にすると、その分、雌ロータの吐出ポート側における作動室間の境界の幅(距離)が大きくなる。したがって、雌ロータの吐出ポート側における作動室間の外径隙間を介した圧縮気体の漏出を抑制することができる。
【0010】
ところで、スクリューロータのリードが軸方向の吸込側から吐出側に向けて小さくなる不等リードのスクリューロータにおいては、等リードのスクリューロータに比べて、雌ロータの歯先の歯厚が薄くなる傾向にある。ただし、ここでの「歯厚」とは、雌ロータの歯先線の延伸方向に対して垂直な断面の歯形における歯先の厚みを示している。リードとは、スクリューロータの捩れの1回転により軸方向に進む距離を示している。
【0011】
スクリューロータのリードが軸方向の吸込側から吐出側に向けて小さくなる場合、スクリューロータの捩れが吸込側から吐出側に向かうにつれてきつくなる。したがって、スクリューロータの軸方向に垂直な断面の歯形が同一であるという条件下では、等リードのスクリューロータと比べると、雌ロータの歯先の歯厚が吐出側で薄くなる傾向にある。
【0012】
したがって、リードが軸方向の吸込側から吐出側に向けて小さくなる不等リードのスクリューロータでは、雌ロータの歯先の歯厚が吐出側で薄くなる分、吐出側に位置する作動室間の外径隙間を介した圧縮気体の漏出の増大が懸念される。そこで、特許文献1に記載のスクリュー圧縮機のように、雌ロータの歯先の歯厚を吐出側で厚肉にする構成が考えられる。
【0013】
しかしながら、等リード又は不等リードのスクリューロータを備えたスクリュー圧縮機において、特許文献1に記載のスクリュー圧縮機のように、雌ロータの歯先の歯厚を軸方向の吸込側よりも吐出側で厚肉にすると、スクリューロータに歯面分離振動と称する振動現象が発生することがある。互いに噛み合う雄ロータと雌ロータを備えたスクリュー圧縮機では、一般的に、両ロータの歯面同士が直接的に接触することで、又は、両ロータと同軸上に設けられた同期歯車が噛み合うことで、雄ロータの駆動トルクが雌ロータに伝達されて雌ロータが駆動される。ロータの歯面に作用する圧力条件によっては、雄ロータから雌ロータへの伝達トルクが一時的に負に変化し、トルクを伝達していた歯面同士が互いに乖離する歯面分離という現象が生じることがある。その後、雄ロータから雌ロータに伝達される伝達トルクが再び正に戻ると、一旦離れた歯面同士が衝突する。その結果、歯面分離と歯面の衝突が繰り返され、大きな振動と騒音を発生させる。これを歯面分離振動という。
【0014】
上述したように、スクリューロータの軸方向における吐出側に位置する作動室間の外径隙間を介した作動気体の漏出を抑制するために、雌ロータの歯先の歯厚を吐出側で厚肉にすると、スクリューロータに歯面分離振動と称する振動現象が発生することがある。しかし、特許文献1では、歯面分離振動を抑制するための構造について、特に言及されていない。
【0015】
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、スクリューロータとケーシングとの間に形成された隙間を介した作動室間の作動気体の漏出の抑制と歯面分離振動の発生の抑制の両立を図ることができるスクリュー圧縮機及びスクリューロータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、捩れた雄歯を有し、第1回転中心の回りを回転する雄ロータと、捩れた雌歯を有し、前記雄ロータと噛み合い前記第1回転中心と平行な第2回転中心の回りを回転する雌ロータと、前記雄ロータ及び前記雌ロータを噛み合った状態で回転可能に収容する収容室を有し、前記雄ロータ及び前記雌ロータと共に複数の作動室を形成するケーシングとを備え、前記雌ロータにおける軸方向に垂直な断面の輪郭形状を表す歯形は、前記軸方向の或る第1位置から前記第1位置よりも前記軸方向の吐出側の第2位置までの間で変化するように形成され、前記雌ロータの前記歯形のうちの1歯は、最小半径となる歯底を境界点として、前記境界点から前記雌ロータの回転方向側に延伸し最大半径となる第1端点に達するまでの前進面の区間を規定する第1輪郭線と、前記境界点から前記雌ロータの回転方向とは反対方向側に延伸し最大半径となる第2端点に達するまでの後進面の区間を規定する第2輪郭線と、両端点が最大半径となる歯先部の区間を規定し、前記両端点のうちいずれか一方の端点が前記第1輪郭線の前記第1端点又は前記第2輪郭線の前記第2端点との接続点である第3輪郭線とで構成されており、前記雌ロータの前記歯形は、前記第2回転中心を頂点として、前記第2回転中心と前記第1輪郭線の両端とを結ぶ2つの線分のなす角を第1角度、前記第2回転中心を頂点として、前記第2回転中心と前記第2輪郭線の両端とを結ぶ2つの線分のなす角を第2角度、前記第2回転中心を頂点として、前記第2回転中心と前記第3輪郭線の両端とを結ぶ2つの線分のなす角を第3角度と定義したときに、前記第2位置における前記第3角度が前記第1位置における前記第3角度よりも大きくなるように設定されていると共に、前記第2位置における前記第1角度が前記第1位置における前記第1角度よりも小さくなるように設定されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、雌ロータの歯形における歯先部の形状に対応する第3角度を軸方向の吐出側で吸込側よりも大きくなるように設定することで、雌ロータの歯先部の厚みが吐出側で厚くなるので、その分、軸方向の吐出側に位置する作動室間の外径隙間を介した高圧な作動気体の漏出を抑制することができる。同時に、雌ロータの歯形における前進面の形状に対応する第2角度を軸方向の吐出側で吸込側よりも小さくなるように設定することで、歯面分離の発生が抑制的になる。したがって、雌ロータとケーシングの間に設けられた隙間を介した作動室間の作動気体の漏出の抑制と歯面分離振動の発生の抑制の両立を図ることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を示す断面図である。
図2図1に示す本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機をII-II矢視から見た断面図である。
図3】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の一部を構成する一対のスクリューロータにおける軸方向に垂直な断面の輪郭形状を表す歯形を一部拡大した状態で示す断面図である。
図4図2に示す本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機をS1-S1矢視及びD1-D1矢視から見たときの雌ロータの1歯分の歯形を重ねた状態で示す断面図である。
図5】スクリュー圧縮機全般における歯面分離振動の発生要因を説明する図である。
図6】スクリュー圧縮機を構成する雌ロータの歯形における歯先部の形状(歯先角度)を固定したときに前進面及び後進面の歯形要素を変化させた場合の歯面分離の発生しやすさを比較した表である。
図7】スクリュー圧縮機を構成する雌ロータの歯形における歯先部の形状(歯先角度)を図6に示す歯先部の形状(歯先角度)よりも大きくした状態で固定したときに前進面及び後進面の歯形要素を変化させた場合の歯面分離の発生しやすさを比較した表である。
図8】スクリュー圧縮機全般における内部隙間としてのブローホールを示す説明図である。
図9】本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を図2に示すS1-S1矢視及びD1-D1矢視と同じ矢視から見たときの雌ロータの1歯分の歯形を重ねた状態で示す断面図である。
図10】本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機における雄ロータの回転角に対する歯面分離裕度トルクの変化を示す特性図である。
図11】本発明の第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を示す断面図である。
図12図11に示す本発明の第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機をS3-S3矢視及びD3-D3矢視から見たときの雌ロータの1歯分の歯形を重ねた状態で示す断面図である。
図13】本発明の第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機に対する比較例の不等リードのスクリュー圧縮機を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明によるスクリュー圧縮機の実施の形態について図面を用いて例示説明する。
【0020】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の構成を図1及び図2を用いて説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を示す断面図である。図2図1に示す本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機をII-II矢視から見た断面図である。図1及び図2中、左側がスクリュー圧縮機の吸込側、右側が吐出側である。
【0021】
図1において、スクリュー圧縮機は、気体を圧縮する圧縮機本体1と、圧縮機本体1を駆動する駆動部80とで構成されている。スクリュー圧縮機は、例えば、外部から圧縮機本体1の内部へ液体が供給される給液式のものである。
【0022】
図1及び図2において、圧縮機本体1は、互いに噛み合い回転する一対のスクリューロータとしての雄ロータ2及び雌ロータ3と、雄ロータ2及び雌ロータ3を噛み合った状態で回転可能に内部に収容する本体ケーシング4とを備えている。雄ロータ2及び雌ロータ3は、互いの回転中心A1、A2が平行となるように配置されている。雄ロータ2は、その軸方向(図1及び図2中、左右方向)の両側がそれぞれ吸込側軸受5と吐出側軸受6a、6bとにより回転自在に支持されている。雌ロータ3は、その軸方向の両側がそれぞれ吸込側軸受7と吐出側軸受8a、8bとにより回転自在に支持されている。
【0023】
雄ロータ2は、螺旋状の雄歯(ローブ)21aが複数形成されたロータ歯部21と、ロータ歯部21の軸方向の両側端部にそれぞれ設けられた吸込側のシャフト部22及び吐出側のシャフト部23とで構成されている。ロータ歯部21は、軸方向一方端(図1及び図2中、左端)及び他方端(図1及び図2中、右端)にそれぞれ、軸方向(回転中心A1)に垂直な吸込側端面21b及び吐出側端面21cを有している。ロータ歯部21の複数の雄歯21a間には歯溝が形成されている。吸込側のシャフト部22は、例えば、本体ケーシング4の外側に延出しており、駆動部80のシャフト部と共通となるように構成されている。
【0024】
雌ロータ3は、螺旋状の雌歯31a(後述の図3参照)が複数形成されたロータ歯部31と、ロータ歯部31の軸方向の両側端部にそれぞれ設けられた吸込側のシャフト部32及び吐出側のシャフト部33とで構成されている。ロータ歯部31は、軸方向一端(図1及び図2中、左端)及び他方端(図1及び図2中、右端)にそれぞれ、軸方向(回転中心A2)に垂直な吸込側端面31b及び吐出側端面31cを有している。ロータ歯部31の複数の雌歯31a間には歯溝が形成されている。
【0025】
本体ケーシング4は、メインケーシング41と、メインケーシング41の吐出側(図1及び図2中、右側)に取り付けられた吐出側ケーシング42とを備えている。
【0026】
本体ケーシング4の内部には、雄ロータ2のロータ歯部21および雌ロータ3のロータ歯部31を互いに噛み合った状態で収容する収容室としてのボア45が形成されている。ボア45は、メインケーシング41に形成された一部重複する2つの円筒状空間の軸方向一方側(図1及び図2中、右側)の開口を吐出側ケーシング42で閉塞することによって構成されている。ボア45を形成する内壁面は、雄ロータ2のロータ歯部21の径方向外側を覆う略円筒状の第1内周面46と、雌ロータ3のロータ歯部31の径方向外側を覆う略円筒状の第2内周面47と、雄雌両ロータ2、3のロータ歯部21、31の吸込側端面21b、31bに対向する軸方向一方側(図1及び図2中、左側)の吸込側内壁面48と、雄雌両ロータ2、3のロータ歯部21、31の吐出側端面21c、31cに対向する軸方向他方側(図1及び図2中、右側)の吐出側内壁面49とで構成されている。第1周面46と第2周面47とで一対の交線が形成されており、一対の交線はカスプ線45aと称する(図3参照)。カスプ線45aは、軸方向に延在しており、ロータ噛合い部における膨張側と圧縮側(図3中、膨張側のみ図示)に形成されている。雄雌両ロータ2、3のロータ歯部21、31とそれを取り囲む本体ケーシング4の内壁面(ボア45の第1内周面46、第2内周面47、吸込側内壁面48、吐出側内壁面49)とによって複数の作動室Cが形成される。
【0027】
メインケーシング41の吸込側端部には、雄ロータ2側の吸込側軸受5及び雌ロータ3側の吸込側軸受7が配設されている。吐出側ケーシング42には、雄ロータ2側の吐出側軸受6a、6b及び雌ロータ3側の吐出側軸受8a、8bが配設されている。吐出側ケーシング42には、吐出側軸受6a、6b及び吐出側軸受8a、8bを覆うように吐出側カバー43が取り付けられている。
【0028】
本体ケーシング4のメインケーシング41には、図1に示すように、作動室Cに気体を吸い込むための吸込流路51が設けられている。吸込流路51は、本体ケーシング4の外部とボア45(作動室C)とを連通させるものである。吸込流路51は、例えば、本体ケーシング4の内壁面に開口する吸込ポート51aを有している。吸込ポート51aは、雄雌ロータ2、3の軸方向又は径方向又はその両方に開口するように形成することが可能である。
【0029】
また、本体ケーシング4の吐出側ケーシング42には、作動室Cから本体ケーシング4外へ圧縮気体を吐出するための吐出流路52が設けられている。吐出流路52は、ボア45(作動室C)と本体ケーシング4の外部とを連通させるものである。吐出流路52は、本体ケーシング4の吐出側内壁面49に形成された吐出ポート52aを有している。吐出ポート52aは、雄雌ロータ2、3の軸方向又は径方向又はその両方に開口するように形成することが可能である。
【0030】
本体ケーシング4のメインケーシング41には、圧縮機本体1の外部から供給される液体を作動室Cに供給する給液路53が設けられている。給液路53は、例えば、ボア45の内壁面における作動室Cが圧縮過程となる領域に開口している。
【0031】
駆動部80は、例えば図1に示すように、電動モータであり、圧縮機本体1と一体に構成されている。駆動部80は、ロータ81及びステータ82から成るモータ83と、モータ83を内部に格納するモータケーシング85と、モータケーシング85の開口部を閉塞するモータカバー86とを備えている。ロータ81は、圧縮機本体1の雄ロータ2と連結されている。モータケーシング85には、ロータ81を回転自在に支持するモータ側軸受部87及び圧縮機本体1から駆動部80への液体の漏洩を防止する軸封部材88が配設されている。
【0032】
なお、本実施の形態においては、駆動部80に電動モータを用いた例を示したが、回転駆動源を特段に限定するものではない。また、駆動部80が、雄ロータ2ではなく、雌ロータ3または雄雌両ロータ2、3を回転駆動する構成も可能である。また、駆動部80と圧縮機本体1のシャフト部が共通でない構成も可能である。
【0033】
次に、第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機における雄雌両ロータの歯形の基本構成について図3を用いて説明する。図3は、本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の一部を構成する一対のスクリューロータにおける軸方向に垂直な断面の輪郭形状を表す歯形を一部拡大した状態で示す断面図である。図3中、太い矢印は、雄ロータ及び雌ロータの回転方向を示している。すなわち、図3中、雄ロータは時計回りに回転し、雌ロータは反時計回りに回転する。
【0034】
図3において、雄ロータ2及び雌ロータ3のロータ歯部21、31における軸方向(回転中心A1、A2)に垂直な断面の輪郭形状を表す歯形60、70は、雄雌両ロータ2、3の噛合い部分の隙間が理論的には0となるように幾何学的に設計されている。ただし、実際上の歯形は、両ロータ2、3の噛合い部分に対して熱変形やガス圧変形、振動、加工誤差を許容できるように適度な隙間が設定され、その分だけ幾何学的な設計による形状に対して減肉して製作されている。
【0035】
両ロータ2、3の噛合い部分の隙間の設定の有無は、本発明の本質に直接的な関係がない。そこで、雄ロータ2及び雌ロータ3のロータ歯部21、31の歯形60、70について、両ロータ2、3の噛合い部分の隙間の存在について考察を加えるものの、当該隙間が0とする幾何学的設計上の形状として説明する。そのため、以下の説明において「接触」と表現しても、実際上の雄ロータ2及び雌ロータ3の歯形60、70の噛合い部には微小な隙間が存在することがある。
【0036】
雄雌両ロータ2、3の歯形60、70は、雄ロータ2の歯形60上の各点と雌ロータ3の歯形70上の各点とが1対1で対になっており、噛合いの条件「等速比で噛み合ったときの両歯面の共通法線はピッチ点を通る」を満足するように構成されている。換言すると、「ある歯面上の点が噛み合いの条件を満たす位置にあるとき、相手歯面と接触する」と表現することができる。互いに噛み合う一対のスクリューロータは、この条件を満足する必要があることから、雄ロータ2及び雌ロータ3の何れか一方の歯形が決定されると、他方の歯形が一意に定まることになる。以下の説明において、雄ロータ2の歯形を雄歯形、雌ロータ3の歯形を雌歯形と称することがある。なお、雄ロータ2の回転中心A1と雌ロータ3の回転中心A2を結ぶ線分を雄ロータ2の歯数と雌ロータ3の歯数の比で内分した点がピッチ点Pであり歯形の幾何学設計上の重要な位置である。
【0037】
図3において、雄ロータ2の回転中心A1と雌ロータ3の回転中心A2と雄ロータ2の最大半径となる歯先65と雌ロータ3の最小半径となる歯底75とが同一直線上に位置しており、雄ロータ2の歯先65と雌ロータ3の歯底75とが接触している。このときの雄雌両ロータ2、3の回転角度を基準角度(0°)とする。
【0038】
雄ロータ2の雄歯形60のうちの1歯は、前進面の区間を規定する第1輪郭線61と、後進面の区間を規定する第2輪郭線62と、歯底部の区間を規定する第3輪郭線63とで構成されている。本説明では、雄ロータ2の最大半径となる歯先を境界に、雄ロータ2の回転方向側の歯面を雄ロータ2の前進面、回転方向とは反対方向側の歯面を雄ロータ2の後進面と定義する。具体的には、第1輪郭線61は、歯先65を境界点として、境界点から雄ロータ2の回転方向側に延伸し最小半径となる第1端点66に達するまでの区間を規定している。第2輪郭線62は、歯先65を境界点として、境界点から雄ロータ2の回転方向とは反対方向側に延伸し最小半径となる第2端点67に達するまでの区間を規定している。第3輪郭線63は、両端点が最小半径となる区間を規定するものであり、例えば、両端点のうちの一方の端点が第1輪郭線61の第1端点66との接続点であると共に他方の端点が隣接する1歯の第2輪郭線62の第2端点67との接続点である。なお、第3輪郭線63は、両端点のうちの一方の端点が隣接する1歯の第1輪郭線61の第1端点66との接続点であると共に他方の端点が第2輪郭線62の第2端点67との接続点であってもよい。
【0039】
雌ロータ3の雌歯形70のうちの1歯は、前進面の区間を規定する第1輪郭線71と、後進面の区間を規定する第2輪郭線72と、歯先部の区間を規定する第3輪郭線73とで構成されている。本説明では、雌ロータ3の最小半径となる歯底を境界に、雌ロータ3の回転方向側の歯面を雌ロータ3の前進面、回転方向とは反対方向側の歯面を雌ロータ3の後進面と定義する。具体的には、第1輪郭線71は、歯底75を境界点として、境界点から雌ロータ3の回転方向側に延伸し最大半径となる第1端点76に達するまでの区間を規定している。第2輪郭線72は、歯底75を境界点として、境界点から雌ロータ3の回転方向とは反対方向側に延伸し最大半径となる第2端点77に達するまでの区間を規定している。第3輪郭線73は、両端点が最大半径となる区間を規定するものであり、例えば、両端点のうちの一方の端点が第1輪郭線71の第1端点76との接続点であると共に他方の端点が隣接する1歯の第2輪郭線72の第2端点77との接続点である。なお、第3輪郭線73は、両端点のうちの一方の端点が隣接する1歯の第1輪郭線71の第1端点76との接続点であると共に他方の端点が第2輪郭線72の第2端点77との接続点であってもよい。
【0040】
雄ロータ2の歯形60における前進面を規定する第1輪郭線61及び後進面を規定する第2輪郭線62は、複数の歯形要素によって構成されている。同様に、雌ロータ3の歯形70における前進面を規定する第1輪郭線71及び後進面を規定する第2輪郭線72は、複数の歯形要素によって構成されている。
【0041】
雄ロータ2及び雌ロータ3の歯形60、70の一例を図3に示す。当該歯形60、70は、前進面を規定する第1輪郭線61、71を1つの放物線と1つの円弧の歯形要素によって構成すると共に、後進面を規定する第2輪郭線62、72を2つの円弧の歯形要素によって構成することで得られるものである。
【0042】
具体的には、雄雌両ロータ2、3の歯形60、70の後進面を規定する第2輪郭線62、72は、例えば、雄ロータ2の第2輪郭線62のうちの歯先65(第2輪郭線62の一方の端点)を始点とする凸曲面としての1つの第1円弧と、雌ロータ3の第2輪郭線72のうちの第2端点77(第2輪郭線72の他方の端点)を終点とする凸曲面としての1つの第2円弧とを基に創成されている。雄ロータ2の第2輪郭線62の第1円弧は、或る半径R1を有しており、点62aを終点とする曲線である。雌ロータ3の第2輪郭線72の第2円弧は、或る半径R2を有しており、点72aを始点とする曲線である。雄ロータ2の第2輪郭線62のうち、第1円弧の終点62aから第2輪郭線62の第2端点67までの残りの区間は、雌ロータ3の第2円弧を含む第2輪郭線72の形状に応じた上記の噛合いの条件を満足するように創成されている。また、雌ロータ3の第2輪郭線72うち、歯底75(第2輪郭線72の一方の端点)から第2円弧の始点72aまでの残りの区間は、雄ロータ2の第1円弧を含む第2輪郭線62の形状に応じた上記の噛合いの条件を満足するように創成されている。
【0043】
また、雌ロータ3の歯形70における第1輪郭線71は、例えば、凹曲面を構成する1つの放物線と凸曲面を構成する1つの第3円弧とを基に創成されている。放物線は、焦点Fが雄ロータ2の回転中心A1と雌ロータ3の回転中心A2とを結ぶ線分上に位置しており、或る焦点距離Lfを有している。雌ロータ3の第1輪郭線71の当該放物線は、歯底75(第1輪郭線71の一方の端点)から点71aを終点とする曲線である。雌ロータ3の第1輪郭線71の第3円弧は、或る半径R3を有しており、放物線の終点71aを始点として第1輪郭線71の第1端点76まで延在する曲線である。雄ロータ2の第1輪郭線61は、雌ロータ3の第1輪郭線71の歯形要素である放物線及び第3円弧の形状に応じて、上記の噛合いの条件を満足するように創成されている。
【0044】
雌ロータ3の歯先部を規定する第3輪郭線73は、例えば、雌ロータ3の回転中心A2を中心とし、雌ロータ3の最大半径を有する円弧として構成することが可能である。雄ロータ2の歯底部を規定する第3輪郭線63は、雌ロータ3の第3輪郭線73の形状に応じて、上記の噛合いの条件を満足するように創成されている。第3輪郭線63は、例えば、雄ロータ2の回転中心A1を中心とし雄ロータ2の最小径を有する円弧として構成することが可能である。
【0045】
雌ロータ3の雌歯形70において、前進面を規定する第1輪郭線71、後進面を規定する第2輪郭線72、歯先部を規定する第3輪郭線73を、以下のように、雌ロータ3の回転中心A2を頂点とした角度を用いて示すことが可能である。雌ロータ3の回転中心A2を頂点とし、回転中心A2と第1輪郭線71の両端である歯底75及び第1端点76とを結ぶ2つの線分のなす角を前進面角度φLと定義する。雌ロータ3の回転中心A2を頂点とし、回転中心A2と第2輪郭線72の両端である歯底75及び第2端点77とを結ぶ2つの線分のなす角を後進面角度φTと定義する。雌ロータ3の回転中心A2を頂点とし、回転中心A2と第3輪郭線73の両端である第1輪郭線71の第1端点76及び第2輪郭線72の第2端点77とを結ぶ2つの線分のなす角を歯先角度φSと定義する。
【0046】
次に、第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機における雄雌両ロータの歯形の特徴について図2及び図4を用いて説明する。図4図2に示す本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機をS1-S1矢視及びD1-D1矢視から見たときの雌ロータの1歯分の歯形を重ねた状態で示す断面図である。図4中、実線は雌ロータ3の吐出側(D1-D1断面)の1歯分の歯形を、破線は雌ロータ3の吸込側(S1-S1断面)の1歯分の歯形を示している。図4は、図3と同様に、雌ロータの回転角度が基準角度(0°)となっている。
【0047】
図2において、雄ロータ2及び雌ロータ3は、ロータ歯部21、31の軸方向の吸込側端(図2中、左端)から吐出側端(図2中、右端)までの軸方向の全体の領域に亘って等リードのスクリューロータとして構成されている。加えて、雄ロータ2及び雌ロータ3は、軸方向(回転中心A1、A2)に垂直な断面の歯形が軸方向に沿って変化するように形成されている。
【0048】
具体的には、雌ロータ3の歯形70(図4参照)は、ロータ歯部31の吸込側端面31bから軸方向の吐出側に寄った或る第1位置、例えば、軸方向の略中間位置(S1-S1位置)までの領域において、軸方向に沿って同一の形状である。一方、第1位置から雌ロータ3の吐出側端面31c(D1-D1位置)までの領域においては、図4の破線で示す吸込側の第1歯形70s(図2に示すS1-S1位置の歯形)から実線で示す吐出側の第2歯形70d(図2に示すD1-D1位置の歯形)へと徐々に変化するように雌歯形70が形成されている。雌歯形70における歯先角度φS、前進面角度φL、後進面角度φT(図3参照)は、第1位置(S1-S1位置)から吐出側端面31c(D1-D1位置)に向かって軸方向の長さ又は回転角に対して単調に変化するように設定されている。
【0049】
図4において、雌ロータ3における軸方向の吸込側(S1-S1位置)の第1歯形70sを破線、吐出側(D1-D1位置)の第2歯形70dを実線で示す。
【0050】
雌歯形70における第1輪郭線71、第2輪郭線72、第3輪郭線73に対して、吸込側を示す符号sを追記すると共に吐出側を示す符号dを追記することで、吸込側の第1歯形70sと吐出側の第2歯形70dを区別する。
【0051】
同様に、雌歯形70の第1輪郭線71及び第2輪郭線72の始点である歯底75に対して、吸込側を示す符号sを追記すると共に吐出側を示す符号dを追記することで、吸込側の第1歯形70sと吐出側の第2歯形70dを区別する。雌歯形70の第3輪郭線73の両端76、77に対して、吸込側を示す符号sを追記すると共に吐出側を示す符号dを追記することで、吸込側の第1歯形70sと吐出側の第2歯形70dを区別する。なお、上述したように、第3輪郭線73の一方の端点は第1輪郭線71の第1端点76であり、第3輪郭線73の他方の端点は第2輪郭線72の第2端点77と一致する点である。
【0052】
また、雌歯形70における歯先角度φS、前進面角度φL、後進面角度φTに対して、吸込側を示す符号sを追記すると共に吐出側を示す符号dを追記することで、吸込側の第1歯形70sと吐出側の第2歯形70dを区別する。
【0053】
本実施の形態においては、図4に示すように、雌ロータ3における軸方向の吐出側の第2歯形70dの歯先角度φSdが、第2歯形70dよりも軸方向の吸込側に位置する第1歯形70sの歯先角度φSsよりも大きくなるように設定されている。すなわち、雌歯形70は、吐出側の第2歯形70dの歯先部の厚みが吸込側の第1歯形70sの歯先部の厚みよりも厚くなるように構成されている。このように、雌ロータ3の歯先部を軸方向の吐出側で厚肉にした分、軸方向の吐出側に位置する作動室間の圧縮気体の外径隙間を介した漏出を抑制することができる。
【0054】
また、雌ロータ3の吐出側の第2歯形70dの前進面角度φLdは、吸込側の第1歯形70sの前進面角度φLsよりも小さくなるように設定されている。なお、本実施の形態においては、雌ロータ3の吸込側の第1歯形70sの第2輪郭線72sと吐出側の第2歯形70dの第2輪郭線72dとが同一の形状である。すなわち、雌歯形70の吐出側の後進面角度φTdは、吸込側の後進面角度φTsと同一の角度になるように設定されている。
【0055】
なお、雌ロータ3の吸込側の第1歯形70sは、以下の式(1)を満たす必要がある。また、吐出側の第2歯形は、以下の式(2)を満たす必要がある。なお、式(1)及び式(2)では、角度の単位が度である。
φSs+φLs+φTs=360/雌ロータの歯数 … 式(1)
φSd+φLd+φTd=360/雌ロータの歯数 … 式(2)
【0056】
上記の式(1)と式(2)を整理すると、以下の式(3)が成立する。
(φLs-φLd)+(φTs-φTd)=φSd-φSs … 式(3)
【0057】
上記の式(3)は、雌ロータ3の吐出側の第2歯形70dの第3輪郭線73dで規定される歯先部を吸込側の第1歯形70sの第3輪郭線73sで規定される歯先部よりも厚くするという条件から以下のようになる。
(φLs-φLd)+(φTs-φTd)=φSd-φSs>0
【0058】
したがって、前進面角度φLと後進面角度φTとの関係は、以下の式(4)を満たす必要がある。
φLs-φLd>φTd-φTs … 式(4)
【0059】
次に、スクリュー圧縮機全般の歯面分離振動の発生要因について図5を用いて説明する。図5はスクリュー圧縮機全般における歯面分離振動の発生要因を説明する図である。図5中、太い矢印はそれぞれ雄ロータ及び雌ロータの回転方向を示している。
【0060】
給液式のスクリュー圧縮機では、一般的に、雄ロータ2と雌ロータ3の歯面同士が直接的に接触することで雄ロータ2の駆動トルクが雌ロータ3に伝達されて雌ロータ3が駆動される。雄雌両ロータ2、3の歯面に作用する圧力条件によっては、雄ロータ2から雌ロータ3への伝達トルクが一時的に負に変化し、トルクを伝達していた歯面同士が互いに乖離する歯面分離という現象が生じることがある。その後、雄ロータ2から雌ロータ3への伝達トルクが再び正に戻ると、一旦離れた歯面同士が衝突する。その結果、歯面分離と歯面の衝突が繰り返され、大きな振動と騒音を発生させる。これを歯面分離振動と称し、歯面の損傷を招く懸念がある。
【0061】
図5に示す雄雌両ロータ2、3の回転角度においては、両ロータ2、3の噛合いによって3か所の接触点S1、S2、S3が生じることで、当該断面において軸方向のみに開口する2つの三日月状の作動室C1、C2が形成されている。第1作動室C1は、雄ロータ2の前進面(第1輪郭線61)と雌ロータ3の前進面(第1輪郭線71)とが接触する第1接触点S1と、雄ロータ2の後進面(第2輪郭線62)と雌ロータ3の後進面(第2輪郭線72)とが接触する第2接触点S2との間に形成される。第1作動室C1は、雄雌両ロータ2、3の回転に伴い容積が縮小するものであり、圧縮過程又は吐出過程にある作動室である。第2作動室C2は、上述した第2接触点S2と、第2接触点S2よりも雄ロータ2の後進面(第2輪郭線62)の歯底側の部分と雌ロータ3の後進面(第2輪郭線72)の歯先側の部分とが接触する第3接触点S3との間に形成される。第2作動室C2は、雄雌両ロータ2、3の回転に伴い容積が膨張するものであり、吸込過程にある作動室である。
【0062】
ここで,雌ロータ3における回転中心A2から第1接触点S1までの回転半径を第1雌半径RL、回転中心A2から第2接触点S2までの回転半径を第2雌半径RTと称する。第1雌半径RLから雌ロータ3の歯底径RBを差し引いた残りの長さをL、第2雌半径RLから歯底径RBを差し引いた残りの長さをTとする。
【0063】
図5に示す雄雌ロータ2、3の回転角度では、第1接触点S1と第2接触点S2との位置関係から、第1雌半径RL>第2雌半径RTとなっている。すなわち、L>Tとなっている。この場合、雌ロータ3の当該断面における歯面には、受圧面積の差によって、第1作動室C1内の圧縮気体のトルク(ガストルク)が回転方向に作用することになる。すなわち、雄雌両ロータ2、3の歯面が分離する向きにトルクが作用する。ガストルクは、両ロータ2、3の周囲の気体が歯面に作用させるトルクであり、雌ロータ3の回転を妨げる方向、すなわち雌ロータ3の回転方向とは反対方向を正としている。したがって、両ロータ2、3間で歯面分離を生じさせるトルク(歯面分離トルク)は、負のトルクを意味する。
【0064】
ただし、スクリュー圧縮機の各作動室Cは、軸方向に様々な圧力レベルにあると共に、回転角度に応じて異なった形状に形成されるので、歯面分離トルクの演算は、作動室における軸方向の吸込側から吐出側まで積分することが必要となる。図5に示す特定断面において歯面分離トルクが生じたとしても、ガストルクを軸方向に積分したときの演算値が負のトルクになるとは限らない。しかし、吸込み絞り制御をしている場合において、吸込圧が非常に低く、且つ、吐出圧が高くなると、歯面分離トルクが生じやすくなる傾向にある。雄雌両ロータ2、3における一部分の歯面で歯面分離トルクが発生してしまうと、歯面衝突が繰り返し起きるようになり、歯面分離振動が発生する。
【0065】
次に、第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の効果について図5図8を用いて説明する。図6は、スクリュー圧縮機を構成する雌ロータの歯形における歯先部の形状(歯先角度)を固定したときに前進面及び後進面の歯形要素を変化させた場合の歯面分離の発生しやすさを比較した表である。図7は、スクリュー圧縮機を構成する雌ロータの歯形における歯先部の形状(歯先角度)を図6に示す歯先部の形状(歯先角度)よりも大きくした状態で固定したときに前進面及び後進面の歯形要素を変化させた場合の歯面分離の発生しやすさを比較した表である。図8は、スクリュー圧縮機全般における内部隙間としてのブローホールを示す説明図である。
【0066】
図6及び図7に示す雌ロータの歯形(前進面を規定する第1輪郭線、後進面を規定する第2輪郭線、歯先部を規定する第3輪郭線)は、図3に示す雌ロータ3の歯形と同一の歯形要素を基に創成するものである。すなわち、第2輪郭線は、図3に示す雄ロータ2の歯先65を始点とする半径R1の円弧及び雌ロータ3の第2輪郭線72の第2端点77を終点とする半径R2の円弧の2つの歯形要素に基づき創生されている。第1輪郭線は、図3に示す雌ロータ3の歯底75を始点とする焦点距離Lfの放物線と雌ロータ3の第1輪郭線71の第1端点76を終点とする半径R3の円弧の2つの歯形要素に基づき創生されている。図6及び図7では、雌ロータの歯形の1歯分について、各歯形要素の寸法と、当該歯形寸法に応じた前進面角度φL、後進面角度φT、歯先角度φSとを示している。また、前進面角度、後進面角度、歯先角度に対する%は、歯形の1歯分の角度を100%としたときの各角度の割合を示している。
【0067】
各歯形要素の寸法は噛合いの条件を満足する必要があり、各歯形要素が関連し合って存在できる範囲が限定される。ナンバー(No.)毎に各歯形要素の存在可能な範囲を示している。ただし、第2輪郭線の半径R2は、歯面分離の発生傾向を掴みやすくするために、固定値とした。歯面分離の欄には、各ナンバーの歯形に対する歯面分離の発生傾向を示している。なお、歯面分離の発生傾向は、歯面に作用するガストルクを軸方向に積分する数値計算に基づいて得られた歯面分離トルクを基に示したものである。
【0068】
図6及び図7に示す雌ロータの歯形は、本実施の形態の雌ロータ3の歯形とは異なり、軸方向に沿って同一の形状のものである。図6に示す歯先角度φSの角度割合は1%で一定であり、図7に示す歯先角度φSの角度割合は3、5%で一定である。
【0069】
図6から、歯先角度φSの角度割合が一定である場合、前進面角度φLの角度割合が小さい方が、歯面分離が発生しにくいことが分かる。すなわち、後進面角度φTの角度割合が大きい方が、歯面分離が発生しにくくなる。この理由は、図5で説明した歯面分離トルクの発生原理によるものである。歯先角度φSの角度割合が一定の場合、前進面角度φLの角度割合が小さく、後進面角度φTの角度割合が大きい程、図5に示す長さLが小さくなる一方、長さTが大きくなるからである。
【0070】
また、第1輪郭線を構成する放物線の焦点距離Lfが大きい程、図5に示す第1接触点S1が雌ロータ3の歯底側に移動するので、その分、長さLが小さくなる。その結果、L>Tの関係が成立しづらい傾向となり、歯面分離が発生しにくくなる。
【0071】
ただし、前進面角度φLの角度割合が小さくても、歯面分離が生じやすい歯形要素の組合せ(寸法)が存在する。これは、前進面角度φLの角度割合を小さくしても、歯形要素の組合せ(寸法)によっては図5で説明したようなL>Tの関係が成立する場合である。例えば、図6のNo.7に示す歯形であり、放物線の焦点距離Lfを相対的に小さく設定したものである。
【0072】
このように、歯先角度φSの角度割合が相対的に小さい図6に示す歯形の場合、前進面角度φLの角度割合が小さいと歯面分離が発生しにくい傾向となる。さらに、歯形要素の1つである放物線の焦点距離Lfを調整することで、歯面分離の発生を回避することが可能である。例えば、歯先角度φSの角度割合が相対的に小さい図6に示す歯形の場合では、放物線の焦点距離Lfが相対的に大きくなるように(No.3、No.6、No.8、No.9に示す寸法に)調整することで、歯面分離が発生しにくくなる。
【0073】
一方、図6に示す歯形と比べて歯先角度φSの角度割合が大きな図7に示す歯形では、歯面分離が発生しやすい範囲が広がっている。図7に示す歯形のうち歯面分離が発生しにくい歯形は、No.9に示す歯形1つのみである。すなわち、歯先角度φSの角度割合を相対的に大きくした歯形の場合には、第1輪郭線の歯形要素である放物線の焦点距離Lfの設定を調整しても、歯面分離を発生しにくくする効果を得ることができないことが判る。したがって、歯面分離を発生しにくくするには、前進面角度φLの角度割合を小さくすることが必須である。
【0074】
ここで、図6及び図7に示す歯形に対する歯面分離の発生傾向を踏まえて、雌ロータ3の吸込側の第1歯形70sと吐出側の第2歯形70dの組み合わせを考える。
【0075】
吐出側の第2歯形70dとしては、軸方向吐出側の高圧気体の外径隙間を介した漏出を抑制しつつ歯面分離の発生を抑制するために、歯先角度φSの角度割合が相対的に大きい図7に示す歯形のうち、歯面分離が発生しにくいNo.9に示す歯形が選択される。
【0076】
一方、吸込側の第1歯形70sとしては、歯先角度φSの角度割合が相対的に小さい図6に示す歯形のうち、歯面分離が発生しにくいNo.3、No.6、No.8、No.9のいずれかの歯形が考えられる。ただし、本実施の形態の目的は、歯面分離振動の抑制に加えて、圧縮気体の漏出によるエネルギ効率の低下を抑制することである。しかし、図6のNo.8及びNo.9に示す歯形は、圧縮気体の漏出の原因であるブローホールの面積が図6のNo.3及びNo.6に示す歯形の場合と比べて大きくなるので、圧縮気体の漏れ損失を低減することは難しい。図6のNo.8及びNo.9に示す歯形は、図7のNo.9に示す歯形に対して、前進面角度φLの角度割合を変化させずに、後進面角度φTの角度割合を大きくするものである。
【0077】
ブローホールHとは、図8に示すように、本体ケーシング4のカスプ線45aに沿って形成されて隣接する作動室Cを連通させる漏洩流路であり、おおよそ三角形状をしている。ブローホールHの頂点Saは、雄雌両ロータ2、3の歯形が回転により噛み合って接触を開始した瞬間の接触開始点である。ブローホールHの底辺は、カスプ線45aによって形成されている。ブローホールHの底辺の一方側端点Bmは、雄ロータ2の歯先線21dとカスプ線45aの交差位置である。なお、雄ロータ2の歯先線21dとカスプ線45aとの間には微小な隙間があるので、最接近した位置を交差位置とみなしている。ブローホールHの底辺の他方側端点Bfは、雌ロータ3の歯先線(図示せず)とカスプ線45aの交差位置である。同様に、雌ロータ3の歯先線とカスプ線45aとの間には微小な隙間があるので、最接近した位置を交差位置とみなしている。
【0078】
ブローホールHの面積は、接触開始点(頂点)Saが上方に位置する程、その概略形状である三角形の高さが高くなると共に底辺の長さも長くなるので、大きくなる。したがって、ブローホールHを介した圧縮気体の漏洩を低減するには、接触開始点Saを下方に設定することである。雌ロータ3の歯形70において、前進面角度φLの角度割合を固定して、後進面角度φTの角度割合を大きくすると、接触開始点Saが上方に移動するので、ブローホールHを介した圧縮流体の漏出が大きくなる傾向となる。
【0079】
したがって、後進面角度φTの角度割合が相対的に大きな図6のNo.8及びNo.9に示す歯形は、歯面分離が発生しにくい形状であるが、圧縮気体の漏出によるエネルギ効率の低下を抑制するという目的に適わない。したがって、雌ロータ3の吸込側の第1歯形70sでは、圧縮気体の漏出によるエネルギ効率の低下の抑制と歯面分離振動の抑制の両立を図るため、吐出側の第2歯形70dに対して、前進面角度φLの角度割合を大きくする必要がある。なお、後進面角度φTの角度割合は、吐出側の第2歯形に対して、変化させないか、または、小さくする構成が可能である。すなわち、図6のNo.3及びNo.6に示す歯形のいずれかを用いることができる。
【0080】
本実施の形態においては、図4に示すように、雌歯形70における軸方向吐出側の歯先角度φSdが軸方向吸込側の歯先角度φSsよりも大きくなるように設定されると共に、吐出側の前進面角度φLdが吸込側の前進面角度φLsよりも小さくなるように設定されている。また、雌歯形70における吐出側の後進面角度φTdは、吸込側の後進面角度φTsと同一の角度になるように設定されている。すなわち、本実施の形態の雌ロータ3のロータ歯部31は、図6及び図7に示す歯形を用いる構成の場合には、吐出側の第2歯形70dとして図7のNo.9に示す歯形を用いると共に、吸込側の第1歯形70sとして図6に示すNo.6に示す歯形を用いるものである。
【0081】
したがって、雌歯形70の第3輪郭線73で規定する歯先部の厚みを軸方向吐出側で増加させることで、軸方向吐出側に位置する作動室間の差圧の増加に対して外径隙間を介した圧縮気体の漏出を抑制することができ、かつ、歯面分離の発生を抑制することができる。したがって、作動気体の漏出によるエネルギ効率の低下の抑制と歯面分離振動の発生の抑制の両立を図ることができる。
【0082】
上述したように、第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機は、捩れた雄歯21aを有し、第1回転中心A1の回りを回転する雄ロータ2と、捩れた雌歯31aを有し、雄ロータ2と噛み合い第1回転中心A1と平行な第2回転中心A2の回りを回転する雌ロータ3と、雄ロータ2及び雌ロータ3を噛み合った状態で回転可能に収容する収容室45を有し、雄ロータ2及び雌ロータ3と共に複数の作動室Cを形成する本体ケーシング4(ケーシング)とを備えている。雌ロータ3における軸方向に垂直な断面の輪郭形状を表す歯形70は、軸方向のS1-S1位置(或る第1位置)から第1位置よりも軸方向の吐出側のD1-D1位置(第2位置)までの間で変化するように形成されている。雌ロータ3の歯形70のうちの1歯は、最小半径となる歯底75を境界点として、境界点から雌ロータ3の回転方向側に延伸し最大半径となる第1端点76に達するまでの前進面の区間を規定する第1輪郭線71と、境界点から雌ロータ3の回転方向とは反対方向側に延伸し最大半径となる第2端点77に達するまでの後進面の区間を規定する第2輪郭線72と、両端点が最大半径となる歯先部の区間を規定し、両端点のうちいずれか一方の端点が第1輪郭線71の第1端点76又は第2輪郭線72の第2端点77との接続点である第3輪郭線73とで構成されている。雌ロータ3の歯形70は、第2回転中心A2を頂点として、第2回転中心A2と第1輪郭線71の両端65、76とを結ぶ2つの線分のなす角を前進面角度φL(第1角度)、第2回転中心A2を頂点として、第2回転中心A2と第2輪郭線72の両端65、77とを結ぶ2つの線分のなす角を後進面角度φT(第2角度)、第2回転中心A2を頂点として、第2回転中心A2と第3輪郭線73の両端76、77とを結ぶ2つの線分のなす角を歯先角度φS(第3角度)と定義したときに、D1-D1位置(第2位置)における歯先角度φSd(第3角度)がS1-S1位置(第1位置)における歯先角度φSs(第3角度)よりも大きくなるように設定されていると共に、D1-D1位置(第2位置)における前進面角度φLd(第1角度)がS1-S1位置(第1位置)における前進面角度φLs(第1角度)よりも小さくなるように設定されている。
【0083】
この構成によれば、雌ロータ3の歯形70における歯先部の形状に対応する歯先角度φS(第3角度)を軸方向の吐出側で吸込側よりも大きくなるように設定することで、雌ロータ3の歯先部の厚みが吐出側で厚くなるので、その分、軸方向の吐出側に位置する作動室間の外径隙間を介した高圧な作動気体の漏出を抑制することができる。同時に、雌ロータ3の歯形70における前進面の形状に対応する前進面角度φL(第1角度)を軸方向の吐出側で吸込側よりも小さくなるように設定することで、歯面分離の発生が抑制的になる。したがって、雌ロータ3と本体ケーシング(ケーシング)4との間に設けられた隙間を介した作動室C間の作動気体の漏出の抑制と歯面分離振動の発生の抑制の両立を図ることができる。
【0084】
また、本実施の形態における雌ロータ3の歯形70は、D1-D1位置(第2位置)における後進面角度φTd(第2角度)がS1-S1位置(第1位置)における後進面角度φTs(第2角度)と同じとなるように設定されている。
【0085】
この構成によれば、雌ロータ3の歯形70の後進面(第2輪郭線72)が軸方向の吸込側から吐出側まで同一の形状なので、その分、歯形の加工が容易となる。
【0086】
また、本実施の形態における雌ロータ3は、軸方向の全体のうち、軸方向の吐出側に偏った領域において歯形70が変化する一方、軸方向の残りの吸込側の領域において歯形70が同一の形状である。
【0087】
この構成によれば、作動室間の差圧が相対的に大きい吐出側の領域のみで雌ロータ3の歯先部が厚くなるように変化させることで、当該作動室間の圧縮気体の漏出を抑制する一方、作動室間の差圧が相対的に小さい軸方向の吸込側の領域では、雌ロータ3の歯先部の厚みを変化させないことで、歯先部の厚みを厚くする場合と比較して、作動室の容積減少を回避する。したがって、圧縮機本体1を大型化せずに吸込容量を確保することができる。また、給油式のスクリュー圧縮機の場合には、軸方向の吸込側端部から吐出側に向かって雌ロータ3の歯先部の厚みを厚くすると、その分、吐出側に位置する作動室では、容積減少による内圧上昇が生じるので、給油の差圧(圧力源の圧力と作動室内の圧力との差)が小さくなってしまう。それに対して、軸方向の吐出側に偏った領域のみで雌ロータ3の歯形70を変化させれば、雌ロータ3の歯形70の変化の開始位置の近傍における吐出側の作動室では、歯形70の変化による内圧上昇を抑えることができるので、給油のための差圧を確保することができる。
【0088】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機について図9を用いて例示説明する。図9は本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を図2に示すS1-S1矢視及びD1-D1矢視と同じ矢視から見たときの雌ロータの1歯分の歯形を重ねた状態で示す断面図である。なお、図9において、図1図8に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0089】
図9に示す第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機が第1の実施の形態のスクリュー圧縮機(図4参照)と異なる点は、以下のとおりである。第1の実施の形態における雌ロータ3の軸方向吸込側(S1-S1位置)の第1歯形70sは、軸方向吐出側(D1-D1位置)の第2歯形70dに対して、前進面角度φLの角度割合が相対的に大きくなると共に、後進面角度φTの角度割合が同一となる形状である。一方、第2の実施の形態における雌ロータ3Aの軸方向吸込側(S1-S1位置)の第1歯形70Asは、軸方向吐出側(D1-D1位置)の第2歯形70Adに対して、前進面角度φLAの角度割合が相対的に大きくなる一方、後進面角度φTAの角度割合が相対的に小さくなる形状である。
【0090】
図9において、雌ロータ3Aの軸方向吸込側の第1歯形70Asを破線、軸方向吐出側の第2歯形70Adを実線で示す。雌ロータ3Aの歯形70Aにおける前進面を規定する第1輪郭線71A、後進面を規定する第2輪郭線72A、歯先部を規定する第3輪郭線73Aに対して、吸込側を示す符号sを追記すると共に吐出側を示す符号dを追記することで、吸込側の第1歯形70Asと吐出側の第2歯形70Adを区別する。同様に、雌歯形70Aの第3輪郭線73Aの両端点76A、77Aに対して、吸込側を示す符号sを追記すると共に吐出側を示す符号dを追記することで、吸込側の第1歯形70Asと吐出側の第2歯形70Adを区別する。また、雌歯形70Aにおける歯先角度φSA、前進面角度φLA、後進面角度φTAに対して、吸込側を示す符号sを追記すると共に吐出側を示す符号dを追記することで、吸込側の第1歯形70Asと吐出側の第2歯形70Adを区別する。
【0091】
本実施の形態に係る雌ロータ3Aの歯形70Aでは、具体的に図9に示すように、軸方向吐出側の第2歯形70Adの歯先角度φSAdが、軸方向吸込側の第1歯形70Asの歯先角度φSAsよりも大きくなるように設定されると共に、吐出側の第2歯形70Adの前進面角度φLAdが吸込側の第1歯形70Asの前進面角度φLAsよりも小さくなるように設定されている。また、吐出側の第2歯形70Adの後進面角度φTAdは、吸込側の第1歯形70Asの後進面角度φTAsよりも大きくなるように設定されている。すなわち、本実施の形態の雌ロータ3Aのロータ歯部31Aは、図6及び図7に示す歯形を用いる構成の場合には、吐出側の第2歯形70Adとして図7のNo.9に示す歯形を用いると共に、吸込側の第1歯形70Asとして図6に示すNo.3に示す歯形を用いるものである。
【0092】
すなわち、本実施の形態においては、第1の実施の形態と同様に、雌ロータ3Aの吐出側の第2歯形70Adにおける第3輪郭線73Adにより規定される歯先部の方が、吸込側の第1歯形70Asの第3輪郭線73Asにより規定される歯先部よりも厚くなるように構成されている。このように、雌ロータ3Aの歯形70Aの歯先部を軸方向吐出側で厚肉にした分、軸方向吐出側に位置する作動室間の外径隙間を介した圧縮気体の漏出を抑制することができる。
【0093】
さらに、本実施の形態においては、雌ロータ3Aの吐出側の前進面角度φLAdを吸込側の前進面角度φLAsよりも小さくなるように設定する一方、雌ロータ3Aの吐出側の後進面角度φTAdを吸込側の後進面角度φTAsよりも大きくなるように設定している。この構成の場合、以下の理由により、第1の実施形態の雌ロータ3の歯形70の場合よりも歯面分離を抑制することができる。
【0094】
次に、第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機における効果について図10を用いて説明する。図10は、本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機における雄ロータの回転角に対する歯面分離裕度トルクの変化を示す特性図である。図10中、横軸は、雄ロータの1歯分の噛合いの回転角であり、最大値を1P.U.として相対的に表示している。縦軸は、設定された歯形を基に数値計算により求めた歯面分離裕度トルクであり、第1の実施の形態の雌ロータの歯形での当該トルクの最大値を1P.U.として相対的に表示している。歯面分離裕度トルクは、雌ロータが雄ロータから受ける歯面伝達トルクであり、歯面分離トルクに抗って歯面分離しないときの余裕トルクを示すものである。すなわち、歯面分離裕度トルクは、値が大きい程、歯面分離が生じにくいことを示している。
【0095】
第2の実施の形態に係る雌ロータ3Aの歯形70Aにおいては、図10に示すように、第1の実施の形態に係る雌ロータ3の歯形70の場合よりも、歯面分離裕度トルクが大きくなる。したがって、本実施の形態に係る雌ロータ3Aの歯形70Aは、第1の実施の形態に係る雌ロータ3の歯形70の場合よりも歯面分離の発生を抑制することができる。
【0096】
また、雌ロータ3Aの吐出側の後進面角度φTAdは、第1の実施の形態と異なり、吸込側の後進面角度φTAsよりも大きくなるように設定されている。この構成の場合、前述したように、第1の実施形態の雌ロータ3の歯形70の場合よりも、ブローホールH(図8参照)の頂点である接触開始点Saが下方に移動する傾向にある。したがって、ブローホールHの面積が小さくなる傾向となるので、ブローホールHを介した圧縮気体の漏出を抑制することが可能である。
【0097】
なお、第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、雌ロータ3Aの歯形70Aは、前進面角度φLA、後進面角度φTA、歯先角度φSAについて、以下の式(5)及び式(6)を満たす必要がある。
φSAd-φSAs>0 … 式(5)
φLAs-φLAd>φTAd-φTAs … 式(6)
【0098】
上述した第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、雌ロータ3Aの歯形70Aにおける歯先部の形状に対応する歯先角度φSA(第3角度)を軸方向の吐出側で吸込側よりも大きくなるように設定することで、雌ロータ3Aの歯先部の厚みが吐出側で厚くなるので、その分、軸方向の吐出側に位置する作動室C間の外径隙間を介した高圧な作動気体の漏出を抑制することができる。同時に、雌ロータ3Aの歯形70Aにおける前進面の形状に対応する前進面角度φLA(第1角度)を軸方向の吐出側で吸込側よりも小さくなるように設定することで、歯面分離の発生が抑制的になる。したがって、雌ロータ3Aと本体ケーシング(ケーシング)4との間に設けられた隙間を介した作動室C間の作動気体の漏出の抑制と歯面分離振動の発生の抑制の両立を図ることができる。
【0099】
また、本実施の形態における雌ロータ3Aの歯形70Aは、D1-D1位置(第2位置)における後進面角度φTd(第2角度)がS1-S1位置(第1位置)における後進面角度φTs(第2角度)よりも大きくなるように設定されている。
【0100】
この構成によれば、ブローホールH(図8参照)の面積が小さくなる傾向となるので、ブローホールHを介した圧縮気体の漏出を抑制することが可能である。さらに、歯面分離裕度トルクが第1の実施の形態よりも大きくなるので、歯面分離の発生を更に抑制することができる。
【0101】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の構成について図11及び図12を用いて例示説明する。図11は、本発明の第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を示す断面図である。図12は、図11に示す本発明の第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機をS3-S3矢視及びD3-D3矢視から見たときの雌ロータの1歯分の歯形を重ねた状態で示す断面図である。なお、図11及び図12において、図1図10に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0102】
図11に示す第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機が第1の実施の形態(図2及び図4を参照)と異なる点は、以下のとおりである。第1の実施の形態の圧縮機本体1においては、雄雌両ロータ2、3が等リードのスクリューロータで構成されていると共に、両ロータ2、3のロータ歯部21、31の外径が吸込側端面21b、31bから吐出側端面21c、31cまで同一である。一方、第3の実施の形態における圧縮機本体1Bにおいては、雄雌両ロータ2B、3Bが軸方向の吸込側から吐出側に向かってリードが小さくなる不等リードのスクリューロータで構成されていると共に、雄ロータ2Bのロータ歯部21Bの外径が軸方向の或る第1位置から吐出側端面21cへ向かって徐々に小さくなるように設定されている。すなわち、雄ロータ2Bは、軸方向の第1位置から吐出側端面21cへ向かって先細りのテーパ状かつ不等リードのスクリューロータで構成されている。雌ロータ3Bは、軸方向の吸込側端面31bから吐出側端面31cまで外径が同一である不等リードのスクリューロータで構成されている。
【0103】
具体的には、図11において、雄ロータ2B及び雌ロータ3Bのロータ歯部21B、31Bは、軸方向の全体のうち軸方向の吐出側(S3-S3位置からD3-D3)に偏った部分においてリードが変化する一方、軸方向の残りの吸込側の部分(吸込側端面21b、31bからS3-S3位置)においてリードが同一であるように形成されている。なお、雄ロータ2Bのリード及び雌ロータ3Bのリードは、軸方向の全体の領域に亘って変化するように構成することも可能である。
【0104】
雌ロータ3Bにおける軸方向(回転中心A2)に垂直な断面の歯形70B(図12参照)は、ロータ歯部31Bの吸込側端面31bから軸方向の吐出側に寄った或る第1位置、例えば、軸方向の略中間位置(S3-S3位置)までの領域において、軸方向に沿って同一の形状である。一方、軸方向の第1位置から雌ロータ3Bの吐出側端面31c(D3-D3位置)までの領域においては、図12の破線で示す吸込側の第1歯形70Bs(図11に示すS3-S3位置の歯形)から実線で示す吐出側の第2歯形70Bd(図11に示すD3-D3位置の歯形)へと徐々に変化するように雌歯形70Bが形成されている。すなわち、雌歯形70Bにおける歯先角度φSB、前進面角度φLB、後進面角度φTBは、第1位置(S3-S3位置)から吐出側端面31c(D3-D3位置)に向かって軸方向の長さ又は回転角に対して単調に変化するように設定されている。
【0105】
本実施の形態における雌ロータ3Bの軸方向吐出側(D3-D3位置)の第2歯形70Bdは、軸方向吸込側(S3-S3位置)の第1歯形70Bsに対して、歯先角度φSBの角度割合が相対的に大きくなる一方、前進面角度φLBの角度割合が相対的に小さくなる形状である。さらに、雌ロータ3Bの第2歯形70Bdは、第1歯形70Bsに対して、後進面角度φTBの角度割合が相対的に小さくなると共に、歯底75Bを含む領域が相対的に浅くなる形状である。なお、図11に示す雄ロータ2Bのロータ歯部21Bは、当該雌ロータ3Bのロータ歯部31Bに噛み合うように歯形が創生されている。
【0106】
図12では、雌ロータ3Bのロータ歯部31Bにおける軸方向吸込側の第1歯形70Bsを破線、軸方向吐出側の第2歯形70Bdを実線で示す。また、図4と同様に、雌ロータ3Bの回転角度が基準角度(0°)となっている。
【0107】
雌ロータ3Bの歯形70Bにおける前進面を規定する第1輪郭線71B、後進面を規定する第2輪郭線72B、歯先部を規定する第3輪郭線73Bに対して、吸込側を示す符号sを追記すると共に吐出側を示す符号dを追記することで、吸込側の第1歯形70Bsと吐出側の第2歯形70Bdを区別する。
【0108】
同様に、雌歯形70Bの第1輪郭線71B及び第2輪郭線72Bの境界点である歯底75Bに対して、吸込側を示す符号sを追記すると共に吐出側を示す符号dを追記することで、吸込側の第1歯形70Bsと吐出側の第2歯形70Bdを区別する。また、雌歯形70Bの第3輪郭線73Bの両端点76B、77Bに対して、吸込側を示す符号sを追記すると共に吐出側を示す符号dを追記することで、吸込側の第1歯形70Bsと吐出側の第2歯形70Bdを区別する。
【0109】
また、雌歯形70Bにおける歯先角度φSB、前進面角度φLB、後進面角度φTBに対して、吸込側を示す符号sを追記すると共に吐出側を示す符号dを追記することで、吸込側の第1歯形70Bsと吐出側の第2歯形70Bdを区別する。
【0110】
本実施の形態に係る雌ロータ3Bの歯形70Bでは、図12に示すように、軸方向吐出側の第2歯形70Bdの歯先角度φSBdが、第1の実施の形態と同様に、軸方向吸込側の第1歯形70Bsの歯先角度φSBsよりも大きくなるように設定されている。すなわち、第1の実施の形態と同様に、雌ロータ3Bの吐出側の第2歯形70Bdにおける第3輪郭線73Bdで規定される歯先部が、吸込側の第1歯形70Bsにおける第3輪郭線73Bsで規定される歯先部よりも厚くなるように構成されている。
【0111】
また、吐出側の第2歯形70Bdの前進面角度φLBdは、第1の実施の形態と同様に、吸込側の第1歯形70Bsの前進面角度φLBsよりも小さくなるように設定されている。なお、吐出側の第2歯形70Bdの後進面角度φTBdは、第1の実施の形態と異なり、吸込側の第1歯形70Bsの後進面角度φTBsよりも小さくなるように設定されている。
【0112】
さらに、軸方向吐出側の第2歯形70Bdの歯底75Bdは、吸込側の第1歯形70Bsの歯底75Bsよりも浅くなるように設定されている。なお、第1の実施の形態においては、雌ロータ3の吸込側の第1歯形70sの歯底75sと吐出側の第2歯形70dの歯底75dは同一の径方向位置にある。
【0113】
この構成の場合、雄ロータ2Bは、雌ロータ3Bの歯形70Bに応じて、雄ロータ2Bの歯先(雌ロータ3Bの歯底75Bとの接触部分)の外径が軸方向の吸込側の或る第1位置(S3-S3位置)から吐出側の吐出側端面21c(D3-D3位置)へ向かって徐々に小さくなるように形成されている。すなわち、雄ロータ2Bは、軸方向の吸込側の第1位置から吐出側へ向かって先細りのテーパ状に形成されている。
【0114】
この構成の場合、図11に示す本体ケーシング4Bは、雄ロータ2Bのテーパ形状に応じて、ボア45Bの第1内周面46Bもテーパ状に形成される必要がある。そこで、本体ケーシング4Bは、組立上の関係から、メインケーシング41Bと、メインケーシング41Bの吸込側(図11中、左側)に取り付けられる吸込側ケーシング42Bとを備えている。メインケーシング41Bは、軸方向の吸込側に開口して雄ロータ2B及び雌ロータ3Bを噛み合った状態で収容可能な内部空間を有している。吸込側ケーシング42Bは、メインケーシング41Bの開口を閉塞するものであり、メインケーシング41Bと共に収容室としてのボア45Bを形成している。
【0115】
メインケーシング41Bの吐出側端部には、雄ロータ2B側の吐出側軸受6及び雌ロータ3B側の吐出側軸受8が配設されている。本体ケーシング4Bには、吐出側軸受6及び吐出側軸受8を覆うように本体カバー43Bが取り付けられている。吸込側ケーシング42Bには、雄ロータ2B側の吸込側軸受5a、5b及び雌ロータ3B側の吸込側軸受7a、7bが配設されている。雄ロータ2B側の吸込側軸受5b及び雌ロータ3B側の吸込側軸受7bは、例えば、位置決めが可能なアンギュラ玉軸受で構成されている。
【0116】
この構成の場合、吸込側ケーシング42Bの吸込側内壁面48と雄雌両ロータ2B、3Bの吸込側端面21b、31bとの間に設ける隙間(端面隙間ということがある)の調整を吸込側ケーシング42Bに配置するアンギュラ玉軸受5b、7bによって行うことができる。この構成では、雄雌両ロータ2B、3Bを本体ケーシング4Bのボア45B内に収容する前に、吸込側ケーシング42Bと雄雌両ロータ2B、3Bとの位置関係を確認しながら端面隙間の調整が可能であるので、当該隙間調整が容易である。
【0117】
次に、第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の効果について比較例の不等リードのスクリュー圧縮機と比べつつ図11図13を用いて説明する。図13は、本発明の第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機に対する比較例の不等リードのスクリュー圧縮機を示す断面図である。なお、図13において、図1図12に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0118】
図13に示す比較例の圧縮機本体100は、雄雌両ロータ200、300のロータ歯部210、310が軸方向の吸込側端面21b、31b(図12中、左端)から吐出側端面21c、31c(図12中、右端)に向かってリードが小さくなる不等リードのスクリューロータで構成されている。この場合、軸方向の吸込側から吐出側に向かうにつれてロータ歯部210、310の雄歯210a、雌歯310aの捩れがきつくなる。このため、雌ロータ300の雌歯310aの歯先の歯厚t(雌ロータ300の歯先線の延伸方向に直交する断面における厚み)は、一般的に、等リードのスクリューロータと比べると薄くなる傾向にある。雌ロータ300の雌歯310aの歯先の歯厚tが薄くなると、その分、作動室C間の差圧が増加する軸方向吐出側の位置において、作動室C間の圧縮気体の外径隙間を介した漏出が大きくなってしまう。
【0119】
本実施の形態の圧縮機本体1Bは、雄雌両ロータ2B、3Bのロータ歯部21B、31Bが軸方向の吐出側に偏った領域において軸方向の吸込側から吐出側に向かってリードが小さくなる不等リードのスクリューロータで構成されている。そこで、本実施の形態においては、図12に示すように、雌ロータ3Bの軸方向吐出側の第2歯形70Bdの歯先角度φSBdを軸方向吸込側の第1歯形70Bsの歯先角度φSBsよりも大きくなるように設定している。これにより、第1の実施の形態と同様に、雌ロータ3Bの第2歯形70Bdにおける歯先角度φSBdにより規定される吐出側の歯先部が、第1歯形70Bsの歯先角度φSBsにより規定される吸込側の歯先部よりも厚くなる。したがって、雄雌両ロータ2B、3Bが不等リードのスクリューロータで構成されているとしても、軸方向吐出側に位置する作動室C間の差圧の増加に対して外径隙間を介した圧縮気体の漏出を抑制することができる。
【0120】
さらに、本実施の形態においては、雌ロータ3Bにおける吐出側の第2歯形70Bdの歯底75Bdが吸込側の第1歯形70Bsの歯底75Bsよりも浅くなるように構成されている。このような歯形70Bの歯底75Bの変化区間では、第1の実施の形態の場合(雌歯形70の歯底75及び雄歯形60の歯先65の径方向位置が軸方向に沿って変化しない場合)と比べて、雌ロータ3Bの回転角度に対する作動室Cの容積の減少率が大きくなる。したがって、この雌歯形70Bでは、圧縮機本体1Bの設計容積比を高めることが可能であり、高圧力比の運転によって高効率化を図ることができる。また、通常圧力比で運転する場合においては、雌ロータ3Bの吐出側の歯底75Bdが吸込側の歯底75Bsよりも浅くなる分、第1の実施の形態の場合よりも、各作動室C内の作動気体が早く吐出圧力に到達するようになる。したがって、作動室C内の圧縮気体の吐出開始の時期を早めることが可能となる。この場合、吐出ポート52a(図1参照)の開口面積を拡大することが可能となるので、圧縮気体の吐出ポート52aの通過時の圧力損失の低減を図ることができる。
【0121】
なお、第3の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、雌ロータ3Bの歯形70Bは、前進面角度φLB、後進面角度φTB、歯先角度φSBについて、以下の式(7)及び式(8)を満たす必要がある。
φSBd-φSBs>0 … 式(7)
φLBs-φLBd>φTBd-φTBs … 式(8)
【0122】
このように、本実施の形態においては、雄雌ロータ2B、3Bが軸方向の吸込側から吐出側に向かってリードが小さくなる不等リードのスクリューロータであっても、雌ロータ3Bの歯形70Bにおける歯先部の形状に対応する歯先角度φSB(第3角度)を軸方向の吐出側で吸込側よりも大きくなるように設定することで、雌ロータ3Bの歯先部の厚みが吐出側で厚くなる傾向となるので、その分、軸方向の吐出側に位置する作動室C間の外径隙間を介した高圧な作動気体の漏出を抑制することができる。同時に、雌歯形70Bにおける前進面の形状に対応する前進面角度φLB(第1角度)を軸方向の吐出側で吸込側よりも小さくなるように設定することで、歯面分離の発生が抑制的になる。したがって、雌ロータ3Bと本体ケーシング(ケーシング)4Bとの間に設けられた隙間を介した作動室C間の作動気体の漏出の抑制と歯面分離振動の発生の抑制の両立を図ることができる。
【0123】
また、本実施の形態における雌ロータ3Bは、軸方向の全体のうち、軸方向の吐出側に偏った部分においてリードが変化する一方、軸方向の残りの吸込側の部分においてリードが同一である。
【0124】
この構成によれば、雄ロータ2B及び雌ロータ3Bの軸方向吸込側の部分のリードが相対的に大きく維持されているので、吸込側に位置する作動室の1回転当たりの移動距離が相対的に大きくなる。したがって、圧縮機本体1Bの吸込量を確保することができる。
【0125】
さらに、本実施の形態における雌ロータ3Bの歯形70Bは、第2位置(D3-D3位置)における歯底75Bdが第1位置(S3-S3位置)にける歯底75Bsよりも浅くなるにように設定されている。さらに、雄ロータ2Bは、雌ロータ3Bの歯形70Bに応じて、第2位置(D3-D3位置)における外径が第1位置(S3-S3位置)における外径よりも小さくなるように構成されている。
【0126】
この構成によれば、雌ロータ3Bの吐出側の歯底75Bdが吸込側の歯底75Bsよりも浅くなる分、雌ロータ3Bの回転角度に対する作動室Cの容積の減少率が大きくなるので、歯底75の径方向位置が軸方向で変化しない第1の実施の形態の場合よりも、圧縮機本体1Bの設計容積比を高めることが可能である。
【0127】
さらに、本実施の形態における雌ロータ3Bは、軸方向の全体のうち、軸方向の吐出側に偏った領域において歯形70Bの歯底75Bの径方向位置が変化する一方、軸方向の残りの吸込側の領域において歯形70Bの歯底75Bの径方向位置が同じである。
【0128】
この構成によれば、軸方向吸込側の領域では、雌ロータ3Bの作動室Cの容積の減少率が吐出側に向かって大きくなることで、作動室C内の作動気体を早く吐出圧力に到達させることができる。さらに、雌ロータ3Bの歯底75Bの径方向位置が変化しない軸方向吸込側の領域では、作動室Cの容積の減少を回避することで、吸込容積の減少を回避することができる。
【0129】
さらに、本実施の形態における圧縮機本体1Bは、雌ロータ3Bにおける軸方向の吸込側を回転可能に支持する雌ロータ3B側の吸込側軸受7a、7b(雌側軸受)と、雄ロータ2Bにおける軸方向の吸込側を回転可能に支持する雄ロータ2B側の吸込側軸受5a、5b(雄側軸受)とを備えている。さらに、本体ケーシング(ケーシング)4Bは、軸方向の吸込側に開口して雄ロータ2B及び雌ロータ3Bを噛み合った状態で収容可能な内部空間を有するメインケーシング41Bと、メインケーシング41Bの開口を閉塞するようにメインケーシング41Bに取り付けられ、メインケーシング41Bと共に収容室45を形成する吸込側ケーシング42Bとを有している。雌ロータ3B側の吸込側軸受7a、7b(雌側軸受)及び雄ロータ2B側の吸込側軸受5a、5b(雄側軸受)は、吸込側ケーシング42B内に配設されている。
【0130】
この構成によれば、吐出側に向かって先細りのテーパ状の雄ロータ2Bを本体ケーシング(ケーシング)4B内に収容可能であると共に、雄ロータ2B及び雌ロータ3Bの吸込側端面21b、31bと本体ケーシング(ケーシング)4Bの吸込側内壁面48との間に設ける端面隙間を雌ロータ3B側の吸込側軸受7a、7b(雌側軸受)及び雄ロータ2B側の吸込側軸受5a、5b(雄側軸受)によって調整することが可能となる。したがって、雄雌両ロータ2B、3Bを収容する前に、吸込側ケーシング42Bに対する雄ロータ2B及び雌ロータ3Bの位置決めによって端面隙間を調整することができるので、隙間調整が容易となる。
【0131】
[その他の実施の形態]
なお、本発明は、上述した実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。すなわち、ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0132】
例えば、上述した第1~第3の実施の形態においては、雌ロータ3、3A、3Bのロータ歯部31、31A、31Bにおける軸方向に垂直な断面の歯形70、70A、70Bの変化の開始位置である軸方向の第1位置が軸方向の略中間位置であるS1-S1位置またはS3-S3位置であると共に、歯形70、70A、70Bの変化の終了位置である第2位置が吐出側端面31cであるD1-D1位置またはD3-D3位置である構成の例を示した。しかし、雌ロータの歯形の変化の開始位置である軸方向の第1位置及び終了位置である第2位置は、運転圧力条件などに応じて任意の位置に変更することが可能である。例えば、吐出圧が高圧である場合には、雌ロータの歯先部の歯厚をより厚くするために、第1位置を吸込側へ移動させることが可能である。一方、吐出圧が低圧の場合には、第1位置を吐出側へ移動させることが可能である。
【0133】
また、雌ロータ3、3A、3Bの歯形70、70A、70Bの変化の開始位置(第1位置)をロータ歯部31、31A、31Bの吸込側端面31bに設定することも可能である。すなわち、雌ロータは、軸方向の全体の領域に亘って歯形が変化するように構成することが可能である。この構成の場合、雌ロータの歯形が途中位置から変化する場合と比べて、歯形の加工が比較的容易となる。
【0134】
また、第3の実施の形態においては、雌ロータ3Bの歯形70Bの吐出側の歯底75Bdが吸込側の歯底75Bsよりも浅くなるように変化させる構成の例を示した。しかし、第1及び第2の実施の形態の場合と同様に、雌ロータの吐出側の歯底と吸込側の歯底を同じ径方向位置とし、雌ロータの歯底が軸方向で変化しない構成も可能である。
【符号の説明】
【0135】
1、1B…圧縮機本体、 2、2B…雄ロータ、 3、3A、3B…雌ロータ、 4、4B…本体ケーシング(ケーシング)、 5a、5b…吸込側軸受(雄側軸受)、 7a、7b…吸込側軸受(雄側軸受)、 21a…雄歯、 31a…雌歯、 41B…メインケーシング、 42B…吸込側ケーシング、 45…ボア(収容室)、 60…歯形、 65…歯先、 70(s、d)、70A(s、d)、70B(s、d)…歯形(吸込側、吐出側)、 71(s、d)、71A(s、d)、71B(s、d)…第1輪郭線(吸込側、吐出側)、 72(s、d)、72A(s、d)、72B(s、d)…第2輪郭線(吸込側、吐出側)、 73(s、d)、73A(s、d)、73B(s、d)…第3輪郭線(吸込側、吐出側)、 75(s、d)、75A(s、d)、75B(s、d)…歯底(吸込側、吐出側)、 76(s、d)、76A(s、d)、76B(s、d)(s、d)…第1端点(吸込側、吐出側)、 77(s、d)、77A(s、d)、77B(s、d)…第2端点(吸込側、吐出側)、 φL(s、d)、φLA(s、d)、φLB(s、d)…前進面角度(第1角度)(吸込側、吐出側)、 φT(s、d)、φT(s、d)、φTB(s、d)…後進面角度(第2角度)(吸込側、吐出側)、 φS(s、d)、φSA(s、d)、φSB(s、d)…歯先角度(第3角度)(吸込側、吐出側)、 A1…回転中心(第1回転中心)、 A2…回転中心(第1回転中心)、 C…作動室
図1
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図13