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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】圧電素子及び当該圧電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20250109BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20250109BHJP
   H10N 30/076 20230101ALI20250109BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20250109BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20250109BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20250109BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20250109BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/87
H10N30/076
H10N30/20
C23C14/08 K
B81C1/00
G02B26/08 E
G02B26/10 104Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020183527
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073501
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 春輝
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-195343(JP,A)
【文献】特開2016-219603(JP,A)
【文献】特開2011-093788(JP,A)
【文献】特開2013-197522(JP,A)
【文献】特開2017-157773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H10N 30/87
H10N 30/076
H10N 30/20
C23C 14/08
B81C 1/00
G02B 26/08
G02B 26/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの面が平面の基板と、
前記基板の前記平面上に設けられた第1の電極膜と、
前記第1の電極膜上に設けられた正方晶の圧電結晶体膜と、
前記圧電結晶体膜の前記第1の電極膜と対向する面上に設けられた第2の電極膜と、を備え、
前記圧電結晶体膜は、前記第1の電極膜に垂直な方向に前記正方晶のc軸を配向した柱状の結晶粒からなる一軸配向の多結晶体であり、
前記多結晶体は、前記第1の電極膜に対して垂直な方向にc軸を有する垂直配向部と、
前記垂直配向部のc軸に対して傾斜したc軸を有する傾斜配向部と、を含み、
前記垂直配向部のc軸と前記傾斜配向部のc軸のそれぞれは分布を有し、前記垂直配向部のc軸分布に対して、前記傾斜配向部のc軸分布が離散しており、
前記傾斜配向部のc軸の傾斜角φは6°より大きく19°未満であり、
前記垂直配向部に対する前記傾斜配向部のX線ロッキングカーブにおける強度比Rpは0.1~1であることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記傾斜配向部のc軸は、前記垂直配向部のc軸を回転軸として0°~360°の全周方向に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記圧電結晶体膜の前記垂直配向部のc軸に対する前記傾斜配向部のc軸の傾斜角φは、6°より大きく19°未満であることを特徴とする請求項1~2の何れか1項に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記垂直配向部に対する前記傾斜配向部のX線ロッキングカーブにおける強度比Rpが0.1~1であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記圧電結晶体膜は、チタン酸ジルコン酸鉛であり、前記第1の電極膜がプラチナであることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記第1の電極膜の膜面が(111)面であることを特徴とする請求項4に記載の圧電素子。
【請求項7】
少なくとも1つの面が平面の基板の上にアモルファス状の金属酸化物を成膜する工程と、
前記金属酸化物上に成膜面が(111)面となる導電性の金属膜からなる第1の電極膜を成膜する工程と、
前記第1の電極膜上にSRO膜を成膜する工程と、
前記SRO膜上に前記第1の電極膜に対して垂直な方向に柱状の結晶粒を有する正方晶の1軸配向した多結晶体であって、
前記柱状の結晶粒に、前記第1の電極膜に対して垂直な方向にc軸を有する垂直配向部と、前記垂直配向部のc軸に対する傾斜角φが6°より大きく19°未満の範囲で傾斜したc軸を有する傾斜配向部とを有する圧電結晶体膜を成膜する工程と、
前記圧電結晶体膜の前記第1の電極膜と対向する面上に設けられた第2の電極膜を成膜する工程と、を備え
前記垂直配向部に対する前記傾斜配向部のX線ロッキングカーブにおける強度比Rpは0.1~1であることを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項8】
前記圧電結晶体膜を成膜する工程において、アーク放電反応性イオンプレーティング法を使用することを特徴とする請求項7に記載の圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向器等に用いられる圧電素子及び当該圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等の微細構造を有するシステムで構成されたセンサ素子、アクチュエータ素子のニーズが大きくなっている。このため、シリコンウエハ上に直接、圧電結晶体膜を成膜する直接薄膜形成法の開発が進んでいる。
【0003】
特に、圧電材料としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の結晶体膜を用いるMEMS用の圧電アクチュエータでは、高い圧電特性を得るため、配向制御が不可欠となっている。
【0004】
例えば、特許文献1の圧電アクチュエータは、支持体及び支持体上に形成された圧電体を有し、圧電駆動により屈曲変形を行う圧電カンチレバーを複数備えると共に、該複数の圧電カンチレバーの圧電体にそれぞれ駆動電圧を印加するための複数の電極を独立に備えている。複数の圧電カンチレバーは、各々の屈曲変形を累積するように端部が機械的に連結され、該駆動電圧の印加により各圧電カンチレバーが独立に屈曲変形される。
【0005】
前記圧電アクチュエータにおいては、圧電カンチレバーの先端部に発生するトルクと変位量は、圧電体の圧電特性とカンチレバーのサイズに依存する。すなわち、高い圧電特性を得るためには、圧電材料の結晶体膜の結晶配向制御を行うことが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-35600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、圧電アクチュエータ(圧電素子)に用いられる圧電材料であるPZT結晶体膜の結晶配向を制御して高い圧電特性を得ることは可能であったが、十分な耐久時間が得られないという課題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、圧電素子の圧電材料の結晶配向を制御しつつ耐久時間を向上させる圧電素子、及び当該圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の圧電素子は、少なくとも1つの面が平面の基板と、前記基板の前記平面上に設けられた第1の電極膜と、前記第1の電極膜上に設けられた正方晶の圧電結晶体膜と、前記圧電結晶体膜の前記第1の電極膜と対向する面上に設けられた第2の電極膜と、を備え、前記圧電結晶体膜は、前記第1の電極膜に垂直な方向に前記正方晶のc軸を配向した柱状の結晶粒からなる一軸配向の多結晶体であり、前記多結晶体は、前記第1の電極膜に対して垂直な方向にc軸を有する垂直配向部と、前記垂直配向部のc軸に対して傾斜したc軸を有する傾斜配向部と、を含み、前記垂直配向部のc軸と前記傾斜配向部のc軸のそれぞれは分布を有し、前記垂直配向部のc軸分布に対して、前記傾斜配向部のc軸分布が離散していることを特徴とする。
【0010】
本発明の圧電素子は、第1の電極膜と、当該第1の電極膜上の正方晶の圧電結晶体膜と、当該圧電結晶体膜上の第2の電極膜とを備えている。ここで、「~上」とは、下面側の膜と直接接触していない場合が含まれる。正方晶とは、単位格子の軸長a,b,cに、a=b≠cの関係がある結晶である。また、正方晶の<100>方向がa軸方向、<010>方向がb軸方向、<001>方向がc軸方向であり、<001>軸と直交する面が(001)面及びc面である。
【0011】
本発明の圧電結晶体膜(柱状の結晶粒界)は、垂直配向部と、当該垂直配向部のc軸から傾斜して配向されたc軸を有する傾斜配向部とを含むが、電圧を印加したとき(電圧昇圧時)、その特性が損なわれることなく変位し、印加を中止したとき(電圧降圧時)、元の状態に戻る。また、本発明の傾斜配向部を含む圧電結晶体膜は、垂直配向部のみからなる圧電結晶体膜よりも耐電圧が高い。また、垂直配向部のc軸分布に対して、傾斜配向部のc軸分布は離散している。これにより、圧電素子としての性能を低下させることなく、また、高い耐電圧により長期信頼性の高い圧電素子とすることができる。
【0012】
第1発明の圧電素子において、前記傾斜配向部のc軸は、前記垂直配向部のc軸を回転軸として0°~360°の全周方向に傾斜していることが好ましい。
【0013】
垂直配向部のc軸は基板の平面に垂直な方向であるが、傾斜配向部のc軸は、垂直配向部のc軸を回転軸として全周方向(0°~360°)に傾斜している。このため、傾斜配向部のc軸は、垂直配向部のc軸に対して放射方向の任意の角度に延びるようになる。
【0014】
また、第1発明の圧電素子において、前記圧電結晶体膜の前記垂直配向部のc軸に対する前記傾斜配向部のc軸の傾斜角φは、6°より大きく19°未満であることが好ましい。
【0015】
傾斜配向部のc軸の傾斜角φを6°より大きく19°未満とすることで、当該傾斜配向部を含む圧電結晶体膜は、耐電界及び耐久時間が向上するとともに、圧電特性の低下を防止することができる。
【0016】
また、第1発明の圧電素子において、前記垂直配向部に対する前記傾斜配向部のX線ロッキングカーブにおける強度比Rpが0.1~1であることが好ましい。
【0017】
当該強度比Rpを0.1~1の範囲とすることで、傾斜配向部による効果を高めつつ、圧電結晶体膜の配向乱れが大きくなって圧電特性が低下するのを防止することができる。
【0018】
また、第1発明の圧電素子において、前記圧電結晶体膜は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)であり、前記第1の電極膜がプラチナ(Pt)であることが好ましい。
【0019】
本発明では、圧電結晶体膜、第1の電極膜に、それぞれ最適な材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、プラチナ(Pt)を用いる。特に、圧電結晶体膜として圧電特性が高いPZTを用いて圧電素子を作成することで、例えば、当該圧電素子を光スキャナモジュールに適用したとき、低電圧で高速駆動し、大走査角を得ることができる。
【0020】
また、第1発明の圧電素子において、前記第1の電極膜の膜面が(111)面であることが好ましい。
【0021】
当該第1の電極膜の膜面を(111)面とすると、第1の電極膜の上面の圧電結晶体膜を成膜したとき、その結晶配向特性を向上させることができる。
【0022】
第2発明の圧電素子の製造方法は、少なくとも1つの面が平面の基板の上にアモルファス状の金属酸化物を成膜する工程と、前記金属酸化物上に成膜面が(111)面となる導電性の金属膜からなる第1の電極膜を成膜する工程と、前記第1の電極膜上にSRO膜を成膜する工程と、前記SRO膜上に前記第1の電極膜に対して垂直な方向に柱状の結晶粒を有する正方晶の1軸配向した多結晶体であって、前記柱状の結晶粒に、前記第1の電極膜に対して垂直な方向にc軸を有する垂直配向部と、前記垂直配向部のc軸に対する傾斜角φが6°より大きく19°未満の範囲で傾斜したc軸を有する傾斜配向部とを有する圧電結晶体膜を成膜する工程と、前記圧電結晶体膜の前記第1の電極膜と対向する面上に設けられた第2の電極膜を成膜する工程と、を備えていることを特徴とする。
【0023】
本発明の圧電素子の製造方法は、基板への金属酸化物を成膜、第1の電極膜の成膜、SRO膜の成膜、圧電結晶体膜の成膜、第2の電極膜の成膜のそれぞれの工程を備えている。圧電結晶体膜は、垂直配向部と、当該垂直配向部のc軸から傾斜して配向されたc軸を有する傾斜配向部(c軸の傾斜角φが6°より大きく19°未満)を含んでいる。傾斜配向部は、電圧を印加したとき(電圧昇圧時)、その特性が損なわれることなく変位し、印加を中止したとき(電圧降圧時)、元の状態に戻る。この圧電結晶体膜は、垂直配向部のみからなる圧電結晶体膜より耐電圧が高いので、圧電素子の性能を低下させることなく、また、高い耐電圧により長期信頼性の高い圧電素子とすることができる。
【0024】
第2発明の圧電素子の製造方法において、前記圧電結晶体膜を成膜する工程において、アーク放電反応性イオンプレーティング法を使用することが好ましい。
【0025】
アーク放電反応性イオンプレーティング法を用いることで、高品質で密着性の高い圧電結晶体膜を効率良く成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の圧電素子を含む光スキャナモジュールの概略図。
図2】光スキャナモジュールに含まれる二次元光偏向器の斜視図。
図3A】二次元光偏向器のミアンダ型圧電アクチュエータの動作を説明する図(1)。
図3B】二次元光偏向器のミアンダ型圧電アクチュエータの動作を説明する図(2)。
図4】二次元光偏向器の詳細を説明する図。
図5】本発明の圧電素子を製造するフローチャート。
図6】本発明の圧電素子の断面構造を説明する図。
図7図6の圧電素子のPZT膜の結晶配向イメージを説明する図。
図8】PZT膜のX線回折θ-2θ測定の結果を説明する図。
図9】PZT膜のX線ロッキングカーブ測定の結果を説明する図。
図10】PZT膜の電界とリーク電流密度との関係を示すグラフ。
図11】PZT膜の耐電界、耐久時間及び圧電定数の測定結果を、比較形態と比較した一覧表。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、図面を参照しつつ、本発明の圧電素子、また、当該圧電素子の製造方法について説明する。
【0028】
図1は、本発明の圧電素子を含む、光スキャナモジュール1の概略図である。光スキャナモジュール1は、例えば、ピコプロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ、車両用前照灯等に用いられる装置であり、主に二次元光偏向器2、レーザ光源3及び制御装置5で構成される。
【0029】
二次元光偏向器2は、半導体プロセスやMEMS技術を利用して作製され、一定の方向から入射する光を回動ミラー(マイクロミラー9)で反射することで、光を走査しつつ出射する。
【0030】
二次元光偏向器2の可動枠2aは、マイクロミラー9、半環型圧電アクチュエータ10a、10b、トーションバー(弾性梁)13a、13b等を有している。レーザ光源3から出射されたレーザ光4aは回動するマイクロミラー9に入射して反射され、走査された出射光(レーザ光4b)が、例えば、ピコプロジェクタの投影面を走査する。
【0031】
制御装置5は、図示しない配線により可動枠2a及びレーザ光源3に制御信号を送信する。この制御信号により可動枠2aの半環型圧電アクチュエータ10a、10bが駆動され、これと結合したトーションバー13a、13bが捩れることで、マイクロミラー9を回動させる。また、この制御信号により、レーザ光源3によるレーザ光4aのオン、オフや輝度が制御される。
【0032】
図2に示すように、二次元光偏向器2では、外枠支持体11の中央に可動枠2aが配設されている。また、可動枠2aの両脇には、ミアンダ型圧電アクチュエータ6a、6bが配設され、可動枠2aの外辺と外枠支持体11の内辺とが結合されている。
【0033】
ミアンダ型圧電アクチュエータ6a、6bは、複数のカンチレバーを長手方向が隣り合う向きに並列させ、上下方向端部で折り返して直列結合した構造になっている。詳細は後述するが、ミアンダ型圧電アクチュエータ6a、6bも制御装置5の制御信号によって駆動させることにより、可動枠2aが水平方向、すなわち、図中のX軸周りを往復回動する。
【0034】
また、上述したように、半環型圧電アクチュエータ10a、10bを駆動させることにより、マイクロミラー9がトーションバー13a、13bの軸と一致する、図中のY軸周りを往復回動する。
【0035】
この結果、二次元光偏向器2は、レーザ光4aをマイクロミラー9で反射する際、光を二次元光偏向器2の前方に出射して、さらにX軸方向とY軸方向の2方向に走査することができる。
【0036】
ミアンダ型圧電アクチュエータ6a、6b及び半環型圧電アクチュエータ10a、10bの点描画部分で示した部分は、圧電結晶体膜が形成された圧電素子の領域である。詳細は後述するが、当該圧電結晶体膜は、配向軸に沿って配向された垂直配向部と、当該配向軸に対して所定の傾斜角で配向された傾斜配向部とで構成される。これにより、上記圧電アクチュエータに形成された圧電素子は、圧電特性が高く、長期信頼性も高い圧電素子となっている。
【0037】
外枠支持体11の下方には、電極パッド7a~7e(以下、電極パッド7という)と、電極パッド8a~8e(以下、電極パッド8という)が配設されている。電極パッド7、8は、ミアンダ型圧電アクチュエータ6a、6b及び半環型圧電アクチュエータ10a、10bの各電極に駆動電圧を印加できるように電気的に接続されている。
【0038】
なお、ミアンダ型圧電アクチュエータ6a、6bはなくても光偏向器として機能する。この場合、可動枠2aの部分が外枠支持体の役割を果たし、マイクロミラー9がY軸の回りを往復回動する一次元光偏向器となる。
【0039】
次に、図3A図3Bを参照して、ミアンダ型圧電アクチュエータ6aを例に、その動作を説明する。
【0040】
上述したように、二次元光偏向器2は、ミアンダ型圧電アクチュエータ6a、6b(以下、圧電アクチュエータ6a、6bという)を動作させることにより、マイクロミラー9のX軸周りの往復回動を可能としている。
【0041】
図3Aは、図2の二次元光偏向器2を表側(上面視において、点描画部分で示した圧電結晶体膜が見える側を称す。また、「上方向」と称することもある。)から見たとき、左側に配設される圧電アクチュエータ6aを切り出した図である。圧電アクチュエータ6aは、圧電カンチレバーを4つ並べた形状である。また、各圧電カンチレバーは、主に、圧電結晶体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O)の圧電結晶体膜とそれを挟む電極膜とで構成され、圧電素子を有している(詳細は後述する)。以下では、可動枠2aから離れた方より順に、圧電カンチレバー6a(1)、6a(2)、6a(3)、6a(4)と呼ぶ。
【0042】
例えば、ミアンダ型圧電アクチュエータ6aにおいて、奇数番目の圧電カンチレバー6a(1)、6a(3)に第1の電圧を印加する。また、偶数番目の圧電カンチレバー6a(2)、6a(4)に、第1の電圧とは逆位相の第2の電圧を印加する。
【0043】
このようにすることで、図3Bに示すように、奇数番目の圧電カンチレバー6a(1)、6a(3)を上方向に屈曲変形(図3Bでは、凸状)させ、偶数番目の圧電カンチレバー6a(2)、6a(4)を下方向に屈曲変形(図3Bでは、凹状)させることができる。
【0044】
図示しないが、圧電アクチュエータ6bについては、可動枠2aに近い方より順に、圧電カンチレバー6b(1)、6b(2)、6b(3)、6b(4)とする。このとき、奇数番目の圧電カンチレバー6(1)、6(3)を下方向に屈曲変形させ、偶数番目の圧電カンチレバー6(2)、6(4)を上方向に屈曲変形させることができる。
【0045】
これにより、マイクロミラー9の下側(トーションバー13b側)が押し上げられ、マイクロミラー9の上側(トーションバー13a側)が押し下げられ(可動枠2aがX軸を中心にしてU方向に動く)ように、マイクロミラー9を変位させることができる。同様に、圧電カンチレバー6a(1)~(4)、6b(1)~(4)に逆の電圧を印加することで、マイクロミラー9を逆方向に変位させることができる。このようにして、マイクロミラー9をX軸周りに回動させることができる。
【0046】
次に、図4を参照して、可動枠2aの詳細を説明する。
【0047】
図4は、可動枠2aを斜め前方から見た斜視図である。初期状態において、マイクロミラー9は、中心Oから表側に延び出す法線をまっすぐ前方に向けている。
【0048】
円形のマイクロミラー9は、Y軸方向のトーションバー13a、13bに支持され、可動枠2aの中心に配設される。マイクロミラー9の反射面は金(Au)、プラチナ(Pt)、アルミニウム(Al)等の金属薄膜を、例えば、スパッタリング法や電子ビーム蒸着法により形成する。なお、マイクロミラー9の形状は円形に限られず、楕円形やその他の形状であってもよい。
【0049】
トーションバー13a、13bは、一端がマイクロミラー9、他端が半環型圧電アクチュエータ10a、10b(以下、圧電アクチュエータ10a、10bという)との結合部を越えて、可動枠2aと結合している。このように、トーションバー13a、13bが可動枠2aと結合していることで、Y軸周りの往復回動が安定する。
【0050】
圧電アクチュエータ10a、10bは、マイクロミラー9を外側から包囲する位置に配設される。圧電アクチュエータ10a、10bは、Y軸上でトーションバー13a、13bと結合し、X軸上で外枠支持体11の一部である固定バー14a、14bと結合している。
【0051】
詳細は後述するが、圧電アクチュエータ10a、10bも、半導体プレーナプロセスにより、PZTの圧電結晶体膜を下部電極及び上部電極で挟み込んだ圧電素子構造となっている。下部電極、上部電極を介して圧電結晶体膜に電圧を印加することで、圧電アクチュエータ10a、10bを屈曲変形させ、トーションバー13a、13bを捩る仕組みである。
【0052】
圧電アクチュエータ10a、10bには、それぞれY軸に対して45°傾いた直線上に分断溝18が形成されており、圧電結晶体膜が周方向に分断されている。また、トーションバー13a、13bは、Y軸上に延びているので、この位置でも圧電結晶体膜が周方向に分断されている。
【0053】
MEMS技術による可動枠2aの作製時には、まず、トーションバー13a、13bの部分を含めた全周に、圧電アクチュエータ10a、10b用の圧電結晶体膜を一律に形成する。その後、エッチングによりトーションバー13a、13bの部分、分断溝18の部分の圧電結晶体膜を除去する。
【0054】
圧電アクチュエータ10aは、2つの分断溝18により上側から順番に区域16a~16cに分けられる。一方、圧電アクチュエータ10bは、2つの分断溝18により上側から順番に区域17a~17cに分けられる。
【0055】
これにより、区域16a~16c、17a~17cの圧電結晶体膜には、個別に駆動電圧を印加可能になる。例えば、区域16a、16c、17bに所定の電圧V1を印加し、区域16b、17a、17cにV1とは逆位相となる電圧V2を印加することにより、マイクロミラー9をY軸回りに揺動させることができる。また、上記のように圧電結晶体膜を分離することで、分離しない場合の約半分の電圧で同じ振れ角が得られ、消費電力を抑えられる。また、トーションバー13a,13bによる捩じれバネの作用、反作用の効果も加わり、消費電力を抑えることができる。
【0056】
次に、図5図7を参照して、各圧電アクチュエータに形成されている圧電素子の構造、及びその製造方法について説明する。
【0057】
図5は、当該圧電素子を製造するフローチャートである。また、図6は、図5の製造方法で製造された圧電素子30の断面構造を示しており、図7は、圧電素子30のPZT膜25の結晶配向イメージを示している。
【0058】
まず、厚さ400μmのシリコン(Si)基板20の上面に、膜厚が約1μmの酸化ケイ素(SiO)膜21が成膜された板状のSiコア基板27を用意する(図6参照)。そして、Siコア基板27上に、密着層としての膜厚が5nmの金属酸化物からなるアモルファス状の酸化チタン(TiO)膜22を、スパッタリング法により常温(例えば、20℃~30℃)にて成膜する(STEP01)。なお、成膜する温度とは、成膜対象であるSiコア基板27の温度である。
【0059】
続けて、TiO膜22の上面に、下部電極(第1の電極)として膜厚が200nmの導電性のPt膜23を、スパッタリング法により温度400℃にて成膜する(STEP02)。この工程では、Pt膜23の(111)面反射(回折)におけるX線ロッキングカーブのメインピークの半値幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)が、3°≦FWHM≦10°となるように配向制御する。
【0060】
続けて、Pt膜23の上面にバッファ層として膜厚が20nmのペロブスカイト構造のSrRuO(SRO)膜24を、スパッタリング法(RFマグネトロンスパッタ)により温度750℃にて成膜する(STEP03)。
【0061】
本発明においては、アモルファス状のTiO膜22、(111)面のX線ロッキングカーブのFWHMが3°~10°のPt膜23、及びバッファ層としてのSRO膜24を同一装置で成膜することが望ましい。または、ロードロック室で連結された装置によって、前述の各工程で成膜した膜が大気に暴露されずに成膜されることが望ましい。この操作により、次工程で成膜するPZT膜25の結晶配向特性を向上させることができる。
【0062】
次に、SRO膜24の上面に圧電結晶体膜として膜厚が4~5μmの正方晶のPZT膜25を、アーク放電反応性イオンプレーティング(ADRIP:Arc Discharge Reactive Ion Plating)法により温度550℃にて成膜する(STEP04)。
【0063】
アーク放電反応性イオンプレーティング法は、真空アーク放電によりターゲット(PZT)を蒸発又はイオン化させて成膜する方法である。アーク放電の特性により、緻密で密着性の良い皮膜を形成することできるため、量産性やプロセス安定性に優れる。
【0064】
最後に、PZT膜25の上面に、上部電極(第2の電極)として膜厚が120nmのPt膜26を、スパッタリング法により成膜する(STEP05)。これにより、上述のミアンダ型圧電アクチュエータ6a,6b、半環型圧電アクチュエータ10a,10b等に用いられる圧電素子30が完成する。
【0065】
以上の各工程によって、図6に示すように、Si基板20とSiO膜21とからなるSiコア基板27上面に、密着層としてのTiO膜22、その上面の下部電極(LE:Lower Electrode)としてのPt膜23、Pt膜23上面のバッファ層としてのSRO膜24、その上面のPZT膜25、その上面の上部電極(UE:Upper Electrode)としてのPt膜26が積層された圧電素子30が形成される。
【0066】
このようにして成膜した圧電素子30のPZT膜25は、下部電極としてのPt膜23(SRO膜24)面に対して垂直方向に柱状なPZT結晶粒子が複数結着した多結晶体の膜となっている。つまり、圧電素子30は、下部電極としてのPt膜23面と上部電極としてのPt膜26面の間に柱状結晶粒子群からなるPZT膜25が配置された構造となっている。
【0067】
次に、図7を参照して、PZT膜25の結晶配向について説明する。
【0068】
PZT膜25を形成するPZT結晶は正方晶であり、<100>方向をa軸、<010>方向をb軸、<001>方向をc軸とした場合に、a軸とb軸は直交し、c軸はa軸とb軸を含む平面に対して直交している。また、正方晶のc軸方向が長く、当該c軸方向に分極している。
【0069】
図7は、PZT膜25を構成するPZT結晶の2つの垂直配向部25a、25aと、2つ傾斜配向部25b、25b’を模式的に示した図である。垂直配向部25a、25aと傾斜配向部25b、25b’の各々は、PZT膜25を形成する多結晶体膜の結晶粒子1単位に相当する。また、垂直配向部25a、25aと傾斜配向部25b、25b’のそれぞれが、多結晶体の1単位に併存していてもよい。
【0070】
なお、以降の説明において、2つの垂直配向部25a、25aが等価の場合は単に「垂直配向部25a」と記載し、2つの傾斜配向部25b、25b’が等価な場合は単に「傾斜配向部25b」と記載する。
【0071】
2つの垂直配向部25aは、Pt膜23(SRO膜24)の平面に対して垂直な方向にPZT結晶のc軸が配向している。また、傾斜配向部25bは、垂直配向部25aのc軸に対して傾斜角φ(例えば、φ=10°)だけc軸が傾斜して配向している。
【0072】
図7においては、結晶格子を傾斜させた模式図となっているが、柱状のPZT結晶粒子が結着したPZT膜25においては、柱状のPZT結晶粒子の内部配向軸だけが垂直又は傾斜している。また、図示していないが、傾斜配向部25bのc軸は、垂直配向部25aのc軸に対して、放射方向の任意の角度(0°~360°の全周方向)に傾斜している。傾斜配向部25bは、垂直配向部25aからなるPZT結晶膜中に散在(分散)している。
【0073】
PZT膜25に含まれる各々のPZT結晶のa軸(b軸)は、Pt膜23(SRO膜24)面に対して垂直方向に配向したc軸を回転軸として様々な方向を向いている。すなわち、PZT膜25は、一軸配向の多結晶体となっている。
【0074】
また、垂直配向部25a及び傾斜配向部25bの各々のc軸は、例えば、正規分布等の傾き分布を有している。以降において、垂直配向部25aのc軸及び傾斜配向部25bのc軸と述べる場合は、各々のc軸分布における代表値として述べる(主c軸と述べる場合もある)。
【0075】
このような一軸配向の多結晶体からなるPZT膜25を挟む下部電極(Pt膜23)と上部電極(Pt膜26)に、第1の極性(第2の極性)の電圧を印加すると、c軸が伸長(又は圧縮)し、c軸に直交する面が等方的に圧縮(又は伸長)する。これにより、圧電素子30が形成された圧電アクチュエータ6a,6b,10a,10bが前述したように動作する。また、PZT膜25は膜面方向に等方的に圧縮(又は伸長)するので、いかなる形状の圧電アクチュエータにも用いることができる。
【0076】
以上、本実施形態の垂直配向部25aと傾斜配向部25bとを含むPZT結晶からなるPZT膜25について述べたが、垂直配向部と傾斜配向部を含む一軸配向した柱状の多結晶体からなる圧電体膜であればよく、PZT結晶に限定されるものではない。例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸鉛(PbTiO)、(NaK)NbO等が挙げられる。
【0077】
また、本実施形態の垂直配向部25aと傾斜配向部25bとを含む一軸配向した柱状の多結晶体からなるPZT膜25は、Siコア基板27上にアモルファス状のTiO膜22を成膜する工程(STEP01)と、(111)面のX線ロッキングカーブのFWHMが3°~10°であるPt膜23(下部電極)を成膜する工程(STEP02)と、SRO膜24からなるバッファ層を成膜する工程(STEP03)で形成した積層膜上に、PZT結晶(圧電体膜)を成膜する工程(STEP04)によって形成することができる。
【0078】
上記実施形態の製造方法は一例に過ぎず、垂直配向部と傾斜配向部を含む一軸配向した柱状の多結晶体からなる圧電体膜が得られればよいため、本実施形態の製造方法に限定されるものではない。
【0079】
次に、比較形態の圧電素子の構造及び成膜方法について説明する。なお、比較形態の圧電素子は、実施形態の圧電素子30の製造方法に対して、TiO膜を成膜(STEP01)した後に、TiO膜をアニールすること、また、Pt膜を高温にて成膜することのみが異なる。以下では、相違点について説明する。
【0080】
比較形態のPZT膜は、TiO膜をスパッタリング法で常温(例えば、20℃~30℃)にて成膜した後、TiO膜をアニール装置により、温度750℃にてアニールしてルチル型の結晶構造とする。
【0081】
さらに、TiO膜の上面に、下部電極として、膜厚が200nmのPt膜をスパッタリング法により、温度約800℃にて成膜する。このようにして成膜したPt膜の(111)面のX線ロッキングカーブのFWHMは3°未満となる。これにより、当該Pt膜の成膜以降を実施形態と同じ条件で成膜したPZT膜は、垂直配向部のみで構成される。
【0082】
次に、図8図11を参照して、本実施形態の圧電素子30(PZT膜25)と比較形態の圧電素子の各種測定データについて説明する。
【0083】
図8は、PZT膜25をX線回折θ-2θ測定法で測定した結果を示している。本測定においては、上部電極(Pt膜26)がX線を遮蔽するために、上部電極を設けていない圧電素子を用いている。また、上部電極としてのPt膜26を成膜した後に、Pt膜26を一部エッチングした圧電素子を用いてもよい。なお、上部電極を設けなくてもPZT膜25の結晶配向特性が変わることはない。
【0084】
X線回折(XRD:X-Ray Diffraction)のθ-2θ測定法とは、結晶面間隔に基づくX線のブラッグ反射を利用して結晶を解析する手法である。具体的には、試料の水平方向の結晶面を基準にX線を角度θで入射させ、試料から反射(回折)してくるX線のうち入射X線の入射角θに対して角度2θの反射X線を検出し、その反射X線強度を調べる方法である。なお、試料の水平方向面を基準とした場合、X線の入射角はωとなるので、ω-2θと表記されることもある。
【0085】
図8において、横軸は反射X線の角度2θ[deg]、縦軸は反射X線強度Intensity([cps:counts per sec])である。また、走査角は20°~50°とし、入射X線にはCu-Kα1を用いている。
【0086】
図示するように、本実施形態のPZT膜25のθ-2θ測定の反射X線強度カーブは、21.82°にPZT結晶の(001)面(c軸の直交面)と、44.44°にPZT結晶の(002)面(c軸直交面)の反射ピークだけが検出されている。また、39.70°に下部電極であるPt膜23の(111)面の反射ピークが検出されている。このように、PZT膜25のPZT結晶がPt膜23の(111)面に対して、c軸配向のみとなっていることが分かる。
【0087】
また、比較形態のPZT膜も、実施形態と同様にPZT膜の(001)面反射、(002)面反射、及びPt膜の(111)面反射のピークのみが観察された(図示省略)。このことから、比較形態のPZT膜もPt膜の(111)面上にSRO膜を介してc軸配向していることが確認された。
【0088】
次に、図9を参照して、PZT膜25のX線ロッキングカーブ測定の結果を説明する。
【0089】
X線ロッキングカーブ測定とは、結晶の特定面の反射が得られるようにX線の入射角θと、検出器の反射角2θを固定し、試料台(PZT膜)を入射方向から反射方向にスキャン(ωスキャン)して、得られたX線反射強度カーブ(ロッキングカーブ)から結晶面(c面)の配向分布、つまりは結晶面に直交した結晶配向軸の分布を調べる手法である。
【0090】
図9は、実施形態のPZT膜25と比較形態のPZT膜の(001)面のロッキングカーブを示している。ここで、横軸は反射X線強度が最大となる角度ωを基準(0°)とした相対角度Δω[deg]であり、縦軸は反射X線強度Intensity[cps](リニアスケールで、目盛りは2000cps刻み)である。また、実線が実施形態のPZT膜25のロッキングカーブであり、破線が比較形態のPZT膜のロッキングカーブである。なお、比較形態の反射X線強度は、実施形態の最大値と同じになるように倍率を調整してある。
【0091】
実施形態のPZT膜25のロッキングカーブ(実線)は、Δω=0°にピーク(メインピークPm)を有する主峰と、Δω=±10°の2箇所に、主峰とは異なるピーク(サブピークPs)を有する副峰とからなる。主峰と2つの副峰のFWHMは、それぞれ5.0°と8.36°であった。また、メインピークPmに対するサブピークPsの反射X線の強度比Rp(IntPs/IntPm)は、Δω=10のサブピークPsのRpで0.25(2811/11314)、Δω=-10のサブピークPsのRpで0.30(3358/11314)であった。
【0092】
PZT膜25は、何れの場所においても、また、PZT膜25を回転しても略同等のロッキングカーブが得られる。つまり、PZT膜25の膜面において、垂直配向部25aと傾斜配向部25bは均等に形成されている。
【0093】
また、ロッキングカーブの主峰のピーク(メインピークPm)をΔω=0°としたときの副峰のピーク(サブピークPs)位置Δωpsは、垂直配向部25aの主c軸に対する傾斜配向部25bの主c軸の傾き角度φに相当する。つまり、本実施形態において|Δωps|=φ(ここでは10°)となる。
【0094】
以上から、垂直配向部25aはFWHMが5.0°となるc軸の傾き分布を有し、傾斜配向部25bはFWHMが8.36°となるc軸の傾き分布を有する結晶群である。両結晶群は、それぞれメインピークPmとサブピークPsに相当するc軸配向を分布の中心とする離散した結晶群となっている。また、傾斜配向部25bのc軸は、垂直配向部25aのc軸に対して0°~360°の全周方向に傾斜している。また、垂直配向部25aに対する傾斜配向部25bの存在比率は、逆圧電効果を損なうことのない存在比率としている(ここでは、Rp=0.25及び0.30)。
【0095】
一方、比較形態のPZT膜のロッキングカーブ(破線)は、Δω=0°において(001)面に基づく単峰の反射ピークのみを有している。なお、反射ピークのFWHMは、3.1°であった。つまり、比較形態のPZT膜のPZT結晶は垂直配向部のみからなり、当該垂直配向部は実施形態より狭いc軸の傾き分布を有する結晶群である。言い換えれば、比較形態のPZT膜は、PZT結晶の結晶配向の整然性が優れたPZT膜である。
【0096】
図10は、PZT膜25の電界とリーク電流密度の関係を示すグラフである。
【0097】
図10において、横軸は、圧電素子30の下部電極(Pt膜23)と上部電極(Pt膜26)に電圧を印加した場合のPZT膜25にかかる電界[V/μm]、縦軸は電圧印加時のリーク電流密度[nA/cm]である。なお、実施形態の圧電素子30の電界とリーク電流密度の関係を実線で示し、比較形態の圧電素子の電界とリーク電流密度の関係を破線で示した。
【0098】
本測定は圧電素子のPZT膜をポーリング(分極処理)した後に、電圧の昇圧側(上側カーブ)を測定し、続けて降圧側(下側カーブ)を測定している。電圧の印加は0[V]→測定電圧1→0[V]→測定電圧2→・・・のパターンで実施している。また、印加電圧は不安定領域を避け、電界が2.0[V/μm]以上となる領域で行っている。
【0099】
実施形態の圧電素子30では、電圧昇圧時(実線の上側カーブ)において、第1の方向(正の値)に約30[nA/cm]のリーク電流を示す。次に、電圧降圧時(実線の下側カーブ)において、電界10.0~8.0[V/μm]で第1の方向(正の値)に流れるリーク電流が減少し、電界8.0[V/μm]でリーク電流が0となり、電界8.0~2.0[V/μm]において、第2の方向(負の値)に流れるリーク電流が増大する。換言すれば、圧電素子30は、不安定領域を除き、電圧降圧時にリーク電流の極性反転を起こす。なお、リーク電流の極性反転が電圧降圧時に直ちに起きないのは、圧電結晶のヒステリシスが原因と考えられる。
【0100】
一方、比較形態の圧電素子では、電圧昇圧時(破線の上側カーブ)において、第1の方向(正の値)に約70[nA/cm]のリーク電流を示す。次に、電圧降圧時(破線の下側カーブ)においては電界10.0~2.0[V/μm]で第1の方向(正の値)に流れるリーク電流は、約70~0[nA/cm]へと減少する。
【0101】
以上のように、実施形態の圧電素子30においては、電極(Pt膜23、Pt膜26)に電圧を印加したとき、リーク電流は電圧昇圧時に大きく、降圧時に小さくなる。さらに、降圧時の速い段階からリーク電流の流れる方向が反転して増大する。一方、比較形態の圧電素子においては、リーク電流は電圧昇圧時に大きく、降圧時に小さくなるに止まる。
【0102】
このような電圧降圧時にリーク電流の流れる方向が反転して増加する特性は、実施形態の圧電素子30に逆圧電効果(圧電素子の変形)を及ぼした際のPZT膜25の結晶変形時における耐リーク電流特性が向上したことが原因と考えられる。
【0103】
最後に、図11に、実施形態の圧電素子30と比較形態の圧電素子の動作限界電界となる耐電界、及び二次元光偏向器2に用いるミアンダ型圧電アクチュエータ6a,6bと半環型圧電アクチュエータ10a,10bの動作条件を模した耐久試験での耐久時間及び圧電定数d31の測定結果を比較した一覧表を示す。
【0104】
実施形態の圧電素子30の耐電界、耐久時間、圧電定数d31は、それぞれ21.8[V/μm]、4000h以上、152[pm/V]である。一方、比較形態の圧電素子の耐電界、耐久時間、圧電定数d31は、それぞれ14.0[V/μm]、1000h以下、152[pm/V]である。耐電界と耐久時間の何れも、比較形態の圧電素子と比較して向上している。また、圧電定数d31は、傾斜配向部25bを設けた実施形態の圧電素子30であっても、比較形態の圧電素子と同等の特性が得られている。
【0105】
本実施形態の圧電素子30は、以下に記載の構造よって耐電界、及び耐久時間を向上させている。
【0106】
第1に、本実施形態のPZT膜25を形成するPZT結晶を、Pt膜23(SRO膜24)の膜面に対して直交する方向に正方晶のc軸を配向させた柱状の一軸配向の多結晶体としたことによる(a軸とb軸の方向は任意)。第2に、柱状の一軸配向の多結晶体に、垂直配向部25aと傾斜配向部25bを設けたことによる。また、傾斜配向部25bをPZT膜25の膜面に分散させたことによる。第3に、垂直配向部25aのc軸と、傾斜配向部25bのc軸に、傾き分布を設けたことによる(主峰と副峰のそれぞれに軸分布がある)。
【0107】
上述の構造により、PZT膜25に電界を加えてPZT結晶を変形させた際に発生する膜歪みを、PZT膜25の全体に分散させて緩和できるので、耐電界性を向上させると同時に、耐久時間を延ばすことができる。特に、垂直配向部25aのc軸に対して、傾斜配向部25bのc軸を角度φだけ離間(離散)して設けることで、耐リーク電流特性が向上するので、耐久時間を延ばすことができる。
【0108】
耐電界及び耐久時間を向上させるには、傾斜配向部25bのc軸の傾斜角φを6°より大きく19°未満とすることが好ましい。傾斜配向部25bのc軸の傾斜角φを6°以下とした場合、垂直配向部25aのc軸の角度分布に同化して耐電界及び耐久時間が低下するからである。また、傾斜配向部25bのc軸の傾斜角φを19°以上とした場合、<111>軸が現れ、PZT膜の圧電特性が低下するからである。また、傾斜配向部25bのc軸の角度分布を考慮すると、傾斜角φは7°以上13°以下が好適である。
【0109】
また、PZT膜25の傾斜配向部25bの存在比は、反射X線の強度比Rpが0.1~1であることが好ましい。Rpが0.1未満の場合は、傾斜配向部25bによる効果が得られない。また、Rpが1より大きい場合は、PZT膜25のc軸配向乱れが大きくなり過ぎて、圧電定数d31 低下するからである。好適なRpは、傾斜配向部25bによる耐電界特性の向上が飽和する0.15以上、又は向上した耐久寿命値が低下しない0.45以下がよい。
【0110】
以上より、実施形態の圧電素子30のPZT膜25を形成するPZT結晶は、Pt膜23(SRO膜24)の平面に対して直交する方向にc軸を有する垂直配向部25aと、当該c軸に対して角度φだけ傾斜(チルト)したc軸を有する傾斜配向部25bとを含むことで、高い耐電圧、優れた耐久時間、及び損なうことのないd31の圧電定数を可能としている。これにより、本発明の圧電素子30は、信頼性の高い二次元光偏向器を提供することができる。
【0111】
また、実施形態の圧電素子30の耐電圧及び耐久時間を向上させたことにより、例えば、圧電素子30に高い電圧(電界)を印加してアクチュエータの可動範囲を大きくすることもできる。
【0112】
以上、本発明を実施するための実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更することができる。
【0113】
例えば、図6において、圧電素子30を構成する薄膜の厚みや成膜の方法は一例に過ぎず、変更可能である。圧電結晶体膜は、PZT以外の圧電特性を有する材料でもよい。また、密着層としてのTiO膜22やバッファ層としてのSRO膜24は本発明の圧電素子の必須の構成ではなく、なくてもよい。
【符号の説明】
【0114】
1…光スキャナモジュール、2…二次元光偏向器、3…レーザ光源、5…制御装置、6a,6b…ミアンダ型圧電アクチュエータ、9…マイクロミラー、10a,10b…半環型圧電アクチュエータ、20…Si基板、21…SiO膜、22…TiO膜、23…Pt膜(下部電極)、24…SRO膜、25…PZT膜、25a…垂直配向部、25b,25b’…傾斜配向部、26…Pt膜(上部電極)、27…Siコア基板、30…圧電素子。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11