(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】X線遮蔽組成物及びX線遮蔽組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
G21F 1/10 20060101AFI20250109BHJP
G21F 1/08 20060101ALI20250109BHJP
G21F 1/06 20060101ALI20250109BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20250109BHJP
B29B 7/64 20060101ALI20250109BHJP
B29B 7/62 20060101ALI20250109BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20250109BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G21F1/10
G21F1/08
G21F1/06
C08J3/20 B CEQ
B29B7/64
B29B7/62
C08K3/01
C08L21/00
(21)【出願番号】P 2020213941
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】393002634
【氏名又は名称】キヤノン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 優佑
(72)【発明者】
【氏名】谷口 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】東木 裕介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 正幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃久
【審査官】大谷 純
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-501084(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111849175(CN,A)
【文献】特開2019-056640(JP,A)
【文献】特開2017-173296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 1/00-7/06
C08J 3/20
B29B 7/64
B29B 7/62
C08K 3/01
C08L 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材を備えるX線遮蔽組成物であって、
前記ゴム材に混合され、タングステン、タングステン化合物の少なくとも一つを含む第1の遮蔽材と、
前記ゴム材に混合され、ビスマス、
酸化ビスマ
スの少なくとも一つを含む第2の遮蔽材と、を備え、
前記X線遮蔽組成物に対する、前記第1の遮蔽材と前記第2の遮蔽材とから構成されるX線遮蔽材の割合は、40体積%以上、60体積%以下であり、
前記第1の遮蔽材と前記第2の遮蔽材との体積比率は、0.5:9.5~8:2の範囲内であり、
前記X線遮蔽組成物は、厚み1.5mmでのX線遮蔽率が93.9%以上である、
X線遮蔽組成物。
【請求項2】
前記第1の遮蔽材と前記第2の遮蔽材との体積比率は、3:7~8:2の範囲内である、
請求項1に記載のX線遮蔽組成物。
【請求項3】
前記X線遮蔽組成物に対する前記ゴム材の割合は、20体積%以上、50体積%未満である、
請求項1または2に記載のX線遮蔽組成物。
【請求項4】
前記第2の遮蔽材は、酸化ビスマスである、
請求項1~3のいずれか1項に記載のX線遮蔽組成物。
【請求項5】
補強用フィラーが、0.5体積%以上、2.0体積%未満で含有された、
請求項1~4のいずれか1項に記載のX線遮蔽組成物。
【請求項6】
前記X線遮蔽組成物は、三酸化ランタンを含まない、
請求項1~
5のいずれか1項に記載のX線遮蔽組成物。
【請求項7】
ゴム材と、タングステン、タングステン化合物の少なくとも一つを含む第1の遮蔽材と、ビスマス、
酸化ビスマ
スの少なくとも一つを含む第2の遮蔽材とを備えたX線遮蔽組成物の製造方法であって、
前記X線遮蔽組成物に対する、前記第1の遮蔽材と前記第2の遮蔽材とから構成されるX線遮蔽材の割合を、40体積%以上、60体積%以下とし、前記第1の遮蔽材と前記第2の遮蔽材との体積比率を、0.5:9.5~8:2の範囲内とし、前記ゴム材、前記第1の遮蔽材、及び前記第2の遮蔽材を、ミキシングロールにより混練する混練工程と、
前記混練によって製造された組成物を架橋する架橋工程と、を有し、
前記X線遮蔽組成物は、厚み1.5mmでのX線遮蔽率が93.9%以上である、
X線遮蔽組成物の製造方法。
【請求項8】
前記第1の遮蔽材と前記第2の遮蔽材との体積比率は、3:7~8:2の範囲内である、
請求項
7に記載のX線遮蔽組成物の製造方法。
【請求項9】
前記X線遮蔽組成物に対する前記ゴム材の割合は、20体積%以上、50体積%未満である、
請求項
7または
8に記載のX線遮蔽組成物の製造方法。
【請求項10】
前記第2の遮蔽材は、酸化ビスマスである、
請求項
7~
9のいずれか1項に記載のX線遮蔽組成物の製造方法。
【請求項11】
前記架橋工程は、X線遮蔽組成物に対して補強用フィラーを、0.5体積%以上、2.0体積%未満で含有する、
請求項
7~
10のいずれか1項に記載のX線遮蔽組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、X線遮蔽組成物及びX線遮蔽組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線を遮蔽する材料(X線遮蔽材)として鉛が広く利用されてきた。鉛は、X線遮蔽用途であればRoHS(Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment)指令の適用除外となっているものの、その他の用途では環境毒性の観点からRoHS指令の対象となっている。このため、X線遮蔽材としても鉛の利用は控える傾向にあり、鉛に代わるX線遮蔽材を含むX線遮蔽組成物が種々提案されている。
【0003】
鉛に代わる材料としては、例えば、タングステンがあり、粉末状に加工されたタングステンをゴム材と混合したX線遮蔽組成物が知られている。タングステンは、X線遮蔽性は高いが、比重が大きく、難削材であるため、粉末加工しにくく、製錬・精製時のCO2排出量が多い。その他のX線遮蔽材としては、ビスマス、モリブデン、バリウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ等がある。これらは、タングステンよりも粉末加工しやすく、製錬・精製時のCO2排出量は少ないが、X線遮蔽性が低い。
【0004】
一方、タングステンのX線遮蔽性と、その他のX線遮蔽材の加工性を相補的に利用して、ゴム材と混合したX線遮蔽組成物を生成しようとした場合、ロール混練機(ミキシングロール)によるロール加工性の問題が生じる。具体的には、タングステンおよびその他のX線遮蔽材をゴム材と混合させる際に、ゴム材がロールに巻き付かなくなって垂れ下がる現象(バギング)やゴム材がロールに貼り付いてしまう現象が発生することがある。このような現象が発生すると、X線遮蔽組成物において双方のX線遮蔽材が均一に分散されず、所望(例えば、鉛と同等以上)のX線遮蔽性が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2004-531730号公報
【文献】特開2001-083288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、X線遮蔽性及びロール加工性の双方の観点で良好なX線遮蔽組成物を提供することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ゴム材を備えるX線遮蔽組成物であって、第1の遮蔽材と、第2の遮蔽材と、を備える。第1の遮蔽材は、ゴム材に混合され、タングステン、タングステン化合物の少なくとも一つを含む。第2の遮蔽材は、ゴム材に混合され、ビスマス、ビスマス化合物、モリブデン、モリブデン化合物、バリウム、バリウム化合物、ジルコニウム、ジルコニウム化合物、タンタル、タンタル化合物、ニオブ、ニオブ化合物の少なくとも一つを含む。X線遮蔽組成物は、X線遮蔽組成物に対する、第1の遮蔽材と第2の遮蔽材とから構成されるX線遮蔽材の割合は、30体積%以上、70体積%以下であり、第1の遮蔽材と第2の遮蔽材との体積比率は、0.5:9.5~8:2の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、材料単体での線吸収係数について説明するための図である。
【
図2】
図2は、タングステンとビスマスとを混合した場合の線吸収係数について説明するための図である。
【
図3】
図3は、タングステンと三酸化ビスマスとを混合した場合の線吸収係数について説明するための図である。
【
図4】
図4は、ロール混練機による加工性について説明するための図である。
【
図5】
図5は、ビスマス又は三酸化ビスマスに対するタングステンの体積比率と材料密度との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、実施形態に係るX線遮蔽組成物及びX線遮蔽組成物の製造方法を説明する。なお、実施形態は、以下の実施形態に限られるものではない。また、一つの実施形態に記載した内容は、原則として他の実施形態にも同様に適用可能である。
【0010】
(実施形態)
実施形態に係るX線遮蔽組成物は、ゴム材とX線遮蔽材とが含まれる。X線遮蔽材は、第1の遮蔽材と第2の遮蔽材とを有している。X線遮蔽組成物は、例えば、CT(Computed Tomography)装置、一般X線診断装置、X線透視装置、マンモグラフィ装置、X線回診車等の各種X線診断装置に備えられる。具体的には、X線遮蔽組成物は、X線の照射野を形成するX線絞り羽根(コリメータ)に適用される。また、X線遮蔽組成物は、各種X線診断装置の筐体、X線検査室の天井、床、壁、X線撮影技師が着用する防護服等に適用されてもよい。なお、形状、サイズ、適用対象は、本実施形態に限定されるものではない。
【0011】
ゴム材は、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPR)等、X線に対して耐性が高いものが好ましい。
【0012】
第1の遮蔽材は、X線を遮蔽する材料であり、タングステン、タングステン化合物の少なくとも一つを含む。第1の遮蔽材は、第2の遮蔽材よりもX線遮蔽性が高い。また、第1の遮蔽材は、粉末状に加工されている。第1の遮蔽材は、第2の遮蔽材よりも比重が大きく、難削材であるため、粉末加工しにくく、製錬・精製時のCO2排出量が第2の遮蔽材よりも多い。
【0013】
一方、第2の遮蔽材は、X線を遮蔽する材料であり、ビスマス、ビスマス化合物、モリブデン、モリブデン化合物、バリウム、バリウム化合物、ジルコニウム、ジルコニウム化合物、タンタル、タンタル化合物、ニオブ、ニオブ化合物の少なくとも一つを含む。また、第2の遮蔽材は、粉末状に加工されている。第2の遮蔽材は、快削材(非難削材)であるため、第1の遮蔽材よりも粉末加工しやすく、製錬・精製時のCO2排出量が第1の遮蔽材よりも少ない。
【0014】
X線遮蔽組成物は、第1の遮蔽材のX線遮蔽性と、第2の遮蔽材の加工性を相補的に利用したものである。また、X線遮蔽組成物は、X線遮蔽材をゴム材と混合させる際に、ロール混練機(ミキシングロール)によるロール加工性の問題が生じないように、X線遮蔽組成物に対するX線遮蔽材の割合、第1の遮蔽材と第2の遮蔽材との体積比率が定められている。
【0015】
X線遮蔽組成物に対するX線遮蔽材の割合は、40体積%以上、60体積%以下が好ましいが、30体積%以上、70体積%以下の範囲内であればよい。また、第1の遮蔽材と第2の遮蔽材とは、3:7~8:2の体積比率が好ましいが、0.5:9.5~8:2の体積比率であればよい。
【0016】
このように構成されたX線遮蔽組成物によれば、X線遮蔽材をゴム材と混合させる際に、ゴム材がロールに巻き付かなくなって垂れ下がる現象(バギング)やゴム材がロールに貼り付いてしまう現象が発生することを抑制できる。これにより、X線遮蔽組成物において第1の遮蔽材及び第2の遮蔽材が均一に分散され、所望(例えば、鉛と同等以上)のX線遮蔽性を得ることができる。さらに、このX線遮蔽組成物によれば、第2の遮蔽材の利用によって、第1の遮蔽材のみをゴム材と混合する場合と比べて、CO2排出量も抑制できる。
【0017】
図1を参照して、材料単体での線吸収係数について説明する。
図1は、材料単体での線吸収係数について説明するための図である。
図1には、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、三酸化ビスマス(Bi
2O
3)、および鉛(Pb)の線吸収係数(理論値)を示す。
図1において、横軸はX線エネルギー[keV]に対応し、縦軸は線吸収係数[cm
-1]に対応する。なお、三酸化ビスマスは、酸化ビスマス及びビスマス化合物の一例である。また、線吸収係数は、X線遮蔽性を表すパラメータの一つである。
【0018】
図1に示すように、タングステン、ビスマス、および三酸化ビスマスは、いずれも他の材料と比較して鉛に近い線吸収係数を有する。具体的には、タングステンの線吸収係数は、鉛の線吸収係数より高く、鉛の代替材料として十分なX線遮蔽効果を有する。また、ビスマスおよび三酸化ビスマスの線吸収係数は、鉛の線吸収係数より低く、鉛と比較するとX線遮蔽効果に劣る面がある。
【0019】
図2および
図3を参照して、第1の遮蔽材と第2の遮蔽材とを混合した場合の線吸収係数について説明する。
図2は、タングステンとビスマスとを混合した場合の線吸収係数について説明するための図である。
図2には、タングステン(W)とビスマス(Bi)とを凡例に示した体積比率で混合した場合の線吸収係数(理論値)を示す。
図3は、タングステンと三酸化ビスマスとを混合した場合の線吸収係数について説明するための図である。
図3には、タングステン(W)と三酸化ビスマス(Bi
2O
3)とを凡例に示した体積比率で混合した場合の線吸収係数(理論値)を示す。
図2および
図3において、横軸はX線エネルギー[keV]に対応し、縦軸は線吸収係数[cm
-1]に対応する。
【0020】
図2に示すように、タングステンとビスマスの体積比率が2:8の場合に、鉛と同等の遮蔽効果が得られる。つまり、タングステンとビスマスの体積比率が2:8~9:1の場合には、鉛と同等又は鉛以上の遮蔽効果が得られる。すなわち、タングステンとビスマスの体積比率が2:8~9:1となるように混合することで、鉛と同等又は鉛以上の遮蔽効果を得つつ、タングステンの含有率を減らすことができる。
【0021】
図3に示すように、タングステンと三酸化ビスマスの体積比率が3:7の場合に、鉛と同等の遮蔽効果が得られる。つまり、タングステンと三酸化ビスマスの体積比率が3:7~9:1の場合には、鉛と同等又は鉛以上の遮蔽効果が得られる。すなわち、タングステンと三酸化ビスマスの体積比率が3:7~9:1となるように混合することで、鉛と同等又は鉛以上の遮蔽効果を得つつ、タングステンの含有率を減らすことができる。
【0022】
(製造方法)
例えば、X線遮蔽組成物を製造する場合は次のように製造される。ゴム材にX線遮蔽材、補強材、加工助剤、可塑剤、軟化剤等の材料を密閉式ミキサーで混練する。密閉式ミキサーはニーダー、バンバリーミキサー、インターミックスミキサー等、通常ゴムの混練に使用されるミキサーが使用可能である。密閉式ミキサーで混練後、架橋剤及び架橋助剤等の架橋反応に関与する材料はロール混練機(ミキシングロール)を用いて混練する。架橋剤及び架橋助剤等の材料は、熱に反応するため冷却性に優れるミキシングロールを使用することが好ましい。ミキシングロールで混練りされたゴム材は、予備成形として遮蔽シートの成形金型に合わせた厚さで圧延して未加硫ゴムシートにする。未加硫ゴムシートは金型に仕込み、熱プレス成形によりシートに架橋することで、遮蔽シートを得ることができる。
【0023】
図4を参照して、ロール混練機による加工性について説明する。
図4には、タングステンと三酸化ビスマスの体積比率と加工性との関係を示す。具体的には、タングステンと三酸化ビスマスの体積比率が10:0~0:10になるように混合し、各々の体積比率における加工性を評価した結果である。なお、ロール混練機(ミキシングロール)とは、並列に配置された2本のロールを備える二本ロール混練機である。ロール混練機は、2本のロールを互いに逆方向に回転させることにより、材料をロールに巻き付かせつつ混練加工を行う装置である。
【0024】
図4に示すように、タングステンと三酸化ビスマスの体積比率が8:2~10:0の場合には、ロール加工性が不良であった。具体的には、この体積比率で混合した場合には、
図4の左の吹き出しに例示するように、混練り時にバギングが発生し、混練・均質化が進まなくなる結果、加工性が低下した。軽度なバギングは、垂れ下がったゴムを引っ張る等して対応が可能である。タングステンは比重が大きいため、タングステンの体積比率が高くなると、ゴム自体が重くなり、重力によりロールから剥がれやすくなると考えられる。
【0025】
また、タングステンと三酸化ビスマスの体積比率が0:10~0.5:9.5の場合には、加工性が不良であった。具体的には、この体積比率で混合した場合には、
図4の右の吹き出しに例示するように、混練時に材料がロールに過度に貼り付いてしまい、均質化が進まなくなる結果、加工性が低下した。タングステンと他のX線遮蔽材を混合してゴムに混ぜた場合、タングステンの配合量を削減した分、三酸化ビスマスを配合する。しかし、三酸化ビスマスはタングステンよりも比重が小さいため、タングステンだけをゴム材に混合する場合よりも、X線遮蔽組成物に対するX線遮蔽材の体積比率が大きくなる。そのため、ロール混練時にX線遮蔽組成物のゴムの強度が損なわれてロールに貼り付いてしまう現象が発生することがある。
【0026】
これに対し、タングステンと三酸化ビスマスとの体積比率が0.5:9.5~8:2の範囲内である場合には、加工性が良好であった。具体的には、この体積比率で混合した場合には、
図4の中央の吹き出しに例示するように、バギングもロール貼り付きも発生せず、2本のロールの間で材料の均質化が進む結果、加工性が良好であった。また、タングステンと三酸化ビスマスとの体積比率は、1:9~8:2の範囲内である場合には、加工性が更に良好であった。
【0027】
このように、タングステンと三酸化ビスマスとを混合することで、混練時の凝集を防ぎ、加工性を良好に維持できる。すなわち、第1の遮蔽材と第2の遮蔽材とは、バギングおよびロール貼り付きが起こらない体積比率で混合される。
【0028】
図5を用いて、ビスマス又は三酸化ビスマスに対するタングステンの体積比率と材料密度との関係を説明する。
図5は、ビスマス又は三酸化ビスマスに対するタングステンの体積比率と材料密度との関係を説明するための図である。
図5には、各体積比率における材料密度の値を示す。
図5において、ビスマス又は三酸化ビスマスに対するタングステンの体積比率に対応し、縦軸は密度[g/cm
3]に対応する。
【0029】
図5に示すように、タングステンとビスマスの体積比率が2:8程度であれば、鉛と同等の密度となることが確認された。また、タングステンと三酸化ビスマスの体積比率が3:7程度であれば、鉛と同等の密度となることが確認された。鉛の代替材料として適用する場合には、本実施形態に係るX線遮蔽組成物は、鉛と同等の密度となる体積比率で混合されるのが好適である。
【0030】
上述したように、本実施形態に係るX線遮蔽組成物は、第1の遮蔽材、第2の遮蔽材およびゴム材が混練加工されたX線遮蔽組成物である。第1の遮蔽材と第2の遮蔽材とは、いずれもX線遮蔽性を有する材料から構成される。また、第1の遮蔽材と第2の遮蔽材とは、ロール混練機による加工性が維持されるように設定された体積比率によって混練加工される。本実施形態に係るX線遮蔽組成物は、製造過程における加工性が良好である。
【0031】
例えば、本実施形態に係るX線遮蔽組成物において、第1の遮蔽材と第2の遮蔽材との体積比率は、混練加工におけるバギングおよび貼り付きが抑制されるように設定される。このため、本実施形態に係るX線遮蔽組成物は、混練時のバギングやロールへの貼り付きを防ぎ、加工性を良好に維持できる。
【0032】
次に、X線遮蔽組成物に対する、第1の遮蔽材と第2の遮蔽材とから構成されるX線遮蔽材の割合は、30体積%以上、70体積%以下である。これにより、鉛と同等以上のX線遮蔽率とロール加工性との両立を図ることができる。なお、この割合が30体積%未満である場合には、鉛と同等の遮蔽率が得られにくい。また、この割合が70体積%以上である場合には、材料表面にタングステンやビスマス(又は三酸化ビスマス)の粒子が残存する場合があり、ゴム材のバインダーとしての効果が損なわれる。そのため混練時に未加硫ゴムシートに穴が開く場合があり、品質に課題が生じることがある。つまり、X線遮蔽組成物に対する、第1の遮蔽材と第2の遮蔽材とから構成されるX線遮蔽材の割合は、30体積%以上、70体積%以下であるのが好適である。さらには、40体積%以上、60体積%以下であることが好ましい。40体積%以上である場合には、さらにタングステンの配合量を削減することができる。また、この割合が60体積%未満であれば、さらに成形加工が良好となる。
【0033】
また、第2の遮蔽材は三酸化ビスマスであることがより好ましい。三酸化ビスマスは、他のX線遮蔽材よりも凝集することが少なく分散性に優れる。他のX線遮蔽材でも、分散不良はスクリーンメッシュ等を通すことで取り除くことが可能であるが、工程が増えてしまう。
【0034】
また、X線遮蔽組成物は、補強用フィラーが、0.5体積%以上、2.0体積%未満で含有される。補強用フィラーとしては、例えば、カーボンブラックやシリカなど、公知のものを任意に適用可能である。これにより、材料の加工性を維持しながら材料の補強が可能となる。なお、この割合が0.5体積%未満である場合には、十分な補強効果が得られない。また、この割合が2.0体積%以上である場合には、X線遮蔽材やその他の添加剤が十分に添加できず、配合に制限が生じる場合がある。
【0035】
また、X線遮蔽組成物に対するゴム材の割合は、20体積%以上、50体積%未満である。これにより、シート架橋時のエア不良を低減することができる。なお、この割合が20体積%未満である場合には、エア不良が発生する可能性がある。未加硫ゴムシートに含まれているエア不良や水分は、シート架橋時(熱プレス成型時)は高温圧縮されている。熱プレス成型が終了し金型を開けた際、圧縮されたエア不良は膨張し、水分は水蒸気となって体積が大幅に増加することで、シートが水膨れ状になる現象として現れる。この現象は、X線遮蔽組成物に対するゴム材の割合が少なくなると、ゴム材の架橋点が少なくなり、膨張するエアや水蒸気を抑え込むことができないからと考えられる。
【0036】
エア不良は、例えば高温で金型を開けず、冷却してから金型を開けることで発生を防止できる。しかし、製造工程が増加することで、サイクルタイムが長くなる場合がある。また、この割合が50体積%以上である場合には、架橋剤等、他の配合剤を添加する余地が少なくなる。つまり、X線遮蔽組成物に対するゴム材の割合は、20体積%以上、50体積%未満であるのが好適である。
【0037】
また、タングステンは、第1の遮蔽材であるため、材料の製錬・精製時のエネルギー量が大きく、それに伴って二酸化炭素(CO2)排出量が大きいことが課題となっている。本実施形態に係るX線遮蔽組成物では、第1の遮蔽材を単体で利用せず第2の遮蔽材と混合して利用するので、第1の遮蔽材を単体で利用する場合と比較して製造時の二酸化炭素排出量を抑えることができる。
【0038】
また、タングステンは、他の材料と比較して単価が高いことで知られている。本実施形態に係るX線遮蔽組成物では、第1の遮蔽材を単体で利用せず第2の遮蔽材と混合して利用するので、第1の遮蔽材を単体で利用する場合と比較して費用(金銭コスト)を抑えることができる。
【0039】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0040】
(実施例)
以下、実施例を示し、実施形態を具体的に説明するが、実施形態は下記の実施例に制限されるものではない。
【0041】
<X線遮蔽組成物の材料>
実施例で使用したX線遮蔽組成物の材料を以下に示す。各実施例、比較例における各材料の配合量(質量部)は表1に示すとおりである。
・ゴム材 EPDM エスプレン505A(住友ゴム工業株式会社製)
・X線遮蔽材 タングステン W-4KD(日本新金属株式会社製)
タングステンカーバイド WC-15(日本新金属株式会社製)
酸化ビスマス FP(日本化学産業株式会社製)
ビスマス 微粒品(三井金属鉱業株式会社)
・補強性フィラー カーボンブラック 旭#35(旭カーボン株式会社製)
・架橋剤 パークミルD-40(日本油脂株式会社製)
・架橋助剤 タイクM-60(三菱ケミカル株式会社製)
・その他配合剤
加工助剤:ステアリン酸つばき(日本油脂株式会社製)
老化防止剤:ノクラック6C(大内新興化学株式会社製)
老化防止剤:ノクラックMB(大内新興化学株式会社製)
軟化材:ダイアナプロセスPW-90(出光興産株式会社製)
【0042】
(実施例1)
<ゴム組成物の製造>
表1に示す各成分を7Lニーダーと12インチミキシングロールを用いて混練し、ゴム組成物を得た。具体的には、7Lニーダーにゴム材を投入し、回転数:30rpmで素練りを1分間行った後、架橋剤及び架橋助剤を除く各成分を投入し、同回転数にて20分間混練してゴム混合物を排出した。7Lニーダーの混合槽への充填率は、60%になるように調整した。
【0043】
次に、12インチミキシングロールを用い、ロール間隙を5.0mmに設定し、回転数を前ロール:15rpm/後ロール:17rpmで15分間、架橋剤及び架橋剤を混練して各ゴム組成物を得た。得られた各ゴム組成物は、前記ロールを用いて厚さ3.0mmに圧延して未加硫ゴムシートとした。
【0044】
<成形・架橋>
上記で得られた未加硫ゴムシートを縦135mm×横135mmの大きさに切断し、縦150mm×横150mm×深さ2.0mmの型に仕込み、熱プレスを用い20MPaの圧力で180℃、15分間加熱した。脱型後、バリを除去しX線遮蔽組成物を得た。
【0045】
<評価>
・分散性
ゴム組成物の製造で得た未加硫ゴムシートを、厚さ0.3mmに圧延して、150mm×150mmの範囲を目視で表面観察した。最大長さが500μm以上の凝集物の個数を数えて分散性を以下の通り評価した。評価結果を表2に示す。
◎:凝集物なし
○:凝集物が1~5個
×:凝集物が6個以上
【0046】
・加工性
上記12インチミキシングロールの混練時に、バギングおよび貼り付きを以下の通り評価した。評価結果を表2に示す。
バギング
◎:バギングが起こらない
○:バギングは起こるが、混練しながら対応可能なもの
×:バギングが起こり、混練が困難なもの
【0047】
・貼り付き
◎:はりつきが起こらない
○:はりつきは起こるが、混練しながら対応可能なもの
×:はりつきが起こり、混練が困難なもの
【0048】
・ゴムシートの表面性
ゴム組成物の製造で得た未加硫ゴムシートを用い、150mm×300mmの範囲を目視で表面観察し、ゴムシートの表面性を以下の通り評価した。評価結果を表2に示す。
【0049】
◎:表面にX線遮蔽材の粒子が確認できないもの
○:表面にX線遮蔽材の粒子が存在したり、小さな穴があるもの
×:穴が開いているもの
【0050】
・エア不良
ゴムシート成形時、脱型直後のX線遮蔽組成物の表面を観察し、エア不良によるふくらみを以下の通り評価した。評価結果を表2に示す。
◎:エアが無いもの
○:脱型時にエアが1~5個存在するもの
×:脱型時にエアが6個以上存在するもの
【0051】
・遮蔽率
遮蔽率[%]は、評価対象としたX線遮蔽組成物によるX線遮蔽率である。遮蔽率は評価対象とした各X線遮蔽組成物に含まれるX線遮蔽材の割合、X線遮蔽材の体積比率からそれぞれのX線遮蔽組成物の線吸収係数[cm-1]を算出したのち、厚み1.5mmの場合の遮蔽率を算出した。なお、この時の線吸収係数はCT装置のX線スペクトルを想定し、10~120kevの範囲において各値で係数を乗じたものの総和を用いた。参考として、前述の方法で算出した鉛の遮蔽率は99.8%である。
【0052】
(実施例1~18および、比較例1~3)
各材料の配合量(質量部)は表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様に実施した。評価結果は、表2に示すとおりである。
以上のとおり、実施例1~18では、十分な遮蔽性能を維持しつつ加工性の良好なX線遮蔽組成物を得ることができた。
【0053】
【0054】