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特許7616884B型肝炎ウイルス感染症の治療におけるシアノバクテリアバイオマスの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】B型肝炎ウイルス感染症の治療におけるシアノバクテリアバイオマスの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/748 20150101AFI20250109BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 9/20 20060101ALN20250109BHJP
   A61K 47/02 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
A61K35/748
A61P1/16
A61P25/20
A61P31/20
A61K9/20
A61K47/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020526871
(86)(22)【出願日】2018-11-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 US2018061613
(87)【国際公開番号】W WO2019099897
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-07-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】62/587,488
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520070013
【氏名又は名称】ファー・イースト・バイオ‐テック・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】FAR EAST BIO‐TEC CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】13F, NO. 3, YUAN CHIU STREET, NAN‐GANG DISTRICT, TAIPEI CITY 115, TAIWAN.
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】チゥー,チュァン‐チュン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イー‐シャン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ミン‐シュン
(72)【発明者】
【氏名】チェー,チュン‐ウェイ
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】田村 直寛
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101869585(CN,A)
【文献】Effect of Cyanobacteria Patients With Chronic Hepatitis B Surface Antigen Quantitative Concentration, [online], 2016-NOV-11, ClinicalTrials.govarchive, NCT ID:NCT02953600 [Retrieved on 2021-Jul-07], Retrievedfrom the internet:<URL:https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02953600>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K35/748
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
象において検出可能なB型肝炎表面抗原(HBsAg)のレベルを減少させるための医薬組成物であって、ここで、前記対象は、慢性HBV感染症を患っており、前記医薬組成物が、有効量のシアノバクテリアバイオマスおよび医薬的に許容できる賦形剤を含み、ここで、前記シアノバクテリアバイオマスがArthrospira FEM102菌株由来であり、前記医薬組成物が、抗ウイルス剤と同時投与される医薬組成物。
【請求項2】
前記対象が、慢性HBV感染症に関連する不眠症を患う、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記対象が、慢性HBV感染症に関連する肝線維症を患う、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物が、固形剤形に製剤化される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬的に許容できる賦形剤が、二酸化ケイ素または脂肪酸のショ糖エステルである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記有効量が、1~1,000mg/Kg体重/日である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物が、少なくとも1ヶ月の間、毎日投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物が、経口投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮出願第62/587,488(2017年11月17日出願)に関し、及びその利益を受けることを請求する。その内容は全体として参照することによって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
(発明の分野)
本開示は、概して、B型肝炎ウイルス(HBV)感染症の治療の分野に関連する。より具体的に、本開示は、HBV感染症の治療におけるシアノバクテリアバイオマスの使用に関する。
【0003】
(関連技術の記載)
【0004】
HBVは、ヘパドナウイルス科における小型の二重殻ウイルスである。HBVは、急性及び慢性感染症の両方を引き起こす可能性がある。HBVによる急性感染症は、黄疸出現前の、倦怠感、悪心、嘔吐、頭痛、発熱、皮疹、関節痛、関節炎、筋肉痛及び/又は暗色尿により特徴づけられる疾患である急性ウイルス性肝炎に関連する。当該疾患は、数週間存続する可能性があり、ほとんどの罹患者では徐々に改善するが、急性に感染した人々の約1%~2%のみで劇症肝不全(ALF)の発症に至る。
【0005】
急性HBV感染症を有し慢性感染症に至る患者の割合は、通常、年齢や免疫状態により変化する。出生時又は幼児期に母親からHBV感染症を獲得した乳児の約90%が、慢性的に感染するようになると報告されている。1歳~5歳の間にHBVに感染した子供のうち、30%~50% が慢性的に感染する。成人期までに、慢性HBV感染症を獲得するリスクは約5%であり、免疫機能が低下した又は欠損した人々は、免疫機能が正常な成人に比べて、より慢性HBV感染症を発症しやすい。慢性感染症は、慢性肝炎、肝硬変、肝不全、及び、肝細胞癌を含むほとんどのHBV関連罹患率及び死亡率の原因となる。
【0006】
HBV感染症の診断は、通常、HBV抗原及び抗体の血清検査に基づいて行われる。HBVは、B型肝炎表面抗原(HBsAg)、B型肝炎コア抗原(HBcAg)、及びB型肝炎e抗原(HBeAg)を含む多数の抗原成分を含有し、その中でHBVの複製及び感染性に関与するタンパク質であるHBsAgが、HBV感染症の診断で最も一般的に使用されるマーカーである。概して、HBsAgは、感染して30日~60日後の血清中で同定でき、不定の期間持続する可能性がある。HBsAgに対する抗体(抗HBs又はHBsAb)は通常、HBVの感染性を無力化するHBV感染後の回復期中に発生し、循環するHBsAg及び感染性HBV粒子を末梢血から消失させる。6ヶ月の期間を超えるHBsAgの持続は、慢性的なキャリア状態又は慢性HBV感染症の発症を示す。
【0007】
現在、多くの国々で慢性HBV感染症の治療に対して承認された2つの主な抗ウイルス治療のカテゴリーが存在する。1つ目はインターフェロンアルファ(IFN-α)又はペグIFN-α(PEG-IFNα)であり、2つ目は様々なヌクレオシド又はヌクレオチドアナログ(例えば、ラミブジン、アデホビル、エンテカビル、テルビブジン、及びテノホビル)を含む。しかし、これらの薬物は、ウイルスの複製を単に停止又は減少させるが、そのどれも感染を消失させることはできない。従って、慢性HBV感染症を患う患者の大多数は、継続してウイルス複製を抑制するために長期の治療を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のことを考慮すれば、関連技術において慢性HBV感染症の治療で有用な新規の薬物の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(概要)
以下は、読者に基本的な理解を提供するために、本開示の単純化された概要を示す。この概要は本開示の広範囲に及ぶ概要ではなく、本発明の肝要な/重要な要素を特定せず又は本発明の範囲を叙述しない。この概要の唯一の目的は、後で示される、より詳細な説明への前段階として単純化された形態でここに開示されるいくつかの概念を示すことである。
【0010】
1つの態様において、本開示は、治療を必要とする対象においてB型肝炎ウイルス(HBV)により引き起こされる感染症を治療するための方法を対象とする。ここで具体化され広範に記載されるように、本治療方法は、慢性HBV感染症を含むHBV感染症の治療において効果的である。また、本方法は、対象において検出可能なB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)を低下させるのに効果的であり、場合によってはHBsAgが消失(seroclearance)する。また、本発明は、慢性HBV感染症に関連する肝疾患(例えば、肝線維症、肝硬変又は肝代償不全)の発症を予防する又は遅延させるのにも効果的である。更に、本方法は、慢性HBV感染症に関連する不眠症を効果的に緩和できる。
【0011】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本方法は、有効量のシアノバクテリアバイオマスを対象に投与するステップを含む。
【0012】
本開示の特定の実施形態によれば、シアノバクテリアバイオマスは、Arthrospira maxima(オーロスピラ・マキシマ)に由来する。
【0013】
種々の実施形態において、対象は、ヒトを含む哺乳類である。
【0014】
いくつかの実施形態において、対象は、慢性HBV感染症を患っている。いくつかの他の実施形態において、対象は、慢性HBV感染症に関連する肝硬変又は肝代償不全を患っている。更にいくつかの他の実施形態において、対象は、慢性HBV感染症に関連する不眠症を患っている。いくつかの他の実施形態において、対象は、慢性HBV感染症に関連する肝線維症を患っている。
【0015】
任意の実施形態において、有効量は、1~1,000mg/Kg体重/日であり、好ましくは、20~200mg/Kg体重/日である。更に任意に、有効量は、1~20グラム/日である。更に他の実施形態によれば、シアノバクテリアバイオマスは、経口投与される。
【0016】
本開示のいくつかの実施形態によれば、シアノバクテリアバイオマスは、少なくとも1ヶ月間毎日投与される。任意に、シアノバクテリアバイオマスは、少なくとも6ヶ月間毎日投与される。
【0017】
いくつかの任意の実施形態において、HBV感染症を治療するための方法は、インターフェロンアルファ(IFN-α)、ペグ化IFN-α、ヌクレオシドアナログ又はヌクレオチドアナログなどの抗ウイルス剤を有効量投与するステップを更に含む。ヌクレオシド又はヌクレオチドアナログの実例には、アシクロビル、ファムシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル、ビダラビン、リバビリン、帯状疱疹免疫グロブリン(ZIG)、ラミブジン、アデホビル、ジピボキシル、エンテカビル、テルビブジン、クレブジン及びテノホビルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
本開示の特定の実施形態によれば、対象は、慢性HBV感染症を患っており、シアノバクテリアバイオマスは、対象で検出可能なB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)のレベルを低下させるために少なくとも1ヶ月間投与される。
【0019】
本開示のいくつかの他の実施形態によれば、対象は、慢性HBV感染症に関連する不眠症を患っており、シアノバクテリアバイオマスは、不眠症を軽減するために少なくとも3ヶ月間投与される。
【0020】
本開示のいくつかの他の実施形態によれば、対象は、慢性HBV感染症に関連する肝線維症を患っており、シアノバクテリアバイオマスは、肝線維症を軽減するために少なくとも3ヶ月間投与される。本開示のいくつかの他の実施形態によれば、対象は、慢性HBV感染症に関連する肝疾患(例えば、肝硬変又は肝代償不全)を患っているか又は慢性HBV感染症による肝疾患に至りやすく、シアノバクテリアバイオマスは、肝疾患の発症を予防する又は遅延させるために少なくとも1ヶ月間投与される。
【0021】
更に他の態様において、本開示は、慢性HBV感染症を含むHBV感染症を治療するための医薬組成物又は栄養補助(nutraceutical)組成物を対象とする。本開示の他の態様にも含まれる主題には、慢性HBV感染症を含むHBV感染症の治療での使用のための薬剤又は栄養補助組成物の製造におけるシアノバクテリアバイオマスの使用が含まれる。
【0022】
当該医薬組成物又は栄養補助組成物は、慢性HBC感染症に関連する不眠症又は肝疾患(liver d)の治療においても有用である。いくつかの実施形態において、本医薬組成物又は栄養補助組成物の投与により、対象のHBsAgレベルが効果的に低下し、いくつかの対象ではHBsAgが消失する可能性さえもある。
【0023】
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物又は栄養補助組成物は、有効量のシアノバクテリアバイオマス及び医薬的に又は栄養補助的に許容できる賦形剤を含む。
【0024】
本開示の特定の実施形態によれば、シアノバクテリアバイオマスは、Arthrospira maxima由来である。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物又は栄養補助組成物は、錠剤、カプレット、カプセル又は液体投与形態(例えば、分散液又は懸濁液)などの経口投与に適した調製物に製剤化される。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物又は栄養補助組成物は、錠剤として製剤化され、医薬的に又は栄養補助的に許容できる賦形剤は、二酸化ケイ素又は脂肪酸のショ糖エステルである。
【0026】
添付の図面に関連すると考えられる以下の詳細な説明を参照することにより、本開示の多数の付随する特徴及び利点をより良く理解されるであろう。
【0027】
付随する図面に照らして読み取られる以下の詳細な説明から本明細書をより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】具体的な治療により治療される対象のqHBsAgの変化を描写する折れ線グラフである。
図2】具体的な治療により治療される対象の肝硬度の変化を描写するデータである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(発明の詳細な説明)
付随する図面に関連して以下に記載された詳細な説明は、本実施例の説明を意図し、本実施例が構築又は利用され得る唯一の形態を示すことは意図されない。本記載は、実施例の役割及び実施例を構築し実行するためのステップの順序を説明する。しかし、同一又は同等の役割及び順序は、異なる実施例により達成され得る。
【0030】
便宜上、本明細書で使用する特定の用語、実施例及び付随する特許請求の範囲をここにまとめる。本明細書で別途定義しない限り、本開示で使用する科学的及び技術的な用語は、当業者によって一般に理解され使用される意味を有するものとする。また、文脈上別段必要でない限り、単数形の用語は同じ用語の複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとすることが理解される。具体的には、本明細書及び特許請求の範囲で使用されるように、単数形の「1つ(a)」 及び「1つ(an)」は、文脈で別途明確に示さない限り、複数形の参照を含む。また、明細書及び特許請求の範囲で使用されるように、用語「少なくとも1つ」及び「1つ以上」は同じ意味を有し、1つ、2つ、3つ、又はそれ以上を含む。
【0031】
本発明の広範な範囲を記述している数値範囲及びパラメータ設定は近似値であるにもかかわらず、具体的な実施例で記述される数値は、できる限り正確に報告する。しかし、いずれかの数値は、それぞれの試験測定で見出される標準偏差から必ず生じる一定の誤差を元々含んでいる。また、本明細書で使用される用語「約」は、所定の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を一般的に意味する。あるいは、用語「約」は、当業者が考える場合の意味の許容できる標準誤差内を意味する。実行/実施する例以外で、又は別途明示して示されない限り、本明細書で開示される物質の量、時間の期間、温度、作動環境、量の割合等のための全ての数値範囲、量、値、及びパーセントは、用語「約」により全ての例において変更されたと理解されるものとする。従って、特にそれとは反対の指示がない限り、本開示及び添付した特許請求の範囲に記述されている数値パラメータは、所望に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、各数値パラメータは、報告される有効桁数の数を踏まえて、及び通常の丸め技法を適用することによって、少なくとも解釈されるものとする。範囲は、1つの終点からもう1つの終点まで又は2つの終点間として本明細書で示され得る。本明細書で開示される全ての範囲は、別途指定しない限り終点を含む。
【0032】
本明細書で使用される用語「ヌクレオシドアナログ」又は「ヌクレオチドアナログ」は、ヌクレオシド又はヌクレオチドに類似しヌクレオシド又はヌクレオチドの生化学的機能の少なくともいくつかを発揮できる分子を指す。具体的には、用語「ヌクレオチドアナログ」は、天然のヌクレオチドに構造的に類似し天然由来のヌクレオチドと類似した様式で機能することができる(例えば、天然由来の塩基のうちの1つと塩基対をつくる類似した能力を示す)分子を指す。本明細書で使用される用語「ヌクレオシドアナログ」は、天然のヌクレオシドに構造的に類似し天然由来のヌクレオシドと類似した様式で機能することができる(例えば、DNA複製によりDNAに組み込まれる類似した能力を示す)分子を指す。
【0033】
本明細書で使用される用語「治療」及び「治療する」は、予防に寄与する(例えば予防のための)、治癒的な又は緩和する方策を指してもよい。特に、本明細書で使用する用語「治療する」は、本シアノバクテリアバイオマス又はこれを含む医薬組成物若しくは栄養補助組成物を、医学的状態(すなわちHBV感染症又は慢性HBV感染症)、医学的状態に関連した症状(不眠症、疲労、倦怠感、筋肉痛、関節痛)、医学的状態に続発する疾患若しくは障害(例えば、肝硬変又は肝代償不全)又は、医学的状態に至りやすい体質を有する対象に適用又は投与することを指し、その目的は、前記特定の疾患、障害及び/又は状態の1つ以上の症状又は特徴を部分的に又は完全に緩和する、改善する、軽減する、発症を遅延させる、進行を阻害する、重症度を低減する、及び/又は、発生率を減らすことである。治療を、疾患、障害及び/又は状態の兆候を示さない対象、及び/又は、疾患、障害及び/又は状態の早期の兆候のみを示す対象に施してもよく、その目的は、疾患、障害及び/又は状態に関連する病変を発症するリスクを減らすことである。好ましい実施形態において、本シアノバクテリアバイオマスを、in vivoで不眠症又は肝硬変を改善する又は予防するために使用してもよい。また、本シアノバクテリアバイオマスを投与することにより、対象においてHBsAgのセロクリアランス(serocrealance)をもたらす。従って、本治療方法は、宿主生物において病原体が検出されないなど宿主生物における感染性病原体を実質的に根絶するための手段を提供する。
【0034】
用語「対象」及び「患者」は、本明細書では互いに互換可能に使用され、本シアノバクテリアバイオマス、医薬組成物又は栄養補助組成物及び/又は本発明の方法により治療可能なヒト種を含む動物を意味することを意図する。用語「対象」又は「患者」は、1つの性別を具体的に示さない限り、男性及び女性の両方を指すことを意図する。
【0035】
用語「適用」及び「投与」は、本明細書では互いに互換可能に使用され、治療を必要とする対象に本シアノバクテリアバイオマス又は本発明の医薬組成物若しくは栄養補助組成物を適用することを意味する。例えば対象は、慢性HBV感染症を有する又は有する疑いのある何かであってもよい。
【0036】
本明細書で使用される用語「有効量」は、所望の治療効果を生じるのに十分な本シアノバクテリアバイオマスの量を指す。治療目的のために、有効量は、また、治療的に有益な効果が成分のあらゆる毒性作用又は有害作用を上回る量である。薬物の有効量は、疾患又は状態を治癒するのには必要ではないが、疾患若しくは状態の発症を遅延する、干渉する、若しくは、予防する、又は疾患若しくは状態の症状を改善するなど、疾患又は状態のための治療を提供する。有効量を、指定された期間を通して1回、2回、又はそれ以上の回数で、投与するのに適した形態で1回量、2回量又はそれ以上の用量に分割してもよい。具体的な有効量又は十分量は、治療する特定の状態、患者の身体状態(例えば、患者の体重、年齢又は性別)、治療する哺乳類又は動物の種類、治療の期間、併用療法(もしあれば)の特性、並びに、使用する特定の剤形及び有効成分又はその誘導体の構造などの要因によって異なる。有効量を、例えば、シアノバクテリアバイオマスの総質量(例えば、グラム、ミリグラム、マイクログラムで)又は体重に対するシアノバクテリアバイオマスの質量の比率(例えば、キログラム当たりのミリグラム(mg/kg))で表示してもよい。あるいは、有効量は、モル濃度、質量濃度、体積濃度、容積モル濃度、モル分率、質量分率及び混合比などの有効成分(例えば、本開示のシアノバクテリアバイオマス)の濃度で表示することができる。
【0037】
本明細書で使用される用語「栄養補助的に又は医薬的に許容できる賦形剤」は、体の1つの器官又は一部から体の他の器官又は一部に対象薬剤を運搬又は輸送するのに関与する液体若しくは固体充填剤、希釈剤、担体、溶媒、又はカプセル化材料などの、物質、組成物又はビヒクルを意味する。各賦形剤は、製剤の他の原料と適合するという意味において「許容できる」ものとする。栄養補助的な又は医薬的な製剤は、栄養補助的に又は医薬的に許容できる1つ以上の原料との組み合わせで本発明のシアノバクテリアバイオマスを含有する。賦形剤は、固体、半固体若しくは液体希釈剤、クリーム又はカプセルの形態であってもよい。これらの栄養補助的又は医薬的調製物は、本発明の更なる対象である。通常、シアノバクテリアバイオマスの量は、調製物の0.1~95重量%であり、非経口使用のために好ましくは調製物の0.2~20重量%及び経口投与用に好ましくは調製物の1~50重量%である。本発明の方法の臨床使用のために、本発明の栄養補助組成物又は医薬的組成物は、経口投与などの意図した投与経路に適した剤形に製剤化される。
【0038】
本明細書で使用される用語「バイオマス」は、A.maximaを含む培養物由来のバイオマスを意味する。この用語は、生存及び死んだ有機体、並びに既製の、乾燥している、凍結している、又は、以前に機能したバイオマスを含む。
【0039】
自発的なHBsAgセロクリアランスは、慢性HBV感染症においてまれな事象である。以前の研究では、自発的なHBsAgセロクリアランスの年間発生率は、種々の国々で約0.1~2.5%の範囲であることが示されている。慢性HBV感染症を患う患者は、患者の体内でのHBVウイルスの複製を阻害するために継続的に抗ウイルス剤を服用する必要がある。抗ウイルス治療の初期の段階で、抗ウイルス剤は、患者において検出できるHBsAgレベル(このレベルは、多岐にわたる要因により患者によって異なる)を効果的に低下させることができる。しかし、HBsAgレベルは、後続の治療の間に一定の状態を保ち、HBsAgレベルが個々の一定レベルに達した後に、現在利用可能な抗ウイルス治療を受ける患者において更にHBsAgレベルを低下させることは非常に困難なことが多い。
【0040】
本シアノバクテリアバイオマスが抗ウイルス剤と共に長期間(例えば、少なくとも1ヶ月)経口投与されると、対象におけるHBsAgレベルを更に低下させることができ、慢性HBV感染症を患う患者においてHBsAgのセロクリアランスを達成する可能性があるという知見に、本開示は、少なくとも一部基づいている。患者の血清におけるHBsAgレベルを低下させる及びHBsAgを消失させることにより、患者が肝硬変、肝代償不全、及び/又は肝細胞癌を発症するリスクを低減させることが可能である。上記を鑑みれば、本開示は、慢性HBV感染症を含むHBV感染症を治療するための方法を提案する。本開示のいくつかの実施形態は、このようなHBV感染症に関連した、それに続発する又は引き起こされる症状又は障害を治療するための方法を対象とする。また、本明細書では、前記HBV感染症の治療における使用のための、及び、前記治療目的のための医薬品又は栄養補助調製物の製造における使用のための前記シアノバクテリアバイオマスの使用が提供される。医薬品(すなわち医薬組成物)又は栄養補助調製物は、もちろん本適用の範囲によってカバーされている主題である。
【0041】
1つの態様において、本開示は、治療を必要とする対象において、HBVにより引き起こされる感染症、又は、前記HBV感染症に関連した、それに続発する、若しくは、引き起こされる症状若しくは障害を治療するための方法を対象とする。
【0042】
シアノバクテリアは、地上で及び淡水、汽水又は海水で見つけられる微小な細菌である。シアノバクテリアは、酸素発生型光合成を行う。シアノバクテリアは光合成を利用するので、水生のシアノバクテリアは一般に、ラン藻と称される。現在、シアノバクテリア門では2,000を超える種が記載されている。シアノバクテリアは、抗ウイルス、抗細菌、抗菌、及び、抗癌活性を有する生物学的に活性な化合物の豊かな源として特定されてきた。シアノバクテリアから単離された化合物は、ポリケチド、アミド、アルカロイド、脂肪酸、インドール、及びリポペプチドの群に属する。所望の治療効果を有する活性抽出画分又は化合物を特定するための努力が行われている。
【0043】
スピルリナは、Arthrospira platensis(オーロスピラ・プラテンシス)及びA.maximaの乾燥バイオマスから作られた栄養補助食品を指す。A. maxima(又はSpirulina maxima(スピルリナ・マキシマ))は、塩水域及びアルカリ水域がある熱帯又は亜熱帯地域で見つけられる。例えば、それは、アフリカのチャド湖及びメキシコのテスココ湖で一般的である。これらの2つの種は、かつてSpirulina(スピルリナ)属に分類されていた。現在の分類法では、これら2つの菌株に対するSpirulinaの名称は不適切であり、Arthrospira属はA. platensis及びA. maximaを含むという合意が存在するが、時代遅れの分類法が未だに今日使用されており、それらから作られた栄養補助食品はスピルリナという通称で最もよく呼ばれている。スピルリナは、古代アステカ時代より食糧源として使用されてきた。それにもかかわらず、本発明は、慢性HBV感染症を患う対象におけるHBsAgレベルを更に低下させる能力をはじめに見出して、かかる知見を実際の使用に適用することである。
【0044】
本開示の特定の実施形態によれば、シアノバクテリアバイオマスは、Arthrospira maxima由来である。更に他の実施形態によれば、シアノバクテリアバイオマスは経口投与される。本開示のいくつかの実施形態によれば、シアノバクテリアバイオマスは、乾燥させた粉末として提供されるが、本開示はこれに限定されない。あるいは、乾燥された粉末を、更に錠剤、カプレット又はカプセルへと処理してもよい。更にあるいは、シアノバクテリアバイオマスを、有効量のシアノバクテリアバイオマスを有する分散体又は懸濁液などの液体調製物に製剤化してもよい。
【0045】
様々な実施形態において、対象は、本開示の治療方法から利益を得ることができる哺乳類である。本明細書で使用される「哺乳類」は、ヒト、霊長類(例えば、サル及びチンパンジー)、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ(cow)、ウマ、及びウシ(cattle)などの飼育動物及び家畜、動物園、スポーツ、及び、ペットの動物、並びにマウス、ラット、及びモルモットなどのげっ歯類を含む哺乳綱の全てのメンバーを指す。1つの例示的な実施形態において、患者はヒトである。
【0046】
いくつかの実施形態において、対象は、慢性HBV感染症を患う。慢性HBV感染症を患っている患者は、肝硬変を発症するリスクが高く、シアノバクテリアバイオマスをこのような患者に投与することで患者が肝疾患(例えば、肝硬変又は肝代償不全)を発症するリスクを低減できる。いくつかの他の実施形態において、対象は、慢性HBV感染症に関連した肝硬変を患い、シアノバクテリアバイオマスは、肝硬変の進行を阻害する又は遅延させるのに十分な期間(例えば、少なくとも1ヶ月)投与される。
【0047】
進行性肝疾患(例えば、肝硬変又は肝代償不全など)を有する患者は、通常、睡眠パターンの乱れ(例えば、不眠症)を呈することが報告されている。更にいくつかの他の実施形態において、対象は、慢性HBV感染症に関連した不眠症又は睡眠パターンの乱れを患い、シアノバクテリアバイオマスは、不眠症を軽減させるため又は対象の睡眠の質を改善させるために投与される。いくつかの実施形態において、患者が肝細胞癌を発症するリスクを低下させるために、慢性HBV感染症を患う患者にシアノバクテリアバイオマスが投与される。上記を考慮すると、HBV感染症又は慢性HBV感染症を患う患者にシアノバクテリアバイオマスを投与することに関連する本方法を、治療措置、予防措置として又は栄養補助のために使用してもよい。
【0048】
任意の実施形態において、シアノバクテリアバイオマスの有効量は、約1~1,000mg/Kg体重/日であり、好ましくは約20~200mg/Kg体重/日、より好ましくは約40~120mg/Kg体重/日である。例えば、有効量は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990又は1,000mg/Kg体重/日であってもよい。更に任意に、有効量は、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20g/日などの1~20グラム/日である。他のいくつかの実施形態において、シアノバクテリアバイオマスは、一日に1回、2回又は3回投与される。
【0049】
本開示のいくつかの実施形態によれば、シアノバクテリアバイオマスは、少なくとも1ヶ月間毎日投与される。任意に、シアノバクテリアバイオマスは、少なくとも6ヶ月間毎日投与される。更に任意に、シアノバクテリアバイオマスは、少なくとも9ヶ月間又は1年にわたって毎日投与される。本開示の特定の実施形態によれば、シアノバクテリアバイオマスは、 少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24ヶ月又はそれ以上の期間毎日対象に投与される。理解されるように、シアノバクテリアバイオマスは栄養補助食品として長期に使用されてきたので、シアノバクテリアバイオマスの長期投与に関する安全性は認識されてきた。従って、シアノバクテリアバイオマスは、実質的な安全性の問題を提起することなく治療、予防又は栄養補助目的で長期間使用される可能性がある。
【0050】
いくつかの任意の実施形態において、HBV感染症を治療する方法は、インターフェロンアルファ(IFN-α)、ペグ化IFN-α、ヌクレオシドアナログ又はヌクレオチドアナログなどの抗ウイルス剤を有効量投与するステップを更に含む。ヌクレオシド又はヌクレオチドアナログの実例は、アシクロビル、ファムシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル、ビダラビン、リバビリン、帯状疱疹免疫グロブリン(ZIG)、ラミブジン、アデホビル、ジピボキシル、エンテカビル、テルビブジン、クレブジン及びテノホビルを含むが、これらに限定されない。あるいは、抗ウイルス剤は、(1)HBVの複製を干渉及び/又は阻害する低分子干渉RNA(siRNA)、(2)肝細胞へのHBVの侵入を干渉及び/又は阻害する分子(例えばmyrcludex B)、(3)ウイルスカプシドの形成を干渉及び/又は阻害する分子(例えば、 morphothiadin(GLS4)、NVR 3-778、JNJ56136379及びAB-423など)又は(4)ウイルス抗原の産生又は発現を干渉及び/又は阻害する分子(例えば、Rep 2139、Rep 2165及びRO7020322(RG7834)など)であってもよい。シアノバクテリアバイオマスを、抗ウイルス剤の投与の前に、共に、又は後に投与してもよい。あるいは、シアノバクテリアバイオマス及び抗ウイルス剤は、それら2つが治療経過中に異なる時間間隔で摂取されるように、異なる投与レジメンを有してもよい。
【0051】
更に他の態様において、本開示は、HBV感染症又は慢性HBV感染症を治療するための医薬組成物又は栄養補助組成物を対象とする。様々な実施形態によれば、医薬組成物又は栄養補助組成物は、慢性HBV感染症に関連する不眠症又は肝硬変を治療又は予防するのにも有用である。任意の実施形態によれば、医薬組成物又は栄養補助組成物は、患者が肝細胞癌を発症するリスクを減少させるのにも使用され得る。いくつかの実施形態において、本医薬組成物又は栄養補助組成物を抗ウイルス剤と併用して投与することにより、抗ウイルス剤のみの投与を受ける患者と比較して、対象のHBsAgレベルが効果的に低下する。本医薬組成物又は栄養補助組成物の長期間の投与によりいくつかの対象においてHBsAgのセロクリアランスが、期待される。
【0052】
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物又は栄養補助組成物は、有効量のシアノバクテリアバイオマス(例えば、A.maximaからの乾燥(died)バイオマス)及び医薬的に又は栄養補助的に許容できる賦形剤を含む。
【0053】
いくつかの実施形態において、医薬組成物又は栄養補助組成物は、固形剤形(例えば、カプセル、分包、錠剤、丸薬、トローチ剤、粉末又は顆粒)及び液体剤形(例えば、溶液、懸濁液、エマルジョン、マイクロエマルジョン又は分散液)などの経口投与に適した調製物に製剤化される。
【0054】
記載の固体剤形のいくつかは、腸溶コーティングなどのコーティングやシェル、並びに、任意の成分の遊離速度を改変するためのコーティングを任意に含んでよい。このようなコーティングの例は、当該技術分野で周知である。1つの例において、本開示の医薬組成物は、速放性錠剤などの錠剤である。更に他の例において、本開示の医薬組成物は、徐放性製剤に製剤化される。他の例において、本開示の医薬組成物は、軟質及び硬質ゼラチンカプセルに封入される粉末である。
【0055】
所望の目的により、本医薬組成物の医薬的に又は栄養補助的に許容できる賦形剤は、水溶性賦形剤又は非水溶性賦形剤であってもよい。例示的な水溶性賦形剤としては、マンニトール、ラクトース、スクロース、グルコース、マルトース、水素化マルトース、マルトテトラオース、フルクトース、ラクツロース、ラクチトール、ソルビトール、マルチトール、エリトリトール、キシリトール、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。非水溶性賦形剤の例としては、セルロース誘導体、微結晶セルロース、セルロース、エチルセルロース、二酸化ケイ素、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、メタクリル酸ポリマー、コーンスターチ、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
【0056】
液体の製剤は、所望のpHを維持するための緩衝剤を更に含んでもよい。液体投与製剤(liquid dosage formulation)は、また、軟質ゼラチンカプセルに封入されていてもよい。
【0057】
好ましくは、医薬的に又は栄養補助的に許容できる賦形剤は、組成物の総重量に対して約0.01重量%~約85重量%(例えば、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84又は85重量%)、好ましくは約0.01重量%~約50重量%、より好ましくは約0.01重量%~約10重量%の量で組成物に包含される。
【0058】
本開示の1つの特定の例によれば、医薬的に又は栄養補助的に許容できる賦形剤は、組成物の総重量に対して約0.01重量%~約10重量%の量で本医薬組成物又は栄養補助組成物中に包含される二酸化ケイ素又は脂肪酸のショ糖エステルである。
【0059】
本発明の組成物はまた、当業者に公知の様々な添加物を含んでもよい。例えば、比較的少量のアルコールを含む溶媒を、一定の有効成分を可溶化するために使用してもよい。他の任意の医薬的に又は栄養補助的に許容できる添加物としては、乳白剤、抗酸化剤、香料、着色剤、ゲル化剤、増粘剤、安定剤、界面活性剤などが挙げられる。保管時の腐敗を防止するため(例えば、酵母菌及びカビなど他の微生物の成長を阻害するため)に、抗菌剤などの他の薬剤を添加してもよい。透過促進剤及び/又は刺激低減添加剤を、本発明の組成物に含んでもよい。他の例としては、溶媒、分散媒、コーティング剤、界面活性剤、抗酸化剤、保存料(例えば、抗細菌剤、抗真菌剤)、 等張剤、吸収遅延剤、安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、染料など当業者に公知である物質及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0060】
本シアノバクテリアバイオマスを含む本組成物を、ビタミン、ミネラル、食物繊維、脂肪酸、又はアミノ酸などの1つ以上の追加の栄養成分を更に含む可能性がある栄養補助食品に製剤化してもよい。あるいは、栄養補助食品は、上記シアノバクテリアバイオマスに1つ以上の利益をもたらし得る1つ以上の食用担体を含んでもよい。このような食用担体の例としては、デンプン、シクロデキストリン、マルトデキストリン、メチルセルロース、カルボメトキシセルロース、キサンタンガム、及びそれらの水溶液が挙げられる。
【0061】
本開示の更に他の態様は、HBV感染症の、又はHBV感染症に関連した、続発する若しくは引き起こされる症状若しくは障害の治療での使用のための薬剤又は栄養補助組成物の製造におけるシアノバクテリアバイオマスの使用を対象とする。本開示の更に他の態様は、HBV感染症の、又はHBV感染症に関連した、続発する若しくは引き起こされる症状若しくは障害の治療におけるシアノバクテリアバイオマスの使用を対象とする。同様に、上記の種々のシアノバクテリアバイオマスはまた、これらの態様に適用可能である。
【0062】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を説明するため、及び本発明を実施する当業者に役立つように提供される。これらの実施例は、いかなる方法であっても本発明の範囲を限定するとは決して見なされない。更なる詳細無しで、当業者は、本明細書の記載に基づき最大限に本発明を利用できるとされる。本明細書で引用されるあらゆる公開物は、これらの内容全体を参照することによって本願に組み込まれる。
【実施例
【0063】
物質及び方法
【0064】
FEM102菌株の特性評価
【0065】
FEM102菌株から染色体DNAを抽出した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅の後、16S-23S rDNAの配列を、 ABI BigDye V3.1を用いてABI 3730 DNA Analyzerで分析した。分析結果により、FEM102菌株の16S-23SリボソームRNA(rRNA)遺伝子が配列番号1で定めるヌクレオチド配列を有することが示された。Nation Center for Biotechnology Information(NCBI)によりオンラインで提供されるヌクレオチドBLASTデータベースを用いたシーケンスクエリにより、この配列がA.maxima(Spirulina maximaとしても公知)、A.platensis(S.platensis(S.プラテンシス)としても公知)、A.erdosensis、A.fusiformis(A.フシフォルミス)、A.indica(A.インディカ)、及びA.terebriformisを含む種々のArthrospira spp.(オーロスピラ属)間で高度に保存されていることが示される。
【0066】
FEM102錠の調製
【0067】
FEM102乾燥粉末を、以下のようにして調製した。初めに、FEM-102株(保存培養:350L;O.D.0.2)を、表1~3(350,000L)で示されるような培地で25~32℃で20~28日間培養した。バイオマスを50-μmフィルターを用いて収集し、バイオマスの塩分及び他の混入物質を減少させるために清浄水で5回洗浄した。50-μmフィルターを用いた濾過の後、バイオマスを遠心分離して水分(<95重量%)を除去し、沈殿物を噴霧乾燥した。約350,000リットルの培養により、約120~180kgのFEM102粉末が生じた。当業者により理解され得るように、本明細書に記載の培養培地の内容は、単に例示するために提供され、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。むしろ、当業者は、適切と思うように培養培地を調整又は改変してもよい。
【0068】
次いで、FEM102粉末を二酸化ケイ素又は脂肪酸のショ糖エステルと混合し、圧縮して錠剤(以降、「FEM102錠」)を形成したが、ここで各FEM102錠(500mg)は、495mgのFEM102株及び5mgの二酸化ケイ素/脂肪酸のショ糖エステルを含有した。
【0069】
【表1】
*A5金属ストックの成分を、表2にまとめた。
**微量栄養素溶液の成分を、表3にまとめた。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
臨床試験
【0073】
単一施設無作為非盲検臨床試験を、シアノバクテリアバイオマスと抗ウイルス剤との併用投与が慢性HBV感染症を患う患者において検出可能なHBsAgの血清レベルを減少させることができるかを判断するために設計した。臨床試験のプロトコル及び同意書は、Taipei Municipal Wanfang Hospitalの倫理委員会により承認された。
【0074】
対象患者選定基準は、20~75歳までの年齢、男性及び女性が含まれ、慢性B型肝炎の記録があり、エンテカビル、テルビブジン及びテノホビルのいずれかの経口抗ウイルス剤の投与を少なくとも1年間受けている、及び、HBV DNAレベルが20IU/mL未満である。海産物にアレルギーがある患者を、試験から除外した。
【0075】
合計350名の患者を適格性について評価した。247名は除外され43名は参加を拒否された。選定及び除外基準を満たし同意書に署名した60名の患者は、無作為化され、抗ウイルス剤(20名、コントロール群)、抗ウイルス剤プラス3グラムのFEM102錠(20名、低用量群)又は抗ウイルス剤プラス6グラムのFEM102錠(20名、高用量群)の投与を毎日少なくとも6ヶ月間受けた。肝機能及び腎機能、qHBsAg、HBeAg、B12のレベル、及び狭窄/線維化を、開始時に並びに1ヶ月目、3ヶ月目、及び6ヶ月目に調査した。統計分析のために順位和検定を使用した。患者の人口統計及びベースライン特性を表4に示した。
【0076】
【表4】
【0077】
表4で見られるように、試験開始時の、年齢、性別、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、定量HBsAgのレベル、HBeAg状態、並びに線維化及び狭窄の重症度に関して、コントロール群、低用量群及び高用量群間で有意な差はなかった。
【0078】
特に、各群に割り当てられた患者は、推奨された投与量での各当初の抗ウイルス剤で治療を受けた。エンテカビル(500mg/錠;1日1錠)、テルビブジン(600mg/錠;1日1錠)又はテノホビル(300mg/錠;1日1錠)。低用量群及び高用量群に割り当てられた患者に関して、6錠のFEM102 500 mg及び12錠のFEM102 500mgを、1日3回投与した。具体的に、低用量群の患者は、各食事の前に2錠服用し、高用量群の患者は、各食事の前に4錠服用した。
【0079】
試験中、コントロール群の12名の患者は介入を中止し、低用量群及び高用量群には、それぞれ4名及び8名の介入を中止した患者がいた。
【0080】
結果:FEM102錠の生物学的効果
【0081】
初回の投与後の1、3、及び6ヶ月目に、各群の患者の血液試料を、HBsAgのレベルを判定するために酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)により解析した。各群のqHBsAgレベルの変化(所定の時点で測定した各患者のqHBsAgレベルから試験開始時に測定した患者のqHBsAgレベルを引いたもの)を図1及び表5にまとめた。
【0082】
図1及び表5で示されたデータにより、FEM102錠での治療を受けた患者において、qHBsAgのレベルが、コントロール群のものと比較して用量依存的に変化したことが示された。1ヶ月、3ヶ月、及び6ヶ月目の高用量群とコントロール群との間に有意差が観察された。
【0083】
【表5】
【0084】
患者における肝硬度を、線維化及び狭窄の評価用の非侵襲性装置であるFibroscan(登録商標)により評価し、結果を図2及び表6にまとめる。Fibroscan値(FS)は、肝線維症の重症度の指標としての役割を果たし得る。概して、7.0 kPaよりも高いFS値は、患者が重大(significant)な線維症を有していることを示し、9.1kPaよりも高いFS値は、患者が重篤(severe)な線維症を有していることを示し、12.5kPaよりも高いFS値は、患者が肝硬変を有していることを示す。表6にまとめられたデータにより、抗ウイルス剤(例えば、エンテカビル、テルビブジン又はテノホビル)とFEM102錠(6グラム)との併用投与が患者のFS値を有意に減少させ、これにより患者の肝臓の状態が改善していることが示唆され、肝線維症が、それほど、ひどくないように思われた (7.521KPa(6ヶ月)対9.242KPa(ベースライン)、p = 0.005)ことが示された。
【0085】
【表6】
【0086】
総合的に考えると、上記のデータは、シアノバクテリアバイオマス(例えば、乾燥A. maxima由来のFEM102錠)の投与が、HBV粒子の除去、及び、慢性HBV感染症を有する患者における肝線維症の改善に役立つ可能性があることを確認した。HBV粒子及び肝線維症が、これらの患者における睡眠パターンの乱れ及び不眠症を引き起こす要因とみなされてきたので、本発明者らは更に、「FEM102錠がこのような患者の睡眠の質を改善できるか」を評価した。
【0087】
睡眠の質を、寝付くのに掛かる時間、睡眠時間中の覚醒の持続期間、総睡眠時間、及び日中の精神的能力(記憶、認知、及び注意能力など)などの、いくつかの睡眠に関連するパラメータに従って評価し、スコア付けを行った。スコアは睡眠の質と反比例し、言い換えれば、睡眠の質が悪いほど、算定されるスコアが高くなった。結果を表7にまとめる。
【0088】
表7のデータは、抗ウイルス剤とFEM102錠との併用で治療された患者の睡眠の質が、抗ウイルス剤のみで治療された患者の睡眠の質より明らかに優れていることを示した。
【0089】
【表7】
【0090】
結論として、本開示は、シアノバクテリアバイオマス(例えばA. maxima由来のバイオマス)、これを含む医薬組成物(例えばFEM102錠など)、及び慢性HBV感染症の治療におけるこれの使用を提供する。具体的に、本シアノバクテリアバイオマスは、HBV粒子(患者の血清中で検出可能なHBsAgレベルで示される)を減少させ、肝線維症の状態及び慢性HBV感染症を有する患者の睡眠の質を改善させるのに有用である。
【0091】
上記した実施形態の記載は例としてのみとして行われ、様々な改変が当業者により行われ得ることが理解されるであろう。上記した明細書、実施例及びデータは、本発明の例示的実施形態の構造及び使用の完全な説明を提供する。本発明の様々な実施形態を、ある程度の特殊性により又は1つ以上の個別の実施形態に関して上記したが、本発明の精神又は範囲から逸脱するとなく、当業者は、開示された実施形態に対して多数の変更を行うことが出来る。
図1
図2