(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】センサ装置
(51)【国際特許分類】
G01P 5/12 20060101AFI20250109BHJP
G01F 1/684 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01P5/12 C
G01F1/684 A
(21)【出願番号】P 2021049692
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 美貴
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-229914(JP,A)
【文献】特開平10-239169(JP,A)
【文献】実開昭59-47836(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0299307(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P5/12
G01F1/684
G01W1/00
G01W1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感温抵抗体を備えたセンサ素子と、前記センサ素子を保護するための保護カバーと、を有するセンサ装置であって、
前記センサ素子は、一方向に長く延出する形状であり、
前記保護カバーは、前記センサ素子の長手方向に対して斜め方向に延出する複数の支柱にて前記センサ素子の周囲を囲
み、
複数の前記支柱が格子状に交わっており、
複数の前記支柱が交わる交差部分と前記センサ素子とが、側面視にて、1点で重なる、
ことを特徴とするセンサ装置。
【請求項2】
周囲方向の全角度に対し、側面視にて、複数の前記支柱が交わる交差部分が、前記センサ素子の中心から外れることを特徴とする請求項
1に記載のセンサ装置。
【請求項3】
前記支柱の幅は、前記センサ素子の長手方向の長さよりも短いことを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載のセンサ装置。
【請求項4】
前記支柱の外側から内側にかけての長さ寸法のほうが、前記支柱の幅よりも長いことを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれかに記載のセンサ装置。
【請求項5】
前記支柱は、内側から外側に向けて徐々に幅寸法が小さくなる突状の断面形状で形成されることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれかに記載のセンサ装置。
【請求項6】
前記保護カバーには、前記支柱の下端に、前記センサ素子を支持する基板を収納する収納部を備えることを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれかに記載のセンサ装置。
【請求項7】
感温抵抗体を備えたセンサ素子と、前記センサ素子を保護するための保護カバーと、を有するセンサ装置であって、
前記センサ素子は、基板に支持されており、
前記感温抵抗体は、前記センサ素子の周囲方向全体に渡って形成され、
前記保護カバーは、前記基板から見て前記センサ素子が配置された方向に対して斜め方向に延出する複数の支柱にて前記センサ素子の周囲を囲
み、
複数の前記支柱が格子状に交わっており、
複数の前記支柱が交わる交差部分と前記センサ素子とが、側面視にて、1点で重なる、ことを特徴とするセンサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、風速を計測可能なセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱した流量検知用抵抗素子を流体に曝し、その際の放熱作用に基づいて流体の流量を検出する熱式のセンサ装置が知られている。センサ装置は、流量検知用抵抗素子の他に温度補償用抵抗素子を備えており、流量検知用抵抗素子と温度補償用抵抗素子が、ブリッジ回路に組み込まれている。流量検知用抵抗素子が流体を受けると、流量検知用抵抗素子の温度が低下して抵抗が変化し、これにより、ブリッジ回路にて差動出力を得ることができる。この作動出力に基づいて、流体の流量を検出することができる。
【0003】
例えば、特許文献1では、流量検知用抵抗素子及び温度補償用抵抗素子を備えた各センサ素子が、夫々、リード線を介して絶縁基板から離間して支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-215163号公報
【文献】特開平10-239169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に示すセンサ装置では、センサ素子に対し、外部接触から保護するための保護カバーが設けられておらず、センサ素子は、外部に曝されている。
【0006】
そこで、センサ素子の周囲に保護カバーを配置する構造が考えられる。しかしながら、流体の流れる方向によっては、流体が、センサ素子に到達するまでに、保護カバーの影響により、検知精度が低下する問題があった。
【0007】
また、特許文献1に示すセンサ装置の構造は、そもそも特定の方向からの流量検知精度を向上させるものであり、センサ素子の周囲360度における無指向性を得ようとするものではない。
【0008】
特許文献2には、温度センサ素子にキャップを被せた温度センサが開示されているが、流量検知の用途は想定されておらず、ましてや、温度センサ素子の周囲360度における無指向性を考慮した構造ではない。
【0009】
そこで本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、センサ素子を外部から保護するとともに、センサ素子の周囲360度における無指向性を向上させることができるセンサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明における流量センサ装置は、感温抵抗体を備えたセンサ素子と、前記センサ素子を保護するための保護カバーと、を有するセンサ装置であって、前記センサ素子は、一方向に長く延出する形状であり、前記保護カバーは、前記センサ素子の長手方向に対して斜め方向に延出する複数の支柱にて前記センサ素子の周囲を囲み、複数の前記支柱が格子状に交わっており、複数の前記支柱が交わる交差部分と前記センサ素子とが、側面視にて、1点で重なることを特徴とする。
【0011】
また、本発明における流量センサ装置は、感温抵抗体を備えたセンサ素子と、前記センサ素子を保護するための保護カバーと、を有するセンサ装置であって、前記センサ素子は、基板に支持されており、前記感温抵抗体は、前記センサ素子の周囲方向全体に渡って形成され、前記保護カバーは、前記基板から見て前記センサ素子が配置された方向に対して斜め方向に延出する複数の支柱にて前記センサ素子の周囲を囲み、複数の前記支柱が格子状に交わっており、複数の前記支柱が交わる交差部分と前記センサ素子とが、側面視にて、1点で重なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセンサ装置においては、センサ素子を外部から保護するとともに、センサ素子の周囲360度における無指向性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態におけるセンサ装置の斜視図である。
【
図2】第1の実施の形態のセンサ装置の正面図である。
【
図3】第1の実施の形態のセンサ装置の側面図である。
【
図6】
図2に示す保護カバーのA-A線断面図である。
【
図8】
図7の一部を拡大して示した部分拡大正面である。
【
図9】第2の実施形態の保護カバーを示す斜視図である。
【
図10】第3の実施形態の保護カバーを示す斜視図である。
【
図11】第4の実施形態の保護カバーを示す斜視図である。
【
図12】比較例1の保護カバーを示す斜視図である。
【
図13】比較例2の保護カバーを示す斜視図である。
【
図14】実施例1のセンサ装置を用いて行った、風速と角度指向特性との関係を示す実験結果である。
【
図15】実施例2のセンサ装置を用いて行った、風速と角度指向特性との関係を示す実験結果である。
【
図16】実施例3のセンサ装置を用いて行った、風速と角度指向特性との関係を示す実験結果である。
【
図17】実施例4のセンサ装置を用いて行った、風速と角度指向特性との関係を示す実験結果である。
【
図18】比較例1のセンサ装置を用いて行った、風速と角度指向特性との関係を示す実験結果である。
【
図19】比較例2のセンサ装置を用いて行った、風速と角度指向特性との関係を示す実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
<第1の実施の形態のセンサ装置の説明>
図1は、第1の実施の形態におけるセンサ装置の側面図である。
図2は、第1の実施の形態のセンサ装置の正面図である。
図3は、第1の実施の形態のセンサ装置の側面図である。
図4は、本実施の形態のセンサ素子の断面図である。
図5は、本実施の形態のセンサ装置の回路図である。
図6は、
図2に示す保護カバーのA-A線断面図である。
【0016】
(センサ装置1の概要)
図1に示されるX1-X2方向及びY1-Y2方向は、平面内にて直交する2方向を示し、
図1に示すZ1-Z2方向は、X1-X2方向及びY1-Y2方向に互いに直交する高さ方向を指す。
【0017】
図1に示す第1の実施の形態のセンサ装置1は、感温抵抗体を備えたセンサ素子3、4と、センサ素子3、4を外部から保護する保護カバー2と、を有して構成される。
【0018】
以下、第1の実施の形態、及び後述する他の実施の形態においては、全て
図1に示すセンサ装置1の姿勢を基本として、上記した平面や高さ方向を規定する。すなわち、保護カバー2がセンサ装置1の上方に位置するように、センサ装置1を直立させた状態を基本姿勢として説明する。
図1~
図3に示すように、センサ素子3、4は、網目構造の保護カバー2の内側に配置されている。
【0019】
図1~
図3に示すように、センサ素子3、4は、高さ方向(Z1-Z2方向)に長く延出する形状で形成される。このように、センサ素子3、4は棒状であり、具体的には、円柱状であってもよいし多角柱状であってもよい。ここで、本実施の形態でのセンサ素子3、4は、高さ方向に長く延出する円柱状である。
【0020】
図2に示すように、各センサ素子3、4は、夫々、その両端にリード線6a、6b、8a、8bが接続されており、各リード線は、基板9(
図7参照)に接続される。
センサ素子3は、流量検知用抵抗体10を備えた第1のセンサ素子であり、センサ素子4は、温度補償用抵抗体38を備えた第2のセンサ素子である。
【0021】
第1のセンサ素子3の内部構造について、
図4を用いて説明する。
図4に示すように、第1のセンサ素子3は、感温抵抗体としての流量検知用抵抗体10と、流量検知用抵抗体10の両側に配置された電極キャップ11と、流量検知用抵抗体10及び電極キャップ11を被覆する絶縁膜12と、を有して構成される。
【0022】
流量検知用抵抗体10は、例えば、セラミック等の円柱基板の表面に抵抗被膜が形成されて成る。したがって、流量検知用抵抗体(感温抵抗体)10は、周囲方向全体に渡って形成される。ここで、「周囲方向全体」とは、第1のセンサ素子3が延出する高さ方向(Z1-Z2方向)を軸中心にした軸周りの方向を指す。なお、図示しないが、流量検知用抵抗体10の抵抗被膜の表面には、トリミングが施されて、抵抗調整がされている。
第1のセンサ素子3の外面は、流量検知面として機能する素子表面5aと、素子表面5aの上下に位置する上面5b及び下面5cとを備える。
【0023】
図4に示すように、下面5c側に位置する電極キャップ11から第1のリード線6aがZ2方向に延出している。また、上面5b側に位置する電極キャップ11から第1のリード線6bが一旦、Z1方向に延び、途中で折り曲げられて、Z2方向に向け延出している。このため、
図4に示すように、一対のリード線6a、6bは、X1-X2方向に所定の間隔を空けて対向し、ともにZ2方向に向けて延出している。そして、一対のリード線6a、6bの端部が基板9に接続されている。
第2のセンサ素子4に関しても、
図4と同様の構造であるが、流量検知用抵抗体10の代わりに、感温抵抗体としての温度補償用抵抗体38が内蔵されている。
【0024】
図5に示すように、流量検知用抵抗体10は、温度補償用抵抗体38とともに、ブリッジ回路を構成する。
図5に示すように、流量検知用抵抗体10と、温度補償用抵抗体38と、抵抗器16、17とでブリッジ回路18を構成している。
図5に示すように、流量検知用抵抗体10と抵抗器16とで第1の直列回路19を構成し、温度補償用抵抗体38と抵抗器17とで第2の直列回路20を構成している。そして、第1の直列回路19と第2の直列回路20とが、並列に接続されてブリッジ回路18を構成している。
【0025】
図5に示すように、第1の直列回路19の出力部21と、第2の直列回路20の出力部22とが、夫々、差動増幅器(アンプ)23に接続されている。ブリッジ回路18には、差動増幅器23を含めたフィードバック回路24が接続されている。フィードバック回路24には、トランジスタ(図示せず)等が含まれる。
【0026】
抵抗器16、17は、流量検知用抵抗体10、及び温度補償用抵抗体38よりも抵抗温度係数(TCR)が小さい。流量検知用抵抗体10は、例えば、所定の周囲温度よりも所定値だけ高くなるように制御された加熱状態で、所定の抵抗値Rs1を有し、また、温度補償用抵抗体38は、例えば、前記の周囲温度にて、所定の抵抗値Rs2を有するように制御されている。なお、抵抗値Rs1は、抵抗値Rs2よりも小さい。流量検知用抵抗体10と第1の直列回路19を構成する抵抗器16は、例えば、流量検知用抵抗体10の抵抗値Rs1と同様の抵抗値R1を有する固定抵抗器である。また、温度補償用抵抗体38と第2の直列回路20を構成する抵抗器17は、例えば、温度補償用抵抗体38の抵抗値Rs2と同様の抵抗値R2を有する固定抵抗器である。
【0027】
流量検知用抵抗体10は、周囲温度よりも高い温度となるように調整されており、第1のセンサ素子3が風を受けると、発熱抵抗である流量検知用抵抗体10の温度は低下する。このため、流量検知用抵抗体10が接続された第1の直列回路19の出力部21の電位が変動する。これにより、差動増幅器23により差動出力が得られる。そして、フィードバック回路24では、差動出力に基づいて、流量検知用抵抗体10に駆動電圧を印加する。そして、流量検知用抵抗体10の加熱に要する電圧の変化に基づき、基板9内に配置されたマイコン30(
図7参照)にて風速を換算し出力することができる。なお、マイコンは、各センサ素子3、4と、各リード線6a、6b、8a、8bを介して電気的に接続されている。
【0028】
また、温度補償用抵抗体38は、流体そのものの温度を検知し、流体の温度変化の影響を補償する。このように、温度補償用抵抗体38を備えることで、流体の温度変化が流量検知に影響するのを低減でき、流量検知を精度よく行うことができる。上記したように、温度補償用抵抗体38は、流量検知用抵抗体10よりも十分に抵抗が高く、且つ、温度が周囲温度付近に設定されている。このため、温度補償用抵抗体38が風を受けても、温度補償用抵抗体38が接続された第2の直列回路20の出力部22の電位は、ほとんど変化しない。したがって、出力部22の電位を基準電位として、流量検知用抵抗体10の抵抗変化に基づく差動出力を精度よく得ることができる。
なお、
図5に示す回路構成は、一例であり、これに限定されるものではない。
【0029】
(保護カバー2)
図1に示すように、保護カバー2は、センサ素子3、4の周囲を囲む周囲部2aと、周囲部2aの上方(Z1側)に位置する天井部2bと、周囲部2aの下方(Z2側)に位置する固定支持部2cと、を有して構成される。
【0030】
保護カバー2の周囲部2aは、センサ素子3、4の長手方向(Z1-Z2方向)に対して、斜め方向に延出する複数の支柱13にてセンサ素子3、4の周囲を囲み、複数の貫通穴15を備える。第1の実施の形態では、複数の支柱13が、格子状に交わっている。
【0031】
各支柱13は、固定支持部2cから天井部2bにかけて捻りを加えながら傾斜し、天井部2bと固定支持部2cとの間を連結している。各支柱14は、傾斜する方向が約90度異なる2パターンで構成され、各パターンの支柱14が斜め方向から格子状に交わる。
【0032】
周囲部2aにおいて、支柱13以外の部分は、貫通穴15であり、各貫通穴15の形状(輪郭)は、菱形や矩形状である。そして、貫通穴15を通して、保護カバー2の内側に位置するセンサ素子3、4を外側から見ることができる。
図2は、
図1に示すA矢視の正面図であり、
図3は、
図1に示すB矢視の側面図であるが、いずれもセンサ素子3、4が貫通穴15を通して現れる。そして、
図2及び
図3以外の角度から見ても、センサ素子3、4は、貫通穴15を通して現れる。これは、センサ素子3、4の長手方向(Z1-Z2方向)に対し、保護カバー2を構成する支柱13が斜め方向に延出しているからである。
【0033】
このため、センサ素子3、4の周囲360度の方向から風が作用したとき、換言すれば、X1-X2方向及びY1-Y2方向からなる水平面内の周囲360度の方向から風が作用したとき、風は、どの方向から吹いても、周囲部2aの貫通穴15を通り抜けて、流量検知用抵抗体10を備えた第1のセンサ素子3に作用する。したがって、第1のセンサ素子3は、周囲360度からの風の作用により流量検知が可能である。以上により、第1の実施の形態のセンサ装置1では、センサ素子3、4を適切に外部から保護し、且つ、センサ素子3、4の周囲360度における無指向性を向上させることができる。
第1の実施の形態では、複数の支柱13が格子状に交わっている。これにより、保護カバー2の強度を上げることができる。
【0034】
更に、以下の構成を有することが好ましい。
(1) 周囲方向の全角度に対し、側面視にて、複数の支柱13が交わる交差部分13aが、第1のセンサ素子3の中心Cから外れること(
図2、
図3参照)。
【0035】
図2や
図3の正面図及び側面図に示すように、交差部分13aは、第1のセンサ素子3の中心Cから上方(Z1側)或いは下方(Z2側)に外れている。
図2や
図3以外の周囲角度においても、同様である。これにより、第1のセンサ素子3に対して周囲360度のどの方向からでも適切に風を作用させることができ、周囲360度における無指向性を、より効果的に向上させることができる。
【0036】
(2) 支柱13の幅Tは、第1のセンサ素子3の長手方向(Z1-Z2方向)の長さ寸法L1よりも短いこと(
図2、後述する
図8参照)。
このように、支柱13の幅Tを細くすることで、第1のセンサ素子3と、支柱13とが、側面視にて重なる面積を減らすことができ、これにより、無指向性を効果的に向上させることができる。本実施の形態では、第1のセンサ素子3に対する支柱13の重なり面積が、どの周囲角度からの側面視であっても、75%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましく、60%以下であることが更に好ましく、55%以下であることが更に好ましく、50%以下であることが最も好ましい。
【0037】
(3) 支柱13の外側から内側にかけての長さ寸法(厚さ寸法)L2のほうが、支柱13の幅Tよりも長いこと(
図6参照)。
ここで、「支柱13の内側」とは、センサ素子3、4が配置される保護カバー2の内部側であり、「支柱13の外側」とは、その反対側(保護カバー2の外部側)である。
【0038】
図6は、
図2に示すA-A断面図である。
図6に示すように、支柱13の長さ寸法L2は、幅寸法Tよりも長く形成されている。これにより、保護カバー2の外側から保護カバー2の内側に向けて吹く風が、支柱13により遮断されにくくなり、換言すれば、支柱13に直接当たる風向範囲を小さくできる。これにより、周囲360度における無指向性を効果的に向上させることができる。
なお、
図6のように、幅Tが、支柱13の外側から内側にかけて変化する形態では、最大幅と、支柱13の長さ寸法(暑さ寸法)L2とを比較する。
【0039】
(4) 支柱13は、内側から外側に向けて徐々に幅寸法が小さくなる突状の断面形状で形成されること(
図6参照)。
図6のように、突部が外側を向く断面形状とすることで、風が、支柱13の側面を外側から内側に向けてスムースに通り抜けることができ、これにより、周囲360度における無指向性を効果的に向上させることができる。
【0040】
周囲部2aの上部に位置する天井部2bについて説明する。
図1に示すように、天井部2bは、周囲部2aを構成する各支柱13を繋ぐリング部25と、リング部25の上方にて交差する2本のアーチ状の支持体26とを具備した構造であるが、この構造に限定されるものではない。ただし、天井部2bを有することで、保護カバー2の強度を高めることができる。支持体26を設けることで、保護カバー2の強度の向上を図ることができる。このとき、天井部2bの全体を覆うよりも柱状の支持体26を配置し、支持体26以外の箇所を、保護カバー2の内部に通じる空間にすることで、斜め上方からの気流に対し、周囲360度の検知精度に及ぼす影響を弱めることができると考えられる。
【0041】
固定支持部2cについて説明する。固定支持部2cを説明するにあたって、固定支持部2cの内側の構造が重要になるため、以下では、
図7、
図8を用いる。
図7は、
図1に示すセンサ装置の分解斜視図である。
図8は、
図7の一部を拡大して示した部分拡大正面図である。
【0042】
図7に示すように、保護カバー2は、第1のパーツ2dと第2のパーツ2eとに分割でき、これらパーツ2d、2eを組み合わせることで、センサ素子3、4の周囲を囲む保護カバー2を構成できる。各パーツ2d、2eは同一形状であり、金型を用いて樹脂成形される。
【0043】
図7、
図8に示すように、第1のパーツ2dには、固定支持部2cの内側に、凹状の収納部27が形成されている。収納部27は、第1の収納部27a、第2の収納部27b及び第3の収納部27cに分かれているが、これらは連通している。
【0044】
センサ素子3、4が接続された基板9を、固定支持部2cの各収納部27a~27cに収納できる。第2のパーツ2eにも第1のパーツ2dと同様の収納部27が形成されており、各パーツ2d、2eを組み合わせることで、固定支持部2c内に基板9を確実に固定支持することができる。
【0045】
また、
図7、
図8に示すように、固定支持部2cの上面には、複数の細穴29が設けられており、この細穴29は収納部27にまで通じている。そのため、
図8に示すように、この細穴29にセンサ素子3、4を固定するリード線6a、6b、8a、8bを通すことができる。これにより、固定支持部2cの内部に基板9を収納するとともに、固定支持部2cの上面から上方(Z1側)に、各センサ素子3、4を離間して配置できる。
【0046】
図7に示すように、保護カバー2の天井部2bに設けられた支持体26には、夫々、爪部26aと、凹部状の爪受け部26bが形成されている。また、固定支持部2cには、夫々、嵌合凸部28aと、嵌合凸部28aとは逆側に位置する嵌合穴部28bとが設けられる。これにより、各パーツ2d、2eを組み合わせた際、天井部2bの爪部26aを爪受け部26bに挿入し、更に、嵌合凸部28aを嵌合穴部28bにはめ込むことで、各パーツ2d、2eを接合でき、外部からの衝撃などによっても、一対のパーツ2d、2eが外れるのを防止でき、センサ素子3、4の保護を適切に図ることができる。
【0047】
(センサ素子3、4)
センサ素子3、4について補足する。
図8に示すように、第1のセンサ素子3は、第2のセンサ素子4よりも高い位置に配置されることが好ましい。すなわち、第1のセンサ素子3は、第2のセンサ素子4よりも、固定支持部2cの上面2fから離間していることが好ましい。更に、好ましくは、第1のセンサ素子3は、第2のセンサ素子4に接続されるリード線8bよりも高い位置に形成されることである。これにより、第1のセンサ素子3に風が作用する際、第2のセンサ素子4、更には、リード線8bの影響を弱めることができ、周囲360度における無指向性を、効果的に向上させることができる。
【0048】
また、各センサ素子3、4及び各リード線6a、6b、8a、8bが並ぶ方向を一列に配列することが好ましい。これにより、第1のセンサ素子3から見て、第2のセンサ素子4やリード線は、一方向(
図7に示すようにX1-X2方向)にのみ配列され、第1のセンサ素子3に風が作用する際、第2のセンサ素子4及び、リード線8bが影響する角度範囲を極力狭めることができ、周囲360度における無指向性を、効果的に向上させることができる。
【0049】
また、第1のセンサ素子3は、固定支持部2cの上面2fの略中心に位置することが好ましい。換言すれば、第1のセンサ素子3は、保護カバー2の周囲部2aから略等距離の位置に配置されることが好ましい。これにより、周囲360度から風が作用したときに、第1のセンサ素子3を中心に風が作用しやすくなり、周囲360度における無指向性を、効果的に向上させることができる。
【0050】
(基板9)
センサ素子3、4を支持する基板9について説明する。基板9は、絶縁基板であり、特に限定するものではないが、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させた一般的なプリント基板であることが好ましく、例えば、FR4基板を提示することができる。
【0051】
図7、
図8に示すように、基板9は、センサ素子3、4を支持するセンサ部9aと、マイコン30やコネクタ36、37などが設置される駆動基板9bと、センサ部9aと駆動基板9bとの間を連結する連結部9cとを、有する。
【0052】
保護カバー2の固定支持部2cに形成された第1の収納部27aは、センサ部9aを収納可能な大きさで形成され、第2の収納部27bは、駆動基板9bを収納可能な大きさで形成され、第3の収納部27cは、連結部9cを収納可能な大きさで形成される。
【0053】
図7、8に示すように、センサ部9aには、横一列に複数の穴31が形成されており、センサ素子3、4に接続される各リード線6a、6b、8a、8bは、各穴31に挿入され固定される。
【0054】
図7、
図8に示すように、連結部9cの幅寸法は、センサ部9a及び駆動基板9bの幅寸法に対して小さい。これにより、駆動基板9bで生じた熱が、センサ部9a、ひいてはセンサ素子3、4にまで及びにくくできる。これにより、良好な検知精度を維持することができる。また、連結部9c寄りのセンサ部9aにはスリット32が形成されているが、これにより、センサ部9aと駆動基板9bとの熱源を分離する。以上により、駆動基板9bからセンサ部9aへの熱的影響を弱めることができ、センサ応答性を向上させることができる。
【0055】
(センサ装置の組み立て)
第1の実施の形態においては、
図7に示す保護カバー2を構成する一対のパーツ2d、2eの収納部27にセンサ素子3、4を具備する基板9を収納して、パーツ2d、2eを組み合わせ接合する。次に、駆動基板9bを覆うべく一対のケース33、34を保護カバー2の下端で組み合わせ、ねじ35で留める。これにより、
図1に示すセンサ装置1が完成する。
【0056】
<第2の実施の形態のセンサ装置の説明>
以下、第1の実施の形態以外のセンサ装置について説明する。ただし、保護カバーを除く装置本体(センサ素子3、4、基板9、及びケース33、34を含む)に関しては、第1の実施の形態と同様の構造であるため、以下の実施の形態に関しては、保護カバーのみ説明する。
【0057】
図9に示すように、第2の実施の形態のセンサ装置に適用される保護カバー40は、センサ素子3、4の長手方向である高さ方向(Z1-Z2方向)に対して斜めに延出する複数の支柱41を備える。保護カバー40は、支柱41が側部から上部にまで延出している。頂点には穴42が空いているが、この部分を覆うように支柱41が延びていてもよい。保護カバー40には、側部から上部に至って複数の貫通穴43が形成されており、貫通穴43は略菱形である。
図9に示す保護カバー40は、第1の実施の形態に示す保護カバー2と異なって、貫通穴43が塞がった略一定厚のキャップ部材を作製した後、キャップ部の側部にパンチングで複数の菱形状の貫通穴43を形成する。また、第2の実施の形態の保護カバー40は、
図7のように複数のパーツに分割できず、装置本体の上方から保護カバー40をはめ込むタイプである。
【0058】
図9に示す第2の実施の形態においても複数の支柱41が、センサ素子3、4の長手方向である高さ方向(Z1-Z2方向)に対して斜めに延出し、格子状に交わっている。したがって、第2の実施の形態の保護カバー40を適用することで、センサ素子3、4を外部から保護できるとともに、周囲360度における無指向性を向上させることができる。
【0059】
この実施形態においても、側面視にて、複数の支柱41が交わる交差部分が、周囲方向の全角度に対し、第1のセンサ素子3の中心C(
図2、
図3参照)から外れていることが好ましい。
【0060】
<第3の実施の形態のセンサ装置の説明>
図10に示す第3の実施の形態に示す保護カバー50は、
図9と異なって、貫通穴53が略円形状であるが、それ以外は
図9と同様の構造である。
図10に示す保護カバー50も複数の支柱51が、センサ素子3、4の長手方向である高さ方向(Z1-斜め方向に延出する網目構造である。したがって、第3の実施の形態の保護カバー50を適用することで、センサ素子3、4を外部から保護できるとともに、周囲360度における無指向性を向上させることができる。
【0061】
この実施形態においても、側面視にて、複数の支柱51が交わる交差部分が、周囲方向の全角度に対し、第1のセンサ素子3の中心C(
図2、
図3参照)から外れていることが好ましい。
【0062】
<第4の実施の形態のセンサ装置の説明>
図11に示す第4の実施の形態の保護カバー60は、上端のリング部62と下端の固定支持部64との間を繋ぐ複数の螺旋状の支柱61が設けられている。これら支柱61は、センサ素子3、4の長手方向である高さ方向(Z1-Z2方向)に対して斜めに延出している。したがって、第4の実施の形態の保護カバー60を適用することで、センサ素子3、4を外部から保護できるとともに、周囲360度における無指向性を向上させることができる。なお、保護カバー60の強度を高めるには、
図1~
図3に示す網目構造が好ましい。
【0063】
<比較例との対比>
これに対し、
図12、
図13に示す比較例のセンサ装置に設けられる保護カバー70、80は、センサ素子3、4の長手方向である高さ方向(Z1-Z2方向)に支柱71、81が延出している。
図12の比較例1では、複数の支柱71、72が縦横の格子状に交わる構造である。このうち、支柱71が、高さ方向(Z1-Z2方向)に延出している。また、
図13の比較例2では、貫通孔83が千鳥抜きとなるように複数の支柱81、82が配置される。このうち、支柱81が、高さ方向(Z1-Z2方向)に延出している。
【0064】
上記に挙げた各実施の形態のセンサ装置と、比較例のセンサ装置を用いて、周囲360度から風を作用させたときの流量検知について実験を行った。実験では、いずれも、保護カバーを装着する装置本体に同じものを使用した。なお、第1の実施の形態~第4の実施の形態のセンサ装置1を用いた実験を、「実施例1」~「実施例4」として説明する。
【0065】
周囲360度は、
図1に示すX1-X2方向及びY1-Y2方向からなる平面に平行な水平方向である。この水平方向は、Z1-Z2方向に直立した第1のセンサ素子3の径方向である。
【0066】
実験では、各センサ装置に対し、周囲360度から風を作用させた。風速は、インバータの運動周波数を3Hz、7Hz、10Hz及び14Hzの4段階に制御した。運動周波数が高いほど風速が大きくなる。これら風速を、各センサ装置で測定した。
【0067】
実施例1の実験結果は
図14に示されている。
図14に示すように、風配図を模した円形グラフの外周の数値は、中心に位置するセンサ装置1に向けての風の方向を示している。
【0068】
円グラフ内の0、2、6、8、10、12の数値は風速値である。また、円グラフ内に太く表示された複数の曲線は、インバータの運動周波数を3Hz、7Hz、10Hz及び14Hzに調整し、周囲360度からの風をセンサ装置にて測定した際に計測された風速の実測値である。
図14には、インバータの運動周波数を14Hzに調整した際に理想的な測定値としての理想値も示した。
【0069】
実施例2~4、及び比較例1、2に関しても上記と同様に周囲360度からの風速の測定を行った。実施例2の実験結果は、
図15に、実施例3の実験結果は
図16に、実施例4の実験結果は、
図17に、比較例1の実験結果は、
図18に、比較例2の実験結果は、
図19に示す。
【0070】
図18に示すように、比較例1では、約30度~約70度方向、約115度~約140度方向、約200度~約240度方向、及び約270度~約320度方向に対する風量検知精度が極端に低下することがわかった。
【0071】
また、
図19に示すように、比較例2では、約30度~約50度方向、約60度~約90度方向、約100度~約120度方向、約130度~約150度方向、約160度~約180度方向、約200度~約220度方向、約230度~約250度方向、約270度~約290度方向、約310度~約340度方向、及び約350度~約10度方向に対する風量検知精度が極端に低下することがわかった。
【0072】
比較例1、2において、上記角度範囲で風量検知精度が低下するのは、その角度での側面視において、第1のセンサ素子3の長手方向である高さ方向(Z1-Z2方向)と支柱とが略一致し、風が適切に第1のセンサ素子にまで到達しないことが要因であると考えられる。
【0073】
これに対し、実施例1~実施例4では、
図14~
図17に示すように、どの角度からの風に対しても、比較例1、2に比べて、極端な風量検知精度の低下は見られず理想値に近づくことがわかった。
【0074】
実施例1~実施例4では、センサ素子3、4の周囲を囲む複数の支柱がセンサ素子の長手方向である高さ方向(Z1-Z2方向)に対して斜め方向に延出している。このため、どの角度に対しても支柱と第1のセンサ素子3の長手方向とが、側面視にて重なることはない。したがって、周囲方向の全角度に対して、第1のセンサ素子3に風を適切に作用させることができ、周囲360度における無指向性を向上させることができる。
【0075】
実施例1~実施例4の中では、
図16に示す実施例3において、約0度~80度方向、約230度~350度方向に対する風量検知精度が実施例1、2、4よりも多少下がった。また複数の支柱が格子状に交わる実施例1、2のうち、実施例1のほうが実施例2よりも、約190度~約150度方向に対する風量検知精度が優れていた。このことから、実施例1が、保護カバーの強度とともに、周囲360度における無指向性に優れることがわかった。なお、実施例1は、上記した(1)~(4)の条件を全て揃えている。
【0076】
<他の実施の形態について>
他の実施の形態としては、流量検知用抵抗体を備える第1のセンサ素子3が一方向に長く延出する形態以外であっても適用可能である。ただし、第1のセンサ素子3は、流量検知用抵抗体が、センサ素子の周囲方向全体に渡って形成されることが条件である。例えば、第1のセンサ素子には、球体のセンサ素子を提示できる。具体的には、球体からなる基体の表面全域に流量検知用抵抗体が形成された構造では、流量検知用抵抗体がセンサ素子の周囲方向全体に渡って形成されている。
【0077】
球体の第1のセンサ素子は、
図8等に示すリード線6a、6bを介して基板9に接続されている。そして、保護カバー2(ここでは代表して
図1等に示す保護カバー2で説明する)は、基板9から見てセンサ素子3、4が配置された方向、すなわち高さ方向(Z1-Z2方向)に対して斜め方向に延出する複数の支柱13にてセンサ素子3、4の周囲を囲む。これにより、センサ素子3、4を外部から適切に保護できるとともに、周囲360度における無指向性を向上させることができる。このとき、第1のセンサ素子3を第2のセンサ素子4より高い位置に形成することが好ましい。保護カバーには、上記した第1の実施の形態から第4の実施の形態のいずれの構造も適用できる。
上記では、センサ装置1は、風を検知するものとして説明したが、検知する流体としては、風以外にガスや、液体であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明では、センサ素子を外部から適切に保護できるとともに、周囲360度における無指向性を向上させることができ、様々なアプリケーションに適用することができる。例えば、空調設備や、風の制御系、分析用などに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 センサ装置
2、40、50、6、70、80 保護カバー
2a 周囲部
2b 天井部
2c 固定支持部
2d 第1のパーツ
2e 第2のパーツ
2f 上面
3 第1のセンサ素子
4 第2のセンサ素子
6a、6b、8a、8b リード線
9 基板
9a センサ部
9b 駆動基板
9c 連結部
10 流量検知用抵抗体
11 電極キャップ
12 絶縁膜
13、41、51、61、71、72、81、82 支柱
13a 交差部分
14 支柱
15、43、53 貫通穴
18 ブリッジ回路
19 第1の直列回路
20 第2の直列回路
23 差動増幅器
24 フィードバック回路
25 リング部
26 支持体
26a 爪部
26b 爪受け部
27 収納部
27a 第1の収納部
27b 第2の収納部
27c 第3の収納部
28a 嵌合凸部
28b 嵌合穴部
29 細穴
30 マイコン
31 穴
32 スリット
33、34 ケース
34 ケース
36、37 コネクタ
38 温度補償用抵抗体
42 穴
C 中心
L1、L2 長さ寸法
T 幅寸法