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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電動巻き上げ装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/017 20060101AFI20250109BHJP
   A01K 91/18 20060101ALI20250109BHJP
   B66D 1/12 20060101ALI20250109BHJP
   B66D 1/14 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A01K89/017
A01K91/18 L
B66D1/12
B66D1/14 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021133110
(22)【出願日】2021-08-18
(65)【公開番号】P2023027818
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】阿部 佑太郎
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-035041(JP,A)
【文献】特表2019-518908(JP,A)
【文献】特開2018-189237(JP,A)
【文献】特開2003-284474(JP,A)
【文献】中国実用新案第209210167(CN,U)
【文献】国際公開第2020/034816(WO,A1)
【文献】実開昭58-161479(JP,U)
【文献】特開平07-227183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/00-89/08
B66D 1/00-5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き上げ対象物を牽引するための牽引部材が巻回される回転体と、電動モータとを有し、減速機構を介して前記電動モータの回転駆動力を前記回転体に伝達して前記回転体を回転させることにより前記回転体に対する牽引部材の巻き取りを行なう電動巻き上げ装置であって、
前記電動巻き上げ装置は、前記電動モータの動力を前記回転体に伝えることができる動力伝達状態と、前記電動モータから前記回転体への動力伝達が遮断される動力遮断状態とを切り換えるための回動操作可能なレバー部材を有する魚釣用電動リールを構成し、
前記電動モータは、そのロータの回転軸と同軸的に延在する貫通孔を有する中空形態を成し、前記減速機構は、サイクロイド減速機を構成するとともに、前記電動モータから回転駆動力を受けるその入力部材と同軸的に延在する貫通孔を有する中空形態を成し、前記回転体がその回転軸と同軸的に延在する貫通孔を有し、前記減速機構が前記電動モータと前記回転体との間に軸方向で並設され、前記減速機構の前記貫通孔は、前記回転体の前記貫通孔と前記電動モータの前記貫通孔とを同軸的に連通させ、前記回転体、前記減速機構、及び、前記電動モータのそれぞれの前記貫通孔には、前記レバー部材の回動操作力を前記回転体側に伝達する伝達棒が挿通配置され、
前記減速機構は、前記電動モータから入力される回転を減速して出力する出力部材を有し、前記レバー部材の回動操作に伴う前記伝達棒の軸方向移動により前記回転体が軸方向に移動されて前記出力部材と一体回転する摩擦板に押圧され、その押圧力の大きさに応じて前記摩擦板に生じる回転方向の摩擦力が前記電動モータから前記回転体に回転駆動力を伝達することを特徴とする電動巻き上げ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの回転駆動によって回転体を回転させて回転体に対する牽引部材の巻き取りを行なう電動巻き上げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの駆動力を利用して寝具、梱包類、仮設足場、建造物、漁労具等の対象物を所定位置まで巻き上げたり、降ろしたりする電動巻き上げ装置は、工業用のウインチも含めて、従来から一般的に知られている。
【0003】
また、魚釣用リールの技術分野でも、船釣り、特に深場の釣りにおいては、電動巻き上げ装置として電動リールが多く使用されている現状にある。
【0004】
このような様々なタイプの電動巻き上げ装置は、少なくとも、電動モータの正回転によって牽引部材を回転体(例えば、ドラムやスプール)に巻き取ることができ、また、用途によっては、電動モータの逆回転によって牽引部材を回転体から繰り出すこともできる。
【0005】
ところで、電動巻き上げ装置では、一般に、電動モータの動力が減速機構を介して回転体に伝達されるようになっている。この場合、電動モータは、牽引対象物を牽引する牽引部材を巻き取るべく回転体を回転駆動させるのに十分なパワーを要し、したがって、そのようなパワーを出力するのに十分な大きさを有することから、装置内でも大きな設置スペースを占める場合がある。一方、電動モータの動力を回転体に伝える減速機構においても、例えば、電動巻き上げ装置がドローンに設置されて大きな重量物を巻き上げる場合や、電動巻き上げ装置が大物の魚を巻き上げる魚釣用リールとして構成される場合などにおいては、回転体において大きな牽引トルクを得る必要があることから、高い減速比が求められる傾向がある。
【0006】
前述したように、減速機構に高い減速比が求められる場合には、例えば特許文献1に開示されるように、減速機構として遊星歯車機構が使用される場合がある。
【0007】
また、前述したように、電動モータが装置内で大きな設置スペースを占める場合には、モータ以外の残る部品の設置スペースを装置内で効率的に確保する必要があり、特に、電動巻き上げ装置がドローン等の移動体に搭載される或いは電動リールに代表されるような携帯型の電動巻き上げ装置として構成される場合などにおいてはその小型化も求められることから、例えば、特許文献2に開示されるように、電動モータとして貫通孔を有する中空形態のモータを使用し、貫通孔内にも部品を挿通配置できるようにして、レイアウト性を高めることも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-284474号公報
【文献】特開2017-035041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されるように、高い減速比を得るべく減速機構として遊星歯車機構を用いる場合には、遊星歯車単体では減速比率に限界があるため、遊星歯車機構を複数設置することが必要となり、その分、電動巻き上げ装置全体が大型化する。
【0010】
一方、特許文献2に開示されるように、中空形態の電動モータを使用する場合には、その強度を確保するため、電動モータの中空軸の直径をある程度大きく設定する必要がある(したがって、電動モータの外径も必然的に大きくなる)ことから、それに対応して、モータの中空軸に動力伝達可能に接続される遊星歯車機構自体も大型化する。具体的には、減速比を維持したまま電動モータを中空形態にすると、モータ中空軸の大径化も相まって遊星歯車の太陽ギアの直径も増大し、その増大に比例して内歯車の直径も増大し、遊星歯車機構自体が全体として大型化する。すなわち、遊星歯車機構を減速機構として用いる場合には、電動モータを中空形態にしてレイアウト性を高めても、装置全体を小型化することが難しい。
【0011】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、電動モータの動力を回転体に伝える減速機構の高い減速比を確保しつつ装置全体の小型化を図ることができる電動巻き上げ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、本発明は、巻き上げ対象物を牽引するための牽引部材が巻回される回転体と、電動モータとを有し、減速機構を介して前記電動モータの回転駆動力を前記回転体に伝達して前記回転体を回転させることにより前記回転体に対する牽引部材の巻き取りを行なう電動巻き上げ装置であって、前記減速機構がサイクロイド減速機を構成していることを特徴とする。
【0013】
したがって、上記構成によれば、減速機構がサイクロイド減速機を構成しているため、減速機構それ単体で高い減速比を確保できる。すなわち、減速機構として遊星歯車機構を用いる場合のように高い減速比を得るべく減速機構を複数設置する必要がないため、電動巻き上げ装置全体を大型化させることなく(例えば、遊星歯車機構を軸方向に沿って複数配置することにより軸方向で装置全体を大型化させることなく)高い減速比を得ることができる。
【0014】
また、このように減速機構としてサイクロイド減速機を用いれば、中空形態の電動モータを使用した場合でも、減速機構全体を大型化させずに済む。すなわち、サイクロイド減速機は、遊星歯車機構のようにモータ中空軸の大径化による歯車の直径増大という前述した問題等を回避できるため、電動モータを中空形態にしても、高い減速比を維持したまま装置全体の小型化を図ることができるようになる。
【0015】
また、上記構成において、前記電動モータは、そのロータの回転軸と同軸的に延在する貫通孔を有する中空形態を成し、前記貫通孔には、前記電動巻き上げ装置を構成する部材が挿通配置されていることが好ましい。これによれば、電動モータの貫通孔を部材配置スペースとして有効活用してレイアウト性を高めることができるため、装置全体の小型化を図ることができるようになる。また、このように貫通孔を有効活用できる(高いレイアウト性を確保できる)ことに加え、サイクロイド減速機の採用によりモータ中空化に伴う減速機の大型化も回避できるため、装置全体の更なる小型化に寄与できる。すなわち、サイクロイド減速機と中空モータとの組み合わせは、高い減速比と装置の小型化という2つの課題を同時に且つ効果的に達成できるようにする。
【0016】
また、このような構成によれば、巻き上げ対象物(牽引対象物)を牽引する牽引部材を巻き取るべく回転体を回転駆動させるのに十分なパワーを要して装置内で大きな設置スペースを占め得る電動モータに、そのロータの回転軸と同軸的に延在する貫通孔を設けるとともに、この貫通孔内に電動巻き上げ装置を構成する部材を挿通配置するようにしているため、例えば、電動モータの両側に位置される装置の構成要素同士を機械的又は電気的に接続する際にも、その接続を果たす接続要素を前記部材として貫通孔に配置することにより、接続経路が電動モータによって分断されるような事態を回避できる。これにより、接続経路が電動モータを大きく迂回せずに済むため、そのような迂回経路のスペースを確保する必要もなく、それに伴う装置の大型化も防止できる。また、貫通孔を効率的且つ有効に利用することにより、装置の小型化も可能となる。ここで、「構成要素」とは、電動巻き上げ装置を構成するもののうち、電動モータの一方側または他方側に位置されて電動モータの貫通孔に挿通されないものを指し、「部材」とは、電動巻き上げ装置を構成するもののうち、電動モータの貫通孔に挿通されるもの(例えば、前述した接続要素など)を指す。
【0017】
また、このように電動モータに貫通孔を設けてその貫通孔を部材配置スペースとして利用できれば、装置の構成要素自体が電動モータによって分断されるような事態も回避でき、そのため、例えば軸受支持位置等も機能的及び構造的に有利に設定でき、体積増やトルク損失増加などといった不具合を生じさせずに済む(構造的及び機能的に最適化できる)。
【0018】
また、上記構成では、特に、電動モータの貫通孔が、電動モータの一方側に位置される構成要素と他方側に位置される構成要素及び/又は電動モータとの間で機械的な力(特に、駆動力)又は電気信号を伝達する伝達経路を成すことにより、効率的な無駄のない力伝達及び信号伝達が可能となり、装置を機能的及び構造的に最適化できるようになるとともに、装置の小型化にも寄与し得る。ここで、「電気信号」とは、電流、電圧、電力といった電気的エネルギー、電気的な検出信号を含め、全ての電気的流れを含む広い概念を意味する。
【0019】
なお、上記構成において、回転体に対する電動モータの配置形態は任意に設定できる。例えば、電動モータが回転体内に配置されてもよいが、本発明は、電動モータが回転体と軸方向で並設される場合に、装置小型化に関して特に有益となり得る。また、上記構成において、貫通孔は、電動モータの構造形態に応じてその形成態様が異なり得るが、貫通孔がロータによって形成されると、貫通孔を介して回転駆動力を出力できるという点で有利である。
【0020】
また、上記構成において、前記減速機は、前記電動モータから回転駆動力を受けるその入力部材と同軸的に延在する貫通孔を有する中空形態を成し、前記貫通孔には、前記電動巻き上げ装置を構成する部材が挿通配置されていることが好ましい。このような構成は、中空の電動モータと減速機とをユニット化してギヤドモータとし運用する場合に有益である。この場合、減速機に電動モータの貫通孔と同軸的に同様の貫通孔を設け、それにより、ギヤドモータを中空形状とすることが好ましい。構成要素同士を機械的又は電気的に接続する際にその接続を果たす部材をギヤドモータの中空部に配置することにより、接続経路がギヤドモータによって分断されるような事態を回避できる。無論、ギヤドモータユニットの形態を成さなくても効果は同様である。電動モータと減速機とを通じて構成要素の接続を行なうことにより、装置全体の省スペース化(構造の最適化)を得ることができ、有益である。
【0021】
また、上記構成において、前記電動モータは、そのロータの回転軸と同軸的に延在する貫通孔を有する中空形態を成し、前記減速機は、前記電動モータから回転駆動力を受けるその入力部材と同軸的に延在する貫通孔を有する中空形態を成し、前記回転体がその回転軸と同軸的に延在する貫通孔を有し、前記減速機構が前記電動モータと前記回転体との間に軸方向で並設され、前記減速機構の前記貫通孔は、前記回転体の前記貫通孔と前記電動モータの前記貫通孔とを同軸的に連通させ、前記回転体、前記減速機構、及び、前記電動モータのそれぞれの前記貫通孔には前記電動巻き上げ装置を構成する部材が挿通配置されていることが好ましい。このように、互いに軸方向で並設される貫通孔同士が連通して同軸的に配置されれば、これらの貫通孔を通じた部材(例えば、前述した接続要素)の挿通配置と相俟って、各構成要素の同心度を容易に確保できるとともに、構成要素同士の位置関係も高精度に確保できる。また、サイクロイド減速機の貫通孔と電動モータの貫通孔とが同軸線上にあることで、電動モータの回転駆動力を効率的にサイクロイド減速機に伝達することができる。
【0022】
また、上記構成では、前記電動巻き上げ装置が魚釣用電動リールを構成し、前記魚釣用電動リールは、前記電動モータの動力を前記回転体に伝えることができる動力伝達状態と、前記電動モータから前記回転体への動力伝達が遮断される動力遮断状態とを切り換えるための回動操作可能なレバー部材を有し、前記レバー部材の回動操作力を前記回転体側に伝達する伝達棒が、前記電動巻き上げ装置を構成する部材として、前記回転体、前記減速機構、及び、前記電動モータのそれぞれの前記貫通孔に挿通配置されていることが好ましい。
【0023】
魚釣用電動リールの場合、例えば、回転体であるスプールの回転に制動力を付与するドラグ機構などにおいては、その制動機構部が一般にモータの回転軸とは別のハンドル軸に設けられる(スタードラグなど)ため、電動モータを中空形態にしてサイクロイド減速機を採用しても、レイアウト性の向上に限界があり、装置全体の小型化を効率良く実現できないが、電動モータ、サイクロイド減速機、及び、回転体を全て中空形態にして、それらの貫通孔を同軸的に連通配置すれば、一直線状の部材配置スペースを確保できるため、レイアウト性が飛躍的に高まり、レバー部材の回動操作力を回転体側に伝達する伝達棒を回転体の回転軸と同軸に延びる1本の部材として形成して前記スペースに配置することも可能となり、したがって、状態切り換えのための機構部を伝達棒に沿って(モータの回転軸と同軸に)一直線上に配設して構造をシンプルにできるとともに、伝達棒によって大きい力を効率的に伝達することもできるようになる。
【0024】
また、上記構成において、前記減速機構は、前記電動モータから入力される回転を減速して出力する出力部材を有し、前記レバー部材の回動操作に伴う前記伝達棒の軸方向移動により前記回転体が軸方向に移動されて前記出力部材と一体回転する摩擦板に押圧され、その押圧力の大きさに応じて前記摩擦板に生じる回転方向の摩擦力が前記電動モータから前記回転体に回転駆動力を伝達することが好ましい。これによれば、伝達棒が装置の小型化を実現しつつサイクロイド減速機の高い減速比に適合したドラグ機構も構成できるようになる。すなわち、サイクロイド減速機の採用によって高い減速比が得られると、伝達トルクも高くなり、それに伴ってドラグ機構も高容量化が必要となるが、前述したように伝達棒を回転体及び電動モータの回転軸と同軸に延びる1本の部材として配設してレイアウト性を高めることで、ドラグ機構の高容量化が可能となり、結果として、サイクロイド減速機の高い減速比に適合したドラグ機構を得ることができるようになる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、電動モータの動力を回転体に伝える減速機構の高い減速比を確保しつつ装置全体の小型化を図ることができる電動巻き上げ装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る電動巻き上げ装置の外観を示す斜視図である。
図2図1の電動巻き上げ装置の要部構成を示す断面図である。
図3図1の電動巻き上げ装置の減速機構を構成するサイクロイド減速機の斜視図である。
図4】(a)は図3のサイクロイド減速機の正面図、(b)は図3のサイクロイド減速機の側面図である。
図5】(a)は図4の(a)のA-A線に沿う断面図、(b)は図4の(b)のB-B線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る電動巻き上げ装置について魚釣用電動リールを例にとって説明するが、本発明は、魚釣用電動リールに限定されず、工業用のウインチも含め、電動モータの駆動力を利用して寝具、梱包類、仮設足場、建造物、漁労具等の対象物を所定位置まで巻き上げたり、降ろしたりする全ての電動巻き上げ装置に適用できることは言うまでもない。また、複数の図において共通する構成要素にはこれらの複数の図にわたって同一の参照符号を付すことにより、既に説明した構成要素についてその説明を省略するものとする。
【0028】
図1及び図2には、本発明の一実施形態に係る電動巻き上げ装置としての魚釣用電動リール(以下、単に電動リールと称する)10が示されている。ここで、図1は、本実施形態に係る電動リール10の外観を示す斜視図であり、図2は、本実施形態に係る電動リール10の要部構成を示す断面図である。
【0029】
図中、参照符号1はフレームであり、参照符号2は、フレーム1の開口部を塞ぐようにフレーム1の一方側に取り付けられるサイドプレートであり、これらのフレーム1及びサイドプレート2は電動リール1の外装を形成する。サイドプレート2は、後述する電動モータ3及びスプール4の位置決めを行なう役割を果たす。
【0030】
図示のように、電動リール10は、牽引部材としての釣糸が巻回される回転体としてのスプール4と、電動モータ3とを有し、電動モータ3の回転駆動によってスプール4を回転させてスプール4に対する釣糸の巻き取り行なうようになっている。このように巻き取り駆動に電動モータ3が関与する場合、電動モータ3は、魚や仕掛け等の巻き取り対象物(牽引対象物)を巻き取るべく回転するスプール4を駆動させるのに十分なパワーを要することから、そのようなパワーを出力するのに十分な大きさを有し、したがって、図1に示されるように電動リール10内で大きな設置スペースを占めている(電動リール10全体のほぼ半分の軸方向スペースを占める場合もある)。なお、電動モータ3は、任意の構造形態を成してもよいが、本実施形態では、例えば実用新案登録第3228782号に開示されるモータと同一の構造形態を成す。
【0031】
具体的には、電動モータ3は、サイドプレート2によってスプール4と同軸となるように支持される軟磁性材から成るステータ3aを有し、ステータ3aは、スプール4側に向けて軸方向に延びるとともに同心的な2つの環状体を形成するように配置される複数の支持体3aa,3abを有する。これらの支持体3aa,3abのうち、内側の環状体を形成する内側支持体3aaのそれぞれには、対応する環状の第1のコイル3bが支持されるとともに、外側の環状体を形成する外側支持体3abのそれぞれには対応する環状の第2のコイル3cが支持されている。この場合、各コイル3b,3cは、ステータ3aを励磁する役割を果たし、その内周面が対応する支持体3aa,3abの外周面に嵌合する状態で支持されている。
【0032】
また、電動モータ3は、ステータ3aに回転自在に支持されるロータ3dを有し、ロータ3dは、ステータ3aの外側支持体3abにより形成される外側環状体とステータ3aの内側支持体3aaにより形成される内側環状体との間の環状空間に入り込むように軸方向に延びる外側環状部3daと、ステータ3aの内側支持体3aaの内側で軸方向に延びてボールベアリング3g,3hを介してステータ3aに回転自在に支持される内側環状部3dbとを有する。この場合、外側環状部3daは磁石3e,3fを支持固定し、また、内側環状部3dbは、ロータ3dの回転軸Oと同軸的に延在する電動モータ3の貫通孔9を形成する。すなわち、本実施形態において、電動モータ3は、そのロータ3dの回転軸Oと同軸的に延在する貫通孔9を有する中空形態を成している。
【0033】
なお、電動モータ3は、貫通孔9を有する中空形態でありさえすれば、他の構造形態を成していてもよく、例えば、ブラシモータやステッピングモータの構造形態を成していても構わない。
【0034】
このような電動モータ3と同軸的に配置される回転体としてのスプール4は、ボールベアリング5,6を介して回転可能に支持される。この場合、ボールベアリング5,6は、内輪側が後述する伝達棒36に嵌合支持されるようになっている。また、スプール4は、その回転軸Oと同軸的に貫通して延在する貫通孔4aを有し、この貫通孔4aは、電動モータ3の貫通孔9と連通状態で同軸的に位置されている。
【0035】
また、このようなスプール4には、図示のように、電動モータ3とスプール4との間に軸方向で並設された減速機構44を介して電動モータ3から回転駆動力が伝達されるようになっている。この場合、減速機構44は、例えば特開2018-189237号公報に開示されるような中空形態の公知のサイクロイド減速機であり、スプール4の貫通孔4aと電動モータ3の貫通孔9とを同軸的に連通させる貫通孔44aを有するとともに、電動モータ3から入力された回転を出力部材45に減速して出力するようになっている。
【0036】
具体的には、本実施形態のサイクロイド減速機44は、図3図5に示されるように、電動モータ3からそのロータ出力部3dcを介して回転駆動力が入力される入力部材(回転軸Oと同軸)44gと、リテーナ44dにより保持されたボール44iを介して入力部材44gの外周に偏心回転可能に嵌合されて外周に外歯を有するリング状のサイクロイド円板44fと、サイクロイド円板44fの外周に位置されてサイドプレート2に回転不能に支持されるとともにサイクロイド円板44fの外歯と噛み合う内歯を内周に有する環状の内歯リング44cと、サイクロイド円板44fと係合してサイクロイド円板44fの回転に伴って回転する出力部材45とを有する。
【0037】
この場合、入力部材44gは、サイクロイド円板44fの内周面に嵌合するとともに、サイクロイド円板44f及び内歯リング44cとの間に介挿される支持リング44eによって支持されている。また、出力部材45は、外周に沿って所定の角度間隔を隔てて設けられる複数の突出部45aがサイクロイド円板44fに対応して設けられる孔44jと係合しており、サイクロイド円板44fの偏心回転に伴って各突出部45aが孔44j内で公転することによりサイクロイド円板44fから回転力を受ける。なお、内歯リング44cは、その両側(入出力側)が上カバー44k及び下カバー44bによって覆われており、また、入力部材44gの内周面上にはバランスウェイト44hが保持されている。更に、各カバー44b,44kと出力部材45及び入力部材44gとの間、並びに、出力部材45及び入力部材44gと内歯リング44c(支持リング44e)との間にも、リテーナ44dにより保持されたボール44iが介挿されている。また、減速機構44の貫通孔44aは、環状の出力部材45及び入力部材44gの内孔によって形成されている。
【0038】
したがって、上記構成によれば、入力部材44gが回転軸Oを中心に1自転すると、入力部材44gの偏心筒44gaに嵌合されるサイクロイド円盤44fが回転軸Oを中心に1公転し、その際、サイクロイド円板44fの外周に設けられた外歯44faが内歯リング44cの内歯44caを一歯乗り越える(サイクロイド円盤44fが回転軸Oを中心に内歯44caの1歯分だけ自転する)。これにより、電動モータ3からロータ出力部3dcを介して入力される回転が内歯44caの歯数分の1に減速されることになる。サイクロイド円盤44fまで減速された回転は、サイクロイド円盤44fの孔44jが回転軸Oを中心とした回転方向に突出部45aを押すこととで出力部材45に伝達される。なお、サイクロイド円盤44fの孔44jを突出部45aの中心軸に対して公転可能に構成することで、サイクロイド円盤44fの回転軸Oを中心とした公転運動は出力部材45には伝達されないようになっている。
【0039】
このような動作原理により、サイクロイドの減速比は、内歯リング44cの内歯44caの歯数分の1の減速比を得ることができ、例えば内歯リング44cの内歯44caの歯数が30の場合、1/30の減速比となる(サイクロイド減速比は10~100程度までの減速比を設定できる)。
【0040】
従来の遊星歯車減速機の場合、中央部に太陽歯車機構を配置する必要があるため、遊星歯車機構を中空形構造にする場合、太陽歯車の径よりも大きい開口部を設けることができない。また、遊星歯車機構で高減速比を得るには、太陽歯車の歯数を少なく(直径を小さく)する必要がある。したがって、遊星歯車機構では、高減速比と中空形状とを両立させることが難しい。また、遊星歯車機構は、通常、1段で減速比が1/10よりも低い。これに対し、本実施形態のサイクロイド減速機では、減速比が内歯車の歯数によって決まり、大減速比にしても中央に配置するする入力部材の径を小径化する必要がない。したがって、高減速比(それ単体で遊星歯車単体と比べて高い減速比が得られる)と中空構造とを両立させることができる。
【0041】
図2中、参照符号33は、スプール4に固定されたスプール側摩擦板であり、参照符号34は、スプール側摩擦板33と対向して位置されるとともに、スプール側摩擦板33との間に発生する回転方向の摩擦力によって電動モータ3の回転駆動力をスプール4に伝達する駆動側摩擦板であり、また、参照符号35は、後述する伝達棒36に螺合されるとともに、スプール側摩擦板33と駆動側摩擦板34との間に発生する回転方向の摩擦力の調整を行なうドラグ力調整つまみである(以下、摩擦力をドラグ力という)。
【0042】
また、電動モータ3の貫通孔9内、減速機構44の貫通孔44a内、及び、スプール4の貫通孔4a内には、電動リール10を構成する部材として、スプール4の回転に制動力を付与するドラグ機構を構成する伝達棒36が挿通配置されており、この伝達棒36は、フレーム1及びサイドプレート2により軸支されるとともに、伝達棒36に挿入されて側面がフレーム1に嵌合されるピン37によって回転方向の移動が規制されている。これにより、伝達棒36に螺合されるドラグ力調整つまみ35の締め込み度合いを変化させると、それに応じて伝達棒36が軸方向に移動することになる。
【0043】
伝達棒36には伝達ピン38が圧入固定されており、この伝達ピン38は、伝達棒36の軸方向移動により、伝達棒36と同軸的に配置される弾性部材39を介して、スプール4を回転可能に支持するボールベアリング5の内輪側を軸方向に押圧できるようになっている。これにより、伝達棒36の位置に応じた押し力がスプール4に付加され、この押し力は、スプール4に固定されたスプール側摩擦板33と電動モータ3により駆動される駆動側摩擦板34との間の押付力となる。
【0044】
伝達棒36の外周には支持棒49が同軸的に嵌合配置されている。この支持棒49は、駆動側摩擦板34と回転同期するようになっており、スプール側摩擦板33から駆動側摩擦板34へ向かって付加される軸方向の押付力に対して同等の反力を発生させるようになっている。この場合、支持棒49の一端側は、支持棒49を回転可能に支持するボールベアリング40の内輪側を軸方向に押圧するようになっており、スプール4側からの軸方向の押付力はボールベアリング40を介してサイドプレート2で支持される。
【0045】
サイドプレート2にはレバー部材41が回動可能に嵌合支持されており、このレバー部材41は、スプール側摩擦板33と駆動側摩擦板34とを接触状態と非接触状態とに切り換えるようになっている。レバー部材41にはカム部材42が固定され、このカム部材42には、これと対向するカム相手部材43との接触部に、図示しない斜面が形成されている。この斜面は、レバー部材41の回動方向の移動量をカム相手部材43の軸方向の動きに変換するようになっており、したがって、レバー部材41の回動に応じてカム相手部材43が軸方向に移動するようになる。また、カム相手部材43はドラグ力調整つまみ35と接しており、カム相手部材43の軸方向の移動量がそのままドラグ力調整つまみ35の移動量となる。前述したように、ドラグ力調整つまみ35は、伝達棒36、伝達ピン38、及び、弾性部材39を介してスプール4側と連結されていることから、レバー部材41の回動操作によりスプール4が軸方向に移動し、そのため、レバー部材41によってスプール側摩擦板33と駆動側摩擦板34とを接触状態と非接触状態とに切り換えることができる。
【0046】
また、本実施形態において、駆動側摩擦板34は減速機構44の出力部材45と一体回転するようになっており、そのため、レバー部材41の回動操作は、電動モータ3の動力をスプール4に伝えることができる動力伝達状態と、電動モータ3からスプール4への動力伝達が遮断される動力遮断状態とを切り換えることができるようにし、また、ドラグ力調整つまみ35の調整操作は、動力伝達状態におけるドラグ力を調節できるようにする。つまり、レバー部材41、カム相手部材43、カム部材42、ドラグ力調整つまみ35で構成される調整機構により発生したスプール軸方向の力は、伝達棒36、スプール4、駆動側摩擦板34、支持棒36、サイドプレート2の順で伝わることになる。このような部品群はサイドプレートユニットを構成する部品群であり、押付力の伝達経路はユニット内で完結するように最適化されている。これにより、他のユニットを構成する部品への押付力の影響がなくなり、信頼性の向上が望めるようになる。また、構成の最適化によりリール全体の小型化も望める。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、減速機構44がサイクロイド減速機を構成しているため、減速機構44それ単体で高い減速比を確保できる。すなわち、減速機構として遊星歯車機構を用いる場合のように高い減速比を得るべく減速機構を複数設置する必要がないため、電動巻き上げ装置としての電動リール10全体を大型化させることなく高い減速比を得ることができる。
【0048】
また、このように減速機構44としてサイクロイド減速機を用いれば、本実施形態のように中空形態の電動モータ3を使用した場合でも、減速機構44全体を大型化させずに済む。すなわち、サイクロイド減速機は、遊星歯車機構のようにモータ中空軸の大径化による歯車の直径増大という前述した問題を生じさせないため、電動モータ3を中空形態にしても、高い減速比を維持したまま電動リール10全体の小型化を図ることができるようになる。
【0049】
また、本実施形態では、電動モータ3の貫通孔9内及び減速機構44の貫通孔44a内に、ドラグ力を発生させるための押付力を伝える伝達棒36と、押付力を受ける支持棒49とが挿通配置されている。すなわち、本実施形態において、貫通孔9は、電動リール10を構成して電動モータ3の一方側に位置される構成要素であるスプール4と電動リール10を構成して電動モータ3の他方側に位置される構成要素であるレバー部材41との間で機械的な力を伝達する伝達経路を構成するようになっており、そのために、貫通孔9には、電動リール10を構成する部材として、スプール4とレバー部材41とを接続する接続要素、具体的には、ドラグ機構を構成する伝達棒36及び支持棒49が挿通配置されている。これにより、電動モータ3による接続経路の分断を回避して電動リール10全体の小型化及び機能の最適化を実現できる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。例えば、前述した実施形態において、サイクロイド減速機の構成は前述した構成に限定されない。また、前述した実施形態では、牽引部材が釣糸であったが、電動巻き上げ装置がウインチ等を構成する場合には、牽引部材が金属製のワイヤなどであってもよい。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施の形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施の形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 電動リール(電動巻き上げ装置)
3 電動モータ
3d ロータ
4 スプール(回転体)
4a 貫通孔
9 貫通孔
34 摩擦板
36 伝達棒
41 レバー部材
44 減速機構
44a 貫通孔
45 出力部材
図1
図2
図3
図4
図5