IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カンパニー ジェネラレ デ エスタブリシュメンツ ミシュランの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20250101AFI20250109BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20250109BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20250109BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20250109BHJP
   C08K 5/40 20060101ALI20250109BHJP
   C08K 5/44 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C08L23/08
B60C1/00 A
C08K3/04
C08K3/06
C08K5/40
C08K5/44
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021513298
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 FR2019052098
(87)【国際公開番号】W WO2020053521
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】1858136
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100179305
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 幸大
(72)【発明者】
【氏名】アロホ ダ シルヴァ, ホセ・カルロス
(72)【発明者】
【氏名】ルメルル, フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】トリゲル, オレリー
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-505697(JP,A)
【文献】米国特許第05087668(US,A)
【文献】国際公開第2014/129662(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/114877(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/033508(WO,A1)
【文献】特開2018-028014(JP,A)
【文献】国際公開第2017/085423(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/085424(WO,A1)
【文献】小松智幸,総説特集 配合剤の基礎から最新技術-1 加硫促進剤,日本ゴム協会誌,第82巻 第1号,2009年,p.33-38,https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu/82/1/82_1_33/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/08
B60C 1/00
C08K 3/04
C08K 3/06
C08K 5/40
C08K 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも高飽和ジエンエラストマーと、カーボンブラックと、硫黄及び加硫促進剤を含む加硫系とをベースとするゴム組成物であって、
- 高飽和ジエンエラストマーが、コポリマーのモノマー単位の少なくとも50mol%となるエチレン単位を含むエチレンと1,3-ジエンとのコポリマーであり、
- ゴム組成物中の高飽和ジエンエラストマーの含有量が少なくとも50phrであり、
- 加硫促進剤が、一次促進剤と二次促進剤との混合物であり、
- 二次促進剤の量と促進剤の総量との間の質量比が0.5未満であり、促進剤の前記総量は、前記ゴム組成物中の一次促進剤の質量と二次促進剤の質量との合計であり、
- 前記質量比は、phrの単位で表される量から計算され、
前記一次促進剤が、スルフェンアミドであり、前記二次促進剤が、チウラムジスルフィドであり、
前記硫黄含有量が1phr未満である、
前記ゴム組成物。
【請求項2】
前記一次促進剤が、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドである、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記二次促進剤が、テトラベンジルチウラムジスルフィドである、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記硫黄含有量と前記促進剤の総量との間の質量比が1未満であり、前記質量比は、phrの単位で表される含有量及び量から計算される、請求項1~のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記1,3-ジエンが1,3-ブタジエンである、請求項1~のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム組成物中の前記高飽和ジエンエラストマーの含有量が80~100phrに及ぶ範囲内で変動する、請求項1~のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記カーボンブラック含有量が25phr~65phrの間である、請求項1~のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のゴム組成物を含むタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、タイヤ中、特にそのトレッド中に使用されることが意図される高飽和ジエンエラストマーをベースとするゴム組成物の分野である。
【背景技術】
【0002】
同じエラストマーの場合、ゴム組成物の剛性のレベルは、エラストマーの加硫の程度によって決まり、これは、加硫反応速度と硬化プレス機中のゴム組成物の滞留時間との両方によって左右される。硬化プレス機から取り出した後でさえも、ゴム組成物は硬化し続けることが知られている。プレス機の外での硬化の持続は、ゴム組成物が大きな物体の形態である場合にいっそう長くなる。プレス機を出たときのゴム組成物の硬化が不十分である場合、ゴム組成物の粘度によって、プレス機の外で硬化が持続するときにゴム組成物中に気泡が形成されることがある。ゴム組成物中の気泡形成は、ゴム組成物の均一性の欠陥であり、これによってそのゴム組成物を含むタイヤの耐久性が低下することがある。したがって、ゴム組成物は、プレス機中での硬化の終了時に、気泡形成を防止するのに十分な剛性が得られていることが望ましい。
【0003】
少なくとも50mol%のエチレン単位を含む高飽和ジエンエラストマーは、50mol%を超えるジエン単位を含む高不飽和ジエンエラストマーよりも遅い反応速度により加硫する欠点を有する。したがって、特に前述の気泡現象の回避が望ましい場合に、高飽和ジエンエラストマーを含むゴム組成物を加硫させるために、硬化プレス機中のより長い滞留時間が必要となる。したがって、加硫に関する高飽和ジエンエラストマーのより低い反応性は、ゴム組成物によるプレス機のより長い占有時間、したがってより長い製造サイクルによって反映され、それによってタイヤ製造プラントの生産性が低下するという影響が生じる。
【0004】
さらに、良好な凝集力を有するゴム組成物を提供することも重要である。例えば、回転中、トレッドは、地面に直接接触することにより生じる機械的応力及び応力係数にさらされるからである。結果として、亀裂発生部位が形成される。表面又はトレッド内部においてそれらが伝播する間に、亀裂発生部位によって、トレッドを構成する材料が破壊されることがある。このトレッドの損傷によって、タイヤトレッドの有効寿命が短縮される。タイヤに生じる機械的応力及び応力係数は、タイヤが運ぶ重量の影響下で増幅されるので、重荷重を運搬する車両上に搭載されるタイヤの場合、良好な凝集力が特に探求される。
【0005】
凝集特性とプレス硬化時間との間の改善された妥協点を有するゴム組成物を得ることに依然として問題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人は、この問題に適応できるゴム組成物を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の第1の主題は、少なくとも高飽和ジエンエラストマーをベースとするゴム組成物であって、カーボンブラックと加硫系が、硫黄と、加硫促進剤とを含み、
- 高飽和ジエンエラストマーが、コポリマーのモノマー単位の少なくとも50mol%となるエチレン単位を含むエチレンと1,3-ジエンとのコポリマーであり、
- ゴム組成物中の高飽和ジエンエラストマーの含有量が少なくとも50phrであり、
- 加硫促進剤が、一次促進剤と二次促進剤との混合物であり、
- 二次促進剤の量と促進剤の総量との間の質量比が0.7未満であり、促進剤の総量は、ゴム組成物中の一次促進剤の質量と二次促進剤の質量との合計であり、
- 質量比は、phrの単位で表される量から計算される
ゴム組成物である。
【0008】
本発明の別の主題は、本発明によるゴム組成物を含むタイヤである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
I.発明の詳細な説明
「a~bの間」という表現によって示されるあらゆる値の区間は、「a」を超え「b」未満の値の範囲(すなわち端の値a及びbは除外される)を表し、一方、「a~b」という表現によって示されるあらゆる値の区間は、「a」から「b」までに及ぶ値の範囲を意味する(すなわち厳密な端の値のa及びbを含む)。「phr」という略語は、100部のエラストマー(ゴム)(数種類のエラストマーが存在する場合は、それらのエラストマーの合計)当たりの重量部を意味する。
【0010】
本特許出願において、ゴム組成物の種々の成分の間の質量比は、phrの単位で表される成分の含有量又は量から計算される。
【0011】
本明細書の説明において、「~をベースとする組成物」という表現は、使用される種々の成分の、混合物、及び/又はその場反応の生成物を含む組成物を意味するものと理解すべきであり、これらのベース成分の一部(例えばエラストマー、充填剤、若しくは加硫系の成分、又はタイヤの製造が意図されるゴム組成物中に従来使用される別の添加剤)は、タイヤの製造が意図される組成物の製造の種々の段階中に少なくとも部分的に互いに反応しやすい、又は互いに反応することが意図される。
【0012】
本特許出願において、「エラストマーのすべてのモノマー単位」又は「エラストマーのモノマー単位の総量」という表現は、重合によってエラストマー鎖中にモノマーが挿入されることで得られるエラストマーのすべての構成繰り返し単位を意味する。特に示されるのでなければ、高飽和ジエンエラストマー中のモノマー単位又は繰り返し単位の含有量は、エラストマーのすべてのモノマー単位を基準として計算されるモルパーセント値として表される。
【0013】
説明において言及される化合物は、化石又はバイオベースに由来するものであってよい。後者の場合、それらは、バイオマスから部分的に若しくは完全に誘導されてよく、又はバイオマスから誘導される再生可能な出発物質から得られてよい。エラストマー、可塑剤、充填剤などが特に関係する。
【0014】
本発明の目的に有用なエラストマーは、好ましくは統計的であり、エチレンの重合によって得られるエチレン単位を含む高飽和ジエンエラストマーである。周知の方法の1つでは、用語「エチレン単位」は、エラストマー鎖中へのエチレンの挿入によって得られる-(CH-CH)-単位を意味する。エチレン単位が、エラストマーのすべてのモノマー単位の少なくとも50mol%となるので、高飽和ジエンエラストマーは、エチレン単位に富んでいる。
【0015】
好ましくは、高飽和ジエンエラストマーは、少なくとも65mol%のエチレン単位を含む。言い換えるとエチレン単位は、優先的には、高飽和ジエンエラストマーのすべてのモノマー単位の少なくとも65mol%である。より優先的には、高飽和ジエンエラストマーは65mol%~90mol%の間のエチレン単位を含み、モルパーセント値は、高飽和ジエンエラストマーすべてのモノマー単位を基準として計算される。
【0016】
高飽和ジエンエラストマーはエチレンと1,3-ジエンとのコポリマーであるので、これは1,3-ジエンの重合から得られる1,3-ジエン単位も含む。周知の方法の1つでは、「1,3-ジエン単位」という用語は、1,4付加、1,2付加、又はイソプレンの場合の3,4付加による1,3-ジエンの挿入によって得られる単位を意味する。1,3-ジエン単位は、例えば、4~12個の炭素原子を含む1,3-ジエン、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、又はアリール-1,3-ブタジエンの単位である。好ましくは、1,3-ジエンは1,3-ブタジエンであり、その場合、高飽和ジエンエラストマーはエチレンと1,3-ブタジエンとのコポリマーであり、これは好ましくは統計的である。
【0017】
本発明の目的に有用な高飽和ジエンエラストマーは、特に高飽和ジエンエラストマーの目標ミクロ構造に応じた当業者に周知の種々の合成方法により得ることができる。一般に、これは、周知の合成方法による、特にメタロセン錯体を含む触媒系の存在下での、少なくとも1,3-ジエン、好ましくは1,3-ブタジエンと、エチレンとの共重合によって調製することができる。この点において、メタロセン錯体をベースとする触媒系を挙げることができるが、これらの触媒系は、本出願人による欧州特許第1092731号明細書、国際公開第2004/035639号パンフレット、国際公開第2007/054223号パンフレット、及び国際公開第2007/054224号パンフレットに記載されている。統計的である場合も含めた高飽和ジエンエラストマーは、国際公開第2017/093654A1号パンフレット、国際公開第2018/020122A1号パンフレット、及び国際公開第2018/020123A1号パンフレットに記載されるものなどの予備形成型の触媒系を用いる方法によって調製することもできる。
【0018】
請求項1~14のいずれか一項に規定されるゴム組成物中の高飽和ジエンエラストマーは、好ましくは式(I)の単位又は式(II)の単位を含む。
【化1】
-CH-CH(CH=CH)- (II)
【0019】
コポリマー中の式(I)の飽和6員環単位の1,2-シクロヘキサンジイルの存在は、成長中のポリマー鎖中へのエチレン及び1,3-ブタジエンの一連の非常に特殊な挿入によって得ることができる。高飽和ジエンエラストマーが式(I)の単位又は式(II)の単位を含む場合、高飽和ジエンエラストマー中の式(I)の単位及び式(II)の単位のモルパーセント値、それぞれo及びpは、好ましくは以下の式(eq.1)、より優先的には式(eq.2)を満たし、o及びpは、高飽和ジエンエラストマーのすべてのモノマー単位を基準として計算される。
0<o+p≦25 (eq.1)
0<o+p<20 (eq.2)
【0020】
本発明の目的に有用な高飽和ジエンエラストマーは、ミクロ構造又はマクロ構造が互いに異なる複数の高飽和ジエンエラストマーの混合物からなることができる。
【0021】
本発明によると、ゴム組成物中の高飽和ジエンエラストマーの含有量は、ゴム組成物のエラストマー(ゴム)100部当たり(phr)、少なくとも50重量部である。好ましくはゴム組成物中の高飽和ジエンエラストマーの含有量は、80~100phrに及ぶ範囲内で変動する。より優先的には、これは90~100phrに及ぶ範囲内で変動する。
【0022】
本発明の目的に有用な加硫系は、硫黄及び加硫促進剤を含むことを本質的な特徴とする。規定によって、加硫系中の硫黄含有量及び加硫促進剤の含有量は双方とも厳密に0phrを超える。有利には、請求項1~15のいずれか一項に規定されるゴム組成物中の硫黄含有量は0.3phrを超える。有利には、請求項1~15のいずれか一項に規定されるゴム組成物中の加硫促進剤の量、すなわち一次促進剤の量と二次促進剤の量との合計は少なくとも0.5phrである。
【0023】
硫黄は、典型的には分子硫黄又は硫黄供与剤の形態、好ましくは分子形態で提供される。分子形態の硫黄は、分子硫黄という用語でも呼ばれる。「硫黄供与体」という用語は、エラストマー鎖の加硫及び架橋中に形成されるポリスルフィド鎖の中に挿入可能な、ポリスルフィド鎖の形態で場合により結合する、硫黄原子を放出するあらゆる化合物を意味する。ゴム組成物中の硫黄含有量は、優先的には1未満phr、好ましくは0.3~1phrの間である。
【0024】
本発明のより優先的な一実施形態によると、ゴム組成物中の硫黄含有量は0.95phr未満、好ましくは0.3phr~0.95phrの間である。
【0025】
本発明のさらにより優先的な一実施形態によると、ゴム組成物中の硫黄含有量は0.8phr未満、好ましくは0.3phr~0.8phrの間である。
【0026】
加硫促進剤は一次促進剤と二次促進剤との混合物であり、「一次促進剤」という用語は、1つの一次促進剤、又は複数の一次促進剤の混合物を意味する。同様に、「二次促進剤」という用語は、1つの二次促進剤、又は複数の二次促進剤の混合物を意味する。したがって、一次促進剤(混合物の形態である場合もそうでない場合も)及び二次促進剤(混合物の形態である場合もそうでない場合も)だけがゴム組成物の促進剤となる。規定よると、加硫系中の一次促進剤及び二次促進剤の両方の含有量は、厳密に0phrを超える。
【0027】
(一次又は二次)加硫促進剤として、硫黄の存在下でジエンエラストマーの加硫の促進剤として機能できるあらゆる化合物、特にチアゾール型及びそれらの誘導体の促進剤、一次促進剤に関してスルフェンアミド型の促進剤、又は二次促進剤に関して、チウラム、ジチオカルバメート、ジチオホスフェート、チオ尿素、及びキサンテート型の促進剤を使用することができる。
【0028】
一次促進剤の例として、特に、スルフェンアミド化合物、例えばN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(「CBS」)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(「DCBS」)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(「TBBS」)、及びこれらの化合物の混合物を挙げることができる。一次促進剤は、優先的にはスルフェンアミドであり、より優先的にはN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドである。
【0029】
二次促進剤の例として、特に、チウラムジスルフィド、例えばテトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド(「TBTD」)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(「TBZTD」)及び、これらの化合物の混合物を挙げることができる。二次促進剤は、優先的にはチウラムジスルフィドであり、より優先的にはテトラベンジルチウラムジスルフィドである。
【0030】
好ましくは、加硫促進剤は、スルフェンアミドとチウラムジスルフィドとの混合物である。加硫促進剤は、有利にはN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドとチウラムジスルフィドとの混合物であり、より有利にはN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドとテトラベンジルチウラムジスルフィドとの混合物である。
【0031】
本発明によると、二次促進剤の量と促進剤の総量との間の質量比は0.7未満であり、促進剤の総量は、ゴム組成物中の一次促進剤の質量と二次促進剤の質量との合計である。言い換えると、二次促進剤の質量含有量又は質量は、促進剤の総量の70質量%未満である。好ましくは、二次促進剤の量と促進剤の総量との間の質量比は0.05を超え、特に0.05~0.7の間である。
【0032】
好ましくは、二次促進剤の量と促進剤の合計量との間の質量比は、優先的には0.5未満、さらにより優先的には0.3以下である。これらの優先的な範囲により、ゴム組成物中に亀裂発生部位が存在する場合でさえも、プレス加工時間が大幅に短縮され、同時に良好な制限特性が維持されることによって、凝集特性とプレス硬化時間との間の妥協点をさらに最適化することが可能となる。
【0033】
優先的な一実施形態によると、ゴム組成物中の硫黄含有量と促進剤の総量との間の質量比は1未満、好ましくは0.7以下、より優先的には0.6未満である。このような比率を使用することで、さらに改善された凝集特性を有する組成物を得ることが可能になる。
【0034】
本発明の特に優先的な一実施形態によると、ゴム組成物中の硫黄含有量は1未満phrであり、ゴム組成物中の硫黄含有量と促進剤の総量との間の質量比は1未満である。硫黄含有量、及び硫黄含有量と促進剤の総量との間の質量比に関するこの二重の条件によって、さらに高い凝集力を得ることが可能になる。硫黄含有量が少なく硫黄含有量と促進剤の総量との間の質量比が小さい場合、特に、硫黄含有量の場合は請求項7及び8に記載の優先的な範囲内にあり、促進剤の総量との間の質量比の場合は請求項10に記載の優先的な範囲内にある場合、凝集特性はさらに改善される。
【0035】
周知の方法の1つでは、加硫系は、加硫活性化剤、例えば酸化亜鉛などの金属酸化物、又はステアリン酸などの脂肪酸を含むこともできる。
【0036】
本発明によると、ゴム組成物は補強用充填剤としてカーボンブラックを含む。補強用充填剤は、典型的には、平均(質量平均)サイズが1マイクロメートル未満、一般に500nm未満、通常は20~200nmの間、特により優先的には20~150nmの間であるナノ粒子からなる。
【0037】
あらゆるカーボンブラック、特にタイヤ又はそれらのトレッド中に従来使用されるブラック(タイヤグレードブラックとして知られる)が、カーボンブラックとしての使用に適切である。後者の中では、特に、100、200、及び300シリーズの補強用カーボンブラック、又は500、600、若しくは700シリーズ(ASTMグレード)のブラック、例えばN115、N134、N234、N326、N330、N339、N347、N375、N550、N683、及びN772のブラックが挙げられる。本発明によるゴム組成物がトレッド中に使用される場合、カーボンブラックは、優先的には、100又は200シリーズのカーボンブラックである。
【0038】
カーボンブラックの含有量は広範囲で変動することができ、特にタイヤ部門でのゴム組成物の想定される使用により当業者によって調節することができる。特に重荷重の運搬が意図される車両用のトレッド中でゴム組成物を使用するため、ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、優先的には25phr~65phrの間である。重量物運搬車部門におけるそのような使用の場合、ゴム組成物は、25phr未満では不十分な補強レベルになる場合があり、65phrを超えると過度のヒステリシスを示す場合がある。
【0039】
本発明の目的に有用なゴム組成物は、タイヤ中、例えばタイヤトレッド中での使用が意図されるエラストマー組成物中に従来使用される通常の添加剤のすべて又は一部を含むこともできる。このような添加剤は、例えば、充填剤、例えばシリカ、アルミナ、加工剤、可塑剤、顔料、保護剤、例えば抗オゾンワックス、化学的酸化防止剤、及び酸化防止剤である。
【0040】
ゴム組成物は、110℃~190℃の間、好ましくは130℃~180℃の間の最高温度までの高温での熱機械的作業又は混練の第1の段階(場合により「非生産」段階と呼ばれる)と、引き続き、典型的には110℃未満、例えば40℃~100℃のより低い温度での機械的作業の第2の段階(場合により「生産」段階と呼ばれる)との当業者に周知の一般手順による調製の2つの連続する段階を用いて、適切なミキサー中で製造することができ、その最終段階中に硫黄若しくは硫黄供与体及び加硫促進剤とが混入される。
【0041】
例として、第1の段階(非生産)は、1つの熱機械的ステップとして行われ、その間に、硫黄及び加硫促進剤を除いて、すべての必要成分、任意選択の追加の加工剤、及びその他の種々の添加剤が、従来の内部ミキサーなどの適切なミキサー中に導入される。この非生産段階中の全混練時間は、好ましくは1~15分の間である。第1の非生産段階中にこうして得られた混合物を冷却した後、次に硫黄及び加硫促進剤が低温において、一般にオープンミルなどの外部ミキサー中に加えられ;全体が数分、例えば2~15分の間混合される(生産段階)。
【0042】
ゴム組成物がカレンダされるか又は押出成形されて、好ましくはタイヤのトレッドプロファイルの全体又は一部が形成される。
【0043】
本発明の別の主題であり、本発明によるゴム組成物を含むタイヤは、好ましくはそのトレッド中にゴム組成物を含み、特に、転動する地面への接触が意図される部分であるそのトレッドが、本発明によるゴム組成物から全体的又は部分的になる。タイヤは、生の形態(すなわち、タイヤを硬化させるステップの前)又は硬化したい形態(すなわち、タイヤを硬化させるステップの後)であってよい。タイヤは優先的には、重荷重の運搬が意図される車両、例えば重量物運搬車及び土木車両のためのタイヤである。
【0044】
上記の本発明の特徴、及びその他のものは、非限定的な例証として提供される本発明の幾つかの実施例の以下の説明を読めば、より明確に理解されるであろう。
【実施例
【0045】
II.本発明の実施例
II.1 試験及び測定:
II.1-1 エラストマーのミクロ構造の決定:
エラストマーのミクロ構造の決定は、H NMR分析によって行われ、H NMR分析の分解能では、すべての種の帰属及び定量を行うことができない場合に13C NMR分析を組み合わせて行われる。測定は、Brueker 500 MHz NMR分光計を用いて、プロトン測定の場合500.43MHz、及び炭素測定の場合125.83MHzの周波数において行われる。
【0046】
溶媒中に膨潤する性質を有する不溶性エラストマーの場合、4mm z-grad HRMASプローブが、プロトンデカップルモードでのプロトン及び炭素の測定に使用される。スペクトルは4000Hz~5000Hzの回転速度で取得される。
【0047】
可溶性エラストマーに対する測定の場合、液体NMRプローブが、プロトンでのカップルモードでのプロトン及び炭素の測定に使用される。
【0048】
不溶性試料の調製は、分析される材料と、膨潤可能な重水素化溶媒、一般に重水素化クロロホルム(CDCl3)とを満たしたローター中で行われる。使用される溶媒は、常に重水素化される必要があり、その化学的性質は当業者によって適合させることができる。使用される材料の量は、十分な感度及び分解能のスペクトルが得られるように調節される。
【0049】
可溶性試料は、重水素化溶媒中(1mL中約25mgのエラストマー)、一般に重水素化クロロホルム(CDCl3)中に溶解される。使用される溶媒又は溶媒ブレンドは常に重水素化される必要があり、その化学的性質は当業者によって適合させることができる。
【0050】
両方の場合(可溶性試料又は膨潤試料)で:
30°シングルパルスシーケンスがプロトンNMRに使用される。スペクトルウィンドウは、分析される分子に帰属するすべての共鳴線が測定されるように設定される。積算回数は、各単位の定量に十分な信号対雑音比が得られるように設定される。各パルス間のリサイクル遅延は、定量的測定が行われるように適合される。
【0051】
30° シングルパルスシーケンスが炭素NMRに使用され、プロトンデカップリングは、核オーバーハウザー効果(NOE)を回避し定量性を維持するために取得中にのみ行われる。スペクトルウィンドウは、分析される分子に帰属するすべての共鳴線が測定されるように設定される。積算回数は、各単位の定量に十分な信号対雑音比が得られるように設定される。各パルス間のリサイクル遅延は、定量的測定が行われるように適合される。
【0052】
NMR測定は25℃で行われる。
【0053】
II.1-2 亀裂発生部位の存在下での機械的強度(引裂性):
試験片を破壊するために500mm/分で延伸される試験片の引裂強度及び変形が測定される。引張試験片は、平行六面体型のゴムスラブからなり、例えば1~2mmの間の厚さ、130~170mmの間の長さ、及び10~15mmの間の幅を有し、二つの側端のそれぞれが、引張試験機のジョーに固定するための円筒形ゴムビーズ(直径5mm)で長手方向で覆われる。試験開始前に、試験片の長手方向に中間の長さにおいて整列させて、試験片の各末端に1つと中央に1つの、15~20mmの間の長さの3つの非常に微細なノッチをかみそりの刃を用いて形成する。破壊するために作用する力(N/mm)が求められ、破断時伸びが測定される。この試験は空気中、100℃の温度で行った。高い値は、亀裂発生部位を有してもゴム組成物の凝集力が良好であることを反映している。
【0054】
II.1-3 引張試験:
破断時伸び(EB%)及び破断応力(BS)の試験は、H2ダンベル試験片上での2005年12月の規格NF ISO 37に基づいており、500mm/分の牽引速度で測定される。破断時伸びは、伸びのパーセント値として表される。破断応力はMPaの単位で表される。すべての引張試験測定は60℃で行われる。
【0055】
II.1-4 硬化特性:
測定は、規格DIN 53529-Part 3(June 1983)に準拠して、振動チャンバーレオメーターを用いて150℃で行われる。時間の関数としてのレオメーターのトルクの変化が、加硫反応の結果としての組成物の硬化の変化を示す。測定値は、規格DIN 53529-Part 2(March 1983)に準拠して処理される。Tiは、誘導期間、すなわち加硫反応の開始に必要な時間である。T95は、95%の変換率、すなわち最小トルクと最大トルクとの間の差の95%に到達するのに要する時間である。30%~80%の間の変換率で計算されるK(min-1の単位で表される)で表される一次の変換速度定数も測定され、これによって加硫反応速度の評価が可能となる。
【0056】
II.2 ゴム組成物の調製:
配合の詳細が表1に示されるゴム組成物を以下の方法で調製した:
エラストマーと、補強用充填剤と、硫黄及び加硫促進剤を除いた種々の他の成分とを、連続して内部ミキサー中に導入し(最終充填度:約70容積%)、その最初の容器温度は約80℃である。次に、熱機械的作業(非生産段階)を1段階で行い、165℃の最高「降下」温度に到達するまで、合計約3~4分間続ける。こうして得られた混合物を回収し、冷却して、次に硫黄及び加硫促進剤をミキサー(ホモフィニッシャー)上30℃で混入し、全体を適切な時間(例えば約10分)混練する(生産段階)。
【0057】
こうして得られた組成物は続いて、それらの物理的若しくは機械的性質の測定のためにスラブ(2~3mmの厚さ)若しくは薄いゴムシートのいずれかの形態にカレンダ加工され、又はタイヤトレッドの形態に押出成形される。
【0058】
エラストマー(EBR)は以下の手順により調製される:
30mgのメタロセン[{MeSiFluNd(μ-BHLi(THF)}、記号Fluは式C13のフルオレニル基を表す]が、第1のグローブボックス中のSteinie中に導入される。第2のSteinieボトル中の300mlのメチルシクロヘキサン中にあらかじめ溶解させた共触媒のブチルオクチルマグネシウムを、メタロセンが入った第1のSteinieボトル中に、0.00007mol/Lのメタロセン、0.0004mol/Lの共触媒の比率で導入する。室温で10分間接触させた後、触媒溶液が得られる。この触媒溶液を次に重合反応器中に導入させる。次に反応器中の温度を80℃まで上昇させる。この温度に到達してから、エチレンと1,3-ブタジエンとの気体混合物(80/20mol%)を反応器中に注入することによって反応を開始する。重合反応は8barの圧力で進行させる。メタロセン及び共触媒の比率は、それぞれ0.00007mol/L及び0.0004mol/Lである。冷却させることによって重合反応を停止し、反応器を脱気し、エタノールを加える。ポリマー溶液に酸化防止剤を加える。真空オーブン中で乾燥させることによってコポリマーを回収する。
【0059】
ゴム組成物C5~C11は本発明によるものである。ゴム組成物C12及びC13は本発明によるものではなく、二次促進剤の質量と、一次促進剤の質量及び二次促進剤の質量の合計との間の比は0.7以上である。二次促進剤を全く含まない組成物C1~C4は、本発明によるものではない。
【0060】
II.3 結果:
結果を表2中に示す。
【0061】
結果は、ゴム組成物C5~C11が、凝集特性とプレス硬化時間との間の最良の妥協点を示すものであることを示している。本発明によるこれらの組成物の中で、組成物C5~C10が、凝集特性とプレス硬化時間との両方に関して最も有利であることが分かる。本発明によるものではない、二次促進剤がゴム組成物中の唯一の促進剤である組成物C13は、プレス硬化時間を短縮することができるが、この結果は凝集特性を犠牲にすることで得られる。本発明によるものではない、二次促進剤が使用される促進剤の70質量%を超える組成物C12も、プレス硬化時間を短縮することができるが、この結果も凝集特性を犠牲にすることで得られる。
【0062】
本発明によるものではない、組成物C1~C4に関して、これらの良好な凝集特性を有するが、プレス硬化時間がはるかに長くなるので、これらの結果は、生産性に関する硬化特性を犠牲にすることで得られる。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】