IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニアの特許一覧

特許7617023ヒト制御性T細胞のex vivoにおけるビーズを使用しない増殖
<>
  • 特許-ヒト制御性T細胞のex  vivoにおけるビーズを使用しない増殖 図1
  • 特許-ヒト制御性T細胞のex  vivoにおけるビーズを使用しない増殖 図2
  • 特許-ヒト制御性T細胞のex  vivoにおけるビーズを使用しない増殖 図3
  • 特許-ヒト制御性T細胞のex  vivoにおけるビーズを使用しない増殖 図4
  • 特許-ヒト制御性T細胞のex  vivoにおけるビーズを使用しない増殖 図5
  • 特許-ヒト制御性T細胞のex  vivoにおけるビーズを使用しない増殖 図6
  • 特許-ヒト制御性T細胞のex  vivoにおけるビーズを使用しない増殖 図7
  • 特許-ヒト制御性T細胞のex  vivoにおけるビーズを使用しない増殖 図8A
  • 特許-ヒト制御性T細胞のex  vivoにおけるビーズを使用しない増殖 図8B
  • 特許-ヒト制御性T細胞のex  vivoにおけるビーズを使用しない増殖 図9
  • 特許-ヒト制御性T細胞のex  vivoにおけるビーズを使用しない増殖 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ヒト制御性T細胞のex vivoにおけるビーズを使用しない増殖
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20250109BHJP
   A61K 35/17 20250101ALI20250109BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C12N5/0783
A61K35/17
A61P37/06
A61P3/10
A61P17/06
A61P25/00
A61P29/00
A61P1/00
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021563598
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-01
(86)【国際出願番号】 US2020030869
(87)【国際公開番号】W WO2020223568
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】62/841,215
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】タン, キジ
(72)【発明者】
【氏名】スカルツィス, ニコラオス
(72)【発明者】
【氏名】ビンセンティ, フラビオ
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-518975(JP,A)
【文献】Front. Immunol.,2018年,Vol.9, No.573,pp.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
A61K 35/00-35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト制御性T細胞(Treg)の生成のための方法であって、
a)ヒト対象から得られたリンパ球含有生体試料からCD4+、CD25+、CD127-/lowT細胞を単離することと;
b)CD4+、FOXP3+、HELIOS+であり、Treg特異的脱メチル化領域(TSDR)が脱メチル化されているヒトTregの生成において有効な条件下で、CD28スーパーアゴニスト(CD28SA)抗体、インターロイキン2(IL-2)および腫瘍壊死因子アルファ(TNFアルファ)を含む培地中で前記CD4+、CD25+、CD127-/lowT細胞を培養することと
を含む、方法。
【請求項2】
工程b)が、抗CD3抗体の使用を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)が、単離T細胞のCD28およびCD3を架橋結合させる、磁気ビーズまたはFc受容体発現フィーダー細胞の使用を含まない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
培地が、腫瘍壊死因子受容体2アゴニスト(TNFR2a)およびインターフェロン-ガンマ(IFNガンマ)の一方または両方をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
培地が、IL-6およびIL-1ベータの一方または両方をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
リンパ球含有生体試料が、全血、白血球除去輸血生成物および末梢血単核細胞(PBMC)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
生体試料が、新鮮であるか、またはヒト対象から得られた後に凍結保存され、その後、工程a)の前に解凍される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
工程a)のCD4+、CD25+、CD127-/lowT細胞が、生体試料から蛍光活性化セルソーティング(FACS)または磁気活性化セルソーティング(MACS)により単離される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
工程b)の開始から7~18日後にヒトTregを回収する工程c)をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ヒトTregが、工程a)開始時のCD4+、CD25+、CD127-/lowT細胞よりも約200~約2000倍多い細胞を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によりヒトTregを生成させることを含む、10~1011個のヒトTregと生理学的に許容される緩衝液とを含む薬学的組成物の製造方法。
【請求項12】
薬学的組成物が、病理学的免疫応答の治療または予防を必要とするヒト対象における、病理学的免疫応答の治療または予防において使用される、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
病理学的免疫応答が、自己免疫性または自己炎症性疾患である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
自己免疫性または自己炎症性疾患が、関節リウマチ、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、全身性エリテマトーデス、天疱瘡、乾癬、I型糖尿病、セリアック病および炎症性腸疾患からなる群から選択される、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
薬学的組成物が、自己免疫性または自己炎症性疾患の、症状の軽減において有効であるか、または進行の阻害において有効であり、任意選択で、自己免疫性または自己炎症性疾患の進行の阻害が、組織破壊の阻害を含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
病理学的免疫応答が、造血系同種移植または実質臓器同種移植の拒絶反応である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項17】
病理学的免疫応答が、造血系同種移植の拒絶反応であり、造血系同種移植が、骨髄移植または末梢血幹細胞移植である、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
病理学的免疫応答が、実質臓器同種移植の拒絶反応であり、実質臓器同種移植が、心臓、肺、心臓/肺、腎臓、膵臓、腎臓/膵臓、肝臓、腸管、膵島および皮膚の同種移植からなる群から選択される、請求項16に記載の製造方法。
【請求項19】
急性および/もしくは慢性拒絶反応の症状の軽減において有効であるか、または臓器同種移植の生存の延長において有効である、請求項16に記載の製造方法。
【請求項20】
病理学的免疫応答が、移植片対宿主病(GvHD)である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項21】
薬学的組成物が、急性および/もしくは慢性GvHDの症状の軽減において有効であるか、または宿主の皮膚、肝臓、肺および/もしくは腸への傷害の阻害において有効である、請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
ヒト対象におけるベースラインを超えるTregの割合の上昇において有効である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項23】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によりヒトTregを生成させることを含む、ヒトエフェクターT細胞(Teffs)の増殖を阻害するための医薬の製造方法。
【請求項24】
ヒトTregの生成のための方法が、医薬品の優良製造所基準(GMP)に準拠している、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願では、2019年4月30日申請の米国特許仮出願第62/841,215号の利益を主張し、この開示は、本明細書によって、この全体が参照により組み込まれる。
【0002】
連邦支援による研究または開発に関する主張
なし。
【0003】
本開示は、養子細胞療法における使用のための制御性T細胞(Treg)の製造に一般に関する。特には、本開示は、Tregのex vivoにおける増殖のための簡略化された手法に関する。この方法で生成したTregは、種々の免疫療法レジメンにおける使用に適する。
【背景技術】
【0004】
制御性T細胞(Treg)は、末梢血リンパ球の小型の亜集団であり、免疫系の寛容性、炎症および恒常性の調節に重大な意味を持つ。Tregの異常は、調節不能の炎症および多様な自己免疫性疾患と関連して観察されている。したがって、Tregは、自己免疫性および炎症性疾患、骨髄移植後の移植片対宿主病、ならびに実質臓器移植の拒絶反応を治療するための養子細胞療法として開発されている(Bluestone and Tang、Science、362:154~155、2018)。
【0005】
前臨床試験および臨床試験のためのTregを製造する現在の方法は、多様である(Ruchsら、Frontiers in Immunol、8:1844、2018)。ほとんどの方法は、従来のCD4T細胞およびCD8T細胞の増殖のために開発された方法を使用する、精製したTregの強力な抗原性または分裂促進性刺激に依存している。特に、このような方法では、ビーズ上に固定化したCD3およびCD28に対する抗体、人工抗原提示細胞、またはTregを強力に活性化してIL-2の助けにより細胞を増殖させる高分子足場を使用する。このようなin vitroにおける非天然条件の下に、Tregは、その独自性および機能を失う危険に冒されている。したがって、Tregの独自性および機能に負に影響することなく、Tregの一貫した安定な増殖をもたらすTregを製造する方法の当技術分野における必要性が存在する。その上、出発細胞集団のTreg表現型を維持しながら、細胞製造方法の複雑さを低減し、方法の自動化をより可能とするのに、Treg増殖のための簡略化され適応可能なプロトコールの開発が望まれている。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、養子細胞療法における使用のための制御性T細胞(Treg)の製造に一般に関する。特には、本開示は、Tregのex vivoにおける増殖のための簡略化された手法に関する。この方法で生成したTregは、種々の免疫療法レジメンにおける使用に適する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】磁気ビーズにコンジュゲートさせた抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体を含む標準的プロトコールを使用して生成したヒトTregの増殖の程度を、実施例1に記載する本開示のビーズを使用しないプロトコールと比較して示すグラフである。略称は、次の通りである:BF1=抗CD28SA AbおよびIL-2を含むプロトコール;BF2=抗CD28SA Ab、IL-2およびIL-6を含むプロトコール;BF3=抗CD28SA Ab、IL-2およびTNFアルファを含むプロトコール;ならびにBF4=抗CD28SA Ab、IL-2、IL-6およびTNFアルファを含むプロトコール。
図2】実施例1に記載する本開示のビーズを使用しないプロトコールを使用して生成したヒトTreg上のTreg系統マーカーFOXP3、HELIOSおよびCD27の発現レベルを示すグラフである。Tregは、14日目に回収した。略称は、図1に記載の通りである。
図3】実施例1に記載する本開示のビーズを使用しないプロトコールを使用して生成したヒトTreg上のTreg系統マーカーFOXP3、HELIOS、CD62LおよびCD27の発現レベルを示すフローサイトメトリーヒストグラムである。Tregは、14日目に回収した。略称は、図1に記載の通りである。
図4】実施例1に記載する本開示のビーズを使用しないプロトコールを使用して生成したヒトTreg上のTreg系統マーカーHELIOSおよびCD27の発現レベルを示すフローサイトメトリーヒストグラムである。Tregは、14日目に回収した。略称は、図1に記載の通りである。
図5】磁気ビーズならびに抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体を含む標準的プロトコールを使用して生成したヒトTregの増殖の程度を、本開示のBF4プロトコールと比較して示すグラフである。Tregは、14日目に回収した。
図6】磁気ビーズならびに抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体を含む標準的プロトコールを使用して生成したヒトTreg上のTreg系統マーカーFOXP3およびHELIOSの発現レベルを、本開示のBF4プロトコールと比較して示すフローサイトメトリーヒストグラムである。Tregは、14日目に回収した。
図7】磁気ビーズならびに抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体を含む標準的プロトコールを使用して生成したヒトTreg上のTreg系統マーカーHELIOSおよびCD27の発現レベルを、本開示のBF4プロトコールと比較して示すフローサイトメトリーヒストグラムである。Tregは、14日目に回収した。
図8A】磁気ビーズならびに抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体を含む標準的プロトコールを使用して生成したヒトTregによる、予備活性化エフェクターT細胞(Teff)増殖の抑制レベルを、本開示のBF4プロトコールと比較して示すグラフである。
図8B】磁気ビーズならびに抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体を含む標準的プロトコールを使用して生成したヒトTregによる、自家末梢血単核細胞(PBMC)増殖の抑制レベルを、本開示のBF4プロトコールと比較して示すグラフである。
図9】磁気ビーズならびに抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体を含む標準的プロトコールを使用して生成したヒトTregによる、腫瘍壊死因子アルファの存在および非存在下のエフェクターT細胞(Teff)増殖の抑制レベルを、本開示のBF4プロトコールと比較して示すグラフである。
図10】IL-1(ビーズ)存在下の磁気ビーズならびに抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体による2ラウンドの刺激を使用して生成したヒトTregの増殖レベルを、本開示のBF10プロトコールと比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、養子細胞療法における使用のための制御性T細胞(Treg)の製造に一般に関する。特には、本開示は、伝統的磁気ビーズまたはフィーダー細胞に基づくプロトコールに対する、Tregのex vivoにおける増殖のための代替手法に関する。この方法で生成したTregは、種々の免疫療法レジメンにおける使用に適する。
【0009】
本開示では、ヒト制御性T細胞(Treg)の生成のための方法であって、a)ヒト対象から得られたリンパ球含有生体試料からCD4+、CD25+、CD127-/lowT細胞を単離すること;ならびにb)CD4+、FOXP3+、HELIOS+であり、Treg特異的脱メチル化領域(TSDR)が脱メチル化されているヒトTregの生成において有効な条件下でCD28スーパーアゴニスト(CD28SA)抗体、インターロイキン2(IL-2)および腫瘍壊死因子アルファ(TNFアルファ)を含む培地中でT細胞を培養することを含む、方法を提供する。本開示では、ヒト制御性T細胞(Tregの生成のための方法であって、a)ヒト対象から得られたリンパ球含有生体試料からCD4+、CD25+、CD127-/lowT細胞を単離すること;ならびにb)CD4+、FOXP3+、HELIOS+であり、Treg特異的脱メチル化領域(TSDR)が脱メチル化されているヒトTregの生成において有効な条件下でCD28SA抗体、IL-2、IL-6およびTNFアルファを含む培地中でT細胞を培養することを含む、方法をさらに提供する。また、本開示では、ヒト制御性T細胞(Treg)の生成のための方法であって、a)ヒト対象から得られたリンパ球含有生体試料からCD4+、CD25+、CD127-/lowT細胞を単離すること;ならびにb)CD4+、FOXP3+、HELIOS+であり、Treg特異的脱メチル化領域(TSDR)が脱メチル化されているヒトTregの生成において有効な条件下でCD28SA抗体、IL-2、IL-1ベータおよびTNFアルファを含む培地中でT細胞を培養することを含む、方法を提供する。好ましい実施形態では、ヒトTregは、CD3+、CD27+、CD62L+、CD8-およびCD19-である。IL-6存在下での細胞培養を含む好ましい刺激条件は、実施例および図においてBF4およびBF4aと呼ぶ。IL-1ベータ存在下での細胞培養を含む好ましい刺激条件は、実施例および図においてBF10と呼ぶ。
【0010】
同一であるが異なる濃度のサイトカインからなる培地中でのT細胞培養を含む、BF4およびBF10条件ならびにこれらの異形により、ビーズまたは人工抗原提示細胞を利用して抗CD3および抗CD28抗体を固定化する条件下で生成されたTregと比較して有利な特性を有するTreg集団の生成がもたらされると考えられる。理論に拘束されることなく、抗CD3および抗CD28抗体の固定化は、Treg系統の不安定性と炎症促進性機能の獲得とを生じる過度に強力で非生理学的刺激であることが考えられる。
【0011】
本明細書において使用する場合、「CD28スーパーアゴニスト抗体」、「CD28SA抗体」および「スーパーアゴニスト抗CD28抗体」の用語は、T細胞受容体活性化因子の非存在下でT細胞を活性化可能なCD28特異的モノクローナル抗体を指す。したがって、好ましい実施形態では、工程b)は、抗CD3抗体の使用を含まず、および/または単離T細胞の表面上に発現したCD28およびCD3を架橋結合させる、磁気ビーズもしくはFc受容体発現フィーダー細胞の使用を含まない。一部の実施形態では、培地は、腫瘍壊死因子受容体2アゴニスト(TNFR2a)およびインターフェロン-ガンマ(IFNガンマ)の一方または両方をさらに含む。一部の実施形態では、TNFR2aは、抗TNFR2抗体である。
【0012】
従来の抗CD28モノクローナル抗体は、CD28の露出したF’’Gループに結合するが、CD28SAモノクローナル抗体は、CD28の免疫グロブリン様ドメインの露出したC’’Dループに結合することが見出されており、これは、B7結合に重大な意味を持つ(Luhderら、J ExpMed、197:955~966、2003)。本開示の方法における使用に適する例示的CD28SA抗体としては、TheraMAB LLC社(Moscow、ロシア)により開発されたセラリズマブ(TAB08としても知られ、かつてはTGN1412として知られる)およびAncellCorp社(Bayport、MN)により販売されるANC28.1が挙げられるが、これらに限定されない。TGN1412の可変領域およびこの異形のアミノ酸配列は、米国特許第8,709,414号に記載されている。
【0013】
本開示のビーズを使用しない方法は、抗原特異的Tregを生成するための、Tregの抗原特異的増殖または選択と組み合わせて使用することができる。例えば、ヒト制御性T細胞(Treg)の生成のための方法は、工程b)の前にIL-2の存在下で、主要組織適合複合体(MHC)クラスIIペプチド多量体で染色し、および/またはMHCクラスIIペプチド多量体の存在下でT細胞を培養することにより、抗原特異的T細胞を単離することをさらに含み得る。MHCクラスIIペプチド多量体を利用する抗原特異的増殖のための方法およびTregの養子移植のための方法は、米国特許第7,722,862号に記載されている。
【0014】
あるいは、ヒト制御性T細胞(Treg)の生成のための方法は、工程b)の前および/または工程b)の間にIL-2の存在下で、同種の刺激したB細胞(sBc)の存在下でT細胞を培養することをさらに含み得る。一部の実施形態では、T細胞は、同種sBcに関連するHLA-DRにおけるミスマッチを含む。同種sBcを利用する抗原特異的増殖のための方法および養子移植のための方法は、米国特許第9,801,911号に記載されており、この実施例は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0015】
本開示の方法は、ヒトTregを回収する工程c)をさらに含んでもよく、これは、一部の実施形態では、工程b)の開始から7~18日後に開始する。一部の実施形態では、工程c)は、工程b)の開始から最低で7、8、9、10、11、12、13、14、15、16もしくは17日後および/または工程b)の開始から最高で18、17、16、15、14、13、12、11、10、9もしくは8日後に開始する。本開示の方法は、ヒトTregを回収する工程c)をさらに含んでもよく、これは、一部の実施形態では、工程b)の開始から11~18日後に開始する。一部の実施形態では、工程c)は、工程b)の開始から最低で11、12、13、14、15、16もしくは17日後および/または工程b)の開始から最高で18、17、16、15、14、13もしくは12日後に開始する。本開示の方法は、約200~約2000倍のヒトTregの増殖に適する。好ましい実施形態では、方法により、工程a)開始時に存在するヒトTregよりも少なくとも200、600、1000、1400または1800倍多いヒトTregの生成が生じる。一部の実施形態では、ヒトTregによる種々のマーカーの発現レベルは、回収日にフローサイトメトリーにより評価する。評価するマーカーは、CD4、CD25、FOXP3、HELIOS、CD27、CD62LおよびCD8を含み得るが、これらに限定されない。Tregは、CD4、CD25、FOXP3、HELIOS、CD27、CD62Lについては陽性であり、CD8については陰性である。また、TSDR脱メチル化は、バイサルファイド(bisulfide)変換の後、メチル化特異的PCRまたはパイロシーケンシングを使用して定量する。高い割合のTSDR脱メチル化は、生成された細胞が安定なTreg系統であることを示す。
【0016】
本開示の生成方法を使用して生成したヒトTregを対象に投与することを含む、それを必要とするヒト対象における病理学的免疫応答を治療または予防するための方法の参照および主張は、これらの一般的かつ特異的形態において、
a)病理学的免疫応答の治療または予防のための医薬の製造のためのヒトTregの使用;および
b)病理学的免疫応答の治療または予防のためのヒトTregを含む薬学的組成物
に同様に関する。
【0017】
本明細書において使用する場合、「病理学的免疫応答」の用語は、自己免疫性疾患、自己炎症性疾患、同種移植の拒絶反応および移植片対宿主病を包含する。「自己免疫性疾患」は、自己組織に対する直接的傷害および機能障害を生じる免疫認識を含む。病理学的には、自己免疫性疾患は、適応免疫系の細胞により典型的に引き起こされる。自己免疫性疾患は、関節リウマチ、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、天疱瘡、乾癬、I型糖尿病、セリアック病およびシェーグレン症候群を含むが、これらに限定されない。「自己炎症性疾患」は、自己組織に対する間接的(バイスタンダー)傷害および機能障害を生じる非自己抗原(例えば、環境性、食物性、共生性または他の抗原)に対する免疫系の自発的活性化または過剰反応を含む。病理学的には、自己炎症性疾患は、先天免疫系の細胞により典型的に影響される。自己炎症性疾患の例としては、炎症性腸疾患、筋萎縮性側索硬化症および他の神経変性疾患、アレルギー性気道疾患、ならびに慢性閉塞性肺疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
本開示では、ヒトTregおよび生理学的に許容される緩衝液、例えば、食塩水またはリン酸緩衝食塩水を含む、薬学的組成物をさらに提供する。養子細胞療法のための薬学的組成物の有効量は、10~1011(1000万~1000億)個のヒトTregを含む(例えば、TangおよびLee、CurrOpinOrganTransplant、17:349~354、2012を参照)。一部の例では、ヒトTregは、患部組織に局所的(例えば、関節リウマチを治療する場合、罹患関節への関節内注入により)または全身的(例えば、全身性エリテマトーデスを治療する場合、静脈内注入により)のいずれかにより投与する。一部の実施形態では、Tregは、より良い生着および持続的作用のために、単回注入または複数回注入のいずれかとして投与する。局所注入では、10~10個の投与を含んでもよく、一方、全身注入では、10~1011個のTregを含んでもよい。実質臓器移植の治療または予防では、10~1011個のTregの投与を含んでもよく、一方、移植片対宿主病の治療または予防では、1010~1011個のTregの投与を含んでもよい。
【0019】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、「a」、「an」および「the」の単数形は、他に指示しない限り、複数形を含む。例えば、「an」excipient(添加物)は、1つまたは複数の添加物を含む。
【0020】
「comprising(含む)」の句は、本明細書において使用する場合、非制限的であり、このような実施形態が、さらなる要素を含み得ることを示す。対照的に、「consisting of(からなる)」の句は、制限的であり、このような実施形態が、さらなる要素(微量不純物を除く)を含まないことを示す。「consisting essentially of(から本質的になる)」の句は、部分的に制限的であり、このような実施形態が、このような実施形態の基本特性を実質的に変化させない要素をさらに含み得ることを示す。「含む」として本明細書において記載する態様および実施形態が、実施形態「からなる」および実施形態「から本質的になる」を含むことが理解される。
【0021】
「約」の用語は、値に関して本明細書において使用する場合、その値の90%~110%を包含する(例えば、約200倍は、180倍~220倍を指し、200倍を含む)。
【0022】
本明細書において開示する薬剤の「有効量」は、詳述する目的を行うのに十分な量である。「有効量」は、主張する目的に関連して経験的に決定し得る。薬剤の「有効量」または「十分な量」は、所望の生物学的作用、例えば、有益な臨床結果を含む有益な結果に影響するのに適切な量である。「治療有効量」の用語は、対象(例えば、哺乳動物、例えば、ヒト)における疾患または障害を「治療」するのに有効な薬剤(例えば、ヒトTreg)の量を指す。薬剤の「有効量」または「十分な量」は、1回または複数の用量により投与され得る。
【0023】
疾患の「treating(治療)」または「treatment(治療)」の用語は、疾患の徴候または症状を緩和する試みにおいて、個体(ヒトまたはその他)に1つまたは複数の薬物を投与することを含み得るプロトコールの実行を指す。したがって、「treating(治療)」または「treatment(治療)」は、徴候または症状の完全な緩和を必要とせず、治癒を必要とせず、詳細には、個体に対する一時的緩和作用のみを有するプロトコールを含む。本明細書において使用する場合、および当技術分野において十分に理解されている場合、「治療」は、臨床結果を含む有益または所望の結果を得るための手法である。有益または所望の臨床結果は、1つまたは複数の症状の緩和または改善、疾患の程度の減少、疾患状態の安定(すなわち、悪化しないこと)、疾患蔓延の予防、疾患進行の遅延または緩徐化、疾患状態の改善または一時的緩和、および寛解を含むが、これらに限定されない。また、「治療」は、治療を受けていない同種移植レシピエントの予測生存と比較した場合の同種移植レシピエントの生存の延長を意味し得る。疾患または障害の「一時的緩和」は、未治療の予測アウトカムと比較して、疾患もしくは障害の程度および/もしくは望ましくない臨床症状が和らぎ、ならびに/または疾患もしくは障害の進行の時間経過が緩徐化することを意味する。
【0024】
実施形態の列挙
下記の実施形態では、実施形態1の任意の参照は、実施形態1Aおよび実施形態1Bの一方または両方を包含する。
【0025】
1A.ヒト制御性T細胞(Treg)の生成のための方法であって、
a)ヒト対象から得られたリンパ球含有生体試料からCD4+、CD25+、CD127-/lowT細胞を単離すること;ならびに
b)CD4+、FOXP3+、HELIOS+であり、Treg特異的脱メチル化領域(TSDR)が脱メチル化されているヒトTregの生成において有効な条件下でCD28スーパーアゴニスト(CD28SA)抗体、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン6(IL-6)および腫瘍壊死因子アルファ(TNFアルファ)を含む培地中でT細胞を培養すること
を含み、任意選択で、ヒトTregが、CD62L+およびTNFR2+である、方法。
【0026】
1B.ヒト制御性T細胞(Treg)の生成のための方法であって、
a)ヒト対象から得られたリンパ球含有生体試料からCD4+、CD25+、CD127-/lowT細胞を単離すること;ならびに
b)CD4+、FOXP3+、HELIOS+であり、Treg特異的脱メチル化領域(TSDR)が脱メチル化されているヒトTregの生成において有効な条件下でCD28スーパーアゴニスト(CD28SA)抗体、インターロイキン2(IL-2)および腫瘍壊死因子アルファ(TNFアルファ)を含む培地中でT細胞を培養すること
を含む、ヒトTregの生成のための方法であって、任意選択で、ヒトTregが、CD62L+およびTNFR2+である、方法。
【0027】
2.工程b)が、抗CD3抗体の使用を含まない、実施形態1に記載の方法。
【0028】
3.工程b)が、単離T細胞のCD28およびCD3を架橋結合させる、磁気ビーズまたはFc受容体発現フィーダー細胞の使用を含まない、実施形態1または実施形態2に記載の方法。
【0029】
4.培地が、腫瘍壊死因子受容体2アゴニスト(TNFR2a)およびインターフェロン-ガンマ(IFNガンマ)の一方または両方をさらに含み、任意選択で、TNFR2aが、抗TNFR2抗体である、実施形態1から3のいずれか一項に記載の方法。
【0030】
5.培地が、IL-6およびIL-1ベータの一方または両方をさらに含み、任意選択で、培地が、IL-1ベータをさらに含むがIL-6は含まず、任意選択で、培地が、IL-6、IL-1ベータをさらに含むがIL-1ベータは含まない、実施形態1Bから4のいずれか一項に記載の方法。
【0031】
6.リンパ球含有生体試料が、全血、白血球除去輸血生成物および末梢血単核細胞(PBMC)からなる群から選択され、任意選択で、生体試料が、新鮮であるか、またはヒト対象から得られた後に凍結保存され、その後、工程a)の前に解凍される、実施形態1から5のいずれか一項に記載の方法。
【0032】
7.工程a)のCD4+、CD25+、CD127-/lowT細胞を、生体試料から蛍光活性化セルソーティング(FACS)または磁気活性化セルソーティング(MACS)により単離する、実施形態1から6のいずれか一項に記載の方法。
【0033】
8.ヒトTregを回収する工程c)をさらに含む、実施形態1から7のいずれか一項に記載の方法。
【0034】
9.工程c)が、工程b)の開始から7~18日後に開始し、任意選択で、工程c)が、工程b)の開始から11~18日後に開始する、実施形態8に記載の方法。
【0035】
10.ヒトTregが、工程a)開始時のCD4+、CD25+、CD127-/lowT細胞よりも約200~約2000倍多い細胞を含む、実施形態9に記載の方法。
【0036】
11.実施形態1から10のいずれか一項に記載の方法を使用して生成した10~1011個のヒトTreg、および生理学的に許容される緩衝液を含む、薬学的組成物。
【0037】
12.それを必要とするヒト対象における病理学的免疫応答を治療または予防するための方法であって、有効量の実施形態11に記載の薬学的組成物をヒト対象に投与することを含み、任意選択で、薬学的組成物の有効量が、10~1011個のヒトTregを含み、20~40分間にわたってヒト対象に静脈内注入される、方法。
【0038】
13.病理学的免疫応答が、自己免疫性または自己炎症性疾患である、実施形態12に記載の方法。
【0039】
14.自己免疫性または自己炎症性疾患が、関節リウマチ、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、全身性エリテマトーデス、天疱瘡、乾癬、I型糖尿病、セリアック病および炎症性腸疾患からなる群から選択され、任意選択で、自己免疫性または自己炎症性疾患が、潰瘍性大腸炎およびクローン病からなる群から選択される炎症性腸疾患である、実施形態13に記載の方法。
【0040】
15.自己免疫性または自己炎症性疾患の、症状の軽減において有効であるか、または進行の阻害において有効であり、任意選択で、自己免疫性または自己炎症性疾患の進行の阻害が、組織破壊の阻害を含む、実施形態13または14に記載の方法。
【0041】
16.病理学的免疫応答が、造血系同種移植または実質臓器同種移植の拒絶反応である、実施形態12に記載の方法。
【0042】
17.病理学的免疫応答が、造血系同種移植の拒絶反応であり、造血系同種移植が、骨髄移植または末梢血幹細胞移植である、実施形態16に記載の方法。
【0043】
18.病理学的免疫応答が、実質臓器同種移植の拒絶反応であり、実質臓器同種移植が、心臓、肺、心臓/肺、腎臓、膵臓、腎臓/膵臓、肝臓、腸管、膵島および皮膚の同種移植からなる群から選択される、実施形態16に記載の方法。
【0044】
19.急性および/もしくは慢性拒絶反応の症状の軽減において有効であるか、または臓器同種移植の生存の延長において有効である、実施形態16に記載の方法。
【0045】
20.病理学的免疫応答が、移植片対宿主病(GvHD)である、実施形態12に記載の方法。
【0046】
21.急性および/もしくは慢性GvHDの症状の軽減において有効であるか、または宿主の皮膚、肝臓、肺および/もしくは腸への傷害の阻害において有効である、実施形態20に記載の方法。
【0047】
22.ヒト対象におけるベースラインを超えるTregの割合の上昇において有効である、実施形態12に記載の方法。
【0048】
23.ヒトエフェクターT細胞(Teff)の増殖を阻害するための方法であって、実施形態1から10のいずれか一項に記載の方法を使用して生成したヒトTregと、ヒトCD4+、CD25-、CD127+TeffをTeffの増殖の阻害において有効な条件下で接触させることを含み、任意選択で、接触がTNFアルファの存在下で行われる、方法。
【0049】
24.ヒトTregの生成のための方法が、医薬品の優良製造所基準(GMP)に準拠している、実施形態1から23のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【実施例
【0050】
本開示は、以下の実施例において、さらに詳細に記載し、これは、主張する本開示の範囲を制限することを決して意図しない。添付の図は、本開示の明細書および説明の不可欠な部分であると考えられることを意味する。以下の実施例は、主張する開示の制限ではなく、例示のために提供する。
【0051】
以下の実験的開示では、次の略称:Ab(抗体);allo(同種の);BF(ビーズを使用しない);CD28スーパーアゴニスト(CD28SA);FACS(蛍光活性化セルソーティング);IL-1β(インターロイキン1ベータ);IL-2(インターロイキン2);IL-6(インターロイキン6);IFNγ(インターフェロン-ガンマ);PBMC(末梢血単核細胞);Teff(エフェクターT細胞);TNFα(腫瘍壊死因子アルファ);TNF受容体IIアゴニスト抗体(TNFR2a);Treg(制御性T細胞);TSDR(Treg特異的脱メチル化領域);およびUCSF(カルフォルニア大学サンフランシスコ校)を適用する。
【0052】
実施例1
制御性T細胞(Treg)生成のビーズを使用しない方法の開発
この実施例では、ヒトTreg増殖のex vivoにおけるビーズを使用しない方法の開発について記載する。
【0053】
Tregの単離。ヒト末梢血単核細胞を末梢血試料からフィコール密度勾配を使用して単離した後、2回洗浄し、CD4(抗CD4PerCP、クローンSK3、BD Biosciences社、カタログNo.347324)、CD25(抗CD25APC、クローン2A3、BD Biosciences社、カタログNo.340939)およびCD127(抗CD127PE、クローンHIL-7R-M21、BD Biosciences社、カタログNo.557938)に対する抗体で染色した。CD4+CD25highCD127-/lowTregを蛍光活性化セルソーティング(FACS)により単離した。
【0054】
ex-vivoにおけるTregの増殖。1×10CD4+CD25+CD127-/lowTregを48ウェルプレートの単一のウェル内のT細胞培地(5%のFBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、HEPES、ピルビン酸ナトリウム、glutamaxおよび非必須アミノ酸を含むRPMI)500ml中に播種した。あるいは、ヒトAB血清を含むX-VIVO15を使用する。T細胞を1~10μg/mLのCD28SA Ab(ANC28.1、クローン5D10、Ancell Corp.社、カタログNo.177-020)またはビーズ対細胞比1:1の抗CD3および抗CD28抗体と共役する磁化可能な高分子ビーズ(抗CD3/CD28ビーズ)のいずれかで刺激した。抗CD3/CD28ビーズは、T細胞増殖および活性化用Dynabeads(商標)HumanT-ActivatorCD3/CD28(ThermoFisherScientific社、カタログNo.111.31D)である。ビーズを使用しない(BF)試験条件は、表1-1に示す。細胞には、新鮮培地を2、5、7、9、11および13日目に補充した。300IU/mLのヒト組換えIL-2を0、2、5、7、9、11および13日目に補充した。15、50および150ng/mLのヒト組換えIL-6(Peprotech社、カタログNo.200-06)を0、2および5日目に補充した。50ng/mLのヒト組換えTNFα(Peprotech社、カタログNo.300-01A)を0、2および5日目に補充した。2.5μg/mLのTNFR2a(クローンMR2-1、HycultBiotech社、カタログNo.HM2007-FS)を0、2および5日目に補充した。40ng/mLのヒト組換えIFNγ(Peprotech社、カタログNo.300-02)を0、2および5日目に補充した。50ng/mLのヒト組換えIL-1β(Peprotech社、カタログNo.200-01B)を0、2および5日目に補充した。細胞を5、7、9、11、13および14日目に計数し、14日目に回収して解析した。
【0055】
フローサイトメトリー。ex-vivo増殖Tregを1×10細胞含む試料を培養から14日目に回収し、CD4、CD27、FOXP3およびHELIOSに対する抗体で染色して免疫表現型検査を行った。
【0056】
Treg特異的脱メチル化領域(TSDR)の解析。ex-vivo増殖Tregを5×10細胞含む試料を培養から14日目に回収し、FOXP3遺伝子座のメチル化をパイロシーケンシングにより評価した。
【0057】
in-vitroにおける抑制アッセイ。種々の条件下で(上記の)培養したex-vivo増殖Tregを回収し、2回洗浄した後、予備活性化Teffまたは自家PBMCのいずれかと共培養した。PBMCからFACSにより単離したCD4+CD25lowCD127+T細胞を、細胞対ビーズ比1:1の抗CD3/CD28ビーズで刺激した。新鮮細胞培養培地を2、5、7、9、11、13および15(または2、5および7)日目に加えて、予備活性化Teff集団を得た。PBMCは凍結保存して、解凍後に使用した。in vitroにおける抑制アッセイは、50,000細胞の予備活性化TeffまたはPBMCおよび種々の比率のTregを用いて設定した。一部のアッセイでは、50ng/mlのTNFαを共培養ウェルに加えた。トリチウム標識チミジンを共培養から4日目に最後の16~18時間加え、細胞増殖をトリチウム標識チミジン取込みの測定により判定した。
【0058】
結果
BF1およびBF1a条件を、IL-2の存在または非存在下で標準的抗CD3/CD28ビーズ条件と比較した。CD28スーパーアゴニスト(CD28SA)抗体の刺激によるTregの増殖が、CD28SA Abの濃度およびIL-2の存在に依存することが見出された。簡潔には、Tregのより良い増殖は、2μg/mlではなく4μg/mlのCD28SA Abが存在する場合に観察された。加えて、BF1およびBF1aの両条件により、標準的抗CD3/CD28ビーズ条件を適用するよりも良好で長期のTreg増殖が生じた。培養から5日目に撮影した顕微鏡画像では、IL-2の存在下のCD28SA AbによるTregの強力な活性化、およびIL-2の非存在下でクラスター形成する活性化関連細胞の完全な非存在が示された。対照的に、抗CD3/CD28ビーズにより、IL-2の存在および非存在の両方においてTregが活性化された。
【0059】
3つの異なるT細胞集団をFACSにより単離し、BF1条件または標準的抗CD3/CD28ビーズ条件下で7日間刺激した。培養から7日目に撮影した顕微鏡画像では、CD28SA Abによって、CD4+CD25-CD127highTエフェクター細胞(Teff)およびCD8+T細胞よりもCD4+CD25+CD127-/lowTregが選択的に活性化されることが示された。Tregの選択的活性化は、抗CD3/CD28ビーズを利用した場合には観察されなかった。
【0060】
BF1およびBF2条件を標準的抗CD3/CD28ビーズ条件と比較した。CD28SA Ab刺激Tregのex vivoにおける増殖率が、培養物へのIL-6の追加により著しく影響されることは見出されず、BF1およびBF2の両方の比率は、ビーズ刺激によって観察された比率よりも高かった。
【0061】
BF1およびBF3条件を標準的抗CD3/CD28ビーズ条件と比較した。CD28SA Ab刺激Tregのex vivoにおける増殖率が、培養物へのTNFαの追加により著しく影響されることは見出されず、BF1およびBF3の両方の比率は、ビーズ刺激によって観察された比率よりも高かった。
【0062】
BF1およびBF4条件を標準的抗CD3/CD28ビーズ条件と比較した。CD28SA Ab刺激Tregのex vivoにおける増殖率が、培養物へのIL-6およびTNFαの追加により向上した。培養から5日目のビーズ刺激TregおよびBF4刺激Tregの顕微鏡画像では、BF4条件における大規模な細胞クラスター形成が、Tregの強力な活性化および増殖を意味することが示された。加えて、IL-6およびTNFαに曝露したCD28SA Ab刺激Tregのex-vivoにおける増殖が、長期的かつ安定であることが見出された。これは、Tregを再刺激してTreg不安定化の危険を冒す必要性を除去するために有利である。
【0063】
BF4、BF4aおよびBF4b条件を標準的抗CD3/CD28ビーズ条件と比較した。IL-6は、3人の異なるヒトドナー(50歳の女性、21歳の男性および33歳の男性)の末梢血から単離した細胞による広範な濃度下(15、50または150ng/ml)でのTregの増殖を増強することが見出された。
【0064】
BF1およびBF6条件を標準的抗CD3/CD28ビーズ条件と比較した。CD28SA Ab刺激Tregのex vivoにおける増殖率が、培養物へのIL-6およびTNFR2aの追加により向上した。
【0065】
BF1、BF2、BF3、BF4および標準的抗CD3/CD28ビーズ条件下のTregのex vivoにおける増殖の比較を図1に示す。培養から14日後のTregのex vivoにおける全増殖のより大規模な比較を表1-2に示す。
【0066】
BF8およびBF9条件を標準的抗CD3/CD28ビーズ条件と比較した。CD28SA Ab刺激Tregのex vivoにおける増殖率が、培養物へのIL-6およびIFNγの一方または両方の追加により向上した。
【0067】
BF10条件を標準的抗CD3/CD28ビーズ条件と比較した。CD28SA Ab刺激Tregのex vivoにおける増殖率が、培養物へのTNFαおよびIL-1βの両方の追加により向上した。加えて、CD28SA AbおよびIL-2の存在下ならびにTNFαおよびIL-1βの非存在下において、BF1条件下で生成したTreg集団では47%であるのに対して、BF10条件下で生成したTreg集団では62%が、TNFR2+、CD25+であった。興味深いことには、BF10条件下で生成したTregは、BF1条件下で生成したTregよりも高レベルのCD71を発現した。CD71は、トランスフェリン受容体であり、これは、活性化T細胞において上方制御され、増殖に寄与するタンパク質同化状態に入った細胞を意味する。
【0068】
図2に示すように、炎症促進性サイトカインの存在下でのCD28SA Abの刺激によるex vivoにおけるTreg増殖により、Treg系統マーカーFOXP3、HELIOSおよびCD27が高レベルで発現する細胞集団がもたらされる。加えて、増殖した細胞集団は、TSDRが高度に脱メチル化されている。BF1、BF2、BF3およびBF4刺激条件下のex vivoで増殖させたTregの表現型の比較を図3および図4に示す。BF4条件下でのTregの増殖では、刺激開始時(0日目)に存在した細胞よりも1000倍を超える多くの細胞の生成が生じたが、標準的抗CD3/CD28ビーズ条件下でのTreg増殖の程度は、図5に示すように、かなり低かった。同様に、BF10条件下でのTregの増殖では、図10に示すように、標準的抗CD3/CD28ビーズ条件下で増殖させた場合よりも、はるかに多くの細胞の生成が生じた。BF4条件および標準的抗CD3/CD28ビーズ条件下のex vivoで増殖させたTregの表現型の比較を図6および図7に示す。
【0069】
BF4刺激条件下の炎症促進性サイトカインの存在下でのCD28SA Abの刺激によるex vivoにおけるTregの増殖により、図8Aおよび図8Bに示すように、予備活性化Teffおよび自家PBMCに対する高い抑制能を有する細胞集団がもたらされる。加えて、BF4刺激条件下のex vivoで増殖させたTregは、図9に示すように、炎症性サイトカインTNFアルファ存在下で、標準的抗CD3/CD28ビーズ条件下のex vivoで増殖させたTregよりも強力な、Teff増殖の抑制因子となる。
【0070】
その上、炎症促進性サイトカイン存在下でのCD28SA Abの刺激によるex vivoにおけるTregの増殖により、炎症促進性サイトカインIL-2、IL-17、IFNガンマおよびIL-4を生成するTregの発生頻度は上昇しない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10