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特許7617080セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20250109BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250109BHJP
   B32B 27/42 20060101ALI20250109BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20250109BHJP
   C08L 61/28 20060101ALI20250109BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20250109BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20250109BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B28B1/30 101
B32B27/00 L
B32B27/42
B32B27/38
C08L61/28
C08L63/00
C08L83/04
C09K3/00 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022508122
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2021004157
(87)【国際公開番号】W WO2021186939
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2020046625
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】矢野 宏和
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/032007(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/050081(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065214(WO,A1)
【文献】特開2019-073003(JP,A)
【文献】特開2017-144636(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129779(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/098956(WO,A1)
【文献】特開2020-090094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
B32B 27/00
B32B 27/42
B32B 27/38
C08L 61/28
C08L 63/00
C08L 83/04
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の片面側に設けられた剥離剤層とを備えたセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムであって、
前記剥離剤層が、メラミン樹脂と、エポキシ樹脂と、ポリオルガノシロキサンとを含有する剥離剤組成物から形成されており、
前記メラミン樹脂が、下記一般式(a)
【化1】

(式中、Xは、-H、-CH -OH、または-CH -O-Rを示し、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。Rは、炭素数1~8個のアルキル基を示し、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。少なくとも1個のXは、-CH -OH、または-CH -O-Rである。)
で表される化合物、または2個以上の前記化合物が縮合してなる多核体を含有するものであり、
前記剥離剤組成物中における前記メラミン樹脂の含有量と前記エポキシ樹脂の含有量との質量比が、99:1~30:70であり、
前記剥離剤組成物中における前記ポリオルガノシロキサンの含有量が、前記メラミン樹脂の含有量および前記エポキシ樹脂の含有量の合計値100質量部に対して、1質量部以上、50質量部以下である
ことを特徴とするセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【請求項2】
前記ポリオルガノシロキサンが、1分子中に少なくとも1個の水酸基を有することを特徴とする請求項に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【請求項3】
前記ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が、500以上、10000以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【請求項4】
前記メラミン樹脂の重量平均分子量が、100以上、1000以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【請求項5】
前記剥離剤組成物が、触媒を含有することを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシートを製造する工程で使用する剥離フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板といった積層セラミック製品を製造するには、セラミックグリーンシートを成形し、得られたセラミックグリーンシートを複数枚積層して焼成することが行われている。
【0003】
セラミックグリーンシートは、チタン酸バリウムや酸化チタンなどのセラミック材料を含有するセラミックスラリーを剥離フィルム上に塗工することにより成形される。剥離フィルムには、当該剥離フィルム上に成形した薄いセラミックグリーンシートから当該剥離フィルムを、ヒビ、破断等が生じることなく、適度な剥離力により剥離できる剥離性が要求される。
【0004】
上述のような剥離フィルムの例として、特許文献1には、基材と、当該基材の片側に設けられた剥離剤層とを備え、当該剥離剤層が、メラミン樹脂とポリオルガノシロキサンとを含有する剥離剤組成物を硬化してなるものである剥離フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-105092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、積層セラミック製品を製造するにあたり、セラミックグリーンシートを複数枚積層して圧着する時に、セラミックグリーンシート同士の接着力が弱く、密着しないことがあった。このような密着不良が発生すると、接着面の位置ずれによる切断不良、電極等の位置精度の低下、積層体を焼成した後のデラミネーション等の欠陥が生じ、積層セラミック製品の信頼性が低下してしまう問題があった。
【0007】
本発明は、セラミックグリーンシートの積層工程時に当該セラミックグリーンシート間で高い接着力を有するセラミックグリーンシートを製造することができるセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材の片面側に設けられた剥離剤層とを備えたセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムであって、前記剥離剤層が、メラミン樹脂と、エポキシ樹脂と、ポリオルガノシロキサンとを含有する剥離剤組成物から形成されていることを特徴とするセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムを提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)においては、剥離剤層が、メラミン樹脂と、エポキシ樹脂と、ポリオルガノシロキサンとを含有する剥離剤組成物から形成されることで、当該剥離フィルムを使用して製造したセラミックグリーンシートの積層工程時における、当該セラミックグリーンシート間の接着力を高めることができる。
【0010】
上記発明(発明1)においては、前記剥離剤組成物中における前記メラミン樹脂の含有量と前記エポキシ樹脂の含有量との質量比が、99:1~30:70であることが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明1,2)においては、前記ポリオルガノシロキサンが、1分子中に少なくとも1個の水酸基を有することが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明1~3)においては、前記ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が、500以上、10000以下であることが好ましい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明1~4)においては、前記剥離剤組成物中における前記ポリオルガノシロキサンの含有量が、前記メラミン樹脂の含有量および前記エポキシ樹脂の含有量の合計値100質量部に対して、1質量部以上、50質量部以下であることが好ましい(発明5)。
【0014】
上記発明(発明1~5)においては、前記メラミン樹脂が、下記一般式(a)
【化1】

(式中、Xは、-H、-CH-OH、または-CH-O-Rを示し、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。Rは、炭素数1~8個のアルキル基を示し、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。少なくとも1個のXは、-CH-OH、または-CH-O-Rである。)
で表される化合物、または2個以上の前記化合物が縮合してなる多核体を含有することが好ましい(発明6)。
【0015】
上記発明(発明1~6)においては、前記メラミン樹脂の重量平均分子量が、100以上、1000以下であることが好ましい(発明7)。
【0016】
上記発明(発明1~7)においては、前記剥離剤組成物が、触媒を含有することが好ましい(発明8)。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムによれば、セラミックグリーンシートの積層工程時に当該セラミックグリーンシート間で高い接着力を有するセラミックグリーンシートを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係るセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム(以下単に「剥離フィルム」という場合がある。)は、基材と、当該基材の片面側に設けられた剥離剤層とを備えて構成される。なお、剥離剤層は、基材の片面に直接積層されていてもよく、または、その他の層を介して基材の片面に積層されていてもよい。
【0019】
1.セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムを構成する各部材
(1)基材
本実施形態における基材は、剥離剤層を積層することができれば特に限定されるものではない。かかる基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニルなどのプラスチックからなるフィルムが挙げられ、単層であってもよいし、同種または異種の2層以上の多層であってもよい。これらの中でもポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、さらには二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、機械的強度が大きく、また耐溶剤性に優れることから、加工時、使用時等において、規模の大小にかかわらず安定した生産性を達成できる。さらに、ポリエチレンテレフタレートフィルムに帯電防止処理を行うことで、有機溶剤を使用するセラミックスラリーを塗工する際の静電気による発火を防止したり、塗工不良等を防止する効果を高めることができる。
【0020】
上記の基材には、フィラーが含まれてもよい。また、基材が多層の場合は、少なくとも一方の表面側の層にフィラーが含まれてもよい。
【0021】
また、基材においては、その表面に設けられる剥離剤層との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は、基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果および操作性の面から好ましく用いられる。
【0022】
基材の厚さは、10μm以上であることが好ましく、特に15μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。また、基材の厚さは、300μm以下であることが好ましく、特に200μm以下であることが好ましく、さらには125μm以下であることが好ましい。
【0023】
(2)剥離剤層
本実施形態における剥離剤層は、メラミン樹脂と、エポキシ樹脂と、ポリオルガノシロキサンとを含有する剥離剤組成物から形成されたものである。
【0024】
本実施形態に係る剥離フィルムによれば、剥離剤層が、メラミン樹脂と、エポキシ樹脂と、ポリオルガノシロキサンとを含有する剥離剤組成物から形成されることで、当該剥離フィルムを使用して製造したセラミックグリーンシートの積層工程時における、当該セラミックグリーンシート間の接着力を高めることができる。
【0025】
また、本実施形態における剥離フィルムでは、剥離剤層を形成するための剥離剤組成物がポリオルガノシロキサンを含有するため、剥離剤層の剥離面における表面自由エネルギーが適度に低下する。さらに、剥離剤組成物がメラミン樹脂およびエポキシ樹脂を含有するため、加熱(および触媒の存在)によって剥離剤組成物を十分に硬化させることができ、形成される剥離剤層は十分な弾性を有するものとなる。これらにより、剥離フィルムの剥離面上に成形されたセラミックグリーンシートから剥離フィルムを剥離する際の剥離力が適度に低下し、良好な剥離性が達成される。
【0026】
なお、一般的に、「メラミン樹脂」とは、複数種のメラミン化合物および/または当該メラミン化合物が縮合してできる多核体を含む混合物を意味する。本明細書においては、「メラミン樹脂」という語句は、上記混合物または1種のメラミン化合物の集合物を意味するものとする。さらに、本明細書では、当該メラミン樹脂が硬化したものを「メラミン硬化物」というものとする。
【0027】
また、本明細書における「エポキシ樹脂」とは、分子内に1個以上のエポキシ基を有する化合物を意味し、重合体になっているものも、重合体になっていないものも含むものとする。
【0028】
(2-1)メラミン樹脂
メラミン樹脂は、メラミン硬化物を形成することができる限り、特に制限されない。特に、メラミン樹脂は、下記一般式(a)で示される化合物を含有することが好ましい。
【化2】
【0029】
式(a)中、Xは、-H、-CH-OH、または-CH-O-Rを示す。これらの基は、メラミン化合物同士の縮合反応や、ポリオルガノシロキサンが有する水酸基、またはエポキシ樹脂のエポキシ基が開環して生成した水酸基との縮合反応における反応基を構成する。具体的には、XがHとなることで形成される-NH基は、-N-CH-OH基および-N-CH-R基との間で縮合反応を行うことができる。また、Xが-CH-OHとなることで形成される-N-CH-OH基およびXが-CH-Rとなることで形成される-N-CH-R基は、ともに、-NH基、-N-CH-OH基および-N-CH-R基との間で縮合反応を行うことができる。また、-CH-OHおよび-CH-O-Rで示される基は、ポリオルガノシロキサンが有する水酸基またはエポキシ樹脂のエポキシ基が開環して生成した水酸基とメラミン化合物との間の縮合反応に寄与する反応基を構成する。式(a)中、全てのXが-Hとならないことが好ましく、具体的には、少なくとも1個のXは、-CH-OH、または-CH-O-Rであることが好ましい。
【0030】
上記-CH-O-Rで示される基において、Rは、炭素数1~8個のアルキル基を示す。当該炭素数は、1~4個であることが好ましく、特に1~2個であることが好ましい。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、特にメチル基が好ましい。
【0031】
上記Xは、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、上記Rは、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0032】
上述した縮合反応の効率に優れるという観点から、式(a)中、-HとなるXの数は、2個以下であることが好ましく、特に1個以下であることが好ましく、さらには0個であることが好ましい。-HとなるXの数が0個となるメラミン化合物の例としては、全てのXが-CH-O-CHであるヘキサメトキシメチルメラミンが好ましく挙げられる。
【0033】
上記メラミン樹脂は、上記式(a)で表される化合物が2~10個縮合してなる多核体を含んでよく、また2~8個縮合してなる多核体を含んでよく、さらには2~5個縮合してなる多核体を含んでよい。
【0034】
メラミン樹脂の重量平均分子量は、1000以下であることが好ましく、特に900以下であることが好ましく、さらには800以下であることが好ましい。メラミン樹脂の重量平均分子量が1000以下であることで、剥離剤組成物の硬化性がより優れたものとなり、十分な塗膜強度を有する剥離剤層を形成し易いものとなる。その結果、より優れた剥離性を達成することが可能となる。一方、メラミン樹脂の重量平均分子量は、100以上であることが好ましく、特に200以上であることが好ましく、さらには300以上であることが好ましい。メラミン樹脂の重量平均分子量が100以上であることで、前述した縮合反応の反応速度が安定し、表面状態の優れた剥離面を形成し易いものとなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0035】
(2-2)エポキシ樹脂
本実施形態において、エポキシ樹脂は、触媒、特に酸触媒の存在下でエポキシ基が開環して、エポキシ化合物同士が重合したり、エポキシ樹脂のエポキシ基が開環して生成した水酸基とメラミン化合物との間で縮合反応して結合したりする。本実施形態おけるエポキシ樹脂は、分子内に1個以上のエポキシ基を有する化合物であるが、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物であることが好ましい。
【0036】
このようなエポキシ樹脂としては、公知の種々のエポキシ樹脂を用いることができ、特に制限されない。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等のビフェニル基を有するエポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ポリアルキレングリコール型等のアルキレングリコール型のエポキシ樹脂、ナフタレン環を有するエポキシ樹脂、フルオレン基を有するエポキシ樹脂などの二官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などの多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ダイマー酸等の合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N-ジグリシジルアニリン等のグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂;トリシクロデカン環を有するエポキシ樹脂などが挙げられる。エポキシ樹脂としては、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0037】
ゴム変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂中のエポキシ基にゴム成分を反応させることにより製造することができる。ゴム成分としては、特に限定されないが、例えば、ブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコ-ンゴム、ブチルゴム、オレフィンゴム、スチレンゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等が挙げられる。ゴム成分の官能基はアミノ変性、ヒドロキシ変性、またはカルボキシル変性されたもの等が挙げられる。なお、ゴム変性エポキシ樹脂を製造する際に使用されるエポキシ樹脂としては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。
【0038】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、50g/eq以上であることが好ましく、特に80g/eq以上であることが好ましく、さらには100g/eq以上であることが好ましい。また、当該エポキシ当量は、5000g/eq以下であることが好ましく、特に2000g/eq以下であることが好ましく、さらには1000g/eq以下であることが好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量が上記の範囲にあることにより、セラミックグリーンシート間の接着力がより高いものとなる。なお、本明細書におけるエポキシ当量は、JIS K7236に準じて測定される値である。
【0039】
エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、100以上であることが好ましく、特に200以上であることが好ましく、さらには300以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、50,000以下であることが好ましく、特に30,000以下であることが好ましく、さらには20,000以下であることが好ましい。エポキシ樹脂の重量平均分子量が上記の範囲にあることにより、セラミックグリーンシート間の接着力がより高いものとなる。
【0040】
本実施形態の剥離剤組成物において、メラミン樹脂の含有量とエポキシ樹脂の含有量との質量比は、99:1~30:70であることが好ましく、特に98:2~40:60であることが好ましく、さらには95:5~50:50であることが好ましい。メラミン樹脂の含有量とエポキシ樹脂の含有量との質量比が上記範囲にあることにより、セラミックグリーンシート間の接着力がより高いものとなる。また、剥離フィルムの剥離面上に成形されたセラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離する際の剥離性に優れたものとなる。
【0041】
(2-3)ポリオルガノシロキサン
ポリオルガノシロキサンは、剥離剤層に対して所望の剥離性を付与できるものである限り、特に限定されない。本実施形態に係る剥離フィルムでは、ポリオルガノシロキサンは、1分子中に少なくとも1個の水酸基を有するものであることが好ましい。ポリオルガノシロキサンが水酸基を有することで、当該ポリオルガノシロキサンはメラミン樹脂との縮合反応により硬化物中に化学的に固定されることが可能となり、その結果、剥離剤層からセラミックグリーンシートへのポリオルガノシロキサンの移行を抑制し易いものとなる。
【0042】
ポリオルガノシロキサンにおける上記水酸基以外の構造は、前述の剥離性ならびにメラミン樹脂との縮合反応を阻害しない限り、特に限定されるものではない。ポリオルガノシロキサンとしては、下記の一般式(b)で示されるケイ素含有化合物の重合体を使用することができる。
【化3】
【0043】
式(b)中、mは1以上の整数である。また、R~Rは、それぞれ独立に、水酸基、有機基(水酸基を有する有機基を含む)、またはこれらの基以外の基を意味する。ここで、R~Rの少なくとも1個が水酸基または水酸基を有する有機基となる場合には、R~Rの少なくとも1個がこれらの基であることが好ましい。すなわち、ポリオルガノシロキサンが水酸基または水酸基を有する有機基を有する場合には、当該基は、ポリオルガノシロキサンの末端に存在することが好ましい。水酸基が末端に存在することで、ポリオルガノシロキサンがメラミン樹脂との間で縮合反応し易くなり、ポリオルガノシロキサンの移行が効果的に抑制される。
【0044】
上記有機基の例としては、ポリエステル基およびポリエーテル基が挙げられ、特に、本実施形態におけるポリオルガノシロキサンは、ポリエステル基およびポリエーテル基の少なくとも1種を有することが好ましい。ポリオルガノシロキサンがポリエステル基およびポリエーテル基の少なくとも1種を有することで、剥離剤組成物中においてポリオルガノシロキサンとメラミン樹脂とが良好に混合され易くなり、硬化の際においてこれらが極端に相分離することが抑制される。これにより、前述したようなポリオルガノシロキサンとメラミン樹脂および/またはエポキシ樹脂との縮合反応が良好に進行し、ポリオルガノシロキサンの移行も効果的に抑制される。なお、本明細書において、「有機基」は、後述するアルキル基を含まないものとする。
【0045】
水酸基および有機基(水酸基を有する有機基を含む)以外の基の例としては、炭素数1~12のアルキル基が挙げられる。炭素数1~12のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、特にメチル基が好ましい。
【0046】
~Rは同一であっても異なっていてもよい。また、RおよびRが複数存在する場合、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0047】
ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は、10000以下であることが好ましく、特に8000以下であることが好ましく、さらには5000以下であることが好ましい。一方、ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は、500以上であることが好ましく、特に700以上であることが好ましく、さらには1000以上であることが好ましい。ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が上記範囲にあることで、ポリオルガノシロキサンと、メラミン樹脂およびエポキシ樹脂との相溶性がより優れたものとなり、剥離フィルムの剥離面上に成形されたセラミックグリーンシートから剥離フィルムを剥離する際の剥離力を適度な大きさに制御することができる。
【0048】
剥離剤組成物中におけるポリオルガノシロキサンの含有量は、メラミン樹脂の含有量およびエポキシ樹脂の含有量の合計値100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、特に3質量部以上であることが好ましく、さらには5質量部以上であることが好ましい。また、ポリオルガノシロキサンの含有量は、メラミン樹脂の含有量およびエポキシ樹脂の含有量の合計値100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、特に40質量部以下であることが好ましく、さらには30質量部以下であることが好ましい。ポリオルガノシロキサンの含有量が上記の範囲にあることにより、製膜したセラミックグリーンシートとの間で適度な剥離性が得られる。
【0049】
(2-4)触媒
本実施形態における剥離剤組成物は、メラミン樹脂による前述した縮合反応を効率よく進行させる観点、およびエポキシ樹脂の開環反応を促す観点から、触媒を含有することが好ましい。このような触媒の例としては、酸触媒が好ましく、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜リン酸、p-トルエンスルホン酸等が好ましく、特にp-トルエンスルホン酸が好ましい。
【0050】
剥離剤組成物中における触媒の含有量は、メラミン樹脂の含有量およびエポキシ樹脂の含有量の合計値100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.5質量部以上であることが好ましく、さらには1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、特に15質量部以下であることが好ましく、さらには10質量部以下であることが好ましい。
【0051】
(2-5)その他の成分
剥離剤組成物は、上記成分の他、架橋剤、反応抑制剤、密着向上剤、滑り剤等を含有してもよい。
【0052】
(2-6)剥離剤層の物性等
剥離剤層の厚さは、0.01μm以上、2μm以下であることが好ましく、0.03μm以上、1μm以下であることがより好ましく、特に0.1μm以上、0.5μm以下であることが好ましい。これにより、良好な剥離性が得られるとともに、剥離フィルムをロール状に巻き取った際に、ブロッキングが発生することを効果的に抑制することができる。
【0053】
2.セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの物性
本実施形態に係る剥離フィルムでは、剥離面上に成形されたセラミックグリーンシートから当該剥離フィルムを剥離する際に要する剥離力を、適宜設定することができるものの、例えば、10mN/40mm以上であることが好ましく、特に15mN/40mm以上であることが好ましく、さらに20mN/40mm以上であることが好ましい。また、当該剥離力は、例えば、300mN/40mm以下であることが好ましく、特に200mN/40mm以下であることが好ましく、さらには100mN/40mm以下であることが好ましい。本実施形態に係る剥離フィルムでは、剥離剤層がメラミン樹脂とエポキシ樹脂とポリオルガノシロキサンとを含有する剥離剤組成物によって形成されたものであるため、上述のような剥離力に容易に設定することができる。なお、上述した剥離力の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0054】
3.セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの製造方法
本実施形態における剥離フィルムの製造方法は、前述した剥離剤組成物から剥離剤層を形成することを含む限り、特に制限されない。例えば、基材の一方の面に、前述した剥離剤組成物および所望により有機溶剤を含有する塗布液を塗工した後、得られた塗膜を乾燥および加熱することで剥離剤組成物を硬化させて剥離剤層を形成し、これにより剥離フィルムを得ることが好ましい。
【0055】
上述した塗工の具体的な方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法などが挙げられる。
【0056】
上記有機溶剤としては特に制限はなく、様々なものを用いることができる。例えばトルエン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素化合物をはじめ、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びこれらの混合物等が用いられる。特に、メチルエチルケトンとイソプロピルアルコールとの混合液を使用することが好ましい。
【0057】
上記のように塗工した剥離剤組成物は、熱硬化させることが好ましい。この場合の加熱温度は80℃以上であることが好ましく、特に100℃以上であることが好ましい。また、当該加熱温度は170℃以下であることが好ましく、特に160℃以下であることが好ましい。熱硬化させる場合の加熱時間は、30秒以上であることが好ましく、特に50秒以上であることが好ましい。また、当該加熱時間は、120秒以下であることが好ましく、特に90秒以下であることが好ましい。
【0058】
4.セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの使用方法
本実施形態における剥離フィルムは、セラミックグリーンシートを製造するために使用することが好ましい。この場合、最初に、剥離剤層の剥離面に対し、チタン酸バリウムや酸化チタンなどのセラミック材料を含有するセラミックスラリーを塗工する。塗工は、例えば、スロットダイ塗工方式やドクターブレード方式等を用いて行うことができる。
【0059】
セラミックスラリーに含まれるバインダー成分の例としては、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。セラミックスラリーに含まれる溶媒の例としては、有機溶媒、水系溶媒等が挙げられる。
【0060】
剥離面に対するスラリーの塗工に続き、塗工されたセラミックスラリーを乾燥させることで、セラミックグリーンシートを成形することができる。セラミックグリーンシートの成形の後、当該セラミックグリーンシートを剥離フィルムから分離する。このとき、本実施形態における剥離フィルムでは、剥離剤層が、メラミン樹脂、エポキシ樹脂およびポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであることにより、剥離フィルムがセラミックグリーンシートに対して優れた剥離性を有するものとなっている。そのため、セラミックグリーンシートを、ヒビ、破断等が生じることなく、適度な剥離力により剥離することができる。
【0061】
次に、積層セラミック製品を得るにあたり、剥離フィルムから分離したセラミックグリーンシートを、複数枚積層し、圧着する。このとき、本実施形態における剥離フィルムでは、剥離剤層が、メラミン樹脂、エポキシ樹脂およびポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであることにより、セラミックグリーンシートの積層工程時に当該セラミックグリーンシート間の接着力が高いものとなり、これにより、複数枚のセラミックグリーンシート相互間の位置ずれが抑制される。その結果、切断不良、電極等の位置精度の低下、積層体を焼成した後のデラミネーション等の欠陥が生じることが抑制されて、得られる積層セラミック製品の製造における歩留まりが向上する。
【0062】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0063】
例えば、基材における剥離剤層の反対側の面、または基材と剥離剤層との間には、帯電防止層等の他の層が設けられてもよい。
【実施例
【0064】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0065】
〔実施例1〕
メラミン樹脂としてのメチル化メラミン樹脂(三和ケミカル社製,製品名「MW-30MLF」,重量平均分子量:714)95質量部(固形分換算値,以下同じ)と、エポキシ樹脂としてのゴム変性エポキシ樹脂(E1;DIC社製,製品名「TSR-601」,エポキシ当量:450~500g/eq,重量平均分子量(Mw)16,000)5質量部と、ポリオルガノシロキサンとしてのポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン社製,製品名「BYK-370」,重量平均分子量(Mw)3,600)30質量部と、触媒としてのp-トルエンスルホン酸2質量部とを、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンとの混合溶剤(質量比5:5)にて混合し、固形分3質量%の剥離剤組成物の塗布液を得た。
【0066】
得られた塗布液を、基材としての二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:38μm)の片面上にバーコーターにより均一に塗布した。次いで、得られた塗膜を150℃で1分間加熱乾燥して硬化させ、基材上に厚さ0.1μmの剥離剤層が積層された剥離フィルムを得た。
【0067】
なお、剥離剤層の厚さは、分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン社製,製品名「M―2000」)を用いて測定した。
【0068】
〔実施例2~8〕
エポキシ樹脂の種類を表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを製造した。
【0069】
〔実施例9,比較例1〕
メラミン樹脂の含有量ならびにエポキシ樹脂の種類および含有量を表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを製造した。
【0070】
〔比較例2〕
付加反応型シリコーン樹脂(信越化学工業社製,製品名「KS847H」)100質量部と、白金触媒(信越化学工業社製,製品名「CAT-PL-50T」)1質量部とを、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶剤(質量比5:5)にて混合し、固形分2質量%の剥離剤組成物の塗布液を得た。得られた剥離剤組成物の塗布液を使用し、実施例1と同様にして剥離フィルムを製造した。
【0071】
なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
<エポキシ樹脂>
E1:ゴム変性エポキシ樹脂(DIC社製,製品名「TSR-601」,エポキシ当量:450~500g/eq,重量平均分子量(Mw):16,000)
E2:ビスフェノールF型エポキシ樹脂/ゴム変性エポキシ樹脂=70/30(質量比)(DIC社製,製品名「TSR-930」,エポキシ当量:180~200g/eq,重量平均分子量(Mw):1,400)
E3:ビスフェノールA型エポキシ樹脂/ゴム変性エポキシ樹脂=70/30(質量比)(DIC社製,製品名「TSR-960」,エポキシ当量:230~250g/eq,重量平均分子量(Mw):2,546)
E4:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製,製品名「jER-154」,エポキシ当量:176~180g/eq,重量平均分子量(Mw):1,524)
E5:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製,製品名「jER-828」,エポキシ当量:184~194g/eq,重量平均分子量(Mw):409)
E6:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製,製品名「jER-807」,エポキシ当量:160~175g/eq,重量平均分子量(Mw):336)
E7:多官能型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製,製品名「jER-604」,エポキシ当量:110~130g/eq,重量平均分子量(Mw):413)
E8:多官能型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製,製品名「jER-630」,エポキシ当量:90~105g/eq,重量平均分子量(Mw):345)
【0072】
〔試験例1〕(剥離フィルム-グリーンシート間の剥離力の評価)
チタン酸バリウム(BaTiO;堺化学工業社製,製品名「BT-03」)100質量部、ブチラール系バインダー樹脂(積水化学工社製,製品名「BM-2」)10質量部、およびジオクチルフタレート(関東化学社製,製品名「フタル酸ジオクチル 鹿1級」)5質量部に、トルエンとエタノールとの混合液(質量比5:5)120質量部を加え、ボールミルにて混合分散させて、セラミックスラリーを調製した。
【0073】
実施例および比較例にて製造してから常温で48時間保管した剥離フィルムにおいて、剥離剤層の剥離面に上記セラミックスラリーを均一に塗工し、その後、乾燥機にて乾燥させた。これにより、剥離フィルム上に厚さ3μmのセラミックグリーンシートを形成した。このようにして得られたセラミックグリーンシート付剥離フィルムを、40mm幅に裁断し、これを測定サンプルとした。
【0074】
上記測定サンプルの基材側を剛板に固定し、引張試験機(島津製作所社製,製品名「AG-IS500N」)を用いて90°の剥離角度、0.3m/分の剥離速度でセラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離し、剥離するのに必要な力(剥離力;mN/40mm)を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
〔試験例2〕(グリーンシート間の接着力の評価)
試験例1と同様にして、剥離フィルム上に厚さ3μmのセラミックグリーンシートを形成した。このようにして得られたセラミックグリーンシート付剥離フィルムを、縦100mm×横100mmに裁断した。
【0076】
次に、上記セラミックグリーンシート付剥離フィルムのセラミックグリーンシート側の面に基材がポリエチレンテレフタレートフィルムである粘着テープを貼付し、剥離試験に耐えられるようセラミックグリーンシートをサポートした。当該セラミックグリーンシート付剥離フィルムから剥離フィルムを剥がした後、剥離フィルムの剥離面に接触していたセラミックグリーンシート側の面を、別のセラミックグリーンシート付剥離フィルムのセラミックグリーンシート側の面に載置し、2枚のセラミックグリーンシートを熱圧着(60℃,10MPa)した。その後、上記別のセラミックグリーンシート付剥離フィルムの剥離フィルムを剥がして10mm角に裁断し、これを測定サンプルとした。
【0077】
上記測定サンプルを剛板に固定し、引張試験機(島津製作所社製,製品名「AG-IS500N」)を用いて、200mm/分の剥離速度でセラミックグリーンシート同士を垂直方向に面剥離し、剥離するのに必要な力(接着力;N/cm)の最大値を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
〔試験例3〕(剥離フィルムの表面自由エネルギーの測定)
実施例および比較例で製造した剥離フィルムの剥離剤面に対する各種液滴の接触角を測定した。その測定値をもとに、北崎・畑理論により、表面自由エネルギー(mJ/m)を求めた。接触角は、接触角計(協和界面科学社製,製品名「DM-701」)を使用し、静滴法によってJIS R3257:1999に準じて測定した。液滴については、「分散成分」としてジヨードメタン、「双極子成分」として1-ブロモナフタレン、「水素結合成分」として蒸留水を使用した。結果を表1に示す。
【0079】
〔試験例4〕(グリーンシート面へのシリコーン移行量)
試験例1と同様にして、剥離フィルム上に厚さ3μmのセラミックグリーンシートを形成した。このようにして得られたセラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離し、剥離フィルムに接していた当該セラミックグリーンシートの面について、X線光電子分光分析法(XPS)によって測定されるケイ素原子比率(原子%)を求め、これをシリコーン移行量の指標とした。なお、ケイ素原子比率の算出については、Si、C、O、TiおよびBaの各元素のカウント数を求め、この合計量を100%として、Si元素のカウント数の百分率をケイ素原子比率(原子%)とした。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
上記の結果から理解できるように、汎用のシリコーン系剥離剤を用いた比較例2の剥離フィルムでは、セラミックグリーンシート間の接着力が全く得られなかった。また、エポキシ樹脂を含まずメラミン樹脂のみを剥離剤組成物の主剤とした比較例1の剥離フィルムでも、セラミックグリーンシート間の接着力が十分ではなかった。これに対し、メラミン樹脂とともにエポキシ樹脂を含有する剥離剤組成物を使用した実施例の剥離フィルムによれば、セラミックグリーンシート間の接着力が十分に高いものとなった。
【0082】
なお、一般的に、セラミックグリーンシート同士の接着力が不足する理由としては、剥離フィルムの剥離剤層に使用されるシリコーン系成分がセラミックグリーンシートに移行することが考えられる。しかしながら、剥離フィルムに接していた側のグリーンシート表面へのシリコーン移行量を検討したところ、実施例と同程度の値を示す比較例1が、グリーンシート間接着力に劣るという結果が得られている。このため、セラミックグリーンシート同士の接着力不足は、ポリオルガノシロキサンの移行だけでは説明がつかない。したがって、セラミックグリーンシート同士の接着力の向上は、セラミックグリーンシートを製膜する剥離フィルムの剥離剤層が、メラミン樹脂と、エポキシ樹脂と、ポリオルガノシロキサンとを含有する剥離剤組成物から形成されていることで達成できたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムは、積層セラミック製品を製造するセラミックグリーンシートを成形するのに好適である。