(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】撥性表面を生成するための配合物および方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20250109BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20250109BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20250109BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20250109BHJP
A61F 5/445 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C09K3/18 104
B32B27/18 Z
B05D5/00 Z
B05D7/24 303A
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302Z
B05D7/24 303E
A61F5/445
(21)【出願番号】P 2022516397
(86)(22)【出願日】2020-09-14
(86)【国際出願番号】 US2020050618
(87)【国際公開番号】W WO2021051036
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-09-13
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522099009
【氏名又は名称】スポットレス マテリアルズ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】サン,ナン
(72)【発明者】
【氏名】ボスチッヒ,バーギット
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0016903(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0148599(US,A1)
【文献】特表2007-515498(JP,A)
【文献】特開平11-349929(JP,A)
【文献】WOOH, S. et al.,Silicone Brushes:Omniphobic Surfaces with Low Sliding Angles,Angewandte Chemie,(2016), vol.55, Issue24,pp.6823
【文献】KASAPGIL, E. et al.,Transparent, fluorine-free, heat-resistant, water repellent coating by infusing slippery silicone oil on polysiloxane nanofilament layers prepared by gas phase reaction of n-propyltrichlorosilane and methyltrichlorosilane,Colloids and Surfaces A,(2018), vol.560,pp.223-232
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
C09D 1/00-201/10
B32B 1/00- 43/00
B05D 1/00- 7/26
A61F 5/00- 6/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)表面に結合層を形成することができる1種または複数種の反応性成分であって、前記結合層は、表面に結合した一端および前記表面から離れて伸長する他端を有する化合物のアレイを含む、反応性成分と、(ii)
酸触媒と、(iii)溶媒と、(iv)潤滑剤とを含む配合物であって、
前記1種または複数種の反応性成分が、アルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランまたはこれらの組合せからなる群より選択され、
前記潤滑剤が、25℃で測定した場合に少なくと
も2cStの粘度を有する、
配合物。
【請求項2】
前記配合物中の潤滑剤に対する前記1種または複数種の反応性成分の重量での相対量が、潤滑
剤0.0
05~10部に対して反応性成分1部を含む、請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
前記配合物が前記触媒を含み、前記触媒が酸触媒であり、前記触媒が遷移金属を含まない、請求項1に記載の配合物。
【請求項4】
前記1種または複数種の反応性成分が、1種または複数種のジアルキルジアルコキシシランである、請求項1、2または3のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項5】
前記潤滑剤が、シリコーン油もしくは鉱物油もしくは植物油またはこれらの任意の組合せである、請求項1、2または3のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項6】
前記酸触媒は、硫酸、塩酸、酢酸、リン酸、硝酸、またはこれらの組合せを含む、請求項1、2または3のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項7】
請求項1、2または3のいずれか一項に記載の配合物から基材の表面に撥性コーティングを形成する方法であって、
基材の表面上で前記配合物を乾燥させて、前記溶媒を実質的に除去し、前記潤滑剤が結合層に安定に付着した状態で表面に前記結合層を形成することを含み、
前記結合層は、表面に結合した一端および前記表面から離れて伸長する他端を有する化合物のアレイを含む、
方法。
【請求項8】
前記結合層に潤滑剤を塗布することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記配合物を空気中および大気圧で乾燥させる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記基材上にカップリング層を形成することと、前記カップリング層の表面上で配合物を乾燥させることとをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
空気中および大気圧で、前記配合物を前記基材の前記表面に塗布することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記基材の前記表面が、ガラス、セラミックまたはポリマーで構成される、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
請求項1、2または3のいずれか一項に記載の配合物からストーマ装具に撥性コーティングを形成する方法であって、
ストーマ装具の表面上で前記配合物を乾燥させて、前記溶媒を実質的に除去し、前記潤滑剤が結合層に安定に付着した状態で表面に前記結合層を形成することを含む、
方法。
【請求項14】
前記ストーマ装具がカップリング層を含み、前記方法が、前記カップリング層の表面上で配合物を乾燥させることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
表面に前記結合層を形成する前に、前記表面を、酸素プラズマで処理することをさらに含む、請求項13または14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、それぞれの全開示が参照により本明細書にこれによって組み込まれる、2019年9月13日出願の米国仮特許出願第62/900,207号明細書、2019年11月15日出願の米国仮特許出願第62/935,887号明細書および2020年3月20日出願の米国仮特許出願第62/992,589号明細書の利益を主張している。
【0002】
本発明は、医療機器の表面を含む基材の表面に、撥性コーティングを形成するための配合物およびその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
例えば国際公開第2019/222007号パンフレット、米国特許出願公開第2019/0016903号明細書およびWongらの国際公開第2018094161号パンフレット、Ingberらの国際公開第2013106588号パンフレット、Aizenbergらの米国特許出願公開第2018/0187022号明細書を含むいくつかの特許出願が、撥性および抗生物付着表面を開示している。Wangらの論文はまた、流体および固体の撥性のための改質された表面で創り上げた撥性表面を開示している。Wang et al.Covalently Attached Liquids:Instant Omniphobic Surfaces with Unprecedented Repellency.Angewandte Chemie International Edition 55, 244-248 (2016)を参照されたい。
【発明の概要】
【0004】
しかし、多種多様な基材材料上に易滑性表面を形成するための単純でスケーラブルな方法を開発することは、依然として課題である。
【0005】
本開示の利点は、1種または複数種のポリマー、セラミック、ガラス、金属、合金、複合材料またはこれらの組合せで構成されるものを含む、広範囲の固体表面のための撥性コーティングを調製するための配合物および方法を含む。本開示の配合物は、反応性成分および潤滑剤を単一の配合物(オールインワン配合物)中に共に含むことができ、有利には、単純なワンステップ方法によって撥性コーティングされた表面を作製するために使用することができる。撥性コーティングは、セラミックまたは金属衛生器具などの多種多様な器具および装置、鏡、フロントガラス、窓を含むガラス基材、ストーマ装具などの医療機器などの表面に形成することができる。形成された撥性コーティングは易滑性であり、液体、細菌、鉱物堆積物、氷、霜、および粘弾性材料(例えば粘弾性半固体および固体)に対する付着をはじき、減少させることができる。
【0006】
これらおよび他の利点は、少なくとも部分的には、(i)表面に結合層を形成することができる1種または複数種の反応性成分であって、前記結合層は、表面に結合した一端および前記表面から離れて伸長する他端を有する化合物のアレイを含む、反応性成分と、(ii)任意選択の触媒と、(iii)溶媒と、(iv)潤滑剤とを含む配合物によって満たされる。
【0007】
いくつかの実施形態では、本開示の配合物は、例えば1つまたは複数の加水分解性基を有する低分子量シランまたはシロキサンを含むことができる。このようなシランまたはシロキサンは、約1,500g/mol未満、例えば約1,000g/mol未満の分子量を有することができ、例えばアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランまたはこれらの組合せを含むことができる。特定の実施形態では、反応性化合物から形成される化合物および/またはポリマーのアレイは、その鎖に沿って架橋されない。なおさらなる実施形態では、配合物中の潤滑剤に対する1種または複数種の反応性成分の重量での相対量は、潤滑剤約0.01~約1部に対して反応性成分1部を含む。触媒は、酸触媒、例えば硫酸、塩酸、酢酸、リン酸、硝酸、またはこれらの組合せを含むことができる。溶媒は、低級ケトン、低級アルコール、低級エーテル、低級エステル、低級ハロゲン化溶媒およびこれらの組合せを含むことができる。潤滑剤は、シリコーン油もしくは鉱物油もしくは植物油またはこれらの任意の組合せを含むことができる。香料などの他の成分は、本開示の配合物に含めることができる。
【0008】
本開示のさらなる利点は、本明細書に開示される配合物から、表面に撥性コーティングを形成する方法を含む。この方法は、基材の表面上で本明細書に開示される配合物を乾燥させて、溶媒を実質的に除去し、潤滑剤が結合層に安定に付着した状態で表面に結合層を形成することを含む。有利には、形成された結合層は、表面に結合した一端および前記表面から離れて伸長する他端を有する化合物のアレイを含む。この方法はまた、表面上で配合物を乾燥させる前に、配合物を基材表面に塗布するステップを含むことができる。このような方法により、撥性コーティングを形成する複数のステップ、例えば最初に結合層を形成するステップ、続いて予め形成された結合層に潤滑剤層を塗布するステップの複数のステップを回避できる。
【0009】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される配合物から基材上に撥性コーティングを形成する方法は、基材のガラス、セラミックまたはポリマーで構成される表面上で配合物を乾燥させて、溶媒を実質的に除去し、潤滑剤が結合層に安定に付着した状態で表面に結合層を形成することを含む。1種または複数種の反応性成分は、表面に共有結合して、表面に結合した一端および前記表面から離れて伸長する他端を有する化合物のアレイを形成することによって、結合層を形成することができる。撥性コーティングは、セラミックまたは金属衛生器具などの多種多様な器具および装置、鏡、フロントガラス、窓を含むガラス基材、ストーマ装具などの医療機器などの表面に形成することができる。
【0010】
本開示の方法は、基材表面、例えば1種または複数種のポリマーで構成される基材表面にカップリング層を形成して、基材表面に撥性コーティングをカップリングさせることをさらに含むことができる。このようなカップリング層は、官能基、例えばヒドロキシル、エステル、または酸性側基を含み、これらは本開示の配合物の反応性成分と反応することができる。
【0011】
本開示の方法は、基材の表面に配合物を塗布することをさらに含むことができる。有利には、配合物の塗布および/または乾燥は、空気中および/または大気圧で実行することができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、基材の表面に塗布されてその上に撥性コーティングを形成する配合物は、(i)1種または複数種の反応性成分と、(ii)酸触媒と、(ii)溶媒と、(iv)25℃で測定して2cSt~1000cStの粘度を有する潤滑剤とを含むことができる。
【0013】
本開示の別の利点は、その上に撥性コーティングを有する基材を含む。このような基材は、1種または複数種のポリマー、セラミックス、ガラス、金属、合金、複合材料またはこれらの組合せで構成されるものを含むことができる。本開示の撥性コーティングは、ストーマ装具の1つまたは複数の表面上など、1種または複数種のポリマー成分で構成される表面を有する医療機器を含む医療機器上に形成され得る。有利には、撥性コーティングは、表面に結合した一端および前記表面から離れて伸長する他端を有する化合物のアレイを含む、基材の表面の結合層を含む。
【0014】
本発明のさらなる利点は、本発明の好ましい実施形態のみが、単に本発明を実行することが企図される最良の形態の例示によって示され、記載される、以下の詳細な説明から当業者には容易に明らかとなるであろう。理解されるように、本発明は、他の異なる実施形態が可能であり、そのいくつかの詳細は、すべて本発明から逸脱することなく様々な明白な点で変更が可能である。したがって、図面および説明は、本質的に例示的なものであり、限定的でないものとみなされるべきである。
【0015】
同一の参照番号指定を有する要素が、全体を通して類似の要素を表す、添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示による撥性コーティングの調製の概略図である。
【
図2】反応性カップリング層を有する基材上の撥性表面の調製の概略図である。
【
図3】本開示に従って撥性コーティングを形成するように用いられた濃度の潤滑剤を含む配合物の、水滑落角対潤滑剤濃度を示すグラフである。使用した水滴の容量は、20μLであった。
【
図4】撥性コーティングを調製するために使用された配合物中の反応性成分に対する潤滑剤の比率に対する水滑落角を示すグラフである。使用した水滴の容量は、20μLであった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、撥性コーティング系の形成に関連する製造時間、ステップの数、および費用を大幅に簡素化および低減することができる配合物に関する。本開示の配合物により形成することができる撥性コーティング系は、結合層に注入させた潤滑剤層の系を含む。典型的には、このような撥性コーティング系を調製するには、表面に結合する1つまたは複数の層を調製するステップ、続いて形成された結合層を洗浄するステップ、および次いで洗浄された結合層に潤滑剤層を塗布するステップからなる別個のステップが必要であった。結合層を形成する反応性成分と潤滑剤が干渉し得るか、または潤滑剤が結合層と共に注入させた層を適切に形成しないと仮定して、注入させた潤滑剤層を有する結合層を含む撥性コーティング系を調製するために、オールインワン配合物を使用できることは予想されていなかった。形成された結合層を、潤滑剤を塗布する前に洗浄する従来の慣行が回避され得ることは、さらに予想されていなかった。しかしながら、本開示の配合物は、有利には、別個のステップを必要とせずに、撥性コーティング系を完全に形成するための成分を含む単一の配合物の使用により、結合層中に安定に付着した潤滑剤層の撥性コーティング系を形成することができる。
【0018】
このような配合物は、(i)基材の表面に結合層を形成するための反応性成分と、(ii)任意選択の触媒と、(iii)溶媒と、(iv)潤滑剤とを含む。配合物の反応性成分は、表面と反応して表面に共有結合した一端および前記表面から離れて伸長する他端を有する化合物のアレイを表面に形成することを可能にすることによって、基材の表面に結合層を形成するために使用される。したがって結合層は、直鎖が表面に結合した状態で、ブラシに類似している。配合物の潤滑剤は、主にファンデルワールス相互作用を介して結合層に安定に付着し、表面に撥性コーティング系(本明細書では以後、撥性コーティングと称する)を形成する。触媒は、より短縮された時間および低下した温度でボンディング層の形成を容易にし、かつ促進することができ、溶媒はまた、ボンディング層の形成およびボンディング層内の潤滑剤の固定化を容易にすることができる。
【0019】
結合層は、基材の表面で配合物の反応性成分を官能基、例えばヒドロキシル基、酸性基、エステル基などと反応させることによって、基材の表面に直接的または間接的に形成することができる。このような官能基は、自然に存在することができるか、あるいは表面を酸素プラズマで処理することによって、または空気もしくは酸素の存在下で加熱することなどによって、基材上に誘導することができる。カップリング層を、基材表面、例えば1種または複数種のポリマーで構成される基材表面に形成して、撥性コーティングを基材表面にカップリングさせることができる。このようなカップリング層は、官能基、例えばヒドロキシル、エステルまたは酸性側基を含み、これらは、本開示の配合物の反応性成分と反応することができ、例えばシリカまたは二酸化ケイ素層、金属酸化物層、例えば二酸化チタン、酸化アルミニウム、ヒドロキシル、エステルまたは酸性側基を有するポリマー層、例えばポリ(ビニルアルコール)(PVA)またはそのコポリマー、ポリ(酢酸ビニル)(PVAc)またはそのコポリマー、例えばポリ(エチレン酢酸ビニル)(PEVA)、ポリアクリルまたはそのコポリマー、タンニン酸などのポリフェノール、エピガロカテキンガレート(epigallocatechin gallate)、エピカテキンガレート(epicatechin gallate)、エピガロカテキン、ラズベリーエラジタンニン、テアフラビン-3-ガレート(theaflavin-3-gallate)、テリマグランジンIIなどを含む。有利なカップリング層は、溶液コーティングによって、溶融物としてカップリング層を塗布することによって、または超音波溶接、熱板溶接、振動溶接、溶媒接合、UV接合、ロール圧接、および接着接合などの方法を介して、基材上にフィルムの形態のカップリング層を接合することによって、基材の表面に形成することができる。カップリング層は、約1mm未満、例えば100pm未満もしくは約50pm未満もしくは10pmおよびさらには1pm未満、例えば500nm未満などまたはそのような値の間およびそのような値を含む厚さを有することができる。
【0020】
本開示の配合物として有用な反応性成分には、例えば基材表面に結合して、例えば表面の反応性基に共有結合して、化合物の集合体を形成する一端を有する反応性成分が含まれる。このような反応性成分は、好ましくは少なくとも3個の炭素の鎖長を有する。他の有用な反応性成分には、反応して表面に固定された末端および表面から離れて伸長する他端を有する直鎖ポリマーのアレイを形成することができる、重合性モノマーが含まれる。コーティングを形成する速度を増加させるために、配合物の反応性成分は、水、アルコールなどの小分子の損失を伴う縮合反応を受けるように選択されるが、この小分子は、容易に除去して周囲温度および圧力下で反応をおよそ完了させることができる。好ましくは表面に結合した一端および表面から離れて伸長する他端を有する直鎖ポリマーは、隣接する直鎖ポリマーと共有結合または架橋を形成しない(例えばブラシ状構造を形成する)。架橋の欠如により、鎖および表面から離れて伸長する末端の、撥性コーティング系の付着した潤滑剤におけるより高い移動性を可能にする。
【0021】
本開示の配合物として有用な反応性成分には、例えば1つまたは複数の加水分解性基を有する低分子量シランまたはシロキサンが含まれる。このようなシランまたはシロキサンは、約1,000g/mol未満などの約1,500g/mol未満の分子量を有し、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクタンホスホン酸などのモノアルキルまたはモノ-フルオロアルキルホスホン酸、モノ-アルコキシシランなどのアルコキシシラン、例えばアルキル、フルオロアルキルおよびペルフルオロアルキルモノ-アルコキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ジアルコキシシラン、例えばジアルキルジアルコキシシラン、例えばC1~8ジアルキルジアルコキシシラン、例えばジメチルジメトキシシラン、ジメトキシ(メチル)オクチルシラン、ジアルコキシ、ジフェニルシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジ-n-ブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、イソブチルイソプロピルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジアルコキシ、フルオロアルキルまたはペルフルオロシラン、ジメトキシ-メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン、(3,3,3-トリフルオロプロピル)メチルジメトキシシラン、アルキルトリメトキシシラン、トリアルコキシシラン、例えばペルフルオロアルキル-トリアルコキシシラン、トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン、トリメトキシメチルシラン、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルトリエトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリエトキシシラン、(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリメトキシシラン、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル)トリメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、クロロシラン、例えばオクチルジメチルクロロシラン、ジクロロシラン、例えばジエチルジクロロシラン、ジ-n-ブチルジクロロシラン、ジイソプロピルジクロロシラン、ジシクロペンチルジクロロシラン、ジ-n-ヘキシルジクロロシラン、ジシクロヘキシルジクロロシラン、ジ-n-オクチルジクロロシラン、3,3,3-トリフルオロプロピル)メチルジクロロシラン、ノナフルオロヘキシルメチルジクロロシラン、(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)メチルジクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル)メチルジクロロシラン、(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジメチルクロロシラン、ノナフルオロヘキシルジメチルクロロシラン、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)ジメチルクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル)ジメチルクロロシラン、トリクロロシラン、例えば(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン、(3,3,3-トリフルオロプロピル)トリクロロシラン、ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル)トリクロロシラン、アミノシラン、例えばノナフルオロヘキシルトリス(ジメチアミノ)シランなどを含む。
【0022】
このような反応性成分のアルコキシ基は、C1~4アルコキシ基、例えばメトキシ(-OCH3)、エトキシ(-OCH2CH3)基であり得、このような反応性成分のアルキル基は、例えばC3~30などのC1~30の様々な鎖長を有することができる。直鎖ポリマーを形成するこのような反応性成分のアルキル基は、例えばC1~8などのC1~16の低級アルキル基を概して有する。それぞれの場合におけるアルキル基は、C1~30、C3~30、C1~16、C1~8などの鎖のフルオロアルキルおよびペルフルオロアルキル基、例えばこのような鎖長を有するフルオロアルキルまたはペルフルオロアルキルアルコキシシラン、ジフルオロアルキルまたはジペルフルオロアルキルジアルコキシシラン、フルオロアルキルまたはペルフルオロアルキルトリアルコキシシランを形成する1つまたは複数のフルオロ基で置換することができる。
【0023】
結合層は、配合物の反応性成分を基材の表面の露出したヒドロキシル基または他の反応性基と直接反応させて、基材の表面のヒドロキシル基または他の反応性基を介して一端が表面に直接共有結合した直鎖状化合物のアレイを形成することによって、配合物から形成することができる。代替として、結合層は、基材の表面の露出したヒドロキシル基または他の反応性基から直接1種または複数種のシランモノマーを重合して、基材の表面のヒドロキシル基または他の反応性基を介して表面に直接共有結合した直鎖ポリシランもしくはポリシロキサンまたはこれらの組合せのアレイを形成することによって形成することができる。好ましくは表面に結合した一端および表面から離れて伸長する他端を有する直鎖ポリマーは、隣接する直鎖ポリマーと共有結合または架橋を形成しない(例えばブラシ状構造を形成する)。
【0024】
結合層は、約1000nm未満の厚さを有することができる。いくつかの場合において、結合層の厚さは、約500nm未満、約100nm未満、またはさらに約10nm未満、例えば約1または5nm~約500nmであってもよい。
【0025】
1種または複数種の触媒を、本開示の配合物に含めることができる。本明細書では、触媒は1種または複数種の触媒を指す。触媒は、ボンディング層の形成を容易にしかつ促進することができる。配合物に含めることができる有用な触媒には、酸触媒、例えば硫酸、塩酸、酢酸、リン酸、硝酸、またはこれらの組合せが含まれる。いくつかの実施形態では、触媒は白金などの遷移金属を含む触媒を含まないが、このような触媒は費用を増加させ、そのような触媒を含む形成されたコーティング中に留まる傾向があるからである。
【0026】
本開示の配合物はまた、単一の溶媒でも溶媒系などの複数の溶媒でもよい溶媒または媒体を含み、これらを本明細書では溶媒と総称する。溶媒は、表面に撥性コーティングが形成される間に、ボンディング層の形成およびボンディング層内への潤滑剤の注入を容易にすることができる。好ましくは、溶媒は、配合物から撥性コーティングを形成する際に配合物から溶媒を蒸発させることを容易にするために、比較的低い沸点および比較的高い蒸気圧を有するべきである。一実施形態では、本開示の配合物の溶媒は、大気圧で約140℃以下、例えば約82.5℃以下およびさらに約60℃以下の沸点を有することができる。他の実施形態では、本開示の配合物の溶媒は、20℃で4.3kPaの蒸気圧を有することができ、例えばイソプロピルアルコールである。より高い沸点およびより低い蒸気圧を有する溶媒を使用することができるが、乾燥速度を阻害する傾向があり、かつ/または溶媒を除去するために減圧雰囲気の適用によって除去される必要があり得る。
【0027】
本開示の配合物に含めることができる有用な溶媒は、1種または複数種の低級ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのC1~8ケトン、低級アルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのC1~8アルコール、低級エーテル、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのC1~8エーテル、低級エステル、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、グリコールエーテルエステルなどのC1~8エステル、低級ハロゲン化溶媒、例えば塩化メチレン、クロロホルムなどの塩素化C1~8、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの脂肪族または芳香族炭化水素溶媒およびこれらの任意の組合せを含むことができる。溶媒はまた、一定量の水、例えば約5重量%未満の水を含むことができる。
【0028】
本開示の配合物はまた、潤滑剤または潤滑剤の組合せを含み、これらを本明細書では潤滑剤と総称する。配合物の反応性成分から形成される結合層に安定に付着した潤滑剤を形成するには、潤滑剤が表面を完全に濡らすことができ(例えば平衡接触角が約5°未満、例えば約3°未満、2°未満、1°未満になり)、表面に安定に付着するように、潤滑剤が結合層および/または基材に強い親和性を有するべきである。さらに撥性コーティングを形成する際に、溶媒が配合物から除去され、潤滑剤がボンディング層に付着することが意図されるので、潤滑剤は溶媒の沸点よりも著しく高い沸点を有するべきであり、例えば潤滑剤の沸点は、同じ大気圧で溶媒よりも少なくとも10℃高くあるべきであり、例えば同じ大気圧で溶媒よりも少なくとも20℃、40℃、60℃、80℃、100℃、120℃、150℃、200℃、250℃など高い。その上、潤滑剤は、形成された撥性コーティング中で移動性であるべきであり、したがって、潤滑剤が配合物中の反応性成分と、仮にあったとしても実質的に反応しないことが好ましい。結合層に安定に付着した潤滑剤は、ボンディング層に共有結合することによるものではなく、主にファンデルワールス力によるものと考えられる。特定の実施形態では、本開示の潤滑剤は、配合物の反応性成分と反応するであろう基を有しない。
【0029】
さらに、安定に付着する潤滑剤は、表面を濡らさず(例えば10°超の平衡接触角を形成する)かつ/または表面が滑落角90°まで上昇すると、数分以内またはより短時間で表面から簡単に滑り落ちる、表面または改質された表面に配置された潤滑剤とは区別される。結合層に安定に付着した潤滑剤は、表面基材が水平から90°にある場合でも、少なくとも1時間、または数時間、数日、および数カ月などのより長い期間、結合層上に実質的に(約80%超)留まる潤滑剤である。
【0030】
本開示の配合物に有用な潤滑剤は、撥性コーティングを有する基材と共に使用することを意図した温度でのコーティング系の撥性を容易にするために、十分な粘度を有しながらも比較的移動性であるべきである。このような温度は、約-30℃~約300℃の範囲であり得る。したがって、潤滑剤は、好ましくは、少なくとも約1cSt(25℃で測定して)、例えば少なくとも約2cSt、3cSt、4cSt、5cSt、6cSt、7cSt、8cSt、9cSt、10cSt、15cSt、20cSt、30cStなど(25℃で測定して)およびそれらの間の任意の値の粘度を有するべきである。さらに、撥性コーティングが使用され得る特定の温度で潤滑剤が移動性であり得るように、潤滑剤は、好ましくは25℃で測定して約1500cSt以下、例えば25℃で測定して約950cSt以下、約900cSt以下、約850cSt以下などおよびそれらの間の任意の値の粘度を有するべきである。一実施形態では、本開示の配合物のための潤滑剤は、約1cSt~約1500cStの範囲、例えば25℃で測定して約2cSt、3cSt、4cSt、5cSt、6cSt、7cSt、8cSt、9cSt、10cSt、15cSt、20cSt、30cStなど~約1500cSt、1200cSt、1000cSt、800cSt、350cSt、200cSt、150cStなどおよびそれらの間の任意の値の粘度を有することができる。高温用途の場合、撥性コーティングは、室温でさらに高い粘度を有する潤滑剤を有し得るが、このような潤滑剤の粘度は、高い使用温度でより低くなるためである。さらに、約2g/cm3未満の潤滑剤密度は、15℃~25℃の温度範囲で好ましいであろう。
【0031】
本開示の配合物に含まれる潤滑剤は、オムニフォビック(omniphobic)潤滑剤、疎水性潤滑剤および/または親水性潤滑剤のうちの1種または複数種であり得る。潤滑剤は、過フッ素化油またはシリコーン油またはヒドロキシポリジメチルシロキサン(PDMS)または植物油を含むことができる。使用できる他の潤滑剤には、ペルフルオロポリエーテル、ペルフルオロアルキルアミン、ペルフルオロアルキルスルフィド、ペルフルオロアルキルスルホキシド、ペルフルオロアルキルエーテル、ペルフルオロシクロエーテル油およびペルフルオロアルキルホスフィンおよびペルフルオロアルキルホスフィンオキシド油ならびにこれらの混合物が含まれる。好ましくは、潤滑剤が、完全に濡れてボンディング層を介して表面に安定に付着することができるように、潤滑剤は、特定のボンディング層および/または基材に対して強い化学的親和性を有するように選択される。例えばペルフルオロポリエーテルなどの過フッ素化油(例えばKrytox油)は、完全に濡れて、過フッ素化アルキルシランなどのフッ素化アルキルシランを含むポリマーシロキサンおよび/またはシランボンディング層に安定に付着することができる。このようなボンディング層は、基材の表面の官能基と反応する配合物中の反応性フルオロアルキルシランから形成することができる。シリコーン油または植物油は、完全に濡れて、例えば直鎖ポリジメチルシロキサン(PDMS)のアレイから構成される結合層に安定に付着することができる。ヒドロキシPDMSはまた、完全に濡れて、例えば直鎖ポリジメチルシロキサン(PDMS)のアレイから構成される結合層に安定に付着することができる。このようなPDMSボンディング層は、基材の表面からジメチルジメトキシシランを重合させることから形成することができる。鉱物油または植物油は、完全に濡れて、アルキルトリクロロシランまたはアルキルトリメトキシシランから形成され得るアルキルシランのアレイを含むボンディング層に安定に付着することができる。このようなアルキルシラン上のアルキル基は、様々な鎖長、例えばC1~30のアルキル鎖を有することができる。様々な鎖長のアルキルシランおよびジメチルジメトキシシランなどの1種または複数種のジアルキルジアルコキシシランから重合されたポリシロキサンと相溶性であろう他の潤滑剤には、アルカン油、ならびに植物油、例えばベジタブル油、アボカド油、藻類抽出油、オリーブ油、パーム油、大豆油、キャノーラ油、ヒマシ油、ナタネ油、トウモロコシ油、落花生油、ヤシ油、綿実油、パーム油、サフラワー油、ゴマ油、ヒマワリ種子油、アーモンド油、カシュー油、ヘーゼルナッツ油、マカデミア油、モンゴンゴナッツ油、ピーカン油、松の実油、落花生油、クルミ油、グレープフルーツ種子油、レモン油、オレンジ油、アマランス油、リンゴ種子油、アルガン油、アボカド油、ババス油、ベン油、ボルネオタロウナッツ油(borneo tallow nut oil)、ケープチェスナッツ油(cape chestnut oil)、キャロブポッド油(carob pod oil)、ツバキ種子油、ココアバター、オナモミ油、コフネヤシ油、ブドウ種子油、カポック種子油、ケナフ種子油、ラレマンティア油(Lallemantia oil)、マニラ油(Manila oil)、メドウフォーム種子油(Meadowfoam seed oil)、マカデミアナッツ油、カラシ油、オクラ種子油、パパイヤ種子油、ペキ油(Pequi oil)、ケシ油、プラカシー油(pracaxi oil)、プルーン核油、キノア油、ラムティル油(ramtil oil)、米糠油、ナタネ油、ゴマ油、サフラワー油、サポテ油(Sapote oil)、シアバター、スクワレン、大豆油、チャ種子油、タイガーナッツ油(tigernut oil)、トマト種子油、液体テルペン類(例えばCitropol(登録商標))および他の類似の植物ベースの油などが含まれる。植物ベースの油は、単独でまたは他の潤滑剤と共に、または植物ベースの油単独の混合物もしくは他の潤滑剤との混合物として使用することができる。
【0032】
他の成分を本開示の配合物に含めることができ、例えば香料、すなわち、心地よい匂いを発する物質である。このような香料には、例えば天然もしくは合成の芳香化合物または精油、例えばレモン油、ベルガモット油、レモングラス油、オレンジ油、ヤシ油、ペパーミント油、パイン油、バラ油、ラベンダー油もしくは前述の任意の組合せが含まれる。一例として、本開示の配合物に添加される香料は、レモンまたはバラまたはラベンダーまたはヤシまたはオレンジまたはリンゴまたは木またはペパーミントなどの匂いを有することができる。1種または複数種の香料を、そのまま、例えば希釈することなく、かつ溶媒の代わりに、約0.0005重量部~約10重量部、例えば約0.01~約5重量部の範囲で本開示の配合物に添加することができる。特定の態様では、香料は、アルコールおよびシロキサンに可溶性である。
【0033】
特定の実施形態では、本開示の配合物中の重量ベースの様々な成分の濃度は、以下の表に提示される範囲を含み得る。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
本開示の配合物のいくつかの実施形態について、潤滑剤濃度は、約50重量%以下、例えば約0.05重量%~約50重量%である。潤滑剤濃度が99重量%より大きいと、表面の撥性コーティング系の形成を阻害する傾向がある。
【0038】
本開示の態様では、撥性コーティング系は、フッ素化アルキルシランおよび/またはフッ素化潤滑剤から基材上に形成することができる。例えば1種または複数種のC2~C8フッ素化アルキルシラン反応性成分(例えば約2重量%~約10重量%)を、1種または複数種のペルフルオロポリエーテル潤滑剤(例えば約0.02重量%~約10重量%)、触媒および溶媒を有するオールインワン配合物中で組み合わせることができる。このような配合物は、例えばガラス基材上に塗布することができる。
【0039】
有利には、本開示の配合物は、密閉容器中におよそ室内条件で貯蔵された場合に反応性成分の実質的な失活を伴わない、長い貯蔵寿命を有することができる。次いで、本開示の配合物は、撥性コーティングを調製するために容易に使用することができる。
【0040】
本開示の配合物から調製された撥性コーティングは、雨水、石鹸水、硬水、血液、細菌などを含むがこれらに限定されない広範囲の液体および固体を、約10°未満の典型的な接触角ヒステリシスではじくことができる。撥性コーティングはまた、少なくとも1×10-3Pa・s、例えば少なくとも1Pa・s、100Pa・s、10,000Pa・s~100,000Pa・sの動的粘度を有する粘弾性固体をはじくこともできる。
【0041】
本開示の特定の態様を実施する際には、比較的平滑な表面を有する基材に撥性コーティングを形成することが好ましい。いくつかの実施形態では、基材表面は、マイクロスケールレベルでの平均粗さ(Ra)、例えば数ミクロン未満、および好ましくは数百ナノメートル未満、またはさらに数ナノメートル未満のRaを有する。有利には、撥性コーティングが形成される基材の表面は、比較的平滑であり、例えば表面は、約4pm未満の平均粗さRa、例えば約2pm未満および約1pm未満の平均表面粗さならびにさらに約500nm未満、例えば約100nm未満、80nm未満、60nm未満、40nm未満、20nm未満、10nm未満などの平均表面粗さを有する。
【0042】
平均表面粗さは、走査面積2×2pm2のタッピングモードを用いて0.1ナノメートルスケールで平均表面粗さを測定する原子間力顕微鏡(AFM)により、または同等の技術により測定することができる。平均表面粗さは、1ナノメートルスケールで平均表面粗さを測定する面積475×475pm2のZygo光学プロフィロメーターにより、または同等の技術により測定することができる。
【0043】
本開示の特定の態様を実施する際には、本開示で使用され得る平滑な表面を有する基材には、1種または複数種のポリマー、例えばポリカーボネート、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ(メタクリル酸メチル)、シリコーン、ナイロン、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、建築/建設材料、例えば大理石、花崗岩、石、テラコッタ、レンガ、アスファルト、セメント、セラミック、陶磁器、磁器、ガラス、金属、例えばチタン、銅、アルミニウム、炭素鋼など、金属合金、セルロース、例えば木、紙、綿、固体状態で見られる他の材料およびこれらの組合せで構成されるものが含まれる。基材の表面を処理する、例えば酸素プラズマ処理することによって、または空気もしくは酸素の存在下で加熱することによって(金属の場合)、ヒドロキシル基などの反応性基を形成することができる。基材は、反応性カップリング層およびカップリング層の表面に形成された撥性コーティングを含むことができる。
【0044】
基材表面は、配合物を塗布する前に洗浄し、乾燥させることができる。基材表面を洗浄するための一例には、表面をすすぐための低級アルコール、例えばエタノールまたはイソプロパノールの使用が含まれる。次いで表面を乾燥させて配合物を塗布することができる。
【0045】
基材の表面に撥性コーティングを調製する方法は、基材の表面上で本開示の配合物を乾燥させて溶媒を実質的に除去することを含み、例えば約60重量%、65重量%、70重量%、80重量%、85重量%、90重量%、95重量%を超えるおよびそれ以上の溶媒を乾燥ステップにおいて除去することができる。配合物を乾燥させると、反応性成分が濃縮され、それらが反応して基材の表面に結合層を形成する。反応性成分は、表面と反応して、表面に結合した一端および表面から離れて伸長する他端を有する化合物のアレイを形成するように選択される。また、配合物を乾燥させると、潤滑剤が濃縮され、結合層内に保持される。したがって、潤滑剤は、結合層を介して表面に安定に付着できるように、結合層および/または表面に親和性を有するように選択される。
【0046】
基材の表面の撥性コーティングは、有利には、比較的低温、例えば約0℃~約80℃の範囲の温度で乾燥させることによって形成することができる。したがって、本開示の配合物からの撥性コーティングの形成は、約5℃~約室温、例えば20℃、および例えば約25℃、30℃、40℃、50℃、55℃、60℃、70℃、80℃などを超える、高温で実行することができる。撥性コーティングの形成は、有利には比較的短時間で、例えば60分などの約120分以下の時間、例えば約30分以下およびさらには約5分以下の短い時間で行うことができる。真空は配合物の乾燥を促進することができるが、本方法に必須ではなく、本開示の配合物の乾燥は大気圧、例えば約1atmで実行することができる。さらに、本開示の配合物の乾燥および/または塗布は、空気中または不活性雰囲気、例えば窒素雰囲気中で実行することができる。
【0047】
本開示の配合物を基材の表面に塗布することは、液相処理で実行することができ、それによって複雑な装置および処理条件を回避できる。このような液相処理は、例えば単に基材を浸漬(ディップコーティング)するか、または表面に配合物をワイピング、噴霧(エアロゾルスプレーを含む)する、カーテンコーティングするおよび/もしくはスピンコーティングすることによって、基材表面に配合物を塗布することを含む。基材の表面に本開示の配合物を塗布する他の方法は、配合物を注入させた布地、紙もしくは類似の材料からなるタオル、またはスポンジもしくはスクイージーを表面にワイピングし、タオル、スポンジ、スクイージーから基材の表面に配合物を移すことによって実行することができる。有利には、配合物は、周囲温度および/または大気圧下ならびに空気中で基材表面に塗布することができ、例えば本開示の配合物は、空気中および大気圧で基材の表面に塗布することができる。特定の実施形態では、結合層の形成は、触媒、例えば酸触媒、および水の存在下で促進される。水は、溶媒からもしくは大気からまたはその両方から入手可能であり得る。ある程度の水分を有する雰囲気中、例えば20℃および大気圧で少なくとも約10%の周囲湿度で配合物を乾燥させることは、一定の反応性成分から好ましい。したがっていくつかの実施形態では、本開示の配合物は、約10%~約80%以下の周囲湿度で乾燥される。
【0048】
本開示の配合物を塗布し、乾燥させることによって撥性コーティングを形成することは、有利には、比較的短時間で、例えば60分などの約120分以下の時間、例えば約30分以下およびさらには約5分以下の短い時間で実行することができる。さらに、本開示の配合物の乾燥および/または塗布は、空気中、または不活性雰囲気、例えば窒素雰囲気中、および大気圧で実行することができる。有利には、撥性コーティングは、周囲条件下(例えば約1気圧下の空気中、および約5℃~約35℃の温度)で基材表面に形成することができる。
【0049】
図1は、本開示の一態様に従って基材の表面に撥性コーティングを形成する方法を示す。この例では、本開示の配合物(10)を基材(12)に塗布して、表面に配合物コーティングを有する基材(14)を形成する。この例では、基材は平滑な基材(例えば1pm未満の平均粗さを有する表面を有する基材)である。基材の表面上で配合物を乾燥させて溶媒を実質的に除去すると、結合層(16a)が表面(12a)に共有結合し、潤滑剤層(16b)が結合層(16a)に注入された撥性コーティング(16)を形成する。結合層は、潤滑剤が結合層内に注入された状態で、基材の表面のブラシに類似している。
【0050】
図2は、本開示の一態様に従って基材の表面に撥性コーティングを形成する別の方法を示す。この例では、まず、基材(22)の表面(22a)にカップリング層(28)が塗布される。カップリング層は、ポリマー成分で構成される多くの表面などの、比較的不活性な表面を有する基材に有用である。本開示の配合物(20)をカップリング層(28)の表面(28a)に塗布し、表面に配合物コーティングを有する基材(24)を形成する。表面上で配合物を乾燥させて溶媒を実質的に除去すると、結合層(26a)が表面(28a)に共有結合し、潤滑剤層(26b)が結合層(26a)に注入された撥性コーティング(26)を形成する。結合層は、潤滑剤が結合層内に注入された状態で、基材の表面のブラシに類似している。
【0051】
いくつかの例および特定の条件下では、撥性コーティングの潤滑剤は、時間の経過と共に枯渇し得る。有利には、潤滑剤は、同一または撥性コーティングを調製するために使用されたのとは異なる潤滑剤のいずれかの潤滑剤を、基材の表面の撥性コーティング系を一新するために結合層に塗布することによって補充することができる。
【0052】
本開示の例示的な配合物は、反応性成分として1種または複数種の重合性シランモノマーおよび/またはシロキサンモノマーを含むことができる。このような配合物を乾燥させると、表面に露出したヒドロキシル基からモノマーが重合し、直鎖ポリシランもしくはポリシロキサンまたはこれらの組合せのアレイが形成される。この技術により、直鎖ポリマーのアレイは、表面に共有結合した末端および表面から離れて伸長した他端を有し、ブラシに類似する。重合性モノマー、潤滑剤、溶媒および酸触媒についての範囲を有する例示的な配合物は、以下の表1および2に提示され、以下の表3には香料と共に提示される。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
特定の例示的な配合物は、重合性シランモノマーとしてジメチルジメトキシシランを含み、配合物の約4重量%~約15重量%、例えば約4.5重量%~約9.0重量%を構成することができ、潤滑剤は、シリコーン油またはヒドロキシル末端ポリジメチルシロキサンまたは植物油(例えば大豆油)であり、配合物の約0.05~約50重量%を構成することができる。シリコーン油またはヒドロキシル末端ポリジメチルシロキサンまたは植物油の粘度は、25℃で約20cSt~約350cStの範囲であり得る。この特定の例では、溶媒は、低級ケトンまたはアルコール、例えばアセトン、エタノール、イソプロパノール(またはイソプロピルアルコール)、低級塩素化溶媒、例えばクロロホルムなどおよび前述の任意の組合せであり得、配合物の約45.0重量%~約95.0重量%を構成することができる。この特定の例では、硫酸および/または塩酸または酢酸またはリン酸を触媒として使用して、配合物の約0.5重量%~約1.0重量%を構成することができる。
【0057】
本開示の特定の配合物の有効性を実証するために、平滑なスライドガラスをイソプロパノールによって洗浄し、続いてスライド上にワイピングすることによって配合物を塗布した。次いでスライドガラスを23℃、相対湿度60%、大気圧の周囲条件下で、5分間放置した。乾燥後、撥性コーティングを、様々な濃度の成分を有する配合物を使用してスライドガラスの表面に形成した。試験したすべての撥性コーティングは、20μLの水滴に対して低い滑落角(10°未満)を示した。なお、滑落角が小さいほど、特定の液体に対するコーティングされた表面の撥液性がより良好であることを表す。さらに、潤滑剤は表面で安定であり、脱濡れしなかった。得られたコーティングは、雨水、石鹸水、硬水、血液を含むがこれらに限定されない広範囲の液体および固体を、典型的な接触角ヒステリシス10°未満ではじくことができる。撥性コーティングはまた、少なくとも1×10-3Pa・s、1Pa・s、100Pa・s、10,000Pa・s~100,000Pa・sの動的粘度を有する粘弾性固体をはじくことができる。
【0058】
有利には、本開示の配合物は、セラミックまたは金属製のトイレ、シンク、衛生器具の表面、鏡、フロントガラス、建物の窓、カメラ用のガラス光学レンズを含むガラス基材の表面、プラスチックシンク、トイレなどの1種または複数種のポリマーで構成される表面、ガウン、フェイスシールドゴーグル、靴カバーおよび靴などの個人用保護具、ならびにストーマ装具、カテーテル、シリンジ、メス、内視鏡レンズ、金属およびプラスチックインプラント(例えば整形外科用インプラント、歯科用インプラント、緑内障用インプラント)、人工器官などの医療機器などの表面、フロントガラス、カメラレンズ、ランプおよびセンシングケーシング(sensing casing)、泥よけ、車体などの自動車部品、フロントガラス、飛行機の翼およびボディなどの飛行機の部品、水中装置、ケーブル、船舶およびボートなどの航海部品、屋外および屋内の看板、バス停留所の囲い(enclosure)に塗布することができる。
【0059】
ポリマー表面で構成される医療機器を含む多くの医療機器が、本開示の配合物および撥性コーティングから利益を得ることができる。例えばストーマ装具(一般にバッグまたはパウチと称される)は、収集パウチおよび1つまたは複数の出口ポートを含む1つまたは複数のポートを含むことができる。このようなストーマ装具は、典型的には、本開示の配合物でコーティングされて、1つまたは複数の撥性表面を形成することができる1種または複数種のポリマーからなる表面を有する。本開示の一態様では、ストーマ装具の表面、例えば内面は、このような表面上で本開示の配合物を乾燥させることによって、溶媒を実質的に除去し、潤滑剤が結合層に安定に付着した状態で表面に結合層を形成させることによって、撥性コーティングを含むことができる。
【0060】
その上、比較的不活性であり、修飾に対して耐性である傾向がある特定のポリマー成分で構成される表面もまた、本開示の配合物および撥性コーティングから利益を得ることができる。このような表面では、カップリング層をポリマー基材に塗布することができ、本開示の撥性コーティング系がカップリング層の表面に調製され得る。
【実施例】
【0061】
以下の実施例は、本発明の特定の好ましい実施形態をさらに例示することを意図しており、本質的に限定するものではない。当業者は、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記載される特定の物質および手順の多数の等価物を認識し、または確認することができるであろう。
【0062】
以下の実施例配合物(実施例1~実施例5)は、他の成分を互いに一定に保ちながら、すなわち、おおよその重量比を溶媒(重量%):シランモノマー(重量%):触媒(重量%)=100:10:1としながら、配合物中の潤滑剤の濃度が異なる。以下の実施例1~5の配合物については、渦流混合またはマグネチックスターラーのいずれかによって撹拌することにより、容器内の成分を約1分間混合することによって配合物を調製した。配合物を、使用前に室温で約2分間静置した。配合物は、調製後少なくとも3カ月間安定である。
【0063】
これらの実験のために、平滑なスライドガラスを基材として使用した。スライドガラスの表面粗さは、約10nm未満であった。スライドガラスを、配合物の塗布前にイソプロパノールですすぐことによって洗浄した。実施例1~5の成分および濃度を有する配合物を、ディップコーティングまたは噴霧によって、続いてスライドガラスに配合物をワイピングすることによって異なるスライドガラスに塗布した。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
配合物をスライドガラスに塗布した後、次いで配合物を周囲条件下(例えば23℃、相対湿度60%、大気圧)で5分間乾燥させ、スライドガラス上に撥性表面を形成した。配合物をこれらの乾燥条件に供すると、ジメチルジメトキシシランモノマーが酸触媒縮合方法によって重合し、シリコーン油がポリシロキサンポリマー内に安定に固定された状態で、ガラス表面に結合した直鎖ポリシロキサンのアレイを形成する結果となった。ガラス上のグラフトPDMS層の推定厚さは、X線光電子分光法(XPS)分析によれば約1~4nmである。
【0070】
実施例1~5の配合物はすべて、20μLの水滴に対して低い滑落角(10°未満)を示す撥性表面を生成した。滑落角を測定するために、既知の体積(例えば20pL)の水滴をコーティングされた基材に配置する。続いて基材を、水滴が基材から滑り落ち始めるまで、水平位置から徐々に傾斜させる。水滴が滑り始める角度(水平と平滑な傾斜基材との間に形成される)が滑落角である。さらに、潤滑剤は表面で安定であり、脱濡れしなかった。
【0071】
上記の一定の実施例配合物の貯蔵寿命を、12カ月以上にわたって安定であると決定した。例えば特定の配合物を調製し、ガラスをコーティングすることによって調製後12カ月にわたって試験したところ、撥性コーティングが10度以下の滑落角をもたらすことが判明し、これは配合物が調製された頃の結果と類似するものであった。
【0072】
滑落角は、傾斜ステージまたはゴニオメーターによって測定した。
【0073】
図3は、上記の実施例1~5からの配合物を含む配合物から調製した撥性表面の滑落角対潤滑剤濃度を示すグラフである。
【0074】
図3のデータから分かるように、潤滑剤濃度が約0.1重量%~約10重量%の範囲内にある場合、20pLの液滴の滑落角は10度より小さくなる。なお、他の成分の重量比は一定であり、溶媒(重量%):反応性モノマー(重量%):触媒(重量%)=100:10:1である。
【0075】
図4は、反応性成分、触媒、溶媒、および潤滑剤を含むオールインワン配合物から用意された、潤滑剤と反応性成分との間の質量比の関数としての滑落角を示すプロットを示す。プロットのデータでは、反応性モノマー、溶媒、触媒、および潤滑剤は、それぞれジメチルジメトキシシラン、イソプロパノール、硫酸、およびシリコーン油であった。配合物のデータから、質量比
(m
潤滑剤/m
反応性成分)が約0.01~約1の範囲内にある場合、20pLの水滴の滑落角は、10度よりも小さいことを観察した。なお、他の成分の重量比は一定であり、溶媒(重量%):反応性成分(重量%):触媒(重量%)=100:10:1である。エラーバーは、5回の独立した測定値の標準偏差を表す。
【0076】
これらの実施例は、基材の表面の撥性コーティングが、単独配合物で、周囲条件下(すなわち、大気圧および周囲温度下の空気中)でのそれらからの単回塗布によりおよび液相処理により、有利に形成され得、それによって複雑な装置および処理条件を回避できることを示している。
【0077】
実世界の適用では、トイレ、シンク、器具、および鏡またはフロントガラス、建物の窓を含むガラス、ソーラーパネル、真鍮の手すりおよびカメラ用の光学レンズおよびストーマ装具などの医療機器およびcrocs安全靴などの個人用保護具に、香料を含むオールインワン配合物が塗布された。コーティングを、スプレーコーティングまたはワイピングすることによってこれらの表面に塗布した。以下の配合物を、以下の基材表面にコーティングした。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
実施例6、7、8の成分および濃度を有する配合物を、それぞれセラミックトイレ、セラミックシンクおよびガラスの鏡に塗布した。配合物の塗布前に、コーティングされていない表面を、イソプロパノールまたはガラスクリーナーでワイピングすることによって洗浄し、次いで乾燥させた。配合物を噴霧し、続いてワイピングすることによって、またはペーパータオル、布、スポンジもしくは他の任意の類似の布地で表面に配合物を直接ワイピングすることによって、配合物を清潔な乾燥表面に塗布した。表面上の望ましくない任意の残留ヘーズは、イソプロパノールまたはガラスクリーナーでワイピングするかまたはすすぎ、続いてペーパータオル、布、スポンジまたは他の任意の類似の布地でワイピングすることによって除去した。
【0082】
配合物の塗布後、トイレ、シンクおよび鏡を、周囲条件下(例えば約23℃、相対湿度60%、大気圧)で約5分間乾燥させた。乾燥後、実施例6、7および8の配合物をそれぞれ使用してトイレ、シンクおよび鏡の表面に撥性コーティングを形成した。コーティングされた表面はすべて、15μL超の水滴をはじくことができる。さらに、潤滑剤は表面で安定であり、脱濡れしなかった。得られたコーティングは、広範囲の液体および固体をはじくことができる。
【0083】
[実施例9]
ポリマー表面
比較的反応しない表面を有する基材もまた、本開示の配合物および撥性コーティングから利益を得ることができる。これらの例では、反応性カップリング層を、配合物を塗布する前に基材表面に塗布する。シリカカップリング層、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)カップリング層およびポリ(ビニルアルコール)カップリング層を含む反応性カップリング層を、ポリマー基材に塗布した。
【0084】
例えばナイロン基材を、最初にシリカカップリング層で処理した。シリカ層を、ゾルゲル法でナイロンシート上に形成した。具体的には、ナイロンシートをTEOS(テトラエチルオルトシリケート(tetraethyl orthosilicate))/エタノール/H2O/HCl(体積比1:4:6:0.1)を含む溶液でディップコーティングまたはワイプコーティングした。ディップコーティングに続いて、ナイロン基材を室温で12時間硬化させた。シリカ層の厚さを増すために、この手順を繰り返すことによって、複数のシリカ層を互いに塗布することができる。
【0085】
別の例では、ストーマバッグをTEOS(テトラエチルオルトシリケート(tetraethyl orthosilicate))/エタノール/H2O/HCl(体積比1:4:6:0.1)を含む溶液でディップコーティングすることによって、ストーマパウチ(Hollister,Inc.から入手可能)のプラスチック表面にシリカカップリング層を形成した。
【0086】
別の例では、120℃のオーブン中で1時間、ナイロンシート上にPEVAビーズ(sigma Aldrich、酢酸ビニル40重量%)を溶融させて焼成することにより、ナイロンシート上にポリ(エチレン-酢酸ビニル)(PEVA)カップリング層を形成した。
【0087】
次いで、表面に配合物をディップコーティングまたは噴霧またはワイピングすることによって、上記の実施例2の成分および濃度を有する配合物を、様々なカップリング層を有するポリマー基材表面に塗布した。コーティングされたポリマー表面はすべて、15μLの水滴に対して低い滑落角(25°未満)を示す撥性表面を形成した(表4)。
【0088】
上記コーティング方法は、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、EVAフィルム、ポリ(メタクリル酸メチル)、シリコーンにも適用可能である(表4参照)。
【0089】
【0090】
模擬トイレ環境では、我々のコーティングは、コーティングされていないガラス表面よりもガラス上の鉱物スケーリングを防ぐのに効果的であった。具体的には、硬水の液滴(200mg/L塩化ナトリウム)は、目的の試験条件下では、撥性コーティングされた表面ではコーティングされていない表面よりも約1桁速く移動することができ、撥性コーティングされた表面では、コーティングされていない表面よりも約1.5倍遅く蒸発する。速く動き、ゆっくりと蒸発する硬水の液滴は、鉱物残渣を残す前に除去される可能性が高くなり、撥性コーティングされた表面がスケーリングを防ぐのをより効果的にするはずである。100回の硬水すすぎサイクルの後、撥性コーティングされた表面は、未処理ガラスよりも面積被覆率の点で硬水の蓄積における95%超の減少を示した。
【0091】
加速UV曝露試験を、公称相対湿度31%および22℃の温度条件で、280~400nmの波長で3600MJ/m2/年の累積投与量で実施した。UV加速試験前後の撥性コーティングされたガラス試料に対して、接触角、滑落角および接触角ヒステリシス試験を実施した。接触角測定は、100°超、接触角ヒステリシスは10°未満、スライド角は10°未満であり、350nm~1500nmで90%超~95%の光透過であった。これらの結果は、撥性コーティングされたガラス試料が、30カ月の日光曝露に相当するものの後でさえ、類似の撥液性を維持することを示唆した。測定は、Optronic Laboratories Monochromator Model OL750-D、S/N14516191(Solar Light Company Inc.)を用いて実施した。
【0092】
実施例2で提供された配合物(潤滑剤粘度が20cSt~350cSt)から作製された撥性コーティングされたガラス試料の静的寿命を定量化するために、試料を周囲条件(平均温度および湿度がそれぞれ23.5℃および40%)で8カ月間保存し、定期的に秤量して蒸発による潤滑剤損失を求めた。滑落角を測定し、15μLの水滴を用いて撥液性を定量化した。試料の滑落角は、8カ月間にわたって10度未満に留まる。
【0093】
研磨条件での撥性コーティングの耐久性を評価するために、紙の研磨側が試料に面する状態で、200g加重されたサンドペーパーを撥性コーティングされたガラス試料に配置した。100グリットの酸化アルミニウムサンドペーパーを使用した。各研磨サイクルは、約0.1m/秒の速度で試料を横切ってサンドペーパーを1秒間引っ張ることで構成された。数サイクルごとに、15pLの水滴の滑落角を測定した。撥性コーティングされた試料(実施例2の配合物を用いた)は、15pLの液滴の滑落角が60度超に達する前に、700回超の積極的研磨サイクルに耐えた。
【0094】
【0095】
本発明の好ましい実施形態およびその多様性の例のみが、本開示に示され記載される。本発明は、他の様々な組合せおよび環境において使用が可能であり、本明細書で表現される本発明概念の範囲内で変更または修正が可能であることを理解されたい。したがって、例えば当業者は、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記載される特定の物質、手順および配置の多数の等価物を認識し、または確認することができるであろう。このような等価物は、本発明の範囲内にあると考えられ、以下の特許請求の範囲によって包含される。
本発明は次の実施態様を含む。
[請求項1]
(i)表面に結合層を形成することができる1種または複数種の反応性成分であって、前記結合層は、表面に結合した一端および前記表面から離れて伸長する他端を有する化合物のアレイを含む、反応性成分と、(ii)任意選択の触媒と、(iii)溶媒と、(iv)潤滑剤とを含む配合物であって、
前記1種または複数種の反応性成分が、アルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランまたはこれらの組合せからなる群より選択され、
前記潤滑剤が、25℃で測定した場合に少なくとも約2cStの粘度を有する、
配合物。
[請求項2]
前記配合物中の潤滑剤に対する前記1種または複数種の反応性成分の重量での相対量が、潤滑剤約0.01~約1部に対して反応性成分1部を含む、請求項1に記載の配合物。
[請求項3]
前記配合物が前記触媒を含み、前記触媒が酸触媒であり、前記触媒が遷移金属を含まない、請求項1に記載の配合物。
[請求項4]
前記1種または複数種の反応性成分が、1種または複数種のジアルキルジアルコキシシランである、請求項1、2または3のいずれか一項に記載の配合物。
[請求項5]
前記潤滑剤が、シリコーン油もしくは鉱物油もしくは植物油またはこれらの任意の組合せである、請求項1、2または3のいずれか一項に記載の配合物。
[請求項6]
香料をさらに含む、請求項1、2または3のいずれか一項に記載の配合物。
[請求項7]
請求項1、2または3のいずれか一項に記載の配合物から基材の表面に撥性コーティングを形成する方法であって、
基材の表面上で前記配合物を乾燥させて、前記溶媒を実質的に除去し、前記潤滑剤が結合層に安定に付着した状態で表面に前記結合層を形成することを含み、
前記結合層は、表面に結合した一端および前記表面から離れて伸長する他端を有する化合物のアレイを含む、
方法。
[請求項8]
前記結合層に潤滑剤を塗布することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
[請求項9]
前記配合物を空気中および大気圧で乾燥させる、請求項7に記載の方法。
[請求項10]
前記基材上にカップリング層を形成することと、前記カップリング層の表面上で配合物を乾燥させることとをさらに含む、請求項7に記載の方法。
[請求項11]
空気中および大気圧で、前記配合物を前記基材の前記表面に塗布することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
[請求項12]
前記基材の前記表面が、ガラス、セラミックまたはポリマーで構成される、請求項7に記載の方法。
[請求項13]
請求項1、2または3のいずれか一項に記載の配合物からストーマ装具に撥性コーティングを形成する方法であって、
ストーマ装具の表面上で前記配合物を乾燥させて、前記溶媒を実質的に除去し、前記潤滑剤が結合層に安定に付着した状態で表面に前記結合層を形成することを含む、
方法。
[請求項14]
前記ストーマ装具がカップリング層を含み、前記方法が、前記カップリング層の表面上で配合物を乾燥させることを含む、請求項13に記載の方法。
[請求項15]
請求項13または14によって得られるストーマ装具。
【符号の説明】
【0096】
10 配合物
12 基材
12a 表面
14 表面に配合物コーティングを有する基材
16 撥性コーティング
16a 結合層
16b 潤滑剤
20 配合物
22 基材
22a 表面
24 表面に配合物コーティングを有する基材
26 撥性コーティング
26a 結合層
26b 潤滑剤
28 カップリング層
28a 表面