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特許7617086炭水化物からエチレングリコールへの連続的なプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】炭水化物からエチレングリコールへの連続的なプロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/145 20060101AFI20250109BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20250109BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
C07C29/145
C07C31/20 A
C07C31/20 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022518711
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(86)【国際出願番号】 US2020052519
(87)【国際公開番号】W WO2021062008
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】62/905,068
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517254868
【氏名又は名称】ティー.イーエヌ プロセス テクノロジー, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110003579
【氏名又は名称】弁理士法人山崎国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】クリスマン,レイ
(72)【発明者】
【氏名】バニング,ドナルド
(72)【発明者】
【氏名】アルビン,ブルック
(72)【発明者】
【氏名】ナンリー,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ブラッドフォード,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】シュレック,デヴィッド・ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】カピキャック,ルイス
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-519539(JP,A)
【文献】特表2017-521365(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0047929(US,A1)
【文献】特表2019-501193(JP,A)
【文献】特表2013-510801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調節されていない反応ゾーンにおける、少なくともアルドースを生じる炭水化物またはケトースを生じる炭水化物を含有する炭水化物フィードの、エチレングリコールおよびプロピレングリコールの少なくとも一方の低級グリコールへの触媒転換に関する1つまたはそれより多くのインプットに基づき1つまたはそれより多くの操作パラメーターを制御するための制御システムを有する連続プロセスであって、前記触媒転換は、調節されていない反応ゾーンにおける液状媒体中の逆アルドール触媒活性を提供する逆アルドール触媒の存在を含む逆アルドール条件下での中間体への逐次的な逆アルドール触媒転換、および前記調節されていない反応ゾーンにおける水素化触媒活性を提供する水素および水素化触媒の存在を含む水素化条件下での中間体の低級グリコールへの接触水素化、ならびに前記調節されていない反応ゾーンから未加工の生成物を連続的または間欠的に引き出すことによってなされ、前記プロセスは、少なくとも前記未加工の生成物におけるアセトールの濃度を前記プロセスのための前記制御システムへのインプットとして使用して前記プロセスの少なくとも1つの操作パラメーターを制御することを含む、上記プロセス。
【請求項2】
前記炭水化物がアルドースを含み、前記低級グリコールがエチレングリコールを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
アセトール濃度の増加に応答して、(i)前記水素化触媒活性を増加させること、および(ii)前記炭水化物フィードの供給の速度および前記フィード中の前記炭水化物の濃度の少なくとも1つを減少させること、の少なくとも一つを行う、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記逆アルドール触媒が均一であり、前記水素化触媒は不均一である、請求項2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記アセトールの濃度を、プロセス制御の目的で、前記未加工の生成物におけるイトール、1,2-ブタンジオールの少なくとも1つの濃度、およびpHと比較する、請求項2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記未加工の生成物における、アセトール濃度の増加、ならびにソルビトール、1,2-ブタンジオール、およびグリセロールの少なくとも1つの濃度における増加に応答して、前記逆アルドール触媒活性を増加させる、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
ヒドロキシアセトン濃度が、前記未加工の生成物の約0.15質量パーセント未満に維持される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項8】
マンニトールおよびグリセロールの少なくとも一方の増加に伴うアセトールの増加に応答して、前記炭水化物フィードの供給の速度および前記フィード中の前記炭水化物の濃度の少なくとも一方を、逆アルドール触媒活性が増加するまで減少させる、請求項2に記載のプロセス。
【請求項9】
前記反応ゾーンが、カスケード反応ゾーンである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
調節されていない反応ゾーンにおける、少なくともアルドースを生じる炭水化物またはケトースを生じる炭水化物を含有する炭水化物フィードの、エチレングリコールおよびプロピレングリコールの少なくとも一方の低級グリコールへの触媒転換に関するインプットに基づき1つまたはそれより多くの操作パラメーターを制御するための制御システムを有する連続プロセスであって、前記触媒転換は、調節されていない反応ゾーンにおける液状媒体中の逆アルドール触媒活性を提供する逆アルドール触媒の存在を含む逆アルドール条件下での中間体への逐次的な逆アルドール触媒転換、および前記調節されていない反応ゾーンにおける水素化触媒活性を提供する水素および水素化触媒の存在を含む水素化条件下での中間体の低級グリコールへの接触水素化、3~6個の炭素のケトンを含むトレーサー前駆体を反応ゾーンに供給して前記反応ゾーン中の条件下で前記反応ゾーンから少なくとも1種のトレーサーを生産すること、および前記調節されていない反応ゾーンから未加工の生成物を連続的または間欠的に引き出すことによってなされ、前記プロセスは、前記未加工の生成物中の前記トレーサーの少なくとも1つの成分の少なくとも濃度を前記プロセスのための前記制御システムへのインプットとして使用して前記プロセスの少なくとも1つの操作パラメーターを制御することを含む、上記プロセス。
【請求項11】
前記未加工の生成物中の前記トレーサーが水素化されたトレーサー前駆体の部分の変化を示し、次いで(i)触媒活性種の絶対量および前記逆アルドール触媒活性および水素化触媒活性のそれぞれの相対量、ならびに(ii)前記反応ゾーンへのフィードにおける炭水化物のフィードの速度および濃度の少なくとも1つ、のうちの少なくとも1方を調整する、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記未加工の生成物における前記トレーサーの濃度が、前記トレーサー前駆体のより多くの部分が水素化されていることを示し、前記反応ゾーンへのフィードの速度を増加させるか、または前記反応ゾーンにおける前記水素化触媒活性を減少させるかのいずれかまたは両方を行う、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記未加工の生成物における前記トレーサーの濃度が、前記トレーサー前駆体のより少ない部分が水素化されていることを示し、(i)前記反応ゾーンにおける前記水素化触媒活性を増加させるか、(ii)前記反応ゾーンへのフィードにおける前記炭水化物のフィードの速度および濃度の少なくとも1つを減少させるか、のいずれかまたは両方を行う、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
前記逆アルドール触媒が均一であり、前記水素化触媒は不均一である、請求項10に記載のプロセス。
【請求項15】
前記炭水化物がアルドースを含み、前記低級グリコールがエチレングリコールを含み、前記トレーサーの少なくとも1つの成分の濃度を、プロセス制御の目的で、未加工の生成物におけるイトール、1,2-ブタンジオール、アセトールの少なくとも1つの濃度およびpHと比較する、請求項10に記載のプロセス。
【請求項16】
前記未加工の生成物における前記トレーサーが、水素化される前記トレーサー前駆体の部分が実質的に一定であること、および前記未加工の生成物においてソルビトールおよびグリセロールの少なくとも1つの濃度が増加していることを示し、前記逆アルドール触媒活性を増加させる、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記未加工の生成物における前記トレーサーが、水素化される前記トレーサー前駆体の部分における減少を示し、ソルビトール、1,2-ブタンジオール、およびグリセロールの少なくとも1つの濃度が増加しておらず、(i)前記水素化触媒活性を増加させること、および(ii)前記フィードにおける前記炭水化物のフィード速度および濃度の少なくとも1つを減少させることのいずれかまたは両方を行う、請求項15に記載のプロセス。
【請求項18】
水素化触媒活性を評価するために、より大きい反応ゾーンから引き出された、またはより大きい反応ゾーンで使用されることが意図された水素化触媒を使用する、請求項10に記載のプロセス。
【請求項19】
前記トレーサー前駆体が、前記プロセスをトラブルシューティングするために添加される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項20】
前記トレーサー前駆体がメチルエチルケトンを含み、前記トレーサーがメチルエチルケトンおよびイソブタノールを含む、請求項10に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
[001]本出願は、合衆国法典第35巻119条(e)に基づき、2019年9月24日付けで出願された、「連続的な調節されていない複数の触媒工程プロセスを操作するための方法(METHODS FOR OPERATING CONTINUOUS, UNMODULATED, MULTIPLE CATALYTIC STEP PROCESSES)」という名称の米国出願第62/905,068号の利益を主張し、これは、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
[002]この発明は、逆アルドール/水素化経路による炭水化物のエチレングリコールへの触媒転換のためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
[003]エチレングリコールは、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの他の材料のためのビルディングブロックとして、加えて、例えば不凍液のためのその固有の特性の両方のために広範な用途を有する有用な汎用化学物質である。エチレングリコールの需要はかなりのものであり、そのためエチレングリコールは世界中で最も大量に生産される有機化学品の1つである。現在エチレングリコールは、炭化水素供給材料由来のエチレンから開始する多段階プロセスによって作製されている。
【0004】
[004]炭水化物などの再生可能資源からエチレングリコールを製造する提案がなされている。これらの代替プロセスは、糖の水素化分解などの触媒経路と、逆アルドール触媒を使用して糖から中間体を生成し水素化触媒上で水素化してエチレングリコールおよびプロピレングリコールを生産する触媒プロセスとを含む。
【0005】
[005]逆アルドール経路において、炭水化物は、逆アルドール触媒上で中間体に転換され、次いで中間体は、調節されていない反応ゾーンで水素化触媒上でエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコールに触媒的に転換される。本明細書で使用される場合、調節されていない(unmodulated)という用語は、プロセスがシングルポットで実行されること、または複数の容器または領域での場合、中間体が容器またはゾーン間で除去されないことを意味する。求められる最初に起こる逆アルドール反応は、吸熱性であり、炭水化物の中間体への転換を優先的に選択するのに十分な反応速度を提供するためには、高温、例えば多くの場合230℃を超える温度を必要とする。糖の異性化は、逆アルドール転換にとって好ましい条件下で行ってもよい。例えば、グルコースなどのアルドースは、フルクトースに異性化され得る。グルコースなどのアルドースは、逆アルドール条件下で、2個の炭素原子を含有する中間体、例えばグリコールアルデヒドを提供し、これは、エチレングリコールに水素化することができる。フルクトースは、逆アルドール条件下で、数ある中でも3個の炭素原子を含有する中間体に転換され、これは、水素化条件下で、プロピレングリコールおよびグリセロールを提供する。加えて、グリコールアルデヒドなどの逆アルドール中間体が反応して、1,2-ブタンジオールなどの副産物を提供し得る。さらに、水素化は、エチレングリコールおよびプロピレングリコールの分解を引き起こし得る。水素が必要であるため、水素の触媒部位への物質移動は水素化を維持するのに不十分であることがあり、この水素欠乏は、有機酸などの副産物の生産を引き起こし得る。したがって、調節されていない反応ゾーンにおけるエチレングリコールの生産を最適化するために、逆アルドール転換条件および水素化転換条件は、バランスが取れている必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[006]したがって、調節されていない反応ゾーンを使用して逆アルドール/水素化プロセスを制御するための方法を提供することが求められている。さらに、このような方法は、プロセスから合理的に得ることができるインプットパラメーター、特に、比較的迅速に確認してプロセスの操作(operation)に関するリアルタイムデータを提供することができるインプットパラメーターを使用することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[007]本発明によって、インプットとして少なくとも1種のアセトール(ヒドロキシアセトン)および少なくとも1種のトレーサーを有する制御方法を使用する、逆アルドール触媒作用および逐次的な水素化による炭水化物のエチレングリコールへの転換のためのプロセスが提供される。トレーサー前駆体は、3~6個、好ましくは4~6個の炭素を有する1種またはそれより多くのケトンであり、トレーサーは、反応ゾーンへのケトンの供給の結果生じる未加工の生成物(raw product)中の、未反応のトレーサー前駆体、およびアルコールのようなケトンの水素化生成物の1つまたはそれより多くである。未加工の生成物中のアセトール濃度は、アセトールがフルクトースの逆アルドール触媒作用から得られた3炭素化合物であるため、アルドース異性化の相対量および水素化に関する情報の両方を反映する。ケトンのカルボニルは逆アルドール転換を受けないため、トレーサーは、水素化強度を反映する。炭水化物の転換は、内部カルボニルまたは内部ヒドロキシルのみを有する炭化水素の共生産を引き起こさないため、1つまたはそれより多くのトレーサーに基づくインプットは、副産物として混乱を生じない。炭水化物のエチレングリコールへの逆アルドール/水素化転換に有用な制御システムは、多数の他のインプット、例えば圧力、温度、滞留時間、pH、未加工の生成物の組成、フィード組成および速度などの1種またはそれより多くを採用し得る。アセトールおよび/またはトレーサーは、プロセスの条件に関する他の方法では容易に入手できない情報を提供し、したがって制御システムへのインプットとしてのそれらの使用は、よりロバストで有用なプロセス制御を提供することができる。未加工の生成物におけるアセトール濃度の増加は、この発明によって、エチレングリコールへの選択性における観察可能な減少の前兆であることが見出されている。したがって、エチレングリコールへの転換および選択性を維持するために、プロセス変更はタイムリーに実行することができる。同様に、トレーサーは水素化活性を特異的に標的とし、副産物または生成物生産における変化が逆アルドール触媒活性に関する問題に起因するのかまたは水素化触媒活性に関する問題に起因するのかについて混乱させないことを助ける。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[008]あらゆる好適なプロセス制御システムを使用することができ、本プロセスのためのより拡張性のある制御システムを使用することができ、このシステムは、設計空間システム(design space system;DSC)またはモデル予測制御システム(predictive control system;MPC)であってもよく、どちらも当業界において周知であり、しばしば好ましい。DSCにおいて、境界条件またはウィンドウは予め決定されており、ウィンドウ内の操作は制御下にあるとみなされる。MPCにおいて、動的プロセスモデルは経験的に作成されることが多く、現在の制御ステータスに加えて、将来的なそのプロセスへの作用を考慮に入れる。MPCにおける制御の作用は、将来の事象を見越した予測モデルに基づいていてもよい。しかしながら、未加工の生成物(raw product)においてアセトールおよびトレーサーのいずれかまたは両方を使用する開示されたプロセスは、制御が手動であるか、または洗練された制御システムに基づくかどうかに関係なく、プロセスを制御するための能力を強化する。
【0009】
[009]1つの広範な形態は、調節されていない(unmodulated)反応ゾーンにおける、少なくともアルドースを生じるかまたはケトースを生じる炭水化物を含有する炭水化物フィードの、エチレングリコールおよびプロピレングリコールの少なくとも一方の低級グリコールへの触媒転換に関する1つまたはそれより多くのインプットに基づき1つまたはそれより多くの操作パラメーターを制御するための制御システムを有する連続プロセスであって、前記触媒転換は、調節されていない反応ゾーンにおける、液状媒体中の逆アルドール触媒活性を提供する逆アルドール触媒の存在を含む逆アルドール条件下での中間体への逐次的な逆アルドール触媒転換、および前記調節されていない反応ゾーンにおける、水素化触媒活性を提供する水素および水素化触媒の存在を含む水素化条件下での中間体の低級グリコールへの接触水素化、ならびに前記調節されていない反応ゾーンから未加工の生成物を連続的または間欠的に引き出すことによってなされ、前記プロセスは、プロセスのための制御システムへのインプットとして、少なくとも未加工の生成物におけるアセトールの濃度を使用してプロセスの少なくとも1つの操作パラメーターを制御することを含む、プロセスに関する。好ましくは、炭水化物は、アルドースを含み、低級グリコールは、エチレングリコールを含む。
【0010】
[010]アセトールは、フルクトースから誘導され、したがってその濃度は生成したフルクトースに依存することから、フルクトースの濃度における変化は考慮に入れる必要がある。エチレングリコールを作製するための好ましいプロセスにおいて、逆アルドール触媒活性の低減の証拠がなくてもアセトール濃度の増加に応答して、(i)水素化触媒活性を増加させるか、(ii)炭水化物フィードの供給の速度およびフィード中の炭水化物の濃度の少なくとも一方を減少させるかの少なくとも一方を行う。例えばマンニトールまたはグリセロールの増加に伴う逆アルドール触媒活性の低減の証拠が存在する場合で、アセトールの増加が逆アルドール触媒活性の低減からの予測より大きい場合、逆アルドール触媒活性が回復するまで、炭水化物フィードの供給の速度およびフィード中の炭水化物の濃度の少なくとも1つを減少させることを示唆するであろう。
【0011】
[011]別の広範な形態は、調節されていない反応ゾーンにおける、少なくともアルドースを生じるかまたはケトースを生じる炭水化物を含有する炭水化物フィードの、エチレングリコールおよびプロピレングリコールの少なくとも一方の低級グリコールへの触媒転換に関するインプットに基づき1つまたはそれより多くの操作パラメーターを制御するための制御システムを有する連続プロセスであって、前記触媒転換は、調節されていない反応ゾーンにおける液状媒体中の逆アルドール触媒活性を提供する逆アルドール触媒の存在を含む逆アルドール条件下での中間体への逐次的な逆アルドール触媒転換を含み、前記調節されていない反応ゾーンにおける水素化触媒活性を提供する水素および水素化触媒の存在を含む水素化条件下での中間体の低級グリコールへの接触水素化を含み、反応ゾーンの条件下でトレーサーが生成される反応ゾーンへと3~6個、好ましくは4~6個の炭素を有するケトンを供給し、ならびに前記調節されていない反応ゾーンから未加工の生成物を連続的または間欠的に引き出し、前記プロセスは、プロセスのための制御システムへのインプット値として、未加工の生成物中のトレーサーの少なくとも1つの成分の少なくとも濃度を使用してプロセスの少なくとも1つの操作パラメーターを制御することを含む、上記プロセスに関する。
【0012】
[012]トレーサーがケトンの水素化の変化を示す場合、好ましくは、(i)と(ii)の少なくとも1つ:(i)触媒活性種の絶対量および逆アルドール触媒活性および水素化触媒活性のそれぞれの相対量、ならびに(ii)反応ゾーンへのフィードの速度および炭水化物濃度の少なくとも1つ、が調整される。より多くのケトンが水素化される場合、しばしば少なくとも反応ゾーンへのフィードの速度を増加させるか、または水素化触媒活性を減少させる。より少ないケトンが水素化される場合、好ましくは、(i)反応ゾーンにおける水素化触媒活性を増加させるか、(ii)反応ゾーンへの炭水化物のフィードの速度および濃度の少なくとも1つを減少させるか、のいずれかまたは両方である。
【0013】
[013]多くの例において、逆アルドール触媒は均一であり、水素化触媒は不均一である。望ましいプロセスの目的は、しばしばエチレングリコールへの転換の選択性であり、一部の場合において、エチレングリコールおよびプロピレングリコールの全て(「総低級グリコール」)への選択性は、フィードの質量に基づいて約75質量パーセントより大きい。一部の場合において、アセトールまたはトレーサーの少なくとも1つの成分の濃度は、プロセス制御の目的で、未加工の生成物中のイトール、1,2-ブタンジオールの少なくとも1つの濃度、pHと比較することができ、アセトールの場合には、使用される場合、トレーサーと比較することができ、トレーサーが使用される場合には、アセトールと比較することができる。反応プロセスは、カスケードプロセスであってもよいしまたはシングルポットプロセスであってもよい。エチレングリコールを作製する場合、アセトール濃度は、ソルビトール、1.2-ブタンジオールおよびグリセロールの少なくとも1つの濃度としばしば比較される。エチレングリコールを作製する場合、トレーサー濃度は、ソルビトールおよびグリセロールの少なくとも1つの濃度としばしば比較される。
【0014】
[014]トレーサー前駆体の使用は、連続的であってもよいし、または間欠的であってもよい。例えば、トレーサー前駆体は、プロセスが要求に応じて実行されることを確実にするため、またはプロセスの操作における問題のトラブルシューティングを助けるため、およびプロセスを再度望ましい操作と調和させるために、間欠的に使用することができる。開示されたプロセスはまた、例えば、調査、開発または定性目的で水素化触媒および水素化触媒活性を評価するために実験室またはパイロット規模の操作で使用してもよいし、またはより大きい、例えば商業的なスケールのプロセスで使用されるまたは使用される予定の触媒および水素化触媒活性の本来の場所以外での(ex-situ)サンプルを評価するために使用してもよい。本来の場所以外での評価は、プロセスのための制御システムで使用するためのパラメーターとして使用することができる。
【0015】
[015]複数の実施態様が開示されるが、本開示のさらなる他の実施態様は、本発明の例示的な実施態様を示し説明する以下の詳細な説明から当業者には明らかであろう。理解されると予想されるように、本開示は、本開示の本質および範囲から逸脱することなく様々な明確な観点で改変が可能である。したがって、図面および詳細な説明は、実質的に例示的なものとみなされ、限定ではない。
【0016】
詳細な説明
[016]本明細書において参照される全ての特許、公開された特許出願および論文は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0017】
定義
[017]以下の用語は、本明細書で使用される場合、別段の指定がないかまたはそれらの使用の文脈から明らかでない限り、以下に記載の意味を有する。
【0018】
[018]範囲が本明細書において使用される場合、その範囲に含まれるありとあらゆる値を長々と設定し記載する必要を回避するように、範囲の端点のみが述べられる。列挙された端点の間のあらゆる適切な中間の値および範囲を選択することができる。一例として、0.1~1.0の範囲が列挙される場合、全ての中間の値(例えば、0.2、0.3、0.63、0.815など)が含まれ、全ての中間の範囲も同様である(例えば、0.2~0.5、0.54~0.913など)。
【0019】
[019]用語「1つの(a)」および「1つの(an)」の使用は、記載された構成要素の1つまたはそれより多くを含むことが意図される。
[020]混合する、または混合されたとは、2種またはそれより多くの要素の物理的な組合せの形成を意味し、このような組合せは、全体的に均質なまたは均質ではない組成を有していてもよく、その例としては、これらに限定されないが、固体混合物、溶液および懸濁液が挙げられる。
【0020】
[021]生物学的起源の炭水化物供給材料は、全体がまたは相当部分が、生物由来物質または再生可能な農業材料(これらに限定されないが、植物、動物および海洋材料など)または山林材料から供給された、それ由来の、またはそれから合成された炭水化物を含む生成物を意味する。
【0021】
[022]副産物は、求められる生成物の製造で生じる偶発的なまたは二次的な生成物であり、その例としては、偶発的なまたは二次的な生成物およびこれらの生成物への中間体が挙げられ、さらに目的の生成物からの反応生成物が挙げられる。副産物は、求められる生成物への中間体を含まない。一例として、グルコースのエチレングリコールへの触媒転換において、グリコールアルデヒドとヒドロキシアセトンの両方がこの反応の条件下でさらに反応できる可能性があるとしても、いずれの未反応のグリコールアルデヒドも副産物ではないとされ、ヒドロキシアセトンは副産物であるとされる。他の副産物としては、これらに限定されないが、マンニトール、ソルビトール、グリセロール、1,2-ブタンジオール、エリスリトール、トレイトール、有機酸、および気体が挙げられる。
【0022】
[023]触媒は、不均一または均一系触媒を意味する。本明細書に記載の目的のために、媒体中に溶解した際に例えばコロイド懸濁液としての挙動を示す触媒は、触媒が溶解しているかどうかに関係なく均一系触媒とみなされる。触媒は、1種またはそれより多くの触媒金属を含有していてもよいし、不均一触媒の場合、支持体、結合剤および他のアジュバント(adjuvant)を含んでいてもよい。触媒金属は、その元素の状態の金属であるか、またはイオン結合もしくは共有結合で結合している。触媒金属という用語は、必ずしも触媒活性状態になくてもよいが、触媒活性状態にない場合、触媒活性になる可能性を有する金属を指す。触媒金属は、触媒活性を提供することができ、またはプロモーター、選択性調節剤のように触媒活性を改変することができる。
【0023】
[024]触媒の活性または性能は、反応ゾーンにおける触媒の外部の活性を指す。したがって、触媒活性に影響を与える要因としては、触媒それ自体の状態が挙げられるが、反応ゾーンにおけるその配置も挙げられる。例えば、触媒の一部が反応ゾーンで物理的に閉じ込められている場合、触媒自体が活性である可能性があっても、求められる触媒転換を実行するのに相対的に利用不可能である。したがって、触媒表面を利用しやすくするための混合または他の再分配の手段が、外部の触媒活性を改善すると予想される。
【0024】
[025]触媒活性における変化は、触媒それ自体の変化、例えば、化学的変化、物理的な劣化、触媒上の成分の再分配、触媒からの触媒活性種の喪失、もしくは被毒、または反応の経過中に堆積するようになる成分または反応するようになる成分からの他の作用に起因する可能性がある。触媒活性における変化は、例えば、立体効果または反応を介して、または触媒により転換されることになる成分と錯体化することを介して、触媒周辺の環境によって引き起こされる場合もあり、この場合、触媒それ自体は、相対的に不変であってもよい。それゆえに、触媒活性における増加または減少は、ただし必ずしもそうとは限らないが、単位体積当たりの触媒の質量における増加または減少に起因し得る。
【0025】
[026]接触を始めることは、流体が、成分、例えば均一または不均一触媒を含有する媒体と接触し始めることを意味するが、その流体の全ての分子が触媒と接触することを必要としない。
【0026】
[027]転換効率は、本プロセスにおいて化学生成物に転換される原材料の質量パーセントである。
[028]水力学的分布は、そこに含有されるあらゆる触媒との接触を含む容器中の水溶液の分布を意味する。
【0027】
[029]中間体は、反応ゾーンの条件下で目的の生成物にさらに反応することができる化合物を意味する。本明細書において定義される通り、副産物への中間体は、それ自体副産物とみなされる。
【0028】
[030]間欠的とは、時々を意味し、規則的なまたは不規則な時間間隔であり得る。
[031]インプット値は、制御方法のためのプロセスからのインプット情報を意味する。インプットは、操作的なインプットであってもよく、これは時には独立変数と称され、温度などの報告される値が制御に供されることを意味する。インプットは、プロセスパラメーターであってもよく、これは時には従属変数と称され、決定された値が、プロセスにおける複数の操作的な変数から得られたものであることを意味する。例えば、中間体、副産物または化学生成物の濃度は、一連のプロセス条件の組合せの結果である。インプット値は、1もしくは2つまたはそれより多くの操作的なインプットおよびプロセスパラメーターインプットからのものであってもよく、計算を必要とする場合がある。例えば、転換効率は、フィード中の原材料濃度および反応ゾーンへのフィード速度から、さらに、反応ゾーンからの流出物中の化学生成物の濃度および流出物の流速から決定することができる。
【0029】
[032]イトールは、各炭素がヒドロキシル基を有する多価アルコールであり、例えば、糖アルコールである。
[033]液状媒体は、リアクター中の液体を意味する。液体は、炭水化物、中間体および生成物のための、さらに均一なタングステンを含有する逆アルドール触媒のための溶媒である。典型的には、好ましくは、このような液体は、少なくとも所定量の水を含有し、したがって水性媒体と呼ばれる。
【0030】
[034]プロセスのための操作パラメーター、またはプロセスパラメーターは、制御可能なパラメーターであり、その例としては、これらに限定されないが、反応物の温度、圧力、フィード速度および濃度、滞留時間、アジュバント、pH、ならびに水素化触媒活性および逆アルドール触媒活性などが挙げられる。
【0031】
[035]水素化されることが可能な有機物質(「HOC」)は、1つまたはそれより多くの生成物へのプロセス条件下で水素化されることが可能な酸素を含有する炭化水素である。HOCとしては、これらに限定されないが、糖ならびに他のケトンおよびアルデヒド、ヒドロキシルを含有する炭化水素、例えばアルコール、ジオールおよびイトールが挙げられる。
【0032】
[036]水溶液のpHは、周囲気圧および温度で決定される。例えば水性水素化媒体または生成物溶液のpHを決定することにおいて、液体は冷却され、pH決定の2時間前に周囲気圧および温度に放置する。pH測定が求められる溶液が約50質量パーセント未満の水を含有する場合、50質量パーセントより多くの水を提供するために、水は溶液に添加される。一貫性の目的のために、溶液の希釈は、同じ質量パーセントの水となるようになされる。
【0033】
[037]pH制御剤は、緩衝液および酸または塩基の1つまたはそれより多くを意味する。
[038]原材料(raw material)という用語は、プロセス中に反応ゾーンに添加される1種またはそれより多くの反応物を示すために使用され、純度または精製の必要性を反映することは意図されない。原材料は、別の化学的または生化学的なプロセスからの生成物であってもよい。反応物は中間体を含むので、原材料という用語は理解を容易にする。
【0034】
[039]反応ゾーンは、第1および第2の触媒を含有する体積であり、単一の容器もしくは複数の容器、またはリアクターであってもよい。
[040]リアクターは、連続した、または平行した1つまたはそれより多くの容器であってもよく、容器は、1つまたはそれより多くのゾーンを含有していてもよい。リアクターは、これらに限定されないが、タンクおよびパイプまたはチューブ型リアクターなどの連続的な操作にとって好適なあらゆる設計を有していてもよく、必要に応じて流体を混合する性能を有していてもよい。リアクターのタイプとしては、これらに限定されないが、層流リアクター、固定床リアクター、スラリーリアクター、流動床リアクター、移動床リアクター、擬似移動床リアクター、トリクルベッドリアクター、気泡塔およびループリアクターが挙げられる。
【0035】
議論
[041]反応ゾーン中でアルドヘキソースを生じる炭水化物またはケトースを生じる炭水化物を含有する炭水化物をエチレングリコールおよびプロピレングリコールの少なくとも一方(低級グリコール)に転換するためのプロセスは、糖を触媒性の逆アルドール条件に供して、接触水素化条件下で水素化される中間体を生産することによって実行される。例えば、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる公開された米国特許出願第2017/0349513号および2018/0086681号ならびに米国特許9,399,610号および9,783,472号を参照されたい。
【0036】
[042]原材料は、炭水化物を含み、炭水化物は、ほとんどの場合、ペントースおよびヘキソースの少なくとも一方であるか、ペントースまたはヘキソースを生じる化合物である。ペントースおよびヘキソースの例としては、キシロース、リキソース、リボース、アラビノース、キシルロース、リブロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、アロース、アルトロース、イドース、タロース、およびグロース、フルクトース、プシコース、ソルボース、およびタガトースが挙げられる。ほとんどの生物学的起源の炭水化物供給材料は、加水分解されるとグルコースを生じる。グルコース前駆体としては、これらに限定されないが、マルトース、トレハロース、セロビオース、コージビオース、ニゲロース、ニゲロース、イソマルトース、β,β-トレハロース、α,β-トレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチオビオース、およびマンノビオースが挙げられる。炭水化物のポリマーおよびオリゴマー、例えばヘミセルロース、ヘミセルロースの部分的に加水分解された形態や、スクロース、ラクツロース、ラクトース、ツラノース、マルツロース、パラチノース、ゲンチオビウロース、メリビオース、およびメリビウロースなどの二糖類、またはそれらの組合せを使用することができる。
【0037】
[043]炭水化物フィードは、固体であってもよいし、あるいは好ましくは液体懸濁液の形態であってもよいし、あるいは水などの溶媒中に溶解されていてもよい。炭水化物フィードが非水性環境にある場合、炭水化物は、少なくとも部分的に水和されていることが好ましい。非水性溶媒としては、アルカノール、ジオールおよびポリオール、エーテル、または他の好適な1~6個の炭素原子の炭素化合物が挙げられる。溶媒としては、混成の溶媒、特に、水と前述の非水性溶媒の1つとを含有する混成の溶媒が挙げられる。特定の混成の溶媒は、水素化反応の条件下でより高い濃度の水素を溶解させることができ、したがって水素欠乏の可能性を低減させる。好ましい非水性溶媒は、水素ドナーになり得るものであり、例えばイソプロパノールである。しばしばこれらの水素ドナー溶媒は、水素原子を供与するとカルボニルに転換されるヒドロキシル基を有し、このカルボニルは、反応ゾーン中の条件下で還元することができる。最も好ましくは、炭水化物フィードは、水溶液中に提供される。いずれの場合においても、フィードの体積および引き出された未加工の生成物の体積は、連続プロセスをもたらすためにバランスをとる必要がある。
【0038】
[044]反応ゾーンに炭水化物を提供することにおけるさらなる考察は、エネルギーおよび資本コストを最小化することである。例えば、定常状態の操作において、フィードに含有される溶媒は、未加工の生成物と共に反応ゾーンを出て、目的のグリコール生成物を回収するために分離を必要とする。
【0039】
[045]好ましくは、フィードは、水素欠乏を引き起こす可能性があるこのような不都合な濃度のHOCが回避される方式で反応ゾーンに導入される。反応ゾーンの単位体積当たり、炭水化物の供給のためのより多くの複数の配置を使用すれば、フィード中の炭水化物をより濃縮することができる。一般的に、炭水化物フィードにおける水の炭水化物に対する質量比率は、好ましくは4:1~1:4の範囲内である。1リットル当たりにデキストロースおよびスクロースなどの特定の炭水化物を600グラムまたはそれより多く含む水溶液が、時には商業的に入手可能である。
【0040】
[046]炭水化物フィードに含有される炭水化物は、1時間当たり、リアクター体積1リットル当たり、少なくとも50または100グラム、好ましくは約150~500グラムの速度で提供される。任意に、逆アルドール触媒を含有し、水素化触媒が実質的に存在しない別の反応ゾーンを使用してもよい。
【0041】
[047]これらのプロセスにおいて、炭水化物を含有する液状媒体を、逆アルドール反応条件下で逆アルドール触媒と接触させる。接触は、反応ゾーンの水素化触媒を含有する部分に液状媒体を導入する前に始めても良く、あるいは導入のときに始めてもよい。逆アルドール反応にとって好ましい温度は、典型的には約230℃~300℃、より好ましくは約240℃~280℃であるが、逆アルドール反応は、より低温で、例えば90℃または150℃もの低温で行ってもよい。圧力(絶対)は、典型的には約15~200bar(1500~20,000kPa)の範囲内であり、例えば、約25~150bar(2500~15000kPa)の範囲内である。
【0042】
[048]逆アルドール反応条件は、逆アルドール触媒の存在を含む。逆アルドール触媒は、逆アルドール反応を触媒する触媒である。逆アルドール触媒を提供できる化合物の例としては、これらに限定されないが、タングステンおよびその酸化物、硫酸塩、リン化物、窒化物、炭化物、ハロゲン化物、酸などを含む、担体に担持された触媒などの不均一および均一系触媒が挙げられる。また、ジルコニア、アルミナ、およびアルミナ-シリカに担持された炭化タングステン、可溶性ホスホタングステン(phosphotungsten)、酸化タングステンも挙げられる。好ましい触媒は、可溶性タングステン化合物およびタングステン化合物の混合物によって提供される。可溶性タングステン酸塩としては、これらに限定されないが、タングステン酸アンモニウムおよびタングステン酸のアルカリ金属塩、例えば、タングステン酸ナトリウムおよびタングステン酸カリウム、パラタングステン酸、部分的に中和されたタングステン酸、メタタングステン酸アンモニウムおよびアルカリ金属、ならびにタングステン酸アンモニウムおよびアルカリ金属が挙げられる。アンモニウムカチオンの存在は、低級グリコール生成物において望ましくないアミン副産物の生成をもたらすことが多い。理論に制限されることは望まないが、触媒活性を呈示する種は、触媒として導入される可溶性タングステン化合物と同じであってもよいし、またはそうでなくてもよい。それよりもむしろ、触媒活性種は、逆アルドール反応条件への曝露の結果として形成されてもよい。タングステンを含有する錯体は、典型的にはpH依存性である。例えば、7より大きいpHでタングステン酸ナトリウムを含有する溶液は、pHが低くなるとメタタングステン酸ナトリウムを生成する。錯体化したタングステン酸アニオンの形態は、一般的に、pH依存性である。タングステン酸アニオンの縮合から形成された錯体化したアニオンが形成される速度は、タングステンを含有するアニオンの濃度の影響を受ける。好ましい逆アルドール触媒は、酸、好ましくは炭素1~6個の有機酸、例えば、これらに限定されないが、ギ酸、酢酸、グリコール酸、および乳酸で部分的に中和された状態になるタングステン酸アンモニウムまたはアルカリ金属を含む。部分的な中和は約25~75%であることが多く、すなわちタングステン酸のカチオンの平均して25~75%が酸部位になる。部分的な中和は、タングステンを含有する化合物をリアクターに導入する前に、またはリアクターに含有される酸を用いて生じる可能性がある。
【0043】
[049]使用される逆アルドール触媒の濃度は、広く変更することができ、触媒の活性、ならびに逆アルドール反応の他の条件、例えば酸性度、温度および炭水化物の濃度に依存すると予想される。典型的には、逆アルドール触媒は、水性水素化媒体1リットル当たりの元素金属として計算された、約0.01または0.05から100グラム、例えば、約0.02または0.1から50グラムのタングステンを提供する量で提供される。逆アルドール触媒は、炭水化物フィードの全部または一部との混合物として、もしくは水性水素化媒体への別々のフィードとして、もしくは液状媒体を再利用することによって、またはそれらのあらゆる組合せによって添加することができる。一部の場合において、均一なタングステンを含有する逆アルドール触媒は、タングステンを含有する化合物または錯体を水素化触媒上に堆積させて、水素化触媒の活性に逆の作用を与えることができる。所定量のタングステンを含有する触媒の連続的または間欠的な循環(cycling)は、堆積したタングステン化合物または錯体の少なくとも一部の除去に至る可能性がある。したがって本開示の方法は、触媒活性種の絶対量および第1の触媒と第2の触媒のそれぞれの相対量の制御が、プロセスの目的が触媒の再活性化である場合の操作を含むことを予期する。本開示の方法はまた、触媒活性種の絶対量および第1の触媒と第2の触媒のそれぞれの相対量の制御が、プロセスの目的が第1または第2の触媒の一方の触媒活性の低減である場合の操作を含むことも予期する。触媒活性における低減は、これらに限定されないが、液状媒体における触媒濃度の低減、触媒の触媒活性種の選択的な被毒、および必ずしも触媒活性種を低減させる必要なしに触媒活性を低減させる添加剤または調節剤を提供することの1つまたはそれより多くなどのあらゆる好適な手段によって達成することができる。
【0044】
[050]多くの場合、炭水化物フィードは、水素化触媒を含有する反応ゾーンにおいて水性水素化媒体に導入される前に逆アルドール条件に供される。好ましくは、水性水素化媒体への導入は、炭水化物フィードを逆アルドール条件に供し始めたときから1分未満、ほとんどの場合10秒未満で起こる。逆アルドール反応の一部または全ては、水素化触媒を含有する反応ゾーンで行うことができる。いずれの場合においても、グルコースのフルクトースへの異性化が望ましくない場合の最も好ましいプロセスは、逆アルドール転換と水素化との間の期間が短いものである。
【0045】
[051]水素化、すなわち炭素間結合を切断しない有機化合物への水素原子の付加は、約100℃または120℃から300℃またはそれより高い温度の範囲の温度で実行することができる。典型的には、水性水素化媒体は、実質的に全ての炭水化物が反応して炭水化物の炭素間結合が逆アルドール反応で破壊されるまで、少なくとも約230℃の温度で維持され、それによってエチレングリコールおよびプロピレングリコールへの選択性が強化される。その後、必要に応じて、水性水素化媒体の温度を低減してもよい。しかしながら、水素化は、これらのより高い温度で急速に進行する。したがって、水素化反応のための温度は、多くの場合、約230℃~300℃であり、例えば、240℃~280℃である。圧力は、典型的には約15~200bar、例えば、約25~150barの範囲内である。水素化反応は、水素、加えて水素化触媒の存在を必要とする。水素は、水溶液への低い溶解性を有する。水性水素化媒体中の水素の濃度は、反応ゾーンにおける水素分圧が増加するにつれて増加する。水性水素化媒体のpHは、しばしば少なくとも約3であり、例えば、約3または3.5から8、一部の場合において約3.2または4から7.5である。
【0046】
[052]水素化は、水素化触媒の存在下で実行される。多くの場合、水素化触媒は、不均一触媒である。これは、これらに限定されないが、固定床、流動床、トリクルベッド、移動床、スラリーベッド、および構造化されたベッド(structured bed)などのあらゆる好適な方式で配置されていてもよい。より広く使用される還元金属触媒のなかでも、ニッケル、ルテニウム、パラジウムおよび白金が挙げられる。しかしながら、多くの還元触媒が本出願において機能すると予想される。還元触媒は、多種多様の担持された遷移金属触媒から選択することができる。一次還元金属成分としてのニッケル、Pt、Pdおよびルテニウムは、カルボニルを還元するそれらの能力に関して周知である。このプロセスにおける還元触媒のための1つの特に好ましい触媒は、担持されたNi-Re触媒である。Ni/ReまたはNi/Irの類似のバージョンは、形成されたグリコールアルデヒドからエチレングリコールへの転換に対する優れた選択性で使用することができる。ニッケル-レニウムは、好ましい還元金属触媒であり、アルミナ、アルミナ-シリカ、シリカまたは他の支持体に担持されていてもよい。プロモーターとしてBを有する担持されたNi-Re触媒が有用である。一般的に、スラリーリアクターの場合、担持された水素化触媒は、リアクター中、液状媒体1リットル当たり、10未満、時には約5未満、例えば、約0.1または0.5から3グラム/リットルのニッケル(元素のニッケルとして計算される)の量で提供される。上述したように、触媒中の全てのニッケルがゼロ原子価状態にあるとは限らないし、ゼロ原子価状態の全てのニッケルがグリコールアルデヒドまたは水素によって容易に利用できる状態であるとも限らない。したがって、特定の水素化触媒の場合、液状媒体1リットル当たりのニッケルの最適な質量は、様々であると予想される。例えば、ラネーニッケル触媒は、液状媒体1リットル当たりかなり高いニッケル濃度を提供すると予想される。多くの場合、スラリーリアクターにおいて、水素化触媒は、水性水素化媒体1リットル当たり、少なくとも約5または10、より多くの場合、約10から70または100グラムの量で提供され、充填床リアクターにおいて、水素化触媒は、リアクターの約20~80体積パーセントを構成する。一部の場合において、単位時間当たりの重量空間速度は、フィード中の総炭水化物に基づき、約0.01または0.05から1/時間である。好ましくは、滞留時間は、グリコールアルデヒドおよびグルコースが反応生成物の0.1質量パーセント未満であるのに十分であり、最も好ましくは、反応生成物の0.001質量パーセント未満である。
【0047】
[053]開示されたプロセスにおいて、反応条件(例えば、温度、水素分圧、触媒の濃度、水力学的分布、および滞留時間)の組合せは、アルドースまたはケトースを生じる炭水化物の、少なくとも約95質量パーセント、多くの場合少なくとも約98質量パーセント、時には実質的に全てを転換するのに十分なものである。求められる炭水化物の転換を提供すると予想される1つまたは複数の条件のセットを決定することは、本明細書の開示の利益を有する当業者の技術の十分に範囲内である。
【0048】
[054]エチレングリコールを生成するために逆アルドールプロセスを最適化することは、主として反応速度論の制限である逆アルドール転換の最適化、および主として物質移動の制限である水素化反応の最適化を含む。物質移動の制限は、水素化触媒部位への水素の供給を含み、水素欠乏は、高い水素化触媒活性を有する局所的な領域が存在する場合、生じ得る。水素欠乏は、一例として、これらに限定されないが、反応ゾーン内の水素化触媒の不均等分布、および反応ゾーン中のより高いフィード濃度を有する局所的な領域によって生じ得る。したがって水素欠乏は、有機酸の形成に至り、有機酸は、引き出された媒体中の副産物となり得る。プロセス制御の目的のために、pH決定は、しばしば有機酸濃度の代理データとして使用することができる。一部の場合において、フィードの速度を低減させることは、酸の生成を弱めることができるが、逆アルドール触媒および水素化触媒の絶対量および相対量の一方または両方の操作も必要な場合がある。
【0049】
[055]アセトールまたはトレーサーは、他のパラメーター観察と関連してしばしば使用される。特にアセトールを用いる場合、アセトールはエチレングリコールへの転換および選択性の観察可能な低減の前兆であり、アセトールの変化は、プロセスの変化を確認してプロセスの著しい崩壊を防止するように、好ましくは、エチレングリコールへの転換および選択性の材料の喪失を回避するように他のパラメーターにおける変化の見直しの開始のために用いることができる。一実施態様において、アセトールが増加した場合、接触水素化活性を評価するためにトレーサー前駆体の添加を開始させるか、または本来の場所以外での評価のために水素化触媒の一部の除去を開始させる。
【0050】
[056]多くの場合、プロセス制御のための追加のプロセスパラメーターインプットは、イトールおよび1,2-ブタンジオールの少なくとも一方の引き出された媒体中の濃度である。引き出された媒体に含有されるイトールは、炭水化物フィードとの反応に起因する。例えば、グルコースは、ソルビトールに水素化することができる。逆アルドール工程において、グルコースは、グリコールアルデヒドおよびエリトロースおよびトレオースを提供することができる。これらの四炭糖は、水素化されると、エリスリトールおよびトレイトールを生産する。グルコースは、異性化を受けてフルクトースになることもあり、フルクトースは、水素化されるとマンニトールになる。またフルクトースは逆アルドール条件下で炭素3個を有する化合物になり、したがってグリセロールを生産することができる。イトールの生成に起因して、プロセスへの洞察は、イトールのタイプおよび生産速度から得ることができる。
【0051】
[057]一般的な問題として、イトール濃度の増加は、全ての他の事柄が実質的に一定のままとすれば、逆アルドール触媒活性が影響を受けることを示し、操作的なインプットの一例は、(I)逆アルドール触媒活性を増加させるかまたは水素化触媒活性を減少させることによる、逆アルドール触媒活性および水素化触媒活性のそれぞれの絶対量および相対量、ならびに(II)反応ゾーンへの原材料のフィードの速度を低減させること、の少なくとも一方の調整であると予想される。
【0052】
[058]1,2-ブタンジオール濃度がプロセスパラメーターインプットとして使用される場合、1,2-ブタンジオールは、2つのグリコールアルデヒド分子間の反応またはテトロースの脱水に起因する可能性がある。前者において、一般的な規則は、全ての他の事柄が実質的に同じままとすれば、1,2-ブタンジオール濃度の増加は、反応ゾーンにおける水素化触媒活性の喪失を反映するということである。このケースにおいて、操作的なインプットの調整の例は、(I)水素化触媒の触媒活性を増加させることまたは逆アルドール触媒の触媒活性を減少させることによる、逆アルドール触媒および水素化触媒のそれぞれの絶対量および相対量、ならびに(II)反応ゾーンへの原材料のフィードの速度を低減させること、の少なくとも1つに対してなされるであろう。後者において、逆アルドール転換活性は不十分である可能性があり、(I)逆アルドール触媒の活性を増加させること、および(II)反応ゾーンへの原材料のフィードの速度およびその濃度を低減させることの少なくとも一方、は応答性の作用であると予想される。したがって、1,2-ブタンジオールの濃度が変化しているかどうかを指示的に示す別のパラメーターを有することが有用であり得る。例えば、異性化反応は逆アルドール転換に勝るため、1,2-ブタンジオールにおける増加が、グルコースの異性化からのフルクトースから生成するグリセロールにおける増加を伴うか否かは、その他の全てが同じままであるとすれば、逆アルドール活性低減の指標となるだろう。
【0053】
[059]アセトールは通常、引き出された媒体中に非常に低濃度で存在する。しかしながら、アセトールの増加は、特にフルクトースの濃度が実質的に変化していない場合、水素化触媒の活性の減少の高感度なインジケーターであることが見出されている。これらの環境下で、アセトール濃度の増加には、水素化触媒の触媒活性を増加させること、および/または反応ゾーンへの原材料フィードの速度もしくは濃度を低減させることによって対処することができる。一部の場合において、引き出された媒体中のアセトール濃度は、0.15質量パーセント未満、好ましくは0.10質量パーセント未満である。
【0054】
[060]トレーサーは、アセトールと同様に使用することができる。メチルエチルケトンなどのケトンは、アルデヒドのカルボニルに比べて内部カルボニルが水素化に対して耐性であるため、逆アルドール/水素化プロセスのためのトレーサーを提供するのに有用である。したがってケトンの水素化の程度は、反応ゾーンにおける水素化活性のインジケーターである。ケトンの濃度は広く変更が可能であり、例えば、引き出された媒体中のトレーサーの濃度を分析的に検出する能力に依存すると予想される。しばしばトレーサーの濃度は、媒体の質量に基づいて約1ppm(百万分率)~1質量パーセントの範囲内である。
【0055】
[061]使用される制御システムおよび制御システムハードウェアは、この発明の広範なプロセスにとって重要ではなく、手動操作を含むあらゆる好適な制御システムを使用することができる。設計空間およびモデル予測制御が周知であり、多変量であり、好ましい。前者はモデルに基づいており、操作的なインプット値は、許容できる操作のウィンドウまで維持される。操作的なインプットが相関する場合、設計空間制御システムは、1つの操作的なインプットにおける調整が1つまたはそれより多くの他の操作的なインプットにおける調整と一致するように、予測モデルを用いて設計することができる。後者は、プロセスの瞬間的な状態だけでなくプロセスの将来的な状態も考察する。このモデルは、例えば線形モデルまたは二次モデルで開発することができる。これらのモデルは、実験的なデータとプロセスの目的に関するプロセスの性能から導き出してもよい。モデル予測制御に関して、プロセスからのデータは、モデルの将来的な予測の解釈を精緻化するのに使用することができる。制御システムはオープンループであってもよいし、またはクローズドループであってもよく、クローズドループの場合、ループは、プラント全体またはその部分であってもよい。
【0056】
[062]本開示を、様々な実施態様を参照して説明したが、当業者は、この開示の本質および範囲から逸脱することなく形態および詳細に変更をなすことが可能であること認識しているであろう。