(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】優れたフィラー分散性を有するポリイミド系フィルム及びそれを含む表示装置
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20250109BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20250109BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20250109BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08L79/08
C08K3/36
G09F9/00 302
(21)【出願番号】P 2023500353
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 KR2021008763
(87)【国際公開番号】W WO2022010298
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】10-2020-0085591
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0090033
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヒョ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ハク-ギ
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-110138(JP,A)
【文献】特開2006-327022(JP,A)
【文献】特表2022-545961(JP,A)
【文献】特開2019-194327(JP,A)
【文献】特開2019-194347(JP,A)
【文献】特表2017-520662(JP,A)
【文献】特開2005-306940(JP,A)
【文献】国際公開第2022/010253(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/010299(WO,A1)
【文献】特表2023-533274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02
5/12-5/22
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
G09F9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系マトリックスと、
前記ポリイミド系マトリックスに分散されたフィラーと、を含み、
1.10以下の、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)を有
し、
前記フィラーの平均粒径が5~50nmであり、
前記フィラーの含有量が全重量に対して5~50重量%である、ポリイミド系フィルム:
前記密度勾配管密度に対する真密度比(Density Ratio、DR)は、下記の式1で算出される。
<式1>
Density Ratio(DR)=真密度/密度勾配管密度
【請求項2】
5~38%の粒子体積濃度(PVC)を有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド系フィルム:
前記粒子体積濃度(PVC)は、下記の式2で算出される。
<式2>
PVC(%)=[V
1/(V
1+V
2)]*100
前記式2において、V
1は前記フィラーの体積であり、V
2は前記マトリックスの体積である。
【請求項3】
前記フィラーがシリカ(SiO
2)を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項4】
前記シリカ(SiO
2)の少なくとも一部がアルコキシ基を有する有機化合物によって表面処理されていることを特徴とする請求項3に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項5】
5.0 GPa以上のヤング率を有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項6】
15%以上の伸び率を有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項7】
45以上の圧入硬度を有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項8】
3以下の黄色度を有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項9】
1%以下のヘイズを有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項10】
85%以上の光透過度を有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項11】
表示パネルと、
前記表示パネル上に配置された請求項1~
10のいずれか一項に記載のポリイミド系フィルムと、
を含む表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたフィラー分散性を有するポリイミド系フィルム及びそれを含む表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド(PI)系樹脂は、不溶性、耐化学性、耐熱性、耐放射線性及び低温特性などに優れ、自動車材料、航空素材、宇宙船素材、絶縁コーティング剤、絶縁膜、保護フィルムなどとして使用されている。
【0003】
近年、表示装置の薄型化、軽量化、フレキシブル化により、表示装置のカバー窓としてガラスの代わりにポリイミド系フィルムを用いることが検討されている。ポリイミド系フィルムを表示装置のカバー窓として用いるためには、ポリイミド系フィルムが優れた硬度、耐摩耗性、屈曲性などの機械的特性及び優れた視認性、光透過性などの光学特性を有する必要がある。所望の物性を付与するために、ポリイミド系フィルムにフィラーが添加されることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一実施例は、ポリイミド系樹脂内にフィラーが均一に分散しているポリイミド系フィルムを提供することを目的とする。
【0005】
本発明の一実施例は、密度勾配管密度に対する真密度比(Density Ratio、DR)が1.10以下であるポリイミド系フィルムを提供することを目的とする。
【0006】
本発明の一実施例は、粒子体積濃度(PVC)が5~38%であるポリイミド系フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施例は、ポリイミド系マトリックスと、前記ポリイミド系マトリックスに分散されたフィラー(filler)と、を含み、1.10以下の、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)を有する、ポリイミド系フィルムを提供する。
【0008】
前記密度勾配管密度に対する真密度比(DR)は、下記の式1で算出される。
【0009】
<式1>
Density Ratio(DR)=真密度/密度勾配管密度
【0010】
ポリイミド系フィルムは、5~38%の粒子体積濃度(PVC)を有することができる。
【0011】
前記粒子体積濃度(PVC)は、下記の式2で算出される。
【0012】
<式2>
PVC(%)=[V1/(V1+V2)]*100
【0013】
式2において、V1は前記フィラーの体積であり、V2は前記マトリックスの体積である。
【0014】
前記フィラーはシリカ(SiO2)を含むことができる。
【0015】
前記シリカ(SiO2)の少なくとも一部は、アルコキシ基を有する有機化合物によって表面処理されることができる。
【0016】
前記フィラーの平均粒径は5~50nmであり得る。
【0017】
前記フィラーの含有量は、ポリイミド系フィルムの全重量に対して5~50重量%であり得る。
【0018】
前記ポリイミド系フィルムは、5.0GPa以上のヤング率(Young’s modulus)を有することができる。
【0019】
前記ポリイミド系フィルムは、15%以上の伸び率を有することができる。
【0020】
前記ポリイミド系フィルムは、45以上の圧入硬度を有することができる。
【0021】
前記ポリイミド系フィルムは、3以下の黄色度を有することができる。
【0022】
前記ポリイミド系フィルムは、1%以下のヘイズ(haze)を有することができる。
【0023】
前記ポリイミド系フィルムは、85%以上の光透過度を有することができる。
【0024】
本発明の他の実施例は、表示パネル及び表示パネル上に配置されたポリイミド系フィルムを含む表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一実施例によれば、優れたフィラー分散性を有するポリイミド系フィルムを製造することができる。
【0026】
一般に、ポリイミド系フィルムにフィラーが分散されている場合、ポリイミド系フィルムのヘイズが低下することがあるが、本発明の一実施例によれば、ポリイミド系フィルムにおいてフィラー分散性に優れ、1.10以下の、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)を有することができる。その結果、本発明のポリイミド系フィルムは、優れた光学特性及び優れた機械的特性を有することができる。
【0027】
本発明の一実施例によるポリイミド系フィルムは優れた光学特性及び機械的特性を有し、表示装置のカバー窓として使用される場合、表示装置の表示面を効果的に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施例によるポリイミド系フィルムの概略図である。
【
図2】フィルムの密度勾配管密度に対する真密度比(DR)によるフィルム内部の空隙(pore)の差を示したものである。
【
図3】フィルムの粒子体積濃度(PVC)によるフィルム内部の空隙の差を示したものである。
【
図4】本発明の一実施例に係るポリイミド系フィルムにおけるフィラーの分散状態を説明する模式図である。
【
図5】本発明の他の実施例による表示装置の一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。ただし、以下に説明する実施例は、本発明の明確な理解を助けるための例示的な目的として提示されるものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0030】
本発明の実施例を説明するために図面に開示された形状、サイズ、比率、角度、数などは例示的なものであり、本発明が図面に示された事項に限定されるものではない。明細書の全体を通して、同じ構成要素は同じ参照番号と呼ばれることがある。本発明の説明において、関連する公知技術の具体的な説明が本発明の要旨を不必要に曖昧にすることができると判断される場合、その詳細な説明は省略される。
【0031】
本明細書において言及される「含む」、「有する」、「なされる」などが使用される場合、「~のみ」という表現が使用されない限り、他の部分が追加され得る。構成要素が単数で表される場合、特に明示的な記載がない限り複数を含む。また、構成要素を解析する際に、別途の明示的な記載がなくても誤差範囲を含むものと解釈する。
【0032】
位置関係の説明である場合、例えば、「~上に」、「~上部に」、「~下部に」、「~側に」など、二つの部分の位置関係を説明する場合、「直ちに」あるいは「直接」という表現が使用されない限り、二つの部分の間に一つ以上の他の部分が配置されてもよい。
【0033】
空間的に相対的な用語である「下(below、beneath)」、「下部(lower)」、「上(above)」、「上部(upper)」などは、図に示すように、一つの素子又は構成要素と他の素子又は構成要素との相関関係を容易に記述するために使われてもよい。空間的に相対的である用語は、図面に示されている方向に加えて、使用時又は動作時に素子の互いに異なる方向を含む用語として理解されるべきである。例えば、図面に示されている素子をひっくり返す場合に、他の素子の「下(below又はbeneath)」と記述された素子は、他の素子の「上(above)」に置かれることができる。したがって、例示的な用語である「下」は、下と上のいずれの方向を含むことができる。同様に、例示的な用語である「上」も、上と下のいずれの方向を含むことができる。
【0034】
時間関係に関する説明において、例えば、「~後に」、「~に続いて」、「~次に」、「~前に」などで時間的先後関係が説明される場合に、「直ちに」又は「直接」という表現が使われない以上、連続していない場合も含むことができる。
【0035】
第1、第2などが様々な構成要素を説明するために使われるが、これらの構成要素は当該用語によって限定されない。当該用語は、単に、一つの構成要素を他の構成要素と区別するために使われる。したがって、以下に言及される第1構成要素は、本発明の技術的思想内で第2構成要素であることができる。
【0036】
「少なくとも一つ」との用語は、一つ以上の関連項目から提示可能な全ての組合せを含むものと理解されるべきである。例えば、「第1項目、第2項目及び第3項目のうち少なくとも一つ」との意味は、第1項目、第2項目又は第3項目のそれぞれだけでなく、第1項目、第2項目及び第3項目のうち2項目以上から提示可能なあらゆる項目の組合せも意味できる。
【0037】
本発明の様々な実施例のそれぞれの特徴は部分的に又は全体的に互いに結合又は組合せ可能であり、技術的に様々な連動及び駆動が可能であり、各実施例は互いに独立して実施されてもよく、関連付けられて共に実施されてもよい。
【0038】
図1は、本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100の概略図である。
【0039】
図1に示すように、本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100は、ポリイミド系マトリックス110及びポリイミド系マトリックスに分散されたフィラー120を含む。
【0040】
本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100において、フィルム100の密度勾配管(density-gradient tube)密度に対する真密度比(DR)は1.10以下である。
【0041】
フィルム100の密度勾配管密度に対する真密度比(DR)は、下記の式1で算出される。
【0042】
<式1>
Density Ratio(DR)=真密度/密度勾配管密度
【0043】
真密度(true density)とは固体密度を意味し、粒子と粒子との間の空隙を除く完全に材料で満たされた部分のみの密度をいう。本発明の一実施例によれば、真密度は、空隙を除いたポリイミド系マトリックス110及びフィラー120で満たされた部分のみの密度である。
【0044】
真密度は、測定時の測定フィルム100の試料の大きさによってその値が変わり得る。したがって、本発明の一実施例によれば、粉末化分析によってフィルム100の真密度を求めることができる。
【0045】
具体的には、フィルム100の試料(10×10cm2)を1×1cm2以下の大きさに細かく切断してサンプルホルダーに鉄球(粉砕体)と共に入れる。冷凍粉砕機(Japan Analytical Industry社、JFC-300)に2/3以上の液体窒素を満たし、切り取った試料が入ったサンプルホルダーを冷凍粉砕機と結合した後、チャンバーを閉じる。冷凍粉砕機を用いてpre-cool 15分/run 15分以上試料を粉砕する。Micromeritics社 AccuPyc1340 Pycnometer装置(ヘリウムガス使用)を用いて粉砕したフィルム100の試料の真密度を7回測定する。測定されたフィルム100の真密度値のうち最高及び最低値を除いて、残りの真密度値の平均が本発明におけるフィルム100の真密度である。
【0046】
密度勾配管密度とは、密度勾配管を用いて測定した密度をいう。密度勾配管は密度を測定する一つの手段である。
【0047】
本発明の一実施例によれば、フィルム100の密度勾配管密度は、標準規格ASTM D1505に従って密度勾配管を用いて求めることができる。
【0048】
具体的には、密度勾配管はガラス円筒の下部に比重の大きい液体を、上部に小さな液体を入れてその間に密度の傾きを作ったもので、このような密度勾配管にフィルム100試料片を入れると、その密度と同じ位置にぶら下がって停止し、その位置の密度勾配を介してフィルム100の試料の密度勾配管密度を知ることができる。密度勾配管の密度の傾きは、比重が既知のガラス球状フロートを入れる方法、様々な濃度の塩化亜鉛水溶液の比重をあらかじめ測定した後、密度勾配管内に固定させる方法、または密度勾配管の比重が相異なる液体のうちの一つの液体にのみ溶ける染料を用いた比色法によって知ることができる。
【0049】
以下、
図2を参照して、フィルム100の密度勾配管密度に対する真密度比(DR)について詳細に説明する。
図2は、フィルム100の密度勾配管密度に対する真密度比(DR)によるフィルム100内の空隙の差を示す。
【0050】
フィルム100の密度勾配管密度に対する真密度比(DR)は、フィルム100に存在する空隙の程度(空隙率、porosity)をフィルム100の密度勾配管密度と真密度の比を用いて示したものである。真密度はフィルム100から空隙を除いたマトリックス110及びフィラー120の密度であり、密度勾配管密度は空隙を含むフィルム100の密度であり、真密度と密度勾配管密度の比を通じてフィルム100の空隙率を表すことができる。
【0051】
図2に示すように、フィルム100の密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が増加するほど、フィルム100の空隙が増加し、逆に密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が減少するほど、フィルム100の空隙が減少する。
【0052】
一般に、フィルム100がフィラー120を含む場合、フィラー120の分散の程度に応じて、フィルム100の空隙差が生じる可能性がある。フィラー120の分散性が小さくてフィラー120が集まっていると、フィラーとフィラーとの間の空間がマトリックス110によって十分に満たされず、空隙が発生することがある。逆に、フィラー120がよく分散されている場合、マトリックス110とフィラー120とが十分に混合された状態で、フィラーとフィラーとの間の空間にマトリックス110が十分に充填され得るので、空隙が減少する。
【0053】
フィルム100内の空隙が減少するほど、フィルム100の引張強度、ヤング率(Young’s modulus)、伸び率、圧入硬度及び光透過度が増加し、黄色度及びヘイズは減少する。これにより、フィルム100の耐摩耗性、屈曲性などの機械的特性、光透過性、視認性などの光学特性が優れている。
【0054】
本発明の一実施例によれば、フィルム100の密度勾配管密度に対する真密度比(DR)は1.10以下である。
【0055】
密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が1.10を超える場合、フィラー120のフィルム100内の充填効果が減少して、フィルム100の硬度及びヤング率の向上効果が減少する。また、フィラー120の凝集に起因するフィルム100内の空隙の増加により、フィルム100の伸び率及び圧入硬度が減少するという問題が生じる。また、フィラー120の凝集によって、フィルム100のヘイズが増加する。
【0056】
本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100において、フィルム100の粒子体積濃度(PVC)は5~38%である。
【0057】
フィルム100の粒子体積濃度(PVC)は、下記の式2で算出される。
【0058】
<式2>
PVC(%)=[V1/(V1+V2)]*100
【0059】
式2において、V1は前記フィラーの体積であり、V2は前記マトリックスの体積である。
【0060】
以下、
図3を参照して、粒子体積濃度(PVC)について具体的に説明する。
図3は、フィルム100の粒子体積濃度(PVC)によるフィルム100の内部の空隙の差を示したものである。
【0061】
粒子体積濃度(PVC)は、フィルム100内のマトリックス110とフィラー120の総体積に対してフィラー120が占める体積の割合をパーセント(%)で表したものである。
【0062】
図3に示すように、フィルム100の粒子体積濃度(PVC)が減少する場合、フィルム100の空隙が減少し、粒子体積濃度(PVC)が増加する場合、フィルム100の空隙が増加する。
【0063】
フィルム100の粒子体積濃度(PVC)が増加すると、フィルム100内のフィラー120が占める体積が増加し、フィラーとフィラーとの間の平均距離が短くなる。フィラーとフィラーとの間の平均距離が短くなると、マトリックス110がフィラーとフィラーとの間の空間に充填されにくくなり、空隙が増加する。
【0064】
フィラーの体積(V1)は、フィラーの質量を密度で割って算出することができる。具体的には、フィルム100に含まれるフィラーの質量及び密度をそれぞれ測定してフィラーの体積(V1)を算出することができる。例えば、フィラーの質量は、フィルム100を製造する際に添加されるフィラーの重量を測定して分かることができる。フィラーの密度は、上述した真密度測定方法または密度勾配管密度測定方法を用いてフィラーの密度を測定することができる。
【0065】
マトリックスの体積(V2)は、マトリックスの質量を密度で割ることによって算出することができる。具体的には、フィルム100に含まれるマトリックスの質量及び密度をそれぞれ測定してマトリックスの体積(V2)を算出することができる。例えば、マトリックスの質量は、フィルム100を製造する際に添加されるマトリックスの重量を測定して分かることができる。マトリックスの密度は、上述した真密度測定方法または密度勾配管密度測定方法を用いてマトリックスの密度を測定することができる。
【0066】
本発明の一実施例によれば、フィルム100の粒子体積濃度(PVC)は5~38%である。
【0067】
粒子体積濃度(PVC)が5%未満の場合、フィラー120によるフィルム100の機械的物性改善効果がわずかである。また、粒子体積濃度(PVC)が38%を超えると、フィラー120とマトリックス110との接触面の不連続が発生して、伸び率及び圧入硬度が減少する。
【0068】
本発明の一実施例によれば、ポリイミド系マトリックス110は光透過性を有する。また、ポリイミド系マトリックス110はフレキシブル特性を有する。例えば、ポリイミド系マトリックス110は、曲げ(bending)特性、折り畳み(folding)特性及びローラブル(rollable)特性を有する。
【0069】
ポリイミド系マトリックス110はポリイミド系樹脂を含む。ポリイミド系マトリックス110は、例えば、ポリイミド系樹脂からなることができる。
【0070】
本発明の一実施例によるポリイミド系マトリックス110は、ジアンヒドリド及びジアミンを含むモノマー成分から製造されることができる。
【0071】
より具体的には、本発明の一実施例によるポリイミド系マトリックス110は、ジアンヒドリドとジアミンによって形成されたイミド繰り返し単位を有する。
【0072】
しかしながら、本発明の一実施例によるポリイミド系マトリックス110はこれに限定されない。本発明の一実施例によるポリイミド系マトリックス110は、ジアンヒドリド及びジアミンに加えてジカルボニル化合物をさらに含むモノマー成分から製造されることができる。したがって、本発明の一実施例によるポリイミド系マトリックス110は、イミド繰り返し単位とアミド繰り返し単位を有することができる。イミド繰り返し単位とアミド繰り返し単位とを有するポリイミド系マトリックス110として、例えば、ポリアミド-イミド樹脂がある。
【0073】
したがって、本発明の一実施例によるポリイミド系マトリックス110は、ポリイミド樹脂を含んでもよく、ポリアミド-イミド樹脂を含んでもよい。
【0074】
本発明の一実施例によれば、ポリイミド系マトリックス110として使用されるポリイミド系樹脂は、優れた機械的特性及び光学特性を有することができる。
【0075】
ポリイミド系マトリックス110は、ポリイミド系フィルム100が表示パネルを保護するのに十分な程度の厚さを有することができる。例えば、ポリイミド系マトリックス110は、10~100μmの厚さを有することができる。
【0076】
ポリイミド系マトリックス110は、厚さ10~100μmを基準に、UV分光光度計で測定された可視光領域で85%以上の平均光透過度、5以下の黄色度を有することができる。
【0077】
本発明の一実施例によれば、フィラー120は無機物であっても有機物であってもよい。フィラー120は粒子の形状を有することができる。本発明の一実施例によれば、無機物フィラーを使用することができる。
【0078】
本発明の一実施例によれば、フィラー120は、シリカ(SiO2)、ジルコニア(ZrO2)、アルミナ(Al2O3)、二酸化チタン(TiO2)、スチレン及びアクリルのうちの少なくとも一つを含み得る。例えば、無機物であるシリカ(SiO2)粒子をフィラー120として使用することができる。
【0079】
本発明の一実施例によれば、フィラー120として使用されるシリカ(SiO2)の少なくとも一部が表面処理されることができる。より具体的には、表面処理されたシリカ(SiO2)粒子をフィラー120として使用することができる。
【0080】
本発明の一実施例によれば、フィラー120として使用されるシリカ(SiO2)の少なくとも一部は、アルコキシ基を有する有機化合物によって表面処理されることができる。例えば、置換または置換されていないアルキルアルコキシシラン及びフェニルアルコキシシランのうちの少なくとも一つによって表面処理されたシリカ(SiO2)粒子をフィラー120として使用することができる。
【0081】
具体的には、メチルアルコキシシラン、エチルアルコキシシランまたはフェニルアルコキシシランにより表面処理されたシリカ(SiO2)粒子をフィラー120として用いることができる。より具体的には、トリメトキシ(メチル)シラン[trimethoxy(methyl)silane]、フェニルトリメトキシシラン[phenyltrimethoxysilane]で表面処理されたシリカ(SiO2)粒子をフィラー120として用いることができる。
【0082】
本発明の一実施例によれば、フィラー120は、下記の化学式1~化学式7で表される単位構造を有することができる。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
化学式1~化学式6において、Rはそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数6~18のフェニル基のうち少なくとも一つであり得る。
【0090】
本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100は、優れた機械的特性及び光学的特性を有する。
【0091】
光学特性に関して、本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100は、3以下の黄色度を有することができる。また、本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100は、1%以下のヘイズを有することができる。本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100は、85%以上の光透過度を有することができる。
【0092】
さらに、機械的特性に関して、本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100は、5.0GPa以上のヤング率を有することができる。また、本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100は、15%以上の伸び率を有することができる。また、本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100は、45以上の圧入硬度を有することができる。
【0093】
本発明の一実施例によれば、ポリイミド系フィルム100が優れた光学特性及び機械的特性を有するようにするために、フィラー120の粒子のサイズ、フィラー120の含有量、及び粒子の間隔が調整されることができる。
【0094】
また、フィラー120がポリイミド系マトリックス110に均一に混合されて、ポリイミド系フィルム100が優れた光学特性及び機械的特性を有するようにするために、本発明の一実施例は、ポリイミドベースマトリックス110を構成するポリイミド系ポリマーとフィラー120との新しい混合方法を提供する。
【0095】
本発明の一実施例によれば、フィラー120は5~50nmの平均粒径を有することができる。フィラー120の平均粒径が5nm未満であると、フィラー120の分散性が低下して、フィラー120が凝集する(aggregate)ことがある。一方、フィラー120の平均粒径が50nmを超えると、フィラー120を含むポリイミド系フィルム100の光学特性が低下することがある。例えば、平均粒径が50nmを超えるフィラー120が過剰に含まれると、ポリイミド系フィルム100のヘイズが増加する可能性がある。
【0096】
また、フィラー120の平均粒径が5nm未満であると、フィラー120の凝集により、フィラー120の凝集が発生した部分でポリイミドフィルム100の機械的強度が低下して、ポリイミドフィルム100の引張強度、ヤング率及び圧入硬度が低下することがある。フィラー120の平均粒径が50nmを超えると、ポリイミド系フィルム100の伸び率15%未満となることがある。
【0097】
また、フィラー120の平均粒径が5nm未満の場合、フィラー120の分散性が低下することがあり、フィラー120の平均粒径が50nmを超えると、フィラー120間の間隔が十分に確保されない。したがって、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が1.10を超えることがある。
【0098】
本発明の他の実施例によれば、フィラー120は10~20nmの平均粒径を有することができ、または10~15nmの平均粒径を有することができる。
【0099】
ポリイミドフィルム100がナノメートル単位の粒径を有するフィラー120を含む場合、フィラー120による光散乱によりポリイミドフィルム100の光学特性を向上させることができる。また、ポリイミドフィルム100がフィラー120を含む場合、ポリイミドフィルム100の機械的特性を向上させることができる。
【0100】
本発明の一実施例によれば、フィラー120の含有量は、ポリイミド系フィルム100の全重量に対して5~50重量%の範囲であり得る。
【0101】
フィラー120の含有量がポリイミド系フィルム100の全重量に対して5重量%未満の場合、フィラー120による光散乱効果がわずかであり、ポリイミド系フィルム100の光透過度改善効果がほとんど現れないこともある。また、フィラー120の含有量がポリイミド系フィルム100の全重量に対して5重量%未満である場合、ポリイミド系フィルム100の引張強度、ヤング率、伸び率及び硬度改善効果がわずかであり得る。
【0102】
一方、フィラー120の含有量がポリイミド系フィルム100の全重量に対して50重量%を超えると、フィラー120の分散性が低下して、ポリイミド系フィルム100のヘイズが低下し、過剰のフィラー120が光を遮断してポリイミド系フィルム100の光透過度が低下することがある。
【0103】
図4は、本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100におけるフィラー120の分散状態を説明する概略図である。
【0104】
図4に示すように、フィラー120の一部は互いに離隔して分散されているが、一部は凝集を形成している。
図4において、「Group A」は、凝集を形成しているフィラー120を示す。「Group A」のフィラー120以外のフィラー120は、凝集せず分散されているフィラー120(GroupA以外の部分)を示す。
図4の「Group A」のような凝集を形成しているフィラー120の数が少ないほど、ポリイミド系フィルム100内でフィラー120が均一に分散されているものである。
【0105】
図4の「Group A」のような凝集を形成しているフィラー120の量が少ない場合、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が1.10以下となり、ポリイミド系フィルム100が優れた引張強度、ヤング率、伸び率及び圧入硬度を有することができる。また、「Group A」のような凝集を形成しているフィラー120の量が少ない場合、粒子体積濃度(PVC)が5~38%の範囲となり、ポリイミド系フィルム100が優れた引張強度及びヤング率を有することができる。
【0106】
一般に、フィラー120が含まれる場合、フィラー120が十分に均一に分散できないと、ポリイミド系フィルム100の引張強度、ヤング率、伸び率、圧入硬度及び光透過度が低下し、黄色度及びヘイズが増加するなど、ポリイミド系フィルム100の機械的特性及び光学的特性が低下する可能性がある。しかし、本発明の一実施例によれば、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)を1.10以下とすることにより、ポリイミド系フィルム100の引張強度、ヤング率、伸び率、圧入硬度及び光透過度の低下を防止でき、黄色度及びヘイズの増加を防止することができる。
【0107】
また、本発明の一実施例によれば、粒子体積濃度(PVC)を5~38%とすることで、ポリイミド系フィルム100の引張強度及びヤング率の低下を防止することができる。
【0108】
本発明の一実施例によれば、ポリイミド系フィルム100の密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が1.10以下となり、ポリイミド系フィルム100は5.0GPa以上のヤング率を有することができる。
【0109】
また、本発明の一実施例によれば、ポリイミド系フィルム100は、15%以上の伸び率を有することができる。
【0110】
また、本発明の一実施例によれば、ポリイミド系フィルム100は、45以上の圧入硬度を有することができる。
【0111】
また、本発明の一実施例によれば、ポリイミド系フィルム100は、85%以上の光透過率を有することができる。
【0112】
また、本発明の一実施例によれば、ポリイミド系フィルム100は、1%以下のヘイズを有することができる。
【0113】
さらに、本発明の一実施例によれば、ポリイミド系フィルム100は、3.0以下の黄色度を有することができる。
【0114】
図5は、本発明の他の実施例による表示装置200の一部の断面図であり、
図6は、
図5の「P」部分の拡大断面図である。
【0115】
図5を参照すると、本発明の他の実施例による表示装置200は、表示パネル501及び表示パネル501上のポリイミド系フィルム100を含む。
【0116】
図5及び
図6を参照すると、表示パネル501は、基板510と、基板510上の薄膜トランジスタ(TFT)と、薄膜トランジスタ(TFT)に接続された有機発光素子570と、を含む。有機発光素子570は、第1電極571と、第1電極571上の有機発光層572と、有機発光層572上の第2電極573と、を含む。
図5及び
図6に開示された表示装置200は有機発光表示装置である。
【0117】
基板510はガラスまたはプラスチックで作ることができる。具体的には、基板510は、ポリイミド系樹脂やポリイミド系フィルムなどのプラスチックで作ることができる。図示されていないが、基板510上にバッファ層を配置することができる。
【0118】
薄膜トランジスタ(TFT)は基板510上に配置される。薄膜トランジスタ(TFT)は、半導体層520と、半導体層520と絶縁されて半導体層520の少なくとも一部と重なるゲート電極530と、半導体層520に接続されたソース電極541と、ソース電極541と離間して半導体層520と接続されたドレイン電極542と、を含む。
【0119】
図6を参照すると、ゲート電極530と半導体層520との間にゲート絶縁膜535が配置される。ゲート電極530上に層間絶縁膜551を配置し、層間絶縁膜551上にソース電極541及びソース電極541を配置することができる。
【0120】
平坦化膜552は、薄膜トランジスタTFT上に配置されて薄膜トランジスタTFTの上部を平坦化する。
【0121】
第1電極571は平坦化膜552上に配置される。第1電極571は、平坦化膜552に設けられたコンタクトホールを介して薄膜トランジスタ(TFT)と接続される。
【0122】
バンク層580は、第1電極571の一部及び平坦化膜552上に配置されて画素領域又は発光領域を定義する。例えば、バンク層580を複数の画素間の境界領域にマトリクス構造に配置することにより、バンク層580によって画素領域を定義することができる。
【0123】
有機発光層572は、第1電極571上に配置される。有機発光層572は、バンク層580上にも配置することができる。有機発光層572は、一つの発光層を含んでもよく、上下に積層された二つの発光層を含んでもよい。このような有機発光層572では、赤色、緑色及び青色のいずれか一つの色を有する光を発することができ、白色光を発することができる。
【0124】
第2電極573は有機発光層572上に配置される。
【0125】
第1電極571、有機発光層572及び第2電極573を積層して有機発光素子270を形成することができる。
【0126】
図示されていないが、有機発光層572が白色光を発光する場合、個々の画素は、有機発光層572から放出される白色光を波長別にフィルタリングするためのカラーフィルタを含むことができる。カラーフィルタは光の移動経路上に形成される。
【0127】
第2電極573上に薄膜封止層590を配置することができる。薄膜封止層590は、少なくとも一つの有機膜と少なくとも一つの無機膜とを含むことができ、少なくとも一つの有機膜と少なくとも一つの無機膜とを交互に配置することができる。
【0128】
上述した積層構造を有する表示パネル501上にポリイミド系フィルム100が配置される。ポリイミド系フィルム100は、ポリイミド系マトリックス110及びポリイミド系マトリックス110に分散されたフィラー120を含む。
【0129】
本発明の一実施例によるポリイミド系フィルム100は、溶液対溶液混合と溶液対粉末混合を並行するハイブリッド混合法により製造されることができる。
【0130】
本発明の一実施例によれば、ポリイミド系フィルム100の製造方法は、ポリイミド系樹脂粉末を製造する段階と、ポリアミド系樹脂粉末の第1含有量を第1溶媒に溶解させてポリイミド系樹脂溶液を製造する段階と、フィラーを第2溶媒に分散させてフィラー分散液を製造する段階と、フィラー分散液とポリイミド系樹脂溶液を混合して第1混合液を製造する段階と、第1混合液にポリイミド系樹脂粉末の第2の含有量を添加し溶解させて第2の混合液を製造する段階と、を含む。
【0131】
本発明の一実施例によれば、ポリイミド系樹脂粉末は少なくとも2回に分けてフィラー分散液と混合される。
【0132】
具体的には、ポリイミド系樹脂粉末中の第1含有量は第1溶媒に溶解されて、ポリイミド系樹脂溶液の形態でフィラー分散液と混合される。第1の含有量は、フィラー重量の0.5~10%であり、好ましくは、1~5%であり得る。
【0133】
また、ポリイミド系樹脂粉末中の第2含有量は粉末状態で添加される。具体的には、ポリイミド系樹脂粉末中の第2含有量は、フィラー分散液とポリイミド系樹脂溶液とが混合されてなる第1混合液に粉末状態で添加されることができる。
【0134】
ポリイミド系樹脂粉末の第2含有量は、第1含有量の10倍~200倍とすることができる。より具体的には、ポリイミド系樹脂粉末の第2含有量は、第1含有量の60倍~200倍とすることができる。
【0135】
本発明の一実施例によれば、ポリイミド系樹脂粉末の第2含有量を第1混合液に添加する前に、第1混合液に第3溶媒を添加する段階をさらに含むことができる。第3の溶媒は第1の溶媒と同じでも異なっていてもよい。本発明の一実施例によれば、第3の溶媒として第1の溶媒と同じ溶媒を使用することができる。
【0136】
第1の溶媒としてDMAc(N,N-Dimethylacetamide)を使用することができる。第2の溶媒としては、DMAc(N、N-Dimethylacetamide)またはMEK(Methyl Ethyl Ketone)を使用することができる。第3の溶媒としてDMAc(N,N-Dimethylacetamide)を使用することができる。しかしながら、本発明の一実施例はこれに限定されず、第1の溶媒、第2の溶媒及び第3の溶媒として公知の他の溶媒を使用することができる。
【0137】
本発明の一実施例によれば、まず、ポリイミド系樹脂粉末の一部(第1含有量)を溶媒に溶解した後、フィラー分散液と混合する。これにより、フィラーの分散性が向上する。
【0138】
参考として、フィラーが分散されているフィラー分散液に直接ポリイミド系樹脂粉末が投入される場合、粉末の表面から溶媒が瞬間的に粉末の内側に浸透し、このとき、粉末表面周囲の濃度が瞬間的に上昇してフィラーの凝集が発生する可能性がある。
【0139】
一方、本発明の一実施例によれば、溶媒を含むフィラー分散液に、既に溶解されているポリイミド系樹脂を先に添加することにより、フィラー間に分布されたポリイミド系樹脂の高分子鎖がフィラー間の凝集を防止することができる。その後、ポリイミド系樹脂粉末が再び添加されても(第2含量添加)、フィラー間の凝集は発生しない。これにより、フィラーの凝集が防止され、フィラーの分散性が向上される。
【0140】
本発明の一実施例による溶液対溶液混合と溶液対粉末混合を並行するハイブリッド混合法により、均一に分散されたフィラーを含むポリイミド系フィルム100を製造することができる。
【0141】
本発明の一実施例によれば、フィラー120とポリイミド系樹脂との自由度が高い状態を維持することができ、分散性が容易な環境を作ることができる。これにより、高い自由度状態でフィラー120とポリイミド系樹脂が結合することができ、フィラー120がポリイミド系樹脂により形成されたマトリックス110に均一に分散されているポリイミド系フィルム100を製造することができる。
【0142】
本発明の一実施例によれば、フィラー120としてシリカ粒子を使用することができる。シリカ粒子は、例えば、テトラエチルトリエトキシシランから製造することができる。
【0143】
具体的には、反応器にエタノールとテトラエチルトリエトキシシラン(tetraethyltriethoxysilane,TEOS,Si(OC2H5)4)を加えて常温で攪拌し、これにNH4OHを加えた後、攪拌して得られた反応物を濾過し、エタノールで洗浄した後、減圧下で乾燥して、平均粒径が20nm程度のシリカ粒子[SiO2]を製造することができる。
【0144】
フィラー120分散液としてシリカ分散液を使用することができる。シリカ分散液は、例えば、反応器にDMAc(Dimethylacetamide)及びシリカ粒子を添加し攪拌することによって製造されることができる。
【0145】
以下、例示的な製造例及び実施例を参照して本発明をより具体的に説明する。しかしながら、以下に説明する製造例や実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0146】
<製造例1:ポリイミド系ポリマー固形体の製造>
攪拌機、窒素注入装置、滴下漏斗、温度調節器及び冷却器を取り付けた1L反応器に窒素を通過させながら、DMAc(N,N-Dimethylacetamide)776.655gを満たした後、反応器の温度を25℃に設定した後、TFDB 54.439g(0.17 mol)を溶解し、この溶液を25℃に維持した。これにBPDA 15.005g(0.051 mol)を加え、3時間攪拌してBPDAを完全に溶解させた後、6FDA 22.657g(0.051 mol)を加えて完全に溶解させた。反応器の温度を10℃に下げた後、TPC 13.805g(0.068 mol)を加えた後、25℃で12時間反応して固形体の濃度が12重量%のポリマー溶液を得た。
【0147】
得られたポリマー溶液にピリジン17.75g、アセチルアンヒドリド22.92gを投入して30分撹拌した後、再び70℃で1時間撹拌して常温で冷やし、得られたポリマー溶液にメタノール20Lを加えて固形体を沈殿させ、沈殿された固形体を濾過して粉砕した後、再びメタノール2Lで洗浄した後、100℃で真空で6時間乾燥して粉末状態のポリイミド系ポリマー固形体を得た。ここで製造されたポリイミド系ポリマー固形体は、ポリアミド-イミドポリマー固形体である。
【0148】
<実施例1>
1L反応器に35.42重量部のDMAc(第1溶媒)を満たした後、反応器の温度を10℃に保ったまま一定時間撹拌した。その後、製造例1で製造された固形体粉末のポリアミド-イミド(ポリイミド系樹脂粉末)0.36重量部(第1含有量)を投入した後、1時間攪拌後25℃に昇温させて液状のポリイミド系樹脂溶液を製造した。
【0149】
DMAc(N,N-ジメチルアセトアミド)溶液(第2溶媒)に平均粒径10nmのシリカ粒子が30重量%の含有量で分散されてなるシリカ分散液A(SSD_330T、Ranco)23.85重量部を他の1L反応器に充填した後、反応器の温度を25℃に保ったまま、前記製造された液状のポリイミド系樹脂溶液をシリンダポンプを用いて1時間ゆっくり投入し、シリカ分散液とポリイミド系樹脂溶液とが混合された第1混合液を製造した。
【0150】
第1混合液に第3溶媒であるDMAc 348.23重量部を加えて撹拌し、製造例1で製造した固形体粉末のポリアミド-イミド(ポリイミド系樹脂粉末)64.04重量部(第2含有量)を添加し撹拌して第2混合液を製造した。第2混合液は、シリカ粒子が分散されたポリイミド系樹脂溶液である。
【0151】
得られた第2混合液をキャストした。キャスティングのためにキャスティング基板が使用される。キャスティング基板の種類に特別な制限はない。キャスティング基板としては、ガラス基板、ステンレス(SUS)基板、テフロン(登録商標)基板などを用いることができる。本発明の一実施例によれば、キャスティング基板として有機基板を使用することができる。
【0152】
具体的には、得られた第2混合液をガラス基板に塗布してキャストし、120℃の熱風で30分乾燥してフィルムを製造した後、製造されたフィルムをガラス基板から剥離してフレームにピンで固定した。
【0153】
フィルムが固定されたフレームを真空オーブンに入れ、100℃から280℃まで2時間ゆっくり加熱した後、徐々に冷却してフレームから分離してポリイミド系フィルムを得た。再びポリイミド系フィルムを250℃で5分間熱処理した。
【0154】
その結果、ポリイミド系マトリックス110及びポリイミド系マトリックスに分散されたシリカ系フィラー120を含む、50μm厚さのポリイミド系フィルム100が完成した。
【0155】
<実施例2~7>
実施例1と同様の方法で、シリカ分散液、シリカ分散液の含有量、第1含有量、第2含有量、第1溶媒の含有量及び第3溶媒の含有量のみを異にして実施例2~7のポリイミド系フィルムを製造した。
【0156】
実施例1~7の具体的なシリカ分散液、シリカ分散液の含有量、第1含有量、第2含有量、第1溶媒の含有量及び第3溶媒の含有量は下記の表1の通りである。
【0157】
<比較例1>
実施例1と同様の方法で、シリカ分散液、シリカ分散液の含有量、第1含有量、第2含有量、第1溶媒の含有量及び第3溶媒の含有量を異にしてポリイミド系フィルム100を製造した。
【0158】
比較例1の具体的なシリカ分散液、シリカ分散液の含有量、第1含有量、第2含有量、第1溶媒の含有量及び第3溶媒の含有量は下記の表1の通りである。
【0159】
<比較例2>
1L反応器にDMAc(N,N-ジメチルアセトアミド)溶液(第2溶媒)に平均粒径50nmのシリカ粒子が20重量%の含有量で分散されてなるシリカ分散液C(50nmSP-AD1、Admatechs)35.80重量部を充填した後、371.73重量部のDMAc(第3溶媒)を加えて撹拌した。攪拌した溶液に製造例1で製造された固形体粉末のポリアミド-イミド(ポリイミド系樹脂粉末)64.40重量部(第2含量)を加えて攪拌し、シリカ分散液とポリイミド系樹脂とが混合された混合液を製造した。混合液は、シリカ粒子が分散されたポリイミド系樹脂溶液である。
【0160】
得られた混合液をキャストした。キャスティング及びその後の過程は、実施例1と同様の方法でポリイミド系フィルム100を製造した。
【0161】
<比較例3>
1L反応器にDMAc(N,N-ジメチルアセトアミド)溶液(第2溶媒)に平均粒径70nmのシリカ粒子が20重量%の含有量で分散されてなるシリカ分散液D(DMAc-ST-ZL、Nissan)35.80重量部を充填した後、371.06重量部のDMAc(第3溶媒)を加えて撹拌した。攪拌した溶液に製造例1で製造された固形体粉末のポリアミド-イミド(ポリイミド系樹脂粉末)64.40重量部(第2含量)を加えて攪拌して、シリカ分散液とポリイミド系樹脂とが混合された混合液を製造した。混合液は、シリカ粒子が分散されたポリイミド系樹脂溶液である。
【0162】
得られた混合液をキャストした。キャスティング及びその後の過程は、実施例1と同様の方法でポリイミド系フィルム100を製造した。
【0163】
<比較例4~7>
実施例1と同様の方法で、シリカ分散液、シリカ分散液の含有量、第1含有量、第2含有量、第1溶媒の含有量及び第3溶媒の含有量を異にして比較例4~7のポリイミド系フィルム100を製造した。
【0164】
比較例4~7の具体的なシリカ分散液、シリカ分散液の含有量、第1含有量、第2含有量、第1溶媒の含有量及び第3溶媒の含有量は下記の表1の通りである。
【0165】
【0166】
<測定例>
実施例1~7及び比較例1~7で製造されたポリイミド系フィルムについて、以下の測定を行った。
【0167】
1)密度勾配管密度に対する真密度比(DR)の測定
ポリイミド系フィルムの真密度及び密度勾配管密度を下記のように測定し、測定した真密度及び密度勾配管密度を下記の式1のように計算してポリイミド系フィルムの密度勾配管密度に対する真密度比(DR)を算出した。
【0168】
<式1>
DR=真密度/密度勾配管密度
【0169】
(1)真密度の測定
ポリイミド系フィルム100の試料(10×10cm2)を1×1cm2以下の大きさに細かく切断し、サンプルホルダーに鉄球(粉砕体)と共に入れた。冷凍粉砕機(Japan Analytical Industry社、JFC-300)に2/3以上の液体窒素を充填し、切り取った試料が入ったサンプルホルダーを冷凍粉砕機と結合した後、チャンバーを閉じて冷凍粉砕機を用いてpre-cool 15分/run 15分以上試験片を粉砕した。粉砕したフィルム100の試料を、Micromeritics社のAccuPyc 1340 Pycnometer装置(ヘリウムガス使用)を用いて試料の真密度を7回測定した。測定したフィルム100の真密度値のうち最高及び最低値を除き、残りの真密度値で平均を計算してポリイミド系フィルム100の真密度を算出した。
【0170】
(2)密度勾配管密度の測定
標準規格ASTM D1505に従って、密度勾配管を用いてポリイミド系フィルム100の密度勾配管密度を測定した。
【0171】
2)粒子体積濃度(PVC)の測定
ポリイミド系フィルムのフィラーの体積(V1)及びマトリックスの体積(V2)をそれぞれ測定した後、下記の式2に従ってポリイミド系フィルムの粒子体積濃度(PVC)を算出した。
【0172】
<式2>
PVC(%)=[V1/(V1+V2)]*100
【0173】
式2において、V1はフィラーの体積であり、V2はマトリックスの体積である。
【0174】
フィラーの体積(V1)は、フィラーの質量を密度で割って算出することができる。具体的には、フィルム100に含まれるフィラーの質量及び密度をそれぞれ測定してフィラーの体積(V1)を算出することができる。例えば、フィラーの質量は、フィルム100を製造する際に添加されるフィラーの重量を測定して分かることができる。フィラーの密度は、上述した真密度測定方法または密度勾配管密度測定方法を用いてフィラーの密度を測定することができる。
【0175】
マトリックスの体積(V2)は、マトリックスの質量を密度で割ることによって算出することができる。具体的には、フィルム100に含まれるマトリックスの質量及び密度をそれぞれ測定してマトリックスの体積(V2)を算出することができる。例えば、マトリックスの質量は、フィルム100を製造する際に添加されるマトリックスの重量を測定して分かることができる。マトリックスの密度は、上述した真密度測定方法または密度勾配管密度測定方法を用いてマトリックスの密度を測定することができる。
【0176】
3)ヤング率及び伸び率:ASTM D885法に従って、インストロン社の万能引張試験機を用いてポリイミド系フィルムのヤング率及び伸び率を測定した。
【0177】
4)圧入硬度:製造されたポリイミド系フィルムを2cm×10cmに切り、Fischerscope HM2000(HELMUT FISCHER社)装置を用いて(測定条件:F=12.000mN/12s、C=5.0s)、HV値を測定した。合計7回にかけて測定して最高及び最低値を除き、残りのHV値の平均を算出してポリイミド系フィルムの圧入硬度を算出した。
【0178】
5)光透過率(%):標準規格ASTM E313でSpectrophotometer(CM-3700D、KONICA MINOLTA)を用いて、波長360~740nmでの平均光学透過度を測定した。
【0179】
6)黄色度:標準規格ASTM E313としてSpectrophotometer(CM-3700D、KONICA MINOLTA)を用いて黄色度を測定した。
【0180】
7)ヘイズ:製造されたポリイミド系フィルムを50mm×50mmに切り、MURAKAMI社のヘイズメーター(モデル名:HM-150)装置を用いてASTM D1003に従って5回測定してその平均値をヘイズ値とした。
【0181】
測定結果は以下の表2及び表3の通りである。
【0182】
【0183】
【0184】
前記表2及び3の測定結果に開示したように、本発明の実施例に係るポリイミド系フィルム100は、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が1.10以下であり、ヤング率、伸び率及び圧入硬度のような機械的特性に優れるだけでなく、優れた光透過度、低い黄色度及び低いヘイズを有して光学特性も優れていることが確認できる。しかしながら、比較例1は、ポリイミド系フィルムの全重量に対してフィラーの含有量が50重量%を超えるものであり、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が1.10を超え、粒子体積濃度(PVC)が38%を超え、ポリイミド系フィルムのヤング率が5.0 GPa未満、伸び率が15%未満、圧入硬度が45%未満、黄色度が3.0を超えた。比較例2は、ポリイミド系樹脂粉末を第1含有量及び第2含有量に区別せずにフィラー分散液と混合したものであり、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が1.10を超え、ポリイミド系フィルムのヤング率が5.0 GPa未満、伸び率が15%未満、圧入硬度が45%未満、黄色度が3.0を超えた。
【0185】
比較例3は、ポリイミド系樹脂粉末を第1含有量及び第2含有量に区分せずにフィラー分散液と混合し、さらに、フィラーの平均粒径が50nmを超えるものであり、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が1.10を超え、ポリイミド系フィルムのヤング率が5.0 GPa未満、伸び率が15%未満、圧入硬度が45%未満、黄色度が3.0を超え、ヘイズが1%を超えた。
【0186】
比較例4は、フィラーの平均粒径が50nmを超えるものであり、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が1.10を超え、ポリイミド系フィルムのヤング率が5.0 GPa未満、伸び率が15%未満、圧入硬度が45%未満、黄色度が3.0を超え、ヘイズが1%を超えた。
【0187】
比較例5は、フィラー重量に対するポリイミド系樹脂粉末の第1含有量が0.5%未満であり、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が1.10を超え、ポリイミド系フィルムのヤング率が5.0 GPa未満、伸び率が15%未満、圧入硬度が45%未満、黄色度が3.0を超えた。
【0188】
比較例6は、フィラー重量に対するポリイミド系樹脂粉末の第1含有量が10%を超え、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が1.10を超え、ポリイミド系フィルムのヤング率が5.0 GPa未満、伸び率が15%未満、圧入硬度が45%未満、黄色度が3.0を超えた。
【0189】
比較例7は、ポリイミド系フィルムの全重量に対してフィラーの含有量が5重量%未満であり、密度勾配管密度に対する真密度比(DR)が1.10を超え、ポリイミド系フィルムのヤング率が5.0 GPa未満、伸び率が15%未満、圧入硬度が45%未満、黄色度が3.0を超えた。
【符号の説明】
【0190】
100:ポリイミド系フィルム
110:ポリイミド系マトリックス
120:フィラー
200:表示装置
501:表示パネル