(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】反射法地震探査による受振データの処理方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20240101AFI20250109BHJP
G01V 1/28 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01V1/00 C
G01V1/28
(21)【出願番号】P 2023520768
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2022002213
(87)【国際公開番号】W WO2022239305
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2024-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2021081267
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】712014058
【氏名又は名称】三ケ田 均
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】小笹 弘晃
(72)【発明者】
【氏名】三ケ田 均
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0198730(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0054465(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106291709(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0201791(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0166790(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0058450(US,A1)
【文献】米国特許第7616523(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第101876715(CN,A)
【文献】特表平08-501395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V1/00-1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に音波を出力する震源と前記音波を受振する受振器を用いた反射法地震探査による受振データの処理方法であって、
前記受振データに示された前記音波の直達波を、前記音波が水中において震源の水深の2倍の距離を進行する時間だけ、時間軸の進行方向に仮想的に伝播させ、更に、その振幅を前記受振データに示された前記音波の第1水面反射波の振幅に近付けるように補正することによって第1疑似水面反射波を算出し、
前記受振データから前記第1疑似水面反射波に相当する成分を減じ
、
前記第1水面反射波を、前記音波が水中において前記震源の水深の2倍の距離を進行する時間だけ、時間軸の進行方向と逆方向に仮想的に伝播させ、更に、その位相を反転させることによって第1疑似直達波を算出し、
前記第1疑似直達波を示すデータを、前記第1疑似水面反射波に相当する成分が減じられた前記受振データに加算する
ことを含み、
前記直達波は、前記震源から出力され、水面での反射を経ることなく反射面で反射した音波であり、
前記第1水面反射波は、前記震源から出力され、水面で反射し更に前記反射面で反射することによって、前記震源の水深の2倍の距離
を進行する時間だけ遅延した音波である、
受振データの処理方法。
【請求項2】
前記受振データに示された前記音波の前記直達波を、前記音波の受振器の水深の2倍の距離を進行する時間だけ、時間軸の進行方向に仮想的に伝播させ、更に、その振幅を前記受振データに示された前記音波の第2水面反射波の振幅に近付けるように補正することによって第2疑似水面反射波を算出し、
前記受振データに示された前記音波の前記直達波を、前記音波が水中において震源の水深の2倍の距離と前記音波の受振器の水深の2倍の距離を進行する時間だけ、時間軸の進行方向に仮想的に伝播させ、更に、その振幅を前記受振データに示された前記音波の第3水面反射波の振幅に近付けるように補正することによって第3疑似水面反射波を算出し、
前記受振データから前記第2疑似水面反射波に相当する成分と前記第3疑似水面反射波に相当する成分とを減じる
ことを更に含み、
前記第2水面反射波は、前記震源から出力され、前記反射面で反射し、更に水面で反射することによって、前記受振器の水深の2倍の距離
を進行する時間だけ遅延した音波であり、
前記第3水面反射波は、前記震源から出力され、水面で反射し、前記反射面で反射し、更に水面で反射することによって、前記震源の水深の2倍の距離
を進行する時間と前記受振器の水深の2倍の距離
を進行する時間だけ遅延した音波である、
請求項1に記載の受振データの処理方法。
【請求項3】
前記第1水面反射波を、前記音波が水中において前記震源の水深の2倍の距離
を進行する時間だけ、時間軸の進行方向と逆方向に仮想的に伝播させ、更に、その位相を反転させることによって第1疑似直達波を算出し、
前記第2水面反射波を、前記音波が水中において前記受振器の水深の2倍の距離
を進行するだけ、時間軸の進行方向と逆方向に仮想的に伝播させ、更に、その位相を反転させることによって第2疑似直達波を算出し、
前記第3水面反射波を、前記音波が水中において前記震源の水深の2倍の距離
を進行する時間と前記受振器の水深の2倍の距離
を進行する時間だけ、時間軸の進行方向と逆方向に仮想的に伝播させることによって第3疑似直達波を算出し、
前記第1疑似直達波、前記第2疑似直達波及び前記第3疑似直達波を示すデータを、前記第1疑似水面反射波、第2疑似水面反射波及び第3疑似水面反射波に相当する成分が減じられた前記受振データに加算する
ことを更に含む請求項2に記載の受振データの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水中に配置された震源を用いた反射法地震探査による受振データの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水底探査方法の1つとして反射法地震探査が知られている。この方法では、地震探査船によって曳航される震源とストリーマケーブルとが水中に投入される。震源は所定の帯域の音波を発生し、ストリーマケーブルに設けられた個々の受振器(ハイドロフォン)が震源から出力した音波を受振する。受振された音波には、水底下の地層による音波の反射波が含まれる。反射法地震探査では、震源とストリーマケーブルの位置を断続的に変えつつ反射波の到達時間を計測することによって、地層の形状や密度等の物性を特定することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水底探査の探査対象は水底下の地層である。従って、震源が水底に近いほど、地層からの反射波の強度を高めることが可能である。しかしながら、音波は震源からあらゆる方向に伝播するため、受振器は、震源から地層に直接到達した音波の反射波(便宜上、直達波と称する)に加え、震源から水面での反射を経て、地層に到達した音波の反射波(便宜上、水面反射波と称する)も受振する。この場合、受振データである断面図には同一の地層が異なる深度に現れてしまい、地層の適切な評価が困難になる。
【0005】
本開示はこのような事情を鑑みて成されたものであり、反射法地震探査による受振データに対して、水面反射波による影響を低減することが可能な処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る方法は、反射法地震探査による受振データの処理方法であって、前記受振データに示された音波の直達波を、前記音波が水中において震源の水深の2倍の距離を進行する時間だけ、時間軸の進行方向に仮想的に伝播させ、更に、その振幅を前記受振データに示された前記音波の第1水面反射波の振幅に近付けるように補正することによって第1疑似水面反射波を算出し、前記受振データから前記第1疑似水面反射波に相当する成分を減じ、前記第1水面反射波を、前記音波が水中において前記震源の水深の2倍の距離に相当する時間だけ、時間軸の進行方向と逆方向に仮想的に伝播させ、更に、その位相を反転させることによって第1疑似直達波を算出し、前記第1疑似直達波を示すデータを、前記第1疑似水面反射波に相当する成分が減じられた前記受振データに加算することを含む。ここで、前記直達波は、前記震源から出力され、水面での反射を経ることなく反射面で反射した音波であり、前記第1水面反射波は、前記震源から出力され、水面で反射し更に前記反射面で反射することによって、前記震源の水深の2倍の距離を進行する時間だけ遅延した音波である。
【0008】
前記方法は、前記受振データに示された前記音波の前記直達波を、前記音波の受振器の水深の2倍の距離を進行する時間だけ、時間軸の進行方向に仮想的に伝播させ、更に、その振幅を前記受振データに示された前記音波の第2水面反射波の振幅に近付けるように補正することによって第2疑似水面反射波を算出し、前記受振データに示された前記音波の前記直達波を、前記音波が水中において震源の水深の2倍の距離と前記音波の受振器の水深の2倍の距離を進行する時間だけ、時間軸の進行方向に仮想的に伝播させ、更に、その振幅を前記受振データに示された前記音波の第3水面反射波の振幅に近付けるように補正することによって第3疑似水面反射波を算出し、前記受振データから前記第2疑似水面反射波に相当する成分と前記第3疑似水面反射波に相当する成分とを減じることを更に含んでもよい。ここで、前記第2水面反射波は、前記震源から出力され、前記反射面で反射し、更に水面で反射することによって、前記受振器の水深の2倍の距離を進行する時間だけ遅延した音波であり、前記第3水面反射波は、前記震源から出力され、水面で反射し、前記反射面で反射し、更に水面で反射することによって、前記震源の水深の2倍の距離を進行する時間と前記受振器の水深の2倍の距離を進行する時間だけ遅延した音波である。
【0009】
前記方法は、前記第1水面反射波を、前記音波が水中において前記震源の水深の2倍の距離を進行する時間だけ、時間軸の進行方向と逆方向に仮想的に伝播させ、更に、その位相を反転させることによって第1疑似直達波を算出し、前記第2水面反射波を、前記音波が水中において前記受振器の水深の2倍の距離を進行する時間だけ、時間軸の進行方向と逆方向に仮想的に伝播させ、更に、その位相を反転させることによって第2疑似直達波を算出し、前記第3水面反射波を、前記音波が水中において前記震源の水深の2倍の距離を進行する時間と前記受振器の水深の2倍の距離を進行する時間だけ、時間軸の進行方向と逆方向に仮想的に伝播させることによって第3疑似直達波を算出し、前記第1疑似直達波、前記第2疑似直達波及び前記第3疑似直達波を示すデータを、前記第1疑似水面反射波、第2疑似水面反射波及び第3疑似水面反射波に相当する成分が減じられた前記受振データに加算してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、反射法地震探査による受振データに対して、水面反射波による影響を低減することが可能な処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】受振データの処理方法を示すフローチャートである。
【
図4】受振データの処理方法を示すフローチャートである。
【
図5】受振データによって得られる断面図の一例とその処理を説明するための図である。
【
図6】同一位置の反射面で反射される音波の進行を説明するための図である。
【
図7】震源の運用深度(水深)と信号強度の関係を示すグラフである。
【
図8】元の受振データの周波数スペクトルと、元の受振データに対して本実施形態に係る処理を行った受振データの周波数スペクトルを示す図である。
【
図10】経路長の違いによる音波の受振時間の変化(換算深度)を説明するための図である。
【
図11】受振データの処理方法を示すフローチャートである。
【
図12】受振データの処理方法を示すフローチャートである。
【
図13】受振データによって得られる断面図の一例とその処理を説明するための図である。
【
図14】受振データの処理方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本開示の第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る水底探査システム10を示す概略構成図である。
図2は、本実施形態に係る水底探査システム10のブロック図である。
【0013】
図1及び
図2に示すように、水底探査システム10は、震源11と、制御装置12と、複数の受振器13とを備え、反射法地震探査法を用いて水底3下の構造を探査する。なお、本実施形態の水底探査システム10は、洋上で稼働することを想定している。しかしながら、水底探査システム10の稼働環境は洋上に限られず、河川や湖沼などの水底探査を行うことが可能な環境で稼働可能である。
【0014】
震源11は水深D1の水中に設置され、音波5を出力する。震源11は、例えば、周知の構成を備える低周波発生装置であり、油圧によって駆動される振動板(図示せず)を備える。振動板の振動は制御装置12によって制御され、これにより、所望の周波数の音波5が発生する。振動板は圧電素子によって駆動されてもよく、他の周知の駆動機構によって駆動されてもよい。なお、震源11は上述の低周波発生装置に限られず、エアガン等の音波発生装置でもよい。
【0015】
複数の受振器13は水中に設置され、一方向に配列する。各受振器13は所謂ハイドロフォンであり、水中の音波5を受振する。複数の受振器13は、ケーブル等の部材15によって互いに連結又は間隔を置いて保持され、ストリーマケーブル14を構成する。
【0016】
制御装置12は、中央演算装置(CPU)、記憶部及び補助記憶装置等を備える所謂コンピュータとして構成され、例えば地震探査船20に搭載される。制御装置12は、震源11による音波5の生成及び周波数等を制御する。生成される音波は、インパルス波、スウィープ波及び擬似ランダム波のうちの何れでもよく、その他の周知の波形の音波でもよい。何れの場合も、制御装置12は、各受振器13が受振した音波5を信号データとして記録する。
【0017】
地震探査船20は揚重装置21を備える。揚重装置21は曳航索23及び曳航索24を送り出し及び巻き上げる。曳航索23の端部には震源11が接続され、曳航索24の端部にはストリーマケーブル14が接続されている。従って、揚重装置21の動作に応じて、震源11とストリーマケーブル14は水中に投入又は水中から回収される。
【0018】
震源11及びストリーマケーブル14の受振器13が動作している間、地震探査船20はこれらを曳航する。地震探査船20は、例えば、震源11及び受振器13にそれぞれ接続された曳航索23及び曳航索24を巻き取り・巻き戻し可能に支持する揚重装置21と、を有している。なお、水底探査システム10が搭載される設備は地震探査船20に限られず、震源11及びストリーマケーブル14を水中に配置可能な設備であればよい。
【0019】
次に、水底探査システム10によって取得された受振データの処理方法について説明する。
図3及び
図4は、受振データの処理方法を示すフローチャートである。
図5は、受振データによって得られる断面図の一例とその処理を説明するための図である。
図6は、同一位置の反射面で反射される音波の進行を説明するための図である。
【0020】
まず、制御装置12等に記録された信号データに対して、相互相関処理、NMO補正及び共通中点重合等の反射法地震探査における基本的な処理を行い、地層等の水底下構造の断面図を示す受振データを作成する(ステップS10)。なお、説明の便宜上、ステップS10の処理によって得られた受振データから、反射面A1としての水底下に地層A、地層B及び地層C(
図5(c)参照)が確認されたものと仮定する。反射面A1は、水と水底の境界面である。また、地層Aと地層Bの境界面に相当する音波5の反射面をB1、地層Bと地層Cの境界面に相当する音波5の反射面をC1で表す。つまり、反射面とは、水と地層(水底)の境界面、或いは、地質の異なる2つの地層間の境界面である。
【0021】
図5(a)は、ステップS10の処理によって得られた反射面A1(水底)下の構造を示す断面
図40Aである。断面
図40Aは、水底である反射面A1及び水底下の2本の反射面B1、C1に加え、疑似水底である疑似反射面A2及び疑似水底下の2本の疑似反射面B2、C2を示している。
【0022】
断面
図40Aを示す受振データを取得するために用いられた震源11は、水深D1(
図1参照)に配置されている。この水深D1は、後述の水面反射波による影響が無視できない程度に、水面2に対して十分深い。この場合、
図6(a)に示すように、受振器13は、震源11から地層A(B、C)に直接到達した音波の反射波(便宜上、直達波6と称する)を受振する。更に、
図6(b)に示すように、受振器13は、震源11から水面2での反射を経て、地層A(B、C)に到達した(即ち、震源11の水深D1の2倍の距離に相当する時間だけ遅延した)音波5の反射波(便宜上、水面反射波7と称する)も受振する。その結果、断面
図40Aには、直達波の反射面A1、B1、C1が現れるだけでなく、水面反射波の反射面である疑似反射面A2、B2、C2が現れる。つまり、受振データは異なる深度に現れ且つ同一の地層を示す成分を含んでおり、この水面反射波の影響を除去することが必要となる。
【0023】
そこで、ステップS20では、直達波6を、音波5が水中において震源11の水深D1の2倍の距離を進行する時間q
1(
図5(b)参照)だけ、時間軸の進行方向に仮想的に伝播させ、更に、その振幅を受振データに示された音波5の水面反射波7の振幅に近付けるように補正することによって疑似水面反射波を算出する。
【0024】
疑似水面反射波は、例えば次の演算によって得られる。まず、受振データの波動場Qに対して下方(即ち時間軸の進行方向)への伝播処理を行う。例えば、次の式(1)
【数1】
を受振データの波動場Qに適用し、Δz = q
1*v分、下方へと伝播させることで、直達波成分から疑似水面反射波を形成する。式(1)はClaerbout (Claerbout J. F., Imaging the Earth's Interior, Blackwell Scientific Publications, 1985, p.88)によるWave-Extrapolation の15°の公式であり、vは水中の音速、ωは角周波数である。
【0025】
次に、受振データから水面反射波成分を除去する(ステップS30)。具体的には、受振データから、ステップS20で得られた疑似水面反射波に相当する成分を減じる。例えば、例示した上述の演算に引き続き、疑似水面反射波を用いた畳み込み行列D´を用いて、以下の式(2)により、受振データから水面反射波7の成分を分離し、直達波6の成分のみの受振データP´を求める。
【数2】
ここでf´は 疑似水面反射波の振幅を補正するための予測フィルターを示す。本実施形態では、予測フィルターf´を最適化するためにFISTA (Fast Iterative Shrinkage Thresholding Algorithm)を採用し、式(3)で示されるLASSO (Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)を満たすものを求める。
【数3】
ここで、||・||nはlnノルムを、λは正則化パラメータを示す。式(3)に近接勾配法を適用することで、f´を導出する。導出されたf´を式(2) に代入し計算を行い、直達波6の成分のみの受振データP´の断面図(
図5(c)参照)を得ることができる。
【0026】
図5(b)は、疑似水面反射波の成分に基づく断面
図40Bである。この図に示すように、受振データからステップS20の処理を行うことによって、予測フィルターによって補正された疑似水面反射波の成分のみを示す断面図が得られる。更に、ステップS30の処理を行うことにより、
図5(b)に示す断面図の成分が、
図5(a)に示す断面
図40Aの成分から減じられ、最終的に、
図5(c)に示す、水面反射波7の成分の無い断面
図40Cが得られる。即ち、水面反射波7による影響を低減しS/N比を向上させた受振データを得ることができる。なお、演算手法は上述の波動場外挿法に限られず、t秒後の波動場の状態を算術的にシミュレートできる周知の演算手法を適用できる。周知の演算手法としては、例えば、上述したClaerbout による45°の公式やGazdagによる波動場外挿法(J. Gazdag, Modeling of the acoustic wave equation with transform methods, Geophysics, Vol. 46(6), pp. 854-859)、時間領域有限差分法(FDTD法)又は有限要素法等が挙げられる。
【0027】
なお、元の受振データに示された水面反射波7を、音波5が水中において震源11の水深D1の2倍の距離に相当する(当該距離を進行する)時間q1だけ、時間軸の進行方向と逆方向に仮想的に伝播させ、更に、その位相を反転させることによって疑似直達波を算出し(ステップS40)、当該疑似直達波を示すデータを、疑似水面反射波に相当する成分が減じられた受振データ(即ちステップS30の処理を経た受振データ)に加算(ステップS50)してもよい。
【0028】
即ち、ステップS40及びS50の処理によって、水面反射波7を、断面図を示す受振データから除去されるノイズとして扱う代わりに、直達波と同様に断面図を示す成分として活用する。
【0029】
水面反射波7による受振データは、水面2に対して震源11と鏡像の位置にある仮想的な震源11(以下、鏡像震源11Vと称する)による受振データとみなすことができる(
図6(b)参照)。そこで、鏡像震源11Vによる受振データを直達波6による受振データに加算する。換言すれば、実際の震源11と鏡像震源11Vを用いて地震探査を行う場合と同等の受振データを一台の震源で取得できる。
【0030】
ステップS40及びS50の処理については、具体的には次の演算を行う。
水面反射波7による受振データ、つまり鏡像震源11Vによる受振データは、元の受振データdとステップS30で求めた直達波6の成分のみの受振データP´を用いることで、(4)式から求めることができる。
【数4】
【0031】
水面反射波7は直達波6よりも時間q
1だけ遅れている(
図5(b)参照)。そこで、水面反射波7による受振データの波動場Rに対して時間q
1だけ上方(即ち、時間軸の進行方向と逆方向)への伝播処理を行う。つまり、両音波の伝播経路の違いから生じる実際の探査結果と鏡像震源11Vによって得られる受振データとの間の差異に起因する補正を、水面反射波7に対して行う。ステップS20では波動場Qを下方に伝播させるために式(1)を用いた。これに対して、上方伝播処理では、上述の式(1)を用いた下方伝播処理と同様に、例えば式(5)を用いることによって、波動場Rを上方へ伝播させ、疑似直達波を得る。
【数5】
疑似直達波(即ち、補正された水面反射波7)が示す受振データは、精度よく直達波を示す受振データと足し合わせることができる。ただし、上方伝播処理も式(1)を用いた演算に限られず、下方伝播処理に適用できる種々の演算を適用できる。
【0032】
なお、震源11の運用深度が深くなるにつれて鏡像震源11Vは水面2から上方に遠ざかり、鏡像震源11Vからの信号強度が低下する。一方、実際の震源11からの信号強度は上昇する。
【0033】
図7は、震源11の運用深度(水深)と信号強度の関係を示すグラフである。横軸は震源11の運用深度を、縦軸は震源から発震された音波の水深750mでの信号強度の計算値を示す。白丸を結ぶ実線は直達波6によって得られる反射波の信号強度を示す。黒丸を結ぶ点線は、水面反射波7によって得られる反射波の信号強度を示す。黒丸を結ぶ実線は、これらの信号強度の合計を示す。
【0034】
図7から理解される通り、震源11の運用深度が深くなるにつれ、水面反射波7、即ち鏡像震源11Vからの信号強度(図中橙点線)は水底から遠ざかるために弱くなる。これとは逆に、実際の震源11からの信号強度は震源11が水底3に近づくために強くなる。その証左として、
図7は、震源11の運用深度が深くなるにつれて、信号強度が上昇し、水面反射波7の利用による効果は、震源11の運用深度が50mのときは約5dBの信号強度の上昇、225mのときは約2dBの信号強度の上昇を示している。
【0035】
震源11として振動板等を備えた低周波発生装置を用いる場合、当該震源11は、スウィープ波のように比較的出力時間の長い音波を出力する。このような音波は、エアガンから得られるインパルス波と比較して、単位時間当たりの音圧エネルギーが小さい。しかしながら、本実施形態によれば震源11の運用深度を深くすることにより、低周波発生装置のような音圧エネルギーが小さい震源でも十分な信号強度を得ることができ、受振データのS/N比を向上させることができる。この場合、音圧エネルギーが低減されるため、水底探査システムのエネルギー消費を減らしつつ、海洋哺乳類の生態環境などの海洋環境への悪影響を低減することもできる。
【0036】
また、水面反射波7の位相は直達波6に対して反転している。従って、水底3に進行する直達波6に対して水面反射波7が干渉し、特定の周波数成分とその整数倍の周波数成分が弱まる現象(所謂ノッチ)が発生する。この傾向は、震源11の運用深度が深くなるほど、顕著となる。しかしながら、本実施形態によれば、受振データを水面反射波7による成分と直達波6による成分に分離した上で、両者の位相を一致させて加算するため、上述の干渉によって弱まった周波数成分を回復させることができる。
【0037】
図8は、元の受振データの周波数スペクトル(点線)と、元の受振データに対して本実施形態に係る処理を行った受振データの周波数スペクトル(実線)を示す図である。このときの震源11の運用深度は50mである。図中の矢印は、上述のノッチの影響が表れる周波数を示す。この図に示すように、本実施形態によれば、上述のノッチの影響を除去でき、受振データのS/N比を向上させることができる。
【0038】
(第2実施形態)
次に本開示の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明において、第1実施形態と重複する事項については同一の符号を付し、その説明を省略する。
図9は、本実施形態に係る水底探査システム10を示す概略構成図である。
図10は、経路長の違いによる音波の受振時間の変化を説明するための図である。
図11及び
図12は、受振データの処理方法を示すフローチャートである。
【0039】
図9に示すように、第2実施形態に係る水底探査システム10の構成は、第1実施形態に係る水底探査システム10の構成と同一である。
【0040】
説明の便宜上、
図9に示すように、第1実施形態の説明で述べた直達波6を直達波DW、第1実施形態の説明で述べた水面反射波7を第1水面反射波RW1と称する。第1実施形態と同様に、受振器13は、直達波DW(直達波6)及び第1水面反射波RW1(水面反射波7)を受振する。上述の通り、第1水面反射波RW1は、震源11の水深D1の2倍の距離に相当する時間q
1だけ遅れて受振される。
【0041】
第2実施形態では、直達波DWと第1水面反射波RW1に加え、受振器13に到達する第2水面反射波RW2と第3水面反射波RW3も、後述の演算処理に使用する。
図9に示すように、第2水面反射波RW2は、直達波DWとして進行し更に水面2で反射した音波であり、第3水面反射波RW3は、水面反射波RW1として進行し更に水面2で反射した音波である。
【0042】
第2水面反射波RW2の経路長は、直達波DWの経路長よりも長い。また、第3水面反射波RW3の経路長は、第2水面反射波RW2の経路長よりも長い。つまり、垂直往復の時間軸において、各音波は互いにずれている。
【0043】
従って、受振器13で取得された音波の信号データには、直達波DW(直達波6)及び第1水面反射波RW1(水面反射波7)の各成分に加え、第2水面反射波RW2と第3水面反射波RW3の各成分が独立に示される。
【0044】
例えば
図10に示すように、直達波DWが時間q
0に出現したとする。第1水面反射波RW1は第1実施形態の水面反射波7であり、震源11から出力され、水面2で反射し、反射面で反射することによって、直達波DWに対して時間q
1だけ遅延した音波である。
【0045】
第2水面反射波RW2は、震源11から出力され、反射面で反射し、更に水面2で反射することによって、受振器13の水深D2の2倍の距離に相当する(当該距離を進行する)時間q2だけ遅延した音波である。換言すれば、第2水面反射波RW2は、直達波DWとして進行し、その後、水面2で反射した音波である。従って、第2水面反射波RW2は、直達波DWに対して時間q2だけ遅れて出現する。
【0046】
第3水面反射波RW3は、震源11から出力され、水面2で反射し、反射面で反射し、更に水面2で反射することによって、震源11の水深D1の2倍の距離に相当する(当該距離を進行する)時間q1と受振器13の水深D2の2倍の距離に相当する(当該距離を進行する)時間q2だけ遅延した音波である。換言すれば、第3水面反射波RW3は、第1水面反射波RW1として進行し、その後、水面2で反射した音波である。従って、第3水面反射波RW3は、直達波DWに対して時間q1と時間q2の和だけ遅れて出現する。なお、時間q1と時間q2の大小関係は、震源11の水深D1と受振器13の水深D2の大小関係に従う。
【0047】
このように、受振器13の水深D2が、直達波DW、第1水面反射波RW1、第2水面反射波RW2及び第3水面反射波RW3の計4種類の音波を検出可能な水深である場合、これらの音波は同一の反射面を示す一方、異なる時間に受振される。従って、受振データは、4つの異なる深度に現れ且つ同一の地層を示す成分を含んでおり、各水面反射波の影響を除去することが必要となる。
【0048】
そこで本実施形態では、各水面反射波を用いて第1実施形態と同様のステップS10からステップS30までの処理を行う(
図3参照)。具体的には、受振データを作成し(ステップS10)、その後、ステップS20の演算処理を行う。ステップS20では、直達波DW(直達波6)と第1水面反射波RW1(水面反射波7)から疑似水面反射波(以下、第1疑似水面反射波と称する)を算出する(ステップS21)。更に、直達波DWと第2水面反射波RW2を用いて第2疑似水面反射波を算出し(ステップS22)、直達波DWと第3水面反射波RW3を用いて第3疑似水面反射波を算出する(ステップS23)。
【0049】
例えば、第1疑似水面反射波を得る場合は、直達波DWを、音波5が水中において震源11の水深D1の2倍の距離を進行する時間q1だけ、時間軸の進行方向に仮想的に伝播させ、更に、その振幅を受振データに示された音波5の第1水面反射波RW1の振幅に近付けるように補正することによって第1疑似水面反射波を算出する。第1疑似水面反射波は、第1実施形態の説明で述べた疑似水面反射波である。従って、上述の式(1)を受振データの波動場Qに適用し、Δz = q1*v分、下方へと伝播させることで、直達波DWの成分から第1疑似水面反射波を形成できる。
【0050】
同様に、第2疑似水面反射波を得る場合は、直達波DWを、音波5が水中において受振器13の水深D2の2倍の距離を進行する時間q2だけ、時間軸の進行方向に仮想的に伝播させ、更に、その振幅を受振データに示された音波5の第2水面反射波RW2の振幅に近付けるように補正することによって第2疑似水面反射波を算出する。従って、上述の式(1)を受振データの波動場Qに適用し、Δz = q2*v分、下方へと伝播させることで、直達波DWの成分から第2疑似水面反射波を形成できる。
【0051】
同様に、第3疑似水面反射波を得る場合は、直達波DWを、音波5が水中において震源11の水深D1の2倍の距離と受振器13の水深D2の2倍の距離を進行する時間q2だけ、時間軸の進行方向に仮想的に伝播させ、更に、その振幅を受振データに示された音波5の第3水面反射波RW3の振幅に近付けるように補正することによって第3疑似水面反射波を算出する。従って、上述の式(1)を受振データの波動場Qに適用し、Δz =(q1+q2)*v分、下方へと伝播させることで、直達波DWの成分から第3疑似水面反射波を形成できる。
【0052】
更に、ステップS30の演算処理として、受振データから第1疑似水面反射波、第2疑似水面反射波および第3疑似水面反射波のそれぞれに相当する成分を除去する(ステップS31~S33)。例えば、例示した上述の演算に引き続き、第1疑似水面反射波を用いた畳み込み行列D´を用いて、上述の式(2)により、受振データから第1~第3水面反射波RW1、RW2、RW3の各成分を分離し、直達波DWの成分のみの受振データP´を求める。
【0053】
図13は、受振データによって得られる断面図の一例とその処理を説明するための図である。
図13(a)は、ステップS10の処理によって得られた反射面A1(水底)下の構造を示す断面
図50Aである。断面
図50Aは、水底である反射面A1に加え、疑似水底である第1疑似反射面A2、第2疑似反射面A3及び第3疑似反射面A4を示している。また、断面
図50Aは、水底下の2本の反射面B1に加え、疑似水底下の第1疑似反射面B2、第2疑似反射面B3及び第3疑似反射面B4を示している。更に、断面
図50Aは、水底下の2本の反射面C1に加え、第1疑似反射面C2、第2疑似反射面C3及び第3疑似反射面C4を示している。反射面A1、B1、C1は直達波DWによって示される。第1疑似反射面A2、B2、C2は、第1水面反射波RW1によって示される。第2疑似反射面A3、B3、C3は、第2水面反射波RW2によって示される。第3疑似反射面A4、B4、C4は、第3水面反射波RW3によって示される。
【0054】
受振データに対してステップS20とステップS30の処理を行うことによって、予測フィルターによって補正された第1~第3疑似水面反射波の各成分が
図13(a)に示す断面
図50Aの成分から減じられ、最終的に、
図13(b)に示す、第1~第3水面反射波RW1、RW2、RW3の各成分の無い断面
図50Bが得られる。即ち、第2及び第3水面反射波RW2、RW3の影響が現れる水深D2に受振器13を配置しても、第1~第3水面反射波RW1、RW2、RW3による影響が低減され、S/N比が向上した受振データを得ることができる。
【0055】
また、本実施形態では、受振器13(ストリーマケーブル14)を水面2から十分に離れた水深の位置に配置できる。一般的なストリーマケーブルは全長が数百mから数kmにも及ぶ。このような全長の長いストリーマケーブルが水面近傍で牽引されている場合、ストリーマケーブル周囲の水域における船舶の航行が制限され、ストリーマケーブル自体も損傷が懸念される。しかしながら、本実施形態によれば、十分深い水深にストリーマケーブル14を配置することができる。従って、船舶との干渉を回避しつつ、推定探査を遂行することができる。
【0056】
図14は、受振データの処理方法を示すフローチャートである。
図4に示す第1実施形態の演算処理と同じく、本実施形態においても、第1~第3水面反射波RW1、RW2、RW3を、受振データから除去されるノイズとして扱う代わりに、直達波と同様に断面図を示す成分として活用してもよい。即ち、ステップS40の演算処理としてステップS41~S43の処理を行い、ステップS50の演算処理としてステップS51の処理を行う。
【0057】
まず、第1水面反射波RW1を、音波5が水中において震源11の水深D1の2倍の距離に相当する(当該距離を進行する)時間q1だけ、時間軸の進行方向と逆方向に仮想的に伝播させ、更に、その位相を反転させることによって第1疑似直達波を算出する(ステップS41)。これは、第1実施形態の水面反射波7に対する演算処理と同一である。
【0058】
次に、第2水面反射波RW2を、音波5が水中において受振器13の水深D2の2倍の距離に相当する(当該距離を進行する)時間q2だけ、時間軸の進行方向と逆方向に仮想的に伝播させ、更に、その位相を反転させることによって第2疑似直達波を算出する(ステップS42)。即ち、第1実施形態のステップS40において、水面反射波7を第2水面反射波RW2に置き換え、時間q1を時間q2に置き換える。
【0059】
更に、第3水面反射波RW3を、音波5が水中において震源11の水深D1の2倍の距離に相当する(当該距離を進行する)時間q1と受振器13の水深D2の2倍の距離に相当する(当該距離を進行する)時間q2だけ、時間軸の進行方向と逆方向に仮想的に伝播させることによって第3疑似直達波を算出する(ステップS43)。即ち、第1実施形態のステップS40において、水面反射波7を第3水面反射波RW3に置き換え、時間q1を時間q1と時間q2の和に置き換える。但し、第3水面反射波RW3は、第1及び第2水面反射波RW1、RW2と異なり、直達波DWと同位相であるため、反転処理は行わない。
【0060】
その後、第1~第3疑似直達波のそれぞれを示すデータを、第1~第3疑似水面反射波のそれぞれに相当する成分が減じられた受振データ(即ちステップS30(S31~S33)の処理を経た受振データ)に加算する(ステップS51)。
【0061】
第1~第3疑似直達波の加算により、第1実施形態と同様の効果が得られる。即ち、震源11の運用深度を深くすることにより、そのような音圧エネルギーが小さくとも、地震探査において十分な信号強度を得ることができる。また、上述したノッチの影響を低減できる。これにより、受振データのS/N比を向上させることができる。
【0062】
本開示によれば、水底探査における音圧エネルギーの抑制によって、海洋の生態系への悪影響を低減することができるため、例えば、国際連合が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標14「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する。」に貢献することができる。
【0063】
なお、本開示は上述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含む。