(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】改質された高ニッケル三元正極材料及びその製造方法、及び電力消費装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20250109BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250109BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250109BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2023526409
(86)(22)【出願日】2022-06-01
(86)【国際出願番号】 CN2022096550
(87)【国際公開番号】W WO2023040357
(87)【国際公開日】2023-03-23
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】202111102848.1
(32)【優先日】2021-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】524304976
【氏名又は名称】香港時代新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】CONTEMPORARY AMPEREX TECHNOLOGY (HONG KONG) LIMITED
【住所又は居所原語表記】LEVEL 19, CHINA BUILDING, 29 QUEEN’S ROAD CENTRAL, CENTRAL, CENTRAL AND WESTERN DISTRICT, HONG KONG, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100159329
【氏名又は名称】三縄 隆
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 奇
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ ▲強▼
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ 宇翔
(72)【発明者】
【氏名】范 敬▲鵬▼
(72)【発明者】
【氏名】黄 起森
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0073552(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第109461926(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0005874(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112447951(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106898751(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112447950(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104409700(CN,A)
【文献】特開2017-084674(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108091830(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
C01G53/00-53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質された高ニッケル三元正極材料であって、内部コアと内外二層の被覆層とを含み、
前記内部コアは高ニッケル三元正極材料基体を含み、前記基体にM1、M2とWがドーピングされており、ここで、前記M1はMo、Zr、Ti、Sb、Nb、Teのうちの一つであり、前記M2はMg、Al、Ca、Zn、Srのうちの一つであり、M1、M2とWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体の化学式はLi
1+a[Ni
xCo
yMn
zM1
bM2
cW
d]O
2であり、ここで、0.65≦x<1、0≦y<0.3、0≦z<0.3、0<a<0.2、0<b<0.1、0<c<0.1、0<d<0.1、x+y+z+b+c+d=1であ
り、
前記内部コアの表層にはCoもドーピングされており、
前記内被覆層はCo含有化合物であり、前記外被覆層はAl含有化合物とB含有化合物である、ことを特徴とする改質された高ニッケル三元正極材料。
【請求項2】
前記M1のドーピング量≧前記M2又は前記Wのドーピング量である、ことを特徴とする請求項1に記載の改質された高ニッケル三元正極材料。
【請求項3】
前記M1のドーピング量と、前記M2とWとのドーピング量の和との比は、1:(0.1-2)で
ある、ことを特徴とする請求項1に記載の改質された高ニッケル三元正極材料。
【請求項4】
前記表層の厚さdは、0<d<3μmで
ある、ことを特徴とする請求項1に記載の改質された高ニッケル三元正極材料。
【請求項5】
前記Coの表層ドーピング量と前記Co含有化合物の被覆量との和は、100-20000ppmであり
、前記Al含有化合物の被覆量は、100-3000ppmであり
、前記B含有化合物の被覆量は、100-2000ppmであり
、ここで、前記表層ドーピング量と被覆量はいずれも、改質された高ニッケル三元正極材料に対する化合物における該当元素で換算される、ことを特徴とする請求項1に記載の改質された高ニッケル三元正極材料。
【請求項6】
前記内外被覆層の総厚さは0.001-1μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の改質された高ニッケル三元正極材料。
【請求項7】
前記Al含有化合物の被覆量と前記B含有化合物の被覆量とは、AlとBとの重量比が(0.5-2):1であることを満たし、ここで、前記被覆量はいずれも、改質された高ニッケル三元正極材料に対する化合物における該当元素で換算される、ことを特徴とする請求項1に記載の改質された高ニッケル三元正極材料。
【請求項8】
前記Wのドーピング量は、100-2000ppmであり
、前記M1のドーピング量は2000-4000ppmであり、前記M2のドーピング量は500-2000ppmであり、ここで、前記ドーピング量はいずれも、改質された高ニッケル三元正極材料に対する該当元素で換算される、ことを特徴とする請求項1に記載の改質された高ニッケル三元正極材料。
【請求項9】
前記Coの表層ドーピング量と前記Co含有化合物、Al含有化合物及びB含有化合物の被覆量との和は、1000-22000ppmであり
、ここで、前記表層ドーピング量と被覆量はいずれも、改質された高ニッケル三元正極材料に対する化合物における該当元素で換算される、ことを特徴とする請求項1に記載の改質された高ニッケル三元正極材料。
【請求項10】
その体積粒度分布径距離は、(Dv
90-Dv
10)/Dv
50≧1.
1を満たす、ことを特徴とする請求項1に記載の改質された高ニッケル三元正極材料。
【請求項11】
その5トンの圧力での粉末圧密密度≧3.4g/ccで
ある、ことを特徴とする請求項1に記載の改質された高ニッケル三元正極材料。
【請求項12】
改質された高ニッケル三元正極材料を製造する方法であって、
リチウム塩と、Wがドーピングされた高ニッケル三元前駆体と、M1を含有する化合物と、M2を含有する化合物とを混合して
、700-950℃である焼結温度で焼結し、M1、M2とWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得るステップであって、前記Wがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の化学式は(Ni
XCo
YMn
ZW
D)(OH)
2であり、ここで、0.65≦X<1、0≦Y<0.3、0≦Z<0.3、0<D<0.1であり、前記M1はMo、Zr、Ti、Sb、Nb、Teのうちの一つであり、前記M2はMg、Al、Ca、Zn、Srのうちの一つであり、前記M1、M2とWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体の化学式はLi
1+a[Ni
xCo
yMn
zM1
bM2
cW
d]O
2であり、ここで、0.65≦x<1、0≦y<0.3、0≦z<0.3、0<a<0.2、0<b<0.1、0<c<0.1、0<d<0.1、x+y+z+b+c+d=1で
ある、ステップS1と、
前記M1、M2とWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体と、Co含有化合物とを混合して
、500-800℃である焼結温度で焼結し、表層にCoがドーピングされ、表面がCo含有化合物で被覆される高ニッケル三元正極材料を得る、ステップS2と、
前記表層にCoがドーピングされ、表面がCo含有化合物で被覆される高ニッケル三元正極材料と、Al含有化合物と、B含有化合物とを混合して焼結し、改質された高ニッケル三元正極材料を得る、ステップS3とを含む、ことを特徴とする改質された高ニッケル三元正極材料を製造する方法。
【請求項13】
前記ステップS1において
、焼結時間は10-20hであり、焼結雰囲気は空気又はO
2である、ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記Co含有化合物の粒子径は、0.001-10μmで
ある、ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ステップS2において
、焼結時間は、5-15hであり
、焼結雰囲気は空気又はO
2である、ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記ステップS3において、焼結温度は、200-500℃であり
、焼結時間は、5-15hであり
、焼結雰囲気は空気又はO
2である、ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から11のいずれか1項に記載の改質された高ニッケル三元正極材
料を含む、二次電池。
【請求項18】
請求項17に記載の二次電池を含む、電池モジュール。
【請求項19】
請求項18に記載の電池モジュールを含む、電池パック。
【請求項20】
請求項17に記載の二次電池を含む、電力消費装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、リチウム電池技術分野に関し、特に改質された高ニッケル三元正極材料及びその製造方法、二次電池、電池モジュール、電池パックと電力消費装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新エネルギー分野の急速な発展に伴い、リチウムイオン二次電池はその優れた電気化学性能、保存効果がなく、環境汚染が小さいなどの優位性により、各種の大型動力装置、エネルギー貯蔵システム及び各種の消費系製品に広く応用されており、特に純電気自動車、ハイブリッド電気自動車などの新エネルギー自動車分野に広く応用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、その飛躍的な発展により、そのエネルギー密度、サイクル性能と安全性能などについてもよりも高く要求されている。一方、高ニッケル正極活物質は、高エネルギー密度要求を満たす最適な選択であると認められる。しかしながら、ニッケル含有量の絶えない向上に伴い、その構造安定性はますます悪くなり、さらにリチウムイオン二次電池のサイクル性能と保存性能に影響を与える。
【0004】
そのため、リチウムイオン二次電池の容量を向上させるとともに、二次電池のサイクル性能と保存性能を確保する需要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
背景技術に存在する技術問題に鑑み、本出願は、改質された高ニッケル三元正極材料を提供し、それを用いて製造されたリチウムイオン二次電池が高容量を有するとともに、改善されたサイクル性能と保存性能を有することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本出願の第一の態様によれば、改質された高ニッケル三元正極材料を提供し、この材料は内部コアと内外二層の被覆層とを含み、前記内部コアは高ニッケル三元正極材料基体を含み、前記基体にM1、M2とWがドーピングされており、ここで、前記M1はMo、Zr、Ti、Sb、Nb、Teのうちの一つであり、前記M2はMg、Al、Ca、Zn、Srのうちの一つであり、M1、M2とWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体の化学式はLi1+a[NixCoyMnzM1bM2cWd]O2であり、ここで、0.65≦x<1、0≦y<0.3、0≦z<0.3、0<a<0.2、0<b<0.1、0<c<0.1、0<d<0.1、x+y+z+b+c+d=1であり、選択的に0.8≦x<1であり、前記内部コアの表層にはCoもドーピングされており、前記内被覆層はCo含有化合物であり、前記外被覆層はAl含有化合物とB含有化合物である。
【0007】
従来の技術に対して、本出願は少なくとも以下に記載された有益な効果を含む。
【0008】
本出願は、高ニッケル三元正極材料基体に三種類のイオン(即ちM1、M2とW)を共ドーピングすることにより、高ニッケル三元正極材料の構造安定性をより効果的に高めることができ、それによって二次電池のサイクル性能と熱安定性を明らかに改善し、本出願は、高ニッケル三元正極材料の表層にCoもドーピングすることにより、高ニッケル三元正極材料表層の高価ニッケルイオン含有量を効果的に低減させることができ、それによって高価ニッケルイオンと電解液との副反応を低減させ、さらに二次電池のサイクル性能と保存性能を改善し、本出願はさらに、高ニッケル三元正極材料をCo含有化合物の内層、Al含有化合物、B含有化合物の外層で均一に被覆することにより、表面の不純物リチウム含有量を効果的に低減させ、高ニッケル三元正極材料と電解液との間の界面副反応をさらに効果的に抑制することができ、それによって高ニッケル三元正極材料の容量とレート性能を向上させ、二次電池のサイクル、保存及び安全性能をさらに向上させる。
【0009】
いずれかの実施の形態では、前記M1のドーピング量≧前記M2又は前記Wのドーピング量である。
【0010】
いずれかの実施の形態では、前記M1のドーピング量と、前記M2とWとのドーピング量の和との比は、1:(0.1-2)であり、選択的に1:(0.5-1.5)である。
【0011】
M1のドーピング量と、M2とWとのドーピング量の和との比が、所定の範囲内に制御される場合、高ニッケル三元正極材料が比較的高い容量を有することを保証できるとともに、材料の構造安定性を最大限に高めることができ、それによって二次電池のサイクル性能をさらに改善する。
【0012】
いずれかの実施の形態では、前記表層の厚さdは、0<d<3μmであり、選択的に0<d<2μmである。表層の厚さdが所定の範囲内にある場合、二次電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0013】
いずれかの実施の形態では、前記Coの表層ドーピング量と前記Co含有化合物の被覆量との和は、100-20000ppmであり、選択的に1000-13000ppmであり、前記Al含有化合物の被覆量は、100-3000ppmであり、選択的に500-2000ppmであり、前記B含有化合物の被覆量は、100-2000ppmであり、選択的に500-1500ppmであり、ここで、前記表層ドーピング量と被覆量はいずれも、改質された高ニッケル三元正極材料に対する化合物における該当元素で換算される。Coの表層ドーピング量とCo含有化合物の被覆量との和が所定の範囲内にある場合、二次電池のサイクル性能をさらに改善することができる。Al含有化合物の被覆量と、B含有化合物の被覆量とが所定の範囲内にある場合、二次電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0014】
いずれかの実施の形態では、前記内外被覆層の総厚さは0.001-1μmである。
【0015】
いずれかの実施の形態では、前記Al含有化合物の被覆量と前記B含有化合物の被覆量とは、AlとBとの重量比が(0.5-2):1であることを満たし、ここで、前記被覆量はいずれも、改質された高ニッケル三元正極材料に対する化合物における該当元素で換算される。Al含有化合物の被覆量とB含有化合物の被覆量とが所定の関係を満たす場合、二次電池の容量とサイクル性能をさらに改善することができる。
【0016】
いずれかの実施の形態では、前記Wのドーピング量は、100-2000ppmであり、選択的に100-1500ppmであり、前記M1のドーピング量は2000-4000ppmであり、前記M2のドーピング量は500-2000ppmであり、ここで、前記ドーピング量はいずれも、改質された高ニッケル三元正極材料に対する該当元素で換算される。M1、M2とWのドーピング量が所定の範囲内にある場合、高ニッケル三元正極材料の構造安定性をさらに改善し、それによって二次電池のサイクル性能と保存性能をさらに改善することができる。
【0017】
いずれかの実施の形態では、前記Coの表層ドーピング量と前記Co含有化合物、Al含有化合物及びB含有化合物の被覆量との和は、1000-22000ppmであり、選択的に1000-15000ppmであり、ここで、前記表層ドーピング量と被覆量はいずれも、改質された高ニッケル三元正極材料に対する化合物における該当元素で換算される。
【0018】
いずれかの実施の形態では、前記改質された高ニッケル三元正極材料の体積粒度分布径距離は、(Dv90-Dv10)/Dv50≧1.1、選択的に(Dv90-Dv10)/Dv50≧1.2を満たす。
【0019】
いずれかの実施の形態では、前記改質された高ニッケル三元正極材料は、5トンの圧力での粉末圧密密度≧3.4g/ccであり、選択的に≧3.5g/ccである。
【0020】
発明者は試験により、改質された高ニッケル三元正極材料が広い体積粒度分布径距離を有し、比較的高い粉末圧密密度を有する場合、高ニッケル三元正極材料の体積エネルギー密度を明らかに高めることができることを発見した。
【0021】
本出願の第二の態様によれば、改質された高ニッケル三元正極材料を製造する方法をさらに提供し、この方法は、
リチウム塩と、Wがドーピングされた高ニッケル三元前駆体と、M1を含有する化合物と、M2を含有する化合物とを混合して焼結し、M1、M2とWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得るステップであって、前記Wがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の化学式は(NiXCoYMnZWD)(OH)2であり、ここで、0.65≦X<1、0≦Y<0.3、0≦Z<0.3、0<D<0.1であり、前記M1はMo、Zr、Ti、Sb、Nb、Teのうちの一つであり、前記M2はMg、Al、Ca、Zn、Srのうちの一つであり、前記M1、M2とWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体の化学式はLi1+a[NixCoyMnzM1bM2cWd]O2であり、ここで、0.65≦x<1、0≦y<0.3、0≦z<0.3、0<a<0.2、0<b<0.1、0<c<0.1、0<d<0.1、x+y+z+b+c+d=1であり、選択的に0.8≦x<1である、ステップS1と、
前記M1、M2とWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体と、Co含有化合物とを混合して焼結し、表層にCoがドーピングされ、表面がCo含有化合物で被覆される高ニッケル三元正極材料を得る、ステップS2と、
前記表層にCoがドーピングされ、表面がCo含有化合物で被覆される高ニッケル三元正極材料と、Al含有化合物と、B含有化合物とを混合して焼結し、改質された高ニッケル三元正極材料を得る、ステップS3とを含む。
【0022】
いずれかの実施の形態では、前記ステップS1において、焼結温度は700-950℃であり、焼結時間は10-20hであり、焼結雰囲気は空気又はO2である。ステップS1における焼結温度が適切な温度範囲内にある場合、二次電池の容量、サイクル性能及び保存性能をさらに改善することができる。
【0023】
いずれかの実施の形態では、前記Co含有化合物の粒子径は、0.001-10μmであり、選択的に0.001-1μmである。Co含有化合物の粒子径が所定の範囲内にある場合、高ニッケル三元正極材料の表面に均一に被覆されることができ、それによって二次電池のサイクル性能をさらに改善する。
【0024】
いずれかの実施の形態では、前記ステップS2において、焼結温度は、500-800℃であり、選択的に550-750℃であり、焼結時間は、5-15hであり、選択的に5-10hであり、焼結雰囲気は空気又はO2である。ステップS2の焼結温度が所定の範囲内にある場合、Co含有化合物と三元正極材料表面の不純物リチウムとを反応させることもできるし、Co含有化合物を三元正極材料表面に強固に被覆することもでき、それによって表面の不純物リチウムを減少し、界面副反応を改善し、二次電池のサイクル性能をさらに改善する。
【0025】
いずれかの実施の形態では、前記ステップS3において、焼結温度は、200-500℃であり、選択的に200-400℃であり、焼結時間は、5-15hであり、選択的に5-10hであり、焼結雰囲気は空気又はO2である。ステップS3の焼結温度が所定の範囲内にある場合、Al含有化合物とB含有化合物を三元正極材料表面に強固に被覆することができ、それによって三元正極材料の界面反応を改善し、二次電池のサイクル性能をさらに改善する。
【0026】
本出願の第三の態様によれば、二次電池を提供し、この二次電池は、本出願の第一の態様の改質された高ニッケル三元正極材料又は本出願の第二の態様の方法により製造された改質された高ニッケル三元正極材料を含む。
【0027】
本出願の第四の態様によれば、電池モジュールを提供し、この電池モジュールは、本出願の第三の態様の二次電池を含む。
【0028】
本出願の第五の態様によれば、電池パックを提供し、この電池パックは、本出願の第四の態様の電池モジュールを含む。
【0029】
本出願の第六の態様によれば、電力消費装置を提供し、この電力消費装置は、本出願の第三の態様の二次電池、本出願の第四の態様の電池モジュール又は本出願の第五の態様の電池パックから選ばれる少なくとも一つを含む。
【0030】
本出願の電池モジュール、電池パックと電力消費装置は、本出願の二次電池を含むため、少なくとも前記二次電池と同じ優位性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本出願の実施例1-1で製造して得られた改質された高ニッケル三元正極材料のSEM図である。
【
図2】本出願の実施例1-1で製造して得られた改質された高ニッケル三元正極材料で作られたボタン電池の初回充放電曲線である。
【
図3】本出願の比較例5-1と実施例1-1で製造して得られた改質された高ニッケル三元正極材料で作られた全電池の25℃サイクル比較曲線である。
【
図4】本発明の比較例5-1と実施例1-1で製造して得られた改質された高ニッケル三元正極材料で作られた全電池の70℃保存ガス膨張比較曲線である。
【
図5】本出願の一実施の形態の二次電池の概略図である。
【
図6】
図5に示す本出願の一実施の形態の二次電池の分解図である。
【
図7】本出願の一実施の形態の電池モジュールの概略図である。
【
図8】本出願の一実施の形態の電池パックの概略図である。
【
図9】
図8に示す本出願の一実施の形態の電池パックの分解図である。
【
図10】本出願の一実施の形態の二次電池が電源として使用される電力消費装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下では、本出願の改質された高ニッケル三元正極材料及びその製造方法、二次電池、電池モジュール、電池パックと電力消費装置を具体的に開示した実施の形態について、図面を適切に参照しながら詳細に説明する。しかしながら、必要のない詳細な説明を省略する場合がある。例えば、周知の事項に対する詳細な説明、実際に同じである構造に対する繰り返し説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを回避し、当業者に容易に理解させるためである。なお、図面及び以下の説明は、当業者に本出願を十分に理解させるために提供されるものであり、特許請求の範囲に記載されたテーマを限定することを意図するものではない。
【0033】
本出願に開示された「範囲」は、下限と上限の形式で限定され、与えられた範囲は、一つの下限と一つの上限を選定することで限定されるものであり、選定された下限と上限は、特定の範囲の境界を限定した。このように限定される範囲は、端値を含むか又は含まないものであってもよく、且つ任意の組み合わせが可能であり、即ち任意の下限は、任意の上限と組み合わせて、一つの範囲を形成することができる。例えば、特定のパラメータに対して60-120と80-110の範囲がリストアップされている場合、60-110と80-120の範囲も想定できると理解される。なお、最小範囲値として1と2がリストアップされており、最大範囲値として3、4及び5がリストアップされている場合1-3、1-4、1-5、2-3、2-4と2-5という範囲がすべて想定できる。本出願では、特に断りのない限り、「a-b」という数値範囲は、a~bの任意の実数の組み合わせの短縮表現を表し、ここで、aとbはいずれも実数である。例えば、数値範囲「0-5」は、本明細書で「0-5」の間のすべての実数がすでにすべてリストアップされていることを表し、「0-5」は、これらの数値の組み合わせの短縮表現であるだけである。また、あるパラメータが≧2の整数であると表現すると、このパラメータが例えば整数2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12などであることを開示していることに相当する。
【0034】
特に説明しない場合、本出願のすべての実施の形態及び選択的な実施の形態は、互いに組み合わせて新たな技術案を形成することができる。
【0035】
特に説明しない場合、本出願のすべての技術的特徴及び選択的な技術的特徴は、互いに組み合わせて新たな技術案を形成することができる。
【0036】
特に説明しない場合、本出願のすべてのステップは、順番に行われてもよく、ランダムに行われてもよく、好ましくは、順番に行われる。例えば、前記方法がステップ(a)と(b)とを含むことは、前記方法が、順番に行われるステップ(a)と(b)とを含んでもよく、順番に行われるステップ(b)と(a)とを含んでもよいことを表す。例えば、言及された前記方法は、ステップ(c)をさらに含んでもよく、ステップ(c)が任意の順序で前記方法に追加されてもよいことを表し、例えば前記方法は、ステップ(a)、(b)及び(c)を含んでもよく、ステップ(a)、(c)及び(b)を含んでもよく、ステップ(c)、(a)及び(b)などを含んでもよい。
【0037】
特に説明しない場合、本出願に言及された「含む」と「包含」は、開放型を表し、閉鎖型であってもよい。例えば、前記「含む」と「包含」は、リストアップされていない他の成分をさらに含むか又は包含してもよく、リストアップされている成分のみを含むか又は包含してもよいことを表してもよい。
【0038】
特に説明しない場合、本出願では、用語「又は」は包括的である。例を挙げると、「A又はB」というフレーズは、「A、B、又はAとBとの両方」を表す。より具体的には、Aが真であり(又は存在し)且つBが偽である(又は存在しない)条件と、Aが偽である(又は存在しない)が、Bが真である(又は存在する)条件と、AとBがいずれも真である(又は存在する)条件とのいずれも「A又はB」を満たしている。
【0039】
[改質された高ニッケル三元正極材料]
本出願は、改質された高ニッケル三元正極材料を提供し、内部コアと内外二層の被覆層とを含み、
前記内部コアは高ニッケル三元正極材料基体を含み、前記基体にM1、M2とWがドーピングされており、ここで、前記M1はMo、Zr、Ti、Sb、Nb、Teのうちの一つであり、前記M2はMg、Al、Ca、Zn、Srのうちの一つであり、M1、M2とWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体の化学式はLi1+a[NixCoyMnzM1bM2cWd]O2であり、ここで、0.65≦x<1、0≦y<0.3、0≦z<0.3、0<a<0.2、0<b<0.1、0<c<0.1、0<d<0.1、x+y+z+b+c+d=1であり、選択的に0.8≦x<1であり、
前記内部コアの表層にはCoもドーピングされており、
前記内被覆層はCo含有化合物であり、前記外被覆層はAl含有化合物とB含有化合物である。
【0040】
本出願は、高ニッケル三元正極材料をドーピングし、且つそれを被覆することにより、リチウムイオン二次電池の高容量を保証している前提で、そのサイクル性能と安全性能を改善することができる。
【0041】
いかなる理論にも限定されたくないが、まず、本出願は、高ニッケル三元正極材料に対して三種類のイオン(即ちM1、M2とW)を共ドーピングすることにより、単イオンドーピングに比べて、高ニッケル三元正極材料の構造安定性をより効果的に高めることができ、それによって二次電池のサイクル性能と熱安定性を明らかに高め、次に、本出願は、高ニッケル三元正極材料の表層にCoもドーピングすることにより、高ニッケル三元正極材料表層の高価ニッケルイオン含有量を効果的に低減させることができ、それによって高価ニッケルイオンと電解液との副反応を低減させ、さらに二次電池のサイクル性能と保存性能を改善し、最後に、本出願は、高ニッケル三元正極材料をCo含有化合物の内層、Al含有化合物、B含有化合物の外層で均一に被覆することにより、表面の不純物リチウム含有量を効果的に低減させ、不純物リチウムとCo含有化合物にLi2CoO3を生成させ、B含有化合物にLiBO2、LiB3O5、Li2B4O7又はそれらの混合物を生成させ、不純物リチウムを活性リチウムに変えることができ、それによって高ニッケル三元正極材料の容量とレート性能を向上させるとともに、Co含有化合物の内層とB含有化合物、Al含有化合物の外層との相乗作用により、高ニッケル三元正極材料と電解液との間の界面副反応をさらに効果的に抑制することができ、それによって二次電池のサイクル、保存及び安全性能をさらに効果的に向上させる。
【0042】
本発明者は、鋭意研究した結果、本出願の改質された高ニッケル三元正極材料が上記設計条件を満たした上で、下記条件のうちの一つ又はいくつかをさらに選択的に満たしている場合、高ニッケル三元正極材料の性能をさらに改善することができることを発見した。
【0043】
いくつかの実施の形態では、前記M1のドーピング量≧前記M2又は前記Wのドーピング量である。
【0044】
いくつかの実施の形態では、前記M1のドーピング量と、前記M2とWとのドーピング量の和との比は、1:(0.1-2)であり、選択的に1:(0.5-1.5)である。
【0045】
M1のドーピング量と、M2とWとのドーピング量の和との比が、所定の範囲内に制御される場合、高ニッケル三元正極材料が比較的高い容量を有することを保証できるとともに、材料の構造安定性を最大限に高めることができ、それによって二次電池のサイクル性能をさらに改善する。
【0046】
M1元素による高ニッケル三元正極材料の容量低減への影響が比較的小さく、M2とW元素による容量低減への影響が比較的大きいため、M1のドーピング量と、M2とWとのドーピング量の和との比が上記範囲内にある場合、二次電池の容量を維持又は向上させ、二次電池のサイクルと保存性能をさらに高めることができる。
【0047】
いくつかの実施の形態では、前記表層の厚さdは、0<d<3μmであり、選択的に0<d<2μmである。
【0048】
表層の厚さdが所定の範囲内にある場合、電池のサイクル性能をさらに改善することができる。従って、表層の厚さdが大きすぎる場合の、基体成分が大きく変化し、基体全体におけるNiの含有量を低減させ、それによって三元正極材料の容量を明らかに低減させうることを回避することができる。
【0049】
いくつかの実施の形態では、前記Coの表層ドーピング量と前記Co含有化合物の被覆量との和は、100-20000ppmであり、選択的に1000-13000ppmであり、前記Al含有化合物の被覆量は、100-3000ppmであり、選択的に500-2000ppmであり、前記B含有化合物の被覆量は、100-2000ppmであり、選択的に500-1500ppmであり、ここで、前記表層ドーピング量と被覆量はいずれも、改質された高ニッケル三元正極材料に対する化合物における該当元素で換算される。
【0050】
Coの表層ドーピング量とCo含有化合物の被覆量との和が所定の範囲内にある場合、電池のサイクル性能をさらに改善することができる。従って、Coの表層ドーピング量とCo含有化合物の被覆量との和が大きすぎる場合の、高ニッケル三元正極材料の表面に不活性なCo化合物が過剰に残留し、材料の容量に影響を与え、二次電池のサイクル性能に影響を与えうることを回避することができる。
【0051】
Al含有化合物の被覆量と、B含有化合物の被覆量とが所定の範囲内にある場合、電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0052】
いくつかの実施の形態では、前記内外被覆層の総厚さは0.001-1μmである。
【0053】
いくつかの実施の形態では、前記Al含有化合物の被覆量と前記B含有化合物の被覆量とは、AlとBとの重量比が(0.5-2):1であることを満たし、ここで、前記被覆量はいずれも、改質された高ニッケル三元正極材料に対する化合物における該当元素で換算される。
【0054】
Al含有化合物の被覆量とB含有化合物の被覆量とが所定の関係を満たす場合、二次電池の容量とサイクル性能をさらに改善することができる。従って、外被覆層において、AlとBとの重量比が2:1よりも大きい場合の、Al含有化合物が活性を有しないため、イオン伝送動力学活性に影響を与え、さらに二次電池の容量とサイクル性能に影響を与えうることを回避することができる。
【0055】
いくつかの実施の形態では、前記Wのドーピング量は、100-2000ppmであり、選択的に100-1500ppmであり、前記M1のドーピング量は2000-4000ppmであり、前記M2のドーピング量は500-2000ppmであり、ここで、前記ドーピング量はいずれも、改質された高ニッケル三元正極材料に対する該当元素で換算される。
【0056】
M1、M2とWのドーピング量が所定の範囲内にある場合、高ニッケル三元正極材料の構造安定性をさらに改善することができ、それによって二次電池のサイクル性能と保存性能をさらに改善する。
【0057】
いくつかの実施の形態では、前記Coの表層ドーピング量と前記Co含有化合物、Al含有化合物及びB含有化合物の被覆量との和は、1000-22000ppmであり、選択的に1000-15000ppmであり、ここで、前記表層ドーピング量と被覆量はいずれも、改質された高ニッケル三元正極材料に対する化合物における該当元素で換算される。
【0058】
いくつかの実施の形態では、前記改質された高ニッケル三元正極材料の体積粒度分布径距離は、(Dv90-Dv10)/Dv50≧1.1、選択的に(Dv90-Dv10)/Dv50≧1.2を満たす。
【0059】
本出願において、改質された高ニッケル三元正極材料の粒子体積分布粒度Dv10、Dv50、Dv90は、当分野の公知の概念である。具体的には、Dv10は粉体粒子の、体積を基準とした粒度分布において、小粒径側から、体積累計10%に達する粒径であり、単位は一般的にμmである。Dv50は粉体粒子の、体積を基準とした粒度分布において、小粒径側から、体積累計50%に達する粒径である。Dv90は粉体粒子の、体積を基準とした粒度分布において、小粒径側から、体積累計90%に達する粒径である。上記三元前駆体の粒子体積分布粒度Dv10、Dv50、Dv90の試験方法は、当分野において公知の方法を用いて試験することができる。例としては、GB/T 19077-2016/ISO 13320:2009粒度分布レーザー回折法を参照し、マスターサイザー機器2000を採用して測定することができる。
【0060】
いくつかの実施の形態では、前記改質された高ニッケル三元正極材料は、5トンの圧力での粉末圧密密度≧3.4g/ccであり、選択的に≧3.5g/ccである。
【0061】
改質された高ニッケル三元正極材料が広い体積粒度分布径距離を有し、比較的高い粉末圧密密度を有する場合、高ニッケル三元正極材料の体積エネルギー密度を明らかに高めることができる。
【0062】
本出願は、改質された高ニッケル三元正極材料を製造する方法をさらに提供し、
リチウム塩と、Wがドーピングされた高ニッケル三元前駆体と、M1を含有する化合物と、M2を含有する化合物とを混合して焼結し、M1、M2とWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得るステップであって、前記Wがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の化学式は(NiXCoYMnZWD)(OH)2であり、ここで、0.65≦X<1、0≦Y<0.3、0≦Z<0.3、0<D<0.1であり、前記M1はMo、Zr、Ti、Sb、Nb、Teのうちの一つであり、前記M2はMg、Al、Ca、Zn、Srのうちの一つであり、前記M1、M2とWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体の化学式はLi1+a[NixCoyMnzM1bM2cWd]O2であり、ここで、0.65≦x<1、0≦y<0.3、0≦z<0.3、0<a<0.2、0<b<0.1、0<c<0.1、0<d<0.1、x+y+z+b+c+d=1であり、選択的に0.8≦x<1である、ステップS1と、
前記M1、M2、Wがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体と、Co含有化合物とを混合して焼結し、表層にCoがドーピングされ、表面がCo含有化合物で被覆される高ニッケル三元正極材料を得る、ステップS2と、
前記表層にCoがドーピングされ、表面がCo含有化合物で被覆される高ニッケル三元正極材料と、Al含有化合物と、B含有化合物とを混合して焼結し、改質された高ニッケル三元正極材料を得る、ステップS3とを含む。
【0063】
いくつかの実施の形態では、前記ステップS1において、焼結温度は700-950℃であり、焼結時間は10-20hであり、焼結雰囲気は空気又はO2である。
【0064】
前記ステップS1において前記焼結プロセスを採用することにより、結晶構造に優れた高ニッケル三元正極材料基体を得ることができ、三元素(即ちM1、M2、W)の共ドーピングを均一に効果的に行うことができる。特にステップS1における焼結温度が適切な温度範囲内にある場合、二次電池の容量、サイクル性能及び保存性能をさらに改善することができる。
【0065】
本出願の実施例では、リチウム塩、M1を含有する化合物とM2を含有する化合物の種類に対して特に限定せず、実際の需要に応じて選択することができる。例えば、リチウム塩は水素酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウムであり、M1を含有する化合物とM2を含有する化合物はM1とM2の酸化物又は炭酸塩である。
【0066】
本出願の実施例では、Wがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の合成方法は、以下のステップを含む。
【0067】
(1):ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩と純水を使用してニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液を調製し、タングステン含有化合物を加え、W塩がドーピングされたニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液を得、
(2):反応釜に純水を加えてベース液とし、攪拌を開始して反応温度を維持し、アルカリ溶液とアンモニア水溶液を加えてベース液のpH値及びアンモニア濃度を調整し、前記W塩がドーピングされたニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液、アルカリ溶液、アンモニア水溶液を反応釜に加え、pH値及びアンモニア濃度を一定に維持し、種結晶核スラリーを合成し、
(3):反応釜に純水を加えてベース液とし、前記種結晶核スラリーを加え、攪拌を開始して反応温度を維持し、アルカリ溶液とアンモニア水溶液を加えてベース液のpH値及びアンモニア濃度を調整し、前記W塩がドーピングされたニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液、アルカリ溶液、アンモニア水溶液及び前記種結晶核スラリーを反応釜に加え、pH値及びアンモニア濃度を一定に維持し、Wがドーピングされた高ニッケル三元前駆体を得る。
【0068】
いくつかの実施の形態では、ステップ(1)において、前記ニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液の濃度は、0.5-2.5mol/Lである。
【0069】
本出願の実施例では、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩とタングステン含有化合物の種類に対して特に限定せず、実際の需要に応じて選択することができる。例えば、ニッケル塩は、硝酸ニッケルと、酢酸ニッケルと硫酸ニッケルとのうちの一つであり、コバルト塩は、硝酸コバルトと、酢酸コバルトと硫酸コバルトとのうちの一つであり、マンガン塩は、硝酸マンガンと、酢酸マンガンと硫酸マンガンとのうちの一つであり、タングステン含有化合物はタングステン酸ナトリウム塩である。
【0070】
いくつかの実施の形態では、ステップ(2)と(3)において、加えられた純水は、反応釜体積の10-50%を占める。
【0071】
いくつかの実施の形態では、ステップ(2)と(3)において、アルカリ溶液は水素酸化ナトリウム溶液であり、その濃度は1-10mol/Lである。
【0072】
いくつかの実施の形態では、ステップ(2)と(3)において、アンモニア水溶液の濃度は2-14mol/Lである。
【0073】
いくつかの実施の形態では、ステップ(2)において、前記pHは、11.5-12.5であり、選択的に11.8-12.2であり、前記アンモニア濃度は、0.2-0.6mol/Lであり、選択的に0.3-0.5mol/Lであり、前記攪拌線速度は5.0-7.0m/sであり、前記反応温度は40-75℃である。
【0074】
いくつかの実施の形態では、ステップ(2)において、W塩がドーピングされたニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液と、アルカリ溶液と、アンモニア水溶液との流量比は、18.75:15:1である。
【0075】
いくつかの実施の形態では、ステップ(3)において、前記pHは、11.0-12.0であり、選択的に11.1-11.7であり、前記アンモニア濃度は、0.2-0.6mol/Lであり、選択的に0.3-0.5mol/Lであり、前記攪拌線速度は3.0-6.0m/sであり、前記反応温度は40-75℃である。
【0076】
いくつかの実施の形態では、ステップ(3)において、W塩がドーピングされたニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液と、アルカリ溶液と、アンモニア水溶液及び種結晶核スラリーとの流量比は、18.75:15:1:2.8である。
【0077】
いくつかの実施の形態では、前記種結晶核スラリーの体積分布平均粒径Dv50は1-5μmであり、前記Wがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の体積分布平均粒径Dv50は、5-15μmであり、選択的に5-10μmである。
【0078】
いくつかの実施の形態では、前記Wがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の体積粒度分布径距離は、(Dv90-Dv10)/Dv50≧1.3である。
【0079】
この方法により合成された、Wがドーピングされた高ニッケル三元前駆体のバルク相構造には、W元素が均一にドーピングされており、広い体積粒度分布径距離を有するため、焼結された高ニッケル三元正極材料は広い粒度分布と比較的高い粉末圧密密度を有する。
【0080】
いくつかの実施の形態では、ステップS2において、前記Co含有化合物は、Co3O4、Co(OH)2、CoO、CoOOH、酢酸コバルト、シュウ酸コバルト、CoCO3のうちの一つ又は二つ以上である。
【0081】
いくつかの実施の形態では、ステップS2において、前記Co含有化合物の粒子径は、0.001-10μmであり、選択的に0.001-1μmである。
【0082】
Co含有化合物の粒子径が所定の範囲内にある場合、高ニッケル三元正極材料の表面に均一に被覆され、材料と電解液との間の界面副反応を改善することができ、それによって二次電池のサイクル性能をさらに改善する。
【0083】
いくつかの実施の形態では、前記ステップS2において、焼結温度は、500-800℃であり、選択的に550-750℃であり、焼結時間は、5-15hであり、選択的に5-10hであり、焼結雰囲気は空気又はO2である。
【0084】
ステップS2の焼結温度を制御することにより、Co含有化合物と三元正極材料表面の不純物リチウムとを反応させることもできるし、Co含有化合物を三元正極材料表面に強固に被覆することもでき、それによって表面の不純物リチウムを減少し、界面副反応を改善し、二次電池のサイクル性能をさらに改善する。
【0085】
いくつかの実施の形態では、前記ステップS3において、Al含有化合物は、Al2O3、Al(OH)3、Al2(SO4)3、AlCl3、Al(NO)3のうちの一つ又は複数である。
【0086】
いくつかの実施の形態では、前記ステップS3において、B含有化合物は、BCl3、B2(SO4)3、B(NO3)3、BN、B2O3、BF3、BBr3、BI3、H2BO5P、H3BO3、C5H6B(OH)2、C3H9B3O6、(C2H5O)3B及び(C3H7O)3Bのうちの一つ又は複数である。
【0087】
いくつかの実施の形態では、前記ステップS3において、焼結温度は、200-500℃であり、選択的に200-400℃であり、焼結時間は、5-15hであり、選択的に5-10hであり、焼結雰囲気は空気又はO2である。
【0088】
ステップS3の焼結温度を制御することにより、Al含有化合物とB含有化合物を三元正極材料表面に強固に被覆することができ、それによって材料の界面反応を改善し、二次電池のサイクル性能をさらに改善する。
【0089】
また、以下では、本出願の二次電池、電池モジュール、電池パックと電力消費装置について、図面を適切に参照しながら説明する。
【0090】
本出願の一つの実施の形態では、二次電池を提供する。
【0091】
一般的には、二次電池は、正極極板と、負極極板と、電解質と、セパレータとを含む。電池の充放電中に、活性イオンは、正極極板と負極極板との間を往復して吸蔵及び放出される。電解質は、正極極板と負極極板との間でイオンを伝導する役割を果たす。セパレータは、正極極板と負極極板との間に設置され、主に正負極の短絡を防止する役割を果たすとともに、イオンを通過させることができる。
【0092】
[正極極板]
正極極板は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一つの表面に設置される正極膜層とを含み、前記正極膜層は、本出願の第一の態様の改質された高ニッケル三元正極材料を含む。
【0093】
例として、正極集電体は、それ自体の厚さ方向において対向する二つの表面を有し、正極膜層は、正極集電体の対向する二つの表面のうちのいずれか一方又は両方に設置される。
【0094】
いくつかの実施の形態では、前記正極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。例えば、金属箔シートとしては、アルミニウム箔を採用してもよい。複合集電体は、高分子材料ベース層と高分子材料ベース層の少なくとも一つの表面上に形成される金属層を含んでもよい。複合集電体は、金属材料(アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)上に形成することにより形成されてもよい。
【0095】
いくつかの実施の形態では、正極膜層は、選択的に接着剤をさらに含む。例として、前記接着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン三元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン三元共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びフッ素含有アクリル酸エステル樹脂のうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0096】
いくつかの実施の形態では、正極膜層は、選択的に導電剤をさらに含む。例として、前記導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0097】
いくつかの実施の形態では、以下の方式で正極極板を製造してもよい。上記正極極板を製造するための成分、例えば正極活物質、導電剤、接着剤といずれか他の成分を溶媒(例えばN-メチルピロリドン)に分散させ、正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥、冷間プレスなどの工程を経た後に、正極極板が得られる。
【0098】
[負極極板]
負極極板は、負極集電体と、負極集電体の少なくとも一つの表面上に設置される負極膜層とを含み、前記負極膜層は、負極活物質を含む。
【0099】
例として、負極集電体は、それ自体の厚さ方向において対向する二つの表面を有し、負極膜層は、負極集電体の対向する二つの表面のうちのいずれか一方又は両方に設置される。
【0100】
いくつかの実施の形態では、前記負極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。例えば、金属箔シートとしては、銅箔を採用してもよい。複合集電体は、高分子材料ベース層と、高分子材料基体の少なくとも一つの表面上に形成される金属層とを含んでもよい。複合集電体は、金属材料(銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)上に形成することにより形成されてもよい。
【0101】
いくつかの実施の形態では、負極活物質は、当分野において公知の電池用負極活物質を採用してもよい。例として、負極活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、シリコン系材料、スズ系材料及びチタン酸リチウムなどの材料のうちの少なくとも一つを含んでもよい。前記シリコン系材料は、シリコン単体、ケイ素酸化合物、シリコン炭素複合体、ケイ素窒素複合体及びシリコン合金のうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。前記スズ系材料は、スズ単体、スズ酸化合物及びスズ合金のうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。しかし、本出願は、これらの材料に限定されず、電池負極活物質として用いられることができる他の従来の材料を使用してもよい。これらの負極活物質は、単独で一つのみを使用してもよく、二つ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0102】
いくつかの実施の形態では、負極膜層は、選択的に接着剤をさらに含む。前記接着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、ポリメタクリル酸(PMAA)及びカルボキシメチルキトサン(CMCS)のうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。
【0103】
いくつかの実施の形態では、負極膜層は、選択的に導電剤をさらに含む。導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。
【0104】
いくつかの実施の形態では、負極膜層は、選択的に他の助剤、例えば増粘剤(例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na))などをさらに含む。
【0105】
いくつかの実施の形態では、以下の方式で負極極板を製造してもよい。負極極板を製造するための上記成分、例えば負極活物質、導電剤、接着剤といずれか他の成分を溶媒(例えば脱イオン水)に分散させ、負極スラリーを形成し、負極スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥、冷間プレスなどの工程を経た後に、負極極板が得られる。
【0106】
[電解質]
電解質は、正極極板と負極極板との間でイオンを伝導する役割を果たす。本出願は、電解質の種類に対して具体的に限定せず、需要に応じて選択することができる。例えば、電解質は、液体、ゲル状又は全固体であってもよい。
【0107】
いくつかの実施の形態では、前記電解質として、電解液を採用する。前記電解液は、電解質塩と、溶媒とを含む。
【0108】
いくつかの実施の形態では、電解質塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、ビスフルオロスルフォニルイミド、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドリチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムジフルオロオキサレートボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム及びテトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムのうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。
【0109】
いくつかの実施の形態では、溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、1,4-ブチロラクトンラクトン、スルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン及びジエチルスルホンのうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。
【0110】
いくつかの実施の形態では、前記電解液は、選択的に添加剤をさらに含む。例えば、添加剤は、負極膜形成添加剤と、正極膜形成添加剤とを含んでもよく、電池のいくつかの性能を改善できる添加剤、例えば電池過充電性能を改善する添加剤、電池の高温又は低温性能を改善する添加剤などをさらに含んでもよい。
【0111】
[セパレータ]
いくつかの実施の形態では、二次電池には、セパレータがさらに含まれる。本出願は、セパレータの種類に対して特に限定せず、良好な化学安定性と機械安定性を有する任意の公知の多孔質構造セパレータを選択してもよい。
【0112】
いくつかの実施の形態では、セパレータの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリビニリデンフルオライドのうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。セパレータは単層フィルムであってもよく、多層複合フィルムであってもよく、特に制限されない。セパレータが多層複合フィルムである場合、各層の材料は同じであっても又は異なってもよく、特に制限されない。
【0113】
いくつかの実施の形態では、正極極板、負極極板とセパレータは、捲回プロセス又は積層プロセスによって電極アセンブリを製造してもよい。
【0114】
いくつかの実施の形態では、二次電池は、外装体を含んでもよい。この外装体は、上記電極アセンブリ及び電解質をパッケージングするために用いられてもよい。
【0115】
いくつかの実施の形態では、二次電池の外装体は、硬質ケース、例えば硬質プラスチックケース、アルミニウムケース、鋼製ケースなどであってもよい。二次電池の外装体は、パウチ、例えばパウチ型パウチであってもよい。パウチの材質は、プラスチックであってもよく、プラスチックとしては、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート及びポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。
【0116】
本出願は、二次電池の形状に対して特に限定せず、それは円筒型、四角形又は他の任意の形状であってもよい。例えば、
図5は、一例としての四角形構造の二次電池5である。
【0117】
いくつかの実施の形態では、
図6を参照すると、外装体は、ケース51とカバープレート53とを含んでもよい。ここで、ケース51は、底板と、底板に接続される側板とを含んでもよく、底板と側板とが囲んで収容キャビティを形成する。ケース51は、収容キャビティと連通する開口を有し、カバープレート53は、前記収容キャビティを密閉するように前記開口に覆設されてもよい。正極極板、負極極板とセパレータは、捲回プロセス又は積層プロセスを経て電極アセンブリ52を形成してもよい。電極アセンブリ52は、前記収容キャビティ内にパッケージングされる。電解液は、電極アセンブリ52に浸潤されている。二次電池5に含まれる電極アセンブリ52の数は一つ又は複数であってもよく、当業者は具体的な実際の需要に応じて選択してもよい。
【0118】
いくつかの実施の形態では、二次電池は、電池モジュールに組み立てられてもよく、電池モジュールに含まれる二次電池の数は、一つ又は複数であってもよく、具体的な数は、当業者が電池モジュールの用途と容量に応じて選択してもよい。
【0119】
図7は、一例としての電池モジュール4である。
図7を参照すると、電池モジュール4には、複数の二次電池5が電池モジュール4の長手方向に沿って順に並べて設置されてもよい。無論、他の任意の方式で配列されてもよい。さらにファスナーでこれらの複数の二次電池5を固定してもよい。
【0120】
選択的に、電池モジュール4は、収容空間を有するハウジングをさらに含んでもよく、複数の二次電池5は、この収容空間に収容される。
【0121】
いくつかの実施の形態では、上記電池モジュールは、電池パックに組み立てられてもよく、電池パックに含まれる電池モジュールの数は一つ又は複数であってもよく、具体的な数は、当業者が電池パックの用途と容量に応じて選択してもよい。
【0122】
図8と
図9は、一例としての電池パック1である。
図8と
図9を参照すると、電池パック1には、電池ボックスと、電池ボックス内に設置される複数の電池モジュール4とが含まれてもよい。電池ボックスは、上部筐体2と下部筐体3とを含み、上部筐体2は、下部筐体3に覆設され、電池モジュール4を収容するための密閉空間を形成することができる。複数の電池モジュール4は、任意の方式で電池ボックスに配列されてもよい。
【0123】
また、本出願は、電力消費装置をさらに提供し、前記電力消費装置は、本出願による二次電池、電池モジュール、又は電池パックのうちの一つ以上を含む。前記二次電池、電池モジュール、又は電池パックは、前記電力消費装置の電源として使用されてもよく、前記電力消費装置のエネルギー貯蔵ユニットとして使用されてもよい。前記電力消費装置は、移動体機器(例えば携帯電話、ノートパソコンなど)、電動車両(例えば純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクータ、電動ゴルフカート、電動トラックなど)、電気列車、船舶及び衛星、エネルギー貯蔵システムなどを含んでもよく、これらに限らない。
【0124】
前記電力消費装置として、その使用ニーズに応じて二次電池、電池モジュール又は電池パックを選択してもよい。
【0125】
図10は、一例としての電力消費装置である。この電力消費装置は、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車などである。この電力消費装置の二次電池の高出力化と高エネルギー密度に対する需要を満たすために、電池パック又は電池モジュールを採用してもよい。
【0126】
別の例としての電力消費装置は、携帯電話、タブレットパソコン、ノートパソコンなどであってもよい。この電力消費装置は、一般的に薄型化が要求され、電源として二次電池を採用してもよい。
【0127】
実施例
以下では、本出願の実施例を説明する。以下に記述される実施例は、本出願を解釈するためにのみ使用される例示的なものであり、本出願に対する制限と理解されるべきではない。実施例に具体的な技術又は条件が明記されていない場合、当分野内の文献に記述された技術又は条件に従い、又は製品明細書に従って行う。使用される試薬又は器具は、製造メーカが明記されていない場合、いずれも市販で購入できる通常製品である。
【0128】
実施例1-1
[タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の製造]
(1):硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンと純水を使用して、ニッケルと、コバルトと、マンガンとを90:5:5のモル比で濃度が2mol/Lであるニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液に調製し、タングステン酸ナトリウム塩を加え、加えられた量はタングステン換算で1000ppmとし、タングステン塩がドーピングされたニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液を得、
(2):100Lの反応釜に20Lの純水を加え、攪拌を開始して、攪拌速度は6m/sであり、45℃の一定温度を維持し、反応釜のpHが12.0になるまで5mol/LのNaOH溶液を加え、反応釜のアンモニア濃度が0.4mol/Lになるまで9mol/Lのアンモニア水溶液を加えた。前記タングステン塩がドーピングされたニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液と、NaOH溶液と、アンモニア水溶液とを反応釜に加え、ここで、前記タングステン塩がドーピングされたニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液とNaOH溶液との流量比は5:4であり、NaOH溶液とアンモニア水溶液との流量比は15:1であり、それによって反応釜におけるアンモニア濃度及びpHを一定に維持し、連続的に反応させて種結晶核スラリーを合成し、
(3):別の100Lの反応釜に20Lの純水を加え、2kgの前記種結晶核スラリーを加え、攪拌を開始して、攪拌速度は5m/sであり、50℃の一定温度を維持し、反応釜のpHが11.5になるまで5mol/LのNaOH溶液を加え、反応釜のアンモニア濃度が0.3mol/Lになるまで9mol/Lのアンモニア水溶液を加えた。前記タングステン塩がドーピングされたニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液と、NaOH溶液とアンモニア水溶液及び前記種結晶核スラリーを反応釜に加え、ここで、前記タングステン塩がドーピングされたニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液とNaOH溶液との流量比は5:4であり、NaOH溶液とアンモニア水溶液との流量比は15:1であり、前記種結晶核スラリーと前記タングステン塩がドーピングされたニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液との流量比は0.15であり、それによって反応釜におけるアンモニア濃度及びpHを一定に維持し、連続的に反応させてスラリータングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体を合成した。そしてスラリーを300rpmで20min遠心し、脱イオン水で洗浄し、ろ過し、105℃で10h乾燥し、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体を得、その分子式は(Ni0.8995Co0.05Mn0.05W0.0005)(OH)2であり、粒度Dv50は8μmであり、粒度体積分布径距離(Dv90-Dv10)/Dv50は1.35である。
【0129】
[改質された高ニッケル三元正極材料の製造]
S1:水素酸化リチウムと、前記タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体と、TiO2と、Al2O3とをプロシェアミキサーに入れて混合し、ここで、Liとニッケルコバルトマンガンの三者の和とのモル比は1.05であり、TiO2の量はTi換算で2500ppmとし、Al2O3の量はAl換算で1000ppmとし、混合物をキルンに入れて焼結し、焼結温度は750℃であり、焼結時間は15hであり、焼結雰囲気はO2であり、Ti、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8918Co0.0495Mn0.0495Ti0.005Al0.0037W0.0005]O2であり、
S2:前記Ti、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体とCoOとをプロシェアミキサーに入れて混合し、ここで、CoOの量はCo換算で13000ppmとし、混合物をキルンに入れて焼結し、焼結温度は600℃であり、焼結時間は5hであり、焼結雰囲気はO2であり、表層にCoがドーピングされ、表面がCo含有化合物で被覆される高ニッケル三元正極材料を得、
S3:前記表層にCoがドーピングされ、表面がCo含有化合物で被覆される高ニッケル三元正極材料とAl2O3、B2O3とをプロシェアミキサーに入れて混合し、ここで、Al2O3の量はAl換算で1000ppmとし、B2O3の量はB換算で1000ppmとし、AlとBとの重量比は1:1であり、混合物をキルンに入れて焼結し、焼結温度は250℃であり、焼結時間は6hであり、焼結雰囲気はO2であり、改質された高ニッケル三元正極材料製品を得、前記製品の内外被覆層の総厚さは0.54μmである。
【0130】
実施例1-2
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の製造において、前記ニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液におけるニッケルと、コバルトと、マンガンとのモル比は80:10:10であり、得られた、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の分子式は(Ni0.7996Co0.09995Mn0.09995W0.0005)(OH)2であり、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、Ti、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.7927Co0.0991Mn0.0991Ti0.005Al0.0036W0.0005]O2である。
【0131】
実施例1-3
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の製造において、前記ニッケルコバルトマンガン混合金属塩溶液におけるニッケルと、コバルトと、マンガンとのモル比は70:15:15であり、得られた、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の分子式は(Ni0.6997Co0.1499Mn0.1499W0.0005)(OH)2であり、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、Ti、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.6936Co0.1486Mn0.1486Ti0.005Al0.0037W0.0005]O2である。
【0132】
比較例1-1
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、TiO2を加えず、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8963Co0.0498Mn0.0498Al0.0036W0.0005]O2である。
【0133】
比較例1-2
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、Al2O3を加えず、TiとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.895Co0.0497Mn0.0497Ti0.0051W0.0005]O2である。
【0134】
比較例1-3
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の製造において、タングステン酸ナトリウム塩を加えず、得られた高ニッケル三元前駆体の分子式は(Ni0.90Co0.05Mn0.05)(OH)2であり、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、TiとAlがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8923Co0.0496Mn0.0496Ti0.005Al0.0035]O2である。
【0135】
比較例1-4
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2を行わないとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.11μmである。
【0136】
比較例1-5
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS3を行わないとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.40μmである。
【0137】
比較例1-6
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS3において、B2O3を加えないとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.49μmである。
【0138】
比較例1-7
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS3において、Al2O3を加えないとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.50μmである。
【0139】
実施例2-1
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、TiO2をZrO2に置き換え、Al2O3をSrCO3に置き換え、Zr、SrとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8961Co0.0498Mn0.0498Zr0.0027Sr0.0011W0.0005]O2である。
【0140】
実施例2-2
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、TiO2をSb2O5に置き換え、Al2O3をMgOに置き換え、Sb、MgとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8941Co0.0497Mn0.0497Sb0.002Mg0.004W0.0005]O2である。
【0141】
実施例2-3
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、Al2O3をZnOに置き換え、Ti、ZnとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8937Co0.0496Mn0.0496Ti0.005Zn0.0016W0.0005]O2である。
【0142】
実施例3-1
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の製造において、加えられたタングステン酸ナトリウム塩の量はタングステン換算で2000ppmとし、得られた、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の分子式は(Ni0.8991Co0.04995Mn0.04995W0.001)(OH)2であり、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、TiO2の量はTi換算で2000ppmとし、Al2O3の量はAl換算で2000ppmとし、Ti、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.889Co0.0494Mn0.0494Ti0.004Al0.0072W0.001]O2である。
【0143】
実施例3-2
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の製造において、タングステン酸ナトリウム塩を加えた量はタングステン換算で1500ppmとし、得られた、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の分子式は(Ni0.8992Co0.05Mn0.05W0.0008)(OH)2であり、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、TiO2の量はTi換算で2000ppmとし、Al2O3の量はAl換算で1500ppmとし、Ti、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8909Co0.0495Mn0.0495Ti0.004Al0.0053W0.0008]O2である。
【0144】
実施例3-3
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の製造において、タングステン酸ナトリウム塩を加えた量はタングステン換算で100ppmとし、得られた、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の分子式は(Ni0.8999Co0.05Mn0.05W0.0001)(OH)2であり、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、TiO2の量はTi換算で2000ppmとし、Al2O3の量はAl換算で1900ppmとし、Ti、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8901Co0.0495Mn0.0495Ti0.004Al0.0068W0.0001]O2である。
【0145】
実施例3-4
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の製造において、タングステン酸ナトリウム塩を加えた量はタングステン換算で500ppmとし、得られた、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の分子式は(Ni0.8997Co0.05Mn0.05W0.0003)(OH)2であり、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、TiO2の量はTi換算で3000ppmとし、Al2O3の量はAl換算で1000ppmとし、Ti、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8911Co0.0495Mn0.0495Ti0.006Al0.0036W0.0003]O2である。
【0146】
実施例3-5
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の製造において、タングステン酸ナトリウム塩を加えた量はタングステン換算で1900ppmとし、得られた、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の分子式は(Ni0.899Co0.05Mn0.05W0.001)(OH)2であり、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、TiO2の量はTi換算で4000ppmとし、Al2O3の量はAl換算で500ppmとし、Ti、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8902Co0.0495Mn0.0495Ti0.008Al0.0018W0.001]O2である。
【0147】
実施例3-6
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の製造において、タングステン酸ナトリウム塩を加えた量はタングステン換算で100ppmとし、得られた、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の分子式は(Ni0.8999Co0.05Mn0.05W0.0001)(OH)2であり、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、TiO2の量はTi換算で6000ppmとし、Al2O3の量はAl換算で500ppmとし、Ti、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8875Co0.0493Mn0.0493Ti0.012Al0.0018W0.0001]O2である。
【0148】
実施例3-7
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の製造において、タングステン酸ナトリウム塩を加えた量はタングステン換算で100ppmとし、得られた、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の分子式は(Ni0.8999Co0.05Mn0.05W0.0001)(OH)2であり、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、TiO2の量はTi換算で4000ppmとし、Al2O3の量はAl換算で100ppmとし、Ti、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8923Co0.0496Mn0.0496Ti0.008Al0.0004W0.0001]O2である。
【0149】
実施例3-8
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の製造において、タングステン酸ナトリウム塩を加えた量はタングステン換算で3000ppmとし、得られた、タングステンがドーピングされた高ニッケル三元前駆体の分子式は(Ni0.8984Co0.05Mn0.05W0.0016)(OH)2であり、改質された高ニッケル三元正極材料の製造において、ステップS1において、TiO2の量はTi換算で2000ppmとし、Al2O3の量はAl換算で3000ppmとし、Ti、AlとWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体を得、その分子式はLi1.05[Ni0.8854Co0.0492Mn0.0492Ti0.004Al0.0106W0.0016]O2である。
【0150】
実施例4-1
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2において、CoOの量はCo換算で20000ppmとするとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは1.0μmである。
【0151】
実施例4-2
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2において、CoOの量はCo換算で5000ppmとするとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.32μmである。
【0152】
実施例4-3
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2において、CoOの量はCo換算で1000ppmとするとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.18μmである。
【0153】
実施例4-4
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2において、CoOの量はCo換算で100ppmとするとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.13μmである。
【0154】
実施例4-5
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2において、CoOの量はCo換算で25000ppmとするとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは1.26μmである。
【0155】
実施例4-6
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS3において、Al2O3の量はAl換算で3000ppmとし、B2O3の量はB換算で2000ppmとし、AlとBとの重量比は1.5:1であるとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.60μmである。
【0156】
実施例4-7
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS3において、Al2O3の量はAl換算で2000ppmとし、B2O3の量はB換算で1000ppmとし、AlとBとの重量比は2:1であるとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.58μmである。
【0157】
実施例4-8
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS3において、Al2O3の量はAl換算で500ppmとし、B2O3の量はB換算で500ppmとし、AlとBとの重量比は1:1であるとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.51μmである。
【0158】
実施例4-9
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS3において、Al2O3の量はAl換算で750ppmとし、B2O3の量はB換算で1500ppmとし、AlとBとの重量比は0.5:1であるとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.55μmである。
【0159】
実施例4-10
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS3において、Al2O3の量はAl換算で100ppmとし、B2O3の量はB換算で100ppmとし、AlとBとの重量比は1:1であるとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.46μmである。
【0160】
実施例4-11
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS3において、Al2O3の量はAl換算で3000ppmとし、B2O3の量はB換算で1000ppmとし、AlとBとの重量比は3:1であるとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.61μmである。
【0161】
実施例4-12
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2において、CoOの量はCo換算で800ppmとし、ステップS3において、Al2O3の量はAl換算で100ppmとし、B2O3の量はB換算で100ppmとし、AlとBとの重量比は1:1であるとともに、最終的な製品の内外被覆層の総厚さは0.13μmである。
【0162】
実施例5-1
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS1において、焼結温度は700℃である。
【0163】
実施例5-2
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS1において、焼結温度は950℃である。
【0164】
比較例5-1
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS1において、焼結温度は650℃である。
【0165】
比較例5-2
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS1において、焼結温度は1000℃である。
【0166】
実施例6-1
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2において、焼結温度は500℃である。
【0167】
実施例6-2
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2において、焼結温度は550℃である。
【0168】
実施例6-3
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2において、焼結温度は700℃である。
【0169】
実施例6-4
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2において、焼結温度は800℃である。
【0170】
比較例6-1
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2において、焼結温度は400℃である。
【0171】
比較例6-2
改質された高ニッケル三元正極材料の製造は全体として実施例1-1を参照するが、区別としては、ステップS2において、焼結温度は900℃である。
【0172】
試験方法
1.Wがドーピングされた高ニッケル三元前駆体及びM1、M2とWがドーピングされた高ニッケル三元正極材料基体の測定
プラズマ発光分光計(ICP-OES)を採用し、機器型番はアメリカのThermo Fisher Scientific社製ICAP7400である。まずサンプル1 gをビーカーに秤量し、サンプルに濃度が25体積%のHNO3溶液を25ml加えてサンプルを溶解し、475mlの脱イオン水で希釈し、そして希釈液を計器機器に入れてターゲット元素分析を行い、計算によりターゲット元素含有量を得た。
【0173】
2.Coドーピング厚さ
試料作製用接着剤(PVDFをN-メチルピロリドンに分散させ、PVDF含有量は約8%である)とサンプル粉末とを均一に混合(粉末重量は接着剤の約5倍である)した後に銅箔に塗布し、60℃で30min乾燥した。製造されたサンプルをハサミで6mm*6mmのサイズに切断し、サンプル台に固定し、イオンポリッシャー(型番:IB-19500CP)に入れ、サンプルエッジを中心線に平行なX軸、Y軸位置40-60μmに調節し、切断した。切断完了後、イギリスのオックスフォード・インストゥルメンツグループのX-Max型分光器(EDS)とドイツのZEISSのSigma-02-33型走査電子顕微鏡(SEM)を組み合わせ、切断された試料で適切な粒子切断面を選択し、粒子径方向に沿ってCo元素含有量をリニアスキャンし、粒子内部コアよりCo含有量が増加し始めた部位の粒子中心位置からの距離を測定してL1とすると、Coドーピング厚さは(粒子半径R-L1)μmである。
【0174】
3.表面の不純物リチウム量
酸アルカリ滴定法:30gのサンプルを100mlの純水に入れ、30min攪拌した後に5min静置し、抽出濾過し、10mlの上清を取り、0.05mol/Lの塩酸標準溶液で正極材料に溶解した炭酸リチウム及び水素酸化リチウムを滴定し、pH電極を指示電極とし、電位変化による突躍によって終点を決定し、正極材料表面の不純物リチウム量を計算した。
【0175】
4.体積分布粒度
体積分布粒度の試験方法:GB/T 19077-2016/ISO 13320:2009 粒度分布レーザー回折法を参照し、機器であるマスターサイザー2000を採用した。清浄なビーカーを取り、測定すべきサンプルを遮光度8%-12%まで適量加え、脱イオン水20mlを加えるとともに、5min超音波を行い、粒度試験器を起動して試験を開始した。
【0176】
5.5トンの圧力での粉末圧密密度
圧密密度試験方法は、特定の金型で5トンの圧力でサンプルを圧密して厚さを得、ρc=m/V=m/(S*H)で圧密密度を計算することを含み、ここで、mは材料重量であり、Sは粉末面積であり、Hは粉末高さである。
【0177】
6.ボタン電池の製造:
上記各実施例と比較例で製造された三元正極材料と、PVDFと、導電炭素とを重量比90:5:5でN-メチルピロリドンに加え、乾燥室で攪拌してスラリーを作製し、アルミニウム箔に上記スラリーを塗布し、乾燥し、冷間プレスして正極極板を作製し、負極としてリチウムシートを採用し、電解液は1mol/LのLiPF6/(EC+DEC+DMC)(体積比:1:1:1)であり、ボタン電池ボックスにボタン電池として組み立てられた。
【0178】
ボタン電池初期グラム容量試験方法:
2.8-4.3Vで、0.1Cで4.3Vまで充電し、そして4.3Vで電流≦0.05mAまで定電圧充電し、2min静置し、その時の充電容量をC0とし、そして0.1Cで2.8Vまで放電し、その時の放電容量は初期グラム容量であり、D0とした。
【0179】
7.全電池の製造:
上記各実施例と比較例で製造された三元正極材料を正極活物質とし、導電剤アセチレンブラックと、接着剤ポリビニリデンフルオライド(PVDF)とを重量比94:3:3でN-メチルピロリドン溶媒系に十分に攪拌して均一に混合した後に、アルミニウム箔に塗布して乾燥し、冷間プレスし、正極極板を得た。負極活物質の人造黒鉛と、ハードカーボンと、導電剤アセチレンブラックと、接着剤スチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤炭素メチル基セルロースナトリウム(CMC)とを重量比90:5:2:2:1で脱イオン水溶媒系に十分に攪拌して均一に混合した後に、銅箔に塗布して乾燥し、冷間プレスし、負極極板を得た。セパレータとしてポリエチレン多孔質重合フィルムを用いた。正極極板、セパレータ、負極極板を順番に積層し、セパレータが正負極板の中央に位置して隔離の役割を果たすようにし、捲回してベアセルを得た。ベアセルを外装体に入れ、配合されたベース電解液、即ち1mol/LのLiPF6/(EC+EMC+DMC)(体積比:1:1:1)を注入し、パッケージングし、全電池を得た。
【0180】
全電池初期グラム容量試験方法:
25℃の恒温環境で、5min静置し、1/3Cで2.8Vまで放電し、5min静置し、1/3Cで4.25Vまで充電し、そして4.25Vで電流≦0.05mAまで定電圧充電し、5min静置し、その時の充電容量をC0とし、そして1/3Cで2.8Vまで放電し、その時の放電容量は初期グラム容量であり、D0とした。
【0181】
全電池25/45℃サイクル性能試験:
25℃又は45℃の恒温環境で、2.8-4.25Vで、1Cで4.25Vまで充電し、そして4.25Vで電流≦0.05mAまで定電圧充電し、5min静置し、そして1Cで2.8Vまで放電し、容量をD0とし、前のプロセスを繰り返し、容量Dn(n=0,1,2……)を記録し、300サイクルの容量保持率:(D300-D0)/D0*100%を計算した。
【0182】
8.全電池70℃ガス膨張試験:
70℃ 100% SOC(残存容量)で保存し、保存前後及びプロセス中に測定セルOCV(開放電圧)、IMP(インピーダンス)、体積(排水法試験)を測定し、保存終了後にセル残容量と可逆容量を試験し、48hごとに炉を出て、1h静置後にOCV、IMPを試験し、室温まで冷却した後に排水法でセル体積を試験し、30日保存して試験を終了し、又は体積膨張が50%を超えると、保存を停止し、保護電圧範囲:2.7-4.3V、公称容量2.25Ahとした。
【0183】
上記プロセスに従って上記実施例と比較例をそれぞれ試験し、具体的な数値は表1-表6に示す。
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
表1から分かるように、すべての実施例に対応する全電池の25℃と45℃サイクル容量保持率は、いずれも比較例より有意に高いとともに、すべての実施例で、70℃で30日間保存した後のガス膨張は、いずれもすべての比較例よりも低かった。なお、同じ三元正極材料基体の場合に、実施例の0.1Cボタン電池容量と1/3C全電池容量も、すべての比較例より有意に優れた。
【0193】
実施例1-1から実施例1-3を総合的に比較すると、高ニッケル三元正極材料基体にM1、M2とW元素がドーピングされており、その表層にさらにCoがドーピングされるとともに、さらにCo含有化合物内被覆層及びAl含有化合物とB含有化合物の外被覆層で被覆される場合、対応する全電池25℃サイクル容量保持率は、すべて94.7%よりも高く、45℃サイクル容量保持率は、すべて91.5%よりも高く、一方、70℃で30日間保存した後のガス膨張は、いずれも4.91mL/Ahよりも低かった。
【0194】
実施例1-1と実施例2-1から実施例2-3とを総合的に比較すると、M1がMo、Zr、Ti、Sb、Nb、Teのうちの一つであり、前記M2がMg、Al、Ca、Zn、Srのうちの一つである場合、対応する0.1Cボタン電池容量、1/3C全電池容量、25℃と45℃サイクル容量保持率及び70℃で30日間保存した後のガス膨張性能は、いずれも良好だった。
【0195】
実施例1-1と実施例3-1から実施例3-8とを総合的に比較すると、前記Wのドーピング量が100-2000ppmであり、前記M1のドーピング量が2000-4000ppmであり、前記M2のドーピング量が500-2000ppmであり、且つ前記M1のドーピング量と、前記M2とWとのドーピング量の和との比が、1:(0.1-2)である場合、対応する0.1Cボタン電池容量は、いずれも222.4mAh/gよりも高く、1/3C全電池容量は、いずれも211.2mAh/gよりも高く、25℃サイクル容量保持率は、すべて94.5%よりも高く、45℃サイクル容量保持率は、すべて91.2%よりも高い一方、70℃で30日間保存した後のガス膨張は、いずれも5.01mL/Ahよりも低かった。さらに、前記M1のドーピング量と、前記M2とWとのドーピング量の和との比が1:(0.5-1.5)である場合、対応する0.1Cボタン電池容量、1/3C全電池容量、25℃と45℃サイクル容量保持率及び70℃で30日間保存した後のガス膨張性能はさらに改善された。
【0196】
実施例1-1と実施例4-1から実施例4-12とを総合的に比較すると、前記Coの表層ドーピング量と前記Co含有化合物の被覆量との和が100-20000ppmであり、前記Al含有化合物の被覆量が100-3000ppmであり、前記B含有化合物時の被覆量が100-2000ppmである場合、前記Al含有化合物の被覆量と前記B含有化合物の被覆量とは、AlとBとの重量比が(0.5-2):1であることを満たし、且つ前記Coの表層ドーピング量と前記Co含有化合物、Al含有化合物及びB含有化合物の被覆量との和が、1000-22000ppmである場合、対応する0.1Cボタン電池容量、1/3C全電池容量、25℃と45℃サイクル容量保持率及び70℃で30日間保存した後のガス膨張性能は、いずれも良好だった。さらに、前記Coの表層ドーピング量と前記Co含有化合物、Al含有化合物及びB含有化合物の被覆量との和が、1000-15000ppmである場合、対応する0.1Cボタン電池容量、1/3C全電池容量、25℃と45℃サイクル容量保持率はさらに改善された。
【0197】
表5から分かるように、ステップS1の焼結温度が700-950℃である場合、製造された三元正極材料に対応する0.1Cボタン電池容量、1/3C全電池容量、25℃と45℃サイクル容量保持率及び70℃で30日間保存した後のガス膨張性能が良好であり、初期焼結温度が高すぎるか又は低すぎると、いずれも製造された三元正極材料の容量、サイクル及び保存ガス膨張性能に明らかに影響を与えた。
【0198】
表6から分かるように、ステップS2の焼結温度が500-800℃である場合、製造された三元正極材料に対応する0.1Cボタン電池容量、1/3C全電池容量、25℃と45℃サイクル容量保持率及び70℃で30日間保存した後のガス膨張性能が良好であり、ステップS2における温度が高すぎると、Coは基本的にすべて粒子にドーピングされ、粒子全体の成分を大きく変化させ、材料全体の粒子におけるニッケルの含有量を低減させ、それによって明らかに材料の容量を低減させたとともに、表面に被覆されたCo含有化合物が少なかったため、電池のサイクル及び保存性能に影響を与え、ステップS2における温度が低すぎると、Co含有化合物は基本的にすべて粒子の表面に被覆され、粒子表面の不純物リチウムと比較的に良く反応を発生しなかったため、不純物リチウムが比較的高かったとともに、Co含有化合物は不純物リチウムと反応せず、Co含有化合物は活性がなくなり、材料全体の容量が低くなり、電池のサイクル及び保存性能に影響を与えた。
【0199】
説明すべきこととして、本出願は、上記実施の形態に限らない。上記実施の形態は、例示であり、本出願の技術案の範囲内に技術的思想と実質的に同じ構成を有し、同じ作用効果を奏する実施の形態は、いずれも本出願の技術範囲内に含まれる。なお、本出願の趣旨を逸脱しない範囲内で、実施の形態に対して当業者が想到できる様々な変形を加え、実施の形態における一部の構成要素を組み合わせて構築された他の方式も、本出願の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0200】
1電池パック、2上部筐体、3下部筐体、4電池モジュール、5二次電池、51ケース、52電極アセンブリ、53カバープレート。