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特許7617270フッ化物系電解質を用いた高融点金属酸化物の還元方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】フッ化物系電解質を用いた高融点金属酸化物の還元方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   C25C 3/28 20060101AFI20250109BHJP
   C25C 3/26 20060101ALI20250109BHJP
   C25C 3/30 20060101ALI20250109BHJP
   C25C 3/32 20060101ALI20250109BHJP
   C25C 3/34 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 5/04 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 60/02 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 60/00 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 58/00 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 34/36 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 34/32 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 34/24 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 34/22 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 34/14 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 34/12 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 25/02 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20250109BHJP
   C22B 11/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C25C3/28
C25C3/26
C25C3/30
C25C3/32
C25C3/34 A
C25C3/34 C
C25C3/34 Z
C22B5/04
C22B47/00
C22B59/00
C22B60/02
C22B60/00
C22B58/00
C22B34/36
C22B34/32
C22B34/24
C22B34/22
C22B34/14
C22B34/12
C22B25/02
C22B23/02
C22B11/02
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023529973
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(86)【国際出願番号】 KR2021003849
(87)【国際公開番号】W WO2022108007
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】10-2020-0154083
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523180584
【氏名又は名称】ケーエスエム テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】KSM TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】イ, ヨン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】リュ, ホン ヨル
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1878652(KR,B1)
【文献】特開平02-025526(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2004920(KR,B1)
【文献】特開平06-146049(JP,A)
【文献】特開2009-155678(JP,A)
【文献】特表2001-501255(JP,A)
【文献】米国特許第06245211(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 3/00- 3/36
C22B 5/04
C22B 47/00
C22B 59/00
C22B 60/02
C22B 60/00
C22B 58/00
C22B 34/00-36/36
C22B 25/02
C22B 23/02
C22B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物から金属Mを還元させるための方法であって、
電解槽内にフッ化物系電解質の溶融塩を形成する段階と、
前記電解槽に前記金属Mと共晶相(eutectic phase)を形成する金属Mおよび金属Mを含む還元剤を投入して、金属Mおよび金属Mの共晶組成物を製造する段階と、
前記金属酸化物を前記共晶組成物と反応させて金属Mを還元し、還元された金属MがMと液状金属合金を形成する段階と、を含み、
前記溶融塩の密度は、前記共晶組成物および前記金属酸化物の密度よりも小さいものである、方法。
【請求項2】
前記溶融塩は、1,600℃において10時間、10重量%以下の揮発率を有するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フッ化物系電解質は、MgF、CaF、SrF、およびBaFからなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フッ化物系電解質は、CaFである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記金属Mは、Ti、Zr、Hf、W、Fe、Ni、Zn、Co、Mn、Cr、Ta、Ga、Nb、Sn、Ag、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、およびNoからなる群から選択される1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記金属Mは、Cu、Ni、Sn、Zn、Pb、Bi、Cd、およびこれらの合金からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記金属Mは、Cuである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属Mは、Ca、Mg、Al、およびこれらの合金からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記金属酸化物は、M およびM からなる群から選択された少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
ここで、x、yはそれぞれ1ないし3の実数であり、zは1ないし4の実数である。
【請求項10】
前記金属酸化物を前記共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程は、大気またはフッ化物中においてなされる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記金属酸化物を前記共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程は、900ないし1,600℃の範囲において遂行される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
スラグ化添加剤を投入して、前記金属酸化物を前記共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程において生成された副産物と前記溶融塩のスラグを形成する段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記スラグ化添加剤は、MgO、CaO、FeO、BaO、SiO、およびAlからなる群から選択された1種以上を含むものである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記液状金属合金は、前記電解槽の最下段に位置し、前記共晶組成物と区分される層を形成し、前記電解槽の下部を通じて前記液状金属合金を連続的に収得する段階と、
前記スラグは、前記共晶組成物の上部に区分される層を形成し、前記電解槽の上部を通じて前記スラグを連続的に除去する段階と、をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記液状金属合金を電解精錬して金属Mを製造する段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記金属合金の全重量に比べ金属Mの残存含量が0.1重量%以下であり、酸素含有量が1,800ppm以下である、請求項に記載の方法
【請求項17】
金属酸化物から金属Mを還元させるためのシステムであって、
電解槽と、
前記電解槽内に位置するフッ化物系電解質の溶融塩と、
前記溶融塩の下部に位置する金属Mと金属Mの共晶組成物と、
前記共晶組成物の下部に位置する前記金属Mと金属Mの液状金属合金と、を含み、
前記溶融塩の密度は、前記金属酸化物の密度よりも小さく、前記金属酸化物と前記金属Mが反応して前記金属Mを還元させ、前記金属Mは前記金属Mと共晶相(eutectic phase)を形成する、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高融点金属酸化物の還元方法に関するものであって、既存の不活性ガス雰囲気の製造工程から脱皮して大気中において操業が可能であり、環境にやさしい方法を用いるため、効率が極大化され得、商業化が容易な金属酸化物の還元方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
当業界において、典型的に知られる金属を任意の金属「M」と指称するとき、前記金属Mは、酸化物またはハロゲン化物のような原料を還元させることによって得られる。このように、所望する金属Mの製造のための方法のうち比較的よく知られており、当業界において最も広く一般的に用いられる方法は、いわゆるクロール(Kroll)と指称される工程である。
【0003】
典型的にクロール工程は、溶融マグネシウムを還元剤として使用して、ここに目的とする金属Mの塩化物、例えば、塩化チタンまたは塩化ジルコニウムを投入してチタンまたはジルコニウムに還元させる工程に要約することができる。これに関連して、クロール工程のより詳細な内容は、米国登録特許5,035,404において確認することができる。
【0004】
このようなクロール工程は、原料として塩化物を用いる工程であるため、工程中に副産物として塩素ガスおよび塩化マグネシウムが生成される。このような副産物のうち塩素ガスは、人体に致命的な問題を誘発する環境問題であって、クロール工程の代表的な問題として見なされており、塩化マグネシウムの場合は、例えば、電解槽、溶融炉、またはるつぼなどと指称される反応容器をはやく腐食させるという工程上の問題を引き起こす。
【0005】
このようにクロール工程は、環境的に容認され得る規制を解消するための付加的装置を必要とし、反応容器の頻繁な交替が伴うため、工程を運用するための費用が高いという短所を有する。
【0006】
他の側面において、クロール工程は、収得される金属が多数の空隙を含むスポンジ形態で製造されるため、前記金属内に存在し得る酸素を制御することが非常に難解である。換言すると、クロール工程は、高純度の金属を収得するには限界がある。
【0007】
このような既存の工程を代替するために電解精錬工程が研究されており、これは金属酸化物を直接還元させるため塩素ガスが発生せず、既存の工程に比べて単純という長所を有するが、回収される金属の形態が粉末に限定され、その粉末の粒度の大きさも制限されるため、工程以後の金属内酸素濃度の制御が困難であるという問題点を有する。これを克服するためには、精錬工程によって製造された回収金属粉末が大気中に露出されない状態において、真空アーク溶解のような工程を用いてインゴット(ingot)を製造し、回収された金属の比表面積を下げなければならないが、この場合、大規模産業の設備化が困難であり、費用的な側面において現実的な困難が存在する。
【0008】
一方、前述の工程の問題点を解決するために提案されたLCE(Liquid Copperaided Electrolysis)工程(特許文献1ないし3を参照)は、目的金属を還元剤を用いて電解還元工程を通じて合金として製造した後、電解精錬を通じて高純度の目的金属を精錬する方案を提案した。しかし、この電解還元工程においても、揮発率の強い塩素系電解質が使用されるため、装備の腐食がはやく費用側面の問題点が発生し、塩素ガスが発生するため、アルゴンガス雰囲気の閉じた系における操業が要求されるという問題点が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国登録特許第5,035,404号
【文献】韓国登録特許第10-1757626号
【文献】韓国登録特許第10-1793471号
【文献】韓国登録特許第10-1878652号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Antoine Allanore, Journal of The Electrochemical Society,162(1)(2015)E13-E22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであって、本発明の目的は、フッ化物系電解質を用いて高融点金属酸化物を環境にやさしく、高-効率的な大気環境下において還元して高品位の合金金属として製造する方法およびシステムを提供することを目的とする。
【0012】
本発明は、互いに共晶相を形成する金属Mと金属Mの液状金属合金を製造することを特徴とする。共晶反応(eutectic reaction)によって金属Mの溶融点が低くなるため、相対的に低い温度において効果的に還元がなされ得るので、エネルギーを相当に節減することができ、これは費用の節減につながり得る。また、本発明は、共晶反応によって液状の合金(MとMの液状金属合金)状態で収得されるため、金属合金自体を最終生成物として使用することができる。または、収得された金属合金を電解精錬して金属Mを収得することができる。このように得られた液状の合金は、酸素が存在し得る環境と徹底して分離され得、よって、酸素による汚染が顕著に防止され得る。即ち、前記側面によって高純度の金属合金および金属Mの収得が可能である。
【0013】
本発明は、従来技術に比べて最終製品の高品位な生産比率を高めることができ、エネルギー効率が高く商業化に有利な合金金属の還元方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によると、金属酸化物から金属Mを還元させるための方法が提供される。
【0015】
本発明によると、前記金属酸化物から金属Mを還元させるための方法は、
【0016】
電解槽内にフッ化物系電解質の溶融塩を形成する段階と、
【0017】
前記電解槽に前記金属Mと共晶相(eutectic phase)を形成する金属Mおよび金属Mを含む還元剤を投入して、前記金属Mおよび金属Mの共晶組成物を製造する段階と、
【0018】
前記金属酸化物を前記共晶組成物と反応させて金属Mを還元し、還元された金属Mが金属Mと液状金属合金を形成する段階と、を含み、
【0019】
前記金属酸化物から金属Mを還元させるための方法であって、フッ化物系電解質の溶融塩は、金属Mと金属Mの共晶組成物および金属酸化物の密度よりも小さいことがある。
【0020】
本発明によると、前記フッ化物系電解質の溶融塩は、1,600℃において10時間、10重量%以下の揮発率、詳しくは5重量%以下の揮発率、さらに詳しくは2重量%以下の揮発率を有し得る。
【0021】
本発明によると、前記フッ化物系電解質は、MgF、CaF、SrF、およびBaFからなる群から選択される1種以上であり得、詳しくはCaFであり得る。
【0022】
本発明によると、前記金属Mは、Ti、Zr、Hf、W、Fe、Ni、Zn、Co、Mn、Cr、Ta、Ga、Nb、Sn、Ag、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、およびNoからなる群から選択される1種であり得る。
【0023】
本発明によると、前記金属Mは、Cu、Ni、Sn、Zn、Pb、Bi、Cd、およびこれらの合金からなる群から選択される1種以上であり得、詳しくはCuであり得る。
【0024】
本発明によると、前記金属Mは、Ca、Mg、Al、およびこれらの合金からなる群から選択される1種以上であり得、詳しくはMgであり得る。
【0025】
本発明によると、前記金属酸化物は、M およびM からなる群から選択される少なくとも1つを含むことができ、ここで、x、yはそれぞれ1ないし3の実数であり、zは1ないし4の実数である。
【0026】
本発明によると、前記金属酸化物を前記共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程は、大気またはフッ化物中においてなされ得る。
【0027】
本発明によると、前記金属酸化物を前記共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程は、900ないし1600℃の範囲において遂行され得る。
【0028】
本発明によると、前記金属酸化物から金属Mを還元させるための方法は、スラグ化添加剤を投入して、前記金属酸化物を前記共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程において生成された副産物と前記溶融塩のスラグを形成する段階をさらに含むことができ、詳しくは前記スラグ化添加剤は、MgO、CaO、FeO、BaO、SiO、およびAlからなる群から選択される1種以上を含むことができる。
【0029】
本発明によると、前記液状金属合金は、前記電解槽の最下段に位置し、前記共晶組成物と区分される層を形成し、前記電解槽の下部を通じて前記液状金属合金を連続的に収得する段階と、
【0030】
前記スラグは、前記共晶組成物の上部に区分される層を形成し、前記電解槽の上部を通じて前記スラグを連続的に除去する段階と、をさらに含むことができる。
【0031】
本発明によると、前記液状金属合金を電解精錬してMを製造する段階をさらに含むことができる。
【0032】
本発明に係る金属合金または金属は、本願に開示された任意の方法またはその組み合わせによって収得されたものであり得、詳しくは前記金属合金の全体重量に比べてMの残存含量が0.1重量%以下、詳しくは0.01重量%以下、より詳しくは0.001重量%以下であり、酸素含有量が1,800ppm以下、詳しくは1,500ppm以下、さらに詳しくは1,200ppm以下の金属合金であり得る。
【0033】
本発明に係る金属酸化物から金属Mを還元させるためのシステムは、
【0034】
電解槽と
【0035】
前記電解槽内に位置するフッ化物系電解質の溶融塩と、
【0036】
前記溶融塩の下部に位置する金属Mと金属Mの共晶組成物と、
【0037】
前記共晶組成物の下部に位置する前記金属Mと前記金属Mの液状金属合金と、を含むことができ、
【0038】
前記溶融塩の密度は、前記金属酸化物の密度よりも小さいことがあり、前記金属酸化物と前記金属Mが反応して前記金属Mを還元させ、前記金属Mは前記金属Mと共晶相(eutectic phase)を形成することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明は、金属塩化物または電解質であって、塩化物を全く使用せず、金属酸化物から所望する金属を収得することに最適化されたシステムおよびこのような金属を製造できる方法を提供する。したがって、本発明は、前述したクロール工程の環境的な問題と電解槽の腐食に係る費用上の問題を解消することができる。
【0040】
本発明は、互いに共晶相を形成する金属Mと金属Mの液状金属合金を製造することを特徴とする。共晶反応(eutectic reaction)によって金属Mの溶融点が低くなるため、相対的に低い温度において効果的に還元がなされ得るので、エネルギーを相当に節減することができ、これは費用の節減につながり得る。
【0041】
本発明は、共晶反応によって液状の合金(金属Mと金属Mの液状金属合金)状態で収得されるため、金属合金自体を最終生成物として使用することができる。または、収得された金属合金を電解精錬して金属Mを収得することができる。このように得られた液状の合金は、酸素が存在し得る環境と徹底して分離され得、よって、酸素による汚染が顕著に防止され得る。即ち、前記側面によって高純度の金属合金および金属Mの収得が可能である。
【0042】
また、本発明は、目的合金の比率調整が容易であり、最終製造された合金金属を用いて電解精錬技法を通じて高純度の金属を製造することができる。
【0043】
本発明は、高品位の金属Mの回収比率が高く、最終製品と反応生成物の分離が容易であるため、連続式操業が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の一実施例に係る金属酸化物から金属Mを還元させるための工程を図示した工程図である。
図2】本発明の一実施例に係る金属酸化物から金属Mを還元させるための方法の工程手続きを図示した図面である。
図3】フッ化物系電解質と塩化物系電解質の揮発率の差を示す図面および結果表である。
図4】フッ化物系電解質と塩化物系電解質の温度に係る蒸気圧を示した図面である。
図5】本発明の実施例によって製造された金属合金を撮影した写真である。
図6】本発明の実施例によって製造された金属合金を切断した後、合金内部をエネルギー分光器(Energy Dispersive Spectrometer,EDS)で元素分析した図面および結果表である。
図7】ELTRA ONH2000を使用して、本発明の実施例2によって製造された金属合金内に存在する酸素含量を測定した結果表である。
【発明を実施するための具体的な形態】
【0045】
以下では、本発明の実施形態とその理解を手助け、その実施のための具体的な説明および実施例を通じて、本発明の意図、作用、および効果を詳述することにする。但し、以下の説明および実施例は、前述したように本発明の理解を手助けるための例示として提示されたものであって、これに限り発明の権利範囲が定められるか、限定されるものではない。
【0046】
本発明を具体的に説明する前に、本明細書および請求の範囲に使用された用語や単語は、通常的または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は、それ自身の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義できるという原則に基づいて、本発明の技術的思想に合致する意味と概念によって解釈されなければならない。
【0047】
したがって、本明細書に記載された実施例の構成は、本発明の最も好ましい1つの実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をすべて代弁するものではないため、本出願時点において、これらを代えられる多様な均等物と変形例が存在し得ることを理解しなければならない。
【0048】
本明細書において、単数の表現は、文脈上明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「設ける」、または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の異なる特徴や数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないものとして理解しなければならない。
【0049】
本明細書に使用された用語「装入」は、本明細書内に「投入」、「導入」、「流入」、「注入」と共に混用して記載され得、原料などの任意の物質を必要な場所に届けるか入れることを意味するものとして理解され得る。
【0050】
以下では、金属Mの還元方法、還元システム、および実施例の順に本発明を詳細に説明する。
【0051】
1.金属Mの還元方法
【0052】
本発明に係る金属酸化物から金属Mを還元させるための方法は、
【0053】
電解槽内にフッ化物系電解質の溶融塩を形成する段階と、
【0054】
前記電解槽に前記金属Mと共晶相(eutectic phase)を形成する金属Mおよび金属Mを含む還元剤を投入して、前記金属Mおよび金属Mの共晶組成物を製造する段階と、
【0055】
前記金属酸化物を前記共晶組成物と反応させて金属Mを還元し、還元された金属Mが金属Mと液状金属合金を形成する段階と、を含むことができる。
【0056】
本発明の方法において、フッ化物系電解質の溶融塩は、金属Mと金属Mの共晶組成物および金属酸化物の密度よりも小さいことがある。
【0057】
本発明の方法において、フッ化物系電解質の溶融塩は、1,600℃において10時間、10重量%以下の揮発率、詳しくは5重量%以下の揮発率、さらに詳しくは2重量%以下の揮発率を有し得る。
【0058】
前記フッ化物系電解質の溶融塩を使用することにより、毒性の塩素ガスが発生しないという環境的な利点を有し、その揮発率が低いため工程中に電解質の流失が少なく、維持管理費用の側面において有利である。特に、塩化物系電解質、例えば、CaClは、1,600℃において10時間の揮発率が約74重量%(図3)として、これと比較するときに、このようなフッ化物系電解質の利点をさらに明確に理解することができる。ここで、揮発率は、特定温度において一定時間放置して、放置前後の重量を比較して測定することができるが、通常の技術者に広く知られた他の方式を使用しても問題なく、他の方式を使用する場合の数値は、本発明における数値と適切に変換され得る。但し、本発明の電解質は、金属酸化物を共晶組成物と反応させて金属を還元する過程において使用されるものであるため、その揮発率は、本発明に係る工程温度(900~1600℃)内において測定されなければならない。特に、高温であるほど揮発率が高く現れるため、工程安定性を担保するためには許容される工程温度の中で最も高い1600℃において揮発率を測定することが好ましくなり得る。
【0059】
本発明の方法において、フッ化物系電解質は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属群から選択される1種以上の金属のフッ化物系電解質であり得、目的金属であるMと使用される還元剤によって相対的な密度差、揮発率、操業の利便性、安全性などを考慮して決定され得る。前記フッ化物系電解質は、例えば、MgF、CaF、SrF、およびBaFからなる群から選択される1種以上であり得、詳しくはCaFであり得る。
【0060】
本発明の方法において、金属Mと金属Mの共晶組成物および金属酸化物の密度よりも低い密度を有するフッ化物系電解質溶融塩を使用することにより、金属酸化物が共晶組成物と反応して金属Mが還元され、還元された金属Mと金属Mが液状金属合金を形成する段階において、フッ化物系電解質の溶融塩が電解槽の上段に位置することになるため、共晶組成物および金属酸化物が外部環境に露出され得ず、外部からの酸素流入を防ぐことができる。これにより、不活性ガス雰囲気ではなく通常の大気雰囲気においても、金属Mの還元工程が可能である。
【0061】
さらに、揮発率の低いフッ化物系電解質を使用することにより、通常の大気雰囲気においても有害なガスが許容可能な量で排出されることになるので操業の利便性および安定性が高まり、従来使用された電解質よりも装備腐食の程度を著しく低くすることができるため、大規模産業化に有利である。
【0062】
前記金属Mは、特に限定されるものではないが、詳しくはTi、Zr、Hf、W、Fe、Ni、Zn、Co、Mn、Cr、Ta、Ga、Nb、Sn、Ag、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、およびNoからなる群から選択される1種であり得、より詳しくはTi、Zr、W、Fe、Ni、Zn、Co、Mn、Cr、Ta、Er、およびNoからなる群から選択される1種であり得、さらに詳しくはTi、Zr、W、Fe、Ni、Zn、Co、Mn、およびCrからなる群から選択される1種であり得、特に詳しくはTi、Zr、またはWであり得る。
【0063】
本発明の方法において、金属Mは、金属Mと共晶相(eutectic phase)を形成できるのであれば制限されず、例えば、金属Mは、Cu、Ni、Sn、Zn、Pb、Bi、Cd、およびこれらの合金からなる群から選択される1種以上であり得、詳しくはCuであり得る。
【0064】
本発明の方法において、金属Mを含む還元剤は、金属Mを含む金属酸化物を還元させ得るのであれば制限されず、例えば、金属Mは、Ca、Mg、Al、およびこれらの合金からなる群から選択される1種以上であり得る。詳しくは金属MはMgであり得る。
【0065】
本発明の方法において、金属酸化物は、M およびM からなる群から選択された少なくとも1つを含むことができ、ここで、x、yはそれぞれ1ないし3の実数であり、zは1ないし4の実数である。
【0066】
理解を手助けるための前記金属酸化物の非制限的な例は、ZrO、TiO、MgTiO、HfO、Nb、Dy、Tb、WO、Co、MnO、Cr、MgO、CaO、Al、Ta、Ga、Pb、SnO、NbO、およびAgOからなる群から選択される1種またはこれらのうち2つ以上の組み合わせを含むことができる。
【0067】
金属酸化物として金属Mと金属Mの複合酸化物(M )を使用する場合、金属Mおよび金属Mの共晶組成物と反応して金属Mを還元させる過程がさらにはやくなり得る。本発明において確認したところによると、複合酸化物(M )を使用する場合、M を使用する場合に比べて還元に要する時間が少なくとも1/3ないし1/10に減少され得る。即ち、金属酸化物として金属Mと金属Mの複合酸化物を使用する場合、金属酸化物と共晶組成物の反応速度は、金属Mの酸化物だけを使用する場合よりもさらにはやくなり得る。また、M を使用する場合には、本発明によって生成される液状金属合金におけるMとMの比率をより幅広く調節できるという利点を有する。さらに、M を使用する場合、M を使用する場合に比べて還元剤として使用されるMの要求量が著しく減るという長所を有する。例えば、金属MとしてTiが使用され、金属MとしてCaが使用されると、金属Mの酸化物はTiO、金属Mと金属Mの複合酸化物はCaTiOであり得る。
【0068】
本発明に係る方法は、従来のクロール工程とは異なり、原料として金属塩化物の代わりに金属酸化物を用いる点において違いがある。通常、自然で発見される原料物質は、金属Mの酸化物を含んでいるが、クロール工程に使用するためには、このような金属酸化物を塩化物に置換する前処理工程が伴う。このような前処理工程を経ることになると、それ自体で工程費用上昇の原因となる。さらに、金属酸化物を塩化物に置換する前処理工程には塩酸が使用されるが、強い酸性によって製造設備の腐食を促進し、工程中に有毒性の塩素ガスが発生することがあるため、環境的な問題が誘発され得る。本発明に係る方法は、金属酸化物を塩化物に置換する前処理工程を必要としないので、前記クロール工程に比べて工程費用が低く、環境的な問題を誘発しないという長所を有する。
【0069】
本発明の方法において、金属酸化物を共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程は、大気またはフッ化物の中においてなされ得る。フッ化物系電解質の溶融塩の密度が共晶組成物と金属酸化物の密度よりも低いため、電解槽の上段にはフッ化物系電解質の溶融塩が位置し、共晶組成物および投入された金属酸化物は、フッ化物系電解質の溶融塩の下に位置する。これにより、共晶組成物および投入された金属酸化物は、フッ化物系電解質の溶融塩と電解槽によって外部環境に露出されない状態で存在することができるため、不活性ガス雰囲気ではない通常の大気中においても、金属酸化物を共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程がなされ得る。さらに、フッ化物系電解質の溶融塩の揮発率が相対的に低いため、大気雰囲気において遂行しても有毒ガスの発生が少なくなるので工程において使用される装備の腐食が著しく減少し、操業者に危険な環境が造成されず、大規模産業化を図れるという利点を享受することができる。
【0070】
本発明の方法において、金属Mを還元させるための方法は、フッ化物系電解質の溶融が可能であり、共晶組成物が製造され得、金属酸化物を共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程が遂行され得る温度以上であれば問題ない。例えば、金属酸化物を共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程は、900℃以上で遂行され得る。また、フッ化物系電解質の溶融塩が過度に蒸発しない温度以下であれば問題なく、炉の加熱に係るエネルギー効率性を考慮して、1800℃以下、1700℃以下、または1600℃以下において遂行され得、1600℃以下において遂行され得る。したがって、金属酸化物を共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程は、900ないし1600℃の範囲において遂行され得る。
【0071】
1つの例として、金属MがTi、金属酸化物(M )がTiO、金属MがCu、金属MがCaである場合、下記反応式1-1および反応式1-2によって金属Tiが還元され、続いて、液状金属合金CuTiが収得されつつ金属Mの酸化物(M )が分離され得る。ここで、aおよびbはそれぞれ1ないし3の実数である。
【0072】
(反応式1-1)
2Ca+TiO→Ti+2CaO
【0073】
(反応式1-2)
Ti+Cu+2CaO→CuTi(合金)+2CaO(分離)
【0074】
さらに他の例として、金属MがTi、金属酸化物(M )がCaTiO、金属MがCu、金属MがCaである場合、下記反応式2-1および反応式2-2によって金属Tiが還元され、続いて、液状金属合金CuTiが収得されつつ金属Mの酸化物(M )が分離され得る。
【0075】
(反応式2-1)
2Ca+CaTiO→Ti+3CaO
【0076】
(反応式2-2)
*92Ti+Cu+3CaO→CuTi(合金)+3CaO(分離)
【0077】
前記のような反応によって生成された金属Mの酸化物(M b)は、一種の副産物として連続工程が可能なようにするためには、このような副産物を連続的に除去する必要がある。前記副産物は、溶融塩に完全に溶解されないため、これを除去するか工程を連続的に運用することが容易ではないことがある。本発明の方法は、スラグ化添加剤を投入して金属酸化物を共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程において生成された副産物およびフッ化物系電解質の溶融塩のスラグを形成する段階をさらに含むことができる。スラグが形成されると、副産物とフッ化物系電解質の溶融塩が存在する場合に比べて相対的に粘度が減少し流動性が増加するため、副産物を含んでいるスラグの連続的な除去が可能であり、さらには連続工程を可能にすることができる。
【0078】
前述した効果を達成させるスラグ化添加剤の一例として、MgO、CaO、FeO、BaO、SiO、およびAlからなる群から選択される1種以上を含むことができるが、これに制限されない。
【0079】
本発明に係る金属酸化物から金属Mを還元させるための方法は、液状金属合金は電解槽の最下段に位置して共晶組成物と区分される層を形成し、電解槽の下部を通じて液状金属合金を連続的に収得する段階と、スラグは共晶組成物の上部に区分される層を形成し、電解槽の上部を通じてスラグを連続的に除去する段階と、をさらに含むことができる。液状金属合金を電解槽の最下段に位置し、共晶組成物と区分される層を形成することによって、電解槽の下部から液状金属合金を連続的に出湯することができる。また、スラグ化添加剤の投入によるスラグを共晶組成物の上部に区分される層に形成することによって、電解槽の上部を通じてスラグを連続的に除去して、金属酸化物の還元過程において発生する副産物を連続的に除去することができる。これにより、共晶組成物に金属酸化物を投入したときに形成される反応生成物を電解槽から連続的に除去して、金属酸化物の定量を投入した後にすべての反応が終結するのではなく、金属酸化物を連続的に投入して工程を中断することなく金属Mと金属Mの液状金属合金を収得することができる。このとき、電解槽の下部を通じて液状金属合金を連続的に収得する段階や電解槽の上部を通じてスラグを連続的に除去する段階は、通常の技術者に知られた方法が使用され得る。
【0080】
スラグとフッ化物系電解質を電解槽の上部を通じて除去する段階においてスラグを除去した後、工程運用中にフッ化物系電解質を補充して反応系の均衡を維持し、連続工程が可能にすることができる。このとき、除去されたスラグからフッ化物系電解質を連続的に分離するため、分離されたフッ化物系電解質を再び電解槽に投入することができる。
【0081】
収得された液状金属合金の固化のための冷却が遂行され得る。液状金属合金は、金属Mと金属Mが均質に混在した状態であることから、液状金属合金の冷却速度によって、固化された後に得られる合金の組織構造に大きな影響を受けることになる。冷却速度は、金属間化合物相(phase)が安定的に形成され得、また、MとMの金属間化合物相が連続的に互いに連結された組織構造が製造され得るように、本発明に係る工程が遂行される温度範囲から常温に徐冷されるのが好ましく、例えば、20℃/minの速度であり得る。冷却速度が提示された範囲外で過度に速い場合、金属間化合物が未だ形成できないか、微細な金属間化合物の粒子が金属Mのマトリックスに多量で分散陥入された組織構造が得られるため、連続的かつ速い金属Mの物質移動経路が形成されないというリスクがある。冷却が過度に遅い場合、微細組織構造上の利点は微々であるのに対し、工程に要する時間が過度に長くなることにより、冷却速度は実質的に1℃/min以上、より実質的には5℃/min以上であり得る。
【0082】
本発明に係る方法は、金属Mおよび金属Mを含む合金を収得する段階以降に収得された金属Mおよび金属Mを含む合金を電解精錬して金属Mを収得する段階をさらに含むことができる。
【0083】
前記電解精錬して金属Mを収得する段階は、収得された液状金属合金を固化させて固相の合金を収得し、固相の合金を電解精錬して、合金から金属Mを回収する段階であり得る。
【0084】
場合によっては、固化された合金を電解精錬する前に、液状金属合金に残存し得る電解質を除去することができ、これは、例えば、液状金属合金を真空または不活性気体雰囲気において熱処理し、電解質が蒸留して除去されるよう誘導することによって達成され得る。蒸留温度(熱処理温度)は、本発明のシステムに使用される電解質の沸点以上の温度であれば特に限定されず、例えば、2,500℃以上であり得、蒸留温度を下げて効率を高めるために減圧させて遂行することができる。液状金属合金が再び酸化することを効果的に防ぐために、真空雰囲気および不活性気体下において蒸留を遂行することが有利であり得る。
【0085】
本発明は、本発明の明細書に記載された任意の方法またはその組み合わせによって収得された金属Mと金属Mの金属合金を提供する。例えば、金属Mと金属Mの金属合金は、電解槽内にフッ化物系電解質の溶融塩を形成する段階と、前記電解槽内に金属Mを含む還元剤および前記金属Mと共晶相(eutectic phase)を形成する金属Mを投入して、前記MおよびMの共晶組成物を製造する段階と、前記金属酸化物を前記共晶組成物と反応させて金属Mを還元し、還元された金属Mが金属Mと液状金属合金を形成する方法と、と含む金属酸化物から金属Mを還元させるための方法によって収得され得る。例えば、金属Mと金属Mの金属合金は、大気中においてなされるか、900ないし1600℃の範囲において遂行される工程から収得されてもよい。例えば、金属Mと金属Mの金属合金は、スラグ化添加剤を投入して、前記金属酸化物を前記共晶組成物と反応させて金属Mを還元する過程において生成された副産物と前記溶融塩のスラグを形成する段階をさらに含む方法によって収得され得る。この他にも、本発明の金属Mと金属Mの金属合金は、本発明の明細書に記載された任意の方法またはその組み合わせによって収得され得る。
【0086】
1つの実施形態において、金属Mと金属Mの金属合金は、金属合金の全体重量に比べて金属Mの残存含量が0.1重量%以下、詳しくは0.01重量%以下、さらに詳しくは0.001重量%以下である高品位の金属合金である。また、金属Mと金属Mの金属合金の酸素含有量は1,800ppm以下、詳しくは1,500ppm以下、さらに詳しくは1,200ppm以下である高品位の金属合金である。
【0087】
本発明の方法によって収得された液状の合金(MとMが液状金属合金)相は、金属合金自体を最終生成物として使用することができる。Mは、産業的に合金の形態として使用される場合が多いが、従来のクロール工程のようにMを単一金属にのみ生産可能な場合には、他の金属と合金を形成する後処理工程が必要であり得る。しかし、本発明は、このような後処理工程がなくても、還元と同時にMとMの金属合金形態として最終生成物を得られるという点において工程効率性が高い。さらに、従来のクロール工程を通じて製造される還元金属は、低い酸素含有量を有する高品位(grade1)の金属の生産量が少なく、相対的に残存酸素含量が高い。したがって、クロール工程によって生産された還元金属を用いて金属合金を製造しても、残存酸素含量が高く現れざるを得ないという限界がある。一方、本発明によって製造される金属合金は、酸素の含量が非常に低いため、大部分が高品位の等級に該当する。例えば、MがTiである場合、本発明に係る方法によれば、高品位金属の収率が98%以上と非常に高いが、従来のクロール工程は、高品位金属の収率が50%未満であると知られており、これを通じて本発明の優秀性をより明確に理解することができる。
【0088】
2.Mを還元させるためのシステム
【0089】
本発明に係る金属酸化物から金属Mを還元させるためのシステムは、
【0090】
電解槽と、
【0091】
前記電解槽内に位置するフッ化物系電解質の溶融塩と、
【0092】
前記溶融塩の下部に位置する金属Mおよび金属Mの共晶組成物と、
【0093】
前記共晶組成物の下部に位置する金属Mと前記金属Mの液状金属合金と、を含むことができ、
【0094】
前記溶融塩の密度は、前記金属酸化物の密度よりも小さいことがあり、前記金属酸化物と前記金属Mが反応して前記金属Mを還元させ、前記金属Mは前記金属Mと共晶相(eutectic phase)を形成することができる。
【0095】
1つの実施形態において、前記電解槽は、電解還元槽などが使用され得、目的とする温度範囲を達成するために高周波溶解炉、または目的金属合金によって電気炉を使用してもよいが、これに制限されない。反応が遂行される温度範囲、反応性などを考慮して、通常の技術者に容易なすべての電解槽および炉が使用され得る。
【0096】
1つの実施形態において、液状金属合金と反応副産物の円滑な分離のために、フッ化物系電解質の溶融塩は、反応副産物との質量比率が5:1ないし2:1であり得、好ましくは3:1であり得るが、これに制限されない。
【0097】
1つの実施形態において、前記電解質は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属群から1つまたは2つ以上選択される金属の酸化物を反応添加剤としてさらに含むことができる。反応添加剤の含量は、電解質の総重量に基づき0.1ないし25重量%であり得る。反応添加剤は、非制限的に、LiO、NaO、SrO、CsO、KO、CaO、BaO、またはこれらの混合物を含むことができる。電解質に含まれた反応添加剤は、原料モジュールに含まれた金属酸化物のより容易な還元を可能にすることができる。
【0098】
1つの実施形態において、図1に類似した電解槽を用いて本発明の合金金属の製造方法を遂行することができる。例えば、フッ化物系電解質を電解槽1に装入し溶融させて溶融塩5を形成した後、電解槽に金属Mと共晶相を形成する金属Mおよび金属Mを含む還元剤を投入して金属Mおよび金属Mの共晶組成物6を製造する。フッ化物系電解質の溶融塩の密度が共晶組成物の密度よりも小さいため、共晶組成物6の上にフッ化物系電解質の溶融塩5が位置する。その後、金属酸化物10を原料投入装置1を用いて電解槽に装入し、共晶組成物6と反応させて金属Mおよび金属Mの液状金属合金7を製造し、反応が終了した後、液状金属合金と電解質の間に位置する反応副産物にスラグ化添加剤9を投入してスラグ化させる。その後、電解槽の下部を通じて液状金属合金7を、電解槽の下部に連結された出湯部8を通じて収得する。スラグは、電解槽の上部に位置するため、電解槽をチルトして約50~90%のスラグを除去し、約10~50%の残存スラグに新たなフッ化物系電解質を電解質投入装置2を通じて投入して新たな電解質層を形成する。その後、再び金属酸化物10を原料投入装置1を用いて電解槽に装入し、共晶組成物6と反応させて液状金属合金7を製造する過程を繰り返すことができる。スラグを除去する前や電解槽をチルトしてスラグを除去する段階など、工程のすべての段階において、電解槽の下部に生成された液状金属合金7は、電解槽の下部の出湯部8を通じて連続的に収得され得る。電解槽は、例えば、攪拌を容易にするために高周波溶解炉3を使用することができるが、これに制限されない。
【0099】
3.実施例
【0100】
以下では、実施例を詳述し、これを通じて本発明の作用および効果を立証するものである。しかし、以下の実施例は、発明の例示として提示されたものに過ぎず、これにより発明の権利範囲が定められるものではない。
【0101】
<実施例1>
【0102】
図1に図示されたようなシステムを用いて、図2の工程順序によって進めた。抵抗加熱炉において電解質CaF(40.8g)を秤量して電解槽に投入後、約1415℃まで加熱してフッ化物系電解質の溶融塩を製造した(図2のa)。
【0103】
Cu(s)とCa(s)をそれぞれ52.8gおよび72.3gを秤量し、電解槽内に投入して溶融させ、共晶組成物を製造した(図2のb)。
【0104】
金属酸化物として72.1gのTiO(平均粒子の大きさ100μm)を秤量して10時間反応させた(図2のcおよびd)。
【0105】
副産物を除去するために、スラグ化添加剤であるAl粉末200gとCaO100gを投入してスラグ化させた後(図2のe)、炉内において徐冷した。前記工程は、大気雰囲気において遂行した。
【0106】
<実施例2>
【0107】
図1に図示されたようなシステムを用いて、図2の工程順序によって進めた。抵抗加熱炉において電解質CaF(40.8g)を秤量して電解槽に投入後、約1415℃まで加熱してフッ化物系電解質の溶融塩を製造した(図2のa)。
【0108】
Cu(s)とCa(s)をそれぞれ60gおよび65.5gを秤量し、電解槽内に投入して溶融させ、共晶組成物を製造した(図2のb)。
【0109】
金属酸化物として111gのCiTiOを秤量して2時間反応させた(図2のcおよびd)。
【0110】
副産物を除去するために、スラグ化添加剤であるAl粉末200gとCaO100gを投入してスラグ化させた後(図2のe)、炉内において徐冷した。前記工程は、大気雰囲気において遂行した。
【0111】
<試験例1>
【0112】
フッ化物系電解質と塩化物系電解質の揮発率を測定した。それぞれの電解質500g(装入前重量)を秤量してるつぼに投入し、るつぼを溶融炉に装入して1,600℃において10時間放置した後の電解質の重量(装入後重量)を測定した。揮発率は、下記の方法を用いて評価した。
【0113】
-揮発率:(装入前重量-装入後重量)/(装入前重量)x100%
【0114】
この結果、フッ化物系電解質として使用されたCaFの場合、1.8重量%の低い揮発率を示すが、塩化物系電解質であるCaClは約74重量%の高い揮発率を示すことを確認した(図3)。
【0115】
各温度範囲において測定されるフッ化物系電解質であるCaFの揮発率と塩化物系電解質であるCaClの揮発率は、本工程が遂行される工程温度に基づき、フッ化物系電解質の蒸気圧が著しく低いことが分かり(図4)、これは、フッ化物系電解質の工程における揮発率が著しく低いことを示す。
【0116】
このことから、前述したような効率的な工程のために揮発率の低いフッ化物系電解質を使用することが好ましい。
【0117】
<試験例2>
【0118】
実施例1および2から収得された合金を下記の方法を用いて特性を評価した。
【0119】
-回収率:100-{(第1重量-第2重量)/第2重量x100%}
【0120】
-残存不純物含量:製造された合金を切断し、合金内部をエネルギー分散スペクトルを用いて確認した。
【0121】
-酸素含有量:ELTRA ONH2000を使用して合金に存在する酸素含量を測定した。
【0122】
【表1】

*第1重量:初期電解槽に投入されたCuの総量+金属酸化物に含まれたTiの化学理論的還元量
**第2重量:収得されたCuTiの総量
【0123】
表1の結果から、本発明により製造された実施例の合金は高い回収率を示し、還元剤として使用された金属や酸素が実質的にない、高純度の合金が収得されたことが分かる。即ち、前記のように、不活性ガス雰囲気においてのみ可能であった既存の工程とは異なり、大気雰囲気下において工程が進められても、より優れた目的金属の回収率を示し、著しく低い酸素含有量を示すことを確認した。
【0124】
以上、本発明の実施例を参照して説明したが、本発明が属する分野において通常の知識を有する者であれば、前記内容に基づいて本発明の範疇内から多様な応用および変形を行うことが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7