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特許7617341カーボンナノチューブ分散組成物、合材スラリー、電極膜、および二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散組成物、合材スラリー、電極膜、および二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20250109BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20250109BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250109BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C01B32/174
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024146556
(22)【出願日】2024-08-28
【審査請求日】2024-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2023142456
(32)【優先日】2023-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】須田 康明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大地
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-167667(JP,A)
【文献】国際公開第2022/075387(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/127931(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
H01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ(A)と、分散剤(B)と、溶媒(C)とを含み、
前記分散剤(B)の含有量は、前記カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、15~160質量部であり、
レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50が0.3~7μmであり、
下記(1)および(2)を満たすことを特徴とするカーボンナノチューブ分散組成物。
(1)分散剤(B)は、重量平均分子量が8,000以上100,000以下であり、かつ(メタ)アクリル酸に由来するカルボキシル基含有構造単位を有する重合体であり、
前記カルボキシル基含有構造単位の含有率は、前記重合体の質量を基準として80質量%以上である。
(2)カーボンナノチューブ分散組成物の、レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50をX[μm]、pHをYとしたとき、XおよびYが下記(式a)および(式b)を満たす。
(式a)Y≧-0.149X+4.545
(式b)Y≦-0.134X+5.140
【請求項2】
塩基性化合物(D)をさらに含む、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項3】
動的粘弾性測定による25℃における1Hzでの位相角が、3°以上60°未満である、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項4】
動的粘弾性測定による25℃における1Hzでの複素弾性率が、5Pa以上300Pa未満である、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ(A)の平均外径が、1nm以上50nm以下である、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項6】
前記分散剤(B)の含有量は、前記カーボンナノチューブ(A)100質量部に対し、15~90質量部である、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ(A)の窒素吸着測定によるBET比表面積が100m/g以上1200m/g以下である、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散組成物と、活物質とを含む、合材スラリー。
【請求項9】
請求項に記載の合材スラリーから形成してなる電極膜。
【請求項10】
正極および負極を備える二次電池であって、
正極および負極の少なくとも一方が、請求項に記載の電極膜を有する、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カーボンナノチューブ分散組成物に関する。さらに詳しくは、カーボンナノチューブ分散組成物、カーボンナノチューブ分散組成物と活物質とを含む合材スラリー、合材スラリーから形成してなる電極膜、および該電極膜を備える二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の普及と携帯機器の小型軽量化および高性能化に伴い、高いエネルギー密度を有する二次電池、およびその二次電池の高容量化が求められている。このような背景の下、高エネルギー密度、高電圧という特徴から、非水系電解液を用いる二次電池、特にリチウムイオン二次電池が、多くの機器に使われるようになっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の容量は、主材料である正極活物質および負極活物質に大きく依存することから、これらの電極活物質に用いるための各種材料が盛んに研究されている。
しかし、実用化されている電極活物質を使用した場合に得られる充電容量は、いずれも理論値に近いレベルまで到達しており、電極活物質の改良は限界に近い。そのような状況下、負極活物質については、現行の黒鉛粉末に対して、可逆的により多くのリチウムイオンをドーピング可能なシリコン系活物質が期待されている。しかし、シリコン系活物質を使用した場合、充放電時にリチウムイオンを吸蔵および放出する際の体積変化によって、割れ又は粒子の孤立が生じやすく、充電および放電の繰り返しに伴い容量が減少する問題がある。
【0004】
また、電極の導電性を向上させるために、導電材としてカーボンナノチューブを用いる技術が検討されている。カーボンナノチューブを用いることで、電極抵抗を低減させる働きが期待できる。なかでも、カーボンナノチューブを負極に用いた場合、導電性の低いシリコン系活物質が、充電放電時にリチウムイオンを吸蔵および放出する際の体積変化によって電気的に孤立することを防ぎ、電池の寿命を向上させる働きが期待できる。
【0005】
近年、二次電池向けの合材スラリーに対してカーボンナノチューブを添加する方法としては、カーボンナノチューブ分散液を用いることが主流となっている。このようなカーボンナノチューブ分散液の分散粒径を適切な範囲とすることで、リチウムイオンを貯蔵する活物質同士の間に導電経路を張り巡らせることができる。
【0006】
そのため、例えば、特許文献1では、平均繊維外径が50~110nmの範囲である多層カーボンナノチューブのカルボキシメチルセルロースナトリウム水分散液であって、特定の粒度分布特性によって、カーボンナノチューブ分散液を分散安定化して、導電性を改善し、二次電池とした際のサイクル特性を向上させる方法を開示している。
特許文献2では、BET比表面積値が70~250m/gのカーボンナノチューブ粉末を2~15重量%含有した分散液であって、温度25℃、ずり速度383s-1における粘度値が2~110mPa・sであり、さらには分散粒子径d50が100~600nmであるように調整することで、サイクル特性に優れたカーボンナノチューブ分散液を提供する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-028109号公報
【文献】特開2015-195143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの方法によれば、カーボンナノチューブ同士の絡まり合いによる電極中での導電材の局在を抑制し、導電パスを維持してサイクル特性を改善することができる。
しかしながら、カーボンナノチューブは、通常、ナノサイズの外径を有する炭素繊維が絡み合って凝集体となっている。この凝集体を解繊させ、分散するのは非常に困難であるため、初期の流動性が高く、かつ分散安定性に優れたカーボンナノチューブ分散組成物を得ることは難しい。また、流動性の悪いカーボンナノチューブ分散組成物を用いた場合には、さらに活物質を添加して得られる合材スラリーにおいて、導電材の拡散が不十分となり、塗膜を形成した際に、高レートでの内部抵抗が上昇し、レート特性が問題となってくる。
【0009】
したがって、本発明は、二次電池とした際のサイクル特性が良好であり、すなわち、寿命性能に優れるカーボンナノチューブの分散状態となる粒径範囲において、分散組成物の流動性と保存安定性とを両立するカーボンナノチューブ分散組成物を提供する。また、上記カーボンナノチューブ分散組成物を用いることで、サイクル特性とレート特性とを両立した二次電池を提供する。
【0010】
さらには、負極活物質として黒鉛粉末とシリコン系活物質を用いた場合であっても、レート特性に優れた二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、以下の実施形態を含む。本発明の実施形態は以下に限定されない。
一実施形態は、カーボンナノチューブ(A)と、分散剤(B)と、溶媒(C)とを含み、レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50が0.3~7μmであり、下記(1)および(2)を満たすことを特徴とするカーボンナノチューブ分散組成物に関する。
(1)分散剤(B)は、重量平均分子量が5,000以上360,000以下であり、かつ(メタ)アクリル酸およびカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートの少なくとも一方に由来するカルボキシル基含有構造単位を有する重合体であり、
前記カルボキシル基含有構造単位の含有率は、前記重合体の質量を基準として80質量%以上である。
(2)カーボンナノチューブ分散組成物の、レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50をX[μm]、pHをYとしたとき、XおよびYが下記(式a)および(式b)を満たす。
(式a)Y≧-0.149X+4.545
(式b)Y≦-0.134X+5.140
上記実施形態において、カーボンナノチューブ分散組成物は、塩基性化合物(D)をさらに含むことが好ましい。
【0012】
他の実施形態は、上記実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物と、活物質とを含む、合材スラリーに関する。
【0013】
他の実施形態は、上記実施形態の合材スラリーから形成してなる電極膜に関する。
【0014】
他の実施形態は、正極および負極を備える二次電池であって、
正極および負極の少なくとも一方が、上記実施形態の電極膜を有する、二次電池に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、特に二次電池の寿命性能向上などが期待できる粒度分布範囲を有するカーボンナノチューブ分散組成物において、優れた流動性と保存安定性とを提供することが可能となる。また、このカーボンナノチューブ分散組成物を用いることで、サイクル特性とレート特性とを両立した二次電池を提供することが可能となる。
【0016】
さらには、負極活物質として黒鉛粉末とシリコン系活物質を用いた場合、充放電時に活物質の膨張及び収縮が起こったとしても、合材スラリー中にカーボンナノチューブが均一に拡散していることで導電パスが充分に維持され、そのことにより、電極内の内部抵抗上昇を抑制し、充放電容量の低下を抑え、レート特性に優れた二次電池の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態である分散組成物、合材スラリー、電極膜、二次電池について詳しく説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明には要旨を変更しない範囲において実施される実施形態も含まれる。
本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値の範囲として含むものとする。
【0018】
本明細書において、「カーボンナノチューブ」を「CNT」、「カーボンナノチューブ分散組成物」を「分散組成物」または「CNT分散組成物」、「レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50」を「粒径D50」という場合がある。
本明細書では、「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイルオキシ」と表記した場合には、特に説明がない限り、それぞれ、「アクリルまたはメタクリル」、「アクリロイルまたはメタクリロイル」、「アクリル酸またはメタクリル酸」、「アクリレートまたはメタクリレート」、「アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシ」を表すものとする。
【0019】
本明細書に記載する各種成分は、特に注釈しない限り、それぞれ独立に1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法によって求められる値である。
【0020】
<1>カーボンナノチューブ分散組成物
本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物は、カーボンナノチューブ(A)と、分散剤(B)と、溶媒(C)とを含み、
レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50が0.3~7μmであり、下記(1)および(2)を満たす。
(1)分散剤(B)は、重量平均分子量が5,000以上360,000以下であり、かつ(メタ)アクリル酸およびカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートの少なくとも一方に由来するカルボキシル基含有構造単位を有する重合体であり、
前記カルボキシル基含有構造単位の含有率は、前記重合体の質量を基準として80質量%以上である。
(2)カーボンナノチューブ分散組成物の、レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50をX[μm]、pHをYとしたとき、XおよびYが下記(式a)および(式b)を満たす。
(式a)Y≧-0.149X+4.545
(式b)Y≦-0.134X+5.140
【0021】
上記のように、本発明者らは、カーボンナノチューブ分散組成物のpHの好ましい範囲は、粒径D50にしたがう傾向があることを見出した。例えば、粒径D50の値が大きいほどpHを低く調整することで、保存安定性および流動性を向上できる。
【0022】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物において、分散粒径であるレーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50は0.3~7μmである。このような粒度分布範囲を有するカーボンナノチューブ分散組成物は、サイクル特性に優れる二次電池を容易に提供できる傾向がある。上記粒径D50は、0.35μm以上であることが好ましく、0.4μm以上であることがより好ましい。また、上記粒径D50は、6μm以下であることが好ましく、5.5μm以下がより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0023】
粒径D50は、分散組成物中のカーボンナノチューブの長さと相関があり、粒径D50が上記範囲内にあるカーボンナノチューブ分散組成物(以下、分散組成物ともいう)は、分散組成物中のカーボンナノチューブの分散状態が良好であり、サイクル特性に優れ、電池寿命の延長が容易となる。粒径D50が上記範囲を上回る場合は凝集した状態のカーボンナノチューブが存在し、また、粒径D50が上記範囲を下回る場合は微細に切断された導電材が多数生じることから、効率的な導電ネットワークの形成が難しくなる傾向がある。
上記粒径D50は、一般的な動的光散乱法のレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて求めることができるが、より具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0024】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物のpHは、上記(式a)および(式b)で規定される「Y」の範囲である。pHは25℃において、例えばpHメーターを用いて測定した値であってよい。いくつかの実施形態において、カーボンナノチューブ分散組成物のpHは、25℃においてpHメーターを用いて測定した際に、3.5以上、5.1以下の範囲であることが好ましく、3.8以上、5.0以下の範囲がより好ましい。pHが上記範囲内であると、分散剤(B)の分散性を容易に向上でき、そのことにより、分散組成物の流動性と分散安定性を容易に向上できる傾向がある。
【0025】
このように、本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物は、サイクル特性に優れる二次電池が期待できる粒度分布範囲に調整された分散組成物であって、カルボキシル基を充分に有する分散剤(B)を用い、かつ分散組成物のpHを特定の範囲に調整することで、優れた流動性と保存安定性との両立を実現している。さらに、分散組成物に活物質を加えて合材スラリーを形成した際にも、活物質に対してカーボンナノチューブが均一に分配されることで、容量維持率の低下を抑制することができる。
【0026】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物を得るために、上記(式a)および(式b)で規定される「Y」の範囲を満たすようにpHの調整方法を適用することが好ましい。pHの調整方法は、特に限定されない。例えば、分散組成物に塩基性化合物を添加し、その添加量を調整する方法、あるいは、酸性又は塩基性を示すカーボンナノチューブを使用する方法が挙げられる。酸性を示すカーボンナノチューブは、例えば、カーボンナノチューブに対して、酸処理などによって酸性官能基を導入する方法によって得ることができる。塩基性を示すカーボンナノチューブは、例えば、カーボンナノチューブ中に残存する触媒由来の金属量を調整する方法、カーボンナノチューブを塩基性化合物(例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む化合物、アミン系化合物など)によって前処理する方法によって得ることができる。
いくつかの実施形態において、pHの調整が容易である観点から、塩基性化合物を使用する方法が好ましく、分散組成物に塩基性化合物を添加する方法がより好ましい。塩基性化合物の添加量を調整することによって、所望とするpH値を容易に得ることができる。塩基性化合物の詳細については、「塩基性化合物(D)」として後述する。
【0027】
本実施形態の分散組成物において、分散剤(B)は、カルボキシル基含有構造単位を80質量%以上含む。そのため、分散剤(B)を溶解し得る溶媒(例えば、水等)に溶解させた溶液のpHは酸性を示す。より具体的には、分散剤(B)を含む溶液のpH値は2以上7未満となり得る。分散剤(B)を含む溶液のpHを調整してCOO基(カルボン酸アニオン)を生成させることにより、その電化反発力によって粒子を分散安定化させることができる。このことから、本発明者らは、カーボンナノチューブ分散組成物において、分散粒径であるレーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50と、pHとの関係を制御することで、分散組成物の初期の粘度を低くすることができ、分散組成物の流動性と分散安定性とを両立できることを見出した。
【0028】
理論によって拘束するものではないが、上記粒径D50とpHとの関係において、上式(式a)および(式b)で規定される好適な範囲があることについては、以下の理由が考えられる。
先ず、分散粒径が小さいほど、ブラウン運動による粒子同士の衝突速度は速くなる。そのため、分散安定化のためには、より多くのCOO基による電化反発による斥力が必要になると推察される。換言すると、例えば、pHを調整するために塩基性化合物を使用した場合は、分散粒径が小さいほど、塩基性化合物をより多く添加することが必要となり、結果としてpHは高くなる傾向になる。なお、分散安定化のためには、分散粒径が大きい場合も、COO基による電化反発は一定以上必要である。
一方、カルボキシル基は、カーボンナノチューブ(CNT)に対する親和性が高いことから、カルボキシル基を多く含有する分散剤は、CNTにより吸着しやすい。例えば、塩基性化合物を分散組成物に過剰に添加する等によってpHが高くなりすぎると、相対的にカルボキシル基の量が減少し、分散剤がCNTから脱離する恐れがある。特に、分散粒径が大きい場合は、分散組成物中のCNT粒子の質量が大きくなるため、pHを低めに設定することが好ましい。このように分散粒径の大きさに応じてpHを適切に調整し、カーボンナノチューブへの分散剤の吸着力を高めることで、浸透圧効果による粒子反発力を利用することができ、これらの結果として保存安定性および流動性を高めることができると考えられる。
【0029】
なお、本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物は活物質を含有しない。本明細書において、カーボンナノチューブ分散組成物にさらに活物質を含有する場合は、合材スラリーとして定義する。
すなわち、本実施形態の分散組成物は、分散組成物に活物質が添加される前の状態であることを意味する。これら点で、分散組成物は、活物質を含む合材スラリーと区別される。すなわち、分散組成物は、活物質を実質的に含まないものである。「実質的に含まない」とは、分散組成物に活物質が意図的に添加された状態を除く概念である。具体的には、分散組成物の全質量に対して、活物質の含有量は、1質量%以下、0.5質量%以下、または0.1質量%以下であればよく、あるいは0質量%であってよい。活物質の詳細については後述する。
【0030】
本実施形態の分散組成物は、二次電池用電極を形成するために好適に用いることができる。しかし、本実施形態の分散組成物は、二次電池の用途に限らず、二次電池以外の蓄電デバイス、例えば、電気二重層キャパシタ用電極、非水系電解質キャパシタ用電極等にも用いることができる。その他にも、プラスチックおよびゴム製品のICトレー、電子部品材料の成形体等の帯電防止材、電子部品、透明電極(ITO膜)代替、電磁波シールド等の用途にも用いることができる。
【0031】
以下、本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物の構成成分について説明する。
<カーボンナノチューブ(A)>
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ単独、多層カーボンナノチューブ単独、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブが混在するものであってもよい。単層カーボンナノチューブは、一層のグラファイトが巻かれた構造を有し、多層カーボンナノチューブは、二層または三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有するものである。
【0032】
原料として用いるカーボンナノチューブの平均外径は、1nm以上50nm以下が好ましく、1nm以上40nm以下がより好ましく、又は1nm以上20nm以下がさらに好ましい。これらの範囲では、電極膜において活物質の充填密度をより高めることができる。この範囲のカーボンナノチューブを用いることで、分散組成物中において数本のCNTからなる束を形成し、分散後の好ましい上記平均外径の分散組成物を得ることができる。
【0033】
原料として用いるカーボンナノチューブの平均外径は以下の方法により算出される。
まず、超音波ホモジナイザーを用いてトルエン中にカーボンナノチューブを分散し、次いで、コロジオン膜上にのせて乾燥させたカーボンナノチューブを透過型電子顕微鏡(TEM)によってカーボンナノチューブを観測するとともに撮像する。次に、観測写真において、任意の100本のカーボンナノチューブを選び、それぞれの外径を計測する。次に、外径の数平均として原料カーボンナノチューブの平均外径(nm)を算出する。
【0034】
原料として用いるカーボンナノチューブの平均繊維長は、1~50μmであることが好ましく、1~20μmであることがより好ましい。上記範囲内であると、分散後に好ましい繊維長に調整することが容易である。
【0035】
原料として用いるカーボンナノチューブの繊維長は、超音波ホモジナイザーを用いてトルエン中にカーボンナノチューブを分散し、次いで、マイカ基板上に堆積させたカーボンナノチューブをSEM観察し、画像解析することで測定できる。SEM画像を画像解析ソフト「WinROOF2015」(三谷商事製)により解析し、1本のカーボンナノチューブについて骨格長さを繊維長として算出する。1000~3000本のカーボンナノチューブの繊維長カウントした平均を原料として用いるカーボンナノチューブの平均繊維長とする。
【0036】
原料として用いるカーボンナノチューブの窒素吸着測定によるBET比表面積は、100m/g以上1200m/g以下であることが好ましい。カーボンナノチューブのBET比表面積が上記範囲であると、適切な分散状態に制御した際、カーボンナノチューブが合材スラリー中で分配しやすく、サイクル性能をより向上させることができる。
【0037】
原料として用いるカーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際に、G/D比が、0.5以上100以下であることが好ましく、0.8以上50以下であることがより好ましく、1以上45以下であることがさらに好ましい。
【0038】
なかでも、比表面積が100m/g以上700m/g未満である場合には、G/D比は0.8以上8以下が好ましく、0.8以上5以下であることがさらに好ましい。
比表面積が700m/g以上1200m/g以下である場合には、G/D比は30以上100以下が好ましく、40以上50以下であることがさらに好ましい。
カーボンナノチューブのG/D比が上記範囲内であると、結晶性が高く、良好な導電性を得やすくなるために好ましい。比表面積によって好ましい範囲が異なるのは、比表面積の小さい場合は主に多層CNTであり、末端sp3混成炭素や層間の影響でDバンドが強くなるため良好な導電性のG/D比範囲が高比表面積カーボンナノチューブに対して小さくなるためである。高比表面積の場合は主に単層CNTであり、sp2炭素の欠損がG/D比により推察でき、上記範囲内であると欠損が少なく良好な導電性を示すことができる。
【0039】
原料として用いるカーボンナノチューブの体積抵抗率は、1.0×10-3Ω・cm以上3.0×10-2Ω・cm以下であることが好ましく、1.0×10-3Ω・cm以上1.0×10-2Ω・cm以下であることがより好ましい。
カーボンナノチューブの体積抵抗率は粉体抵抗率測定装置((株)三菱化学アナリテック社製:ロレスターGP粉体抵抗率測定システムMCP-PD-51))を用いて測定することができる。カーボンナノチューブの体積抵抗率が上記範囲であると、カーボンナノチューブと活物質間の電子移動抵抗を小さくすることができる。
【0040】
原料として用いるカーボンナノチューブの炭素純度は、カーボンナノチューブ中の炭素原子の含有率(%)で表される。炭素純度はカーボンナノチューブ100質量%に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブの炭素純度が上記範囲であると、金属触媒等の不純物によってデンドライトが形成されショートが起こる等の不具合を防ぐことができる。
【0041】
原料として用いるカーボンナノチューブ中に含まれる金属量は、カーボンナノチューブ100質量%に対して、20質量%未満であることが好ましく、10質量%未満であることがより好ましく、5質量%未満であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブに含まれる金属としては、カーボンナノチューブを合成する際に触媒として使用される金属や金属酸化物、または装置等の摩耗によって混入した金属粉等が挙げられる。具体的には、コバルト、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、シリカ、マンガンやモリブデン等の金属、これら金属の合金、金属酸化物、およびこれらの複合酸化物等が挙げられる。
【0042】
カーボンナノチューブ中の炭素純度および金属量は、ICP発光分光分析法により求めることができる。
【0043】
原料として用いるカーボンナノチューブは、表面処理を行ったカーボンナノチューブでもよい。またカーボンナノチューブは、カルボキシル基に代表される官能基を付与させたカーボンナノチューブ誘導体であってもよい。また、有機化合物、金属原子等の物質を内包させたカーボンナノナノチューブも用いることができる。
【0044】
原料として用いるカーボンナノチューブは、粉砕処理されたカーボンナノチューブでもよい。粉砕処理とは、ビーズ、スチールボール等の粉砕メディアを内蔵した粉砕機を使用して、実質的に液状物質を介在させないでカーボンナノチューブを粉砕するものであり、乾式粉砕ともいわれる。粉砕は、粉砕メディア同士の衝突による粉砕力や破壊力を利用して行なわれる。粉砕は主にカーボンナノチューブの二次粒子を小さくする効果があり、カーボンナノチューブの分散性を向上させることができる。乾式粉砕装置としては、乾式のアトライター、ボールミル、振動ミル、ビーズミルなどの公知の方法を用いることができ、粉砕時間はその装置によって任意に設定できる。
【0045】
原料として用いるカーボンナノチューブはどのような方法で製造したカーボンナノチューブでも構わない。カーボンナノチューブは一般にレーザーアブレーション法、アーク放電法、熱CVD法、プラズマCVD法および燃焼法で製造できるが、これらに限定されない。
【0046】
<分散剤(B)>
本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物は、分散剤(B)を含む。分散剤は、分散組成物中でCNTを分散安定化する機能を有するものであり、効果を阻害しない範囲でその他分散剤を併用してもよい。
分散剤(B)は、重量平均分子量が5,000以上360,000以下、かつカルボキシル基含有構造単位を有する重合体であり、前記カルボキシル基含有構造単位の含有率が、前記重合体の質量を基準として80質量%以上である。
このような分散剤(B)をカーボンナノチューブの分散に用いることで、特定の粒径D50を満たし、かつ流動性と保存安定性に優れたカーボンナノチューブ分散組成物を容易に得ることができる。
【0047】
分散剤(B)の重量平均分子量は、5,000以上、360,000以下である。分散剤(B)の重量平均分子量は、好ましくは6,000以上であり、より好ましくは8,000以上である。また、好ましくは260,000以下であり、より好ましくは100,000以下である。
いくつかの実施形態において、分散剤(B)の重量平均分子量は、好ましくは9,000以上であり、より好ましくは10,000以上であり、さらに好ましくは50,000以上であってよい。また、分散剤(B)の重量平均分子量は、好ましくは90,000以下であり、より好ましくは80,000以下であり、より好ましくは70,000であってよい。
重量平均分子量がこの範囲であることにより、カーボンナノチューブへの吸着性が向上し、分散体の安定性がより向上できる。
【0048】
また、分散剤(B)は、カルボキシル基含有構造単位を有する重合体であり、前記カルボキシル基含有構造単位の含有率が、前記重合体の質量を基準として80質量%以上である。
分子内に、充分なカルボキシル基を有することで、強いイオン性を有する。そのため、カーボンナノチューブへの吸着性と媒体への親和性とを高め、カーボンナノチューブを媒体中に安定に存在させることができる。
いくつかの実施形態において、分散剤(B)は、(メタ)アクリル酸およびカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートの少なくとも一方の重合体であることが好ましい。すなわち、分散剤(B)は、(メタ)アクリル酸およびカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートの少なくとも一方に由来する構造単位を含む重合体であることが好ましく、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む重合体であることがより好ましい。上記重合体を分散剤(B)として使用した場合、カーボンナノチューブの分散性に優れ、電池材料としてレート特性およびサイクル特性をより向上させることが容易となる。
また、分散剤(B)は、主鎖にアルキレン構造を有する重合体であることが好ましい。
【0049】
本明細書において、分散剤の各構造単位の含有率は、重合時に使用する前駆体(モノマー)の質量%に基づき、求めることができる。したがって、後述するカルボキシル基含有構造単位の含有率は、分散剤(重合体)を製造するために使用したモノマーの全量を基準とする、(メタ)アクリル酸、および/またはカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートの含有率を意味する。
【0050】
カルボキシル基含有構造単位の含有率は、後述する溶媒と適度な親和性を持たせる観点から、重合体の質量(但し開始剤および連鎖移動剤を除く)を100質量%とした場合に、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。一方、上記含有率は98質量%以下であってよい。一実施形態において、上記含有率は100質量%であってもよい。90質量%以上であることで、カルボキシル基の電化反発力によるCNTの分散安定化がより期待できる。
【0051】
一実施形態において、分散剤(B)は、カルボキシル基含有構造単位に加えて、ニトリル基含有構造単位、ヒドロキシル基含有構造単位、および複素環含有構造単位からなる群から選択される1種以上をさらに含有してもよい。このように分散剤(B)がカルボキシル基含有構造単位に加えて、上記の1種以上の構造単位をさらに含有する場合、分極が強くなり、カーボンナノチューブと媒体との親和性がより高くなるために好ましい。
【0052】
[カルボキシル基含有構造単位]
カルボキシル基含有構造単位は、カルボキシル基を有する構造単位であり、カルボキシル基によって置換されたアルキレン構造を有する構造単位であってよい。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。カルボキシル基含有構造単位が有するカルボキシル基の数は、1つまたは2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。
重合体へのカルボキシル基含有構造単位の導入方法は、特に限定されない。例えば、カルボキシル基を有するモノマー、より具体的には(メタ)アクリル酸またはカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート等)の重合反応により重合体を調製する方法が挙げられる。他の方法として、カルボキシル基以外の官能基を含むモノマーの重合反応により重合体を調製し、次いで官能基をカルボキシル基に変性させる方法が挙げられる。特に、カルボキシル基を有するモノマーの重合反応により重合体を調製する方法を好ましく用いることができる。
【0053】
カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和脂肪酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタレート、エチレンオキサイド変性コハク酸(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記カルボキシル基を有するモノマーの多量体である無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の酸無水物基を有するモノマーおよびその単官能アルコール付加体等が挙げられる。
【0054】
2つのカルボキシル基が脱水縮合した構造を有する基である「-C(=O)-O-C(=O)-」(本明細書では「酸無水物基」という)も、加水分解によりカルボキシル基を形成する。そのため、本明細書では、カルボキシル基の概念に含める。また、(メタ)アクリルアミド等のカルバモイル基を有するモノマーの重合反応により得られた重合体の、カルバモイル基を加水分解することで、カルボキシル基含有構造単位としてもよい。
【0055】
カルボキシル基含有構造単位の前駆体であるカルボキシル基を有するモノマーとしては、電気化学的安定性の観点から、不飽和脂肪酸が好ましく、(メタ)アクリル酸がより好ましく、アクリル酸がさらに好ましい。アクリル酸は水への溶解性、カーボンナノチューブの分散性に優れ、電池材料としてレート特性とサイクル特性をより向上させることができるために好ましい。
【0056】
[ニトリル基含有構造単位]
ニトリル基含有構造単位は、ニトリル基を有する構造単位であり、ニトリル基によって置換されたアルキレン構造を有する構造単位であってよい。
上記アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。ニトリル基含有構造単位が有するニトリル基の数は、1つまたは2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。
分散剤へのニトリル基含有構造単位の導入方法は、特に限定されない。一実施形態として、例えば、ニトリル基を有するモノマーの重合反応によって重合体を調製することができる。
【0057】
ニトリル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられる。これらの1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。ニトリル基を有するモノマーがアクリロニトリルである場合、共重合体の屈曲が少なくなり、隣接するシアノ基が配向して分極の強い部分構造が形成される。そのため、重合体同士、又は重合体と炭素系導電材との分子間力が高くなる。上記のように分子間力を高める観点、ならびに、原料の入手しやすさ、および反応性の観点から、ニトリル基を有するモノマーは、アクリロニトリルであることが好ましい。
ニトリル基含有構造単位の含有率は、上記分子間力を高める観点から、重合体の質量を100質量%とした場合に、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。一方、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
ニトリル基含有構造単位の含有率を上記範囲に調整することで、カーボンナノチューブを媒体中により安定に存在させることができる。また、このような重合体を二次電池に用いた場合には、電池内で分散剤が電解液に溶解して電解液の抵抗を増大させるなどの不具合を防ぐことができるために好ましい。
【0058】
[ヒドロキシル基含有構造単位]
ヒドロキシル基含有構造単位は、ヒドロキシル基を有する構造単位であり、ヒドロキシル基によって置換されたアルキレン構造を有する構造単位であってよい。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。ヒドロキシル基含有構造単位が有するヒドロキシル基の数は、1つまたは2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。
重合体へのヒドロキシル基含有構造単位の導入方法は、特に限定されない。例えば、ヒドロキシル基を有するモノマーの重合反応により重合体を調製する方法、または、ヒドロキシル基以外の官能基を有するモノマーの重合反応により重合体を調製し、ヒドロキシル基に変性させる方法が挙げられる。反応性、原料価格の観点から合理的な方法を選択することができる。
【0059】
ヒドロキシル基を有するモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートまたはこれらモノマーのカプロラクトン付加物(付加モル数は1~5)等が挙げられる。ヒドロキシル基を含むモノマーは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、2-ヒドロキシエチルアクリレートがさらに好ましい。
【0060】
ヒドロキシル基以外の官能基を有するモノマーの重合反応により重合体を調製し、ヒドロキシル基に変性させる方法としては、例えば、酢酸ビニルを重合して得られたポリ酢酸ビニルのアセチル基を、水酸化ナトリウム等のアルカリによりけん化し、ヒドロキシル基とする方法が挙げられる(けん化反応)。水酸化ナトリウムの濃度と処理時間を変えることで、けん化の反応率(けん化度)を任意にコントロールすることができる。
【0061】
また、カーボンナノチューブと媒体との親和性を高める目的で、重合体中のヒドロキシル基の少なくとも一部をアルデヒド化合物と反応させ、アセタール基に変性させて用いてもよい(アセタール化)。
【0062】
アセタール化反応に用いるアルデヒド化合物は、例えば、炭素数1~15の直鎖状、分枝状、環状飽和、不飽和、又は芳香族のアルデヒド化合物等を用いることができるが、これらに限定されない。具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert-ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、およびシクロヘキシルアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒド化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらのアルデヒド化合物は、ホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等によって置換されたものであってもよい。汎用性の観点で、炭素数1~10の直鎖状、分枝状、環状飽和、不飽和、又は芳香族のアルデヒド等化合物が好ましく、炭素数1~4の直鎖状のアルデヒド化合物がより好ましい。使用するアルデヒド化合物と処理時間を変えることで、アセタール化の反応率(アセタール化度)を任意にコントロールすることができる。
【0063】
分極を強め、カーボンナノチューブおよび媒体への親和性を高めることができ、また、電解液に対する耐性の観点から、ヒドロキシル基含有構造単位の含有率は、重合体の質量を100質量%とした場合に、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。一方、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0064】
また、ヒドロキシル基含有構造単位をアセタール化し、アセタール基を有する場合、アセタール基含有構造単位の含有率は、同様の理由より、重合体の質量を100質量%とした場合に、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。一方、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0065】
さらに、ニトリル基含有構造単位、および複素環含有構造単位からなる群から選択される1種以上を含有する場合には、ヒドロキシル基含有構造単位の含有率は1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。一方、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。上記範囲に調整することで、分極を強め、カーボンナノチューブおよび媒体への親和性を高めることができる。また、電解液に対する耐性の観点からも好ましい。
ニトリル基含有構造単位、および複素環含有構造単位からなる群から選択される1種以上をさらに含有すると、分極がより強くなるため特に好ましい。
【0066】
[複素環含有構造単位]
複素環含有構造単位は、複素環を有する構造単位であり、複素環を有する置換基によって置換されたアルキレン構造を有する構造単位であってよい。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。複素環含有構造単位に含まれる複素環は、単環構造であっても縮合環構造であってもよいが、単環構造であることが好ましい。また、複素環含有構造単位が有する複素環の数は、1つまたは2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。
複素環は、環を構成する原子に炭素以外の原子を含み、例えば、1つまたは2つ以上の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含む。環を構成する炭素以外の原子としては、窒素原子、または酸素原子が好ましく、窒素原子がより好ましい。環を構成する原子に炭素以外の原子を含むことで、複素環内で分極が生じ、カーボンナノチューブに強く作用できるようになる。
また、重合体への複素環の導入方法は、特に限定されない。例えば、複素環を有するモノマーの重合反応により重合体を調製する方法を用いることができる。
【0067】
複素環を有するモノマーとしては、N-ビニル環状アミド構造単位が好ましく、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン、等が挙げられる。特に、電池特性向上の観点からN-ビニル-2-ピロリドンが好ましい。なお、これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
複素環含有構造単位の含有率は、重合体の質量を100質量%とした場合に、上述したように分極を強くし、カーボンナノチューブへの作用が高まる観点から、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。一方、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
ただし、ニトリル基含有構造単位、およびヒドロキシル基含有構造単位の少なくともいずれかをさらに含有する場合には、複素環含有構造単位の含有率は、重合体の質量を基準として、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。一方、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
ニトリル基含有構造単位、およびヒドロキシル基含有構造単位の少なくともいずれかをさらに含有する場合、極性が高くなり、電解液に対する耐性を向上させることができることからより好ましい。
【0069】
[その他構造単位]
重合体は、さらにその他構造単位として、活性水素基含有構造単位(カルボキシル基およびヒドロキシル基を除く)、塩基性基含有構造単位、およびエステル基含有構造単位からなる群より選択される1種以上の構造単位を有してもよい。本実施形態であるカーボンナノチューブ分散組成物を適用する基材、又は混合する材料の親水性、疎水性、酸性、および塩基性等の特性に合わせて、上記構造単位を選択し、含有させることで、種々の用途に容易に適用することができる。
【0070】
その他構造単位の含有量は、重合体の質量を100質量%とした場合に、分散剤の分極を損なわない観点から、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
活性水素基含有構造単位は、活性水素基として、例えば、一級アミノ基、二級アミノ基、メルカプト基等を有する構造単位である。ここで、「一級アミノ基」とは、-NH(アミノ基)を意味し、「二級アミノ基」とは、一級アミノ基上の一つの水素原子がアルキル基等の有機残基で置換された基を意味する。ただし、酸アミド中の一級アミノ基および二級アミノ基は、本明細書では、活性水素基には含めない。
【0072】
塩基性基含有構造単位は、塩基性基を有する構造単位である。塩基性基としては、例えば、3級アミノ基、アミド基などが挙げられる。なお、1級アミノ基を有する構造単位、および2級アミノ基を有する構造単位は、塩基性基含有構造単位にも含まれる。しかし、本開示においては、前記活性水素基含有構造単位として扱い、塩基性基含有構造単位には含めない。
【0073】
エステル基含有構造単位は、(RC=C-CO-O-Rで表される構造を有する構造単位である。上記式において、Rは、水素原子またはメチル基であって、少なくとも一方が水素原子である。Rは、置換基を有していてもよいアルキル基である。
なお、アルキル基の置換基として上記活性水素基または上記塩基性基を含むものは、上記活性水素基含有構造単位または上記塩基性基含有構造単位として扱い、エステル基含有構造単位には含めない。
【0074】
一実施形態において、重合体が有する構造単位の組み合わせは、カルボキシル基含有構造単位のみ、ならびにカルボキシル基含有構造単位/ニトリル基含有構造単位、ヒドロキシル基含有構造単位、および複素環含有構造単位からなる群から選択される1種以上であることが好ましく、カルボキシル基含有構造単位のみ、カルボキシル基含有構造単位/ニトリル基含有構造単位、カルボキシル基含有構造単位/ニトリル基含有構造単位/ヒドロキシル基含有構造単位、からなる群から選択される1種であることが好ましい。
なかでも、カルボキシル基含有構造単位のみ、またはカルボキシル基含有構造単位/ニトリル基含有構造単位の組み合わせを有することが好ましい。
【0075】
重合体の製造方法は、特に限定されない。例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法、および沈殿重合等が挙げられる。なかでも、溶液重合法または沈殿重合法が好ましい。重合反応系は、例えば、イオン重合、フリーラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合等が挙げられる。なかでも、フリーラジカル重合またはリビングラジカル重合が好ましい。また、ラジカル重合開始剤は、例えば、過酸化物、アゾ系開始剤等が挙げられる。
【0076】
重合開始剤としては、ラジカル重合を行う場合は、例えば、以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物、および
アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル等のアゾ系の一般的なラジカル重合開始剤。
これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのラジカル重合開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。
【0077】
これらの重合開始剤は、使用する全モノマーの総質量100質量部に対し、1質量部以下の配合量で用いることが一般的である。重合開始剤の配合量は、重合を行う温度、および重合開始剤の半減期を考慮して適宜選ぶことができる。
【0078】
重合体の製造工程においては、本発明の目的を損なわない範囲で、連鎖移動剤等を用いて、製造する重合体の分子量の制御を行うことができる。連鎖移動剤は、例えば、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール等のアルキルメルカプタン類、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸ノニル、チオグリコール酸-2-エチルヘキシル等のチオグリコール酸エステル類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン、α-ピネン、β-ピネン等が挙げられる。
取扱性および安定性の点から、特に、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、チオグリコール酸エステル類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン、α-ピネン、およびβ-ピネン等が好ましい。上記化合物を使用した場合、得られる重合体が低臭気となる点でも好ましい。一実施形態において、連鎖移動剤として、上記化合物の1種を単独で、または2種以上を併用することが好ましい。
連鎖移動剤は、要求される分子量に応じて適宜添加することができる。一般的には、使用する全モノマーの総質量100質量部に対し、0.001質量部~4質量部の範囲で用いることが好ましい。一実施形態において、上記連鎖移動剤の配合量は、0.01~4質量部が好ましく、0.1~2質量部がより好ましい。連鎖移動剤を上記範囲とすることで、本実施形態において分散剤として使用する重合体の分子量を好適な範囲に容易に調整することができる。
【0079】
また、その他の分子量制御方法として、重合方法を変える方法、重合開始剤の量を調整する方法、および重合温度を変更する方法等が挙げられる。これらの分子量制御方法は、一種の方法だけを単独で用いてもよいし、二種以上の方法を併用してもよい。
【0080】
分子量は、例えば、以下の方法にて、RI検出器、UV検出器(210nm)を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
測定で使用できる装置の具体例として、HLC-8320GPC(東ソー製)が挙げられ、測定は以下に従って実施できる。
・分離カラム:順に以下を直列に配置する。
TSKgel Guardcolumn PWXL(6.0mmI.D.×4cm)
TSKgel GMPXL(7.8mmI.D.×30cm)を2本
・カラム温度:40℃
・溶離液:0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)
・流速:1.0mL/min
サンプルは上記溶離液からなる混合液に0.1質量%の濃度で調製し、0.1mL注入する。分子量は標準PEO/PEG(Aglient Technologies)を用いた換算値として求める。
【0081】
いくつかの実施形態において、カルボキシル基含有構造単位を含む分散剤の酸価は、好ましくは400mgKOH/g~800mgKOH/g、より好ましくは500mgKOH/g~800mgKOH/g、さらに好ましくは600mgKOH/g~800mgKOH/gであってよい。
分散剤の酸価が上記範囲内である場合、CNTへの吸着性を容易に高めることができ、分散媒体となる溶媒への良好な溶解性が容易に得られることから、良好な分散状態を維持することが容易となる傾向がある。上記分散媒体(溶媒)は、水を含み、必要に応じて、水と親和性のある他の媒体をさらに含んでもよい。分散剤の酸価が400mgKOH/g未満となる場合、COOの電化反発部位が減ることに起因して、分散安定性が不良となりやすい。一方、分散剤の酸価が900mgKOH/gを超える場合、分散処理時に使用した装置の腐食の原因となる可能性がある。
酸価は、日本工業規格「K0070:1992. 化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に従って測定された数値であり、樹脂成分1gを完全に中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)を指す。
【0082】
カーボンナノチューブ分散組成物において、上記の重合体は分散剤として機能する。このような観点から、カーボンナノチューブ分散組成物中の分散剤(B)の含有量は、カーボンナノチューブの比表面積と濡れやすさに応じて決めることが好ましい。
一実施形態において、分散剤(B)の含有量は、カーボンナノチューブ100質量部に対し、15質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましい。一方で、160質量部以下が好ましく、140質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましい。
下限値以上であれば、分散剤量が適切となり、カーボンナノチューブの凝集の発生をより抑制し、上限値以下であることで、過剰量のポリマー成分による分散組成物の粘度上昇のための流動性の低下の防止と、保存安定性の悪化を引き起こすことが抑制されるため好ましい。分散剤(B)の含有量は、カーボンナノチューブの比表面積に応じた適正量があり、比表面積の増大に従って好ましい範囲内の中で分散剤量は増大させることが好ましい。例えば、原料として用いるカーボンナノチューブの窒素吸着測定によるBET比表面積が100m/g以上1200m/g以下であるときに、分散剤(B)の含有量は、カーボンナノチューブ100質量部に対し、15~160質量部であることが好ましい。
【0083】
<溶媒(C)>
本実施形態の分散組成物は、溶媒を含む。
溶媒は、特に限定されないが、水を含み、必要に応じて、水と親和性のある他の媒体をさらに含んでもよい。
水と親和性のある他の媒体としては、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、プロピレングリコール、その他グリコール類等が挙げられる。
【0084】
<塩基性化合物(D)>
本実施形態の分散組成物は、所望とするpH値を得るために任意の方法を適用できるが、塩基性化合物を好適に使用できる。したがって、一実施形態において、分散組成物は、塩基性化合物(D)を含む。分散組成物が塩基性化合物(D)を含有することで、分散剤(B)のカルボキシル基と、強い分極で相互作用し、電化反発力を生じさせ、分散組成物の流動性および貯蔵安定性を容易に向上することができる。添加する塩基性化合物(D)は、例えば、無機塩基、無機金属塩、有機塩基、および有機塩基塩が挙げられる。これらの中でも、少量の添加で効果を発揮できることから、より分極が大きい無機塩基、または無機金属塩が好ましい。
【0085】
塩基性化合物は、分散時に添加して用いてもよく、分散終了直後に添加し、充分に混合撹拌して用いてもよい。なかでも、分散時に添加する場合、分散剤(B)の分散速度を速めることができるために好ましい。
【0086】
無機塩基および無機金属塩としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、ホウ酸塩;および、水酸化アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、容易にカチオンを供給できる観点から、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩およびアルコキシドが好ましい。
【0087】
アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。なお、無機塩基が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0088】
アルカリ金属のアルコキシドは、例えば、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウム-n-ブトキシド、リチウム-t-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム-n-ブトキシド、カリウム-t-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム-n-ブトキシド、ナトリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。アルコキシドの炭素数は5以上であってもよい。特に、ナトリウム-t-ブトキシドであることが好ましい。
【0089】
アルカリ土類金属のアルコキシドは、例えば、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウム-n-ブトキシド、マグネシウム-t-ブトキシド等が挙げられる。アルコキシドの炭素数は5以上であってもよい。
【0090】
これらのなかでも、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、リチウム-t-ブトキシド、カリウム-t-ブトキシド、ナトリウム-t-ブトキシド、がより好ましく、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウムがさらに好ましく、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムが最も好ましい。なお、本実施形態において、無機塩基および無機金属塩が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0091】
有機塩基としては、置換基を有してもよい炭素数1~40の1級、2級、3級アミン化合物(アルキルアミン、アミノアルコール等)、有機水酸化物、または有機金属塩が挙げられる。
【0092】
有機塩基は、例えば、炭素数1~40であり、置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級、3級アルキルアミン、またはその塩基性窒素原子を含有する化合物が挙げられる。
【0093】
炭素数1~40であり、置換されていてもよいアルキル基を有する1級アルキルアミンは、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、オクチルアミン、2ーエチルヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、2-アミノエタノール、3-アミノプロパノール、3-エトキシプロピルアミン、3-ラウリルオキシプロピルアミン等が挙げられる。
【0094】
炭素数1~40であり、置換されていてもよいアルキル基を有する2級アルキルアミンは、例えば、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、N-メチルヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジステアリルアミン、2-メチルアミノエタノール等が挙げられる。
【0095】
炭素数1~40であり、置換されていてもよいアルキル基を有する3級アルキルアミンは、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノール等が挙げられる。
【0096】
これらのなかでも、炭素数1~30であり、置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級または3級アルキルアミンが好ましく、1~20の炭素数を有し、置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級または3級アルキルアミンがより好ましい。
置換されていてもよいアルキル基とは、水素原子が置換されていてもよいことを意味し、置換基としては、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0097】
その他の塩基性窒素原子を含有する化合物は、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、イミダゾール、1-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0098】
塩基性化合物(D)の含有率は、分散組成物の質量を基準として0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、0.40質量%以下であることが好ましく、0.20質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下であることがさらに好ましい。
塩基性化合物(D)の含有率が0.01質量%以上であると、貯蔵安定性の効果が得られやすい傾向がある。また、塩基性化合物の含有率が0.40質量%以下であると、分散剤がカーボンナノチューブから脱離することを抑制し、さらに、分散装置および/または電池内部の腐食の原因となることを防ぐことができるために好ましい。
【0099】
<その他任意成分>
本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物は、必要に応じて、カーボンナノチューブ(A)以外の、カーボンブラック等のその他炭素系導電材、分散剤(B)以外の分散剤、結着剤、界面活性剤、その他の添加剤等を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができ、分散組成物の分散前、分散時、分散後、合材スラリーの作製時等、任意のタイミングで添加することができる。
【0100】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物は、カーボンナノチューブを分散安定化できる範囲で特に限定されず、カーボンナノチューブの分散時に、分散剤(B)に加えて、さらに界面活性剤やその他分散剤を使用することができる。
【0101】
[界面活性剤]
界面活性剤は主にアニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性に分類される。カーボンナノチューブの分散に要求される特性に応じて適宜好適な種類の分散剤を、好適な配合量で使用することができる。
アニオン性界面活性剤を選択する場合、その種類は特に限定されない。具体的には脂肪酸塩、ポリスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸スルホン酸塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル及びポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステルが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、具体的にはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステル塩及びβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮
合物のナトリウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
またカチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩類及び第四級アンモニウム塩類がある。具体的にはステアリルアミンアセテート、トリメチルヤシアンモニウムクロリド、トリメチル牛脂アンモニウムクロリド、ジメチルジオレイルアンモニウムクロリド、メチルオレイルジエタノールクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ラウリルピリジニウムクロリド、ラウリルピリジニウムブロマイド、ラウリルピリジニウムジサルフェート、セチルピリジニウムブロマイド、4-アルキルメルカプトピリジン、ポリ(ビニルピリジン)-ドデシルブロマイド及びドデシルベンジルトリエチルアンモニウムクロリドが挙げられるが、これらに限定されない。また両性界面活性剤としては、アミノカルボン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
またノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びアルキルアリルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。具体的にはポリオキシエチレンラウリルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
選択される界面活性剤は単独の界面活性剤に限定されない。このため二種以上の界面活性剤を組み合わせて使用することも可能である。例えばアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせ、又はカチオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせが利用できる。その際の配合量は、それぞれの界面活性剤成分に対して好適な配合量とすることが好ましい。組み合わせとしてはアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせが好ましい。アニオン性界面活性剤はポリカルボン酸塩であることが好ましい。ノニオン性界面活性剤はポリオキシエチレンフェニルエーテルであることが好ましい。
【0105】
[その他分散剤]
カーボンナノチューブの分散に用いる分散剤としては、分散剤(B)に加えて、樹脂型分散剤等のその他分散剤を用いることもできる。
樹脂型分散剤として具体的には、フッ素系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。特にポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンが好ましい。樹脂型分散剤の分子量は1万~30万であることが好ましい。
【0106】
[結着剤]
結着剤は、炭素系導電材、その他粒子等の物質間を結合することができる樹脂であって、カーボンナノチューブを分散後の分散液に、さらに添加されるものをいう。すなわち、本明細書において記載する分散剤とは役割が異なるものである。結着剤としては、上述した分散剤と同じものを用いてもよい。
カーボンナノチューブ分散組成物を二次電池に用いる場合、結着剤は、通常二次電池に用いられるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
二次電池に用いる結着剤は、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;セルロース樹脂(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC));スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなエラストマー;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。
また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でもよい。これらのなかでも、正極の結着剤として使用する場合は、耐性面から分子内にフッ素原子を有する重合体または共重合体、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等が好ましい。また、負極の結着剤として使用する場合は、密着性が良好なカルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸等が好ましい。
【0107】
<分散組成物の製造方法>
分散組成物の製造方法は、カーボンナノチューブ(A)、分散剤(B)、および溶媒(C)、さらに必要に応じて塩基性化合物(D)の混合物を分散処理して、レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50を0.3~7μmの範囲に調整する工程I、上記混合物のpHを下記(式a)および(式b)の範囲に調整する工程IIを含む。下記(式a)および(式b)において、Xは、上記分散処理後の、レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50[μm]であり、YはpHである。
(式a)Y≧-0.149X+4.545
(式b)Y≦-0.134X+5.140
上記製造方法において、工程Iと工程IIは、それぞれ独立した工程して連続して実施されても、それぞれ区別せずに同時に実施されてもよい。例えば、pHを調整する方法として塩基性化合物(D)を使用する場合は、工程Iと工程IIとを同時に実施することができる。
【0108】
以下、分散組成物の製造方法の一例として、溶媒にカーボンナノチューブを分散させる方法について説明する。分散組成物は、例えば、カーボンナノチューブ(A)、分散剤(B)、および溶媒(C)、さらに必要に応じて塩基性化合物(D)を、分散装置を使用して分散処理を行い微細に分散して製造することが好ましい。なお、分散処理は、使用する材料の添加タイミングを任意に調整し、2回以上の多段階処理を適用できる。
【0109】
分散装置は、例えば、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、プラネタリーミキサー、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター、ハイシアミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。なかでも、分散組成物中にカーボンナノチューブを微細に分散させ、好適な分散性を得るために、ハイシアミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、またはこれらを組み合わせて用いることが好ましい。特に、カーボンナノチューブの濡れを促進し、粗い粒子を解す観点から、分散の初期工程ではハイシアミキサーを用い、続いて、カーボンナノチューブのアスペクト比を保ったまま分散させる観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。高圧ホモジナイザーを使用する際の圧力は40~150MPaが好ましく、70~150MPaであることがより好ましい。
【0110】
分散装置を用いた分散方式には、バッチ式分散、パス式分散、循環分散等があるが、いずれの方式でもよく、2つ以上の方式を組み合わせてもよい。バッチ式分散とは、配管などを用いずに、分散装置本体のみで分散を行う方法である。取扱いが簡易であるため、少量製造する場合に好ましい。パス式分散とは、分散装置本体に、配管を介して被分散液(分散質および分散媒を含む混合物で、分散組成物の前駆体)を供給するタンクと、被分散液を受けるタンクとを備え、分散装置本体を通過させる分散方式である。また、循環式分散とは、分散装置本体を通過した被分散液を、被分散液を供給するタンクに戻して、循環させながら分散を行う方式である。
いずれも処理時間を長くするほど分散が進むため、目的の分散状態になるまでパス、あるいは循環を繰り返せばよく、タンクの大きさや処理時間を変更すれば処理量を増やすことができる。パス式分散は循環式分散と比較して分散状態を均一化させやすい点で好ましい。循環式分散はパス式分散と比較して作業や製造設備が簡易である点で好ましい。分散工程は、凝集粒子の解砕、カーボンナノチューブのほぐれ、濡れ、安定化等が順次、あるいは同時に進行し、進行の仕方によって仕上がりの分散状態が異なることから、各分散工程における分散状態を各種評価方法により管理することが好ましい。
【0111】
本実施形態の分散組成物において、カーボンナノチューブの含有率は、分散組成物100質量%を基準として、0.3質量%以上であることが好ましく、0.4質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、6.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましい。上記下限値以上の含有率にすることで、合材スラリーの処方設計におけるカーボンナノチューブ分散組成物による圧迫を抑制し、上記上限値以下の含有率にすることで分散組成物の流動性やハンドリング性を確保できるために好ましい。
【0112】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物中のカーボンナノチューブの平均外径は1nm以上100nm以下が好ましく、1.5nm以上70nm以下がより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましい。下限値以上であると、繊維の折れを防ぎ、活物質へのリチウムイオン吸蔵および放出に伴う体積変化に追従することができるために好ましい。上限値以下であると電極中への添加量に対する繊維の本数が充分となり、好ましい。
【0113】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物中のカーボンナノチューブの平均繊維長は、0.3μm以上50μm以下が好ましく、0.5μm以上20μm以下がより好ましい。下限値以上であると、活物質間の導電経路を充分に形成することができるために好ましい。上限値以下であるとカーボンナノチューブ同士の絡まり合いが電極中で起こり局在化することを抑制し、電池性能を損なうことを防ぐことができるために好ましい。
【0114】
分散組成物中のカーボンナノチューブの平均外径および繊維長は、CNT分散組成物をCNT濃度が0.048質量%となるように溶媒で希釈したのち、希釈した分散組成物をマイカ基板上に数μL分スプレー塗工した後に100℃のホットプレート上で乾燥し、CNT繊維長観察用の基板を作製する。なお溶媒は、CNT分散組成物を調製する際に使用した溶媒を使用する。マイカ基盤をSEM観察し、画像解析することで測定できる。300本の短軸の長さおよび長軸の長さを計測し、その平均値により、算出することができる。
【0115】
分散組成物におけるカーボンナノチューブの分散性は、動的粘弾性測定による複素弾性率および位相角で評価できる。複素弾性率は、分散組成物の硬さを示し、カーボンナノチューブの分散性が良好であるほど、また、低粘度であるほど小さくなる傾向にある。しかし、カーボンナノチューブの繊維長が大きい場合には、カーボンナノチューブが媒体中で均一かつ安定に解れた状態であっても、カーボンナノチューブ自体の構造粘性があるため、複素弾性率が高い数値となる場合がある。一実施形態として、分散組成物の複素弾性率は、25℃および1Hzにおいて、5Pa以上であることが好ましく、10Pa以上がより好ましい。また、300Pa未満であることが好ましく、60Pa未満がより好ましい。
分散組成物の複素弾性率を上記範囲内とすることで、カーボンナノチューブのような繊維長が大きい炭素系導電材であっても、長さを一定以上に保ったまま、均一かつ良好に分散させた炭素性導電材の分散組成物とすることができる。
【0116】
また、位相角は、分散組成物に与えるひずみを正弦波とした場合の応力波の位相ズレを意味している。純弾性体であれば、与えたひずみと同位相の正弦波となるため、位相角0°となる。一方で、純粘性体であれば90°進んだ応力波となる。一般的な粘弾性測定用試料では、位相角が0°より大きく90°より小さい正弦波となり、分散組成物におけるカーボンナノチューブの分散性が良好であれば、位相角は純粘性体である90°に近づく。
しかし、複素弾性率と同様に、カーボンナノチューブ自体の構造粘性がある場合には、カーボンナノチューブが媒体中で均一かつ安定に解れた状態であっても、位相角が低い数値となる場合がある。このような観点から、一実施形態として、分散組成物の動的粘弾性測定による25℃および1Hzでの位相角は、3°以上が好ましく、5°以上であることがより好ましく、10°以上であることがさらに好ましい。また、60°未満であることが好ましく、50°以下であることがより好ましい。
分散組成物の位相角を上記範囲内とすることで、カーボンナノチューブのような繊維長が大きい炭素系導電材であっても、長さを一定以上に保ったまま、均一かつ良好に分散させた炭素系導電材の分散組成物とすることができる。
【0117】
繊維長が大きいカーボンナノチューブを、長さを一定以上に保ったまま均一かつ良好に分散させることによって、発達した導電ネットワークが形成される。したがって、単にカーボンナノチューブ分散組成物の粘度が低く(見かけ上の)分散性が良好であればよいのではなく、複素弾性率および位相角のいずれか、または両方を、粘度等の従来の指標と組み合わせて分散状態を判断することが重要となる。なかでも位相角を重点的に考慮することが特に重要である。このような観点から、複素弾性率および位相角を上記範囲とすることによって、導電性および電極強度の良好なカーボンナノチューブ分散組成物を容易に得ることができる。カーボンナノチューブ分散組成物の複素弾性率および位相角は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0118】
本実施形態の分散組成物の粘度は、レオメーターを用いて、せん断速度1(s-1)で測定した際、5Pa・s以上であることが好ましく、10Pa・s以上であることがより好ましく、20Pa・s以上であることがさらに好ましく、また、60Pa・s未満であることが好ましく、40Pa・s未満であることがより好ましい。また、レオメーターを用いて、せん断速度10(s-1)で測定した際、1Pa・s以上であることが好ましく、10Pa未満であることが好ましい。各せん断速度の粘度を上記範囲内とすることで、カーボンナノチューブの分散粒径および分散状態を良好にし、電極強度および導電性を向上させることができる。
【0119】
本実施形態の分散組成物は、活物質をさらに加えることで合材スラリーとすることができ、電極膜の形成に用いることができる。
また、分散組成物を用いて形成された膜は、電極膜と集電体との密着性向上、または、電極膜の導電性を向上させることができるため、電極における下地層としても用いることができる。
【0120】
<2>合材スラリー
本実施形態の合材スラリーは、分散組成物に活物質を添加して得ることができ、二次電池電極に好ましく用いることができる。
本実施形態の分散組成物は流動性および分散安定性に優れているため、カーボンナノチューブが均一に拡散した合材スラリーを得ることができ、形成される電極において導電パスを充分に維持することができる。
【0121】
活物質は、正極活物質または負極活物質であってよい。本明細書では、正極活物質および負極活物質を、単に「活物質」という場合がある。活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は、起電力から、正極活物質と負極活物質に分けられ、正極活物質を用いることで正極合材スラリー、負極活物質を用いることで負極合材スラリーとすることができる。
合材スラリーは、均一性および加工性を向上させるためにスラリー状であることが好ましい。
【0122】
また、必要に応じて、結着剤および湿潤、界面活性、pH調整、濡れ促進、レベリング、導電性補助等の目的でその他の任意成分を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜含んでもよい。任意成分は、合材スラリー作製前、混合時、混合後、またはこれらの組み合わせ等、任意のタイミングで添加することができる。
【0123】
活物質等をより結着させる目的で、分散組成物に結着剤を添加してもよい。
【0124】
合材スラリーの製造時に用いられる結着剤としては、通常、電池用の結着剤として用いられる高分子成分であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前述の、置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂を用いてもよく、その他の高分子成分として、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン等を構成成分として有する重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂;スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなエラストマー;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等を用いてもよい。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でもよく、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの樹脂は増粘剤として用いることもできる
【0125】
合材スラリー中のCNTの含有量は、活物質100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上であることがより好ましく、0.05部以上であることがさらに好ましい。また、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましい。上記上限値以下であると、電極中の活物質の充填量の低下を防ぎ、電池の低容量化を抑制することができる。また、上記下限値以上であれば、電極および電池の導電性が充分となるために好ましい。
【0126】
合材スラリー中の、結着剤の含有量は、活物質100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましい。上記下限値以上とすることで、導電膜の密着性をより向上することができる。また、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。上記上限値以下とすることで、導電膜の活物質濃度を高めて、より高容量化をはかることができる。
【0127】
<正極活物質>
正極活物質は、特に限定されないが、例えば、二次電池用途は、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物および金属硫化物等の金属化合物を使用することができる。例えば、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMnまたはLiMnO)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCo)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLiMnCo1-y)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(例えばLiNiCoMn1-y-z)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLiMn2-yNi)等のリチウムと遷移金属との複合酸化粉末、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物粉末(例えばLiFePO、LiFe1-yMnPO、LiCoPOなど)、酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、バナジウム酸化物(例えばV、V13)、酸化チタン等の遷移金属酸化物粉末、硫酸鉄(Fe(SO)、TiS、およびFeS等の遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。ただし、x、y、zは、数であり、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1である。これら正極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0128】
<負極活物質>
負極活物質は、特に限定されないが、例えば、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属Li、またはその合金、スズ合金、シリコン合金負極、LiTiO、LiFe、LiFe、LiWO等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料を用いることができる。ただし、xは数であり、0<x<1である。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。特にシリコン合金負極を用いる場合、理論容量が大きい
反面、体積膨張が極めて大きいため、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料等と組み合わせて用いるのが好ましい。
【0129】
なお、シリコン系活物質はリチウムイオンの吸収・放出に伴う体積変化が大きく、適切な粒度に調整されたカーボンナノチューブによる導電経路の確保がなければ、良好な繰り返しの充放電を行うことが難しい。しかし本実施形態の分散組成物は、流動性と分散安定性に優れるため、負極活物質として黒鉛粉末とシリコン系活物質を用いた場合であっても、電極内の内部抵抗上昇を抑制し、充放電容量の低下を抑えることができる。
【0130】
<合材スラリーの製造方法>
合材スラリーを作製する方法において、分散組成物に結着剤を追加する場合、結着剤、および活物質を添加する順序は特に限定されない。例えば、分散組成物に結着剤を添加し、次いで活物質を添加して作製する方法;分散組成物に活物質を添加し、次いで結着剤を添加して作製する方法;分散組成物に結着剤および活物質を一括して添加して作製する方法等が挙げられる。また、結着剤は予め溶解してから添加してもよい。合材スラリーを作製する方法としては、分散組成物に結着剤を添加し、次いで活物質をさらに添加し撹拌させる処理を行う方法が好ましい。撹拌に使用される撹拌装置は特に限定されない。撹拌装置には、ディスパー、ホモジナイザー等を用いることができる。
【0131】
合材スラリー中の不揮発分量は、合材スラリーの質量を基準(100質量%)として、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。
【0132】
<3>電極膜
電極膜は、合材スラリーを膜状に形成してなるものであり、少なくともカーボンナノチューブ(A)、分散剤(B)、および必要に応じて塩基性化合物(D)と、活物質とを含む。電極膜には、結着剤等の任意成分がさらに含まれてもよい。電極膜は、例えば上記したカーボンナノチューブ分散組成物に活物質と、必要に応じて結着剤等を添加して合材スラリーを作製し、合材スラリーを塗布、または塗工等することにより得ることができる。また例えば、電極膜は、合材スラリーを集電体上に塗工し、揮発分を除去することで形成することができる。
【0133】
<4>二次電池
本発明の一実施形態である二次電池は、正極と、負極と、電解質とを備え、正極および負極からなる群から選択される少なくとも1つが、本実施形態である合材スラリーから形成されてなる電極膜を有することが好ましい。正極および負極は、さらに集電体を備えることができる。なお、正極または負極が有する電極膜の一方が、本実施形態による分散組成物を用いた電極膜である場合、もう一方の電極が有する電極膜は特に制限されず、従来公知の電極膜であってよい。
【0134】
本実施形態において、二次電池の構造は、特に限定されない。二次電池は、代表的に、正極、負極、及び電解質に加え、必要に応じて設けられるセパレーターを備えてよい。二次電池は、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【0135】
<正極または負極>
正極または負極は、本実施形態である分散組成物を用いた合材スラリーから形成された電極膜と、集電体を有する。電極膜は、例えば、集電体上に分散組成物を塗工し、乾燥させることで形成できる。正極合材スラリーを用いて形成した電極膜を、正極として使用することができる。負極合材スラリーを用いて形成した電極膜を、負極として使用することができる。本明細書において、活物質を含む分散組成物を用いて形成した膜を「電極合材層」という場合がある。
【0136】
上記電極膜の形成に用いられる集電体の材質および形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、またはステンレス等の導電性金属または合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平面状の箔が用いられるが、表面を粗面化した集電体、穴あき箔状の集電体、メッシュ状の集電体も使用できる。集電体の厚みは、0.5~30μm程度が好ましい。
【0137】
集電体上に分散組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができる。乾燥方法としては、放置乾燥、または、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等を用いる乾燥を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0138】
塗工後に、平版プレス、カレンダーロール等により圧延処理を行ってもよい。形成された膜の厚みは、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0139】
<電解質>
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN、またはLiBPh(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0140】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、およびγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、および1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、およびメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、およびスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0141】
二次電池は、セパレーターを有することが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布およびこれらに親水性処理を施した不織布が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0142】
本発明の実施形態は以下を含む。但し、本発明は以下の実施形態に限定されず様々な形態を含む。
〔1〕カーボンナノチューブ(A)と、分散剤(B)と、溶媒(C)と、塩基性化合物(D)とを含み、
レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50が0.3~7μmであり、
下記(1)および(2)を満たすことを特徴とするカーボンナノチューブ分散組成物。
(1)分散剤(B)は、重量平均分子量が5,000以上360,000以下、かつカルボキシル基含有構造単位を有する重合体であり、
前記カルボキシル基含有構造単位の含有率は、前記重合体の質量を基準として80質量%以上である。
(2)カーボンナノチューブ分散組成物の、レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50をX[μm]、pHをYとしたとき、XおよびYが下記(式a)および(式b)を満たす。
(式a)Y≧-0.149X+4.545
(式b)Y≦-0.134X+5.140
〔2〕動的粘弾性測定による25℃における1Hzでの位相角が、3°以上60°未満である、上記〔1〕に記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
〔3〕動的粘弾性測定による25℃における1Hzでの複素弾性率が、5Pa以上300Pa未満である、〔1〕または〔2〕記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
〔4〕分散剤(B)の含有量は、カーボンナノチューブ(A)100質量部に対し、15~90質量部である〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
〔5〕前記カルボキシル基含有構造単位は、(メタ)アクリル酸由来の構造単位である、上記〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
〔6〕上記〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ分散組成物と、活物質とを含む、合材スラリー。
〔7〕上記〔6〕に記載の合材スラリーから形成してなる電極膜。
〔8〕正極および負極を備える二次電池であって、
正極および負極の少なくとも一方が、上記〔7〕に記載の電極膜を有する、二次電池。
【実施例
【0143】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0144】
<カーボンナノチューブの平均外径>
測定方法:超音波ホモジナイザーを用いてトルエン中にカーボンナノチューブを分散し、次いで、コロジオン膜上にのせて乾燥させたカーボンナノチューブを透過型電子顕微鏡(TEM)によってカーボンナノチューブを観測するとともに撮像する。次に、観測写真において、任意の100本のカーボンナノチューブを選び、それぞれの外径を計測する。次に、外径の数平均として原料カーボンナノチューブの平均外径(nm)を算出した。
【0145】
<カーボンナノチューブの比表面積測定>
CNTを電子天秤(sartorius社製、MSA225S100DI)を用いて、0.03g計量した後、110℃で15分間、脱気しながら乾燥させた。その後、全自動比表面積測定装置(MOUNTECH社製、HM-model1208)を用いて、CNTのBET比表面積を測定した。
【0146】
本実施例および比較例において使用した材料の詳細は、以下のとおりである。
<カーボンナノチューブ(A)>
・TUBALL:シングルウォールカーボンナノチューブ(OCSiAl製、平均外径1.6nm、比表面積980m/g)
・10B:JENOTUBE10B(JEIO製、多層CNT、平均外径10nm、比表面積233m/g)
・6A:JENOTUBE6A(JEIO製、多層CNT、平均外径6nm、比表面積680m/g)
・TNSAR:シングルウォールカーボンナノチューブ(Timesnano製、平均外径1.5nm、比表面積950m/g)
・BT1001М:(LGC製、多層CNT、平均外径10nm、比表面積260m/g)
【0147】
<塩基性化合物(D)>
・D-1:NaCO(炭酸ナトリウム、東京化成工業製、純度>99.0%)
・D-2:NaOH(水酸化ナトリウム、東京化成工業製、純度>98.0%、顆粒状)
・D-3:KOH(水酸化カリウム、東京化成工業製、純度>86.0%)
・D-4:CHCOONa(酢酸ナトリウム、東京化成工業製、純度>98.5%)
・D-5:KCO(炭酸カリウム、東京化成工業製、純度>99.0%)
・D-6:BtONa(ナトリウム-t-ブトキシド、東京化成工業製、純度>98.0%)
【0148】
<分散剤(B)等の製造>
(分散剤(B-1))
温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸100部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール0.8部、および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)撹拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン500部、メタノール500部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記重合体の水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、重合体(分散剤(B-1))を得た。
【0149】
(分散剤(B-2))
温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸95部、アクリロニトリル5部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール2.8部、および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)撹拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン500部、メタノール500部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記重合体の水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、重合体(分散剤(B-2))を得た。
【0150】
(分散剤(B-3))
温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸95部、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル5部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール0.8部、および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)撹拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン500部、メタノール500部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記重合体の水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、重合体(分散剤(B-3))を得た。
【0151】
(分散剤(B-4))
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、メタノール100部、ジエタノールアミン0.1部、次亜リン酸ナトリウム5部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を70℃に加熱してアクリル酸90部、およびN-ビニル-2-ピロリドン10部を2時間かけて滴下した。引き続き、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩(富士フイルム和光純薬製:V-50)2部とイオン交換水18部からなる開始剤水溶液を、1時間半かけて滴下した。滴下終了後、3.5時間反応させた後、V-50、0.1部とイオン交換水0.9部からなる水溶液を投入し、さらに30分後にV-50、0.1部とイオン交換水0.9部からなる水溶液を再び投入した。
重合開始から4.5時間後に、転化率が95%となったことを確認し、pH調整剤としての10%マロン酸水溶液0.5部を添加して、重合体の水分散液を得た。引き続き、減圧ろ過によってろ別し、メタノールにて洗浄し、減圧乾燥によって溶媒を完全に除去して、重合体(分散剤(B-4))を得た。
【0152】
(分散剤(B-5))
温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、メタクリル酸100部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール0.8部、および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)撹拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン500部、メタノール500部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記重合体の水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、重合体(分散剤(B-5))を得た。
【0153】
(分散剤(B-6))
温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸90部、アクリロニトリル5部、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル5部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール2.8部、および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)撹拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン500部、メタノール500部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記重合体の水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、重合体(分散剤(B-6))を得た。
【0154】
(分散剤(B-7))
温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸95部、アクリル酸メチル5部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール0.8部、および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)撹拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン500部、メタノール500部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記重合体の水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、重合体(分散剤(B-7))を得た。
【0155】
(分散剤(B-8))
温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸100部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール6.9部、および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)撹拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン250部、メタノール250部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記重合体の水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、重合体(分散剤(B-8))を得た。
【0156】
(分散剤(B-9))
温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸100部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール1.25部、および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)撹拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン250部、メタノール250部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記重合体の水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、重合体(分散剤(B-9))を得た。
【0157】
(分散剤(B-10))
温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸80部、アクリルアミド20部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール0.55部、および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)撹拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン500部、メタノール500部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記重合体の水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、重合体(分散剤(B-10))を得た。
【0158】
(分散剤(B’-1))
温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸70部、アクリロニトリル30部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール2.8部、および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)撹拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン500部、メタノール500部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記重合体の水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、重合体(分散剤(B’-1))を得た。
【0159】
(分散剤(B’-2))
温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸100部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール9.3部、および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)撹拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン250部、メタノール250部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記重合体の水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、重合体(分散剤(B’-2))を得た。
【0160】
(分散剤(B’-3))
温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸100部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール0.03部、および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)撹拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン250部、メタノール250部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記重合体の水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、重合体(分散剤(B’-3))を得た。
【0161】
分散剤(B)の分子量は、RI検出器、UV検出器(210nm)を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。具体的には、以下のとおりである。
・装置:HLC-8320GPC(東ソー製)
・分離カラム:以下を順に直列に配置した。
TSKgel Guardcolumn PWXL(6.0mmI.D.×4cm)
TSKgel GMPXL(7.8mmI.D.×30cm)2本
・カラム温度:40℃
・溶離液:0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)
・流速:1.0mL/min
サンプルは上記溶離液からなる混合液に0.1質量%の濃度で調製し、0.1mL注入した。分子量は、標準PEO/PEG(Aglient Technologies)を用いた換算値として求めた。
【0162】
【表1】
【0163】
<分散組成物の作製>
(実施例1-1)
表2に示す材料と組成に従い、材料を順次添加し、以下の方法に従いCNT分散組成物を作製した。
ステンレス容器に、イオン交換水を1960.8部、分散剤(B-1)を18部、および塩基性化合物(D)を1.2部加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。
その後、CNT(TUBALL)をディスパーで撹拌しながら20部添加し、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,000rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。このとき、グラインドゲージにて確認した分散粒度は180μmであった。
続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、粒径D50が0.3~7μmになるまでパス式分散処理を行った。パス回数50回で、粒径D50は、1.5μmであった。
分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.20mm、圧力150MPaにて行い、カーボンナノチューブ(A)としてTUBALLが1.0質量%、分散剤(B)として分散剤(B-1)が0.90質量%、塩基性化合物(D)として塩基性化合物(D-1)(NaCO)が0.06質量%であるカーボンナノチューブ分散組成物1を得た。
【0164】
(実施例1-2~1-28、1-31~1-33、比較例1-1~1-5)
表2に示す材料および組成に従い、実施例1-1と同様にして、粒径D50が0.3~7μmになるまでパス式分散処理を行い、各分散組成物(分散組成物2~28、31~33、比較分散組成物1~5)を得た。
分散条件は、20回パス式分散処理を行った時点で粒径D50が7μm以上である場合、追加で2回パス式分散処理を行い、再度測定し、粒径D50が7μm以下になるまで繰り返し、パス回数を制御して粒径D50が0.3~7μmとなるように調整した。
【0165】
(実施例1-29)
表2に示す組成に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)に分散剤(B-1)と、塩基性化合物(D-1)と、イオン交換水とを仕込み、十分に混合溶解、または混合した後、CNTを加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで2時間ごとにガラス瓶を冷却しながら合計8時間分散し、カーボンナノチューブ分散組成物29を得た。粒径D50は、3.8μmであった。
【0166】
(実施例1-30)
表2に示す組成に従い、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製)に分散剤(B-1)と導電材と、少量のイオン交換水とを仕込み3時間分散したのち、ステンレス容器に移し替え、残りのイオン交換水および、塩基性化合物(D-1)を加えハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,000rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行ってカーボンナノチューブ分散組成物30を得た。このとき、グラインドゲージにて確認した分散粒度は80μmであり、粒径D50は、6.0μmであった。
【0167】
(実施例1-34~1-36)
表2に示す組成に従い、実施例1-1と同様の方法に従い、カーボンナノチューブ分散組成物34~36を得た。
【0168】
<分散組成物の物性値測定および評価>
分散組成物の物性値測定および保存安定性を下記の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0169】
(分散組成物の粒径D50の測定方法)
体積累積50%における粒径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(Partical LA-960V2、HORIBA製)を用いて測定した。
循環/超音波の動作条件は、循環速度:3、超音波強度:7、超音波時間:1分、撹拌速度:1、撹拌モード:連続とした。また、空気抜き中は超音波強度7、超音波時間5秒で超音波作動を行った。炭素系導電材の粒子屈折率は1.9、形状は非球形とした。溶媒の屈折率は1.333とした。測定の際は、透過率の数値が50~85%の範囲になるようにCNT分散組成物の濃度を希釈して行った。粒子径基準は体積とした。
【0170】
(分散組成物のpH測定方法)
pH測定用試料は、卓上型pHメーター(セブンコンパクトS200Expert Pro、メトラー・トレド製)を用い、温度25℃にて測定した。
【0171】
(分散組成物の複素弾性率および位相角)
分散組成物の複素弾性率および位相角は、直径35mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製RheoStress1回転式レオメーター)を用い、25℃、周波数1Hzにて、ひずみ率0.01%から5%の範囲で動的粘弾性測定を実施して求めた。
複素弾性率は、5Pa以上300Pa未満であることが好ましく、10Pa以上または60Pa未満であることがより好ましい。
位相角は、3°以上60°未満であることが好ましく、10°以上であることがより好ましい。
分散組成物の複素弾性率が低いほど、また、分散組成物の位相角が90°に近い値であるほど、流動性は良好である。
・複素弾性率の評価基準
1:300Pa以上または5Pa未満
2:60Pa以上300Pa未満
3:10Pa以上60Pa未満
4:5Pa以上10Pa未満
・位相角の評価基準
1:10°以上60°未満
2:3°以上10°未満
3:3°未満
【0172】
(分散組成物の保存安定性評価方法)
保存安定性の評価は、分散組成物を40℃にて静置して保存した後の流動性の有無を判断した。判断方法は以下の通りである。直径35mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製RheoStress1回転式レオメーター)を用い、25℃、周波数1Hzにて、ひずみ率0.01%から5%の範囲で動的粘弾性測定を実施することで複素弾性率を評価した。評価基準◎~△であれば実用可能である。
・評価基準
◎:1ヶ月後も300Pa未満(優良)
〇:1ヶ月後、300Paに達する(良)
△:1週間後、300Paに達する(可)
×:1日後に300Paに達する
【0173】
【表2-1】
【表2-1A】
【0174】
【表2-2】
【表2-2A】
【0175】
<二次電池の作製と評価>
<負極合材スラリーおよび負極の作製>
(実施例2-1)
プラスチック製容器に分散組成物(分散組成物1)と、増粘剤と、水とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー社製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。その後、負極活物質として人造黒鉛およびシリコン(人造黒鉛:シリコン=9:1(質量比))を添加し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。さらにその後、SBR(スチレンブタジエンゴム)を加えて、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、負極合材スラリーを得た。
なお、負極合材スラリー中の活物質、CNT、分散剤、増粘剤およびSBRは、これらの合計を100質量%とした際に、表3の配合量(質量%)になるように配合し、負極合材スラリーの不揮発分が45%となるように水の量を調整した。表3の配合量は、負極合材スラリー中に占める各々の成分の正味の含有率(不揮発分質量%)を表す。
【0176】
得られた負極合材スラリーを、アプリケーターを用いて、厚さ20μmの銅箔上に塗工して後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間、塗膜を乾燥させて電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行って、負極(負極1)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量は10mg/cmであり、圧延処理後の合材層の密度は1.6g/cmであった。
【0177】
なお、上記の原料は以下の通りである。
・人造黒鉛:CGB-20(日本黒鉛工業社製)、不揮発分100%
・シリコン:一酸化珪素(大阪チタニウムテクノロジーズ社製、SILICON MONOOXIDE SiO 1.3C 5μm、不揮発分100%)
・増粘剤:CMC(カルボキシメチルセルロース、#1190(ダイセルファインケム社製)、不揮発分100%)
・結着剤:SBR(スチレンブタジエンゴム、TRD2001(JSR社製)、不揮発分48%)
【0178】
(実施例2-2~2-36)
分散組成物を、表3に示す各分散組成物(分散組成物2~36)に変更し、表3に示す組成比に変更した以外は、実施例2-1と同様の方法により、負極合材スラリーを製造し、同様にして、負極2~36を得た。
【0179】
(比較例2-1~2-5)
分散組成物を、表3に示す各分散組成物(比較分散組成物1~5)に変更した以外は、実施例2-1と同様の方法により、比較負極合材スラリーを製造し、同様にして、比較負極1~5を得た。
【0180】
(参考例2-1:標準負極の作製)
容量150mlのプラスチック製容器にアセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS-100、デンカ社製)0.5質量%と、MAC500LC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩 サンローズ特殊タイプMAC500LC、日本製紙製、不揮発分100%)1質量%と、水98.4質量%とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー社製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらに活物質として人造黒鉛(CGB-20、日本黒鉛工業製)を97質量%添加し、自転・公転ミキサー(シンキー社製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。続いてSBR(スチレンブタジエンゴム、TRD2001、不揮発分48%、JSR製)を3.1質量%加えて、自転・公転ミキサー(シンキー社製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、標準負極合材スラリーを得た。標準負極合材スラリーの不揮発分は50質量%とした。
【0181】
上述の標準負極合材スラリーを集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で80℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が10mg/cmとなるように調整した。さらにロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、電極合材層の密度が1.6g/cmとなる標準負極を作製した。
【0182】
【表3】
【0183】
<正極用合材スラリーおよび正極の作製>
(実施例3-1)
プラスチック製容器に分散組成物(分散組成物1)と、増粘剤と、水とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー社製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、その後、正極活物質としてLFPを添加し、自転・公転ミキサー(シンキー社製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。さらにその後、結着剤としてPTFEを添加し、自転・公転ミキサー(シンキー社製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、正極用合材スラリーを得た。
なお、正極合材スラリー中の活物質、CNT、分散剤、増粘剤および結着剤(PTFE)は、これらの不揮発分の合計を100質量%とした際に、表4の配合量(質量%)になるように配合し、正極合材スラリーの不揮発分が65%となるように水の量を調整した。表4の配合量は、正極合材スラリー中に占める各々の成分の正味の含有率(不揮発分質量%)を表す。
【0184】
正極合材スラリーを、アプリケーターを用いて、厚さ20μmのアルミ箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥し、電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、正極(正極1)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量が20mg/cmであり、圧延処理後の合材層の密度は2.1g/ccであった。
【0185】
なお、上記の原料は以下の通りである。
・LFP:リン酸鉄リチウム HED(登録商標)LFP-400(BASF社製、不揮発分100%)
・結着剤:PTFE(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフロン PTFE D-210C(ダイキン工業社製、不揮発分60%)
・増粘剤:CMC(カルボキシメチルセルロース#1190(ダイセルファインケム社製、不揮発分100%)
【0186】
(実施例3-2~3-36)
導電材分散体を、表4に示す各分散組成物(分散組成物2~36)に変更した以外は、実施例3-1と同様の方法により、正極2~36を得た。
【0187】
(比較例3-1~3-5)
導電材分散体を、表4に示す各分散組成物(比較分散組成物1~5)に変更した以外は、実施例3-1と同様の方法により、比較正極1~5を得た。
【0188】
(参考例3-1:標準正極の作製)
正極活物質としてLFP(HED(商標)LFP-400、BASF社製、不揮発分100%)92質量%、アセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS-100、デンカ社製、不揮発分100%)4質量%、増粘剤(カルボキシメチルセルロース#1190、ダイセルファインケム社製、不揮発分100%)1.6質量%となるようにプラスチック製容器に加えた後、ヘラを用いて均一になるまで混合した。その後、水を20.5質量%添加し、自転・公転ミキサー(シンキー社製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。その後、プラスチック製容器内の混合物をヘラで均一になるまで混合し、自転・公転ミキサーを用いて、PTFE(ダイキン工業社製、不揮発分60質量%)4質量%を加え、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらにその後、水を11.2質量%添加し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。最後に、高速撹拌機を用いて、3,000rpmで10分間撹拌し、標準正極用合材スラリーを得た。
【0189】
標準正極合材スラリーを、アプリケーターを用いて、厚さ20μmのアルミ箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥し、電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、標準正極を得た。なお、電極合材層の単位当たりの目付量が20mg/cmであり、圧延処理後の電極合材層の密度は2.1g/ccであった。
【0190】
【表4】
【0191】
(二次電池の作製)
表5に記載した標準正極と、負極もしくは比較負極、または表6に記載した正極もしくは比較正極と、標準負極とを使用して、各々50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、打ち抜いた正極および負極と、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)とをアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥した。その後、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液(エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1:1の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、ビニレンカーボネートを100質量%に対して1質量%加えた後、LiPFを1Mの濃度で溶解させた非水系電解液)を2mL注入した後、アルミ製ラミネートを封口して二次電池をそれぞれ作製した。
【0192】
<二次電池の評価>
得られた二次電池を下記の方法で評価した。結果を表5、表6に示す。
(二次電池のレート特性評価方法)
特許7107413号の段落0178と同様に実施した。評価基準◎~△であれば実用可能である。
・レート特性の評価基準
◎:90%以上(優良)
○:85%以上90%未満(良)
△:80%以上85%未満(可)
×:80%未満
【0193】
(二次電池のサイクル特性評価方法)
特許7107413号の段落0179と同様に実施した。評価基準が◎~△であれば実用可能である。
・サイクル特性の評価基準
◎:90%以上(優良)
○:80%以上90%未満(良)
△:70%以上80%未満(可)
×:70%未満
【0194】
【表5】
【0195】
【表6】
【0196】
表2、5、6から分かるように、カルボキシル基含有構造単位を80質量%以上含む重合体と塩基性化合物を含み、粒径D50に対して適切なpHに調整された分散組成物については、流動性と保存安定性と電池性能を両立できる結果が確認できた。
カーボンナノチューブ分散組成物の粒径D50を0.3~7.0μmとなるように調整するとき、重量平均分子量が5,000以上360,000以下、かつカルボキシル基含有構造単位を有する重合体である分散剤(B)での分散が、カーボンナノチューブの種類や塩基性化合物の種類を問わず、pHを調整することで応用できた。
比較例のように、pHが低い場合またはカルボキシル基含有構造単位の含有率が低い重合体を用いた場合は、カルボキシル基の電化反発力不足により流動性が悪く、pHが高い場合は重合体とカーボンナノチューブの親和性が低下しカーボンナノチューブ同士の凝集による増粘が起こった。分散剤が分子量の小さい重合体の場合は立体反発力が不足して流動性が悪く、分子量が大きい重合体の場合は重合体自体の粘性により増粘した。
【0197】
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記によって限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【要約】
【課題】 二次電池とした際のサイクル特性が良好であり、分散組成物の流動性と保存安定性とを両立するカーボンナノチューブ分散組成物、及び上記分散組成物を使用してサイクル特性とレート特性とを両立した二次電池を提供する。
【解決手段】 カーボンナノチューブ(A)と、分散剤(B)と、溶媒(C)とを含み、レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50が0.3~7μmであり、下記(1)および(2)を満たすことを特徴とするカーボンナノチューブ分散組成物。
(1)分散剤(B)は、重量平均分子量が5,000以上360,000以下であり、かつ(メタ)アクリル酸およびカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートの少なくとも一方に由来するカルボキシル基含有構造単位を有する重合体であり、 前記カルボキシル基含有構造単位の含有率は、前記重合体の質量を基準として80質量%以上である。
(2)カーボンナノチューブ分散組成物の、レーザー回折式粒度分布測定による体積累積50%における粒径D50をX[μm]、pHをYとしたとき、XおよびYが下記(式a)および(式b)を満たす。
(式a)Y≧-0.149X+4.545
(式b)Y≦-0.134X+5.140