IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法 図1
  • 特許-鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20250110BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20250110BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20250110BHJP
   C04B 5/00 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B18/14 F
C04B28/02
C04B5/00 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021020951
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123565
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】田村 啓
(72)【発明者】
【氏名】榎田 忠宏
(72)【発明者】
【氏名】大出 哲也
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-043093(JP,A)
【文献】特開2013-006743(JP,A)
【文献】特開2016-132578(JP,A)
【文献】特開2001-049310(JP,A)
【文献】特開2005-154213(JP,A)
【文献】田中亮一ほか,鉄鋼スラグ水和固化体のポンプ圧送性に関する実験的検討,コンクリート工学年次論文集,2008年,Vol.30, No.2,PP.523-528
【文献】御領園悠司ほか,変形性評価試験による鉄鋼スラグ水和固化体の圧送性に関する基礎的研究,コンクリート工学年次論文集,2008年,Vol.30, No.2,PP.241-246
【文献】森田浩史ほか,高密度スラグ骨材を用いた水中不分離性コンクリートのポンプ圧送による水中施工実験,土木学会第70回年次学術講演概要集,2015年,V-250,PP.499-500
【文献】金子樹, 大倉真人,普通ポルトランドセメントと高炉セメントB種を混合した高炉セメントA種相当のコンクリートの諸性状,コンクリート工学,2018年,Vol.56, No.7,PP.562-569,ISSN:0387-1061, DOI:10.3151/coj.56.7_562
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法であって、
前記水和固化体1mあたり、水の体積を0.13~0.30mの範囲内とした上で、水粉体体積比が1.16以上1.44未満の範囲内となる粉体と、残部の製鋼スラグと、を混合し、
得られた混合物を、圧送速度5.0~50.0m /hの範囲内で圧送し、
前記粉体として、少なくとも、高炉スラグ微粉末及び普通ポルトランドセメントが用いられる、鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
【請求項2】
前記水の体積を、0.16~0.22mの範囲内とする、請求項に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
【請求項3】
前記粉体として更に、高炉水砕スラグ、早強ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、フライアッシュ、消石灰、又は、細骨材及び粗骨材の少なくとも何れかが用いられる、請求項1又は2に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
【請求項4】
前記混合物は、更に、前記水の体積の一部に換えて、JIS A 6204に適合した混和剤を含有する、請求項1~の何れか1項に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
【請求項5】
前記製鋼スラグは、転炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、電気炉還元スラグ、電気炉酸化スラグ、二次精錬スラグ、及び、造塊スラグからなる群より選択される少なくとも何れかである、請求項1~の何れか1項に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
【請求項6】
前記混合物は、スランプフロー値が31.5cm以上88.5cm未満の範囲内であり、かつ、Vロート試験値が4~20秒の範囲内である、請求項1~の何れか1項に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
【請求項7】
前記混合物は、スランプフロー値が50.0cm以上70.0cm以下の範囲内である、請求項に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高炉スラグ微粉末等の粉体と、製鋼スラグとを主原料とし、コンクリートの代替え可能な水和硬化体(「鉄鋼スラグ水和固化体」ともいう。)に関する技術が、各種提案されている(例えば、以下の特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-210848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が、上記特許文献1に開示されているような水和硬化体を、屋内の奥まった部分に打設しようとしたところ、混合物の圧送性が悪く、圧送配管の詰まりや破裂が懸念されることが明らかとなった。
【0005】
鉄鋼スラグ水和固化体の圧送性が低い理由としては、以下の3つが考えられる。第1に、混合物の骨材として用いられる製鋼スラグは、通常のコンクリートで用いられる骨材と比較してポーラス状であるために、水分を吸着しやすく、流動性が低下しやすい点が挙げられる。第2に、主たる粉体として用いられることが多い高炉スラグ微粉末の強度発現性は、セメントの約半分程度であるために、所望の強度を発現させるための粉体量が多くなる結果、粘性が大きくなって圧送負荷が高くなる点が挙げられる。第3に、鉄鋼スラグ水和固化体は、一般的にコンクリートと比較して硬化速度が速く、流動性が急激に低下する結果、圧送元と圧送先とで流動性が変化してしまう点が挙げられる。
【0006】
鉄鋼スラグ水和固化体は、水、粉体及び製鋼スラグの複合材料であるために、施工条件に応じて、鉄鋼スラグ水和固化体の混合物に適切な流動性及び粘性を持たせなければならない。例えば、混合物の流動性が低すぎると混合物を圧送することができず、流動性が高すぎると材料の分離が生じてしまう。また、混合物の粘性が低すぎると材料の分離が生じてしまい、粘性が高すぎると圧送のためのポンプ能力が不足し、圧送が困難となってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、より優れた流動性及び粘性を示し、より長距離の圧送を実現することが可能な、鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意検討した結果、トレードオフの関係にある流動性及び粘性の双方を両立することが可能な素材の配合量を規定することを志向し、85m以上の長距離を圧送することが可能な配合量を規定することができた。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
(1)鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法であって、前記水和固化体1mあたり、水の体積を0.13~0.30mの範囲内とした上で、水粉体体積比が1.16以上1.44未満の範囲内となる粉体と、残部の製鋼スラグと、を混合し、得られた混合物を、圧送速度5.0~50.0m /hの範囲内で圧送し、前記粉体として、少なくとも、高炉スラグ微粉末及び普通ポルトランドセメントが用いられる、鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
)前記水の体積を、0.16~0.22mの範囲内とする、()に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
)前記粉体として更に、高炉水砕スラグ、早強ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、フライアッシュ、消石灰、又は、細骨材及び粗骨材の少なくとも何れかが用いられる、(1)又は(2)に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
)前記混合物は、更に、前記水の体積の一部に換えて、JIS A 6204に適合した混和剤を含有する、(1)~()の何れか1つに記載の鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
)前記製鋼スラグは、転炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、電気炉還元スラグ、電気炉酸化スラグ、二次精錬スラグ、及び、造塊スラグからなる群より選択される少なくとも何れかである、(1)~()の何れか1つに記載の鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
)前記混合物は、スランプフロー値が31.5cm以上88.5cm未満の範囲内であり、かつ、Vロート試験値が4~20秒の範囲内である、(1)~()の何れか1つに記載の鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
)前記混合物は、スランプフロー値が50.0cm以上70.0cm以下の範囲内である、()に記載の鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明によれば、より優れた流動性及び粘性を示し、より長距離の圧送を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】スランプフロー値の測定方法について説明するための説明図である。
図2】Vロート試験値の測定方法について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
(鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法について)
以下では、図1及び図2を参照しながら、本発明の実施形態に係る鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法について、詳細に説明する。図1は、スランプフロー値の測定方法について説明するための説明図であり、図2は、Vロート試験値の測定方法について説明するための説明図である。
【0014】
本実施形態に係る鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法では、かかる水和固化体1mあたり、水の体積を0.13~0.30mの範囲内とした上で、水粉体体積比が0.57以上1.44未満の範囲内となる粉体と、残部の製鋼スラグと、を混合し、得られた混合物を圧送する。
【0015】
[水:0.13~0.30m
本実施形態に係る鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法では、水和固化体1mあたりの水の配合量を0.13~0.30mの範囲内とする。これにより、より優れた流動性及び粘性を両立させながら、得られる混合物を85m以上の長距離圧送することが可能となる。水和固化体1mあたりの水の配合量が0.13m未満である場合には、得られる混合物における水の割合が低くなりすぎて、混合物の圧送性が低下する。水和固化体1mあたりの水の配合量は、好ましくは0.15m以上であり、より好ましくは0.16m以上である。一方、水和固化体1mあたりの水の配合量が0.30mを超える場合には、得られる混合物における水の割合が高くなりすぎて、混合物を固化・養生することで得られる鉄鋼スラグ水和固化体の強度を所望の範囲に保持することができない。水和固化体1mあたりの水の配合量は、好ましくは0.23m以下であり、より好ましくは0.22m以下である。
【0016】
ここで、用いる水については、特に限定されるものではないが、例えば、上水道水、海水、JSCE-B 101又はJIS A 5308附属書9に適合したものを用いることが好ましい。
【0017】
[粉体:水粉体体積比が0.57以上1.44未満の範囲内となる体積]
本実施形態に係る鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法では、粉体の配合量を、上記のように設定した水の体積に対して、水粉体体積比が0.57以上1.44未満の範囲内となる体積とする。これにより、より優れた流動性及び粘性を両立させながら、得られる混合物を85m以上の長距離圧送することが可能となる。ここで、水粉体体積比とは、(混合物における水の体積/混合物における粉体の体積)で表される体積比である。水粉体体積比が0.57未満である場合には、水の配合量が少なくなりすぎるために粘性が増加し、混合物の圧送性が低下する。水粉体体積比は、好ましくは0.60以上であり、より好ましくは0.70以上である。一方、水粉体体積比が1.44以上となる場合には、水の配合量が多くなりすぎるために粘性が低下して、混合物に用いられる材料の分離が生じてしまう。水粉体体積比は、好ましくは1.30以下であり、より好ましくは1.16以下である。
【0018】
本実施形態において、用いる粉体は、高炉スラグ微粉末、高炉水砕スラグ、セメント、フライアッシュ、消石灰、細骨材、又は、粗骨材の少なくとも何れかであることが好ましい。
【0019】
高炉スラグ微粉末は、銑鉄を製造する高炉で溶融された鉄鉱石のうち、鉄以外の成分を副原料の石灰石やコークス中の灰分と一緒に分離回収した高炉スラグを、微粉砕したものであり、JIS A 6206に適合したものを使用することが可能である。より詳細には、溶融状態のスラグに加圧水を噴射するなどして急激に冷却した水砕スラグを微粉砕したものを使用することができる。水砕スラグの微粉砕の程度は、一般に、3000~8000cm/g程度である。
【0020】
高炉水砕スラグは、銑鉄を製造する製銑工程で生成する溶融状態の高炉スラグを水によって急冷し、細粒化したものであり、弱い水硬性を示し、ワーカビリティーを改善する効果がある。かかる高炉水砕スラグとしては、JIS A 6206の原材料に用いるもの、又は、JIS A 5011-1に適合したものを使用することが好ましい。
【0021】
セメントは、ポルトランドセメントと混合セメントとに分類される。このうち、ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントと、早強ポルトランドセメントとに分類され、混合セメントは、主に高炉セメントと、フライアッシュセメントとに分類される。これらの中でも、高炉セメントは、一般に、高炉水砕スラグを粉砕して普通ポルトランドセメントを混ぜたものであり、高炉スラグの分量によりA~C種の3種類に分類(JIS R 5211)される。本実施形態では、これらのセメントのいずれを使用してもよい。
【0022】
フライアッシュは、石炭を燃焼させた際に生じる灰の一種であり、JIS A 6201に適合したものを使用することが好ましい。
【0023】
消石灰は、鉄鋼スラグ水和固化体においてアルカリ刺激剤として機能する物質であり、混合物の硬化をより促進するために添加してもよい。用いる消石灰としては、特に制限されるものではなく、公知の各種の消石灰を使用することが可能である。
【0024】
細骨材及び粗骨材(より詳細には、高炉水砕スラグを除く細骨材及び粗骨材)としては、各種の天然骨材等を用いることが可能であり、土木学会「コンクリート標準示方書[施工編]」によるものを用いることが好ましい。このような細骨材及び粗骨材として、例えば、砕砂、砕石、高炉スラグ粗骨材等を挙げることができる。
【0025】
[残部:製鋼スラグ]
本実施形態に係る鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法において、水和固化体1mあたりにおける水及び粉体の残部は、製鋼スラグとする。これにより、より優れた流動性及び粘性を両立させながら、得られる混合物を85m以上の長距離圧送することが可能となる。
【0026】
なお、製鋼スラグは、高炉で製造された銑鉄又はスクラップから製造された溶鋼から不要な成分を除去して靭性・加工性のある鋼にする製鋼工程で生じる、石灰分を主体としたものである。本実施形態では、このような製鋼スラグとして、転炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、電気炉還元スラグ、電気炉酸化スラグ、二次精錬スラグ、造塊スラグ等の何れか1種又は2種以上を混合したものを用いることが可能である。
【0027】
上記のような製鋼スラグの化学成分については、特に限定するものではない。ただし、CaO含有量/SiO含有量で規定される塩基度が高すぎる場合には、製鋼スラグの内部に遊離CaOが残存して体積安定性のバラツキが大きくなる可能性がある。そのため、製鋼スラグの塩基度は、2.0~5.0程度であることが好ましい。
【0028】
なお、製鋼スラグは、含有する遊離石灰(フリーライム:f-CaO)の水和反応により膨張する可能性があり、得られる固化体の用途によっては、その表面にひび割れ等が発生するのを嫌う場合がある。そのため、目的とする固化体にひび割れが生じるのを防止することが求められる場合には、いわゆる自然エージングや蒸気エージング等のエージング処理を施した製鋼スラグを用いることが好ましい。より詳細には、以下の方法で求められる粉化率が2.5%以下となるようなエージング処理後の製鋼スラグを用いることが好ましい。
【0029】
ここで、上記の粉化率は、質量ベースの値である。
すなわち、エージング処理した一定量の製鋼スラグ(質量S)を、第1の篩い目(例えばJIS Z8801-1に規定された4.75mmの篩い目)で分級し、更にこの篩い下を、第1の篩い目よりもう1段小さな第2の篩い目(上記の例であれば、JIS Z8801-1に規定されたもう1段小さな篩い目である2mmの篩い目)を使って分級し、未崩壊の比較的大きなスラグ粒を除去して、篩い下としてエージング処理後の製鋼スラグの細粒分を得る(質量S)。そして、{(第2の篩い目の篩い下のスラグ質量=S}/(分級前のエージング処理後スラグ質量=S))×100(%)}を粉化率とし、この粉化率が2.5%以下の製鋼スラグを用いれば、得られる固化体に発生するひび割れを抑制することが可能となる。
【0030】
また、製鋼スラグは、破砕後に篩い分けして、5mm以下の粒径を有したものを用いることが好ましい。このような粒径を有する製鋼スラグであれば、エージング処理を行っていないものを含めて、膨張抑制効果を得ることができる。
【0031】
[混和剤]
また、本実施形態に係る鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法において、上記の水、粉体及び製鋼スラグを含有する混合物は、水の体積の一部に換えて、更に、JIS A 6204に適合した混和剤を含有してもよい。混合物が混和剤を更に含有することで、水粉体体積比の調整をより簡便に実施することが可能となる。
【0032】
上記のような素材を混合することで、圧送対象となる混合物を得ることができる。ここで、上記のような素材の混合方法については、特に限定するものではなく、公知の各種の方法を適宜利用することが可能である。
【0033】
[混合物のスランプフロー値:31.5cm以上88.5cm未満]
上記のようにして得られる混合物について、スランプフロー値は、31.5cm以上であることが好ましい。スランプフロー値が31.5cm以上となることで、混合物の流動性はより好ましい状態となり、混合物の圧送性をより一層向上させることが可能となる。スランプフロー値は、より好ましくは50.0cm以上である。一方、スランプフロー値は、88.5cm未満であることが好ましい。スランプフロー値が88.5cm未満となることで、混合物の粘性はより好ましい状態となり、混合物の圧送性をより一層向上させることが可能となる。スランプフロー値は、より好ましくは70.0cm以下である。
【0034】
ここで、混合物のスランプフロー値は、図1に示したような器具を用いることで測定可能である。図1の左側の図に示したような寸法を有する、例えば鉄製の円筒容器を準備し、鉄板等の表面に円筒容器を載置する。その上で、円筒容器の内部の空隙に測定対象とする混合物を装入していき、円筒容器の側面を軽く叩くなどして空気を追い出しながら、空隙を混合物で満たし、表面を擦切る。その後、円筒容器を上方に引き上げて、鉄板等の表面に拡がった混合物の直径(図1における長さd)を測定する。この際、鉄板等の表面に拡がった混合物の最大径と最小径とを測定し、得られた測定値の平均値を、着目する混合物のスランプフロー値とする。
【0035】
[混合物のVロート試験値:4~20秒]
上記のようにして得られる混合物について、Vロート試験値は、4秒以上であることが好ましい。Vロート試験値が4秒以上となることで、混合物の粘性はより好ましい状態となり、混合物の圧送性をより一層向上させることが可能となる。一方、Vロート試験値は、20秒以下であることが好ましい。Vロート試験値が20秒以下となることで、混合物の流動性はより好ましい状態となり、混合物の圧送性をより一層向上させることが可能となる。Vロート試験値は、より好ましくは11秒以下である。
【0036】
ここで、混合物のVロート試験値は、図2に示したような器具を用いることで測定可能である。図2の左側の図に示したような寸法を有する、例えば鉄製のVロートを準備し、Vロートの下端部から混合物が流出しないようにした上で、Vロートの内部の空隙に測定対象とする混合物を装入していき、Vロートの側面を軽く叩くなどして空気を追い出しながら、空隙を混合物で満たし、表面を擦切る。その後、Vロートの下端部を開放し、内部の混合物が完全に流下するまでの経過時間を測定する。なお、全量流下の判定は、Vロートの上方から混合物の流下を観察し、Vロートを通して下方の空間が見えた瞬間とする。このような測定を複数回実施し、得られた経過時間の平均を、Vロート試験値とする。
【0037】
[混合物の圧送速度:5.0~50.0m/h]
本実施形態に係る鉄鋼スラグ水和固化体の混合物は、上記のような条件を満足することで、優れた圧送性を示すために、混合物の品質を良好な状態に保持したまま、混合物の圧送速度に所定の幅を持たせることが可能となる。ただし、圧送速度が5.0m/h未満となる場合には、本実施形態に係る混合物を用いたとしても、圧送元と圧送先とでの品質の差が顕著となる可能性がある。そのため、混合物の圧送速度は、5.0m/h以上であることが好ましく、7.8m/h以上であることがより好ましい。一方、圧送速度が50.0m/hを超える場合、骨材である製鋼スラグがポーラス状であることから、圧力が加わることで見かけの水量が減少する結果、流動性が悪化する可能性が高まり、配管の詰まりが生じやすくなる可能性がある。そのため、混合物の圧送速度は、50.0m/h以下であることが好ましく、32.0m/h以下であることがより好ましい。このように、本実施形態に係る鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法では、混合物の圧送速度を、5.0~50.0m/hの範囲内の所望の速度に設定することが可能となる。
【0038】
以上、本実施形態に係る鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法について、詳細に説明した。
【実施例
【0039】
以下に、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法の一例にすぎず、本発明に係る鉄鋼スラグ水和固化体の圧送方法が下記の例に限定されるものではない。
【0040】
(試験例)
以下に示す実施例及び比較例では、以下の表1に示した成分を有する製鋼スラグA(転炉スラグ)を使用し、粉体としては、JIS R 5211で規定された高炉セメントB種を使用した。また、混和剤としては、JIS A 6204に適合した混和剤である、フローリック社 TS-1000を使用した。
【0041】
【表1】
【0042】
以下の表2に示した水(上水道水)の体積(水和固化体1mあたりの体積)に対して、以下の表2に示した体積で粉体及び製鋼スラグ、並びに、必要に応じて混和剤を混合して、混合物を得た。なお、これら成分の混合には、二軸強制練りミキサを使用した。得られた各混合物について、先だって説明した方法に即して、スランプフロー値及びVロート試験値を測定した。
【0043】
得られた混合物の圧送には、KYOKUTO社製のコンクリートポンプ車(型番PY90-17)を使用し、8.0m/h、17.0m/h、31.6m/hという3種類の圧送速度で、各混合物を85m圧送可能か否か、検証した。
【0044】
【表2】
【0045】
その結果、No.1及びNo.2の例については、上記3種類の圧送速度下において、混合物が分離することなく、85mという長距離を圧送することが可能であった。一方、No.3の例では、水粉体体積比が本発明の範囲外となっているために、混合物の粘性が低くなったことで混合物の材料分離に伴う配管内の詰まりが発生し、85mという長距離を圧送することができなかった。
【0046】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
図1
図2